説明

ターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置

【課題】アクチュエータの操作により過給圧を能動的に制御可能なターボ過給機付きディーゼルエンジンにおいて、過渡運転時にEGR率の制御性が低下しないような過給圧制御を行う。
【解決手段】本制御装置は、エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいて過給圧の第1の目標値を算出する。そして、過給圧センサの信号から算出した実過給圧を第1の目標値(定常目標値)に近づけるようにフィードバック制御によってアクチュエータを操作する。ただし、実排気圧と実過給圧との差圧が所定の差圧基準より小さい場合のみ、実排気圧との差圧が差圧基準と同じかそれよりも大きい第2の目標値(過渡目標値)を設定する。そして、第2の目標値が設定されている場合は、フィードバック制御の目標値を第1の目標値から第2の目標値に変更する。また、実排気圧と実過給圧との差圧が差圧基準より小さい場合は、目標EGR率をエンジンの運転条件から決定した値よりも低い値に変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用のターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置に関し、特に、アクチュエータによるタービン回転数の制御によって過給圧を能動的に制御可能なターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
可変ノズルを有する可変容量ターボ過給機付きディーゼルエンジンでは、可変ノズルの開度によるタービン回転数の制御によって過給圧を能動的に制御することができる。そして、このようなターボ過給機付きディーゼルエンジンでは、エンジン回転数と燃料噴射量とから目標過給圧を決定し、過給圧センサの信号から算出される実過給圧が目標過給圧になるようにフィードバック制御によって可変ノズルを操作することができる。
【0003】
ところで、ターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御においては、アクチュエータの操作量やエンジンの状態量に関してハード上の或いは制御上の様々な制約が存在している。それらの制約が満たされない場合、ハードの破損や制御性能の低下が生じるおそれがある。そして、それらの制約のうちの少なくとも一部は過給圧制御に関係することから、上記のフィードバック制御において用いられる目標過給圧は、それら制約とエンジンの応答性能とを同時に満たすことのできる値に設定されている。
【0004】
ただし、エンジン回転数ごと及び燃料噴射量ごとに目標過給圧を定める適合作業は、エンジンの定常運転下で行われるのが一般的である。エンジン回転数が上昇しているときのような過渡運転下も含めると適合作業に要する工数が膨大になってしまう。また、全ての過渡運転条件を想定して漏れなく目標過給圧の適合を行うことには無理がある。このため、エンジンが過渡運転下にあるときは、過給圧制御に関連する一部の制約が満たされなくなるおそれがある。そのような制約の1つがEGR率の制御性に関する制約である。EGR装置による排気ガスの再循環は排気圧と過給圧との差圧を利用して行われる。その差圧が過小な場合、或いは、逆差圧が発生している場合には、EGR装置によるEGR率の制御ができなくなる。このため、フィードバック制御で用いる目標過給圧は、一定のEGR率の制御性が保たれるように適合される。ところが、目標過給圧はエンジンの定常運転時で適合されたものであるため、エンジンが過渡運転下にある場合には、排気圧と過給圧とのバランスが崩れることによってEGR率の制御性が低下してしまうおそれがある。よって、可変ノズルによって過給圧のフィードバック制御を行う場合には、過渡運転時においてEGR率の制御性が低下しないような何らかの対策が必要である。
【0005】
しかし、現在のところ、ターボ過給機付きディーゼルエンジンの過渡運転時にEGR率の制御性が低下することについて着目し、それを回避することのできる発明を提案している文献は見つかっていない。
【0006】
なお、過渡運転時の過給圧制御に関する発明を開示する文献としては、特開2010−185415号公報を挙げることができる。この公報には、オープンループ制御によって可変ノズルの開度を制御するものにおいて、加速時に生じうる過給圧のオーバーシュートを回避できるようにした過給圧制御の発明が開示されている。この公報に開示された発明によれば、定常運転時には、エンジン回転速度と燃料噴射量とに基づいて目標吸入空気量が算出され、目標吸入空気量に基づいて可変ノズルの目標開度が決められる。一方、加速時には、目標過給圧と実際の過給圧との偏差に基づいて目標吸入空気量偏差が算出され、目標吸入空気量偏差を吸入空気量に加算したものが過給機制御目標吸入空気量として算出される。そして、過給機制御目標吸入空気量に基づいて可変ノズルの目標開度が決められる。