説明

ターボチャージャー

【課題】ターボチャージャーの回転軸の軸受けにおいて、回転軸の振れ回りを抑制できるようにする。
【解決手段】ターボチャージャー1は、ブッシュ9の外周側でブッシュ9を環状に包囲する筒体であって軸方向に可動である可動ハウジング25と、可動ハウジング25を駆動してブッシュ9に対し軸方向に相対的に変位させる駆動手段26とを備える。また、ブッシュ9の外周面と可動ハウジング25の内周面との間には外周側クリアランス11が形成されてオイルが供給され、外周側クリアランス11は、可動ハウジング25のブッシュ9に対する相対的な位置に応じて変化する。これにより、例えば、ホワール振動が発生する虞が高いか否かに応じて、外周側クリアランス11を変化させることができるので、回転軸2の振れ回りを抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャーに関するものであり、特にターボチャージャーの回転軸の軸受け構造に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来から、数十万rpmもの高速で回転するターボチャージャーでは、タービンの羽根車とコンプレッサの羽根車とを連結する回転軸のジャーナル軸受けの構造として、いわゆる浮動ブッシュ軸受けが多用されている。この浮動ブッシュ軸受けは、ハウジングと回転軸との間に円筒状のブッシュを挿入し、ブッシュの内周側および外周側の両方にオイルを供給して油膜を形成するものである。そして、ブッシュは、内周側の油圧により駆動されながら、外周側の油圧により制動され、回転軸の回転数に応じた回転数で回転する。
【0003】
ところで、高速回転する回転軸のすべり軸受けでは、回転と非同期のホワール振動が自励的に回転軸に発生し、回転軸がすりこぎ状に振れ回ることが周知となっている。
そこで、ターボチャージャーの浮動ブッシュ軸受けでは、ホワール振動に起因する回転軸の振れ回りを抑制するべく、種々の対策が提案されて公知となっている。
【0004】
例えば、特許文献1のターボチャージャーによれば、ブッシュとハウジングとを軸方向に弾性変形可能な支持部材により機械的に連結する。これにより、回転軸のホワール振動を減衰させることができるとしている。
また、特許文献2のターボチャージャーによれば、ブッシュをタービン側ブッシュとコンプレッサ側ブッシュとに分け、タービン側ブッシュ、コンプレッサ側ブッシュのそれぞれで内周側、外周側にクリアランスを形成する。
【0005】
そして、ホワール振動が、主に、回転軸の重心から遠いコンプレッサ側の諸元に起因しているものとみなし、コンプレッサ側ブッシュにおいて内周側クリアランスを小さく設定するとともに外周側クリアランスを大きく設定することで、回転軸のホワール振動を抑制することができるとしている。
【0006】
しかし、特許文献1のターボチャージャーによれば、シャフトの振動減衰は支持部材の弾性変形に依存しており、変形と復元との繰り返しによって支持部材が疲労していく。このため、支持部材の強度が低下して支持部材が破壊する虞がある。
また、特許文献2のターボチャージャーは、ホワール振動の抑制に対して効果的であるものの、ホワール振動がさほど顕著に現れていない場合、コンプレッサ側ブッシュにおいて外周側クリアランスが大きいことに起因して、逆に、振れ回りが発生する虞が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−138757号公報
【特許文献2】特許第4386563号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、ターボチャージャーの回転軸の軸受けにおいて、回転軸の振れ回りを抑制できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1の手段〕
請求項1の手段によれば、ターボチャージャーは、排気ガスにより回転するタービンと吸入空気を圧縮するコンプレッサとを連結する回転軸を軸受けするブッシュと、ブッシュの外周側でブッシュを環状に包囲する筒体であって軸方向に可動である可動ハウジングと、可動ハウジングを駆動してブッシュに対し軸方向に相対的に変位させる駆動手段とを備える。また、ブッシュの外周面と可動ハウジングの内周面との間にはクリアランスが形成されてオイルが供給され、クリアランスは、可動ハウジングのブッシュに対する相対的な位置に応じて変化する。
