説明

タービン構成部品からエンジンデポジットを除去する方法及びそれに使用する組成物

【課題】タービン構成部品からエンジンデポジットを除去する方法を提供する。
【解決手段】洗浄組成物は、実質的に酢酸を含まない水溶液を含み、該水溶液は、硝酸イオンの重量で470〜710グラム/リットルの量の硝酸イオン源と、酸性フッ化物イオンの重量で0.5〜15グラム/リットルの量の酸性フッ化物イオン源とを含む。デポジット除去方法は、その上にエンジンデポジット58が付着した表面14を有し、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属50を含むタービン構成部品10を準備する段階と、タービン構成部品10の表面14を洗浄組成物で処理して、実質的に該タービン構成部品10のベース金属50をエッチングせずに該表面上のエンジンデポジット58を除去可能なスマットに転換する段階とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広くは洗浄組成物を用いてタービン構成部品、特にタービンディスク及びタービンシャフトからエンジンデポジットを除去する方法に関する。本発明はさらに、広くは本方法で用いる、硝酸イオン源及び酸性フッ化物イオン源を含む水溶液を含む洗浄組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機ガスタービンエンジンでは、空気は、エンジンの前部内に吸い込まれ、シャフト支持した圧縮機によって加圧され、かつ燃料と混合される。混合気は燃焼され、高温排気ガスが、同じシャフト上に支持されたタービンを通って流れる。燃焼ガスの流れは、タービンブレードの翼形部に対して衝突することによってタービンを回転させ、タービンがシャフトを回転させかつ圧縮機に動力を与える。高温排気ガスは、エンジンの後部から流出して、エンジン及び航空機を前方に駆動する。燃焼及び排気ガスが高温になればなるほど、ジェットエンジンの作動はより効率的になる。従って、燃焼ガス温度を高めようとする動機が存在する。
【0003】
タービンエンジンは、タービンディスク(「タービンロータ」と呼ぶこともある)及び/又はタービンシャフトと、タービンディスク/シャフトに取付けられかつ該タービンディスク/シャフトから半径方形外向きにガス流路内に延びる多数のブレードと、ブレード及びベーンのような一部の構成部品を冷却するのに用いる空気流を導く回転及び固定シール要素とを含む。タービンエンジンの最高作動温度が上昇すると、タービンディスク/シャフト及びシール要素はより高温を受ける。その結果、ディスク/シャフト及びシール要素の酸化及び腐食がより大きな関心事となってきている。
【0004】
最高作動温度で用いるタービンディスク/シャフト及びシール要素は一般的に、良好な高温強靭性及び耐疲労性で選択したニッケル及び/又はコバルト基超合金で作られている。これらのタービンディスク/シャフト及びシール要素は、酸化及び腐食損傷に対して耐性があるが、その耐性は、現在達している作動温度においてそれらを保護するのには十分ではない。時間の経過と共に、主として酸化ニッケル及び/又は酸化アルミニウムの形態でのエンジンデポジットが、これらのタービン構成部品の表面上に皮膜又は層を形成するおそれがある。これらのエンジンデポジットは一般的に、洗浄して取除くか又は他の方法で除去する必要がある。
【特許文献1】米国特許第5,957,567号公報
【特許文献2】米国特許第6,521,175号公報
【特許文献3】米国特許第5,100,500号公報
【特許文献4】米国特許第4,314,876号公報
【特許文献5】米国特許第5,126,005号公報
【特許文献6】米国特許第4,900,389号公報
【特許文献7】米国特許第5,723,078号公報
【特許文献8】米国特許第3,061,494号公報
【特許文献9】米国特許第4,525,250号公報
【特許文献10】米国特許第5,393,447号公報
【特許文献11】米国特許第5,417,819号公報
【特許文献12】米国特許第6,284,721B1号公報
【特許文献13】米国特許第6,294,072B1号公報
【特許文献14】米国特許第6,407,047B1号公報
【特許文献15】米国特許第6,440,224B1号公報
【特許文献16】米国特許第6,503,565B1号公報
【特許文献17】米国特許第6,579,377B2号公報
【特許文献18】米国特許第6,579,439B1号公報
【特許文献19】米国特許公開第2004/0045936A1号公報
【特許文献20】米国特許公開第2004/0065346A1号公報
