説明

タッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体及び耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネル

【課題】オリゴマー析出、ヘイズ増加がなく、筆記耐久性を有し、また、ガラス基体タッチパネルの代替品として遜色のない耐湿熱性等のガスバリア性を備えた白化防止耐湿熱性透明導電積層体及び耐湿熱性透明導電プラスチックを用いた透明導電積層プラスチックタッチパネルを提供する。
【解決手段】透明ポリエステル基材又は基体1の両面に、オリゴマーの析出を防止する層2としてプラズマCVD法による炭素含有酸化珪素蒸着膜を設け、白化防止プラスチック基材又は基体としたものを、可動電極は炭素含有酸化珪素蒸着膜の上に少なくともゾル−ゲル法により形成したガスバリア性塗膜層4を設け、さらに透明電極層を設けた耐湿熱性透明導電積層体であって、固定電極は透明導電基体に透明電極膜6とドットスペーサー7を設けた透明導電基体であり、可動電極及び固定電極をドットスペーサーを介して積層して透明導電積層プラスチックタッチパネルとしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、LCD、PDP、ナビゲーションシステムなどの表示装置、あるいは携帯電話、携帯ゲーム機などのモバイル機器の表示装置に用いられるタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体及び耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タッチパネルは、LCD、PDP、ナビゲーションシステムなどの表示装置、あるいは携帯電話、携帯ゲーム機などのモバイル機器の表示装置上に配置されて、表示を見ながら指やペンなどで押さえることにより指示・命令を行える、あるいは直接文字を書くことでデータを入力できるため、簡単確実に入力できる手段として広く使用されている。
一般に、タッチパネルは、透明導電ガラス板とポリエチレン、ポリエステルフィルムなどのプラスチックフィルムに電極層として透明導電層を配した透明導電積層フィルムとをドットスペーサーを介し、対向して設けた構造のものが使用されている。
【0003】
タッチパネルは、視覚的操作で操作が容易であり、今後さらに多くの分野において使用されるものと見込まれ、その使用環境により乱暴な取り扱いを受けるため、機械的な強度、極寒から高温高湿までの環境耐久特性、ペン筆記耐久性などが求められるなど多様化の一途をたどるものと考えられる。
しかし、従来、基材又は基体にガラス板が用いられているため、機械的強度に難点があり、また重量が重くなり、破損による安全性で問題があり、タッチパネルには、機械的強度、耐衝撃性の向上、安全性の向上及び軽量化の実現が求められるとともに、耐久性や環境耐久特性が要求されている。
また、タッチパネルの透明導電積層フィルムに対する使用環境下での、耐摩耗性、筆記耐久性、透明性の維持・向上、鮮明性などが要求されている。
【0004】
ガラス基体に代えてプラスチック基体を用いることで、タッチパネルの軽量化、耐衝撃性の向上、破損時の飛散防止など安全性の向上が実現できる。
また、透明導電積層フィルムについては、各種プラスチックフィルムを用いることができる。特に、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、耐薬品性などに優れた二軸延伸ポリエステルフィルムが広く用いられている。しかし、フィルム基材又は基体に通常使用されるポリエステルフィルムは、表面に傷が付き易いため、フィルム基材又は基体の表面にハードコート層を設ける必要がある。
また、フィルム基材又は基体とハードコート層との間には接着のための接着層を、そしてフィルム基材又は基体の背面にはブロッキング防止のためあるいは、他のフィルム又は積層膜との接着性を付与するための易接着層を設けることが多く、このような多層化によりフィルムの総厚が厚くなり、フィルム全体の光学的特性が低下するという問題があった。
【0005】
さらに、前面パネルを有する製品を高温環境下で使用する場合、例えば、カーナビゲーション用に従来のタッチパネルを用いた場合でも、車中は70〜80℃の高温環境下となるため、タッチパネルに用いている透明導電積層フィルムがオリゴマー析出により白濁・白化する問題があった。また、ポリエステルフィルムの寸法を安定化させる技術としては、アニール処理による寸法安定性の向上が用いられており、アニール処理した場合、フィルム表面にオリゴマーが析出し、フィルムの外観が白濁・白化することが問題となった。
【0006】
従来、タッチパネルに用いている透明導電フィルムは多層化によりフィルムの総厚が厚くなり、フィルム全体の光学的特性が低下するという問題があった(特許文献1)。特に、ガラス基体のプラスチック化はタッチパネル中のプラスチック層の膜厚、多層化などで光学的特性の低下の要因となるだけでなく、プラスチック材料であるが故のオリゴマーの析出による白濁・白化、多層化による層間剥離、光学的特性の低下など大きな問題となる。
【0007】
ポリエステルフィルム加熱時のオリゴマー析出の抑制を試みた例としては、第一に材料となるポリエステルやその重合方法の改良(特許文献2、3)、例えば、固相重合により原料中に含まれるオリゴマーの低減をはかる方法の場合は、ポリマーの重合度が上がるため、押し出し機への負荷が大きくなり、製造コストが上がる、重合時に発生した高粘度のポリエステル粉によりフィルム内部に輝点欠点が生じるなどの問題があった。第二には、コーティング等により表面にオリゴマーブロック層又は積層層などを設けるフィルムの多層化する方法があるが、フィルムの多層化は総厚が厚くなり、フィルム全体の光学的特性は低下する。また、コーティングの改良によりオリゴマー析出を防止する場合は、オリゴマーの析出を防止することに主眼をおいたコーティング剤の材料選定を行うためオリゴマーの析出そのものを抑制するには不十分であり、次工程で接着可能な他の機能性樹脂やフィルムが制限される問題であった(特許文献4、5)。
また、ハードコート層や易接着層を物理蒸着法によりポリエステルフィルム基材又は基体等に積層した場合、ポリエステルフィルム基材又は基体等との密着性が弱いためオリゴマーの析出を抑制するには不十分であった。
【0008】
さらに、有機材料を用いて易接着層を形成した場合、有機物が溶出することによるフィルムの白濁・白化もヘイズ増加の原因となる。
また、フィルムの白濁・白化が起こる上記のようなフィルム使用条件においては、フィルムの収縮も同時に発生し、このことも同時に問題となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−253511号公報
【特許文献2】特開2007−136987号公報
【特許文献3】特開2006−212815号公報
【特許文献4】特開2000−289168号公報
【特許文献5】特開2000−272070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、タッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体及び耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルに関するものであり、詳細には、プラスチック基材又は基体の両表面にプラスチック基材又は基体中のオリゴマーが基材又は基体表面へ移行し析出することにより白濁・白化することを防止するための層(以下、「オリゴマーブロック層」という)を含み、一方の表面には、さらにガスバリア性層、電極層を少なくとも積層したタッチパネルの可動電極を構成する白化防止耐湿熱性透明導電積層体と、プラスチック基材又は基体を用いその両表面に白濁・白化を防止するための層を含み、一方の表面にさらに少なくとも電極層、ドットスペーサー層を積層した固定電極を構成する導電積層体を、各積層体の電極層を配した側同士を積層することにより、高温高湿条件下でもオリゴマーの析出が生せず、白濁・白化しない、耐湿熱性及び耐摩耗性、耐久性に優れたプラスチックタッチパネルに関する。
【0011】
タッチパネルは、軽量化や耐衝撃性などの理由でガラスから可撓性を有するプラスチックフィルム化が進んでいる。反面、導電ガラス板のプラスチック化により、基材又は基体がプラスチックであるがゆえに、ガラスと比較して光学的特性、ガスバリア性などの化学的な特性の低下、経時的劣化などの問題が生じる。
【0012】
タッチパネルの前面パネルである透明導電積層フィルムにおいては、二軸延伸ポリエステルフィルムが透明性、寸法安定性、機械的特性、耐熱性、電気的特性、耐薬品性などに優れていることから、ポリエステルフィルムが使用されているが、フィルム表面が傷付き易いことから、外観や光学的特性が損なわれやすく、タッチパネルの耐摩耗性、外観、光学的特性を維持、向上するため表面にハードコート層が設けられ、また、ブロッキング防止のため、易接着層が設けられているなど、透明導電積層フィルムは多層化する傾向があり、ヘイズ値が大きくなる方向にある。
【0013】
また、ポリエステル基材又は基体には、高温高湿下で表面にオリゴマーが析出し、白濁・白化するという性質があり、使用できる環境の範囲が限られてくる。
一方で、延伸フィルムの寸法を安定化させる技術としては、アニール処理による寸法安定性の向上が図られる。しかし、アニール処理した場合、ポリエステル基材又は基体表面にオリゴマーが析出し、フィルムの外観が白濁・白化することが問題となっている。
