説明

ダンパ及びランドリー機器

【課題】コイルの消費電力を抑制しながら高いダンパ力を得ることができ、且つコイルにおける熱の発生を抑制できるダンパ及びランドリー機器を提供する。
【解決手段】本実施形態のダンパは、シリンダと、ロッドと、磁気粘性流体と、磁場発生手段とを備え、磁場発生手段により発生する磁場を変化させることに基づき、シリンダとロッドとの間のダンパ力を変化させることを可能としている。ロッドは、シリンダに対して相対的に往復移動可能に挿入される。磁気粘性流体は、シリンダ内に封入され、磁場の変化に基づき粘性が変化する。磁場発生手段は、コイルを有し、磁場を発生させるもので、磁力を残留させることが可能な磁性体を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ダンパ及びランドリー機器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、種々の振動を低減させるためにダンパが用いられている。例えば、ランドリー機器では、水槽の振動を減衰させるためにダンパが用いられている。このようなランドリー機器であるドラム式洗濯機においては、外箱内に、内部にドラムが配設された水槽と、ダンパとを備え、ドラムの回転に伴う水槽の振動を前記ダンパにより減衰させる構成となっている。この種のダンパとして、減衰性能の向上を図るために、磁場の変化に基づき粘性が変化する磁気粘性流体(MR流体)を用いたものが考えられている。
【0003】
このものでは、例えばシリンダ内に、磁場を発生させるためのコイルを配設するとともに、このコイルを軸方向に貫通するロッドを往復移動可能に設け、シリンダとロッドとの間に磁気粘性流体を封入した構成となっている。この構成において、水槽が上下方向に振動すると、ロッドとシリンダとが相対的に振動する。このとき、磁気粘性流体の粘性による摩擦抵抗で減衰力が与えられ、水槽の振動が減衰される。
【0004】
ここで、コイルへ通電すると、磁場が発生して、磁気粘性流体に磁界が与えられ、磁気粘性流体の粘度が高くなる。そして、シリンダとロッドとの間の磁気粘性流体による摩擦抵抗が増加し、シリンダとロッドとの間の摩擦抵抗が増加する。これにより、シリンダとロッドとが相対的に移動し難くなり、ダンパの減衰力(ダンパ力)が大きくなる。また、コイルへの通電を遮断すると、磁場の発生がなくなり、磁気粘性流体の粘度が低くなる。このため、シリンダとロッドとが相対的に移動するときの摩擦抵抗が減少し、シリンダとロッドとが相対的に移動し易くなり、ダンパ力が小さくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−104578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した構成のものにおいては、コイルへの通電を遮断すると、磁場の発生がなくなり、磁気粘性流体の粘度が低下し、ダンパ力が低減する。このため、高いダンパ力を維持するには、コイルへの通電を続けていなければならなく、消費電力が大きくなるという問題がある。また、高いダンパ力を得るためにコイルへ電流を流し続けると、コイルが発熱して温度が上昇し、ダンパの品質に悪影響を及ぼすという問題がある。
【0007】
そこで、コイルの消費電力を抑制しながら高いダンパ力を得ることができ、且つコイルにおける熱の発生を抑制できるダンパ及びランドリー機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施形態のダンパは、シリンダと、ロッドと、磁気粘性流体と、磁場発生手段とを備え、磁場発生手段により発生する磁場を変化させることに基づき、シリンダとロッドとの間のダンパ力を変化させることを可能としている。ロッドは、シリンダに対して相対的に往復移動可能に挿入される。磁気粘性流体は、シリンダ内に封入され、磁場の変化に基づき粘性が変化する。磁場発生手段は、コイルを有し、磁場を発生させるもので、磁力を残留させることが可能な磁性体を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施形態におけるドラム式洗濯機の縦断側面図
【図2】サスペンションの縦断面図
【図3】電気的構成を示すブロック図
【図4】コイルへの印加電流、磁力、及びダンパ力の関係を示す図
【図5】(a)コイルへの印加電流が大きい場合の図4相当図、(b)コイルへの印加電流が小さい場合の図4相当図
【図6】磁力可変磁石の磁化曲線を概略的に示す図
