説明

ダイシングテープおよびチップ状部品の製造方法

【課題】半導体ウエハ等の板状部材をダイシングし、チップ状部品を製造し、これをピックアップする際に、突き上げ針による突き上げを行なうことなく、チップ状部品を破損させずにピックアップできるダイシングテープを提供する。
【解決手段】ダイシングテープDTは、板状部材をチップに個片化する際に該板状部材の裏面に貼付されるダイシングテープDTであって、支持シート10と、熱収縮性フィルム21および粘着剤層22からなる易剥離シート20とを積層して形成され、該熱収縮性フィルム21に貫通孔30が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状部材を個片化し、チップ状部品を作成する際に、板状部材を固定するために使用されるダイシングテープに関する。また、本発明は該ダイシングテープを使用したチップ状部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、半導体ウエハなどの多数の部品が形成された板状部材を部品毎のチップ体に分割する際には、ダイシングテープにより板状部材を固定して、部品毎に切断分離(ダイシング)するダイシング工程を行なっている。そして、このダイシング工程によって分割された個々のチップ状部品を、ダイシングテープからピックアップして(取り上げて)、例えば、別途用意したTABテープなどの電子部品実装用フィルムキャリアテープなどにダイボンディングして、半導体装置などの所望の装置を得ている。
【0003】
チップ状部品をダイシングテープからピックアップする際には、ダイシングテープの背面から突き上げ針を突き上げて、チップ状部品をダイシングテープから剥離して、チップ状部品の上面より吸引コレットで吸引把持する方法が採用されている。近年、板状部材(例えば半導体ウエハ)は、実装効率を向上させるため、その厚さを極めて薄くするようになっている。このため、突き上げ時の衝撃で、チップ状部品が破損するおそれが高くなってきている。
【0004】
このような状況に鑑みて、本出願人は、特許文献1(特開平10−233373号公報)、特許文献2(特開平10−284446号公報)、特許文献3(特開平11−3875号公報)、特許文献4(特開2004−119992号公報)に開示されるように、ピックアップの際に、突き上げ針による突き上げを行なうことなく、吸引コレットによる吸引のみで、チップ状部品をダイシングテープからピックアップできるダイシングテープを提案した。
【0005】
これら特許文献1〜4に開示されたダイシングテープDTは、非収縮性フィルムと、収縮性フィルムと、粘着剤層とからなり、非収縮性フィルムと、収縮性フィルムとは直接積層されていてもよく、接着剤層を介して積層されていてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−233373号公報
【特許文献2】特開平10−284446号公報
【特許文献3】特開平11−3875号公報
【特許文献4】特開2004−119992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
半導体チップに代表されるように、チップ状部品には、小型化、薄化、軽量化が求められ続けている。チップ状部品の小型化、薄化、軽量化が進められた結果、上記のようなダイシングテープを用いた際に、ダイシングテープからチップ状部品を剥離する際の剥離力によって、チップ状部品が破損するおそれが高くなった。
【0008】
本発明は、上記のような状況に鑑みてなされたものであって、半導体ウエハ等の板状部材をダイシングし、チップ状部品を製造し、これをピックアップする際に、突き上げ針による突き上げを行なうことなく、チップ状部品を破損させずにピックアップできるダイシングテープを提供することを目的とする。また、該ダイシングテープを用いたチップ状部品の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
〔1〕板状部材をチップに個片化する際に該板状部材の裏面に貼付されるダイシングテープであって、
支持シートと、熱収縮性フィルムおよび粘着剤層からなる易剥離シートとを積層して形成され、
該熱収縮性フィルムに貫通孔が形成されているダイシングテープ。
【0010】
〔2〕該支持シートがリングフレームに固定可能な大きさを有し、
