説明

ターボ圧縮機

【課題】圧縮できる最大流量を維持したまま、効率を悪化させることなく小流量側へ作動域を拡大でき、これにより広い流量範囲で作動可能なターボ圧縮機を提供する。
【解決手段】軸心を中心に回転する動翼列12aを有する軸流圧縮機12と、軸流圧縮機の下流側に同軸に配置され軸心を中心に回転する遠心インペラ14aを有する遠心圧縮機14と、軸流圧縮機の動翼列と遠心圧縮機の遠心インペラを囲みその内側に気体の流路15を構成するケーシング16と、動翼列の上流側と下流側のケーシング内面を直接連通する循環流路18と、を備える。循環流路18の上流端18aは、遠心インペラ14aより上流側であって、静圧が動翼列12a及び遠心インペラ14aの位置より高い位置に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸流圧縮機と遠心圧縮機を組み合わせたターボ圧縮機に係わり、さらに詳しくは、ケーシングトリートメントを備えたターボ圧縮機に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ圧縮機(軸流圧縮機と遠心圧縮機)の小流量側の作動域を拡大する手段として、循環型のケーシングトリートメントが提案され、既に用いられている(例えば、特許文献1〜4)。
【0003】
特許文献1,2は、遠心圧縮機に関するものであり、インペラが位置するケーシングに設置されたスリットから気体を抽気してインペラの上流側に気体を循環させるものである。
特許文献3は、軸流圧縮機に関するものであり、インペラが位置するケーシングに周方向に延びるスリットを設け、このスリット内で気体を循環させるものである。
特許文献4は、軸流圧縮機に関するものであり、インペラが位置するケーシングに設置されたスリットから気体を抽気してインペラの上流側に気体を循環させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−209858号公報、「遠心圧縮機」
【特許文献2】米国特許第4,743,161号公報、「COMPRESSORS」
【特許文献3】米国特許第5,707,206号公報、「TURBOMACHINE」
【特許文献4】米国特許第5,607,284号公報、「BAFFLED PASSAGE CASING TREATMENT FOR COMPRESSOR BLADES」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
軸流圧縮機の下流側に遠心圧縮機を組み合わせ、軸流圧縮機で圧縮した気体を再度遠心圧縮機で圧縮して高圧縮比を達成するターボ圧縮機の開発が進められている。
【0006】
このターボ圧縮機において、上述した従来のケーシングトリートメントを適用した場合、以下の問題点があった。
【0007】
従来のケーシングトリートメントでは、気体の抽気位置は、遠心圧縮機のインペラの中間位置、又は軸流圧縮機のインペラの中間位置である。しかし、これらの抽気位置は、軸流圧縮機の上流側との差圧が低いため、抽気流量が少ない。その結果、小流量側作動域への拡大が困難であり、かつ小流量時における効率が悪化する。
また、上述した従来のケーシングトリートメントでは、抽気が常時行われるため、最大流量側では効率が悪化するおそれがある。
【0008】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、圧縮できる最大流量を維持したまま、効率を悪化させることなく小流量側へ作動域を拡大でき、これにより広い流量範囲で作動可能なターボ圧縮機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、軸心を中心に回転する動翼列を有する軸流圧縮機と、
該軸流圧縮機の下流側に同軸に配置され前記軸心を中心に回転する遠心インペラを有する遠心圧縮機と、
前記軸流圧縮機の動翼列と遠心圧縮機の遠心インペラを囲みその内側に気体の流路を構成するケーシングと、
前記動翼列の上流側と下流側のケーシング内面を直接連通する循環流路と、を備え、
前記循環流路の上流端は、前記遠心インペラより上流側であって、静圧が動翼列及び遠心インペラの位置より高い位置に設定されている、ことを特徴とするターボ圧縮機が提供される。
【0010】
本発明の実施形態によれば、前記軸流圧縮機は前記動翼列の下流側に回転しない静翼列を有しており、
前記循環流路の上流端は、前記静翼列の位置である。
【0011】