【図7】(a)コイルへの印加電流と磁力可変磁石の磁力との関係を示す図、(b)磁力可変磁石の磁力とダンパ力との関係を示す図
【図8】(a)コイルへの印加電流の波形を示す図、(b)磁力可変磁石の減磁の様子を示す図
【図9】第2の実施形態における図4相当図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、複数の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、説明を省略する。
[第1の実施形態]
以下、ランドリー機器としてドラム式洗濯機に適用した第1の実施形態について図1から図8を参照して説明する。
まず、図1には、第1の実施形態のドラム式洗濯機の全体構造を示しており、外箱1が外殻とされている。この外箱1の前面部(図1で右側)のほぼ中央部には、洗濯物出入口2が形成され、この洗濯物出入口2を開閉する扉3が設けられている。また、外箱1の前面部の上部には、操作パネル4が設けられ、その裏側(外箱1内)に運転制御用の制御装置5が設けられている。
【0011】
外箱1の内部には、水槽6が配設されている。この水槽6は、軸方向が前後(図1で右左)の横軸円筒状を成すものであり、外箱1の底板1a上に左右一対(図1では一方のみ図示)のサスペンション7によって前上がりの傾斜状にて弾性支持されている。サスペンション7の詳細構造は、後に述べる。
水槽6の背部には、モータ8が取付けられている。このモータ8は、この場合、例えば直流のブラシレスモータから成るもので、アウターロータ形であり、ロータ8aの中心部に取付けられた回転軸(図示省略)が、軸受ブラケット9を介して水槽6の内部に挿通されている。
【0012】
水槽6の内部には、ドラム10が配設されている。このドラム10も、水槽6と同様に軸方向が前後の横軸円筒状を成すもので、後部の中心部で上記モータ8の回転軸の先端部に取付けられることにより、水槽6と同心の前上がりの傾斜状に支持されている。また、その結果、ドラム10はモータ8により回転されるようになっており、従って、ドラム10は回転槽であり、モータ8はドラム10を回転させるドラム駆動装置として機能する。
【0013】
ドラム10の周側部(胴部)には、小孔11が全域にわたって多数形成されている。また、ドラム10及び水槽6は、共に前面部に開口部12,13を有しており、そのうちの水槽6の開口部13と前記洗濯物出入口2との間が環状のベローズ14で連ねられている。この結果、洗濯物出入口2は、ベローズ14、水槽6の開口部13、及びドラム10の開口部12を介して、ドラム10の内部に連なっている。
【0014】
水槽6の底部の後側には、排水弁15を介して、排水管16が接続されている。また、水槽6の背部から上方そして前方には、乾燥ユニット17が配設されている。この乾燥ユニット17は、水冷式の除湿器18と、送風機19、及び加熱器20を有しており、水槽6内の空気を除湿し、次いで加熱して、水槽6内に戻す循環を行わせることにより、洗濯物を乾燥させるようになっている。
【0015】
ここで、サスペンション7の詳細構造を説明する。サスペンション7はダンパ21を有しており、このダンパ21は、図2に示すように、主部材として、上下方向に長い円筒状をなすシリンダ22と、断面円形で上下方向に長い棒状をなすロッド23とを備えている。このうち、シリンダ22は、下端部に連結部材24を有し、この連結部材24が、図1に示すように、前記外箱1の底板1aが有する取付板25に上方から下方へ通されて弾性座板26等を介してナット27で締結されることにより、外箱1の底板1aに取付けられている。
【0016】
また、ロッド23は、上端部に連結部23aを有し、この連結部23aを、図1に示すように、前記水槽6が有する取付板28に下方から上方へ通して弾性座板29等を介してナット30で締結することにより、水槽6に取付けられている。図2に示すように、ロッド23におけるシリンダ22の外部上方に位置した上部部分には、ばね受け座31が嵌合固定されており、このばね受け座31とシリンダ22の上端部との間には、ロッド23を囲繞する圧縮コイルスプリングから成るコイルばね32が装着されている。
【0017】
シリンダ22の内部の上端部には、非磁性材から成る環状の上ブラケット33が収容されている。この上ブラケット33の外周部には、溝33aが形成されており、シリンダ22の周壁部のうちの上記溝33aに対応する部分を内方へかしめることにより、上ブラケット33を固定している。上ブラケット33の内周部には、ロッド23を上下方向(軸方向)に往復移動可能に支持する環状の軸受34を収納固定している。軸受34は、例えば焼結含油メタルから構成されている。なお、上ブラケット33の図2中の上面部に上方へ向けて突設された筒状部33bは、シリンダ22の上端面部に形成された開口を通して上方へ突出している。