該易剥離シートの外径が、該リングフレームの内径よりも小さく、かつ、該板状部材の直径より0〜10mm大きい〔1〕に記載のダイシングテープ。
【0011】
〔3〕板状部材を〔1〕または〔2〕に記載のダイシングテープに貼付する工程、
板状部材をチップに個片化する工程、および
加熱によって熱収縮性フィルムを収縮させ、チップをダイシングテープからピックアップする工程を有するチップ状部品の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るダイシングテープによれば、半導体ウエハ等の板状部材をダイシングし、チップ状部品を製造する際に、チッピングやチップ割れを防止することができる。また、チップ状部品をピックアップする際に、突き上げ針による突き上げを行なうことなく、チップ状部品を破損させずにピックアップできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るダイシングテープの一実施形態の概略断面図である。
【図2】本発明に係るダイシングテープの使用態様を示す概略断面図である。
【図3】ダイシング工程を示す概略断面図である。
【図4】加熱変形工程を示す概略断面図である。
【図5】本発明に係るダイシングテープの使用態様を示す概略断面図である。
【図6】回路が形成された半導体ウエハの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るダイシングテープについて、添付図面に基づいて説明する。
【0015】
本発明に係るダイシングテープDTは、支持シート10と、熱収縮性フィルム21および粘着剤層22からなる易剥離シート20とを積層して形成され、該熱収縮性フィルム21に貫通孔30が形成されている。支持シート10としては、図1に示すように、基材フィルム11および接着剤層12からなるシートを用いることが好ましい。なお、支持シート10が接着剤層12を介さずに熱収縮性フィルム21と積層された構成としてもよい。支持シート10として基材フィルム11および接着剤層12からなるシートを用いる場合、図1に示すように、基材フィルム11は接着剤層12を介して熱収縮性フィルム21と積層される。支持シート10が接着剤層12を介さずに熱収縮性フィルム21と積層された構成とする場合、基材フィルム11と熱収縮性フィルム21とは直接積層される。基材フィルム11と熱収縮性フィルム21を直接積層する方法としては、たとえば熱収縮性フィルム21に塗布展延してフィルムを形成可能な組成物を用いて熱収縮性フィルム21上に基材フィルム11を形成する方法が挙げられる。このような方法では、塗布展延してフィルムを形成可能な組成物として、積極的に熱を加えずフィルムを形成できる、エネルギー線照射により硬化する組成物等を用いることが好ましい。
【0016】
以下、図1に示すダイシングテープDTにおける、基材フィルム11および接着剤層12からなる支持シート10と、熱収縮性フィルム21および粘着剤層22からなる易剥離シート20のそれぞれについて詳述する。
【0017】
(支持シート10)
本発明に用いられる支持シート10は、基材フィルム11および接着剤層12からなることが好ましい。基材フィルム11は、特に限定はされないが、エキスパンド可能な伸張性を有し、耐水性および耐熱性に優れているものが適し、特に合成樹脂フィルムが適する。
【0018】
このような基材フィルム11としては、具体的には、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン・プロピレン共重合体、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリブタジエン、ポリメチルペンテン、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸メチル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エチル共重合体、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、エチレン・塩化ビニル・酢酸ビニル共重合体、ポリウレタンフィルム、ポリアミドフィルム、アイオノマー等からなるフィルムなどが用いられる。また、基材フィルム11は、上記のフィルムを2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0019】
