説明

チタン部材の曲げ加工方法および曲げ加工具

【課題】チタン部材について、ドライ環境下での曲げ加工が行えるようにしたチタン部材の曲げ加工方法および曲げ加工具を提供する。
【解決手段】曲げ加工具はチタン部材と接する部分の少なくとも一部分に形成された最大表面粗さが3μm以上25μm以下の微細な凹凸を備えた微細凹凸部と、微細凹凸部に含まれる複数の頂上部の一部だけが露出するように微細凹凸部に形成されたフッ素樹脂膜とを有し、フッ素樹脂膜が微細凹凸部の表面に密着している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタンまたはチタン合金を用いて管状に形成されているチタン部材の曲げ加工方法およびその曲げ加工に用いる曲げ加工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チタンやチタン合金からなる部材の成形加工に関して、様々な技術が知られている。例えば、特許文献1には、チタンパイプ材の内側にその内径にほぼ等しい太さの金属丸棒の充填材を充填して熱間曲げ加工を行い、充填材をケミカルミーリング加工によって除去する方法が開示されている。また、特許文献2には、棒状チタン部材の一端側を減面成形金型を用いて減面成形する超音波処置装置用超音波プローブの製造方法が開示されている。さらに、特許文献3には、チタンとは異なる金属外管の内面に薄肉チタン管を圧着したチタン内張2重管とチタン管板との組み付け方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2602320号公報
【特許文献2】特開2010−51669号公報
【特許文献3】特公平2−20880号公報
【特許文献4】特開第2677973号公報
【特許文献5】特開2004−74646号公報
【特許文献6】特開平9−193164号公報
【特許文献7】特開平5−245848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チタンやチタン合金は、軽くて強く、しかも腐食を起こさないので、前述したように、航空機や自動車、船舶、化学機械、医療用機械など様々な分野で利用されている。
【0005】
しかしながら、チタン金属は他の金属との親和力が強く、成形加工の際に工具や金型との焼き付きが起こりやすい。そのため、チタンやチタン合金からなる部材をプレス加工によって成形するときは、潤滑油を用いることが必須とされ、成形加工後に部材を洗浄する洗浄工程も必須とされていた。特に、チタン、チタン合金を用いて管、パイプ状に形成されている部材(以下「チタン部材」という)についてこれを所定の形状に折り曲げる曲げ加工を行うときは次のような課題があった。
【0006】
曲げ加工を行う場合、曲げ加工に用いた潤滑油がチタン部材の中空部にも入り込んでいる。そのため、潤滑油が中空部から確実に除去できているかどうかを洗浄工程後に確認する必要があるが、その確認は極めて困難であった。それは、中空部の大きさが小さかったり、チタン部材を折り曲げたことによって中空部が屈曲しているがために内視鏡等の装置で検査すること自体が困難なためである。また、このような検査を行おうとすると、その分、チタン部材の製造に手間を要することになるため、製造工程を簡略化することも困難になる。
【0007】
したがって、従来、チタン部材の曲げ加工を行ったときは、中空部内側の潤滑油が洗浄工程を行ったことによって除去されているとみなさざるを得ないという課題があった。
【0008】
一方、潤滑油を用いることなく、成型加工品を金型から離れやすくすることに関して、例えば、特許文献4に開示されているように、金型の表面にフッ素樹脂膜を形成するという考えがある。ところが、フッ素樹脂膜は柔軟であり、金型や工具を繰り返し使用することによって剥離や損傷が起こりやすいことから、従来、フッ素樹脂膜の耐久性を高める技術が知られていた(例えば、特許文献5〜7)。
【0009】
しかし、これらの従来技術は、樹脂製品、ゴム製品等の成形加工に用いる金型を対象にした技術であり、チタン部材の曲げ加工に用いる曲げ加工具や金型には適用することが困難であった。樹脂製品、ゴム製品等の成形加工に用いる金型は金型によって形成される空間(隙間)に樹脂等を流し込み所望の形を形成するためのいわば型枠として用いられている。
【0010】
ここで、例えば図26に示すような金型100,101があったとすると、これらの金型100,101では、樹脂等に接触する内側部分の表面にフッ素樹脂膜102が形成される。そうすると、そのフッ素樹脂膜102は、樹脂103から金型100,101の内側表面と交差する方向の圧力f1を受けることになる。
【0011】
一方、チタン部材の曲げ加工に用いる金型として、図27に示すような金型200,201,202があったとする。これらの金型200,201,202を用いてチタン部材203の曲げ加工を行うときは、金型202が矢印Pの方向に動くが、その際、金型200,201,202はチタン部材203の表面に強力に押しつけられたり、こすりつけられたりしている。そのため、金型200,201,202はチタン部材203から、金型の表面と交差する方向の圧力f2だけでなく、表面に沿った方向の圧力f3も受けている。
【0012】
表面と交差する方向の圧力f2はフッ素樹脂膜に対して、金型の表面に押しつけるように作用するが、表面に沿った方向の圧力f3はフッ素樹脂膜に対して、金型の表面に沿って削り取るようにして作用する。したがって、従来技術のようにして強度を高めたフッ素樹脂膜を金型200,201,202の表面に形成したとしても、圧力f3のような表面に沿った方向の強力な圧力がかかることによって、フッ素樹脂膜が金型の表面に沿った方向に削り取られやすくフッ素樹脂膜が金型の表面からすぐに剥がれてしまう。そのため、フッ素樹脂膜を金型とチタン部材との潤滑性や離型性を良くするために皮膜(潤滑皮膜)にしている金型では、曲げ加工を繰り返し行えないという課題があった。
【0013】
