説明

ダイスおよびそれを用いたシームレスベルトの製造方法

【課題】押出し成形により製造した樹脂チューブに異物に由来する凸部が生じることを抑制することのできるダイスの提供。
【解決手段】樹脂組成物を溶融押し出しして樹脂チューブを成形するためのダイスであって、熔融樹脂組成物の導入口と、該導入口から導入された熔融樹脂組成物をチューブ形状に成形するための環状流路と、該導入口から導入された熔融樹脂組成物を該環状流路の周方向に均一に導入するためのスパイラル流路と、該スパイラル流路と該環状流路とを連結する連結流路とを備え、更に、該連結流路内に、該熔融樹脂組成物に含まれる異物を除去するためのフィルタが配置されていることを特徴とするダイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は押出し成形用のダイス及び電子写真用のシームレスベルトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置において、中間転写ベルト等に用いられる電子写真用のシームレスベルトの製法の1つにカーボンブラックを分散してなる樹脂混合物を環状ダイスから押出成形して製造する製法が知られている。ここで、カーボンブラックが分散された樹脂混合物を押出成形して得たシームレスベルト中には異物が混入し、それがシームレスベルトの表面に不規則な凸部を形成することがあった。かかる凸部は電子写真画像の品位に影響を与えることがある。上記した異物は、押出成形の過程における樹脂の熱による劣化、酸化架橋などが考えられる。特許文献1には、ポリ−テルスルホン樹脂(PES)やPESにカーボンブラック配合した樹脂組成物を押出し成形して製造した電子写真用の半導電性シームレスベルトの表面の平滑性が良好でないという課題を提示している。そして、このような課題を、成形手段と単軸押出機との間にブレーカープレートを配設し、該ブレーカプレートの単軸押出機側に焼結金属フィルタを配設し、該焼結金属フィルタでゲル状粒子を除去することで解決できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−276426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは特許文献1に記載の発明について検討を重ねた。その結果、スパイラル流路を備えた円筒ダイスを用いたシームレスベルトの成形の際には、シームレスベルトへの異物の発生を十分には抑制することができなかった。これは、特許文献1の図4に示されているように、特許文献1に係る焼結金属フィルタは、単軸押出機の出口に配設されている。そして、スパイラル流路を備えた円筒ダイスを用いたシームレスベルトの成形の際には、ダイス内での樹脂の滞留時間が長くなる。そのため、特許文献1に係る位置に焼結金属フィルタを配置してもシームレスベルトへの異物の発生を十分に抑制することができなかったものと推定した。
【0005】
そこで、本発明の目的は、電子写真用のシームレスベルトの成形に用いる、該シームレスベルトへの異物の混入をより確実に抑制し得るダイスを提供することにある。また、本発明の他の目的は、異物の混入に起因する不規則な凸部を表面に有しない電子写真用のシームレスベルトを製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかるダイスは、樹脂組成物を押出し成形して、エンドレスチューブを製造するためのダイスであって、熔融樹脂の導入口と、該導入口から導入された熔融樹脂をエンドレスチューブ形状に成形するための環状流路と、該導入口から導入された熔融樹脂を該環状流路の周方向に均一に導入するためのスパイラル流路と、該スパイラル流路と該環状流路とを連結する連結流路とを備え、更に、該連結流路内に、該熔融樹脂に含まれる異物を除去するためのフィルタが配置されていることを特徴とするダイスである。
また、本発明に係るシームレスベルトの製造方法は、上記のダイスを用いて溶融押し出しして樹脂チューブを成形する工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、スパイラル流路と環状流路との間に位置する連結流路内にフィルタが配置されているため、ダイス内で生じた異物をも除去できる。そして、フィルタとダイスの出口までの距離が短いため、フィルタ通過後の熔融樹脂への異物混入を抑えることができる。その結果、表面の平滑性に優れ、高品位な電子写真画像の形成に資する電子写真用のシームベルトを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を代表するダイスの概略断面図である。
