説明

ダイボンディング装置

【課題】簡便な構造で薄い半導体チップを適切にピックアップしてボンディングする。
【解決手段】半導体チップをピックアップしてボンディングするボンディングツール11が先端に取り付けられるシャフト12、複数の平行に配置された平板リンク20,30を介してシャフト12が取り付けられ、シャフト12の延びる方向に沿って直線移動するボンディングヘッド50と、ボンディングヘッド50に回転自在に取り付けられ、先端部41がシャフト12に接続され、後端部43にカウンターウェイト48が取り付けられるレバー40と、ボンディングヘッド50とレバー40の後端部43との間に取り付けられ、ボンディングツール11を半導体チップに押し付ける押圧荷重を付与するスプリング58と、を備え、カウンターウェイト48は、レバー40の回転軸周りの回転モーメントをつり合わせる重量とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイボンディング装置の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体チップを基板等に接合するためのダイボンディング装置は、ダイシングされたウェハから半導体チップをピックアップし、ピックアップした半導体チップを基板またはリードの上にボンディングして接合するものである。このダイボンディング装置は半導体チップを吸着してピックアップするツールであるコレットが取り付けられたボンディングヘッドを半導体チップの表面に対して垂直方向に移動させるものである。半導体チップをピックアップする際或いは半導体チップを基板等の上にボンディングする際には、コレットをある程度の押圧荷重で半導体チップに押しつける必要があるので、例えば、ボイスコイルモータによってコレットを押し下げて半導体チップに適切な押圧荷重を掛ける方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかし、ボイスコイルモータは重量が大きいことから、ボンディングヘッドの高速移動が難しい上、微小な押圧荷重を調整するための制御装置が必要で構造が複雑になってしまうという問題があった。そこで、コレットとボンディングヘッドとの間にボンディングヘッドの降下距離によってコレットの半導体チップへの押圧力を調整できるような荷重ばねを取り付け、ボンディングヘッドの高さを制御することによって半導体チップをピックアップする際或いは基板等の上にボンディングする際に適切な押圧荷重が半導体チップに加わるようにする簡便な方法も用いられている。
【0004】
ところが、荷重ばねを用いた方法では、コレットとコレットが取り付けられているシャフトと荷重ばねとがいわゆるバネマス系の振動系を構成することから、ダイボンディング装置の動作速度や押圧荷重の大きさ等によって、コレット及びシャフトが大きく上下に振動する場合があり、ピックアップの際或いは基板等の上にボンディングの際にコレットが半導体チップの表面から浮かないようにするために、少し大ききめの押圧荷重が掛かるようにすることが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−340411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、近年、半導体チップの厚さは非常に薄く、その強度が弱くなってきている。また、ガリウムヒ素等の脆い素材を用いた半導体チップも多く用いられるようになってきている。このため、ピックアップの際或いは基板等の上にボンディングの際にこのような薄い或いは脆い半導体チップに加わる押圧荷重をできるだけ小さくすることが必要となる。しかし、荷重ばねを用いた方法では、振動による浮き上がりを防止するため、押圧荷重を小さくすることが難しいという問題があった。更に、振動が発生した場合には荷重ばねの反動で半導体チップに瞬間的に大きな押圧荷重が掛かってしまい、半導体チップが破損してしまう場合があるという問題があった。このため、従来の荷重ばねを用いたダイボンディング装置では、薄い或いは脆い半導体チップのピックアップに必要な小さな押圧荷重をかけられず、薄い或いは脆い半導体チップを適切にピックアップして基板等の上にボンディングすることが難しいという問題があった。
【0007】
