タイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加硫用モールド
【課題】モールドに埋設される筒状体を用いて排気機構となる微小すき間を備えたモールドをする際に、石膏鋳型に対する筒状体のセッティング作業を容易にして生産性を向上できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドを提供する。
【解決手段】石膏鋳型11の表面に突設した板状の固定金具9の嵌合部9aに、板状体の両端部7bの内周面どうしを対向させて形成した筒状体7を、対向させた両端部7bを嵌合部9aに挿入して嵌合させて、対向させた両端部7bのすき間を狭くして、両端部7bの先端を石膏鋳型11の表面に接するように配置した後、石膏鋳型11の表面に溶融金属を流し込んで筒状体7をモールドに埋設するとともに、対向させた両端部7bの先端をモールドのタイヤ成形面に露出させ、モールドから固定金具9を除去して、対向させた両端部7bの間に微小すき間を設けたモールドを製造する。
【解決手段】石膏鋳型11の表面に突設した板状の固定金具9の嵌合部9aに、板状体の両端部7bの内周面どうしを対向させて形成した筒状体7を、対向させた両端部7bを嵌合部9aに挿入して嵌合させて、対向させた両端部7bのすき間を狭くして、両端部7bの先端を石膏鋳型11の表面に接するように配置した後、石膏鋳型11の表面に溶融金属を流し込んで筒状体7をモールドに埋設するとともに、対向させた両端部7bの先端をモールドのタイヤ成形面に露出させ、モールドから固定金具9を除去して、対向させた両端部7bの間に微小すき間を設けたモールドを製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドに関し、さらに詳しくは、モールドに埋設される筒状体を用いて排気機構として機能する微小すき間を備えたモールドをする際に、石膏鋳型に対して筒状体のセッティング作業を容易に行なえて生産性を向上できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫用モールドには、グリーンタイヤとモールドとの間に残留したエアや加硫の際に発生するガスを、モールド外部に排出させる排気機構が設けられている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、薄板を折り曲げて一端部を重ね合わせ、他端部に大きなすき間を確保した積層ブレードが用いた排気機構が提案されている。この積層ブレードはブロックで保持され、このブロックをモールドのタイヤ成形面の凹状のポケットに嵌入させることにより、ポケットとブロックとで囲まれた排気室を形成している。エアやガスは、積層ブレードの一端部の微小すき間および他端部の大きなすき間を通じて排気室に排出される。
【0003】
しかしながら、この排気機構では、鋳造したモールドのタイヤ成形面にポケットを形成する工程、ブロックに積層ブレードを保持させた組立体を製造する工程、この組立体をポケットに嵌入させる工程が必要になるので、加工工程が多くなり製造に要する時間が長くなるという問題があった。
【0004】
特許文献2では、モールドの鋳造時に埋設した筒状体を用いた排気機構が提案されている。埋設された筒状体の外周面に形成されたスリットがモールドのタイヤ成形面に露出していて、このスリットを通じて、エアやガスがモールド外部に排出される。この提案では、特許文献1の提案に比して、加工工程を少なくできる。しかしながら、石膏鋳型に対して筒状体を所定位置に配置するには、セクターを細分化したピースのタイヤ周方向両端部に配置する筒状体保持部材などが必要であった。そのため、石膏鋳型に対して筒状体のセッティング作業が煩雑になるという問題があった。また、ピース単位でモールドを鋳造する必要があり、生産性を向上させるには限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260135号公報
【特許文献2】特開2011−46072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、モールドに埋設される筒状体を用いて排気機構として機能する微小すき間を備えたモールドをする際に、石膏鋳型に対して筒状体のセッティング作業を容易に行なえて生産性を向上できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法は、石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、石膏鋳型の表面に突設した板状の固定金具の嵌合部に、板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成した筒状体を、その対向させた両端部を前記嵌