説明

チタン酸バリウムの製造方法、誘電体磁器組成物およびセラミック電子部品

【課題】六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを得ることができるチタン酸バリウムの製造方法、誘電体磁器組成物およびセラミック電子部品を提供する。
【解決手段】本発明のチタン酸バリウムの製造方法は、水蒸気と空気とを含有し、水蒸気を空気1m3あたり200g以上5000g以下含み、71℃以上180℃以下に加熱されている加熱空気を含む雰囲気中において、BaとTiとを含む原料を、700℃以上1000℃以下で焼成して、チタン酸バリウムを製造する。BaとTiとを含む原料を、加熱空気を含む雰囲気中において高い湿度としながら、上記温度範囲内で焼成することで、低い熱処理温度でチタン酸バリウム中に六方晶チタン酸バリウムを生成することができ、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六方晶構造を有するチタン酸バリウム(六方晶チタン酸バリウム(六方晶BaTiO3)を含むチタン酸バリウムの製造方法、誘電体磁器組成物およびセラミック電子部品に関し、積層セラミックコンデンサなど電子部品用の誘電体材料として有用なチタン酸バリウムに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気機器および電子機器の小型化かつ高性能化が急速に進み、このような機器に使用されるセラミックコンデンサなど電子部品についても、更に小型であって、容量が大きく、性能が高いものであることの要求が更に高くなっている。
【0003】
現在、積層セラミックコンデンサの誘電体材料として、ペロブスカイト型の結晶構造(正方晶、立方晶)を有するチタン酸バリウム(ペロブスカイト型チタン酸バリウム)が広く用いられている。従来、より微細なペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を用いることで、誘電体層を薄層にしつつ多層にすることにより、セラミックコンデンサを小型にすると共に、容量の増大を図ってきた。
【0004】
しかし、より微細なペロブスカイト型チタン酸バリウムを用いるにつれ、誘電体材料そのものの誘電率が低下する、いわゆるサイズ効果と呼ばれる現象が顕著になってきており、今後の電子部品開発の大きな課題となっている。すなわち、ペロブスカイト型チタン酸バリウムを微細化した場合、サイズ効果により誘電率が低下してしまうため、微細化したペロブスカイト型チタン酸バリウム粉末を誘電体材料として用い、誘電体層の薄層化および多層化を図っても容量拡大が十分行えない虞がある。そのため、サイズ効果がない、もしくはサイズ効果の影響の小さい誘電体材料の開発が求められている。
【0005】
このような要求を満たすための方策の1つとして、高い比誘電率を有する六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを誘電体材料として用いることが検討されている。積層セラミックコンデンサの使用温度域における六方晶チタン酸バリウムの誘電率は、ペロブスカイト型チタン酸バリウムの誘電率よりも低いため、誘電体材料として、これまでほとんど使用されていなかった。しかし、六方晶チタン酸バリウムに添加物または酸素欠損を導入した場合、室温で数万から10万程度の高い比誘電率を有することが知られている。そこで、更に高誘電率を示す誘電体材料を作製するため、高い比誘電率を有する六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムの製造方法が検討されている。
【0006】
ペロブスカイト型チタン酸バリウムの製造方法として、例えば、炭酸バリウムと二酸化チタンとを含む混合粉末を焼成炉中で加湿空気の存在下で仮焼し、ペロブスカイト型チタン酸バリウムを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、上記特許文献1、2に記載のようなチタン酸バリウムの製造方法では、六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを製造することはできなかった。
【0007】
そこで、六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムの製造方法として、例えば、無容器法を用いて、バリウムチタン酸化物を溶融させ、所定の温度条件で凝固させ、使用目的に応じて適正な性質を有するバリウムチタン酸化物を製造する方法が提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。従来のバリウムチタン酸化物を製造する方法では、無容器方法で試料液体を融点温度以下に過冷させ、開始凝固温度を調整することにより、六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム酸化物を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−209001号公報
【特許文献2】特開2009−209002号公報
【特許文献3】特許第3941871号公報