本発明は、ダイボンディング装置において、簡便な構造で薄い或いは脆い半導体チップを適切にピックアップしてボンディングすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のダイボンディング装置は、半導体チップをピックアップしてボンディングするボンディングツールが先端に取り付けられるシャフトと、複数の平行に配置された平板リンクを介してシャフトが取り付けられ、シャフトの延びる方向に沿って直線移動するボンディングヘッドと、ボンディングヘッドに回転自在に取り付けられ、一端がシャフトに接続され、他端にカウンターウェイトが取り付けられるレバーと、ボンディングヘッドとレバーの他端との間に取り付けられ、ボンディングツールを半導体チップに押し付ける押圧荷重を付与するスプリングと、を備え、カウンターウェイトは、レバーの回転軸周りの回転モーメントをつり合わせる重量であること、を特徴とする。
【0009】
本発明のダイボンディング装置において、レバーは、2枚の板ばねを十字型に交差させた十字板ばねによって回転自在にボンディングヘッドに取り付けられ、レバーの回転軸は、2枚の板ばねの交差する線に沿った軸であること、としても好適である。
【0010】
本発明のダイボンディング装置において、各平板リンクは、シャフトの延びる方向と交差する面に沿って延び、ボンディングヘッドに取り付けられる環状板と、環状板と同一面に配置され、環状板の内側にある中空部分を渡る渡り板と、を含み、渡り板にシャフトが取り付けられており、各平板リンクの環状板は、略四角環状で、対向する2辺の中央の各固定点でボンディングヘッドに固定され、渡り板は、環状板の各固定点を結ぶ方向と交差する方向に延び、シャフトが接続される中央から環状板に接続される両端に向かって幅が小さくなり、環状板は、各固定点から前記渡り板に接続される両端に向かって幅が小さくなっていること、としても好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、ダイボンディング装置において、簡便な構造で薄い或いは脆い半導体チップを適切にピックアップしてボンディングすることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置の構造を示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置の平板リンクを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置の半導体チップをピックアップする前の状態を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置の半導体チップをピックアップする状態を示す断面図である。
【図5】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置の平板リンクの変形状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置の平板リンクの変形状態を示す側面図である。
【図7】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置のボンディングヘッドの沈み込み量に対する押圧荷重の変化を示すグラフである。
【図8】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置のボンディングヘッドの降下速度とレバーの回転軸周りの回転モーメントの変化と押圧荷重の変化を示すグラフである。
【図9】本発明の実施形態におけるダイボンディング装置のボンディングツールが半導体チップに接触した後の押圧荷重の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1に示す様に、本実施形態のダイボンディング装置100は、図示しないXY方向への移動装置に取り付けられたリニアガイド62と、リニアガイド62に沿ってZ方向に移動するスライダ61と、スライダ61に固定され、スライダ61と共にZ方向に移動するボンディングヘッド50とを備えている。ボンディングヘッド50は、スライダ61に固定される本体51と、本体51からY方向に延びる一対の下アーム52と一対の上アーム53と、下アーム52にブッシュ55を介してボルト54によって固定された下平板リンク20と、上アーム53にブッシュ55を介してボルト54によって固定された上平板リンク30と、下平板リンク20と上平板リンク30とにそれぞれ固定されたシャフト12と、シャフト12の下側の先端に取り付けられている半導体チップを吸着するボンディングツール11とを備えている。下平板リンク20と上平板リンク30とは平行に配置されている。シャフト12の上端にはシャフト12よりも外径の大きなエンドブロック13が取り付けられており、エンドブロック13の本体51側の下面は、上アーム53にボルト54で固定された逆U字型のストッパ56の上面に当たるよう構成されている。なお、図1においては、Z方向は垂直方向であり、XY方向は互いに直交する水平面を示す。以下説明する他の図面においても同様である。
