説明

タイヤ加硫用金型の摺動モデル装置

【課題】セグメントがガイド部材に案内されて摺動するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置により、セグメントの摺動特性を容易に評価する。
【解決手段】摺動モデル装置1は、ベース部材2と、ベース部材2に固定されたガイド部材モデルであるTブロック10と、ベース部材2とTブロック10に設けられた摺動面とを備えている。摺動モデル装置1は、セグメントモデルであるスライドベース20を、Tブロック10により案内して摺動面上を摺動させ、スライドベース20の摺動抵抗を、摺動抵抗測定手段30により測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セグメントを摺動させて未加硫タイヤを加硫するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ等の各種のタイヤは、一般に、未加硫タイヤを金型内で加硫して製造される。このタイヤ加硫用金型として、従来、上型と下型、及び、周方向に複数に分割されたセグメントを備え、それらを組み合わせて未加硫タイヤを成形する割モールドが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
図8は、この従来のタイヤ加硫用金型のセグメントを示す側面図である。
タイヤ加硫用金型90は、図示のように、下型91と、下型91に固定されたTブロック92と、下型91上で半径方向に移動するセグメント93とを備えている。Tブロック92は、セグメント93のガイド部材であり、セグメント93に形成されたTスロット93A内にはめ込まれて、セグメント93の開閉を補助する。複数のセグメント93は、Tブロック92に案内されて下型91上で摺動し、環状に組み合わされて未加硫タイヤの外周面を成形する。
【0004】
ここで、セグメント93の摺動特性を評価するためには、種々の条件で摺動抵抗を測定して、測定結果を比較する必要がある。その際、セグメント93の摺動抵抗は、例えば、セグメント93に取り付けた測定装置により測定される。しかしながら、セグメント93の大きさやタイヤ加硫用金型90の構造に起因して、摺動抵抗の測定作業は作業性が低くなり、測定に多大な手間や時間を要する。また、同一の条件でも測定結果が変動して、測定の再現性が低くなる傾向がある。
【0005】
実際にセグメント93の摺動抵抗を測定すると、同一のタイヤ加硫用金型90内でも、セグメント93毎に、800N(ニュートン)〜1500Nの間で様々な摺動抵抗が測定される。摺動抵抗の差の要因は、タイヤ加硫用金型90の組み立て精度、摺動面のクリアランス等であると推測できるものの、明確に把握するのは難しい。また、セグメント93を開閉動作させて摺動抵抗を測定すると、摺動中に摺動抵抗が大きく変動するが、その要因も不明である。そのため、セグメント93の摺動特性は、実際に摺動抵抗を測定しても、評価結果にバラツキが生じる。併せて、摺動抵抗の測定には、クレーンを使用した作業が必要である等、測定を実施できる環境が限定されるとともに、作業性も低くなって時間とコストを浪費する。従って、セグメント93の摺動特性は、実物以外により、容易かつ精度よく評価することが強く望まれている。
【0006】
また、タイヤ加硫用金型90では、セグメント93の摺動抵抗に影響する因子、例えば、セグメント93の重心位置や、セグメント93に加わるモーメントの大きさを変更して、所望の条件に設定するのは極めて困難である。これに対し、セグメント93の摺動抵抗を算出できれば、各条件での摺動抵抗を推定できる。ところが、タイヤ加硫用金型90は構造が比較的複雑であり、かつ、上記のように、摺動抵抗に生じる差や変動の要因も不明である。そのため、従来のように、セグメント93の質量と摩擦係数との積から摺動抵抗(摩擦抵抗)を算出しても、正確な値とはならず、算出結果から摺動抵抗を推定するのは難しい。仮に、摺動抵抗を推定できたとしても、推定結果の妥当性を検証するためには、推定の条件に合わせた条件でセグメント93の摺動抵抗を測定し、それらを比較する必要がある。