【非特許文献1】Kirk−Othmerの化学工学エンサイクロペディア第3編、12巻417〜479ページ(1980)及び15巻787〜800ページ(1981)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、エンジンデポジット、特に金属酸化物を含むエンジンデポジットを、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を含むタービン構成部品から効果的かつ効率的に洗浄しかつ除去することができることが望ましいといえる。このようなエンジンデポジットを、タービン構成部品のニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を過度に又は実質的に取去らないか又は変えない方法で洗浄しかつ除去することができることが特に望ましいといえる。このようなエンジンデポジットを洗浄しかつ除去するのに効果的かつ効率的である組成物を調製することができることがさらに望ましいといえる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、広くは以下の段階を含む方法を目的とし、すなわち(a)その上にエンジンデポジットが付着した表面を有し、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を含むタービン構成部品を準備する段階と、(b)実質的に酢酸を含まずかつ硝酸イオンの重量で約470〜約710グラム/リットルの量の硝酸イオン源と酸性フッ化物イオンの重量で約0.5〜約15グラム/リットルの量の酸性フッ化物イオン源とを含む水溶液を含む組成物でタービン構成部品の表面を処理して、実質的に該タービン構成部品のベース金属をエッチングせずに該表面上のエンジンデポジットを除去可能なスマットに転換する段階とを含む。
【0007】
本発明はさらに、広くは組成物を目的とし、本組成物は、実質的に酢酸を含まずかつ硝酸イオンの重量で約470〜約710グラム/リットルの量の硝酸イオン源と酸性フッ化物イオンの重量で約0.5〜約15グラム/リットルの量の酸性フッ化物イオン源とを含む水溶液を含む。
【0008】
本発明の方法及び組成物は、このようなエンジンデポジットをニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を含むタービン構成部品、特にタービンディスク及びタービンシャフトから除去するのに幾つかの大きな利点をもたらす。本発明の方法及び組成物は、このようなエンジンデポジットをニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を含むタービン構成部品から妥当な時間の範囲内で効果的かつ効率的に除去する。本発明の方法及び組成物はまた、このようなエンジンデポジットを、タービン構成部品のニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を実質的に取去らないか又は変えない方法で除去する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本明細書で用いる場合、「タービン構成部品」という用語は、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を含む多種多様なタービンエンジン(例えば、ガスタービンエンジン)部品及び構成部品を意味し、これら部品及び構成部品は、除去を必要とすることにある、正常エンジン作動時にその表面上に形成されたエンジンデポジットを有する可能性がある。これらのタービンエンジン部品及び構成部品には、ガスタービンエンジンのタービンディスク及びシャフトと、タービンブレード及びベーンのようなタービン翼形部と、タービンシュラウドと、タービンノズルと、ライナ、デフレクタ及びそれぞれのドーム組立体のような燃焼器構成部品と、オーグメンタ金属部品となどが含まれることになる。本発明の方法及び組成物は、エンジンデポジットをタービンディスク及びタービンシャフトの表面から除去するのに特に有用である。
【0010】
本明細書で用いる場合、「ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属」という用語は、ニッケル、コバルト、ニッケル及びコバルト合金、並びにニッケル及び/又はコバルトと鉄、タングステン、モリブデン、クロム、マンガン、チタン、アルミニウム、タンタル、ニオビウム、ジルコニウムなどのような他の金属との合金を含むベース金属を意味する。通常、ベース金属は、主金属又は金属合金としてニッケル及び/又はコバルトを典型的には重量で少なくとも約40%の量、より典型的には重量で少なくとも約50%の量で含む。これらのニッケル及び/又はコバルトベース金属は典型的には、例えば同一出願人の1990年9月18日登録の米国特許第5,957,567号(Krueger他)及び2003年2月18日登録の米国特許第6,521,175号(Mourer他)のような様々な参考文献に開示されているニッケル及び/又はコバルト超合金を含み、これら特許の関連部分は参考文献として本明細書に組み入れている。ニッケル及び/又はコバルト超合金はまた、Kirk−Othmerの化学工学エンサイクロペディア第3編、12巻417〜479ページ(1980)及び15巻787〜800ページ(1981)に全体的に記載されている。例示的なニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属超合金は、商品名Inconel(登録商標)(例えばInconel(登録商標)718)、Nimonic(登録商標)、Rene(登録商標)(例えば、Rene(登録商標)88、Rene(登録商標)104合金)及びUdimet(登録商標)で指定される。例えば、タービンディスク及びタービンシャフトを作るのに用いることができるベース金属は、商品名Inconel(登録商標)718で入手可能なニッケル超合金であり、このInconel(登録商標)718は、重量で52.5%のニッケル、19%のクロム、3%のモリブデン、3.5%のマンガン、0.5%のアルミニウム、0.45%のチタン、5.1%のタンタラム及びニオビウム混合物、並びに0.1%又はそれ以下の炭素と残部が鉄の公称組成を有する。
