説明

ダイカストマシンのスプレー装置

【課題】
スプレーノズルのサイクル時間が短くなるようにスプレーノズルの移動工程を設定し、生産の向上を図る。
【解決手段】
ダイカストマシン11の型開きからスプレーノズル10Aの噴射動作に至る待機位置aから噴射位置cに至るスプレーノズル10Aの移動工程と、噴射位置cから待機位置aへと戻る移動工程とが異なり、戻る移動工程において、キャビティ12の深さに相当する距離L1だけスプレーノズル10Aを後退(水平前進工程W2の移動距離分)させた後、スプレーノズル10Aを追い込み移動工程W3の移動距離と同じ距離だけ戻るように後退しながら上昇させることによって、スプレーノズル10aは傾斜した移動軌跡を描いて上昇し、キャビティ12の外側へと最短距離で移動する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト鋳造等においてキャビティ表面に離型剤を噴射したりエアブローを行なうダイカストマシンのスプレー装置、特に、スプレーノズルの動作時間を短縮化して成形サイクルの効率化を図ることが可能なダイカストマシンのスプレー装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ダイカスト鋳造する場合、成形後、金型の焼き付きや鋳造品の湯流れ不良等を防止するために、金型のキャビティに離型剤をスプレーしたり、エアブローするスプレー装置が知られている。このようなダイカストマシンのスプレー装置として、特許文献1には、スプレー対象の金型が可動金型と固定金型から構成され、スプレー装置は、これら金型に形成されているキャビティに対して離型剤を噴射する。このスプレーノズルはアームの下端部に取付けられ、アームをロボットにより、対象キャビティに対面して、例えば上下・左右方向ならび移動してキャビティに対して離型剤を噴射するように構成している。
【0003】
【特許文献1】特開2001−162213号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、この種のスプレー装置は、ダイカストマシンの型閉時に金型の外側に待機し、型開き時にキャビティの内側に向かって移動してスプレーした後、再び金型の外側まで退避するものであるが、その移動工程として、まず、スプレー装置の待機位置から下限位置まで降下させた後、スプレーノズルを水平に前進させてキャビティと僅かな隙間を隔てた位置で停止させ、キャビティの内側に向かってスプレーする。このスプレー後、噴射位置からそれまでとは逆方向の移動軌跡を辿ってスプレー装置の待機位置まで上昇する。すなわち、キャビティの内側に向かって移動して噴射するまでの移動軌跡と、噴射位置から再び待機位置に戻す移動軌跡が同じである。しかし、待機位置から噴射位置までの間は、キャビティに向かって剥離剤を確実かつ正確に噴射するために、ノズルの移動は正確でなければならないが、噴射位置から待機位置までの移動は、むしろ、迅速に移動したほうが、スプレー装置の動作時間を短縮化でき、ひいては、ダイカストマシンの生産効率も向上する。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するものであり、待機位置から噴射位置までの間は、スプレー装置をキャビティに向かって確実かつ正確に移動させ、噴射後、スプレー装置を待機位置まで迅速に移動することを可能なダイカストマシンのスプレー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係るダイカストマシンのスプレー装置は、固定金型と可動金型とを有して内面に凹状のキャビティを設けた金型装置と、前記キャビティに離型剤等を噴射するスプレーノズルと、このスプレーノズルをキャビティと対向させるように移動させる移動駆動手段とを備え、前記移動駆動手段の移動工程として、前記スプレーノズルの待機位置から前記キャビティの内面と間隔をおいて該キャビティの内面と対向する下端位置まで下降させる下降工程と、前記キャビティの深さに相当する距離だけ前記スプレーノズルをキャビティに向かって前進させる水平前進工程と、前記キャビティと僅かな空隙を有して該キャビティとスプレーノズルとを近接するようにキャビティに向かって水平移動させる追い込み移動工程と、前記スプレーノズルによる離型剤等の噴射後、前記水平前進工程の移動距離分、逆方向に水平移動させる後退工程と、前記追い込み移動工程の移動距離分に相当する距離を後退しながら上昇することによって傾斜した移動軌跡を描いて前記スプレーノズルをキャビティの外側の退避位置まで後退させる傾斜移動工程と、前記退避位置から前記待機位置まで上昇させる上昇移動工程を備えることを特徴とする。
