説明

タービンバイパス弁制御システム及び装置

【課題】タービンバイパス弁の誤動作防止するためのパラメータ調整の調整漏れ防止を目的とする。
【解決手段】タービン駆動用蒸気を得る蒸気発生装置と、タービン駆動用蒸気が通過する管とは別系統に蒸気を逃すためのバイパス系統と、前記バイパス系統へ蒸気をバイパスするバイパス弁と、タービン駆動用蒸気圧力を測定して圧力信号を出力する圧力発信器と、予め計画された計画圧力を設定する設定手段と、測定した前記圧力信号及び前記計画圧力に基づいて得られる蒸気圧力偏差信号からタービンバイパス弁指令を演算せしめる比例積分器と、比例積分器の出力を制限する最下限値の設定手段と、前記最下限値に基づいて、前記比例積分器の比例分の調整を処理する調整手段を具備することを特徴とするタービンバイパス弁制御システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
蒸気を逃すためのバイパス弁によってタービン駆動用蒸気圧力が圧力限界に到達することの無いようにバイパス弁を制御するタービンバイパス弁制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、偏差量の急激な変化が生じた場合にこの偏差量と演算手段にて所定の比例/積分/微分特性に従い処理され出力される信号の代わりに「零値」に切り換えることによりタービンバイパス弁の誤動作を防止している。
【0003】
【特許文献1】特開平07−71208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タービン駆動用蒸気圧力が計画圧力近辺にある運転状態においてはタービンバイパス弁を閉止した状態であることが求められていて、蒸気圧力が微小変動する場合においても全閉状態を実現させる必要があるが、タービン駆動用蒸気圧力の変動はタービン本体の負荷によって決まるため、例えばタービンによって駆動される発電機負荷の負荷運用が変化した場合やタービン本体の経年変化によって蒸気圧力の微小変動挙動も変化した場合は、下限制限値や下限制限値を求める比例演算が試運転等により決めた比例分では適切でなくなってくる。この結果、比例積分器下限値の調整を行うが、比例積分器下限値演算用蒸気圧力偏差に掛かる比例分も別個に調整する必要があり、煩わしくもあり調整を忘れるヒューマンエラーのリスクもある。上記特許文献1では、下限制限値の調整について考慮されていない。
【0005】
本発明は、タービンバイパス弁の誤動作防止するためのパラメータ調整の調整漏れ防止を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
タービン駆動用蒸気を得る蒸気発生装置と、タービン駆動用蒸気が通過する管とは別系統に蒸気を逃すためのバイパス系統と、前記バイパス系統へ蒸気をバイパスするバイパス弁と、タービン駆動用蒸気圧力を測定して圧力信号を出力する圧力発信器と、予め計画された計画圧力を設定する設定手段と、測定した前記圧力信号及び前記計画圧力に基づいて得られる蒸気圧力偏差信号からタービンバイパス弁指令を演算せしめる比例積分器と、比例積分器の出力を制限する最下限値の設定手段と、前記最下限値に基づいて、前記比例積分器の下限値演算用の比例分の調整を処理する調整手段を具備することを特徴とするタービンバイパス弁制御システム。
【発明の効果】
【0007】
出力信号上下限制限機能付き積分器下限制限の最下限値設定器を調整するだけでタービンバイパス弁圧力偏差指標の積分器下限制限用比例ゲインの変更も同時に実行することができる。このことから、保守メンテナンスの効率化並びに連動した設定値変更の作業運用による設定変更忘れを防止することが効果として期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下図面を用いて説明する。各図にて説明に用いた符号と同じものを他の図においても使用し、重複するものは説明を省略する。
【0009】
図1は火力発電所のタービンバイパス系統の構造について説明する。
【0010】
