説明

ダクトおよびその製造方法

【課題】ダクトの湾曲部分の通風性能を向上する。
【解決手段】ダクト10は、管状部14と曲げ変形可能な可変部16とを有し、該可変部16を曲げて湾曲部分11を形成するようになっている。可変部16は、支点部17が管状部14の外面と揃えて形成されると共に、残りの部分が、管状部14の外面より突出して周方向に延在する頂部18で繋がる対向する傾斜壁20,22で形成されている。可変部16は、支点部17を支点として対向する傾斜壁20,22を互いに近接するように折り畳んで湾曲部分11を形成している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、可変部を曲げることで湾曲部分を形成し得るダクトおよびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車には、車体の乗員室前方にエアコンユニットが設置されると共に、乗員室内に取付けられた車両内装部材(インストルメントパネルやフロアコンソール等)にエアアウトレットが配設され、エアコンユニットから送出された調温空気をエアアウトレットから乗員室内へ吹出して該乗員室内の空調が行なわれる。このため、エアコンユニットとエアアウトレットとは、車両内装部材の裏側に配設されたダクトで連結されている。ダクトは、配設経路等に合わせて湾曲部分が設けられて、車両内装部材の内側に配設される他の部材と干渉しないようになっている。
【0003】
前述したダクトの多くは、ブロー成形により製造されている。例えばブロー成形時に湾曲部分を成形する湾曲ダクトは、ダクトの湾曲部分を含めた全体が十分に入る径のパリソンを用意し、成形型で挟んだパリソンに空気を吹き込むことで、成形型のキャビティで製品部分が成形される。この際、製品全体の投影幅より大きい径のパリソンを用いているので、キャビティの外側に突出したパリソンが成形型で挟まれて、得られた製品部分の外側全周には、板状のバリも一体的に形成される。そして、湾曲ダクトは、製品部分からバリを切り離すことで得られる。
【0004】
このように、前述した湾曲ダクトの製造方法では、製品全体が入る大きな径のパリソンが必要となるので、パリソンの押出機や成形型等の設備が大がかりになり、材料投入量が多く、材料ロスも大きく、製品部分からバリを除去する手間もかかる問題がある。また、湾曲ダクトは、形状が複雑なために嵩張り、取り扱い性に難があり、運送コストが増加してしまう難点もある。
【0005】
別のダクト70としては、図8に示すように、伸縮や曲げ等の変形が可能な蛇腹部72を備え、この蛇腹部の変形によって湾曲部分を形成するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。蛇腹部72は、蛇腹ダクト70の全周に亘って延在する頂部と谷部とからなる凹凸が順に連なった形状であり、任意の方向へ曲げたり、伸縮できる利点がある。蛇腹ダクト70は、一般部74および蛇腹部72に対応するキャビティより小径に設定されたパリソンをキャビティの中に収容し、パリソンに空気を吹き込むことで、蛇腹部72を真っ直ぐに伸ばした状態で成形される。このように、蛇腹ダクト70は、キャビティを上下に連通するように画成でき、真っ直ぐ垂れ下がったパリソンをキャビティに収めることができるから、得られた製品部分の外側にバリが形成されない利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−188071号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した蛇腹ダクト70は、蛇腹部72を曲げて湾曲部分を形成した際には、湾曲部分の全周に延在する凹凸が空気流通方向に多数連なっているので(図8参照)、多数の凹凸により気流が乱れて圧力損失が増加したり、風切り音が発生することがある。また、蛇腹ダクト70は、任意の方向へ蛇腹部72を曲げることができるものの、複数の蛇腹部72を設けた場合、蛇腹部72をどの方向へ曲げたらよいのか分からず、取り付け作業時に蛇腹部72の曲げ方向を試行錯誤する手間がかかり、取り付け作業性に難がある。また、蛇腹部72が自在に曲がるので、蛇腹ダクト70の配設位置がずれて、他の部材と干渉するおそれがある。
【0008】