本発明の実施形態によれば、ターボ圧縮機は、前記循環流路を全開又は全閉に択一的に切換可能な流路開閉装置を備える。
【0012】
本発明の別の実施形態によると、ターボ圧縮機は、前記循環流路を流れる気体の流量を連続的に制御可能な循環量制御装置を備える。

【発明の効果】
【0013】
上記本発明の構成によれば、循環流路の上流端(抽気位置)が、遠心インペラより上流側であって、静圧が動翼列及び遠心インペラの位置より高い位置に設定されているので、軸流圧縮機の上流側との差圧が大きいため、大量の気体を抽気することができる。
その結果、実際に流入する気体流量が減少した場合でも、抽気流量に相当する分、圧縮機インペラへと流入する見かけの流量が増加もしくは維持されるため、効率を悪化させることなく小流量側へ作動域を拡大することができる。

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機の全体構成図である。
【図2】本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機の静圧分布図である。
【図3】従来のターボ圧縮機における流量と圧力比及び効率との関係図である。
【図4】本発明の第1実施形態のターボ圧縮機における流量と圧力比及び効率との関係図である。
【図5】本発明の第2実施形態によるターボ圧縮機の全体構成図である。
【図6】図5のA−A断面図である。
【図7】本発明の第2実施形態のターボ圧縮機における流量と圧力比及び効率との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通または対応する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機の全体構成図である。
この図において、本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機10は、軸流圧縮機12、遠心圧縮機14、ケーシング16、循環流路18、及び流路開閉装置20を備える。
本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機10は、例えば空気を圧縮する過給機用の圧縮機であるが、本発明はこれに限定されず、その他の圧縮機であってもよい。
【0017】
軸流圧縮機12は、軸心Z−Zを中心に回転する動翼列12aと、動翼列12aの下流側(図で右側)で回転しない静翼列12bとを有する。この例において、軸流圧縮機12は、1列の動翼列12aと1列の静翼列12bからなる単段の軸流圧縮機であるが、本発明はこれに限定されず、複数の動翼列12aと静翼列12bからなる多段の軸流圧縮機であってもよい。
【0018】
遠心圧縮機14は、軸流圧縮機12の下流側(図で右側)に軸流圧縮機12と同軸に配置されており、同一の軸心Z−Zを中心に回転する遠心インペラ14aを有する。
軸流圧縮機12と遠心圧縮機14の回転軸(図示せず)は、同一でも別軸でもよい。別軸の場合、それぞれの回転速度は、同一でも相違してもよい。
【0019】
ケーシング16は、軸流圧縮機12の動翼列12a及び静翼列12bと遠心圧縮機14の遠心インペラ14aを囲み、その内側に気体1の流路15を構成する。
気体1は、例えば空気であるが、その他の気体(排気ガス、窒素ガス、等)であってもよい。
流路15は、ケーシング16の内面16aと動翼列12aが取り付けられたロータ13との間、及びケーシング16の内面16aと遠心インペラ14aの翼部が取り付けられたコーン部17との間の空間である。流路15の断面形状は、ドーナツ形状(中空円形)である。
【0020】
上述した構成により、本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機10は、前方から吸入した低圧の気体1を軸流圧縮機12で圧縮して中圧の気体2とし、これを再度遠心圧縮機14で圧縮して更に圧力の高い高圧の気体3として、外部に送出するようになっている。従って、軸流圧縮機12と遠心圧縮機14により高い圧縮比を達成することができる。
【0021】
図1において、循環流路18は、動翼列12aの上流側(図で左側)と下流側(図で右側)のケーシング内面を直接連通する流路である。
循環流路18の上流端18aは、動翼列12aの下流側に位置するケーシング内面に開口しており、循環流路18の下流端18bは、動翼列12aの上流側に位置するケーシング内面に開口している。上流端18aと下流端18bを結ぶ循環流路18の中間部分18cはケーシング16の内面16aより外側に設けられている。
