説明

ダッシュパネル周辺の車体構造

【課題】ダッシュパネルの上部から下部にかけての全体的かつ包括的な補強構造を提供する。
【解決手段】ダッシュパネル4の上部に接合され、その接合部40から後方に張出したダッシュアッパーパネル42と、ダッシュパネル4の下部中央から後方に延出したフロアトンネル導入部4cとを備えるものにおいて、ダッシュパネル4の車室3側に接合され、ダッシュアッパーパネル42とフロアトンネル導入部4cとの間に上下方向に延在しかつ接合された左右一対のリンフォース46,46をさらに備え、前記各リンフォース46,46と前記ダッシュパネル4との間に閉断面が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のダッシュパネル周辺の車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体前部にエンジン室を備えた自動車では、エンジン室と車室とがダッシュパネルによって画成され、ダッシュパネルの上部には、フロントウインドウ開口の下縁を画成するカウルトップパネルおよびダッシュアッパーパネルが接合されている。特許文献1には、左右のストラットタワーとカウルトップパネルの前方に位置したカウルフロントパネルの中央部とをバーで連結することが開示されているが、カウルフロントパネル自体には充分な支持剛性が無いため、有効な補強構造となっていない。
【0003】
一方、ダッシュパネルの下部は、車室床面を画成するフロアパネルに接合され、ダッシュパネルの下部中央には、フロアパネルのフロアトンネル部に接続され、フロアトンネルの導入部を形成する漏斗状の接続部が後方に延出している(例えば特許文献2参照)。フロアトンネルは、FF車では排気管の収容スペースに過ぎないが、4WD車やFR車ではプロペラシャフトの収容スペースをなし、また、いずれの場合も、フロア中央部に剛性を付与する補強構造ともなっている。特許文献2には、フロアトンネルとダッシュパネルとの接合部に補強を兼ねた遮熱板を設けることが開示されているが、ダッシュパネル全体としての補強は考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平2−267083号公報
【特許文献2】特開平7−165122号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、ダッシュパネルは、エンジン室からの振動や騒音・熱を遮断する隔壁であると同時に、乗り心地や操縦安定性に関わる構造要素としての側面も有しているが、ダッシュパネル上部およびエンジンルームの補強と、ダッシュパネル下部およびフロアトンネルの補強は個々に検討され、ダッシュパネルあるいはその周辺を含めた全体構造として考慮されていない問題があった。
【0006】
本発明はこのような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、ダッシュパネルの上部から下部にかけての全体的かつ包括的な補強構造を構築することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記従来技術の有する課題を解決するため、本発明は、自動車のダッシュパネル周辺の車体構造であって、前記ダッシュパネルの上部に接合されかつ該接合部から後方に張出したダッシュアッパーパネルと、前記ダッシュパネルの下部中央から後方に延出したフロアトンネル導入部と、を備えるものにおいて、前記ダッシュパネルの車室側に接合され、前記ダッシュアッパーパネルと前記フロアトンネル導入部との間に上下方向に延在しかつ接合された左右一対のリンフォースをさらに備え、前記各リンフォースと前記ダッシュパネルとの間に閉断面が形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明の好適な態様は、上記に加えて以下のような特徴を備えている。
・前記フロアトンネル導入部の車室側上面と両側面とに亘って接合された補強パネルをさらに備え、該補強パネルの上面に前記各リンフォースの下端が接合されている。
・前記フロアトンネル導入部のエンジン室側の上面と両内側面とに亘って接合されかつ車幅方向両側端部がフロアサイドメンバーに接合された外部補強パネルをさらに備えている。
・前記ダッシュパネルと左右のストラットタワーとを連結する左右一対のストラットタワーブレースをさらに備え、前記ダッシュパネルにおける前記各ストラットタワーブレースの接合部の少なくとも一部が、前記各リンフォースの接合部と前記ダッシュパネルの厚さ方向に重合している。