合部に挿入して嵌合させることにより、この対向させた両端部のすき間を狭くして、その両端部の先端を前記石膏鋳型の表面に接するように配置した後、この石膏鋳型の表面に前記溶融金属を流し込んで前記筒状体をモールドに埋設するとともに、前記対向させた両端部の先端をモールドのタイヤ成形面に露出させ、このモールドから前記固定金具を除去して、前記対向させた両端部の間に微小すき間を設けたモールドを製造することを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤ加硫用モールドは、溶融金属を固化させることにより形成されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記溶融金属を固化させる際に板状の固定金具とともにモールドに埋設された筒状体を有し、この筒状体が板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成されたものであり、この対向させた両端部の間に微小すき間が形成され、その微小すき間がモールドのタイヤ成形面に露出していて、前記固定金具が除去されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法によれば、石膏鋳型の表面に突設した板状の固定金具の嵌合部に、板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成した筒状体を、その対向させた両端部を前記嵌合部に挿入して嵌合させることにより、この対向させた両端部のすき間を狭くして、その両端部の先端を前記石膏鋳型の表面に接するように配置するので、石膏鋳型に対する筒状体のセッティング作業を容易に行なえる。これに伴って生産性を向上させることができる。また、ピース単位に限らず、セクター単位でモールドを鋳造できるので、この観点からも生産性を向上させるには有利になる。
【0010】
上記の製造方法によって、本発明のタイヤ加硫用モールドを得ることができる。
【0011】
本発明の製造方法では、前記筒状体の対向させた両端部を前記固定金具の嵌合部に挿入した際に、前記嵌合部に設けた係合部と、前記対向させた両端部の外周面に設けた係合部とを係合させて、筒状体を位置決めすることもできる。これにより、石膏鋳型に対して筒状体を設定どおりの所定位置にセッティングできる。
【0012】
前記固定金具がバネ鋼で形成され、前記嵌合部の下端に切込み部が連接されていると、
筒状体の対向させた両端部を嵌合部に挿入し易くなる、また、鋳造したモールドから固定金具を除去する際も引き抜き易くなる。
【0013】
前記固定金具が石膏鋳型に対してアンカーとなるアンカー部を有していると、固定金具を石膏鋳型に安定して固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のタイヤ加硫用モールドを例示する平面図である。
【図2】図1のセクターを例示する平面図である。
【図3】図2のセクターの正面図である。
【図4】図3のピースの左半分を例示する平面図である。
【図5】図4のピースの正面図である。
【図6】固定金具を設置したゴム型を例示する拡大断面図である。
【図7】固定金具を設置した石膏鋳型に筒状体を取付ける工程を例示する拡大断面図である。
【図8】固定金具を介して筒状体を設置した石膏鋳型を例示する拡大断面図である。
【図9】鋳造されたモールドを例示する拡大断面図である。
【図10】筒状体を配置した石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、石膏鋳型の左半分の部分で例示する平面図である。
【図11】図10の工程を正面視で示す説明図である。
【図12】筒状体を配置したセクターに対応する石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、石膏鋳型の左半分の部分で例示する平面図である。
【図13】図12の石膏鋳型を用いて鋳造したセクターを例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加硫用モールドを、図に示した実施形態に基づいて説明する。図面に記載されているC矢印、R矢印、W矢印は、それぞれ、加硫用モールドに挿入して加硫されるグリーンタイヤの周方向、半径方向、幅方向を示している。
【0016】
図1に例示するように、本発明のタイヤ加硫用モールド1(以下、モールド1)は、複数のセクター2を環状に組み付けて構成されるセクショナルタイプになっている。それぞれのセクター2は、図2、図3に例示するように複数のピース3とバックブロック4で構成され、隣り合うピース3どうしが密着した状態でバックブロック4に取付けられている。それぞれのピース3の内周側表面がタイヤ成形面5になる。タイヤ成形面5には、タイヤの溝を形成する溝成形突起6が適宜設けられている。