【0018】
シリンダ22の内部にあって上下方向の中間部には、非磁性材から成る環状の下ブラケット35が収容されている。この下ブラケット35の外周部には、溝35aが形成されており、シリンダ22の周壁部のうちの溝35aに対応する部分を内方へかしめることにより、下ブラケット35がシリンダ22に固定されている。下ブラケット35の内周部には、ロッド23を上下方向に往復移動可能に支持する環状の軸受36が収納固定されている。軸受36も、前記軸受34と同様に例えば焼結含油メタルから構成されている。
【0019】
シリンダ22の内部における上ブラケット33と下ブラケット35との間の部分には、コイル組立体37が収容されており、このコイル組立体37は上ブラケット33と下ブラケット35により挟持された状態で固定されている。コイル組立体37には、断面が円形の貫通孔38が形成されており、この貫通孔38にロッド23が挿通されて上下方向に往復移動可能になっている。
【0020】
コイル組立体37は、第1の磁石39と、上コイル40を巻装した上ボビン41と、ヨーク42と、下コイル43を巻装した下ボビン44と、第2の磁石45とを備えている。第1の磁石39と第2の磁石45は、後述する磁力可変磁石から成る。この磁力可変磁石は、磁力を残留させることが可能な磁性体であり、例えば、ネオジム磁石、フェライト磁石、アルニコ磁石、サマコバ磁石(サマリウム・コバルト磁石)などから成っている。ヨーク42は、鉄から成る磁性材である。このうち、第1の磁石39及び第2の磁石45、上下コイル40,43、ヨーク42は、磁場発生手段を構成するものである。そして、これら第1の磁石39、第2の磁石45、ヨーク42、上下コイル40,43、上下ボビン41,44は、樹脂46で一体成形されている。
【0021】
上ボビン41の図2中の上下の端板47には、位置決め用の凸部47aが、例えば各4個ほぼ等間隔に外方へ向けて突設されている。同様にして、下ボビン44の端板47にも、位置決め用の凸部47aが各4個ほぼ等間隔に外方へ向けて突設されている。
【0022】
第1の磁石39のうちの上ボビン41の端板47に対向する側の下面には、端板47の凸部47aが嵌合する凹部48が形成されている。第1の磁石39の図2中の上面には、環状凹部49が形成されており、この環状凹部49内にシール部材50が圧入固定されている。なお、シール部材50は、第1の磁石39の上面から突出しており、このシール部材50の突出部分は、上ブラケット33の図2中の下面に形成された環状凹部51に収容される構成となっている。
【0023】
また、ヨーク42には、上下両側が開口した貫通孔52が複数個形成されており、これらの貫通孔52に、上ボビン41の端板47の凸部47a及び下ボビン44の端板47の凸部47aが嵌合するように構成されている。
【0024】
また、第2の磁石45のうちの下ボビン44の端板47に対向する側の上面には、端板47の凸部47aが嵌合する凹部48が形成されている。第2の磁石45の図2中の下面には、環状凹部53が形成されており、この環状凹部53内にシール部材54が圧入固定されている。なお、シール部材54は、第2の磁石45の下面から突出しており、このシール部材54の突出部分は、下ブラケット35の図2中の上面に形成された環状凹部55内に収容される構成となっている。
【0025】
上記した第1の磁石39、第2の磁石45、ヨーク42、上下ボビン41,44(上下コイル40,43)は、成形型(図示しない)内に収容されて、樹脂46により一体成形(モールド成形)される。樹脂46としては、例えば、熱可塑性樹脂(ナイロン、PBT、PET、PP等)が使用される。この場合、樹脂46は、上下コイル40,43及び上下ボビン41,44の外周部を覆うと共に、第1の磁石39の外周部の軸方向のほぼ下半分程度を覆い、第2の磁石45の外周部の軸方向のほぼ上半分程度を覆っている。
【0026】
ロッド23は、軸受34,36に支持されると共に、それら軸受34、シール部材50、第1の磁石39、上ボビン41(上コイル40)、ヨーク42、下ボビン44(下コイル43)、第2の磁石45、シール部材54、及び軸受36に対して、相対的に軸方向の往復移動が可能となっている。なお、ロッド23の下端部には抜け止め用の止め輪56が装着されており、それより下方のシリンダ22の内部は空洞57となっている。
