説明

ターボ機械装置用コンプライアントプレートシール

【課題】 回転軸と固定シェルとの間の漏れを低減する軸シールを提供する。
【解決手段】 軸シール(10)は、回転軸(12)と固定シェル(15)との間の漏れを減少するように機能する。軸シールは複数のコンプライアントプレート部材(16)を含み、各コンプライアントプレート部材は根元部及び先端部を有する。コンプライアントプレート部材は、根元部において、固定シェルに対して対面する関係で固定シェルに固着される。コンプライアントプレート部材の先端部は、固定シェルと回転軸との間に密封リングを規定する。コンプライアントプレート部材の中に軸流抵抗部材(17)が配置され、軸流抵抗部材は、コンプライアントプレート部材の相互間の軸方向漏れ流れに対して障壁として作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転構成要素と固定構成要素との間の密封構造に関し、特に、ラビリンスシールの特徴を追加利用するコンプライアントプレートシール構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ターボ機械装置においては、回転子(例えば、回転軸)と固定子(例えば、固定シェル又はケーシング)との間の動的密封は重要な問題である。これまでに、いくつかの密封方法が提案された。特に、リーフシール、ブラシシール、フィンガシール、シムシールなどとして説明されるシールを含めて、可撓性部材に基づく密封が利用されてきた。
【0003】
ブラシシールは、互いに密に詰め込まれたほぼ円筒形の剛毛から構成される。それらの剛毛はジグザグ状に配列されることにより、漏れを防止する上で効果を発揮する。剛毛の半径方向のこわさは低いため、回転子が偏移運動を起こした場合には経路を外れて動くことができ、その一方で、定常状態動作中は密な空隙を維持する。しかし、ブラシシールは、シールの両側の圧力差があるレベルを超えると有効性を失う。剛毛はほぼ円筒形の形状であるので、ブラシシールの軸方向のこわさは低くなる傾向がある。そのため、ブラシシールの最大動作可能圧力差は、一般に、1,000psi未満に限定される。
【0004】
この問題を克服するために、軸方向こわさがブラシシールより高く、従って、大きな圧力差に対応する能力を有する板状構造を含むリーフシールが提案された(従来のリーフシールの一例が図1の左側に示される)。しかし、リーフシールの幾何学的形状の関係で、軸方向漏れの問題は依然として解決されていない。すなわち、リーフが回転子に近接して互いに密に詰め込まれた場合、シールが湾曲しているために、リーフの根元部に間隙が形成される。この間隙は、漏れを発生させる可能性があり、その結果、シールの利点を相殺してしまう。
【特許文献1】米国特許第5,135,237号公報
【特許文献2】米国特許第5,474,306号公報
【特許文献3】米国特許第5,749,584号公報
【特許文献4】米国特許第5,755,445号公報
【特許文献5】米国特許第6,010,132号公報
【特許文献6】米国特許第6,257,586号公報
【特許文献7】米国特許第6,343,792号公報
【特許文献8】米国特許第6,428,009号公報
【特許文献9】米国特許第6,644,667号公報
【特許文献10】米国特許出願公開第2003/0062686号
【発明の開示】
【0005】
本発明の一実施形態においては、軸シールは、回転軸と固定シェルとの間の漏れを減少する。軸シールは、固定シェルに対して対面する関係で固定シェルに装着された複数のコンプライアントプレート部材を含み、コンプライアントプレート部材は、固定シェルと回転軸との間に密封リングを規定する。各コンプライアントプレート部材は、少なくとも1つの溝穴を含む。軸シールは、固定シェルに装着され且つコンプライアントプレート部材の少なくとも1つの溝穴の中へ半径方向に延出する少なくとも1つの固定リングを更に含む。
【0006】
本発明の別の実施形態においては、軸シールは、各々が根元部及び先端部を有する複数のコンプライアントプレート部材を含み、コンプライアントプレート部材は、根元部において、固定シェルに対して対面する関係で固定シェルに固着される。コンプライアントプレート部材の先端部は、回転軸の周囲に沿って配列される。コンプライアントプレート部材の中に軸流抵抗部材が配置され、軸流抵抗部材は、コンプライアントプレート部材の相互間の軸方向漏れ流れに対して障壁として作用する。
【0007】
本発明の更に別の実施形態においては、軸シールは固定子に対して対面する関係で固定子に装着された複数のコンプライアントプレート部材を含み、コンプライアントプレート部材は固定子と回転子との間に密封リングを規定する。各コンプライアントプレート部材は複数の長さの異なる溝穴を含む。対応する複数の固定リングは固定子に装着され、コンプライアントプレート部材の複数の溝穴の中へそれぞれ半径方向に延出する。複数の固定リングは、長さの異なる溝穴に対応して、それぞれ異なる半径方向長さを有し、コンプライアントプレート部材の相互間の軸方向漏れ流れに対して障壁として作用する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本明細書中で説明される改善されたコンプライアントプレートシールは、ラビリンスシールの特徴を含む構造を採用することにより、従来のリーフシールにおいて見られた前述の軸方向漏れを減少する構造を実現する。前述のように、従来のリーフシールにおいては、リーフは先端部で互いに密に詰め込まれ、根元部では間隙が広くなるため、リーフパックに入る軸方向漏れは半径方向外側へ流れ/膨張し、その後、軸方向に流れ、最終的にリーフパックから出るときには集束する傾向がある。
