説明

タンパク質を保持するための人工骨格材料及びその利用

【課題】1種又は2種以上の酵素などのタンパク質を近接して配置することに適したタンパク質を保持するための人工骨格材料を提供する。
【解決手段】 タンパク質を保持するための人工骨格材料が、細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに備えて前記細胞に凝集性を付与可能な程度に前記細胞の表層側に配置される骨格タンパク質と、を備えるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質を保持するための人工骨格材料及びその利用に関し、詳しくは、複数種類の酵素などのタンパク質を協同的又は段階的に機能させるのに適した人工骨格材料及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、複数の酵素の協同的又は段階的な反応により一連の反応を進行させるためには、関連する酵素が一定の順序で配列されていることが好ましいと考えられている。
【0003】
例えば、セルロースなどの生体高次構造物を分解利用するには、複数の酵素の協同的でかつ段階的な反応が必要とされている。セルロースを分解するある種の微生物は、細胞表面にセルロースを分解するための多種類の酵素の複合体(セルロソーム)を備えている。セルロソームは、複数のセルロース分解酵素が結合するセルロース結合タンパク質を備えることで、難分解性の結晶セルロースを効率的に分解すると考えられている。
【0004】
このことから、セルロソームの構造を模倣して、酵素を機能的に配列させて反応効率に優れた酵素系列を人工的に構築する試みもなされている。例えば、複数の酵素がクロストリジウム・ジョスィ(Clostridum josui)等の由来の複数の酵素結合用ドメインを有するセルロース結合タンパク質を利用するものがある(特許文献1、2)。
【0005】
また、クロストリジウム・アセトブチリカム(Clostridium acetobutylicum)においてミニセルロソームを分泌させるものも開示されている(非特許文献1)。さらに、クロストリジウム・セルロヴォランス(Clostridium cellulovorans)由来のコヘシン(cohesin)とスタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)由来のZZドメインとをリンカーで連結したタンパク質を酵母細胞表層に連結する試みもある(非特許文献2)。
【特許文献1】特開2000−157282号公報
【特許文献2】特開2004−236504号公報
【非特許文献1】S. Perret et al., J. Bacterol., 186(1), 253-257(2004)
【非特許文献2】伊藤ら、C106、第71回化学工学会予稿集(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記した特許文献によれば、線状の足場タンパク質を用いて酵素を配列することができるものの、こうした酵素を必ずしも高密度に配置できるものではなかった。また、上記非特許文献1では、細胞外に線状の足場タンパク質を用いたミニセルロソームを分泌生産するものであるため、酵素を基質に対して高い接触確率で存在させることが困難であった。さらに、上記非特許文献2も、線状の足場タンパク質を細胞表装にアグルチニンを用いて表層提示するものではあるが、足場タンパク質の細胞表層への集積度が高いとは言えなかった。
【0007】
このように上記したいずれの先行技術も、複数のタンパク質結合部位を備える線状の足場タンパク質を分泌又は細胞表層提示という形態で個別に取り扱うものであった。そして、特許文献1、2及び非特許文献2にあっても、複数の酵素の機能的な配列に着目した配置制御を意図したものであった。非特許文献2では、骨格タンパク質に複数種類の酵素を結合させることができるものの、細胞表層における骨格タンパク質の配置をコントロールすることはできない。
【0008】
したがって、現状において、複数の酵素などのタンパク質を高密度に配置してこれらのタンパク質の協同的又は段階的な作用によって効率的に基質を分解するための人工的足場については未だ提供されていない。また、線状の足場タンパク質を二次元的に配置する人工骨格材料についても未だ提供されていない。さらに、こうした人工骨格材料を利用して複合化したタンパク質複合材料も提供されていない。
【0009】
そこで、本発明は、1種又は2種以上の酵素などのタンパク質を近接して配置することに適した、タンパク質を保持するための人工骨格材料を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、二次元的にタンパク質を配置するのに適した人工骨格材料を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、1種又は2種類以上のタンパク質を近接し又は二次元的に配置されたタンパク質複合材料を提供することを他の一つの目的とする。さらにまた、本発明は、こうしたタンパク質複合材料を用いたセルロースの分解方法及び有用物質生産方法を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記した本発明の少なくとも一つの課題である複数種類の酵素を容易に近接配置可能とする人工骨格材料を得るために、線状構造を採ると考えられる骨格タンパク質を近接配置する手法の開発を試みた。
【0011】
各種検討の結果、本発明者らは、タンパク質結合ドメインをタンデムに備える骨格タンパク質を表層に備える細胞は、当該タンパク質結合ドメインを一定個数以上備えるとき凝集性を発現する傾向があることを見出した。凝集性の発現は、これらの骨格タンパク質が疎でなく近接して配置されていることによるものと考えられた。
【0012】
また、本発明者らは、タンパク質結合ドメインを備える骨格タンパク質を第1の骨格タンパク質とし、この第1の骨格タンパク質に対する結合ドメイン(骨格タンパク質結合ドメイン)を備える第2の骨格タンパク質を細胞表層に準備するとき、この第2の骨格タンパク質の骨格タンパク質結合ドメインに第1の骨格タンパク質を結合させることができることを見出した。第2の骨格タンパク質において骨格タンパク質結合ドメインをタンデムに保持させれば細胞表層において第1の骨格タンパク質を二次元的に配列することができる。これらの知見に基づいて、本発明者らは以下の発明を完成した。
【0013】
タンパク質を保持するための人工骨格材料であって、細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに備えて前記細胞に凝集性を付与可能な程度に前記細胞の表層側に配置される第1の骨格タンパク質と、を備える、材料が提供される。前記タンパク質結合ドメインは、セルロソームのタイプIスキャホールディンタンパク質のタイプIコヘシンドメインとすることができる。
【0014】
前記第1の骨格タンパク質の少なくとも一つは、セルロース結合ドメインを含むことができる。
前記第1の骨格タンパク質はセルロソームのタイプIスキャホールディンタンパク質又はその改変体とすることができる。前記第1の骨格タンパク質は、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)のセルロソームのタイプIスキャホールディンタンパク質又はその改変体であってもよい。
【0015】
また、前記第1の骨格タンパク質は、3個以上の前記タンパク質結合ドメインを備えることができる。さらに、前記骨格タンパク質は、4個以上7個以下の前記タンパク質結合ドメインを備えることができる。さらに、前記細胞は、前記第1の骨格タンパク質を発現するものであってもよい。
【0016】
本発明の人工骨格材料は、また、前記細胞にとって異種タンパク質であって、前記第1の骨格タンパク質を非共有結合で結合可能な骨格タンパク質結合ドメインを有して前記細胞の表層に配置される第2の骨格タンパク質を、備え、前記第1の骨格タンパク質は、前記第2の骨格タンパク質の前記骨格タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合可能な相互作用ドメインを有し、この相互作用ドメインが前記骨格タンパク質結合ドメインに結合されているものであってもよい。
【0017】
この人工骨格材料において、前記第2の骨格タンパク質は、前記細胞の表層に共有結合で結合されていいてもよい。また、前記骨格タンパク質結合ドメインを複数個タンデムに有していてもよい。前記骨格タンパク質結合ドメインは、セルロソームのタイプIIスキャホールディンタンパク質のタイプIIコヘシンドメインとすることができる。さらに、前記第2の骨格タンパク質は、セルロソーム由来のタイプIIスキャホールディンタンパク質又はその改変体であってもよい。さらにまた、前記第2の骨格タンパク質は、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)のセルロソームのタイプIIスキャホールディンタンパク質又はその改変体であってもよい。また、この人工骨格材料において、前記細胞は、前記第2の骨格タンパク質を発現するものであってもよい。
【0018】
上記いずれかの本発明の人工骨格材料においては、前記タンパク質は酵素とすることができる。また、前記酵素はセルロースを分解する酵素群から選択することができる。さらに、前記微生物は微生物とすることもでき、酵母であってもよい。さらに、前記酵母は、アルコール生産酵母又は有機酸生産酵母とすることができる。
【0019】
本発明によれば、タンパク質複合材料であって、細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに有して該細胞の表層側に互いに近接配置される第1の骨格タンパク質と、前記タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合された1種又は2種類以上のタンパク質と、を備える、複合材料が提供される。この複合材料においては、さらに、前記細胞にとって異種タンパク質であり、前記骨格タンパク質である第1の骨格タンパク質を非共有結合で結合する骨格タンパク質結合ドメインを有して前記細胞の表層に配置される第2の骨格タンパク質を備え、前記第1の骨格タンパク質は、前記第2の骨格タンパク質の前記骨格タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合する相互作用ドメインを有し、この相互作用ドメインが前記骨格タンパク質結合ドメインに結合されていてもよい。
【0020】
この複合材料において、前記第2の骨格タンパク質は前記細胞の表層に共有結合で結合されていてもよいし、前記第2の骨格タンパク質は、前記骨格タンパク質結合ドメインを複数個タンデムに有していてもよい。
【0021】
この複合材料において、前記第1の骨格タンパク質は、セルロース結合ドメインを有する少なくとも一つの第1の骨格タンパク質を含むことができる。また、前記タンパク質は、セルロースを分解する酵素群から選択されていてもよく、この酵素は、少なくともβ−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼからなる群から選択される2種以上を含むことができ、好ましくは、これらの全ての酵素を含んでいる。この複合材料は、結果として不溶性セルロース資化能を備えることが好ましい。
【0022】
本発明の複合材料においては、前記細胞はアルコール生産酵母又は有機酸生産酵母であることが好ましい。さらに、前記細胞は、前記タンパク質の生産能を有していなくともよい。換言すれば、前記タンパク質は前記細胞にとって外来タンパク質であってもよい。
【0023】
本発明によれば、タンパク質複合材料の製造方法であって、細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに備えて該細胞の表層側に互いに近接配置される第1の骨格タンパク質と、を備える人工骨格材料に、前記タンパク質結合ドメインに結合可能な相互作用ドメインを有する1種又は2種以上のタンパク質を前記細胞外から供給する工程を備え、前記人工骨格材料の前記タンパク質結合ドメインに前記タンパク質を結合させる、製造方法が提供される。
【0024】
この製造方法において、前記酵素は、セルロースを分解する酵素群から選択される2種以上であることが好ましく、前記細胞は酵母であることが好ましい。
【0025】
本発明によれば、セルロースの分解方法であって、セルロース系材料中のセルロースと、細胞と該細胞にとって異種タンパク質であって非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに有して該細胞の表層側に互いに近接配置される第1の骨格タンパク質と前記タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合されたセルロースを分解する酵素群から選択される1種又は2種以上の酵素とを備える酵素複合材料と、を接触させて、前記酵素によりセルロースを分解する工程、を備える、分解方法が提供される。
【0026】