ボイラ1は蒸気発生装置であり、供給燃料22を燃焼し、炎25はボイラ内での燃焼によって得られる。燃焼に使用する空気は、ボイラ1内にて燃料を燃焼させるための空気を送風する燃焼用空気送風機17により通風空気18としてダンパ19へ送られる。ダンパ19により燃焼用空気を調整し、ボイラに設置される風箱21へ通風空気20が送られる。供給燃料22は燃料調節弁23にて調節され、ボイラ内にて燃焼される燃焼用燃料24としてボイラ1へ供給される。
【0011】
蒸発器5ではボイラ1と熱交換により水を蒸気に変換する。ボイラ出口蒸気6はタービン駆動用蒸気7としてタービン本体11へ送られる。タービン本体11はタービン駆動用蒸気7によって駆動される。タービン駆動用蒸気7はタービン調速動作用の加減弁38で流量を調整される。また、ボイラ出口蒸気6はタービンバイパス弁9を介して、蒸気を復水する復水器16へ導かれる。ボイラ出口蒸気8はタービンバイパス弁9に導かれる蒸気であり、ボイラ出口蒸気10はタービンバイパス弁を経由して復水器に導かれる蒸気である。復水器16より得られる回収水2は、給水ポンプ3へ送られる。給水ポンプ3は回収水2を蒸発器5へ給水する。蒸発器5へ給水される回収水はボイラ給水4である。
【0012】
タービン本体11はタービン駆動用蒸気7によって駆動され、タービン駆動後のタービン駆動用蒸気15は復水器16より回収水2となる。タービン本体11は発電機14と回転軸13でつながれ、発電機14はタービン本体11によって回転駆動される。
【0013】
制御装置26は、実圧力27,発電機出力検出信号28,燃焼用空気流量発信器信号
29,燃焼用燃料流量発信器信号30,ボイラ給水流量発信器信号31を受信する。実圧力27はタービン駆動用蒸気圧力発信器信号である。制御装置26は、給水流量指令(給水ポンプガバナ設定指令)34(WFD)を出力し、給水ポンプ3を制御する。制御装置26は、タービンバイパス弁指令40を出力しタービンバイパス弁9を制御する。制御装置26は、ボイラ制御装置からの空気流量指令(空気流量調節ダンパ指令)33(AFD)を出力しダンパ19を制御する。制御装置26は、燃料流量指令(燃料流量調節弁指令)32(FRD)を出力し燃料調節弁23を制御する。制御装置26は、タービン駆動用ガバナ設定指令35をタービン駆動用ガバナ器36に出力し、タービン駆動用ガバナ器36はタービン回転数発信器信号39を受信し、タービン駆動用ガバナ器36はタービン調速指令37を出力し加減弁38を制御する。
【0014】
図2は、火力発電所における制御装置26の詳細を示すものである。図1にて説明に用いた符号と同じものを図2においても使用する。図2中のタービンバイパス制御回路26については図3において説明する。
【0015】
制御装置26は、各信号を受信し、ボイラ入力要求量(BID)を算出し、各制御対象物を制御する。ボイラ入力要求量(BID)はボイラ入力要求量(BID)出力手段45から出力される。ボイラ入力要求量(BID)出力手段45は、ボイラ蒸気圧力設定器
42にて設定された蒸気圧力設定信号,実圧力27,ボイラ出力設定器41にて設定されたボイラ出力設定信号に基づいてボイラ入力要求量(BID)を出力する。ボイラ蒸気圧力設定器42は蒸気圧力設定信号を出力する。蒸気圧力偏差信号出力手段43は実圧力
27からボイラ蒸気圧力設定器42からの圧力信号を減算する減算器であり、蒸気圧力偏差信号を出力する。ボイラ出力設定信号修正手段44は蒸気圧力偏差信号を積分する積分器で、この出力でボイラ出力設定信号を修正する。ボイラ出力設定器41は、ボイラ出力設定信号を出力する。ボイラ入力要求量(BID)出力手段45は加算器であり、ボイラ出力設定信号修正手段44の修正信号をボイラ出力設定器41のボイラ出力設定信号に加算して、ボイラ入力要求量(BID)を出力する。
【0016】
ボイラ給水流量設定出力手段46はボイラ入力要求量(BID)に見合った給水流量を導く関数発生器で、ボイラ給水流量設定を出力する。給水流量偏差出力手段47はボイラ給水流量設定とボイラ給水流量発信器信号との給水流量偏差を求める減算器で、給水流量偏差を出力する。給水流量指令(WFD)出力手段48は給水流量偏差を積分する積分器で、給水流量指令(WFD)34を出力する。これに基づいて給水ポンプ3を制御する。