【0027】
また、ロッド23と上下ボビン41,44(上下コイル40,43)との各間、並びにそれらの近傍であるロッド23と第1の磁石39、ヨーク42、第2の磁石45との各間には、機能性流体、この場合、磁気粘性流体(MR流体)58が充填されている(図2参照)。磁気粘性流体58は、例えば、オイルの中に鉄、カルボニル鉄などの強磁性粒子を分散させたものであり、磁界が印加されると強磁性粒子が鎖状のクラスタを形成することで粘度(粘性率)が上昇するものである。この磁気粘性流体58は、シール部材50,54により漏れないように封止されている。
【0028】
このようにしてダンパ21が構成されており、このダンパ21のシリンダ22の外部上方に位置したロッド23の上部には、ばね受け座31が嵌合固定されており、このばね受け座31とシリンダ22の上端部との間には、ロッド23を囲繞する圧縮コイルスプリングから成るコイルばね32が装着され、これによって、サスペンション7が構成される。このようなサスペンション7が、前記水槽6と前記外箱1の底板1aとの間の左右両側に組込まれ、外箱1の底板1a上に水槽6を弾性支持するようにしている。
【0029】
上記したサスペンション7のそれぞれに設けられた上コイル40と下コイル43は、互いに直列に接続されていて、図示しないリード線を介してダンパ21外部の駆動回路61(図3参照)に接続され、この駆動回路61を介して前記制御装置5により通断電制御される。
【0030】
図3には、制御装置5を中心とした電気的構成をブロック図で示している。制御装置5は、例えばマイクロコンピュータから成るもので、ドラム式洗濯機の洗濯運転をはじめとする運転全般を制御するものである。また、制御装置5は、図示しないROMとRAMを有し、ROMには、運転全般を制御する制御プログラム及びデータが記憶されている。
【0031】
この制御装置5には、前記操作パネル4が有する各種の操作スイッチから成る操作部62より各種操作信号が入力される。また、制御装置5には、前記水槽6内の水位を検知するように設けた水位センサ63から水位検知信号が入力され、前記ドラム10を回転させるための前記モータ8の回転速度を検出する回転センサ64からの回転速度検出信号が入力される。また、制御装置5には、上下コイル40,43の通電量を検出するように設けられた電流センサ65から電流検出信号が入力される。
【0032】
そして、制御装置5は、それらの入力と検出結果並びに予めROMに記憶された制御プログラム及びデータに基づいて、設定内容などを表示する表示部66と、前記水槽6内に給水するように設けられた給水弁67と、前記モータ8、前記排水弁15、前記乾燥ユニット17における送風機19の送風羽根19a(図1参照)を駆動するモータ19b(同図参照)、同乾燥ユニット17における加熱器20のヒータ20a(同図参照)、及びサスペンション7に設けられた上下コイル40,43を駆動する駆動回路61に駆動制御信号を与えるようになっている。
【0033】
ここで、磁力可変磁石である第1の磁石39及び第2の磁石45について、図6から図8を参照して説明する。
図6は、本実施形態に用いられる磁力可変磁石の磁化曲線(磁気ヒステリシス曲線)を概略的に示す図である。この磁化曲線は、磁石が持っている磁気特性を表したものであり、横軸は磁場(コイルへの印加電流)の大きさ、縦軸は磁力可変磁石の磁束密度(磁力)の大きさを示す。
【0034】
図6に示すように、外部磁場(磁界)がない状態(点0)では、磁石が持つ磁束密度(磁力)は0である。ここから磁石に正の磁場が与えられると、磁石は磁化され、磁場の増大に比例して磁力が大きくなる、すなわち、増磁される(図7(a)参照)。そして、点cにおいて、磁力が飽和して最も増磁された状態(これ以上磁力が大きくならない状態)となる。点cまで増磁された磁石に対して、外部磁場を遮断しても正の大きさの磁力が残留する(点d)。このように本実施形態の磁石は、外部の磁場を遮断しても大きな磁力を残留させることが可能な(残留磁束密度が高い)構成となっている。
【0035】
点dの状態で、負の磁場(逆向きの磁場)が与えられると、点eから磁力が小さくなり、すなわち、減磁され、点fにおいて磁力が0となる。点fから、更に負の磁場が増大されると、負の大きさ(逆向き)の磁力が大きくなり、点gにおいて、磁力が飽和して最も減磁された状態(これ以上磁力が負の向きに大きくならない状態)となる。点gまで減磁された磁石に対して、負の磁場を遮断しても負の大きさの磁力が残留する(点h)。ここから正の磁場が与えられると、点iから負の磁力が小さくなり、点jにおいて磁力が0となる。そして、点jから磁場の増大に比例して増磁し、再び点cに達する。