【0007】
請求項1の構成により、ダイカストマシンの型開きからスプレーノズルの噴射動作に至る待機位置から噴射位置に至るスプレーノズルの往路側の移動工程と、噴射位置から待機位置へと戻る復路側の移動工程とが異なり、復路側の移動工程において、キャビティの深さに相当する水平前進工程の移動距離と同じ距離だけ逆方向にスプレーノズルを水平移動させた後、追い込み移動工程の移動距離分だけ戻るように後退しながら上昇させることによって、スプレーノズルは傾斜した移動軌跡を描いてキャビティの外側の退避位置まで移動した後、上昇して待機位置まで戻る。
【0008】
請求項2に係るダイカストマシンのスプレー装置は、請求項1記載のダイカストマシンのスプレー装置において、前記ダイカストマシンのスプレー装置は、前記スプレー装置の設定用表示装置と、少なくとも前記水平前進工程の金型の深さに相当する距離を入力設定する手段とを備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2の構成により、オペレータがキー入力手段によってスプレー装置を制御する諸条件を入力してスプレー装置の動作を制御するものであるが、予めキャビティの深さを入力することによって、スプレーノズルの最適噴射位置と、待機位置まで戻る最短移動軌跡が設定させる。
【0010】
請求項3に係るダイカストマシンのスプレー装置は、請求項1記載のダイカストマシンのスプレー装置において、前記移動駆動手段が、前記ダイカストマシンのフレーム上に固定されるベース板と、ベース板に設けた支持部材と、この支持部材にスライ自在に案内される取付部材と、この取付部材に基端側を枢着するとともに先端に前記スプレーノズルを設けた一対のリンクアームからなる平行リンク機構と、前記一方のリンクアームを回転駆動して前記スプレーノズルを昇降する昇降駆動手段と、前記支持部材を水平に往復動する往復駆動手段とを備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3の構成により、スプレー装置は、昇降駆動手段によって回転するリンクアームと連動して昇降するとともに、往復駆動手段によって往復動する支持部材と連動して水平方向に移動し、これら昇降駆動手段と往復駆動手段を制御することによって、スプレー装置を待機位置から噴射位置へと移動し、噴射後、キャビティの深さに相当する水平前進工程の移動距離と同じ距離だけ逆方向にスプレーノズルを水平移動させた後、追い込み移動工程の移動距離分だけ戻るように後退しながら上昇させることによって、スプレーノズルは傾斜した移動軌跡を描いてキャビティの外側の退避位置まで移動した後、上昇して待機位置まで戻る。
【0012】
請求項4に係るダイカストマシンのスプレー装置は、請求項3記載のダイカストマシンのスプレー装置において、前記昇降駆動手段が正逆回転可能な昇降用電動モータで構成され、往復駆動手段が前記ベース板側に固定されるスライド用電動モータによって構成され、このスライド用電動モータによって前記取付部材に連結したねじ軸と螺合するナット部材を回転させて前記取付部材をスライドさせることによって前記スプレーノズルを水平方向にスライド移動するように構成したことを特徴とする。
【0013】
請求項4の構成により、スプレー装置は、昇降駆動モータとスライド駆動モータの回転を制御することでスプレー装置を待機位置から噴射位置へと移動し、噴射後、水平に後退し、その後、傾斜した移動軌跡を描いてキャビティの外側の退避位置まで移動し、さらに、上昇して待機位置まで戻る。