説明

タデ科植物由来の抗インフルエンザウイルス素材及びその用途

【課題】インフルエンザウイルス感染に対して高い抑制効果を示し、かつ、今までそのような抑制効果を有することが知られていなかった伝承医薬基原植物を見つけ、インフルエンザ治療又は予防のための医薬品等へ応用する。
【解決手段】チリー産タデ科植物Muehlenbeckia hastulata又は日本産ヤナギタデ(Persicaria hydropiper)の抽出物若しくはその精製物は、高い抗インフルエンザウイルス活性を示した。そのため、これらは、インフルエンザウイルス感染に対して高い抑制効果をもつ安全な医薬組成物、健康補助食品(サプリメント)、薬用酒又は公衆衛生用組成物として利用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタデ科植物由来の抗インフルエンザウイルス素材及びその用途に関するものである。更に詳しくは、インフルエンザウイルス感染防止に有効なタデ科植物由来の抗インフルエンザウイルス素材、それを利用したインフルエンザ治療若しくは予防のための医薬組成物、インフルエンザウイルス感染を予防するための健康補助食品(サプリメント)又は薬用酒、あるいは、公衆衛生用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザは、過去に小変異、大変異といわれる変異を経て周期的に人類を襲い、国家・地域を越えた脅威となっている。近年は、多くの地域において栄養・公衆衛生面が改善され、以前ほどの脅威がなくなったとはいえ、いまなお不特定多数の人々が感染し、特に、免疫能が十分でない小児や老人にとって毎年繰り返される脅威となっている。また、感染の流行による多くの労働者の就労時間の短縮とそれによって引き起こされる経済的損失が各国のGDPの数パーセントに及ぶと試算される等、依然国家レベルの経済問題となっている。
【0003】
現在では、大変異に相当する新型インフルエンザの大流行の可能性が高く、国際的な監視体制が強化されている。新型インフルエンザのパンデミックな流行では、一国で感染が発生した場合、世界中に広まるのに二ヶ月もかからないと言われている。インフルエンザ感染症の対策は、ワクチン(能動免疫)による予防・治療とタミフル▲R▼[オセルタミビル(Oseltamivir)]、リレンザ▲R▼[ザナミビル(Zanamivir)]等の抗インフルエンザ薬による予防・治療の二本柱での対策に重点が置かれてきた。新型ウイルスに関しては、抗インフルエンザ薬の備蓄量による制限及びワクチン製造のリードタイムから、これら薬剤の供給は、医療従事者等の感染危険度の高い公的職場の人々へ限られると試算・想定されている。
【0004】
新型ウイルスのみならず季節性インフルエンザウイルスの感染拡大の制御には、薬剤の選択肢を充実させるとともに、個体における感染成立から集団における感染拡大までを俯瞰した各段階でのきめ細かな感染防御策が望まれる。具体的には、次のような点である。
1)予防に関しては、能動免疫であるワクチンに加えて、即効性でかつワクチンと同様にウイルス株特異的な抗血清(グロブリン製剤)、抗体医薬等の受動免疫製剤の投与;
2)環境から個体への侵入段階に関しては、ウイルスを捕捉・不活性化能を持つ機能性素材による侵入部位近傍による防御、具体的にはマスク、うがい液等による防御;
3)環境そのものの清浄化に関しては、環境中の浮遊ウイルスの除去に有効な空気清浄機の普及、安全で浮遊ウイルスを不活性化させる薬剤散布;等の多段階の感染(拡大)防御策を講じること。
【0005】
細菌・真菌感染症の場合、抗生剤及び殺菌性消毒剤による感染拡大の防御・治療が奏功している。ウイルス感染症においても、殺ウイルス剤のようなカテゴリーの製剤群、すなわち抗原性に依存せずウイルスを人体外部で有効に不活性化する安全な薬剤の開発が望まれる。現状では、ウイルスに対しては消毒用アルコール、塩素系薬剤、アルデヒド系薬剤等のタンパク質変性剤が市販され、肝炎ウイルス等によるウイルス汚染医療器材等の消毒に役立っている。しかしながら、これら薬剤は、効力が持続しないか、あるいは強い細胞毒性があるなど、上気道を感染経路とするインフルエンザウイルスに関しては適用範囲が限られる。生活環境中に撒布しても安全で、かつ効果の持続するインフルエンザウイルス不活性化剤の開発が望まれている。安全性の観点から、食用、治療用に長年用いられている伝承医薬基原植物等の天然物は、有望な資源候補と考えられる。
【0006】
抗インフルエンザ活性を有する天然物由来成分は、従来から様々知られている。例えば、茶や紅茶のポリフェノール成分の抗インフルエンザ活性、紅茶でのうがいによるウイルス感染の抑制、オウゴン由来のフラボノイド成分のインフルエンザ感染抑制効果、バラ科植物の花蕾または花弁の抽出物を有効成分とする抗インフルエンザ剤、ミカン属の種子成分の細菌及びウイルス等による感染症に対する予防効果、カカオ豆から得られる物質の抗インフルエンザ活性、等である。さらに漢方製剤である桂枝二越婢一湯、黒房すぐり抽出物、馬鈴薯アントシアニン色素、グァバ葉抽出物、羅布麻抽出物等の抗ウイルス効果も知られている。
【0007】
また、タデ科植物Muehlenbeckia hastulata(チリでの現地名はQuilo)及びタデ科植物イヌタデ属Persicaria hydropiper(ヤナギタデ)に関しては、特許文献1−4及び非特許文献1において様々な生物活性が検討されているものの、抗インフルエンザウイルス活性の有無については言及されていない。