しかし、目標吸入空気量偏差のマップ値は適合によって定められるものであるから、適合作業に膨大な工数を要するという問題はこの公報に開示された発明も無関係ではない。また、適合作業時には想定していなかった過渡運転条件のもとでは、過給圧を適切に制御できずにオーバーシュートさせてしまう可能性がある。つまり、上記公報に開示された発明は過渡運転時に発生する問題の解決策として必ずしも有効であるとは言えない。よって、この発明を前述のEGR率の制御性に関する問題の解決策として応用することはできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−185415号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、アクチュエータの操作により過給圧を能動的に制御可能なターボ過給機付きディーゼルエンジンにおいて、過渡運転時にEGR率の制御性が低下しないような過給圧制御を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を達成するために、本発明に係るターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置は、以下の動作を行うように構成される。
【0010】
本発明の1つの形態によれば、本制御装置は、過給圧センサの信号からエンジンの実過給圧を算出するとともに、エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいて過給圧の第1の目標値を算出する。そして、実過給圧を第1の目標値に近づけるようにフィードバック制御によって過給圧制御用のアクチュエータを操作する。過給圧制御用のアクチュエータには可変容量ターボ過給機の可変ノズルやウエストゲートバルブが含まれる。本制御装置による上記の動作は、定常運転時か過渡運転時かに関係なく行われる動作である。つまり、エンジンの運転状態を積極的に判定し、エンジンの運転状態が定常運転か過渡運転かで目標値を切り替えることはしない。ただし、次に説明する第2の目標値が設定されている場合のみ、本制御装置は、フィードバック制御の目標値を第1の目標値から第2の目標値に変更する。
【0011】
本制御装置は、実排気圧と実過給圧との差圧が所定の差圧基準より小さい場合、過給圧の第2の目標値を設定する。実排気圧は排気圧センサの信号から算出される。差圧基準はEGR率の制御性が保障される差圧の値である。本制御装置によれば、過給圧の第2の目標値は、実排気圧との差圧が差圧基準と同じかそれよりも大きい値とされる。
【0012】
本発明のより好ましい形態によれば、本制御装置は、上述の動作を行うことに加えて、各種の計測値から算出した実EGR率をエンジンの運転条件から決定した目標EGR率に近づけるようにフィードバック制御によってEGR装置を操作する。本制御装置によるこの動作は、定常運転時か過渡運転時かに関係なく行われる動作である。ただし、実排気圧と実過給圧との差圧が差圧基準より小さい場合、本制御装置は、目標EGR率をエンジンの運転条件から決定した値よりも低い値に変更する。好ましくは、目標EGR率を実EGR率と同じ値に変更する。EGR率のフィードバック制御において余計な積分値が溜め込まれないようにするためである。
【発明の効果】
【0013】
本制御装置が以上のように動作することにより、過渡運転時において実排気圧と実過給圧との差圧を十分に確保してEGR率の制御性が低下するのを防ぐことができる。また、通常はエンジン回転速度と燃料噴射量とから決まる第1の目標値を使用し、所定の条件が満たされた場合にのみ上記の第2の目標値に変更することによれば、過渡運転条件ごとに膨大な工数の適合作業を行わなくて済み、また、どのような過渡運転条件下でもEGR率の制御性を保障することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態としてのエンジンシステムの構成を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態の制御装置により実行される過給圧制御のためのルーチンを示すフローチャートである。
【図3】本発明の実施の形態の制御装置により実行される定常目標値の算出のためのルーチンを示すフローチャートである。
