説明

タッチパネル装置及びタッチパネル検出方法

【課題】検出精度の向上と消費電力の低減を両立したタッチパネルを得る。
【解決手段】パネルの所定面に格子状に形成されたラインのライン毎又は交点毎に、物体のパネルへの接触又は近接を検出することで、パネル上に物体が接触又は近接した位置を検出する。この位置検出を行う場合に、ライン全体又は交点全体を結合して検出処理を実行させ、その検出結果に応じて、検出するライン又は交点の検出範囲を制御し、その制御で決められた範囲内で、物体が接触又は近接した位置を判定して位置情報を出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば投影型静電容量式タッチパネル装置に適用して好適なタッチパネル装置及びタッチパネル検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
静電容量式タッチパネルとして、投影型と称される方式のものが実用化され、各種電子機器に搭載されている。投影型静電容量式タッチパネルは、液晶表示パネルなどの表示パネル上の透明基板上に、格子状に2層構造で透明電極を配置し、指などで触れた位置の静電容量の変化を検出して、タッチ位置を検出するものである。なお、静電容量式タッチパネルの場合、指などでパネル表面を直接触れる場合の他に、パネル表面に指などが近接したことについても、静電容量の変化で検出可能である。
【0003】
静電容量式タッチパネルは、静電容量の変化を検出するものであるため、タッチ検出を行うために待機している状態では、常にタッチパネルの電極に信号を印加して、タッチ検出が行えるようにしてある。
図15は、静電容量式タッチパネルの一般的な駆動例である。
通常、静電容量式タッチパネルは、タッチ検出を行っている状態であるアクティブ状態と、タッチ検出があるまで待機しているアイドル状態との2状態を設定するようにしてある。
【0004】
図15(a)は、アクティブ状態での駆動例を示し、図15(b)はアイドル状態での駆動例を示し、それぞれ縦軸を駆動信号の消費電力を示し、横軸を時間軸としてある。
図15(a)のアクティブ状態での駆動例を説明すると、指などでパネル表面を触れた状態の際には、比較的短い周期でタッチ状態を検出する必要があるため、1回の計測後の待ち時間を短くして、計測周期を比較的短い時間に設定してある。1計測周期は、例えば約20msから50ms程度の時間とする。このように計測周期を短くすることで、指の動きなどに追随した良好なタッチ検出が行える。
【0005】
図15(b)のアイドル状態での駆動例を説明すると、タッチパネルに指などが触れていない状態では、1回の計測後の待ち時間を長くして、計測周期を長く設定して、タッチパネルの消費電力を低減させるようにしてある。1計測周期は、例えば約50msから100ms程度の時間とする。
アイドル状態でタッチ状態を検出した場合には、アクティブ状態に遷移し、アクティブ状態である程度の時間連続してタッチ検出がないとき、アイドル状態に遷移する。
【0006】
特許文献1には、静電容量式タッチパネルの構成や検出原理についての記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−72743号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図15に示したようにアクティブ状態とアイドル状態とを設定することで、アイドル状態での消費電力の低減と、アクティブ状態での検出能力の向上とを両立させているが、アイドル状態では計測周期が長いため、タッチ検出精度が低下する問題がある。即ち、例えば指のパネルへの接近を検出した後、指のパネルへの接触を検出する動作を行うような場合、アイドル状態での計測タイミングによっては、接近を検出することなく、いきなり指のパネルへの接触を検出してしまう可能性がある。タッチパネルを使用するアプリケーションによっては、このようなことは好ましくない場合が多々ある。このような問題点を解決するためには、タッチパネルを常時アクティブ状態とすることが考えられる。しかしながら、常時アクティブ状態とすると、いつタッチパネルに検出物体が接近するか判らない状況で、常に短周期での計測を繰り返す必要があり、消費電力が増大する問題がある。
【0009】
また、近年この種のタッチパネルは、パネルの大型化および2本以上の指の同時検出を行うマルチタッチ認識可能化に伴い、1回の計測時間が長くなる傾向にあり、1回の計測に要する消費電力が大きくなる傾向にある。即ち、タッチパネルに配置する検出ライン数は、パネルの大型化によりライン数も増加し、結果的に計測時間や消費電力が増大してしまう。また、マルチタッチの識別をする場合は、指の認識可能数が多くなるほど座標計算に時間がかかる。従って、大型のタッチパネルで複数本の指の近接検出を行う場合、計測時間が非常に長くなり、消費電力も増大させてしまう。