【0017】
ボイラ燃料流量設定出力手段49はボイラ入力要求量(BID)に見合った燃料流量を導く関数発生器で、ボイラ燃料流量設定を出力する。燃料流量偏差出力手段50はボイラ燃料流量設定と燃焼用燃料流量発信器信号との燃料流量偏差を求める減算器で、燃料流量偏差を出力する。燃料流量指令(FRD)出力手段51は燃料流量偏差を積分する積分器で、燃料流量指令(FRD)32を出力する。これに基づいて燃料調節弁23を制御する。
【0018】
燃焼用空気流量設定出力手段52はボイラ入力要求量(BID)に見合った燃焼用空気流量を導く関数発生器で、燃焼用空気流量設定を出力する。空気流量偏差出力手段53は燃焼用空気流量設定と燃焼用空気流量発信器信号との空気流量偏差を求める減算器で、空気流量偏差を出力する。空気流量指令(AFD)出力手段54は空気流量偏差を積分する積分器で、空気流量指令(AFD)33を出力する。これに基づいてダンパ19を制御する。
【0019】
発電機出力偏差出力手段55はボイラ入力要求量(BID)と発電機出力検出信号との発電機出力偏差を求める減算器で、発電機出力偏差を出力する。タービン駆動用ガバナ設定指令出力手段56は発電機出力偏差を積分する積分器で、タービン駆動用ガバナ設定指令35を出力する。これに基づいて加減弁38を制御する。
【0020】
図3は、火力発電所におけるボイラ制御装置のタービンバイパス制御回路を示すものである。図1,図2にて説明に用いた符号と同じものを図3においても使用する。
【0021】
タービンバイパス制御手段78は、ボイラ蒸気圧力設定器42の蒸気圧力設定信号と実圧力27に基づいてタービンバイパス弁指令40を出力する。このタービンバイパス弁指令40によりタービンバイパス弁を制御する。
【0022】
圧力設定信号出力手段57はタービンバイパス弁の圧力制御用の圧力設定器であり、ボイラ蒸気圧力設定器42に加算する規定圧力を出力する。タービン駆動用蒸気が予め計画された圧力となっている状態では、ボイラ蒸気圧力設定器42の計画圧力と実圧力27の実圧力は等しいことから、タービンバイパス弁制御用の偏差信号は規定圧力分のマイナス偏差が生じる。この規定圧力分のマイナス偏差を比例積分器の積分動作でもって制御信号を生成し、この演算結果によりマイナス側にタービンバイパス弁を閉動作させることでバイパス動作することないように全閉状態にさせている。
【0023】
タービンバイパス弁圧力制御設定信号出力手段58はボイラ蒸気圧力設定器にタービンバイパス弁の圧力制御用の圧力設定を加算する加算器で、タービンバイパス弁圧力制御設定信号を出力する。タービンバイパス弁圧力偏差信号出力手段59は実圧力27からタービンバイパス弁圧力制御設定信号を減算する減算器で、タービンバイパス弁圧力偏差信号(ΔP)を出力する。
【0024】
タービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P1)60はタービンバイパス弁圧力偏差信号(ΔP)に適用される比例ゲイン(P1)であり、出力値は比例分(P1)を含んだタービンバイパス弁圧力偏差信号61である。
【0025】
タービンバイパス弁制御指令出力手段62は出力信号上下限制限機能付き積分器で、比例分を含んだタービンバイパス弁圧力偏差信号61を積分し、上下限制限内においてタービンバイパス弁指令(タービンバイパス弁制御指令)40を出力する。
【0026】
タービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P2)63はタービンバイパス弁制御指令出力手段62の出力信号上下限制限機能付き積分器の下限制限設定を出力する。定数は書き換えることが可能である。
【0027】
下限制限器64は比例分(P2)を含んだタービンバイパス弁圧力偏差信号の下限を制限するものである。定数は書き換えることが可能である。
【0028】
下限制限設定器65はタービンバイパス弁制御指令出力手段62の出力信号上下限制限機能付き積分器の下限制限を設定するものである。
【0029】