用途面からは、例えば、カーナビゲーション用の表示装置に使用する場合、高温環境下となるため、上記アニール処理時と同様にフィルムが白濁・白化する恐れがある。
このように、環境面からも透明タッチパネルのヘイズ値が高くなり、そのため表示画面の表示品質が低下し、文字がぼやけて見えにくくなるなど外観や光学的特性が損なわれる環境下にある。
【0014】
上述のように、従来の導電ガラスと透明導電積層フィルムとからなるタッチパネルには、ガラス基体のプラスチックフィルム化が求められているとともに、プラスチックフィルム化によりガスバリア性の低下、高温高湿度下での使用によるオリゴマーの析出によるヘイズ値の増加及びフィルム収縮などの問題があった。
そこで、本発明の目的は、高温高湿度環境でのポリエステルフィルム等からのオリゴマー析出、易接着層中からの有機物溶出によるヘイズ増加、及びフィルム収縮を抑制することができ、また、導電ガラスと透明導電積層フィルムとからなるタッチパネルの代替品として使用可能な基材又は基体としてのガスバリア性の面でも遜色のない軽量化したタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体及び耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明では上記課題を解決するために、プラスチック材料に含まれるオリゴマーの析出を抑えるためオリゴマーブロック層に、プラスチック基材又は基体との密接着が可能な材料であり、プラスチック基材又は基体と化学的な結合により密接着してオリゴマーを表面に析出させず、プラスチック基材又は基体との層間で剥離が生じ難い、光透過性のプラズマ化学気相成長法(以下、「プラズマCVD法」又は単に「CVD法」ということがある)により形成した炭素含有珪素酸化物の蒸着層を用いること及び応力がかかる状況下、高温高湿下でもガスバリア性が維持可能なガスバリア性多層膜構造とすることにより、オリゴマーの表面への析出を防止した、高温高湿下での積層界面における密着性を向上させ耐剥離性が向上した、ガスバリア性に優れ、寸法安定性にも優れたタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体及び耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルが形成できることを見出し、発明を完成させるに至った。
【0016】
本発明のオリゴマーブロック層として用いられる蒸着層は、有機珪素化合物を蒸着モノマー材料として含むガス組成物を原料にしてプラズマCVD法により形成された酸化珪素蒸着膜であって、透明導電積層プラスチックフィルムのプラスチック基材及び導電ガラス基体のガラスの代替として使用するポリエステル等のプラスチック基材又は基体の両面に、前記有機珪素化合物をプラズマ化学気相蒸着法により酸化珪素蒸着膜として直接又は他の層を介して形成することにより、高温高湿下での積層界面における密着性を向上させ、耐剥離性を向上し、しかも酸化珪素蒸着膜によりポリエステル等のプラスチック基材又は基体からのオリゴマーの表面析出をブロックするとともに、オリゴマーブロック層として酸化珪素層を用いることで有機物の溶出もなくすことができるだけでなく、酸化珪素蒸着膜の収縮がなく、寸法安定性にも優れたものである。
また、オリゴマーブロック層に、別にガスバリア性蒸着層を形成するか、形成せずに、ガスバリア性塗膜をさらに積層し、耐湿熱性を向上させることにより最終的に耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルを完成するに至ったものである。
【0017】
本発明では、さらに詳細には、耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルにおける、前面タッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体においてポリエステル基材の両面、及び導電ガラス基体の代替として使用する導電ポリエステル基体においてそのポリエステル基体の両面に、プラズマCVD法により有機珪素化合物の蒸着モノマーガス、酸素、キャリアガスからなるガス組成物を酸化珪素蒸着膜として付着させ、オリゴマーがプラスチック基材又は基体の表面に析出するのを防止するオリゴマーブロック層を積層形成するものである。
本発明は、プラズマCVD法により蒸着される酸化珪素薄膜が、ポリエステル基材又は基体と化学的な結合により薄膜形成されることによる密着性が高くなることを利用し、従来のような積層界面における剥離が生じ難くするものである。また、形成される酸化珪素薄膜が、有機珪素化合物に起因する有機成分を含有する有機珪素酸化物(以下、「炭素含有有機珪素酸化物」ということもある)の蒸着膜であることにより、撥水性が生じ、防湿性を発揮できる。さらに本発明のガスバリア性を付与する塗膜との親和性も向上することができる。本発明のオリゴマーブロック層は、均一な膜制御したプラスチック基材又は基体との密接着し得る酸化珪素薄膜からなり、防湿性のようなガスバリア性の付与、オリゴマーの移行をブロックする効果があること、さらには有機物溶出の心配のないことを利用したものである。
これにより、アニール処理や夏場の車中などの高温高湿度環境下に曝しても、積層界面におけるオリゴマーの析出がなく、白濁・白化せず、優れた耐湿熱性、耐摩耗性、及び耐久性を確保することができる。
【0018】
また、プラズマCVD法により形成したオリゴマーブロック層にさらに真空蒸着、イオンスパッタリング法などのPVD法又はCVD法によるガスバリア性蒸着層を形成するか、オリゴマーブロック層を膜厚に形成することで代替させたガスバリア性蒸着層にガスバリア性塗膜をさらに積層することにより耐湿熱性であるガスバリア性能が向上したガスバリア性多層膜構造とすることにより、ディスプレイの基材又は基体に使用されているガラスパネル代替品として性能上遜色なく、使用可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、タッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体において、そのポリエステル基材の両面、及び導電ガラス基体の代替として使用する導電ポリエステル基体において、そのポリエステル基材又は基体の両面に、原料モノマーとして有機珪素化合物を含むガス組成物をプラズマ化学気相成長法により有機珪素酸化物の薄膜層からなるオリゴマーブロック層を形成したものであり、ポリエステル基材又は基体と酸化珪素薄膜層が化学的な結合を形成し、プラスチック基材又は基体とオリゴマーブロック層は極めて強固に密接着しかつ剥離しにくく、オリゴマーのプラスチックの表面への析出を長期にわたり防止、維持できる。
【0020】
本発明において、有機珪素酸化物の薄膜のオリゴマーブロック層中には、C−H結合又はSi−C結合を有する化合物、蒸着原料のモノマーである有機珪素化合物やそれらの誘導体などの有機成分を化学結合等によって含有させることができ、この有機成分の存在により、オリゴマーの析出が有機珪素酸化物の薄膜層により抑えられることとなる。有機珪素酸化物の薄膜層に含有する化合物としては、特に、CH3部位を持つハイドロカーボンを基本構造とするものを多く含むものがオリゴマーブロック層を形成するものとして好ましいものである。
また、オリゴマーブロック層は蒸着層で形成されており、膜厚が薄く、正確に膜厚を制御でき、均一性に優れた酸化珪素薄膜として形成できる。
【0021】
酸化珪素薄膜層上に、さらにガスバリア性を有する塗膜を積層させたガスバリア性多層膜の形成により、ガラス基体タッチパネルの代替品として耐湿熱性のあるガスバリア性においても遜色のないプラスチックタッチパネルとすることができる。
本発明のタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体及び耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルとすることにより、耐衝撃性、耐湿熱性が向上し、かつガスバリア性にも優れたプラスチックタッチパネルとすることができ、アニール処理や夏場の車中などの高温多湿環境下にフィルムを曝してもタッチパネルのプラスチック化におけるポリエステル基材又は基体表面へのオリゴマーの析出による白濁・白化がなく、外観不良、ヘイズの上昇、光学的特性の低下、層間剥離などの問題が生じない、極めて優れた特性を有する軽量化した耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルができ、また、特殊な層構成を採用することもなく、煩雑な工程、厳密な管理を経ることなく、単純な工程で、ガラス基体タッチパネルの代替品として優れた特性を有すタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体及び耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルを容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明にかかる耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルについて、可動電極用白化防止耐湿熱性透明導電積層体と固定電極用透明導電基体とを組み合わせた層構成の一例である。
【図2】本発明にかかる耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルについて、可動電極用耐湿熱性透明導電積層体の変形例と固定電極用透明導電基体とを組み合わせた層構成の一例である。