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係るダイカストマシンのスプレー装置によれば、固定金型と可動金型とを有して内面に凹状のキャビティを設けた金型装置と、前記キャビティに離型剤等を噴射するスプレーノズルと、このスプレーノズルをキャビティと対向させるように移動させる移動駆動手段とを備え、前記移動駆動手段の移動工程として、前記スプレーノズルの待機位置から前記キャビティの内面と間隔をおいて該キャビティの内面と対向する下端位置まで下降させる下降工程と、前記キャビティの深さに相当する距離だけ前記スプレーノズルをキャビティに向かって前進させる水平前進工程と、前記キャビティと僅かな空隙を有して該キャビティとスプレーノズルとを近接するようにキャビティに向かって水平移動させる追い込み移動工程と、前記スプレーノズルによる離型剤等の噴射後、前記水平前進工程の移動距離分、逆方向に水平移動させる後退工程と、前記追い込み移動工程の移動距離分に相当する距離を後退しながら上昇することによって傾斜した移動軌跡を描いて前記スプレーノズルをキャビティの外側の退避位置まで後退させる傾斜移動工程と、前記退避位置から前記待機位置まで上昇させる上昇移動工程を備えるものであるから、スプレーノズルは、噴射後、傾斜状に上昇してキャビティの外側へと最短距離で移動することができ、スプレー装置の動作時間を短縮化でき、結果的に成形サイクルも効率化することが可能となる。
【0015】
請求項2に係るダイカストマシンのスプレー装置によれば、請求項1記載のダイカストマシンのスプレー装置において、前記ダイカストマシンのスプレー装置は、前記スプレー装置の設定用表示装置と、少なくとも前記水平前進工程の金型の深さに相当する距離を入力設定する手段とを備えたものであるから、予めキャビティの深さを入力するだけで、スプレーノズルの最適噴射位置と、待機位置まで戻る最短移動軌跡を簡単に設定することが可能となる。
【0016】
請求項3に係るダイカストマシンのスプレー装置によれば、請求項1記載のダイカストマシンのスプレー装置において、前記ダイカストマシンのフレーム上に固定されるベース板と、ベース板に設けた支持部材と、この支持部材にスライ自在に案内される取付部材と、この取付部材に基端側を枢着するとともに先端に前記スプレーノズルを設けた一対のリンクアームからなる平行リンク機構と、前記一方のリンクアームを回転駆動して前記スプレーノズルを昇降する昇降駆動手段と、前記支持部材を水平に往復動する往復駆動手段とを備えたものであるから、リンクアームの回転によって昇降するスプレーノズルは、リンクアームの円弧軌跡に沿って昇降することから、下端位置においては、キャビティを形成した金型から離れており、さらに、キャビティ自体の深さもあるから、スプレーノズルを下端位置からキャビティの深さにほぼ相当する距離だけ一旦前進させ、さらに、所定の距離だけキャビティの追い込むことから、キャビティとスプレーノズルが近接した位置までに正確かつ確実に移動させた状態でスプレーすることができるとともに、噴射後、キャビティの深さにほぼ相当する距離だけ逆方向に水平移動した後、移動工程の移動距離分だけ戻るように後退しながら上昇させることによって、キャビティとスプレーノズルが干渉することなく、噴射後においてスプレー装置を速やかに待機位置まで移動させて動作時間を短縮することができる。
【0017】
請求項4に係るダイカストマシンのスプレー装置によれば、請求項3記載のダイカストマシンのスプレー装置において、前記昇降駆動手段が正逆回転可能な昇降用電動モータで構成され、往復駆動手段が前記ベース板側に固定されるスライド用電動モータによって構成され、このスライド用電動モータによって前記取付部材に連結したねじ軸と螺合するナット部材を回転させて前記取付部材をスライドさせることによって前記スプレーノズルを水平方向にスライド移動するように構成したものであるから、昇降駆動モータとスライド駆動モータの回転を制御してスプレー噴射後、スプレー装置を速やかに待機位置まで移動させて動作時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための最良の形態としての実施例を図1〜図5により以下に説明する。もちろん、本発明は、その発明の趣旨に反しない範囲で、実施例において説明した以外の構成のものに対しても容易に適用可能なことは説明を要するまでもない。
【0019】
図1は、本実施例に係るスプレー装置10及びダイカストマン11の一部を示す反操作側から見たダイカストマン11の背面図であり、その概略を説明する。固定ダイプレート40と支持盤(図示せず)との間に架設された複数のタイバー41に移動ダイプレート42が往復可能に配設されており、固定ダイプレート40と移動ダイプレート42の金型取付面には金型装置1を構成する固定金型11Aと可動金型11Bが型開・型締可能に取り付けられている。移動ダイプレート42には図示しないが型締シリンダが連結されており、この型締シリンダで移動ダイプレート42を移動して固定金型11Aと可動金型11Bに当接させることにより、固定金型11Aの凹部13Aと固定金型13Aによってキャビティ12が画成されるようになっている。そして、型締めされた固定金型11Aと可動金型11Bとで画成さられるキャビティ12へ、溶湯が射出・充填されるように構成している。