【0014】
また、本体51の上部には回転ガイドである十字板ばね45を介してレバー40がボンディングヘッド50に対して回転自在に取り付けられている。レバー40の先端部41(シャフト12側或いはY方向プラス側)とシャフト12のエンドブロック13とは連結板49によって連結されている。また、レバー40の後端部(スライダ61側あるいはY方向マイナス側)にはカウンターウェイト48がボルト42によって固定されている。カウンターウェイト48の下側の本体51に設けられた穴57にはボンディングツール11を半導体チップに押し付ける押圧荷重を付与するスプリング58が取り付けられている。スプリング58の上端はカウンターウェイト48に接触している。
【0015】
十字板ばね45は、水平ばね板46と、垂直ばね板47とを十字に組み合わせたもので、水平ばね板46の後端(スライダ61側あるいはY方向マイナス側)はボンディングヘッド50の本体51にボルト42によって固定され、先端(シャフト12側あるいはY方向プラス側)は、レバー40の中央ブロック44の下面にボルト42によって固定されている。また、垂直ばね板47の下端はボルト42によってボンディングヘッド50の本体51の上部に固定されており、その上端は、レバー40の中央ブロック44の垂直面にボルト42によって固定されている。このように、十字板ばね45は水平ばね板46の先端と後端、垂直ばね板47の上端と下端との4つの端部を有しており、隣接する水平ばね板46の後端と垂直ばね板47の下端とはボンディングヘッド50の本体51に固定され、水平ばね板46の先端と垂直ばね板47の上端とはレバー40の中央ブロック44に固定されている。そして、水平ばね板46と垂直ばね板47との交差するX方向に延びる線がレバー40の回転軸40cとなり、十字板ばね45はレバー40を回転軸40cの周りに回転自在に支持する。
【0016】
図2を参照しながら上平板リンク30の構造の詳細について説明する。図2に示す様に、上平板リンク30は、薄いステンレス鋼やバネ鋼などを加工したもので、シャフト12の延びるZ方向と垂直なXY面内に沿って延びている。上平板リンク30は、環状板31と、環状板31の内側の中空部分34をY方向に渡る渡り板32とを備えている。環状板31と渡り板32とは同一平内に配置されている。環状板31は、略四角環状で各辺は、X方向とY方向とに延びている。そして、Y方向に延びる一対の第1の辺31aの長手方向の中央はブッシュ55を介してボルト54によって上アーム53の上面に固定されている。このボルト54によって上アーム53に固定されている第1の辺31aの部分はそれぞれ上平板リンク30の固定点33である。また、環状板31のX方向に延びる一対の第2の辺31bの各中央は渡り板32によってY方向に接続されている。そして、渡り板32の中央にはシャフト12が固定されている。図2に示す様に、渡り板32の中心線72はシャフト12の中心線71を通る線である。シャフト12が渡り板32に取り付けられる部分はリング14によって補強されている。図2に示す様に、渡り板32はシャフト12の中心線71を通ってY方向に延び、シャフト12が固定されている中央部分は幅が広く、環状板31と接続される端部に向ってその幅が小さくなるテーパー形状となっている。また、Y方向に延びる一対の第1の辺31aはボルト54によって固定される固定点33の部分は幅が広く、Y方向に向かうにつれて第2の辺31bは、その幅が小さくなるように構成されている。そして、2つの固定点33とシャフト12とは、一つの直線73の上に配置され、X方向に一列に並んでいる。以上、上平板リンク30の構造について説明したが、下平板リンク20の構造も上平板リンク30と同様の構造である。
【0017】
以上説明したように構成される本実施形態のダイボンディング装置100によって半導体チップをピックアップする際の動作について説明する。図1,2を参照して説明した部分には同様の符号を付してその説明は省略する。
