説明

タッチプローブ

【課題】細穴の奥や突起部を有するような被測定物でも高精度、かつ高速に測定を行うタッチプローブを提供する。
【解決手段】鉛直下方に延びて、材料側面に測定子14を接触させて該材料の位置を検出するタッチプローブ1において、柱状に形成された鉛直方向に延びるプローブ本体12と、前記プローブ本体12の先端に取り付けられた測定子14と、前記測定子14の上部であって、プローブ本体長手方向に形成された二つの切れ込み18a、18bと、該二つの切れ込み18a、18bにより、連結部が形成され、該連結部を支点20a、20bとして可動する可動部分と、前記支点20a、20bを挟むように形成される差動変圧部とを備え、互いに直交する2方向の変位を検出可能とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチプローブに係り、特に、3次元座標測定機や工作機械等に取り付けられ、被測定物の形状等を測定する場合に用いられるタッチプローブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被測定物の形状や寸法等の測定を行う測定機として3次元座標測定機等の測定機が知られている。このような測定機には、座標検出や位置検出を行うために、被測定物との接触を検出するタッチプローブが備えられている。
【0003】
また、従来タッチプローブによってワークの測定を行う場合は、プローブの被測定物への接触を電気的導通により検知する方法や、被測定物に対するプローブの接触によって接点が離れる構造として検知するトリガー方式、あるいは接触によるプローブの変位量をトランスデューサを用いて測定するアナログ式のもの等が用いられており、別に設けられたスケールによりプローブ信号と組み合わせて測定が行われていた。
【0004】
例えば、特許文献1には、検査されるべき被測定物と接触する探子を運ぶアームとを含む可動構造体の少なくとも一部分が長手軸線に沿って実質的に配置された中心位置をとりやすく構成され、探子が被測定物に接触したときの可動構造体の位置に依存する信号を検出する検出手段を備えた被測定物の直線寸法を検査するプローブが開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、スピンドルの上に取り付けられたプローブが工作物接触先端部を持つ変位可能なスタイラスを有し、このスタイラスの変位を計測するためのトランスデューサがプローブ内に備えられた3次元座標測定機が記載されている。
【0006】
また、特許文献3には、互いに直交する3方向の案内を形成する各平行四辺形案内機構に3つの測定機構が取り付けられ、この測定機構を用いてプローブヘッドの案内された部分の変位量を3つの座標方向で連続的に求めるようにした座標測定装置のプローブヘッドが開示されている。
【0007】
またさらに、特許文献4には、先端に接触子を有し、測子レバーの回動による変位を検出する検出器を有する極小内径測定器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平4−505217号公報
【特許文献2】特表2008−509386号公報
【特許文献3】特開平8−43066号公報
【特許文献4】特開昭61−237010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のトリガー方式のプローブにおいては、プローブが被測定物であるワークに接触したときの信号により、スケールの値を読み込んで測定値としており、システムの応答性にもよるが、高精度な測定を行うためには、移動速度を落とさなければならないが、移動速度を落とすと測定効率が悪化するという問題がある。
【0010】
なお、トランスデューサを用いたタッチプローブの場合、被測定物への接触に関しては、高速で接触させても、プローブの移動停止タイミングでのスケール値、プローブ変位を読み取れば、高精度測定は可能であるが、トランスデューサを組み込んだタッチプローブは、本体が大きくなり、細穴の奥、あるいは突起のあるようなワークを測定する場合は、プローブ(スタイラス)を長くして、タッチプローブ本体との干渉を逃げた状態でワークの接触検知を行わなければならない。
【0011】
従って、トランスデューサ部の誤差量もスタイラスの長さに比例して大きくなり、高精度の測定が困難になるという問題がある。
【0012】
また、接触検知においても、スタイラス(またはプローブ)が非常に長い場合、微小に横方向に変位しても、測定検知する部分が離れているため、すぐにその検知を察知できない。またプローブが長いとその長さに応じて慣性も大きくなることから、検知に要する接触圧は必然的に大きくなる。