【0010】
これにより、例えば、ホワール振動が発生する虞が高いか否かに応じて、ブッシュの外周面と可動ハウジングの内周面との間のクリアランス(外周側クリアランス)を変化させることができる。すなわち、ホワール振動が発生する虞が高いときには、外周側クリアランスが大きくなるように可動ハウジングを位置取りさせてホワール振動に起因する振れ回り発生の虞を低減することができる。
【0011】
また、ホワール振動が発生する虞が低いときには、外周側クリアランスが小さくなるように可動ハウジングを位置取りさせて、外周側クリアランスが大きいことに起因する振れ回り発生の虞を低減することができる。
このため、ターボチャージャーの回転軸の軸受けにおいて、回転軸の振れ回りを抑制することができる。
【0012】
〔請求項2の手段〕
請求項2の手段によれば、ブッシュは、軸方向に関してタービンに近いタービン側ブッシュと、軸方向に関してコンプレッサに近いコンプレッサ側ブッシュとに分かれている。また、クリアランスは、可動ハウジングとタービン側ブッシュとの間で形成されるタービン側クリアランスと、可動ハウジングとコンプレッサ側ブッシュとの間で形成されるコンプレッサ側クリアランスとに分かれている。
【0013】
そして、タービン側クリアランスおよびコンプレッサ側クリアランスは、可動ハウジングのタービン側ブッシュおよびコンプレッサ側ブッシュに対する相対的な位置に応じて変化する。
これにより、回転軸の軸受けにおけるすべり面を低減することができるので、焼付回避に対する信頼性を高めることができる。
【0014】
〔請求項3の手段〕
請求項3の手段によれば、可動ハウジングの内周面には外周側に窪む凹部と内周側に突出する凸部とが軸方向に交互に設けられている。そして、クリアランスは、ブッシュの外周面が凹部と径方向に対向することで大きくなり、ブッシュの外周面が凸部と径方向に対向することで小さくなる。
この手段は、クリアランスを可動ハウジングのブッシュに対する相対的な位置に応じて変化させる一態様を示すものである。
【0015】
〔請求項4の手段〕
請求項4の手段によれば、軸方向に隣り合う凹部と凸部に関し、凹部の外周底面と凸部の内周頂面とを軸方向に接続する段面は傾斜している。
これにより、ブッシュの角部が可動ハウジングの相対的な変位に干渉する虞を低減することができる。
【0016】
〔請求項5の手段〕
請求項5の手段によれば、凹部の外周底面および凸部の内周頂面には、それぞれ、クリアランスにオイルを導く油路が開口している。
これにより、外周側クリアランスに確実にオイルを供給することができる。
【0017】
〔請求項6の手段〕
請求項6の手段によれば、ターボチャージャーは、回転軸の単位時間当たりの回転回数(回転軸の回転数)を検出する軸回転数検出手段と、軸回転数検出手段による検出値が所定の範囲内にある場合に、ブッシュの外周面が凹部と径方向に対向するように駆動手段を動作させる制御手段とを備える。
【0018】
ホワール振動の振動数は、回転軸を含む軸系に固有の数値(以下、ホワール振動数と呼ぶ。)になるので、ホワール振動は、回転軸の回転数がホワール振動数に近い範囲で顕著になる。
そこで、ターボチャージャーにおいて、回転軸の回転数を検出可能にするとともに、回転数の検出値がホワール振動数を含む所定の範囲内にある場合にブッシュの外周面と凹部とを径方向に対向させるように駆動手段を制御する。つまり、回転数の検出値がホワール振動数に近い範囲にあるときに、ホワール振動を抑制することができるように外周側クリアランスを大きくする。
【0019】
これにより、ホワール振動が顕著に現れているか否かを判断するために、例えば、高速フーリエ変換等の煩雑な処理を制御周期ごとに行なう必要がなくなるので、簡便にホワール振動が顕著に現れているか否かを判断して駆動手段を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ターボチャージャーの全体構成図である(実施例)。
【図2】ターボチャージャーの要部構成図である(実施例)。
【図3】ターボチャージャーの分解構成図である(実施例)。
【図4】ターボチャージャーの可動ハウジングが一端側に移動した状態の要部構成図である(実施例)。