【0011】
本明細書で用いる場合、「エンジンデポジット」という用語は、ガスタービンエンジンの作動中に時間の経過と共にタービン構成部品の表面上に形成される、皮膜、層、外皮などのようなその付着物を意味する。これらのエンジンデポジットは一般的に、例えば酸化ニッケル、酸化コバルトなどのようなベース金属の酸化物、例えば酸化アルミニウムなどのような他の金属混合成分の酸化物、又はそれらの組合せを含む。
【0012】
本明細書で用いる場合、「スマット(smut)」という用語は、タービン構成部品の表面から除去可能であり、かつタービン構成部品の表面上のエンジンデポジットを本発明の洗浄(清浄化)組成物で処理した時に形成され、生成され、作り出されるなどする転換生成物、組成物などを意味する。この除去可能なスマットは一般的に、例えば酸化ニッケル、酸化コバルトなどのようなベース金属の酸化物を含むが、他の金属酸化物、ナトリウム塩、イオウ化合物などを含む場合もある。
【0013】
本明細書で用いる場合、「実質的にベース金属をエッチングせずに」という用語は、タービン構成部品のベース金属表面のエッチングが最小であるか又は全くないことを意味する。このエッチングは一般的に、適当な倍率(例えば1000倍)の下で見ると、タービン構成部品のベース金属の表面の又は該表面内の腐食或いは孔食としてその中に溝、チャネル、割れ目などを形成するようにエッチング自体が現れる。
【0014】
本明細書で用いる場合、「実質的にその表面を変えない方法で」という用語は、タービン構成部品の表面からのベース金属のストック喪失が約0.05ミル(1ミクロン)又はそれ以下であることを意味する。
【0015】
本明細書で用いる場合、「ストック喪失」という用語は、タービン構成部品の表面からのベース金属の減少又は喪失を意味する。
【0016】
本明細書で用いる場合、「実質的に酢酸を含まない」という用語は、組成物が多くても微量の酢酸、例えば約0.5%又はそれ以下の酢酸、より典型的には約0.1%又はそれ以下の酢酸を含むことを意味する。
【0017】
本明細書で用いる場合、「含む」という用語は、本発明において様々な組成物、化合物、構成部品、段階などを共に用いることができることを意味する。従って、「含む」という用語は、さらに限定的な用語である「本質的にから成る」及び「から成る」を包含する。
【0018】
本明細書で用いる総量、部、割合、百分率などは、その他の定めがない限り容積当たりの重量によるものである。
【0019】
本発明は、その表面上のエンジンデポジットを除去するためにタービンエンジン構成部品を洗浄(清浄化)する従来の化学的方法が、特にこのタービン構成部品がニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を含む場合に、洗浄したタービン構成部品のベース金属の特性に悪影響を与え又は特性を変えることが多いという発見に基づいている。これら従来の化学的洗浄プロセスはまた通常、タービン構成部品の適切な清浄な表面状態を得るために、数回繰り返されなければならないか及び/又は例えば強力なグリットブラストによる過度な研磨的機械的清浄化を化学的に処理した構成部品が必要とする。しかしながら、過度の化学的洗浄は、所望の表面状態を達成するための処理時間が長くなると同時に、強力な研磨的機械的清浄化は、労働集約的でありかつタービン構成部品の所望の寸法形状を変える可能性がある表面ベース金属の過度の除去を回避するために非常に慎重な注意を必要とすることが分かった。
【0020】
本発明はさらに、タービン構成部品の表面からエンジンデポジットを洗浄しかつ除去するために用いることができる従来の化学組成物がまた、タービン構成部品を作るのに用いるニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属の表面を過度にエッチングするおそれがあるという発見に基づいている。このような従来の化学的エッチング液組成物の実施例は、1992年3月31日登録の米国特許第5,100,500号(Dastolfo他)(重フッ化アンモニウム及び塩酸を含むチタン用ミリング液)、1982年2月9日登録の米国特許第4,314,876号(Kremer他)(重フッ化アンモニウム及び硝酸のような硝酸イオン源を含むチタンエッチング液)に開示されている。高過ぎる酸性フッ化物イオン濃度で調製した場合のこれら従来の化学的エッチング液組成物は、タービン構成部品の表面を望ましくないほどエッチングしかつ該表面から過度のニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属の量を除去して、タービン構成部品のベース金属表面の腐食又は孔食を生じることが分かった。さらに、酢酸を含む化学的エッチング液組成物は、タービン構成部品のニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属の望ましくない粒界腐食(すなわち、結晶粒界における)を引き起こすおそれがあることが分かった。このような粒界腐食は、これらの結晶粒界においてベース金属を望ましくないほど脆弱化させることになる。