【0013】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、上記問題を解決し、細穴の奥や突起部を有するような被測定物でも微小変位で高精度、かつ高速に測定を行うことができるタッチプローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するために、本発明のタッチプローブは、鉛直下方に延びて、材料側面に測定子を接触させて該材料の位置を検出するタッチプローブにおいて、柱状に形成された鉛直方向に延びるプローブ本体と、前記プローブ本体の先端に取り付けられた測定子と、前記測定子の上部であって、プローブ本体長手方向に形成された二つの切れ込みと、該二つの切れ込みにより、連結部が形成され、該連結部を支点として可動する可動部分と、前記支点を挟むように形成される差動変圧部と、を備えたことを特徴とするタッチプローブを提供する。
【0015】
これにより、細穴の奥や突起部を有するような被測定物でも高精度、かつ高速に測定を行うことが可能となる。
【0016】
また同様に前記目的を達成するために、本発明のタッチプローブは、鉛直下方に延びて、材料側面に測定子を接触させて該材料の位置を検出するタッチプローブにおいて、四角柱形状に形成されたプローブ本体と、前記プローブ本体の先端部に形成された、被測定物と接触する測定子と、前記プローブ本体の一つの側面の前記測定子の上部に、切れ込みにより形成された板状の部分と、該板状の部分が前記プローブ本体と細い部分のみで連結するように形成された支点とから成り、該支点を中心として変位可能に構成された第一の変位機構と、該第一の変位機構の上部で、前記第一の変位機構の板状の部分が形成された前記プローブ本体の側面と90°異なる側面に、切れ込みにより形成された板状の部分と、該板状の部分が前記プローブ本体と細い部分のみで連結するように形成された支点とから成り、該支点を中心として前記第一の変位機構とは90°異なる方向に変位可能に構成された第二の変位機構と、前記第一の変位機構に設けられた第一の変位検出部と、前記第二の変位機構に設けられた第二の変位検出部と、を備え、互いに直交する2方向の変位を検出可能としたことを特徴とするタッチプローブを提供する。
【0017】
これにより、同様に、細穴の奥や突起部を有するような被測定物でも高精度、かつ高速に測定を行うことが可能となる。
【0018】
また、一つの実施態様として、前記プローブ本体に形成される前記切れ込みは、一つの鉛直方向の柱状部材に対して、外周から軸心に向けて形成された第一の溝と、前記第一の溝に繋げて軸心上を長手方向に向けて形成された第二の溝と、前記第一の溝より下方に位置し、前記第一の溝とは反対側面から形成した第三の溝と、前記第三の溝に繋げて第二の溝と平行に、軸心上を上方長手方向に向けて形成された第四の溝と、によって形成され、前記第二の溝と、第四の溝に挟まれた残り部分で支点を形成することが好ましい。
【0019】
また、一つの実施態様として、前記プローブ本体における前記切れ込みまたは前記溝の加工は、ワイヤ放電加工により形成されたことが好ましい。
【0020】
このように、プローブ本体と測定子とは一体成形されるので、測定子の脱落を防止することができ、測定子の表面は極めて平滑となり一定の品質を保つことができる。また、高速移動が可能であり高速の測定を行うことができる。
【0021】
また、同様に前記目的を達成するために、本発明のタッチプローブは、鉛直下方に延びて、材料側面に測定子を接触させて該材料の位置を検出するタッチプローブにおいて、柱状に形成された鉛直方向に延びるプローブ本体と、前記プローブ本体の先端に取り付けられた測定子と、前記プローブ本体は、プローブ内に前記測定子の接触を検知する検知部分を有し、前記検知部分は、対向する部材を嵌合し、該嵌合部は前記対向する部材を略中央で連結する連結ピンを有し、前記連結ピンを支点として傾動し、前記連結ピンを挟む形で差動変圧部を有することを特徴とするタッチプローブを提供する。
【0022】
これにより、同様に、細穴の奥や突起部を有するような被測定物でも高精度、かつ高速に測定を行うことが可能となる。
【0023】
また一つの実施態様として、前記プローブ本体先端に取り付けられた前記測定子は、前記プローブ本体の外径よりも大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
以上説明したように、本発明によれば、細穴の奥や突起部を有するような被測定物でも高精度、かつ高速に測定を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】(A)は本発明に係るタッチプローブの一実施形態の概略を一部その内部がわかるように示した斜視図であり、(B)はプローブ本体の他の例を示す斜視図である。