【図5】ターボチャージャーの回転数特性を示す特性図である(実施例)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施形態のターボチャージャーは、排気ガスにより回転するタービンと吸入空気を圧縮するコンプレッサとを連結する回転軸を軸受けするブッシュと、ブッシュの外周側でブッシュを環状に包囲する筒体であって軸方向に可動である可動ハウジングと、可動ハウジングを駆動してブッシュに対し軸方向に相対的に変位させる駆動手段とを備える。また、ブッシュの外周面と可動ハウジングの内周面との間にはクリアランス(外周側クリアランス)が形成されてオイルが供給され、クリアランスは、可動ハウジングのブッシュに対する相対的な位置に応じて変化する。
【0022】
また、ブッシュは、軸方向に関してタービンに近いタービン側ブッシュと、軸方向に関してコンプレッサに近いコンプレッサ側ブッシュとに分かれている。また、クリアランスは、可動ハウジングとタービン側ブッシュとの間で形成されるタービン側クリアランスと、可動ハウジングとコンプレッサ側ブッシュとの間で形成されるコンプレッサ側クリアランスとに分かれている。
【0023】
そして、タービン側クリアランスおよびコンプレッサ側クリアランスは、可動ハウジングのタービン側ブッシュおよびコンプレッサ側ブッシュに対する相対的な位置に応じて変化する。
【0024】
また、可動ハウジングの内周面には外周側に窪む凹部と内周側に突出する凸部とが軸方向に交互に設けられている。そして、クリアランスは、ブッシュの外周面が凹部と径方向に対向することで大きくなり、ブッシュの外周面が凸部と径方向に対向することで小さくなる。
なお、軸方向に隣り合う凹部と凸部に関し、凹部の外周底面と凸部の内周頂面とを軸方向に接続する段面は傾斜している。また、凹部の外周底面および凸部の内周頂面には、それぞれ、クリアランスにオイルを導く油路が開口している。
【0025】
さらに、ターボチャージャーは、回転軸の単位時間当たりの回転回数(回転軸の回転数)を検出する軸回転数検出手段と、軸回転数検出手段による検出値が所定の範囲内にある場合に、ブッシュの外周面が凹部と径方向に対向するように駆動手段を動作させる制御手段とを備える。
【実施例】
【0026】
〔実施例の構成〕
実施例のターボチャージャー1の構成を、図1〜図4に基づいて説明する。
ターボチャージャー1は、内燃機関(図示せず)から排気された排気ガスのエネルギーを利用して吸入空気を圧縮するとともに内燃機関に送り込むものであり、排気ガスのエネルギーを回収しつつ内燃機関本来の排気量を超える混合気を吸入して燃焼させることを可能とし、燃費の低減や排気ガスの有害成分の低減を目指すものである。
【0027】
このターボチャージャー1は、排気ガスの熱エネルギーや運動エネルギーを回転軸2の回転エネルギーへ変換するタービン3と、回転軸2から伝わる回転トルクにより吸入空気を圧縮して内燃機関に送り込むコンプレッサ4と、回転軸2を軸受けするジャーナル軸受け5およびスラスト軸受け6とを備える。
【0028】
ここで、タービン3は、タービンハウジング3Hの排気ガスの通路3Lに羽根車3Iを回転自在となるように収容することで形成され、コンプレッサ4は、コンプレッサハウジング4Hの吸入空気の通路4Lに羽根車4Iを回転自在となるように収容することで形成されている。また、回転軸2は、羽根車3Iと羽根車4Iとを連結する。すなわち、回転軸2の軸方向の一端に羽根車4Iがナット4Nにより取り付けられ、他端に羽根車3Iが溶接等により取り付けられている。
【0029】
このような構成により、ターボチャージャー1は、排気ガスのエネルギーを利用して羽根車3Iを高速回転させ、その回転トルクで羽根車4Iを回転駆動することにより吸入空気を圧縮して内燃機関に送り込む。
また、タービン3の単位時間当たりの回転回数(回転数)は、数十万rpmもの高速に達するものであり、ジャーナル軸受け5にはいわゆる浮動ブッシュ軸受けが採用されている。
【0030】
