説明

タイヤ加硫用モールド

【課題】排気用の微小すき間を形成するブレードおよびブレードを埋設する排気溝の加工を簡便にしつつ、安定した排気効率を確保できるタイヤ加硫用モールドを提供する。
【解決手段】タイヤ成形面2に開口して形成される排気溝4が平面視で長方形状であり、ブレード7が厚さ方向の少なくとも一方面に上端から下端まで延設された溝部9を有し、このブレード7が排気溝4に埋設された際に排気溝4と溝部9との間に微小すき間gが形成される構成にして、タイヤ加硫時に、エアaやガスを、微小すき間gおよび排気孔11を通じてモールドの外部に排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用モールドに関し、さらに詳しくは、排気用の微小すき間を形成するブレードおよびブレードを埋設する排気溝の加工を簡便にするとともに、安定した排気効率を確保できるタイヤ加硫用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤを加硫する際には、タイヤ加硫用モールド内に不要なエアが閉じ込められ、また、加硫によってガスが発生する。これらエアやガスは、加硫するタイヤに対してゴム充填不足等の加硫故障を生じさせる。そこで、タイヤ加硫用モールドには、エアや加硫時に発生するガスを外部に排出するために排気手段が設けられている。
【0003】
排気手段としては、例えば、ブレードを挿入した鋳型に溶融金属を注湯してモールドを鋳造し、ブレードとモールド本体との間に微小すき間を形成する発明が提案されている(特許文献1参照)。この微小すき間が排気経路の一部を構成する。しかしながら、特許文献1の発明では、ブレードとモールド本体との熱膨張係数(熱収縮)の差によって微小すき間が形成される。そのため、微小すき間の大きさにばらつきが生じ易く、安定した排気効率を得るには不利であった。
【0004】
別の排気手段としては、タイヤ成形面に細幅穴を設け、この細幅穴にブレードを埋設することにより、ブレードと細幅穴の長辺との間に微小すき間を形成する構造が提案されている (特許文献2参照)。この微小すき間を通じてエアやガスがモールドの外部に排出される。しかしながら、特許文献2の発明では、ブレードの両端部を保持するために、細幅穴の長辺両端部を中央部よりも細幅にしている。即ち、タイヤ成形面に設ける細幅穴の平面視の形状が異形であり、単純な形状ではないので、加工工数が増加し、加工が複雑になるという問題があった。また、細幅穴の形状を設定どおり加工しなければ、ブレードと細幅穴の長辺との間に形成される微小すき間の大きさがばらつく。そのため、精度よく異形の細幅穴を加工しなければ安定した排気効率を確保できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−38426号公報
【特許文献2】特開2009−269363号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、排気用の微小すき間を形成するブレードおよびブレードを埋設する排気溝の加工を簡便にするとともに、安定した排気効率を確保できるタイヤ加硫用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用モールドは、タイヤ成形面に開口して形成される排気溝と、この排気溝に嵌入されて排気溝との間に微小すき間をあけて埋設されるブレードと、前記排気溝とモールドの外部とを連通させる排気孔とを備えたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記排気溝が平面視で長方形状であり、前記ブレードが厚さ方向の少なくとも一方面に上端から下端まで延設された溝部を有し、このブレードが前記排気溝に埋設された際に前記排気溝と前記溝部との間に前記微小すき間が形成される構成にしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、タイヤ成形面に開口して形成される排気溝が平面視で長方形状であり、この排気溝に嵌入、埋設されるブレードが厚さ方向の少なくとも一方面に上端から下端まで延設された溝部を有する単純な形状である。そのため、ブレードおよび排気溝の加工を簡便にすることができる。このようにブレードおよび排気溝の形状が単純であるので設定どおりの形状に容易に加工することができる。それ故、ブレードが排気溝に埋設された際に、排気溝と溝部との間に設定どおりの微小すき間が形成されるので、この微小すき間および排気孔を経て安定した排気効率を確保できる。
【0009】