【0008】
その他のタデ科植物では、イヌタデ属タデアイ(Persicaria tinctoria;旧分類法ではPolygonum tinctorium)に関しては、当該植物水抽出物に抗インフルエンザウイルス活性がないことが記載され(非特許文献2)、また、酢酸エチル抽出画分に抗水泡性口内炎ウイルス(VSV)活性物質が2種存在すること、及び抗ウイルス活性物質のインビトロの抑制効果は、50%増殖阻害濃度で十数μg/mLレベルであると記載されている(特許文献5)。また、当該植物に含まれる活性物質のうちフェオフォルバイドaに関しては、酢酸エチル抽出画分に見出されると記載されている。
【0009】
また、植物由来の抗ウイルス活性成分で、ウイルス等の病原体に対する光力学的作用で注目される二系統の物質群、すなわちテトラピロール類については非特許文献3−4及び特許文献6、7、8に記載があり、ヒペリシリン類については、非特許文献6−8及び特許文献9に記載がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
〔発明の目的又は動機〕
本発明者らは、抗インフルエンザ活性を有する素材として、古くから食品や香料、お茶などに利用されてきた安全性の高い伝承医薬基原植物又はそれの抽出物に注目するとともに、これらを外国(チリ)にまで幅広く求めて探索した結果、インフルエンザウイルス感染に対して高い抑制効果を示し、かつ、今までそのような抑制効果を有することが知られていなかった伝承医薬基原植物をいくつか見つけることができ、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
〔発明の要旨〕
すなわち、本発明は、タデ科植物Muehlenbeckia hastulata又はPersicaria hydropiperの抽出物若しくはその精製物を有効成分とする抗インフルエンザウイルス素材を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記抗インフルエンザウイルス素材を含有する医薬組成物、健康補助食品(サプリメント)、薬用酒(薬味酒を含む)、又は公衆衛生用組成物も提供する。
【発明の効果】
【0013】
タデ科植物のM.hastulata又はP.hydropiperの抽出物(又はその精製物)にインフルエンザウイルス感染抑制効果があることは、本発明で初めて分かった新しい知見である。
本発明の抗インフルエンザウイルス素材は、従来の薬剤(素材)に加えて薬剤選択肢を充実させる。また、これを医薬組成物、健康補助食品(サプリメント)、薬用酒又は公衆衛生用組成物に利用すれば、新型ウイルスや季節性インフルエンザウイルスの感染の防御に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】M.hastulataから抽出・分離した活性画分(分画5及び分画8)の薄層クロマトグラム(TLC像)。左半分は可視光下、右半分は紫外線(UV365)励起下のものである。
【図2】2aは、画分LH5及び画分LH6のTLC像。2bは、精製された活性物質B及び活性物質CのTLC像。
【図3】活性物質CのHPLCパターン。
【図4】活性物質Aの紫外・可視光吸収スペクトル。
【図5】活性物質B及び活性物質Cの紫外・可視光吸収スペクトル。
【図6】活性物質Bのメタノール溶液の蛍光スペクトル。
【図7】P.hydropiper及びM.hastulataから得た活性物質A画分のTLC。レーンP:P.hydropiper由来1μg、レーンM:M.hastulata由来1μg、レーンP+M:P.hydropiper由来及びM.hastulata由来各々1μg。
【図8】M.hastulataの活性画分BとP.hydropiperの精製画分のTLCによる比較(可視光)。各試料1μgを展開した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔発明の更に詳しい説明〕
本発明における原料であるタデ科植物M.hastulataはチリ産のタデ科植物(チリでは”Quilo“と呼ばれる)で、チリでは一般的なつる植物であり、従来から観賞用及び薬用に用いられ、生育条件に関して優れた適応性をもっている。チリのほかに、南米ではどこでも普遍的に生育できるので、医薬基原植物として安定供給が可能である。
【0016】
本発明における原料のもう一つのタデ科植物P.hydropiper(ヤナギタデ)は、日本で多くの場所で自生し、収集・栽培が容易である。 これもチリ産のM.hastulataと同じように、古くから香辛料や薬用に供されており、医薬基原植物として安定供給が可能で、使いやすい。
なお、タデ科植物には、香辛料、染料(蓼藍)、生薬に古くから用いられてきた植物群が多く含まれている。
【0017】
上記タデ科植物は、全体を原料として使用することができる。
上記タデ科植物の抽出物を得るためには、これを粉砕機で粉砕して粉砕物を得る。次いで、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン等の比較的親油性の高い有機溶媒を用いて、抽出処理を行う。有機溶媒として、水と相溶できる低級アルコール(メタノールやエタノール)を用いる抽出も有効である。
