説明

ダイシング・ダイボンドフィルム

【課題】リフロークラックの発生を防止し信頼性に優れた半導体装置を生産性良く製造することを可能にするダイシング・ダイボンドフィルムを提供する。
【解決手段】ダイシング・ダイボンドフィルムは、支持基材上に粘着剤層が設けられたダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に設けられたダイボンドフィルムとを少なくとも有するダイシング・ダイボンドフィルムであって、下記式(1)により算出される吸水率が1.5重量%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、半導体装置の製造方法等に用いるダイシング・ダイボンドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の半導体装置の製造方法においては、回路パターンを形成した半導体ウェハは、必要に応じて裏面研磨により厚さを調整した後、半導体チップにダイシングされる(ダイシング工程)。このダイシング工程では、冷却や切り屑の飛散防止のために切削水(通常、液圧2kg/cm程度)を噴射して行われるのが一般的である。
【0003】
次いで、前記半導体チップを接着剤にてリードフレームなどの被着体に固着(マウント工程)した後、ボンディング工程に移される。前記マウント工程にあたっては、接着剤をリードフレームや半導体チップに塗布していた。しかし、この方法では接着剤層の均一化が困難であり、また接着剤の塗布に特殊装置や長時間を必要とする。このため、ダイシング工程で半導体ウェハを接着保持するとともに、マウント工程に必要なチップ固着用の接着剤層(ダイボンドフィルム)をも備えるダイシング・ダイボンドフィルムが提案されている。
【0004】
前記ダイシング・ダイボンドフィルムは、支持基材上にダイボンドフィルムを剥離可能に設けてなるものである。すなわち、ダイボンドフィルムによる保持下に半導体ウェハをダイシングしたのち、支持基材を延伸して半導体チップをダイボンドフィルムとともに剥離し、これを個々に回収してそのダイボンドフィルムを介してリードフレームなどの被着体に固着させるようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭60−57642号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、電子機器の小型・薄型化による高密度実装の要求が、近年、急激に増加している。このため、半導体パッケージは、従来のピン挿入型に代わり、高密度実装に適した表面実装型が主流になっている。この表面実装型は、リードをプリント基板等に直接はんだ付けする。このため、加熱方法としては、赤外線リフローやベーパーフェーズリフロー、はんだディップなどにより、パッケージ全体を加熱して実装される。加熱は、パッケージ全体を210℃〜260℃の高温にさらすため、パッケージ内部に水分が存在すると、水分の爆発的な気化により、パッケージクラック(以下、リフロークラックという)が発生する。
【0007】
ここで、ダイボンドフィルムに起因するリフロークラックの発生メカニズムは、次の通りである。即ち、ダイボンドフィルムに多くの水分が吸湿されていると、この水分がリフローはんだ付けの実装時に加熱によって水蒸気化し、この蒸気圧によってダイボンドフィルムの破壊や剥離が生じ、リフロークラックが発生する。
【0008】
封止樹脂の耐リフロークラック性が向上してきている中で、ダイボンドフィルムの吸湿に起因するリフロークラックは、特に薄型の半導体パッケージの信頼性を著しく低下させるため深刻な問題となっており、ダイボンドフィルムの耐リフロークラック性の改良が強く要求されている。
【0009】
本発明は前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、リフロークラックの発生を防止し信頼性に優れた半導体装置を生産性良く製造することを可能にするダイシング・ダイボンドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記の目的を達成する為に検討した結果、ダイボンドフィルムの吸湿が、ダイシング・ダイボンドフィルムとして保管されている間に、ダイシングフィルムから水分が移行する場合や、半導体ウェハのダイシングの際に用いる切削水による場合、更に、半導体パッケージとして保管されている場合に発生することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明に係るダイシング・ダイボンドフィルムは、支持基材上に粘着剤層が設けられたダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に設けられたダイボンドフィルムとを少なくとも有するダイシング・ダイボンドフィルムであって、下記式(1)により算出される吸水率が1.5重量%以下であることを特徴とする。
【0012】
【数1】

【0013】
本発明に於いては、前記構成の通り、ダイシング・ダイボンドフィルム全体の吸水率を1.5重量%以下にすることで、例えば、ダイシング・ダイボンドフィルムの保管中に、ダイボンドフィルムがダイシングフィルム中の水分を過度に吸湿し、その後のリフロー工程でリフロークラックが発生するのを防止することができる。また、例えば、半導体ウェハのダイシングの際に、当該工程で用いられる切削水により、ダイシングフィルムやダイボンドフィルムが吸湿し、これにより両者の界面に水が浸入するのを防止することができる。
【0014】
前記構成に於いては、前記ダイシングフィルムの下記式(2)により算出される吸水率が1.5重量%以下であることが好ましい。
【0015】
【数2】

【0016】
前記構成の様に、ダイシングフィルムの吸水率を1.5重量%以下にすることにより、ダイシング・ダイボンドフィルムの保管中に、ダイボンドフィルムが吸湿するダイシングフィルム中の水分量を低減させることができる。その結果、リフロー工程におけるリフロークラックの発生を一層防止することができる。
【0017】
前記構成に於いては、前記ダイボンドフィルムの下記式(3)により算出される吸水率が1.5重量%以下であることが好ましい。
【0018】
【数3】

【0019】
前記構成の様に、ダイボンドフィルムの吸水率を1.5重量%以下にすることにより、ダイシング・ダイボンドフィルムの保管中に、ダイボンドフィルムがダイシングフィルム中の水分を吸湿する量を低減させることができる。その結果、リフロー工程におけるリフロークラックの発生を一層防止することができる。また、半導体チップがダイボンドフィルムによりリードフレーム等の被着体上にダイボンディングされ、更に封止樹脂により封止された半導体パッケージの保管中にも、ダイボンドフィルムが吸湿する水分量の低減が図れる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ダイシング・ダイボンドフィルム自体の吸水率を1.5重量%以下にすることで、例えば、ダイシング・ダイボンドフィルムの保管中に、ダイボンドフィルムがダイシングフィルム中の水分を過度に吸湿するのを防止することができる。また、半導体ウェハのダイシングの際に、当該工程で用いられる切削水により、ダイシングフィルムやダイボンドフィルムが吸湿し、これにより両者の界面に水が浸入するのを防止することができる。即ち、本発明のダイシング・ダイボンドフィルムであると、従来のものと比較してリフロー工程におけるリフロークラックの発生を一層防止し、耐湿信頼性に優れた半導体装置の製造を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の一形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【図2】本発明の他の実施の形態に係る他のダイシング・ダイボンドフィルムを示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図を参照しながら以下に説明する。図1は、本実施の形態に係るダイシング・ダイボンドフィルムの一例を示す断面模式図である。同図に示すように、ダイシング・ダイボンドフィルム10は、支持基材1上に粘着剤層2が設けられたダイシングフィルムと、前記粘着剤層2上に設けられたダイボンドフィルム3とを少なくとも備えた構成である。但し、本発明は、図2に示すように、半導体ウェハ貼り付け部分2aにのみダイボンドフィルム3’を形成した構成のダイシング・ダイボンドフィルム11であってもよい。
【0023】
前記ダイシング・ダイボンドフィルム10、11の吸水率は1.5重量%以下であり、好ましくは1.2重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下である。前記吸水率を1.5重量%以下にすることにより、例えば、ダイシング・ダイボンドフィルム10、11の保管中に、ダイボンドフィルム3、3’がダイシングフィルム中の水分を過度に吸湿して発生するリフロークラックの防止が図れる。また、半導体ウェハ4のダイシングの際に、当該工程で用いられる切削水により、ダイシングフィルムやダイボンドフィルム3、3’が吸湿し、これにより両者の界面に水が浸入することも防止することができる。尚、ダイシング・ダイボンドフィルム10、11の吸水率の下限は、本発明の効果の観点から低ければ低いほどよく、実質的に0%であればよく、好ましくは0%であればよい。また、ダイシング・ダイボンドフィルム10、11全体の吸水率は、これを構成するダイシングフィルムの吸水率(より詳細には、支持基材1及び粘着剤層2の吸水率)、ダイボンドフィルム3、3’の吸水率を適宜調整することで制御することが可能なる。ダイシングフィルムやダイボンドフィルム3、3’の吸水率の調節方法については、後述する。
【0024】
前記ダイシング・ダイボンドフィルム10、11の吸水率は、次の通りにして求められる値である。即ち、ダイシング・ダイボンドフィルム10、11から20mm×20mmのサンプルを切り出し、これを120℃の真空乾燥機中で、3時間放置して乾燥させる。その後、デシケータ中で放冷し、サンプルの乾燥重量M1を測定する。次に、85℃、85%RHの雰囲気下にある恒温恒湿槽中に120時間放置し、サンプルを吸湿させてから取り出し秤量する。秤量値が一定になったときの重量をM2とする。測定したM1及びM2から、下記式(1)に基づき吸水率を算出する。
【0025】
【数4】