すなわち、ジャーナル軸受け5は、軸受けハウジング8と回転軸2との間に円筒状のブッシュ9を挿入し、ブッシュ9の内周側および外周側のそれぞれにクリアランス10、11を形成するとともにオイルを供給して油膜を形成することで構成されている(以下、ブッシュ9の内周側、外周側のそれぞれに形成されるクリアランス10、11をそれぞれ内周側、外周側クリアランス10、11と呼ぶ。)。なお、外周側クリアランス11には、軸受けハウジング8に設けられた油路12を通じてオイルが供給される。また、内周側クリアランス10には、ブッシュ9に設けられた油路12を通じて外周側クリアランス11からオイルが供給される。
【0031】
そして、ブッシュ9は、内周側クリアランス10の油圧により駆動されながら、外周側クリアランス11の油圧により制動され、回転軸2の回転数に応じた回転数で回転する。
ここで、軸受けハウジング8は、タービンハウジング3Hとコンプレッサハウジング4Hとの間に配置されてブッシュ9等を収容するとともに内周側、外周側クリアランス10、11を形成する。
【0032】
また、スラスト軸受け6は、軸受けハウジング8の一端側に配置される中間ハウジング14にスラストベアリング15およびカラー16a、16bを収容し、カラー16a、16bに回転軸2を通すとともにカラー16aに回転軸2の段部2aを当接させて構成されている。そして、スラスト軸受け6において、中間ハウジング14、スラストベアリング15、カラー16a、16bおよび回転軸2等により形成される隙間には、軸受けハウジング8や中間ハウジング14に設けられた油路12を通じてオイルが供給されている。
【0033】
また、ブッシュ9の他端側、一端側には、それぞれ、通路3L、4Lへのオイル漏れを防止するオイル漏れ防止機構18、19が設けられている。
オイル漏れ防止機構18は、主に、回転軸2の他端側で回転軸2と軸受けハウジング8との間を封鎖するC字状のシールリング20により構成され、オイルは、シールリング20により通路3Lに漏れ出すのを阻止される。なお、軸受けハウジング8の他端にはスペーサ21が装着されている。
【0034】
また、オイル漏れ防止機構19は、主に、キャップ22に嵌まって中間ハウジング14に収容されるプレート23により構成されている。ここで、プレート23は、スラスト軸受け6における各種の隙間に供給されたオイルを軸受けハウジング8の方に戻すことができるように設けられている。
【0035】
なお、中間ハウジング14では、最も一端側においてサークリップ23aが収容され、スラストベアリング15、キャップ22およびプレート23は、サークリップ23aにより他端側に付勢されている。また、キャップ22と中間ハウジング14との間、コンプレッサハウジング4Hと中間ハウジング14との間、軸受けハウジング8と中間ハウジング14との間には、適宜、Oリングが配置されている。
【0036】
そして、ターボチャージャー1は、回転軸2の振れ回りを抑制するべく、次のような構成を有している。
すなわち、ターボチャージャー1は、回転軸2を軸受けするブッシュ9と、ブッシュ9の外周側でブッシュ9を環状に包囲する筒体であって軸方向に可動である可動ハウジング25と、可動ハウジング25を駆動してブッシュ9に対し軸方向に相対的に変位させる駆動手段26と、回転軸2の回転数を検出する軸回転数検出手段27と、軸回転数検出手段27による検出値に応じて駆動手段26を動作させる制御手段28とを備える。
【0037】
ブッシュ9は、軸方向に関してタービン3に近いタービン側ブッシュ9Tと、軸方向に関してコンプレッサ4に近いコンプレッサ側ブッシュ9Cとに分かれており、タービン側、コンプレッサ側ブッシュ9T、9Cは、円筒カラー29により軸方向に隔てられている。
【0038】
また、内周側クリアランス10は、可動ハウジング25とタービン側ブッシュ9Tとの間で形成されるタービン側クリアランス10Tと、可動ハウジング25とコンプレッサ側ブッシュ9Cとの間で形成されるコンプレッサ側クリアランス10Cとに分かれ、同様に、外周側クリアランス11も、可動ハウジング25とタービン側ブッシュ9Tとの間で形成されるタービン側クリアランス11Tと、可動ハウジング25とコンプレッサ側ブッシュ9Cとの間で形成されるコンプレッサ側クリアランス11Cとに分かれている。
【0039】
可動ハウジング25は、軸受けハウジング8の一部であり、軸方向に移動自在となるように軸受けハウジング8の本体をなすハウジング本体8Aにより外周側からガイドされている。また、可動ハウジング25の内周面には外周側に窪む凹部31T、31Cおよび内周側に突出する凸部32T、32Cが設けられ、軸方向に一端から他端に向かって凸部32C、凹部31C、凸部32T、凹部31Tの順に設けられている。
