説明

タイヤ加硫成型用金型の成形型、この成形型を使用したタイヤ加硫成型用金型の製造方法及びこのタイヤ加硫成型用金型を用いて製造したタイヤ

【課題】熱伝導率,断熱性に優れ、ヒートショックに対して強度があり、表面精度が良好で、繰り返し使用することが出来るタイヤ加硫成型用金型の成形型、この成形型を使用したタイヤ加硫成型用金型の製造方法及びこのタイヤ加硫成型用金型を用いて製造したタイヤを提供する。
【解決手段】タイヤ加硫成型用金型を重力鋳造により製作するための成形型を鋳型用黒鉛材を素材として形成する。この成形型1は、鋳型用黒鉛材を使用して複数に分割したパターン成形型2で構成する。該パターン成形型2の表面2aには、成形型の中心に対して平行、もしくは抜き勾配を設けたプロファイル3aや溝加工3b等の種々のタイヤパターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、タイヤ加硫成型用金型を製作するための成形型、この成形型を使用したタイヤ加硫成型用金型の製造方法及びこのタイヤ加硫成型用金型を用いて製造したタイヤに係わり、更に詳しくは成形型を鋳型用黒鉛材を素材として製作し、熱伝導率,断熱性に優れ、ヒートショック(温度変化)に対しても強度があるタイヤ加硫成型用金型の成形型、この成形型を使用したタイヤ加硫成型用金型の製造方法及びこのタイヤ加硫成型用金型を用いて製造したタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤ加硫成型用金型を製作するために用いる成形型には、主としてスチール製の金属型(例えば、特許文献1参照)や、石膏型等が使用されている。
【0003】
しかしながら、前者の金属型は、熱伝導率が良いため、所謂、重力鋳造では、急冷防止のために表面に塗型(断熱剤)を塗布する必要があり、金型表面の面精度を必要とするタイヤ金型には不向きである。また、後者の石膏型は、断熱性はあるが、強度不足で再利用することが出来ないと言う問題があった。
【特許文献1】特開2001−179752号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この発明はかかる従来の問題点に着目し、成形型に鋳型用黒鉛材を使用することで、熱伝導率,断熱性に優れ、ヒートショックに対して強度があり、表面精度が良好で、繰り返し使用することが出来るタイヤ加硫成型用金型の成形型、この成形型を使用したタイヤ加硫成型用金型の製造方法及びこのタイヤ加硫成型用金型を用いて製造したタイヤを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は上記目的を達成するため、この発明のタイヤ加硫成型用金型の成形型は、タイヤ加硫成型用金型を重力鋳造により製作するための成形型であって、前記成形型を、鋳型用黒鉛材を素材として形成したことを要旨とするものである。
【0006】
ここで、前記成形型を、複数のパターン成形型により構成し、この各パターン成形型の分割線を金型中心に向かって互いに嵌合可能に形成し、前記パターン成形型の表面に、成形型の中心に対して平行、もしくは抜き勾配を設けたタイヤパターンを形成するものである。
【0007】
また、前記複数に分割したパターン成形型を、鋳造枠に対してセット可能な治具に着脱可能に構成し、複数に分割したパターン成形型を、複数の種類のタイプに分割して構成し、この複数類のパターン成形型を、前記治具に着脱可能に構成するものである。
【0008】
また、この発明のタイヤ加硫成型用金型の製造方法は、鋳型用黒鉛材を素材として形成した加硫成型用金型の製作用の成形型の成形面にタイヤプロファイルと溝加工とを形成し、この成形型を分割線を金型中心に向かって互いに嵌合可能な複数の分割されたパターン成形型により構成し、この分割されたパターン成形型を治具に着脱可能に装着した後、鋳造枠内にセットし、その後、鋳造枠内に溶融金属を流し込んで加硫成型用金型を鋳造し、溶融金属が凝固したのち、前記鋳造枠内から治具と共に成形型を取外すことを要旨とするものである。
【0009】
ここで、前記複数に分割したパターン成形型を、鋳造枠に対してセット可能な治具に締結部材を介して着脱可能に取り付けるものである。
【0010】
更に、この発明のタイヤ加硫成型用金型を用いて製造したタイヤは、上記のような製造方法により製造することを要旨とするものである。
【0011】