【0017】
この実施形態では、1つのセクター2に、平面視で4個の長方形のピース3が固定されている。1つのセクター2が有するピース3の数は特に限定されず、その配置もこの実施形態に限定されるものではない。
【0018】
ピース3は、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料を溶融させた溶融金属Mを固化させることにより形成されていて、図4、5に例示するように溶融金属Mを固化させる際に埋設された筒状体7を有している。筒状体7は、ピース3の一方端面から他方端面まで延設されていて、筒状体7の両端は、ピース3のタイヤ周方向両端面で開口している。
【0019】
この筒状体7は、板状体の両端部7bの内周面どうしを対向させて形成されたものであり、この対向させた両端部7bの間に微小すき間Sのスリット8が形成されている。その微小すき間Sのスリット8は、ピース3のタイヤ成形面5に露出している。
【0020】
筒状体7には、その融点が溶融金属Mの融点よりも高い金属材料を用いる。例えば、溶融金属Mがアルミニウムの場合は、ステンレス鋼などの鋼製の筒状体7を用いる。
【0021】
この実施形態の筒状体7は、スリット8が断面三角形状の空洞内部7aに連通して、空洞内部7aはスリット8を通じてピース3の外部に連通する。スリット8は、筒状体7の長手方向(タイヤ周方向)全長に渡って筒状体7の外周面に形成されて、ピース3のタイヤ成形面5に露出している。スリット8の微小すき間Sは、0.01mm〜0.10mm程度であり、0.03mm程度がより好ましい。
【0022】
グリーンタイヤを加硫する際には、エアやガスはスリット8を通じて空洞内部7aに排出され、さらにセクター2の端面等を通じてモールド1の外部に排出される。スリット8を通過したエアやガスは、スリット8よりも遥かに広い空洞内部7aに排出されるので、十分な排気を確保することできる。さらに、ピース3のタイヤ周方向端面に露出した隣り合う筒状体7の空洞内部7aどうしを、ピース3のタイヤ周方向端面に別途形成した排気溝によって連結することで、排気効率を一段と向上させることが可能になる。
【0023】
スリット8は、グリーンタイヤを加硫する際に、エアやガスが溜まり易い場所に設けられる。例えば、溝成形突起6の根元部近傍にスリット8が配置されるように、筒状体7がピース3(モールド1)に埋設される。
【0024】
スリット8は、排気が必要な場所にあればよいので、モールド1を構成するすべてのピース3に筒状体7を埋設してスリット8を設ける場合もあり、特定のピース3にのみ筒状体7を埋設してスリット8を設ける場合もある。
【0025】
筒状体7は、三角筒状に限らず、円筒状、横断面形状が四角形にした筒状、その他の多角形を横断面形状にした様々の筒状にすることができる。筒状体7の空洞内部7aの大きさは、例えば、内径相当で0.5mm〜5.0mm程度にする。
【0026】
このピース3の製造方法を以下に例示する。
【0027】
まず、図6に例示するように、マスター型の表面形状を転写したゴム型12の表面に板状の固定金具9を突設する。この状態のゴム型12の表面に石膏を流し込んで、固化させることにより、図7に例示するゴム型12の表面形状を転写した石膏鋳型11を製造する。この石膏鋳型11の表面には固定金具9が突設される。
【0028】
固定金具9は、例えば、バネ鋼で形成されていて、その厚さは0.2mm〜0.6mm程度、好ましくは0.4mm程度である。固定金具9には筒状体7が嵌合される嵌合部9aが形成されている。嵌合部9aの下端(筒状体7が挿入されて行く方向の端)には、嵌合部9aよりも狭幅の切込み部9cが連接されている。
【0029】
固定金具9の下端部には幅方向に突出したアンカー部9dが設けられている。アンカー部9dは、石膏鋳型11に対してアンカーとして機能する。そのため、固定金具9はアンカー部9dによって安定して石膏鋳型11に固定される。固定金具9に貫通孔を設け、貫通孔をアンカー部9dにすることもできる。
【0030】
また、嵌合部9aには、内側に突出する係合部9bが設けられている。この係合部9bは、筒状体7の対向する両端部7bの外側に形成された窪んだ係合部7cと係合する。尚、係合部9bを窪みにして、係合部7cを突出させてもよい。
【0031】
そして、石膏鋳型11の表面に突設された固定金型9の嵌合部9aに、筒状体7の対向させた両端部7bを挿入して嵌合させる。これにより、図8に例示するように、対向させた両端部7bのすき間を、挿入する前よりも狭くして、両端部7bの先端を石膏鋳型11の表面に接するように配置する。
【0032】
このとき、係合部7cと係合部9bとが係合して、筒状体7が位置決めされて固定金具9に設置どおりの所定位置にセッティングされる。固定金具9がバネ鋼で形成され、嵌合部9aの下端に切込み部9cが連接されていると、筒状体7の対向させた両端部7bを嵌合部9aに挿入し易くなる。
