説明

ダンパ装置

【課題】取り付け姿勢による影響を受けない安定した減衰力を得るとともに、大きな減衰力を小型軽量なダンパで発生可能とする。
【解決手段】ケース1とキャップ2、3に囲まれた空間に粒状体10が充填されており、その中でピストン8がロッド9の動きに伴って、ケース1に対して相対的に変位する構造になっている。キャップ2、3はそれぞれスプリング4、5により常に粒状体を圧縮する向きに力を受けている。ケース1に対してピストン8が相対的に変位するようにロッド9に変位を与えた場合、粒状体10はピストン8の動きに伴って流動し、それにより減衰力が発生する。粒状体10を流動させるために必要な力が、スプリング4、5によりキャップ2、3が受けている力よりも大きな場合は、その力とスプリング4、5からキャップ2、3が受けている力が釣り合う位置までキャップ2、3は変位する。キャップ2、3が変位すると、粒状体10が充填されているケース内容積は増加し、それにより粒状体10の流動が促進される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダンパ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のダンパ装置として、剛性を有するケース内に充填された粒状体群の中にピストンロッドを配し、その動きに応じて粒状体に発生する摩擦を用いて振動を吸収するダンパが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−219377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記した従来のダンパ装置では、ケース内容積に対する粒状体の充填率の影響を受けてダンパの減衰特性が変化する。すなわち、充填率が低くケース内に空隙が多い場合には減衰力は小さく、反対に充填率が高くケース内に空隙が少ない場合には減衰力は大きくなり、さらに充填率を高くしていくと粒状体の流動性が失われダンパとして機能しなくなる。したがって適当な充填率(適当な空隙がある状態)を選ぶ必要がある。その場合、ケース内に充填された粒状体の分布は均等ではなく、粒状体の密度が小さな領域が存在する。この粒状体の密度が小さな領域がピストンの進行方向前方に存在する場合、粒状体がピストンの動きにより移動し、その領域の粒状体密度がある程度以上になるまでの間は、ダンパの減衰力は非常に小さい。したがって、例えばピストンが垂直方向に動くようにダンパを設置した時は重力の影響を受け、ピストンロッドが上向きに動く際に発生する減衰力は、下向きに動く際に発生する減衰力よりも小さくなるといった現象が生じる。すなわち、ダンパの設置方向やピストンロッドが動く向きにより、発生する減衰力は変化する。一方、ピストンが水平方向に動くようにダンパを設置した場合でも、ピストンの動く向きが反転した直後では、同じようにピストンの進行方向前方の粒状体密度は小さい状態になり、あたかもダンパにガタがあるような挙動が現れる。この現象が発生する場合は振幅が小さな振動に対して減衰を与えることができない。
【0005】
また、粒状体の流動性を確保したままダンパの減衰力を大きくするためには、必然的に粒状体の質量を大きくする必要があり、ダンパの小型化や軽量化の妨げとなる。
【0006】
本発明は上記点に鑑みて、取り付け姿勢による影響を受けない安定した減衰力を得るとともに、粒状体の質量を大きくしなくても減衰力を大きくできるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、ケースとキャップに囲まれた空間に粒状体が充填されており、その中をピストンおよびロッドが配置されたダンパ装置において、キャップがバネ機構により粒状体を圧縮力する向きに力を受けており、その力よりも粒状体を流動させるために必要な力が大きい場合に、キャップが粒状体を圧縮力する向きと反対側に変位してケース内容積が増加し粒状体の流動が促進される構成としたことを特徴とする。
【0008】
このようにキャップが粒状体を圧縮力する向きと反対側に変位してケース内容積が増加し粒状体の流動が促進される構成としているので、取り付け姿勢による影響を受けない安定した減衰力を得るとともに、粒状体の質量を大きくしなくても減衰力を大きくすることができる。
請求項2に記載の発明では、ケースは、粒状体を圧縮力する向きへのキャップの変位を拘束するためのストッパを有することを特徴とする。このことにより、キャップの変位が拘束される位置を規定することができる。
【0009】
上記したバネ機構としては、請求項3に記載の発明のように、キャップに対し粒状体を圧縮力する向きに力を与えるスプリングと、このスプリングのスプリング力を調整するスプリング力調整手段とを有するものとすることができる。具体的には、請求項4に記載の発明のように、スプリング力調整手段は、スプリングを支持するスプリングセットスクリュであって、その外周部がネジになっており、それがケースに設けられたネジに取り付けられてその取り付け位置が変更可能になっているものとすることができる。このような調整機能を用いることでダンパの減衰特性を変更することができる。
