説明

タイル剥落防止連結材

【課題】 タイルの貼り替え工法では、既存タイルを剥がすこととなり、その作業に伴うタイルの落下の危険性が逆に大きくなる。また、古いタイルを撤去し貼り直しても、タイルが浮くに至る因子迄が消滅するわけではないため、その信憑性が懸念され、実用的ではない。
【解決手段】 建築物の外壁等のタイル壁においてタイル2を連結している目地交点の目地材に切り込み溝cを入れタイル2の木口部分を相当長さ露出させ、さらに、躯体コンクリート層に25mm以上到達する径5.5mm程度の孔aを穿設し、前記孔a及び削り込み溝cに接着剤dを充填した後、該部に装填できる平板からなる頭部3が切り抜かれた貫通孔8を形成した略T字型連結材の軸体4を挿入し、合わせて前記連結材頭部3において隣接するタイル2同士を接着剤の充填で結束させてタイルの剥落を防止するタイル剥落防止連結材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイルの剥落防止連結材に関し、特にコンクリート造りのタイル貼り建築物のタイル剥落事故防止に寄与する剥落防止連結材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物の外壁等に貼られているタイルは、タイル圧着用セメントモルタルで貼られている。経年でのタイルの浮きは温度変化に起因する収縮が大きく作用しており、そのまま放置しておくといずれは剥がれ落ち、物損事故はもとより、人命に係わる大事故となる。このような場合の対処方法として、イ.タイルの貼り替え方法、ロ.上から止め具で押える方法、ハ.目地部からの接着剤注入、ニ.ピンネット工法(例えば、特許文献1参照)が存在している。
【特許文献1】特開2001−323638号公報(特許請求の範囲の欄、発明の詳細な説明の欄の{実施例}の段落{0018}〜{0023}、図1、図2を参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記従来技術において、いずれも下記のような問題点がある。
イ.タイルの貼り替え工法
既存タイルを剥がすこととなり、その作業に伴うタイルの落下の危険性が逆に大きくなる。また、古いタイルを撤去し貼り直しても、タイルが浮くに至る因子迄が消滅するわけではないため、その信憑性が懸念され、実用的ではない。
ロ.上から止め具で押える方法
タイルの落下を防止する為にタイルの上から金具等で押える画鋲式の工法であるがこのような方法は、ピンニング孔の穴あけに技術を要しタイルを破壊するおそれがある。また、補修の痕跡が生じる問題がある。この金具では、タイルの目地補強及びモルタル剥落の防止の点では確実性に欠点がある。
ハ.目地部からの接着剤注入
接着剤を目地部からタイル裏面に注入し、接着させる方法であるが、目地部からタイル裏面にはタイルの裏足が障害となり確実に接着剤は注入できない。また浮き界面は健全ではないので接着を伴わない注入になることが多く安定した性能を得ることは出来ない。
ニ.ピンネット工法
小型タイルの落下防止に採用され始めた工法だが小型タイルの質感が失せてしまう。
また大型タイルには適用しない理論である。また、ピンの形状としては、さらに改良する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するための本発明の第1発明は、請求項1に記載された通りのタイル剥落防止連結材であり、次のようなものである。
建築物の外壁等のタイル壁においてタイルを連結している目地交点の目地材に切り込み溝を入れタイル4枚または3枚のタイルの木口部分を相当長さ露出させ、さらに、躯体コンクリート層に25mm以上到達する径5.5mm程度の孔を穿設し、前記孔及び削り込み溝に接着剤を充填した後、該部に装填できる平板からなる頭部が切り抜かれた貫通孔を形成した略T字型連結材の軸体を挿入し、合わせて前記連結材頭部において隣接するタイル同士を接着剤の充填で結束させてタイルの剥落を防止する構成である。
【発明の効果】
【0005】
本発明に係るタイル剥落防止連結材は、上記説明のような構成を有するので、以下に記載する効果を奏する。
このように本発明のタイル剥落防止連結材では、タイルの目地交点にピンニング孔を穿設し、孔を中心にタイル目地材を撤去してタイル木口部分を露出させ、この部分に接着剤を充填し、この部位に平板からなる頭部が切り抜かれた貫通孔を形成した略T字型の連結材の軸体を孔に、頭部を削り込み溝に挿入し、結束させるものである。
この結果
(1)はつり、撤去作業等危険作業を伴わず、また、それらの作業によるタイルや下地モルタルの落下等第3者への安全をおびやかすことなく、タイルの落下対策をすることができる。