また、本発明によれば、セルロースを利用する有用物質の生産方法であって、セルロース系材料中のセルロースと、細胞と該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに有して該細胞の表層側に互いに近接配置される第1の骨格タンパク質と前記タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合されたセルロースを分解する酵素群から選択される1種又は2種以上の酵素とを備える酵素複合材料と、を接触させて、前記酵素によりセルロースを分解する工程と、前記酵素によって得られるセルロース分解産物を前記複合材料の前記細胞によって資化し有用物質に変換する工程と、を備える、生産方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明は、タンパク質を保持するための人工骨格材料及びその利用に関している。本発明の人工骨格材料は、細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに備えて前記細胞に凝集性を付与可能な程度に前記細胞の表層側に配置される第1の骨格タンパク質と、を備えることができる。このため、図1に示すように、タンパク質結合ドメインに所望のタンパク質を結合させたとき、これらのタンパク質を近接して配置することができる。
【0028】
また、本発明の人工骨格材料は、細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに有して前記細胞の表層側に配置される第1の骨格タンパク質と、前記細胞にとって異種タンパク質であって、第1の骨格タンパク質を非共有結合で結合可能な骨格タンパク質結合ドメインを有して前記細胞の表層に配置される第2の骨格タンパク質とを、備え、前記第1の骨格タンパク質は、前記第2の骨格タンパク質の前記骨格タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合する相互作用ドメインを有し、この相互作用ドメインが前記骨格タンパク質結合ドメインに結合される構造を備えることができる。このため、例えば、図2に示すように、第2の骨格タンパク質の有する骨格タンパク質結合ドメインの数に応じて第1の骨格タンパク質を配列することができ、この結果、第1の骨格タンパク質のタンパク質結合ドメインを利用して多数個の又は複数種類のタンパク質を近接して配置することができる。
【0029】
このような本発明の人工骨格材料では、近接配置された第1の骨格タンパク質にタンデムに配置されたタンパク質結合ドメインが二次元的なタンパク質結合ドメインアレイを構築することができる。このドメインアレイを利用することで、多数個の又は複数種類のタンパク質を近接してかつアレイ状に配置することができる。タンパク質結合ドメインと当該ドメインに対する結合選択性を利用すれば、各種タンパク質を任意に二次元的に配列させることができる。
【0030】
本発明の人工骨格材料は、複数個又は複数種類の酵素などのタンパク質を複合化したタンパク質複合材料に利用することができる。本発明のタンパク質複合材料は、こうした人工骨格材料のタンパク質結合ドメインに非共有結合で結合された1種又は2種以上の酵素などのタンパク質を備えることができる。このようなタンパク質複合材料は、1種又は2種以上のタンパク質が近接して配置されているため、これらのタンパク質を効率的に機能させることが可能となっている。特に、多数個の又は複数種類の酵素が近接して配置されている場合には、複数種類の酵素が協同的又は段階的に作用する酵素反応系において反応速度を一層向上させることができるなど、効率的な酵素反応が可能である。
【0031】
以下、本発明の各種実施形態に関し、人工骨格材料及びその製造方法、タンパク質複合材料及びその製造方法及びタンパク質複合材料を利用する物質生産方法について順次説明する。
【0032】
(人工骨格材料)
本発明の人工骨格材料は、細胞と、骨格タンパク質(以下、第1の骨格タンパク質という。)とを備えることができる。本人工骨格材料は、1種又は2種類以上のタンパク質を効率的にかつ機能的に配置可能な骨格材料であり、特に、多数個又は複数種類のタンパク質を保持して機能させるための骨格材料に適している。
【0033】
(タンパク質)
本人工骨格材料において保持しようとするタンパク質は特に限定されない。タンパク質としては1種類のみならず2種類以上を同時に保持することができる。好ましくは、協同的又は段階的に機能する多数個又は複数種類のタンパク質である。こうしたタンパク質としては、その構造の観点からは、ペプチド鎖を有していれば足り、糖タンパク質、脂質タンパク質などのタンパク質と他の生体成分等とのタンパク質複合体であってもよい。また、その機能の観点からは、特に限定されないが、例えば、酵素、抗体、受容体、抗原として機能するものが挙げられる。
【0034】
本人工骨格材料が保持するタンパク質としては、酵素が好ましい。特に、複数種類の酵素が協同的又は段階的に作用する酵素反応系を構成する当該複数酵素群の少なくとも一部であることが好ましい。本人工骨格材料によれば、多数個又は複数種類の酵素を近接配置することができるため、複数の酵素反応が必要とされる酵素反応系における全体の反応速度を高めることができる。こうした酵素群の一つとしては、セルロースを分解する酵素であるセルラーゼやデンプンを分解する酵素群が挙げられる。セルラーゼについては、後段にて詳述する。
【0035】
(細胞)
本人工骨格材料は、第1の骨格タンパク質の支持体として細胞を用いることができる。細胞を支持体とすることのメリットは、第1の骨格タンパク質を細胞に生産させることができる点、生産させた第1の骨格タンパク質を適当な手法により容易に細胞の表層に支持できる点、こうした細胞を増殖できる点及びこうした細胞をさらに他の担体に固定化も可能である点及び有用物質の分解、利用及び生産する酵素等を発現する細胞を選択したりそうした改変を細胞に施したりすることにより、効率的に各種反応を実施できる点等が挙げられる。
【0036】
こうした細胞としては、特に限定されない。医療上の利用の観点からは、ヒト細胞又は非ヒト動物細胞としてもよいし、工業上の利用等の観点からは微生物としてもよい。微生物としては、カビや酵母等の真核微生物、大腸菌、乳酸菌及び枯草菌などの原核微生物が挙げられる。用いる微生物は、保持しようとするタンパク質や後述するタンパク質複合材料の用途等に応じて選択される。また、保持しようとするタンパク質との関係においては、微生物は、本人工骨格材料によって保持しようとするタンパク質を自己生産可能な微生物であってもよいし、こうしたタンパク質を自己生産しない微生物、すなわち、こうしたタンパク質を外来タンパク質として外部からの供給に依存する微生物であってもよい。保持しようとするタンパク質を自己生産する微生物を用いる場合、こうしたタンパク質を別途合成する必要がないというメリットがあり、当該タンパク質を自己生産しない微生物を用いる場合、微生物にこうしたタンパク質合成の負担を与えることなく多量又は多種類のタンパク質を供給できるというメリットがある。
【0037】
微生物としては、なかでも酵母を用いることが好ましい。酵母としては、特に限定されない。例えば、ピキア属、サッカロマイセス属及びカンジダ属から選択されるいずれかであることが好ましい。ピキア属としては、例えば、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)等が挙げられ、サッカロマイセス属としては、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等が挙げられる。また、カンジダ属としては、カンジダ・クルゼイ(Candida krusei)等が挙げられる。
【0038】
なお、本人工骨格材料に用いる細胞には、本人工骨格材料の用途に応じて適当な細胞を選択しまた改変して使用することができる。用途を考慮した場合の細胞の選択に関しては、後段にて詳述する。
【0039】
(第1の骨格タンパク質)
本人工骨格材料は、第1の骨格タンパク質を細胞の表層側に備えることができる。換言すれば、細胞の表層において露出された状態で第1の骨格タンパク質を備えている。第1の骨格タンパク質は、1種類又は2種類以上備えることができる。1種類の第1の骨格タンパク質を用いるのであれば、この骨格タンパク質上に配列するタンパク質を容易に近接して配置することができ、2種類以上の第1の骨格タンパク質を用いるのであれば、異なる骨格タンパク質上に配列される異なる種類、組み合わせ、個数のタンパク質を容易に近接配置することができる。なお、第1の骨格タンパク質は、そのタンパク質結合ドメインの種類、個数及びこれらの組み合わせ並びにセルロース結合ドメインの有無等によって区別することが可能である。
【0040】
第1の骨格タンパク質は、細胞にとって異種タンパク質である。すなわち、第1の骨格タンパク質は、本来的に細胞が生産しないタンパク質とすることができる。好ましくは第1の骨格タンパク質は、第1の骨格タンパク質をコードするDNAが発現可能に細胞に導入された結果、細胞によって発現されるものである。細胞に対して異種タンパク質として第1の骨格タンパク質を発現させることで、本来的に第1の骨格タンパク質を発現しない細胞も人工骨格材料の支持体として利用可能となる。微生物など各種細胞に対するこうした遺伝子導入による異種タンパク質の発現のための各種操作は、例えば、Molecular Cloning A Laboratory Manual second edition(Maniatis et al.,Cold Spring Harbor Laboratory press.1989)に従うことができる。
【0041】
第1の骨格タンパク質は、基本的に単鎖のポリペプチド鎖から構成されるタンパク質であることが好ましい。また、第1の骨格タンパク質は、非共有結合性のタンパク質結合ドメインを複数個タンデムに有するタンパク質である。「タンデムに有する」とは、ポリペプチド鎖に沿って複数個の当ドメインが並んだ状態であればよく、並んだタンパク質結合ドメイン間における離間配列の存在の有無、離間間隔が一定であること及び異種のドメインの存在を問わない。好ましくは、ドメイン間に離間配列を有している。
【0042】
タンパク質結合ドメインとは、そのアミノ酸配列に基づき、当該タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合する相互作用ドメインを有する他のタンパク質を結合することができるドメインである。第1の骨格タンパク質に対して非共有結合で他のタンパク質を結合させることができるため、他のタンパク質を第1の骨格タンパク質に対して容易に結合させたり第1の骨格タンパク質から容易に分離・回収したりすることができる。
【0043】
こうしたタンパク質結合ドメインと相互作用ドメインとしては、例えば、抗原と抗体との関係、リガンドとレセプターの関係、セルロソームにおけるコヘシンとドックリンとの関係が挙げられる。これらの関係におけるタンパク質結合ドメインとしては、それぞれ抗原又はエピトープ、レセプター及びコヘシンとすることができ、他方、相互作用ドメイン又はこれを有するタンパク質としては、抗体、リガンド及びドックリン又はドックリンを有するセルラーゼ等の酵素を含むタンパク質が挙げられる。
【0044】
本人工骨格材料に結合保持させようとするタンパク質に、第1の骨格タンパク質のタンパク質結合ドメインに対して非共有結合で結合する相互作用ドメインとして機能する適当な抗体又はその一部、リガンド又はその一部、タイプIコヘシンに対するタイプIドックリンを備えさせることで、第1の骨格タンパク質に結合保持させることができる。
【0045】
本発明の第1の骨格タンパク質におけるタンパク質結合ドメインとして利用可能な抗原又はエピトープとしては、スタフィロコッカス・オーレウス(Staphylococcus aureus)のプロテインA由来のZZドメイン等が挙げられる。また、タンパク質結合ドメインとして利用可能なレセプターとしては、抗体Fc領域等が挙げられる。
【0046】
第1の骨格タンパク質におけるタンパク質結合ドメインとしては、セルロソームにおけるタイプIコヘシンドメインを用いることが好ましい。タイプIコヘシンドメインは、以下の表1に示す各種のセルロソーム生産微生物の形成するセルロソーム(セルラーゼ複合体)のタイプIの骨格タンパク質(スキャホールディンタンパク質)において触媒活性のあるセルラーゼを非共有結合にて結合するドメインとして知られている(粟冠ら、蛋白質核酸酵素、Vol.44、No.10(1999)、p41-p50、Demain, A. L., et al., Microbiol Mol. Biol Rev., 69(1), 124-54(2005), Doi, R. H., et al., J. Bacterol., 185(20), 5907-5914(2003)等)。こうしたタイプIコヘシンドメインとしては、各種セルロソーム生産微生物において多数その配列が決定されている。これらの各種のタイプIコヘシンのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができ、当業者であればこのようなタイプIコヘシンドメインを有する第1の骨格タンパク質を遺伝子組換え等により本人工骨格材料の支持体としての細胞内において異種タンパク質として合成させることができる。なお、こうしたタイプIコヘシンドメインを有する第1の骨格タンパク質は、化学合成によっても得ることができる。
【表1】

【0047】
(セルロソーム)
セルロソームは、セルロース分解性嫌気性微生物が菌体外に形成するセルラーゼ複合体である。セルロソーム又はその一部を外来性のセルラーゼとして備えることで、リグノセルロース系材料等、複合的なセルロース系材料も効率的に分解することができる。また、セルロソームを介してより容易にセルロースに結合することができるようになる。