ここで、前記排気孔に内嵌される筒状体を有し、前記ブレードが前記排気溝に埋設された際にブレードの下端面を前記筒状体に当接させて深さ方向の位置を固定する構成にすることもできる。この構成にすると、ブレードの高さ寸法を小さくできるので、ブレードの材料コストを低減できる。また、ブレードを排気溝に嵌入する際に不用意に曲げてしまう不具合を防止するには有利になる。
【0010】
前記ブレードが、1つの排気溝に対して厚さ方向に複数枚積層して埋設される構成にすることもできる。この構成にすると、積層するブレードの組み合わせによって、微小すき間の総面積を変えることができ、所望の排気効率を得易くなる。
【0011】
前記ブレードに対してブレードの厚さ方向に積層して前記排気溝に埋設されるシムを設けることもできる。この構成にすると、シムの厚さを変えることによって、様々な厚さの排気溝に対して、予め用意している所定厚さのブレードを嵌入、埋設することが可能になる。
【0012】
前記ブレードが厚さ方向の両面に前記溝部を有し、それぞれの面に形成された溝部の位置がブレードの長手方向でオフセットされている構成にすることもできる。この構成にすると、ブレードの厚さ方向の両面に溝部を設けた場合でも、ブレードの最小厚さを大きくすることができる。それ故、ブレードを変形し難くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のタイヤ加硫用モールドのタイヤ成形面の一部を例示する平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2の一部拡大図である。
【図4】図1のB−B断面図である。
【図5】図1の一部拡大図である。
【図6】排気溝にブレードを嵌入する状態を側面視で例示する断面図である。
【図7】別の実施形態を例示する断面図(図3相当図)である。
【図8】図7のC−C断面図である。
【図9】ブレードの変形例を示す断面図(図4相当図)である。
【図10】複数のブレードを積層した実施形態を例示する平面図(図5相当図)である。
【図11】積層したブレードの間にシムを介在させた実施形態を例示する平面図(図5相当図)である。
【図12】別のタイプのモールドに本発明を適用した場合を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のタイヤ加硫用モールドを図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0015】
図1〜図5に例示するように、本発明のタイヤ加硫用モールド1(以下、モールド1という)は、アルミニウム材等により形成されており、内周側表面がタイヤ成形面2になっている。タイヤ成形面2には、排気溝4が開口して複数形成されている。この排気溝4にはブレード7が嵌入されて埋設されている。ブレード7の上端面とタイヤ成形面2は実質的に同じレベルになっている。モールド1の一方の端面から他方の端面に向って排気孔11が延設されている。この排気孔11は排気溝4と接続して、排気溝4とモールド1の外部とを連通させる。排気溝4は、その長手方向が排気孔11の延設方向に向くように配置されている。
【0016】
排気溝4は、所定の一定厚さTを有して平面視で長方形状になっている。そして、その一定厚さTで深さ方向に深さH1で削孔されている。
【0017】
ブレード7はステンレス鋼等の金属薄板で形成されていて、その側面視の概形は排気溝4に沿った形状を有している。ブレード7の厚さtは、例えば1mm程度であるが、排気溝4への嵌入し易さと嵌入した後の固定強度を考慮すると、排気溝4の厚さTに対して、例えば、0mm〜0.1mm程度大きく、好ましくは厚さTよりも大きく設定する。具体的にはこの厚さtを排気溝4の厚さTに対して0.01mm程度大きく設定するとよい。
【0018】
ブレード7の厚さ方向の両面には、上端から下端まで延びる溝部9が設けられている。図3に例示するように、ブレード7が排気溝4に嵌入されて埋設された際には、ブレード7の下端面7aは、排気孔11の内周面に当接して深さ位置が固定される。この際に、ブレード7の長手方向両端面8aと排気溝4の長手方向両端面5aとが当接し、ブレード7の厚さ方向両端面8bと排気溝4の厚さ方向両端面5bとの間には、溝部9によって微小すき間gが形成される。
【0019】
そのため、溝部9の溝深さdは、形成する微小すき間gがエアaやガスを通過させつつ、ゴム(グリーンタイヤの未加硫ゴム)が通過しない大きさになるように設定される。したがって、溝深さdは、例えば、0.01mm〜0.50mm、好ましくは0.05mm〜0.20mmに設定される。
【0020】
また、隣り合う溝部9との距離(溝部9の配置ピッチ)は、排気効率等を考慮して決定されるが、例えば、0.3mm〜3.0mm、好ましくは0.5mm〜1.0mmに設定される。
