説明

ダブルクラッドファイバ、光ファイバ増幅器及びファイバレーザ

【課題】励起用ファイバとして用いた際に励起光源の劣化や損傷を生じ難いダブルクラッドファイバとそれを用いた光ファイバ増幅器及びファイバレーザの提供。
【解決手段】本発明は、コア部24と、該コア部の周囲に設けられたコア部よりも屈折率が低い第1クラッド部25と、該第1クラッド部の周囲に設けられた第1クラッド部よりも屈折率が低い第2クラッド部26を有し、前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、波長λの光信号における損失が励起光源の波長λにおける損失よりも大きくなるようなドーパントを含んでいるダブルクラッドファイバ23。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高パワーの光を伝送する光ファイバ増幅器やファイバレーザの増幅用ファイバとして好適なダブルクラッドファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、希土類元素添加光ファイバを用いたファイバレーザが注目を集めている。ファイバレーザに関しては、既に多くの発明が開示されている。(例えば、特許文献1参照。)
【0003】
また、増幅用のダブルクラッドファイバに関しても、例えば、特許文献2等に、多くの発明が開示されている。
【特許文献1】特開平5−275792号公報
【特許文献2】特開2002−151764号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような高いパワーの光を光ファイバを用いて伝送する場合、高いパワーをもった光が励起光源に入り、励起光源を劣化あるいは損傷させるという問題があった。
すなわち、図1に示すように、励起用の希土類添加光ファイバ12の信号光入射側に複数の励起光源11が接続された構造をもつ前方励起方式の光ファイバ増幅器やファイバレーザの場合、希土類添加光ファイバ12の端面で反射した戻り光が、希土類添加光ファイバ12内で増幅され、パワーが高くなった後、励起光源11に戻り、励起光源11を劣化、あるいは損傷させる可能性がある。
【0005】
また、図2に示すように、励起用の希土類添加光ファイバ12の増幅光出射側に複数の励起光源11が接続された構造をもつ後方励起方式の光ファイバ増幅器やファイバレーザの場合、希土類添加光ファイバ12内で増幅されパワーが高くなった信号光が、直接励起光源11に入り、励起光源11を劣化、あるいは損傷させる可能性がある。
【0006】
さらに、図3に示すように、励起用の希土類添加光ファイバ12の信号光入射側及び増幅光出射側にそれぞれ複数の励起光源11が接続された構造をもつ双方向励起方式の光ファイバ増幅器やファイバレーザの場合は、図1に示す前方励起方式の場合と図2に示す後方励起方式の場合とに記した双方の高パワー光による励起光源11の劣化や損傷が発生する可能性がある。
【0007】
前述した各励起方式の装置構成において、励起用の希土類添加光ファイバ12は、ダブルクラッドファイバであり、この希土類添加光ファイバ12と各励起光源11を繋ぐ多モード光ファイバは、希土類添加光ファイバ12の第1クラッド部に励起光が導入されるように接続されている。つまり、励起光源11を劣化あるいは損傷させる高パワーの光は、希土類添加光ファイバ12の第1クラッド部から多モード光ファイバに侵入する。また、励起光源11より導入された励起光は、希土類添加光ファイバ12の吸収量が十分であれば、ほとんどがコア部に吸収される。すなわち、励起光源11の劣化、損傷の原因となる高パワーの光は、増幅された信号光の一部がコア部から染み出し、あるいは反射によって第1クラッド部を通り、励起光源11へと送られる。
【0008】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、励起用ファイバとして用いた際に励起光源の劣化や損傷を生じ難いダブルクラッドファイバとそれを用いた長寿命の光ファイバ増幅器及びファイバレーザの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明は、コア部と、該コア部の周囲に設けられたコア部よりも屈折率が低い第1クラッド部と、該第1クラッド部の周囲に設けられた第1クラッド部よりも屈折率が低い第2クラッド部を有するダブルクラッドファイバであって、前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、波長λの光信号における損失が励起光源の波長λにおける損失よりも大きくなるようなドーパントを含んでいることを特徴とするダブルクラッドファイバを提供する。
【0010】