【0026】
本実施の形態に係るダイシングフィルムは、前記支持基材1上に少なくとも粘着剤層2が設けられた構造である。また、ダイシングフィルムの吸水率は1.5重量%以下であり、好ましくは1.2重量%以下、より好ましくは1.0重量%以下である。前記吸水率を1.5重量%以下にすることにより、ダイシング・ダイボンドフィルム10、11の保管中に、ダイボンドフィルム3、3’が吸湿するダイシングフィルム(特に粘着剤層2)中の水分量を低減させることができる。その結果、リフロー工程におけるリフロークラックの発生を一層防止することができる。また、半導体ウェハ4のダイシングの際に、当該工程で用いられる切削水により、ダイシングフィルムが吸湿し、ダイボンドフィルム3、3’との間の界面に水が浸入することも防止することができる。尚、ダイシングフィルムの吸水率の下限は、本発明の効果の観点から低ければ低いほどよく、実質的に0%であればよく、好ましくは0%であればよい。
【0027】
ダイシングフィルムの吸水率の制御は、これを構成する支持基材1及び粘着剤層2の吸水率を調節することにより可能になる。支持基材1及び粘着剤層2の吸水率を調節する方法については、後述する。
【0028】
前記ダイシングフィルムの吸水率は、次の通りにして求められる値である。即ち、ダイシングフィルムから20mm×20mmのサンプルを切り出し、これを120℃の真空乾燥機中で、3時間放置して乾燥させる。その後、デシケータ中で放冷し、サンプルの乾燥重量M3を測定する。次に、85℃、85%RHの雰囲気下にある恒温恒湿槽中に120時間放置し、サンプルを吸湿させてから取り出し秤量する。秤量値が一定になったときの重量をM4とする。測定したM3及びM4から、下記式(2)に基づき吸水率を算出する。
【0029】
【数5】

【0030】
前記支持基材1はダイシング・ダイボンドフィルム10、11の強度母体となるものであり、吸水率の低いものが好ましいが、少なくともダイシング・ダイボンドフィルム10、11全体での吸水率が1.5重量%以下、好ましくはダイシングフィルム全体での吸水率が1.5重量%以下となることを可能にするものであれば特に限定されない。具体的には、前記吸水率が1.5重量%以下であることが好ましく、1.2重量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以下であることが特に好ましい。尚、支持基材1の吸水率の下限は、本発明の効果の観点から低ければ低いほどよく、実質的に0%であればよく、好ましくは0%であればよい。
【0031】
支持基材1の吸水率の制御は、例えば、製膜条件の最適化及び材料設計等を行うことにより可能である。
【0032】
前記支持基材1の吸水率は、次の通りにして求められる値である。即ち、支持基材1から20mm×20mmのサンプルを切り出し、これを120℃の真空乾燥機中で、1時間放置して乾燥させる。その後、デシケータ中で放冷し、サンプルの乾燥重量M7を測定する。次に、85℃、85%RHの雰囲気下にある恒温恒湿槽中に120時間放置し、サンプルを吸湿させてから取り出し秤量する。秤量値が一定になったときの重量をM8とする。測定したM7及びM8から、下記式(4)に基づき吸水率を算出する。
【0033】
【数6】

【0034】
前記支持基材1は、具体的には、例えば、低密度ポリエチレン、直鎖状ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、ランダム共重合ポリプロピレン、ブロック共重合ポリプロピレン、ホモポリプロレン、ポリブテン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー樹脂、エチレン−(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸エステル(ランダム、交互)共重合体、エチレン−ブテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体、ポリウレタン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、全芳香族ポリアミド、ポリフェニルスルフイド、アラミド(紙)、ガラス、ガラスクロス、フッ素樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、セルロース系樹脂、シリコーン樹脂、金属(箔)、紙などからなるものが挙げられる。これらのうち、ポリエチレン、ポリプロピレン等は、吸水率が小さいことから、支持基材1として好ましい。
【0035】
また支持基材1の材料としては、前記樹脂の架橋体等のポリマーが挙げられる。前記プラスチックフィルムは、無延伸で用いてもよく、必要に応じて一軸又は二軸の延伸処理を施したものを用いてもよい。延伸処理等により熱収縮性を付与した樹脂シートによれば、ダイシング後にその支持基材1を熱収縮させることにより粘着剤層2とダイボンドフィルム3、3’との接着面積を低下させて、半導体チップ(半導体素子)の回収の容易化を図ることができる。
【0036】
支持基材1の表面は、隣接する層との密着性、保持性等を高める為、慣用の表面処理、例えば、クロム酸処理、オゾン暴露、火炎暴露、高圧電撃暴露、イオン化放射線処理等の化学的又は物理的処理、下塗剤(例えば、後述する粘着物質)によるコーティング処理を施すことができる。前記支持基材1は、同種又は異種のものを適宜に選択して使用することができ、必要に応じて数種をブレンドしたものを用いることができる。また、支持基材1には、帯電防止能を付与する為、前記の支持基材1上に金属、合金、これらの酸化物等からなる厚さが30Å〜500Å程度の導電性物質の蒸着層を設けることができる。支持基材1は単層あるいは2種以上の複層でもよい。尚、粘着剤層2が放射線硬化型の場合には、支持基材1としては、X線、紫外線、電子線等の放射線を少なくとも一部透過するものを用いることが好ましい。
【0037】
支持基材1の厚さは、特に制限されず適宜に決定できるが、一般的には5μm〜200μm程度である。
【0038】
前記粘着剤層2としては吸水率の小さいものが好ましいが、ダイシング・ダイボンドフィルム10、11全体での吸水率が1.5重量%以下、好ましくはダイシングフィルム全体での吸水率が1.5重量%以下となることを可能にするものであれば特に限定されない。具体的には、前記吸水率が1.5重量%以下であることが好ましく、1.2重量%以下であることがより好ましく、1.0重量%以下であることが特に好ましい。尚、粘着剤層2の吸水率の下限は、本発明の効果の観点から低ければ低いほどよく、実質的に0%であればよく、好ましくは0%であればよい。
【0039】
前記粘着剤層2の吸水率の制御は、例えば、製造条件の最適化及び材料設計等を行うことにより可能である。
【0040】
前記粘着剤層2の吸水率は、次の通りにして求められる値である。即ち、粘着剤層2から20mm×20mmのサンプルを切り出し、これを120℃の真空乾燥機中で、3時間放置して乾燥させる。その後、デシケータ中で放冷し、サンプルの乾燥重量M9を測定する。次に、85℃、85%RHの雰囲気下にある恒温恒湿槽中に120時間放置し、サンプルを吸湿させてから取り出し秤量する。秤量値が一定になったときの重量をM10とする。測定したM9及びM10から、下記式(4)に基づき吸水率を算出する。
【0041】
【数7】