基材フィルム11の厚さは、通常5〜500μmであり、好ましくは10〜300μmである。本発明で用いられる基材フィルム11の23℃における弾性率は通常1×109N/m2未満、好ましくは1×107〜1×109N/m2の範囲にあることが望ましい。23℃における弾性率がこのような範囲にあることで、ダイシングテープDTをエキスパンドする際に過度の力を加えることなく引き伸ばすことが可能となり、かつ熱収縮性フィルム21の破断を引き起こす力を熱収縮性フィルム21に伝播させやすい。
【0020】
基材フィルム11の他層と接する面(例えば接着剤層12と接する面)には、密着性を向上させるために、コロナ処理を施したり、プライマー層等の他の層を設けてもよい。
【0021】
本発明では、後述するように、熱収縮性フィルム21の収縮の前または後に、粘着剤層22にエネルギー線を照射することがあるが、この場合には、基材フィルム11を構成するフィルムは照射するエネルギー線の透過性が高いことが好ましい。
【0022】
本発明における接着剤層12を形成するための接着剤としては、特に制限されることなく、従来より汎用の接着剤が用いられ、アクリル系、ゴム系、シリコーン系などの接着剤;ポリエステル系、ポリアミド系、エチレン共重合体系、エポキシ系、ウレタン系等の熱可塑性または熱硬化性の接着剤;アクリル系、ウレタン系等の紫外線硬化型接着剤や電子線硬化型接着剤が挙げられる。特に弾性率が1.0×105N/m2以上、好ましくは1.0×107N/m2以上の接着剤を用いることが好ましい。このような接着剤を用いることにより、後述する熱収縮性フィルム21をより均一に収縮でき、接着剤の露出が防止され、チップのピックアップを円滑に行うことができる。
【0023】
接着剤層12の厚みは、特に限定はされないが、通常は1〜50μmであり、好ましくは3〜20μmである。
【0024】
基材フィルム11の表面に接着剤層12を設ける方法は、剥離シート上に所定の膜厚になるように塗布し形成した接着剤層を、基材フィルム11の表面に転写しても構わないし、基材フィルム11の表面に直接塗布して接着剤層12を形成しても構わない。このようにして、支持シート10を得ることができる。
【0025】
(易剥離シート20)
本発明に用いられる易剥離シート20は、熱収縮性フィルム21および粘着剤層22からなる。
【0026】
熱収縮性フィルム21は、加熱によって収縮する特性を有する基材である。このような熱収縮性フィルム21としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニルなどの一軸延伸、二軸延伸フィルム等の樹脂基材が挙げられる。熱収縮性フィルム21は、上記樹脂基材の単層であってもよいし、複層体からなってもよい。また、架橋等の処理を施した基材であってもよい。
【0027】
熱収縮性フィルム21の厚さは特に限定されないが、通常5〜300μmであり、好ましくは10〜200μmである。
【0028】
熱収縮性フィルム21の収縮率は、好ましくは10〜90%、より好ましくは20〜80%である。なお、ここで収縮率は、収縮前における熱収縮性フィルムの寸法(収縮前の寸法)と、110℃に加熱した収縮後における熱収縮性フィルムの寸法(収縮後の寸法)とから、下記の数式(1)に基づき算出する。
【0029】
【数1】

【0030】
また、本発明に用いられる熱収縮性フィルム21には、図1に示すように、貫通孔30が形成されている。貫通孔30は、熱収縮性フィルム21の加熱収縮により、その直径が大きくなり、その結果、熱収縮性フィルム21上に形成されている粘着剤層22も、熱収縮性フィルム21の収縮および貫通孔30の拡大に同伴して変形する。そのため、半導体チップ6と粘着剤層22との接着面積が減少し、チップ間隔が縦・横均一に拡がると共に、チップ6のピックアップが容易になる。
【0031】
熱収縮性フィルム21を加熱収縮させる前の貫通孔30の直径は、好ましくは5〜500μm、より好ましくは10〜200μm、特に好ましくは30〜100μmである。貫通孔30の直径が5μm未満の場合は、熱収縮性フィルムが加熱により十分に収縮せず、貫通孔30の直径も十分に拡がらないため、半導体チップのピックアップが困難になることがある。また、貫通孔30の直径が500μmを超える場合は、熱収縮性フィルム21上の粘着剤層22に比較的大きな凹凸が形成されてしまうため、ダイシング特性が悪化し、チッピングが発生するおそれがある。