本発明のダブルクラッドファイバにおいて、前記ドーパントが、ツリウム、サマリウム、イッテルビウム、エルビウム、ジスプロシウム、ネオジム、プラセオジム、ホルミウム、コバルト、ニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0011】
本発明のダブルクラッドファイバにおいて、第1クラッド部に含まれる前記ドーパントの濃度が、コア部と第1クラッド部の境界近傍部よりも、該境界近傍部より外側のほうが高くなっていることが好ましい。
【0012】
本発明のダブルクラッドファイバにおいて、前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、窒素が10ppm以上含まれていることが好ましい。
【0013】
本発明のダブルクラッドファイバにおいて、前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、OH基が100ppm以上含まれていることが好ましい。
【0014】
また本発明は、前述した本発明に係るダブルクラッドファイバを増幅用ファイバとして有することを特徴とする光ファイバ増幅器を提供する。
【0015】
また本発明は、前述した本発明に係るダブルクラッドファイバを増幅用ファイバとして有することを特徴とするファイバレーザを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明のダブルクラッドファイバを用いることにより、出射端からの信号光の出力パワーを下げることなく、かつ増幅された信号光が励起光源に戻り光として戻る場合のパワーを小さくすることができるので、励起光源の劣化や損傷の可能性を著しく低下させることができ、このダブルクラッドファイバを増幅用ファイバとして有する光ファイバ増幅器及びファイバレーザの長寿命化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図4は、本発明に係る装置(光ファイバ増幅器、ファイバレーザ)の主要部の概略構成を示す図である。この装置は、増幅用ファイバとして本発明に係るダブルクラッドファイバ23と、該ファイバの信号光入射側に多モード光ファイバ22を介して接続された複数の励起光源11とを備えて構成されている。なお、本実施形態では、光ファイバ増幅器又はファイバレーザの構成として、図4に示す前方励起方式としているが、これに限らず、本発明に係るダブルクラッドファイバ23を用いて、後方励起方式又は双方向励起方式の光ファイバ増幅器又はファイバレーザを構成してもよい。
【0018】
図8は、本発明に係るダブルクラッドファイバ23の一例を示す断面図である。このダブルクラッドファイバ23は、中心のコア部24と、該コア部24の周囲に設けられたコア部24よりも屈折率が低い第1クラッド部25と、該第1クラッド部25の周囲に設けられた第1クラッド部25よりも屈折率が低い第2クラッド部26とを有し、第1クラッド部25又は第2クラッド部26の少なくともいずれか一方に、波長λの光信号における損失が励起光源21の波長λにおける損失よりも大きくなるようなドーパントを含んでいる構成になっている。ここでλとλはλ>λとなることが多い。
【0019】
このダブルクラッドファイバ23において、前記ドーパントとしては、ツリウム、サマリウム、イッテルビウム、エルビウム、ジスプロシウム、ネオジム、プラセオジム、ホルミウム、コバルト、ニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。
【0020】
また、このダブルクラッドファイバ23において、第1クラッド部25に含まれるドーパントの濃度は、コア部24と第1クラッド部25の境界近傍部よりも、この境界近傍部より外側のほうが高くなっている濃度分布を持っていることが好ましい。ここで、コア部24と第1クラッド部25の境界付近でドーパントの濃度が高いと、レーザ光として出射すべき信号光が弱められる可能性があり、一方、コア部24と第1クラッド部25の境界付近でドーパントの濃度を低くすることで、出射光が弱められることなく、高パワーの光を出射することができる。
【0021】
また、このダブルクラッドファイバ23において、前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、窒素が10ppm以上含まれていることが好ましい。窒素濃度は、30ppm以上がより好ましく、30ppm〜300ppmの範囲とすることがさらに好ましい。窒素を10ppm以上添加することによって、長波長側の損失を短波長側の損失より大きくすることができるので、クラッド部での戻り光の強度を弱めることが可能になる。
【0022】