すなわち本発明は、従来の技術に係るダクトおよびその製造方法に内在する前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、湾曲部分での圧力損失を低減し得るダクトおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項1に係る発明のダクトは、
管状部と曲げ変形可能な可変部とを有し、該可変部を曲げて湾曲部分を形成し得るダクトにおいて、
前記可変部は、一部分が前記管状部の外面と揃えて形成されると共に、残りの部分が、該管状部の外面より突出して周方向に延在する頂部で繋がる対向する傾斜壁で形成され、
前記可変部は、前記一部分、前記頂部および各傾斜壁における前記管状部に繋がる裾部が折り曲げ変形可能に形成されて、該一部分を支点として、該頂部および該裾部を折り曲げて前記湾曲部分を形成するよう構成したことを特徴とする。
請求項1に係る発明によれば、曲げ変形可能な可変部で湾曲部分を構成しても、該湾曲部分の凹凸を最小限に抑えているので、圧力損失を低減し、通風性能を向上することができる。
【0010】
請求項2に係る発明では、前記可変部は、前記湾曲部分における曲がりの外側となる一部分を除いて、前記対向する傾斜壁が突出形成され、該一部分を支点として傾斜壁を互いに近接するように折り畳んで湾曲部分が形成されることを要旨とする。
請求項2に係る発明によれば、曲げ変形可能な可変部で湾曲部分を構成しても、対向する傾斜壁が互いに近接して該湾曲部分の凹凸を最小限に抑えているので、圧力損失を低減し、通風性能を向上することができる。
【0011】
請求項3に係る発明では、前記可変部は、伸張した状態で空気流通方向に対向する傾斜壁の裾部が、前記一部分側から空気流通路を挟んだ反対側に向かうにつれて互いに離間すると共に、前記頂部が、前記一部分側から空気流通路を挟んだ反対側に向かうにつれて前記管状部からの突出寸法が高くなるよう形成されることを要旨とする。
請求項3に係る発明によれば、可変部の肉厚のばらつきを抑制することができる。
【0012】
請求項4に係る発明では、前記湾曲部分を形成した可変部は、前記管状部の外周に沿わせて固定されることを要旨とする。
請求項4に係る発明によれば、可変部は管状部より突出しているが、湾曲部分を形成した可変部を管状部の外周に沿わせて固定することで、コンパクトにすることができる。
【0013】
請求項5に係る発明では、前記可変部は、前記管状部より薄肉に形成されることを要旨とする。
請求項5に係る発明によれば、可変部での曲げ変形を行い易くなる。
【0014】
請求項6に係る発明では、前記可変部は、一方の傾斜壁における前記頂部から裾部までの直線距離が、他方の傾斜壁のおける頂部から裾部までの直線距離より長く設定され、
前記他方の傾斜壁は、前記頂部から裾部に亘る面に沿う寸法が該頂部から裾部までの直線距離より長く設定され、
前記他方の傾斜壁は、前記可変部の屈伸変形に応じて、前記一方の傾斜壁と反対側に凸になるように湾曲する第1状態と、該一方の傾斜壁側へ凸になるように湾曲する第2状態とに変形するよう構成されることを要旨とする。
請求項6に係る発明によれば、湾曲部分を形成した状態または初期の状態との夫々で可変部を保持することができる。
【0015】
請求項7に係る発明では、前記可変部は、前記湾曲部分における曲がりの内側となる一部分を除いて、前記対向する傾斜壁が突出形成され、該一部分を支点として傾斜壁を互いに離間するように広げて湾曲部分が形成されることを要旨とする。
請求項7に係る発明によれば、曲げ変形可能な可変部で湾曲部分を構成しても、対向する傾斜壁が広がって該湾曲部分の凹凸を最小限に抑えているので、圧力損失を低減し、通風性能を向上することができる。
【0016】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本願の請求項8に係る発明のダクトの製造方法は、
管状部と曲げ変形可能な可変部とを有し、該可変部を曲げて湾曲部分を形成し得るダクトをブロー成形により製造する方法であって、
前記管状部を形成する第1成形部と、一部分が第1成形部と揃うと共に、残り部分が第1成形部との接続部位より膨むように画成されて、前記可変部を形成する第2成形部とを有し、第1成形部および第2成形部が直線的に連通するキャビティに対し、該第1成形部より小径に設定したパリソンを挿通し、