上限制限器66は出力信号上下限制限機能付き積分器の下限制限の上限を制限するものである。
【0030】
下限制限信号67はタービンバイパス弁制御指令出力手段62の出力信号上下限制限機能付き積分器の下限制限信号である。
【0031】
上記タービンバイパス制御手段78の動作を図4を用いて説明する。
【0032】
タービン駆動用蒸気が予め計画された圧力となるよう、計画圧力値を指標としてこれと実圧力との偏差(=計画圧力−実圧力)を打ち消すように制御装置26が圧力制御しており、タービンバイパス弁は前記計画圧力+規定圧力を指標としてこれと実圧力との偏差
(=実圧力−(計画圧力+規定圧力))を比例積分演算し圧力制御させている。
【0033】
タービン駆動用蒸気が予め計画された圧力となっている状態では、計画圧力と実圧力は等しいことから、タービンバイパス弁制御用の偏差信号は規定圧力分のマイナス偏差が生じるので、これの比例積分器の積分動作でもって制御信号を生成し、この演算結果によりマイナス側にタービンバイパス弁を閉動作させることでバイパス動作することなきように全閉状態にさせている。タービン駆動用蒸気圧力が上昇し計画圧力+規定圧力を超える異常圧力状態では、管群の破損を防止するためにタービンバイパス弁を開動作させてバイパス動作するようにしている。
【0034】
一方、タービンバイパス弁動作が生じても実圧力の減少に至るまでには遅れがあるので、先の積分動作以外に比例動作でバイパス弁を開動作させている。実圧力は計画圧力付近において微小変化をするものであり、比例動作はこの微小変化に比例することが分かっているので、比例動作によってタービンバイパス弁が開動作することがないようにするため、蒸気圧力偏差(=実圧力−(計画圧力+規定圧力))の比例演算を行い、これをさらに下限制限器で下限制限した信号を比例積分器の下限値とすることで、タービンバイパス弁制御信号自体を先の下限値分マイナス側にオフセットさせている。
【0035】
図3のタービンバイパス弁圧力制御設定信号出力手段58はボイラ蒸気圧力設定器にタービンバイパス弁の圧力制御用の圧力設定を加算する加算器で、タービンバイパス弁圧力制御設定信号を出力しており、仮に図3のボイラ蒸気圧力設定器42を24.5[MPa]とし、仮に図3の圧力設定信号出力手段57のタービンバイパス弁の圧力制御用圧力設定信号として1.0[MPa]を出力しているとすると、タービンバイパス弁圧力制御設定信号出力手段58の出力は25.5[MPa]となる。
【0036】
タービンバイパス弁圧力偏差信号(ΔP)は、図3のタービンバイパス弁圧力偏差信号出力手段59の減算器で、図3の実圧力27からタービンバイパス弁圧力制御設定信号出力手段58の出力である25.5[MPa]を差し引いたものとなる。
【0037】
タービンバイパス弁圧力偏差信号(△P)=実圧力27−25.5[MPa] …式1)
図2のボイラ出力設定信号修正手段44による蒸気圧力偏差信号を積分する積分器出力と、図2のボイラ出力設定器41のボイラ出力設定信号とを、図2のボイラ入力要求量
(BID)出力手段45である加算器で加算修正した結果をボイラ入力要求量(BID)として取扱うことで、給水,燃焼用燃料,燃焼用空気,タービン駆動用ガバナ設定指令等を制御しているので、図3の実圧力27は24.5[MPa]近辺の値で推移する。
【0038】
この状態で、図3のタービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P1)60を100
(1/[MPa])と定義した場合、図3のタービンバイパス弁制御指令出力手段62である出力信号上下限制限機能付き積分器の出力は以下として表される。
【0039】
タービンバイパス弁制御指令出力手段62の出力
=(式1)今回値−式1)前回値)×100×サンプリング周期/積分時定数+積 分器前回値
=(24.5[MPa]−24.5[MPa])×100(1/[MPa])
+(−10)
=0[MPa]×100(1/[MPa])+(−10)
=−10 …式2)