本発明のダブルクラッドファイバにおいて、前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、OH基が100ppm以上含まれていることが好ましい。OH基の濃度は、300ppm以上がより好ましく、300ppm〜5000ppmの範囲とすることがさらに好ましい。OH基を100ppm以上添加することによって、長波長側の損失を短波長側の損失より大きくすることができるので、クラッド部での戻り光の強度を弱めることが可能になる。
【0023】
本実施形態の具体例として、波長1064nmの信号光、波長976nmの励起光を用いて、コア部にYbがドープされたダブルクラッドファイバ23において、図4に示すように信号光を前方励起によって増幅するファイバレーザを例として、このダブルクラッドファイバ23の機能を説明する。
光源(図示せず)より出射された信号光は、Ybがドープされたダブルクラッドファイバ23のコア部24に入射され、また励起光源21から出射された励起光は、ダブルクラッドファイバ23の第1クラッド部25から入射され、コア部24に送られることで、信号光が増幅される。増幅された信号光は、図4に示すように、図示しないコリメータ等を介してレーザ光として出射される。
【0024】
励起光源21から多モード光ファイバ22を通し、ダブルクラッドファイバ23へ励起光が伝送される。多モード光ファイバ22は、ダブルクラッドファイバ23へ、例えば特開平11−72629号公報などで公知の方法を用い、接続することができる。励起光は、十分な吸収量を持つダブルクラッドファイバ23を使用することで、ほとんど全てがそのコア部24に吸収される。
【0025】
ここで用いるダブルクラッドファイバ23の第1クラッド部25には、ツリウムがドープされており、その濃度は第1クラッド部25と第2クラッド部26の境界の近傍で10000質量ppmであり、中心に向かうにつれて低くなっている。
【0026】
増幅された信号光は、レーザ光として出射されるが、従来の希土類添加光ファイバでは、出射光の一部が反射等により第1クラッド部を通り、励起光源へと向かうことになる。
本実施形態のダブルクラッドファイバ23は、第1クラッド部25にツリウムがドープされているため、波長1064nmにおける損失が大きく、高いパワーの光が励起光源21に戻る前に減衰され、パワーが弱められる。結果として、高いパワーの戻り光が励起光源21に到達することがなく、励起光源21が劣化あるいは損傷することを防ぐことが可能になる。一方、第1クラッド部25の波長976nmにおける損失は十分小さいため、励起光が減衰し励起効率が下がるということはない。
【0027】
このダブルクラッドファイバ23を用いることにより、出射端からの信号光の出力パワーを下げることなく、かつ増幅された信号光が励起光源21に戻り光として戻る場合のパワーを小さくすることができるので、励起光源21の劣化や損傷の可能性を著しく低下させることができ、このダブルクラッドファイバ23を増幅用ファイバとして有する光ファイバ増幅器及びファイバレーザの長寿命化を図ることができる。
【0028】
なお、信号光、励起光の波長がここに示した例以外でも、当業者が調整可能な範囲でドーパントの種類や濃度を適宜変えることで、同様の効果を得ることができる。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
図4に示す構成の装置を用い、信号光の波長を1064nm、励起光の波長を976nmとして、希土類添加ファイバを、本発明によるダブルクラッドファイバと、従来のダブルクラッドファイバを用いた場合について、励起光源の劣化、あるいは損傷の様子を比較した。励起光源としては半導体LDを用いた。
本発明のダブルクラッドファイバとしては、第1クラッド部にツリウムを10000質量ppmドープしたものを使用した。ツリウムの濃度は、コアの近傍から外周に向かうにつれて高くなるように調整した。ツリウムの吸収特性を図5に示す。従来のダブルクラッドファイバは、第1クラッド部にツリウムをドープしないこと以外は本発明のダブルクラッドファイバと同じものを用いた。
【0030】
それぞれ10の装置(1つの装置につき励起光源は6つ)を作製し、3ヶ月の動作試験を行ったところ、本発明のダブルクラッドファイバを用いた装置では、励起光源の劣化、損傷は確認できなかった。一方、従来のダブルクラッドファイバを用いた装置では、励起光源の出力が半分以下に低下したものが6つあり、そのうちの1つは出力がほとんど0となっていた。また、出射端からの出力は、どちらの場合もほぼ同じ値を示した。
【0031】
[実施例2]
図4に示す構成の装置を用い、信号光の波長を1064nm、励起光の波長を915nmとして、励起光源から希土類添加ファイバまでの経路に用いるファイバを、本発明によるダブルクラッドファイバと、従来のダブルクラッドファイバを用いた場合について、励起光源の劣化、あるいは損傷の様子を比較した。励起光源としては半導体LDを用いた。