【図2】本発明の他の態様のダイスの概略断面図である。
【図3】ポリエーテルエーテルケトン樹脂の構成単位を示す図である。
【図4】比較例に用いたダイスの概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において使用される樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と導電性フィラーとして例えばカーボンブラックとを含有する熱可塑性樹脂組成物である。該熱可塑性樹脂は、機械的強度から、ポリエーテルエーテルケトンが好ましい。市販品として代表的なものには、ビクトレックス(Victrex)社製の商品名「ビクトレックスPEEK」シリーズが挙げられる。
【0010】
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャネルブラックなどが挙げられる。中でも、アセチレンブラックが、好ましい。カーボンブラックの割合は、使用する種類によっても異なるが、5〜25wt%、好ましくは、10〜20wt%である。
【0011】
また、本発明の樹脂組成物は、ポリエーテルエーテルケトンなどの熱可塑性樹脂と導電性カーボンブラックのほかに、必要に応じて、特定の機能を付与する物質を含んでもよい。
【0012】
本発明にかかる電子写真用シームレスベルトの製造方法は、以下の工程を有する。
ポリエーテルエーテルケトンと導電性カーボンブラックとを含有する樹脂組成物を円筒押出成形する一次加工工程;
該一次加工工程で得られる中空円筒状薄肉化チューブを、外嵌合する内型と内嵌合する外型で挟持押圧しつつ前記チューブに加熱処理を施す二次加工工程。
【0013】
図1は、本発明にかかる電子写真用シームレスベルトの製造用のダイスの断面図である。ダイス1は、ポリエーテルエーテルケトンと導電性カーボンブラックとを含有する樹脂組成物を円筒状に押出成形する一次加工工程に用いられる。そして、該ダイス1は、熔融樹脂組成物の導入口7、熔融樹脂組成物をチューブ形状に成形するための環状流路3、該環状流路の周方向に熔融樹脂組成物を均一に導入するためのスパイラル流路5を有する。さらに、スパイラル流路5と環状流路3との間に位置する連結流路2内に、異物を除去するための中空円板状のフィルタ10を備えている。
【0014】
フィルタ10の異物除去面は、環状流路内の熔融樹脂の流動方向と平行に配置され、濾過面積をより大きくできるので、押出成形時のフィルタ前後での差圧を小さくすることができる。これにより、フィルタのメッシュの目開きをより細かくすることができ、得られるチューブ表面の異物を、小さくすることが可能となる。
【0015】
本発明の製造方法の一次加工工程においては、上記の導電性カーボンブラックを配合したポリエーテルエーテルケトン組成物を、環状ダイスを介して押出した中空円筒状チューブを下方に引取り、冷却マンドレルの外周に担持させて冷却する。これにより、薄膜化したチューブ状に成形する。また、ダイス出口から押出された樹脂の外周辺を、温度の均一化や保温のために、カバー部材で覆うようにすることができる。
【0016】
以上のような構成において、ポリエーテルエーテルケトンの融点である345℃以上に加熱・保持されているダイス導入口から導入される熔融樹脂組成物は、周方向に均一に導入するためのスパイラル流路を通った後、フィルタを通過する。該フィルタで異物が除去された熔融樹脂組成物溶は、環状流路にて円筒形状に成形されつつ、ダイス出口(幅0.5〜2mm)から溶融押し出しされ、樹脂チューブを得る。冷却マンドレル下方に位置する引取装置により、好ましくは引落率(ダイス出口幅÷最終樹脂チューブ膜厚)2.5以上50以下で、40〜200μ膜厚に薄膜化される。薄膜化する工程でのチューブを構成する樹脂組成物の表面温度は、該樹脂組成物の融点−55℃以上の温度範囲であることが望ましい。薄膜化された中空円筒状チューブ(以下、中空円筒状薄膜化チューブともいう)を冷却マンドレルに外嵌合・接触させる。外嵌合・接触後から0.5秒以下の時間内に該樹脂組成物の表面温度をガラス転移温度未満に冷却固化することが好ましい。ここで、冷却マンドレルの温度とダイスからの距離は、以下の条件(ア)及び(イ)を満たすように設定することが好ましい。
(ア)冷却マンドレルと接触する位置での樹脂チューブの表面温度が、290℃(融点−55℃)未満にならないこと;
(イ)最終チューブ膜厚に薄膜化されたチューブを冷却マンドレル最上端に接触させ、0.5秒以内に、150℃(Tg:ガラス転移温度)未満まで冷却すること。