【0018】
抽出条件としては特に制限はないが、遮光条件で30〜50℃で1〜2時間程度が好ましい。抽出物を濾過して抽出液を得たのち、抽出溶剤を留去し、減圧下において濃縮乾固または凍結乾燥したものをそのまま使用することができる。また、これらの抽出液から、公知の精製手段、例えば、シリカゲルカラムクロマトグラフィー、ODSカラムクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、TLCにより、更に分画精製したものも使用することができる。
【0019】
本発明で得られた抗インフルエンザウイルス素材の用途の一つは医薬用途である。有効成分である植物抽出物又は精製物に医薬用の公知のいくつかの添加剤を添加して製剤化することができる。投与経路として経口投与、気道投与等が可能である。この場合成人への投与量は植物抽出物又は精製物で好ましくは1〜200mg/日である。各種製剤への抽出物の添加量としては、その製剤の形態によって異なるが、通常は0.0001重量%以上、好ましくは約0.001重量%以上とする。
【0020】
本発明で得られた抗インフルエンザウイルス素材の別の用途は健康補助食品(サプリメント)用途である。有効成分である植物抽出物又は精製物に公知のいくつかの添加剤を添加して錠剤化することができる。錠剤中の抽出物の含量は通常は0.0001重量%以上、好ましくは約0.001重量%以上とし、一日の摂取量は植物抽出物又は精製物で好ましくは1〜200mgである。
本発明で得られた抗インフルエンザウイルス素材のまた別の用途は薬用酒である。ホワイトリカー等の酒類に、本発明で得られた植物抽出物又は精製物を適量添加して調製する。薬用酒中の植物抽出物又は精製物の添加量は通常は0.00001重量%以上、好ましくは約0.0001重量%以上とし、一日の摂取量は植物抽出物又は精製物で好ましくは1〜200mgである。
【0021】
本発明で得られた抗インフルエンザウイルス素材の用途のまた別の他のものは公衆衛生用途である。本発明の抗インフルエンザウイルス剤を、公衆衛生用品(例えば、うがい薬、感染防止用マスク、感染防止用ゴーグル、感染防止用衣類)に吸着、含浸、添加することにより、インフルエンザ予防に寄与しうる感染抑制用品を提供することができる。これら用途における植物抽出物又は精製物の添加量は、用品の形態に依存するが、好ましくは0.001〜0.1重量%の割合になるように添加する。
本発明で得られた抗インフルエンザウイルス素材の有効成分の本体は、後述の実施例で示すように、ヒペリシン、プロトヒペリシン、フェオフォルバイドa、又はこれらの類縁体である。これら有効成分が、単独で、あるいは、2種以上が複合的に存在することによって、抗インフルエンザウイルス活性が発揮されている。
【実施例】
【0022】
以下に、実験1〜8により本発明を更に具体的に説明する。
<実験1>チリ産の薬用基原植物各種についての抗インフルエンザウイルス活性のスクリーニング
(a)各種植物抽出物の調製
十分に乾燥させた各種植物体(M.hastulataを含むチリ産の薬用基原植物50種)を、各々、小型高速粉砕機(大阪化成製ラボミルサーLM−2、20,000回転60sec)で粉砕し、粉末化した。これを、粉末重量の10倍量(v/w)のクロロホルムに懸濁し、超音波洗浄機(東京理化学器械製)を用いて抽出し(40℃、30分)、吸引ろ過した(Advantec東洋製No.2ろ紙)。残渣をさらに5倍量のクロロホルムに懸濁し、超音波洗浄機を用いて抽出し(40℃、30分)、吸引ろ過した(この操作を3回繰り返した)。濃黄緑色のクロロホルム抽出液を得た。これをエバポレータで濃縮乾固し、濃緑色の抽出物を得た。
クロロホルムで抽出できなかった植物体残渣から、更にメタノール(溶媒)を用いクロロホルム抽出の場合と同様に抽出処理した。
【0023】
(b)各種植物抽出物の抗インフルエンザウイルス活性
1)抗インフルエンザウイルス活性測定の概要;倍々希釈した植物抽出エキスと一定量のウイルスを混合処理し、この混合液をインフルエンザウイルス感受性細胞(MDCK)の培養液に加え(MOI=0.0025〜0.005)一定日数培養し、培養液を回収する。培養液中のウイルス量を当該ウイルスに特徴的な赤血球凝集活性により定量する。再現性を確認するため、すべての試験をn=3で行なう。インフルエンザウイルス産生に対する植物抽出エキスのMIC(最小阻止濃度)を、抗インフルエンザ活性とした。
2)インフルエンザウイルスの調製;A型インフルエンザ[A/北九州/159/93(H3N2)]1.0×10PFU/mLを5μg/mLトリプシン/MEM培地[(−)血清]で2×10倍希釈(=5.0×10PFU/mL)して用いた。
【0024】
3)植物抽出エキス/ウイルス溶液の調製;倍々希釈系列の植物抽出エキス160μLとウイルス液160μLとを混合し(植物抽出エキス終濃度100μg/mL以下、ウイルス終濃度2.5×10PFU/mL)、室温で1時間放置した。
【0025】
4)MDCK細胞へのインフルエンザウイルスの感染;10cmシャーレにコンフルエントにしたMDCK細胞を回収し、MEMに懸濁し、96穴プレートに100μL(1.0×10個/ウエル)ずつ播種し、34℃、5%COで4日間培養した。培養ウエルから培養液を除き、緩衝液で各ウエルを洗浄後、上記植物抽出エキス/ウイルス溶液100μLを加え、34℃、5%COで3日間培養した。