【0033】
石膏鋳型11の表面11aはピース3のタイヤ成形面5に相当し、石膏鋳型11の凹部11bはピース3の溝成形突起6に相当する。石膏鋳型11の表面11aは、タイヤ周方向では円弧状になっているので、筒状体7を、石膏鋳型11の円弧状の表面11aに沿う円弧状に屈曲させておくとよい。1つの石膏鋳型11のタイヤ周方向長さが短くて表面11aがタイヤ周方向でほぼフラットな場合は、直線状の筒状体7を用いることもできる。
【0034】
その後、図10、図11に例示するように、この石膏鋳型11の四方側面を枠部材10で囲んだ状態にして、石膏鋳型11の表面11aに溶融金属Mを流し込む。溶融金属Mが固化することにより、図9に例示するように、石膏鋳型11の表面11aを転写したピース3が鋳造される。
【0035】
石膏鋳型11の表面11aに筒状体7の対向させた両端部7bの先端を石膏鋳型11の表面に接するように配置したので、筒状体7が固定金具9の一部分とともにピース3に埋設され、両端部7bの先端(微小すき間S)がピース3のタイヤ成形面5に露出した状態になる。
【0036】
次いで、鋳造されたピース3から固定金具9を除去する。固定金具9を除去してピース3の表面に生じた細幅穴は、適宜、ピース3と同質の金属材料で埋める。固定金具9がバネ鋼で形成され、嵌合部9aの下端に切込み部9cが連接されていると、鋳造したピース3から固定金具9を引き抜き易くなる。
【0037】
上述したように、石膏鋳型11に対する筒状体7のセッティング作業を容易に行なえるため、作業時間を短縮できるので生産性を向上させることができる。
【0038】
上記実施形態ではセクター2が複数のピース3で構成され、ピース2の単位で鋳造する場合を例示したが、これに限らず、セクター2が複数のピース3で構成されていない場合にも適用できる。即ち、セクター2の単位で鋳造する場合にも本発明を適用することができる。
【0039】
この場合は、先の実施形態と同じ手順で、図12に例示するように、筒状体7の対向させた両端部7bを固定金具9を介して対向させた両端部7bのすき間を狭くして、両端部7bの先端を、セクター2に対応する石膏鋳型11の表面に接するように配置する。その後、先の実施形態と同じ手順で鋳造して、図13に例示するようなセクター2を製造する。この場合は、セクター2を細分化したピース3の単位ではなく、セクター2の単位で鋳造できるので、生産性を向上させるには更に有利になる。
【符号の説明】
【0040】
1 モールド
2 セクター
3 ピース
4 バックブロック
5 タイヤ成形面
6 溝成形突起
7 筒状体
7a 空洞内部
7b 突き合わせた部分
7c 係合部
8 スリット
9 固定金具
9a 嵌合部
9b 係合部
9c 切込み部
9d アンカー部
10 枠部材
11 石膏鋳型
11a 表面
11b 凹部
12 ゴム型
M 溶融金属
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドに関し、さらに詳しくは、モールドに埋設される筒状体を用いて排気機構として機能する微小すき間を備えたモールドをする際に、石膏鋳型に対して筒状体のセッティング作業を容易に行なえて生産性を向上できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫用モールドには、グリーンタイヤとモールドとの間に残留したエアや加硫の際に発生するガスを、モールド外部に排出させる排気機構が設けられている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、薄板を折り曲げて一端部を重ね合わせ、他端部に大きなすき間を確保した積層ブレードが用いた排気機構が提案されている。この積層ブレードはブロックで保持され、このブロックをモールドのタイヤ成形面の凹状のポケットに嵌入させることにより、ポケットとブロックとで囲まれた排気室を形成している。エアやガスは、積層ブレードの一端部の微小すき間および他端部の大きなすき間を通じて排気室に排出される。
【0003】
しかしながら、この排気機構では、鋳造したモールドのタイヤ成形面にポケットを形成する工程、ブロックに積層ブレードを保持させた組立体を製造する工程、この組立体をポケットに嵌入させる工程が必要になるので、加工工程が多くなり製造に要する時間が長くなるという問題があった。
【0004】