【図2】タッチプローブの軸方向に沿った断面図である。
【図3】測定子の中心上に支点がない場合の問題点を示す説明図である。
【図4】測定子と支点を単純化して示す説明図である。
【図5】図2中のV−V線に沿った断面図である。
【図6】図2中のVI−VI線に沿った断面図である。
【図7】タッチプローブの、軸に沿った、図2とは軸の回りに90°方向の異なる断面図である。
【図8】図7中の円VIIIで示す部分を拡大して示す拡大図である。
【図9】被測定対象として突起物のついたワークを測定する場合を、本発明と従来とで比較した説明図であり、(A)は本発明、(B)及び(C)は従来の場合を示す。
【図10】二つの部材を嵌合させて製作したプローブ本体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るタッチプローブについて詳細に説明する。
【0027】
図1(A)は、本発明に係るタッチプローブの一実施形態の概略を一部その内部がわかるように示した斜視図である。
【0028】
図1(A)に示すように、本実施形態のタッチプローブ1は、円筒形のプローブ本体カバー(以下、単にカバーという)10と、カバー10内部に配置されたプローブ本体(スタイラス)12と、プローブ本体12の先端に設けられた球状の測定子14と、プローブ本体12の上部に設けられた逃げ機構16とを備えて構成されている。
【0029】
なお、図1(A)では、カバー10は、図の右側の方のみ表示して、その前面から左側の方はカバー10を削除して、カバー10の内部のプローブ本体12の構造が見えるようにした形で表現している。
【0030】
カバー10の上端部には逃げ機構16が形成されているが、逃げ機構16については後述する。一方、カバー10の下端は開口となっており、カバー10下端の開口から測定子14が露出して、測定子14が測定対象に接触するようになっている。
【0031】
プローブ本体12は、基本的に四角柱形状を有しているが、図1(B)に図1(A)の符号Cの部分の他の例を示すようにプローブ本体12は円筒(円柱)形状であってもかまわない。プローブ本体12下端の測定子14が設けられた部分のすぐ上の部分には、切れ込み18aによってその一面が板状となり、その板状部分の中央付近で細い連結部でのみこの四角柱本体と繋がっている部分が形成されている。この細い連結部を支点20aということとする。すなわち、切れ込み18aによって形成された板状の部分は、この支点20aを中心としてその回り(上下)に矢印Aのように変形(曲げ変形)し、傾動可能となっている。このように支点20aと板状の部分により第一の変位機構が形成されている。
【0032】
また、プローブ本体12の、切れ込み18aによって支点20aが形成された部分の上部には、切れ込み18aが形成された四角柱の面と90°異なる面に切れ込み18bが形成され、この切れ込み18bによってその面に板状の部分が形成され、その板状の部分の中央部には四角柱本体と連結するよう細く形成された支点20bが形成されている。そして、切れ込み18bによって形成された板状の部分はこの支点20bを中心としてその回り(上下)に矢印Bのように変形(曲げ変形)し、傾動可能となっている。このように支点20bと板状の部分により第二の変位機構が形成されている。
【0033】
なお、図1(B)に示すように、プローブ本体12を円筒(円柱)形状とした場合には、切れ込み18bによって形成される板状部分は、一方(内側)の面は平面で他方(外側)の面は円柱の側面として曲面となる。
【0034】
このように、四角柱状のプローブ本体12の90°異なる側面にそれぞれ形成された支点20a及び支点20bによってプローブ本体12は、それぞれ90°異なる方向(XY方向)に曲げ変形し、傾動可能に構成されている。
【0035】
そして測定子14はプローブ本体12と一体的に形成されているため、測定時に測定子14が被測定対象に接触すると、プローブ本体12がそれぞれ支点20a、20bを中心として矢印A、Bで示したようにそれぞれ90°異なる方向に曲げ変形するようになっている。
【0036】
また、ここでは図示を省略したが、後述するように、この支点20a、20bの部分には変位検出手段としてのトランスデューサが設置されていて、プローブ本体12のXY方向の曲げ変形を検出するようになっている。このとき、矢印A、Bで示すプローブ本体12の変形方向は、円筒形のカバー10の軸方向の回りに90°異なる方向となっているため、カバー10の軸方向に垂直な平面上の360°の任意の方向へのプローブ本体12の変形がトランスデューサで検出されるようになっている。そして、トランスデューサによりプローブ変位量は電気信号に変換される。
【0037】
図2に、タッチプローブ1の軸方向に沿った断面図を示す。
【0038】