【0042】
前記粘着剤層2の形成に用いる粘着剤は特に制限されないが、その面内において領域毎に粘着力の差を設けることが可能な放射線硬化型粘着剤が好適である。この場合、粘着剤層2はダイボンドフィルム3、3’が貼り合わされる前に、予め放射線照射により硬化されていてもよく、あるいは硬化されていなくてもよい。また、放射線硬化させる場合、硬化されている部分は粘着剤層2の全領域である必要はなく、粘着剤層2において、ダイボンドフィルム3のウェハ貼り付け部分3aに対応する部分2aが少なくとも硬化されていればよい(図1参照)。粘着剤層2がダイボンドフィルム3との貼り合わせ前に放射線照射により硬化されたものであると、固い状態でダイボンドフィルム3と貼り合わせるので、粘着剤層2とダイボンドフィルム3との界面で過度に密着性が大きくなるのを抑制することができる。これにより、粘着剤層2とダイボンドフィルム3との間の投錨効果を減少させ、剥離性の向上が図れる。
【0043】
また、図2に示すダイボンドフィルム3’の形状に合わせて放射線硬化型の粘着剤層2を予め硬化させてもよい。これにより、粘着剤層2とダイボンドフィルム3との界面で過度に密着性が大きくなるのを抑制することができる。その結果、ピックアップの際には粘着剤層2からダイボンドフィルム3’が容易に剥離する性質を備える。その一方、粘着剤層2の他の部分2bは放射線が照射されていないため未硬化であり、前記部分2aよりも粘着力が大きい。これにより、他の部分2bにダイシングリングを貼り付けた場合には、ダイシングリングを確実に接着固定することができる。
【0044】
前述の通り、図1に示すダイシング・ダイボンドフィルム10の粘着剤層2に於いて、未硬化の放射線硬化型粘着剤により形成されている前記部分2bはダイボンドフィルム3と粘着し、ダイシングする際の保持力を確保できる。この様に放射線硬化型粘着剤は、半導体チップを基板等の被着体に固着する為のダイボンドフィルム3を、接着・剥離のバランスよく支持することができる。図2に示すダイシング・ダイボンドフィルム11の粘着剤層2に於いては、前記部分2bがダイシングリングを固定できる。ダイシングリングは、例えばステンレス製などの金属からなるものや樹脂製のものを使用できる。
【0045】
粘着剤層2を構成する粘着剤としては特に制限されないが、本発明に於いては放射線硬化型粘着剤が好適である。放射線硬化型粘着剤としては、炭素−炭素二重結合等の放射線硬化性の官能基を有し、かつ粘着性を示すものを特に制限なく使用できる。
【0046】
放射線硬化型粘着剤としては、例えば、前記アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等の一般的な感圧性接着剤に、放射線硬化性のモノマー成分や放射線硬化性のオリゴマー成分を配合した添加型の放射線硬化型粘着剤を例示できる。前記感圧性接着剤としては、半導体ウェハ又はガラス等の汚染をきらう電子部品の超純水やアルコール等の有機溶剤による清浄洗浄性等の点から、アクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系粘着剤が好ましい。
【0047】
前記アクリル系ポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、s−ブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、イソペンチルエステル、ヘキシルエステル、ヘプチルエステル、オクチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、イソオクチルエステル、ノニルエステル、デシルエステル、イソデシルエステル、ウンデシルエステル、ドデシルエステル、トリデシルエステル、テトラデシルエステル、ヘキサデシルエステル、オクタデシルエステル、エイコシルエステル等のアルキル基の炭素数1〜30、特に炭素数4〜18の直鎖状又は分岐鎖状のアルキルエステル等)及び(メタ)アクリル酸シクロアルキルエステル(例えば、シクロペンチルエステル、シクロヘキシルエステル等)の1種又は2種以上を単量体成分として用いたアクリル系ポリマー等が挙げられる。尚、(メタ)アクリル酸エステルとはアクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルをいい、本発明の(メタ)とは全て同様の意味である。
【0048】
前記アクリル系ポリマーは、凝集力、耐熱性等の改質を目的として、必要に応じ、前記(メタ)アクリル酸アルキルエステル又はシクロアルキルエステルと共重合可能な他のモノマー成分に対応する単位を含んでいてもよい。この様なモノマー成分として、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシペンチル(メタ)アクリレート、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸等のカルボキシル基含有モノマー;無水マレイン酸、無水イタコン酸等の酸無水物モノマー;(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸6−ヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸8−ヒドロキシオクチル、(メタ)アクリル酸10−ヒドロキシデシル、(メタ)アクリル酸12−ヒドロキシラウリル、(4−ヒドロキシメチルシクロヘキシル)メチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有モノマー;スチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドプロパンスルホン酸、スルホプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシナフタレンスルホン酸等のスルホン酸基含有モノマー;2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート等のリン酸基含有モノマー;アクリルアミド、アクリロニトリル等が挙げられる。これら共重合可能なモノマー成分は、1種又は2種以上使用できる。これら共重合可能なモノマーの使用量は、全モノマー成分の40重量%以下が好ましい。
【0049】
更に、前記アクリル系ポリマーは、架橋されるため、多官能性モノマー等も必要に応じて共重合用モノマー成分として含むことができる。この様な多官能性モノマーとして、例えば、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能性モノマーも1種又は2種以上用いることができる。多官能性モノマーの使用量は、粘着特性等の点から、全モノマー成分の30重量%以下が好ましい。
【0050】
前記アクリル系ポリマーの調製は、例えば1種又は2種以上の成分モノマーの混合物に溶液重合方式や乳化重合方式、塊状重合方式や懸濁重合方式等の適宜な方式を適用して行うことができる。粘着剤層は、ウェハの汚染防止等の点より低分子量物質の含有を抑制した組成が好ましく、かかる点より重量平均分子量が30万以上、特に40万〜300万のアクリル系ポリマーを主成分とするものが好ましいことから粘着剤は、内部架橋方式や外部架橋方式等による適宜な架橋タイプとすることもできる。
【0051】
また、粘着剤層2の架橋密度の制御のため、例えば多官能イソシアネート系化合物、多官能エポキシ系化合物、メラミン系化合物、金属塩系化合物、金属キレート系化合物、アミノ樹脂系化合物、又は過酸化物等の適宜な外部架橋剤を用いて架橋処理する方式や、炭素−炭素二重結合を2個以上有する低分子化合物を混合してエネルギー線の照射等により架橋処理する方式等の適亘な方式を採用することができる。外部架橋剤を使用する場合、その使用量は、架橋すべきベースポリマーとのバランスにより、更には、粘着剤としての使用用途によって適宜決定される。一般的には、前記ベースポリマー100重量部に対して、5重量部程度以下、更には0.1重量部〜5重量部配合するのが好ましい。尚、粘着剤には、必要により、前記成分のほかに、各種の粘着付与剤、老化防止剤等の添加剤を用いてもよい。
【0052】
配合する放射線硬化性のモノマー成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリストールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリストールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマー成分は、1種又は2種以上併用できる。
【0053】
また、放射線硬化性のオリゴマー成分はウレタン系、ポリエーテル系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリブタジエン系等種々のオリゴマーがあげられ、その分子量が100〜30000程度の範囲のものが適当である。放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分の配合量は、前記粘着剤層の種類に応じて、粘着剤層の粘着力を低下できる量を、適宜に決定することができる。一般的には、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、例えば5重量部〜500重量部、好ましくは70重量部〜150重量部程度である。
【0054】
また、放射線硬化型粘着剤としては、前記添加型の放射線硬化型粘着剤の他に、ベースポリマーとして炭素−炭素二重結合をポリマー側鎖又は主鎖中もしくは主鎖末端に有するものを用いた内在型の放射線硬化型粘着剤も挙げられる。内在型の放射線硬化型粘着剤は、低分子成分であるオリゴマー成分等を含有する必要がなく、又は多くを含まないため、経時的にオリゴマー成分等が粘着剤在中を移動することなく、安定した層構造の粘着剤層を形成することができるため好ましい。
【0055】
前記炭素−炭素二重結合を有するベースポリマーは、炭素−炭素二重結合を有し、かつ粘着性を有するものを特に制限なく使用できる。この様なベースポリマーとしては、アクリル系ポリマーを基本骨格とするものが好ましい。アクリル系ポリマーの基本骨格としては、前記例示したアクリル系ポリマーが挙げられる。
【0056】
前記アクリル系ポリマーへの炭素−炭素二重結合の導入法は特に制限されず、様々な方法を採用できるが、炭素−炭素二重結合はポリマー側鎖に導入するのが分子設計の上で容易である。例えば、予め、アクリル系ポリマーに官能基を有するモノマーを共重合した後、この官能基と反応しうる官能基及び炭素−炭素二重結合を有する化合物を、炭素−炭素二重結合の放射線硬化性を維持したまま縮合又は付加反応させる方法が挙げられる。
【0057】
これら官能基の組合せの例としては、カルボン酸基とエポキシ基、カルボン酸基とアジリジル基、ヒドロキシル基とイソシアネート基等が挙げられる。これら官能基の組合せのなかでも反応追跡の容易さから、ヒドロキシル基とイソシアネート基との組合せが好適である。また、これら官能基の組み合わせにより、前記炭素−炭素二重結合を有するアクリル系ポリマーを生成するような組合せであれば、官能基はアクリル系ポリマーと前記化合物のいずれの側にあってもよいが、前記の好ましい組み合わせでは、アクリル系ポリマーがヒドロキシル基を有し、前記化合物がイソシアネート基を有する場合が好適である。この場合、炭素−炭素二重結合を有するイソシアネート化合物としては、例えば、メタクリロイルイソシアネート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等が挙げられる。また、アクリル系ポリマーとしては、前記例示のヒドロキシ基含有モノマーや2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングルコールモノビニルエーテルのエーテル系化合物等を共重合したものが用いられる。
【0058】
前記内在型の放射線硬化型粘着剤は、前記炭素−炭素二重結合を有するベースポリマー(特にアクリル系ポリマー)を単独で使用することができるが、特性を悪化させない程度に前記放射線硬化性のモノマー成分やオリゴマー成分等の光重合性化合物を配合することもできる。当該光重合性化合物の配合量は、通常ベースポリマー100重量部に対して30重量部以下の範囲内であり、好ましくは0〜10重量部の範囲内である。
【0059】
前記放射線硬化型粘着剤には、紫外線等により硬化させる場合には光重合開始剤を含有させることが好ましい。光重合開始剤としては、例えば、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、α−ヒドロキシ−α,α’−メチルアセトフェノン、2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等のα−ケトール系化合物;メトキシアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)−フェニル]−2−モルホリノプロパン−1等のアセトフェノン系化合物;ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、アニゾインメチルエーテル等のベンゾインエーテル系化合物;2−メチル−2−ヒドロキシプロピオフェノン等のα−ケトン系化合物、ベンジルジメチルケタール等のケタール系化合物;2−ナフタレンスルホニルクロリド等の芳香族スルホニルクロリド系化合物;1−フェノン−1,1−プロパンジオン−2−(o−エトキシカルボニル)オキシム等の光活性オキシム系化合物;ベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系化合物;チオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、2−メチルチオキサンソン、2,4−ジメチルチオキサンソン、イソプロピルチオキサンソン、2,4−ジクロロチオキサンソン、2,4−ジエチルチオキサンソン、2,4−ジイソプロピルチオキサンソン等のチオキサンソン系化合物;カンファーキノン;ハロゲン化ケトン;アシルホスフィノキシド;アシルホスフォナート等が挙げられる。光重合開始剤の配合量は、粘着剤を構成するアクリル系ポリマー等のベースポリマー100重量部に対して、例えば0.05重量部〜20重量部程度である。但し、粘着剤層2の貯蔵弾性率を1×10Pa〜5×10Paの範囲内に調整することを目的とする場合は、ベースポリマー100重量部に対して1重量部以上8重量部以下が好ましく、1重量部以上5重量部以下がより好ましい。
【0060】
また、粘着剤層2の形成に用いる放射線硬化型粘着剤としては、例えば、特開昭60−196956号公報に開示されている、不飽和結合を2個以上有する付加重合性化合物、エポキシ基を有するアルコキシシラン等の光重合性化合物と、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過酸化物、アミン、オニウム塩系化合物等の光重合開始剤とを含有するゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤等が挙げられる。前記の不飽和結合を2個以上有する付加重合性化合物としては、例えば、アクリル酸若しくはメタクリル酸の多価アルコール系エステル又はオリゴエステル、エポキシ系若しくはウレタン系化合物等が挙げられる。
【0061】
前記光重合性化合物、又は光重合開始剤の配合量は、それぞれベースポリマー100重量部あたり10重量部〜500重量部、0.05重量部〜20重量部が一般的である。尚、これらの配合成分のほかに、必要に応じて、エチレングリコールジグリシジルエーテル等の分子中にエポキシ基を1個又は2個以上有するエポキシ基官能性架橋剤を追加配合して、粘着剤の架橋効率を上げるようにしてもよい。
【0062】
前記放射線硬化型粘着剤を使用した粘着剤層2中には、必要に応じて、放射線照射により着色する化合物を含有させることもできる。放射線照射により、着色する化合物を粘着剤層2に含ませることによって、放射線照射された部分のみを着色することができる。即ち、ウェハ貼り付け部分3aに対応する粘着剤層2aを着色することができる。これにより、粘着剤層2に放射線が照射されたか否かが目視により直ちに判明することができ、ウェハ貼り付け部分3aを認識し易く、半導体ウェハの貼り合せが容易である。また光センサー等によって半導体素子を検出する際に、その検出精度が高まり、半導体素子のピックアップ時に誤動作が生ずることがない。
【0063】
放射線照射により着色する化合物は、放射線照射前には無色又は淡色であるが、放射線照射により有色となる化合物である。かかる化合物の好ましい具体例としてはロイコ染料が挙げられる。ロイコ染料としては、慣用のトリフェニルメタン系、フルオラン系、フェノチアジン系、オーラミン系、スピロピラン系のものが好ましく用いられる。具体的には3−[N−(p−トリルアミノ)]−7−アニリノフルオラン、3−[N−(p−トリル)−N−メチルアミノ]−7−アニリノフルオラン、3−[N−(p−トリル)−N−エチルアミノ]−7−アニリノフルオラン、3−ジエチルアミノ−6−メチル−7−アニリノフルオラン、クリスタルバイオレットラクトン、4,4’,4”−トリスジメチルアミノトリフェニルメタノール、4,4’,4”−トリスジメチルアミノトリフェニルメタン等が挙げられる。
【0064】
これらロイコ染料とともに好ましく用いられる顕色剤としては、従来から用いられているフェノールホルマリン樹脂の初期重合体、芳香族カルボン酸誘導体、活性白土等の電子受容体があげられ、更に、色調を変化させる場合は種々の発色剤を組合せて用いることもできる。
【0065】
この様な放射線照射によって着色する化合物は、一旦有機溶媒等に溶解された後に放射線硬化型粘着剤中に含ませてもよく、また微粉末状にして当該粘着剤層2中に含ませてもよい。この化合物の使用割合は、粘着剤層2中に0.01重量%〜10重量%、好ましくは0.5重量%〜5重量%の量で用いられることが望ましい。該化合物の割合が10重量%を超えると、粘着剤層2に照射される放射線がこの化合物に吸収されすぎてしまうため、前記粘着剤層2aの硬化が不十分となり、粘着力が十分に低下しないことがある。その一方、化合物の割合が0.01重量%未満の量で用いられると放射線照射時に粘着シートが充分に着色しないことがあり、半導体素子のピックアップ時に誤動作が生じやすくなることがある。
【0066】
粘着剤層2を放射線硬化型粘着剤により形成する場合には、支持基材1に放射線硬化型の粘着剤層2を形成した後、ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分に、部分的に放射線を照射し硬化させて、ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分2aを形成する方法が挙げられる。部分的な放射線照射は、ウェハ貼り付け部分3a以外の部分3b等に対応するパターンを形成したフォトマスクを介して行うことができる。また、スポット的に放射線を照射し硬化させる方法等が挙げられる。放射線硬化型の粘着剤層2の形成は、セパレータ上に設けたものを支持基材1上に転写することにより行うことができる。部分的な放射線硬化はセパレータ上に設けた放射線硬化型の粘着剤層2に行うこともできる。
【0067】
また、粘着剤層2を放射線硬化型粘着剤により形成する場合には、支持基材1の少なくとも片面の、ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分以外の部分の全部又は一部が遮光されたものを用い、これに放射線硬化型の粘着剤層2を形成した後に放射線照射して、ウェハ貼り付け部分3aに対応する部分を硬化させ、粘着力を低下させた粘着剤層2aを形成することができる。遮光材料としては、支持フィルム上でフォトマスクになりえるものを印刷や蒸着等で作成することができる。かかる製造方法によれば、効率よく本発明のダイシング・ダイボンドフィルムを製造可能である。
【0068】
尚、放射線照射の際に、酸素による硬化阻害が起こる場合は、放射線硬化型の粘着剤層2の表面に対して酸素(空気)を遮断するのが望ましい。酸素を遮断する方法としては、例えば、前記粘着剤層2の表面をセパレータで被覆する方法や、窒素ガス雰囲気中で紫外線等の放射線の照射を行う方法等が挙げられる。
【0069】
前記ダイボンドフィルム3、3’の吸水率は、1.5重量%以下が好ましく、1.2重量%以下がより好ましく、1.0重量%以下が特に好ましい。ダイボンドフィルム3、3’の吸水率を1.5重量%以下にすることにより、ダイシング・ダイボンドフィルム10、11の保管中に、ダイボンドフィルム3、3’がダイシングフィルム中の水分を吸湿する量を低減させることができる。その結果、リフロー工程におけるリフロークラックの発生を一層防止することができる。また、半導体チップがダイボンドフィルム3、3’によりリードフレーム等の被着体上にダイボンディングされ、更に封止樹脂により封止された半導体パッケージの保管中にも、ダイボンドフィルム3、3’が吸湿する水分量の低減が図れる。尚、ダイボンドフィルム3、3’の吸水率の下限は、本発明の効果の観点から低ければ低いほどよく、実質的に0%であればよく、好ましくは0%であればよい。
【0070】
前記ダイボンドフィルム3、3’の吸水率の制御は、例えば、製造条件の最適化及び材料設計等を行うことにより可能である。
【0071】
前記ダイボンドフィルム3、3’の吸水率は、次の通りにして求められる値である。即ち、ダイボンドフィルム3、3’から20mm×20mmのサンプルを切り出し、これを120℃の真空乾燥機中で、3時間放置して乾燥させる。その後、デシケータ中で放冷し、サンプルの乾燥重量M5を測定する。次に、85℃、85%RHの雰囲気下にある恒温恒湿槽中に120時間放置し、サンプルを吸湿させてから取り出し秤量する。秤量値が一定になったときの重量をM6とする。測定したM5及びM6から、下記式(3)に基づき吸水率を算出する。
【0072】
【数8】

