説明

タービンハウジング

【課題】板金製のタービンハウジングにおいてその制振性能を向上することができるタービンハウジングを提供する。
【解決手段】動流体の流路を構成して内側板金からなる内殻110の入口部分では、内側板金からなる管状の内殻110とこの内殻を囲う錐台状の外側板金からなる外殻120とがこれらの間に隙間Sを有したかたちで入口フランジ200に接合されたフランジ一体型の2重構造をなす。そして、入口フランジ200から下流に向けて外殻120が先細りするかたちでその外殻120の先端部120aが入口フランジ200の下流で内殻110に接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板金製のタービンハウジングに関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、エンジンに供給される吸気を過給する過給機としてはエンジンから排出される排気のエネルギーを再利用してエンジンの出力向上やその燃費向上を実現できるターボチャージャが知られている。
【0003】
このターボチャージャは、排気通路の途中に設けられてタービンホイールを収容したタービンハウジングと、吸気通路の途中に設けられてコンプレッサホイールを収容したコンプレッサハウジングと、上記タービンホイールと上記コンプレッサホイールとを連結したタービンシャフトとを備えている。こうした構成からなるターボチャージャにおいては、排気通路からの排気がタービンホイールに吹付けられることによりタービンホールが回転し、そのタービンホイールの回転がタービンシャフトを介してコンプレッサホイールの回転に変換され、そしてこのコンプレッサホイールが回転することによって吸気通路における吸気が強制的に燃焼室へ送り込まれることとなる。
【0004】
こうしたターボチャージャを構成するタービンハウジングは、タービンホイールの周囲に渦巻き状の流路を形成するスクロール部と、このスクロール部における入口側の開口に固着されてスクロール部を上記排気通路の途中における上流側に連結する入口フランジと、スクロールにおける出口側の開口に固着されてスクロール部を上記排気通路の途中における下流側に連結する出口フランジとによって構成される。このようなタービンハウジングにおいては、エンジンやタービンホイールの回転に伴う振動等に耐え得る剛性や排気温度に耐え得る耐熱性が要求されることから、例えば鋼等を構成材料とする厚肉な鋳物が従来から用いられている。こうした鋳物製のタービンハウジングによれば、その製造法上の制約などから肉厚が必然的に厚くなるために(「4.5mm」以上になるため)、タービンハウジングとしての剛性や耐熱性が高められることとなる。だが、こうした鋳物製のタービンハウジングでは、その肉厚が厚くなるがゆえにタービンハウジングの軽量化を実現し難くなり、例えばこうした軽量化が求められる自動車用エンジン等の排気系に対しては十分に対応し難いといった不都合がある。そのうえ鋼等の比較的比熱の高い構成材料が用いられているがゆえにタービンハウジング自体の熱容量が比較的大きくなり、これもまた自動車用エンジン等の排気系のようにタービンハウジングの下流に排気浄化用の触媒コンバータが搭載される場合には、この触媒コンバータに流入する排気の温度の低下を招いてしまい、触媒を早期に活性化させることが困難となってしまう。
【0005】
そこでこうした問題が軽減されるべく、近年では、上述の鋳物製のタービンハウジングに代えて、例えばステンレス鋼性の薄板金属等の板金によって形成されたタービンハウジングが用いられるようになっている。こうした板金製のタービンハウジングによれば、その製造法上の制約などから鋳物製のタービンハウジングよりも肉厚が必然的に薄くなるため(「2mm」以内になるため)、タービンハウジングとしての軽量化を図ることができるとともにその熱容量を小さくすることができることとなる。ただし、こうした板金製のタービンハウジングでは、その肉厚が薄くなるがゆえにタービンハウジングとしての剛性が低下してしまい、例えばエンジンの高速回転に伴う振動が生じると、スクロール部とフランジとの接合部が基点となるかたちでタービンハウジングそのものがその厚み方向に振られる、いわゆる首振り現象が発生してしまう。そこで、こうした剛性の低下に起因する首振りが抑制されるべく、例えば特許文献1にあっては、板金で形成された外殻が同じく板金で形成された内殻から離間して同内殻を被包するかたちで設けられており、タービン
ハウジングがその全体に亘り2重管構造となるように構成されている。図6に、この特許文献1に記載のタービンハウジングについてその構成を示す。
【0006】
