説明

チェーンガイド及びチェーンテンショナ装置

【課題】 チェーン1との接触面の強度が高くて摺動抵抗が小さく、高速で走行するチェーンが接触しても摩耗しにくく、低振動であるチェーンガイド並びにそれを用いたチェーンテンショナ装置を提供する。
【解決手段】 チェーン1と接触するチェーンガイド5を、無端状に架け渡されたチェーン1の走行方向に沿って設けられた対向する側板部材9と、この対向する側板部材9間に設けられた、チェーン1に接触しながら案内する無限循環する複数のローラ10bとによって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、無端状に架け渡されたチェーンを押圧してチェーンに弛みが生じないように張力を付与するチェーンガイドおよびチェーンテンショナ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チェーンテンショナ装置は、駆動スプロケットと従動スプロケットに無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、チェーンに接触するチェーンガイドを設置し、チェーンガイドの少なくとも一つをチェーンの走行方向と略直角方向に押し付けることによって、高速で走行するチェーンに弛みが生じないように張力を付与するものであり、エンジンの動弁駆動装置のタイミングチェーン等に使用されている。
【0003】
チェーンガイドは、チェーンと接触しながら案内するものであるから、チェーンとの間で摩擦による摺動抵抗が発生し、騒音やメカニカルロスが大きくなるという問題が生じる。
【0004】
このチェーンガイドの騒音やメカニカルロスを抑制する技術として、特許文献1あるいは特許文献2に記載のものが知られている。これらの文献に記載のチェーンガイドは、チェーンの走行方向に沿って湾曲形状に形成され、チェーンと接触する摺動面部にローラを配設し、高速で走行するチェーンをローラが転がりながら押圧することによって、摺動抵抗を減少させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−236157号公報
【特許文献2】特開2010−180900号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、これらの文献に記載されたチェーンガイドにおいては、チェーンとローラとは強い摩擦力で接触するため、チェーンと接触する部分の強度向上と共に、摺動抵抗の軽減が要求される。
【0007】
また、低振動であることも要求される。
【0008】
この発明は、上記の課題を解決するために、チェーンとの接触面の強度が高くて摺動抵抗が小さく、高速で走行するチェーンが接触しても摩耗しにくく、低振動であるチェーンガイド並びにそれを用いたチェーンテンショナ装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、この発明は、無端状に架け渡されたチェーンの走行方向に沿って設けられた対向する側板部材と、この対向する側板部材間に設けられた、チェーンに接触しながら案内する無限循環する複数のローラとによってチェーンガイドを構成したのである。
【0010】
前記一対の側板部材間に、底部材を設け、この底部材とガイド部材間に形成される空間部に、循環するローラの内の、チェーンに対面しない部分を循環させることにより、ガイドサイズを小さくすることができる。
【0011】
前記ローラは、柔軟に屈曲できるベルト部材によって一定間隔に保持されている。
【0012】
前記ベルト部材は、前記ローラを適切な隙間を持って保持し、ベルト部材がローラの回転を妨げないことが好ましい。
【0013】
前記ローラの硬度は、チェーンの硬度よりも高い方が好ましい。
【0014】
前記ローラの表面には、潤滑油の保持性能を向上させる微小な凹凸を形成することが好ましい。
【0015】
また、前記ローラの表面は、窒化処理を施してもよい。
【0016】
この発明に係るチェーンガイドを、無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、少なくとも2個配置し、一個のチェーンガイドを、一端側が回転軸によって支持され、他端側が押圧装置によって揺動してチェーンに張力を付与するように構成し、他の一個のチェーンガイドを、両端が固定されてチェーンに押し付けられるように構成することにより、メカニカルロスの少ない優れたチェーンテンショナ装置にすることができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明のチェーンガイドは、チェーンと接触する部分が、無限循環するローラであるため、摺動抵抗が小さい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明に係るチェーンガイドの一実施形態を示す斜視図である。