【0022】
循環流路18の上流端18a及び下流端18bのケーシング16の内面16aへの開口形状は、周方向に連続的又は断続的に延びる1又は複数のスリット形状であるのが好ましい。
また、中間部分18cの軸心Z−Zに直交する断面形状は、上流端18aから下流端18bまでの圧力損失を低くできる限りで任意であり、1又は複数の円形、矩形、円弧形状、その他であってもよい。
【0023】
流路開閉装置20は、循環流路18を全開又は全閉に択一的に切換可能に構成されている。
この例において、流路開閉装置20は、循環流路18の中間部分18cにおいて軸方向に移動可能な弁部材20aと、弁部材20aを軸方向に移動させるアクチュエータ20bとからなる。アクチュエータ20bは、弁部材20aを下流端18bへの分岐位置(全閉位置)と分岐位置より外側(全開位置)とのいずれかに位置決めするようになっている。
【0024】
なお、循環流路18の開閉位置は、下流端18bへの分岐位置に限定されず、上流端18aの近傍でも、中間部分18cでもよい。
【0025】
上述した流路開閉装置20により、弁部材20aを全開位置又は全閉位置に移動することにより、循環流路18を全開又は全閉に択一的に切換えることができる。
【0026】
図2は、本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機の静圧分布図である。
この図において、横軸は遠心インペラ14aの下流端を基準とする軸方向位置、縦軸は回転中心(Z−Z軸)からの半径方向距離と入口側圧力を基準とする静圧比である。
図中のターボ圧縮機10は、回転中心(Z−Z軸)の上半分を示している。
また、ターボ圧縮機10の上部に示す曲線は、循環流路18がない場合のターボ圧縮機10の各部に対応する静圧比である。
さらに、図中のA1,A2,A3,A4は、それぞれ動翼列12aの上流側、動翼列12aの位置、静翼列12bの位置、及び遠心インペラ14aの上流側における静圧を示している。なおこの静圧分布図は、所定の条件におけるシミュレーション結果である。
【0027】
本発明の第1実施形態によれば、循環流路18の上流端18aは、遠心圧縮機14の遠心インペラ14aより上流側であって、静圧が動翼列12a及び遠心インペラ14aの位置より高い位置に設定されている。
すなわち図2の例において、循環流路18の上流端18aは、A3に相当する静翼列18bの位置に設定されている。
【0028】
この構成により、気体の抽気位置を、遠心インペラ14aの中間位置(A4)又は動翼列12aの中間位置(A2)とする従来のケーシングトリートメントと比較して、本発明の第1実施形態における気体の抽気位置(A3)の静圧が高く、動翼列12aの上流側(A1)との差圧が大きいため、大量の気体を抽気することができる。
【0029】
図3は、従来のターボ圧縮機における流量と圧力比及び効率との関係図である。
この図において、横軸は流量、縦軸は圧力比と効率である。また、図中の実線は、循環流路(すなわちケーシングトリートメント)がない場合、破線は循環流路がある場合である。
さらに、図中のB1は最大回転速度における特性、B2は最小回転速度における特性、B3はその中間速度における特性、B4はサージラインを示している。すなわち、循環流路がない場合、従来のターボ圧縮機はB1,B2,B4で囲まれる領域が作動領域であることを模式的に示している。
【0030】
図3において、循環流路がある場合、実際に流入する気体流量が減少した場合でも、抽気流量に相当する分、圧縮機インペラへと流入する見かけの流量が増加もしくは維持されるため、図中に破線で示すように、B1,B2,B4の線が小流量側へ移動する。
しかし、上述したように従来の抽気位置は、軸流圧縮機の上流側との差圧が低いため、抽気流量が少なく、小流量側作動域への移動が少ない。
また、従来のケーシングトリートメントでは、抽気が常時行われるため、抽気流量に相当する分、圧縮できる最大流量が減少する場合がある。
【0031】
図4は、本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機における流量と圧力比及び効率との関係図である。
この図において、図中の実線は循環流路18が全閉の場合、破線は循環流路18が全開の場合である。全閉の場合、図3の従来例の循環流路(すなわちケーシングトリートメント)がない場合と一致する。