【0018】
図3に示す様に、ピックアップしようとする半導体チップ90は、裏面にダイシングテープ83が貼り付けられた状態でピックアップステージ81の上に吸着固定されている。ダイシングテープ83は、周囲に向って引っ張られた状態で、各半導体チップ90の間には微小な隙間ができている。ダイボンディング装置100は、図示しないXY移動装置によってボンディングヘッド50を移動させ、シャフト12の下端に取り付けられたボンディングツール11の位置をピックアップしようとする半導体チップ90の真上にもってくる。
【0019】
次に、図4に示す様に、ダイボンディング装置100は、図示しない制御部の指令によって、ボンディングヘッド50が取り付けられているスライダ61をZ方向下向きに降下させる。そして、制御部はボンディングツール11の先端が半導体チップ90の表面に接してから更に、高さΔZだけスライダ61及びボンディングヘッド50を降下させる。すると、図4に示す様に、シャフト12は、2つの平板リンク20,30にガイドされてボンディングヘッド50に対して高さΔZだけ上方に移動し、シャフト12の上端のエンドブロック13も高さΔZだけ上方に移動する。そして、エンドブロック13に連結板49によって接続されているレバー40の先端部41も高さΔZだけ上方に移動する。レバー40は、十字板ばね45の水平ばね板46と垂直ばね板47との交差する回転軸40c沿ってX軸周りに回転し、レバー40の後端部43は下向きに高さΔZだけ移動する。すると、スプリング58がZ方向に長さΔZだけ縮み、その反力によってレバー40の後端部43を押し上げ、レバー40の先端部41に連結板49を介して接続されているエンドブロック13、シャフト12に対して下向きに力Fを加える。ボンディングツール11の内部は、図示しない真空装置によって真空となっているので、この力Fによってボンディングツール11が半導体チップ90の表面に押し付けられると、ボンディングツール11は半導体チップ90を吸着する。その後、図示しない制御部によってスライダ61が上昇すると、ボンディングツール11は半導体チップ90をピックアップする。
【0020】
図5、図6を参照して、ボンディングツール11が半導体チップ90の表面に接した後、ボンディングヘッド50が更に高さΔZだけ降下した際の上平板リンク30の変形とシャフト12の移動について詳細に説明する。ボンディングツール11が半導体チップ90の表面に接した後、ボンディングヘッド50が更に高さΔZだけ降下すると、図5に示す様に、上平板リンク30を固定している上アーム53もボンディングツール11が半導体チップ90の表面に接した際の高さよりも高さΔZだけ降下するので、上平板リンク30の固定点33もボンディングツール11が半導体チップ90の表面に接した際の高さよりも高さΔZだけ降下する。一方、シャフト12は先端のボンディングツール11が半導体チップ90の表面に接しているので、それ以上降下せず、上平板リンク30のシャフト12を固定している渡り板32の中央と、2つの固定点33との間にはΔZだけ高さの差ができることとなる。上平板リンク30の固定点33によって中央が上アーム53に固定されている各第1の辺31aは、図5及び図6(a)に示す様に、固定点33から第2の辺31bに向かって上方に湾曲していく。また、図5、図6(b)に示す様に、第2の辺31bの間を渡っている渡り板32は、第2の辺31bからシャフト12の取り付けられている中央部が盛り上がるように上方に向って変形する。更に、図5、図6(b)に示す様に、第2の辺31bは渡り板32が接続されている中央部分が第1の辺31aに接続されている両端から盛り上がるように上に向って変形する。図6(a)に示すように、第1の辺31aの上方への湾曲により、固定点33と第1の辺31aの両端或いは第2の辺31bとの間には、ΔZだけの高さの差ができる。また、図6(b)に示す様に、第2の辺31bの盛り上がり変形によって第1の辺31aの両端と第2の辺31bの中央部との間には、ΔZの高さの差ができる。更に、図6(b)に示すように、渡り板32の盛り上がり変形によって第2の辺31bの中央とシャフト12の取り付けられている渡り板32の中央との間には、ΔZだけの高さの差ができる。そして、この高さの差ΔZ,ΔZ,ΔZの合計が高さΔZとなる。つまり、ΔZ+ΔZ+ΔZ=ΔZ、となる。
【0021】