そのため、摺動抵抗を簡便に測定できる装置の実現が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−179046号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、これら従来の問題に鑑みなされたもので、その目的は、セグメントがガイド部材に案内されて摺動するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置により、セグメントモデルの摺動抵抗を簡便に測定して、タイヤ加硫用金型に設けるセグメントの摺動特性を容易かつ精度よく評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、タイヤ外周面を成形するセグメントがガイド部材に案内されて摺動するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置であって、ベース部材と、ベース部材に固定されたガイド部材モデルと、ベース部材とガイド部材モデルに設けられた摺動面と、ガイド部材モデルにより案内されて摺動面上を摺動するセグメントモデルと、セグメントモデルの摺動抵抗を測定する摺動抵抗測定手段と、を備えたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、セグメントがガイド部材に案内されて摺動するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置により、セグメントモデルの摺動抵抗を簡便に測定でき、タイヤ加硫用金型に設けるセグメントの摺動特性を容易かつ精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態の摺動モデル装置の側面図である。
【図2】図1の矢印X方向から見た摺動モデル装置の正面図である。
【図3】ベース部材とTブロックを抜き出して示す図である。
【図4】スライドベースに作用する反力を示す側面図である。
【図5】スライドベースとセグメントの支点の例を示す側面図である。
【図6】スライドベースの荷重と摺動抵抗の関係を示す図である。
【図7】スライドベースの摺動抵抗の算出について説明するための図である。
【図8】従来のタイヤ加硫用金型のセグメントを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置(以下、単に摺動モデル装置という)の一実施形態について、図面を参照して説明する。
本実施形態の摺動モデル装置は、タイヤ加硫用金型を模した金型モデルを備え、金型モデルを使用してセグメントの摺動をシミュレートする。即ち、摺動モデル装置は、セグメントの摺動シミュレーション装置(シミュレータ)であり、金型モデルによりセグメントの摺動特性を評価する。
【0013】
なお、摺動モデル装置は、タイヤ外周面を成形するセグメントがガイド部材に案内されて摺動するタイヤ加硫用金型をモデル化している。モデルとなるタイヤ加硫用金型は、上記したタイヤ加硫用金型90(図8参照)であり、上型(図示せず)、下型91、上型と下型91間に配置された複数のセグメント93、及び、Tブロック92(ガイド部材)を備える。複数のセグメント93は、未加硫タイヤの外周面にトレッドパターンを成形するトレッド成形金型であり、周方向に複数に分割され、半径方向に移動して環状に組み合わされる。Tブロック92は、各セグメント93のTスロット93A内にはめ込まれて、セグメント93の移動を案内する。セグメント93は、Tブロック92により案内されて下型91上で半径方向に摺動し、環状に組み合わされて未加硫タイヤの外周面を成形する。
【0014】
図1は、本実施形態の摺動モデル装置の側面図であり、摺動モデル装置の概略構成を示している。また、図2は、図1の矢印X方向から見た摺動モデル装置の正面図である。
摺動モデル装置1は、図示のように、ベース部材2と、ベース部材2に固定されたTブロック10と、ベース部材2上で移動(摺動)するスライドベース20と、摺動抵抗測定手段30(図2では省略する)とを備えている。ベース部材2は、タイヤ加硫用金型90の下型91に対応する下型モデルであり、装置内での位置が固定されている。また、ベース部材2は、平板状をなし、上面上の所定範囲をスライドベース20が移動する。
【0015】
Tブロック10は、断面T字状に形成され、ベース部材2に固定されて、両側方の一対の凸条11とベース部材2との間に空間を形成する。Tブロック10は、タイヤ加硫用金型90のガイド部材に対応するガイド部材モデルであり、摺動するスライドベース20を案内してベース部材2上で移動させる。また、Tブロック10とベース部材2は、スライドベース20が摺動する摺動面を有する。ここでは、スライドベース20と接触するベース部材2の上面、及び、凸条11の上下面が摺動面になっている。
【0016】