そこで、本発明は上記課題を解決するためになされたもので、チタン部材の曲げ加工方法および曲げ加工具において、チタン部材について、潤滑油を用いることなくドライ環境下での曲げ加工が行えるとともに、フッ素樹脂膜を潤滑皮膜としていても、曲げ加工が繰り返し行えるように、曲げ加工具の耐久性を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、チタンまたはチタン合金を用いて管状に形成されているチタン部材の曲げ加工方法であって、チタン部材の中空部に応じた太さを有する棒状部材の表面におけるチタン部材と接触する接触部の少なくとも一部分に、最大表面粗さが3μm以上25μm以下の微細な凹凸を備えた微細凹凸部を形成し、かつ、最大表面粗さを越える厚さのフッ素樹脂膜を微細凹凸部に形成して曲げ加工具を製造する曲げ加工具製造工程と、フッ素樹脂膜が中空部に直に接するように、曲げ加工具をチタン部材における中空部に納め、かつ曲げ加工具に超音波振動を付加しながらチタン部材を曲げる曲げ加工工程とを有するチタン部材の曲げ加工方法を特徴とする。
【0015】
この曲げ加工方法では、曲げ加工具の表面に微細凹凸部が形成されているので、曲げ加工具の表面積が拡大され、その微細凹凸部の表面にフッ素樹脂膜が形成されているので、フッ素樹脂膜が微細凹凸部の凹凸にひっかかり、表面に沿ってずれないように微細凹凸部がフッ素樹脂膜をつなぎ止めている。また、フッ素樹脂膜が曲げ加工具の広範囲にわたって直に接し、摩擦係数を低く抑える。フッ素樹脂膜が微細凹凸部の凹部に入り込んでいてそのフッ素樹脂膜が曲げ加工の際、潤滑剤となる。また、超音波振動を付加しながら曲げ加工を行うことで、超音波振動を付加しない場合よりも曲げ変形抵抗が減衰し、摩擦係数が減衰する。
【0016】
また、上記曲げ加工方法の場合、棒状部材は、先端部に近づくにしたがい漸次縮径する縮径部と、その縮径部に接続され、且つ太さの一様な定太部とを有し、曲げ加工具製造工程は、棒状部材のうちの縮径部と定太部との境界部分および先端部を接触部として微細凹凸部およびフッ素樹脂膜を形成することが好ましい。
【0017】
こうすると、曲げ加工具のうち、曲げ加工の際、チタン部材の中空部が表面に対して強力に直接押し当てられる部分に微細凹凸部およびフッ素樹脂膜が形成される。
【0018】
さらに、曲げ加工具製造工程は、棒状部材として、超硬合金鋼以外の鋼からなる鋼製棒状部材を用い、かつ最大表面粗さが10μm以上25μm以下になるようにして微細凹凸部を形成することが好ましい。
【0019】
最大表面粗さを上記の範囲にすることで摩擦係数を低い値に抑えつつ微細凹凸部によるフッ素樹脂膜のつなぎ止め効果が得られる。
【0020】
さらにまた、上記曲げ加工方法では、曲げ加工工程を繰り返し行うときに、微細凹凸部にフッ素樹脂を再塗布することが好ましい。
【0021】
このようにすると、曲げ加工で失われたフッ素樹脂膜が塗布したフッ素樹脂によって補給される。
【0022】
上記曲げ加工方法の場合、曲げ加工工程は、温度範囲が10℃からフッ素樹脂の連続使用最高温度の範囲に設定された常温から温間域でチタン部材を曲げることが好ましい。
この温度範囲では、特にチタン部材の展延性が高まり、成形が容易になる。
【0023】
そして、本発明は、チタンまたはチタン合金を用いて管状に形成されているチタン部材の曲げ加工に用いる曲げ加工具であって、チタン部材と接触する接触部の少なくとも一部分に形成された最大表面粗さが3μm以上25μm以下の微細な凹凸を備えた微細凹凸部と、微細凹凸部に形成されたフッ素樹脂膜とを有し、フッ素樹脂膜が微細凹凸部の表面に密着していることを特徴とするチタン部材の曲げ加工具を提供する。
【0024】
上記曲げ加工具は、チタン部材の中空部に応じた太さを有する棒状部材を用いて形成され、棒状部材は、中空部に応じた太さを有する太さの一様な定太部と、その定太部に接続され、且つ先端部に近づくにしたがい漸次縮径する縮径部とを有し、少なくとも棒状部材における縮径部と定太部との境界部分および先端部が接触部に設定され、その接触部全体に微細凹凸部とフッ素樹脂膜とが形成されていることが好ましい。
【0025】
さらに、棒状部材は、超硬合金鋼以外の鋼からなり、微細凹凸部は、最大表面粗さが10μm以上25μm以下に形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
以上詳述したように、本発明によれば、チタン部材の曲げ加工方法および曲げ加工具において、チタン部材について、潤滑油を用いることなくドライ環境下での曲げ加工が行えるとともに、フッ素樹脂膜を潤滑皮膜としていても、曲げ加工が繰り返し行えるように、曲げ加工具の耐久性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態に係る曲げ加工装置の概略構成を示す図である。
【図2】曲げ加工プラグを示す図で、(A)は全体の正面図、(B)は要部を拡大して示す正面図である。
【図3】曲げ加工プラグの微細凹凸部およびフッ素樹脂膜を含む表面を模式的に示す断面図で、図4の3−3線断面図である。
【図4】曲げ加工プラグの表面を模式的に示す平面図である。
【図5】曲げ加工プラグの微細凹凸部およびフッ素樹脂膜と、チタン管との接している部分を模式的に示す断面図である。
【図6】曲げ加工の際、フッ素樹脂膜が変形する様子を模式的に示す断面図である。
【図7】曲げ加工後の微細凹凸部およびフッ素樹脂膜を模式的に示す断面図である。
【図8】別のフッ素樹脂膜と微細凹凸部を模式的に示す断面図である。
【図9】曲げ加工具製造工程を模式的に示す側面図で、(A)は製造前の曲げ加工具、(B)は表面に微細凹凸部を形成した後の曲げ加工具、(C)は微細凹凸部の表面にフッ素樹脂膜を形成した後の曲げ加工具を示している。
【図10】曲げ加工における曲げ加工実行前を模式的に示す断面図である。
【図11】同じく、実行後を模式的に示す断面図である。
【図12】曲げ加工の過程におけるチタン管と曲げ加工具とを示す断面図で、(A)は曲げ加工開始直後、(B)は曲げ加工終了直前を示している。
【図13】変形例にかかる曲げ加工プラグ全体の正面図である。
【図14】製造した曲げ加工プラグ全体を示す写真である。
【図15】同じく、曲げ加工プラグの要部を示す写真である。
【図16】曲げ加工で成形されたチタン管および曲げられた部分の内部の外観の写真である。
【図17】同じく、曲げられた部分の内部を大きく写した写真である。
【図18】曲げ加工によって破断したチタン管を写した写真である。
【図19】実施例におけるチタン管の曲げ形状および寸法測定箇所を示す図である。