図2に示すように、円筒形のカバー10の内部にプローブ本体12が配置され、プローブ本体12の下端部に設けられた測定子14はプローブ本体12よりも大きく、カバー10下端の開口から露出している。プローブ本体12の上部には逃げ機構16が配置されている。逃げ機構16について詳しくは後述する。
【0039】
また、プローブ本体12には、測定子14が被測定対象に接触してプローブ本体12が変形したことを検出する変位検出部25a、変位検出部25bが、軸方向に垂直な平面上で互いに90°の角をなす方向の曲げを検出するように、XY方向に直交させて上下に並べて配置されている。
【0040】
例えば下側に形成された変位検出部(第一の変位検出部)25aは、プローブ本体12に切れ込み18aを形成して細い部分のみで連結するように形成された支点20aと、この支点20aの回りでのプローブ本体12の変位を検出するためのコア22aと、コア22aの回りを捲くコイル24aとから成る差動トランス式のトランスデューサによって構成される。
【0041】
なお、切れ込みを形成して細い部分のみで連結された支点は、先端に取り付けられた測定子の中心を通る鉛直軸線上に形成されている。
【0042】
仮に、支点部分を測定子の中心を通る鉛直軸線上から外れた部分に形成した場合は、測定子の接触において、支点と作用点の距離が変わることがある。
【0043】
図3を用いて、測定子の中心上に支点がない場合の問題点を説明する。図3に示すように、支点Sが測定子14の中心を通る鉛直軸線上から外れた位置にあるとする。測定対象に対して測定子14が右側から接触する場合は、支点Sと、測定子14に対して−Fの力が作用する作用点との距離d1は、略その高低差であるLである。一方、測定子14がその反対側から被測定対象に接触する場合は、支点Sと、測定子14に対して+Fの力が作用する作用点間との距離d2は、測定子14の直径2rを考慮して、d2=√(L+4r)となる。ただし、ここで記号√(*)は、*の平方根を表す。
【0044】
このように、測定子14の軸線上に支点Sがない場合は、測定子14の大きさrや、スタイラス(またはプローブ)の外径によって感度が変化し、感度よく測定することができない。支点Sを測定子14の軸線上に配置することで、測定子14にかかる微小な変位を精度よく検知することが可能となる。
【0045】
図4に、測定子14と支点Sを単純化して示す。図4に示すように、本実施形態のように支点Sが下の方にある場合と上部の逃げ機構16に支点S’がある場合とを比較する。このとき、測定子14が測定対象に接触して同じ角θだけ測定子14が各支点S、S’に対して移動したとする。上部の逃げ機構16に支点S’がある場合には、測定子14が測定対象に接触して動く作動距離はΔx1であるが、下の方に支点Sがある場合には、その作動距離はΔx2となり、図に示すようにΔx1よりも非常に小さくなる。このように、本実施形態においては、長軸タイプのセンサであっても、センサが検知する作動距離が非常に小さくて済み、高感度の測定が可能となる。
【0046】
なお、図2の断面図では、プローブ本体12の下側に配置されたトランスデューサ(第一の変位検出部25a)の構造が断面で表されている。従って、これの上側に配置された変位検出部(第二の変位検出部)25bのトランスデューサのコア22bは、これとは軸の回りに90°の角をなすように配置されている。従って、下側の変位検出部25aのトランスデューサと上側の変位検出部25bのトランスデューサは、互いに90°の角をなす方向のプローブ本体12の変位を検出し、これらを合わせて軸に垂直な平面上で360°方向の変位を検出することができるようになっている。
【0047】
また、プローブ本体12の上部に配置される逃げ機構16は、逃げ機構16を覆い保護する外枠11のフランジ部11aに固定された球状のガイド26と、カバー10の上端に外側に向かって形成された丸棒28とから構成されている。また、カバー10の上部は、バネ30によって下に付勢されている。これにより、通常は丸棒28が一対のガイド26の間に挟まれて位置決めされるようになっている。
【0048】
この逃げ機構16をさらに詳しく説明するために、図2中のV−V線に沿った断面図を図5に示す。
【0049】
図5に示すように、カバー10の上端から、3本の丸棒28が互いに120°の角をなす方向に配置され、各丸棒28は、それぞれ二つずつ対をなして配置された球状のガイド26、26の間にバネ30(図2参照)によって上から付勢されて位置決めされ、固定されている。
【0050】
逃げ機構16は、測定子14が被測定対象と接触したときの衝撃により、プローブ本体12中に設けた変位検出部25a、25bやプローブ本体12自体が破損されるのを防止するために、その衝撃を逃がすための機構である。
【0051】