【0010】
さらに、この種のタッチパネルは、従来、指のタッチや接近のみを検出対象としていたが、手のひら、指先、スタイラスなど様々な大きさの物体を検出対象とする要求があり、従来の1ラインや1交点ごとのスキャンでは、適正な検出でない可能性があった。
【0011】
なお、ここまでの説明では、静電容量式タッチパネルを例にして問題点を説明したが、検出ラインをパネルに並べて配置する、その他の方式のタッチパネルでも、同様の問題点がある。
【0012】
本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、タッチパネルで物体の接触や接近の検出が、消費電力の低減と検出能力の向上とを両立して良好に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、パネルの所定面に格子状に形成されたラインのライン毎又は交点毎に、物体のパネルへの接触又は近接を検出することで、パネル上に物体が接触又は近接した位置を検出する。
この位置検出を行う場合に、ライン全体又は交点全体を結合して検出処理を実行させ、その検出結果に応じて、検出するライン又は交点の検出範囲を制御する制御処理を行う。そして、その制御処理で決められた範囲で、ライン又は交点で物体が接触又は近接した位置を判定して位置情報を出力する。
【0014】
このようにしたことで、ライン全体又は交点全体を結合して検出処理を行うことで、パネル面全体として物体の接触又は近接の有無が検出できるようになり、その全体の検出状況に応じた適切な検出範囲の設定が可能になる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、パネル面全体として物体の接触又は近接の有無が検出した結果に基づいて、適切な検出範囲の設定が可能になり、その設定された検出範囲だけを所定の態様で検出処理することで、検出精度の向上と低消費電力化が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施の形態によるタッチパネル装置の構成例を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施の形態による計測前処理例を示すフローチャートである。
【図3】本発明の一実施の形態によるセンサ面全体の計測例を示す説明図である。
【図4】本発明の一実施の形態によるセンサ面を分割した場合の計測例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施の形態によるセンサ面周辺部の計測例を示す説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態による再帰処理例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施の形態によるボタン表示領域の計測例を示す説明図である。
【図8】本発明の一実施の形態によるボタン表示例(例1)を示す説明図である。
【図9】本発明の一実施の形態によるボタン表示例(例2)を示す説明図である。
【図10】本発明の一実施の形態によるボタン表示例(例3)を示す説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態による前回検出された領域を優先した計測例を示す説明図である。
【図12】本発明の一実施の形態による予測による領域設定処理例を示す説明図である。
【図13】本発明の一実施の形態による分割計測の実行処理例(例1)を示す説明図である。
【図14】本発明の一実施の形態による分割計測の実行処理例(例2)を示す説明図である。
【図15】従来のタッチパネルのアクティブ状態とアイドル状態の計測周期と電力消費の例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施の形態の例を、以下の順序で説明する。
1.装置構成例(図1)
2.計測前段階処理の流れの説明(図2)
3.センサ面全体計測処理例(図3)
4.センサ面分割計測処理例(図4)
5.センサ周辺部計測処理例(図5)
6.再帰処理の流れの説明(図6)
7.ボタン表示領域計測処理例(図7−図10)
8.前回検出領域を優先した処理例(図11)
9.予測による領域設定処理例(図12)
10.分割計測の実行例(図13,図14)
11.変形例
【0018】
[1.装置構成例]
まず、図1を参照して、本発明の一実施の形態の例のタッチパネル装置の全体構成例について説明する。本実施の形態の例においては、投影型静電容量式タッチパネルを適用したタッチパネル装置とした例としてある。但し投影型静電容量式タッチパネルに適用したのは1つの例であり、後述する変形例の欄で述べるように、他の方式のタッチパネル装置にも本発明は適用が可能である。