【特許文献4】特許第4013226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、チタン酸バリウムの結晶構造において、六方晶チタン酸バリウムは準安定相であり、通常1460℃以上においてのみ存在することができるため、室温において六方晶チタン酸バリウムを得るためには、チタン酸バリウムの原料粉末またはチタン酸バリウムを加熱する際、1460℃以上の高温から急冷する必要がある。しかしながら、チタン酸バリウムの原料粉末またはチタン酸バリウムを高温に加熱するため、結晶粒径は大きくなりやすく、得られる六方晶チタン酸バリウム粉末の平均粒子径は大きくなる。このため、得られた六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを用いて積層セラミックコンデンサを製造した場合、製造工程上の不具合を生じやすくなることから、積層セラミックコンデンサ用の誘電体材料として適用することは困難である、という問題がある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを得ることができるチタン酸バリウムの製造方法、誘電体磁器組成物およびセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明者らはチタン酸バリウムの製造方法について鋭意研究をした。その結果、チタン酸バリウムを製造する際の湿度に着目し、BaとTiとを含む原料を、水蒸気と空気とを含有する加熱空気を含む雰囲気中において加熱した際に生成されるチタン酸バリウムの結晶構造と、得られるチタン酸バリウムの平均粒子径を解明した。この得られた知見に基づいて、BaとTiとを含む原料を、水蒸気を含む焼成雰囲気下で700℃以上1000℃以下で焼成することで、六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを生成すると共に、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを製造できることを見出した。本発明は、係る知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
本発明のチタン酸バリウムの製造方法は、水蒸気と空気とを含有し、水蒸気を空気1m3あたり200g以上5000g以下含み、71℃以上180℃以下に加熱されている加熱空気を含む焼成雰囲気中において、BaとTiとを含む原料を、700℃以上1000℃以下で焼成して得られるチタン酸バリウムは、六方晶構造を有するチタン酸バリウムを含むことを特徴とする。
【0013】
温度が高くなるほど、1mの空間に存在できる水蒸気量(飽和水蒸気量)は大きくなる。そのため、加熱空気を上記温度範囲内にすることにより、加熱空気中における飽和水蒸気量を高くすることができるため、焼成雰囲気中における水蒸気量を高くすることができる。また、室温において六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを得るためには、チタン酸バリウムの原料粉末またはチタン酸バリウムを1460℃以上の高温に加熱してから急冷する必要があった。この構成によれば、上記温度範囲内において上記範囲内の水蒸気を含む加熱空気を焼成雰囲気中に供給している。このため、BaとTiとを含む原料を、焼成雰囲気中において高い湿度としながら、上記温度範囲内で焼成することにより、低い熱処理温度でチタン酸バリウム中に六方晶チタン酸バリウムを生成することができると共に、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを製造することができる。
【0014】
本発明の好ましい態様として、前記BaとTiとを含む原料が、酸化チタンと炭酸バリウムとの混合粉末、またはBaとTiとを含む複合有機酸塩を含む混合物であることが好ましい。酸化チタンと炭酸バリウムとの混合粉末や、BaとTiとを含む複合有機酸塩を含む混合物は、チタン酸バリウムの製造に一般的に用いられるものである。BaとTiとを含む原料として、酸化チタンと炭酸バリウムとの混合粉末やBaとTiとを含む複合有機酸塩を含む混合物を用いることにより、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを容易に製造することができる。
【0015】
本発明の好ましい態様として、前記加熱空気が、80℃以上180℃以下に加熱され、湿度を40%以上100%以下とすることが好ましい。空気を加熱することにより、飽和水蒸気量が高くなり、焼成雰囲気中における水蒸気量を好適な範囲で多くすることができ、BaとTiとを含む原料から六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを効率よく製造することができる。また、加熱空気中における湿度を好適な範囲で高く保つことにより、BaとTiとを含む原料から六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムをより効率的に製造することができる。
【0016】
本発明の誘電体磁器組成物は、水蒸気と空気とを含有し、水蒸気を空気1m3あたり200g以上5000g以下含み、71℃以上180℃以下に加熱されている加熱空気を含む焼成雰囲気中において、BaとTiとを含む原料を、700℃以上1000℃以下で焼成して得られるチタン酸バリウムは、六方晶構造を有するチタン酸バリウムを含むことを特徴とする。誘電体磁器組成物は、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを含んでいるため、高い誘電率を有することができる。
【0017】