【0048】
セルロソームは、嫌気性細菌や嫌気性糸状菌によって菌体外に形成され、通常、微生物表面に結合して又は培養液中に存在している。セルロソームとしては、表1に示すセルロソームを形成する微生物を含む嫌気性微生物等、公知のセルロソーム生産微生物が生産するセルロソーム及び将来的に明らかにされるセルロソーム並びにこれらの改変体のいずれであっても本発明の第1の骨格タンパク質や後述する第2の骨格タンパク質に用いることができる。セルロース分解能力の高さ等を考慮すると、クロストリジウム・サーモセラム等の好熱嫌気性微生物やクロストリジウム・セルロリチカム等のクロストリジウム属菌の生産するセルロソーム又はその改変体を本発明において用いることができる。
【0049】
本人工骨格材料のタンパク質結合ドメインとしては、例えば、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)のタイプI骨格タンパク質、クロストリジウム・ジョスィ(Clostridium josui)のタイプI骨格タンパク質等のタイプIコヘシンドメインを用いることができる。好ましくは、C.cellulolyticum(NCBIのホームページhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/)、アクセッション番号:U40345)、C.cellulovorans(同ホームページ、アクセッション番号:M73817)、C.acetobutylicum(同ホームページ、アクセッション番号:AE001437)に開示されるタイプIコヘシンドメインが挙げられる。
【0050】
第1の骨格タンパク質は、こうしたタンパク質結合ドメインを複数個タンデムに有している。タンパク質結合ドメインの保有形態は特に限定しない。既述したように、各ドメインとそのまま連結して有していてもよいし、適当なリンカーにより離間した状態で有していてもよい。また、複数個のタンパク質結合ドメインは、1種類のアミノ酸配列からなる同一種類のドメインであってもよいし、2種類以上の異なるアミノ酸配列からなるドメインであってもよい。異なる種類のタンパク質結合ドメインを用いることで、異なるタンパク質を第1の骨格タンパク質上に配列させることができる。
【0051】
第1の骨格タンパク質は、セルロソームのタイプI骨格タンパク質のセルロース結合ドメイン(CBD)を有していることが好ましい。CBDは、タイプIの骨格タンパク質において基質であるセルロースに結合するドメインとして知られている(前述粟冠ら)。セルロース結合ドメインは、1個又は2個以上有していてもよい。なお、細胞が備える第1の骨格タンパク質の全てにおいてセルロース結合ドメインを要するものではない。セルロース結合ドメインを有する第1の骨格タンパク質は、細胞が備える全ての第1の骨格タンパク質の一部であってもよい。
【0052】
各種のセルロソーム生産微生物のセルロソームにおけるCBDのアミノ酸配列及びDNA配列の多くが決定されており、これらの各種のCBDのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができ、当業者であればこのようなCBDを有する第1の骨格タンパク質を遺伝子組換え等により本人工骨格材料の支持体としての細胞内において異種タンパク質として合成させることができる。なお、こうしたCBDを有する第1の骨格タンパク質は、化学合成によっても得ることができる。
【0053】
タンパク質結合ドメイン及びCBDに関して、第1の骨格タンパク質としては、以下の形態を採ることができる。すなわち、(1)タイプIコヘシンをタンデムに有する人工タンパク質、(2)タイプIコヘシンをタンデムに有し、さらにCBDを有する人工タンパク質、(3)セルロソーム生産微生物物由来のタイプIの骨格タンパク質のタイプIのコヘシンがタンデムに連なった部分の全体又はその一部、(4)セルロソーム生産微生物由来のタイプI骨格タンパク質のコヘシンがタンデムに連なるとともに少なくとも一つのCBDを有する部分の全体又はその一部を含むことができる。こうした第1の骨格タンパク質は、各要素を人工的に組み合わせた人工タンパク質であってもよいし、第1の骨格タンパク質としては、セルロソーム生産微生物のタイプI骨格タンパク質の改変体であってもよい。改変体とは、セルロソーム生産微生物のセルロソームから取得されるタイプI骨格タンパク質の塩基配列及び/又はアミノ酸配列において少なくとも部分的に改変したものをいう。こうしたタイプI骨格タンパク質としては、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)のタイプI骨格タンパク質、クロストリジウム・ジョスィ(Clostridum josui)のタイプI骨格タンパク質又はその改変体を利用することができる。
【0054】
第1の骨格タンパク質は、細胞の表層において互いに近接配置されていることが好ましい。この結果、第1の骨格タンパク質において結合する他のタンパク質を近接配置することができるからである。こうした観点から、第1の骨格タンパク質は、細胞に凝集性を付与する程度に備えられていることが好ましい。ここで、凝集とは、細胞を通常の液体培養条件下においたとき、すなわち、細胞を適切な液体培地に懸濁したとき、細胞が凝集又は凝集し沈降する性質をいう。細胞の凝集性は、タンパク質結合ドメインの相互作用によるものと考えられ、細胞に凝集性が付与されるときには、これらタンパク質結合ドメインが相互に近接した状態又は近接可能な状態にあると考えられるからである。
【0055】
また、細胞が凝集性を獲得することにより、人工骨格材料に酵素等のタンパク質を保持させて酵素複合材料として工業的に利用する場合、この酵素複合材料を凝集させた場合には、酵素を近接配置できるほか、酵素複合材料を効率的に回収して繰り返し利用することが容易となる点においても好ましい。
【0056】
第1の骨格タンパク質により細胞に凝集性を付与するのにあたり、当該骨格タンパク質は3個以上のタンパク質結合ドメインを有していることが好ましい。3個以上であると、第1の骨格タンパク質を近接配置したときに細胞に凝集性を付与しやすくなる傾向があるからである。好ましくは4個以上である。4個以上であると明らかに細胞に凝集性を付与しやすくなるからである。凝集性の観点からはタンパク質結合ドメイン数の上限は特に限定されない。なお、発現量を容易に確保するという観点からは、7個程度以下であることが好ましい場合がある。
【0057】
このような第1のタンパク質は、細胞の表層側に配置されている。第1の骨格タンパク質が細胞の表層側に備えられる一つの形態は、第1の骨格タンパク質が細胞の表層に直接、非共有結合性又は共有結合によって結合された形態である。細胞表層への結合のためには、公知のタンパク質細胞表層提示システムを用いることができる。例えば、細胞として酵母を用いる場合には、表層タンパク質であるα−アグルチニン又はそのレセプターを利用することができる。アグルチニンを利用したタンパク質の細胞表層提示システムは、例えば、インビトロジェン社からpYD1ベクター及びEBY100サッカロマイセス・セレビジエを含む酵母用ディスプレイキットして入手することができる。また、細胞表層提示システムとしては、このほか、SAG1、FLO1〜FLO11などの細胞表層タンパク質を用いるシステム等を用いることができる。こうした結合形態にあっては、第1の骨格タンパク質は、直接細胞表層に結合するためにこれらの各種システムにおいて必要とされる細胞表層結合ドメインを有することができる。
【0058】
(第2の骨格タンパク質)
第1の骨格タンパク質が細胞の表層に備える他の一つの形態は、第1の骨格タンパク質が細胞の表層に結合した第2の骨格タンパク質と非共有結合により結合した結果、細胞の表層側に保持される形態である。第2の骨格タンパク質は、細胞にとって異種タンパク質であって、第1の骨格タンパク質を非共有結合で結合可能な骨格タンパク質結合ドメインを有して細胞の表層側に配置されている。
【0059】
第2の骨格タンパク質は、基本的に単鎖のポリペプチド鎖から構成されるタンパク質であって、第1の骨格タンパク質を非共有結合で結合する骨格タンパク質結合ドメインを有している。本発明において骨格タンパク質結合ドメインとは、そのアミノ酸配列に基づき、当該骨格タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合する相互作用ドメインを有する第1の骨格タンパク質を結合できるドメインである。第2の骨格タンパク質に対して非共有結合で第1の骨格タンパク質を結合させることができるため、第1の骨格タンパク質を第2の骨格タンパク質に対して容易に結合させたり第2の骨格タンパク質から容易に分離・回収したりすることができる。
【0060】
こうした骨格タンパク質結合ドメインと相互作用ドメインとしては、既に説明した第1の骨格タンパク質におけるタンパク質結合ドメインと同様に、抗体と抗原又はエピトープとの関係、リガンドとレセプターとの関係、セルロソームにおけるコヘシンとドックリンとの関係が例示できる。骨格タンパク質結合ドメインとしては、それぞれ抗原又はエピトープ、レセプター及びコヘシンとすることができ、他方、相互作用ドメイン又はこれを有するタンパク質としては、抗体、リガンド及びドックリン又はドックリンを有するタイプI骨格タンパク質等が挙げられる。
【0061】
骨格タンパク質結合ドメインとしては、第1の骨格タンパク質におけるタンパク質ドメインと同様、各種抗原、エピトープ、各種レセプターやコヘシンを用いることができるが、好ましくは、セルロソーム生産微生物のセルロソームを構成するタイプII骨格タンパク質(アンカータンパク質とも言われる。)のタイプIIコヘシンドメインを用いることが好ましい。
【0062】
タイプIIコヘシンドメインは、セルロソームにおいて、タイプI骨格タンパク質を非共有結合でタイプII骨格タンパク質上に保持するためのドメインとして知られている(粟冠ら、蛋白質核酸酵素、Vol.44、No.10(1999)、p41-p50等)。タイプII骨格タンパク質のタイプIIコヘシンドメインには、タイプI骨格タンパク質が有するタイプIIドックリンドメインが結合することが知られている。こうしたタイプIIドックリンドメインとしては、各種セルロソーム生産微生物において多数その配列が決定されている。これらの各種のタイプIIコヘシンのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHP(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができ、当業者であればこのようなタイプIIコヘシンドメインを有する第2の骨格タンパク質を遺伝子組換え等により本人工骨格材料の支持体としての細胞内において異種タンパク質として合成させることができる。なお、こうしたタイプIIコヘシンドメインを有する第2の骨格タンパク質は、化学合成によっても得ることができる。
【0063】
第2の骨格タンパク質を介して第1の骨格タンパク質を細胞表層側に配置する場合、第1の骨格タンパク質は、第2の骨格タンパク質における骨格タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合する相互作用ドメインとして機能する適当な抗体又はその一部、リガンド又はその一部、タイプIIコヘシンに対するタイプIIドックリンドメインを備えさせることが好ましい。なお、タイプIIドックリンドメインは、セルロソームにおいて、タイプI骨格タンパク質を非共有結合でタイプII骨格タンパク質上に保持するためのドメインとして知られている(粟冠ら、蛋白質核酸酵素、Vol.44、No.10(1999)、p41-p50等)。こうしたタイプIIドックリンドメインとしては、各種セルロソーム生産微生物において多数その配列が決定されている。これらの各種のタイプIIドックリンドメインのアミノ酸配列及びDNA配列は、NCBIのHPhttp://www.ncbi.nlm.nih.gov/)等を介してアクセス可能な各種のタンパク質データベースやDNA配列のデータベースにより容易に取得することができ、当業者であればこのようなタイプIIドックリンドメインを有する第1の骨格タンパク質を遺伝子組換え等により本人工骨格材料の支持体としての細胞内において異種タンパク質として合成させることができる。なお、こうしたタイプIIドックリンドメインを有する第1の骨格タンパク質は、化学合成によっても得ることができる。
【0064】
第2の骨格タンパク質における骨格タンパク質結合ドメインとしては、例えば、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)のタイプII骨格タンパク質ン、クロストリジウム・ジョスィ(Clostridum josui)のタイプII骨格タンパク質等のタイプIIコヘシンドメインを用いることができる。なかでも、A. CellulolyticusのScaB配列(NCBIのホームページ、アクセッション番号:AY221112)に開示されるタイプIIコヘシンドメインが挙げられる。
【0065】
第2の骨格タンパク質は、こうした骨格タンパク質結合ドメインを1個のみ有していてもよいが複数個タンデムに備えることが好ましい。複数個有することで、第1の骨格タンパク質を第2の骨格タンパク質に沿って配列させることができるとともに、第1の骨格タンパク質及び第1の骨格タンパク質に結合される所望のタンパク質を容易に近接配置することができる。また、直接、細胞の表層に第1の骨格タンパク質を結合させる場合よりも多くの第1の骨格タンパク質を細胞の表層側に結合させることができる。これらの結果、細胞表層において高密度に所望のタンパク質を結合保持できる人工骨格材料を提供できる。なお、第2の骨格タンパク質は、非共有結合で第1の骨格タンパク質を結合するため、この点においても、容易に、より近接しより多くの所望のタンパク質を結合保持できる人工骨格材料を提供できる。