【図20】超音波振動を付加した場合の引張荷重の大きさを示すグラフである。
【図21】超音波振動を付加しない場合の引張荷重の大きさを示すグラフである。
【図22】超音波振動を付加した場合における寸法L1、L2の設定値からのばらつきを示すグラフである。
【図23】同じく、超音波振動を付加しない場合を示すグラフである。
【図24】図23、24に示した結果の具体的な数値を示す表である。
【図25】フッ素樹脂の再塗布を行った場合の摩擦係数の変化を示し、(A)は再塗布前、(B)は再塗布後を示す図である。
【図26】従来の樹脂成型用の金型と樹脂の一例を示す断面図である。
【図27】従来のプレス加工用の金型と金属部材の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、同一要素には同一符号を用い、重複する説明は省略する。
【0029】
(曲げ加工装置の構造)
まず、図1を参照して曲げ加工装置20について説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る曲げ加工装置の概略構成を示す図である。曲げ加工装置20は本発明の実施の形態に係る曲げ加工方法を実施するための装置であって、チタン部材のドライ加工が行える装置である。なお、本実施の形態において、ドライ加工とは、潤滑剤およびテフロンシート(テフロンは登録商標)等のシート状部材を一切用いないドライ環境下での曲げ加工を意味している。
【0030】
曲げ加工装置20は図1に示すように支持台1上に設置されている。支持台1の上面にガイド2が固定され、そのガイド2に曲げ加工装置20が設置されている。曲げ加工装置20はNCパイプベンダーであって、油圧シリンダー3と、超音波振動部6と、ホーン7と、チャック8と、ダイ9、ダイ10と、曲げ加工プラグ11と、マンドレル12とを有し、これらが一体となって支持部材4a、4bに支持されている。また、曲げ加工装置20は超音波発振器13と、油圧ミストポンプ14を有している。
【0031】
油圧シリンダー3はマンドレル12を支持し、マンドレル12を駆動する装置である。その油圧シリンダー3と、マンドレル12との間に超音波振動部6とホーン7とが設置されている。超音波振動部6は超音波振動の発生源であって、超音波振動子5を有している。超音波振動子5は、超音波発振器13から入力される高周波信号によって超音波振動を発生する。その超音波振動子5にホーン7が接続されている。ホーン7は超音波振動子5が発生した超音波振動の振幅を拡大する。そのホーン7にマンドレル12が接続されているので、ホーン7によって拡大された超音波振動がマンドレル12に伝達される。
【0032】
マンドレル12は一端部がホーン7に接続され、他端部が曲げ加工プラグ11に接続されている。また、マンドレル12には油圧ミストポンプ14が接続されている。チャック8は、マンドレル12と曲げ加工プラグ11との接続箇所を支持して両者の接続状態を堅持する一方、その支持状態を開放し、両者を分離するための構造を有している。
【0033】
曲げ加工プラグ11は一端部がマンドレル12に接続され、その反対側からチタン管15の後述する中空部15aが挿入される。チタン管15は曲げ加工の対象となる部材である。チタン管15は、純チタンを用いて細長い円筒状に形成されている部材であって、中心軸に沿った中空部15aを有している。チタン管15はダイ9、10によって把持されている。
【0034】
曲げ加工プラグ11は、本発明の実施の形態に係る曲げ加工具であって、断面円形の図2(A)に示すような細長い棒状の構造を有している。曲げ加工プラグ11は、細長い棒状の本体部11aを有している。本体部11aの一端部にマンドレル12の先端部を螺子込み可能な螺子穴11bが形成されている。螺子穴11bにマンドレル12の先端部を螺子込むことで、曲げ加工プラグ11をマンドレル12と一体にすることができる。本体部11aは、チタン管15の中空部15aに応じた一様な太さを有する定太部11dと、先端部11fに近づくにしたがい漸次縮径する縮径部11eとを有している。
【0035】
そして、曲げ加工プラグ11は、一部分(全体の約40%程度)がコーティング部11cとなっている。図2(A)、(B)において、ドットを付した箇所がコーティング部11cに設定されている。コーティング部11cはチタン管15の中空部15aに接触する接触部の少なくとも一部分に設定されている。本実施の形態では、図2(B)に詳しく示すように、先端部11fおよび縮径部11eと、縮径部11eと定太部11dとの境界部分11gを含む定太部11dの一部分とが接触部に設定されている。曲げ加工プラグ11は、曲げ加工装置20によってチタン管15の曲げ加工を行う際、チタン管15に接するが、そのチタン管15に接する部分の中で曲げ加工中、チタン管15から特に強力な圧力を受け得る部分がある。コーティング部11cにはそのような部分を含む領域に設定されている。
【0036】
コーティング部11cには微細凹凸部50aと、フッ素樹脂膜55とが形成されている。コーティング部11cでは、本体部11aの表面に微細凹凸部50aが形成され、その表面にフッ素樹脂膜55が形成されている。曲げ加工装置20では、潤滑剤およびテフロンシート等のシート状部材を一切用いずにドライ加工を行うので、曲げ加工の際、曲げ加工プラグ11がチタン管15と直に接触する。
【0037】
微細凹凸部50aは肉眼ではその形状や大きさが明確に認識できないほど微細で、すなわちとても細かく、かつ不規則で複雑に入り組んだ凹凸を有している。図3に示すように、微細凹凸部50aの凹凸とは、大きさ、間隔がばらばらで規則性のない表面のでこぼこを意味し、後述する頂上部、底部および凹部が多数含まれている。ここで、図3は本体部11aの微細凹凸部50aおよびフッ素樹脂膜55を含む表面を模式的に示す断面図で図4の3−3線断面図、図4は本体部11a(コーティング部11c)の表面を模式的に示す平面図である。
【0038】