(2)従来の浮きタイルに対する補修は概して浮き界面での接着力による考え方であるが、当タイル剥落防止連結材では平板からなる略T字型のタイル剥落防止連結材の頭部が切り抜かれて貫通孔を形成してあるので、この貫通孔に、タイル間の目地部に形成した孔と溝に充填した接着剤が廻り込んで浸入するので、確実に、強固にタイル同士の連結を図ってそれをタイル剥落防止連結材の軸体によって躯体に結束させるので一般にいわれている温度変化に起因するタイル落下現象は回避することができる。
(3)タイル剥落防止連結材の貫通孔にステンレス線を挿入して、新たに充填する目地モルタルとステンレス線及びタイルとによって一体化が図られるので、タイル剥落防止連結材の本数を少なくできる上に、タイルをより確実に、強固に保持することができる。
(4)タイル剥落防止連結材の頭部に切り抜かれた貫通孔に挿通したステンレス線によって、タイル剥落防止連結材の打ち込み間隔をタイル3〜4枚に限定せず、大幅に間隔を空けて打ち込めば良いという利点が生じる。
(5)浮きタイルの落下防止対策に伴う補修の痕跡つまり、止め具等の異物が壁面上に生じないので美観的、不具合もない。
(6)撤去作業以外、大きな作業を伴わない軽作業の為、仮設足場を使わずに、ゴンドラ作業でも可能となり、工期短縮、経費節減に貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
建築物の外壁等のタイル壁においてタイルを連結している目地交点、つまり、いも目地ではタイル4枚、うま目地ではタイル3枚の交点の目地材に切り込み溝を入れタイル4枚または3枚のタイルの木口部分を相当長さ露出させ、さらに、躯体コンクリート層に25mm以上到達する径5.5mm程度の孔を穿設し、前記孔及び削り込み溝に接着剤を充填した後、該部に装填できる平板からなる頭部が切り抜かれた貫通孔を形成した略T字型連結材の軸体を挿入し、合わせて前記連結材頭部において、新たに充填した目地モルタルと隣接するタイル同士を接着剤の充填で結束させてタイルの剥落を防止するタイル剥落防止連結材。
【実施例】
【0007】
図1はタイル剥落防止連結材の斜視図、図2は本発明のタイル剥落防止連結材を目地部に形成した孔及び溝部に埋め込んだ状態の正面図、図3は図2のC−C線断面図である。
【0008】
本発明は、下記の第1工程ないし第5工程から浮きタイルの落下防止を行うためのタイル剥落防止連結材である。
第1工程〜タイル壁面を対象にタイル剥落防止連結材1の設置箇所をマーキングする。第2工程〜マーキング点の中心に径5.5mm、深さとしてコンクリート躯体に25mm以上届く孔aをあける。孔aを中心に長さ8cm程度の横一文字状の溝cを穿設して、タイル2の木口面bを露出させ、タイル剥落防止連結材頭部3で隣接するタイル2を掛架できるような形状箇所を構成する。第3工程〜ピンニング用接着剤を上記、構成した箇所に充填する。第4工程〜タイル剥落防止連結材1の軸体4をピンニング孔aに挿入し、タイル剥落防止連結材頭部3が位置する一文字溝の空隙部分を当該接着剤で埋め戻しをし、タイル2同士を掛架させる。第5工程〜上記接着剤の硬化後、既存目地材の色に調色した目地モルタル材にSBR系セメント混和剤固形分10%物で混練し、タイル剥落防止連結材1設置箇所の修復をするものである。
【0009】
本発明の具体的な実施例として説明すると、本発明のタイル剥落防止連結材1によって処理される外壁の構成は、5はコンクリート躯体、6はモルタル層、7は圧着モルタル・目地モルタルをそれぞれ示す。
【0010】
図1に示すように、タイル剥落防止連結材頭部3に切り抜いた貫通孔8を形成したタイル剥落防止連結材1をタイル2間に形成されている目地交点にタイル剥落防止連結材1の軸体4を挿入する孔aを穿設し、目地部に一文字溝cを形成し、この孔aと溝cに接着剤dを充填した後、孔a、溝cに装填できる平板からなる頭部3が切り抜かれた貫通孔8を形成した略T字型の連結材の軸体4を挿入して、貫通孔8に接着剤dを廻り込ませて充填でき、しかも後でステンレス線9を貫通孔8に挿通するので、隣接するタイル2同士を接着剤dの結束を強固にしてタイル2の剥落を防止できるものである。なお、軸体4に凹凸部を形成すれば、より連結力が増すものである。
このように本発明のタイル剥落防止連結材1は、タイル2の剥落を防止すると同時にモルタル層6に対する定着力の向上にも資するものである。
【0011】
さらに、大型タイルが深目地の場合、目地モルタルがほとんど充填されず、タイル2が落下し易い状況にあるが、目地部に目地モルタルを充填すれば、タイル面の板状性は向上するが、剥落の危険性は回避できない。