【0040】
ここで、凹部31T、31Cの外周底面33および凸部32T、32Cの内周頂面34は、可動ハウジング25自体と同心の円筒面として設けられ、軸方向他端側の凹部31Tの外周底面33と軸方向一端側の凹部31Cの外周底面33とは同径である。また、軸方向他端側の凸部32Tの内周頂面34と軸方向一端側の凸部32Cの内周頂面34とは同径である。
【0041】
以上により、タービン側、コンプレッサ側クリアランス11T、11Cは、それぞれ、可動ハウジング25のタービン側、コンプレッサ側ブッシュ9T、9Cに対する相対的な位置に応じて変化する。すなわち、タービン側、コンプレッサ側クリアランス11T、11Cは、それぞれ、タービン側、コンプレッサ側ブッシュ9T、9Cの外周面が凹部31T、31Cの外周底面33と径方向に対向することで大きくなり(図4参照。)、タービン側、コンプレッサ側ブッシュ9T、9Cの外周面が凸部32T、32Cの内周頂面34と径方向に対向することで小さくなる(図1、図2参照。)。
【0042】
なお、軸方向に隣り合う凹部31Tと凸部32Tに関し、凹部31Tの外周底面33と凸部32Tの内周頂面34とを軸方向に接続する段面35は傾斜している。同様に、凹部31Cの外周底面33と凸部32Cの内周頂面34とを軸方向に接続する段面35も傾斜している。
【0043】
また、凹部31T、31Cの外周底面33および凸部32T、32Cの内周頂面34には、外周側クリアランス11にオイルを導く油路12が開口している。
ここで、ジャーナル軸受け5における油路12の構成について説明する。
【0044】
まず、軸受けハウジング8の本体ハウジングには、オイルの供給ポート37および排出ポート38が設けられており、油路12は、供給ポート37からジャーナル、スラスト軸受け5、6の各部にオイルが供給されて排出ポート38から排出されるように構成されている。そして、供給ポート37には、他端側の内周側、外周側クリアランス10T、11Tにオイルを供給するための油路12a、一端側の内周側、外周側クリアランス10C、11Cにオイルを供給するための油路12b、および、スラスト軸受け6にオイルを供給するための油路12cが接続している。
【0045】
そして、可動ハウジング25には、径方向に貫通する油路12d、12e、12f、12gが周方向に関して同じ位置に、他端から一端に向かって順次に設けられている。
ここで、油路12d、12fは、それぞれ凹部31T、31Cの外周底面33に開口している。そして、油路12d、12fの外周面における開口は、可動ハウジング25が一端側へ変位して外周側クリアランス11が大きいときに油路12a、12bの開口と径方向に向かい合い(図4参照。)、オイルは、油路12a、12bから油路12d、12fに流入して外周側クリアランス11T、11Cに供給される。
【0046】
また、油路12e、12gは、凸部32T、32Cの内周頂面34に開口している。そして、油路12e、12gの外周面における開口は、可動ハウジング25が他端側へ変位して外周側クリアランス11が小さいときに油路12a、12bの開口と径方向に向かい合い(図1、図2参照。)、オイルは、油路12a、12bから油路12e、12gに流入して外周側クリアランス11T、11Cに供給される。
【0047】
さらに、タービン側、コンプレッサ側ブッシュ9T、9Cには、それぞれ、径方向に貫通する油路12h、12iが設けられており、油路12h、12iを通じて外周側クリアランス11T、11Cから内周側クリアランス10T、10Cにオイルが供給される。
【0048】
また、タービン側、コンプレッサ側ブッシュ9T、9Cには、それぞれ、油路12h、12iとは回転軸2を挟んで対称となる側に、径方向に貫通する油路12j、12kが設けられており、油路12j、12kを通じて内周側クリアランス10T、10Cから外周側クリアランス11T、11Cにオイルが排出される。また、可動ハウジング25には、油路12d〜12gとは回転軸2を挟んで対称となる側に、径方向に貫通する油路12mが設けられており、油路12mを通じて外周側クリアランス11T、11Cから排出ポート38に向かってオイルが排出される。
【0049】