図1に示したタッチパネル装置は、液晶表示パネルなどの画像表示パネルの表示面の上に配置されるパネル10を備えたタッチパネル装置としてあり、パネル10の表面に接触した物体や表面に近接した物体があるとき、その接触又は近接した位置を検出する。パネル10は、透明なガラス板や樹脂フィルムなどで構成される。なお、タッチパネルを構成するパネル10は、表示パネルとは別のパネルで構成される場合の他に、画像表示を行う表示パネルと一体化されたパネルであってもよい。
【0019】
パネル10は、所定面にX方向(図1では横方向)に配置された透明電極ラインであるライン11a〜11gが、一定間隔で平行に複数配置してある。また、X方向と直交するY方向(図1では縦方向)に配置された透明電極ラインであるライン12a〜12iが、一定間隔で平行に複数配置してある。X方向のライン11a〜11gと、Y方向のライン12a〜12iとは、例えばパネル10の別の面に配置してある。パネル10の表面に物体が接触又は近接した場合には、その接触又は近接した位置の近傍のX方向のラインとY方向のラインとが交差する交点部分での静電容量が変化し、その静電容量の変化を検出して接触又は近接位置を判断するものである。このような格子状のラインの交差部分の静電容量の変化から接触位置又は近接位置を判断するものは、投影型静電容量式タッチパネルと称される。
【0020】
X方向のライン11a〜11gが配置される間隔と、Y方向のライン12a〜12iが配置される間隔とは同一間隔でなくてもよい。なお、図1はタッチパネル装置の原理を示す図であり、図1に示した本数は説明を簡単にするために少ない本数を配置した例としてあり、実際には各方向のライン数はより多くのラインが配置される。
【0021】
X方向のライン11a〜11gは、駆動部32からの検出用電圧信号が供給されるラインとして機能する。図1に示したように、駆動部32とX方向の各ライン11a〜11gとの間には、各ラインごとに個別のスイッチ21a〜21gを接続してあり、スイッチが閉状態のラインに信号が供給される構成としてある。各スイッチ21a〜21gは、制御部31により個別に開閉が制御される。
【0022】
Y方向のライン12a〜12iは、検出部33で信号状態を検出するラインとして機能する。この例の場合には、信号状態として静電容量を検出するものであり、検出部33で静電容量の変化を検出する検出処理が実行される。図1に示したように、Y方向の各ライン12a〜12iと検出部33との間には、各ラインごとに個別のスイッチ22a〜22iが接続してあり、スイッチが閉状態のラインの静電容量を検出する構成としてある。各スイッチ22a〜22iは、制御部31により個別に開閉が制御される。
【0023】
制御部31は、タッチパネル装置全体の動作を制御する制御処理部であり、パネル10に重ねられた表示パネル(図示せず)での表示を駆動する表示処理部35での表示処理状態についても制御部31の制御で実行される。あるいは、制御部31が表示の制御を行わない場合でも、制御部31が表示状態についての情報を表示処理部35から得るようにする。
【0024】
制御部31は、そのときの表示状態などに応じて、同時に測定を行う結合領域決定処理を行う処理部を備える。その結合領域決定処理部での領域決定処理に基づいて、各スイッチ21a〜21gの開閉を個別に制御して、駆動部32からの信号が供給されるX方向のライン11a〜11gを、1計測時間の間で所定のパターンで変化させる。検出部33で検出するY方向のライン12a〜12iを設定するスイッチ22a〜22iについても、1計測時間の間で所定のパターンで変化させて、静電容量を検出するY方向のライン12a〜12iを、1計測時間の間で所定のパターンで変化させる。
【0025】
例えば、スイッチ21aを閉状態にすると共にスイッチ22aを閉状態にすることで、ライン11aとライン12aとの交点付近の静電容量を検出部33が測定することになる。従って、ライン11aとライン12aとの交点位置での物体の接触又は近接の有無が検出される。このようにして、各スイッチの開閉を組み合わせることで、全ての交点位置での物体の接触又は近接の有無が検出されることになり、従来は、図15に示した1計測時間内に、全ての交点位置での物体の接触又は近接の有無を検出していた。本実施の形態の例での各スイッチの制御状態の詳細については後述するが、1つ1つのスイッチを順に開閉させて1つ1つの交点位置での測定を行う他に、一括して複数のスイッチを閉状態として、パネル上の広い領域での測定も行えるようにしてある。
【0026】
検出部33で検出された各位置での物体の接触又は近接の情報は、制御部31に送られ、制御部31から出力部34に物体が接触又は近接した位置の情報が送られて、タッチパネル装置の外部に出力される。出力部34から出力された物体が接触又は近接した位置の情報により、このタッチパネル装置を使用したアプリケーションなどを実行する機器(タッチパネル装置が組み込まれた機器)は、その接触又は近接の位置情報を使用した実行処理を行う。