図6に示すように、このタービンハウジング11は、内殻としてのスクロール部12と外殻としてのカバー部13とを有する2重管構造をなしており、スクロール部12から離間して設けられたカバー部13によってそのスクロール部12が覆われている。そしてこれらスクロール部12の開口とカバー部13の開口とが共通するフランジ14に対して溶接技術により接合されており、これによりタービンハウジング11が構成されている。こうした構成によればタービンハウジンとしての剛性が高められることにともなって上述の首振り現象が軽減されることとなり、そのうえ内殻と外殻との間に形成される空気層が断熱層として機能して排気ガスの温度低下も抑制されることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−303962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、上述したタービンハウジングの首振り現象とは、そもそもスクロール部とフランジとの接合部が振動の基点となるタービンハウジングそのものの振動現象であり、それゆえその発生頻度や振動振幅等の振動特性は、こうした接合部近傍における振動方向の剛性に大きく左右されることとなる。具体的には、タービンハウジングの振動方向である肉厚方向の剛性がこうした接合部の近傍で低くなるに連れてその頻度や振幅が高くなり、逆にその剛性が接合部で高くなるに連れてその頻度や振幅が低くなることとなる。この点について、上述するような2重管構造をなすタービンハウジングにおいては、2つの殻によってその全体が構成されることによりそれ自身の剛性が高められているものの、スクロール部12とカバー部13とがこれらの全体において離間するかたちでフランジ14に接合された構造となっているために、これらの一方であるスクロール部12の首振り現象に対しては概ね同スクロール部12とフランジ14との接合部でしかその頻度や振幅が抑えられておらず、また他方であるカバー部13の首振り現象に対しても概ね同カバー部13とフランジ14との接合部でしかその頻度や振幅が抑えられていない。つまり、上述のようにスクロール部12の全周を覆うかたちでカバー部13を設けたとしても、スクロール部12とカバー部13とがこれらの全体において離間する構造ではこれらの首振り現象に対する剛性が単管構造に近いものとなってしまい、結局のところ、上述の首振り現象を十分に抑えられなくなっている。そのうえ2重管構造をなすタービンハウジングにおいては、その構造上、スクロール部12とカバー部13とが離間するかたちでこれらを形成する必要があり、スクロール部12とカバー部13との間にその離間状態を維持させるためのスペーサを要する等、その構造が複雑にならざるを得なかった。
【0009】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、板金製のタービンハウジングにおいてその制振性能を向上することができるタービンハウジングを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
請求項1に記載の発明は、板金製のタービンハウジングにおいて、内側板金からなるスクロール部の入口部分では、前記内側板金からなる管状の内殻と該内殻を囲う一乃至複数の外側板金からなる外殻とがこれらの間に隙間を有したかたちで入口フランジに接合されたフランジ一体型の多重構造をなし、前記外殻の先端部が前記入口フランジの下流で前記内殻に接合されていることを要旨とする。
【0011】
こうした構成からなるタービンハウジングによれば、スクロール部の入口部分において、内殻とこの内殻を囲う一乃至複数の外殻との多重構造をなしており、こうした外殻によって内殻が支持されるかたちでスクロール部の入口部分が厚肉に形成されている。そのため内殻と外殻との接合部がこれらの板金の肉厚方向へ振動する場合には、この接合部から入口フランジに向かって内殻を支持するかたちに固定された外殻によって上記振動が抑えられることとなる。
【0012】
通常、タービンハウジングにおいては、タービンハウジング内へ作動流体を導入させる外部装置の振動がまずスクロール部の入口部分へ伝播することとなる。この入口部分が仮に上記内側板金のみにより構成される場合には、上述した振動がスクロール部へ伝播することによって内側板金と入口フランジとの接合部が基点となるかたちでタービンハウジングそのものが振動してしまう、いわゆる首振り現象が発生してしまう。これに対して上述した構成からなるタービンハウジングによれば、外部装置の振動がスクロール部へ伝播する場合であれ、上述した外殻による振動抑制効果によって、内殻と外殻との接合部での肉厚方向への振動が生じ難くなるために、内殻とフランジとの接合部を基点とした振動そのもの、つまり上記首振り現象が抑えられることとなる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のタービンハウジングにおいて、前記外殻は、前記内殻を囲う錐台状をなし、前記スクロール部の入口部分では、前記外殻と前記内殻との2重構造をなすことを要旨とする。