このように、成形型を鋳型用黒鉛材を素材として製作することで、熱伝導率に優れ、ヒートショック(温度変化)に対しても割れが起きず強度があり、表面精度が良好で、繰り返し使用することが出来る。
【発明の効果】
【0012】
この発明は上記のように構成したので、以下のような優れた効果を奏するものである。(a).成形型を鋳型用黒鉛材を素材として製作することで、熱伝導率に優れ、ヒートショック(温度変化)に対しても割れが起きず強度があり、従来の金属金型、石膏金型に比べて優れた効果を発揮する。
(b).再利用可能な鋳型用黒鉛材で製作したパターン成形型を、組み込み可能な治具にセットすることで、表面が綺麗なタイヤモールドを製作することが出来る。
(c).成形型の材料として鋳型用黒鉛材を使用し、この成形型にタイヤパターン形状を彫り込むことで鋳肌が良好で、かつ繰り返し可能な鋳型とすることが出来る。
(d).複数に分割したパターン成形型を複数の種類のタイプに分割して構成し、この複数類のパターン成形型を、治具に着脱可能に構成したので、組み替えを自由にすることが出来ると共に、交換や補修を容易に行うことが出来る。
(e).熱伝導率の良好な鋳型用黒鉛材を使用するため、アルミ等の金属材料の表面精度の良好なタイヤモールドにすることが出来る。
(f).スチール等の金属金型に比べて切削加工時間が短縮されることにより納期短縮ができ、生産性の向上を図ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、添付図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。
【0014】
図1はこの発明を実施したタイヤ加硫成型用金型を製作するための一つの成形型の全体斜視図、図2は一つの成形型の正面図を示し、この成形型1は、鋳型用黒鉛材(例えば、日本電極(株)製の規格GMC−100)を使用して複数に分割して構成したパターン成形型2を製作したもので、パターン成形型2の表面2aには、成形型の中心に対して平行、もしくは抜き勾配を設けたプロファイル3aや溝加工3b等の種々のタイヤパターンが形成してある。
【0015】
この発明の実施形態では、上記のようにパターン成形型2を図3に示すように複数の略扇状に形成されたタイプ1のパターン成形型2Aと、図4に示すような複数の略扇状に形成されたタイプ2のパターン成形型2Bとで構成するものである。
【0016】
また、分割線Sとパターン成形型2Aの法線Yとの角度γは、パターン成形型2Bの角度γと同じ角度を有する構成として、前記タイプ1のパターン成形型2Aは、図3に示すように両分割線Sは、中心線と平行な線Xに対して鈍角αとし、この鈍角αは少なくとも+0.5°以上の開きが必要であり、また、前記タイプ2の形態のパターン成形型2Bは、図4に示すように両分割線Sは、中心線と平行な線Xに対して鋭角βとし、この鋭角βはタイプ1の逆の角度、即ち、−0.5°以上にすることで法線方向に容易に引き抜くことが出来、これにより鋳型用黒鉛材で形成したパターン成形型2A及びパターン成形型2Bの割れを防止することが出来る。
【0017】
次に、タイプ1の形態のパターン成形型2Aとタイプ2の形態のパターン成形型2Bとによるタイヤ加硫成型用金型の製造方法について説明する。
【0018】
先ず、鋳型用黒鉛材により表面2aに成形型の中心に対して平行、もしくは抜き勾配を設けたプロファイル3aや溝加工3b等の種々のタイヤパターンが形成した成形型1を形成し、この成形型1を上記のような複数の略扇状のパターン成形型2Aまたは複数の略扇状のパターン成形型2Bを製作する。
【0019】
このように構成した複数のパターン成形型2Aまたはパターン成形型2Bを、図5に示すように、先ず金属(例えば、アルミ)を素材とした治具4にパターン成形型2Aを先に配置した後、タイプ2の形態のパターン成形型2Bを嵌合させて配置し、次いで図6に示すように、ボルト等の締結部材5を介して治具4に締め付けると、パターン成形型2Aとパターン成形型2Bとの両分割線Sが一致した状態で締め付け固定される。
【0020】
このように構成した治具4とパターン成形型2A及びパターン成形型2Bとを、図7(a),(b)に示すように、鋳造枠6内にセットしてアルミ等の溶融金属を流し込んで加硫成型用金型Wを鋳造する。そして、溶融金属が凝固したのち、図8(a)〜(f)に示すように、前記鋳造枠6内から加硫成型用金型Wと共に、組付けた治具4とパターン成形型2A及びパターン成形型2Bとを取外し、更にパターン成形型2A及びパターン成形型2Bから治具4を外すと共に、ボルト等の締結部材5を緩めて複数のパターン成形型2A及びパターン成形型2Bを順次外し、最後に加硫成型用金型Wからパターン成形型2Bを取外して作業を終了する。