・前記左右一対のストラットタワーブレースが板状をなし、それぞれの幅方向が上下方向となるように配設されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るダッシュパネル周辺の車体構造は、上述の通り構成されているので、左右一対のリンフォースによりダッシュパネル下部中央のフロアトンネル導入部とダッシュアッパーパネルとを連結する閉断面による立体的な補強構造が形成され、ダッシュパネル中央部の剛性が向上することによって、ダッシュパネルの振動、特に、車室内に張出したダッシュアッパーパネルの振動が低減され、車室内の静粛性が向上し、乗り心地および操縦安定性の向上に寄与できる。
【0010】
これに伴い、ダッシュインシュレーターや制振パネルなどの振動防止・騒音防止部材を削減または簡略化でき、軽量化および生産性の向上にも有利である。
【0011】
また、前記フロアトンネル導入部の車室側上面と両側面とに亘って接合された補強パネルをさらに備え、該補強パネルの上面に前記各リンフォースの下端が接合される態様では、フロアトンネル導入部の剛性が向上し、上述した効果が一層顕著になる。特に、ダッシュ中央の剛性向上は車体全体の捩じり剛性の向上に寄与し、乗り心地および操縦安定性を向上するうえで有利である。
【0012】
さらに、前記フロアトンネル導入部のエンジン室側の上面と両内側面とに亘って接合されかつ車幅方向両側端部がフロアサイドメンバーに接合された外部補強パネルをさらに備える態様では、ダッシュパネル上部から左右のリンフォース、車室側の補強パネル、および外部補強パネルを経てフロアサイドメンバーに至る一連の補強構造が形成され、上述した効果が一層顕著になる。特に、外部補強パネル中央部が車室側の補強パネルと一致したレイアウトとなり、相乗的な補強効果が得られる点で有利である。
【0013】
また、前記ダッシュパネルと左右のストラットタワーとを連結する左右一対のストラットタワーブレースをさらに備え、前記ダッシュパネルにおける前記各ストラットタワーブレースの接合部の少なくとも一部が、前記各リンフォースの接合部と前記ダッシュパネルの厚さ方向に重合する態様では、上述したようなダッシュパネルの補強構造によって、ストラットタワーブレースのダッシュパネル側接合部の剛性が高められ、ストラットタワーを起点として、ストラットタワーブレースからダッシュパネル、さらにフロアトンネル導入部からフロアトンネルに至る部材の一体化により、車体の捩じり剛性を向上するうえで有利である。
【0014】
さらに、前記左右一対のストラットタワーブレースが板状をなし、それぞれの幅方向が上下方向となるように配設されている態様では、ダッシュパネルにおける各ストラットタワーブレースの接合部が、上下方向に延在する左右のリンフォースの接合部と長区間に亘って一致することになり、より高い補強効果を得ることができ、上述したストラットタワーからフロアトンネルに至る部材の一体化が高められ、立体的な補強構造によって車体の捩じり剛性を一層向上可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る補強構造を実施した自動車のダッシュパネル付近をエンジン室側から見た斜視図である。
【図2】本発明に係る補強構造を実施した自動車のダッシュパネル付近を車室側から見た斜視図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図3のB−B断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1おいて、車両1は、車体前部にエンジン室2を備えたフロントエンジン自動車であり、エンジン室2と車室3(乗員室)とがダッシュパネル4によって画成されている。先ず、ダッシュパネル4周辺の基本的構造について述べる。
【0017】
ダッシュパネル4上部のエンジン室2側には、フロントウインドウ30の下縁を画成すべく車幅方向に延在するカウルトップパネル41の前下部が接合部40において接合されている。一方、ダッシュパネル4上部の車室3側には、図2に示すように、接合部40から後方に張出したダッシュアッパーパネル42が接合されており、これらカウルトップパネル41とダッシュアッパーパネル42の間に、車幅方向に延在する略閉断面が画成されている。
【0018】
カウルトップパネル41の左右両側には、エンジン室2の両側部に沿って前方に延びるカウルサイドパネル21,21(カウルサイドインナーメンバー)が接合され、さらにそれらの前方には、ランプサポートメンバー25,25が連結されており、左右のランプサポートメンバー25,25の前端部は、エンジン室2の上部を囲むようにアッパークロスメンバー26で相互に連結されている。
【0019】
カウルサイドパネル21,21のエンジン室2側には、左右一対のストラットタワー22,22が接合されており、各ストラットタワー22,22の下部は、左右のフロントサイドメンバー23,23の上縁部に接合されている。各フロントサイドメンバー23,23の後部は、それぞれダッシュパネル4の下部に沿うように下方に湾曲すると共に車幅方向外方に向けて拡開され、左右のフロアサイドメンバー33,33に連続している。