図4において、実圧力27が瞬間的に0.1[MPa]上昇し24.6[MPa]に至ったケースを考える。図3のタービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P1)60を100(1/[MPa])と定義した場合、図3のタービンバイパス弁制御指令出力手段62である出力信号上下限制限機能付き積分器の出力は以下として表される。
【0040】
タービンバイパス弁制御指令出力手段62の出力
=(式1)今回値−式1)前回値)×100×サンプリング周期/積分時定数+積 分器前回値
=(24.6[MPa]−24.5[MPa])×100(1/[MPa])
+(−10)
=0.1[MPa]×100(1/[MPa])+(−10)
=0 …式3)
この様に、図4の実圧力27が瞬間的に0.1[MPa]上昇し24.6[MPa]に至ったケースでは、タービンバイパス弁制御指令出力手段62の出力は、式2)と式3)より−10から0に変位する。
【0041】
タービンバイパス弁制御指令出力手段62である出力信号上下限制限機能付き積分器の変位と共に、これの下限制限値も変位する。これの変位は、以下の式4)又は式5)の何れか高いほうを選択することで設定している。
【0042】
タービンバイパス弁制御指令出力積分器下限67
=((実圧力27−微小変動圧力上限)×タービンバイパス弁圧偏差用比例ゲイン
(P2)) …式4)
又は
タービンバイパス弁制御指令出力積分器下限67=(下限制限信号65) …式5)
P2の設定は、蒸気圧力の微小変動幅の傾向を実機運転の中から見極めて、図3のタービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P1)60を設定している。仮に、微小変動幅を0.1[MPa](24.6MPaを上限)と見極めた場合は、P2を100に設定する。
【0043】
24.5[MPa]静定時は−10の値で図4の下限制限信号67が推移する。
【0044】
式4)=−10
式5)=−10
図4の実圧力27の瞬間的に0.1[MPa]上昇し24.6[MPa]に至ったケースでの図4の下限制限信号67の挙動は、タービンバイパス弁制御指令出力積分器下限67の出力式4)と式5)より−10から0への変位となって表現される。
【0045】
式4)=0
式5)=−10
よって、タービンバイパス弁制御指令出力積分器下限67の出力は何れか高いほうを取るので0となる。
【0046】
次に、タービンによって駆動される発電機負荷の負荷運用が変化した場合やタービン本体の経年変化によって蒸気圧力の微小変動挙動も変化した場合は、タービン駆動用蒸気圧力の変動に反映されることを説明する。
【0047】
図5は、タービンバイパス制御手段78の動作において、実圧力27が瞬間的に0.2[MPa](24.7MPa)上昇した例である。実圧力27は蒸気圧力の微小変動を
24.5[MPa]→24.6[MPa]と想定した制御回路において、蒸気圧力の微小変動が24.5[MPa]→24.7[MPa]となった場合の、タービンバイパス弁制御指令積分器62と下限制限信号67の動作を示すものである。
【0048】
式3)に代入すると、出力信号上下限制限機能付き積分器出力信号=(24.7
[MPa]−24.5[MPa])×100(1/[MPa])+(−10)=0.2
[MPa]×100(1/[MPa])+(−10)=10
式4)に代入すると、出力信号上下限制限機能付き積分器下限制限=+10となるが、図3の66の上限制限器にて下限制限信号を制限している為、67は0となる。
【0049】
結果として、式3)の出力指令である+10がタービンバイパス弁制御指令出力手段
62から出力される。
【0050】
このように、例えばタービンによって駆動される発電機負荷の負荷運用が変化した場合やタービン本体の経年変化によって蒸気圧力の微小変動挙動も変化した場合は、下限制限値や下限制限値を求める比例演算が試運転等により決めた比例分では適切でなくなってくる。
【0051】
よって、比例積分器下限値と、比例積分器下限値演算用蒸気圧力偏差に掛かる比例分を調整する必要がでてくる。
【0052】
ここで、比例積分器下限値のみを調整し、比例積分器下限値演算用蒸気圧力偏差に掛かる比例分を調整しない場合の例を挙げる。
【0053】