【図4】本発明の実施の形態の制御装置により実行される過渡目標値の算出のためのルーチンを示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施の形態の制御装置により実行されるフィードバック制御の目標値の決定のためのルーチンを示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態の制御装置による制御結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態としてのエンジンシステムの構成を示す図である。本実施の形態のエンジンは、ターボ過給機付きのディーゼルエンジン(以下、単にエンジンという)である。エンジンの本体2には4つの気筒が直列に備えられ、気筒ごとにインジェクタ8が設けられている。エンジン本体2には吸気マニホールド4と排気マニホールド6が取り付けられている。吸気マニホールド4にはエアクリーナ20から取り込まれた新気が流れる吸気通路10が接続されている。吸気通路10にはターボ過給機のコンプレッサ14が取り付けられている。吸気通路10においてコンプレッサ14の下流にはディーゼルスロットル24が設けられている。吸気通路10においてコンプレッサ14とディーゼルスロットル24との間にはインタークーラ22が備えられている。排気マニホールド6にはエンジン本体2から出た排気ガスを大気中に放出するための排気通路12が接続されている。排気通路12にはターボ過給機のタービン16が取り付けられている。本実施の形態のターボ過給機は可変容量型であって、タービン16には可変ノズル18が備えられている。排気通路12においてタービン16の下流には排気ガスを浄化するための触媒装置26が設けられている。
【0017】
本実施の形態のエンジンは、排気系から吸気系へ排気ガスを再循環させるEGR装置を備えている。EGR装置は、吸気通路10におけるディーゼルスロットル24の下流の位置と排気マニホールド6とをEGR通路30によって接続している。EGR通路30にはEGR弁32が設けられている。EGR通路30においてEGR弁32の排気側にはEGRクーラ34が備えられている。EGR通路30にはEGRクーラ34をバイパスするバイパス通路36が設けられている。EGR通路30とバイパス通路36が合流する箇所には、排気ガスが流れる方向を切り替えるバイパス弁38が設けられている。
【0018】
本実施の形態のエンジンシステムはECU(Electronic Control Unit)50を備える。ECU50は、エンジンシステム全体を総合制御する制御装置である。ECU50は、エンジンシステムが備えるセンサの信号を取り込み処理する。センサはエンジンシステムの各所に取り付けられている。例えば、吸気通路10には、エアクリーナ20の下流にエアフローメータ58が取り付けられ、インタークーラ22の出口付近には吸気温センサ60が取り付けられ、ディーゼルスロットルの下流には過給圧センサ54が取り付けられている。また、排気マニホールド6には排気圧センサ56が取り付けられている。さらに、クランク軸の回転を検出する回転数センサ52や、アクセルペダルの開度に応じた信号を出力するアクセル開度センサ62なども取り付けられている。ECU50は、取り込んだ各センサの信号を処理して所定の制御プログラムにしたがって各アクチュエータを操作する。ECU50によって操作されるアクチュエータには、可変ノズル18、インジェクタ8、EGR弁32、ディーゼルスロットル24などが含まれている。なお、ECU50に接続されるアクチュエータやセンサは図中に示す以外にも多数存在するが、本明細書においてはその説明は省略する。
【0019】
ECU50により実行されるエンジン制御には過給圧制御とEGR制御とが含まれる。本実施の形態の過給圧制御では、過給圧センサ54の信号から算出された実過給圧が目標過給圧になるようにフィードバック制御によって可変ノズル18が操作される。EGR制御では、各種センサの信号から算出された実EGR率が目標EGR率になるようにフィードバック制御によってEGR弁32が操作される。本発明の実施にあたっては、過給圧制御におけるフィードバック制御の具体的な方法に関する限定はない。同様に、EGR制御におけるフィードバック制御の具体的な方法に関する限定もない。本実施の形態では、過給圧制御とEGR制御の両方において、実際値と目標値との差分に基づくPID制御が行われているものとする。本実施の形態で実行される過給圧制御は目標過給圧の決定方法に特徴を有し、EGR制御は目標EGR率の決定方法に特徴を有している。以下、これらについてフローチャートを用いて説明する。
【0020】
図2のフローチャートは、本実施の形態でECU50により実行される過給圧制御のためのルーチンを示している。このルーチンではEGR制御も併せて行われる。過給圧制御のルーチンは、定常目標値を算出するステップS1と、過渡目標値を算出するステップS2と、最終的にフィードバック制御で用いる目標値(FB制御目標値)を決定するステップS3とから構成される。各ステップでは、それぞれ図3、図4及び図5のフローチャートに示すサブルーチンが実行される。
【0021】
図3のフローチャートは、過給圧制御ルーチンのステップS1で実行されるサブルーチンを示している。このサブルーチンでは、過給圧とEGR率のそれぞれについて定常目標値が算出される。定常目標値とは、エンジンの定常運転下で適合されたデータを用いて決定される目標値を意味する。
【0022】