【0020】
スプレー装置10は、固定金型11Aに形成するキャビティ12に対してエアブローするとともに離型剤を噴射する。このスプレー装置10は、ダイカストマシン11のフレーム14上に組付けられており、前記フレーム14上にはベース板15が固定され、このベース板15には支持部材として案内レール16が固定されている。この案内レール16に沿って取付部材としの減速機17のケーシング17Aがスライド自在に組み付けられている。このケーシング17Aにはスプレーノズル10Aを上下方向に移動する昇降駆動手段たる昇降駆動モータ18が固定され、ベース板15はスプレーノズル10Aを水平方向に移動する往復動駆動手段としてスライド駆動モータ19が固定されている。
【0021】
20は前記スプレー装置10を取り付ける平行リンク機構であり、リンクアームであるアッパーアーム21とロアアーム22から構成されている。アッパーアーム21の基端は、前記ケーシング17Aに枢着され、ロアアーム22の基端は、減速機17の出力軸17Bに固定され、その減速機17と前記昇降駆動手段たる昇降駆動モータ18とがタイミングベルト30を介して連結されている。これらアッパーアーム21とロアアーム22の先端に前記スプレーノズル10Aを固定した取付アーム23が枢着され、スプレーノズル10Aは昇降駆動モータ18の回転により平行リンク機構20によって垂直な姿勢を保った状態で昇降する。なお、平行リンク機構20は回転によってスプレーノズル10Aを昇降させることから、スプレーノズル10Aは垂直な姿勢を保った昇降するものでが、図1で一点鎖線で待機位置から図1で実線で示す下限位置までその昇降軌跡は円弧軌跡を描いて昇降する。一方、スライド駆動モータ19の回転はベルト25Aを介してナット部材25に伝達されており、そのナット部材25には、ナット部材25前記ケーシング17Aに連結したねじ軸26が螺合している。そして、ナット部材25を回転することによってナット部材25に螺着したねじ軸26を往復動させ、そのねじ軸26と連結したケーシング17Aを案内レール16に沿って水平方向にスライドさせるように構成しており、これら案内レール16、昇降駆動モータ18、スライド駆動モータ19及び平行リンク機構20、ナット部材25、ねじ軸26などが前記スプレー装置10の移動駆動手段の主要構成部品となる。なお、27は前記平行リンク機構20とケーシング17Aに固定した取付板28との間に連結したコイルバネである。
【0022】
次に主にスプレー装置10の動作制御について説明する。スプレー装置10を制御するマイコン50には昇降駆動モータ18、スライド駆動モータ19の回転数あるいは位置情報など検出する例えばポテンショメーターやエンコーダーなどのセンサ51からの信号が出力され、これらのセンサ51からの信号に基づいて昇降駆動モータ18、スライド駆動モータ19を駆動するためのドライバ52、53を制御する。また、ダイカストマシン11にはダイカストマシン11の前面部に配設されたキー入力手段54と、このキー入力手段54に隣接して例えばカラーCRTディスプレイ,カラーLCD等よりなる表示装置55が備えられている。なお、前記マイコン50はダイカストマシン11全体の動作制御を行うものであり、鋳造行程全体の制御や、実測データの演算・格納処理、あるいは、表示装置55の出力画像の表示制御処理等々の各種処理を実行する。このマイコン50は、実際には各種I/Oインターフェイス,ROM,RAM,CPU等を具備したもので構成され、予め作成された各種プログラムにより各種処理を実行するものであり、キー入力手段54等によって入力された各種運転条件値に基づいて運転プロセス(鋳造運転プロセス)に従って型締め、給湯機のラドルの制御、型開きなどの一連の動作を制御するが、ここでは主にスプレー装置10の制御について説明する。
【0023】
前記表示装置55は、キー入力手段54によるオペレータが所望するモードの表示画像の呼び出し指令によって、予め作成された表示画像作成・制御プログラムに基づき、指定された表示モードの表示画像データを作成する。すなわち、オペレータによる所定の表示画像の呼び出し指令が到来すると、必要に応じ適宜記憶部に格納された情報から当該表示モード画像の表示に用いるためのデータを抽出して表示形態に対応した形に変換処理したりして、指定された表示モード用の画像データを作成し、これを前記表示装置55の表示画面上に表示させる。