【0010】
また、上記したバネ機構としては、請求項5に記載の発明のように、バネ機構は、気体の圧力を用いてキャップに対し粒状体を圧縮力する向きに力を与える構成とすることができる。具体的には、請求項6に記載の発明のように、ケースには、粒状体が充填されている空間を大気開放とするための穴が設けられており、キャップに対し粒状体が充填されている空間と反対側を高圧室とし、この高圧室に大気よりも高圧の気体を封入することで、キャップに対し粒状体を圧縮力する向きに力を与える構成とすることができる。この場合、高圧室に封入する気体の圧力を調整することでダンパの減衰特性を変更することができる。また、請求項7に記載の発明のように、キャップに対し粒状体が充填されている空間と反対側を大気開放とし、粒状体が充填されている空間を低圧室とし、この低圧室に粒状体と一緒に封入されている気体の圧力を負圧にすることで、キャップに対し粒状体を圧縮力する向きに力を与える構成とすることもできる。この場合、低圧室内の気体の圧力を調整することでンパの減衰特性を変更することができる。
【0011】
さらに、請求項8に記載の発明のように、粒状体は磁性材料で製作されており、ケースの外部またはロッドに内蔵された電磁石により粒状体に磁場を印加することで減衰力を変えることができる構成とすれば、減衰力可変ダンパとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態に係るダンパ装置の構成を示す図である。
【図2】図1に示すダンパ装置における動作を示す図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るダンパ装置の構成を示す図である。
【図4】本発明のダンパ装置に係る減衰力と変位の関係を示す図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係るダンパ装置の構成を示す図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係るダンパ装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を図に示す実施形態について説明する。なお、以下に示す各実施形態において、同一の符号を付した部分は、同一もしくは均等な物を示す。
【0014】
(第1実施形態)
図1に、本発明の第1実施形態に係るダンパ装置の構成を示す。図1に示すように、ダンパ装置は、ケース1とキャップ2、3に囲まれた空間に粒状体10が充填されており、その中でピストン8がロッド9の動きに伴って、ケース1に対して相対的に変位する構造になっている。キャップ2、3はそれぞれスプリング4、5により常に粒状体を圧縮する向きに力を受けている。スプリング4、5はスプリングセットスクリュ6、7により支持されている。
【0015】
ケース1に対してピストン8が相対的に変位するようにロッド9に変位を与えた場合、粒状体10はピストン8の動きに伴って流動することで、粒状体10やピストン8、ケース1などの間には、摩擦や反発現象が発生し、それにより減衰力が発生する。この減衰力は粒状体の大きさや充填率、ケース内容積やその形状などにより変化する。
【0016】
粒状体10を流動させるために必要な力が、スプリング4、5によりキャップ2、3が受けている力よりも小さな場合は、キャップ2、3のストッパ2a、3aはケースのストッパ1a、1bに当たっており、キャップ2、3の変位は拘束され、粒状体10が充填されているケース内容積は変化しない。反対に粒状体10を流動させるために必要な力が、スプリング4、5によりキャップ2、3が受けている力よりも大きな場合は、その力とスプリング4、5からキャップ2、3が受けている力が釣り合う位置までキャップ2、3は変位する。キャップ2、3が変位すると、粒状体10が充填されているケース内容積は増加し、それにより粒状体10の流動が促進される。
【0017】
スプリングセットスクリュ6、7は外周部がネジ6a、7aになっており、ケース1に設けてあるネジ1c、1dで取り付けられる構造のため、その位置は自由に変更可能である。したがってキャップ2、3がスプリング4、5から受ける力は、スプリングセットスクリュ6、7の位置の変更によりスプリング4、5のセット長を変えることや、スプリング4、5にバネ定数や自由長が異なるものを用いることで容易に調整可能である。この調整機能を用いることで自由にダンパの減衰特性を変更することができる。また、キャップ2がスプリング4から受ける力と、キャップ3がスプリング5から受ける力を異なる値に調整することで、変位の向きによって異なる減衰特性を有するダンパにすることも可能である。