すなわち、測定子14が被測定対象であるワーク等と間違いで衝突したような場合には、プローブ本体12が上方向に移動してバネ30を押し上げて衝撃を吸収することにより、変位検出部25a、25bやプローブ本体12を保護している。プローブ本体12が上に移動してバネ30を押し上げると、カバー10とともに丸棒28も上に持ち上がり、ガイド26から離れる。
【0052】
そして、衝突が解消されたときには、バネ30の付勢力によって丸棒28は下に移動し、二つずつ対になったガイド26の間に丸棒28が落ち込むことによってまた元の位置に位置決めされるようになっている。このように、逃げ機構16は、衝突時の衝撃を吸収してプローブ本体12を安全に逃がすとともに、その後元の位置に復元させる逃げ再現機構を構成している。
【0053】
なお、衝突時には、丸棒28とガイド26との接点がはずれて電気的に衝突を検知できるようになっている。また、このように逃げ機構16は、接点構造を有しており、逃げ機構動作時には、異常として変位検出部25a、25bは変位の読み込みを行わないようにしている。
【0054】
このように、逃げ機構をプローブ上部に設け、変位検出部を逃げ機構よりも下側のプローブ内に設けることで、変位検出部に対する異常な負荷がかかった場合に逃げ機構が作動して、異常負荷を検知することもあるが、仮に変位検出部が何らかの誤作動があって接触を検知しなくても、逃げ機構によって動作を止めることも可能である。
【0055】
例えば、200mmのプローブの場合、逃げ機構は最も下端の測定子先端から約200mm上方に存在することになるが、変位検出部は最も下側の測定子から30mm程度の上方に形成するなどでよい。逃げ機構はプローブが200mmと長い場合、プローブの単なる移動でも慣性力によって接点が外れやすくなるため、少し安定化させるために、少し剛性を持たせて保持しなくてはならない。その分、測定子が部材と接触したことを検出する感度は鈍くなる。
【0056】
一方、プローブ内に形成した変位検出部は、測定子の接触を感度よく検出することができる。感度よく検出するセンサ部分と、感度を下げて大きな負荷がかかった場合に止めるセンサ部分とを相補的に使用することができ、深い孔部における測定においても効果的に接触を検知することができる。
【0057】
また、図2中のVI−VI線に沿った断面図を図6に示す。
【0058】
カバー10の内部に配置されたプローブ本体12には、その中間部に切れ込み18a(18b)によって支点20a(20b)が形成され変位検出部25a(25b)が形成されるが、前述したように本実施形態では、プローブ本体12は四角柱形状に形成されており、図6に示すように、その断面は四角形をしている。また、図6は断面図であるが、断面から下方を見た場合に、プローブ本体12の下側には測定子14が配置されている様子を示している。
【0059】
図7に、タッチプローブ1の、軸に沿った、図2とは軸の回りに90°方向の異なる断面図を示す。
【0060】
図7の断面図は、図2とは軸の回りに90°方向が異なる面による断面を表している。従って図7には、プローブ本体12に二つ設けられた変位検出部25a、25bのうち上側に配置された変位検出部25bの構造がわかるように示されている。
【0061】
すなわち、この上側に設けられた変位検出部25bは、プローブ本体12に切れ込み18bによって形成された支点20bに対して、コア22bとコア22bを捲くコイル24bとを有する差動トランス式のトランスデューサによって構成されている。
【0062】
図7中の円VIIIで示す部分を図8に拡大して示す。
【0063】
図8に示すように、プローブ本体12に切れ込み18bによって形成された板状の部分が変位しやすいように細く形成された支点20bの上下にそれぞれコア22bとそれを捲くコイル24bとで構成された差動トランスが配置されている。
【0064】
測定子14(ここでは図示省略)が被測定対象に接触するとプローブ本体12がこの支点20bを中心としてその上下で変形(曲げ変形)する。この変形により二つのコア22bが支点20bで傾けられ、その値をブリッジの差動方式で読み取り、変位を検出するように構成されている。
【0065】
このように、トランスデューサは、細い支点を中心として、この支点を挟むように一対で形成されていることで、接触検知における検知誤差をなくしている。
【0066】
例えば、一対のトランスデューサではなく、引用文献4に示すように、支点を挟んで測定子と反対側に一つだけのトランスデューサを装着した場合を想定する。このとき、装置系の微小な振動によって、トランスデューサは絶えず微小ノイズがのったとしても、その微小ノイズは接触を検知したのか、それとも、単にノイズであるのか、その判断は難しい。
【0067】