【0027】
[2.計測前段階処理の流れの説明]
次に、図2のフローチャートを参照して、本実施の形態の例のタッチパネル装置で、指などの物体の接触又は接近状態を計測する場合の、その計測の前段階処理について説明する。
ここでの計測処理とは、既に図15に示したような1単位の計測周期内での1計測時間内で、各交点位置での物体の接触又は近接の有無を検出するための計測処理であり、例えば、その1計測時間内で、各交点の計測を行う前段階として行われる処理である。
【0028】
図2に従って説明すると、前段階での計測が開始されると、センサ面全体での計測処理が開始される(ステップS11)。
このセンサ面全体の計測処理は、例えば図3に示すように、各ラインに接続された全てのスイッチ21a〜21g,22a〜22iを同時に閉状態として、合計の静電容量値に相当する信号値Ssumの計測を行う。なお、図3のセンサ面全体の計測の詳細については後述する。
【0029】
そして、制御部31は、その得られた信号値Ssumについて、予め設定された閾値1と比較し、信号値Ssumが閾値1を超えたか(あるいは閾値1以上か)否か判断する(ステップS12)。閾値1は、広い領域での同時の接触又は近接の有無を判断するために設定した閾値である。
この判断で、信号値Ssumが閾値1を超えていないと判断した場合には、パネル10に接触又は近接した物体がないと制御部31が判断して、ステップS16に移り、このタイミングでの1計測時間内の計測処理を終了する。
【0030】
また、ステップS12で、信号値Ssumが閾値1を超えたと判断した場合には、センサ周辺部計測処理に移る(ステップS13)。
このセンサ周辺部計測処理は、例えば図5に示すように、パネル10の周囲端の4本のライン11a,11g,12a,12iに接続されたスイッチ21a,21g,22a,22iだけを同時に閉状態として、静電容量値に相当するエッジ部分の信号値Sedgeの計測を行う。なお、図5のエッジ部分の計測の詳細については後述する。
【0031】
そして、制御部31は、その得られた信号値Sedgeについて、予め設定された閾値2と比較し、信号値Sedgeが閾値2未満か(あるいは閾値2以下か)否か判断する(ステップS14)。閾値2は、パネルのエッジ部分での接触の有無を判断するために設定した閾値である。
この判断で、信号値Sedgeが閾値2未満であると判断した場合には、パネル10のエッジ部分が触れられていないと制御部31が判断して、ステップS15に移り、再帰処理に移行する。
また、信号値Sedgeが閾値2と同じかそれ以上である場合には、パネルのエッジ部分に何らかの物体が触れられた状態であると判断して、正しくタッチ検出できない状態であると判断して、ステップS16に移り、このタイミングでの1計測時間内の計測処理を終了する。
この正しくタッチ検出できない状態とは、具体的には、例えばタッチパネル装置を構成する機器の筐体を持つ指などが、パネル10の端部から周囲の筐体表面までかかっている状態などである。
【0032】
[3.センサ面全体計測処理例]
ここで、図2のフローチャートのステップS11での、センサ面全体での計測処理について説明する。
このセンサ面全体の計測処理は、図3に示すように、パネル10に配置された全てのラインに接続された全てのスイッチ21a〜21g,22a〜22iを同時に閉状態として、合計の静電容量値に相当する信号値Ssumの計測を行う。
この図3に示した状態を設定することで、パネル10に配置されたX方向のライン11a〜11gとY方向のライン12a〜12iとの全ての交点での静電容量の変化が加算されて、検出部33で検出されることになる。検出される信号値としては、例えば1カ所の交点だけに、小さな物体が接触した場合と、パネル10の広い面積で比較的大きな物体が接触した場合とでは、信号値が異なったものとなる。従って、センサ面全体での計測処理時の計測信号値から、どの程度の物体が接触又は近接しているのかが判断できる。その判断した物体のサイズに応じた処理例については後述する。
【0033】
[4.センサ面分割計測処理例]
図3の例では、センサ面全体を1つとして計測処理を行うようにしたが、センサ面全体をある程度の数で分割して、その分割された領域ごとに計測することも可能である。
即ち、例えば図4に示すように、X方向のライン11a〜11gをChA,ChB,ChCの3チャンネルに分割し、Y方向のライン12a〜12iをCh1,Ch2,Ch3の3チャンネルに分割し、合計で3×3の9領域に分割して計測を行う。図4の例では、4つのスイッチ21a,21b,22a,22bだけを閉状態として、ChAとCh1の交点の領域で接触又は接近を検出している状態を示している。
このセンサ面分割計測処理が行われる場合の例については、後述する。
【0034】
[5.センサ周辺部計測処理例]