本発明の好ましい態様として、前記BaとTiとを含む原料が、酸化チタンと炭酸バリウムとの混合粉末、またはBaとTiとを含む複合有機酸塩を含む混合物であることが好ましい。上記のように、BaとTiとを含む原料として、酸化チタンと炭酸バリウムとの混合粉末やBaとTiとを含む複合有機酸塩を含む混合物を用いることにより、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを誘電体磁器組成物の誘電体材料として容易に製造することができる。
【0018】
本発明の好ましい態様として、前記加熱空気が、80℃以上180℃以下に加熱され、湿度を40%以上100%以下とすることが好ましい。上記のように、焼成雰囲気中における水蒸気量を多くすることができるため、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを誘電体磁器組成物の誘電体材料として効率よく製造することができる。
【0019】
本発明のセラミック電子部品は、上記何れか1つの誘電体磁器組成物を含む誘電体を有することを特徴とする。誘電体は、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを含む誘電体磁器組成物で構成されているため、誘電体の薄膜化を図りつつ、高い誘電率を有することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、セラミックコンデンサの一実施形態を模式的に示す概念断面図である。
【図2】図2は、焼成炉の構成の一例を簡略に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を好適に実施するための形態(以下、実施形態という。)につき、詳細に説明する。尚、本発明は以下の実施形態および実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態および実施例における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態および実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0023】
<チタン酸バリウム(BaTiO3)の製造方法>
本実施形態に係るチタン酸バリウム(BaTiO3)の製造方法は、水蒸気と空気とを含有し、水蒸気を空気1m3あたり200g以上5000g以下含み、71℃以上180℃以下に加熱されている加熱空気を含む焼成雰囲気(仮焼雰囲気)中において、BaとTiとを含む原料を、700℃以上1000℃以下で焼成(仮焼き)して、六方晶構造を有するチタン酸バリウム(六方晶チタン酸バリウム)を含むチタン酸バリウムを得るものである。本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法は、BaとTiとを含む原料粉末を準備する工程と、原料粉末を焼成(仮焼き)する工程とを含む。
【0024】
本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法により得られるチタン酸バリウムは、六方晶チタン酸バリウムを含むものであればよく、例えば、ペロブスカイト型チタン酸バリウムと六方晶チタン酸バリウムとの両方の結晶構造を含むチタン酸バリウムや、六方晶チタン酸バリウムのみからなるチタン酸バリウムでもよい。
【0025】
(BaとTiとを含む原料の準備工程)
BaとTiとを含む原料として、炭酸バリウム(BaCO3)粉末と酸化チタン(TiO2)粉末との混合粉末が用いられる。原料として用いられる炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末は、特に限定はされず、公知の炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末が用いられる。炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との固相反応を促進し、微細なチタン酸バリウム粉末を得るためには、比較的粒径の小さな原料粉末を使用することが好ましい。
【0026】
原料として使用される炭酸バリウム粉末の比表面積は、好ましくは1m2/g以上100m2/g以下、より好ましくは2m2/g以上80m2/g以下、さらに好ましくは3m2/g以上50m2/g以下である。また、酸化チタン粉末の比表面積は、好ましくは5m2/g以上100m2/g以下、より好ましくは6m2/g以上80m2/g以下、さらに好ましくは7m2/g以上50m2/g以下である。なお、比表面積はBET法により測定される。
【0027】
炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末を微粉末とすることで、固相反応が促進される。このため、混合粉末を効率よく仮焼きすることができる。このため、混合粉末の焼成温度(仮焼温度)を低下することができると共に、焼成(仮焼)時間を短縮することができる。また、炭酸バリウム粉末および酸化チタン粉末の微粉末を原料として用いることで、粒径が小さくかつ均一なチタン酸バリウム粉末を得ることができる。また、得られるチタン酸バリウム粉末は、仮焼温度や保持時間などを変化させることにより粒径を変化させることができるため、仮焼条件を適宜設定することにより、所望の粒径のチタン酸バリウム粉末を容易に得ることができる。
【0028】
炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末とを混合する際、混合粉末における炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との比率は、チタン酸バリウムを生成しうる化学量論組成近傍であればよい。すなわち、炭酸バリウム粉末のバリウムのモル数をAとし、酸化チタン粉末のチタンのモル数をBとした場合、混合粉末におけるA/Bは、0.990以上1.010以下が好ましく、0.998以上1.002以下がより好ましい。A/Bが1.010以下では、未反応の炭酸バリウム粉末が残留するのを抑制することができるからである。A/Bが0.990以上では、Tiを含む異相が生成されるのを抑制することができるからである。
【0029】
A/Bは、上記範囲内が好ましいが、炭酸バリウム粉末は、酸化チタン粉末のモル数に対して等モル以上のモル数で加えてもよい。このとき、A/Bは1.00以上5.00以下でもよいし、より好ましくは1.00以上3.00以下であり、更に好ましくは1.00以上2.00以下である。なお、この場合、チタン酸バリウム粉末と共に得られた過剰な炭酸バリウム粉末を除去することが好ましい。バリウムを過剰に含むチタン酸バリウムを含む誘電体磁器組成物を焼成した場合、焼結が進みにくくなり、高い誘電率を有する誘電体を得ることが困難となるからである。また、チタンを過剰に含むチタン酸バリウムを含む誘電体磁器組成物を焼成した場合、副成分として添加した元素が固溶しやすくなり、誘電率の温度依存性が変化するため、製品特性を変化させる原因になる。
【0030】
炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末とを含む混合粉末の調製は、特に限定されるものではなく、湿式法または乾式法などが挙げられる。湿式法は、ボールミル、ビーズミル、ディスパーミル、ホモジナイザー、振動ミル、サンドグラインドミル、アトライターおよび強力撹拌機などの装置などを用いて行われる。乾式法は、ハイスピードミキサー、スーパーミキサー、ターボスフェアミキサー、ヘンシェルミキサー、ナウターミキサーおよびリボンブレンダーなどの装置などを用いて行われる。これらの中でも、均一な混合粉末が得られ、更に高い誘電率を有する誘電体が得られる点から湿式法を用いて調製することが好ましい。
【0031】
湿式法を用いる際の溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、トルエン、キシレン、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミドおよびジエチルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコールが、組成変化が少ないものが得られ、更に得られる誘電体磁器組成物自体も誘電率が高いものが得られる点から好ましい。
【0032】
分散性を向上させる目的で必要により湿式混合の際に分散剤をスラリーに添加してもよい。なお、湿式で混合処理を行った後は、所望により噴霧乾燥機によりスラリーごと乾燥するようにしてもよい。
【0033】
本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法においては、混合粉末として、酸化チタン粉末と炭酸バリウム粉末とを用いたが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、バリウム化合物として炭酸バリウム以外のバリウム化合物やチタン化合物として酸化チタン以外のチタン化合物を用いてもよい。バリウム化合物としては、ハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、シュウ酸塩およびアルコキシドから選択される1種または2種以上が挙げられる。バリウム化合物としては、水溶性バリウム化合物が好ましく用いられる。水溶性バリウム化合物としては、特に限定されず、水酸化バリウム、水酸化バリウム8水和物、酢酸バリウム、塩化バリウムが挙げられる。
【0034】
なお、必要に応じて、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等のアミン類などのアルカリ性化合物を加えても良い。
【0035】
チタン化合物としては、ハロゲン化物、水酸化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、過塩素酸塩、シュウ酸塩およびアルコキシドから選択される1種または2種以上が挙げられる。具体的には、含水酸化チタン、四塩化チタンおよびその加水分解物などが挙げられる。
【0036】
本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法においては、混合粉末を調製する際、酸化チタン粉末と炭酸バリウム粉末との混合粉末の代わりに、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を含む混合物などを用いるようにしてもよい。Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を含む混合物としては、例えば、シュウ酸バリウムチタニルなどが挙げられる。
【0037】
これらのチタン化合物およびバリウム化合物は、予め、粉末状、水溶液状または懸濁液状に調製されたものを用いてもよい。
【0038】
(原料粉末を焼成(仮焼き)する工程)
混合粉末を調整した後、混合粉末は水蒸気雰囲気下において仮焼温度まで昇温して仮焼きする。混合粉末を調整した後、焼成炉内に挿入する。焼成炉内を水蒸気雰囲気とし、仮焼温度まで焼成炉内を昇温する。