【0036】
本実施形態においては、上記した特性の磁力可変磁石(磁石39,45)を以下に示す点0−点a−点b−点d´−点e´−点f−点0のサイクルの範囲内において使用する。
磁石39,45は、図6に示すように、外部磁場(磁界)のない状態(点0)から上下コイル40,43へ増磁パルスが印加され、正の磁場が与えられると、点bまで増磁される。そして、コイル40,43への通電は遮断されるが、磁石39,45には大きな磁力が残留する(点d´)。この後、コイル40,43へ減磁パルスが印加され、負の磁場が与えられると、点d´から点fまで減磁され、磁石39,45の磁力は0になる。そして、コイル40,43への通電が遮断され、磁場のない状態(点0)に戻る。再び、コイル40,43へ増磁パルスが印加されると、点bまで増磁される。このように、点0−点a−点b−点d´−点e´−点f−点0のサイクルの範囲内において、コイル40,43への通電を制御することにより、磁石39,45の増磁及び減磁を繰返し行う。
【0037】
また、本実施形態では、第1の磁石39及び第2の磁石45の磁力を0に戻すために減磁させる(減磁パルスを印加する)ときは、図8(a)に示すように、波状の波形の負の大きさの電流を上下コイル40,43へ印加する。このように波状の波形の電流を印加することで、一定の電流を印加する場合に比べて、図8(b)に示すように、より安定して磁石39,45の磁力を0に減磁することができる。また、磁石39,45を増磁させる(増磁パルスを印加する)ときにも、同様に波状の波形の電流を印加させ、安定して磁石39,45の磁力が大きくなるようにしている。
【0038】
次に、上記した構成のものの作用を図4、図5も参照して説明する。
上記構成のドラム式洗濯機では、標準的な運転コースが開始されると、最初に洗い行程が開始される。本実施形態では、図4に示すように、洗い行程を開始する前に、制御装置5により、上下コイル40,43へ極めて短い時間だけ負の大きさの電流(波状の波形の減磁パルス)を印加する。すると、前回の洗濯時に増磁されていた前述の磁力可変磁石である第1の磁石39及び第2の磁石45の磁力が0の状態に減磁される(図6、図8参照)。これにより、ダンパ21は、ダンパ力が低い状態となる。この後、洗い行程が実行される。この洗い行程では、使用者は、図示しない洗剤投入部に洗剤を投入しておく。そして、制御装置5により、給水弁67から水槽6内に給水が行われる際に、水とともに洗剤も水槽6内に供給される。続いて、モータ8が駆動されることによって、洗濯物を収容したドラム10が低速で正逆両方向に交互に回転され、洗濯物が洗濯される。
【0039】
また、洗い行程においては、ドラム10が回転駆動されることに伴い、水槽6が上下方向を主体に振動する。この水槽6の上下方向の振動に応動して、サスペンション7では、外箱1の底板1a側に固定されたシリンダ22に対して、水槽6側に連結されたロッド23がコイルばね32を伸縮させながら上下方向(軸方向)に振動する。このとき、このコイルばね32による振動低減作用に加え、ロッド23と上下ボビン41,44、及び第1の磁石39、ヨーク42、第2の磁石45との各間に充填された磁気粘性流体58が、その粘性による摩擦抵抗で減衰力を作用させ、水槽6の振幅を減衰させる。
【0040】
洗い行程が終了すると、中間の脱水行程が開始される。この脱水行程では、水槽6内の水が排水弁15を介して排水管16から機外に排出された後、ドラム10が高速回転されることにより、ドラム10内の洗濯物の脱水が行われる。本実施形態では、この脱水行程を開始する前に、図4に示すように、上下コイル40,43へ極めて短い時間だけ正の大きさの電流(波状の波形の増磁パルス)を印加する。これにより、磁石39,45は増磁され、所定の大きさの磁力を持つようになる。この後、上下コイル40,43への印加電流は遮断されるが、磁石39,45には、大きな磁力が残留する(図6の点d´参照)。
【0041】