【0020】
一方、ダッシュアッパーパネル42の左右両側には、図2に示すように、ダッシュサイドパネル43,43が接合され、その外面側にはサイドボディアウターパネル34,34が接合されており、サイドボディアウターパネル34,34の前方側に、先述したカウルサイドパネル21,21が接合されている。
【0021】
ダッシュパネル4の中央部4aは、両側部分4bに対し車室3側に膨出しており、さらにその下部から後方に延出したフロアトンネル導入部4cが形成され、このフロアトンネル導入部4cを介してフロアトンネル32に接続されている。フロアトンネル導入部4cは、フロアトンネル32の前端部に、エンジン室2に向けて拡開した導入部を形成している。また、ダッシュパネル4の左右両側下部は、それぞれロアパネル44,44を介してフロアパネル31,31の前端部に接合されている。
【0022】
以上述べたようなダッシュパネル4の車室3側の補強構造として、図2に示すように、ダッシュパネル4のフロアトンネル導入部4cの上面と両側面とに亘り、逆U字状の補強パネル45が接合されている。図示例では、補強パネル45は、ダッシュパネル4の膨出した中央部4aからフロアトンネル導入部4cに移行する遷移部に接合され、この遷移部の両側面は、両側部4bから中央部4aに向かう傾斜面と連続した一つの面で構成されているため、補強パネル45の両側面は、それぞれ平坦な傾斜面で構成されている。
【0023】
さらに、上記補強パネル45で補強されたフロアトンネル導入部4cの上面側と、ダッシュアッパーパネル42の膨出した下面42aとの間に上下方向に延在する左右一対のリンフォース46,46が配設されている。各リンフォース46,46は、図4に示すように、上下両端部を除く中間部分が長手方向に一様なハット状断面をなし、各両側フランジ部において、ダッシュパネル4の膨出した中央部4aに接合され、それぞれの内部に上下方向に延在する閉断面が形成されるとともに、図2および図3に示すように、T字状に成形された上下両端部46bにおいてダッシュアッパーパネル42の下面42aと補強パネル45にそれぞれ接合されている。
【0024】
一方、ダッシュパネル4のエンジン室2側の補強構造としては、図1に示すように、フロアトンネル導入部4cの天井面と両内側面およびその両側のダッシュパネル4下面に亘り、全体として略ハット状に屈曲した外部補強パネル47が接合されている。外部補強パネル47は、図3に示すように、ダッシュパネル4およびそのフロアトンネル導入部4cの傾斜した接合面との間に閉断面を画成するように、その延在方向に略一様なハット状またはアングル状の断面形状をなし、フロアトンネル導入部4cの区間では、先述した車室3側の補強パネル45と重合するように配設され、かつ、重ねてスポット溶接されており、さらに、車幅方向の両端部において左右のフロアサイドメンバー33,33に剛接合されている。
【0025】
さらに、図1に示すように、ダッシュパネル4の中央部4aの左右各側と左右のストラットタワー22,22とを連結する左右一対のストラットタワーブレース24,24を設けてある。ストラットタワーブレース24,24は、それぞれ板状をなし、幅方向が上下方向となるように配設されており、図示しないエンジンがマウントされるエンジン室2内中央部に対して、左右のストラットタワー22,22より後方の両隅部を仕切る隔壁としての性質も有している。
【0026】
左右のストラットタワーブレース24,24のダッシュパネル4への接合部は、図1および図3に示すように、車室3内のリンフォース46,46の接合部と一致した接合部24a,24aを含み、この接合部24a,24aでは、ダッシュパネル4が内外両側から挟まれた状態で、重ねてスポット溶接されている。このような接合部24a,24aを有することで、左右のストラットタワーブレース24,24の支持剛性が高められ、左右のストラットタワー22,22とのより強固な一体化が図られている。
【0027】
さらに、左右のストラットタワーブレース24,24で仕切られた両隅部は、エンジン室2内の補記類の設置スペースに好適であり、図1に示す実施形態では、車両進行方向に対して右側のストラットタワーブレース24の中間部には角形状の突出部24cが形成され、その後方にバッテリー5の収容空間を画成しており。また、左側のストラットタワーブレース24には、接合面の屈曲部に跨り長手方向に延在する2条の補強ビードが形成されている。
【0028】
以上のようなダッシュパネル4の補強構造は、左右一対のリンフォース46,46により、ダッシュパネル4下部中央のフロアトンネル導入部4cとダッシュアッパーパネル42とが閉断面構造を伴って連結されることで中央部4aを含むダッシュパネル4全体の剛性が向上し、ダッシュパネル4および車室3内に張出したダッシュアッパーパネル42の振動が抑制される。
【0029】