【0073】
前記ダイボンドフィルム3、3’は、例えば、熱可塑性樹脂と熱硬化性樹脂により形成されたものが挙げられ、より具体的には、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びアクリル樹脂により形成されるものが挙げられる。
【0074】
前記エポキシ樹脂は、接着剤組成物として一般に用いられるものであれば特に限定は無く、例えばビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、臭素化ビスフェノールA型、水添ビスフェノールA型、ビスフェノールAF型、ビフェニル型、ナフタレン型、フルオンレン型、フェノールノボラック型、オルソクレゾールノボラック型、トリスヒドロキシフェニルメタン型、テトラフェニロールエタン型等の二官能エポキシ樹脂や多官能エポキシ樹脂、又はヒダントイン型、トリスグリシジルイソシアヌレート型若しくはグリシジルアミン型等のエポキシ樹脂が用いられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらのエポキシ樹脂のうち本発明においては、ベンゼン環、ビフェニル環、ナフタレン環等の芳香族環を有するエポキシ樹脂が特に好ましい。具体的には、例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、キシリレン骨格含有フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル骨格含有ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、硬化剤としてのフェノール樹脂との反応性に富み、耐熱性等に優れるからである。尚、エポキシ樹脂は、半導体素子を腐食させるイオン性不純物等の含有が少ない。
【0075】
前記エポキシ樹脂の重量平均分子量は300〜1500の範囲内であることが好ましく、350〜1000の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量が300未満であると、熱硬化後のダイボンドフィルム3の機械的強度、耐熱性、耐湿性が低下する場合がある。その一方、1500より大きいと、熱硬化後のダイボンドフィルムが剛直になって脆弱になる場合がある。尚、本発明に於ける重量平均分子量とは、ゲルパーミエーションクロトマトグラフィー法(GPC)で標準ポリスチレンによる検量線を用いたポリスチレン換算値を意味する。
【0076】
更に、前記フェノール樹脂は、前記エポキシ樹脂の硬化剤として作用するものであり、例えば、フェノールノボラック樹脂、フェノールビフェニル樹脂、フェノールアラルキル樹脂、クレゾールノボラック樹脂、tert−ブチルフェノールノボラック樹脂、ノニルフェノールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ポリパラオキシスチレン等のポリオキシスチレン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。これらのフェノール樹脂のうち、フェノールノボラック樹脂や、フェノールアラルキル樹脂が好ましい。半導体装置の接続信頼性を向上させることができるからである。
【0077】
前記フェノール樹脂の重量平均分子量が300〜1500の範囲内であることが好ましく、350〜1000の範囲内であることがより好ましい。重量平均分子量が300未満であると、前記エポキシ樹脂の熱硬化が不十分となり十分な強靱性が得られない場合がある。その一方、重量平均分子量が1500より大きいと、高粘度となって、ダイボンドフィルムの作製時の作業性が低下する場合がある。
【0078】
前記エポキシ樹脂とフェノール樹脂の配合割合は、例えば、前記エポキシ樹脂成分中のエポキシ基1当量当たりフェノール樹脂中の水酸基が0.5当量〜2.0当量になるように配合することが好適である。より好適なのは、0.8当量〜1.2当量である。即ち、両者の配合割合が前記範囲を外れると、十分な硬化反応が進まず、エポキシ樹脂硬化物の特性が劣化し易くなるからである。
【0079】
前記アクリル樹脂としては特に限定されないが、本発明においてはカルボキシル基含有アクリル共重合体、エポキシ基含有アクリル共重合体が好ましい。前記カルボキシル基含有アクリル共重合体に用いる官能基モノマーとしてはアクリル酸又はメタクリル酸が挙げられる。アクリル酸又はメタクリル酸の含有量は酸価が1〜4の範囲内となる様に調節される。その残部は、メチルアクリレート、メチルメタクリレートなどの炭素数1〜8のアルキル基を有するアルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、スチレン、又はアクリロニトリル等の混合物を用いることができる。これらの中でも、エチル(メタ)アクリレート及び/又はブチル(メタ)アクリレートが特に好ましい。混合比率は、後述する前記アクリル樹脂のガラス転移点(Tg)を考慮して調整することが好ましい。また、重合方法としては特に限定されず、例えば、溶液重合法、隗状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の従来公知の方法を採用することができる。
【0080】
また、前記モノマー成分と共重合可能な他のモノマー成分としては特に限定されず、例えば、アクリロニトリル等が挙げられる。これら共重合可能なモノマー成分の使用量は、全モノマー成分に対し1重量%〜20重量%の範囲内であることが好ましい。当該数値範囲内の他のモノマー成分を含有させることにより、凝集力、接着性などの改質が図れる。
【0081】
アクリル樹脂の重合方法としては特に限定されず、例えば、溶液重合法、隗状重合法、懸濁重合法、乳化重合法等の従来公知の方法を採用することができる。
【0082】
前記アクリル樹脂のガラス転移点(Tg)は、−30℃〜30℃であることが好ましく、−20℃〜15℃であることがより好ましい。ガラス転移点が−30℃以上にすることにより耐熱性が確保され得る。その一方、30℃以下にすることにより、表面状態が粗いウェハにおけるダイシング後のチップ飛びの防止効果が向上する。
【0083】
前記アクリル樹脂の重量平均分子量は、10万〜100万であることが好ましく、35万〜90万であることがより好ましい。重量平均分子量を10万以上にすることにより、被着体表面に対する高温時の接着性に優れ、かつ、耐熱性も向上させることができる。その一方、重量平均分子量を100万以下にすることにより、容易に有機溶剤への溶解することができる。
【0084】
また、ダイボンドフィルム3、3’にはフィラーが添加されていてもよい。前記フィラーとしては、無機フィラー又は有機フィラーが挙げられる。取り扱い性及び熱伝導性の向上、溶融粘度の調整、並びにチキソトロピック性の付与等の観点からは、無機フィラーが好ましい。
【0085】
前記無機フィラーとしては特に限定されず、例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、三酸化アンチモン、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、ホウ酸アルミニウム、窒化ホウ素、結晶質シリカ、非晶質シリカ等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。熱伝導性の向上の観点からは、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶質シリカ等が好ましい。また、ダイボンドフィルム3の接着性とのバランスの観点からは、シリカが好ましい。また、前記有機フィラーとしては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリエステルイミド、ナイロン、シリコーン等が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0086】
前記フィラーの平均粒径は、0.005μm〜10μmが好ましく、0.05μm〜1μmがより好ましい。フィラーの平均粒径が0.005μm以上であると、被着体に対する濡れ性を良好なものにし、接着性の低下を抑制することができる。その一方、前記平均粒径を10μm以下にすることにより、フィラーの添加によるダイボンドフィルム3、3’に対する補強効果を高め、耐熱性の向上が図れる。尚、平均粒径が相互に異なるフィラー同士を組み合わせて使用してもよい。また、フィラーの平均粒径は、例えば、光度式の粒度分布計(HORIBA製、装置名;LA−910)により求めた値である。
【0087】
前記フィラーの形状は特に限定されず、例えば球状、楕円体状のものを使用することができる。
【0088】
また、エポキシ樹脂、フェノール樹脂及びアクリル樹脂の合計重量をA重量部とし、フィラーの重量をB重量部とした場合に、比率B/(A+B)は0.1以上であることが好ましく、0.2〜0.8がより好ましく、0.2〜0.6が特に好ましい。フィラーの配合量をエポキシ樹脂、フェノール樹脂及びアクリル樹脂の合計重量に対し0.1以上にすることにより、ダイボンドフィルム3の23℃における貯蔵弾性率を5MPa以上に調整することが可能になる。
【0089】
また、ダイボンドフィルム3、3’には、必要に応じて他の添加剤を適宜に配合することができる。他の添加剤としては、例えば難燃剤、シランカップリング剤又はイオントラップ剤等が挙げられる。
【0090】
前記難燃剤としては、例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン、臭素化エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0091】
前記シランカップリング剤としては、例えば、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。これらの化合物は、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0092】
前記イオントラップ剤としては、例えばハイドロタルサイト類、水酸化ビスマス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0093】
前記エポキシ樹脂とフェノール樹脂の熱硬化促進触媒としては特に限定されず、例えば、トリフェニルフォスフィン骨格、アミン骨格、トリフェニルボラン骨格、トリハロゲンボラン骨格等の何れかからなる塩が好ましい。
【0094】
尚、ダイシングフィルムをダイボンドフィルム3、3’から引き剥がしたときの切断面近傍における剥離力の最大値を低減させるという観点からは、例えば、フィラー含有量が30重量%以上で形成されるダイボンドフィルム3、3’であることが好ましい。前記フィラー含有量が30重量%以上により形成されるダイボンドフィルム3であると、ダイシングによる切断面においてダイボンドフィルム3の一部がバリとなって粘着剤層2とダイボンドフィルム3の境界に付着するのを低減させることができる。
【0095】
ダイボンドフィルム3、3’の厚さ(積層体の場合は、総厚)は特に限定されないが、例えば、5μm〜100μm程度、好ましくは5μm〜50μm程度である。
【0096】
尚、ダイボンドフィルム3、3’は、例えば接着剤層の単層のみからなる構成とすることができる。また、ガラス転移温度の異なる熱可塑性樹脂、熱硬化温度の異なる熱硬化性樹脂を適宜に組み合わせて、2層以上の多層構造にしてもよい。尚、半導体ウェハのダイシング工程では切削水を使用することから、ダイボンドフィルムが吸湿して、常態以上の含水率になる場合がある。この様な高含水率のまま、基板等に接着させると、アフターキュアの段階で接着界面に水蒸気が溜まり、浮きが発生する場合がある。従って、ダイボンドフィルムとしては、透湿性の高いコア材料を接着剤層で挟んだ構成とすることにより、アフターキュアの段階では、水蒸気がフィルムを通じて拡散して、かかる問題を回避することが可能となる。かかる観点から、ダイボンドフィルム3、3’はコア材料の片面又は両面に接着剤層を形成した多層構造にしてもよい。
【0097】
前記コア材料としては、フィルム(例えばポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等)、ガラス繊維やプラスチック製不織繊維で強化された樹脂基板、ミラーシリコンウェハ、シリコン基板又はガラス基板等が挙げられる。
【0098】
また、ダイボンドフィルム3、3’は、セパレータにより保護されていることが好ましい(図示せず)。セパレータは、実用に供するまでダイボンドフィルムを保護する保護材としての機能を有している。また、セパレータは、更に、ダイシングフィルムにダイボンドフィルム3、3’を転写する際の支持基材として用いることができる。セパレータはダイボンドフィルム3、3’上に半導体ウェハを貼着する際に剥がされる。セパレータとしては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレンや、フッ素系剥離剤、長鎖アルキルアクリレート系剥離剤等の剥離剤により表面コートされたプラスチックフィルムや紙等も使用可能である。