なお、図3と同様に、図中のB1は最大回転速度における特性、B2は最小回転速度における特性、B3はその中間速度における特性、B4はサージラインを示している。すなわち、循環流路がない場合、本発明の第1実施形態によるターボ圧縮機10はB1,B2,B4で囲まれる領域が作動領域であることを模式的に示している。
【0032】
図4において、循環流路が全開の場合、実際に流入する気体流量が減少した場合でも、抽気流量に相当する分、圧縮機インペラへと流入する見かけの流量が増加もしくは維持されるため、図中に破線で示すように、B1,B2,B4の線が小流量側へ移動する。
この場合、本発明の第1実施形態では、図2に示したように、循環流路18の上流端18a(抽気位置)が、静圧が動翼列12a及び遠心インペラ14aの位置より高い位置(A3)に設定されているので、軸流圧縮機12の上流側(A1)との差圧が大きいため、大量の気体を抽気することができる。
その結果、本発明の第1実施形態では、小流量側へ作動域を拡大することができる。
【0033】
また、本発明の第1実施形態では、循環流路18を全開又は全閉に択一的に切換可能な流路開閉装置20を備えているので、循環流路18を全開すれば、上述したように小流量側へ作動域を拡大することができ、循環流路18を全閉すれば、抽気のない場合に圧縮できる最大流量を維持することができる。
従って、流路開閉装置20を必要に応じて作動させることにより、圧縮できる最大流量を維持したまま、小流量側へ作動域を拡大できる。
【0034】
図3、図4において図中の折線Cは、エンジン作動条件における流量と圧力比の関係を模式的に示している。
折線Cの折曲がり位置C1における効率は、図3と図4の比較から、図4の方が高いことがわかる。
【0035】
この理由は、従来のケーシングトリートメントでは、循環流路を流れる気体の流量が少なく、圧縮機インペラへと流入する見かけの流量増加は限定的となるため、結果として効率を維持できないまま小流量側へ作動域が拡大されていると考えられる。
これに対し、本発明の第1実施形態では、循環流路を流れる気体の流量が多く、圧縮機インペラへと流入する見かけの流量を増加させることが可能となり、効率がほとんど低下しないものと考えられる。
【0036】
上述したように、本発明の第1実施形態では、軸流圧縮機12を遠心圧縮機14と組み合わせ、かつ、より静圧の高くなる軸流段静翼部から抽気を行うことで循環流路18内の循環流量を増加させることができる。
その結果、見かけ上の流量が増加し、圧縮機の作動域全体が小流量側へシフトする。さらに循環流路18を流路開閉装置20によって制御することにより、広範囲で作動可能なターボ圧縮機10が実現可能となる。
【0037】
(第2実施形態)
図5は、本発明の第2実施形態によるターボ圧縮機の全体構成図である。
この図において、第2実施形態のターボ圧縮機10は、軸流圧縮機12、遠心圧縮機14、ケーシング16、循環流路18、及び循環量制御装置20を備える。
以下において、主に、上述した第1実施形態によるターボ圧縮機10を異なる点(構成や作用など)について、第2実施形態によるターボ圧縮機10を説明する。
以下において、第2実施形態によるターボ圧縮機10について説明しない点(構成や作用など)は、上述の第1実施形態と同じである。
【0038】
循環流路18は、以下のように、第1実施形態の場合と共通する構成と異なる構成をする。
【0039】
循環流路18が第1実施形態の場合と共通する構成は、次の通りである。
【0040】
図5において、循環流路18は、動翼列12aの上流側(図で左側)と下流側(図で右側)のケーシング内面16aを直接連通する流路である。
循環流路18の上流端18aは、動翼列12aの下流側に位置するケーシング内面16aに開口しており、循環流路18の下流端18bは、動翼列12aの上流側に位置するケーシング内面16aに開口している。上流端18aと下流端18bを結ぶ循環流路18の中間部分18cはケーシング16の内面16aより外側に設けられている。
【0041】
循環流路18の上流端18a及び下流端18bのケーシング16の内面16aへの開口形状は、周方向に連続的又は断続的に延びる1又は複数のスリット形状であるのが好ましい。
【0042】
循環流路18が第1実施形態の場合と異なる構成は、次の通りである。
【0043】
図6は、図5のA−A断面図である。
図5、図6に示すように、循環流路18の中間部分18cの少なくとも一部は、その外面19a及び内面19bが軸心Z−Z上の点Oを中心とする球面形状になっている。この例において、外面19aは点Oを中心とする半径R1の球面の一部であり、内面19bは点Oを中心とする半径R2の球面の一部である。