【図3】本発明にかかる耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルについて、可動電極用白化防止耐湿熱性透明導電積層体の別の変形例と固定電極用透明導電基体とを組み合わせた層構成の一例である。
【図4】従来のプラスチックタッチパネルにおいて、可動電極用白化防止耐湿熱性透明導電積層体がオリゴマーブロック層を設けない例と固定電極用透明導電基体とを組み合わせた層構成の一例である。
【図5】従来のプラスチックタッチパネルにおいて、可動電極用白化防止耐湿熱性透明導電積層体が片面のみオリゴマーブロック層を設けた例と固定電極用透明導電基体とを組み合わせた層構成の一例である。
【図6】プラズマ化学気相成長装置についてその一例の概要を示す概略的構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明について、以下に図面等を用いて詳しく説明する。
本発明にかかる耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルについてその層構成の一例を示して図面を用いて説明すると、図1は、本発明にかかるプラスチックタッチパネルの層構成の一例の概略的断面図である。
なお、本発明において、フィルム又はシートとは、シート、フィルム、フィルム状物又はシート状物のいずれの場合も意味するもので、特別な意味を与えるものではない。
【0024】
(耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルの構造)
本発明にかかる耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルとしては、図1に示すように、ポリエステルフィルムからなるプラスチック基材又は基体1の両面にプラズマCVD法により酸化珪素薄膜層からなるオリゴマーブロック層2を形成したものであって、外面側には、オリゴマーブロック層として直接酸化珪素薄膜層を形成し、他方の面には、易接着層3を介して酸化珪素薄膜層、ガスバリア性塗膜層、硬化樹脂層、透明導電膜を形成した耐湿熱透明導電積層プラスチックフィルムからなるタッチ用可動電極基材と、従来の導電ガラス基体の代替となるポリエステルのプラスチック基体の両側に、プラズマCVD法により酸化珪素薄膜層からなるオリゴマーブロック層を形成するものであって、その酸化珪素薄膜層上に透明導電膜を形成し、さらに特定の間隔で平面状にドットスペーサーを配列してなる固定電極基体を、タッチ用可動電極基材の透明導電膜と固定電極基体のドットスペーサーとが接触するように積層一体化させることにより本発明の耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルとするものである。
【0025】
本発明のプラスチックタッチパネルは、ポリエステル基材又は基体の両面にプラズマCVD法により酸化珪素薄膜を蒸着して配した層構成を基本構造とするものである。
また、本発明のプラスチックタッチパネルにおいて、ガラス基体代替のためにガスバリア性を犠牲にしないため、ポリエステルフィルムのタッチパネル用プラスチック基材又は基体に直接酸化珪素薄膜層を形成したもの、又は易接着層を形成したものに酸化珪素薄膜層を形成したものを用い、その上にガスバリア性層を積層したものである。
【0026】
本発明において、タッチパネルのガスバリア性については、タッチパネル全体の積層総厚が厚く、また両面にプラズマCVD法により酸化珪素薄膜層が形成されたプラスチック基材及び基体を用いた層構成となっており、ある程度のガスバリア性を得ることが可能である。
そこで、タッチパネルとして求められるガスバリア性を付与するため、プラズマCVD法による酸化珪素薄膜層の形成目的が、オリゴマーをブロックする目的で形成する場合には、その層厚みはナノメートルオーダーの厚みに形成すれば足りることから、さらに物理蒸着法又は化学蒸着法によりオリゴマーブロック層の上に所定の厚みの蒸着膜を形成してガスバリア性を与えるか、あるいはCVD法によるオリゴマーブロック層をガスバリア性層と兼用する場合には、CVD法の蒸着膜をガスバリア性が発揮できる十分な厚みに形成することもできる。本発明では、その上さらに、ガスバリア性塗膜を形成したCVD法による蒸着膜とガスバリア性樹脂塗膜とを併用した複合膜とすることによりガスバリア性をガラス基材又は基体と遜色のないものとすることができる。
【0027】
このように、本発明は、ガスバリア性層の層構成、膜厚などを変更して、要求に応じたガスバリア性を付与することができるプラスチックタッチパネルとするものである。また、複合膜の構造を採用することで、確実にオリゴマーの表面への析出を抑えつつ、プラスチック基材又は基体とオリゴマーブロック層、オリゴマーブロック層と蒸着層、蒸着層とガスバリア性塗膜層などの層間界面における層間剥離のないガスバリア性のある多層膜構造とすることができる。
【0028】
(プラスチック基材又は基体)
本発明において、タッチパネルの可動電極となる白化防止耐湿熱性透明導電積層体及び固定電極となる透明導電基体のプラスチック基材又は基体としては、化学的ないし物理的強度に優れ、酸化珪素の蒸着膜を形成する条件等に耐え、それら酸化珪素の蒸着膜等の特性を損なうことなく良好に保持し得ることができる二軸延伸ポリエステルフィルム又はシートを使用することが好適である。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリブチレンナフタレート等である。しかし、ポリエステルに限定されるものではなく、オリゴマーが残存し得るプラスチック材料であってCVD法により化学結合した酸化物膜を形成し得る材料で、タッチパネルに用いることができるプラスチックであれば、本発明のプラスチック基材又は基体として用いることができる。
【0029】
ポリエステル等のプラスチックは、製膜時のフィルム又はシートの巻取り性や粘着剤等を塗設する際のフィルムの搬送性等を良くするため、必要に応じて滑剤としての有機または無機の微粒子で処理し、易接着層としてもよい。かかる微粒子としては、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、カオリン、酸化珪素、酸化亜鉛、架橋アクリル樹脂粒子、架橋ポリスチレン樹脂粒子、尿素樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、架橋シリコーン樹脂粒子等が例示される。
また、微粒子以外にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、潤滑剤、触媒、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−ポリマー、オレフィン系アイオノマーのような他の樹脂等も透明性を損なわない範囲で任意に用いることができる。
本発明では、フィルムの寸法安定性を維持、向上するため熱処理を行うことから、特に、酸化防止剤は、加熱処理を実施する際にポリエステルが着色することのないように添加することが好ましい。酸化防止剤としては、フェノール系、チオ系、リン系などから成形加工条件に適合し、安定化に寄与するものが好ましく用いられる。
【0030】
本発明において、プラスチック基材又は基体のフィルム又はシートの表面に、オリゴマーブロック層を構成する有機珪素酸化物の連続薄膜との密接着性を向上させるために、必要に応じて、予め所望の表面処理を施すことができる。表面処理としては、例えば、コロナ放電処理、オゾン処理、酸素ガス若しくは窒素ガス等を用いた低温プラズマ処理、グロー放電処理、化学薬品等を用いて処理する酸化処理等の前処理を施すことができる。
【0031】
基材又は基体のフィルム又はシートとオリゴマーブロック層を構成する有機珪素酸化物の連続薄膜層との密接着性を改善するための方法として、プラズマCVD法により形成される有機珪素酸化物の連続薄膜と基材又は基体との密接着性が低下しない限りにおいて、例えば、プライマーコート剤層、アンダーコート剤層、アンカーコート剤層、接着剤層、あるいは、蒸着アンカーコート剤層等の易接着層を形成することもできる。
上記の前処理のコート材としては、例えば、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリエチレンあるいはポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂あるいはその共重合体ないし変性樹脂等を使用することができる。
【0032】
タッチパネルに用いるポリエステルフィルム又はシートは、画像の鮮映性、光量が確保できるヘイズ値を有するもの、ヘイズ値としては1%以下のものが好ましく用いられる。フィルム又はシートの厚さは特に限定されないが、取り扱い性、強度、ヘイズ値などへの影響がないような厚さのもので、通常10〜300μm、より好ましくは20〜150μmが好ましい。
【0033】
本発明のフィルム又はシートの製造法として、特に限定されるものではなく、押し出し法、キャスト成形法、Tダイ法、インフレーション法等の従来から一般に知られているフィルム又はシートの製法を適宜採用して製造することができる。また、2種以上の樹脂を使用して多層製膜化する方法、更には、2種以上の樹脂を使用し、製膜化する前に混合して製膜化する方法等により、多層化してもよい。
さらに、例えば、テンター方式、あるいは、チューブラー方式等を利用して一軸ないし二軸延伸処理してもよい。
【0034】