【0099】
(半導体装置の製造方法)
次に、図1に示すダイシング・ダイボンドフィルム10を用いた半導体装置の製造方法について説明する。
【0100】
先ず、ダイシング・ダイボンドフィルム10に於けるダイボンドフィルム3のウェハ貼り付け部分3a上に半導体ウェハ4を圧着し、これを接着保持させて固定する(貼り付け工程)。本工程は、圧着ロール等の押圧手段により押圧しながら行う。マウントの際の貼り付け温度は特に限定されず、例えば20℃〜80℃の範囲内であることが好ましい。
【0101】
次に、半導体ウェハ4のダイシングを行う。このとき、ダイボンドフィルム3におけるウェハ貼り付け部分3a以外の部分3b上には、ダイシングリングが貼り付けられている。このダイシングにより、半導体ウェハ4を所定のサイズに切断して個片化し、半導体チップ5を製造する。ダイシングは、例えば半導体ウェハ4の回路面側から行われる。このとき、ダイシング・ダイボンドフィルム10に対するダイシング刃(ダイシングブレード)の切り込みは、ダイボンドフィルム3が完全に切断され、かつ、少なくとも粘着剤層2の一部にまで切断が行われる。但し、粘着剤層2を完全に切断して支持基材1まで切り込みが到達するのは、糸状屑が発生する場合があるので好ましくない。
【0102】
ダイシング工程で用いるダイシング装置としては特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。また、半導体ウェハ4は、ダイシング・ダイボンドフィルム10により接着固定されているので、チップ欠けやチップ飛びを抑制できると共に、半導体ウェハ4の破損も抑制できる。
【0103】
ダイシング・ダイボンドフィルム10に接着固定された半導体チップを剥離する為に、半導体チップのピックアップを行う。ピックアップの方法としては特に限定されず、例えば、個々の半導体チップをダイシング・ダイボンドフィルム10側からニードルによって突き上げ、突き上げられた半導体チップをピックアップ装置によってピックアップする方法等が挙げられる。
【0104】
ここでピックアップは、粘着剤層2が放射線硬化型であり、かつ、未硬化である場合には、当該粘着剤層2に対し放射線を照射した後に行うことが好ましい。また、粘着剤層2が放射線硬化型であり、かつ、予め完全硬化されたものである場合は、放射線を照射することなくピックアップが行われる。いずれの場合においても、粘着剤層2のダイボンドフィルム3に対する粘着力は低下されているので、半導体チップの剥離を容易に行うことができる。その結果、半導体チップを損傷させることなくピックアップが可能となる。放射線照射の際の照射強度、照射時間等の条件は特に限定されず、適宜必要に応じて設定すればよい。
【0105】
次に、ダイシングにより形成された半導体チップを、ダイボンドフィルム3aを介して被着体にダイボンドする。ダイボンドは圧着により行われる。ダイボンドの条件としては特に限定されず、適宜必要に応じて設定することができる。具体的には、例えば、ダイボンド温度80℃〜160℃、ボンディング圧力5N〜15N、ボンディング時間1秒〜10秒の範囲内で行うことができる。
【0106】
前記被着体としては、リードフレーム、TABフィルム、基板又は別途作製した半導体チップ等が挙げられる。被着体は、例えば、容易に変形されるような変形型被着体であってもよく、変形することが困難である非変形型被着体(半導体ウェハ等)であってもよい。前記基板としては、従来公知のものを使用することができる。また、前記リードフレームとしては、Cuリードフレーム、42Alloyリードフレーム等の金属リードフレームやガラスエポキシ、BT(ビスマレイミド−トリアジン)、ポリイミド等からなる有機基板を使用することができる。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、半導体素子をマウントし、半導体素子と電気的に接続して使用可能な回路基板も含まれる。
【0107】
続いて、ダイボンドフィルム3aを加熱処理することによりこれを熱硬化させ、半導体チップと被着体とを接着させる。加熱処理条件としては、温度80℃〜180℃の範囲内であり、かつ、加熱時間0.1時間〜24時間、好ましくは0.1時間〜4時間、より好ましくは0.1時間〜1時間の範囲内であることが好ましい。
【0108】
次に、被着体6の端子部(インナーリード)の先端と半導体チップ上の電極パッド(図示しない)とをボンディングワイヤーで電気的に接続するワイヤーボンディング工程を行う。前記ボンディングワイヤーとしては、例えば金線、アルミニウム線又は銅線等が用いられる。ワイヤーボンディングを行う際の温度は、80℃〜250℃、好ましくは80℃〜220℃の範囲内で行われる。また、その加熱時間は数秒〜数分間行われる。結線は、前記温度範囲内となる様に加熱された状態で、超音波による振動エネルギーと印加加圧による圧着エネルギーの併用により行われる。
【0109】
続いて、半導体チップを封止樹脂で封止する樹脂封止工程を行う。本工程は、被着体に搭載された半導体チップやボンディングワイヤーを保護する為に行われる。本工程は、封止用の樹脂を金型で成型することにより行う。封止樹脂としては、例えばエポキシ系の樹脂を使用する。樹脂封止の際の加熱温度は、通常175℃で60秒〜90秒間行われるが、本発明はこれに限定されず、例えば165〜185℃で、数分間キュアすることができる。これにより、封止樹脂を硬化させる。本発明においては、ダイボンド工程において、ダイボンドフィルム3を熱硬化させる為に熱処理を行う場合にも、封止樹脂工程後において、ダイボンドフィルム3と被着体との間のボイドを消失させることができる。
【0110】
前記後硬化工程に於いては、前記封止工程で硬化不足の封止樹脂を完全に硬化させる。本工程に於ける加熱温度は、封止樹脂の種類により異なるが、例えば165℃〜185℃の範囲内であり、加熱時間は0.5〜8時間程度である。これにより、半導体パッケージが得られる。
【0111】
以上の様にして得られた半導体パッケージは、例えば耐湿半田リフロー試験を行った場合にも当該試験に耐え得る高信頼性を有する。耐湿半田リフロー試験は従来公知の方法にて行われる。
【0112】
次に、プリント配線板上に、前記の半導体パッケージを表面実装する。表面実装の方法としては、例えば、プリント配線板上に予めハンダを供給した後、温風などにより加熱溶融しハンダ付けを行うリフローハンダ付けが挙げられる。加熱方法としては、熱風リフロー、赤外線リフロー等が挙げられる。また、全体加熱、局部加熱の何れの方式でもよい。加熱温度は240℃〜265℃、加熱時間は1秒〜20秒の範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0113】
以下に、この発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。尚、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0114】
(実施例1)
[ダイボンドフィルムの作製]
アクリル酸エチル−メチルメタクリレートを主成分とするアクリル酸エステル系ポリマー(根上工業(株)製、パラクロンW−197CM)100重量部に対して、多官能イソシアネート系架橋剤3重量部、エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製、エピコート1004)23重量部、フェノール樹脂(三井化学(株)製、ミレックスXLC−CC)6重量部をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度20重量%の接着剤組成物の溶液を調整した。
【0115】
次に、前記接着剤組成物の溶液を、剥離ライナーとしてシリコーン離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ50μm)からなる離型処理フィルム上に塗布した。更に、120℃で3分間乾燥させたことにより、離型処理フィルム上に、厚さ25μmのダイボンドフィルムAを作製した。
【0116】
[ダイシングフィルムの作製]
先ず、放射線硬化型アクリル系粘着剤の調製を行った。即ち、アクリル酸ブチル70重量部、アクリル酸エチル30重量部およびアクリル酸5重量部を酢酸エチル中で常法により共重合させ、重量平均分子量80万であり、濃度30重量%のアクリル系ポリマーの溶液を得た。
【0117】
次に、アクリル系ポリマーの溶液に、光重合性化合物としてのジペンタエリスリト−ルモノヒドロキシペンタアクリレート20重量部、及び光重合開始剤としてのα−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン1重量部を配合した。得られた溶液を、更にトルエンに均一に溶解させて、濃度25重量%の放射線硬化型アクリル系粘着剤の溶液を作製した。
【0118】
続いて、厚さ60μmのポリエチレンフィルム(吸水率0.06%)からなる支持基材上に、前記放射線硬化型アクリル系粘着剤の溶液を塗布した後、乾燥させ、ポリエチレンフィルム上に厚さ20μmの粘着剤層を形成した。
【0119】
更に、前記粘着剤層上のウエハ貼り付け部分に対応する部分にのみ、500mJ/cm(紫外線照射積算光量)の紫外線を照射し、当該対応する部分を紫外線硬化させたダイシングフィルムAを作製した。
【0120】
[ダイシング・ダイボンドフィルムの作製]
前記ダイシングフィルムAにおける粘着剤層上に、前記ダイボンドフィルムAを転写させ、本実施例に係るダイシング・ダイボンドフィルムAを作製した。
【0121】
(実施例2)
[ダイボンドフィルムの作製]
本実施例2に於いては、前記実施例1にて使用したアクリル酸エステル系ポリマーに替えて、ブチルアクリレートを主成分としたポリマー(根上工業(株)製、パラクロンSN−710)を用いたこと以外は、前記実施例1と同様にして、本実施例2に係るダイボンドフィルムB(厚さ50μm)を作製した。
【0122】
[ダイシングフィルムの作製]
先ず、放射線硬化型アクリル系粘着剤の調製を行った。即ち、アクリル酸エチル50重量部、アクリル酸ブチル50重量部およびアクリル酸2−ヒドロキシエチル16重量部を配合してなる配合組成物を、トルエン溶液中で共重合させ、重量平均分子量50万であり、濃度35重量%のアクリル系ポリマーの溶液を得た。
【0123】
次に、このアクリル系ポリマーの溶液に対し、20重量部の2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネートを付加反応させ、ポリマー分子内側鎖に炭素−炭素二重結合を導入した。これより得られたポリマー100重量部(固形分)に対して、さらにポリイソシアネート系架橋剤1重量部およびアセトフェノン系光重合開始剤3重量部を配合した後、更にトルエンに均一に溶解させ、濃度23重量%の放射線硬化型アクリル系粘着剤の溶液を作製した。
【0124】
続いて、厚さ80μmのポリエチレンフィルム(吸水率0.07%)からなる支持基材上に、前記放射線硬化型アクリル系粘着剤の溶液を塗布した後、乾燥させ、ポリエチレンフィルム上に厚さ5μmの粘着剤層を形成した。
【0125】
更に、前記粘着剤層上のウエハ貼り付け部分に対応する部分にのみ、500mJ/cm(紫外線照射積算光量)の紫外線を照射し、当該対応する部分を紫外線硬化させたダイシングフィルムBを作製した。
【0126】
[ダイシング・ダイボンドフィルムの作製]
前記ダイシングフィルムBにおける粘着剤層上に、前記ダイボンドフィルムBを転写させ、本実施例に係るダイシング・ダイボンドフィルムBを作製した。
【0127】
(比較例1)
本比較例に於いては、光重合性化合物をエチレングリコールジアクリレートに変更し、更にその配合量を40重量部にしたこと以外は、前記実施例1と同様にして、本比較例に係るダイシング・ダイボンドフィルムCを作製した。
【0128】
(比較例2)
本比較例に於いては、光重合性化合物をエチレングリコールジフェニルアクリレートに変更し、更にその配合量を30重量部にしたこと以外は、前記実施例1と同様にして、本比較例に係るダイシング・ダイボンドフィルムDを作製した。
【0129】
(吸水率)
実施例および比較例で得られたダイシング・ダイボンドフィルムA〜Dの吸水率を下記に示す方法により測定した。結果を表1に示す。即ち、ダイシング・ダイボンドフィルムA〜Dから20mm×20mmのサンプルを切り出し、これを120℃の真空乾燥機中で、3時間放置して乾燥させた。その後、デシケータ中で放冷し、サンプルの乾燥重量M1を測定した。次に、85℃、85%RHの雰囲気下にある恒温恒湿槽中に120時間放置し、サンプルを吸湿させてから取り出し秤量した。秤量値が一定になったときの重量をM2とした。測定したM1及びM2から、下記式(1)に基づき吸水率を算出した。
【0130】
【数9】