【0021】
このようにして製造したタイヤ加硫成型用金型を使用したタイヤは、表面が平滑で外観の良好なタイヤとすることが出来る。
【0022】
以上のように、パターン成形型2A,2Bに鋳型用黒鉛材を使用することで、熱伝導率,断熱性に優れ、ヒートショック(温度変化)に対しても割れが起きず強度があり、表面精度が良好で、繰り返し使用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】この発明を実施したタイヤ加硫成型用金型を製作するための一つの成形型の全体斜視図である。
【図2】一つの成形型の正面図である。
【図3】タイプ1のパターン成形型の図2のA−A矢視拡大側面図である。
【図4】タイプ2のパターン成形型の図2のA−A矢視拡大側面図である。
【図5】治具にタイプ1のパターン成形型とタイプ2のパターン成形型とを組付ける工程の説明図である。
【図6】タイプ1のパターン成形型とタイプ2のパターン成形型とを治具に組付けた状態の正面図である。
【図7】(a)は鋳造枠に治具に組付けたパターン成形型を配設し,鋳造時の断面図、(b)は(a)の側面図である。
【図8】(a)〜(f)は、鋳造枠から治具に組付けたパターン成形型を取り外し、タイヤ加硫成型用金型と、治具及びタイプ1のパターン成形型とタイプ2のパターン成形型とを順次取外す工程の説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 成形型 2 パターン成形型
2a 表面
2A タイプ1のパターン成形型 2B タイプ2のパターン成形型
3a プロファイル 3b 溝加工
4 治具 W タイヤ加硫成型用金型
5 締結部材 6 鋳造枠
S 両分割線 X 中心線
α 鈍角 β 鋭角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ加硫成型用金型を重力鋳造により製作するための成形型であって、前記成形型を、鋳型用黒鉛材を素材として形成したことを特徴とするタイヤ加硫成型用金型の成形型。
【請求項2】
前記成形型を、複数のパターン成形型により構成し、この各パターン成形型の分割線を金型中心に向かって互いに嵌合可能に形成した請求項1に記載のタイヤ加硫成型用金型の成形型。
【請求項3】
前記パターン成形型の表面に、成形型の中心に対して平行、もしくは抜き勾配を設けたタイヤパターンを形成した請求項1または2に記載のタイヤ加硫成型用金型の成形型。
【請求項4】
前記複数に分割したパターン成形型を、鋳造枠に対してセット可能な治具に着脱可能に構成した請求項2または3に記載のタイヤ加硫成型用金型の成形型。
【請求項5】
前記複数に分割したパターン成形型を、複数の種類のタイプに分割して構成し、この複数類のパターン成形型を、前記治具に着脱可能に構成した請求項2または3に記載のタイヤ加硫成型用金型の成形型。
【請求項6】
鋳型用黒鉛材を素材として形成した加硫成型用金型の製作用の成形型の成形面にタイヤプロファイルと溝加工とを形成し、この成形型を分割線を金型中心に向かって互いに嵌合可能な複数の分割されたパターン成形型により構成し、この分割されたパターン成形型を治具に着脱可能に装着した後、鋳造枠内にセットし、その後、鋳造枠内に溶融金属を流し込んで加硫成型用金型を鋳造し、溶融金属が凝固したのち、前記鋳造枠内から治具と共に成形型を取外すことを特徴とする成形型を使用したタイヤ加硫成型用金型の製造方法。
【請求項7】
前記複数に分割したパターン成形型を、鋳造枠に対してセット可能な治具に締結部材を介して着脱可能に取り付けた請求項6に記載の成形型を使用したタイヤ加硫成型用金型の製造方法。
【請求項8】
上記請求項6により製造されたタイヤ加硫成型用金型を用いて製造したタイヤ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−263980(P2006−263980A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−82339(P2005−82339)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】