【図2】図1のチェーンガイドをチェーン側から見た平面図である。
【図3】図1のチェーンガイドの正面図である。
【図4】図1のチェーンガイドの縦断面図である。
【図5】この発明に係るチェーンガイドを使用するチェーンテンショナ装置の一例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付し、説明の重複を避けるためにその説明は繰返さない。
【0020】
この発明の実施形態にかかるチェーンガイドは、例えば、エンジンの動弁駆動系のタイミングチェーンに張力を付与するために使用される。
【0021】
タイミングチェーン1は、図5に示すように、クランク軸に取付けられるクランクスプロケット2と、動弁機構の第1カムシャフトに取り付けられる第1カムスプロケット3及び第2カムシャフトに取り付けられる第2カムスプロケット4の間に無端状に巻き掛けられている。
【0022】
クランクスプロケット2と第1カムスプロケット3間、及びクランクスプロケット2と第2カムスプロケット4の間のタイミングチェーン1には、それぞれタイミングチェーン1が弛まないように第1チェーンガイド5aと第2チェーンガイド5bを配設している。
【0023】
第1チェーンガイド5aは、長手方向の一端側が回転軸6によってエンジンに回転自在に支持され、他端側を押圧装置7によって揺動するように構成され、タイミングチェーン1に張力を付与している。
【0024】
第2チェーンガイド5bは、長手方向の両端が取付け軸8によってエンジンに対して固定され、張力が付与されたタイミングチェーン1が弛まないように案内している。
【0025】
第1チェーンガイド5aと第2チェーンガイド5bは、第1チェーンガイド5aが押圧装置7によって揺動するのに対し、第2チェーンガイド5bが揺動しないでエンジンに対して固定される点で相違するのみで、タイミングチェーン1を案内する基本構造は同一であるので、以下、チェーンガイド5と総称して説明することにする。なお、チェーンガイド5は、チェーンレバーとも称される。
【0026】
チェーンガイド5は、タイミングチェーン1に沿うように湾曲形状に形成された一対の側板部材9を有し、一対の側板部材9間に、タイミングチェーン1に接触しながら案内する無限循環する複数のローラ10bとからなる。
【0027】
また、一対の側板部材9間には、底部材12が設けられ、底部材12とガイド部材11間に形成される空間部に、循環するローラ12bの内の、タイミングチェーン1に対面しない部分を循環させている。
【0028】
前記ローラ12bは、柔軟に屈曲できるベルト部材12aによって一定間隔に保持されている。
【0029】
前記ベルト部材12aは、前記ローラ12bを適切な隙間を持って保持し、ベルト部材12aがローラ12bの回転を妨げないようにしている。
【0030】
また、一対の側板部材9間の一端には、貫通孔14を有する円筒部13が設けられ、他端には、柱部材15を設けている。
【0031】
前記第1チェーンガイド5aのように、長手方向の一端側を回転軸によってエンジンに回転自在に支持し、他端側を押圧装置7によって揺動させて、タイミングチェーン1に張力を付与する場合には、側板部材9の貫通孔14に、回転軸を挿通する。
【0032】
第1チェーンガイド5aを押圧する押圧装置7は、バネやネジにより押圧するメカニカル方式のものでも、油圧により押圧する油圧式でもよい。
【0033】
前記ベルト部材12aを形成する材料としては、例えば、水素添加ニトリルゴム(HNBR)やフッ素ゴムを使用することができる。また、ゴム材料に、補強繊維を埋設しておくことが好ましい。
【0034】
前記側板部材9、底部材12、円筒部13及び柱部材15は、この実施形態では、例えば、ジアミノンブタンとアジピン酸の重縮合によるポリマーであるポリアミド(PA)46やポリアミド(PA)66を用いた樹脂成形により一体に成形される。また、機械的強度を増すために、ガラス繊維や炭素繊維をPA46、PA66に複合させたものを用いることもできる。
【0035】
前記側板部材9、底部材12、円筒部13及び柱部材15を樹脂で形成することにより、軽量化が図れる。また、これらの樹脂は、摩擦熱を放熱するために、高熱伝導性のものを用いることもできる。
【0036】
なお、側板部材9、底部材12、円筒部13及び柱部材15は、樹脂以外でも、例えば、アルミニウム、マグネシウムなどの軽金属を用いて鋳造やダイカストによって形成することもできる。
【0037】