【0032】
熱収縮性フィルム21を加熱収縮させる前の貫通孔同士の間隔(隣接する貫通孔との平均距離)は、好ましくは0.5〜5mm、より好ましくは1〜3mmである。また、熱収縮性フィルム21を加熱収縮させる前の貫通孔30の総面積(熱収縮性フィルム21の総面積に占める貫通孔30の面積割合)は、好ましくは0.000078〜19.63%、より好ましくは0.01〜0.65%である。熱収縮性フィルム21を加熱収縮させる前の貫通孔同士の間隔が広すぎる、または貫通孔30の総面積が小さすぎる場合は、熱収縮性フィルムが加熱により十分に収縮せず、貫通孔30の直径も十分に拡がらないため、半導体チップのピックアップが困難になることがある。また、貫通孔同士の間隔が狭すぎる、または貫通孔30の総面積が大きすぎる場合は、熱収縮性フィルム21上の粘着剤層22に比較的大きな凹凸が形成されてしまうため、ダイシング特性が悪化し、チッピングが発生するおそれがある。
【0033】
貫通孔30の形状は、円形であることが好ましいが、特に限定されることはなく、矩形であってもよい。
【0034】
貫通孔30は、図1および図2に示すように、ダイシングテープDTの全面に形成されていてもよく、ダイシングテープDTにおける半導体ウエハ5を貼付する面にのみ形成されていてもよい。
【0035】
貫通孔の穿孔方法は特に限定はされず、たとえば細い針を突き刺して貫通孔を形成してもよいが、レーザー光を使用することが簡便であり好ましい。レーザー光による穿孔方法としては、YAGレーザー等の固体レーザー、COレーザー等の気体レーザー等による方法が挙げられるが、COレーザーが好ましい。この場合に使用するレーザー光は、少なくとも熱収縮性フィルム21を熱分解しうる程度の強度および波長を有する必要がある。したがって、たとえば波長10.6μm程度の赤外線レーザーが好ましく用いられる。
【0036】
粘着剤層22は、半導体ウエハに対する適度な再剥離性があれば、従来より公知の種々の粘着剤により形成され得る。このような粘着剤としては、何ら限定されず、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルエーテル系などの汎用粘着剤が用いられる。また、粘着剤層22は、エネルギー線の照射により硬化して再剥離性となるエネルギー線硬化型粘着剤を用いて形成してもよい。
【0037】
粘着剤層22の厚さは特に限定されないが、通常は3〜100μmであり、好ましくは10〜50μmである。
【0038】
粘着剤層22には、貫通孔が形成されていてもよく、また形成されていなくてもよいが、貫通孔が形成されているとダイシングテープDTの加熱によって、よりピックアップ力が低下しやすいため好ましい。図では、粘着剤層22に貫通孔が形成された態様を示した。
【0039】
本発明に用いる易剥離シート20は、貫通孔30の形成された熱収縮性フィルム21の表面に粘着剤層22を設ける方法や、貫通孔30の形成されていない熱収縮性フィルム21の表面に粘着剤層22を設け、その後、レーザーを照射して、貫通孔30を形成する方法等により得られる。ここで用いられるレーザーとして好ましいものは、熱収縮性フィルム21に貫通孔30を設けるのに用いるものと同様である。
【0040】
貫通孔30の形成された熱収縮性フィルム21の表面に粘着剤層22を設ける方法としては、剥離シート上に所定の膜厚になるように塗布し形成した粘着剤層を、貫通孔30の形成された熱収縮性フィルム21の表面に転写する方法が挙げられる。また、貫通孔30の形成された熱収縮性フィルム21の表面に、粘着剤を直接塗布して粘着剤層22を形成しても構わない。
【0041】
貫通孔30の形成されていない熱収縮性フィルム21の表面に粘着剤層22を設ける方法としては、上記の方法と同様に、剥離シート上に所定の膜厚になるように塗布し形成した粘着剤層を、貫通孔30の形成されていない熱収縮性フィルム21の表面に転写する方法が挙げられる。また、貫通孔30の形成されていない熱収縮性フィルム21の表面に、粘着剤を直接塗布して粘着剤層22を形成しても構わない。このようにして積層された熱収縮性フィルム21と粘着剤層22とに、COレーザー等を照射して貫通孔30を形成することで、本発明に用いる易剥離シート20を得ることができる。上記方法で貫通孔30を形成することで、本発明に係るダイシングテープDTの製造工程を簡略化できる。