スライドベース20は、直方体状をなし、ガイド溝であるTスロット21が、中央部を貫通して形成されている。Tスロット21は、Tブロック10の断面形状に合わせて断面T字状に形成され、Tブロック10が内部に移動可能にはめ込まれる。Tブロック10は、Tスロット21内で相対移動して、スライドベース20内での位置が変化する。スライドベース20は、内部を相対移動するTブロック10により案内されて、Tスロット21の延びる方向に移動する。
【0017】
スライドベース20は、タイヤ加硫用金型90のセグメント93に対応するセグメントモデルであり、Tブロック10により案内されて、ベース部材2とTブロック10に設けられた摺動面上を摺動する。これにより、スライドベース20は、Tブロック10の案内方向(摺動方向S)の両方向に移動する。ここでは、スライドベース20は、Tブロック10の半分程度が内部に位置する状態(図1に示す状態)(第1状態という)と、Tブロック10の全体が内部に入り込んだ状態(第2状態という)との間で移動する。スライドベース20の第1状態は、タイヤ加硫用金型90内で複数のセグメント93が環状に組み合わされた状態に対応し、第2状態は、タイヤ加硫用金型90内で複数のセグメント93が離れて全開した状態に対応する。
【0018】
摺動モデル装置1は、スライドベース20上に、複数(ここでは4つ)の棒状の支持部材3、4と、ウエイト5、6と、スペーサ7、8と、負荷部材9とを備えている。支持部材3、4は、摺動方向Sの一方側と他方側(図1では、右側と左側)に設けられた第1支持部材3と第2支持部材4からなり、スライドベース20の上面に固定されている。また、第1支持部材3と第2支持部材4は、2つずつ設けられて、それぞれ摺動方向Sと直交する方向に並べて配置されている。
【0019】
ウエイト5、6は、第1支持部材3に取り付けられる第1ウエイト5と、第2支持部材4に取り付けられる第2ウエイト6からなり、それぞれ支持部材3、4が挿入される貫通孔を有する。各ウエイト5、6は、所定質量のブロック状をなし、貫通孔内に支持部材3、4が挿入されてスライドベース20に取り付けられる。スペーサ7、8は、貫通孔が形成された所定厚さの板状部材からなり、貫通孔内に支持部材3、4が挿入されて、支持部材3、4を囲んで1つ又は複数段配置される。また、スペーサ7、8は、スライドベース20とウエイト5、6の間に配置され、数や積み上げ高さにより、ウエイト5、6の高さを変更して、ウエイト5、6の配置高さを調節する。ウエイト5、6は、スライドベース20との間にスペーサ7、8を挟んで、支持部材3、4により支持される。なお、ここでは、第1ウエイト5は、第2ウエイト6よりも大きさと質量が大きくなっている。
【0020】
負荷部材9は、棒状をなし、第1ウエイト5に形成された凹溝(図示せず)内に配置されて、スライドベース20の上面に固定されている。スライドベース20は、負荷部材9に負荷される荷重Fにより、摺動方向S(ここでは、水平方向)の各方向に移動して摺動面上を摺動する。負荷部材9には、連結部材31が任意の位置(高さ)に固定され、連結部材31により摺動抵抗測定手段30が連結されている。
【0021】
摺動抵抗測定手段30は、荷重測定装置32と、荷重測定装置32が接続された測定処理装置33とを有する。荷重測定装置32は、例えば、物を押す力と引く力を測定するプッシュプルゲージであり、荷重Fの測定部32Aが連結部材31に取り付けられている。荷重測定装置32は、測定部32Aにより、負荷部材9を摺動方向Sに押して又は引いて負荷部材9に荷重Fを負荷するときに、負荷部材9に負荷される荷重Fを測定する。スライドベース20は、負荷部材9を介して測定部32Aから負荷される荷重Fで摺動方向Sに摺動する。荷重測定装置32は、摺動時にスライドベース20に負荷される荷重Fを測定して、荷重Fの測定結果(測定データ)を測定処理装置33へ出力する。
【0022】
測定処理装置33は、例えばマイクロプロセッサや各種メモリを有するコンピュータを備え、荷重測定装置32の測定データ等に基づき、各種の演算処理を実行する。また、測定処理装置33は、スライドベース20の移動距離を測定するセンサ(図示せず)から移動距離の測定結果を受信する。測定処理装置33は、荷重Fと移動距離の測定結果に基づいて、荷重Fと移動距離を対応させて記憶するとともに、摺動中のスライドベース20の荷重変化を把握する。また、スライドベース20が移動を開始したときの荷重Fがスライドベース20の摺動抵抗である。測定処理装置33は、スライドベース20が移動を開始したときの荷重Fを判別して、この荷重Fを摺動抵抗として記憶する。これにより、摺動抵抗測定手段30は、スライドベース20の摺動抵抗を測定する。
【0023】