下限制限が経年劣化によって不適当な値となった場合、下限制限設定器の設定値を適当な値に見直す必要があるので、図3の下限制限設定器65の信号(下限制限設定信号)を−20に設定する。
【0054】
この場合、図3のタービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P2)63は変更されないので、式4)と式5)は以下となる。
【0055】
式4)=−10
式5)=−20
よって、タービンバイパス弁制御指令出力手段62の出力は−10である。
【0056】
図6は図3の下限制限設定器65の信号(下限制限設定信号)のみを−10から−20に変更し蒸気圧力の微小変動が24.5[MPa]→24.7[MPa]となった場合の制御挙動の例である。
【0057】
下限制限信号は−10のままとなるので、制御指令としては0を超過して出力される。
(実施例1)
比例積分器最下限値の調整結果に基づいて比例積分器下限値演算用蒸気圧力偏差に掛かる比例分調整も同時に処理する方法を示す。
【0058】
偏差手段75の減算結果はボイラ蒸気圧力設定器42の信号(ボイラ蒸気圧力設定信号)とタービンバイパス弁圧力制御設定信号出力手段58のタービンバイパス弁圧力制御設定信号との偏差を導く。つまり、圧力設定信号出力手段57の規定圧力が出力である。
【0059】
調整手段76はタービンバイパス弁制御指令出力手段65の値を分子、偏差手段75を分母とする除算器である。
【0060】
ゲイン設定信号77は調整手段76の出力をタービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P2)63のゲイン設定信号とするための信号である。
【0061】
図7は本発明での制御回路の信号挙動を示す。図3の調整手段76において比例ゲインP2を演算せしめると次の様になる。
【0062】
P2=下限制限信号/(タービンバイパス弁圧力制御設定信号−蒸気圧力設定信号)
ここで仮に、下限制限信号=−10、蒸気圧力設定信号=24.5 [MPa]、タービンバイパス弁圧力制御設定信号=25.5[MPa]のときは、
P2=−10/(25.5−24.5)=−100
結果、P2=−100となる。
【0063】
この状態で、蒸気圧力の微小変動が24.5[MPa]→24.7[MPa]となり、微小開指令が+10出力される場合は、下限制限を−20に変更する。この結果、P2は
−200となる。
【0064】
P2=−20/(25.5−24.5)=−200
このようにして、比例積分器下限値演算用蒸気圧力偏差に掛かる比例分と比例積分器最下限値は比例関係とし、比例積分器最下限値の調整結果次第で比例積分器下限値演算用蒸気圧力偏差に掛かる比例分調整も同時に処理する。
【0065】
タービン駆動用蒸気を得る蒸気発生装置と、タービン駆動用蒸気が通過する管とは別系統に蒸気を逃すためのバイパス系統と、バイパス系統へ蒸気をバイパスするバイパス弁と、タービン駆動用蒸気圧力を測定して圧力信号を出力する圧力発信器と、予め計画された計画圧力を設定する設定手段と、測定した圧力信号及び計画圧力に基づいて得られる蒸気圧力偏差信号からタービンバイパス弁指令を演算せしめる比例積分器と、比例積分器の出力を制限する最下限値の設定手段と、最下限値に基づいて、比例積分器の比例分の調整を処理する調整手段を具備するタービンバイパス弁制御システムにより、出力信号上下限制限機能付き積分器下限制限の設定器を調整するだけでタービンバイパス弁圧力偏差指標の積分器下限制限用比例ゲインの変更も同時に実行することができる。このことから、保守メンテナンスの効率化並びに連動した設定値変更の作業運用による設定変更忘れを防止することが効果として期待できる。
【0066】
尚、上記実施例では、調整手段76で算出させて求めたが、比例積分器の比例分と比例積分器最下限値を比例関係とした表を予め作成しておき、下限制限設定器65を調整した際に、調整手段76が表を検索して、対応する比例分を割り当てる様にしても良い。
(実施例2)
比例積分器演算結果のマイナスオフセット量が著しく減少した現象をとらえることで、弁本体の不要な開動作に至ることなく、不要な開動作が生じうる状況になったことを運転員に知らしめる方法を説明する。