【0066】
なお、第2の骨格タンパク質における骨格タンパク質結合ドメインの保有形態は特に限定しない。タンパク質結合ドメインについて既に説明したように、各ドメインとそのまま連結して有していてもよいし、適当なリンカーにより離間した状態で有していてもよい。
また、複数個のタンパク質結合ドメインは、1種類のアミノ酸配列からなる同一種類のドメインであってもよいし、2種類以上の異なるアミノ酸配列からなるドメインであってもよい。異なる種類の骨格タンパク質結合ドメインを用いることで、異なる第1の骨格タンパク質を第2の骨格タンパク質上に配列させることができる。
【0067】
第2の骨格タンパク質は細胞の表層側に結合される必要がある。第2の骨格タンパク質は、細胞の表層と共有結合又は非共有結合により結合される。共有結合にて第2の骨格タンパク質を細胞の表層に結合している場合には、洗浄等によっても第2の結合タンパク質が細胞から分離されないで保持されるというメリットがあり、非共有結合による場合には、逆に洗浄等により細胞から第2の骨格タンパク質及び第1の骨格タンパク質を分離できるというメリットがある。いずれにしても、第2の骨格タンパク質は、細胞表層と結合するための結合ドメインを有している。
【0068】
第2の骨格タンパク質を細胞の表層側に結合させるシステムとしては、既に説明したような各種の細胞表層提示システムを用いることができる。第2の骨格タンパク質は、直接細胞表層に結合するためにこれらの各種システムにおいて必要とされる細胞表層結合ドメインを有することができる。
【0069】
このような第2の骨格タンパク質としては、上記した各要素を人工的に組み合わせた融合タンパク質のほか、セルロソーム生産微生物のタイプII骨格タンパク質の改変体であってもよい。改変体とは、セルロソーム生産微生物のセルロソームから取得されるタイプII骨格タンパク質の塩基配列及び/又はアミノ酸配列において少なくとも部分的に改変したものをいう。こうしたタイプII骨格タンパク質としては、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)のタイプII骨格タンパク質、クロストリジウム・ジョスィ(Clostridum josui)のタイプII骨格タンパク質又はその改変体を利用することができる。
【0070】
本人工骨格材料は、第1の骨格タンパク質におけるタンパク質結合ドメインの種類、個数及びその組み合わせ並びに第2の骨格タンパク質の形態等によって特徴付けすることができる。本人工骨格材料は、こうした特徴付けにおいて同一の人工骨格材料を用いてもよいし、異なる人工骨格材料を組み合わせて用いることもできる。
【0071】
以上のように、本発明の人工骨格材料は、複数個のタンパク質結合ドメインを有する第1の骨格材料を細胞表層側において近接して配置することができる。このため、タンパク質を近接して保持するのに好ましい人工骨格材料となっている。特に、多数個又は複数種類の酵素などのタンパク質を近接して保持可能な人工骨格材料となっている。また、タンパク質を二次元のアレイ状に保持可能な人工骨格材料となっている。
【0072】
さらに、この人工骨格材料が凝集性を備える場合には、酵素などタンパク質を保持したタンパク質複合材料として利用するときにおいて、一層タンパク質を近接配置できるほか、繰り返し利用に適したものとなっている。
【0073】
(人工骨格材料の製造方法)
このような人工骨格材料は、例えば、第1の骨格タンパク質を直接細胞表層に結合させる場合には、細胞表層結合ドメインを有する第1の骨格タンパク質を細胞に自己生産させ、細胞表層に結合可能な状態で細胞外に分泌させるようにすればよい。第1の骨格タンパク質は細胞にとって異種タンパク質である。通常、遺伝子組換えの手法によりこうした異種タンパク質をコードするDNAを発現可能に細胞に導入することにより、第1の骨格タンパク質を細胞にて発現させればよい。
【0074】
また、第1の骨格タンパク質を第2の骨格タンパク質を介して細胞表層に結合させる場合には、第1の骨格タンパク質及び第2の骨格タンパク質をそれぞれ細胞において遺伝子組換え等により発現させ、細胞外に分泌させるとともに細胞の表層において、細胞表層に結合された第2の骨格タンパク質に第1の骨格タンパク質が結合した構築物を構成させればよい。この場合、第2の骨格タンパク質には、細胞表層提示システムに基づく細胞表層結合ドメインを備えていることが好ましく、第1の骨格タンパク質には、第2の骨格タンパク質の骨格タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合する相互作用ドメイン(抗体、リガンド及びタイプIIドックリン等)を備えていることが好ましい。
【0075】
第1の骨格タンパク質と第2の骨格タンパク質とは、セルロソームにおけるタイプIIコヘシンとタイプIIドックリンとの組み合わせによる非共有結合を用いることで、第1の骨格タンパク質と第2の骨格タンパク質との人工骨格を細胞の表層で容易に構築できる。さらに、前述のアグルチニン等の細胞表層提示システムを利用すれば、第2の骨格タンパク質も細胞外から供給することも可能である。
【0076】
なお、第2の骨格タンパク質のみを細胞において発現させて第2の骨格材料を細胞の表層側に配置した細胞を準備し、この細胞に対して細胞外から第1の骨格タンパク質を供給することによって、第1の骨格タンパク質と第2の骨格タンパク質とを備える人工骨格を構築することにより、人工骨格材料を製造することもできる。このような製造方法によれば、第1の骨格タンパク質を細胞に合成させなくてもよいため、多量又は多種類の第1の骨格タンパク質を細胞表層に配置したい場合に適している。この製造方法で用いる第2の骨格タンパク質のみを細胞の表層側に備える人工骨格材料も本発明の一実施形態に包含される。
【0077】
本発明の人工骨格材料の製造方法によれば、容易にタンパク質を近接配置できる人工骨格を細胞表層に構築することができる。第1の骨格タンパク質や第2の骨格タンパク質を細胞内で合成し細胞外に分泌させて、細胞表層提示システムや第1の骨格タンパク質と第2の骨格タンパク質との間の非共有結合性結合を用いることで、なんら複雑な手法を用いることなく近接してタンパク質を保持可能なタンパク質ドメインを有する人工骨格材料を得ることができる。本発明の人工骨格材料の製造方法の変法として第2の骨格タンパク質のみを細胞表層に結合配置して、こうした細胞に外部から第1の骨格タンパク質を供給しても、第1の骨格タンパク質と第2の骨格タンパク質とは非共有結合で結合されるため、細胞表層にこれらの骨格タンパク質からなる人工骨格を形成できる。
【0078】
(タンパク質複合材料)
本発明のタンパク質複合材料は、細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに備えて該細胞の表層側に互いに近接配置される第1の骨格タンパク質と、前記タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合された1種又は2種類以上のタンパク質とを備えることができる。
【0079】
本複合材料における細胞及び第1の骨格タンパク質は、人工骨格材料における細胞及び第1の骨格タンパク質に相当し、人工骨格材料において既に説明したこれらの各種実施態様を本複合材料においてもそのまま適用することができる。また、本人工骨格材料が第2の骨格タンパク質を備えている形態も、本複合材料に適用される。
【0080】
本複合材料は、第1の骨格タンパク質のタンパク質結合ドメインにおいて非共有結合で所望のタンパク質を結合保持することができる。こうしたタンパク質としては、既に述べた各種構造及び機能を有するタンパク質が挙げられる。結合保持されるタンパク質は、タンパク質結合ドメインと非共有結合する相互作用ドメインを有している。結合保持されるタンパク質は、こうした相互作用ドメインを人工的に融合した融合タンパク質あるいは本来的にこうした相互作用ドメインを有するタンパク質の形態を採ることができる。このような相互作用ドメインのアミノ酸配列は、第1の骨格タンパク質が有するタンパク質結合ドメインとの関係で決定される。すなわち、タンパク質結合ドメインの種類(抗原、エピトープ、レセプター及びタイプIコヘシン)及びさらに個々のタンパク質結合ドメインとの各種の選択性によって決定される。このような相互作用ドメインを有するタンパク質は、遺伝子工学的手法そのほかによって当業者であれば容易に取得することができる。
【0081】
本複合材料は、複数種類のタンパク質を結合保持するのに適している。複数種類のタンパク質の保持形態は特に限定しない。例えば、1種類の第1の骨格タンパク質に2種類以上のタンパク質を結合保持させてもよいし、2種類以上の第1の骨格タンパク質に対してそれぞれ異なるタンパク質を結合保持させてもよいし、これらの保持形態を組み合わせてもよい。複数種類のタンパク質の結合保持形態は、第1の骨格タンパク質におけるタンパク質結合ドメインと相互作用するドメインとの組み合わせによって種々に設計することができる。
【0082】
(酵素を結合保持する複合材料)
本複合材料は、タンパク質として酵素を結合保持していることが好ましい。酵素を多数個又は複数種類近接配置することにより、酵素反応の速度等においてメリットが大きいからである。特に、複数種類の酵素が協同的又は段階的に作用する酵素反応系を構成する酵素の一部又は全部を結合保持することが好ましい。こうした酵素反応系においては、関連する酵素を近接配置することが全体の反応速度を速めることができるからである。
【0083】
このような酵素反応系を構成する酵素としては、各種の合成反応、変換反応、転移反応及び分解反応等から選択される複数種類の反応が組み合わされた反応系(例えば、複数種類の合成反応が組み合わされていてもよい)を構成する複数種類の酵素とすることができる。複数の分解反応が組み合わされた反応系としては、各種の人工高分子材料及び天然高分子材料を分解する反応系が挙げられる。なかでも、生体高分子材料を分解可する反応系が挙げられる。こうした生体高分子材料としては、タンパク質、リグニン、デンプン、セルロース等などの多糖類が挙げられる。本複合材料は、これらの各種高分子材料の分解用の複合材料(酵素材料)として用いることができる。
【0084】
(セルロースを分解するための複合材料)
本複合材料がセルラーゼを結合保持するものであるとき、本複合材料をセルロースの分解用の複合材料として用いることができる。セルロースは複数の酵素が協同的及び段階的に作用することで初めて効率的に分解される。特に不溶性セルロース及び結晶性セルロースにおいてその傾向がある。本複合材料は、複数種類のセルラーゼを近接して備えることができるため、セルロースを効率的に分解することができる。特に、第1の骨格タンパク質のタンパク質結合ドメインとしてタイプIコヘシン又はこれを含むタイプI骨格タンパク質を用いたり、これらに加えて第2の骨格タンパク質としてタイプIIコヘシン又はこれを含むタイプII骨格タンパク質を用いたりすることでセルロースの分解に好適化することができる。また、第1の骨格タンパク質においてCBDを有して、細胞がセルロースに対して吸着等が可能な場合には、一層効率的にセルロースを分解することができる。
【0085】
本複合材料をセルロース分解材料として機能させるために用いるセルロース分解酵素(セルラーゼ)は、D−グルコースがβ−1,4結合で結合したセルロースを加水分解してD−グルコースまで分解する過程において作用する酵素からなる酵素群から選択されるものであればよく、その由来も特に限定されない。したがって、セルラーゼとしては、例えば、国際生化学・分子生物学連合酵素委員会においてEC3.2.1.Xの番号が与えられるセルロース分解酵素が挙げられる。この番号が与えられる酵素としては、エンドグルカナーゼ(1,4−β−D−グルカングルカノヒドラーゼ、EC3.2.1.4)、β−グルコシダーゼ(EC3.2.1.21)、1,4−β−グルコシダーゼ(EC3.2.1.74)及びエキソセロビオヒドロラーゼ(セルロース1,4−β−セロビオシダーゼ、EC3.2.1.91)が挙げられる。本発明において用いるセルラーゼは、こうしたセルラーゼから選択される1種のみであってもよいし2種以上が組み合わされていてもよい。なお、セルラーゼとしては、これらの作用以外であっても上記分解過程に寄与する酵素も含めることができる。
【0086】
本複合材料は、2種類以上のセルラーゼを備えていることが好ましい。より好ましくは、エンドグルカナーゼ及びエキソセロビオヒドロラーゼから選択される1種類又は2種類を含むことが好ましい。これらの酵素を備えることにより結晶性又は不溶性セルロースを分解することができる。これらの酵素を備えることにより一層効果的に結晶性又は不溶性セルロースを分解することができる。これらのセルラーゼは、セルロースに対して相乗的に作用し効果的に分解できると考えられるからである。さらに、これらのセルラーゼによるセルロースの分解産物である新たな低分子セルロースやセロビオースに作用するβ−グルコシダーゼや1,4−β−グルコシダーゼのいずれか又は双方を備えることが好ましい。一層好ましくは、β-グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びエキソセロビオヒドロラーゼを備える。