上下コイル40,43への通電が行われると、磁石39,45、ヨーク42は磁場を発生させる。これら磁石39,45、ヨーク42を介して磁気粘性流体58に磁場(磁界)が与えられると、磁気粘性流体58の粘度が高くなる。詳細には、上下コイル40,43に通電したことで、ロッド23−磁気粘性流体58−磁石39−上ブラケット33−シリンダ22−ヨーク42−磁気粘性流体58−ロッド23の磁気回路が発生すると共に、ロッド23−磁気粘性流体58−ヨーク42−シリンダ22−磁石45−磁気粘性流体58−ロッド23の磁気回路が発生し、それぞれ磁束が通過する箇所の磁気粘性流体58の粘度が高まる。特に磁束密度の高いロッド23と磁石39との間、並びにヨーク42とロッド23との間、磁石45とロッド23との間の、各磁気粘性流体58の粘度が高まり、摩擦抵抗が増加する。このようにして、シリンダ22とロッド23との間の摩擦抵抗が増加して、シリンダ22とロッド23とが相対的に往復移動し難くなり、ダンパ21の減衰力(ダンパ力)が大きくなる。
【0042】
この後、すすぎ行程と最終の脱水行程とが行われる。すすぎ行程では、洗剤を使わないこと以外は、洗い行程と同様の動作が行われる。また、最終の脱水行程では、中間の脱水行程と同様の動作が行われる。
【0043】
本実施形態においては、洗い(すすぎ)行程時は、図4に示すように、磁力可変磁石(磁石39,45)の磁力Aもコイル40,43による磁力Bも0であり、磁力Aと磁力Bをたし合わせた総合磁力Cが0となっている。このため、ダンパ21のダンパ力は低くなっている。これに対して、脱水行程時は、増磁により磁石39,45の磁力Aが大きくなり、コイル40,43による磁力Bは0であるが、総合磁力Cが大きくなる。この磁力Cにより発生する磁場によって、磁気粘性流体58の粘度が高くなり、ダンパ21のダンパ力が高くなっている。このとき、上下コイル40,43への通電を遮断していても、上記したように、磁石39,45が大きな磁力を残留させているので、ダンパ21による高いダンパ力が維持されるようになっている。このように、洗い(すすぎ)行程時よりも水槽6の振動が大きくなる脱水行程時において、ダンパ21のダンパ力を大きくさせて、水槽6の振動を効果的に減衰させている。
【0044】
ここで、図5は、増磁するときの上下コイル40,43への印加電流(増磁パルス)の大きさを変化させた場合の図である。図5(a)に示すように、増磁パルスの大きさを大きくすると、磁石39,45の磁力が大きなものとなり、これにより、ダンパ21のダンパ力も高いものとなる。これに比べて、図5(b)に示すように、増磁パルスの大きさを小さくすると、磁石39,45の磁力も小さくなり、これにより、ダンパ21のダンパ力も低いものとなる。
【0045】
すなわち、本実施形態では、図7(a)に示すように、上下コイル40,43への印加電流の大きさと磁力可変磁石(磁石39,45)の磁力の大きさは比例関係になっており、上下コイル40,43への印加電流を大きくさせることに伴い、磁石39,45の磁力が大きくなる。そして、図7(b)に示すように、磁石39,45の磁力が大きくなると、磁気粘性流体58の粘度が高くなるので、これにより、ダンパ21のダンパ力が大きくなる。このように、上下コイル40,43へ印加する電流値(増磁パルスの大きさ)に応じて、ダンパ21のダンパ力を可変に制御することができる。
【0046】
なお、本実施形態は、洗い行程から最終の脱水行程までについて説明したが、最終の脱水行程の後に乾燥行程が行われるものにも適用できる。この場合、最終の脱水行程終了後(乾燥行程の前)にコイル40,43へ減磁パルスを印加して減磁を行うことで、洗い(すすぎ)行程と同様に、ダンパ21のダンパ力が低くなるように制御すればよい。
【0047】
このような第1の実施形態によれば、次のような効果を得ることができる。
本実施形態では、脱水行程を開始する前に、コイル40,43へ増磁パルス(極めて短い時間の正の電流)を印加して、磁力可変磁石である磁石39,45の磁力を大きくさせることで、磁気粘性流体58の粘度を高め、ダンパ21のダンパ力を大きくさせている。これにより、水槽6の振動を小さくして脱水行程を行うことができる。そして、磁石39,45は、磁力を残留させることが可能な磁石であるので、コイル40,43への印加電流を遮断しても、大きな磁力が維持される。従って、高いダンパ力を得るためにコイル40,43へ電流を印加し続ける必要がない。このように、コイル40,43へ極めて短い時間の通電を行うだけで、高いダンパ力を維持させることができるので、コイル40,43への通電による消費電力を小さくすることができる。
【0048】
また、コイル40,43への通電時間が短いので、コイル40,43における熱の発生を抑制することができる。これにより、コイル40,43の温度が上昇してダンパ21の品質に悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。そして、コイル40,43への通電時間を低減できることにより、ダンパ21、ひいてはサスペンション7の耐久性を向上させることができる。