【0131】
また、実施例および比較例で得られたダイシングフィルムA〜Dの吸水率を下記に示す方法により測定した。結果を表1に示す。即ち、ダイシングフィルムA〜Dから20mm×20mmのサンプルを切り出し、これを120℃の真空乾燥機中で、3時間放置して乾燥させた。その後、デシケータ中で放冷し、サンプルの乾燥重量M3を測定した。次に、85℃、85%RHの雰囲気下にある恒温恒湿槽中に120時間放置し、サンプルを吸湿させてから取り出し秤量した。秤量値が一定になったときの重量をM4とした。測定したM3及びM4から、下記式(2)に基づき吸水率を算出した。
【0132】
【数10】

【0133】
更に、実施例で得られたダイボンドフィルムA及びBの吸水率を下記に示す方法により測定した。結果を表1に示す。即ち、ダイボンドフィルムA及びBから20mm×20mmのサンプルを切り出し、これを120℃の真空乾燥機中で、3時間放置して乾燥させた。その後、デシケータ中で放冷し、サンプルの乾燥重量M5を測定した。次に、85℃、85%RHの雰囲気下にある恒温恒湿槽中に120時間放置し、サンプルを吸湿させてから取り出し秤量した。秤量値が一定になったときの重量をM6とした。測定したM5及びM6から、下記式(3)に基づき吸水率を算出した。
【0134】
【数11】