【0067】
図3の警報に関連する構成を説明する。
【0068】
偏差比較器68は下限制限信号67と下限制限設定器65からの信号の偏差比較器であり、規定された以上又は以下の偏差が生じた場合出力を成立させる。偏差検出設定は任意に設定できる。
【0069】
変化率検出手段69は下限制限信号67の変化率を検出する手段であり、微分器により下限制限信号の微分出力を行う。時定数は任意に設定できる。
【0070】
偏差検出器70は変化率検出手段69の出力の偏差を検出する手段であり、規定された以上又は以下の偏差が生じた場合出力を成立させる。偏差検出設定は任意に設定できる。
【0071】
OR論理71は偏差比較器68と偏差検出器70の出力のOR論理を行う。
【0072】
出力判定器72はタービンバイパス弁制御指令の出力判定器で、タービンバイパス弁制御指令出力が正の値以上に至ったことで成立する。
【0073】
負論理73は、出力判定器72の不成立で成立する。
【0074】
出力手段74はOR論理71と負論理73のいずれも成立するAND論理で、成立した場合、その出力を音・発光・印字などを表示手段や音声手段に反映する。タービンバイパス制御手段78であり、自動調整手段及び警報手段79を有する。
【0075】
図3の出力判定器72は比例積分器演算結果がプラス側であることを判定する比較器を示す。図3の負論理73は比較器判定結果の負論理であり、比例積分器演算結果がマイナス側にあることで成立する。
【0076】
図8は蒸気圧力が瞬時変位した場合の発明回路の信号挙動を示す例である。図3の変化率検出手段69は、出力信号上下限制限機能付き積分器の下限制限信号の変化率を検出するための微分器であり、予め定められた値(β)より一定以上の出力を行った場合は、弁の開動作に至りそうな挙動が有ったことを図3の偏差検出器70の比較器で検出し、図3の出力手段74のAND論理でもって警報出力を行う。
【0077】
図9は蒸気圧力が一定の変化率で変位した場合の発明回路の信号挙動を示す例である。図3の偏差比較器68は、出力信号上下限制限機能付き積分器の下限制限信号67が予め定められた値(c%)より一定以上の出力を行った場合は、図3の出力手段74のAND論理でもって警報出力を行う。つまり、蒸気圧力偏差信号(ΔP)に比例分(P2)を適用した出力値と、下限制限設定器65の最下限値との偏差を比較する偏差比較器68により、弁の不要な開動作が生じるか否かを判断できる。
【0078】
比例積分器最下限値の動調整結果が経年変化によって適切でなくなってきていることを判断する仕組みが無く、弁本体が本来開動作してはならない運転状態下で開動作してしまう課題に対して、比例積分器演算結果のマイナスオフセット量が著しく減少した現象をとらえることで、上記実施例により、弁本体の不要な開動作に至ることなく、不要な開動作が生じうる状況になったことを運転員に知らしめることにより、本体経年変化の兆しを弁本体の動作にいたる以前に知り得る手段を設けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】火力発電所のタービンバイパス系統の構造。
【図2】火力発電所における制御装置の詳細図。
【図3】火力発電所における制御装置のタービンバイパス制御回路。
【図4】タービンバイパス制御手段78の動作において、実圧力27が瞬間的に0.1[MPa]上昇した例。
【図5】タービンバイパス制御手段78の動作において、実圧力27が瞬間的に0.2[MPa]上昇した例。
【図6】下限制限設定器65の信号(下限制限設定信号)のみを変更し蒸気圧力の微小変動が生じた場合の制御挙動の例。
【図7】本発明での制御回路の信号挙動を示す。
【図8】蒸気圧力が瞬時変位した場合の発明回路の信号挙動を示す例。
【図9】蒸気圧力が一定の変化率で変位した場合の発明回路の信号挙動を示す例。
【符号の説明】
【0080】
1…ボイラ、2…回収水、3…給水ポンプ、4…ボイラ給水、5…蒸発器、6,8,