本実施形態では、スライドベース20を摺動方向Sの両方向に移動させて、各方向の摺動抵抗を摺動抵抗測定手段30により測定する。その際、スライドベース20を、Tブロック10が内部に入る方向(図1では左方向)に移動させて、上記した第1状態から第2状態まで摺動させる。これにより、環状に組み合わせた複数のセグメント93を開く動作(開動作という)に対応する摺動抵抗を測定する。また、スライドベース20を、Tブロック10が内部から出る方向(図1では右方向)に移動させて、上記した第2状態から第1状態まで摺動させる。これにより、複数のセグメント93を閉じて環状に組み合わせる動作(閉動作という)に対応する摺動抵抗を測定する。また、摺動モデル装置1は、スライドベース20の摺動条件を変更して、各条件でのスライドベース20の摺動抵抗を測定する。
【0024】
摺動条件は、スライドベース20の摺動抵抗に影響する因子に対応して、例えば、スライドベース20の質量Wや重心Gの位置(重心位置という)であり、それぞれ所望の条件に設定される。また、スライドベース20は、ベース部材2とTブロック10により、摺動方向Sのみに移動するように拘束された状態で、荷重Fが負荷される。この荷重Fや質量W等により、スライドベース20には、回転させるような力が発生して、モーメントが作用する。スライドベース20に作用するモーメントも、摺動抵抗に影響する因子であり、摺動条件として設定される。以下、摺動モデル装置1が備える摺動条件の変更手段により、摺動条件を変更する仕方について順に説明する。
【0025】
ウエイト5、6を交換する等して、各ウエイト5、6の質量をそれぞれ調節して、スライドベース20の質量Wを変更する。また、ウエイト5、6の各質量を調節して、スライドベース20の摺動方向Sの重心位置を変更する。スペーサ7、8により、ウエイト5、6の各高さを調節して、スライドベース20の高さ方向の重心位置を変更する。このように、摺動モデル装置1は、ウエイト5、6の質量と取り付け位置を調節して、スライドベース20の水平方向及び垂直方向の重心位置を変更し、ベース部材2の上面からスライドベース20の重心Gまでの高さ(重心高さという)を変更する。
【0026】
荷重測定装置32により負荷部材9に荷重Fを負荷するときに、連結部材31に対する荷重Fの方向(角度)を調節して、スライドベース20に負荷される荷重Fの垂直成分と水平成分を変更する。また、連結部材31を負荷部材9に固定する位置を変えて、ベース部材2の上面から荷重Fの力点までの高さ(荷重Fの力点高さという)を変更する。
【0027】
スライドベース20(図2参照)は、負荷部材9と支持部材3、4が固定された中央板22と、中央板22を挟む一対の側壁23と、側壁23を中央板22に固定する複数のボルト24とを有する。また、中央板22の側面には、ボルト24のネジ孔が、摺動方向Sに沿って複数形成されている。スライドベース20は、ボルト24を挿入する中央板22のネジ孔を変更することで、側壁23に対して中央板22が前後に変位する。中央板22を変位させて、スライドベース20上の負荷部材9の位置を調節し、荷重Fがスライドベース20に負荷される位置を摺動方向Sに変化させる。これに伴い、荷重Fの力点とスライドベース20の重心Gの水平距離(水平方向の距離)を変更する。
【0028】
摺動モデル装置1は、複数種類の摺動条件を適宜変更することで、スライドベース20に種々のモーメントを作用させる。スライドベース20は、ベース部材2とTブロック10の摺動面からモーメントに応じた反力を受けつつ各摺動面上を摺動する。摺動モデル装置1は、摺動条件を調節してスライドベース20に作用するモーメントを変更し、各条件でスライドベース20を摺動させて摺動抵抗を測定する。このように、摺動モデル装置1は、摺動時のスライドベース20に作用するモーメントを変更する手段(モーメント変更手段という)を備えている。
【0029】
モーメント変更手段は、上記した摺動条件の変更手段からなり、例えば、スライドベース20の重心位置を変更する手段、スライドベース20に負荷される荷重Fの方向を変更する手段、荷重Fの負荷位置を変更する手段を有する。また、モーメント変更手段は、スライドベース20に取り付けられて質量を付加するウエイト5、6を有し、ウエイト5、6により、スライドベース20の質量Wを変更する。更に、モーメント変更手段は、スライドベース20に対するウエイト5、6の取り付け位置を調節してスライドベース20の重心位置を変更する。摺動モデル装置1は、モーメント変更手段により、スライドベース20のモーメントが、実際のセグメント93に合わせて調整される。また、摺動モデル装置1は、ベース部材2とTブロック10の摺動面に摺動プレートを備え、摺動プレートを着脱することでも、スライドベース20の摺動条件とモーメントが変更される。