【0135】
(耐湿半田リフロー性)
各実施例及び比較例で得られたダイシング・ダイボンドフィルムA〜Dのそれぞれを、半導体ウェハにマウントした。半導体ウェハとしては、サイズが8インチであり、厚さが75μmになるまで裏面研削したものを用いた。研削条件及び貼り合わせ条件は下記の通りである。なお、(耐湿半田リフロー性)の評価の手順の間に、(ダイシングフィルム−ダイボンドフィルム間界面への水の浸入)も評価した。
【0136】
<ウェハ研削条件>
研削装置:ディスコ社製、DGP−8760
半導体ウェハ:8インチ径(厚さ750μmから75μmに裏面研削)
【0137】
<貼り合わせ条件>
貼り付け装置:日東精機製、DR−3000II
貼り付け速度計:100mm/min
貼り付け圧力:0.3MPa
貼り付け時のステージ温度:23℃
【0138】
次に、半導体ウェハをダイシングし半導体チップを形成した。ダイシングは10mm角のチップサイズとなる様にダイシングを行った。ダイシング条件は下記の通りである。
【0139】
<ダイシング条件>
ダイシング装置:ディスコ社製、DFD−6361
ダイシング速度:30mm/秒
ダイシングブレード:ディスコ社製
Z1:205O−HEDD
Z2:205O−HCBB
回転数:4万rpm
Z2のダイシングテープへの切り込み量:20μm
カット方式:ステップカット・Aモード
チップサイズ:10mm角
【0140】
次に、各ダイシング・ダイボンドフィルムを引き伸ばして、各チップ間を所定の間隔とするエキスパンド工程を行った。エキスパンド条件は下記の通りである。
【0141】
<エキスパンド条件>
ダイボンダー:(株)新川製、装置名:SPA−300
内リングに対する外リングの引落し量:3mm
ダイシングリング:2−8−1
【0142】
(ダイシングフィルム−ダイボンドフィルム間界面への水の浸入)
ダイシング後に、ダイシングフィルムとダイボンドフィルムとの界面へ水が浸入しているか否かについて、光学顕微鏡(50倍)により確認した。なお、ダイシング直後では、切断面側からダイシングフィルムとダイボンドフィルムとの界面を確認することは困難であるので、エキスパンド後に水浸入の有無を確認した。
【0143】
更に、各ダイシング・ダイボンドフィルムの基材側からニードルによる突き上げ方式で、ダイボンドフィルム付きの半導体チップをピックアップした。ピックアップ条件は下記の通りである。
【0144】
<ピックアップ条件>
ダイボンド装置:(株)新川製、装置名:SPA−300
ニードル本数:9本
ニードル突き上げ量:350μm(0.35mm)
ニードル突き上げ速度:5mm/秒
吸着保持時間:80ms
【0145】
ピックアップした半導体チップを基板上にダイボンドした。ダイボンド条件は、ステージ温度150℃、荷重15N、荷重時間1秒とした。また、基板の構成は表1に示す通りである。
【0146】
次に、半導体チップがダイボンドされた基板を、乾燥機にて150℃、1時間熱処理し、その後封止樹脂(日東電工(株)製、商品名;GE−100)でパッケージングした。封止条件は成形温度175℃、成形時間90秒とした。得られた半導体パッケージに対し、更に後硬化工程を行った。具体的には、加熱温度175℃、加熱時間1時間とした。これにより、チップアレイ型ボールグリップドアレイの半導体パッケージ(長さ12mm×幅12mm×厚さ0.6mm)を10個作製した。
【0147】
続いて、60℃、60%RH、120時間の条件下で半導体パッケージの吸湿を行った。その後、予備加熱での温度150±30℃、予備加熱時間90秒、ピーク温度260℃以上、ピーク温度での加熱時間10秒に設定したIRリフロー炉に、前記半導体パッケージを載置した。その後、半導体パッケージをガラスカッターで切断し、その断面を超音波顕微鏡で観察して、各ダイボンドフィルムA〜Dと基板の境界における剥離の有無を確認した。確認は半導体チップ10個に対し行い、剥離が生じている半導体チップをカウントした。
【0148】
【表1】