また、プローブの熱変形や、他の要因によってプローブが微小に片方向に反っている場合、測定子は接触していないが、プローブの反りや変形によって検知信号が送られる場合も存在する。しかし、本願のように支点を境に、一対のトランスデューサを形成することによって、プローブの反りと、接触検知を判別することが可能となる。
【0068】
プローブが反っている場合は、支点を挟んだ双方のトランスデューサは同期した信号を出さず、片側が大きい信号を出すことになる。一方、測定子が接触した場合、プローブは支点を境に傾動するため、支点を境に、一方のトランスデューサではコイルに対してコアの距離が離れ、他方のトランスデューサは、コイルにコアが入り込み、全く逆の形態をとりながら、その変位量は同じであり同期した信号を得ることができる。このようにすることで、測定子への接触を精度よく検知することが可能となる。
【0069】
また、一対のトランスデューサは、支点を中央に挟んでプローブ長手方向に設置されることが望ましい。これにより、プローブが横方向から受ける変位に対して、支点からプローブ長手方向に距離をおいて、トランスデューサを設置することができ、微小な接触変位を精度よく検知することが可能となる。
【0070】
このような変位検出部25a及び25bをプローブ本体12の中に90°方向を変えて上下に並べて配置したことにより、軸の回りの360°方向の変位を確認することができるようになっている。
【0071】
また、プローブ本体12全体の移動量をスケール等で読み込ませ、接触したときの変位量と移動量の合算で測定値が算出されるようになっている。
【0072】
図9に、被測定対象として突起物のついたワークWを測定しようとした場合、本発明によるワーク測定時と、従来のワーク測定時を比較した図を示す。図9(A)が本発明、(B)及び(C)が従来である。
【0073】
まず、図9(A)に示すように、本発明の場合には、タッチプローブ1は、二つの変位検出部(トランスデューサ)25a、25bから測定子14までの距離は非常に短く、高精度かつ高速に測定を行うことができる。これは、変位検出部がプローブ内に存在しているからである。
【0074】
一方、従来のタッチプローブ101では、測定子114と変位検出部125との間が短く、図9(B)に符号Gで示すようにタッチプローブ101とワークWとが干渉してしまう。
【0075】
そこで、図9(C)に示すように、測定子114と変位検出部125との間を離すためにプローブ112を伸ばさなければならない。しかし、プローブ112を伸ばすと、その撓み等も大きくなり、測定誤差を生んでしまうという問題がある。
【0076】
また、測定子と変位検出部が離れているために、測定子に接触しても、その接触を感度よく測定できない。プローブ自体が長くなれば、プローブの先端に存在する測定子の微小変位は、長いプローブの慣性によって感度が低下する。結果的に慣性抵抗で、接触検知が非常に鈍くなる。
【0077】
なお、ここで本願のタッチプローブでは、測定子径は、プローブ径よりも大きい必要がある。測定子径が直径2mm球であれば、プローブ径は1.9mm程度でよい。各方位に0.5mmの隙間が生まれるが、この0.5mmの微小な変位であっても、先端付近に組み込まれたトランスデューサによって、感度よく測定することができる。
【0078】
本発明のタッチプローブ1は、このように従来の問題を解決し、従来にはない優れた効果を有している。なお、本発明に係るタッチプローブは、寸法計測のみならず、工作機械のワーク検知、工具検知等についても高速、かつ高精度に行うことができる。
【0079】
また、本発明のタッチプローブ1を製造するにあたり、ワイヤ放電加工を用いることが好ましい。
【0080】
放電加工は、電極と被加工物との間に短い周期で繰り返されるアーク放電によって被加工物表面の一部を除去する機械加工法であり、極めて硬い金属を加工することができ、特にワイヤ放電加工では、複雑で細かい形状を切り出すことができる。
【0081】
ワイヤ放電加工を用いることにより、四角柱形状の母材に対して図1に示すような切れ込み18a、18b及び支点20a、20bを有するプローブ本体12を加工することができる。
【0082】
その切り込みの形成方法としては、次の通りである。
【0083】
はじめに、支点部分を形成したい位置を特定する。その支点部分より、まず上方側において、柱の外周からプローブの略中央部に向けて半分程度の切れ込み溝を入れる。次に、先の溝に繋げて、所望の支点部分に向けてプローブの略中央軸部をプローブ長手方向下側に向けて切れ込みを入れる。もう一つの切れ込みは、先の溝加工開始点から、支点部分を挟んで下方側において、先とは反対側の側面から同様に切れ込み溝を入れる。次にその溝に繋げて、所望の支点部分に向けてプローブの略中央部軸部分をプローブ長手方向上側に向けて切れ込みを入れる。