【0039】
水蒸気雰囲気は、加熱炉内に水蒸気と空気とを含有する加熱空気を供給することで形成される。加熱空気は、例えば、空気を、温度を調整した水に通して加湿した空気、または空気に水蒸気を混合して加湿した空気等を用いることができる。
【0040】
これにより、混合粉末は、加熱炉内で加熱空気を含む水蒸気雰囲気下において仮焼温度まで加温される。
【0041】
仮焼きに使用する焼成炉は、昇温が可能な発熱体を備えた電気炉や高温ガスを熱媒体として熱交換させるガス炉などがあり、例えば、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、プッシャー炉などが挙げられる。焼成炉は、バッチ式又は連続式の何れでもよい。
【0042】
焼成炉内は、室温から仮焼温度まで、0.5℃/分以上10℃/分以下、好ましくは0.8℃/分以上8℃/分以下、より好ましくは1℃/分以上5℃/分以下の昇温速度で昇温する。昇温速度を0.5℃/分以上とすることで、効率よく混合粉末を加熱し、昇温することができるからである。また、昇温速度を10℃/分以下とすることで、焼成炉に対する負荷を軽減することができるからである。
【0043】
昇温は、上記のように、昇温が可能な発熱体を備えた電気炉を用いて室温から行う場合に限定されるものではなく、たとえば混合粉末を予熱した後、仮焼温度以上に維持された加熱炉中に混合粉末を投入して昇温を行うようにしてもよい。また、設定温度が異なる複数の炉を直列し、混合粉末を低温の加熱炉に投入後、取り出し、順次高温の加熱炉に移しながら昇温を行うようにしてもよい。
【0044】
多量の混合粉末を連続して昇温するような場合には、ロータリーキルンなどを用いてもよい。ロータリーキルンは、傾斜した加熱管であり、加熱管の中心軸を中心に回転する。加熱管上部から投入された混合粉末は、管内を下方に移動する過程で加熱管内の混合粉末を加熱し、昇温する。したがって、加熱管の温度および混合粉末の通過速度を制御することで、混合粉末の到達温度および昇温速度を適宜制御できる。
【0045】
焼成炉内が仮焼温度に到達したら、混合粉末を、加熱空気を含む水蒸気雰囲気下において仮焼温度で所定の仮焼時間保持して仮焼きする。
【0046】
本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法においては、仮焼温度は700℃以上1000℃以下とし、好ましくは、800℃以上900℃以下である。仮焼温度を700℃以上とすることで、六方晶チタン酸バリウムが生成され、六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム粉末を得られる。また、仮焼温度を1000℃以下とすることで、混合粉末の粒成長が抑制され、粒径が大きい粒子を含まない微細なチタン酸バリウム粉末を得ることができる。
【0047】
仮焼時間は、炭酸バリウム粉末と酸化チタン粉末との固相反応に充分な時間を確保し、均質なチタン酸バリウム粉末を得る観点から、好ましくは0.5時間以上4時間以下であり、より好ましくは0.5時間以上2時間である。
【0048】
焼成雰囲気は、上述の通り、水蒸気雰囲気である。焼成雰囲気中に水蒸気を多く含有するため、本実施形態においては、水蒸気を含む加熱空気は、水蒸気量として空気1m3当たり200g以上5000g以下含み、71℃以上180℃以下に加熱されていることが好ましい。水蒸気量は、より好ましくは空気1m3当たり250g以上4000g以下であり、更に好ましくは空気1m3当たり300g以上3000g以下である。加熱空気の温度は、より好ましくは73℃以上170℃以下であり、更に好ましくは75℃以上160℃以下である。混合粉末を仮焼きし、チタン酸バリウムを生成する際、加熱空気の湿度を40%以上とし、仮焼雰囲気中に水蒸気を多く含有することで、得られるチタン酸バリウムには六方晶チタン酸バリウムが多く生成される傾向にある。また、温度が高くなるほど、空気中に含められる水蒸気量は大きくなる。そのため、加熱空気が上記温度範囲内において含む水蒸気量を上記範囲内とすることで、高温の加熱空気中における水蒸気量を高くすることができる。これにより、仮焼雰囲気中における水蒸気量を高くし、かつ湿度を高く保つことができるため、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを効率よく製造することができる。
【0049】
加熱空気と水蒸気量との関係について説明する。1m3の空間に存在できる水蒸気の質量は、一般的に飽和水蒸気量と呼ばれる。飽和水蒸気量は、飽和水蒸気圧を近似的に求める下記式(1)と、気体の状態方程式である下記式(2)とから求められる。
E(t)=6.11×10^(7.5t/(t+237.3) ・・・(1)
PV=nRT ・・・(2)
但し、上記式(1)中、E(t)は飽和水蒸気圧(hPa)であり、tは絶対温度(K)である。また、上記式(2)中、Pは圧力であり、Vは体積であり、nは物質量であり、Rは気体定数であり、Tは温度である。
【0050】
この上記式(1)、(2)から計算される温度と空気1m3当たりの飽和水蒸気量との関係の一例を表1に示す。表1より、空気1m3当たりの水蒸気量を200g以上とするためには、空気を71℃以上にする必要があるといえる。
【0051】
【表1】

【0052】