(オリゴマーブロック層)
オリゴマーの析出を防止するためポリエステル等のプラスチック基材又は基体のフィルム又はシート上に形成される被膜物質は、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスを使用して形成される有機珪素酸化物の連続薄膜であって、有機珪素化合物等の蒸着モノマーガスと酸素ガス等が化学反応し、その反応生成物が基材又は基体であるフィルム又はシートの一方の面に密着し、緻密な、柔軟性等に富む酸化珪素蒸着膜の連続薄膜層を形成するものであって、さらに詳しくは、SiOxy[式中、0<x≦2.2]で表される有機成分を含有する有機珪素酸化物(以下、「炭素含有有機珪素酸化物」又は単に「有機珪素酸化物」などということもある)の蒸着膜層である。
xが1.5〜2.2の範囲内にあって、yが0.15〜0.80の範囲内にあるのが好ましく、そしてxが1.7〜2.1の範囲内にあって、yが0.39〜0.47の範囲内にあるのがさらに好ましい。
【0035】
本発明において、オリゴマーブロック層の有機珪素酸化物蒸着膜層の厚みとしては、5〜100nmの範囲内で任意に選択して形成することが望ましい。
その厚みが5nm以下であると、蒸着膜の平面密度が低下して基材又は基体のフィルム又はシートが表面に露出することとなり、オリゴマーの析出を防止する機能が低下し、オリゴマーの析出を抑えることができない。また、有機珪素酸化物蒸着膜が剥離する可能性が増加する。一方、100nmより厚くなると、剛性が増してきて、その膜にクラック等が発生し易くなるので好ましくない。必要以上に厚くすることは、蒸着膜の形成速度と関係し、生産性の低下、コスト高にもなる。
蒸着膜の膜厚は、例えば、株式会社リガク製の蛍光X線分析装置(機種名、RIX2000型)を用いて、測定することができる。
【0036】
本発明において、有機珪素酸化物蒸着膜は、具体的には、プラスチック基材又は基体のフィルム又はシートの両面に、有機珪素化合物の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリアガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスと、酸素ガス等の酸素供給ガスを含有するガス組成物を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマCVD法により有機珪素酸化物の連続薄膜を化学気相成長させて、形成するもので、形成する有機珪素酸化物の連続薄膜は、有機珪素化合物に起因する炭素を含む有機成分を含有するように有機珪素酸化物の連続蒸着膜を形成してなるオリゴマーブロック層を形成することにより、本発明にかかるオリゴマーブロック層を有する基材又は基体のフィルム又はシートを製造する。
【0037】
有機成分を含有する有機珪素酸化物(炭素含有有機珪素酸化物)は、メチル基又はエチル基を含む有機珪素化合物を用い、これをCVD法で製膜しなければ、有機成分としてメチル基又はエチル基を膜中に導入することはできない。
そこで、本発明の離型層を形成する炭素含有有機珪素酸化物の連続薄膜を形成するために使用する有機珪素化合物としては、メチル基或いはエチル基を含み、且つSiを主鎖とする、次のようなモノマー材料、例えば、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、ヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)、ビニルトリメチルシラン、メチルトリメチルシラン(MTMOS)、ヘキサメチルジシラン、メチルシラン、ジメチルシラン、トリメチルシラン、ジエチルシラン、プロピルシラン、フェニルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン等を使用することができる。
モノマー材料には、上記の例に関わらず、Si原子とCH3基及び/又はC25基を含む有機珪素化合物で、常温で適当な蒸気圧を持ち、CVD法を実施することが可能な材料であれば、どのような材料でも構わない。
【0038】
本発明においては、有機珪素化合物として、特に、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン(TMDSO)、テトラエトキシシラン(TEOS)又はヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を原料として使用することが、その取り扱い性、形成された有機珪素酸化物の蒸着膜の撥水性等の特性から特に好ましい。
【0039】
(プラズマCVD法(Plasma Chemical Vapor Deposition法))
プラズマCVD法により有機珪素酸化物がメチル基及び/又はエチル基を導入する条件は、前記した材料を使用することに加え、Si原子とCH3基及び/又はC25基を含むモノマー材料と、酸素ガスを含む混合ガスの組成比を、モノマー材料100重量部に対して酸素ガス10重量部〜1000重量部とすることである。酸素ガスが10重量部未満だと酸化珪素蒸着膜を形成することができず、また酸素ガスが1000重量部を超えると、メチル基やエチル基がなどの有機成分が酸素と反応してCO2やH2Oとなって消失し、酸化珪素蒸着膜の中にメチル基又はエチル基が含まれなくなるので好ましくない。
【0040】
また、少なくとも1nm以上の蒸着膜の厚みが必要である。蒸着膜の厚みが1nm未満だと連続膜として存在しなくなる。
上記の有機珪素酸化物の連続薄膜層の膜厚を変更するには、蒸着時の条件として連続薄膜層の体積速度を大きくすること、すなわち、モノマーガスと酸素ガス量を多くすること及び基材又は基体の搬送速度を遅くすることにより、膜厚を厚くすることができ、また、蒸着する速度を遅くすることにより膜厚を薄くすることができる。
【0041】
プラズマCVD法により酸化珪素蒸着膜を形成するために、ガス組成物には上記のモノマー材料のほかに、酸素ガスを導入する必要がある。酸素ガスの代わりに酸化性を持つガス、例えば、オゾンガスや笑気ガス(N2O)などを使用することも可能であるが、製膜効率やコストの面から酸素ガスが最も好ましい。
【0042】
また、モノマーガスと酸素ガスのほかに、モノマー蒸気を効率よく真空槽内に導入するためのガス(キャリアガス)や、プラズマを発生させたり、プラズマを増強させたりする目的のガスを増強して導入することも必要に応じて使用される。
キャリヤガスとして、アルゴンガス又はヘリウムガスからなる不活性ガスを含有させることができる。
【0043】
本発明において用いる低温プラズマ発生装置として、例えば、高周波プラズマ、パルス波プラズマ、マイクロ波プラズマ等の発生装置を使用するが、高活性の安定したプラズマを得るために、高周波プラズマ方式による発生装置を使用することが望ましい。
【0044】
本発明における、低温プラズマ化学気相成長法による酸化珪素蒸着層の形成法について、その一例を挙げて説明する。図6は、上記の低温プラズマ化学気相成長法において使用される低温プラズマ化学気相成長装置の概略的構成図である。
【0045】
本発明においては、図6に示すように、低温プラズマ化学気相成長装置21の真空チャンバ22内に配置された巻き出しロール23から、被蒸着フィルム又はシート1を繰り出し、更に、該被蒸着フィルム又はシート1を、補助ロール24を介して所定の速度で冷却・電極ドラム25周面上に搬送する。ガス供給装置26、27及び、原料揮発供給装置28から酸素ガス、不活性ガス、蒸着用モノマーガス等を供給し、それらからなる蒸着用混合ガス組成物を調整しながら原料供給ノズル29を通して真空チャンバ22内に該蒸着用混合ガス組成物を導入し、そして、上記の冷却・電極ドラム25周面上に搬送された、被蒸着フィルム又はシート1の上に、グロー放電プラズマ30によってプラズマを発生させ、これを照射して、酸化珪素蒸着層を形成する。その際に、冷却・電極ドラム25は、真空チャンバ22の外に配置されている電源31から所定の電力が印加されており、また、冷却・電極ドラム25の近傍には、マグネット32を配置してプラズマの発生を促進している。次いで、被蒸着フィルム又はシート1は、表面に酸化珪素蒸着層を形成した後、所定の巻き取りスピードで補助ロール33を介して巻き取りロール34に巻き取られる。なお、図中、35は真空ポンプを表す。
【0046】
上記の例示は、プラズマ化学気相蒸着法の一例を示すものであり、これによって本発明は限定されるものではないことは言うまでもないことである。図示しないが、本発明においては、有機珪素酸化物の連続薄膜層としては、有機珪素酸化物の連続薄膜層の1層だけではなく、その2層あるいはそれ以上を積層した多層膜の状態でもよく、また、使用する材料も1種又は2種以上の混合物で使用し、また異種の材質を混合した有機珪素酸化物の連続薄膜層を構成することもできる。
【0047】
上記プラズマ化学気相蒸着法における蒸着条件について、さらに説明すると、真空チャンバ22内を真空ポンプ35により減圧し、真空度1×10-1〜1×10-8Torr、好ましくは、真空度1×10-3〜1×10-7Torrに調整することが好ましく、また、基材又は基体の搬送速度は、形成する有機珪素酸化物の薄膜層の膜厚、密度、生産性等に関係し、通常は10〜500m/分、好ましくは、50〜350m/分に調整することが好ましい。またプラズマ発生電圧は、形成する有機珪素酸化物の薄膜層の膜厚、密度、生産性等に関係し、通常10〜50kWに調整することが好ましい。
【0048】
(ガスバリア性層)