【0030】
図3は、ベース部材2とTブロック10を抜き出して示す図であり、図3Aは図1に対応する側面図、図3Bは図2に対応する正面図である。また、図3では、ベース部材2の上面付近を示している。
摺動プレート15は、図示のように、ベース部材2とTブロック10の各摺動面に、着脱可能に取り付けられている。ここでは、摺動プレート15は、ベース部材2の上面にTブロック10を挟んで配置されている。また、摺動プレート15は、Tブロック10の凸条11の上下面に配置されている。摺動プレート15は、スライドベース20の摺動抵抗を変化させるための板状部材であり、タイヤ加硫用金型90でも摺動面に取り付けられている。タイヤ加硫用金型90では、摺動プレート15は、低摩擦係数の合成樹脂材からなり、セグメント93の摺動抵抗を低減させてセグメント93の摺動特性を高めるために使用される。また、摺動プレート15は、加硫条件に耐えるため、耐荷重性、耐熱性、及び、耐スチーム性も要求されており、高性能で比較的高価な材料からなる。
【0031】
摺動プレート15は、各摺動面に着脱してスライドベース20が摺動する摺動面を変更する。スライドベース20は、摺動プレート15が取り外された摺動面との間に、全体に亘って隙間(クリアランス)ができるため、その摺動面とは接触せずに、摺動プレート15の有る摺動面のみに接触する。摺動モデル装置1は、摺動プレート15を着脱することで、クリアランスの有無と、スライドベース20の摺動面が変更される。これに伴い、スライドベース20が摺動する摺動面が、ベース部材2とTブロック10のいずれか一方又は両方の摺動面に変更される。スライドベース20は、接触する摺動面から反力を受けつつ摺動面上を摺動する。また、摺動面の変更により、ベース部材2の上面から、反力の支点となる摺動面までの高さが変更されて、スライドベース20の摺動条件も変更される。
【0032】
以上説明したように、摺動モデル装置1は、スライドベース20(セグメントモデル)を、Tブロック10(ガイド部材モデル)により案内して摺動面上を摺動させて、スライドベース20の摺動抵抗を測定する。これにより、実際のセグメント93の摺動条件と同様の摺動条件で、スライドベース20を摺動させて、その摺動抵抗を測定する。そのため、実際のセグメント93で摺動抵抗を測定することなく、スライドベース20の摺動抵抗の測定結果から、セグメント93の摺動抵抗を推定することができる。また、摺動モデル装置1は、実機よりも小さくて取り扱い易く、かつ、測定を実施する環境も限定されないため、摺動抵抗を測定するときの作業性を改善できる。同時に、測定の手間や時間を削減して、測定に要するコストも低減できる。更に、スライドベース20の摺動条件も比較的簡単に変更できるため、種々の摺動条件における摺動抵抗を簡便に測定できる。その結果、種々の条件での摺動抵抗を比較して、セグメント93の摺動特性を模擬的に評価できる。
【0033】
従って、本実施形態によれば、タイヤ加硫用金型90の摺動モデル装置1により、スライドベース20の摺動抵抗を種々の条件で簡便に測定でき、タイヤ加硫用金型90に設けるセグメント93の摺動特性を容易かつ精度よく評価することができる。また、摺動抵抗を算出するときでも、算出の条件に合わせた条件における摺動抵抗を取得できるため、摺動モデル装置1は、算出値(予測値)の検証にも有効に活用できる。併せて、タイヤ加硫用金型90を設計する段階で、摺動特性の評価や検証の結果を活用することで、セグメント93の摺動特性を効果的に改良できる。
【0034】
各摺動面に摺動プレート15を設けることで、設定すべき摺動条件に合わせて、スライドベース20が摺動する摺動面を容易に変更できる。また、上記したモーメント変更手段により、スライドベース20に作用するモーメントを変更できるため、実際のセグメント93の摺動条件に合わせて、スライドベース20の摺動条件を調整できる。その際、ウエイト5、6によりスライドベース20の質量Wや重心位置を変更することで、様々な摺動条件を容易に再現できる。摺動抵抗の測定時には、荷重測定装置32により、スライドベース20に負荷される荷重Fを測定することで、摺動抵抗を正確かつ容易に測定できる。
【0035】
次に、スライドベース20に作用する反力について詳細に説明する。
図4は、スライドベース20に作用する反力を示す側面図であり、スライドベース20がベース部材2の摺動面から受ける反力を模式的に示している。