10…ボイラ出口蒸気、7,15…タービン駆動用蒸気、9…タービンバイパス弁、11…タービン本体、13…回転軸、14…発電機、16…復水器、17…燃焼用空気送風機、18,20…通風空気、19…ダンパ、21…風箱、22…供給燃料、23…燃料調節弁、24…燃焼用燃料、25…炎、26…制御装置、27…実圧力、28…発電機出力検出信号、29…燃焼用空気流量発信器信号、30…燃焼用燃料流量発信器信号、31…ボイラ給水流量発信器信号、32…燃料流量指令、33…空気流量指令、34…給水流量指令、35…タービン駆動用ガバナ設定指令、36…タービン駆動用ガバナ器、37…タービン調速指令、38…加減弁、39…タービン回転数発信器信号、40…タービンバイパス弁指令、41…ボイラ出力設定器、42…ボイラ蒸気圧力設定器、43…蒸気圧力偏差信号出力手段、44…ボイラ出力設定信号修正手段、45…ボイラ入力要求量(BID)出力手段、46…ボイラ給水流量設定出力手段、47…給水流量偏差出力手段、48…給水流量指令(WFD)出力手段、49…ボイラ燃料流量設定出力手段、50…燃料流量偏差出力手段、51…燃料流量指令(FRD)出力手段、52…燃焼用空気流量設定出力手段、53…空気流量偏差出力手段、54…空気流量指令(AFD)出力手段、55…発電機出力偏差出力手段、56…タービン駆動用ガバナ設定指令出力手段、57…圧力設定信号出力手段、58…タービンバイパス弁圧力制御設定信号出力手段、59…タービンバイパス弁圧力偏差信号出力手段、60…タービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P1)、61…タービンバイパス弁圧力偏差信号、62…タービンバイパス弁制御指令出力手段、63…タービンバイパス弁圧力偏差用比例ゲイン(P2)、64…下限制限器、65…下限制限設定器、66…上限制限器、67…下限制限信号、68…偏差比較器、69…変化率検出手段、70…偏差検出器、71…OR論理、72…出力判定器、73…負論理、74…出力手段、75…偏差手段、76…調整手段、77…ゲイン設定信号、78…タービンバイパス制御手段、79…自動調整手段及び警報手段。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン駆動用蒸気を得る蒸気発生装置と、
タービン駆動用蒸気が通過する管とは別系統に蒸気を逃すためのバイパス系統と、
前記バイパス系統へ蒸気をバイパスするバイパス弁と、
タービン駆動用蒸気圧力を測定して圧力信号を出力する圧力発信器と、
予め計画された計画圧力を設定する設定手段と、
測定した前記圧力信号及び前記計画圧力に基づいて得られる蒸気圧力偏差信号からタービンバイパス弁指令を演算せしめる比例積分器と、
比例積分器の出力を制限する最下限値の設定手段と、
前記最下限値に基づいて、前記比例積分器の下限値演算用の比例分の調整を処理する調整手段を具備することを特徴とするタービンバイパス弁制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のタービンバイパス弁制御システムにおいて、
前記蒸気圧力偏差信号に前記比例分を適用した出力値の変化率を求める変化率検出手段と、
前記変化率と予め定めた値との偏差を比較する偏差検出器を有することを特徴とするタービンバイパス弁制御システム。
【請求項3】
請求項1に記載のタービンバイパス弁制御システムにおいて、
前記蒸気圧力偏差信号に前記比例分を適用した出力値と、前記最下限値との偏差を比較する偏差比較器を有することを特徴とするタービンバイパス弁制御システム。
【請求項4】
請求項1に記載のタービンバイパス弁制御システムにおいて、
前記調整手段は、前記比例分と前記最下限値は比例関係として調整することを特徴とするタービンバイパス弁制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−332856(P2007−332856A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−165459(P2006−165459)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】