本発明においては、ガラス基体タッチパネルの代替として遜色のないプラスチックタッチパネルとするため、オリゴマーブロック層である上記酸化珪素蒸着層上に、さらに、ガスバリア性を付与する目的で、易接着層を介するか、介さずに無機酸化物蒸着膜及び/又はアルコキシドと水溶性高分子とをゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物を塗布してなるガスバリア性塗膜を設ける。これにより、ガスバリア性をさらに向上させることができる。
【0049】
(無機酸化物蒸着層)
本発明において、ガスバリア性を付与するため無機酸化物の蒸着層を用いることができる。無機酸化物蒸着層としては、金属酸化物の蒸着層が挙げられ、具体的には、珪素、アルミニウム、マグネシウム、スズ(Sn)、チタン、インジウム等の金属の酸化物蒸着層を使用することができる。本発明において、好ましいものとして、珪素(Si)、アルミニウム(Al)の酸化物である酸化珪素、酸化アルミニウムの蒸着層が使用される。
また、本発明においては、無機酸化物の蒸着層としては、使用する蒸着材料として金属又は金属酸化物を1種又は2種以上の混合物で使用し、異種の材質で混合した無機酸化物の蒸着層を構成することができる。
【0050】
本発明において、基材又は基体フィルムの表面に上記無機酸化物蒸着層を設ける方法として、例えば、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法、あるいは、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理蒸着法を挙げることができる。勿論、本発明において、物理蒸着法と化学気相成長法を併用して形成することも可能である。
【0051】
本発明での化学気相成長法としては、フィルム又はシートの表面に、有機珪素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリアガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の希ガスを含む不活性ガスを使用し、さらに、酸素供給ガスとして、酸素ガス、分子中に酸素を有する酸化性ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて、無機酸化物からなる蒸着層を形成することができる。この場合、オリゴマーブロック層を形成する際に用いたプラズマCVD法により形成される炭素含有珪素酸化物の蒸着膜を蒸着膜の膜厚を制御することでガスバリア性層として利用することができる。
【0052】
本発明での物理蒸着法としては、金属酸化物を原料とし、これを加熱して樹脂フィルムないしシートの上に蒸着する真空蒸着又は原料として金属又は金属酸化物を使用し、酸素を導入して酸化させて基材又は基体のフィルム又はシートの上に蒸着する酸化反応蒸着法、さらに、酸化反応をプラズマで助成するプラズマ助成式の酸化反応蒸着法等を用いて無機酸化物の蒸着層を形成することができる。
【0053】
ガスバリア性無機酸化物蒸着層の形成法は、冷却したコーティングドラム上に案内されたプラズマCVD法により酸化珪素薄膜層を形成したフィルム又はシートの上に、加熱せられた蒸着源である金属アルミニウム又は金属珪素あるいは酸化アルミニウム又は酸化珪素等の金属又は金属酸化物の蒸着材料を蒸発させ、さらに、必要に応じて、酸素ガス等を噴出し、これを供給しながら、マスクを介して、酸化アルミニウム又は酸化珪素等の蒸着層を基材又は基体フィルム上に形成し、蒸着フィルムを巻き取りロールに巻き取るか、引き続き、ゾル−ゲル法によりガスバリア性塗膜を蒸着面に形成し、加熱乾燥処理して最終的なガスバリア性多層膜を形成し、巻き取りロールに巻き取ることもできる。例示はその一例を示すものであり、これによって本発明は限定されるものではない。
【0054】
オリゴマーブロック層を形成したフィルム又はシートに上記化学気相成長法又は物理蒸着法により無機酸化物の蒸着層を形成した後、さらに前記蒸着層をグロー放電処理、プラズマ処理又はマイクロウェーブ処理してもよい。これにより蒸着層と以下のガスバリア性塗膜との密着性がさらに向上する。
本発明においては、酸化珪素蒸着膜層上にプライマー層を積層することにより、化学気相成長法は勿論、物理蒸着法により無機酸化物を蒸着させた場合であっても、密接着性が向上した緻密なガスバリア層を得ることができる。
特に、物理蒸着法や化学気相成長法により酸化アルミニウム又は酸化珪素を積層し、さらに、本発明のアルコキシドと水溶性高分子とをゾルゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物を塗布してなるガスバリア性塗膜を積層する場合、極めて優れた耐湿熱性、密接着性が向上したガスバリア性多層膜が得られる。
【0055】
本発明において、ガスバリア性層として形成する無機酸化物の蒸着層の膜厚としては、使用する金属、又は金属の酸化物の種類等によって異なるが、オリゴマーブロック層である蒸着層の膜厚を含めて、例えば、5〜100nm、好ましくは、10〜50nmの範囲内で任意に選択して形成することが望ましい。5nmより薄くなると、蒸着層の形成が不十分となり、ガスバリア性が十分でない場合があり、100nmを超えるとクラックが発生しやすく、可撓性が低下する。
【0056】
(ガスバリア性塗膜)
次に、本発明において、本発明のガスバリア性多層膜層を構成するガスバリア性塗膜について説明する。
本発明のガスバリア性塗膜は、アルコキシドと水溶性高分子を含有するものであり、具体的には、ガスバリア性塗膜としては、一般式:R1nM(OR2mで表される少なくとも1種以上のアルコキシド、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールを含有する組成物をゾル−ゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性組成物を上記した無機酸化物蒸着フィルム上に塗布し、加熱乾燥し、形成したものである。
【0057】
本発明に好適に使用できるアルコキシドは、一般式:R1nM(OR2m(式中、Mは金属原子、R1、R2が炭素数1〜8の有機基、nは0以上、mは1以上の整数、n+mはMの原子価を表す)で表されるものであり、このアルコキシドの部分加水分解物又はアルコキシドの加水分解縮合物の少なくとも1種以上を使用することができる。
上記一般式:R1nM(OR2mにおける、Mで表される金属原子として、珪素、ジルコニウム、チタン、アルミニウム等が使用でき、好ましくは珪素である。これらのアルコキシドの用い方としては、単独又は2種以上の異なる金属原子のアルコキシドを同一溶液中に混合して使うこともできる。
有機基R1の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等のアルキル基等が挙げられる。また、有機基R2の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基等が挙げられる。尚、本発明において、同一分子中においてこれらのアルキル基は同一であっても、異なってもよい。
【0058】
アルコキシドの中でも、MがSiであるアルコキシシランが好ましく、アルコキシシランとしてはSi(ORa4で表され、Rは低級アルキル基である。Raとしてはメチル基、エチル基、N−プロピル基、N・ブチル基等が用いられ、アルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシランSi(OCH34、テトラエトキシシランSi(OC254、テトラプロポキシシランSi(OC374、テトラブトキシシランSi(OC494等が挙げられる。
また、アルキルアルコキシシランRbmSi(ORc4-mを用いることができる(mは1、2、3の整数)。Rb、Rcとしては、メチル基、エチル基等が用いられ、アルキルアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシランCH3Si(OCH33、メチルトリエトキシシランCH3Si(OC253、ジメチルジメトキシシラン(CH32Si(OCH32ジメチルジエトキシシラン(CH32Si(OC252等が挙られる。これらのアルコキシシラン、アルキルアルコキシシランは、単独又は2種以上を混合しても用いることができる。
【0059】
さらに、アルコキシシランの縮重合物も使用することができ、具体的にはポリテトラメトキシシラン、ポリテトラエメトキシシラン等が挙げられる。
2種以上のこれらのアルコキシドを混合して用いてもよい。特にアルコキシシランとジルコニウムアルコキシドを混合して用いることによって、得られる積層膜の靭性、耐熱性等が向上する。また、特に、アルコキシシランとチタニウムアルコキシドを混合して用いることによって、得られる皮膜の熱伝導率が低くなり、基材又は基体の耐熱性が著しく向上する。
【0060】
本発明においては、本発明に係るバリアコートを形成するガスバリア性組成物を調製するには、上記アルコキシドと共にシランカップリング剤等も添加することができる。シランカップリング剤としては、既知の有機反応性基含有オルガノアルコキシシランが用いられ得る。特に、エポキシ基を有するオルガノアルコキシシランが好適である。それには、例えばγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及びβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランがある。このようなシランカップリング剤は2種以上を混合して用いてもよい。このようなシランカップリング剤の使用量は、上記アルコキシシラン100重量部に対して0.1〜20重量部の範囲内である。20重量部以上を使用すると形成される複合ポリマーの剛性と脆性とが大きくなり、塗層の絶縁性及び加工性が低下する。