【0087】
セルラーゼの由来は特に限定されないが、セルラーゼは表1に示すようなセルロソーム生産微生物のセルロソームを構成するセルラーゼや以下の表2に示すセルロース分解性微生物の生産するセルラーゼ及びこれらの改変体を使用できる。改変体とは、天然のセルラーゼ又はセルロソームから取得されるセルラーゼの塩基配列及び/又はアミノ酸配列において少なくとも部分的に改変したものをいう。なお、改変には、アミノ酸の挿入、置換、欠失及び付加のいずれかあるいは2種類以上のほか、アミノ酸配列に影響しない改変も含む。
【0088】
セルラーゼは、以下の表に示すような各種の天然のセルラーゼ生産微生物又はセルラーゼ又はその改変体若しくはその一部を形成するように人工的に改変した微生物から取得できる。こうした改変微生物は、以下の表に由来する微生物を親株又は宿主とするものであってもよいし、酵母等の工業的利用に適した微生物を親株又は宿主とするものであってもよい。セルラーゼはこれら微生物の菌体外に分泌されるのが通常であり、これらの微生物の培養液からセルラーゼ活性画分を回収することでセルラーゼを容易に取得できる。さらに、タンパク質の無細胞合成系によって取得することもできる。
【表2】

【0089】
本複合材料がセルラーゼを結合保持するものであるとき、セルラーゼ以外の酵素を結合保持していてもよい。例えば、キシラナーゼ、ヘミセルラーゼ等のリグノセルロース系材料中のヘミセルロースを分解する酵素を備えることで、リグノセルロース系材料中のヘミセルロースを分解できるようになる。例えば、クロストリジウム・サーモセラムのセルロソームは、キシラナーゼ、リケナーゼ及びマンナナーゼ等の活性も見出されている。また、リグニンを分解するリグニンペルオキシダーゼやマンガンペルオキシダーゼを備えていてもよい。リグニン分解酵素を備えている場合、セルロース系材料の分解のみならずリグノセルロース系材料の分解に本複合材料を用いることができる。なお、リグニン分解酵素を結合保持してリグニンを分解する複合材料を併用することでリグノセルロース系材料を分解することもできるし、別途リグニン分解酵素単体を併用してリグノセルロース系材料を分解することもできる。
【0090】
また、本複合材料がセルラーゼを結合保持するとき、本複合材料における細胞は、セルロースの分解産物であるセロビオースや最終分解産物であるグルコースの資化能を有するか又はこれらのいずれかの資化能が高い細胞であることが好ましい。こうした細胞を用いるときには、細胞の表層でこれらの分解産物を細胞内に取り込んで効率的に利用できる。
【0091】
細胞は、グルコースをエタノールなどのアルコール、乳酸などの有機酸等の有用物資に変換することができる微生物であることが好ましい。人工骨格材料の細胞としてこうした微生物を用いるときには、本複合材料は、セルロースを分解し、かつ得られた分解産物を効率的に資化して有用物質に直接に変換することができる。すなわち、単にセルロース系材料を分解する分解材料としてだけでなく、セルロース系材料を資化して有用物質に変換できるセルロース資化材料として用いることが可能となる。微生物がエタノール生産能を有するエタノール生産微生物であるときには、非可食性糖類であるセルロースから有用物質であるエタノールを生産することができるとともに、同時にカーボンニュートラルな燃料を提供できるセルロース資化性のエタノール変換材料として用いることができる。また、微生物が乳酸生産能を有する乳酸等の有機酸生産微生物であるときには、本複合材料を、セルロース系材料を資化して乳酸等の有機酸に変換できるセルロース資化性乳酸変換材料として用いることができる。
【0092】
エタノール生産微生物としては、本来的にエタノール生産する酵母などの微生物であってもよいし、遺伝子組換え等により人工的な遺伝的改変によるエタノール生産微生物であってもよい。こうしたエタノール生産微生物としてはサッカロマイセス・セレビジエ等のサッカロマイセス属やピキア・パストリスなどのピキア属酵母等の各種酵母が挙げられる。また、遺伝子組換えにより酸や塩に対して耐性が強化された酵母が挙げられる。こうした酵母の一例として、特開2004−344084に記載されるMF−121株が挙げられる。なお、これらの公報に記載の内容の全ては引用により本明細書の一部に組み込まれる。
【0093】
有機酸生産微生物としては、酵母などの微生物を宿主として遺伝子改変により乳酸などの有機酸を生産可能とした公知の形質転換体を用いることができる。こうした乳酸生産酵母などの形質転換酵母は、例えば、特開2003−334092、特開2004−187643、特開2005−137306、特開2006−6271、特開2006−20602、特開2006−42719、特開2006−75133、特開2006−296377等に開示されており、本発明においてはこれらの形質転換酵母を用いることができる。これらの公報に記載の内容の全ては引用により本明細書の一部に組み込まれる。
【0094】
なお、セルロース分解用の本複合材料は、広くセルロース系材料中のセルロースを分解する酵素材料として利用することができる。ここで、「セルロース系材料」とは、D−グルコースがβ−1,4結合でグリコシド結合したβ−グルカンであるセルロースを含有する材料である。「セルロース系材料」としては、セルロースを含有していればよく、どのような由来や形態であってもよい。したがって、セルロース系材料としては、例えば、リグノセルロース系材料、結晶性セルロース材料、不溶性セルロース材料などの各種セルロース系材料等が含まれる。リグノセルロース系材料としては、例えば、木本植物の木質部や葉部及び草本植物の葉、茎、根等においてリグニン等を複合した状態のリグノセルロース系材料が挙げられる。こうしたリグノセルロース系材料としては、例えば、稲ワラ、麦ワラ、トウモロコシの茎葉、バガス等の農業廃棄物、収集された木、枝、枯葉等又はこれらを解繊して得られるチップ、おがくず、チップなどの製材工場廃材、間伐材や被害木などの林地残材、建設廃材等の廃棄物であってもよい。結晶性セルロース系材料及び不溶性セルロース系材料としては、リグノセルロース系材料からリグニン等を分離後の結晶性セルロース及び不溶性セルロースを含む結晶性又は不溶性セルロース系材料が挙げられる。セルロース材料としては、また、使用済み紙製容器、古紙、使用済みの衣服などの使用済み繊維製品、パルプ廃液を由来としてもよい。さらに、アセトバクター・キシリナム(Acetobacter xylinum)等のセルロース生産微生物が生産するセルロースを由来としてもよい。
【0095】
なお、本複合材料がセルロース系材料を分解して資化することができる場合、本複合材料自体をグルコースなどの可食性糖類を用いることなくセルロースによって増殖させることができる。本複合材料によれば、グルコースなどの可食性糖類の使用量を相当量低減したり、可食性糖類の使用を回避したりできる。
【0096】
さらに、セルロース系材料は、本複合材料による分解に先だってセルラーゼによる分解を容易化するために適当な前処理等がなされていてもよい。例えば、セルロースが非晶質化されたものであってもよい。セルロースの非晶質化は同時に低分子化を伴うことが多い。
例えば、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸などの無機酸による酸性条件下、セルロースを部分加水分解することにより、セルロースを非晶質化あるいは低分子化できる。この他、超臨界水、アルカリ、加圧熱水などの処理によってもセルロースの非晶質化又は低分子化を行うことができる。
【0097】
なお、セルロース分解用の本複合材料によって得られる分解産物は、分解するセルロース系材料、結合保持するセルラーゼの種類等によって相違する。したがって、必ずしもD−グルコースを最終産物とするものではなく、セロビオースやオリゴ糖を主体とする分解産物組成を有していてもよい。
【0098】
また、本複合材料は、結合保持する酵素を適宜選択することで、上記したセルロース以外の高分子材料を分解する酵素材料(例えば、デンプン分解材料等)として利用できるし、他の反応系のための酵素材料としても利用できる。
【0099】
なお、本複合材料は、第2の骨格タンパク質、好ましくは複数個の骨格タンパク質結合ドメインを有する第2の骨格タンパク質を備えることができる。こうした第2の骨格タンパク質を備えることにより、細胞の表層側において多くの第1の骨格タンパク質を容易に近接し配置できる、この結果、第1の骨格タンパク質上のタンパク質結合ドメインに結合される酵素のタンパク質を近接保持することができる。また、複数の骨格タンパク質結合ドメインを有している場合には、所望のタンパク質をより近接しより多く細胞の表層側に結合保持できる。このような本複合材料は、複数種類のタンパク質による協同的又は段階的な反応系の一層反応速度を速めることができる。
【0100】
第2の骨格タンパク質は、細胞の表層に共有結合で結合していると、細胞に対して第2の骨格タンパク質が固定されているため、人工骨格材料を容易に維持することができ、取り扱い等において有利である。
【0101】
以上説明したように、本複合材料は、所望のタンパク質を近接して配置できるため、より効率的にその機能を発現させることが可能となっている。特に、複数種類の酵素が関連する反応系の反応速度を速めることができる。このため、生体高分子材料など難分解性の材料の分解の材料として用いることができる。
【0102】
また、第1の骨格タンパク質に保持結合させたタンパク質による産物(分解産物)をさらに細胞内に取り込んで資化し有用物質に変換する機能を細胞が備える場合には、細胞の表層側における反応系と細胞内部における反応系とを構築できる。この結果、高分子材料の分解を細胞外で行い資化等のための基質を取得し細胞内に導入し、資化や変換を細胞内で行う複合材料を得ることができる。この複合材料によれば、細胞表層近傍に高密度に分解のための酵素を備えているため、細胞表層近傍で高濃度に基質を取得し、かつ効率的に細胞内に導入し、効率的に資化、変換等できる。
【0103】
本複合材料は、他の担体表面に保持することができる。通常、細胞を介して適当な固相担体に保持させることができる。こうした形態を採ることで、培養や発酵工程において繰り返し利用を容易に実現できる。細胞が保持される固相担体としては、有機材料又は無機材料の多孔質体粒子又は成形体、繊維等とすることができる。また、微生物をこれらの担体へ保持する手法は、従来公知の手法を適宜採用すればよい。
【0104】
(本複合材料の製造方法)
本発明のタンパク質複合材料の製造方法は、人工骨格材料に、第1の骨格タンパク質上のタンパク質結合ドメインに結合可能な相互作用ドメインを有する1種又は2種以上のタンパク質を細胞内から分泌させて又は細胞外から供給する工程を備えており、タンパク質結合ドメインに1種又は2種以上のタンパク質を結合させることにより、本複合材料を得ることができる。本製造方法によれば、細胞表面上においてタンパク質を結合保持するための人工骨格を備える人工骨格材料に結合保持させようとする所望のタンパク質を細胞内又は細胞外から供給することで、容易に細胞の表層において所望のタンパク質を近接保持させることができる。また、この方法によれば、複数種類の酵素が協同的又は段階的に作用する反応系の反応速度を向上させることができるタンパク質複合材料を容易に提供できる。
【0105】
人工骨格材料に供給する所望のタンパク質は、細胞内で必要に応じて遺伝子組換えにより合成させてもよい。なお、細胞内で結合保持させようとするタンパク質を合成する場合には、必要に応じ適当な分泌シグナルや相互作用ドメインを付与した融合タンパク質として合成させる。結合保持させようとするタンパク質は、好ましくは細胞外から供給する。所望のタンパク質が適切な相互作用ドメインを有していれば、細胞外から本人工骨格材料に供給しても、第1の骨格タンパク質のタンパク質結合ドメインに結合保持させることができる。また、細胞外から供給することで、細胞における第1の骨格タンパク質の合成に影響したり又は影響されたりすることなく、結合保持させようとするタンパク質を所望の量だけ結合保持させることが可能となる。さらに、大量又は多種類のタンパク質を細胞内で合成させるには細胞の負担も大きく、増殖能力に影響を及ぼすことがある点からも、結合保持させようとするタンパク質は細胞外から供給することが好ましい。
【0106】
本人工骨格材料に細胞外から結合保持させようとするタンパク質を供給するには、本人工骨格材料とタンパク質とを適当な水性媒体下に接触させればよい。本人工骨格材料を含む水性媒体に対してタンパク質を供給してもよいし、タンパク質を含有する水性媒体中に本人工骨格材料を供給してもよい。
【0107】
供給工程で用いる水性媒体は、本人工骨格材料を構成する細胞と結合保持させようとするタンパク質との生理活性が維持される限りに特に限定されない。これらの生理活性が維持される条件は、タンパク質と細胞とについてその生理活性が吸着工程後も維持される条件である。例えば、これらについて適切なpH、浸透圧及び温度が確保されていればよい。pHは、タンパク質及び細胞によっても異なるが、通常は、pH6以上9以下の範囲である。また、浸透圧も微生物などの細胞に対しておおよそ等張性であることが好ましい。なお、浸透圧は緩衝液や等張化剤のほか適当な塩類を使用して調節することができる。また、温度は、タンパク質の変性等を考慮すると1℃以上10℃以下であることが好ましく、より好ましくは2℃以上5℃以下である。こうした水性媒体としては、塩類溶液等とすることができる。例えば、20mM〜50mM程度のトリス塩酸バッファーとしてもよい。また、0mM超20mM以下、より好ましくは5mM以上15mM以下のCaCl溶液などのカルシウムイオンが存在する水性媒体としてもよい。さらに好ましくは、約10mMのカルシウムイオンが存在する水性媒体とする。こうしたカルシウムイオン含有水性媒体は、典型的にはCaCl2水溶液が挙げられる。こうしたイオン環境において本人工骨格材料へのタンパク質の結合保持傾向が強くなる傾向がある。
