説明

タイヤ加硫用モールドの製造方法

【課題】モールドに埋設される筒状体を用いて、排気機構として機能する微小すき間を別工程で形成することなく、モールドの鋳造とともに形成できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドを提供する。
【解決手段】板状体の両端部を突き合わせて形成した筒状体7を、その突き合わせた両端部7bが石膏鋳型16の表面16aに接するように配置した後、この石膏鋳型16の表面16aに溶融金属Mを流し込んで筒状体7を埋設したモールドを鋳造し、この鋳造の際の熱によって、突き合わせた両端部7bを開口させて微小すき間を形成して、この微小すき間をモールドのタイヤ成形面に露出させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドに関し、さらに詳しくは、モールドに埋設される筒状体を用いて、排気機構として機能する微小すき間を別工程で形成することなく、モールドの鋳造とともに形成できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫用モールドには、グリーンタイヤとモールドとの間に残留したエアや加硫の際に発生するガスを、モールド外部に排出させる排気機構が設けられている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1では、薄板を折り曲げて一端部を重ね合わせ、他端部に大きなすき間を確保した積層ブレードが用いた排気機構が提案されている。この積層ブレードはブロックで保持され、このブロックをモールドのタイヤ成形面の凹状のポケットに嵌入させることにより、ポケットとブロックとで囲まれた排気室を形成している。エアやガスは、積層ブレードの一端部の微小すき間および他端部の大きなすき間を通じて排気室に排出される。
【0003】
しかしながら、この排気機構では、鋳造したモールドのタイヤ成形面にポケットを形成する工程、ブロックに積層ブレードを保持させた組立体を製造する工程、この組立体をポケットに嵌入させる工程が必要になるので、加工工程が多くなり製造に要する時間が長くなるという問題があった。
【0004】
特許文献2では、モールドの鋳造時に埋設した筒状体を用いた排気機構が提案されている。埋設された筒状体の外周面に形成されたスリットがモールドのタイヤ成形面に露出していて、このスリットを通じて、エアやガスがモールド外部に排出される。この提案では、特許文献1の提案に比して、加工工程を少なくできる。しかしながら、スリットは、モールドの鋳造工程の前に筒状体に予め形成される。或いは、鋳造工程の後で、レーザ加工によりスリットが形成される。即ち、鋳造工程とは別工程でスリットを形成する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260135号公報
【特許文献2】特開2011−46072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、モールドに埋設される筒状体を用いて、排気機構として機能する微小すき間を別工程で形成することなく、モールドの鋳造とともに形成できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法は、石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、板状体の両端部を突き合わせて形成した筒状体を、その突き合わせた両端部が前記石膏鋳型の表面に接するように配置した後、この石膏鋳型の表面に前記溶融金属を流し込んで前記筒状体を埋設したモールドを鋳造し、この鋳造の際の熱によって、前記突き合わせた両端部を開口させて微小すき間を形成して、この微小すき間をモールドのタイヤ成形面に露出させるようにしたことを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤ加硫用モールドは、溶融金属を固化させることにより鋳造されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記溶融金属を固化させる際にモールドに埋設された筒状体を有し、この筒状体が板状体の両端部を突き合わせて成形されたものであり、鋳造の際の熱によって、前記突き合わせた両端部が開口して微小すき間が形成され、その微小すき間がモールドのタイヤ成形面に露出していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法によれば、板状体の両端部を突き合わせて形成した筒状体を、その突き合わせた両端部が石膏鋳型の表面に接するように配置した後、この石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込んで筒状体を埋設したモールドを鋳造し、この鋳造の際の熱によって、突き合わせた両端部を開口させて微小すき間を形成して、この微小すき間をモールドのタイヤ成形面に露出させるので、排気機構として機能する微小すき間をモールドの鋳造とともに形成できる。そのため、別工程で微小すき間を形成する必要がない。