【0061】
本発明では、水溶性高分子は、優れたガスバリア性の緻密な膜構造を得るとともに、優れたガスバリア性塗膜を容易に製造する方法を実現するため重要となる。
ガスバリア性塗膜形成用の組成物(塗工液)を製造する際に使用する水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールコポリマーが含まれる。ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコールコポリマーを組み合わせることによって、得られる塗膜のガスバリア性、耐水性、耐候性等が著しく向上する。さらに、ポリビニルアルコールとエチレン・ビニルアルコールコポリマーとを組み合わせた塗膜は、ガスバリア性、耐水性、及び耐候性に優れる。
【0062】
ポリビニルアルコール及びエチレン・ビニルアルコールコポリマーの組み合わせを採用する場合のそれぞれの含有重量比は、10:0.05〜10:6であることが好ましく、約10:1がさらに好ましい。
上記ポリビニルアルコール及び/又はエチレン・ビニルアルコールコポリマーの合計の含有量は、上記アルコキシドの合計量100重量部に対して5〜500重量部の範囲であり、好ましくは約50〜400重量部である。500重量部を上回ると複合ポリマーの脆性が大きくなり、得られる塗膜の耐水性及び耐候性も低下する。5重量部を下回るとガスバリア性が低下する。
【0063】
本発明においては、上記の組成物(塗工液)を蒸着層上に塗布し、その組成物をゾル−ゲル法により重縮合して塗膜を得る。そのゾル−ゲル法触媒として、主として重縮合触媒としては、水に実質的に不溶であり、かつ有機溶媒に可溶な第三級アミンが用いられる。例えば、N,N−ジメチルベンジルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン等があり、特にN,N−ジメチルベンジルアミンが好適である。その使用量は、アルコキシド、及びシランカップリング剤の合計量100重量部当り、0.01〜1重量部、好ましくは約0.03重量部である。また、酸としては、例えば、硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸、並びに酢酸、酒石酸等の有機酸その他を使用することができる。更に、有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール等を用いることができる。
【0064】
更に、ガスバリア性組成物に関して、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体は、上記のアルコキシドやシランカップリング剤等を含む塗工液中で溶解した状態にあることが好ましく、そのため上記の有機溶媒の種類が適宜選択される。本発明において、溶剤中に可溶化されたエチレン・ビニルアルコール共重合体は、例えば、ソアノール(日本合成化学社製)として市販されているものを使用することができる。
【0065】
本発明において、ポリビニルアルコール系樹脂として、一般にポリ酢酸ビニルを鹸化して得られるものを使用することができる。具体例としては、株式会社クラレ製のRSポリマーであるRS−110(鹸化度=99%、重合度=1,000)、同社製のクラレポバールLM−20SO(鹸化度=40%、重合度=2,000)、日本合成化学工業株式会社製のゴーセノールNM−14(鹸化度=99%、重合度=1,000)等を使用することができる。
また、本発明において、エチレン・ビニルアルコール共重合体としては、エチレンと、酢酸ビニルの共重合体の鹸化物、即ち、エチレン−酢酸ビニルランダム共重合体を鹸化して得られるものを使用することができる。具体例としては、株式会社クラレ製、エバールEP−F101(エチレン含量;32モル%)、日本合成化学工業株式会社製、ソアノールD2908(エチレン含量;29モル%)等を使用することができる。
【0066】
(ガスバリア性塗膜の形成方法)
アルコキシシラン等のアルコキシド、シランカップリング剤、ポリビニルアルコール系樹脂及び/又はエチレン・ビニルアルコール共重合体、ゾル−ゲル法触媒として塩酸、水、有機溶媒、及び、必要に応じて、金属アルコキシド等を混合してガスバリア性組成物の塗工液を調製する。このガスバリア性組成物を、酸化珪素蒸着層の上に塗布し、加熱して溶媒及び重縮合反応により生成したアルコールを除去すると、上記アルコキシド、金属アルコキシド、シランカップリング剤及びビニルアルコールポリマーの重縮合反応がさらに進行し、完結し、透明なガスバリア性塗膜が形成される。さらに、加水分解によって生じた水酸基や、シランカップリング剤由来のシラノール基が酸化珪素蒸着層の表面の水酸基と結合するため該酸化珪素蒸着層とガスバリア性塗膜との密着性、接着性等が良好なものとなる。
【0067】
本発明のガスバリア性塗膜は、上述のように形成されることにより結晶性を有する直鎖状ポリマーを含み、非晶質部分の中に多数の微小の結晶が埋包された構造を取る。このような結晶構造は、結晶性有機ポリマー(例えば、塩化ビニリデンやポリビニルアルコール)と同様であり、さらに極性基(OH基)が部分的に分子内に存在し、分子の凝集エネルギーが高いため良好なガスバリア性を示す。
【0068】
本発明においては、ガスバリア性塗膜内部において、アルコキシド加水分解物と水溶性高分子とが加水分解・共縮合による化学結合、水素結合、あるいは配位結合等を形成することにより、架橋反応が起こること、水溶性高分子が結晶化すること及び蒸着層とガスバリア性塗膜とが水素結合や化学結合により強固に密着すると考えられることから、酸化珪素蒸着層とガスバリア性塗膜との2層間の密着性が向上し、相乗効果により、より良好なガスバリア性の効果を発揮し得るものである。
【0069】
本発明において、上記ガスバリア性組成物を塗布する方法としては、例えば、グラビアロールコーター等のロールコート、スプレーコート、ディッピング、刷毛、バーコート、アプリケータ等の塗布手段により、1回或いは複数回の塗布で、乾燥膜厚が0.01〜30μm、好ましくは0.1〜10μmのバリアコートを形成することができる。そして、上記塗工液を塗布したシートの両面に酸化珪素薄膜層を設けた基材又は基体フィルム又はシートを20℃〜250℃で、かつ基材又は基体フィルム又はシートの融点以下の温度、好ましくは50℃〜200℃、特に150℃〜200℃、さらに好ましくは180℃〜200℃の範囲の温度で、1秒〜10分間、好ましくは1秒〜2分間、さらに好ましくは30秒〜90秒間加熱処理して、基材又は基体フィルム又はシートの一方の面に形成した無機酸化物の蒸着層の上にガスバリア性組成物(塗工液)によるガスバリア性塗膜を1層ないし2層以上形成してガスバリア性塗膜を構成する。
また、必要ならば、本発明のガスバリア性組成物を塗布する際に、予め酸化珪素蒸着薄膜層の上にプライマー剤等を塗布することもできる。
【実施例】
【0070】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
(測定方法)
実施例で作成した耐湿熱性透明タッチパネルフィルムのヘイズ、水蒸気透過度及び筆記耐久性についての評価は、以下の測定方法により測定し、評価した。
【0071】
(ヘイズの測定)
ポリエステルフィルムの両面にプラズマCVD法により炭素含有酸化珪素薄膜を形成し、ガスバリア性塗膜層、硬化樹脂層及び透明電極層を設けた耐湿熱性透明導電積層体のヘイズ値を求めた。ヘイズの測定は、スガ試験機製ヘイズメーターを使用し、85℃、85%RHの恒温恒湿槽に6時間保持した後、JIS K−7105に準拠してヘイズを測定した。
【0072】
(水蒸気透過率の測定)
ポリエステルフィルムの両面にプラズマCVD法により炭素含有酸化珪素薄膜を形成し、ガスバリア性塗膜層、硬化樹脂層及び透明電極層を設けた耐湿熱性透明導電積層体の水蒸気透過率を測定した。水蒸気透過率の測定は、JIS K6549に準拠し、カップ法を使用し、測定温度37.8℃、湿度100%RHの条件下で水蒸気透過率測定装置(米国MOCON社製、PERMATRAN 3/31)を用いて測定した。なお、測定に用いた水蒸気透過率測定装置の検出限界は、0.02g/m2・dayである。
【0073】
(筆記耐久性)
直線摺動性は、0.8Rポリアセタールペンにて250gの加重をかけて30万回往復させたのち、その表面の擦過傷の程度並びに全体の透過状況及び白濁・白化状態について目視により観察した。
【0074】
(積層膜の厚み)
積層ポリエステルフィルムの断面を超薄切片に切り出し、TEM(透過型電子顕微鏡)で観察、写真撮影し、撮影した断面写真で厚みを測定した。
【0075】
(オリゴマーブロック層の形成)
本発明の実施例のプラズマ化学気相成長法(プラズマCVD法)により有機珪素酸化物蒸着膜を形成する場合は、まず、基材又は基体のフィルム又はシートを巻き取り式のプラズマ化学気相成長装置の送り出しロールに装着し、そのフィルム又はシートの蒸着層を形成する面に、コロナ放電処理を施すか、又はコロナ処理が施されたフィルム又はシートのコロナ処理面に下記に示す条件で、プラズマCVD法を用いて厚さ10nmの有機珪素酸化物の蒸着層を形成した。
蒸着条件:
反応ガス混合比;へキサメチルジシロキサン:酸素ガス:ヘリウム=1.0:3.0:1.0(単位:slm)
到達圧力;5.0×10-5mbar
製膜圧力;7.0×10-2mbar
ライン速度;150m/min
パワー;35kW
【0076】