このサブルーチンのステップS101では、回転数センサ52の信号からエンジン回転数が計測される。ステップS102では、アクセル開度センサ62の信号から得られたアクセル開度に応じて燃料噴射量が算出される。ステップS103では、過給圧センサ54の信号から実過給圧が算出される。なお、以降の説明では、実過給圧を“pim”と表記する場合がある。ステップS104では、エアフローメータ58の信号から実新気量が算出される。実新気量とは実際に気筒内に吸入される新気の量である。ステップS105では、過給圧センサ54及び吸気温センサ60の各信号並びに実新気量から実EGR率が算出される。以上のステップの処理は、定常目標値の算出に必要なデータを得るための処理である。したがって、各ステップの順番は適宜変更することもできる。
【0023】
定常目標値の算出はステップS106及びステップS107で行われる。ステップS106では、エンジン回転数と燃料噴射量とを引数とするマップより目標の過給圧が算出される。このステップで算出される目標過給圧は、エンジンの定常運転下で適合された目標値、すなわち、過給圧の定常目標値である。また、本発明における過給圧の第1の目標値でもある。定常目標値の算出に用いるマップは、エンジン回転数と燃料噴射量とをそれぞれ一定ずつ変化させながら定常運転下で試験して得られた適合データに基づき作成されている。なお、以降の説明では、過給圧の定常目標値を“pimtrgst”と表記する場合がある。ステップS107では、新気量に基づいて目標のEGR率が算出される。新気量と目標EGR率との関係は、EGR率がスモークを発生させない限界を超えない範囲内で、気筒内に吸入される空気の酸素濃度が狙いの値になるように決定されている。このステップで算出される目標EGR率は、エンジンの定常運転下で適合された目標値、すなわち、EGR率の定常目標値である。なお、狙いの吸入空気酸素濃度を実現する値とスモーク限界となる値との双方が算出され、どちらか小さい値がこの目標EGR率として設定されるようになっていてもよい。以降の説明では、EGR率の定常目標値を基本目標値“egrtrgst”と表記する場合がある。
【0024】
図4のフローチャートは、過給圧制御ルーチンのステップS2で実行されるサブルーチンを示している。このサブルーチンでは過給圧の過渡目標値が算出される。過渡目標値とは、エンジンの過渡運転時に満たされる可能性のある所定の条件に関し、その条件が満たされた場合にのみ設定される目標値である。また、本発明における過給圧の第2の目標値でもある。過給圧制御ルーチンのステップS1で算出される過給圧の定常目標値は、エンジンが定常運転下にある場合を前提にしている。このため、加速時や減速時のような過渡運転時には、過給圧制御に関連する何らかの制約が満たされなくなる場合がある。本実施の形態の過給圧制御において特に問題としているのは、EGR率の制御性に関する制約である。より詳しくは、排気圧と過給圧との差圧を十分に確保してEGR率の制御性を保障するための制約である。このサブルーチンでは、EGR率の制御に関する制約が満たされなくなることを所定の条件が満たされているかどうかで予測する。そして、制約が満たされなくなることが予測される場合にのみ、その制約を確実に満たすことができる過給圧の目標値を過渡目標値として算出する。
【0025】
このサブルーチンのステップS201では、排気圧センサ56の信号から算出された実排気圧“P4”と過給圧センサ54の信号から算出された実過給圧“pim”との差圧が算出される。そして、その差圧が所定の差圧基準“[P4-pim]C”より小さいかどうか判定される。実排気圧“P4”と実過給圧“pim”との差圧が十分であることは、EGR制御における重要な要件である。EGR制御では実EGR率が目標EGR率になるようにフィードバック制御によってEGR弁32の開度が変更されるが、EGR弁32の前後における差圧が十分でない場合には、いくらEGR弁32を操作してもEGR率を制御することができない。上記の差圧基準“[P4-pim]C”は正の値であって、EGR弁32によるEGR率の制御性が保障される差圧の値に設定されている。よって、実排気圧“P4”と実過給圧“pim”との差圧が“[P4-pim]C”より小さい場合には、EGR率の制御性を保障できるだけの十分な差圧を確保できなくなるおそれがある。そこで、ステップS201の条件が満たされた場合はステップS202の処理が行われる。ステップS202では、排気圧センサ56の信号から算出された実排気圧“P4”から差圧基準“[P4-pim]C”を差し引いた値が過給圧の過渡目標値“pimtrgk3”として設定される。また、過渡目標値が設定されたことを示すフラグk3の値が“1”にセットされる。
【0026】