【0021】
本発明の方法及び組成物は、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を含むタービンエンジン構成部品の表面を洗浄する際における従来の化学的方法及び従来の化学的エッチング液組成物によって生じる可能性がある課題を回避する。本発明の洗浄組成物は、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属を含むタービン構成部品の表面を実質的にエッチングせずにタービン構成部品の表面上のエンジンデポジットを除去可能なスマットに転換する選択した量の硝酸イオン源(例えば硝酸)及び酸性フッ化物イオン源(例えば重フッ化アンモニウム)の水溶液を含む。具体的には、本発明の洗浄組成物は、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属の望ましくない粒堺腐食を引き起こす可能性がある酢酸を実質的に含まない。本発明の洗浄組成物で処理することによって形成され、生成され、作り出されたりなどしたスマットは、過度の研磨的機械的処理の必要性なしにかつ処理したタービン構成部品の表面を実質的に変えずに、続いてかつ容易に除去することができる。
【0022】
図面を参照すると、図1は、本発明の方法及び組成物が、全体を符号10で示しかつ全体を符号14で示した表面を有するタービンディスクの形態において有用である代表的なタービン構成部品を示す。ディスク10は、符号16で示したほぼ円形の内側ハブ部分と、符号22で示したほぼ円形の外側周囲又は直径と、その各々がタービンブレードの根元部分(図示せず)を受ける符号30で示した複数の円周方向に間隔を置いて配置したスロットを備えた、符号26で示した外周部とを有する。図2は、表面14上に形成された符号58で示したエンジンデポジットを有する符号50で示したベース金属を含む、図1のディスク10の断面図を示す。これらのエンジンデポジット58は、ハブ部分16及び外径22の領域において、より限定的にいうと外周部26の近傍においてディスク10の表面14上に形成される傾向がある。図3は、このようなエンジンデポジット58を有するタービンディスク10を示す。これらのエンジンデポジット58は、図4に示したこのタービンディスク10の拡大部分に具体的に示しており、典型的にはタービンディスク10の表面14上に暗色或いはより暗色のスケールとして現れる。
【0023】
本発明の方法では、その表面14上にエンジンデポジット58を有するタービンディスク10のようなタービン構成部品は、本発明の洗浄組成物で処理される。この洗浄組成物は、実質的に酢酸を含まない水溶液を含み、該水溶液は、硝酸イオンの重量で約470〜約710グラム/リットル、典型的には約565〜約665グラム/リットルの量の硝酸イオン源と、酸性フッ化物イオンの重量で約0.5〜約15グラム/リットル、典型的には約5〜約10グラム/リットルの量の酸性フッ化物イオン源とを含む。適切な硝酸イオン源は、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウムなど及びそれらの組合せを含む。典型的には、硝酸イオン源は硝酸を含む。適切な酸性フッ化物イオン源は、重フッ化アンモニウム、重フッ化ナトリウム、重フッ化カリウムなど及びそれらの組合せを含む。典型的には、酸性フッ化物イオン源は重フッ化アンモニウムを含む。洗浄組成物はまた、非酢酸緩衝剤、湿潤剤(例えば、界面活性剤)などのような他の任意選択的な成分を含むことができる。
【0024】
その上にエンジンデポジット58を有するタービンディスク10の表面14は、あらゆる適切な方法でかつ十分な時間にわたって本発明の洗浄組成物で処理して、(1)ディスク10の表面14上のエンジンデポジット58を除去可能なスマットに、(2)実質的にディスク10のベース金属50をエッチングせずに、転換又は実質的に転換することができる。処理は、表面14上に洗浄組成物をブラッシング、ローラー塗り、流し塗り、注入又はスプレーすることにより、或いは洗浄組成物で又は該洗浄組成物の中に表面14をソーキング、ディッピング又は浸漬することによるなどによって、タービンディスク10の表面14上で実施することができる。典型的には、処理は、洗浄組成物でタービンディスク10の表面14をソークすることによって、又は洗浄組成物に中にタービンディスク10の表面14を浸漬することによって実施される。洗浄組成物での処理は、典型的には約1〜約10分間、より典型的には約3〜約7分間実施される。処理は、室温(例えば、約20〜約25℃)で、或いはより高温で実施することができる。ディスク10の表面14には、洗浄組成物で洗浄する前に、他の前処理段階を行うことができる。例えば、ディスク10の表面14は、あらゆる油性又は他の炭素質のデポジットを除去又は破壊するように前処理して、本発明の洗浄組成物でのその後の処理などによって該表面14上のあらゆるエンジンデポジット58の破壊又は除去を助けることができる。例えば、表面14は、水酸化ナトリウムのようなアルカリ油性洗浄剤組成物で前処理することができる。