【0010】
上記の製造方法によって、本発明のタイヤ加硫用モールドを得ることができる。
【0011】
本発明の製造方法では、例えば、板状体の両端部の内周面どうしを対向させて中間筒状体を形成し、この対向させた両端部の外周面を拘束しつつ、その両端部の先端側に向かって中間筒状体を押圧して先端を圧縮することにより、前記筒状体を形成する。これにより、モールドを鋳造する際の熱によって、筒状体の突き合わせた両端部を開口させて微小すき間を形成し易くなる。
【0012】
前記石膏鋳型の両端部に溝を設けた筒状体保持部材を配置し、前記溝に前記筒状体の突き合わせた両端部は拘束せずに筒状体を嵌合することにより、この突き合わせた両端部が前記石膏鋳型の表面に接するように筒状体を配置することもできる。この筒状体保持部材を用いることにより、筒状体の突き合わせた両端部を開口させ難くすることなく、筒状体を石膏鋳型の所定の位置に正確かつ安定して配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のタイヤ加硫用モールドを例示する平面図である。
【図2】図1のセクターを例示する平面図である。
【図3】図2のセクターの正面図である。
【図4】図3のピースの左半分を例示する平面図である。
【図5】図4のピースの正面図である。
【図6】中間筒状体から筒状体を形成する工程を例示する説明図である。
【図7】形成された筒状体を例示する説明図である。
【図8】筒状体を配置した石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、石膏鋳型の左半分の部分で例示する平面図である。
【図9】図8の工程を正面視で示す説明図である。
【図10】図8のA−A断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加硫用モールドを、図に示した実施形態に基づいて説明する。図面に記載されているC矢印、R矢印、W矢印は、それぞれ、加硫用モールドに挿入して加硫されるグリーンタイヤの周方向、半径方向、幅方向を示している。
【0015】
図1に例示するように、本発明のタイヤ加硫用モールド1(以下、モールド1)は、複数のセクター2を環状に組み付けて構成されるセクショナルタイプになっている。それぞれのセクター2は、図2、図3に例示するように複数のピース3とバックブロック4で構成され、隣り合うピース3どうしが密着した状態でバックブロック4に取付けられている。それぞれのピース3の内周側表面がタイヤ成形面5になる。タイヤ成形面5には、タイヤの溝を形成する溝成形突起6が適宜設けられている。
【0016】
この実施形態では、1つのセクター2に、平面視で4個の長方形のピース3が固定されている。1つのセクター2が有するピース3の数は複数であればよく、その配置もこの実施形態に限定されるものではない。
【0017】
ピース3は、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料を溶融させた溶融金属Mを固化させることにより形成されていて、図4、5に例示するように、溶融金属Mを固化させる際に埋設された筒状体7を有している。筒状体7は、ピース3の一方端面から他方端面まで延設されていて、筒状体7の長手方向両端は、ピース3のタイヤ周方向両端面で開口している。
【0018】
この筒状体7は後述するように、板状体10の両端部を突き合わせて成形されたものであり、鋳造の際の熱によって、突き合わせた両端部7bが開口して微小すき間Sのスリット8が形成されている。その微小すき間Sのスリット8は、ピース3のタイヤ成形面5に露出している。
【0019】
筒状体7には、その融点が溶融金属Mの融点よりも高い金属材料を用いる。例えば、溶融金属Mがアルミニウムの場合は、ステンレス鋼などの鋼製の筒状体7を用いる。
【0020】
この実施形態の筒状体7は、スリット8が断面三角形状の空洞内部7aに連通して、空洞内部7aはスリット8を通じてピース3の外部に連通する。スリット8は、筒状体7の長手方向(タイヤ周方向)全長に渡って筒状体7の外周面に形成されて、ピース3のタイヤ成形面5に露出している。スリット8の微小すき間Sは、0.01mm〜0.10mm程度であり、0.03mm程度がより好ましい。