さらに、フロアトンネル導入部4cの上面と両側面とに亘って接合された補強パネル45と、フロアトンネル導入部4cのエンジン室2側の天井面と両内側面とに亘って接合された外部補強パネル47により、ダッシュパネル4のフロアトンネル導入部4cが内外両面から補強され、かつ、このような閉断面を有する補強構造が、外部補強パネル47を介してフロアサイドメンバー33,33(フロントサイドメンバー23,23)に剛接合されることで、上下間を連結するリンフォース46,46の補強構造と相俟って、ダッシュパネル中央部4aの剛性が各段に向上され、乗り心地および操縦安定性を向上するうえで有利である。
【0030】
また、上述したようなダッシュパネル4の補強構造(45,46,47)により、ストラットタワーブレース24,24のダッシュパネル側接合部位の剛性が向上され、これにより、ストラットタワーブレース24,24による補強効果が高まり、車体の捩じり剛性が向上される。特に、図1および図4に示すように、ダッシュパネル4における各ストラットタワーブレース24,24の接合部24a,24aが、車室3側の左右のリンフォース46,46の接合部(46a,46a)と一致することで、より高い補強効果が得られ、かつ、左右のストラットタワー22,22を起点として、ストラットタワーブレース24,24からダッシュパネル4、さらにフロアトンネル導入部4cからフロアトンネル32に至る部材の強固な一体化が達成され、車体の捩じり剛性を向上するうえで有利である。
【0031】
以上、本発明の実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能であることを付言する。
【0032】
例えば、上記実施形態では、フロアトンネル導入部4cに接合された補強パネル45の上面に左右のリンフォース46,46の下端が接合される場合を示したが、補強パネル45を省略することもでき、その場合、リンフォース46,46の下端はフロアトンネル導入部4cの上面に直接接合される。
【符号の説明】
【0033】
1 車両
2 エンジン室
3 車室
4 ダッシュパネル
4a 中央部
4b 両側部分
4c フロアトンネル導入部
21 カウルサイドパネル
22 ストラットタワー
23 フロントサイドメンバー
24 ストラットタワーブレース
31 フロアパネル
32 フロアトンネル
33 フロアサイドメンバー
41 カウルトップパネル
42 ダッシュアッパーパネル
43 ダッシュサイドパネル
45 補強パネル
46 リンフォース
47 外部補強パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のダッシュパネル周辺の車体構造であって、前記ダッシュパネルの上部に接合されかつ該接合部から後方に張出したダッシュアッパーパネルと、前記ダッシュパネルの下部中央から後方に延出したフロアトンネル導入部と、を備えるものにおいて、
前記ダッシュパネルの車室側に接合され、前記ダッシュアッパーパネルと前記フロアトンネル導入部との間に上下方向に延在しかつ接合された左右一対のリンフォースをさらに備え、前記各リンフォースと前記ダッシュパネルとの間に閉断面が形成されていることを特徴とするダッシュパネル周辺の車体構造。
【請求項2】
前記フロアトンネル導入部の車室側上面と両側面とに亘って接合された補強パネルをさらに備え、該補強パネルの上面に前記各リンフォースの下端が接合されていることを特徴とする請求項1に記載のダッシュパネル周辺の車体構造。
【請求項3】
前記フロアトンネル導入部のエンジン室側の上面と両内側面とに亘って接合されかつ車幅方向両側端部がフロアサイドメンバーに接合された外部補強パネルをさらに備えたことを特徴とする請求項2に記載のダッシュパネル周辺の車体構造。
【請求項4】
前記ダッシュパネルと左右のストラットタワーとを連結する左右一対のストラットタワーブレースをさらに備え、前記ダッシュパネルにおける前記各ストラットタワーブレースの接合部の少なくとも一部が、前記各リンフォースの接合部と前記ダッシュパネルの厚さ方向に重合することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のダッシュパネル周辺の車体構造。
【請求項5】
前記左右一対のストラットタワーブレースが板状をなし、それぞれの幅方向が上下方向となるように配設されていることを特徴とする請求項4に記載のダッシュパネル周辺の車体構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−264906(P2010−264906A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118642(P2009−118642)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】