タイミングチェーン1と接触するローラ10bは、高強度であり、ローラ10bの硬度は、タイミングチェーン1の硬度よりも高い方が摩耗を防止することができる。
【0038】
ローラ10bの材質としては、SUJ2等、熱処理により硬化処理が行えるものを使用している。
【0039】
ローラ10bを熱処理によって硬化させる場合、硬化深さは0.05μm以上あることが好ましい。
【0040】
ローラ10bの表面には、潤滑油の保持性能を向上させるために、微小な凹凸を形成してもよい。
【0041】
また、ローラ10bの表面は、窒化処理を施してもよい。
【0042】
また、この発明の各実施形態のチェーンガイド5は、エンジンのタイミングチェーンの他、様々な駆動チェーンに張力を付与することができ、しかもメカニカルロスを低減することができる。
【0043】
そして、この発明のチェーンガイド5を使用するチェーンテンショナ装置は、図5に示すように、一端の貫通孔14に回転軸6を挿通し、他端側を押圧装置7によって揺動する第1チェーンガイド5aと、両端が取付け軸8によってエンジンに対して固定した第2チェーンガイド5bとによって構成される。このチェーンテンショナ装置によれば、エンジンのタイミングチェーンのメカニカルロスの低減並びに軽量化が図られ、燃料消費率を向上させることができる。
【0044】
なお、タイミングチェーン1は、ローラーチェーンでも、サイレントチェーンのいずれでも使用することができる。
【0045】
また、以上の実施形態では、側板部材9、底部材12、円筒部13及び柱部材15を一体に形成した例を示したが、両者を分割して別体に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
この発明によるチェーンガイドは、エンジンなど駆動チェーンに張力を与える機構において有効に利用される。
【符号の説明】
【0047】
1 タイミングチェーン
2 クランクスプロケット
3 第1カムスプロケット
4 第2カムスプロケット
5 チェーンガイド
5a 第1チェーンガイド
5b 第2チェーンガイド
6 回転軸
7 押圧装置
8 取付け軸
9 側板部材
10a ベルト部材
10b ローラ
11 ガイド部材
12 底部材
13 円筒部
14 貫通孔
15 柱部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無端状に架け渡されたチェーンの走行方向に沿って設けられた対向する側板部材と、ここの対向する側板部材間に設けられた、チェーンに接触しながら案内する無限循環する複数のローラとからなるチェーンガイド。
【請求項2】
前記一対の側板部材間に底部材を設け、循環するローラの内の、チェーンに対面しない部分を循環させるガイド部材を、底部材との間に空間を空けて設けている請求項1記載のチェーンガイド。
【請求項3】
前記複数のローラは、柔軟に屈曲できるベルト部材によって一定間隔に保持されている請求項1又は2に記載のチェーンガイド。
【請求項4】
前記複数のローラは、ベルト部材に回転可能に保持されている請求項1〜3のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項5】
前記ローラは、鋼製である1〜4のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項6】
前記ローラの硬度が、チェーンの硬度よりも高い請求項1〜5のいずれかに記載のチェーンガイド。
【請求項7】
前記ローラの表面に潤滑油の保持性能を向上させる微小な凹凸を形成したことを特徴とする請求項5又は6に記載のチェーンガイド。
【請求項8】
無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、請求項1〜7のいずれかに記載のチェーンガイドが配置されたチェーンテンショナ装置。
【請求項9】
無端状に架け渡されたチェーンの途中部分に、請求項1〜7のいずれかに記載のチェーンガイドが少なくとも2個配置され、一個のチェーンガイドが、一端側が回転軸によって支持され、他端側が押圧装置によって揺動してチェーンに張力を付与するように構成され、他の一個のチェーンガイドが、両端が固定されてチェーンに押し付けられるように構成されているチェーンテンショナ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−172809(P2012−172809A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37509(P2011−37509)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】