前記パリソンを膨張することで、前記管状部の成形に合わせて、一部分が該管状部の外面と揃うと共に、残りの部分が該管状部より突出して周方向に延在する頂部を挟んで傾斜壁が対向した可変部を膨出形成するようにしたことを特徴とする。
請求項8に係る発明によれば、バリを最小限に抑えたダクトを簡単に成形することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るダクトによれば、湾曲部分での圧力損失を低減し得る。また本発明に係るダクトの製造方法によれば、湾曲部分での圧力損失を低減し得るダクトを簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の好適な実施例1に係るダクトを示す正面図であって、可変部が初期状態にある。
【図2】実施例1のダクトを示す正面図であって、可変部が変形状態にある。
【図3】図1のA−A線断面図であって、(a)は突条の好適例であり、(b)は突条をコンパクトに設定した場合を示す。
【図4】実施例1のダクトの要部を破断して示す断面図であって、(a)は可変部が初期状態にあり、(b)は可変部が変形状態にある。
【図5】実施例1の可変部を拡大して示す断面図である。
【図6】実施例1に係るダクトの製造工程を示す概略図である。
【図7】実施例2のダクトの要部を破断して示す断面図であって、(a)は可変部が初期状態にあり、(b)は可変部が変形状態にある。
【図8】従来例に係る蛇腹ダクトを示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明に係るダクトおよびその製造方法につき、好適な実施例を挙げて、添付図面を参照して以下に説明する。
【実施例1】
【0020】
図1または2に示すように、実施例1のダクト10は、中空筒状の管状部14と、この管状部14と一体形成されて、該ダクト10の軸線と交差する方向(径方向)へ曲げ変形可能な可変部16とを有し、可変部16を曲げて湾曲部分11を形成し得るよう構成される。ダクト10は、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂からブロー成形によって全体として筒状に形成され、管状部14および可変部16が連通して、一方の開口端から他方の開口端に亘って繋がった空気流通路12が該ダクト10の内部に画成されている(図3または図4参照)。実施例1のダクト10では、可変部16が空気流通路12の空気流通方向に離間して途中に4ヶ所設けられると共に、エアコンユニットおよびエアアウトレット等の接続対象物に接続する部位が管状部14で構成されている。そして、実施例1のダクト10では、曲げ変形された可変部16で形成される2つの湾曲部分11とこれらの湾曲部分11の間に挟まれた管状部14とで90°の曲がり部分が構成されている(図2参照)。
【0021】
実施例1のダクト10は、管状部14として、軸線が一直線になるよう形成された円筒形の直管である直線管状部14Aと、1つの曲がり部分を構成する隣り合う可変部16,16の間に配置され、軸線が円弧状に湾曲する円筒形の湾曲管である湾曲管状部14Bとを備えている(図1または図2参照)。また、実施例1の管状部14は、空気流通方向上流側から下流側の全体に亘って同一の径で形成されている。管状部14は、曲げ変形可能な可変部16に対し、成形された形状のまま曲げることなく用いられる。
【0022】
前記湾曲管状部14Bは、可変部16の後述する支点部17側が凸になるように湾曲形成されており、可変部16による湾曲部分11とで形成される曲がり部分に合わせて湾曲形状が設定されている。ダクト10では、前述の如く2つの可変部16,16による湾曲部分11,11と湾曲管状部14Bとにより曲がり部分が構成される。そして、ダクト10では、曲がり部分の空気流通方向上流側の直線管状部14Aと空気流通方向下流側の直線管状部14Aとの間に関し、該曲がり部分の曲がり角度θに応じて規定される曲率を小さく(曲率半径を大きく)するのが、圧力損失低減の観点から好ましい。すなわち、ダクト10では、可変部16を曲げた状態において、空気流通方向上流側の直線管状部14Aの接続部位から曲がり部分の凹側に伸ばしたラインS1と空気流通方向下流側の直線管状部14Aの接続部位から曲がり部分の凹側に伸ばしたラインS2とが交差する交差点を中心として、該交差点から直線管状部14Aの接続部位を通る中心軸線Cまでを半径とする円弧に対して、湾曲管状部14Bおよび湾曲部分11の中心軸線Cが整合または近似する関係に設定するのがよい(図2参照)。