よって、混合粉末を仮焼きし、チタン酸バリウムを生成する際、加熱空気の温度を、上記温度範囲内とし、加熱空気に含まれる水蒸気量を上記範囲内とすることで、仮焼雰囲気中における水蒸気量を高くし、かつ湿度を高く保つことができるため、六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを効率良く生成することができる。
【0053】
加熱空気を焼成雰囲気中に安定して供給する観点から、加熱空気は、80℃以上180℃に加熱され、湿度を40%以上100%以下とすることが好ましい。加熱空気の温度は、より好ましくは90℃以上170℃以下であり、更に好ましくは100℃以上160℃以下である。空気を加熱することにより、飽和水蒸気量は高くなり、焼成雰囲気中における水蒸気量を好適な範囲で多くすることができる。そこで、加熱空気は80℃以上とすることで、飽和水蒸気量が高くなるため、焼成雰囲気中に水分を多く供給することができる。また、加熱空気は180℃以下とすることで、飽和水蒸気量が高くなりすぎるのを抑制し、焼成雰囲気中に余分に水分が供給されるのを抑制することができる。また、加熱空気の湿度を40%以上とすることで、水蒸気量が高くなり、焼成雰囲気中に水蒸気が多く含有されることになるため、六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを生成し易くすることができる。また、加熱空気の湿度を100%以下とすることで、焼成雰囲気中に余分に水分が供給されるのを抑制することができる。
【0054】
よって、加熱空気の温度を上記範囲内とし、加熱空気の温度を高くすることで、仮焼雰囲気中における水蒸気量をより好適な範囲で多くすることができるため、混合粉末から六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを効率よく製造することができる。また、加熱空気の湿度を上記範囲内とすることで、加熱空気中における湿度を好適な範囲で高く保つことができる。これにより、混合粉末から六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムをより効率的に製造することができる。したがって、加熱空気の温度および湿度を上記範囲内とすることで、仮焼雰囲気中における水蒸気量を好適な範囲で多くすることが可能となるため、混合粉末から六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを効率よく製造するのに寄与する。
【0055】
混合粉末を仮焼きして得られる六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムの比表面積は、好ましくは5m2/g以上30m2/g以下であり、より好ましくは6m2/g以上28m2/g以下であり、さらに好ましくは7m2/g以上25m2/g以下である。なお、比表面積はBET法により測定される。六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム粉末の比表面積を、5m2/g以上とすることで、チタン酸バリウムを用いて誘電体層を形成し、セラミックコンデンサを製造した場合、DCバイアス特性などが悪化することを抑制し、製品に不具合が生じるのを抑制することができる。また、六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム粉末の比表面積を、30m2/g以下とすることで、誘電体層用ペースト及び誘電体層用ペーストからなるグリーンシートを不具合無く製造することができる。
【0056】
混合粉末を仮焼きして得られる六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム粉末の平均粒子径は、好ましくは30nm以上500nm以下であり、より好ましくは40nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは80nm以上150nm以下である。なお、平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope;SEM)による観察により、1μm2以上100μm2以下の四方の領域内で観察された六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム粉末のうち500個の粒子径を求め、平均粒子径を求めた。六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム粉末の平均粒子径を、500nm以下とすることで、チタン酸バリウムを用いて誘電体層を形成し、セラミックコンデンサを製造した場合、DCバイアス特性などが悪化することを抑制し、製品に不具合が生じるのを抑制することができる。
【0057】
混合粉末を、所定時間、仮焼きした後、燃焼炉内の加熱器の温度制御をして燃焼炉内の温度を低下させる。この際の降温速度は、特に限定されるものではなく、安全性などの観点から、3℃/分以上100℃/分以下とすればよい。降温した後、チタン酸バリウム粉末を得る。
【0058】