【0018】
なお、ケース1やキャップ2、3、スプリングセットスクリュ6、7、ピストン8、ロッド9はアルミニウム合金や鋼、真鍮などの金属材料で製作可能であるが、ダンパに求められる減衰力に対して十分な剛性と耐磨耗性を有するものであれば、プラスチックも使用可能である。粒状体10は必ずしも大きさが揃った球である必要はなく、材質も金属やプラスチック、ガラス、砂などを必要に応じて使い分けることができる。キャップ2、3を固定とし、ケース1の内径をφ31mm、ピストン9の外径をφ20mmにした場合、粒状体に直径φ0.5から1.5mmの鋼球を用いた条件でダンパとして機能することを確認してある。
【0019】
図2は図1に示したダンパ装置の動作を示したものである。静止状態では、キャップ2、3はそれぞれスプリング4、5の力によりケース1のストッパ2a、3aへ押さえつけられている。この時、粒状体が充填されているケース1内の粒状体10の密度はほぼ均一になるようにしておく(状態(A))。この状態からロッド9を介してピストン8に変位を与えると、ピストン8の進行方向前方の粒状体10はほとんど流動しないため、キャップ3はピストン8と共に同じ向きに変位する。それにより粒状体が充填されているケース内容積が増加して空隙ができるため、粒状体10の流動が始まる(状態(B))。粒状体10の流動が始まるとキャップ3は、粒状体10から受ける力とスプリング5から受ける力が釣り合う位置、もしくはケース1のストッパで変位が拘束される位置まで変位する(状態(C))。 ダンパへの負荷形態が振動の場合には、状態(A)から(C)までの動作が、向きを変えながら繰り返し行われる。
【0020】
このように本実施形態によれば、粒状体10は常にスプリング機構4、5による圧縮力を受けており、粒状体10を流動させるために必要な力がスプリング力を上回る場合にはダンパのケース内容積が増加し、それにより粒状体の流動を促進する構成としているので、取り付け姿勢による影響を受けない安定した減衰力を得ることができ、また粒状体の質量を大きくしなくても粒状体の流動性を確保できるので、大きな減衰力を小型軽量なダンパで発生可能とすることができる。
【0021】
(第2実施形態)
図3に、本発明の第2実施形態に係るダンパ装置の構成を示す。この実施形態では、図1に示したダンパ装置に電磁石11を付加した構成となっている。また、粒状体10は、飽和磁化が高くなるように、ある程度の大きさを持つ磁性材料で製作したものとなっている。
【0022】
電磁石11に電流を流すと、電磁石の磁力線12の方向に沿った方向の粒状体10の結合力が強まる。これにより粒状体10間の摩擦力が大きくなり、それに従ってダンパの減衰力も大きくなる。この機構を用い電磁石11に流す電流を制御することで、ダンパのセミアクティブ制御が可能になる。なお、電磁石11はピストン8に内蔵しても同様な効果が期待できる。また、電磁石11の設置方向や数を変更すると、それによって発生する磁場分布、すなわち粒状体10の結合力が強まる向きやその強さなどを変えることが可能であり、様々な減衰特性を有するダンパを製作可能である。
【0023】
図4はダンパ装置で得られると考えられる減衰力−変位曲線である。キャップ2、3を固定し、ダンパを垂直方向に設置した場合では、ピストンの動く向きが上向きの場合にはダンパの減衰力は非常に小さく、反対に下向きにピストンが動く場合には、ダンパの減衰力の大きさはピストンの位置に依存している(状態(A))。同じくキャップ2、3を固定し、水平方向に設置した場合では、ピストンの動く向きが反転した直後の位置において減衰力が非常に小さな領域が発生する(状態(B))。それに対して図1に示したダンパ装置では、状態(A)や(B)に存在する減衰力が非常に小さな領域は無い(状態(C))。さらにスプリング力を変えることや、図3に示したように電磁石11を付加することで、発生する減衰力の大きさや、変位に対する減衰特性を自由に制御することができる(状態(C)、(D))。
(第3実施形態)
図5に、本発明の第3実施形態に係るダンパ装置の構成を示す。このダンパ装置は、図1に示したスプリング4、5およびスプリングセットスクリュ6、7で得られるスプリング力の代わりに気体の圧力を用いるものである。ケース1とキャップ2、3で囲まれた空間を高圧室13、14とし、そこに高圧の気体を封入し、さらにケース1に粒状体を充填している空間を大気開放とするための穴1eを設けることで、キャップ2、3は粒状体10を圧縮する向きの力を受ける。高圧室13、14に封入する気体の圧力を調整することで、自由にダンパの減衰特性を変更することができる。また、高圧室13と高圧室14に封入する気体の圧力を異なる値に設定することで、変位の向きによって異なる減衰特性を有するダンパにすることも可能である。高圧室13、14は密閉構造にする必要があるため、Oリング等のシール1f、1g、2b、2c、3b、3cが必要になる。なお、高圧室に封入する気体は空気や窒素などが適当である。