特許文献2では、モールドの鋳造時に埋設した筒状体を用いた排気機構が提案されている。埋設された筒状体の外周面に形成されたスリットがモールドのタイヤ成形面に露出していて、このスリットを通じて、エアやガスがモールド外部に排出される。この提案では、特許文献1の提案に比して、加工工程を少なくできる。しかしながら、石膏鋳型に対して筒状体を所定位置に配置するには、セクターを細分化したピースのタイヤ周方向両端部に配置する筒状体保持部材などが必要であった。そのため、石膏鋳型に対して筒状体のセッティング作業が煩雑になるという問題があった。また、ピース単位でモールドを鋳造する必要があり、生産性を向上させるには限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260135号公報
【特許文献2】特開2011−46072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、モールドに埋設される筒状体を用いて排気機構として機能する微小すき間を備えたモールドをする際に、石膏鋳型に対して筒状体のセッティング作業を容易に行なえて生産性を向上できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法は、石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、石膏鋳型の表面に突設した板状の固定金具の嵌合部に、板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成した筒状体を、その対向させた両端部を前記嵌合部に挿入して嵌合させることにより、この対向させた両端部のすき間を狭くして、その両端部の先端を前記石膏鋳型の表面に接するように配置した後、この石膏鋳型の表面に前記溶融金属を流し込んで前記筒状体をモールドに埋設するとともに、前記対向させた両端部の先端をモールドのタイヤ成形面に露出させ、このモールドから前記固定金具を除去して、前記対向させた両端部の間に微小すき間を設けたモールドを製造することを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤ加硫用モールドは、溶融金属を固化させることにより形成されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記溶融金属を固化させる際に板状の固定金具とともにモールドに埋設された筒状体を有し、この筒状体が板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成されたものであり、この対向させた両端部の間に微小すき間が形成され、その微小すき間がモールドのタイヤ成形面に露出していて、前記固定金具が除去されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法によれば、石膏鋳型の表面に突設した板状の固定金具の嵌合部に、板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成した筒状体を、その対向させた両端部を前記嵌合部に挿入して嵌合させることにより、この対向させた両端部のすき間を狭くして、その両端部の先端を前記石膏鋳型の表面に接するように配置するので、石膏鋳型に対する筒状体のセッティング作業を容易に行なえる。これに伴って生産性を向上させることができる。また、ピース単位に限らず、セクター単位でモールドを鋳造できるので、この観点からも生産性を向上させるには有利になる。
【0010】
上記の製造方法によって、本発明のタイヤ加硫用モールドを得ることができる。
【0011】
本発明の製造方法では、前記筒状体の対向させた両端部を前記固定金具の嵌合部に挿入した際に、前記嵌合部に設けた係合部と、前記対向させた両端部の外周面に設けた係合部とを係合させて、筒状体を位置決めすることもできる。これにより、石膏鋳型に対して筒状体を設定どおりの所定位置にセッティングできる。
【0012】
前記固定金具がバネ鋼で形成され、前記嵌合部の下端に切込み部が連接されていると、
筒状体の対向させた両端部を嵌合部に挿入し易くなる、また、鋳造したモールドから固定金具を除去する際も引き抜き易くなる。
【0013】
前記固定金具が石膏鋳型に対してアンカーとなるアンカー部を有していると、固定金具を石膏鋳型に安定して固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のタイヤ加硫用モールドを例示する平面図である。
【図2】図1のセクターを例示する平面図である。
【図3】図2のセクターの正面図である。
【図4】図3のピースの左半分を例示する平面図である。
【図5】図4のピースの正面図である。
【図6】固定金具を設置したゴム型を例示する拡大断面図である。
【図7】固定金具を設置した石膏鋳型に筒状体を取付ける工程を例示する拡大断面図である。
【図8】固定金具を介して筒状体を設置した石膏鋳型を例示する拡大断面図である。
【図9】鋳造されたモールドを例示する拡大断面図である。
【図10】筒状体を配置した石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、石膏鋳型の左半分の部分で例示する平面図である。