【0021】
溝部9は、ブレード7の上端から下端まで延設されていればよく、斜めに延設されていても屈曲していてもよい。溝部9の横断面形状は、図5に例示するようなV字状に限らず、円弧状、四角状などの種々の形状を採用することができる。
【0022】
溝部9は、ブレード7の厚さ方向の一方面だけに設けてもよく、少なくとも一方面に設けるようにする。ブレード7の両面に溝部9を設ける場合は、両面それぞれの溝部9の仕様を基本的には同じにするが、配置ピッチ等を異ならせることもできる。
【0023】
排気溝4の深さH1は、例えば、0.5mm〜5.0mm程度、さらに好ましくは1.0mm〜2.0mm程度である。この高さH1を0.5mm〜5.0mmにすることにより、ブレード7の強度を確保しつつ、排気溝4との間で適度な深さの微小すき間gを確保し易くなる。排気孔11の直径は例えば、2mm〜10mm程度である。
【0024】
本発明では、排気溝4が平面視で単純な長方形状なので、排気溝4を形成するために複雑な加工が不要であり、加工が簡便になる。それ故、排気溝4は、切削加工や放電加工等によって、設定寸法に対してばらつきなく短時間で容易に形成することができる。ブレード7も単純な形状であり、機械加工等で設定寸法に対して精度よく形成できるので、微小すき間gを設定どおりに大きさにばらつきなく形成することが可能である。ブレード7の厚さ方向両面に溝部を設ける場合は、面どうしの間で偏りを抑えて同じ大きさの微小すき間gを形成することができる。
【0025】
したがって、グリーンタイヤを加硫する際に不要なエアaや発生するガスは、図4に例示するように、タイヤ成形面2から微小すき間gおよび排気孔11を通じてモールド1の外部に排出される。これによりタイヤを加硫する際に、安定した排気を確保することが可能になり、加硫するタイヤに対してゴム充填不足等の加硫故障が生じることを防止できる。
【0026】
また、この実施形態では、図4に例示するように、ブレード7の下端面7aの長さ方向両端に面取り部7bが形成されている。これにより、図6に例示するように、ブレード7を排気溝4に嵌入する際に、円滑に嵌入し易くなる。また、ブレード7を嵌入する際に排気溝4の上端開口に接触しても、面取り部7bが接触するので鋭利な角が接触する場合に比してモールド母材が削られ難くなる。これに伴って、モールド母材の削りカスが排気溝4に溜まってブレード7の埋設具合にばらつきが生じる不具合を防止することもできる。
【0027】
図7、図8に本発明の別の実施形態を例示する。この実施形態では、上記実施形態と異なり、排気孔11に金属製の割りピン6が内嵌されている。ブレード7が排気溝4に埋設された際には、ブレード7の下端面7aが割りピン6の外周面に当接する構成になっている。ブレード7が割りピン6に当接することにより、ブレード7の深さ方向の位置が固定される。
【0028】
この構成にすると、ブレード7の高さ寸法を小さくできるのでコンパクトになって、ブレード7の材料コストを低減できる。また、高さ寸法が小さくなることに伴い、排気溝4に嵌入する際に不用意にブレード7に曲げるような外力が作用しても曲がり難くなるという利点がある。
【0029】
排気孔11には割りピン6に限定されず筒状体を内嵌すればよいが、割りピン6を用いると、その外径を割り溝6aによって調整できる。また、割りピン6の外径を調整した際(縮径させた際)に復元しようとして生じる付勢力によって、割りピン6をしっかりと排気孔11に内嵌し易くなる。
【0030】
割りピン6は1つのブレード7に対して複数設けることもできる。また、割りピン6の軸方向長さは適宜決定するが、例えば、ブレード7の長さ方向寸法の20%以上、好ましくは30%以上にする。
【0031】
図9に例示するように、ブレード7には、溝部9よりも幅広の連通部9aを設けることもできる。この連通部9aは、ブレード7の長手方向中央部で、下端7aから高さ方向中途の位置まで延びる切欠きで形成されている。
【0032】
このブレード7が排気溝4に嵌入されて埋設された際には、連通部9aは排気孔11よりも上方に突出した状態になる。そのため、連通部9aに連通する溝部9では、エアaやガスは、連通部9aを通じて排気孔11に排出される。連通部9aは、溝部9よりも幅広なので、排気効率をより向上させることができる。
【0033】
図10に例示するように、1つの排気溝4に対してブレード7を厚さ方向に2枚積層して埋設した形態にすることもできる。この実施形態では、それぞれのブレード7に設けた溝部9と排気溝4との間に微小すき間gが形成されるとともに、隣り合うブレード7どうしの間に溝部9によって微小すき間gが形成される。