【0009】
図1及び図2を参照すると、軸シール10は、回転軸などの回転子12と、タービン固定シェル15に装着されたハウジング14との間の軸方向漏れを減少するように機能する。軸シール10は、ハウジング14に対して対面する関係で(すなわち、互いに対向するように)根元部においてハウジング14に固着された複数のコンプライアントプレート部材16を具備する。コンプライアントプレート部材16は、ハウジング14と回転軸12との間に密封リングを規定する。
【0010】
コンプライアントプレート部材16の中に軸流抵抗部材17が配置される。軸流抵抗部材17は、コンプライアントプレート部材16の相互間の軸方向漏れ流れに対して障壁として作用する。好適な構成においては、軸流抵抗部材17は、ハウジング14に装着された少なくとも1つのリング18を含む。リング18は、コンプライアントプレート部材16の対応する少なくとも1つの周囲方向溝穴20の中へ半径方向に延出する。図1及び図2に示されるように、各コンプライアントプレート部材16は、それぞれ異なる半径方向長さを有することが可能である複数の溝穴20を含むのが好ましく、軸流抵抗部材17は、それらの溝穴に対応する半径方向長さを有する対応する複数のリング18を含む。図1に示されるリング及び溝穴の数は3つであるが、この図は単なる一例であり、本発明がこの構成に限定されることは意図されない。より広い意味で、いくつかの用途においては、周囲方向溝穴20のうち隣接する溝穴は、それぞれ異なる半径方向長さを有し、固定リング18は、それらの周囲方向溝穴20の中へ半径方向に延出する。
【0011】
図示される溝穴20は矩形の形状を有するものとして示されるが、他の形状の溝穴が利用されてもよいことは当業者には理解されるであろう。溝穴20は、異なる幅及び一様ではない長さを有するように形成されてもよい。図3及び図4に示されるように、T字形、台形などの他の形状のコンプライアントプレートも適切である。
【0012】
リング18は、更に大きく曲折した経路に沿って流れるように漏れ流れを強制することにより、漏れ流れに対する抵抗を増加する。従って、この構成は、コンプライアントプレートシールの内部にラビリンスシールに類似する構造を形成する。リーフは、曲げ可撓性及び軸方向こわさを保持する。このことは、シールの機能性を考える上で重要である。
【0013】
コンプライアントプレートは、根元部(固定子に隣接する)より先端部(回転子に隣接する)において互いに更に密に詰め込まれるため、リング18は、プレートの根元部からプレートの先端部までの全ての部分に沿って半径方向に延出する必要がない。すなわち、図示されるように、リング18はコンプライアントプレート16のある位置まで延出しているだけでよい。
【0014】
コンプライアントプレートシールの重要な利点は、回転時に発生される圧力蓄積効果である。この効果により、回転子の回転中、コンプライアントプレート16は上昇する。この上昇と、他の何らかの圧力及びコンプライアントプレートの材料弾性とに応答して、コンプライアントプレートごとに、プレート先端部と回転子12との間に非常に狭い空隙を残す平衡状態が実現される。プレート先端部と回転子との間のこの狭い空隙は、物理的接触を最小限に抑えるか又はなくすことにより、摩擦熱の発生を減少する。
【0015】
図面にはハウジング14が示され、先に説明されているが、用途に応じて、コンプライアントプレート16及びリング18は、固定子15と直接一体に形成されてもよい。中間ハウジングが必要とされるのは、組立て及び製造などの実用的な理由によるだけであり、機能の上ではハウジングは不要である。更に、図面には前リング22及び後リング24が示されるが、コンプライアントプレートの内部にリングが配置されるものとして提案される構成は、前リング及び後リングを必要とせずに所望の目的を達成すべきである。先に説明した特徴に加えて、前リング及び後リングをシールに追加することも可能である。通常、前リング22及び後リング24は、図1に示されるようなハウジングの一部である。
【0016】
図面は、回転子の外側に位置する固定子を示す。別の構成においては、回転子が固定子の外側に位置することも可能である。
【0017】