(ガスバリア性無機酸化物蒸着層の形成)
本発明の実施例において、ガスバリア性層を適用する際に使用する蒸着膜を物理蒸着法(PVD法)により形成する場合については、まず、基材又は基体となるフィルム又はシートを巻き取り式の真空蒸着装置の送り出しロールに装着し、そのフィルム又はシートの蒸着層を形成する面に、コロナ放電処理を施すか、又はコロナ処理が施されたフィルム又はシートのコロナ処理面に、アルミニウムを蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法により、下記の蒸着条件により膜厚20nmの酸化アルミニウムの蒸着層を形成し、本発明にかかるガスバリア性蒸着膜を形成した。
蒸着条件:
蒸着チヤンバー内の真空度:2×10-4mbar
巻き取りチヤンバー内の真空度:2×10-2mbar
電子ビーム電力:30kW
フィルムの搬送速度:480m/分
蒸着面:コロナ処理面
【0077】
また、プラズマCVD法により蒸着層を形成する場合については、オリゴマーブロック層の形成において述べたとおりの条件で、必要とする蒸着膜の厚さとなるように制御し、蒸着層を形成すればよい。実施例では最終的な蒸着膜の厚さが100nmの有機珪素酸化物蒸着膜を形成した。
【0078】
(ガスバリア性塗膜層の形成)
ガスバリア性層のガスバリア性塗膜の形成については、下記に示す組成に従って調製した組成aの正珪酸エチル(多摩科学社製)、イソプロピルアルコール、0.5N規定塩酸水溶液、イオン交換水、シランカップリング剤からなる加水分解液に、予め調製した組成bのポリビニルアルコール水溶液を加えて撹拌し、無色透明のバリア塗工液を得た。
ただし、ポリビニルアルコールの酢酸ナトリウムの含有量は2.0重量%のものである。
ガスバリア性塗膜の形成は、上記酸化アルミニウム蒸着層又はプラズマ処理面に、ガスバリア性塗膜組成物をグラビアロールコート法によりコーティングして、次いで、180℃、60秒間加熱処理して、厚さ0.2μm(乾燥状態)のガスバリア性塗膜を形成し、ガスバリア性多層膜とした。
バリアコート液組成:
組成a
正珪酸エチル(多摩科学社製) 16.00
イソプロピルアルコール 3.90
0.5N規定塩酸水溶液 0.13
2O 22.93
シランカップリング剤(東レ・ダウコーニング社製SH6040) 1.60
組成b
ポリビニルアルコール 2.30
イソプロピルアルコール 2.70
2O 51.20
合 計(wt%) 100.00
【0079】
(硬化樹脂層の形成)
紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂(ユニディック17−813(DIC株式会社))100部に、光重合開始剤1−ヒドロキシヘキシルフェニルケトンH0617(東京化成工業)10部を加え、トルエン(インクテック株式会社)を用いて30重量%の濃度に希釈し、塗膜形成組成物とし、硬化樹脂層を形成するのに用いた。
硬化樹脂層の形成は、電極層を形成するため必要であり、前記硬化樹脂組成物をグラビアロールコート法により乾燥状態で膜厚が5μmとなるようにコーティングして、次いで、100℃、3分間加熱乾燥処理し、その後、高圧水銀灯(エネルギー密度80W/cm2、15cm集光型)で紫外線照射し、厚さ5μm(乾燥状態)の硬化樹脂層を形成した。
【0080】
実施例1
片面に易接着処理をしているポリエステルフィルム(東洋紡A4100)125μmを巻き取り式のプラズマCVD蒸着装置の送り出しロールに装着し、その両面に、オリゴマーブロック層を前記蒸着条件下で、プラズマCVD法によりヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)を蒸着モノマー材料として用い、100nmの炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜を形成し、オリゴマーブロック層を作成した。その後、80℃、72時間のアニール処理を施した。次いで、易接着層を設けた面側に、ガスバリア性塗膜を形成した。ガスバリア性塗膜の形成については、前記(ガスバリア性塗膜層の形成)に記載の組成比で、組成aの加水分解液に、組成bのポリビニルアルコール水溶液を撹拌しながら加え、無色透明のガスバリア性塗工液を得て、前記炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜層(CVD法)上に、ガスバリア性塗工液をグラビアロールコート法によりコーティングし、次いで、180℃、60秒間加熱乾燥処理して、塗膜厚200nm(乾燥状態)のガスバリア性塗膜を形成し、ガスバリア性多層膜を得た。
なお、製造したオリゴマーブロックガスバリア性多層膜の水蒸気透過性を評価するため前記水蒸気透過率の測定方法に従い、水蒸気透過率を測定した。その測定結果は、表1に記載したとおりである。測定結果は、水蒸気透過率を測定するために用いた装置の測定限界を超える水蒸気透過率を示し、優れたガスバリア性を有するタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層フィルムが得られた。
さらに、前記硬化樹脂組成物をグラビアロールコート法により、乾燥状態で膜厚が5μmとなるようにコーティングして、次いで、100℃、3分間加熱乾燥処理し、その後、高圧水銀灯(エネルギー密度80W/cm2、15cm集光型)で紫外線照射し、厚さ5μm(乾燥状態)の硬化樹脂層を形成した。
この硬化樹脂層にスパッタリング法でITO層を積層し、タッチパネルの可動電極を構成する白化防止耐湿熱性透明導電積層体を作製した。
また、前記可動電極と同じように両面にプラズマCVD法でオリゴマーブロック層を形成したポリエステルフィルム(東洋紡A4100)を形成し、そのポリエステルフィルム上にスパッタリング法によりITO層からなる透明導電膜を形成し、透明導電膜上に高さ7μm、直径70μm、ピッチ1.5mmのドットスペーサーを形成することによりフレキシブルなタッチパネルの固定電極を作製した。
作製した可動電極と固定電極を用いて、可動電極の透明導電膜側と固定電極のドットスペーサー側が接するように積層し、タッチパネルを作製した。
タッチパネルに求められる筆記耐久性を評価するため作製した可動電極基と固定電極を用いてタッチパネルを作製し、250g荷重で往復30万回の筆記耐久性の試験を行い、評価した。その結果は、表1のとおりで、電気特性、外観変化のない優れた筆記耐久性を示した。
【0081】
実施例2
片面に易接着処理をしているポリエステルフィルム(東洋紡A4100)125μmの両面に前記プラズマCVD法の蒸着条件で100nmのオリゴマーブロック層(炭素含有有機珪素酸化物層)を作成した後、80℃、72時間のアニール処理を施した。その後、易接着層の反対面に実施例1と同様に前記硬化樹脂組成物により硬化樹脂層を塗布し、加熱乾燥処理し、その後、紫外線照射して厚さ5μmの硬化樹脂層を形成した。易接着層を設けた面側には、実施例1と同様に前記ガスバリア性塗膜組成物を用いガスバリア性塗膜層を形成し、加熱乾燥処理し、塗膜厚200nmのガスバリア性多層膜を形成した後、同様に厚さ5μmの硬化樹脂層を形成し、この易接着層を設けた側の硬化樹脂層にスパッタリング法でITO層を積層し、タッチパネルの可動電極を構成する白化防止耐湿熱性透明導電積層体を作製した。
なお、製造したオリゴマーブロックガスバリア性多層膜の水蒸気透過性を評価するためガスバリア性多層膜積層体の水蒸気透過率を前記水蒸気透過率の測定方法に従い、測定した。その測定結果は、表1に記載したとおりである。測定結果は、水蒸気透過率を測定するために用いた装置の測定限界を超える水蒸気透過率を示し、優れたガスバリア性を有するタッチパネル用耐湿熱性透明導電プラスチックフィルムが得られた。
また、固定電極は、実施例1と同様に両面にプラズマCVD法でオリゴマーブロック層を形成したポリエステルフィルム上に膜を形成し、透明導電膜上にドットスペーサーを形成することによりフレキシブルなタッチパネルの固定電極を作製した。
そして、タッチパネルに求められる筆記耐久性を評価するため作製した可動電極基と固定電極を用いてタッチパネルを作製し、250g荷重で往復30万回の筆記耐久性の試験を行い、評価した。その結果は、表1のとおりで、電気特性、外観変化のない優れた筆記耐久性を示した。
【0082】
実施例3
片面に易接着処理をしているポリエステルフィルム(東洋紡A4100)125μmを巻き取り式のプラズマCVD蒸着装置の送り出しロールに装着し、その両面に、前記蒸着条件下でプラズマCVD法により10nmの炭素含有酸化珪素薄膜を形成し、オリゴマーブロック層を作成した。その後、80℃、72時間のアニール処理を施した。次いで、易接着層を設けた面側に、アルミニウムを蒸着源に用いて、酸素ガスを供給しながら、エレクトロンビーム(EB)加熱方式による真空蒸着法(PVD法)を用い、前記蒸着条件により、膜厚20nmの酸化アルミニウムの蒸着層を形成し、ガスバリア性蒸着膜を形成した。
次いで、実施例1と同様に上記酸化アルミニウム蒸着膜層上に、ガスバリア性塗工液をグラビアロールコート法によりコーティングし、加熱乾燥処理し、塗膜厚が200nm(乾燥状態)のガスバリア性塗膜を形成し、ガスバリア性多層膜を得た。
なお、製造したオリゴマーブロック層を有するガスバリア性多層膜積層体について前記測定方法に従い、水蒸気透過率を測定した。その測定結果は、表に記載したとおりである。
前記ガスバリア性多層膜積層体に、さらに、実施例2と同様に両側に硬化樹脂層を形成し、易接着層を設けた側の硬化樹脂層にスパッタリング法でITO層からなる電極を積層し、タッチパネルの可動電極となる白化防止耐湿熱性透明導電積層体を作製した。