【0108】
水性媒体の攪拌にあたっては、その強度を適宜調節すればよい。適切な攪拌強度等の攪拌条件は、所望のタンパク質と本人工骨格材料とを適切な水性媒体下で各種の攪拌条件で攪拌して、その結果得られた細胞画分のタンパク質量や酵素活性等を測定することで決定することができる。なお、接触回数を増加させるには、供給するタンパク質濃度を増加させるのも有効である。
【0109】
本複合材料を製造するにあたっては、複数種類のタンパク質を本人工骨格材料に同時に供給してもよいし、順次供給してもよい。結合保持させようとするタンパク質が有する相互作用ドメインによって結合すべきタンパク質結合ドメインを予め決めておくことができるため、結合させようとするタンパク質結合ドメインが互いに相違している場合には同時供給することができる。一方、例えば、結合させるべきタンパク質結合ドメインが共有の場合、同時に複数種類のタンパク質を供給すると、タンパク質の結合量を制御することが困難な場合がある。したがって、このような場合において、タンパク質の結合量を調整した場合には、異なるタンパク質を順次供給するようにする。
【0110】
こうした供給工程によって、結合保持させようとするタンパク質を第1の骨格タンパク質のタンパク質結合ドメインに結合保持させるには、上記水性媒体を攪拌することが好ましい。攪拌により、両者の接触確率が向上するからである。
【0111】
結合保持させようとするタンパク質をタンパク質結合ドメインに結合させて本複合材料を得ることができる。
【0112】
(回収工程)
セルラーゼ及び/又はセルロソームが保持された細胞(微生物)を回収するには、水性媒体を公知の固液分離手段により固液分離して菌体画分を回収すればよい。例えば、遠心分離によりペレットとしてセルラーゼ等が保持された微生物を回収することができる。
【0113】
本発明の複合材料(セルラーゼ担持材料)の製造方法は、以上のとおりの形態で実施することができる。このため、上記したとおり、新たなセルラーゼを備える固相担体を提供するとともに、微生物のセルロース分解能を容易に調節することができる。
【0114】
なお、本人工骨格材料及びその構成要素である細胞、第1の骨格タンパク質及び第2の骨格タンパク質;本複合材料及びその構成要素について既に説明した態様を全て本発明の製造方法に適用できる。
【0115】
(セルロースの分解方法)
本発明のセルロースの分解方法は、セルロース系材料のセルロースと1種又は2種以上のセルラーゼを結合保持する本複合材料とを接触させて、前記セルラーゼにより前記セルロースを分解する工程、を備えることができる。この分解方法によれば、細胞の表面において1種又は2種以上のセルラーゼが近接して配置されているため、セルロースを効率的に分解することができる。この分解方法においては、セルロースを分解するための複合材料における各種構成要素の実施態様を本発明においても適用できる。特に、セルロースの分解にあたっては、複数種類の酵素の協同的又は段階的な作用が必要であるが、本発明の分解方法によれば効率的にセルロース系材料を分解することができる。
【0116】
(セルロースを利用する有用物質の生産方法)
本発明のセルロースを利用する有用物質を生産方法は、セルロース系材料中のセルロースとセルラーゼを結合保持する本複合材料とを接触させて、前記セルロースを分解する工程と、前記セルラーゼによって分解されたセルロース分解産物を前記複合材料の前記細胞によって資化し有用物質に変換する工程と、を備えることができる。この生産方法によれば、セルロース系材料中のセルロースを複合材料の細胞表層に結合保持されたセルラーゼが分解するとともに、その分解産物をその細胞が資化して有用物質に変換することができる。このため、効率的にセルロースを利用することができる。特に、従来セルロースを直接利用困難であった細胞であっても、セルロースを利用して有用物質に変換することができるようになる。なお、本複合材料及びその構成要素である細胞、第1の骨格タンパク質、第2の骨格タンパク質及びセルラーゼ等については既に説明した態様を全て本発明の生産方法についても適用することができる。また、上記分解工程については、セルロース系材料の分解方法に記載した形態をそのまま適用することができる。
【0117】
本発明の生産方法においては、前記細胞として、エタノール生産微生物とすることが好ましい。エタノール生産微生物であれば、セルロース系材料から燃料としても有用であるエタノールを直接生産することができる。また、前記細胞として乳酸などの有機酸生産微生物としてもよい。
【0118】
なお、分解工程〜変換工程は、利用するセルロース系材料及び細胞や変換する有用物質の種類に応じて実施すればよい。すなわち、当該有用物質を生産する微生物等の細胞及び当該有用物質に応じて実施すればよい。例えば、エタノール等の有用物質への変換等のための発酵工程は、以下のようにして実施できる。培地としては、炭素源として上記セルロース系材料のほか、炭素源の一部としてセルロース又はセルロースから分解酵素により生成されるオリゴ糖類又は単糖類を添加することができる。こうすることで、特に培養開始時から培養初期において微生物に効果的に資化可能な単糖類を供給できる。なお、糖類は、分解酵素を抑制しない程度に添加され、好ましくは培養開始時から培養初期(培養開始から2〜10時間以内程度)まで一定期間にのみ糖類を添加するようにする。窒素源及び無機塩類としては、公知のものを適宜選択して利用することができる。
【0119】
なお、培養は、静置培養、振とう培養または通気攪拌培養等を用いることができる。通気条件は、嫌気条件下、微好気条件下及び好気条件等、適宜選択することができる。培養温度も、特に限定しないが、25℃〜55℃等の範囲とすることができる。また、培養時間も必要に応じて設定されるが、6〜150時間程度とすることができる。また、pHの調整は、無機あるいは有機酸、アルカリ溶液等を用いて行うことができる。培養中は、必要に応じてアンピシリン、テトラサイクリンなどの抗生物質を培地に添加することができる。なお、変換工程終了後、培養液から微生物を除去してエタノール等の有用物質含有画分を回収する工程、さらにこれを濃縮する工程を実施してもよい。
【0120】
有用物質としては特に限定しないが、グルコースを利用して微生物が生成可能なものが好ましい。例えば、エタノールなどの低級アルコール、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリン、プラスチック・化成品原料など、バイオリファイナリー技術が対象とする材料が挙げられる。なお、グルコースを利用する微生物としては、特に限定しないが、例えば、グルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して本来の代謝物でない化合物を産生可能に改変したものであってもよい。
【0121】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施することができる。
【実施例1】
【0122】
(第1の骨格タンパク質及び第2の骨格タンパク質をコードするDNA断片の取得)
本実施例では、クロストリジウム・サーモセラム(C.thermocellum、以下、単にCtともいう。)由来の骨格タンパク質をコードするDNA断片のクローニングを行った。まず、Ct ATCC27405からゲノムを抽出した。タイプI骨格タンパク質(本発明の第1の骨格タンパク質に相当する。)であるCipAタンパク質をコードするCipA遺伝子(NCBIのホームページ、アクセッション番号:L08665)の構造を図3に示す。このCipA遺伝子につき、図3に示すようなゲノムの各部分(CBD(セルロース結合ドメイン)+タイプIコヘシン1個(Coh3)、2個(Coh3,4)、7個(Coh3〜Coh9)の各部分)を含むDNA断片を合成した。すなわち、これらのゲノムの各部分のDNA配列(前記データーベース及びアクセッション番号)に基づいて、適切なプライマーを設計してPCR法により常法に従い増幅し各種DNA断片を取得した。また、同一遺伝子におけるCBD+タイプIコヘシン4個(Coh3〜Coh6)部分については遺伝子合成により取得した。なお、タイプIコヘシン7個を備えるDNA断片にあっては、タイプIIドックリンを保持している。
【0123】
また、このCt ATCC27405のタイプIIコヘシンをコードするSdbA遺伝子のDNA配列(NCBIのホームページ、アクセッション番号:U49980)に基づいて、タイプIIコヘシンを1個及び2個をそれぞれ備えるタイプIIアンカータンパク質(本発明の第2の骨格タンパク質に相当する。)をコードするDNA断片も同様にしてPCR法により常法に従い取得した。
【実施例2】
【0124】
(エンドグルカナーゼの無細胞系での合成)
本実施例では、Ct ATCC27405のゲノムからエンドグルカナーゼ遺伝子であるCelA遺伝子のDNA配列(NCBIのホームページ、アクセッション番号:K03088)に基づいて適当なプライマーを設計してPCR法により常法に従い増幅後、CelA遺伝子断片をクローニングした。なお、CelA遺伝子はそのC末端側にタイプIコヘシンとの相互作用ドメインであるタイプIドックリンを有している。クローニングしたCelA遺伝子断片をpET-23bベクター(Novagen)に挿入し、PCR法によりCelA遺伝子を含むT7プロモーターからターミネーターの領域を増幅し、無細胞合成における鋳型とした。無細胞溶液中で、25℃,5時間反応させることによりCelAの合成を行った。なお、無細胞合成は、WAKO PURE system(和光純薬株式会社製)を用い、そのプロトコールに従い行った。
【実施例3】
【0125】
(第1の骨格タンパク質又は第2の骨格タンパク質の酵母表層での発現)
本実施例では、実施例1で取得した各遺伝子断片をそれぞれのC末端にHis-tagが付加する形でpYD1ベクター(Invitrogen)に挿入し、これらを用いて酵母S.cerevisiae EBY100の形質転換を行った。形質転換した各株をYNB+0.5%カザミノ酸+2%グルコース培地を用いて30℃で培養し、OD600=2を超えたところで集菌後、OD600=0.5となるようにYNB+0.5%カザミノ酸+2%ガラクトース培地に植菌し、30℃、48時間誘導発現を行った。その後、OD600=1,1mlの菌体を、PBS1mlで洗浄し、125μlのPBSに懸濁した。この懸濁液に、一次抗体として抗His-tag抗体0.5μgとBSA最終濃度1mg/mlとを添加し、氷中30分静置し、時々懸濁を行った。次に遠心後、PBS1mlで洗浄を行い125μlのPBSに懸濁し、二次抗体としてCy5標識の抗IgG抗体0.5μgとBSA最終濃度1mg/mlとを添加し、氷中30分静置し、時々懸濁を行った。その後、遠心し、PBS1mlで洗浄して50μlのPBSで懸濁後、蛍光顕微鏡にてCy5の蛍光を測定した。その結果を図4に示す。
【0126】
図4に示すように、全てのタイプIコヘシンタンパク質遺伝子断片及びタイプIIコヘシンタンパク質遺伝子断片につき、当該断片がコードする融合タンパク質を発現させた細胞表面の全体にまんべんなく蛍光が認められた。このことから、各遺伝子断片がコードする骨格タンパク質及びアンカータンパク質が酵母の表層で十分に発現していることがわかった。
【実施例4】
【0127】
(第1の骨格タンパク質を表層提示する酵母へのエンドグルカナーゼの供給及び保持)
本実施例では、実施例3においてタイプIコヘシンを1個提示した酵母に対して、外部から実施例2において無細胞系で合成したエンドグルカナーゼCelAを供給して骨格タンパク質の機能を確認した。CBD+タイプIコヘシン1個提示酵母OD600=5,1mlを用いて20mM Tris-HCl pH8.0,10mM CaCl2で洗浄後、20mM Tris-HCl pH8.0, 0.15M NaCl, 10mM CaCl2, 10mg/ml BSA 溶液で4℃,1hrブロッキング操作を行い、20mM Tris-HCl pH8.0, 0.1M NaCl, 10mMCaCl2, 0.05%tween20 溶液で3回洗浄後、20mM Tris-HCl pH8.0, 0.15M NaCl, 10mM CaCl2, 10mg/ml BSA溶液中でCelA無細胞合成液50μlと混合、4℃,1時間反応を行った。次に20mM Tris-HCl pH8.0, 0.1M NaCl, 10mMCaCl2, 0.05%tween20 溶液で4回洗浄を行い、CelAが結合した酵母を1%CMC, 20mM 酢酸緩衝液pH6.0, 10mM CaCl2溶液に混合し、60℃で反応を行った。この反応液につき、TZ−アッセイ法にてCMC分解活性を測定した。なお、対照としてなんらタンパク質を提示していない酵母S.cerevisiae EBY100についても同様にCelAを供給し、同様に操作した。これらの結果を図5に示す。
【0128】