微細凹凸部50aは複数の頂上部P1、P3、P5、P7、P9、P11を含む多数の頂上部と、複数の底部P2、P4、P6、P8、P10を含む多数の底部とを有している。この微細凹凸部50aは、本体部11aの表面について、ブラスト処理等の表面処理を施して最大表面粗さ(本実施の形態では、最大高さ粗さRzともいい、詳しくは後述する)が3μm以上25μm以下になるようにして形成されている。なお、微細凹凸部50aにおいて、頂上部とは、微細凹凸部50aの高さの基準となる基準ラインLよりも外側に突出している部分の先端およびその周囲、底部とは、基準ラインLよりも内側に凹んでいる部分の先端およびその周囲を意味し、凹部とは、頂上部以外の部分を意味している。
【0039】
最大表面粗さとは、例えば図3に示した微細凹凸部50aでは、複数の頂上部の中で最も外側に突出している頂上部(図3では、頂上部P5)と、複数の底部の中で最も凹んでいる底部(図3では、底部P4)との高さの差h1を用いて評価される表面粗さである。すなわち、最大表面粗さ(最大高さ粗さRz)が3.0μmであるとは、h1が3.0μmであることを意味している。表面粗さとして、複数の底部または頂上部P1〜P11の高さの差の平均をとって評価する手法もあるが、本実施の形態では、最大高さ粗さRzを採用している。
【0040】
曲げ加工プラグ11は、鋼等の金属を用いて形成されているが、凹部がある程度の大きさになるようにするには、最大表面粗さをある程度の大きさにする必要がある。曲げ加工プラグ11における本体部11aの表面に微細凹凸部50aを形成することによって、図3に示すように、本体部11aの表面に大きさや形状が不規則な凹部が多数現れ、その凹部すべてを塞ぐようにしてフッ素樹脂膜55の一部が凹部の中に入り込んでいる。
【0041】
凹部に入り込んでいるフッ素樹脂膜55の体積をある程度の大きさにするとともに、微細凹凸部50aの凹凸を複雑に入り組んだ構造にするには、少なくとも最大表面粗さを3μm以上にすることが好ましい。一方、最大表面粗さを大きくすれば凹部に入り込むフッ素樹脂膜55の体積も増加するが、微細凹凸部50aは曲げ加工中にチタン管15から強力な圧力を受け得るので、最大表面粗さが25μmを越えるまでに大きくなると基準ラインLから突出している部分が曲げ加工中に折れたり砕けたりしやすく好ましくない。また、曲げ加工プラグ11の摩擦係数が高くなりすぎるおそれもある。
【0042】
したがって、微細凹凸部50aの最大表面粗さは3μm以上25μm以下にすることが好ましい。例えば、曲げ加工プラグ11を超硬合金鋼以外の鋼を用いて製造するときは、最大表面粗さをやや大きめの10μm以上25μm以下とすることが好ましく、特に最大表面粗さを14.8μm〜15μm程度にすることがいっそう好ましい。また、超硬合金鋼は超硬合金鋼以外の鋼よりも硬くて丈夫なので、曲げ加工プラグ11を超硬合金鋼を用いて製造するときは、最大表面粗さをやや小さめの3μm以上10μm以下とすることが好ましい。
【0043】
次に、フッ素樹脂膜55について説明する。フッ素樹脂膜55は微細凹凸部50aの表面に形成されている。フッ素樹脂膜55は微細凹凸部50aに含まれる多数の頂上部のうちの一部だけがフッ素樹脂膜55によって覆われることなく露出するような厚さを有している。微細凹凸部50aの場合、フッ素樹脂膜55は図4に示すように複数の頂上部P1、P3、P5、P7、P9、P11のうち、最も突出している頂上部P5だけが露出し、他の頂上部はすべて覆われるような厚さを有している。そのため、フッ素樹脂膜55は、微細凹凸部50aのそれぞれの最大表面粗さよりやや小さい厚さを有している。
【0044】
フッ素樹脂膜55は、微細凹凸部50aの表面に密着するとともに、すべての凹部を塞ぐようにして凹部に入り込んで形成されている。
【0045】
フッ素樹脂膜55は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)等のフッ素樹脂をコーティングすることによって形成することができる。本実施の形態では、フッ素樹脂の直接コーティングとフッ素樹脂が剥離しやすいこととを考慮して、プライマーを混合した混合フッ素樹脂を微細凹凸部50aの表面にコーティングすることによって、フッ素樹脂膜55を形成している(詳しくは後述する)。
【0046】
(曲げ加工装置の動作内容)
続いて、以上の構成を有する曲げ加工装置20の動作内容を図1とともに図5〜図8、図10〜図11を参照して説明する。図5はコーティング部11cの微細凹凸部50aおよびフッ素樹脂膜55と、チタン管15との接している部分を模式的に示す断面図、図6は曲げ加工の際、フッ素樹脂膜55が変形する様子を模式的に示す断面図である。また、図7は曲げ加工後の微細凹凸部50aおよびフッ素樹脂膜55を模式的に示す断面図、図8は別のフッ素樹脂膜と微細凹凸部50aを模式的に示す断面図である。図10は、曲げ加工装置20を用いた曲げ加工における曲げ加工実行前を模式的に示す断面図、図11は同じく実行後を模式的に示す断面図である。
【0047】
曲げ加工装置20を用いて曲げ加工を行うときは、後述する曲げ加工具製造工程を実行することによって前述の曲げ加工プラグ11を製造したうえで、次のようにして曲げ加工工程を実行する。その曲げ加工工程では、まず、図10に示すように、曲げ加工プラグ11をコーティング部11c側からチタン管15の中空部15aに納めフッ素樹脂膜55が中空部15aに直に接するようにする。その後、曲げ加工プラグ11およびマンドレル12ともに、チャック8によってチタン管15を把持する。
【0048】
そして、図1に示したように、前述した超音波発振器13から超音波振動子5に高周波信号を入力する。すると、超音波振動子5が超音波振動を発生し、その超音波振動の振幅がホーン7によって拡大されマンドレル12に伝達される。マンドレル12に曲げ加工プラグ11が接続されているので、振幅の拡大された超音波振動が曲げ加工プラグ11に加えられる。
【0049】
超音波振動は、曲げ加工プラグ11の中心軸CLに沿っていて、図10に示す矢印のような縦波の振動fである。このような超音波振動fを曲げ加工プラグ11に付加しながらダイ9,10を作動させてチタン管15を曲げる。
【0050】
そして、曲げ加工を行う場合、図11に示すように、ダイ9,10をほぼ90度回動させる。すると、ダイ9,10の回動に伴いチタン管15が徐々に変形する。その際、チタン管15が曲げ加工プラグ11に対して強力に押し付けられながら変形する。ダイ10が湾曲部10aを有するので、チタン管15が湾曲部10aの外形に沿って湾曲する。
【0051】