【0023】
前記可変部16は、基本形状が管状部14の外形に合わせた中空筒状である。可変部16は、一部分17が管状部14の外面と揃えて形成されると共に、残りの部分が管状部14より突出して周方向に延在する頂部18で繋がる対向する傾斜壁20,22からなる突条19で形成されている(図1または図4(a)参照)。すなわち、可変部16は、管状部14の外面と揃う部分を除いて他の部分が管状部14の外周面より山形に突出するよう形成されている。また、可変部16は、前記一部分17、頂部18および各傾斜壁20における管状部14に接続する裾部21,23で折り曲げ変形可能に構成されている。そして、可変部16は、前記一部分(以下、支点部という。)17を支点として頂部18および裾部21,23を折り曲げることで、屈伸変形できるようになっている(図4参照)。なお、頂部18は、2以上の折り曲げ可能な部分で構成してもよい。
【0024】
実施例1の可変部16は、支点部17が湾曲部分11の曲がりの外側(湾曲部分11の凸側)に位置するように設定されている(図4参照)。また、可変部16は、ダクト10の周方向において支点部17を除く部分が、空気流通方向に対向する傾斜壁20,22からなる突条19で構成される。可変部16は、管状部14の通風断面形状に合わせて裾部21,23が円形に形成されると共に、頂部18が管状部14の通風断面形状に応じて略円弧状に延在するよう形成されている。可変部16は、対向する傾斜壁20,22の裾部21,23が離間する初期状態(図1または図4(a)参照)と、支点部17を支点として対向する傾斜壁20,22の裾部21,23が近接する変形状態(図2または図4(b)参照)とに屈伸変形可能に構成される。可変部16は、管状部14と比べて肉厚が薄く形成されており(可変部の肉厚t2<管状部t1の肉厚:図5参照)、頂部18および裾部21,23で折り曲げ易くなっている。また、可変部16は、部位に応じて肉厚を変えてもよく、例えば支点部17、頂部18や裾部21,23の肉厚を傾斜壁20,22と比べて薄くすることで、可変部16の屈伸変形を更に行い易くなる。
【0025】
前記可変部16は、初期状態(伸張状態)において対向する傾斜壁20,22の裾部21,23が、支点部17側から空気流通路12を挟んだ反対側に向かうにつれて互いに離間するように形成されている(図1または図(a)参照)。すなわち、可変部16は、変形状態で湾曲部分11の曲がりの外側となる支点部17で裾部21,23の離間幅Wが最小となり、湾曲部分11の曲がりの内側となる部分で裾部21,23の離間幅Wが最大になっている。可変部16は、裾部21,23の離間幅Wが屈曲変形可能な範囲であり、対向する傾斜壁20,22の裾部21,23のなす角度で屈曲変形可能な角度が規定される。
【0026】
前記可変部16では、空気流通方向に対向する傾斜壁20,22の裾部21,23の離間幅Wと頂部18の管状部14からの突出寸法Hとが比例する関係となるよう設定される。すなわち、可変部16は、頂部18が支点部17側から空気流通路12を挟んだ反対側に向かうにつれて、基本的に管状部14からの突出寸法Hが高くなるよう形成されている(図3参照)。ここで、可変部16は、頂部18の突出寸法Hが裾部21,23の離間幅W以上(H≧W)になるように設定するのがよい。なお、離間幅Wと突出寸法Hとの比は、一定であっても、支点部17側から空気流通路12を挟んだ反対側へ向かうにつれて増減する関係であってもよい。
【0027】
ここで、可変部16は、図3(a)に示すように、頂部18の突出寸法Hを支点部17側で対応する裾部21,23の離間幅Wより比較的大きく設定した形状とすれば、突条19の肉厚を薄くできると共に、突条19が大きく張り出すので、可変部16を変形し易くできる。これに対して、可変部16は、図3(b)に示すように、頂部18の突出寸法Hを支点部17側で対応する裾部21,23の離間幅Wと同じに設定すれば、支点部17側の突出量を抑えることができるのでコンパクトにできる。実施例1のダクト10は、ブロー成形によって製造されるものであるので、裾部の離間幅Wと頂部の突出寸法Hとを比例する関係で設定することで、突条19のブロー比が一定になり、突条19の肉厚のばらつきを抑えることができる。換言すると、対向する傾斜壁20,22の裾部21,23の離間幅Wと頂部18の突出寸法Hとの関係を適宜設定することで、突条19の肉厚を制御することができる。