【0026】
5)ウイルス価の測定;培養後、各ウエルの上清50μLを新しい96ウエルプレートに回収し、0.5%ニワトリ赤血球/PBS(−)液50μLを各ウエルに添加し、4℃で1時間静置し、赤血球凝集能(HA価)を判定した。但し、本試験法では、被験物質の抗ウイルス活性の作用機序がウイルスに対する直接作用か細胞自体の抗ウイルス性の誘導によるものか区別がつかないため、適宜、ウイルス感染前の被験物質による処理あるいは感染後の被験物質による細胞の処理等を行い、作用機序を推定した。
【0027】
スクリーニングした50種の植物種のうち抗インフルエンザウイルス活性を示した20種の抽出物の実験結果を表1にまとめた。この結果から、M.hastulataの抗インフルエンザウイルス活性がズバ抜けて高く、その他の19種の植物種の活性は高いものでもM.hastulataの1/40程度であった。
【0028】
【表1】

【0029】
<実験2>M.hastulataクロロホルム抽出物からの抗インフルエンザウイルス活性成分の分離・精製
クロロホルム:アセトン=1:1(容量比;以下同じ)混合液(溶離液I)を用いて充填・安定化したシリカゲルカラム(Wakosil▲R▼ C−200)を準備しておく。実験1と同様な試験で得たM.hastulataクロロホルム抽出物(収量は、出発植物体の粉末重量に対し4.7重量%であった)を30mg/mLの濃度になるように、クロロホルム:アセトン=1:1混合液に溶解し、これを試料重量/ゲル体積=1(mg/mL)の割合でシリカゲルカラム上に重層し、溶離液Iによるイソクラティック溶出を行った。その結果、順に、クロロフィルが主成分の画分1、黄色成分の画分2、及び抗インフルエンザ活性に関して比活性が向上した黒緑色の画分3に分離された。画分3の収量は、出発植物体の粉末重量に対し0.46重量%であった。
【0030】
別に、クロロホルム:アセトン:メタノール=2:2:1混合液(溶離液II)を用いて充填・安定化したシリカゲルカラム(Wakosil▲R▼ C−200)を別に準備しておいた。上で得られた画分3を乾固し、クロロホルム:アセトン:メタノール=2:2:1混合液に再溶解し、これを乾燥重量/ゲル体積=1.25(mg/mL)の割合で上記シリカゲルカラム上に重層し、溶離液IIでイソクラティック溶出を行った。その結果、順に、黄色画分(画分4)、黒緑色の抗インフルエンザウイルス活性画分(画分5)、及び薄赤紫色の画分(画分6)に分画された。画分5の収量は、出発植物体の粉末重量に対し0.13重量%であった。
【0031】
上記画分5の乾固物120mgをアセトン:メタノール:水=6:3:1混合液に溶解し、逆相カラム(ODSカラム;Wakogel C5018、約320mL)に重層後、前記混合液(溶離液III)によるイソクラティック溶出で分離精製した。黄色画分(画分7)と黒色画分(画分8;抗インフルエンザウイルス活性物質A)が分離・精製出来た。画分8の収量は、出発植物体の粉末重量に対し0.061重量%であった。
【0032】
上記画分5及び画分8(活性物質A)のTLCの結果を図1に示した。図1の結果からも、画分8(活性物質A)は単一スポットに精製されていることが分かる。
【0033】
M.hastulataのクロロホルム抽出物及び画分8(活性物質A)の抗インフルエンザウイルス活性試験を実験1(b)と同様に行なった。その結果を表2に示した。画分8(活性物質A)の抗インフルエンザウイルス活性はクロロホルム抽出物の活性(MIC=0.125μg/mL)に比べ約5倍高い活性(MIC=0.026μg/mL)を有していた。
なお、活性の総量に関しては、活性物質Aはクロロホルム抽出物の主成分ではあるものの、当該植物の総活性量を説明するには不十分な量であり、他の活性成分の存在を推定するのが合理的と考えた(後述の実験3参照)。
【0034】
【表2】

【0035】
<実験3>M.hastulataクロロホルム抽出物から活性物質A及びそれ以外の活性物質(活性物質B及びC)の分離・精製
1)実験2で述べたように、活性の総量に関しては、活性物質Aはクロロホルム抽出物の主成分ではあるものの、当該植物の総活性量を説明するには不十分な量であり、他の活性成分の存在が推定された。そこで、M.hastulataのクロロホルム抽出物から、活性物質A以外の他の抗インフルエンザ活性成分の分離・精製を遮光条件下で試みた。セラミックポンプ(EYELA、VSP−3050)付属のシリカゲル中圧カラム(山善ULTRA PACK、径3.7cm、30cm、322mL)に、M.hastulataのクロロホルム抽出物(30mg/mL)を1mg/ゲル体積の割合で重層し、それぞれ、クロロホルム:メタノール=9:1あるいは8:1の溶離液でイソクラティック溶出して、画分CM1(クロロフィル画分)、画分CM2(活性画分、黒褐色)及び画分CM3(褐色)に分画した。2.9gのクロロホルム抽出物から画分CM2(活性画分、黒褐色)は濃縮乾固物として約1.2gが得られた。
【0036】
2)得られた画分CM2を、中圧ODSカラム(WakogelC5018、320mL)で3回に分けて分画した。分離カラムに対して体積比100分の1の同一吸着分離材のプレカラムを分離性能向上のため用いた。