【0014】
こうした構成からなるタービンハウジングによれば、錐台状をなす外殻が入口フランジから下流に向けて先細りするかたちで内殻に接合されている、言い換えれば、外殻の先端部からフランジに向けては、外殻がその外側に広がるかたちで同外殻がフランジに接合されている。そのため内殻と外殻との接合部がこれらの板金の肉厚方向へ振動する場合には、この接合部からその外側に広がるかたちに固定された外殻によって上記振動が抑えられることとなり、ひいては、内殻とフランジとの接合部を基点とした首振り現象が抑えられることとなる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載のタービンハウジングにおいて、前記入口部分では、前記内殻と前記外殻との間における隙間が前記タービンハウジングの外部と前記タービンハウジングに導入される作動流体との間における断熱層であることを要旨とする。
【0016】
こうした構成からなるタービンハウジングによれば、入口部分における熱容量がそれを囲う断熱層の分だけ高くなることから、こうした入口部分に導入される作動流体からの放熱が抑えられることとなる。そのため、例えば自動車用エンジンの排気系のようにタービンハウジングの下流に触媒コンバータが搭載される場合等、タービンハウジングから出る作動流体の温度の低下が望ましくない態様において、より好ましい作動流体の温度特性が実現可能となる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタービンハウジングにおいて、前記外殻の先端部が前記入口フランジの下流で前記内殻の周側面の全周にわたり溶接接合されていることを要旨とする。
【0018】
こうした構成からなるタービンハウジングによれば、機械的な圧接やろう付け等の接合技術により外殻の先端部と内殻とが接合される構成に比べ、その外殻の先端部と内殻との接合部がより連続性を得ることとなり、上述した外殻による振動抑制効果がより効果的に発現されることとなる。
【0019】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のタービンハウジングにおいて、前記入口部分では、前記内殻が直管状をなすことを要旨とする。
こうした構成からなるタービンハウジングによれば、スクロール部の入口部分における流路形状がより簡便な構成となり、こうした直管状の内殻により入口部分の流路が構成されることにより、内殻と外殻との接合強度が向上可能となり、上述した振動抑制効果がより高い安定性のもとで発現されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明にかかるタービンハウジングの一実施形態についてその側面から見た断面構造を示す断面図。
【図2】同実施の形態のタービンハウジングをその厚み方向から見た断面構造を示す部分断面図。
【図3】同実施の形態のタービンハウジングが適用される自動車用ディーゼルエンジンの回転数と、このエンジンから伝播される振動に起因して生じるタービンハウジングそのものの振動の強度との推移例を、鋳物製のタービンハウジング及び1重管構造をなす板金製のタービンハウジングとの比較のもとに示すグラフ。
【図4】本発明にかかるタービンハウジングの他の実施形態についてその側面から見た断面構造を示す断面図。
【図5】本発明にかかるタービンハウジングの他の実施形態についてその側面から見た断面構造を示す断面図。
【図6】従来のタービンハウジングについてその側面から見た断面構造を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(実施形態)
以下、本発明にかかるタービンハウジングを具現化した実施形態を図1〜図3を参照して説明する。なお、図1は、本実施形態におけるタービンハウジングをタービンホイールの回転軸方向から見た断面構造を示す断面図であり、図2は、本実施形態におけるタービンハウジングの入口部分の拡大断面構造を示す部分断面図である。
【0022】