次に、図2のフローチャートのステップS14での、パネルのエッジ部分での計測処理について説明する。
図5は、このエッジ部分での計測処理を示した図である。このときには、パネル10の周囲端の4本のライン11a,11g,12a,12iに接続されたスイッチ21a,21g,22a,22iだけを同時に閉状態として、静電容量値に相当するエッジ部分の信号値Sedgeの計測を行う。図5の例では、4辺の各端のラインを1本ずつ選ぶ構成としたが、例えば辺の各端の複数本のラインを選んで計測に使用するようにしてもよい。
この図5に示す状態での計測を行うことで、例えばタッチパネル装置を構成する機器の筐体を持つ指などが、パネル10の端部から周囲の筐体表面までかかっていて、静電容量変化が正しく検出できない状態が排除できる。
【0035】
[6.再帰処理の流れの説明]
次に、図2のフローチャートのステップS15となった場合に実行される再帰計測処理について、図6のフローチャートを参照して説明する。
再帰計測処理が開始されると、まず、領域分割と計測領域の優先計測順位が決定される。
即ち、例えば現在表示処理で実行中のアプリケーションに基づいて、接触又は近接を領域分割して計測する場合と、接触又は近接を優先して特定の領域を計測する場合とがあり、いずれの領域計測を行えばよいか判断される(ステップS21)。接触又は近接を領域分割して計測する場合とは、例えば図4に示したようなパネル全体を均一に分割して計測する場合や、表示されるボタンなどに応じて分割する場合など、実行中のアプリケーション(ユーザーインターフェース)に応じて設定される。
【0036】
ステップS21の判断に基づいて、計測する対象領域が順次測定され(ステップS22)、接触又は近接に相当する状態の信号検出があるか否か判断される(ステップS23)。接触又は近接に相当する状態の信号検出がない場合には、ステップS22に移り、次の対象領域の測定が行われる。
【0037】
そして、ステップS23で接触又は近接に相当する状態の静電容量が検出された場合には、検出した領域をさらに分割して再計測すべきか否か判断される(ステップS24)。再計測する必要がある場合には、該当する領域について、さらに細かく分割するか、或いはその領域内の交点につて1ライン単位で計測を行う再帰計測処理を行う(ステップS25)。
そして、ステップS24で再計測が必要ない場合、及び、ステップS25で再帰計測処理が行われた場合に、順次計測した信号合計値が、[分割前の信号合計値−閾値]以上になるか、又は分割領域を全て計測処理したか否か判断する(ステップS26)。そして、順次計測した信号合計値が、[分割前の信号合計値−閾値]以上になる場合と、分割領域を全て計測処理した場合には、ここでの1計測時間での処理を終了する。
【0038】
順次計測した信号合計値が、[分割前の信号合計値−閾値]以上でなく、かつ、まだ分割領域で測定していない領域がある場合には、ステップS22に移り、次の対象領域の測定が行われる。
【0039】
[7.ボタン表示領域計測処理例]
次に、図6のフローチャートで、ステップS21の現在表示処理で実行中のアプリケーションに基づいて測定領域を設定する場合で、表示パネルでのボタン表示に基づいて測定領域を設定する場合の例を、図7に示す。
図7の例では、表示パネル上に、操作ボタン表示10Bがあり、その操作ボタン表示10Bと重なる領域を、測定領域として優先的に設定した例である。この例では、ライン11a,11b,11cと、ライン12a,12b,12cとで成される交点の領域を、優先的に測定する領域としてあり、これらのラインに接続されたスイッチ21a,21b,21c,22a,22b,22cを閉状態としてある。このようにボタン表示部分を優先的に測定するように設定したことで、ボタン表示された領域が触れられたか否かが、全ての領域を判断することなく、迅速に判断できるようになる。
【0040】
図7の例では、1つの操作ボタン表示10Bが行われる場合の例であるが、複数の操作ボタン表示が行われている場合には、その表示されたボタンについての優先順位を決めて、その優先順位に基づいて、ステップS22での測定する領域を決定すればよい。
例えば、図8に示すように、メニューボタン41,モードボタン42,Aボタン43,Bボタン44の4つのボタンがパネル上に表示されているとする。このとき、最初に押される可能性が高いメニューボタン41を第1優先領域とし、次に押される可能性が高いモードボタン42を第2優先領域とする。さらに、これのボタン41,42よりも押される可能性が低いボタン43,44を、それぞれ第3優先領域、第4優先領域とする。
このようにしたことで、それぞれのボタンごとに適切かつ迅速に、それぞれの領域が触れられたか否かが判断できるようになる。
【0041】
図9の表示例は、別のボタン表示の例である。