試料を重層後、アセトン:メタノール:水=6:3:1の溶離液でイソクラティック溶出を行い、順に、画分ODS1(活性物質B及び活性物質Cを含有、赤黄色、401mg)、画分ODS2(活性物質Aを含有、黒緑色、161mg)及び画分ODS3(濃黄色)を得た。
【0037】
3)得られた画分ODS1の360mgをSephadex LH−20カラム(300mL、GEヘルスケアバイオサイエンス)のゲルろ過法で精製した。画分ODS1をメタノールに溶解、同液で平衡・安定化したLH−20カラムに重層し、溶出を行った。順に、画分LH3、画分LH4、画分LH5(紫色;主に活性物質C含有)、及び画分LH6(桃色;主に活性物質B含有)を得た。画分LH5及び画分LH6のTLC像を図2aに示した。
【0038】
4)LH−20、ODSカラムあるいは下に示すシリカゲル順相カラムによる再クロマトを利用し、上記画分LH5及び画分LH6を更に精製した。精製された活性物質B及び活性物質Cをそれぞれ8.1mg及び6.4mg得た。
以下のシリカゲルの順相クロマトグラフィーを必要に応じて用いる:溶離液(クロロホルムアセトン:メタノール=2:2:1)で安定化させたシリカゲルカラム(Wakogel C−200E、ゲル体積150mL)に、同溶離液に溶解した試料液を重層し、イソクラティック溶出した。活性物質B及びCは最も早く溶出される赤紫色画分に含まれる。
【0039】
画分各々の精製度のチェックは、逆相ゲルを用いた薄層クロマトグラフィー(ODS−TLC;薄層プレート、Merck社、113724 HPTLC Silicagel 60 RP−18 F254s)で、アセトン:メタノール:水=6:3:1を展開溶媒として行ったほか、高速液体クロマトグラフィー(HPLC装置:島津LC20AB、カラム:資生堂、CAPCELL PAK C18MG II)を用いても行った。HPLCの分離は、90%アセトニトリル水溶液のイソクラティック溶出で行った。精製された活性物質B及び活性物質CのTLC像を図2bに示し、また、精製された活性物質C(100μg/mL−メタノール)10μLのHPLC像を図3に示した。
【0040】
図2bからも分かるように、精製された活性物質Bは、可視光、UV254、UV365の各薄層クロマトグラムで不純物が認められず、単一スポットであった。一方、精製された活性物質Cは可視光、UV254、UV365の各薄層クロマトグラムで単一スポットではなく、微量の他のスポットが認められ、この他のスポットは活性物質Bと同じ位置であった。
図3は、主ピーク(活性物質C)に続いて小さな分離ピーク(活性物質B)がHPLCカラムから溶出されることを示している。後述するように、活性物質Cは僅かな光暴露で活性物質Bへと変化しやすい。本実験で、精製された活性物質Cにおいても、微量の活性物質が存在したことは、不十分な分離・精製の結果ではなく、(完全な)分離後の変化・変質と考えている。なお、活性物質Cには発光が認められないことは図2bにおけるUV365のクロマトグラムから明らかである。
【0041】
以上の各精製工程における各画分の収量(重量)、色相及び抗インフルエンザウイルス活性を次の表3にまとめた。精製された活性物質B及び活性物質Cは、いずれも活性物質Aに比べ数倍〜10倍程度高い活性(MIC)を有していた。
【0042】
【表3】

【0043】
<実験4> 活性物質Aの物理化学的性状
実験2で得られた精製物(活性物質A)を、以下に示すように種々の物理化学的機器で分析した。
【0044】
1)紫外可視吸収スペクトル
紫外可視吸収(UV)スペクトルは 紫外可視分光光度計(島津製作所製UV−1700)を用いて測定した。エタノールで10μg/mLの濃度に溶解した試料を測定したところ、ポルフィリンの特徴であるソーレー帯と4つに分裂したQ帯と推定される吸収がそれぞれ410.5nm、508nm、538nm、611nm、668.5nmに認められた(図4)。
【0045】
質量分析で得られた分子量を元に計算した668.5nm及び410.5nmのモル吸光係数ελは、それぞれε668.5=3.32×10L/(mol・cm)及びε410.5=6.74×10L/(mol・cm)であった。
【0046】
2)赤外分光法(IRスペクトル)
活性物質Aの赤外線吸収(IR)スペクトルはJASCO IR−5300フーリエ変換赤外分光計(KBr錠、ATR法)にて測定した。
測定の結果、3891、2961、2361、1734、1694、1622、1260、1088、1022、797cm−1に吸収帯が観測された。このうち、3891cm−1は水酸基(−OH基)またはアミノ基などに基づく吸収帯と思われ、1734cm−1はエステル基、さらに1694cm−1はエステル基以外のカルボニル基に基づく吸収帯であると考えられる。
【0047】
3)核磁気共鳴(HNMRスペクトル)
活性物質AのH−核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルはJEOL(日本電子)社製のJNM−AL300型核磁気共鳴装置を用いて測定した。サンプルは重クロロホルムに溶解し、約5mg/mLの濃度とした。また、内部標準物質としてTMS(テトラメチルシラン)を使用した。
【0048】