【0034】
このように複数のブレード7を積層して排気溝4に埋設すると、積層するブレード7の組み合わせによって、微小すき間gの総面積を変えることができ、所望の排気効率を得易くなる。ブレード7の積層数は2枚に限らず、任意の数にすることができる。
【0035】
本発明では、ブレード7が厚さ方向の両面に溝部9を有する場合、それぞれの面に形成された溝部9の位置を、図10に例示するようにブレード7の長手方向でオフセットすることが好ましい。即ち、複数のブレード7を積層して排気溝4に埋設する場合でも、図5に例示したようにブレード7を1枚のみ排気溝4に埋設する場合でも、溝部9をオフセットした配置にするとよい。
【0036】
このように溝部9をオフセットした配置すると、ブレード7の最小厚さを大きくすることができる。それ故、ブレード7を変形し難くすることができる。
【0037】
図11に例示するように、ブレード7に対してブレード7の厚さ方向に積層して排気溝に埋設されるシム10を設けることもできる。シム10は単純な一定厚さの金属板である。この実施形態のようにシム10を設けると、シム10の厚さを変えることによって、様々な厚さの排気溝4に対して、予め用意している所定厚さのブレード7を嵌入、埋設することが可能になる。
【0038】
本発明は、図2に例示した一体的なモールド1だけでなく、図12に例示するような、タイヤ成形面12aを有する複数のピース12をバックブロック13に取り付ける構造のモールド1にも適用することができる。このタイプのモールド1の場合、排気孔11はピース12の背面12b側に、ピース12の一方の端面から他方の端面に延設して排気溝4に連通させる。
【0039】
本発明では、排気孔11に対する排気溝4の向きは任意である。例えば、排気溝4の厚さ方向が排気孔11の延設方向に向くように排気溝4を配置することもできる。
【0040】
また、本発明では、ブレード7の上端面をタイヤ成形面2から突出させない形態だけでなく、突出させるようにしてもよい。即ち、ブレード7を、タイヤにサイプを形成するサイプ形成ブレードとして用いることもできる。
【符号の説明】
【0041】
1 モールド
2 タイヤ成形面
3 背面
4 排気溝
5a 長さ方向端面
5b 厚さ方向端面
6 割ピン
6a 割り溝
7 ブレード
7a 下端面
7b 面取り部
7c 連通部
8a 長さ方向端面
8b 厚さ方向端面
9 溝部
9a 連通部
10 シム
11 排気孔
12 ピース
12a タイヤ成形面
12b 背面
13 バックブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ成形面に開口して形成される排気溝と、この排気溝に嵌入されて排気溝との間に微小すき間をあけて埋設されるブレードと、前記排気溝とモールドの外部とを連通させる排気孔とを備えたタイヤ加硫用モールドにおいて、
前記排気溝が平面視で長方形状であり、前記ブレードが厚さ方向の少なくとも一方面に上端から下端まで延設された溝部を有し、このブレードが前記排気溝に埋設された際に前記排気溝と前記溝部との間に前記微小すき間が形成される構成にしたことを特徴とするタイヤ加硫用モールド。
【請求項2】
前記排気孔に内嵌される筒状体を有し、前記ブレードが前記排気溝に埋設された際にブレードの下端面を前記筒状体に当接させて深さ方向の位置を固定する構成にした請求項1に記載のタイヤ加硫用モールド。
【請求項3】
前記ブレードが、1つの排気溝に対して厚さ方向に複数枚積層して埋設される請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールド。
【請求項4】
前記ブレードに対してブレードの厚さ方向に積層して前記排気溝に埋設されるシムを設けた請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ加硫用モールド。
【請求項5】
前記ブレードが厚さ方向の両面に前記溝部を有し、それぞれの面に形成された溝部の位置がブレードの長手方向でオフセットされている請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ加硫用モールド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−176517(P2012−176517A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39887(P2011−39887)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】