この例では、第1階層ボタン表示領域52に4つのボタン51a,51b,51c,51dを表示させ、第2階層ボタン表示領域52に4つのボタン52a,52b,52c,52dを表示させた例である。この表示例の場合には、第1階層ボタン表示領域51内の4つのボタン51a,51b,51c,51dを、第1優先領域として測定する。そして、その測定で接触又は近接が検出されない場合に、第2階層ボタン表示領域52内の4つのボタン52a,52b,52c,52dを、第2優先領域として測定する。第2優先領域でも接触又は近接が検出されない場合には、ボタン表示領域以外の領域まで測定を行うようにしてもよい。
【0042】
図10の例は、さらに別のボタン表示の例である。
この例の場合には、「YES」ボタン61aと「NO」ボタン61bからなる操作される可能性が高い第1優先ボタン領域61と、ウィンドウを閉じるボタン62aからなる操作される可能性が低い第2優先ボタン領域62とを設定してある。
この表示例の場合には、第1優先ボタン領域61内の各ボタン61a,61bの領域を順に測定した後、第2優先ボタン領域62内のボタン62aの領域を測定する。第2優先領域でも接触又は近接が検出されない場合には、ボタン表示領域以外の領域まで測定を行うようにしてもよい。
【0043】
[8.前回検出領域を優先した処理例]
優先順位で領域設定する別の例として、前回の計測時間に接触又は近接が検出された位置の近傍を、優先的に測定する領域とした場合の例について説明する。なお、ここでの前回とは例えば1計測周期前である。
図11は、この場合の例であり、例えば前回接触が検出された位置として、タッチ位置10Tが検出されたとする。このとき、図11に示すように、そのタッチ位置10Tの領域を一括して測定するように、スイッチ21b、21c、22b,22c,22dを閉状態として測定する処理を最初に行う。
この前回接触が検出された領域で接触又は近接が検出されない場合には、それ以外の領域についても測定を行う。
【0044】
[9.予測による領域設定処理例]
図11の例では前回検出された領域をそのまま優先的に測定したが、表示を実行するアプリケーションによっては、前回検出された接触位置から、移動させた領域を、優先的に測定する領域としてもよい。
即ち、例えば図12に示したように、前回測定された接触位置71から、表示の変化や接触位置の変化履歴などに基づいて、接触状態の変化mがある可能性が高い予測位置72を制御部31が判断したとする。このとき、この予測された接触位置72を含む比較的狭い第1優先測定領域73を設定し、さらに、その第1優先測定領域73の外側に第2優先測定領域74を設定する。
そして、第1優先測定領域73で接触又は近接を検出できない場合に、第2優先測定領域74で接触を検出し、第2優先測定領域74でも接触又は近接を検出できない場合に、さらにそれ以外の領域を測定する。
【0045】
[10.分割計測の実行例]
次に、図6のフローチャートのステップS26で実行される、分割前の計測信号値、つまり図3に示した全面での計測で得られた信号値と、各分割領域での信号との比較で、計測を終了する場合の処理例について説明する。
図13(a)に示したように、まず分割前のパネル全面で行った計測信号値Ssumを保持する。計測信号値Ssumは、図13(a)に示すように、チャンネルCh2の領域を指で触れた場合の値であるとする。
【0046】
このとき、図13(b)に示したように、例えばチャンネルCh1から順に測定するとする。チャンネルCh1の領域で検出した信号値S1は、[計測信号値Ssum−閾値Sth]以下となり、このチャンネルCh1の領域はタッチされていないと判断する。
そして、図13(c)に示したように、チャンネルCh2の領域で信号値S2が検出されたとする。このとき、信号値S1+S2が、[計測信号値Ssum−閾値Sth]を超えるか同等の状態となり、接触位置の検出が終了したとして、この周期での計測を終了する。
【0047】
次に、図14を参照して、タッチパネル上の接触状態に応じて、測定状態を細かく分割する場合と、分割する必要のない場合の例について説明する。
まず、図14(a)に示した例は、手のひらなどで比較的広い領域が同時に触れられた場合の例である。この場合には、測定信号値Sが、比較的信号レベルが大きな同時接触検出用の閾値Sth1以上であり、それ以上分割して測定する必要なしと判断して、この周期での計測を終了する。
【0048】
図14(b)の例では、指先で触れられている場合の信号値Sが得られた場合の例である。この場合には、測定信号値Sが、閾値Sth2以上であり、閾値Sth1以下となり、その範囲内を分割して再測定することが行われる。図14(b)の例では、各チャンネルCh1,Ch2,Ch3,Ch4のいずれの分割領域であるか再測定されることになる。
【0049】