【図11】図10の工程を正面視で示す説明図である。
【図12】筒状体を配置したセクターに対応する石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、石膏鋳型の左半分の部分で例示する平面図である。
【図13】図12の石膏鋳型を用いて鋳造したセクターを例示する平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加硫用モールドを、図に示した実施形態に基づいて説明する。図面に記載されているC矢印、R矢印、W矢印は、それぞれ、加硫用モールドに挿入して加硫されるグリーンタイヤの周方向、半径方向、幅方向を示している。
【0016】
図1に例示するように、本発明のタイヤ加硫用モールド1(以下、モールド1)は、複数のセクター2を環状に組み付けて構成されるセクショナルタイプになっている。それぞれのセクター2は、図2、図3に例示するように複数のピース3とバックブロック4で構成され、隣り合うピース3どうしが密着した状態でバックブロック4に取付けられている。それぞれのピース3の内周側表面がタイヤ成形面5になる。タイヤ成形面5には、タイヤの溝を形成する溝成形突起6が適宜設けられている。
【0017】
この実施形態では、1つのセクター2に、平面視で4個の長方形のピース3が固定されている。1つのセクター2が有するピース3の数は特に限定されず、その配置もこの実施形態に限定されるものではない。
【0018】
ピース3は、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料を溶融させた溶融金属Mを固化させることにより形成されていて、図4、5に例示するように溶融金属Mを固化させる際に埋設された筒状体7を有している。筒状体7は、ピース3の一方端面から他方端面まで延設されていて、筒状体7の両端は、ピース3のタイヤ周方向両端面で開口している。
【0019】
この筒状体7は、板状体の両端部7bの内周面どうしを対向させて形成されたものであり、この対向させた両端部7bの間に微小すき間Sのスリット8が形成されている。その微小すき間Sのスリット8は、ピース3のタイヤ成形面5に露出している。
【0020】
筒状体7には、その融点が溶融金属Mの融点よりも高い金属材料を用いる。例えば、溶融金属Mがアルミニウムの場合は、ステンレス鋼などの鋼製の筒状体7を用いる。
【0021】
この実施形態の筒状体7は、スリット8が断面三角形状の空洞内部7aに連通して、空洞内部7aはスリット8を通じてピース3の外部に連通する。スリット8は、筒状体7の長手方向(タイヤ周方向)全長に渡って筒状体7の外周面に形成されて、ピース3のタイヤ成形面5に露出している。スリット8の微小すき間Sは、0.01mm〜0.10mm程度であり、0.03mm程度がより好ましい。
【0022】
グリーンタイヤを加硫する際には、エアやガスはスリット8を通じて空洞内部7aに排出され、さらにセクター2の端面等を通じてモールド1の外部に排出される。スリット8を通過したエアやガスは、スリット8よりも遥かに広い空洞内部7aに排出されるので、十分な排気を確保することできる。さらに、ピース3のタイヤ周方向端面に露出した隣り合う筒状体7の空洞内部7aどうしを、ピース3のタイヤ周方向端面に別途形成した排気溝によって連結することで、排気効率を一段と向上させることが可能になる。
【0023】
スリット8は、グリーンタイヤを加硫する際に、エアやガスが溜まり易い場所に設けられる。例えば、溝成形突起6の根元部近傍にスリット8が配置されるように、筒状体7がピース3(モールド1)に埋設される。
【0024】
スリット8は、排気が必要な場所にあればよいので、モールド1を構成するすべてのピース3に筒状体7を埋設してスリット8を設ける場合もあり、特定のピース3にのみ筒状体7を埋設してスリット8を設ける場合もある。
【0025】
筒状体7は、三角筒状に限らず、円筒状、横断面形状が四角形にした筒状、その他の多角形を横断面形状にした様々の筒状にすることができる。筒状体7の空洞内部7aの大きさは、例えば、内径相当で0.5mm〜5.0mm程度にする。
【0026】
このピース3の製造方法を以下に例示する。
【0027】
まず、図6に例示するように、マスター型の表面形状を転写したゴム型12の表面に板状の固定金具9を突設する。この状態のゴム型12の表面に石膏を流し込んで、固化させることにより、図7に例示するゴム型12の表面形状を転写した石膏鋳型11を製造する。この石膏鋳型11の表面には固定金具9が突設される。
【0028】
固定金具9は、例えば、バネ鋼で形成されていて、その厚さは0.2mm〜0.6mm程度、好ましくは0.4mm程度である。固定金具9には筒状体7が嵌合される嵌合部9aが形成されている。嵌合部9aの下端(筒状体7が挿入されて行く方向の端)には、嵌合部9aよりも狭幅の切込み部9cが連接されている。