【0044】
従って、この部分において、循環流路18の点Oを通る平面での断面形状は、点Oを中心とする中空円形となる。しかし、本発明は、中空円形の断面形状に限定されず、その一部が分割された円弧形状であってもよい。
【0045】
第2実施形態では、流路開閉装置20の代わりに、循環量制御装置20が設けられる。
【0046】
循環量制御装置20は、循環流路18を流れる気体の流量を連続的に制御できるように構成されている。
この例において、循環量制御装置20は、前記球面形状の外面19a及び内面19bに沿って円弧状に延びる複数のベーン20aと、Z−Z上の点Oを通る揺動軸21を中心に複数のベーン20aを揺動させるアクチュエータ20bとからなる。なお、各ベーン20aは、軸心Z−Zと平行な方向においても、当該方向と直交する方向においても、前記球面形状の外面19a及び内面19bに沿って延びる。従って、各ベーン20aにおいて、外面19aと対向する面、および内面19bと対向する面は、それぞれ球面の一部を構成する。
複数のベーン20aの揺動は、同期するのが好ましい。また、この同期を達成するために、複数の揺動軸21を同期させる同期機構を用いるのが好ましい。また各揺動軸21をそれぞれ別のアクチュエータ20bで同期させてもよい。
【0047】
ベーン20aの気体の流れに沿った断面形状は、この例では平板であるが、翼形であるのが好ましく、その他の形状であってもよい。
【0048】
また、図6において、複数のベーン20aは、周方向に30度ピッチで12枚設けられ、それぞれ揺動軸21を中心に揺動して、循環流路18の中空円形流路を全閉できるようになっている。さらに全閉から揺動軸21を90度揺動させることにより、循環流路18を全開することができる。
従って、この構成により、循環流路18の流量を全閉から全開まで制御することができる。
なお、本発明は、この構成に限定されず、循環流路18の流量を連続的に制御できればよい。
【0049】
また、上述した複数のベーン20aは、揺動軸21を中心に揺動して流量を連続的に制御するため、ベーン20aを通過した気体は、ベーンの向きにより、軸心Z−Zを中心とする旋回(スワール)が付加される。
このスワールの方向は、圧縮機の回転方向と同じ順スワールでも、圧縮機の回転方向と逆向きの逆スワールでもよい。また、このスワールにより、動翼列12aに流入する気体全体のスワールを制御し、効率を高めてもよい。
【0050】
上述した循環量制御装置20により、複数のベーン20aを同期して揺動することにより、循環流路18を流れる気体の流量を連続的に制御することができる。
【0051】
本発明の第2実施形態によれば、循環流路18の上流端18aは、第1実施形態と同様に、遠心圧縮機14の遠心インペラ14aより上流側であって、静圧が動翼列12a及び遠心インペラ14aの位置より高い位置に設定されている。
すなわち図2の例において、循環流路18の上流端18aは、A3に相当する静翼列12bの位置に設定されている。
【0052】
この構成により、気体の抽気位置を、遠心インペラ14aの中間位置(A4)又は動翼列12aの中間位置(A2)とする従来のケーシングトリートメントと比較して、本発明の第2実施形態における気体の抽気位置(A3)の静圧が高く、動翼列12aの上流側(A1)との差圧が大きいため、大量の気体を抽気することができる。
【0053】
図7は、本発明の第2実施形態によるターボ圧縮機における流量と圧力比及び効率との関係図である。
この図において、図中の太い実線は循環流路18が全閉の場合、破線は循環流路18が全開の場合である。全閉の場合、図3の従来例の循環流路(すなわちケーシングトリートメント)がない場合と一致する。また、細い実線は、全閉と全開の中間位置、すなわち循環流路18を流れる流量が最大と最小の中間流量の場合である。
【0054】
なお、図3と同様に、図中のB1は最大回転速度における特性、B2は最小回転速度における特性、B3はその中間速度における特性、B4はサージラインを示している。すなわち、循環流路がない場合、本発明の第2実施形態によるターボ圧縮機10はB1,B2,B4で囲まれる領域が作動領域であることを模式的に示している。
【0055】
図7において、循環流路が全開の場合、実際に流入する気体流量が減少した場合でも、抽気流量に相当する分、圧縮機インペラへと流入する見かけの流量が増加もしくは維持されるため、図中に破線で示すように、B1,B2,B4の線が小流量側へ移動する。