【0042】
(ダイシングテープDT)
本発明に係るダイシングテープDTは、上述した支持シート10と易剥離シート20とを積層することで形成され、積層方法は特に限定されない。
【0043】
ダイシングテープDTは、図2に示すように、その粘着剤層22上に被切断物である板状部材(例えば半導体ウエハ5)が貼付され、ダイシングテープDTの端部をリングフレーム7等で固定した状態で使用される。そして、図3に示すように、貼付された半導体ウエハ5をダイシングしてチップ状部品(例えば半導体チップ6)とする。次いで、図4に示すように、熱収縮性フィルム21を収縮させると、熱収縮性フィルムに伴って粘着剤層22も収縮し、粘着剤層22と半導体チップ6との接触面積が低減する。その結果、半導体チップ6のピックアップが容易になる。
【0044】
図2および図5に、本発明において用いられるダイシングテープDTの好ましい構成について、リングフレーム7や半導体ウエハ5との配置関係とともに示す。粘着剤層22、熱収縮性フィルム21、接着剤層12および基材フィルム11の具体例および好適な態様は上記で説明したとおりである。なお、接着剤層12は、上述したように必ずしも必須ではない。
【0045】
図2に示すダイシングテープDTは、基材フィルム11および接着剤層12からなる支持シート10上全面に、熱収縮性フィルム21および粘着剤層22からなる易剥離シート20が積層されている。ダイシングテープDTの端部は、粘着剤層22上周縁部においてリングフレーム7によって固定され、粘着剤層22上には半導体ウエハ5が貼付される。
【0046】
本発明に係るダイシングテープDTにおいては、図5に示すように、支持シート10がリングフレーム7に固定可能な大きさを有し、易剥離シート20の外径は、リングフレーム7の内径よりも小さく、かつ、半導体ウエハ5の直径より0〜10mm大きいことが好ましい。易剥離シート20の外径がリングフレーム7の内径よりも大きい場合、または、易剥離シート20の外径が半導体ウエハ5の直径より10mmを超えて大きい場合には、熱収縮性フィルムの収縮性が不安定となり、良好なピックアップ性が得られないことがある。
【0047】
(チップ状部品の製造方法)
次に、本発明に係るチップ状部品の製造方法について、図2に示すダイシングテープDTを用いて説明する。
【0048】
本発明においては、まず、表面に回路8が形成された板状部材(例えば半導体ウエハ5)を準備し、ダイシングテープDTの粘着剤層22上に半導体ウエハ5を貼付し、該ダイシングテープDTをリングフレーム7で固定する。
【0049】
板状部材は、半導体ウエハの他、発光素子材料板状部材、樹脂封止された半導体チップの載置された基板等が挙げられる。半導体ウエハ5はシリコンウエハであってもよく、またガリウム・砒素などの化合物半導体ウエハであってもよい。図6に、半導体ウエハ5の回路面側の平面図を示す。ウエハ表面への回路8の形成はエッチング法、リフトオフ法などの従来より汎用されている方法を含む様々な方法により行うことができる。半導体ウエハの回路形成工程において、所定の回路8が形成される。図6に示すように、回路8は半導体ウエハ5の内周部表面に通常格子状に形成される。半導体ウエハ5の厚みは特に限定されないが、通常は10〜500μm程度である。
【0050】
次いで、半導体ウエハ5を半導体チップ6に個片化(ダイシング)する。ダイシングは、図6に示すダイシングラインDLに沿って行われる。ダイシングの際の深さは、通常図3に示すように、易剥離シート20を完全に切断し、支持シート10の途中までとする。熱収縮性フィルム21を完全に切断することによって、収縮性を拘束する作用が小さくなるので、熱収縮性フィルム21の収縮性を十分に発現させることができる。
【0051】
一方、ダイシングソーを用いてダイシングを行う場合に、この際の切断深さを、半導体ウエハ5の厚みおよびダイシングソーの磨耗分を加味した深さにし、支持シート10を切り込まないようにすると、支持シート10の切削屑が発生せず、その後の加工工程における不具合を防止することができる。このような工程では、易剥離シート20は完全に切断されないことがある。また、レーザーにより半導体ウエハ5を切断した場合に、易剥離シート20がレーザーにより半導体ウエハ5と同時に切断される性質ではないときは、ダイシング後も切断されないままとなる。
【0052】