このように、上平板リンク30は、固定点33から延びる第1の辺31aの曲げ変形と、第2の辺31bの盛り上がり変形と、第2の辺31bとの間に渡された渡り板32の盛り上がり変形とによってシャフト12をボンディングヘッド50に対して高さΔZだけZ方向に移動させる。また、第1の辺31aと渡り板32の第2の辺31bに接続する端部はその幅が小さくなっているので、第2の辺31bの両端、及び渡り板32の両端にそれぞれリンクを形成し、各リンクの回転によってシャフト12をZ方向に移動させる。このため、シャフト12のZ方向の移動に対する抵抗がほとんど発生しない。また、本実施形態のダイボンディング装置100は、下平板リンク20と上平板リンク30の2つの平板リンクを平行に配置し、これによってシャフト12がZ方向に移動可能に支持するので、シャフト12が半導体チップ90の表面に対して垂直方向にスムーズに移動することができる。さらに、図4に示す様に、レバー40は十字板ばね45によって回転軸40cの周りに回転支持されているので、回転軸受けなどのような摩擦抵抗がなく、回転に対する抵抗がほとんど発生しない。
【0022】
このため、ボンディングツール11が半導体チップ90の表面に接した後、ボンディングヘッド50が高さΔZだけ沈み込んだ際に半導体チップ90の表面に掛かる力は、図7に示す様に、沈み込み高さΔZに対して正比例するようになる。つまり、F=K×ΔZ、となる。そして、沈み込み量が高さΔZとなると、半導体チップ90には、F=K×ΔZだけの押圧荷重が掛かる。そして、先に説明したように、この力Fによってボンディングツール11が半導体チップ90の表面に押し付けられると、ボンディングツール11は半導体チップ90を吸着する。その後、図示しない制御部によってスライダ61が上昇すると、ボンディングツール11は半導体チップ90をピックアップする。
【0023】
以上、本実施形態のダイボンディング装置100の基本的な動作について説明したが、次に、ボンディングツール11の先端を半導体チップ90の上に接するまでボンディングヘッド50を降下させる動作と、その際に発生する慣性力について説明する。
【0024】
図3に示す様に、ボンディングツール11をピックアップする半導体チップ90の真上に持ってきたら、図示しない制御部は、スライダ61を駆動してボンディングヘッド50を半導体チップ90に向って降下を開始させる。
【0025】
図8に示す時間t20にボンディングヘッド50が降下を開始すると、ボンディングヘッド50の降下速度vは、ゼロから次第に速くなってくる。そして、図8に示す時間t21から時間t22の間は加速度(プラス加速度)が一定でボンディングヘッド50の降下速度vは直線的に増加していく。そして、図8に示す時間t22から時間t23の間は加速度がマイナスとなり、ボンディングヘッド50の降下速度の上昇率は次第に低下し、ボンディングヘッド50の降下速度vは次第に一定の降下速度vに近づいていく。その後、図8に示す時間t23からt24の間、ボンディングヘッド50は、一定の降下速度vで降下していく。ボンディングヘッド50が降下している間、制御部は、図示しない高さ検出器によってボンディングヘッド50の高さを検出し、その検出結果からボンディングツール11の先端と半導体チップ90の表面との距離を計算する。
【0026】
そして、ボンディングツール11の先端と半導体チップ90の表面との距離が所定の距離まで縮まってきたら、図8の時間t24に示す様に、ボンディングヘッド50の降下速度vを一定の降下速度vから次第に小さくする。図8に示す時間t24からt25の間は、加速度がマイナスとなり、ボンディングヘッド50の降下速度vは時間と共に小さくなっていく。そして、図8に示す時間t25から時間t26の間は、加速度(マイナス加速度)が一定で、ボンディングヘッド50の降下速度vは直線的に減少していく。そして、図8に示す時間t26から時間t27の間は加速度がプラスとなり、ボンディングヘッド50の降下速度の減少率は次第に小さくなり、図8に示す時間t27には、半導体チップ90の表面に接地するための一定の微小降下速度vとなる。制御部は、ボンディングヘッド50を一定の微小降下速度vでゆっくりと降下させていく。
【0027】