図1に示されるように、このタービンハウジングは、例えば排気ガス等の作動流体を導入可能な流路を構成するスクロール部100と、該スクロール部100へ作動流体を導入する外部装置の連結先である入口フランジ200とによって構成されている。このタービンハウジングを構成するスクロール部100は、ステンレス鋼がプレス成形された板金からなり、作動流体の流路を構成する内側板金からなる内殻110と、同スクロール部100の入口部分において内殻110を囲う錐台状の外側板金からなる外殻120とによって構成されている。
【0023】
タービンハウジングの構成要素である内殻110は、上記入口フランジ200にその一端が溶接接合されてスクロール部100の入口部分を構成する直管状の直管部111と、この直管部111の他端から下流に向かって渦巻き状をなしてその略中央に排気口112aが設けられた渦巻部112とによって構成されている。一方、錐台状をなす外殻120は、同じく上記入口フランジ200にその一端が溶接接合されて内殻110の直管部111よりも直径が大きい円筒状をなす円筒部121と、この円筒部121の他端から下流に向かって先細りするかたちで延設されて上記内殻110をその周側面から支持するかたちの支持部122とによって構成されている。
【0024】
外殻120を構成する支持部122の外周面は、直管部111の中心軸C(図2参照)を含む断面内において、円筒部121の他端からその下流の直管部111に向けて断面直
線状となる斜面であり、同支持部122において入口フランジ200から下流に向かう側の先端120aは、直管部111の周側面の全周にわたり溶接接合されている。このように構成されたスクロール部100の入口部分においては、内殻110を構成する直管部111と外殻120とが密閉されたかたちの空気層(隙間S)をこれらの間に介在させることとなり、これらが入口フランジ200に一体的に接合されたフランジ一体型の2重構造をなすこととなる。そしてスクロール部100の入口部分に設けられた上記の隙間Sが、この入口部分を流動する排気ガス等の作動流体とタービンハウジングの外部との間における断熱層として機能することとなる。
【0025】
こうした内殻110及び外殻120と接合される入口フランジ200には、例えば上流の排気ガス通路と連通する円形孔状の排気ガス導入口210が設けられている。この排気ガス導入口210には、上記内殻110を構成する直管部111の一端である内殻110の開口部113が排気ガス導入口210に嵌入されて、その内周面の全周にわたり直管部111と排気ガス導入口210とが溶接接合されている。そして排気ガス通路からの排気ガスが排気ガス導入口210に導入されると、この排気ガスが直管部111を通してスクロール部100に導入されることとなる。
【0026】
また、入口フランジ200において排気ガス導入口210の径方向外側には、上記外殻120を構成する円筒部121が嵌入可能な円形孔状の外殻接合溝Gが排気ガス導入口210から拡開するかたちで形成されている。この外殻接合溝Gには、上記外殻120を構成する円筒部121の一端が嵌入されて、その内周面の全周にわたり円筒部121と外殻接合溝Gとが溶接接合されている。このようにして、入口フランジ200に内殻110と外殻120とが接合されることにより、スクロール部100は、内殻110と外殻120とによって一体的に入口フランジ200に固定されている。
【0027】
次に、このようにして構成されるタービンハウジングにおける上記入口部分の断面構造について中心軸Cを含む断面内にて説明する。
図2に示すように、タービンハウジングを構成する外殻120は、その先端120aと直管部111との接合部WS1からその上流に向けて排気ガス導入口210の径方向外側に広がるかたちで入口フランジ200の外殻接合溝Gに嵌入されている。このように、スクロール部100の入口部分においては、内殻110がその周側面の全周にわたり外殻120によって支持されるかたちで内殻110と外殻120とによる2重構造が構成されている。
【0028】
こうした構成からなるタービンハウジングによれば、たとえ排気ガス等の作動流体を導入する自動車用エンジン等の振動が上記構成されるタービンハウジングに伝播して、同図2に示すように、内殻110と入口フランジ200との接合部WS2を基点として内殻110がその厚み方向に振られる力Fが生じたとしても、こうした振動に伴う内殻110の振動力に抗した力が外殻120から内殻110へと与えられることとなる。つまり内殻110と入口フランジ200との接合部WS2を基点とした内殻110の振動を抑制する支持体として、この外殻120が機能することとなる。この結果、内殻110に対してその厚み方向に振られる力、いわゆる首振りに起因する力が生じたとしても、内殻110が外殻120によって支持されるかたちでタービンハウジングの首振りが抑制されることとなる。さらには内殻110を構成する直管部111と外殻120との間に断熱層としての隙間Sが形成されたことで、スクロール部100の入口部分において、排気ガスが導入される内殻110が外気から断熱された状態となり、排気ガスがスクロール部100を通過する際の温度低下が抑制されることとなる。