また、個片化は、半導体ウエハなどの切断を予定する部分にレーザーを照射して易割断性を有する改質領域を設け、エキスパンドにより該改質領域を割断して切断分離する方法であるステルスダイシング(登録商標)であってもよい。このような方法では、厳密にはエキスパンド前に行われるのは個片化の前処理であって、個片化そのものではないが、本発明に言う個片化は、そのような個片化の前処理も含む。ステルスダイシング(登録商標)法において、半導体ウエハ5に対してのレーザーによる改質領域の形成を本発明のダイシングテープDT上で行う場合、個片化の前処理の終了後も易剥離シート20は切断されていない。
【0053】
以上のような場合に、次いで支持シート10のエキスパンドを行うと、本発明のダイシングテープDTは、熱収縮性フィルム21に貫通孔が設けられているので、半導体チップの貼着されていない部分において貫通孔に沿って易剥離シート20が割断される。これにより、半導体チップの間隔が拡張するので、上記の易剥離シート20を完全に切断する場合と同様に、熱収縮性フィルム21の収縮性が十分に発現され、半導体チップのピックアップを容易に行えるようになるため好ましい。この際、半導体チップと粘着剤層との間にずれが発生することになり、半導体チップと粘着剤層との間の密着力が減少し、半導体チップのピックアップ性が向上する。ステルスダイシング(登録商標)法により個片化の前処理を行った場合は、エキスパンドと同時に半導体ウエハのチップへの割断も行われる。
【0054】
易剥離シート20を個片化の際に完全に切断した場合は、エキスパンド工程は行ってもよいし、省略してもよい。
【0055】
次いで、半導体チップ6とダイシングテープDTとの積層体を加熱することで、図4に示すように、熱収縮性フィルム21を収縮させる。加熱条件は、通常60〜150℃で、30〜120秒間である。このようにして熱収縮性フィルム21を収縮させると、熱収縮性フィルム21の収縮に伴い貫通孔30の直径が拡がる。その結果、熱収縮性フィルム21上に形成されている粘着剤層22も熱収縮性フィルム21の収縮に同伴して変形するため、半導体チップ6と粘着剤層22との接着面積が減少する。また、この際にチップ6と粘着剤層22との間にずれ応力が生じるため、チップ6と粘着剤層22との接着力が低下する。また、図2のように粘着剤層22上周縁部においてリングフレーム7によって固定されている場合に、ダイシングテープDTの外周部の切断されていない部分を加熱すると、外周部の切断されていない熱収縮性フィルム21が収縮するが、この部分はその一端がリングフレーム7に固定されている。その結果、この収縮力が支持シート10に伝播し、ダイシングテープDT全体にリングフレーム7の方向に引き伸ばされる張力が働く。この張力がチップ6の保持部に伝播することで、チップ間隔が縦・横均一に拡がる。つまり、これによりダイシングテープDTをエキスパンドしたのと同様の効果が得られる。したがって、エキスパンド工程を省略しても、良好に半導体チップ6のピックアップが行えるため、好ましい。
【0056】
その後、半導体チップ6をダイシングテープDTからピックアップする。半導体チップ6のピックアップ方法は特に限定はされず、従来の突き上げ針を用いたピックアップ方法であってもよいが、本発明では、半導体チップ6と粘着剤層22との間の接着力が低く、またチップ間隔が拡張されているため、突き上げ針を使用せずに、吸引コレットのみによって半導体チップ6のピックアップが可能になる。
【0057】
具体的には、半導体チップ6の位置をセンサーなどで検出して、図示しない吸引コレットを左右に移動して位置決めして下降させることによって、チップ6が個々に吸引されてピックアップされる。その後、別途用意したTABテープなどの電子部品実装用フィルムキャリアテープなどへのダイボンディング(実装)工程を経て、半導体装置が製造される。この際、従来のように突き上げ針を使用しなくてすむので、チップの損傷や、チップ下面への粘着剤の付着が防止できる。なお、粘着剤層22をエネルギー線硬化型粘着剤で形成した場合は、ピックアップ工程の前に、粘着剤の粘着力を低下させチップを剥離しやすくするためにエネルギー線を照射することが好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において、「熱収縮性フィルムの110℃における収縮率」は以下のように測定した。また、「ダイシング適性」および「ピックアップ性」は次のようにして評価した。