測定の結果、δ0.81(2H、t、J=7Hz)、1.04(1H、m)、1.58(3H、t、J=7Hz)、1.72(2H、d、J=7Hz)、2.13(1H、t、J=8Hz)、2.27(1H、q、J=8Hz)、2.54(2H、qlike)、3.12(3H、s)、3.29(3H、s)、3.55(3H、s)、3.56(3H、s)、3.75(3H、s)、4.15(1H、d、J=8Hz)、4.37(1H、dd、J=7.7Hz)、6.08〜6.15(3H、m)、6.21(1H,s)、7.86(1H、dd、J=8.12Hz)、8.47(1H、s)、9.25(1H、s)、9.37(1H、s)の各シグナルが観測された。また、δ−1.48(1H,s)及び1.31(1H,s)にもシグナルが観測されている。
【0049】
これらのシグナルの存在はクロロフィルaのようなポルフィリン環の存在を強く示唆するものであり、特にδ−1.48及び1.31に各1Hずつ観測されたシグナルはポルフィリン環の内側にある、高磁場にシフトしたと考えられる。この他、δ3.12、3.29、3.55(各3H,s)はピロール環上の結合したメチル基、そして3.75はカルボキシルメチル基(−COOC3)に基づくシグナルと考えられる。
さらに、1.58(3H、t、J=7Hz)と2.54(2H,qlike)の存在は1個のエチル基の存在を示唆する。
【0050】
4)質量分析(MS)
活性物質Aの質量分析(MS)スペクトルはJEOL(日本電子社)製のJEOL−Dx−303マススペクトロメーターにて測定した。測定はFABモードで行い、マトリックスとしては−ニトロベンジルアルコールを使用した。
【0051】
測定の結果、分子イオン(M+1)として592が観測され、その他、m/e 615(M+Na)、577、533、519、505、459、445、429、411、369、355、281、267、221、207、等のピークが観測された。
【0052】
これらの結果から、活性物質Aは、ポルフィリン類、中でも特にフェオフォルバイドa(分子量591.2)と推定した。
【0053】
5)活性物質Aとフェオフォルバイドa及びクロリン(chlorin e6 Trimethyl Ester)との比較
市販のフェオフォルバイドa(和光純薬558−68311)及びクロリン(和光純薬305−01481)と活性物質Aを各々クロロホルムに溶解し、実験2に記載の方法で2種類のTLC法で3物質の比較を行った。
結果を表4に示した。活性物質A及びフェオフォルバイドaはTLC的には同一物質であった。また、実験1に記載の方法で抗インフルエンザウイルス活性を測定したところ活性物質A、フェオフォルバイドa及びクロリンともに、それぞれ単独で、ほぼ同等のMIC、すなわち強力な抗インフルエンザウイルス活性を示した。
【0054】
【表4】

【0055】
以上の結果をまとめて、活性物質Aはクロロフィルaからマグネシウムイオンとフィチル基が欠けた化合物のフェオフォルバイドaと同定した。
【0056】
ポルフィリン類、特にフェオフォルバイド誘導体による抗腫瘍活性などの作用機構は、同物質群の特性である一重項酸素の生成によるものと推定されている。特にメチルフェオフォルバイドa誘導体のウイルス不活性化に関する記載が、特許文献7(U.S.Pat.No.5,002,962)と特許文献8(U.S.Pat.No.5,093,349)にあるが、詳細な開示がない。インフルエンザウイルスに関しては、WO2008/054481で生体膜に親和性があり、かつ光により活性化される(photoactivatable)1,5iodonaphthylazide(INA)などの疎水性化合物を活性本体とする方法において、可視光による光増感剤(photosensitizer)として当該物質が有効であることが開示されている。該発明の構成例として、不活性化したい被験物とINAの混合物への紫外線照射及び被験物、INAと光増感剤の混合物への可視光照射による被験物質の不活性化法が例示されている。この可視光増感剤の例としてフェオフォルバイドaのほかクロロフィル、クロリン等が挙げられている。
【0057】
本発明では、タデ類植物のクロロホルム抽出物から、フロロフィルa類縁化合物であるフェオフォルバイドaと推定される抗インフルエンザウイルス活性物質Aを単離し、光活性化物質(photoactivatable compound)なしにこれが単独でインフルエンザウイルスを不活性することを見出したのである。
【0058】
<実験5> 精製された活性物質B及び活性物質Cの物理化学的性状
1)紫外可視吸収スペクトル
実験3で得られた活性画分(活性物質B及び活性物質C)を各々エタノールに溶解し、吸光スペクトルを測定した(図5)。活性物質Aとは異なり、ポルフィリン類の特徴であるソーレー帯(Soret band)の吸収は認められず、活性物質Bでは546−548nmと587−592nmに約1:2の比率の鋭い吸収ピークを示し、活性物質Cでは両吸収帯にまたがったブロードな吸収スペクトルを示した。
上記波長での活性物質B及び活性物質Cのモル吸光係数の推定値を表5に示した。
【0059】
【表5】

【0060】
2)蛍光スペクトル
活性物質Bの蛍光スペクトルを島津分光蛍光光度計RF−5300PCで測定した(図6)。吸収スペクトルと鏡像の発光スペクトルが得られた。
【0061】
3)H−核磁気共鳴(H−NMR)
日本電子社製のJNM−ECA500型核磁気共鳴装置を用いて測定した。試料(活性物質B及び活性物質C)は各々重メタノールに溶解し、約10mg/mLの濃度とした。また、内部標準物質としてTMS(テトラメチルシラン)を使用した。測定結果を以下に示す。