【0021】
グリーンタイヤを加硫する際には、エアやガスはスリット8を通じて空洞内部7aに排出され、さらにセクター2の端面等を通じてモールド1の外部に排出される。スリット8のタイヤ半径方向長さは、1mm〜5mm程度、さらに好ましくは2mm程度にする。スリット8を通過したエアやガスは、スリット8よりも遥かに広い空洞内部7aに排出されるので、十分な排気を確保することできる。さらに、ピース3のタイヤ周方向端面に露出した隣り合う筒状体7の空洞内部7aどうしを、ピース3のタイヤ周方向端面に別途形成した排気溝によって連結することで、排気効率を一段と向上させることが可能になる。
【0022】
スリット8は、グリーンタイヤを加硫する際に、エアやガスが溜まり易い場所に設けられる。例えば、溝成形突起6の根元部近傍にスリット8が配置されるように、筒状体7がピース3(モールド1)に埋設される。スリット8は、排気が必要な場所にあればよいので、モールド1を構成するすべてのピース3に筒状体7を埋設してスリット8を設ける場合もあり、特定のピース3にのみ筒状体7を埋設してスリット8を設ける場合もある。
【0023】
筒状体7は、三角筒状に限らず、円筒状、横断面形状が四角形にした筒状、その他の多角形を横断面形状にした様々の筒状にすることができる。筒状体7の空洞内部7aの大きさは、例えば、内径相当で0.5mm〜5.0mm程度にする。
【0024】
このピース3の製造方法を以下に例示する。
【0025】
まず、筒状体7を製造するにはプレス機等を用いて、図6に例示するように板状体10を折り曲げて、両端部9aの内周面どうしを対向させた中間筒状体9を形成する。そして、受け治具11および押圧治具13を用いて中間筒状体9を筒状体7に形成する。
【0026】
受け治具11は受け溝12を有し、受け溝12は上方から下方に向かってすき間を狭くする左右一対の傾斜面12aと、傾斜面12aの下端に連接された受け溝12bとで構成されている。押圧治具13は、受け治具11の上方に配置されて上下移動する。押圧治具13の下面には押溝13aが形成されている。
【0027】
中間筒状体9の対向させた両端部9aを、受け治具11の受け溝12に嵌合させて中間筒状体9を受け治具11にセットする。これにより、中間筒状体9の対向させた両端部9aの外周面は受け溝12によって拘束された状態になる。
【0028】
次いで、この状態で、図7に例示するように押圧治具13を下方移動させて押溝13aで中間筒状体9の頭部を押圧して、対向させた両端部9aの先端側(下端側)に向かって中間筒状体9を押圧して先端(下端)を圧縮する。
【0029】
この押圧によって、対向させた両端部9aは、受け溝12に拘束されて、すき間なく突き合わせた状態に変形する。また、中間筒状体9の頭部は断面三角形状の空洞内部7aに変形して、中間筒状体9は筒状体7に加工される。
【0030】
このようにして製造した筒状体7を、図8、図9に例示するように、突き合わせた両端部7bが石膏鋳型16の表面16aに接するように配置する。石膏鋳型16の表面16aはピース3のタイヤ成形面5に相当し、石膏鋳型16の凹部16bはピース3の溝成形突起6に相当する。石膏鋳型16の表面16aは、タイヤ周方向では円弧状になっているので、筒状体7を、石膏鋳型16の円弧状の表面16aに沿う円弧状に屈曲させておくとよい。1つの石膏鋳型16のタイヤ周方向長さが短くて表面16aがタイヤ周方向でほぼフラットな場合は、直線状の筒状体7を用いることもできる。
【0031】
この実施形態では、石膏鋳型16のタイヤ周方向両端部に、保持溝14aを設けた筒状体保持部材14を配置している。石膏鋳型16のタイヤ幅方向両端部には枠部材15が配置され、石膏鋳型16の四方側面は、筒状体保持部材14と枠部材15とで囲まれている。
【0032】
そして、図10に例示するように筒状体7の長手方向両端部を、突き合わせた両端部7bは拘束せずに保持溝14aに嵌合させることにより、突き合わせた両端部7bが石膏鋳型16の表面16aに接するように筒状体7を配置する。このような筒状体保持部材14を用いることにより、筒状体7を石膏鋳型16の所定の位置に正確かつ安定して配置することができる。
【0033】
次いで、この状態で、石膏鋳型16の表面16aに溶融金属Mを流し込み、溶融金属Mを固化させることにより石膏鋳型16の表面16aを転写したピース3が鋳造される。アルミニウムの溶融金属Mでは、その温度は550℃〜780℃程度となる。この鋳造の際の熱によって、筒状体7の突き合わせた両端部7bが開口して微小すき間Sのスリット8が形成される。