【0028】
図5に示すように、前記可変部16の第1傾斜壁(一方の傾斜壁)20は、頂部18と該第1傾斜壁20の第1裾部(裾部)21とを結んだ直線ラインに沿って延在するように形成され、頂部18および第1裾部21の間が平坦状になっている。これに対して、第2傾斜壁(他方の傾斜壁)22は、頂部18と該第2傾斜壁22の第2裾部(裾部)23との間で湾曲するように形成されて、頂部18と第2裾部23とを結んだ直線ラインより該第2傾斜壁22の湾曲面が突出している。可変部16は、第1傾斜壁20における頂部18から第1裾部21までの直線距離L1が、第2傾斜壁22における頂部18から第2裾部23までの直線距離L2より長く設定される。また、第2傾斜壁22は、頂部18から第2裾部23に亘る湾曲面に沿う面寸法L3が該頂部18から第2裾部23までの直線距離L2より長く設定される。なお、実施例1の可変部16は、第1傾斜壁20の裾部21が直線管状部14Aに接続し、第2傾斜壁22の裾部23が湾曲管状部14Bに接続している。
【0029】
前記第2傾斜壁22は、頂部18および第2裾部23に挟まれた湾曲面が空気流通路12に対する内外方向へ弾力的に変形可能に構成されている。すなわち、第2傾斜壁22は、頂部18および第2裾部23の間の湾曲面の凸側が、頂部18と第2裾部23とを結ぶ直線ラインを挟んで入れ替わるようになっている。ここで、第2傾斜壁22は、可変部16の屈伸変形に応じて湾曲面の凸側が入れ替わり、対をなす第1傾斜壁20と反対側に凸になるように湾曲する第1状態(図5(a)参照)と、第1傾斜壁20側へ凸になるように湾曲する第2状態(図5(b))とに変形するよう構成される。実施例1の可変部16は、該可変部16の初期状態で第2傾斜壁22が第1状態にあって、第2傾斜壁22が突っ張って第1傾斜壁20から離間した状態を保持するようになっている。これに対して、可変部16は、該可変部16の変形状態で第2傾斜壁22が第2状態にあって、第2傾斜壁22が第1傾斜壁20に近接した状態を保持するようになっている。このように、可変部16は、初期状態または変形状態で自己保持可能に構成されている。
【0030】
前記ダクト10では、第1傾斜壁20の内側に第2傾斜壁22を折り畳んで湾曲部分11を形成した可変部16が、管状部14の外周に沿わせて固定されている(図2参照)。この際、可変部16を直線管状部14A側に折り畳むのがよい。可変部16の固定方法は、管状部14に鉤状等の係止部を設けて、この係止部に可変部16を引っ掛けたり、テープやバンドを巻き付けて固定したり、両面テープや面ファスナーで固定したり、接着剤による接着、熱等による溶着、ねじやリベット等による締結あるいはその他を選択可能である。このように、ダクト10は、湾曲部分11を形成した可変部16を管状部14の外周に沿わせて固定してしまえば、湾曲部分11の外形寸法を管状部14の外形寸法と同等にすることができる。すなわち、実施例1のダクト10は、図8に示す蛇腹部72の突条が一般部74より突出する蛇腹ダクト70と比べて湾曲部分11の外形寸法をコンパクトに形成することができ(図2参照)、省スペース化を図り得る。なお、可変部16を初期状態から変形状態に変形した際に、折り畳まれた可変部16を管状部14の外周に沿うように誘導してもよい。例えば、第1傾斜壁20を第2傾斜壁22より長く設定することで、可変部16を折り曲げる際に第2傾斜壁22側に第1傾斜壁20を引き込むように誘導することができる。
【0031】
実施例1のダクト10は、可変部16の初期状態において、可変部16の突条19が管状部14と偏心して突出している。すなわち、ダクト10は、外観から可変部16を曲げる方向が判り易いので、車両等への接続対象物への取り付け作業性がよく、取り付け効率を向上することができる。また、ダクト10は、湾曲部分11が予め形成されるものと異なり、該ダクト10の取り付け時に可変部16を曲げて湾曲部分11を形成している。従って、ダクト10は、可変部16を直線的に伸ばした状態で搬送時や保管時等において取り扱うことができ、嵩張らないので取り扱い易く、例えば運搬において多量に搬送することが可能であるので運搬コストを低減できる。
【0032】