【0025】
洗浄を必要としないタービンディスク10の他の部分を保護するために、洗浄組成物の成分に対して比較的化学的に耐性又は不活性であるマスキング材を、洗浄を必要としないディスク10のそれらの部分に施工することができる。適切なマスキング材は、金属表面に施工することができかつ本発明の洗浄組成物の成分に対して化学的に耐性又は不活性である、ポリマー、化合物又は他の組成物で作られたプラスチックフィルム、皮膜又は他の材料を含み、例えばこれら材料には、エチレングリコールモノメチルエーテル系組成物、ネオプレン系ポリマーのようなゴム又は合成ゴム組成物及びポリテトラフルオロエチレンなどが含まれる。例えば、1992年6月30日登録の米国特許第5,126,005号(Blake)(特に、コラム2の8〜34行)、1992年3月31日登録の米国特許第5,100,500号(Dastolfo)(特に、コラム5の49〜63行)及び1990年2月13日登録の米国特許第4,900,389号(Chen)(特に、コラム2の46〜51行)を参照されたく、これら特許の関連部分は参考文献として本明細書に組み入れている。マスキング材は、洗浄組成物から保護すべきディスク10の部分に対して、ブラッシング、ディッピング、スプレー、ローラー塗り又は流し塗りを含むあらゆる従来型の方法で施工することができる。洗浄組成物での処理が実施されると、次にディスク10からマスキング材を除去することができる。
【0026】
本発明の洗浄組成物によるタービンディスク10の処理の後に、ディスク10の表面14上の洗浄組成物のあらゆる残留物は、当業者に公知の方法によって洗い落とされ(例えば、水で)、中和され或いは他の方法で除去することができる。典型的には、ディスク10を水に浸漬し、続いて高圧水洗浄処理し、該ディスクを乾燥させることによって、表面14からあらゆる残留洗浄組成物が除去される。これに代えて、洗浄組成物によるディスク10の処理は、ディスク10の表面14上の残留洗浄組成物を洗い落とし及び/又は中和しながら、定期的に(例えば、約3〜約5分毎に)中断することができる。ディスク10に施工したあらゆるマスキング材もまた、ディスク10を使用に戻す準備ができるように、例えば表面から剥離(マスキング材用の溶媒で処理して又は処理せずに)させることによって或いは当業者に公知の他の方法によって除去することができる。
【0027】
本発明の洗浄組成物でのタービンディスク10の処理により、一般的には処理したディスク10の表面14上に除去可能なスマットの比較的薄い残留フィルム、層などが形成又は生成される。形成されたこのスマットは、ディスク10の表面14を実質的に変えることのないあらゆる方法で、ディスク10の表面14から除去又は実質的に除去することができる。例えば、このスマットの層又はフィルムは、同様のスマット層又はフィルムを穏やかに除去するための当業者に公知の従来型の方法によって除去することができる。適切な除去方法は、グリットブラストを行う必要がない表面をマスキングした状態で或いはマスキングしない状態で比較的穏やかなグリットブラストを含む。1998年3月3日登録のNagaraj他の米国特許第5,723,078号、特にコラム4の46〜67行からコラム5の第3行及び14〜17行を参照されたく、この特許の関連部分は参考文献として本明細書に組み入れている。本発明の洗浄組成物で処理した後でかつ形成されたスマットを除去した後のタービンディスク10は一般的に、実質的にエンジンデポジットがない、すなわち表面14上に目に見える暗色又はより暗色のスケールが存在しない。本発明の洗浄組成物で本発明の方法を用いて表面14を洗浄した後の実質的にエンジンデポジット58がないタービンディスク10を示す図5を参照されたい。
【0028】
本発明の洗浄組成物(例えば、硝酸及び重フッ化アンモニウム)を含む成分又は材料は、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属のエッチング液となる可能性があり、従って特に硝酸イオン濃度が低過ぎ(すなわち、約470グラム/リットル以下)、酸性フッ化物イオン濃度が高過ぎ(すなわち、約15グラム/リットル以上)かつベース金属表面が洗浄組成物で長過ぎる時間(例えば、約10分以上)にわたって処理された場合には、タービン構成部品のベース金属の過度のエッチングを引き起こすおそれがある。ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属表面のこの過度のエッチングの可能性を図6に例証しており、この図は、約470グラム/リットル以下の硝酸イオン濃度をもたらす硝酸と、約15グラム/リットル以上の酸性フッ化物イオン濃度をもたらす購入可能な重フッ化アンモニウム製品(すなわち、さらに酢酸を含むTurco4104)とによって調製した溶液で30分間処理したタービン構成部品表面の拡大画像を示す。図6から分かるように、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属表面は、外見上極度に穴が開きかつ腐食されており、この溶液によるベース金属表面の過度のエッチングを示している。