図14(c)の例は、スタイラスでパネル上を触れられた状態を計測して、信号値Sが得られた場合の例である。この場合には、パネル上の非常に狭い1点だけが触れられた可能性が高く、検出精度を上げて、各チャンネルCh1,Ch2,Ch3,Ch4の領域をさらに細かい領域に分割して再測定を行う。例えば、各領域内の各交点ごとに順に測定する処理を行う。このようにして、スタイラスなどでふれられた場合にも対処が可能になる。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態の処理を行うことで、1計測周期内での測定を、短時間に少ない消費電力で行うことが可能になる。即ち、最初にパネル全体で測定して、全く接触や近接がない状態や、あるいは、位置検出ができない程度に広い面積の同時接触がある状態では、それ以後の細かい領域での測定が行われず、短時間に少ない消費電力で測定が終了する。
【0051】
そして、パネル全体での測定でいずれかの位置に接触又は近接している可能性があると判断された場合には、そのときのユーザーインターフェース(アプリケーション)に応じた結合状態の分割領域設定と、優先順位設定で測定が行われる。その分割領域での測定で得た値の合計値と、全体の測定値とが比較されて、それ以上測定する必要がない(即ち測定した領域以外に接触位置がない)と判断されると、そこで測定処理が終了するので、その点からも、短時間に少ない消費電力で測定が終了する。従って、測定に要する時間や消費電力の低減と、測定精度の向上とを両立できるようになる。
【0052】
また、操作される可能性が高い領域から優先して測定領域を設定することでも、短時間に測定が終了する可能性が高くなる。また、操作を予測することでも、同様の効果が得られる。
【0053】
また、本実施の形態においては、パネル全体で測定した後、パネルの周囲の4辺だけでの測定を行うようにしたので、パネルの外側の筐体と接した状態で触れられた検出できない状態での接触であるときについても、以後の測定が行われない。従って、そのような状態であるとき、測定が即座に終了し、無駄な測定が行われることがなくなる。
【0054】
[11.変形例]
なお、上述した実施の形態では、ラインをパネル上に格子状に配置した上で、静電容量の変化で、接触又は近接を検出するタッチパネル装置に適用したが、その他の信号測定を行う方式のタッチパネル装置に適用してもよい。
例えば、透明電極をパネル上に配置して、指などの接触又は近接による抵抗値の変化に基づいた電圧変化を測定する方式の、抵抗膜式タッチパネルにも、本発明は適用可能である。あるいは、パネルに物体が接触した際の圧力を検出する圧力式(感圧式)タッチパネルにも、本発明は適用可能である。あるいはまた、これらの方式以外の、その他の方式のタッチパネルにも本発明は適用可能である。
また、上述した実施の形態では、測定用信号を供給するラインと、検出信号を得るラインの選択で、検出位置を選定する方式とした。これに対して、例えば、格子状に配置した各ラインの交点などにスイッチを設けて、その交点のスイッチの選択で、検出位置を選択する方式のタッチパネル装置に適用してもよい。
また、上述した実施の形態では、タッチパネル装置の制御部で、本実施の形態の処理を行うように予め組み込んだ専用のタッチパネル装置として構成したが、例えば、タッチパネル付きのコンピュータ装置などの汎用の装置に適用してもよい。この場合には、そのコンピュータ装置のタッチパネルの制御プログラムとして、図2及び図6のフローチャートに示した処理方法を実行するプログラムを実装させることで対処が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10…パネル、11a〜11g…X方向のライン(透明電極ライン)、12a〜12i…Y方向のライン(透明電極ライン)、21a〜21g,22a〜22i…スイッチ、31…制御部、32…駆動部、33…検出部、34…出力部、35…表示処理部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パネルの検出範囲で、物体の前記パネルへの接触又は近接を検出する検出部と、
前記パネルの全体で、前記検出を実行させ、その検出結果に応じて、前記検出範囲を制御する制御部と、
前記制御部で制御される検出範囲で、物体が接触又は近接した位置を判定して出力する出力部とを備えた
タッチパネル装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記パネルの所定面に格子状に形成されたラインのライン毎又は交点毎に、物体の前記パネルへの接触又は近接を検出し、
前記制御部は、前記ラインの全体又は前記交点の全体を結合して前記検出を実行させ、その検出結果に応じて、前記検出部で検出するライン又は交点の検出範囲を制御し、
前記出力部は、前記制御部の制御される検出範囲のライン又は交点で、物体が接触又は近接した位置を判定して出力する
請求項1記載のタッチパネル装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記検出範囲内でライン又は交点を結合する状態を決定する結合領域決定処理部を備えた