前記ダクト10は、支点部17を支点として第1傾斜壁20の内側に第2傾斜壁22を折り畳むように、頂部18および裾部を折り曲げることで、可変部16が屈曲して湾曲部分11が形成され、第1傾斜壁20に連なる管状部14に対して第2傾斜壁22に連なる管状部14が傾く。湾曲部分11は、対をなす傾斜壁20,22が互いに近接することで、該可変部16を挟んで隣り合う管状部14,14が近づくと共に、対をなす傾斜壁20,22間の隙間が狭まっている。また、湾曲部分11は、1つの突条19のみからなる可変部16で構成されるので、図8に示す複数の突条を連ねて構成される蛇腹ダクト70の蛇腹部72よりも空気流通路12をなす壁の凹凸を少なくすることができる。湾曲部分11は、可変部16の支点部17が管状部14と揃えて形成されているので、空気流通路12を画成する曲がりの外側の壁が管状部14の内面と凹凸なく連なっている。更に、湾曲部分11は、可変部16の突条19が折り畳まれて隙間が狭くなっているので、図8に示す蛇腹ダクト70の蛇腹部72で形成される湾曲部分と比べて空気流通路12を画成する壁を滑らかにすることができる。すなわち、実施例1のダクト10は、湾曲部分11を形成する可変部16の凹凸に起因する空気の流通阻害を最小限に抑えることができ、圧力損失を低減して、ダクト10の通風性能を向上することができる。
【0033】
前記ダクト10は、可変部16の初期状態において、第1傾斜壁20より第2傾斜壁22が短く設定されて、可変部16を屈曲する方向へかかる力に対して第1状態にある第2傾斜壁22が第1傾斜壁20を支えるように突っ張るので、初期状態をある程度保持することができる(図5(a)参照)。すなわち、ダクト10は、可変部16が自重で屈曲しない程度の形状保持性を有しているので、運搬時や保管時等の取り扱い性をより向上することができる。
【0034】
前記可変部16は、例えば一方の管状部14を保持して、他方の管状部14に軸線と交差する横方向へ形状保持力を越えて力を加えると、第2傾斜壁22の湾曲面が第1状態から第2状態に反転する。また、可変部16は、第1傾斜壁20が第1裾部21を支点として第2傾斜部22側へ回動し、これに伴い第2傾斜壁22が第1傾斜壁20より短いので第2傾斜壁22の第2裾部23が第1傾斜壁20の内側に引き込まれるように変位する(図5(b)参照)。そして、可変部16は、突条19を伸張する方向へかかる力に対して第2状態にある第2傾斜壁22が第1傾斜壁20を支えるように突っ張るので、変形状態をある程度保持することができる。すなわち、ダクト10は、変形状態の可変部16が自然に戻らない程度の形状保持性を有しているので、ダクト10を所定位置に配設するに先立って可変部16を予め所要の形状に変形させておくことができ、ダクト10の取付作業の簡易化を図り得る。そして、ダクト10は、車両への取り付け時に設定された湾曲部分11の曲がり角度を、支持金具等を別途用いることなく適切に維持し得る。なお、前述した可変部16の変形メカニズムは一例であって、各部位の変位および変形が複合的に起こっている。
【0035】
実施例1のダクト10は、ブロー成形法により製造される。実施例1のダクト10の製造に用いられる成形型30は、可変部16が初期状態にあるダクト10に合わせて形成されたキャビティ32を有している(図6参照)。キャビティ32は、管状部14に対応する第1成形部34と、可変部16に対応する第2成形部36とから構成される。第1成形部34は、円筒形の管状部14に合わせて円形断面の溝で画成されている。第2成形部36は、管状部14と偏心して突条19が管状部14の外面から突出する可変部16に合わせて形成され、第1成形部34の成形面と一部分が揃えられると共に、残りの部分が第1成形部34との接続部位より膨らむように画成されている。そして、キャビティ32は、第1成形部34および第2成形部36が上下方向に直線的に連通するよう画成されている。
【0036】
前記成形型30の上方に設置された押出機(図示せず)によって、熱可塑性樹脂からなるパリソンPが筒状に押出され、該押出機からぶら下がったパリソンPがキャビティ32に挿入される。ここで、ダクト10は、可変部16を伸張した初期状態で成形し得るから、キャビティ32を上下方向に直線的に連通するよう構成することでができ、第1成形部34より小径に設定されたパリソンPをキャビティ32に簡単に挿入することができる。なお、パリソンPは、第1成形部34の中心軸線に合わせてセットされる。
【0037】