【0024】
図3は、オペレータが適宜のキー操作等によって表示装置55上に呼び出したスプレー装置10の運転条件設定モード画面を示す図である。(なお、表示装置55は操作側に配置されているが、図1は反操作側から見たダイカストマシンの背面図であり、図1における固定金型11Aと固定金型11Bの配置と表示装置55に表示される固定側と固定側の表示内容とは左右逆となる。)このスプレー装置10の運転条件設定モード画面では、スプレー動作の選択設定項目欄60、前進タイマ設定項目欄61、停止タイマ設定項目欄62、位置設定項目欄63、測定値欄64、キャビティ条件の設定項目欄65等が設けられている。スプレー動作の選択設定項目欄60は、スプレー装置10を固定金型11Aか可動金型11Bの何れかの方向に移動させるかを設定するものであり、可動金型11B側に移動する場合、可動側を選択し、固定金型11A側に移動する場合には固定側を選択する。(固定側を選択すると、選択設定項目欄60の欄に、可動側「×」、固定側「O」と表示される。なお、本実施例においては、固定金型11Aにキャビティ12が形成されているから、固定側を選択するものであるが、可動金型11B側にキャビティ12が形成されている場合、可動側を選択することになる。また、これらの設定項目はオペレータがキー入力手段54で数値を入力することによって、前進タイマー設定項目欄61では、図4においてスプレーノズル10Aの下端位置bからの前進開始からスプレー噴射までの時間を選定し、停止タイマ設定項目欄62ではスプレーの噴射時間を選定する。そして、位置定項目欄63では、スプレーノズル10Aの下端位置bからスプレーの噴射位置cまでの距離L(図4参照)を選定し、測定値欄64ではスプレー装置動作中に実際のスプレーノズル10Aの水平方向位置が表示される。また、キャビティ条件の設定項目欄65では、キャビティ12の深さを入力する。なお、これらの選定などは前記スプレー動作の選択設定項目欄60で可動側を選択、すなわち、スプレー装置10で可動金型11B側に移動させた場合も同様である。
【0025】
このように、オペレータがキー入力手段54によってスプレー装置10を制御する諸条件を入力してスプレー装置10の動作を制御するものであるが、予めキャビティ条件の設定項目欄65でキャビティ12の深さを入力することによって、スプレーノズル10Aの最適噴射位置と、待機位置aまで戻る最短移動軌跡が設定可能となる。すなわち、マイコン50でスプレー装置10を制御することによって、昇降駆動モータ18の回転により平行リンク機構20によって垂直状態を保った状態で昇降し、スライド駆動モータ19によってナット部材25を回転を回転させ、ナット部材25とねじ軸26との螺合によって、ねじ軸26を図1において図示左側に移動することによって、このねじ軸26と連結した前記ケーシング17Aを案内レール16に沿って水平方向にスライドさせ、固定金型11Aと可動金型11Bの型開き時において、各金型11A,11Bの外側の待機位置からキャビティ12に臨む位置まで移動してスプレーした後、再び固定金型11Aと可動金型11Bの外側に戻して固定金型11Aと可動金型11Bを型締めして成形動作となるが、スプレー装置10は、マイコン50によって、そのサイクル時間が短くなるように、移動工程が制御される。
【0026】
このスプレー装置10の移動工程に関し、図4の移動工程を示す説明図及び図5のフローチャート図を参照して説明する。成形後、固定金型11Aと可動金型11Bを型開きした状態で、ステップS1、S2で昇降駆動モータ18を回転することによってスプレーノズル10Aを平行リンク機構20によって垂直姿勢を保った状態で円弧軌跡を描いて降下させて、スプレーノズル10Aの待機位置a(図1で一点鎖線で示す)から下端位置bまで下降させる(下降工程W)。この下端位置b(図1で実線で示す)でエアブローする(ステップS3)。この後、スプレーノズル10Aによってキャビティ12に向けて離型剤を噴射するために前進(ステップS4)させるが、その移動距離Lは、キャビティ12の深さに相当する距離L1と下端位置bにおけるスプレーノズル10Aから固定金型11Aまで間の間隔より狭い距離L2とを合わせた距離である。