【0049】
そして、磁力可変磁石を用いているので、コイル40,43への通電を制御する(増磁パルス及び減磁パルスを印加する)ことにより、磁石39,45の増磁及び減磁を繰返し行うことができ、ダンパ21のダンパ力を可変に制御することができる。従って、各行程に応じてダンパ21のダンパ力を変化させることができ、水槽6の振動を効果的に抑えることができる。
【0050】
本実施形態では、磁石39,45を増磁及び減磁するときに、コイル40,43へ一定の電流ではなく、波状の波形の電流を印加するようにした。これにより、増磁及び減磁をスムーズに行うことができ、磁石39,45の磁力を安定して制御することができる。
【0051】
また、コイル組立体37は、上下コイル40,43、上下ボビン41,44、磁石39,45及びヨーク42を樹脂46で一体成形(モールド)した構成にしたので、上下ボビン41,44、磁石39,45及びヨーク42の各部品の間に隙間が生じていたとしても、その隙間をモールドした樹脂46で封止することができる。これにより、前記隙間から磁気粘性流体58が漏れることを防止できる。また、上下ボビン41,44、磁石39,45及びヨーク42の固定強度が十分大きくなり、ダンパ21のダンパ力の低下や特性のばらつきの発生を防ぐことができる。
【0052】
[第2の実施形態]
図9は、第2の実施形態を示すものである。図9に示すように、第2の実施形態においては、脱水行程を開始する前に、コイル40,43へ増磁パルスを印加すると共に、この増磁パルスよりも小さい電流を脱水行程中にコイル40,43へ流している。
【0053】
この第2の実施形態では、洗い(すすぎ)行程時は、第1の実施形態と同様に、磁力可変磁石(磁石39,45)の磁力Aもコイル40,43による磁力Bも0であり、磁力Aと磁力Bをたし合わせた総合磁力Cは0となっている。このため、ダンパ21のダンパ力は低くなっている。
【0054】
これに対して、脱水行程時は、脱水行程を開始する前の増磁により磁石39,45の磁力Aが大きくなっていると共に、コイル40,43への通電が行われるので、コイル40,43による磁力Bも大きくなっている。なお、磁力の大きさは、磁力Aの方が磁力Bよりも大きなものとなっている。そして、磁力Aと磁力Bをたし合わせた総合磁力Cが大きくなっている。これら磁石39,45及びコイル40,43の磁力Cにより発生する磁場によって、磁気粘性流体58の粘度が高くなり、洗い(すすぎ)行程時よりもダンパ21のダンパ力が高くなっている。
【0055】
このとき、コイル40,43への通電量(図9で矢印D)は、増磁をするための増磁パルスの大きさ(図9で矢印E)よりも小さくなっている。このように、脱水行程中には増磁パルスよりも小さい電流をコイル40,43へ印加するようにすれば、磁石39,45の磁気特性に影響を与えることがなく、磁石39,45の磁力の制御、ひいてはダンパ21のダンパ力の制御に対して悪影響を及ぼすことを防ぐことができる。
【0056】
すなわち、増磁パルスを印加した状態では、磁石39,45は、図6に示す点bの状態になっており、ここで、増磁パルスよりも大きな電流をコイル40,43へ印加すると、点bから点cの方向へ磁石39,45の磁力が変化する。本実施形態では、図6において、上記した点0−点a−点b−点d´−点e´−点f−点0のサイクルで繰返し増磁及び減磁が行われるものであり、この制御範囲内で磁力を制御する必要がある。しかしながら、点bから点cの方向へ磁石39,45の磁力が変化すると、この制御範囲を超えてしまうので磁石39,45の磁力を制御できなくなる。このため、点bにおける電流値よりも小さい電流をコイル40,43へ流すようにしている。
【0057】
このような第2の実施形態によれば、磁石39,45の磁力にコイル40,43の通電による磁力を加えることで、ダンパ21のダンパ力を更に高めることができる。このとき、上記したように磁石39,45に残留した磁力を用いているので、コイル40,43の通電だけにより高いダンパ力を維持させる場合に比べて、コイル40,43への通電量を少なくすることができる。これにより、コイル40,43の消費電力を抑制しながら高いダンパ力を維持させることができる。
【0058】
[その他の実施形態]