【0029】
固定金具9の下端部には幅方向に突出したアンカー部9dが設けられている。アンカー部9dは、石膏鋳型11に対してアンカーとして機能する。そのため、固定金具9はアンカー部9dによって安定して石膏鋳型11に固定される。固定金具9に貫通孔を設け、貫通孔をアンカー部9dにすることもできる。
【0030】
また、嵌合部9aには、内側に突出する係合部9bが設けられている。この係合部9bは、筒状体7の対向する両端部7bの外側に形成された窪んだ係合部7cと係合する。尚、係合部9bを窪みにして、係合部7cを突出させてもよい。
【0031】
そして、石膏鋳型11の表面に突設された固定金型9の嵌合部9aに、筒状体7の対向させた両端部7bを挿入して嵌合させる。これにより、図8に例示するように、対向させた両端部7bのすき間を、挿入する前よりも狭くして、両端部7bの先端を石膏鋳型11の表面に接するように配置する。
【0032】
このとき、係合部7cと係合部9bとが係合して、筒状体7が位置決めされて固定金具9に設置どおりの所定位置にセッティングされる。固定金具9がバネ鋼で形成され、嵌合部9aの下端に切込み部9cが連接されていると、筒状体7の対向させた両端部7bを嵌合部9aに挿入し易くなる。
【0033】
石膏鋳型11の表面11aはピース3のタイヤ成形面5に相当し、石膏鋳型11の凹部11bはピース3の溝成形突起6に相当する。石膏鋳型11の表面11aは、タイヤ周方向では円弧状になっているので、筒状体7を、石膏鋳型11の円弧状の表面11aに沿う円弧状に屈曲させておくとよい。1つの石膏鋳型11のタイヤ周方向長さが短くて表面11aがタイヤ周方向でほぼフラットな場合は、直線状の筒状体7を用いることもできる。
【0034】
その後、図10、図11に例示するように、この石膏鋳型11の四方側面を枠部材10で囲んだ状態にして、石膏鋳型11の表面11aに溶融金属Mを流し込む。溶融金属Mが固化することにより、図9に例示するように、石膏鋳型11の表面11aを転写したピース3が鋳造される。
【0035】
石膏鋳型11の表面11aに筒状体7の対向させた両端部7bの先端を石膏鋳型11の表面に接するように配置したので、筒状体7が固定金具9の一部分とともにピース3に埋設され、両端部7bの先端(微小すき間S)がピース3のタイヤ成形面5に露出した状態になる。
【0036】
次いで、鋳造されたピース3から固定金具9を除去する。固定金具9を除去してピース3の表面に生じた細幅穴は、適宜、ピース3と同質の金属材料で埋める。固定金具9がバネ鋼で形成され、嵌合部9aの下端に切込み部9cが連接されていると、鋳造したピース3から固定金具9を引き抜き易くなる。
【0037】
上述したように、石膏鋳型11に対する筒状体7のセッティング作業を容易に行なえるため、作業時間を短縮できるので生産性を向上させることができる。
【0038】
上記実施形態ではセクター2が複数のピース3で構成され、ピース2の単位で鋳造する場合を例示したが、これに限らず、セクター2が複数のピース3で構成されていない場合にも適用できる。即ち、セクター2の単位で鋳造する場合にも本発明を適用することができる。
【0039】
この場合は、先の実施形態と同じ手順で、図12に例示するように、筒状体7の対向させた両端部7bを固定金具9を介して対向させた両端部7bのすき間を狭くして、両端部7bの先端を、セクター2に対応する石膏鋳型11の表面に接するように配置する。その後、先の実施形態と同じ手順で鋳造して、図13に例示するようなセクター2を製造する。この場合は、セクター2を細分化したピース3の単位ではなく、セクター2の単位で鋳造できるので、生産性を向上させるには更に有利になる。
【符号の説明】
【0040】
1 モールド
2 セクター
3 ピース
4 バックブロック
5 タイヤ成形面
6 溝成形突起
7 筒状体
7a 空洞内部
7b 突き合わせた部分
7c 係合部
8 スリット
9 固定金具
9a 嵌合部
9b 係合部
9c 切込み部
9d アンカー部
10 枠部材
11 石膏鋳型
11a 表面
11b 凹部
12 ゴム型
M 溶融金属
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、石膏鋳型の表面に突設した板状の固定金具の嵌合部に、板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成した筒状体を、その対向させた両端部を前記嵌合部に挿入して嵌合させることにより、この対向させた両端部のすき間を狭くして、その両端部の先端を前記石膏鋳型の表面に接するように配置した後、この石膏鋳型の表面に前記溶融金属を流し込んで前記筒状体をモールドに埋設するとともに、前記対向させた両端部の先端をモールドのタイヤ成形面に露出させ、このモールドから前記固定金具を除去して、前記対向させた両端部の間に微小すき間を設けたモールドを製造することを特徴とするタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項2】