【0029】
次に、このようにして構成されるタービンハウジングが適用される自動車用ディーゼルエンジンの回転数と、このエンジンから伝播される振動に起因して生じるタービンハウジ
ングそのものの振動の強度推移を、従来用いられていた鋳物製あるいは1重管構造をなす板金製のタービンハウジングとの比較のもとに図3を参照して説明する。なお、図3において、破線で示した曲線L1は、自動車用ディーゼルエンジンエンジンの回転数と鋳物製のタービンハウジングに生じる振動の強度との推移を示したものであり、破線で示した曲線L2は、自動車用ディーゼルエンジンエンジンの回転数と1重管構造をなす板金製のタービンハウジングに生じる振動の強度との推移を示したものである。また、実線で示した曲線L3は、自動車用ディーゼルエンジンエンジンの回転数と本実施の形態におけるタービンハウジングに生じる振動の強度との推移を示したものである。なお、これらの各推移は、実験等を通じて得られたものである。
【0030】
まず、図3に曲線L1として示されるように、鋳物製のタービンハウジングにおいては、エンジンの回転数の上昇とともに、徐々にタービンハウジングに振動が生じることとなる。そして、エンジンの回転数がその駆動時において到達し得る使用域αを超えたのちに、鋳物製のタービンハウジングに生じる振動が急激に増大し、エンジンの回転数が「6000rpm」に到達すると、同タービンハウジングに生じる振動の強度が最大となる状態、いわゆる共振状態になる。ちなみに、この鋳物製のタービンハウジングの共振周波数は「200Hz」である。
【0031】
これに対して、同図3に曲線L2として示されるように、1重管構造をなす板金製のタービンハウジングにおいては、同じくエンジンの回転数の上昇とともにタービンハウジングに振動が生じるものの、回転数に対するその強度の増加率が鋳物製のそれに比べて非常に高い傾向を示す。そして、エンジンの回転数が使用域α内であるにも拘わらず振動の強度が急激に増大して、エンジン回転数が「4500rpm」に到達した時点で同タービンハウジングに生じる振動の強度が最大となる共振状態になってしまう。ちなみに、この1重管構造をなす板金製のタービンハウジングの共振周波数は「150Hz」である。
【0032】
一方、同図3に曲線L3として示されるように、本実施の形態にかかるタービンハウジングにおいては、同じくエンジンの回転数の上昇とともに、徐々に同タービンハウジングに振動が生じることとなる。そして、エンジンの回転数がその駆動時において到達し得る使用域αを超えたのちに、同タービンハウジングに生じる振動が急激に増大し、エンジンの回転数が「5730rpm」に到達した時点で同タービンハウジングに生じる振動の強度が最大となる共振状態になる。そして、この際の本実施の形態にかかるタービンハウジングの共振周波数は「191Hz」である。
【0033】
このように、鋳物製のタービンハウジングにおいては、その肉厚が例えば「4.5mm」以上と厚く形成されることから、タービンハウジングとしての剛性が高められることとなり、これに相関して、その共振周波数に相当するエンジンの回転数が使用域αを超えることなる。これに対し、1重管構造をなす板金製のタービンハウジングでは、その肉厚が「2mm」以内と薄くなってしまうことから、タービンハウジングとしての剛性が低下してしまい、これに相関して、共振周波数に相当するエンジンの回転数が使用域α内となってしまう。一方、本実施の形態におけるタービンハウジングによれば、内殻110を支持するかたちで構成された外殻120による振動抑制効果によってタービンハウジングに生じ得る振動が抑制されることとなり、共振周波数に相当するエンジン回転数が使用域αを超えるものとなる。具体的には、本実施の形態におけるタービンハウジングの共振周波数が「191Hz」であるのに対して、上記1重管構造をなす板金製のタービンハウジングの共振周波数が「150Hz」であることから、上記構成によるように、内殻110が外殻120に支持されるかたちでスクロール部100の入口部分のみが2重構造となることにより、1重管構造をなす板金製のタービンハウジングよりも共振周波数が高められたことが認められる。さらには、本実施の形態におけるタービンハウジングの共振周波数が「191Hz」であるのに対して、上記鋳物製のタービンハウジングの共振周波数が「20