本実施形態では、ランドリー機器としてドラム式洗濯機に適用した場合について説明したが、これに限らず、軸方向が上下方向に向いた縦型の水槽の内部に回転槽を備えると共に、この回転槽内に撹拌体を備えたいわゆる縦型の洗濯機に適用してもよい。
更に、ランドリー機器に限ることなく、他の用途に適宜適用することができる。例えば、自動車に適用してもよく、この場合、自動車のサスペンションに本実施形態のダンパを設けることで、消費電力を抑えながら自動車の振動を効果的に抑制することができる。
【0059】
また、本実施形態では、第1の磁石39と、第2の磁石45との間に、ヨーク42を設けたが、このヨーク42の代わりに、磁石39,45と同じ磁力可変磁石を配設してもよい。また、磁力可変磁石の個数は適宜変更してもよい。
更に、磁石39,45は、磁力可変磁石に代えて、通常の永久磁石を用いるようにしてもよい。また、磁力可変磁石をヨーク内部に埋設するようにしてもよい。
本実施形態では、洗い(すすぎ)行程と脱水行程とに分けてダンパ21のダンパ力を変化させるようにしたが、ドラム10内の洗濯物による負荷量やドラム10の回転速度に応じてダンパ力を制御するようにしてもよい。
【0060】
以上のように本実施形態のダンパによれば、磁場発生手段により発生する磁場を変化させることに基づいて、シリンダとロッドとの間のダンパ力を変化させることができると共に、磁場発生手段として磁力を残留させることが可能な磁性体を備えたので、コイルへの通電を遮断しても高いダンパ力を維持できる。これにより、コイルの消費電力を抑制しながら高いダンパ力を得ることができ、また、コイルにおける熱の発生を抑制できる。
【0061】
以上本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0062】
図面中、1は外箱、6は水槽、7はサスペンション、10はドラム(回転槽)、21はダンパ、22はシリンダ、23はロッド、39,45は磁石(磁性体、磁場発生手段)、40,43はコイル(磁場発生手段)、42はヨーク(磁場発生手段)、58は磁気粘性流体を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、
このシリンダに対して相対的に往復移動可能に挿入されたロッドと、
前記シリンダ内に封入され、磁場の変化に基づき粘性が変化する磁気粘性流体と、
コイルを有し磁場を発生させる磁場発生手段とを備え、
前記磁場発生手段により発生する磁場を変化させることに基づき、前記シリンダと前記ロッドとの間のダンパ力を変化させることを可能としたダンパにおいて、
前記磁場発生手段は、磁力を残留させることが可能な磁性体を備えていることを特徴とするダンパ。
【請求項2】
前記磁性体は、増磁及び減磁が可能な磁力可変磁石であることを特徴とする請求項1に記載のダンパ。
【請求項3】
前記コイルへの通電を制御することにより前記磁力可変磁石の増磁及び減磁を行うことを特徴とする請求項2に記載のダンパ。
【請求項4】
前記磁力可変磁石の増磁及び減磁の少なくとも一方を行う際に前記コイルへ印加する電流を一定とせず波状の波形とすることを特徴とする請求項3に記載のダンパ。
【請求項5】
前記磁力可変磁石を増磁した状態において、更に前記コイルへ、前記磁力可変磁石を増磁するときよりも低い電流を印加することで、前記ダンパ力を変化させることを特徴とする請求項3または4に記載のダンパ。
【請求項6】
外箱と、
この外箱内に設けられた水槽と、
この水槽内に回転可能に設けられた回転槽と、
前記外箱と前記水槽との間に設けられ、前記水槽の振動を減衰させるダンパとを備え、
前記ダンパとして請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のダンパを用いたことを特徴とするランドリー機器。
【請求項7】
洗い、脱水などの運転行程を開始する前に前記ダンパのダンパ力を変化させることを特徴とする請求項6に記載のランドリー機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−141045(P2012−141045A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−1156(P2011−1156)
【出願日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(502285664)東芝コンシューマエレクトロニクス・ホールディングス株式会社 (2,480)
【出願人】(503376518)東芝ホームアプライアンス株式会社 (2,436)
【Fターム(参考)】