なお、油路12cに流入したオイルは、中間ハウジング14やスラストベアリング15等に設けられた油路12を通ってスラスト軸受け6における各種の隙間に供給され、プレート23により軸受けハウジング8の方に戻されて排出ポート38に向かう。
【0050】
駆動手段26は、例えば、油圧ピストンのような周知の駆動力発生装置40と、駆動力発生装置40で発生した駆動力により軸方向に進退するアーム41とを有し、アーム41の先端が可動ハウジング25に固定されている。これにより、駆動手段26は、アーム41を介して駆動力発生装置40の駆動力を可動ハウジング25に伝達し、可動ハウジング25を軸方向に駆動する。
軸回転数検出手段27は、例えば、電磁ピックアップ式の周知の回転数センサである。
【0051】
制御手段28は、制御処理、演算処理を行うCPU、各種プログラムや各種データを保存する記憶装置、入力回路、出力回路等の機能を含んで構成される周知構造のマイクロコンピュータであり、軸回転数検出手段27等の各種検出手段から入力される検出値に応じて駆動手段26の動作を制御し、可動ハウジング25を目標とする位置に移動させる。
【0052】
以下、制御手段28による可動ハウジング25の位置制御を説明する。
可動ハウジング25の位置制御は、軸回転数検出手段27による検出値に応じて外周側クリアランス11の大きさが変化するように、可動ハウジング25をタービン側、コンプレッサ側ブッシュ9T、9Cに対して軸方向に相対的に変位させるものである。
【0053】
すなわち、制御手段28は、軸回転数検出手段27による検出値が所定の範囲α内にある場合(図5参照。)、回転軸2においてホワール振動が発生する虞が高いものとみなし、外周側クリアランス11T、11Cが大きくなる位置に可動ハウジング25を変位させ、ホワール振動に起因する振れ回り発生の虞を低減する。また、制御手段28は、軸回転数検出手段27による検出値が範囲α外にある場合、回転軸2においてホワール振動が発生する虞が低いものとみなし、外周側クリアランス11T、11Cが小さくなる位置に可動ハウジング25を変位させ、外周側クリアランス11T、11Cが大きいことに起因する振れ回り発生の虞を低減する。
【0054】
つまり、制御手段28は、軸回転数検出手段27による検出値が範囲α内にある場合に、ブッシュ9の外周面が凹部31T、31Cの外周底面33と径方向に対向するように可動ハウジング25を一端側に変位させ(図4参照。)、軸回転数検出手段27による検出値が範囲α外にある場合に、ブッシュ9の外周面が凸部32T、32Cの内周頂面34と径方向に対向するように可動ハウジング25を他端側に変位させる(図1、図2参照。)。
【0055】
ここで、ホワール振動の振動数は、回転軸2を含む軸系に固有の数値(以下、ホワール振動数と呼ぶ。)になるので、ホワール振動は、回転軸2の回転数がホワール振動数に近い範囲で顕著になる。
【0056】
すなわち、回転軸2の回転数がホワール振動数に略一致している場合、例えば、回転軸2の回転角に関する時系列データをフーリエ変換することで得られる回転数特性は、図5の特生線Laに示すように、ホワール振動数で大きなピークを示すものとなる。また、回転軸2の回転数がホワール振動数よりも相当に大きい数値(以下、有意大側回転数と呼ぶ。)である場合、同様の回転数特性は、図5の特生線Lbに示すように、有意大側回転数でピークを示すものの、ピークの高さは特性線Laのホワール振動数におけるピークほど高くならない。
【0057】
そこで、例えば、ホワール振動数を中心として+側および−側に同じ回転数幅となるように範囲αを設定し、軸回転数検出手段27による検出値が範囲α内にある場合、回転軸2においてホワール振動が発生する虞が高いものとみなし、ホワール振動に起因する振れ回り発生の虞を低減する。また、軸回転数検出手段27による検出値が範囲α外にある場合、回転軸2においてホワール振動が発生する虞が低いものとみなし、外周側クリアランス11が大きいことに起因する振れ回り発生の虞を低減する。
【0058】
〔実施例の効果〕
実施例のターボチャージャー1は、回転軸2を軸受けするブッシュ9と、ブッシュ9の外周側でブッシュ9を環状に包囲する筒体であって軸方向に可動である可動ハウジング25と、可動ハウジング25を駆動してブッシュ9に対し軸方向に相対的に変位させる駆動手段26とを備える。また、ブッシュ9の外周面と可動ハウジング25の内周面との間には外周側クリアランス11が形成されてオイルが供給され、外周側クリアランス11は、可動ハウジング25のブッシュ9に対する相対的な位置に応じて変化する。