すなわち、スプレーノズル10Aの昇降は、平行リンク機構20によって円弧軌跡を描いて昇降することから、下端位置bにおいては、キャビティ12を形成した固定金型11Aから離れており、さらに、キャビティ12自体の深さもあるから、キャビティ12に離型剤を正確に噴射するために、ステップ4において、下端位置bからスプレーノズル10Aから固定金型11Aまで間の間隔より狭い距離L2分水平移動させてから(水平前進工程W1)、キャビティ12の深さに相当する距離L1だけスプレーノズル10Aを水平移動させる(追い込み移動工程W2)。これは、スライド駆動モータ19を回転させ、ケーシング17Aに連結したねじ軸26を引っ張ることによって、スプレー装置10を備えたケーシング17Aを案内レール16に沿って水平方向にスライドさせる。こうして、スプレーノズル10Aを噴射位置cまで水平移動させ(ステップS5)、噴射位置cにてキャビティ12に向かって離型剤などを噴射する(ステップS6)。この後、スプレーノズル10Aは待機位置aまで戻す後退モードとなる。この後退モードにおける移動サイクルは、前述した前進時における移動サイクルとは異なる。すなわち、スプレーノズル10Aの噴射後は、ステップS7、S8にてスプレーノズル10Aを水平前進工程W1の移動距離と同じ距離(キャビティ12の深さに相当する距離L1)だけ逆方向に水平移動させる(後退工程W3)。これにより、スプレーノズル10Aは確実にキャビティ12から抜け出す。この後、追い込み移動工程W2の移動距離分だけ戻るように後退しながら上昇させて停止させる(ステップS9、S10)。これにより、スプレーノズル10Aは傾斜状の移動軌跡を描いて上昇し(傾斜移動工程W4)、キャビティ12外側の退避位置dへと最短距離で移動することが可能である。こうして斜め上方に移動して退避位置dまで移動したスプレーノズル10Aは、ステップS11にて待機位置aまで上昇して待機する(上昇移動工程W5)。
【0027】
以上のように、本実施例においては、ダイカストマシン11の型開きからスプレーノズル10Aの噴射動作に至る待機位置aから噴射位置cに至るスプレーノズル10Aの移動工程と、噴射位置cから待機位置aへと戻る移動工程とが異なり、戻る際の移動工程において、キャビティ12の深さに相当する距離L1だけスプレーノズル10Aを後退(水平前進工程W2の移動距離分)させた後、スプレーノズル10Aを追い込み移動工程W3の移動距離と同じ距離だけ戻るように後退しながら上昇させることによって、スプレーノズル10aは傾斜状に上昇してキャビティ12の外側へと最短距離で移動し、スプレー動作を効率化することができる。また、戻る際の移動工程において、まず、キャビティ12の深さに相当する距離L1だけスプレーノズル10Aを水平に後退させることによって、キャビティ12とスプレーノズル10Aとが干渉することなく、確実にキャビティ12へ退避することが可能となる。このように、成形後に実施されるスプレーノズル10Aにより噴射動作を効率化することによって、結果的に成形サイクルも効率化することが可能となる。特に、連続的に成形する成形装置において、スプレー時間を短縮化は、生産性を高める意味で重要である。しかも、スプレー動作時において、下端位置bにおいてキャビティ12の深さより僅かに短い距離L1に加えてスプレーノズル10aの先端と固定金型11Aとの間隔より僅かに短い距離L2だけ前進させて追い込むことによって、スプレーノズル10aはキャビティ12の内側に確実に入り込むことから、キャビティ12に向かって離型剤を正確かつ確実に噴射することができる。しかも、オペレータがキー入力手段54によってスプレー装置10を制御する諸条件を入力してスプレー装置10の動作を制御するものであるが、予めキャビティ条件の設定項目欄65でキャビティ12の深さを入力することによって、スプレーノズル10Aの最適噴射位置と、待機位置aまで戻る最短移動軌跡が設定可能となり、極めて効率的である。
【0028】