相対摺動時の摩擦、摩耗及び熱の発生を最小限に抑える並びに高温での動作を可能にするという目的(目的は、この2つに限定されない)のうち1つ以上を達成するために、コンプライアントプレートは特殊な材料で被覆されてもよい。コンプライアントプレートの先端部にごく近接する回転子の表面も、上述の理由又は他の理由により被覆されてよい。一般的な被覆方法の例をいくつか挙げると、物理気相蒸着、溶射及び電気蒸着などがある。被覆材料には、固体潤滑剤、ニッケルなどの他に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、ニッケルクロム‐クロムカーバイドなどがあるが、それらの材料に限定されない。
【0018】
本明細書中で説明される軸シールは、回転構成要素と固定構成要素との間に高圧ダイナミックシールを構成する。シールは、回転子が偏移運動した場合に柔軟に撓むが、圧力降下の方向には非常に高い剛性を示す複数のコンプライアントプレートを含む。軸流抵抗部材が取入れられたため、軸流はシール根元部の曲折経路に従って流れることを強制される。互いに密に詰め込まれたシール先端部とシール根元部における流れ妨害機能との組合せの結果、軸方向漏れが著しく減少する。
【0019】
現時点で最も実用的且つ好適な実施形態であると考えられるものに関連して本発明を説明したが、本発明は、開示された実施形態に限定されてはならず、添付の特許請求の範囲の趣旨の範囲内に含まれる種々の変形及び等価の構成を含むことが意図されると理解すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】従来のリーフシール(左側)と本明細書中で説明されるコンプライアントプレートシール(右側)の一実施形態との並列比較を示した横断面図である。
【図2】図1に示されるコンプライアントプレートシールを示した斜視図である。
【図3】コンプライアントプレート部材の別の形状を示した図である。
【図4】コンプライアントプレート部材の別の形状を示した図である。
【符号の説明】
【0021】
10…軸シール、12…回転子、14…ハウジング、15…タービン固定シェル、16…コンプライアントプレート部材、17…軸流抵抗部材、18…リング、20…周囲方向溝穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と固定シェルとの間の漏れを低減する軸シールにおいて、
前記固定シェル(15)に対して対面する関係で前記固定シェルに装着され、前記固定シェルと前記回転軸(12)との間に密封リングを形成し、各々が少なくとも1つの溝穴(20)を具備する複数のコンプライアントプレート部材(16)と;
前記固定シェルに装着され、前記コンプライアントプレート部材の前記少なくとも1つの溝穴の中へ半径方向に延出する少なくとも1つの固定リング(18)とを具備する軸シール。
【請求項2】
前記コンプライアントプレート部材(16)の各々は複数の溝穴(20)を具備し、前記軸シールは前記固定シェル(15)に装着された対応する複数の固定リング(18)を更に具備し、前記固定リングは前記溝穴の各々の中へそれぞれ半径方向に延出する請求項1記載の軸シール。
【請求項3】
前記複数の溝穴(20)の半径方向長さ及び軸方向幅のうち少なくとも一方は一様ではなく、前記複数の固定リング(18)の半径方向長さ及び軸方向幅のうち少なくとも一方は、前記溝穴の半径方向長さ及び軸方向幅にそれぞれ対応して変化する請求項2記載の軸シール。
【請求項4】
前記コンプライアントプレート部材(16)はハウジング(14)を介して前記固定シェル(15)に装着される請求項1記載の軸シール。
【請求項5】
前記少なくとも1つの固定リング(18)は前記ハウジング(14)と一体に形成される請求項4記載の軸シール。
【請求項6】
前記コンプライアントプレート部材(16)は矩形である請求項1記載の軸シール。
【請求項7】
前記コンプライアントプレート部材(16)はT字形である請求項1記載の軸シール。
【請求項8】
前記コンプライアントプレート部材(16)は台形である請求項1記載の軸シール。
【請求項9】
回転軸と固定シェルとの間の漏れを減少する軸シールにおいて、
各々が根元部及び先端部を有し、前記根元部において前記固定シェル(15)に対して対面する関係で前記固定シェルに固着され、前記先端部が前記回転軸(12)の周囲に沿って配列される複数のコンプライアントプレート部材(16)と;
前記コンプライアントプレート部材の中に配置され、前記コンプライアントプレート部材の相互間の軸方向漏れ流れに対する障壁として作用する軸流抵抗部材(17)とを具備する軸シール。
【請求項10】
前記コンプライアントプレート部材(16)は、前記コンプライアントプレート部材の根元部が前記コンプライアントプレート部材の先端部ほど密に詰め込まれないような形状に形成され、前記軸流抵抗部材(17)は、前記コンプライアントプレート部材の根元部の付近においてラビリンスシールとして機能する請求項9記載の軸シール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−45743(P2008−45743A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−203377(P2007−203377)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】