【0084】
このようにすることで、単体のプローブに切れ込みを入れてプローブ本体を形成することができ、自動的に二つの部材を嵌合させるような形態をなし、しかも、プローブの略中心部分に連結部となる支点を形成することができる。
【0085】
これにより、トランスデューサを含む検出部を含みながらも、外径は一様にすることが可能となる。プローブの外径がプローブ長手方向に段部を形成することなく、略一様な直線的な形状とすることで深い穴であっても、プローブを差し入れて内径測定しても、孔のどこかの部分で形状的に干渉して測定できないということはなく、またプローブが部材内で衝突するといった問題も回避することが可能となる。
【0086】
また、支点をプローブ軸の中央部に形成することが可能となるため、測定子が接触する方向によらず、安定した感度を保つことができる。
【0087】
さらに、同一部材に対して切り込みを入れて形成されているため、熱膨張するにしても一様に変化することになり、例えば異種の材料の接合部が影響することで変位するバイメタルのような組み立て部品特有の問題も存在しない。
【0088】
また、プローブ本体12の先端に設けられる測定子14は、プローブ本体12の先端部に対してワイヤ放電加工を行うことにより溶融した後、表面張力によって溶融部分の形状が球形に成形されて固化して形成される。
【0089】
なお、プローブ本体12を形成する母材の材料としては、ワイヤ放電加工に適するものであれば特に限定されるものではなく、例えば超硬材であり、炭化タングステンあるいはタングステンカーバイト等であり、コバルトを含有する複合材料を用いることができる。
【0090】
このように、プローブ本体12と測定子14とは一体成形されるので、測定子14の脱落を防止することができる。また、測定子14は、表面張力を用いて形成されているため、その形状は表面積が少ない球面となるとともに、その表面は極めて平滑となり、仕上げ加工を必要とせず、一定の品質を保つことができる。
【0091】
このように、ワイヤ放電加工を用いてプローブ本体に対して切れ込み及び支点という複雑で細かい加工を行うことができる。これにより、プローブ本体の中に差動トランスを極小形状で作成可能なため、円筒形のプローブ本体カバーの外周径は、例えば約1.5mm程度に抑えることができる。
【0092】
また、別の手段としては、二つの部材を組み合わせて製作することも可能である。
【0093】
例えば、二つの部品を嵌合させて、一つのプローブ状の形態をなすようにしてもよい。このとき、二つの部品を一つのピンでヒンジ機構を利用して連結し、それぞれ互いに傾動するように構成してもよい。このとき、二つの部品を連結するピンは、プローブの中心軸に形成するとよい。
【0094】
図10に、二つの部材を嵌合させて製作したプローブ本体を示す。
【0095】
鉛直方向で同径の二つの部材212a、212bが嵌合する形でプローブ本体212を形成し、カバー210内に配置する。二つの部材212a、212bの嵌合部は、測定子214の中心を通る面上に形成し、二つの部材212a、212bを連結するためのピン220が配置されている。
【0096】
二つの部材212a、212bは、ピン220を中心に傾動する。すなわち、このピン220が支点となる。また、ピン220を挟む形で差動変圧部225が形成される。
【0097】
このとき、二つの部材212a、212bは、例えば板ゴム230でソフトに拘束され、負荷がかからないニュートラルの状態のときには、測定子214が傾くことなく真下に位置するように構成され、一定張力で元の位置に回復するようになっている。
【0098】
なお、二つの部材212a、212bをソフトに拘束する部材は特に板ゴム230に限定されるものではなく、例えば糸状のもので吊り下げるようにしてもよい。
【0099】
このようにプローブ本体を二つの部材を嵌合させて形成する場合に、重要な構成は以下の点である。
【0100】
まず、組み合わせてプローブとなる二つの部材は、少なくとも軸中心(測定子中心とも交差)を通るプローブ(またはスタイラス)長手方向に延びる面同士が、小さな隙間を持って嵌合すること。
【0101】
次に、前記嵌合面の中点に連結した支点があり、支点で嵌合面が互いに梃子のように可動すること。
【0102】
また、前記記載の嵌合により、外形的には一つのプローブとなる柱体を形成すること。
【0103】
なお、柱体は角柱であっても、円柱であってもかまわない。
【0104】
このように、二つの部材のプローブ長手方向に延びる嵌合面において、支点を挟んだ位置にトランスデューサを形成する。
【0105】
このように細径に形成されたタッチプローブを用いることにより、細穴の奥等の測定も可能となる。また、タッチプローブの慣性も少ないため、高速移動が可能であり高速の測定を行うことができる。