この場合、本発明の第2実施形態では、図2に示したように、循環流路18の上流端18a(抽気位置)が、静圧が動翼列12a及び遠心インペラ14aの位置より高い位置(A3)に設定されているので、軸流圧縮機12の上流側(A1)との差圧が大きいため、大量の気体を抽気することができる。
その結果、本発明の第2実施形態では、小流量側へ作動域を拡大することができる。
【0056】
また、本発明の第2実施形態では、循環流路18を流れる気体の流量を連続的に制御可能な循環量制御装置20を備えているので、循環流路18の流量を増加させれば、上述したように小流量側へ作動域を拡大することができ、循環流路18の流量を減少させてゼロにすれば、抽気のない場合に圧縮できる最大流量を維持することができる。さらに、図7で細い実線で示したように、循環流路18の流量を中間流量で運転することもできる。
従って、循環量制御装置20により循環流路18の流量を制御することにより、圧縮できる最大流量を維持したまま、効率を悪化させることなく小流量側へ作動域を拡大できる。
【0057】
図3、図7において図中の折線Cは、エンジン作動条件における流量と圧力比の関係を模式的に示している。
折線Cの折曲がり位置C1における効率は、図3と図7の比較から、図7の方が高いことがわかる。
【0058】
この理由は、従来のケーシングトリートメントでは、循環流路を流れる気体の流量が少なく、圧縮機インペラへと流入する見かけの流量増加は限定的となるため、結果として効率を維持できないまま小流量側へ作動域が拡大されていると考えられる。
これに対し、本発明の第2実施形態では、循環流路を流れる気体の流量が多く、圧縮機インペラへと流入する見かけの流量を増加させることが可能となり、効率がほとんど低下しないものと考えられる。
【0059】
上述したように、本発明の第2実施形態では、軸流圧縮機12を遠心圧縮機14と組み合わせ、かつ、より静圧の高くなる軸流段静翼部から抽気を行うことで循環流路18内の循環流量を増加させることができる。
その結果、見かけ上の流量が増加し、圧縮機の作動域全体が小流量側へシフトする。さらに循環流路18の流量を循環量制御装置20によって連続的に制御することにより、広範囲で作動可能なターボ圧縮機10が実現可能となる。
【0060】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。
【符号の説明】
【0061】
1 低圧の気体、2 中圧の気体、3 高圧の気体、
10 ターボ圧縮機、12 軸流圧縮機、
12a 動翼列、12b 静翼列、13 ロータ、
14 遠心圧縮機、14a 遠心インペラ、
15 流路、16 ケーシング、16a 内面、
17 コーン部、18 循環流路、
18a 上流端、18b 下流端、18c 中間部分、
20 流路開閉装置、循環量制御装置 20a 弁部材、ベーン、20b アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸心を中心に回転する動翼列を有する軸流圧縮機と、
該軸流圧縮機の下流側に同軸に配置され前記軸心を中心に回転する遠心インペラを有する遠心圧縮機と、
前記軸流圧縮機の動翼列と遠心圧縮機の遠心インペラを囲みその内側に気体の流路を構成するケーシングと、
前記動翼列の上流側と下流側のケーシング内面を直接連通する循環流路と、を備え、
前記循環流路の上流端は、前記遠心インペラより上流側であって、静圧が動翼列及び遠心インペラの位置より高い位置に設定されている、ことを特徴とするターボ圧縮機。
【請求項2】
前記軸流圧縮機は前記動翼列の下流側に回転しない静翼列を有しており、
前記循環流路の上流端は、前記静翼列の位置である、ことを特徴とする請求項1に記載のターボ圧縮機。
【請求項3】
前記循環流路を全開又は全閉に択一的に切換可能な流路開閉装置を備える、ことを特徴とする請求項1または2に記載のターボ圧縮機。
【請求項4】
前記循環流路を流れる気体の流量を連続的に制御可能な循環量制御装置を備える、ことを特徴とする請求項1または2に記載のターボ圧縮機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−41826(P2012−41826A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181550(P2010−181550)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】