図5に示すように、タイプIコヘシン提示酵母にCMC分解活性が認められ、タイプIコヘシンにCelAが結合していることがわかった。すなわち、提示酵母においてタイプIコヘシンが機能的に表層提示されているとともに、これに結合したCelAが機能していることがわかった。これに対して、なんらタンパク質を提示しない酵母においてはCelAによるCMC分解活性は認められなかった。またCy5蛍光が認められた他のタイプIコヘシン提示発現酵母についても、同様にしてCelAを供給したところ、CMC分解活性が認められた。
【0129】
これらの結果から、酵母細胞の表層にタイプIコヘシンを提示したとき、この酵母の外部からセルラーゼを供給することで、タイプIコヘシンに対して、セルロソーム由来のエンドグルカナーゼなどのセルラーゼを結合して保持させることができることがわかった。セルロソーム由来の各種セルラーゼは、タイプIコヘシンとの相互作用ドメインであるタイプIドックリンを備えているため、このように細胞外部からタンパク質を供給して選択的にタイプIコヘシンに結合保持させることができる。このため、細胞にこうしたタンパク質を合成させるための遺伝的改変や異種タンパク質の生合成等の負担をかけることなく多数及び/又は多種類の酵素などのタンパク質を細胞表層に備えさせることが可能であることがわかった。
【実施例5】
【0130】
(第1の骨格タンパク質を表層提示した酵母の凝集性)
本実施例では、タイプI骨格タンパク質を表層提示した酵母の凝集性を確認した。CBDに加えてType1コヘシン1個、2個、4個及び7個をそれぞれ表層提示した酵母S.cerevisiae EBY100に対して、誘導発現72時間後に各培養液(なお、培地は、誘導時の培地:YNB+0.5%カザミノ酸+2%グルコース培地である。)10mlを試験管に回収し、良く懸濁した後、5分静置した。何らタンパク質を表層提示させない酵母S.cerevisiae EBY100についても、同様にして凝集性を確認した。結果を表3に示す。
【表3】

【0131】
表3に示すように、無提示の酵母について凝集性は確認されなかったが、4個及び7個のタイプIコヘシンを発現する各酵母について目視で凝集性を確認した。なかでも、4個のタイプIコヘシンを発現する酵母についてより強い凝集性を確認できた。この結果から、3個以上のタイプIコヘシンを表層に備える細胞に対して凝集性を付与することができると考えられた。なお、特にタンパク質を提示させない酵母S.cerevisiae EBY100について凝集性は確認されなかった。実施例2で確認した各タンパク質の表層発現状態を考慮すると、一定個数以上のタイプIコヘシンのタンデムリピートを備える結果、細胞表層でのタイプIコヘシンの密度が高くなり、その結果、細胞が凝集するものと考えられた。
【実施例6】
【0132】
(第1の骨格タンパク質と第2の骨格タンパク質との酵母表層での同時発現)
まず、第2の骨格タンパク質であるCt ATCC27405のSdbA遺伝子におけるタイプIIコヘシン1個の表層提示を酵母(S.cerevisiae)MT8-2で行った。まず、Ct ATCC27405のSdbA遺伝子のDNA配列(NCBIのホームページ、アクセッション番号:L08665)に基づいて、タイプIIコヘシンのC末端側に酵母表層結合ドメインであるSAG1、N末端側にHis-tagを融合した融合タンパク質をコードするDNA断片を取得した。このDNA断片について染色体導入用ベクターを構築し、この染色体導入用ベクターを用いてタイプIIコヘシン1個を含むDNA断片を酵母染色体に組み込んだ。導入操作後の酵母をYPD培地で24時間培養後、実施例3で示した方法でHis-tagを用いた蛍光染色を行った。結果は、図6に示すように、細胞表層において蛍光を示し、表層でのタイプIIコヘシンの発現が認められた。
【0133】
次いで、CBD+タイプIコヘシンとタイプIIコヘシンの同時発現を酵母(S.cerevisiae)MT8-2で行った。まず、第1の骨格タンパク質であるCBD+タイプIコヘシン1個(Coh3)及びCBD+タイプIコヘシン2個(Coh3及びCoh4)のそれぞれにつき、N末端側にAGA2及びXpress-tagを融合し、C末端側にタイプIIドックリン配列を融合した融合タンパク質をコードするDNA断片を取得した。なお、CtCipAのタイプIIドックリンCtCipA DocIIのDNA配列はCipA遺伝子(NCBIのホームページ、アクセッション番号:L08665)に開示されており、これらの配列に基づいてDNA断片を取得した。
【0134】
このDNA断片と先に取得したタイプIIコヘシンにSAG1及びHis-tagを融合したDNA断片とを用いて酵母表層提示を行った。すなわち、CBD+タイプIコヘシン(1個又は2個)+タイプIIドックリンDNA断片を2μベクターに挿入し、このベクターを既に作製したタイプIIコヘシンを表層提示する酵母MT8-2に導入した。導入酵母をSD-ura培地で72時間培養後、一次抗体として抗X-press抗体を用い実施例3に示す方法で菌体染色を行った。
結果を図7に示す。
【0135】
図7に示すように、タイプIコヘシンとタイプIIコヘシンとを同時発現させた株に蛍光が認められ、酵母表層上でのタイプIIコヘシンを有する第2のタンパク質が表層提示されるとともに、この第2の骨格タンパク質のタイプIIコヘシンに第1の骨格タンパク質におけるタイプIIドックリンが結合した骨格が再構成したことが認められた。
【0136】
さらに、タイプIIコヘシンのみを発現させた株と、タイプIIコヘシン及びタイプIコヘシンを同時発現させた株に対して、実施例4と同様にして無細胞系で発現させたCtCelAを供給し、1%CMCの分解活性を測定した。
結果を図8に示す。
【0137】
図8に示すように、同時発現酵母についてのみ有意なCMC分解活性を示した。
この結果から、酵母表層上でタイプIコヘシン及びタイプIIコヘシンからなる人工骨格にタイプIドックリンを有する酵素が結合保持された酵素複合材料が構築できることがわかった。
【実施例7】
【0138】
本実施例では、実施例3においてタイプIコヘシンを1,2,4及び7個をそれぞれ提示した酵母に対して、その外部から実施例4と同様にして無細胞系で合成したエンドグルカナーゼCelAを供給し、CMC分解活性をタイムコースで測定した。実施例4と同様、何らタンパク質を提示しない酵母EBY100をコントロールとして用いて同様に操作した。CMC分解活性を、反応時間の経過とともに図9に示す。
【0139】
図9に示すように、実施例4と同様、タイプIコヘシンを保持する第1の骨格タンパク質を保持する酵母についてCMC分解活性が認められるともに、第1の骨格タンパク質が保持するタイプIコヘシンの数に関連してCelAが機能していることが分かった。タイプ1コヘシン1個を提示する第1の骨格タンパク質を提示する酵母はコントロールに対して明らかなCMC分解活性を発揮した。さらに、タイプIコヘシン2及び4個をそれぞれ提示した酵母は、同1個を提示した酵母と比較して初速度で約20%の活性上昇が認められた。なお、タイプIコヘシンを7個提示する酵母については、コヘシン数に応じたCMC分解活性の増大は特に観察されなかった。
【0140】
さらに、これらのCelA供給後のタイプIコヘシン酵母OD600=10,1mlを用いて、0.5%リン酸膨潤セルロースを基質とし、50℃、40時間酵素反応を行った。タイプIコヘシン4個を保持する第1の骨格タンパク質を提示する酵母についての結果を図10に示す。
【0141】
図10に示すように、0.5%リン酸膨潤セルロースの分解活性が認められ、タイプIコヘシンにCelAが結合していることが分かった。なお、図10には、従来のアーミング酵母(論文Fujita. Y., et al., Appl. Environ. Microbiol., 70(2), 1207-1212(2004).)とエンドグルカナーゼによるリン酸膨潤セルロース分解量で比較を行ったところ、タイプIコヘシン4個提示酵母がより高い分解活性を示した。
【実施例8】
【0142】
(タイプIコヘシン酵素の近接効果)
実施例3を参考にして、目的の蛋白質がN末端側になるようpYD1ベクターを改良し、pYD5ベクターを作製した。このベクターではセルロース結合部位CBDが最も外側に配置し、それよりも酵母表層側にタイプIコヘシンを提示することが可能となる(図11参照)。本ベクターに図11に示すようにCBDとタイプIコヘシン4個とを保持する第1の骨格タンパク質を発現可能に導入した。実施例3に準じ、このベクターを用いてS.cerevisiae EBY100を形質転換して酵母表層に上記第1の骨格タンパク質の提示を行った。
【0143】
セルロース結合部位とタイプIコヘシン4個とを提示する酵母に無細胞合成したエンドグルカナーゼCelA及びCelDを実施例3に記載の方法に準じてそれぞれ単独で結合させて、CelA提示酵母及びCelD提示酵母を作製した。これらの2種の酵母につき、実施例7に記載の方法に準じて0.5%リン酸膨潤セルロースの分解活性を測定した。更にCelA及びCelDの添加量をそれぞれ半分にし、タイプIコヘシン4個提示酵母にこれら2種を結合させて、(CelA+CelD)提示酵母を作製した。この酵母についても、0.5%リン酸膨潤セルロースの分解活性を測定した。これらの結果を併せて図12に示す。
【0144】
図12に示すように、CelA提示酵母及びCelD提示酵母は、それぞれ良好なリン酸膨潤セルロース分解活性を示した。また、(CelA+CelD)提示酵母は、(CelA提示酵母の分解活性とCelD酵母の分解活性)/2より1.7倍高い分解活性を示した。以上の結果から、(CelA+CelD)提示酵母は、CelA及びCelDをそれぞれ単独で提示するよりも高いリン酸膨潤セルロース分解活性を有し、CelA及びCelDの相乗効果が明らかであった。本実施例では、タイプIコヘシンにCelA及びCelDが結合することによりCelAとCelDとが近接して配置されることによってこれらの酵素がそれぞれリン酸膨潤セルロースの分解活性に相乗的に作用していることがわかった。
【実施例9】
【0145】
(コヘシン表層提示酵母とエンドグルカナーゼCelAとの複合体のリン酸膨潤セルロースの分解能)
本実施例では、コヘシンを細胞表層に提示させた遺伝子組換え酵母を作製し、この酵母に対してセルラーゼを供給したときのセルロース分解能を、コヘシンを提示しない親株酵母を比較した。具体的には、HOR7プロモーターの下流にCtのCipAタンパク質をコードするCipA遺伝子(NCBIのホームページ、アクセッション番号:L08665)のCBDとコヘシン4個とを含むコード領域を有するDNAを導入し、このコード領域のアミノ酸配列のC末端に相当する下流側にAGA2遺伝子を融合させたDNA断片を作製した。このDNA断片を、HOR7プロモーターによりAGA1が発現する酵母(親株:BY4741)の染色体に常法に従い導入し、コヘシン提示酵母とした。コヘシン提示酵母、CelA分泌酵母、通常酵母(BY4741株)を試験管にて前培養後、それぞれを2Lバッフルフラスコにて約36時間培養した。
【0146】
なお、上記CelA分泌酵母は、以下のようにして作製した。セルラーゼを染色体に導入するためのベクターpAH−HOR7p−Ctcel8Aを作製した。図13に示すように、AAP1遺伝子の上流3000bpから2000bpまでの配列(以下、AAPIUという。)をサッカロマイセスS288CのゲノムDNAからPCR反応によりクローニングした。また、AAP1遺伝子の上流−2000bpから−1000bpまでの配列(以下、AAP1Dという。)をS288CのゲノムDNAからPCRによりクローニングした。さらに、べクター遺伝子導入の確認用マーカーとしてハイグロマイシン耐性遺伝子にTDH3プロモーター(TDH3p)及びCYC3ターミネーター(CYCt)を連結した。HOR7プロモーターの制御下Rhisopusoryzae由来のグルコアミラーゼのシグナルペプチドのコードDNAとTDH3ターミネーターと、これらのKpn I−BamHIの間にCtのCel8A遺伝子とを導入後、AAPIUの下流に挿入することにより、pAH−HOR7p−Ctcel8Aを完成させた。これをSseI8387Iで切断、線状化し、常法に従い、酵母染色体に導入した。
【0147】
CelA分泌酵母の上清80mlをCelA溶液として採取し、CelA溶液80mlに対して、コヘシン提示酵母及び親株のそれぞれを、塩化カルシウム10mM存在下でOD600=30となるように混合し、25℃、40rpmにて約3時間振とうして、2種類の酵素−酵母複合体を作製した。
【0148】
リン酸膨潤セルロースの最終濃度が0.2%となるように、酵母−酵素複合体を混合し、55℃、40rpmにて約20時間振とう培養した。その後、各溶液を回収し遠心分離を行い、遠心上清中の還元糖量をソモジ−ネルソン法にて測定した。結果を図14に示す。
【0149】
図14に示すように、細胞表層にコヘシンとCBDとを発現したコヘシン提示酵母とCelA複合体のリン酸膨潤セルロース分解能が、複合体を形成しない通常酵母に比べて約3.2倍高いことがわかった。
【0150】
以上のことから、骨格タンパクを表層に発現する酵母を共存させることにより、同じセルラーゼ量でも顕著に高いセルロース分解能を発揮できることがわかった。
【実施例10】
【0151】
(骨格タンパク質発現酵母におけるβ−グルコシダーゼ(BGL)の同時発現効果の確認)
実施例9と同様に、HOR7プロモーターの下流にCBDを含むコヘシン4個遺伝子とその下流側にさらにAGA2遺伝子を含む融合タンパク質をコードするDNA断片を作製した。このDNA断片をHOR7プロモーターによりAGA2遺伝子が発現する酵母BJ−AGA1(親株:BJ5465)の染色体に常法に従い導入し、上記融合タンパク質をAGA1及びAGA2を介して表層提示する改変酵母BJ004を作製した。