0Hz」であることから、上記鋳物製のタービンハウジングの共振周波数と同等の共振周波数が板金製により実現されたことが認められる。言い換えれば、内殻110が外殻120に支持されるかたちでスクロール部100の入口部分のみが2重構造となることによって、首振りに対する剛性が鋳物製のものまで高められたことが認められる。
【0034】
それゆえ内殻110を支持するかたちで外殻120が構成されることにより、タービンハウジングに生じ得る首振りが抑制されることとなり、その共振周波数が鋳物製の共振周波数と同等であることから、こうした首振りの抑制がより効果的なものとなる。このようなことから、本実施の形態によれば、内殻110を支持するかたちで形成された外殻120による振動抑制効果によって、エンジンの回転数の上昇に伴う振動がタービンハウジングに伝播されたとしてもこの振動に起因するタービンハウジングそのものの振動を抑制されることとなり、タービンハウジングに生じる振動が最大となる回転数を使用域α以上にすることが可能となる。
【0035】
以上説明したように、本実施の形態にかかるタービンハウジングによれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)板金製のタービンハウジングを、錐台状をなす外側板金からなる外殻120を入口フランジ200から下流に向けて先細りするかたちで内側板金からなる内殻110に接合し、内殻110と外殻120とを一体的に入口フランジ200に接合することによって構成した。これにより、内殻110は、外殻120に支持されるかたちで入口フランジ200に固定されることとなり、スクロール部100の入口部分の剛性、ひいてはタービンハウジングとしての剛性が入口部分で高められることとなり、内殻110と入口フランジ200との接合部WS1を基点としたタービンハウジングそのものの振動が抑制されるようになる。
【0036】
(2)スクロール部100の入口部分において、内殻110と外殻120とによる2重構造とし、これら内殻110と外殻120との間に断熱層としての隙間Sを形成することとした。このため、タービンハウジングの上流から導入される高温の排気ガスによって熱容量の小さな内殻110が早期に高温化されるとともに、この内殻110が断熱層により外殻120から断熱されたことで内殻110から外殻120への熱の移動が最小限に抑制されることとなる。これにより、たとえタービンハウジングの下流に触媒コンバータ等が搭載されるような場合であれ、より好ましい排気ガスの温度特性が実現可能となる。
【0037】
(3)内殻110の支持体としての外殻120を、円筒部121と支持部122とによって構成し、この円筒部121が入口フランジ200に形成された外殻接合溝Gに嵌入されるかたちで外殻120を入口フランジ200に溶接接合することとした。これにより、内殻110の支持体としての外殻120がより強固に入口フランジ200に固定されることとなり、外殻120によってタービンハウジングの振動を抑制する上でその振動抑制効果が高められることとなる。
【0038】
(4)内殻110と外殻120との接合態様として、内殻110を構成する直管部111の周側面の全周にわたり外殻120の先端部121aを溶接接合することとした。これにより、内殻110と外殻120とが連続的かつ強固に接合されることとなり、支持体としての外殻120の振動抑制効果がより効果的に発現されることとなる。
【0039】
(5)スクロール部100を構成する内殻110を、直管状の直管部111と渦巻き状の渦巻部112とによって構成し、外殻120と直管部111とを溶接接合することとした。これにより、スクロール部100の入口部分を2重構造とする上で、より簡便な構成とすることが可能となり、内殻110と外殻120との間の接合強度が向上されることにもなる。それゆえ上述した振動抑制効果がより高い安定性のもとで発現されることとなる

【0040】
(6)通常、内側板金からなる内殻と外側板金からなる外殻とによって全周が2重構造をなすタービンハウジングを構成する場合には、高温の排気ガスが導入される内殻とこの内殻から離間される外殻とで温度差が生じることとなり、この温度差に起因するスクロール部100の歪みが生じることとなる。これに対し上記構成では、外殻120をスクロール部100の入口部分のみに形成したことで、入口部分のみが2重構造をなすこととした。このため、内殻110と外殻120とが入口フランジ200から伝達される熱によって略等しい温度推移がなされることとなる。これにより、内殻110と外殻120とによる2重構造をなす上で、これらの温度差に起因するスクロール部100の歪みが抑制されることとなる。
【0041】
なお、上記実施の形態は、以下のような態様をもって実施することもできる。