【0106】
以上、本発明のタッチプローブについて詳細に説明したが、本発明は、以上の例には限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変形を行ってもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0107】
1…タッチプローブ、10…プローブ本体カバー(カバー)、12…プローブ本体、14…測定子、16…逃げ機構、18a、18b…切れ込み、20a、20b…支点、22a、22b…コア、24a、24b…コイル、25a…第一の変位検出部、25b…第二の変位検出部、26…ガイド、28…丸棒、30…バネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直下方に延びて、材料側面に測定子を接触させて該材料の位置を検出するタッチプローブにおいて、
柱状に形成された鉛直方向に延びるプローブ本体と、
前記プローブ本体の先端に取り付けられた測定子と、
前記測定子の上部であって、プローブ本体長手方向に形成された二つの切れ込みと、
該二つの切れ込みにより、連結部が形成され、該連結部を支点として可動する可動部分と、
前記支点を挟むように形成される差動変圧部と、
を備えたことを特徴とするタッチプローブ。
【請求項2】
鉛直下方に延びて、材料側面に測定子を接触させて該材料の位置を検出するタッチプローブにおいて、
四角柱形状に形成されたプローブ本体と、
前記プローブ本体の先端部に形成された、被測定物と接触する測定子と、
前記プローブ本体の一つの側面の前記測定子の上部に、切れ込みにより形成された板状の部分と、該板状の部分が前記プローブ本体と細い部分のみで連結するように形成された支点とから成り、該支点を中心として変位可能に構成された第一の変位機構と、該第一の変位機構の上部で、前記第一の変位機構の板状の部分が形成された前記プローブ本体の側面と90°異なる側面に、切れ込みにより形成された板状の部分と、該板状の部分が前記プローブ本体と細い部分のみで連結するように形成された支点とから成り、該支点を中心として前記第一の変位機構とは90°異なる方向に変位可能に構成された第二の変位機構と、
前記第一の変位機構に設けられた第一の変位検出部と、前記第二の変位機構に設けられた第二の変位検出部と、
を備え、互いに直交する2方向の変位を検出可能としたことを特徴とするタッチプローブ。
【請求項3】
前記プローブ本体に形成される前記切れ込みは、
一つの鉛直方向の柱状部材に対して、外周から軸心に向けて形成された第一の溝と、前記第一の溝に繋げて軸心上を長手方向に向けて形成された第二の溝と、
前記第一の溝より下方に位置し、前記第一の溝とは反対側面から形成した第三の溝と、前記第三の溝に繋げて第二の溝と平行に、軸心上を上方長手方向に向けて形成された第四の溝と、によって形成され、
前記第二の溝と、第四の溝に挟まれた残り部分で支点を形成することを特徴とする請求項1または2に記載のタッチプローブ。
【請求項4】
前記プローブ本体における前記切れ込みまたは前記溝の加工は、ワイヤ放電加工により形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタッチプローブ。
【請求項5】
鉛直下方に延びて、材料側面に測定子を接触させて該材料の位置を検出するタッチプローブにおいて、
柱状に形成された鉛直方向に延びるプローブ本体と、
前記プローブ本体の先端に取り付けられた測定子と、
前記プローブ本体は、プローブ内に前記測定子の接触を検知する検知部分を有し、
前記検知部分は、対向する部材を嵌合し、該嵌合部は前記対向する部材を略中央で連結する連結ピンを有し、前記連結ピンを支点として傾動し、
前記連結ピンを挟む形で差動変圧部を有することを特徴とするタッチプローブ。
【請求項6】
前記プローブ本体先端に取り付けられた前記測定子は、前記プローブ本体の外径よりも大きいことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のタッチプローブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−88190(P2013−88190A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−227194(P2011−227194)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000151494)株式会社東京精密 (592)
【出願人】(598060350)株式会社東精エンジニアリング (33)
【Fターム(参考)】