【0029】
本発明の特定の実施形態を説明してきたが、特許請求の範囲に記載した本発明の技術思想及び技術的範囲から逸脱することなく本発明に様々な変更を加えることができることは当業者には明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の組成及び方法が有用である代表的なタービンディスクを示す図。
【図2】その表面上のエンジンデポジットを示す、図1のタービンディスクの一部分の拡大断面図。
【図3】その表面上にエンジンデポジットを有する、図1のタービンディスクの一部分を示す図。
【図4】図3のタービンディスクの拡大部分を示す図。
【図5】本発明の組成物及び方法の実施形態によって洗浄した後の、図1のタービンディスクの一部分を示す図。
【図6】低過ぎる硝酸イオン濃度及び高過ぎる酸性フッ化物イオン濃度で調製した溶液で長過ぎる時間にわたって処理した場合におけるタービン構成部品のベース金属の表面の過度のエッチングを示す拡大画像(1000倍)。
【符号の説明】
【0031】
10 タービンディスク
14 表面
16 ハブ部分
22 外径
26 外周部
30 スロット
50 ベース金属
58 エンジンデポジット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に酢酸を含まない水溶液を含む組成物であって、前記水溶液が、
硝酸イオンの重量で470〜710グラム/リットルの量の硝酸イオン源と、
酸性フッ化物イオンの重量で0.5〜15グラム/リットルの量の酸性フッ化物イオン源と、を含むことを特徴とする組成物。
【請求項2】
硝酸イオンの重量で565〜665グラム/リットルの量の前記硝酸イオン源と、酸性フッ化物イオンの重量で5〜10グラム/リットルの量の前記酸性フッ化物イオン源とを含む、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
前記硝酸イオン源が、硝酸、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム又はそれらの組合せを含むことを特徴とする請求項1及び請求項2のいずれか1項記載の組成物。
【請求項4】
前記酸性フッ化物イオン源が、重フッ化アンモニウム、重フッ化ナトリウム、重フッ化カリウム又はそれらの組合せを含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
前記硝酸イオン源が硝酸を含み、かつ前記酸性フッ化物イオン源が重フッ化アンモニウムを含むことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
(a)その上にエンジンデポジット(58)が付着した表面(14)を有し、ニッケル及び/又はコバルト含有ベース金属(50)を含むタービン構成部品(10)を準備する段階と、
(b)前記タービン構成部品(10)の表面(14)を前記請求項1から請求項5のいずれかの組成を含む洗浄組成物で処理して、実質的に該タービン構成部品(10)のベース金属(50)をエッチングせずに該表面上のエンジンデポジット(58)を除去可能なスマットに転換する段階と、
を具備することを特徴とするデポジット除去方法。
【請求項7】
前記段階(b)が、前記洗浄組成物で1〜10分間前記タービン構成部品(10)の表面(14)を処理することによって実施されることを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記段階(b)が、前記洗浄組成物で3〜7分間前記タービン構成部品(10)の表面(14)を処理することによって実施されることを特徴とする請求項7記載のデポジット除去方法。
【請求項9】
前記段階(b)が、前記洗浄組成物中に前記タービン構成部品(10)を浸漬することによって又は前記洗浄組成物で前記タービン構成部品(10)をソークすることによって実施されることを特徴とする請求項6から請求項8のいずれか1項記載のデポジット除去方法。
【請求項10】
前記タービン構成部品(10)の処理表面(14)から実質的に該タービン構成部品(10)の表面(14)を変えない方法で前記スマットを除去するさらなる段階を含むことを特徴とする請求項6から請求項9のいずれか1項記載のデポジット除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−183049(P2006−183049A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−365813(P2005−365813)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】