次のステップS203、S204及びS205の処理はEGR制御のための処理である。まず、ステップS203では、フラグk3の値が1かどうか判定される。フラグk3の値が1にセットされている状況では、実排気圧“P4”と実過給圧“pim”との差圧が差圧基準“[P4-pim]C”よりも小さくなっている。このような状況ではEGR弁24を上限まで開いても目標EGR率まで実EGR率を上昇させることができない。その結果、フィードバック制御のI動作による積分値が溜め込まれてしまい、その後に差圧が十分な値まで回復したときのEGR弁24の動作に遅れを生じさせてしまう。そこで、フラグk3の値が“1”にセットされている場合は、ステップS204において目標EGR率“egrtrg”の値は実EGR率“egr”と同じ値に変更される。これによれば、目標EGR率と実EGR率との間に差が生じた状態が続くことはなくなり、フィードバック制御において余計な積分値が溜め込まれることもなくなる。一方、フラグk3の値が“0”になっている場合は、EGR率の制御性が保障される十分な差圧が確保されている。この場合、ステップS205の処理が選択されて目標EGR率“egrtrg”の値は基本目標値“egrtrgst”に維持される。
【0027】
図5のフローチャートは、過給圧制御ルーチンのステップS3で実行されるサブルーチンを示している。このサブルーチンの最初のステップS301では、フラグk3の値が“1”にセットされているかどうか判定される。フラグk3の値が“1”であることは過給圧の過渡目標値が設定されていることを意味し、フラグk3の値が“0”であることは過渡目標値が設定されていないことを意味する。よって、フラグk3の値が“0”であるならば、ステップS303の処理が選択され、ステップS1で算出された過給圧の定常目標値“pimtrgst”がそのままFB制御目標値“pimtrg”として決定される。しかし、フラグk3の値が“1”であるならば、ステップS302の処理が選択され、ステップS2で算出された過給圧の過渡目標値“pimtrgk3”がFB制御目標値“pimtrg”として決定される。つまり、定常目標値から過渡目標値へ一時的なFB制御目標値の変更が行われる。
【0028】
以上説明した過給圧制御ルーチンがECU50により実行されることで、過渡運転時において実排気圧と実過給圧との差圧を十分に確保してEGR率の制御性が低下するのを防ぐことができる。この効果は図6を用いて説明することができる。図6には減速時の過給圧制御に関して2つの制御結果が示されている。制御結果(A)は、常に定常目標値のみを用いて過給圧制御を行った結果、つまり、過渡目標値の設定を行わなかった場合の制御結果である。一方、制御結果(B)は、本実施の形態の過給圧制御によって過渡目標値が設定された場合の制御結果である。各制御結果の上から1番目のチャートは、過給圧のFB制御目標値“pimtrg”と実過給圧“pim”の時間による変化を示している。破線で示すのがFB制御目標値“pimtrg”の時間による変化であり、実線で示すのが実過給圧“pim”の時間による変化である。2番目のチャートは、実排気圧“P4”の時間による変化を示している。3番目のチャートは、実排気圧“P4”と実過給圧“pim”との差圧の時間による変化を示している。4番目のチャートは、EGR弁24の開度の時間による変化を示している。そして、5番目のチャートは、目標EGR率“egrtrg”と実EGR率“egr”の時間による変化を示している。破線で示すのが目標EGR率“egrtrg”の時間による変化であり、実線で示すのが実EGR率“egr”の時間による変化である。
【0029】
まず、制御結果(A)から見ると、FB制御目標値“pimtrg”は一定の変化率で低下せしめられている。そして、それに追従するように実過給圧“pim”が低下している。また、実排気圧“P4”は実過給圧“pim”の低下に呼応するように低下している。FB制御目標値“pimtrg”の低下は減速時の燃料噴射量の減量に合わせて行われるものであり、実過給圧“pim”の低下は過給圧フィードバック制御によって達成される。また、実排気圧“P4”の低下は燃料噴射量の減量と過給圧フィードバック制御により可変ノズル18が開かれることによって達成される。制御結果(A)では、実過給圧“pim”と実排気圧“P4”がともに低下していく過程において両者の差圧は小さくなり、前述の差圧基準“[P4-pim]C”を下回る状態が暫くの間続いている。差圧は排気ガスを再循環させる駆動力であるため、それが弱まっている状況ではEGR量を最大限に確保するためにEGR弁24は上限まで開かれる。しかし、差圧があまりに小さい場合には、EGR弁24が上限まで開かれていても排気ガスは吸気側にはあまり流れない。このため、EGR弁24は上限まで開かれたまま、目標EGR率“egrtrg”に対して実EGR率“egr”が不足した状態が続くことになる。また、目標EGR率“egrtrg”と実EGR率“egr”との間には差が生じた状態が続くことで、EGR率フィードバック制御のI動作による積分値が溜まってしまう。その結果、実排気圧“P4”と実過給圧“pim”との差圧が回復してEGRガスが流れるようになったとき、実EGR率“egr”の目標EGR率“egrtrg”に対するオーバーシュートが生じてしまう。
【0030】