前記成形型30にセットされたパリソンPに対して空気等の圧縮ガスを吹き込み、パリソンPを膨張させる。成形型30では、第1成形部34の成形面および第2成形部36の一部分(可変部16の支点部17に対応する成形面)に対し、パリソンPが先に当たって膨張が規制されて管状部14および可変部16の支点部17が成形される。一方、パリソンPにおける可変部16の突条19に対応する部位が更に膨張して、第1成形部34および第2成形部36の一部分で規定される部位よりも外方へ突出すると共に、パリソンPが引き伸ばされて更に薄肉化する。このように、前記製造方法では、ブロー比の差により管状部14より可変部16を簡単に薄肉化することができ、得られたダクト10における可変部を屈伸変形し易くすることができる。そして、パリソンPは、第2成形部36の残りの部分(可変部16の突条19に対応する成形面)に対して当接して、可変部16の突条19が成形される。そして、冷却した後に、成形型30からダクト10が取り出される。
【0038】
前記製造方法では、押出機から吊り下がったパリソンPをそのままキャビティ32に挿入することができるので、従来例で説明した湾曲ダクトの如く、湾曲ダクトの湾曲部分を考慮した投影幅に合わせた大径のパリソンを用いる必要がない。また、押出機をキャビティ32の形状に合わせて動かしたり、キャビティ32に挿入したパリソンPを空気等で案内したりする必要がない。すなわち、パリソンPを成形する押出機や成形型30等の設備を小型化することができ、消費エネルギーも抑えることができる。更に、キャビティ32より大径のパリソンを用いた場合と異なり、得られたダクト10の外面に生じるバリを最小限に抑えることができるので、材料ロスを低減し、バリの除去に関わる作業および作業コストを低減できる。更に、従来例で説明した蛇腹ダクト70と比べて、1つの湾曲部分11当たりの突条19の数を抑えることができるので、成形型30の構成も簡易になり、該成形型30に関するコストも低廉にすることができる。従って、前記製造方法によれば、全体として製造コストを下げることができると共に、成形サイクルを短縮することができる。
【実施例2】
【0039】
実施例1のダクト10では、可変部16の支点部17を支点として、可変部16の突条19を折り畳んで湾曲部分11を形成したが、図7に示す実施例2のダクト40の如く、可変部42の支点部17を支点として、可変部42の突条19を広げることで湾曲部分41を形成してもよい。すなわち、実施例2のダクト40では、実施例1に対して、可変部42の支点部17および突条19と湾曲部分41の関係が逆である。なお、実施例2のダクト40は、可変部42の初期状態において実施例1で説明したダクト10とその基本的な構成が同じであるので、異なる部分についてのみ以下に説明する。
【0040】
実施例2のダクト40では、可変部42が、湾曲部分41における曲がりの内側となる支点部(一部分)17を除いて、空気流通方向に対向する傾斜壁20,22からなる突条19が突出形成されている。実施例2の可変部42の条件は、実施例1の可変部16と基本的に同じであるが、実施例の可変部42では、対向する傾斜壁20,22の裾部21,23の離間幅Wと頂部18の管状部14からの突出寸法Hとの比が、突条19の全周に亘って同一になるように設定するのがよい。実施例2の可変部42は、対向する傾斜壁20,23が離間する初期状態(図7(a)参照)と、支点部17を支点として対向する傾斜壁20,23を更に離すように広げた変形状態(図7(b)参照)とに屈伸変形可能に構成される。すなわち、実施例2のダクト40では、可変部42の支点部17を支点として対向する傾斜壁20,22を互いに離間するように広げて湾曲部分41が形成される。また、実施例2のダクト40は、変形状態の可変部42の頂部18に合わせてベルト等の結束具で保持することで、可変部42が初期状態に戻らないように規制してもよい。実施例2のダクト40であっても、支点部17側が凹となる湾曲管状部14Bを可変部42に接続して設けてもよい。
【0041】
(変更例)
前述した実施例1および2に限定されず、以下のように変更することも可能である。
(1)実施例では、円筒形のダクトについて説明したが、楕円や四角等の多角形の筒形であってもよい。なお、実施例2のダクトでは、多角形の筒形よりも円形または楕円形状を採用するのが好適である。
(2)本願が対象とするダクトは、車両に配設されるものに限らず、これ以外の建物等に配設されるものも対象とされる。
(3)実施例では、自己保持可能な可変部を例に挙げたが、これに限定されず、支持金具で湾曲部分を保持してもよい。