【0059】
<熱収縮性フィルムの110℃における収縮率>
実施例および比較例に用いた熱収縮性フィルムを100mm×100mmの正方形に裁断し、試験片とした(収縮前の寸法:100mm)。試験片を、110℃のオイルバスに浸し、10秒後に取り出して、MD方向の辺とCD方向の辺の収縮後の長さを測定し、平均値を収縮後の寸法とした。下記式より収縮率を求めた。
【数2】

【0060】
<ダイシング適性>
実施例および比較例で作製したダイシングテープに、8インチのシリコンウエハ(直径200mm、厚さ30μm)を貼付し、ダイシングテープをリングフレームに固定した。次いで、公知のブレードダイシングによる切断方法により、シリコンウエハをチップ(サイズ:5mm×5mm)に個片化した。なお、個片化時におけるダイシングブレードのダイシングテープへの切り込み量としては、支持シートの基材フィルムに対して20μm切り込んだ。すなわち、全体の厚み130μmのダイシングテープに対して70μm切り込み、基材フィルムを60μm残すようにした。その後、ダイシングテープに紫外線照射(230mW/cm、190mJ/cm)を行い、別のテープにチップを転写し、ダイシングテープを剥離して、チップ裏面側から、チッピング、チップ割れの有無を目視にて確認した。
【0061】
<ピックアップ性>
実施例および比較例で作製したダイシングテープに、8インチのシリコンウエハ(直径200mm、厚さ50μm)を貼付し、ダイシングテープをリングフレームに固定した。次いで、公知のブレードダイシングによる切断方法により、シリコンウエハをチップ(サイズ:5mm×5mm、10mm×10mm)に個片化した。なお、個片化時におけるダイシングブレードのダイシングテープへの切り込み量は、ダイシング適性の評価と同様に、支持シートの基材フィルムに対して20μmとした。その後、ダイシングテープに紫外線照射(230mW/cm、190mJ/cm)を行い、110℃に加熱した板(8インチウエハと同サイズ)を準備し、ダイシングテープの支持シートを下にして、板の上に乗せ、1分間熱処理を行った。その後、ピックアップ装置により、ダイシングテープが張る程度にエキスパンド(2mm引き落とし)した。ダイシングテープの裏面からピックアップピンによる突き上げを行うことなく、チップ表面をバキュームピンセットで吸着し、チップをダイシングテープからピックアップした。チップのピックアップについて、バキュームピンセットですぐにピックアップできた場合を「良好」、3秒の吸着時間をおき、ゆっくりピックアップできた場合を「可」、ピックアップできなかった場合を「不可」と評価した。
【0062】
(実施例1)
<易剥離シートの作製>
ブチルアクリレート60重量部、メチルメタクリレート20重量部、2−ヒドロキシエチルアクリレート28重量部からなる共重合体100gに対して、メタクリロイルオキシエチルイソシアネート33.6gを反応させて得られたポリマー100重量部、紫外線硬化型反応開始剤3重量部、および架橋剤(イソシアナート系)1重量部を反応させて、エネルギー線硬化型粘着剤組成物を得た。
【0063】
剥離シートとして、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を準備し、その上に、上記の粘着剤組成物を粘着剤層の厚さが10μmとなるように塗布し、100℃で1分間加熱した。次いで、貫通孔の形成されていない熱収縮性フィルムとして、熱収縮性ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ30μm、110℃における収縮率が50%)を準備し、剥離シート上の粘着剤層に貼合した。その後、剥離シートを剥離し、熱収縮性フィルムに貫通孔の形成されていない易剥離シートを得た。
【0064】
炭酸ガス(CO)レーザー加工装置(松下電器製、YB−HCS03T04、波長10.6μm)を用いて、熱収縮性フィルムに貫通孔の形成されていない易剥離シートの粘着剤層側からレーザーを入射し、粘着剤層面の孔径(貫通孔の直径)が45μm、貫通孔同士の間隔が2mmとなるように貫通孔を形成し、易剥離シートを得た。なお、易剥離シートの熱収縮性フィルムにおける貫通孔の総面積は、0.04%であった。
【0065】
<支持シートの作製>
ブチルアクリレート91重量部、アクリル酸9重量部からなる共重合体100重量部と、架橋剤(イソシアナート系)1重量部を反応させて、接着剤組成物を得た。