【0059】
これにより、ホワール振動が発生する虞が高いか否かに応じて、外周側クリアランス11を変化させることができる。すなわち、ホワール振動が発生する虞が高いときには、外周側クリアランス11が大きくなるように可動ハウジング25を位置取りさせてホワール振動に起因する振れ回り発生の虞を低減することができる。
【0060】
また、ホワール振動が発生する虞が低いときには、外周側クリアランス11が小さくなるように可動ハウジング25を位置取りさせて、外周側クリアランス11が大きいことに起因する振れ回り発生の虞を低減することができる。
このため、ターボチャージャー1のジャーナル軸受け5において、回転軸2の振れ回りを抑制することができる。
【0061】
また、ブッシュ9は、軸方向に関してタービン3に近いタービン側ブッシュ9Tと、軸方向に関してコンプレッサ4に近いコンプレッサ側ブッシュ9Cとに分かれており、外周側クリアランス11は、可動ハウジング25とタービン側ブッシュ9Tとの間で形成されるタービン側クリアランス11Tと、可動ハウジング25とコンプレッサ側ブッシュ9Cとの間で形成されるコンプレッサ側クリアランス11Cとに分かれている。
【0062】
そして、タービン側クリアランス11Tおよびコンプレッサ側クリアランス11Cは、可動ハウジング25のタービン側ブッシュ9Tおよびコンプレッサ側ブッシュ9Cに対する相対的な位置に応じて変化する。
これにより、ジャーナル軸受け5におけるすべり面を低減することができるので、焼付回避に対する信頼性を高めることができる。
【0063】
また、可動ハウジング25において軸方向に隣り合う凹部31T、31Cと凸部32T、32Cに関し、凹部31T、31Cの外周底面33と凸部32T、32Cの内周頂面34とを軸方向に接続する段面35は傾斜している。
これにより、ブッシュ9の角部が可動ハウジング25の変位に干渉する虞を低減することができる。
【0064】
また、凹部31Tの外周底面33、凸部32Tの内周頂面34、凹部31Cの外周底面33および凸部32Cの内周頂面34には、それぞれ油路12d〜12gが開口しており、油路12d、12eおよび油路12f、12gは、それぞれ、タービン側、コンプレッサ側クリアランス11T、11Cにオイルを導く。
これにより、タービン側、コンプレッサ側クリアランス11T、11Cに確実にオイルを供給することができる。
【0065】
さらに、ターボチャージャー1は、回転軸2の回転数を検出する軸回転数検出手段27と、軸回転数検出手段27による検出値がホワール振動数を含む範囲α内にある場合に、ブッシュ9の外周面が凹部31T、31Cと径方向に対向するように駆動手段26を動作させる制御手段28とを備える。
ホワール振動は、回転軸2の回転数がホワール振動数に近い範囲で顕著になる。
そこで、回転軸2の回転数の検出値が範囲α内にあるときに、ホワール振動を抑制することができるようにタービン側、コンプレッサ側クリアランス11T、11Cを大きくする。
【0066】
これにより、ホワール振動が顕著に現れているか否かを判断するために、例えば、高速フーリエ変換等の煩雑な処理を制御周期ごとに行なう必要がなくなるので、簡便にホワール振動が顕著に現れているか否かを判断して駆動手段26を制御することができる。
【0067】
〔変形例〕
ターボチャージャー1の態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例のターボチャージャー1によれば、ブッシュ9は、タービン側、コンプレッサ側ブッシュ9T、9Cに分かれており、外周側クリアランス11も、タービン側、コンプレッサ側クリアランス11T、11Cに分かれていたが、タービン側、コンプレッサ側に分かれていない1つのブッシュ9を用いてもよく、外周側クリアランス11もタービン側、コンプレッサ側に分けることなく1つとしてもよい。
【0068】