【0062】
活性物質B(Hypericin様物質);δ2.50(6H、s)、6.35(2H、s)、7.03(2H,s)、活性物質C(Protohypericin様物質);δ2.05(6H,s)、6.43(2H,d,j=1.7Hz)、6.65(2H、s)、7.11(2H,d,j=2.8Hz)
【0063】
以上の結果は、両化合物はヒペリシンのようなナフトジアントロン骨格を有していることを強く示唆する。
【0064】
4)MALDI−TOF法及びFAB法による質量分析
活性物質B及び活性物質Cの質量分析をApplied Biosystems社製VoyagerDE(MALDI−TOF法)と日本電子社製のJEOL−Dx−303マススペクトロメーター(FAB法)を用いて行った。マトリックスとしては、3−ヒドロキシピコリン酸(MALDI−TOF法)及び−ニトロベンジルアルコール(FAB法)を使用した。尚、MALDI−TOF法においてはキャリブレーションを合成オリゴヌクレオチド(分子量:299.0、839.4、1379.8)を用いて行った。
【0065】
測定の結果;
(1)MALDI−TOF法では、活性物質Bは508.20、活性物質Cでは509.28に鋭いピークを認めた。
(2)FAB法での測定は、活性物質Bにおいて偽分子イオンピーク(M+Na)として527が観測され、その他、m/z504、289、176、137等のピークが観測された。また、活性物質Cにおいては偽分子イオンピーク(M+H)として507が観測され、その他m/z529、289、221、136等のピークが観測された。
(3)高分解能FAB−MS(HR−FAB−MS)の結果を表6に示す。
【0066】
【表6】

【0067】
活性物質B及び活性物質Cは、その高い精製度にかかわらず、FAB法では多くのピークが観測された。ほぼ単一ピークのスペクトル像を示したMALDI−TOF法で得られたピークの質量数の近傍に相当するFAB法のピークから、両物質の質量数を、それぞれ504(活性物質B)及び506(活性物質C)と推定した。
【0068】
5)活性物質Cから活性物質Bの生成
実験3の最終精製段階であるSephadex LH−20カラムクロマトグラフィーの予備検討試験において、分離初期において明瞭であった活性物質C含有画分の紫色が展開後期で退色することが観察されたため、実験3における精製工程を遮光条件で行った。このようにして得られ、かつ遮光保存した紫色の溶出画分(活性物質C)を一定量とり、透明のエッペンドルフチューブに分注し、蛍光灯下で光暴露した。活性物質C及び光暴露により生成した活性物質Bを薄層クロマトグラフィーで比較した。その結果、精製した活性物質Cは数分の光暴露で活性物質Bに変換することが示された。また、TLC(ODS)上では、紫色の物質Cは、254nm及び365nmの光の励起による可視光の発光は認められなかった(図2b)。
【0069】
以上の結果をまとめて、活性物質B及び活性物質Cは、それぞれヒペリシン及びプロトヒペリシンであると同定した。
【0070】
ヒペリシンは、Brookmanらにより1939年に発見・報告され、以来、基原植物としてHypericum属以外の植物に関する報告はない。本願発明により初めて、他科の植物から分離されたのである。
一方、類似化合物のfagopyrinがタデ科のソバに見出されている。Hypericum属に特有な物質として知られているヒペリシンそのものが、Hypericum属とは類縁性のないタデ科M.hastulataに存在すること、またタデ科のソバが類似化合物のfagopyrinを含むことを考えると系統進化学的にも極めて興味深い。さらに生物活性を一にするフェオフォルバイドaが高い含有量で同植物に存在することは、南米において広範囲な環境条件下で見出される普遍的植物であるM.hastulataの環境適応性および病害虫に対する高い抵抗性の分子的根拠の一部をなすものと考える。
【0071】
<実験6> 活性物質A、活性物質B及びクロリンにおける抗インフルエンザウイルス活性の光依存性
実験1の分注作業、ウイルスと被験物質の混合処理等を、作業に支障がない程度に暗所(dark)下で行ない、明所(light)下に行なったものと比較した。結果を表6に示した。表7の結果は、フェオフォルバイドa、ヒペリシン及びクロリンはいずれも光依存性があり、光で抗インフルエンザ活性が上昇する(MICは小さな値となる)ことが分かる。
【0072】
【表7】

【0073】
以上、南米で普遍的に自生しているタデ科植物M.hastulataに強力な抗インフルエンザ活性物質が含まれていることを示したが、ソバ同様、日本の代表的なタデ科植物のひとつであるヤナギタデ(P.hydropiper)に関して、抗インフルエンザ活性ならびにフェオフォルバイドaおよびヒペリシンの含有の有無を検討した。
【0074】
<実験7>P.hydropiper抽出物の抗インフルエンザウイルス活性
チリ産の薬用基原植物20種のうち最も抗インフルエンザウイルス活性が高かったM.hastulataと同じタデ科植物に属する日本産の薬用基原植物P.hydropiperについて実験1と同様に実験した。