【0149】
(結果)
下記表2から明らかな通り、比較例1及び2に係るダイシング・ダイボンドフィルムC、Dにおいては、ダイボンドフィルムの吸水率が共に1.5重量%以下に抑制されているにも関わらず、リフロー工程後のダイボンドフィルムが半導体チップから剥離していることが確認された。これは、ダイシングフィルムの吸水率が大きいことに起因すると思料される。また、比較例1のダイシング・ダイボンドフィルムCに於いては、ダイシング工程後のダイシングフィルムとダイボンドフィルムの界面に水が浸入していることも確認された。
【0150】
これに対し、実施例1及び2に係るダイシング・ダイボンドフィルムA、Bに於いては、ダイシングフィルムの吸水率も低減させた結果、リフロー工程後のダイボンドフィルムが半導体チップから剥離していることが確認されず、耐湿半田リフロー性の向上が図れた。また、ダイシング工程後のダイシングフィルムとダイボンドフィルムの界面にも、水浸入の防止が図れることが確認された。
【0151】
【表2】

【符号の説明】
【0152】
1 支持基材
2 粘着剤層
3、3’ ダイボンドフィルム
4 半導体ウェハ
5 半導体チップ
6 被着体
8 封止樹脂
10、11 ダイシング・ダイボンドフィルム
13 ダイシングブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持基材上に粘着剤層が設けられたダイシングフィルムと、前記粘着剤層上に設けられたダイボンドフィルムとを少なくとも有するダイシング・ダイボンドフィルムであって、
下記式(1)により算出される吸水率が1.5重量%以下であることを特徴とするダイシング・ダイボンドフィルム。
【数1】

【請求項2】
前記ダイシングフィルムの下記式(2)により算出される吸水率が1.5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のダイシング・ダイボンドフィルム。
【数2】

【請求項3】
前記ダイボンドフィルムの下記式(3)により算出される吸水率が1.5重量%以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のダイシング・ダイボンドフィルム。
【数3】





【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−38181(P2013−38181A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−172099(P2011−172099)
【出願日】平成23年8月5日(2011.8.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】