スライドベース20は、図示のように、Tブロック10と接する角部、又は、Tブロック10の角部と接する部分を支点K(KA、KB)として、反力R(RA、RB)を受ける。そのため、スライドベース20を、図4Aの位置から図4Bの位置まで移動させると、スライドベース20の移動に合わせて、支点KA、KBも次第に移動する。これに伴い、支点KA、KBとスライドベース20の重心Gの水平距離が変化する。
【0036】
また、スライドベース20の移動(摺動)時には、スライドベース20にモーメントが発生する。このモーメントにより、移動方向前方側の支点KAで、スライドベース20がベース部材2の摺動面に押し付けられる。その結果、スライドベース20が摺動面から通常の反力(正の反力という)を受けて、支点KAのスライドベース20に反力RAが作用する。これに対し、移動方向後方側の支点KBでは、スライドベース20を摺動面から浮き上がらせるモーメントに対する反力RBが発生する。その際、スライドベース20は、垂直方向に拘束されているため、垂直方向には移動せずに、摺動面に接触しつつ水平方向に摺動する。そのため、スライドベース20は、支点KBで、摺動面から浮き上がらずに、見かけ上、押し付け時の反力RAと逆向きの反力(負の反力という)が発生して反力RBが作用する。スライドベース20は、摺動面(図3参照)のそれぞれにおいて、同様の支点Kに各方向の反力Rが作用する。
【0037】
図5は、スライドベース20とセグメント93の支点Kの例を示す側面図である。また、図5A1、B1、C1は、スライドベース20の支点Kであり、図5A2、B2、C2は、それぞれ図5A1、B1、C1に示すスライドベース20に対応した状態のセグメント93の支点Kである。
スライドベース20は、図示のように、接触する摺動面と摺動の方向に応じて、各摺動面の所定位置が支点Kとなる。スライドベース20の各支点Kは、摺動プレート15の着脱により変化するとともに、スライドベース20の移動に伴い、スライドベース20内で次第に変化する。また、各支点Kは、ベース部材2の上面からの高さ(支点Kの高さという)が、摺動面の位置に応じた高さになる。更に、支点Kは、スライドベース20の摺動中に、対応する支点K間の距離が変化する。スライドベース20は、以上の支点Kと反力Rに関する摺動条件でもモーメントが変更されて、異なる摺動抵抗が測定される。
【0038】
これに対し、セグメント93は、タイヤ加硫用金型90内で、スライドベース20と同様の位置が支点Kとなる。また、セグメント93は、スライドベース20と同様に、支点Kに関連する摺動条件で摺動抵抗が変化する。このように、摺動モデル装置1は、スライドベース20により、セグメント93の摺動を模擬的に再現しており、セグメント93の摺動条件に対応した条件で摺動抵抗を測定できる。
【0039】
ここで、スライドベース20の摺動抵抗は、その質量Wに対する摩擦抵抗のみではなく、荷重Fにより複数の摺動面に発生するモーメントと、モーメントによる反力Rに対する摺動抵抗を考慮することで、より正確に算出できる。以下、この摺動抵抗の算出について、図4に示すスライドベース20を例に説明する。
【0040】
図6は、荷重Fと摺動抵抗Pの関係を示す図であり、横軸がスライドベース20に負荷する荷重F、縦軸がスライドベース20の摺動抵抗Pである。また、図7は、摺動抵抗Pの算出について説明するための図である。
【0041】
従来の摺動抵抗Pの考え方では、摺動抵抗Pの大きさは、スライドベース20の質量Wと、スライドベース20と摺動面の摩擦係数μのみで決まる。ところが、荷重F等によりスライドベース20にモーメントが発生して、スライドベース20に反力RA、RBが作用するときには、摺動抵抗Pは、反力RA、RBに対して発生する。反力RA、RBの総和は、スライドベース20が変形しない限り、荷重Fや質量Wとつり合う。ところが、摺動抵抗Pは、反力RA、RBの絶対値から求まる。そのため、支点K(ここではKB)の反力RBの向きが逆向き(負の反力)であるときには、反力RA、RBの総和は変わらずに、反力の絶対値の総和が大きくなり、摺動抵抗Pも大きくなる。また、負の反力RBが大きくなる方向にモーメントが発生するときには、より摺動抵抗Pが大きくなる。
【0042】
具体的には、図6に示すように、スライドベース20は、荷重Fが摺動抵抗Pに等しくなると動いて摺動を開始する。摩擦係数が小さい(μ1)に対して、摩擦係数が大きくなり(μ2)、スライドベース20の摺動開始までに負の反力RBが発生するときには、スライドベース20が動き始める荷重Fが大きくなる。そのため、摺動抵抗P1が、従来の考え方で求まる摺動抵抗P0よりも大きくなる。また、負の反力RBが大きくなると、スライドベース20が動き始める荷重Fと、摺動抵抗P2も、より大きくなる。摩擦係数が更に大きくなると(μ3)、スライドベース20が動き始める荷重Fと摺動抵抗Pも一層大きくなる。なお、セグメント93に負荷できる荷重は、アクチュエータの性能や加硫機の最高締め付け力により機械的に制約されて、所定の最高荷重以下に制限される。そのため、この最高荷重に対応して、スライドベース20に負荷できる荷重Fも最高荷重F2以下に制限されて、荷重F2よりも大きい荷重Fは負荷できず、摩擦係数がμ3のときには、スライドベース20を摺動させられない。ただし、摺動抵抗Pの算出自体は可能である。