図8に示す時間tにボンディングツール11の先端が半導体チップ90の表面に接すると、図4に示す様に、ボンディングツール11とシャフト12とが押し上げられてレバー40が回転軸40cの周りに回転してスプリング58を押し下げる。そして、更に、ボンディングヘッド50が押し下げられるとスプリング58の反力によってボンディングツール11の先端は半導体チップ90の表面に押圧荷重Fによって押し付けられる。図8に示す様に、押圧荷重Fはボンディングツール11の先端が半導体チップ90の表面に接する時間tからボンディングヘッド50が降下するに従って次第に増加していく。
【0028】
以上説明したように、ボンディングヘッド50が降下中には、その降下速度が変化し、その際にボンディングヘッド50に上方向或いは下方向の加速度が掛かる。その際のボンディングヘッド50に取り付けられているシャフト12、ボンディングツール11、レバー40、カウンターウェイト48には加わる加速度によって上方向或いは下方向に向う慣性力が作用する。図8の時間t20から時間t21のようにボンディングヘッド50の降下速度vが増加している間は、ボンディングヘッド50には下向きの加速度が加わる。すると、ボンディングヘッド50に対してZ方向に移動可能となるように各平板リンク20,30によってボンディングヘッド50の各アーム52,53に取り付けられているシャフト12、エンドブロック13及びシャフト12の先端に取り付けられているボンディングツール11には、ボンディングヘッド50に掛かる加速度と大きさが同一で反対方向の加速度αがかかり、この加速度αにより、図3に示す様に、スライダ61に固定されたボンディングヘッド50に対して上向きの慣性力Gが掛かる(図3において白抜き矢印84で示す)。
【0029】
ここで、ボンディングヘッド50に掛かる加速度と同一で方向が反対の加速度をα、シャフト12、エンドブロック13及びシャフト12の先端に取り付けられているボンディングツール11の合計質量をmとすると、G=m×α、である。そして、この慣性力Gによって、シャフト12が連結板49によって接続されているレバー40の先端部41には回転軸40c周りで時計方向に向かう回転モーメントMが掛かる。ここで、レバー40の回転軸40cとシャフト12の中心との距離をモーメントアームLとすると、M=G×L、である。また、図3に示すように、レバー40の後端部43に取り付けられているカウンターウェイト48にもカウンターウェイト48の質量をmとすると、G=m×α、のボンディングヘッド50に対して上向きの慣性力Gが掛かる(図3において白抜き矢印84で示す)。そして、この慣性力Gによって、カウンターウェイト48が取り付けられているレバー40の後端部43には回転軸40c周りで反時計方向に向かう回転モーメントMが掛かる。ここで、レバー40の回転軸40cとカウンターウェイト48の中心との距離をモーメントアームLとすると、M=G×L、である。
【0030】
シャフト12、エンドブロック13、ボンディングツール11に掛かる加速度とカウンターウェイト48に掛かる加速度とは、いずれもボンディングヘッド50に掛かる加速度と同じ大きさで方向が反対の加速度αであることから、シャフト12、エンドブロック13、ボンディングツール11の合計質量mと、カウンターウェイト48の質量mとがそれぞれ等しく、各モーメントアームL,Lとがそれぞれ等しい場合でかつ、レバー40の回転軸40cの周りの回転モーメントが周方向にバランスしている場合には、各回転モーメントM,Mは、その方向が逆で大きさが等しいものとなる。また、レバー40の回転軸40cの周りの回転モーメントがアンバランスとなっている場合には、そのアンバランスを解消するようにカウンターウェイト48の重さを調整することによって、各回転モーメントM,Mは、その方向が逆で大きさが等しいものとすることができる。
【0031】
先に説明したように、各回転モーメントM,Mは、ボンディングヘッド50に掛かる加速度と大きさが同一で反対方向の加速度αに比例するので、図8に示す時間t20から時間t21のように加速度αが増大している場合には、それに従ってそれぞれ図8に一点鎖線で示す回転モーメントMも増大し、時間t21からt22のように加速度αが一定の場合には、回転モーメントMは一定で、時間t22からt23のように加速度αが減少してくる場合には、回転モーメントMは減少する。また、時間t23から時間t24のように速度が変化せず加速度αがゼロの場合には、回転モーメントMはゼロとなる。
【0032】