また、実施例のターボチャージャー1によれば、制御手段28は、軸回転数検出手段27による検出値が範囲α内にあるか否かに応じて、外周側クリアランス11が変化するように駆動手段26を動作させていたが、例えば、回転軸2の回転角に関する時系列データに基づき制御周期ごとにフーリエ変換を行って回転数特性を求め、振動レベルのホワール振動数における数値が閾値を超えているか否かに基づいて駆動手段26を動作させてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1 ターボチャージャー
2 回転軸
3 タービン
4 コンプレッサ
9 ブッシュ
9T タービン側ブッシュ
9C コンプレッサ側ブッシュ
11 外周側クリアランス(クリアランス)
11T タービン側クリアランス
11C コンプレッサ側クリアランス
12、12d〜12g 油路
25 可動ハウジング
26 駆動手段
27 軸回転数検出手段
28 制御手段
31T、31C 凹部
32T、32C 凸部
33 外周底面
34 内周頂面
35 段面
α 範囲(所定の範囲)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスにより回転するタービンと吸入空気を圧縮するコンプレッサとを連結する回転軸を軸受けするブッシュと、
このブッシュの外周側で前記ブッシュを環状に包囲する筒体であって軸方向に可動である可動ハウジングと、
この可動ハウジングを駆動して前記ブッシュに対し軸方向に相対的に変位させる駆動手段とを備え、
前記ブッシュの外周面と前記可動ハウジングの内周面との間にはクリアランスが形成されてオイルが供給され、
前記クリアランスは、前記可動ハウジングの前記ブッシュに対する相対的な位置に応じて変化することを特徴とするターボチャージャー。
【請求項2】
請求項1に記載のターボチャージャーにおいて、
前記ブッシュは、軸方向に関して前記タービンに近いタービン側ブッシュと、軸方向に関して前記コンプレッサに近いコンプレッサ側ブッシュとに分かれており、
前記クリアランスは、前記可動ハウジングと前記タービン側ブッシュとの間で形成されるタービン側クリアランスと、前記可動ハウジングと前記コンプレッサ側ブッシュとの間で形成されるコンプレッサ側クリアランスとに分かれており、
前記タービン側クリアランスおよび前記コンプレッサ側クリアランスは、前記可動ハウジングの前記タービン側ブッシュおよび前記コンプレッサ側ブッシュに対する相対的な位置に応じて変化することを特徴とするターボチャージャー。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のターボチャージャーにおいて、
前記可動ハウジングの内周面には外周側に窪む凹部と内周側に突出する凸部とが軸方向に交互に設けられ、
前記クリアランスは、前記ブッシュの外周面が前記凹部と径方向に対向することで大きくなり、前記ブッシュの外周面が前記凸部と径方向に対向することで小さくなることを特徴とするターボチャージャー。
【請求項4】
請求項3に記載のターボチャージャーにおいて、
軸方向に隣り合う前記凹部と前記凸部に関し、前記凹部の外周底面と前記凸部の内周頂面とを軸方向に接続する段面は傾斜していることを特徴とするターボチャージャー。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載のターボチャージャーにおいて、
前記凹部の外周底面および前記凸部の内周頂面には、それぞれ、前記クリアランスにオイルを導く油路が開口していることを特徴とするターボチャージャー。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5の内のいずれか1つに記載のターボチャージャーにおいて、
前記回転軸の単位時間当たりの回転回数を検出する軸回転数検出手段と、
この軸回転数検出手段による検出値が所定の範囲内にある場合に、前記ブッシュの外周面が前記凹部と径方向に対向するように前記駆動手段を動作させる制御手段とを備えるターボチャージャー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−2312(P2013−2312A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−131770(P2011−131770)
【出願日】平成23年6月14日(2011.6.14)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】