固定電極は、実施例1と同様に両面にプラズマCVD法でオリゴマーブロック層を形成したポリエステルフィルム上に透明導電膜を形成し、透明導電膜上にドットスペーサーを形成することによりフレキシブルな固定電極を作製した。
タッチパネルに求められる筆記耐久性を評価するため作製した可動電極基と固定電極を用いてタッチパネルを作製し、250g荷重で往復30万回の筆記耐久性の試験を行い、評価した。その結果は、表のとおりで、電気特性、外観変化のない優れた筆記耐久性を示した。
製造したオリゴマーブロックガスバリア性多層膜について前記測定方法に従い、水蒸気透過率を測定した。その測定結果は、表に記載したとおりであり、水蒸気透過率を測定するために用いた装置の測定限界を超える水蒸気透過率を示し、優れたガスバリア性を有するタッチパネル用の耐湿熱性透明導電積層体が得られた。
【0083】
比較例1
片面に易接着処理をしているポリエステルフィルム(東洋紡A4100)125μmの易接着面側に硬化樹脂層(実施例1と同様)の形成材料を塗布し、100℃で3分間乾燥した。その後、高圧水銀灯(エネルギー密度80W/cm2、15cm集光型)で紫外線照射を行い、厚さ5μmの硬化樹脂層を形成した。その後、硬化樹脂層上にスパッタリング法でITO層を積層し、可動電極となる透明導電積層体を作成した。
また、固定電極は、実施例1と同様に両面にプラズマCVD法でオリゴマーブロック層を形成したポリエステルフィルム上に透明導電膜を形成し、透明導電膜上にドットスペーサーを形成することによりフレキシブルな固定電極を作製した。
作製した可動電極基と固定電極を用いてタッチパネルを作製し、250g荷重で往復30万回の筆記耐久性の試験を行い、評価した。その結果は、表のとおりである。
【0084】
比較例2
片面に易接着処理をしているポリエステルフィルム(東洋紡A4100)125μmの易接着面にプラズマCVD法で100nmのオリゴマーブロック層(酸化珪素層)を作成した後、前記硬化樹脂層(実施例1と同様)の形成材料を塗布し、100℃で3分間乾燥した。その後、高圧水銀灯(エネルギー密度80W/cm2、15cm集光型)で紫外線照射を行い、厚さ5μmの硬化樹脂層を形成した。その上にスパッタリング法でITO層を積層し、可動電極となる透明導電積層体を作成した。
また、固定電極は、実施例1と同様に両面にプラズマCVD法でオリゴマーブロック層を形成したポリエステルフィルム上に透明導電膜を形成し、透明導電膜上にドットスペーサーを形成することによりフレキシブルな固定電極を作製した。
作製した可動電極基と固定電極を用いてタッチパネルを作製し、250g荷重で往復30万回の筆記耐久性の試験を行い、評価した。その結果は、表のとおりである。
【0085】
【表1】

【0086】
(試験結果)
上記得られたタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体及び透明導電基体を用いて、ヘイズの測定、以下に示す項目について評価を実施し、その結果を表1にまとめた。
実施例1〜3で得られたフィルムは、加熱処理前後でヘイズ増加が見られなかった。測定機器の測定限界を超える優れたガスバリア性を示し、かつ白化は見られなかった。これに対し、片面オリゴマーブロック層が形成されていないあるいはガスバリア性層が形成されていない比較例では、ヘイズ値が大きくなり、白濁・白化、結露が生じている。
実施例では基材又は基体プラスチックの両面が、基材又は基体と蒸着膜間で強固な化学結合が生じ、密着性に優れた柔軟性のある有機珪素酸化物の蒸着膜が形成されたことにより、プラスチック中のオリゴマーが表面に析出せず、かつ筆記耐久性のようなしごきに対し、蒸着膜の柔軟性、ガスバリア性塗膜の柔軟性により多層膜の柔軟性が維持されクラックの発生を抑制し、オリゴマーの析出を抑制、維持しているものと思われる。また、オリゴマーブロック層の形成、ガスバリア性多層膜の相乗作用により撥水性、防湿性が向上したためオリゴマーの析出、白濁・白化が抑制されているものと思われる。
一方、比較例1については、オリゴマーブロック層が形成されておらず、オリゴマーの転移、析出が生じかつガスバリア性層も設けられていないため基材又は基体のポリエステルのガスバリア性だけに依存していることで防湿性もないため生じたものである。比較例2については、結露、ヘイズ値の増加、白濁が見られたがその程度は比較例1程ではなかった。これはオリゴマーブロック層が片面のみに形成されているため、プラスチック基材又は基体のオリゴマーブロック層がない表面に、オリゴマーの析出が生じたことにより白濁・白化したものであり、また防湿性が十分でないため、水分が透過し、結露が発生したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のオリゴマーブロック層を設けた透明導電ポリエステルフィルムにガスバリア性塗膜層を設けた可動電極と、導電オリゴマーブロック層を設けたポリエステル基体の固定電極とを積層した耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネルは、使用環境を選ばない、CRT、LCD、PDP、携帯電話、携帯オーディオなどのモバイル機器、ナビゲーションシステムなどのあらゆるディスプレイ用途に用いることができる。可動電極に用いられる耐湿熱性透明導電積層体透明電極として各種用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0088】
1 被蒸着フィルム又はシート又は基材又は基体フィルム
2 オリゴマーブロック層
3 易接着層
4 ガスバリア性塗膜層
5 硬化樹脂層
6 透明導電膜
7 ドットスペーサー
8 PVD又はCVD蒸着層
21 低温プラズマ化学気相成長装置
22 真空チャンバ
23 巻き出しロール
24、33 補助ロール
25 冷却・電極ドラム
26、27 ガス供給装置
28 原料揮発供給装置
29 原料供給ノズル
30 グロー放電プラズマ
31 電源
32 マグネット
34 巻き取りロール
35 真空ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面にオリゴマーブロック層を有するプラスチック基材、耐湿熱ガスバリア性多層膜層、硬化樹脂層及び透明導電層を有するタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体において、オリゴマーブロック層を有するプラスチック基材が透明基材又は基体のフィルム又はシートの両面に、易接着層を介すか介さずにオリゴマーの表面への析出を防止するためプラズマ化学気相成長法により炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜からなるオリゴマーブロック層を形成してなる透明積層フィルム又はシートであり、耐湿熱ガスバリア性多層膜層が物理蒸着膜又は化学気相蒸着膜からなるガスバリア性蒸着膜とアルコキシドと水溶性高分子とをゾル−ゲル法によって重縮合して得られるガスバリア性塗膜を少なくとも含む耐湿熱ガスバリア性多層膜層であることを特徴とするタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体。
【請求項2】
透明基材又は基体のフィルム又はシートのいずれか一方のオリゴマーブロック層が耐湿熱ガスバリア性多層膜層のガスバリア性蒸着膜を兼用することを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体。
【請求項3】
透明導電層と反対側のオリゴマーブロック層上に外表面層として硬化樹脂層をさらに設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載のタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体。
【請求項4】
透明基材又は基体のフィルム又はシートのいずれか一方の炭素含有有機珪素酸化物の連続蒸着膜に物理蒸着法による蒸着膜及びガスバリア性塗膜を順次積層した耐湿熱ガスバリア性多層膜層、硬化樹脂層、透明導電層を順次積層したことを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体。
【請求項5】
透明基材又は基体のフィルム又はシートのヘイズ値が0.8%以下であり、タッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体を85℃、85%RHで6時間の湿熱処理した後のヘイズ値が0.8%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体。
【請求項6】
可動電極として請求項1〜5のいずれか1項に記載のタッチパネル用耐湿熱性透明導電積層体と、固定電極として両面にオリゴマーブロック層を有するプラスチック基体の一方の表面に透明導電層及び該透明導電層上にドットスペーサーを有する透明導電基体とを、透明導電層が設けられた面同士がドットスペーサーを介して積層一体化してなる積層構造を有する耐湿熱透明積層プラスチックタッチパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−5793(P2011−5793A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−153120(P2009−153120)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】