これに対して制御結果(B)では、実排気圧“P4”と実過給圧“pim”との差圧が差圧基準“[P4-pim]C”よりも小さくなった場合、FB制御目標値“pimtrgk”は実排気圧“P4”から差圧基準“[P4-pim]C”を差し引いた過渡目標値に変更される。つまり、現在の実排気圧“P4”のもとでEGR率の制御性を保障できるだけの過給圧が得られる値に変更される。このようにFB制御目標値“pimtrgk”が過渡目標値に変更されることで、実過給圧“pim”の低下が促される。このとき実排気圧“P4”も同時に低下するが、その変化量は実過給圧“pim”の変化量よりも小さい。よって、実排気圧“P4”と実過給圧“pim”との差圧は拡大し、再び差圧基準“[P4-pim]C”を超える値まで回復するようになる。差圧が差圧基準“[P4-pim]C”を超えていればEGR弁24が上限まで開かれることはなくなり、EGR弁24の開度の調整によって実EGR率“egr”を目標EGR率“egrtrg”に合わせることができるようになる。つまり、EGR率の制御性が保障される。また、実排気圧“P4”と実過給圧“pim”との差圧が差圧基準“[P4-pim]C”よりも小さくなっている間、目標EGR率“egrtrg”は実EGR率“egr”に合わせられるので、I動作による積分値が溜まることは避けられる。
【0031】
ところで、本発明は上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。例えば、第2の目標値である過渡目標値は、実排気圧との差圧が差圧基準よりも大きい値であってもよい。つまり、過給圧を大きく下げることによって実排気圧と実過給圧との差圧を差圧基準以上まで回復することができればよい。少なくとも差圧基準以上の差圧が確保されるようになっていれば、過渡運転時におけるEGR率の制御性の低下を防ぐことができる。
【0032】
また、実排気圧と実過給圧との差圧が差圧基準よりも小さい場合、目標EGR率を実過給圧を含むエンジンの運転状態から決定した値よりも低い値に変更することでもよい。目標EGR率と実EGR率との差が小さくなれば、その分、I動作による積分値の増大を抑えることができる。実排気圧と実過給圧との差圧がゼロに近く、EGRガスがほとんど流れていない状況であれば、目標EGR率の値をゼロに変更こともできる。
【0033】
過給圧制御用アクチュエータとしては、可変ノズルの他にもウエストゲートバルブを用いることができる。ただし、その場合のウエストゲートバルブは、開度を連続的に或いは多段階に変化させることが可能なものであることが望ましい。
【符号の説明】
【0034】
2 エンジン本体
4 吸気マニホールド
6 排気マニホールド
8 インジェクタ
10 吸気通路
12 排気通路
14 コンプレッサ
16 タービン
18 可変ノズル
30 EGR通路
32 EGR弁
50 ECU
52 回転数センサ
54 過給圧センサ
56 排気圧センサ
58 エアフローメータ
60 吸気温センサ
62 アクセル開度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気通路から吸気通路へ排気ガスを再循環させるEGR装置を備えた、アクチュエータの操作により過給圧を能動的に制御可能なターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置において、
過給圧センサの信号から前記エンジンの実過給圧を算出する手段と、
エンジン回転数と燃料噴射量とに基づいて過給圧の第1の目標値を算出する手段と、
前記実過給圧を前記第1の目標値に近づけるようにフィードバック制御によって前記アクチュエータを操作する手段と、
排気圧センサの信号から前記エンジンの実排気圧を算出する手段と、
前記実排気圧と前記実過給圧との差圧が所定の差圧基準より小さい場合、前記実排気圧との差圧が前記差圧基準と同じかそれよりも大きい第2の目標値を設定する手段と、
前記第2の目標値が設定されている場合、前記フィードバック制御の目標値を前記第1の目標値から前記第2の目標値に変更する手段と、
を備えることを特徴とするターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置。
【請求項2】
各種の計測値から算出した実EGR率を前記エンジンの運転条件から決定した目標EGR率に近づけるようにフィードバック制御によって前記EGR装置を操作する手段と、
前記実排気圧と前記実過給圧との差圧が前記差圧基準より小さい場合、前記目標EGR率を前記エンジンの運転条件から決定した値よりも低い値に変更する手段と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のターボ過給機付きディーゼルエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−96371(P2013−96371A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242525(P2011−242525)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】