上記方法により得られるチューブを広角X線回折法(XRD)により結晶化度測定を行い、結晶化度が10%以下のものを非晶と定義した。非晶のポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物からなる薄膜化されたチューブは上記のようにチューブ表面を冷却することで得ることができる。
【0017】
チューブの厚みは、40〜200μm、好ましくは、50〜100μmの範囲内である。厚みを上記の範囲内とすることで、シームレスべルトの厚みを均一にすることが容易となる。また、柔軟性が良好で、転写性能に優れた中間転写ベルトに適したシームレスベルトを得ることができる。
【0018】
次に、上記の非晶チューブに二次加工を行なう。即ち、チューブと接触する面を、ブレードクリーニング性能を十分に満たすように粗さ制御された外嵌合する内型と内嵌合する外型で空気圧または金型の熱膨張差で押圧しつつ、前記チューブに150℃(Tg)以上345℃(Tm)未満の再結晶温度領域で加熱処理を施す。二次加工を施す温度領域は、TgとTmとの間で、粘度低下が起きている最下端の粘度が得られる温度あるいはその近傍が好ましい。加圧力は、熱面転写が行われば良く、特に限定するものではないが、10Kg/cm2以上、好ましくは、20kg/cm2である。10Kg/cm2未満であると、熱面転写性能が行なわれにくい。20Kg/cm2以上の高圧は、金型の耐久性の観点から、好ましくない。
【0019】
外型の内面は、電子写真用シームレスベルトに求められる表面性を得るために、表面制御されている。求められる表面性は、ブレードクリーニング性能を考慮し、表面粗さ測定(十点平均粗さ:Rz)で、0.1〜1μmが好ましい。これにより、ブレードのびびり・めくれ、およびトナーのすり抜けを抑制できる。
【0020】
電子写真用シームレスベルトの体積抵抗率の平均値は、1.0×10E7〜1.0×10E14Ω・cmであり、好ましくは、1×10E8〜1.0×10E13Ω・cmである。電子写真用シームレスベルト1本あたりの体積抵抗率および表面抵抗率の面内抵抗ムラは、1桁以内、好ましくは、0.5桁以内である。また、表面抵抗率/体積抵抗率は10以下が好ましい。
【実施例】
【0021】
以下、電子写真用シームレスベルトが中間転写ベルトである場合の実施例を示す。
【0022】
(実施例1)
導電性フィラ−として、カーボンブラック(アセチレンブラック)を配合したポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を360℃のダイス出口から4kg/hで押出した例を示す。
ポリエーテルエーテルケトン樹脂としては、図3に示すような、オキシ−1,4−フェニレン−オキシ−フェニレン−カルボニル−1,4−フェニレンの構成単位からなる物質を使用した。カーボンブラックの配合量は、15wt%であった。100℃に温度調節された冷却マンドレルは、ダイス下端から40mm位置に配置された。ダイスとして、図1に示す形態のものを用いた。ここで、スパイラル流路と環状流路との間に位置する連結流路内に、異物を除去するための中空円板状のフィルタとして、目開き20μmのメッシュを有する濾過面積100cmのフィルタを用いた。ダイス出口幅1mmから押出されるポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を、冷却マンドレル下方に位置する引取装置により、引落率20(ダイス出口幅÷最終チューブ膜厚)で、50μmに薄膜化し、冷却固化することでエンドレスチューブを作製した。作製されたチューブの結晶化度は4%であった。押出成形で得られたこのチューブを、外嵌合する内型と内嵌合する外型で面圧10Kg/cm2で挟持・押圧しつつ、160℃で加熱処理を施す二次加工を行った。一次加工の押出成形時のフィルタ前後の差圧は、6Mpaであり、フィルタの機械的な許容強度圧の15Mpa以下であった。また、一次加工後に、得られた樹脂チューブの表面の異物に起因する凸部の最大高さは40μm以下であった。二次加工後には、異物に起因する凸部は観察されない、表面平滑性に優れたシームレスベルトが得られた。
【0023】
(実施例2)
実施例1に用いたフィルタを、目開き10μmのメッシュを有する濾過面積100cm2のフィルタに変えた以外は実施例1と同様にしてシームレスベルトを製造した。一次加工の押出成形時のフィルタ前後の差圧は、12Mpaであり、フィルタの機械的な許容強度圧の15Mpa以下であった。また、一次加工後に、得られた樹脂チューブ表面の異物に由来する凸部の最大高さは20μm以下であった。二次加工後には、異物に起因する凸部が観察されない、表面平滑性に優れたシームレスベルトが得られた。