図8に示す時間t24からt25のように、ボンディングヘッド50の降下速度が一定の速度vから減少する場合、加速度αはゼロから減少するのでマイナスとなり、回転モーメントMも時間t24のゼロから減少してマイナスとなる。そして、時間t25からt26のように加速度αが一定の場合には、回転モーメントMは一定で、時間t26からt27のようにボンディングヘッド50の降下速度の減少度合いが低下してくると加速度αは増加し、回転モーメントMはマイナスからゼロに向って増加してくる。そして、時間t27から時間t28のように速度が変化せず加速度αがゼロの場合には、回転モーメントMはゼロとなる。以上は回転モーメントMの変化について説明したが、図8に破線で示すように、回転モーメントMは回転モーメントMと大きさが同一で方向が逆なので、図8では、ゼロの横軸に対して回転モーメントMと上下対象となるように変化する。
【0033】
このように、ボンディングヘッド50に掛かる加速度αの大きさ、方向によって、各回転モーメントM,Mは変化するが、先に説明したように、本実施形態では、各回転モーメントM,Mは、その方向が逆で大きさが同様となるようにカウンターウェイト48の重さが調整されているので、図8に示す各時間において、各回転モーメントM,Mはバランスがとれている。これによってシャフト12、カウンターウェイト48等とスプリング58とがバネマス振動系を構成してもボンディングヘッド50が降下する際にシャフト12が上下に振動することを抑制している。
【0034】
図8に示す時間tにボンディングツール11の先端が半導体チップ90の表面に接すると、先に説明したように、スプリング58が圧縮され、図8、図9に示す時間t以降のようにボンディングヘッド50の沈み込み量ΔZに比例した押圧荷重Fが半導体チップ90の表面に加わる。すると、レバー40の回転軸40cのまわりの各回転モーメントM,Mのバランスが崩れ、図9に示す様に、シャフト12、カウンターウェイト48等とスプリング58とによって構成されるバネマス振動系によって、シャフト12が上下方向に振動する。そして、図9に実線で示す様に、時間tには半導体チップ90の押圧荷重が最大押圧荷重Fとなり、その後時間tに最小押圧荷重Fとなるが、その振動は時間の経過とともに減衰し、図9に示す時間tには略規定の押圧荷重F一定となる。そして、時間tからtの間、半導体チップ90に所定の押圧荷重Fを加えて半導体チップ90をピックアップし、ボンディングヘッド50が上昇すると、図9の時間tには半導体チップ90の押圧荷重はゼロとなる。
【0035】
本実施形態では、カウンターウェイト48によって、ボンディングヘッド50が降下する際の各回転モーメントM,Mをバランスがとれるようにしているので、図9に破線で示すカウンターウェイト48が設けられていない場合に比べて、ボンディングツール11の先端が半導体チップ90の表面に接した後、半導体チップ90に加わる最大押圧荷重Fと最小押圧荷重Fとの差をカウンターウェイト48が無い場合の最大押圧荷重F11と最小押圧荷重F12との差よりも小さくできると共に、最大押圧荷重Fの大きさを最大押圧荷重F11よりも小さく、最小押圧荷重Fをゼロ以上とすることができる。このため、図9に示す様に、押圧荷重の設定値Fをカウンターウェイト48が無い場合の設定値F10よりも小さくしてもボンディングツール11が半導体チップ90から浮き上がることがなく、半導体チップ90に過剰な押圧荷重をかけて半導体チップ90を破損させることがなくなる。これにより、より小さな押圧荷重を設定値とし、薄い或いは脆い半導体チップ90を損傷させずに適切にピックアップすることができる。
【0036】
また、本実施形態では、シャフト12を2つの平板リンク20,30によってサポートし、レバー40を十字板バネ45によって回転自在に支持しており、従来技術のようなスライド部分が無いので、スライド部分の引っかかりなどによって図9の時間t13に発生するような押圧荷重のピークが発生することもなく、小さな押圧荷重を安定して加えることができる。更に、本実施形態はシャフト12、ボンディングツール11、エンドブロック13等の重量を軽くすることができることから、図9の破線で示す従来技術のダイボンディング装置の半導体チップ90をピックアップするのに必要な時間(t17−t)を時間(t−t)まで短くすることができ、半導体チップ90のピックアップ時間を短くすることができる。
【0037】
以上説明したように、本実施形態は、ダイボンディング装置において、簡便な構成によって薄い或いは脆い半導体チップを破損させずに適切にピックアップすることができる。
【0038】