・上記実施の形態では、円筒状の円筒部121と、断面が直線状の斜面からなる支持部122とによって外殻120を構成することとした。これに限らず、先の図2に対応する図として例えば図4に示すように、外殻120の周側面がその外側に向かって断面凸状の曲面をなすかたちに外殻120が構成されてもよい。また、先の図2に対応する図として例えば図5に示すように、外殻120の周側面がその内側に向かって断面凸状の曲面をなすかたちに外殻120が構成されてもよい。これらの構成においても、内殻110が外殻120に支持されるかたちとなることから、上述した効果に類似した効果が得られることとなる。
【0042】
またこの他、外殻120の形状は、こうした内殻110の支持体として機能するものでればよく、錐台状に限定されるものではない。
・上記実施の形態では、内殻110を直管状の直管部111と渦巻き状の渦巻部112とによって構成することとした。これに限らず、スクロール部100の入口部分のみが内殻110と外殻120とによって2重構造をなす形状であればよく、直管部111を割愛し、渦巻部112のみによって内殻110を構成するようにしてもよい。
【0043】
・上記実施の形態では、内殻110を構成する直管部111の全周にわたり外殻120の先端120aを溶接接合することとした。これに限らず、外殻120が内殻110の支持体として機能するものであればよく、機械的な圧接やろう付け等の接合技術により内殻110と外殻120とを接合するようにしてもよい。
【0044】
・上記実施の形態では、内殻110と外殻120との隙間Sをタービンハウジングの外部と排気ガス等の作動流体との断熱層とした。これに限らず、例えば、内殻110と外殻120との隙間Sに、セラミック塗料を充填して形成されるセラミック材等による断熱層を形成するようにしてもよい。
【0045】
・上記実施の形態では、一の内殻110とこの内殻110を囲う一の外殻120とによってスクロール部100の入口部分が2重構造をなすこととした。これに限らず、外殻120が内殻110の支持体として機能するものであればよく、内殻110とこの内殻110を囲う複数の外殻120とによって、スクロール部100の入口部分が例えば3重、4重に構成される多重構造をなすようにしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
11…タービンハウジング、12…スクロール部、13…カバー部、14…フランジ、100…スクロール部、110…内殻、111…直管部、112…渦巻部、113…開口部、120…外殻、120a…先端、121…円筒部、121a…先端部、122…支持部、200…入口フランジ、210…排気ガス導入口、G…外殻接合溝、S…隙間、WS
1、WS2…接合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板金製のタービンハウジングにおいて、
内側板金からなるスクロール部の入口部分では、
前記内側板金からなる管状の内殻と該内殻を囲う一乃至複数の外側板金からなる外殻とがこれらの間に隙間を有したかたちで入口フランジに接合されたフランジ一体型の多重構造をなし、前記外殻の先端部が前記入口フランジの下流で前記内殻に接合されている
ことを特徴とするタービンハウジング。
【請求項2】
前記外殻は、前記内殻を囲う錐台状をなし、
前記スクロール部の入口部分では、前記外殻と前記内殻との2重構造をなす
請求項1に記載のタービンハウジング。
【請求項3】
前記入口部分では、前記内殻と前記外殻との間における隙間が前記タービンハウジングの外部と前記タービンハウジングに導入される作動流体との間における断熱層である
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のタービンハウジング。
【請求項4】
前記外殻の先端部が前記入口フランジの下流で前記内殻の周側面の全周にわたり溶接接合されている
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のタービンハウジング。
【請求項5】
前記入口部分では、前記内殻が直管状をなす
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のタービンハウジング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−168969(P2010−168969A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11389(P2009−11389)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】