請求項2記載のタッチパネル装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記検出範囲内の複数のライン又は交点を結合する状態を、ユーザーインターフェースに応じた結合状態に設定した
請求項3記載のタッチパネル装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記検出部で検出する範囲内の複数のライン又は交点を、前回検出した領域に応じた結合状態に設定した
請求項3記載のタッチパネル装置。
【請求項6】
前記制御部は、パネル全体又は決められた検出範囲内で、ラインの全体又は交点の全体を結合して前記検出部で検出を実行した際の検出信号値と、その範囲内を分割して前記検出部で検出を実行した際の分割領域の検出信号値の加算値とを比較し、分割領域の検出信号値の加算値が、全体の検出信号値とほぼ同等か超えた場合に、他の分割領域の検出を行わないように制御する
請求項4又は5記載のタッチパネル装置。
【請求項7】
前記制御部は、パネル全体又は決められた検出範囲内で、ライン全体又は交点全体を結合して前記検出部で検出を実行した際の検出信号値が、第1の閾値以上である場合に、前記検出範囲内を分割した領域の検出を行わないように制御する
請求項4又は5記載のタッチパネル装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記ラインの全体又は前記交点の全体を結合した前記検出部での検出の他に、パネルの周囲端のライン又は交点の検出を前記検出部で実行させ、パネルの周囲端のライン又は交点の検出値が第2の閾値以上である場合に、前記検出部での検出範囲を決めて行う検出を行わないように制御する
請求項1〜7のいずれか1項に記載のタッチパネル装置。
【請求項9】
パネルの検出範囲で、物体の前記パネルへの接触又は近接を検出する検出処理と、
前記パネルの全体で、前記検出を実行させ、その検出結果に応じて、前記検出範囲を制御する制御処理と、
前記制御処理で制御される検出範囲で、物体が接触又は近接した位置を判定して出力する出力処理とを行う
タッチパネル検出方法。
【請求項10】
前記検出処理は、パネルの所定面に格子状に形成されたラインのライン毎又は交点毎に、物体の前記パネルへの接触又は近接を検出し、
前記制御処理は、前記ラインの全体又は前記交点の全体を結合して前記検出処理を実行させ、その検出結果に応じて、検出するライン又は交点の検出範囲を制御し、
前記出力処理は、前記制御処理で決められた範囲で、ライン又は交点で物体が接触又は近接した位置を判定して位置情報を出力する
請求項9記載のタッチパネル検出方法。
【請求項11】
前記制御処理は、前記検出範囲内でライン又は交点を結合する状態を決定する結合領域決定処理を行う
請求項10記載のタッチパネル検出方法。
【請求項12】
前記検出範囲内の複数のライン又は交点を結合する状態を、ユーザーインターフェースに応じた結合状態に設定した
請求項11記載のタッチパネル検出方法。
【請求項13】
検出する範囲内の複数のライン又は交点を、前回検出した領域に応じた結合状態に設定する
請求項11記載のタッチパネル検出方法。
【請求項14】
パネル全体又は決められた検出範囲内で、ライン全体又は交点全体を結合して前記検出処理を実行した際の検出信号値と、その範囲内を分割して前記検出処理を実行した際の分割領域の検出信号値の加算値とを比較し、分割領域の検出信号値の加算値が、全体の検出信号値とほぼ同等か超えた場合に、他の分割領域の検出を行わないように制御する
請求項12又は13記載のタッチパネル検出方法。
【請求項15】
パネル全体又は決められた検出範囲内で、ラインの全体又は交点の全体を結合して前記検出処理を実行した際の検出信号値が、第1の閾値以上である場合に、前記検出範囲内を分割した領域の検出を行わないように制御する
請求項12又は13記載のタッチパネル検出方法。
【請求項16】
前記ラインの全体又は前記交点の全体を結合した検出処理の他に、パネルの周囲端のライン又は交点の検出処理を実行させ、パネルの周囲端のライン又は交点の検出値が第2の閾値以上である場合に、検出範囲を決めて行う検出処理を行わないように制御する
請求項9〜15のいずれか1項に記載のタッチパネル検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−113485(P2012−113485A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−261359(P2010−261359)
【出願日】平成22年11月24日(2010.11.24)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】