本発明のダブルクラッドファイバとしては、第1クラッド部にツリウムを10000質量ppmドープしたものを使用した。従来のダブルクラッドファイバは、第1クラッド部にツリウムをドープしないこと以外は本発明のダブルクラッドファイバと同じものを用いた。実験の結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0032】
[実施例3]
第1クラッド部にサマリウムを添加したダブルクラッドファイバを用いた以外は、実施例1と同様にして、図4に示す構成の装置を用い、その効果を確認した。信号光の波長を1064nm、励起光の波長を976nmとした。サマリウムの吸収特性を図6に示す。
実験の結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【0033】
[実施例4]
第1クラッド部にコバルトを添加したダブルクラッドファイバを用いた以外は、実施例1と同様にして、図4に示す構成の装置を用い、その効果を確認した。信号光の波長を1064nm、励起光の波長を915nmとした。コバルトの吸収特性を図7に示す。
実験の結果、実施例1と同様の結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】従来の前方励起方式の装置構成を例示する概略構成図である。
【図2】従来の後方励起方式の装置構成を例示する概略構成図である。
【図3】従来の双方向励起方式の装置構成を例示する概略構成図である。
【図4】本発明のダブルクラッドファイバを用いた装置を示す概略構成図である。
【図5】ツリウムの吸収特性を示すグラフである。
【図6】サマリウムの吸収特性を示すグラフである。
【図7】コバルトの吸収特性を示すグラフである。
【図8】本発明のダブルクラッドファイバの一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0035】
11,21…励起光源、12…希土類添加光ファイバ、22…多モード光ファイバ、23…ダブルクラッドファイバ、24…コア部、25…第1クラッド部、26…第2クラッド部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア部と、該コア部の周囲に設けられたコア部よりも屈折率が低い第1クラッド部と、該第1クラッド部の周囲に設けられた第1クラッド部よりも屈折率が低い第2クラッド部を有するダブルクラッドファイバであって、前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、波長λの光信号における損失が励起光源の波長λにおける損失よりも大きくなるようなドーパントを含んでいることを特徴とするダブルクラッドファイバ。
【請求項2】
前記ドーパントが、ツリウム、サマリウム、イッテルビウム、エルビウム、ジスプロシウム、ネオジム、プラセオジム、ホルミウム、コバルト、ニッケルからなる群から選択される少なくとも1種の元素であることを特徴とする請求項1に記載のダブルクラッドファイバ。
【請求項3】
第1クラッド部に含まれる前記ドーパントの濃度が、コア部と第1クラッド部の境界近傍部よりも、該境界近傍部より外側のほうが高くなっていることを特徴とする請求項1又は2に記載のダブルクラッドファイバ。
【請求項4】
前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、窒素が10ppm以上含まれていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のダブルクラッドファイバ。
【請求項5】
前記第1クラッド部又は前記第2クラッド部の少なくともいずれか一方に、OH基が100ppm以上含まれていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のダブルクラッドファイバ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のダブルクラッドファイバを増幅用ファイバとして有することを特徴とする光ファイバ増幅器。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載のダブルクラッドファイバを増幅用ファイバとして有することを特徴とするファイバレーザ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−134626(P2007−134626A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−328547(P2005−328547)
【出願日】平成17年11月14日(2005.11.14)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】