これらを全て解決して、より安全性を高めるには、目地部にタイル剥落防止連結材1を一定間隔で打ち込み、従来のものはガードピンの頸部にステンレス線9を巻きつけて目地部と一体化させることは行ってきたが、ステンレス線9を巻きつけることは手間を要し、大変作業性が悪かった。
この問題点を解決した本発明は連結材頭部3に形成されている貫通孔8にステンレス線9を挿通するだけで良い。
よって、本発明のタイル剥落防止連結材1を採用することで、ステンレス線9は狭い目地部でも頭部の貫通孔8に容易に通すことができ、作業効率の向上とステンレス線9の傷防止になる。
また、モルタル剥落防止箇所に使用する場合、ステンレス製アンカーピンを打ち込み、ステンレス製ラスを張るか、溶接金網、ネット等を取り付け、安全性を確保した上でモルタルを塗り付けているが、本発明のタイル剥落防止連結材1の頭部を浮かせた状態で使用すれば、頭部の貫通孔8にステンレス線9を挿通して、貫通孔8部分とステンレス線9を介して、モルタルが連結されてモルタルの剥落が防止できるものである。
【0012】
そこで、本発明のタイル剥落防止連結材の連結に関する工程順を説明する。
第1工程〜例えば、浮きタイル2Aのみの補修ではタイル壁面を調査して、浮きタイル2Aと健全タイル2Bを選別し、マーキングする。また、全壁面補修では、うま目地ではタイル3枚、いも目地ではタイル4枚の交点にそれぞれマーキングし、タイル剥落防止連結材1の設置箇所を設定する。
第2工程〜タイル剥落防止連結材1の設置箇所、つまりタイル目地交点に径5.5mm程度、深さコンクリート躯体5に25mm以上到達する孔aをドリルで穿設する。
第3工程〜上記孔aを中心に長さ8cm程度にダイヤモンドカッターなどで目地モルタルを撤去しタイルの木口面bを露出させる。
第4工程〜タイル剥落防止連結材1の設置箇所に接着剤を注入し、タイル剥落防止連結材1を挿入すると共にタイル剥落防止連結材頭部3で隣接しているタイル木口面bで掛架すべく接着剤で埋め戻す。
第5工程〜上記接着剤が硬化後、既存目地材に合わせた目地モルタル材にSBR系セメント混和剤固形分10%物で混練した材料で新型ガードピン設置箇所つまり目地交点を修復して作業は終了する。
なお、このタイル剥落防止連結材1については、第1図に示されている如くタイル剥落防止連結材頭部3が切り抜かれた貫通孔8を形成しているのでタイル木口部分同士が直接、接着するのでより一層、タイル間の連結が得られることになる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
各種タイル貼りの既存建築物の既存タイルの落下防止のために利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明であるタイルの落下防止を司るタイル剥落防止連結材の斜視図である。
【図2】本発明のタイル剥落防止連結材を目地部に形成した孔及び溝部に埋め込んだ状態の正面図である。
【図3】図2におけるC−C線断面図である。
【符号の説明】
【0015】
1・・・・タイル剥落防止連結材 2・・・・タイル
3・・・・タイル剥落防止連結材頭部 4・・・・軸体
5・・・・コンクリート躯体 6・・・・モルタル層
7・・・・圧着モルタル 8・・・・貫通孔
9・・・・ステンレス線
a・・・・孔 b・・・・タイル木口面
c・・・・溝 d・・・・接着剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物の外壁等のタイル壁においてタイルを連結している目地交点の目地材に切り込み溝を入れタイルの木口部分を相当長さ露出させ、さらに、躯体コンクリート層に25mm以上到達する径5.5mm程度の孔を穿設し、前記孔及び削り込み溝に接着剤を充填した後、該部に装填できる平板からなる頭部が切り抜かれた貫通孔を形成した略T字型連結材の軸体を挿入し、合わせて前記連結材頭部において隣接するタイル同士を接着剤の充填で結束させてタイルの剥落を防止することを特徴とするタイル剥落防止連結材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−92331(P2007−92331A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−280731(P2005−280731)
【出願日】平成17年9月27日(2005.9.27)
【出願人】(395002308)タケモル工業株式会社 (2)
【Fターム(参考)】