以上、本実施形態のダイボンディング装置100によって半導体チップ90をピックアップする際の動作について説明したが、半導体チップ90を基板或いはリードフレーム等の上に接合する際の動作も同様で、半導体チップ90に掛かる小さな押圧力を正確に制御できるので、薄く強度の低い或いは脆い半導体チップ90を損傷させずに基板或いはリードフレーム等の上に適切にボンディングすることができる。また、半導体チップの上に更に半導体チップをボンディングする際にも同様に半導体チップ90を損傷させずに適切にボンディングを行うことができる。
【符号の説明】
【0039】
11 ボンディングツール、12 シャフト、13 エンドブロック、14 リング、20 下平板リンク、30 上平板リンク、21,31 環状板、31a 第1の辺、31b 第2の辺、22,32 渡り板、33 固定点、24,34 中空部分、40 レバー、40c 回転軸、41 先端部、42 ボルト、43 後端部、43 他端、44 中央ブロック、45 十字板バネ、46 水平ばね板、47 垂直ばね板、48 カウンターウェイト、49 連結板、50 ボンディングヘッド、51 本体、52 下アーム、53 上アーム、54 ボルト、55 ブッシュ、56 ストッパ、57 穴、58 スプリング、61 スライダ、62 リニアガイド、71,72 中心線、73 直線、81 ピックアップステージ、83 ダイシングテープ、90 半導体チップ、100 ダイボンディング装置。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイボンディング装置であって、
半導体チップをピックアップしてボンディングするボンディングツールが先端に取り付けられるシャフトと、
複数の平行に配置された平板リンクを介して前記シャフトが取り付けられ、前記シャフトの延びる方向に沿って直線移動するボンディングヘッドと、
前記ボンディングヘッドに回転自在に取り付けられ、一端が前記シャフトに接続され、他端にカウンターウェイトが取り付けられるレバーと、
前記ボンディングヘッドと前記レバーの他端との間に取り付けられ、前記ボンディングツールを前記半導体チップに押し付ける押圧荷重を付与するスプリングと、を備え、
前記カウンターウェイトは、前記レバーの回転軸周りの回転モーメントをつり合わせる重量であること、
を特徴とするダイボンディング装置。
【請求項2】
請求項1に記載のダイボンディング装置であって、
前記レバーは、2枚の板ばねを十字型に交差させた十字板ばねによって回転自在にボンディングヘッドに取り付けられ、前記レバーの回転軸は、前記2枚の板ばねの交差する線に沿った軸であること、
を特徴とするダイボンディング装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のダイボンディング装置であって、
前記各平板リンクは、前記シャフトの延びる方向と交差する面に沿って延び、前記ボンディングヘッドに取り付けられる環状板と、前記環状板と同一面に配置され、前記環状板の内側にある中空部分を渡る渡り板と、を含み、前記渡り板に前記シャフトが取り付けられていること、
を特徴とするダイボンディング装置。
【請求項4】
請求項3に記載のダイボンディング装置であって、
前記各平板リンクの前記環状板は、略四角環状で、対向する2辺の中央の各固定点で前記ボンディングヘッドに固定されていること、
を特徴とするダイボンディング装置。
【請求項5】
請求項3に記載のダイボンディング装置であって、
前記渡り板は、前記環状板の前記各固定点を結ぶ方向と交差する方向に延び、前記シャフトが接続される中央から前記環状板に接続される両端に向かって幅が小さくなること、
を特徴とするダイボンディング装置。
【請求項6】
請求項3に記載のダイボンディング装置であって、
前記環状板は、前記各固定点から前記渡り板に接続される両端に向かって幅が小さくなっていること、
を特徴とするダイボンディング装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−26585(P2013−26585A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162715(P2011−162715)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000146722)株式会社新川 (128)
【Fターム(参考)】