【0152】
セルロソーム構成酵素には、BGLが存在しない。このため、セルロソームにより分解されたセルロース分解物は、そのまま酵母サッカロマイセス・セレビジエが資化することはできない。そこで、BGLを、酵母表層に提示させた。すなわち、A.aculeatus由来のBGL(NCBIのホームページ、アクセッション番号:D64088)を酵母表層に提示させるために、常法に従い当該BGL遺伝子をSAG1遺伝子と融合させてHOR7プロモーター下流に挿入後、常法に従いBJ004株の染色体に導入し、骨格タンパク質−BGL発現酵母BJ104を得た。
【0153】
酵母BJ104株に無細胞合成で合成したクロストリジウム・サーモセラム由来のCelAを供給し吸着させた後、1%CMC溶液と混合後、60℃分解試験を行い、還元糖量をTZ法(検出波長660nm)にて測定した。結果を、図15に示す。
【0154】
図15に示すように、エンドグルカナーゼとβ−グルコシダーゼとを骨格タンパク質に保持させた酵母BJ104は、β−グルコシダーゼ非導入の酵母BJ004の約1.6倍のセルロース分解能を呈した。以上のことから、骨格タンパク質材料に対してセルロースの分解に必要な複数種類の酵素を有効に保持させることができ、この結果、セルロースの分解効率を顕著に上昇させることができることがわかった。
【実施例11】
【0155】
(セルロソーム再構成酵母(BJ104pA株)によるエタノール生産)
本実施例では、骨格タンパク質材料を細胞表層に提示する酵母BJ104株に対して、2μプラスミドを用いてクロストリジウム・サーモセラム由来のCelA(CelA遺伝子のDNA配列(NCBIのホームページ、アクセッション番号:K03088))を導入し、セルロソーム再構成酵母BJ104pA株を作製した。この株を、SD−Ura培地で24時間培養した後、さらに、SD−Ura+2%CAA(カザミノ酸)培地で24時間培養した。菌体100D、1mlを集菌した後、10mM塩化カルシウム存在下において20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.0)で二回洗浄を行い、1%CMC分解試験を60℃で行った。結果を図16に示す。
【0156】
図16に示すように、セルロソーム再構成酵母BJ104pAは、無細胞合成によるcelAを骨格タンパク質に保持させた酵母BJ104株とほぼ同様のセルロース分解活性を呈した。さらに、BJ104株(CelAの供給保持なし)及びBJ104pA株を用い、それぞれ0.5%リン酸膨潤セルロースと混合して、45℃で48時間反応させた後、反応溶液中のエタノール濃度を測定した。その結果、BJ104pAにおいてのみ0.23g/lのエタノールを検出した。
【0157】
以上のことから、骨格タンパク質材料を細胞表層に保持する酵母においてエンドグルカナーゼとβグルコシダーゼとを分泌発現させることにより、当該エンドグルカナーゼを骨格タンパク質保持材料に担持させることができることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0158】
【図1】本発明の人工骨格材料の一実施形態を示す図である。
【図2】本発明の人工骨格材料の他の一実施継体を示す図である。
【図3】本実施例で用いるタイプI骨格タンパク質遺伝子の構造を示す図である。
【図4】実施例における各種骨格タンパク質の酵母での発現状態を示す図である。
【図5】実施例におけるCelAと骨格タンパク質発現酵母との関係を示す図とCelAを結合保持させた酵母のCMC分解活性を示すグラフ図である。
【図6】実施例におけるタイプIIコヘシン発現酵母でのタイプIIコヘシン発現状態を示す図である。
【図7】実施例におけるタイプIコヘシン+タイプIIコヘシン発現酵母におけるタイプIIコヘシンの発現状態を示す図である。
【図8】実施例におけるタイプIコヘシン+タイプIIコヘシン発現酵母のCMC分解活性を示すグラフ図である。
【図9】実施例においてタイプIコヘシンによりCelAを結合保持させた酵母のCMCの分解活性をタイムコースで示すグラフ図である。
【図10】実施例においてタイプIコヘシン4個を表層提示させてCelAを結合保持させた酵母のリン酸膨潤セルロース分解活性を示すグラフ図である。
【図11】実施例におけるセルロース結合ドメインとタイプIコヘシン(4個)の表層提示状態を示す図である。
【図12】実施例におけるCelA提示酵母、CelD提示酵母及び(CelA+CelD)提示酵母のリン酸膨潤セルロース分解活性を比較するグラフ図である。
【図13】celA分泌酵母作製のためのベクターを示す図である。
【図14】実施例においてタイプIコヘシン4個を表層提示させてCelAを結合保持させた酵母のリン酸膨潤セルロース分解活性を示すグラフ図である。
【図15】実施例における骨格タンパク質とBGL同時発現酵母(CelAは無細胞合成で添加)のCMC分解試験の結果を示す図である。
【図16】実施例におけるセルロソーム自己生産酵母(骨格タンパク質、BGL、CelA全て生産)のCMC分解試験の結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質を保持するための人工骨格材料であって、
細胞と、
該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに備えて前記細胞に凝集性を付与可能な程度に前記細胞の表層側に配置される第1の骨格タンパク質と、
を備える、材料。
【請求項2】
前記第1の骨格タンパク質は、セルロソームのタイプIスキャホールディンタンパク質のタイプIコヘシンドメインを含む、請求項1に記載の材料。
【請求項3】
前記骨第1の骨格タンパク質は、セルロース結合ドメインを含む、請求項1又は2に記載の材料。
【請求項4】
前記第1の骨格タンパク質は、はセルロソームのタイプIスキャホールディンタンパク質又はその改変体である、請求項1〜3のいずれかに記載の材料。
【請求項5】
前記第1の骨格タンパク質は、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)のセルロソームのタイプIスキャホールディンタンパク質又はその改変体である、請求項4に記載の材料。
【請求項6】
前記第1の骨格タンパク質は、3個以上の前記タンパク質結合ドメインを備える、請求項1〜5のいずれかに記載の材料。
【請求項7】
前記第1の骨格タンパク質は、4個以上7個以下の前記タンパク質結合ドメインを備える、請求項1〜5のいずれかに記載の材料。
【請求項8】
前記細胞は、前記第1の骨格タンパク質を発現する、請求項1〜7のいずれかに記載の材料。
【請求項9】
さらに、前記細胞にとって異種タンパク質であって、前記第1の骨格タンパク質を非共有結合で結合可能な骨格タンパク質結合ドメインを有して前記細胞の表層に配置される第2の骨格タンパク質を、備え、前記第1の骨格タンパク質は、前記第2の骨格タンパク質の前記骨格タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合可能な相互作用ドメインを有し、この相互作用ドメインが前記骨格タンパク質結合ドメインに結合されている、請求項1〜8のいずれかに記載の材料。
【請求項10】
前記第2の骨格タンパク質は、前記細胞の表層に共有結合で結合されている、請求項9に記載の材料。
【請求項11】
前記第2の骨格タンパク質は、前記骨格タンパク質結合ドメインを複数個タンデムに有している、請求項9又は10に記載の材料。
【請求項12】
前記第2の骨格タンパク質は、セルロソーム由来のタイプIIスキャホールディンタンパク質又はその改変体である、請求項9〜11のいずれかに記載の材料。
【請求項13】
前記2の骨格タンパク質は、クロストリジウム・サーモセラム(Clostridium thermocellum)のセルロソームのタイプIIスキャホールディンタンパク質又はその改変体である、請求項12に記載の材料。
【請求項14】
前記細胞は、前記第2の骨格タンパク質を発現する、請求項9〜13のいずれかに記載の材料。
【請求項15】
前記非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインは酵素を結合可能である、請求項1〜14のいずれかに記載の材料。
【請求項16】
前記酵素はセルロースを分解する酵素群から選択される、請求項15に記載の材料。
【請求項17】
前記細胞は微生物である、請求項1〜16のいずれかに記載の材料。
【請求項18】
前記微生物は酵母である、請求項17に記載の材料。
【請求項19】
前記微生物はアルコール生産酵母又は有機酸生産酵母である、請求項18に記載の材料。
【請求項20】
タンパク質複合材料であって、
細胞と、
該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに有して該細胞の表層側に互いに近接配置される第1の骨格タンパク質と、
前記タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合された1種又は2種類以上のタンパク質と、
を備える、複合材料。
【請求項21】
さらに、前記細胞にとって異種タンパク質であり、前記第1の骨格タンパク質を非共有結合で結合可能な骨格タンパク質結合ドメインを有して前記細胞の表層に配置される第2の骨格タンパク質を備え、
前記第1の骨格タンパク質は、前記第2の骨格タンパク質の前記骨格タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合可能な相互作用ドメインを有し、この相互作用ドメインが前記骨格タンパク質結合ドメインに結合されている、請求項20に記載の複合材料。
【請求項22】
前記第2の骨格タンパク質は、前記細胞の表層に共有結合で結合されている、請求項21に記載の材料。
【請求項23】
前記第2の骨格タンパク質は、前記骨格タンパク質結合ドメインを複数個タンデムに有している、請求項21又は22に記載の材料。
【請求項24】
前記第1の骨格タンパク質は、セルロース結合ドメインを有する少なくとも一つの第1の骨格タンパク質を含む、請求項20〜23いずれかに記載の複合材料。
【請求項25】
前記タンパク質は、セルロースを分解する酵素群から選択される、請求項20〜24のいずれかに記載の複合材料。
【請求項26】
前記タンパク質は、少なくともβ−グルコシダーゼ、エンドグルカナーゼ及びセロビオヒドロラーゼからなる群から選択される2種以上を含む、請求項25に記載の複合材料。
【請求項27】
不溶性セルロース資化能を備える、請求項25又は26に記載の複合材料。
【請求項28】
前記細胞はアルコール生産酵母又は有機酸生産酵母である、請求項20〜27のいずれかに記載の複合材料。
【請求項29】
前記細胞は、前記タンパク質の生産能を有していない、請求項20〜28のいずれかに記載の複合材料。
【請求項30】
タンパク質複合材料の製造方法であって、
細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに備えて該細胞の表層側に互いに近接配置される骨格タンパク質と、を備える人工骨格材料に、前記タンパク質結合ドメインに結合可能な相互作用ドメインを有する1種又は2種以上のタンパク質を前記細胞外から供給する工程を備え、
前記人工骨格材料の前記タンパク質結合ドメインに前記タンパク質を結合させる、製造方法。
【請求項31】
前記タンパク質は、セルロースを分解する酵素群から選択される2種以上である、請求項30に記載の製造方法。
【請求項32】
前記細胞は酵母である、請求項30又は31に記載の製造方法。
【請求項33】
セルロースの分解方法であって、
セルロース系材料中のセルロースと、
細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに有して該細胞の表層側に互いに近接配置される第1の骨格タンパク質と、前記タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合されたセルロースを分解する酵素群から選択される1種又は2種以上の酵素と、を備える酵素複合材料と、
を接触させて、前記酵素によりセルロースを分解する工程、を備える、分解方法。
【請求項34】
セルロースを利用する有用物質の生産方法であって
セルロース系材料中のセルロースと、細胞と、該細胞にとって異種タンパク質であって、非共有結合性の複数個のタンパク質結合ドメインをタンデムに有して該細胞の表層側に互いに近接配置される第1の骨格タンパク質と、前記タンパク質結合ドメインに非共有結合で結合されたセルロースを分解する酵素群から選択される1種又は2種以上の酵素と、を備える酵素複合材料と、を接触させて、前記酵素によりセルロースを分解する工程と、
前記酵素によって得られるセルロース分解産物を前記複合材料の前記細胞によって資化し有用物質に変換する工程と、を備える、生産方法。


【図3】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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【公開番号】特開2009−142260(P2009−142260A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−198497(P2008−198497)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】