【0024】
(実施例3)
図2に示した構造を有するダイスを用いた以外は実施例1と同様にしてシームレスベルトを作製した。ここで、フィルタ10としては、目開き20μmのメッシュを有する濾過面積1000cm2の円筒状のフィルタを用いた。ダイス出口幅1mmから押出されるポリエーテルエーテルケトン樹脂組成物を、冷却マンドレル下方に位置する引取装置により、引落率20(ダイス出口幅÷最終チューブ膜厚)で、50μmに薄膜化し、冷却固化することでエンドレスチューブを作製した。作製されたチューブの結晶化度は4%であった。押出成形で得られたこのチューブを、外嵌合する内型と内嵌合する外型で面圧10Kg/cm2で挟持・押圧しつつ、160℃で加熱処理を施す二次加工を行った。一次加工の押出成形時のフィルタ前後の差圧は、1Mpa以下であり、フィルタの機械的な許容強度圧の15Mpa以下であった。また、一次加工後に、得られた樹脂チューブの表面の異物に由来する凸部の最大高さは40μm以下であった。二次加工後には、異物に起因する凸部が観察されない、表面平滑性に優れたシームレスベルトが得られた。
【0025】
(実施例4)
実施例3で用いたフィルタを、目開き10μmのメッシュを有する濾過面積2000cm2の円筒状フィルタに変えた以外は実施例3と同様にしてシームレスベルトを製造した。一次加工の押出成形時のフィルタ前後の差圧は、1Mpa以下であり、フィルタの機械的な許容強度圧の15Mpa以下であった。また、一次加工後に得られた樹脂チューブの表面の異物に由来する凸部の最大高さは20μm以下であった。二次加工後には、異物に起因する凸部が観察されない、表面平滑性に優れたシームレスベルトが得られた。
【0026】
(比較例1)
図4に示した構造を有するダイスを用いた以外は実施例1と同様にしてシームレスベルトを作製した。図4に示したように、フィルタ10は不図示のギアポンプとダイスの間に配設されている。フィルタ10としては、目開き20μmのメッシュを有する濾過面積1000cm2の円盤形状のフィルタを用いた。一次加工の押出成形時のフィルタ前後の差圧は、1Mpa以下であり、フィルタの機械的な許容強度圧の15Mpa以下であった。しかし、一次加工後に得られた樹脂チューブ表面の異物に由来する凸部の最大高さは、100μmであった。この樹脂チューブを二次加工して得られたシームレスベルトの表面には、異物に由来する凸部が依然として残留していた。
【0027】
(比較例2)
比較例1において、フィルタとして、目開き10μmのメッシュを有する濾過面積2000cm2の円盤形状のフィルタを用いた以外は比較例1と同様にしてシームレスベルトを製造した。一次加工の押出成形時のフィルタ前後の差圧は、1Mpa以下であり、フィルタの機械的な許容強度圧の15Mpa以下であった。しかし、一次加工後に得られた樹脂チューブ表面の異物に由来する凸部の最大高さは約100μmであった。この樹脂チューブを二次加工して得たシームレスベルトの表面には、異物に由来する凸部が依然として残留していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂組成物を溶融押し出しして、樹脂チューブを成形するためのダイスであって、
熔融樹脂組成物の導入口と、
該導入口から導入された熔融樹脂組成物をチューブ形状に成形するための環状流路と、
該導入口から導入された熔融樹脂組成物を該環状流路の周方向に均一に導入するためのスパイラル流路と、
該スパイラル流路と該環状流路とを連結する連結流路とを備え、更に、該連結流路内に、該熔融樹脂組成物に含まれる異物を除去するためのフィルタが配置されていることを特徴とするダイス。
【請求項2】
前記フィルタの異物除去面が、該環状流路内の熔融樹脂組成物の流動方向と平行に配置されている請求項1に記載のダイス。
【請求項3】
前記樹脂組成物を、請求項1または2に記載のダイスを用いて溶融押し出しして樹脂チューブを成形する工程を有することを特徴とする電子写真用のシームレスベルトの製造方法。
【請求項4】
前記樹脂組成物が、導電性フィラを含有する熱可塑性樹脂組成物である請求項3に記載の電子写真用のシームレスベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−136476(P2011−136476A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297567(P2009−297567)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】