結果を表8に示す。この結果から、日本産の薬用基原植物P.hydropiperの抗インフルエンザウイルス活性は、チリ産のタデ科植物 M.hastulata ほどには強くはなかったが、抗インフルエンザウイルス活性を示した19種類の薬用基原植物からの抽出物(平均)と比べると、最小阻止濃度(MIC)で約12倍高い抗インフルエンザ活性を示していることから、比較的高活性な植物と言える。
【0075】
【表8】

【0076】
<実験8>ヤナギタデ(P.hydropiper)クロロホルム抽出物のフェオフォルバイドaおよびヒペリシン含有の有無に関して検討した。
【0077】
1)フェオフォルバイドaの存在に関する試験
第一段階のカラムクロマトグラフィー(シリカゲルカラム)の溶離液をクロロホルム:アセトン=2:3としたほかは上記実験1および2に従い、P.hydropiper全草から実験2の画分3に相当する画分を分離した(表9)。この画分の主成分と実験3の画分3のフェオフォルバイドaが同一物質であるかどうかを確認するために、2種類のTLC条件、すなわちODSプレート(アセトン:メタノール:水=6:3:1)及びシリカゲルプレート(クロロホルム:アセトン=1:1)を用いるTLCを行なった。TLCの結果を図7に示した。
P.hydropiperから得られた画分3のクロマトグラムでは、M.hastulataから得られた画分3のフェオフォルバイドaとは、同じ場所に可視光を認め、UVで励起した際も同じ性質の蛍光スポットを認めた。このTLCの実験結果は、P.hydropiperから得られた画分3の主スポットと、M.hastulataから得られたフェオフォルバイドaが同一物質であることを示している。
【0078】
【表9】

【0079】
2)ヒペリシンの存在に関する試験
120gの乾燥P.hydropiper全草を用い、実験3に従って分画した(表10)。ヤナギタデ(P.hydropiper)の精製画分(CM2、ODS1)および対照のM.hastulataの精製画分(実験3のODS1)を逆相薄層クロマトグラフィー(ODSプレート;アセトン:メタノール:水=6:3:1)で比較した(図8)。
その結果、P.hydropiperにはヒペリシン類相当のスポットは見出せなかった。
【0080】
【表10】

【0081】
なお、特許文献4(特開2006−241143)にはヤナギタデの生物活性成分に関して詳細に記述しているが、抗インフルエンザウイルス活性成分には言及していない。また特許文献4に開示されている生物活性成分と本願発明に開示した活性物質とは明らかに異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0082】
【特許文献1】U.S.Pat.No.5,652,265
【特許文献2】WO/1996/030034A1
【特許文献3】特開平11−92330
【特許文献4】特開2006−241143
【特許文献5】U.S.Pat.No.6,524,625
【特許文献6】特開昭63−101384
【特許文献7】U.S.Pat.No.5,002,962
【特許文献8】U.S.Pat.No.5,093,349
【特許文献9】日本特許第2502659号
【非特許文献】
【0083】
【非特許文献1】Z Naturforsch[C].2002 Sep−Oct;57(9−10):801−4
【非特許文献2】Antiviral Res.2005 Jun;66(2−3):119−28.2005 Mar 27
【非特許文献3】Enzymologia.1952 Sep 1;15(5):267−74.
【非特許文献4】Boll Chim Farm.1971 Jan;110(1):20−4.
【非特許文献5】Antiviral Res.1987 Jan;7(1):43−51.
【非特許文献6】Proc.Natl.Acd.Sci.USA 85,5230−5234,1988
【非特許文献7】Proc.Natl.Acd.Sci.USA 86,5963−5967,1989
【非特許文献8】Antiviral Res.1990 Jun;13(6):313−25

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タデ科植物Muehlenbeckia hastulata又はPersicaria hydropiperの抽出物若しくはその精製物を有効成分とする、抗インフルエンザウイルス素材。
【請求項2】
有効成分の本体がヒペリシン、プロトヒペリシン、フェオフォルバイドa、又はこれらの類縁体のいずれか、あるいはそれら2種以上の混合物である、請求項1の抗インフルエンザウイルス素材。
【請求項3】
請求項1又は2の抗インフルエンザウイルス素材を含有する医薬組成物。
【請求項4】
請求項1又は2の抗インフルエンザウイルス素材を含有する健康補助食品(サプリメント)。
【請求項5】
請求項1又は2の抗インフルエンザウイルス素材を含有する薬用酒。
【請求項6】
請求項1又は2の抗インフルエンザウイルス素材を含有する公衆衛生用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−270098(P2010−270098A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−141633(P2009−141633)
【出願日】平成21年5月25日(2009.5.25)
【出願人】(505380625)株式会社プリヴファーマ (4)
【Fターム(参考)】