前記筒状体の対向させた両端部を前記固定金具の嵌合部に挿入した際に、前記嵌合部に設けた係合部と、前記対向させた両端部の外周面に設けた係合部とを係合させて、筒状体を位置決めする請求項1に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項3】
前記固定金具がバネ鋼で形成され、前記嵌合部の下端に切込み部が連接されている請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項4】
前記固定金具が石膏鋳型に対してアンカーとなるアンカー部を有している請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項5】
溶融金属を固化させることにより形成されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記溶融金属を固化させる際に板状の固定金具とともにモールドに埋設された筒状体を有し、この筒状体が板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成されたものであり、この対向させた両端部の間に微小すき間が形成され、その微小すき間がモールドのタイヤ成形面に露出していて、前記固定金具が除去されていることを特徴とするタイヤ加硫用モールド。
【請求項1】
石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、石膏鋳型の表面に突設した板状の固定金具の嵌合部に、板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成した筒状体を、その対向させた両端部を前記嵌合部に挿入して嵌合させることにより、この対向させた両端部のすき間を狭くして、その両端部の先端を前記石膏鋳型の表面に接するように配置した後、この石膏鋳型の表面に前記溶融金属を流し込んで前記筒状体をモールドに埋設するとともに、前記対向させた両端部の先端をモールドのタイヤ成形面に露出させ、このモールドから前記固定金具を除去して、前記対向させた両端部の間に微小すき間を設けたモールドを製造することを特徴とするタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項2】
前記筒状体の対向させた両端部を前記固定金具の嵌合部に挿入した際に、前記嵌合部に設けた係合部と、前記対向させた両端部の外周面に設けた係合部とを係合させて、筒状体を位置決めする請求項1に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項3】
前記固定金具がバネ鋼で形成され、前記嵌合部の下端に切込み部が連接されている請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項4】
前記固定金具が石膏鋳型に対してアンカーとなるアンカー部を有している請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項5】
溶融金属を固化させることにより形成されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記溶融金属を固化させる際に板状の固定金具とともにモールドに埋設された筒状体を有し、この筒状体が板状体の両端部の内周面どうしを対向させて形成されたものであり、この対向させた両端部の間に微小すき間が形成され、その微小すき間がモールドのタイヤ成形面に露出していて、前記固定金具が除去されていることを特徴とするタイヤ加硫用モールド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2012−218424(P2012−218424A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90160(P2011−90160)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【特許番号】特許第5041087号(P5041087)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【特許番号】特許第5041087号(P5041087)
【特許公報発行日】平成24年10月3日(2012.10.3)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]