すると、曲げ加工プラグ11にはコーティング部11cが設定され、そこに形成されているフッ素樹脂膜55は、最も突出している頂上部P5だけが露出する厚さに形成されており、他の頂上部はすべてフッ素樹脂膜55によって被覆されている。そのため、フッ素樹脂膜55がチタン管15の中空部15aに広範囲にわたって直に接することになって、曲げ加工プラグ11とチタン管15との間の摩擦係数を低く抑え、滑りを良くする潤滑剤として作用する。
【0052】
しかも、フッ素樹脂膜55は、微細凹凸部50aの表面に密着している。曲げ加工プラグ11は、表面に微細凹凸部50aが形成されていることによって表面積が拡大されている。また、形状や大きさが不規則で複雑に入り組んだ凹凸が形成され、形状や大きさが不規則な多数の凹部にフッ素樹脂膜55が入り込んでいることによって、フッ素樹脂膜55が微細凹凸部50aの凹凸にしっかりとひっかかっている。そのため、表面に沿ってずれないように微細凹凸部50aがフッ素樹脂膜55をしっかりとつなぎ止める作用を発揮する。
【0053】
一方、複数の頂上部のうち、頂上部P5だけはフッ素樹脂膜55で覆われることなく露出しているので、フッ素樹脂膜55の厚さ方向全体が頂上部P5を含むいずれかの頂上部によって受け止められるようになっている。
【0054】
曲げ加工の際、フッ素樹脂膜55に対し、曲げ加工プラグ11の表面に沿った方向の圧力(図5の圧力F2)がチタン管15から作用する。その圧力F2は、フッ素樹脂膜55を曲げ加工プラグ11の表面に沿った方向に削り取るように作用するが、凹部および頂上部が圧力F2の方向と交差する方向に形成されているので、凹部および頂上部が圧力F2によるフッ素樹脂膜55の動きを邪魔し、フッ素樹脂膜55の剥離を阻止しようとする。
【0055】
そのうえ、微細凹凸部50aの凹凸は大きさや形状が不規則で複雑に入り組んだ構造になっていて、図3に示したようにひとつひとつの凹部の表面にも細かな凹凸が形成されている。そのため、フッ素樹脂膜55が微細凹凸部50aに密着する度合いは規則的な凹凸が形成されている場合よりも高くなっている。
【0056】
したがって、曲げ加工の際、フッ素樹脂膜55が曲げ加工プラグ11の表面に留まりやすく、その結果、フッ素樹脂膜55がチタン管15との間に発生する摩擦係数を抑える潤滑剤としての機能を効果的に発揮する。よって、曲げ加工プラグ11は、フッ素樹脂膜55が軟質な潤滑皮膜となっていても、曲げ加工が繰り返し行えるように耐久性が高いものとなっている。
【0057】
ここで、図8に示すように、頂上部P5を含むすべての頂上部が覆われるほどの厚さ(すなわち、最大表面粗さよりも大きい厚さ)を備えたフッ素樹脂膜105が曲げ加工プラグに形成されていた場合を考える。この曲げ加工プラグの場合、フッ素樹脂膜105のうち、一部が凹部に入り込まずにその外側に出た表層部106(図8のドットを付した部分)となってしまう。表層部106は表面に沿った方向に頂上部が一切存在していないため、頂上部によるつなぎ止めを何ら受けることができない。そのため、曲げ加工の際に表面に沿った方向の圧力を受けると簡単に剥がれてしまう。
【0058】
曲げ加工プラグ11の表面に微細凹凸部50aを形成すれば、フッ素樹脂膜55に対するつなぎ止め効果は期待できるものの、形成するフッ素樹脂膜の厚さを、頂上部の一部だけが露出するような厚さにしないと、フッ素樹脂膜に潤滑剤としての機能を発揮しにくい無駄が生じやすく好ましくない。
【0059】
一方、曲げ加工の際、図5に示すように、微細凹凸部50aおよびフッ素樹脂膜55がチタン管15から、微細凹凸部50aの表面に交差する方向の圧力F1とともに、表面に沿った方向の圧力F2を受ける。フッ素樹脂膜55は柔軟なため、圧力F1、F2によって例えば図6に示すように変形するが、凹部に入り込んでいる部分のうち、上側の部分は下側の部分よりも相対的に凹部によって受け止められ難い。
【0060】
例えば図3に示したように、凹部50bに入り込んでいる部分のフッ素樹脂膜55は、上側の部分ほど頂上部P1、P3および底部P2との間隔が広がって微細凹凸部50aの表面への密着の度合いが低くなるし、チタン管15からは圧力F1、F2をより受けやすくなる。そのため、曲げ加工によって、フッ素樹脂膜55の一部が微細凹凸部50aの表面に沿った方向に剥離することもある。
【0061】
その結果、図7に示すように、フッ素樹脂膜55の厚さが少し薄くなり、頂上部P5のほか、頂上部P5の次に突出している頂上部P3、P7が露出することもある。しかしながら、それでも、隣接する2つの頂上部の間において、フッ素樹脂膜55が微細凹凸部50aの表面に密着しながら凹部に入り込んで残っている。この凹部の中に残留しているフッ素樹脂膜55が曲げ加工中に圧力F1によって変形して微細凹凸部50aの表面とチタン管15との間に入り、双方の摩擦係数を低下させて滑りを良くする潤滑剤として作用する。そのため、曲げ加工プラグ11を用いることによって、潤滑性が高いまま繰り返しチタン管15の曲げ加工を行うことができる。
【0062】
一方、曲げ加工プラグ11を用いて前述の曲げ加工を行う際、ダイ9,10が回動を始めてから間もないころ、図12(A)に示したように、曲げ加工プラグ11とチタン管15が接する部分におけるダイ9,10の回動方向外側に強接部P1が出現する。強接部P1は、曲げ加工の際、チタン管15が曲げ加工プラグ11の表面に対して強力にかつ直接押し当てられる部分を意味している。曲げ加工プラグ11は縮径部11eを有している。そのため、ダイ9,10が回動を始めると、チタン管15は、例えば図12(A)に示したように、縮径部11eの表面に押し当てられながら矢印の示す方向に曲がっていくが、チタン管15の向きが境界部分11gを境目にして大きく変化するため、この場合の強接部P1は境界部分11g上に出現する。
【0063】
一方、図12(B)に示すように、チタン管15が直角の手前まで曲がると強接部P2が出現する。曲げ加工プラグ11は、先端部11fに向かって縮径部11eの太さが漸次狭まっており、直角の手前まで曲がると、その後は先端部11fが作用点となってチタン管15の向きが変化する。そのため、チタン管15が曲げ加工プラグ11に押し当てられる力は先端部11fに集中して作用するから、先端部11fおよびその付近に強接部P2が出現する。
【0064】