【0043】
次に、摺動抵抗Pを算出する式について説明する。荷重Fの垂直成分とスライドベース20の質量Wの和は、反力RA、RBの総和になる。ただし、ここでは、荷重Fを水平方向に負荷するため、荷重Fの垂直成分は零になり、図7に示すように、スライドベース20の質量Wが、反力RA、RBの総和と等しくなる(W=RA+RB)(式1)。スライドベース20の摺動抵抗Pは、反力RA、RBの絶対値の総和と摩擦係数μとを掛け合わせて算出される(P=μ(|RA|+|RB|))(式2)。また、反力RA、RBは、モーメントのつり合いの式から算出される。
反力RA、RBを算出する式は、上記した摺動条件に対応した項目からなる次の算出式A、Bになる。
【0044】
【数1】

【0045】
スライドベース20の摺動抵抗Pは、算出式A、Bにより求めた反力RA、RBと摩擦係数μから、式2により算出される。その際、反力RA、RBは、算出式A、Bの各項目に、摺動モデル装置1における数値を代入して算出する。従って、摺動抵抗Pは、摺動モデル装置1におけるスライドベース20の摺動条件がパラメータになっており、種々の摺動条件で算出される。このように算出した摺動抵抗Pは、算出時の条件に合わせてスライドベース20の摺動条件を設定し、摺動モデル装置1によりスライドベース20の摺動抵抗Pを測定して、それらを比較することで検証できる。
【0046】
(摺動抵抗Pの検証試験)
次に、スライドベース20の摺動抵抗Pを検証した試験(1)〜(3)について説明する。
試験(1)では、算出式A、Bと式2により、スライドベース20における上記した閉動作時と開動作時の摺動抵抗Pを算出した。算出式A、Bには、閉動作と開動作の諸条件から各項目の数値を求めて代入した。また、摺動モデル装置1により、閉動作と開動作の諸条件に合わせてスライドベース20の摺動条件を設定し、閉動作と開動作に対応するスライドベース20の摺動抵抗Pを測定した。
表1に、摺動抵抗Pの算出値と測定値を示す。
【0047】
【表1】

【0048】
閉動作時の摺動抵抗Pは、算出値が43.6N(ニュートン)、測定値が34Nとなった。また、開動作時の摺動抵抗Pは、算出値が150.4Nとなった。これに対し、摺動モデル装置1では、開動作時に、スライドベース20が、いくら荷重Fを加えてもロックして動かず、摺動抵抗Pを測定できなかった。このように、摺動抵抗Pは、算出値が小さいときには測定値も小さくなり、算出値が大きいときには測定値も大きくなった。この結果より、算出値と測定値は、相関して同様の傾向で変化することが分かった。
【0049】
試験(2)では、Tブロック10の上面とスライドベース20の間にクリアランスを設けた条件で、試験(1)と同様に、閉動作時と開動作時の摺動抵抗Pを算出した。また、Tブロック10(図3参照)の両凸条11の上面から摺動プレート15を取り外し、凸条11とスライドベース20の間にクリアランスを設けて、摺動モデル装置1で、スライドベース20の摺動抵抗Pを測定した。
表2に、摺動抵抗Pの算出値と測定値を示す。
【0050】
【表2】

【0051】
閉動作時の摺動抵抗Pは、算出値が29.9N、測定値が25Nとなった。また、開動作時の摺動抵抗Pは、算出値が29.9N、測定値が20Nとなった。この条件でも、摺動抵抗Pは、算出値と測定値が相関していた。ただし、摺動抵抗Pの算出値と測定値は、全て、試験(1)の各値よりも小さくなった。これより、Tブロック10の上面とスライドベース20の間にクリアランスを設けると、摺動抵抗Pを小さくできることが分かった。タイヤ加硫用金型90では、摺動プレート15を取り外すことで、セグメント93の摺動抵抗Pを小さくして、その摺動特性を改良できるとともに、コストダウンを図れる。
【0052】
試験(3)では、実際のタイヤ加硫用金型90(図8参照)を用いて、Tブロック92の上面とセグメント93の間にクリアランスが無いときと有るときの2条件で、セグメント93の摺動抵抗Pを測定した。測定時には、測定ロッドをセグメント93の背面に水平に取り付け、測定ロッドと引張装置(例えば、手動式のウインチ)をワイヤで繋いだ。また、測定ロッドとワイヤの間に、荷重を測定するロードセルを設置した。引張装置により、測定ロッドを引っ張ることでセグメント93を移動させ、ロードセルにより荷重を測定した。これにより、セグメント93の開動作時における摺動抵抗Pを測定した。セグメント93の摺動条件は、クリアランスの有無以外は同じである。