【0034】
即ち、筒状体7の突き合わせた両端部7bは、強制的に互いが接触した状態に変形加工されている。ここで、筒状体7が溶融金属Mによって加熱されると、筒状体7が熱膨張するとともに、突き合わせた両端部7bを強制的に接触させている応力が緩和される。これにより、突き合わせた両端部7bが互いに離れるように変形するため、微小すき間Sのスリット8が形成される。
【0035】
石膏鋳型16の表面16aに突き合わせた両端部7bが接するように筒状体7を配置したので、筒状体7がピース3に埋設されるとともに、スリット8がピース3のタイヤ成形面5に露出した状態になる。ピース3から突出している筒状体7の長手方向両端の部分は切断する。
【0036】
このように、溶融金属Mを石膏鋳型16の表面16aに流し込んで固化させる鋳造工程で、排気機構として機能する微小すき間Sのスリット8を形成できる。そのため、別工程で微小すき間Sを形成する必要がなく、従来に比して加工工数を低減できる。
【0037】
また、この実施形態では、突き合わせた両端部7bを拘束することなく、筒状体7の長手方向両端部を筒状体保持部材14の保持溝14aに嵌合したので、鋳造の際に、突き合わせた両端部7bを開口させ難くすることもない。突き合わせた両端部7bに対応する保持溝14aの部分の幅Wを調整することにより、突き合わせた両端部7bの開口具合をして微小すき間Sを調整することが可能になる。即ち、突き合わせた両端部7bに対応する保持溝14aの部分で、突き合わせた両端部7bが開口しようとする動きを一定の範囲内に抑制できるので、過大に開口するのを防止できる。
【符号の説明】
【0038】
1 モールド
2 セクター
3 ピース
4 バックブロック
5 タイヤ成形面
6 溝成形突起
7 筒状体
7a 空洞内部
7b 突き合わせた両端部
8 スリット
9 中間筒状体
9a 空洞内部
9b 対向させた両端部
10 板状体
11 受け治具
12 受け溝
12a 傾斜面
12b 受け面
13 押圧治具
13a 押溝
14 筒状体保持部材
14a 保持溝
15 枠部材
16 石膏鋳型
16a 表面
16b 凹部
M 溶融金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、板状体の両端部を突き合わせて形成した筒状体を、その突き合わせた両端部が前記石膏鋳型の表面に接するように配置した後、この石膏鋳型の表面に前記溶融金属を流し込んで前記筒状体を埋設したモールドを鋳造し、この鋳造の際の熱によって、前記突き合わせた両端部を開口させて微小すき間を形成して、この微小すき間をモールドのタイヤ成形面に露出させるようにしたことを特徴とするタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項2】
板状体の両端部の内周面どうしを対向させて中間筒状体を形成し、この対向させた両端部の外周面を拘束しつつ、その両端部の先端側に向かって中間筒状体を押圧して先端を圧縮することにより、前記筒状体を形成する請求項1に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項3】
前記石膏鋳型の両端部に溝を設けた筒状体保持部材を配置し、前記溝に前記筒状体の突き合わせた両端部は拘束せずに筒状体を嵌合することにより、この突き合わせた両端部が前記石膏鋳型の表面に接するように筒状体を配置する請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項4】
溶融金属を固化させることにより鋳造されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記溶融金属を固化させる際にモールドに埋設された筒状体を有し、この筒状体が板状体の両端部を突き合わせて成形されたものであり、鋳造の際の熱によって、前記突き合わせた両端部が開口して微小すき間が形成され、その微小すき間がモールドのタイヤ成形面に露出していることを特徴とするタイヤ加硫用モールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−218425(P2012−218425A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90162(P2011−90162)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】