したがって、曲げ加工プラグ11を用いてチタン管15の曲げ加工を行う場合、曲げ加工プラグ11の表面の中では、特に強接部P1、P2における潤滑性を高めることが好ましく、少なくとも強接部P1、P2にだけは微細凹凸部50aおよびフッ素樹脂膜55を形成することが好ましい。また、曲げ加工プラグ11は断面円形状に形成されているため、境界部分11gに沿った周方向全体の帯状部分が強接部P1になり得る。そのうえ、微細凹凸部50aおよびフッ素樹脂膜55は、境界部分11gに沿った帯状部分と、先端部11fおよびその付近とに絞って形成するよりも、その両者を含むある程度の範囲に形成する方が形成しやすい。この点を考慮して、前述のコーティング部11cが設定されている。
【0065】
さらに、曲げ加工装置20では、マンドレル12に超音波振動を付加しながら曲げ加工を行っている。超音波振動を付加することによって、マンドレル12がごく微小な振幅で振動し、曲げ加工プラグ11もごく微小な振幅で振動する。チタン管15が曲げ加工プラグ11に接しているので、超音波振動を付加することによって、曲げ変形の際、超音波振動の振動周波数ffの極めて短い周期で曲げ変形抵抗(曲げ変形に逆らう力)がチタン管15に作用する。チタン管15における曲げ方向の固有振動数f15は超音波振動の振動周波数ffよりもはるかに小さいが、その場合において、超音波振動を付加しない場合よりも、曲げ変形抵抗は、時間平均をとると減衰し、曲げ加工プラグ11とチタン管15との間で作用する摩擦係数も減衰する。これらの効果によって、超音波振動を付加することによって、曲げ加工プラグ11の潤滑性がよりいっそう高められる。
【0066】
このように、曲げ加工装置20によれば、潤滑油を用いることのないドライ環境下でありながらフッ素樹脂膜55と、超音波振動の付加による潤滑性の良さとを十分に活用することによって、チタン管15の曲げ加工を行える。そのため、曲げ加工装置20は、曲げ加工具との溶着を起こしやすいチタン部材の曲げ加工に極めて良好なものとなっている。
【0067】
一方、曲げ加工装置20によってチタン管15の曲げ加工を繰り返し行うと、凹部に入り込んでいるフッ素樹脂膜55が次第に喪失していく。すると、次第に潤滑剤が減っていくことになるため、曲げ加工プラグ11と、チタン管15との間の摩擦係数が上昇していき、特に曲げ加工具との溶着を起こしやすいチタン部材の曲げ加工には好ましくない事態が起こりえる。
【0068】
このような曲げ加工を繰り返し行うときは、好ましくは摩擦係数がある決められた規定値を越えたときは、液状のフッ素樹脂をスプレーで噴霧するなどして曲げ加工プラグ11の少なくとも微細凹凸部50aの表面にフッ素樹脂を塗布することが好ましい。こうすると、繰り返しの曲げ加工で失われたフッ素樹脂膜55が噴霧したフッ素樹脂によって微細凹凸部50aに補給されるのでフッ素樹脂膜55による潤滑性を蘇らせることができる。こうすることで、曲げ加工装置20では、チタン管15の曲げ加工がさらに繰り返し行えるようになる。なお、この場合における摩擦係数の規定値は、例えば0.2程度とすることができる。
【0069】
特に、曲げ加工装置20によって、チタン部材の曲げ加工をするときは、温度範囲が10℃からフッ素樹脂の連続使用最高温度(288℃)の範囲に設定された常温温間から温間域で曲げ加工を行うことが好ましい。この温度範囲では、特にチタン部材の展延性が高まり、成形が容易になるからである。
【0070】
(曲げ加工具製造工程)
次に、曲げ加工具製造工程について図9を参照して説明する。図9は曲げ加工具製造工程を模式的に示す側面図で、(A)は製造前の曲げ加工具、(B)は表面に微細凹凸部を形成した後の曲げ加工具、(C)は微細凹凸部の表面にフッ素樹脂膜を形成した後の曲げ加工具を示している。
【0071】
図9(A)に示すように、曲げ加工プラグ11を製造するときは、まず鋼等の金属を用いて、チタン管15の中空部15aに応じた太さの棒状部材を用いて曲げ加工プラグ111を形成する。曲げ加工プラグ111は、曲げ加工プラグ11と外形が同じであり、微細凹凸部50aおよびフッ素樹脂膜55を有していない点では相違している。次に、図9(B)に示すように、曲げ加工プラグ111の表面におけるチタン管15と接する部分の少なくとも一部分(前述したコーティング部11cに設定する部分)にブラスト処理を施して表面を粗し、微細凹凸部50aを形成する。このとき、曲げ加工プラグ111が超硬合金鋼以外の鋼からなるときは最大表面粗さが10μm以上25μm以下になるようにする。また、曲げ加工プラグ111が超硬合金鋼からなるときは最大表面粗さが3μm以上10μm以下になるようにしてもよい。
【0072】
続いて、下塗り塗装を行って乾燥・焼成を行う。その後、曲げ加工プラグ111に対して、ディスパージョン塗装、静電粉体塗装、流動浸漬塗装、スプレー塗装等を含むフッ素樹塗装を行ってから焼成・冷却を行う工程を繰り返してフッ素樹脂の重ね塗りを行う。こうして、図9(C)に示すように、微細凹凸部50aの表面に最大表面粗さよりも厚さの厚いフッ素樹脂膜25を形成する。この場合、プライマーとフッ素樹脂の混合塗料を塗布することができるが、プライマーを塗布した後、フッ素樹脂を塗布してもよい。
【0073】
それから、曲げ加工装置20により、フッ素樹脂膜25付きの曲げ加工プラグ111を曲げ加工プラグ11として用いることによって予め曲げ加工を行い、あるいはその他の手段でフッ素樹脂膜25を表面に沿って除去することによって前述したフッ素樹脂膜55を形成する。このとき、微細凹凸部50aに含まれる複数の頂上部のうち、最も高さの高い頂上部を含む一部の頂上部だけがフッ素樹脂膜55で覆われないように露出するようにする。ここまでの工程を実行することによって、フッ素樹脂膜55を備えた曲げ加工プラグ11を製造することができる。
【0074】
曲げ加工の進行に伴って曲げ加工プラグ11の表面は、はじめはほとんどの頂上部がフッ素樹脂膜55で覆われているものの、一部の頂上部だけはフッ素樹脂膜55で覆われることなく露出している。さらに曲げ加工を行うと、フッ素樹脂膜55がその表面に沿って一部剥離されることで、より多くの頂上部が露出することになる。
【実施例1】
【0075】