(4)1つのダクトにおいて、実施例1の可変部と実施例2の可変部を複合して用いてもよい。
(5)ダクトは、可変部を伸ばした際に、管状部および可変部で画成される空気流通路を一方の開口から他方の開口にかけて直線的に貫くことができる形状であれば、ブロー成形に際して成形型のキャビティにパリソンを直線的に挿入することができる。すなわち、ダクトは、前記条件を満たす範囲で管状部を湾曲させたり、偏心させたり、径を途中で変えたり、または断面形状を変えたりしてもよい。
【符号の説明】
【0042】
11,41 湾曲部分,14 管状部,16,42 可変部,17 支点部(一部分),
18 頂部,20 第1傾斜壁(傾斜壁),21 第1裾部(裾部),
22 第2傾斜壁(傾斜壁),23 第2裾部(裾部),32 キャビティ,
34 第1成形部,36 第2成形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状部と曲げ変形可能な可変部とを有し、該可変部を曲げて湾曲部分を形成し得るダクトにおいて、
前記可変部は、一部分が前記管状部の外面と揃えて形成されると共に、残りの部分が、該管状部の外面より突出して周方向に延在する頂部で繋がる対向する傾斜壁で形成され、
前記可変部は、前記一部分、前記頂部および各傾斜壁における前記管状部に繋がる裾部が折り曲げ変形可能に形成されて、該一部分を支点として、該頂部および該裾部を折り曲げて前記湾曲部分を形成するよう構成した
ことを特徴とするダクト。
【請求項2】
前記可変部は、前記湾曲部分における曲がりの外側となる一部分を除いて、前記対向する傾斜壁が突出形成され、該一部分を支点として傾斜壁を互いに近接するように折り畳んで湾曲部分が形成される請求項1記載のダクト。
【請求項3】
前記可変部は、伸張した状態で空気流通方向に対向する傾斜壁の裾部が、前記一部分側から空気流通路を挟んだ反対側に向かうにつれて互いに離間すると共に、前記頂部が、前記一部分側から空気流通路を挟んだ反対側に向かうにつれて前記管状部からの突出寸法が高くなるよう形成される請求項1または2記載のダクト。
【請求項4】
前記湾曲部分を形成した可変部は、前記管状部の外周に沿わせて固定される請求項1〜3の何れか一項に記載のダクト。
【請求項5】
前記可変部は、前記管状部より薄肉に形成される請求項1〜4の何れか一項に記載のダクト。
【請求項6】
前記可変部は、一方の傾斜壁における前記頂部から裾部までの直線距離が、他方の傾斜壁のおける頂部から裾部までの直線距離より長く設定され、
前記他方の傾斜壁は、前記頂部から裾部に亘る面に沿う寸法が該頂部から裾部までの直線距離より長く設定され、
前記他方の傾斜壁は、前記可変部の屈伸変形に応じて、前記一方の傾斜壁と反対側に凸になるように湾曲する第1状態と、該一方の傾斜壁側へ凸になるように湾曲する第2状態とに変形するよう構成される請求項1〜5の何れか一項に記載のダクト。
【請求項7】
前記可変部は、前記湾曲部分における曲がりの内側となる一部分を除いて、前記対向する傾斜壁が突出形成され、該一部分を支点として傾斜壁を互いに離間するように広げて湾曲部分が形成される請求項1記載のダクト。
【請求項8】
管状部と曲げ変形可能な可変部とを有し、該可変部を曲げて湾曲部分を形成し得るダクトをブロー成形により製造する方法であって、
前記管状部を形成する第1成形部と、一部分が第1成形部と揃うと共に、残り部分が第1成形部との接続部位より膨むように画成されて、前記可変部を形成する第2成形部とを有し、第1成形部および第2成形部が直線的に連通するキャビティに対し、該第1成形部より小径に設定したパリソンを挿通し、
前記パリソンを膨張することで、前記管状部の成形に合わせて、一部分が該管状部の外面と揃うと共に、残りの部分が該管状部より突出して周方向に延在する頂部を挟んで傾斜壁が対向した可変部を膨出形成するようにした
ことを特徴とするダクトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−112307(P2011−112307A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270519(P2009−270519)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】