【0066】
剥離シートとして、剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ38μm)を準備し、その上に、上記の接着剤組成物を接着剤層の厚さが10μmとなるように塗布し、100℃で1分間加熱した。次いで、基材フィルムとして、非収縮性エチレン−メタクリル酸共重合体フィルム(厚さ80μm、110℃における収縮率が0.1%)を準備し、剥離シート上の接着剤層に貼合した。その後、剥離シートを剥離し、支持シートを得た。
【0067】
<ダイシングテープの作製>
上記易剥離シートの熱収縮性フィルム側に、上記支持シートの接着剤層を貼合し、リングフレームのサイズに型抜きして、図2に示す構成のダイシングテープを得た。このダイシングテープについて、「ダイシング適性」および「ピックアップ性」を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(実施例2)
粘着剤層面の孔径(貫通孔の直径)を30μm、貫通孔同士の間隔を3mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてダイシングテープを得、評価を行った。結果を表1に示す。なお、易剥離シートの熱収縮性フィルムにおける貫通孔の総面積は、0.01%であった。
【0069】
(実施例3)
粘着剤層面の孔径(貫通孔の直径)を100μm、貫通孔同士の間隔を1mmとしたこと以外は、実施例1と同様にしてダイシングテープを得、評価を行った。結果を表1に示す。なお、易剥離シートの熱収縮性フィルムにおける貫通孔の総面積は、0.65%であった。
【0070】
(実施例4)
実施例1の易剥離シートを直径210mmの円形に型抜きした。また、実施例1の支持シートをリングフレームのサイズに型抜きした。上記の易剥離シートの熱収縮性フィルム側に、上記支持シートの接着剤層を熱収縮性フィルムと支持シートが同心円状になるように貼合し、図5に示す構成のダイシングテープを得、評価を行った。結果を表1に示す。なお、易剥離シートの熱収縮性フィルムにおける貫通孔の総面積は、0.04%であった。
【0071】
(比較例1)
熱収縮性フィルムに貫通孔の形成されていない易剥離シートを用いたこと以外は、実施例1と同様にしてダイシングテープを得、評価を行った。結果を表1に示す。
【0072】
(比較例2)
熱収縮性フィルムに貫通孔の形成されていない易剥離シートを用いたこと以外は、実施例4と同様にしてダイシングテープを得、評価を行った。結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【符号の説明】
【0074】
DT : ダイシングテープ
10 : 支持シート
11 : 基材フィルム
12 : 接着剤層
20 : 易剥離シート
21 : 熱収縮性フィルム
22 : 粘着剤層
30 : 貫通孔
5 : 半導体ウエハ
6 : 半導体チップ
7 : リングフレーム
8 : 回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材をチップに個片化する際に該板状部材の裏面に貼付されるダイシングテープであって、
支持シートと、熱収縮性フィルムおよび粘着剤層からなる易剥離シートとを積層して形成され、
該熱収縮性フィルムに貫通孔が形成されているダイシングテープ。
【請求項2】
該支持シートがリングフレームに固定可能な大きさを有し、
該易剥離シートの外径が、該リングフレームの内径よりも小さく、かつ、該板状部材の直径より0〜10mm大きい請求項1に記載のダイシングテープ。
【請求項3】
板状部材を請求項1または2に記載のダイシングテープに貼付する工程、
板状部材をチップに個片化する工程、および
加熱によって熱収縮性フィルムを収縮させ、チップをダイシングテープからピックアップする工程を有するチップ状部品の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−209384(P2012−209384A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73095(P2011−73095)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】