次に、曲げ加工装置20を用いた曲げ加工に関する実施例について説明する。この実施例では、曲げ加工プラグ11は、次のようにして製造した。熱間金型用合金工具工(SKD61)を熱処理(HRC60)し、その後、表面に対して15μmRzの粗さにショットブラスト処理を施し、さらに、フッ素樹脂膜の塗装を行って曲げ加工プラグ11を製造した。こうして製造した曲げ加工プラグ11の外観は、図14,15に示すとおりである。図14は、実施例に係る曲げ加工プラグ11全体の外観の写真であり、図15は、コーティング部11cを中心に示した曲げ加工プラグ11の外観の写真である。
【0076】
そして、実験は、チタン管15として、市販の純チタン管2種(TTP340C、内径12.7mm、t1.0mm)を用いた。曲げ加工装置20を用いて曲げ加工を行うときの条件は次のとおりである。
条件:超音波振動の振動数:20.0kHz、振幅:5μm
なお、曲げ加工装置20には、油圧ミストポンプ14が接続されているが、これは作動させることなく、潤滑油を用いないドライ環境下で曲げ加工を行った。
【0077】
実験の結果、複数本(150本)のチタン管15を用いてそのそれぞれについて回転引き曲げ加工を行ったところ、曲げ加工プラグ11(マンドレル12)に対して超音波振動を付加しながら曲げ加工を行うことによって、破断の無い成形加工を行うことができた。このとき成形されたチタン管15は図16、図17に示すとおりである。図16は、曲げ加工で成形されたチタン管15および曲げられた部分の内部の外観の写真であり、図17は、曲げられた部分の内部を大きく写した写真である。
【0078】
比較のため、コーティング部11cを設定していない曲げ加工プラグを曲げ加工プラグ11の代わりに用い、さらに、超音波振動を付加することなくチタン管15の曲げ加工を行ったところ、図18に示すように、折り曲げ部分が破断してしまった。以上の結果から、曲げ加工プラグ11を用いて超音波振動を付加しながらチタン管15の曲げ加工を行うことによって、無潤滑でありながら、チタン管15をきれいに成形できることが確認できた。
【実施例2】
【0079】
次に、曲げ加工プラグ11を用いた曲げ加工装置20による曲げ加工を評価するため、次のような実験を行った。本実験では、1本のチタン管15に対して曲げ加工を2回行い、図19に示す概ねL字形状のチタン管を成形した。図19のR1が1回目の曲げ、R2が2回目の曲げを示している。その際、曲げ加工プラグ11に加わる軸引張荷重を測定し、また、曲げ精度を評価するため、寸法L1、L2について、設定値からのばらつきと偏りとを調べた。超音波振動の振幅は5μmとし、振動数は20kHzとした。比較のため、超音波振動を付加しない場合(振幅は0μm)についても同様の実験を行った。
【0080】
ここで、図20は、超音波振動を付加した場合の引張荷重の大きさを示すグラフ、図21は、同じく、超音波振動を付加しない場合を示すグラフである。双方とも縦軸はkN、横軸はチタン管15の本数を示している。“プラグ引張荷重(1曲)”とは、始めの曲げ(第1曲げ)を行ったときの引張荷重を意味し、“プラグ引張荷重(2曲)”とは、2番目の曲げ(第2曲げ)を行ったときの引張荷重を意味している。
【0081】
図20に示すように、超音波振動を付加した場合の引張荷重は約0.58kN〜0.75kNであるのに対し、図21に示すように、超音波振動を付加しない場合の引張荷重が約1kN〜1.9kNになっている。したがって、超音波振動を付加したことによって、曲げ加工プラグ11に加わる軸引張荷重がほぼ半分(1/2)以下に軽減されていることが理解される。
【0082】
次に、図22は、超音波振動を付加した場合における寸法L1、L2の設定値からのばらつきを示すグラフ、図23は、同じく、超音波振動を付加しない場合を示すグラフである。双方とも縦軸はmm、横軸はチタン管15の本数を示している。“寸法1(横)”とは、図19に示す寸法L1の設定値からのずれの大きさを意味し、“寸法2(長縦)”とは、寸法L2の設定値からのずれの大きさを意味している。図24は、これらの結果の具体的な数値を示す表である。
【0083】
図22に示すように、超音波振動を付加した場合、寸法L1、L2はそれぞれ約−0.3〜0.3mm、約−0.6〜0.45mmになっているのに対し、超音波振動を付加しない場合、寸法L1、L2はそれぞれ約0.3〜1mm、約−0.4〜1.5mmになっている。また、図24に示すように、超音波振動を付加した場合の偏差(寸法の偏り)は寸法L1、L2それぞれについて、0.165、0.231であるのに対し、超音波振動を付加しない場合の偏差は0.232、0.555である。したがって、超音波振動を付加したことによって、寸法L1、L2の設定値からのずれの大きさが縮小し、寸法のばらつきが小さくなって、寸法精度が向上していることが理解される。
【実施例3】
【0084】
次に、液状のフッ素樹脂を塗布したことにより、微細凹凸部における耐久性が再生されることを確認するための実験を行った。実験では、曲げ加工によってフッ素樹脂膜55が剥離し、表面が露出した曲げ加工プラグ11を用いた場合の摩擦係数と、同じ曲げ加工プラグ11を曲げ加工装置20に装着したまま液状のフッ素樹脂をスプレーで塗布(スプレー塗装ともいう)したあとに測定した摩擦係数とを比較することで行った。前者の摩擦係数は図25(A),後者の摩擦係数は図25(B)に示すとおりである。
【0085】
図25(A)に示すように、フッ素樹脂膜55が剥離した曲げ加工プラグ11を用いると、摩擦係数が0.1程度から徐々に上昇していき、やがて0.2に到達する。しかしながら、スプレー塗装を行いフッ素樹脂を再び塗布したときは、摩擦係数がほぼ一貫して0.1程度に納まっていることが理解される。この結果から、フッ素樹脂を再塗布したことによって、微細凹凸部における耐久性が再生されることが確認できた。
【0086】
変形例
以上の説明では、ドライ環境下での曲げ加工を行うための曲げ加工プラグ11を例にとって説明したが、本発明は、図13に示す曲げ加工プラグ31についても適用することができる。曲げ加工プラグ31は、曲げ加工プラグ11と比較して、油流入管31aと、油抜き穴31bとを有する点で相違している。油流入管31aは螺子穴11bと油抜き穴31bとに接続され、軸方向にそって本体部11aの中心部をほぼ貫通するように形成されている。油抜き穴31bは油流入管31aと本体部11aの表面に接続されている。油抜き穴31bは、コーティング部11cに形成されている。