以上、本実施例の一実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。例えば、スプレー装置10やその移動駆動手段あるいはダイカストマシンの基本的構造など前記実施例に限定されるものではなく、適宜選定すればよい。さらに、前記実施例では、固定金型11Aにキャビティ12を形成した例を示したが、可動金型11Bに形成したり、あるいは固定金型11A及び可動金型11Bのそれぞれにキャビティ12を形成し、その各キャビティ12に向かってスプレー装置10からエアブロー又は離型剤を噴射するように構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本実施例におけるスプレー装置のダイカストマシンのフレーム上に設置した状態を示す反操作側から見たダイカストマシンの背面図である。
【図2】同上、スプレー装置を示す拡大正面図である。
【図3】同上、表示画面を示す正面図である。
【図4】同上、スプレー装置の移動工程を表した説明図である。
【図5】同上、スプレー装置の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0030】
1 金型装置
10 スプレー装置
10A スプレーノズル
11 ダイカストマシン
11A 固定型
11B 可動型
12 キャビティ
14 フレーム
15 ベース板
16 案内レール(支持部材)
17A ケーシング(取付部材)
18 昇降駆動モータ(昇降駆動手段)
19 スライド駆動モータ(往復動駆動手段)
20 平行リンク機構
21 ロアアーム(リンクアーム)
22 アッパーアーム(リンクアーム)
25 ナット部材
26 ねじ軸
54 キー入力手段
55 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型と可動金型とを有して内面に凹状のキャビティを設けた金型装置と、前記キャビティに離型剤等を噴射するスプレーノズルと、このスプレーノズルをキャビティと対向させるように移動させる移動駆動手段とを備え、前記移動駆動手段の移動工程として、前記スプレーノズルの待機位置から前記キャビティの内面と間隔をおいて該キャビティの内面と対向する下端位置まで下降させる下降工程と、前記キャビティの深さに相当する距離だけ前記スプレーノズルをキャビティに向かって前進させる水平前進工程と、前記キャビティと僅かな空隙を有して該キャビティとスプレーノズルとを近接するようにキャビティに向かって水平移動させる追い込み移動工程と、前記スプレーノズルによる離型剤等の噴射後、前記水平前進工程の移動距離分、逆方向に水平移動させる後退工程と、前記追い込み移動工程の移動距離分に相当する距離を後退しながら上昇することによって傾斜した移動軌跡を描いて前記スプレーノズルをキャビティの外側の退避位置まで後退させる傾斜移動工程と、前記退避位置から前記待機位置まで上昇させる上昇移動工程を備えることを特徴とするダイカストマシンのスプレー装置。
【請求項2】
前記ダイカストマシンのスプレー装置は、前記スプレー装置の設定用表示装置と、少なくとも前記水平前進工程の金型の深さに相当する距離を入力設定する手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載のダイカストマシンのスプレー装置。
【請求項3】
前記移動駆動手段が、前記ダイカストマシンのフレーム上に固定されるベース板と、ベース板に設けた支持部材と、この支持部材にスライ自在に案内される取付部材と、この取付部材に基端側を枢着するとともに先端に前記スプレーノズルを設けた一対のリンクアームからなる平行リンク機構と、前記一方のリンクアームを回転駆動して前記スプレーノズルを昇降する昇降駆動手段と、前記支持部材を水平に往復動する往復駆動手段とを備えたことを特徴とする請求項1記載のダイカストマシンのスプレー装置。
【請求項4】
前記昇降駆動手段が正逆回転可能な昇降用電動モータで構成され、往復駆動手段が前記ベース板側に固定されるスライド用電動モータによって構成され、このスライド用電動モータによって前記取付部材に連結したねじ軸と螺合するナット部材を回転させて前記取付部材をスライドさせることによって前記スプレーノズルを水平方向にスライド移動するように構成したことを特徴とする請求項3記載のダイカストマシンのスプレー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−88198(P2006−88198A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−277348(P2004−277348)
【出願日】平成16年9月24日(2004.9.24)
【出願人】(000222587)東洋機械金属株式会社 (299)
【Fターム(参考)】