表3に、摺動抵抗Pの測定結果を示す。
【0053】
【表3】

【0054】
セグメント93の摺動抵抗Pは、クリアランスが無いときで1.4kN、クリアランスが有るときで0.9kNであった。このように、セグメント93の摺動抵抗Pは、試験(1)、(2)の結果と同様に、クリアランスの有無で変化して、クリアランスが有るときのほうが無いときよりも小さくなることが分かった。
【0055】
以上の結果から、摺動モデル装置1により、スライドベース20の摺動抵抗Pの算出値を検証して、その妥当性を判断できることが分かった。また、セグメント93の摺動特性を、摺動モデル装置1による摺動抵抗Pの測定と、摺動抵抗Pの算出とにより、容易かつ精度よく評価できることが分かった。
【符号の説明】
【0056】
1・・・摺動モデル装置、2・・・ベース部材、3・・・第1支持部材、4・・・第2支持部材、5・・・第1ウエイト、6・・・第2ウエイト、7・・・スペーサ、8・・・スペーサ、9・・・負荷部材、10・・・Tブロック、11・・・凸条、15・・・摺動プレート、20・・・スライドベース、21・・・Tスロット、22・・・中央板、23・・・側壁、24・・・ボルト、30・・・摺動抵抗測定手段、31・・・連結部材、32・・・荷重測定装置、32A・・・測定部、33・・・測定処理装置、90・・・タイヤ加硫用金型、91・・・下型、92・・・Tブロック、93・・・セグメント、F・・・荷重、G・・・重心、K・・・支点、R・・・反力、W・・・質量。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ外周面を成形するセグメントがガイド部材に案内されて摺動するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置であって、
ベース部材と、
ベース部材に固定されたガイド部材モデルと、
ベース部材とガイド部材モデルに設けられた摺動面と、
ガイド部材モデルにより案内されて摺動面上を摺動するセグメントモデルと、
セグメントモデルの摺動抵抗を測定する摺動抵抗測定手段と、
を備えたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置において、
各摺動面に着脱してセグメントモデルが摺動する摺動面を変更する摺動プレートを備えたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載されたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置において、
摺動時のセグメントモデルに作用するモーメントを変更するモーメント変更手段を備えたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置において、
モーメント変更手段が、セグメントモデルに取り付けられてセグメントモデルの質量を変更するウエイトを有するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置。
【請求項5】
請求項4に記載されたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置において、
モーメント変更手段が、セグメントモデルに対するウエイトの取り付け位置を調節してセグメントモデルの重心位置を変更する手段を有するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれかに記載されたタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置において、
摺動抵抗測定手段が、摺動時にセグメントモデルに負荷される荷重を測定する荷重測定装置を有するタイヤ加硫用金型の摺動モデル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−96462(P2012−96462A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−246424(P2010−246424)
【出願日】平成22年11月2日(2010.11.2)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】