【0087】
このような曲げ加工プラグ31を曲げ加工プラグ11の代わりに用いることによって、曲げ加工プラグ11を用いた場合と同様に、チタン管15のドライ環境下での曲げ加工を行える。また、油流入管31aに潤滑油を流入すればその潤滑油を用いた曲げ加工も行える。この場合、潤滑油は補助的に使用し、後洗浄の簡易なものが好ましい。
【0088】
以上の説明では、チタン部材として、中心部を貫通する孔が形成されているチタン管15を例にとって説明したが、本発明は、中心部を貫通する孔の一端が閉鎖されている有底円筒の概ね管状に形成されたチタン部材についても適用がある。
【0089】
以上の説明は、本発明の実施の形態についての説明であって、この発明の装置及び方法を限定するものではなく、様々な変形例を容易に実施することができる。又、各実施形態における構成要素、機能、特徴あるいは方法ステップを適宜組み合わせて構成される装置又は方法も本発明に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明を適用することによって、フッ素樹脂膜を潤滑皮膜として、曲げ加工具の耐久性を高めるとともに、チタン部材について、ドライ環境下で曲げ加工が繰り返し行えるようになる。
【符号の説明】
【0091】
5…超音波振動子、6…超音波振動部、9,10…ダイ、11,13…曲げ加工プラグ、11a…本体部、11b…螺子穴、11c…コーティング部、11d…定太部、11e…縮径部、11f…先端部、15…チタン管、20…曲げ加工装置、50a…微細凹凸部、55…フッ素樹脂膜、P1、P3、P5、P7、P9、P11…頂上部、P2、P4、P6、P8、P10…底部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンまたはチタン合金を用いて管状に形成されているチタン部材の曲げ加工方法であって、
前記チタン部材の中空部に応じた太さを有する棒状部材の表面における前記チタン部材と接触する接触部の少なくとも一部分に、最大表面粗さが3μm以上25μm以下の微細な凹凸を備えた微細凹凸部を形成し、かつ、前記最大表面粗さを越える厚さのフッ素樹脂膜を前記微細凹凸部に形成して曲げ加工具を製造する曲げ加工具製造工程と、
前記フッ素樹脂膜が前記中空部に直に接するように、前記曲げ加工具を前記チタン部材における前記中空部に納め、かつ前記曲げ加工具に超音波振動を付加しながら前記チタン部材を曲げる曲げ加工工程とを有するチタン部材の曲げ加工方法。
【請求項2】
前記棒状部材は、先端部に近づくにしたがい漸次縮径する縮径部と、該縮径部に接続され、且つ太さの一様な定太部とを有し、
前記曲げ加工具製造工程は、前記棒状部材のうちの前記縮径部と前記定太部との境界部分および前記先端部を前記接触部として前記微細凹凸部および前記フッ素樹脂膜を形成することを特徴とする請求項1記載のチタン部材の曲げ加工方法。
【請求項3】
前記曲げ加工具製造工程は、前記棒状部材として、超硬合金鋼以外の鋼からなる鋼製棒状部材を用い、かつ最大表面粗さが10μm以上25μm以下になるようにして前記微細凹凸部を形成することを特徴とする請求項1または2記載のチタン部材の曲げ加工方法。
【請求項4】
前記曲げ加工工程を繰り返し行うときに、前記微細凹凸部にフッ素樹脂を再塗布することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のチタン部材の曲げ加工方法。
【請求項5】
前記曲げ加工工程は、温度範囲が10℃からフッ素樹脂の連続使用最高温度の範囲に設定された常温から温間域で前記チタン部材を曲げることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のチタン部材の曲げ加工方法。
【請求項6】
チタンまたはチタン合金を用いて管状に形成されているチタン部材の曲げ加工に用いる曲げ加工具であって、
前記チタン部材と接触する接触部の少なくとも一部分に形成された最大表面粗さが3μm以上25μm以下の微細な凹凸を備えた微細凹凸部と、
前記微細凹凸部に形成されたフッ素樹脂膜とを有し、
前記フッ素樹脂膜が前記微細凹凸部の表面に密着していることを特徴とするチタン部材の曲げ加工具。
【請求項7】
前記曲げ加工具は、前記チタン部材の中空部に応じた太さを有する棒状部材を用いて形成され、
前記棒状部材は、前記中空部に応じた太さを有する太さの一様な定太部と、該定太部に接続され、且つ先端部に近づくにしたがい漸次縮径する縮径部とを有し、
少なくとも前記棒状部材における前記縮径部と前記定太部との境界部分および前記先端部が前記接触部に設定され、該接触部全体に前記微細凹凸部と前記フッ素樹脂膜とが形成されていることを特徴とする請求項6記載のチタン部材の曲げ加工具。
【請求項8】
前記棒状部材は、超硬合金鋼以外の鋼からなり、
前記微細凹凸部は、最大表面粗さが10μm以上25μm以下に形成されていることを特徴とする請求項6または7記載のチタン部材の曲げ加工具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate


【公開番号】特開2012−143772(P2012−143772A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−2763(P2011−2763)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月8日 http://www.iri−tokyo.jp/joho/press/index.html
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第3項適用申請有り 産業交流展2010 産業交流展2010実行委員会平成22年11月10日,11日,12日
【出願人】(506209422)地方独立行政法人 東京都立産業技術研究センター (134)
【出願人】(592243003)日建塗装工業株式会社 (6)
【出願人】(594188733)株式会社湯原製作所 (3)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【Fターム(参考)】