【0024】
(第4実施形態)
図6に、本発明の第4実施形態に係るダンパ装置の構成を示す。このダンパ装置も、図1に示したスプリング4、5およびスプリングセットスクリュ6、7で得られるスプリング力の代わりに気体の圧力を用いるものである。ケース1とキャップ2、3で囲まれた粒状体を充填する空間を低圧室15とし、そこに粒状体と一緒に封入されている気体の圧力を負圧にすることで、キャップ2、3は粒状体10を圧縮する向きの力を受ける。低圧室15内の気体の圧力を調整することで、自由にダンパの減衰特性を変更することができる。低圧室15は密閉構造にする必要があるため、Oリング等のシール2b、2c、3b、3cが必要になる。なお、低圧室内の気体は空気や窒素などが適当である。
【0025】
(他の実施形態)
上記した第3、第4実施形態のダンパ装置についても、第2実施形態に記載のように、ダンパ外部もしくはピストン8に内蔵した電磁石11により粒状体10に磁場を印加することで減衰力を変える構成としてもよい。
【0026】
また、図1に示したスプリング機構、図5、図6に示した気体によるバネ機構以外に、他のバネ機構を用いてダンパの減衰特性を変更するように構成してもよい。
【0027】
また、キャップ2、3の両方の変位を可能とするものを示したが、適用対象によってはキャップ2、3の一方のみを変位可能とする構成となっていてもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 ケース
1a、1b ストッパ
1c、1d ねじ、
2、3 キャップ
2a、3a ストッパ、
4、5 スプリング
6、7 スプリングセットスクリュ
6a、7a ねじ、
8 ピストン
9 ロッド
10 粒状体
11 電磁石
12 磁力線
13、14 高圧室
15 低圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースとキャップに囲まれた空間に粒状体が充填されており、その中をピストンおよびロッドが配置されたダンパ装置において、
前記キャップがバネ機構により前記粒状体を圧縮力する向きに力を受けており、その力よりも前記粒状体を流動させるために必要な力が大きい場合に、前記キャップが前記粒状体を圧縮力する向きと反対側に変位してケース内容積が増加し前記粒状体の流動が促進される構成としたことを特徴とするダンパ装置。
【請求項2】
前記ケースは、前記粒状体を圧縮力する向きへの前記キャップの変位を拘束するためのストッパを有することを特徴とする請求項1に記載のダンパ装置。
【請求項3】
前記バネ機構は、前記キャップに対し前記粒状体を圧縮力する向きに力を与えるスプリングと、このスプリングのスプリング力を調整するスプリング力調整手段とを有することを特徴とする請求項1または2に記載のダンパ装置。
【請求項4】
前記スプリング力調整手段は、前記スプリングを支持するスプリングセットスクリュであって、その外周部がネジになっており、それが前記ケースに設けられたネジに取り付けられてその取り付け位置が変更可能になっていることを特徴とする請求項3に記載のダンパ装置。
【請求項5】
前記バネ機構は、気体の圧力を用いて前記キャップに対し前記粒状体を圧縮力する向きに力を与える構成となっていることを特徴とする請求項1または2に記載のダンパ装置。
【請求項6】
前記ケースには、前記粒状体が充填されている空間を大気開放とするための穴が設けられており、前記キャップに対し前記粒状体が充填されている空間と反対側を高圧室とし、この高圧室に大気よりも高圧の気体を封入することで、前記キャップに対し前記粒状体を圧縮力する向きに力を与える構成となっていることを特徴とする請求項5に記載のダンパ装置。
【請求項7】
前記キャップに対し前記粒状体が充填されている空間と反対側を大気開放とし、前記粒状体が充填されている空間を低圧室とし、この低圧室に前記粒状体と一緒に封入されている気体の圧力を負圧にすることで、前記キャップに対し前記粒状体を圧縮力する向きに力を与える構成となっていることを特徴とする請求項5に記載のダンパ装置。
【請求項8】
前記粒状体は磁性材料で製作されており、前記ケースの外部または前記ロッドに内蔵された電磁石により前記粒状体に磁場を印加することで減衰力を変えることができる構成としたことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1つに記載のダンパ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21648(P2011−21648A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165799(P2009−165799)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】