これまで、室温において六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを得るためには、チタン酸バリウムの原料粉末またはチタン酸バリウムを1460℃以上の高温に加熱してから急冷する必要があった。これに対し、本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法によれば、混合粉末を、加熱空気を含む水蒸気雰囲気下において高い湿度としながら、上記温度範囲内で仮焼きすることにより、低い熱処理温度で六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウムを作製することができる。また、混合粉末を低い温度で熱処理することで、結晶粒の成長が抑制されるため、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを作製することができる。このように、本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法によれば、六方晶チタン酸バリウムを含みつつ、粒径が小さい所望の大きさのチタン酸バリウムを得ることができる。したがって、このようにして合成されたチタン酸バリウムは、六方晶チタン酸バリウムを含むことからペロブスカイト型の結晶構造(正方晶、立方晶)を有するチタン酸バリウム(ペロブスカイト型チタン酸バリウム)に比べ、更に高い誘電率を有し、微細であることから、更に小型の積層セラミックコンデンサの誘電体層の誘電体材料として用いることができる。
【0059】
チタン酸バリウムがBaを過剰に含む場合には、仮焼き後の六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム粉末を酢酸水溶液に混合して撹拌した後、吸引濾過して固液分離することで余剰の炭酸バリウム粉末を除去し、乾燥することで、チタン酸バリウム粉末を得る。
【0060】
本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法においては、混合粉末の仮焼きは、1回しか行なっていないが、本実施形態はこれに限定されるものではなく、混合粉末の仮焼きは、粒径を均質とするため、一度仮焼きしたものを粉砕し、再度複数回仮焼きを行ってもよい。
【0061】
<セラミック電子部品>
上記のようにして得られたチタン酸バリウム粉末は、セラミック電子部品の一部を構成する誘電体層を形成する誘電体磁器組成物の誘電体材料として好適に用いられる。本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法を用いて得られたチタン酸バリウム粉末を用いて得られた誘電体磁器組成物を誘電体層として適用したセラミック電子部品の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、セラミック電子部品として積層型のセラミックコンデンサを用いた場合について説明する。
【0062】
図1は、セラミックコンデンサの一実施形態を模式的に示す概念断面図である。図1に示すように、セラミックコンデンサ10は、コンデンサ素子本体11と、コンデンサ素子本体11の両端部に各々形成された一対の端子電極(外部電極)12とを含む。コンデンサ素子本体11は、両端面並びに、上面と下面と両側面とを含む四方側面を有する直方体形状に形成される。コンデンサ素子本体11の大きさも特に制限はなく、用途に応じて適当な寸法とする。なお、図1中、コンデンサ素子本体11の幅方向をXとし、厚さ方向をYとする。
【0063】
コンデンサ素子本体11は、複数の誘電体層13と、複数(例えば100層程度)の内部電極14とを有している。コンデンサ素子本体11は、複数の誘電体層13と複数の内部電極14とを交互に積層して形成されている。コンデンサ素子本体11は、セラミックグリーンシート(未焼成セラミックシート)を複数枚積層し、セラミックグリーンシートの間に内部電極14となる所定パターンの導電性ペーストを含む積層体を加熱圧着して一体化して、切断し、脱脂し、焼成することにより得られる直方体状の焼結体である。誘電体層13と内部電極14との積層方向は、セラミックコンデンサ素子11の厚さ方向Yである。コンデンサ素子本体11は、両端面並びに、上面と下面と両側面とを含む四方側面を有する直方体形状に形成されている。なお、説明の都合上、図1では、誘電体層13および内部電極14の積層数を視認できる程度の数としているが、所望の電気特性に応じて、誘電体層13および内部電極14の積層数を適宜変更してもよい。積層数は、例えば、誘電体層13および内部電極14を、各々数十層としてもよく、100層から500層程度としてもよい。また、実際のコンデンサ素子本体11は、誘電体層13の層間を視認できない程度に一体化されていてもよい。
【0064】
誘電体層13は、本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法で製造されたチタン酸バリウム(BaTiO3)を含む誘電体磁器組成物で構成される。誘電体層13は、誘電体磁器組成物からなるセラミックグリーンシートを焼成して得られるものである。誘電体磁器組成物は、本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法で製造され、六方晶チタン酸バリウムを含む微細なチタン酸バリウムを含むため、高い誘電率を有する。また、誘電体磁器組成物は、副成分を含んでもよい。副成分としては、Mn、Cr、Ca、Ba、Mg、V、W、Ta、NbおよびR(RはYなどの希土類元素の1種以上)の酸化物並びに焼成により酸化物になる化合物などが挙げられ、これらを一種類以上含有していてもよい。
【0065】
内部電極14は、一端がコンデンサ素子本体11の端面16a、16bの何れかから露出し、一方の外部電極12に接続され、他端は外部電極12と絶縁されている。対向する一対の外部電極12に各々接続している内部電極14同士が誘電体層13を介して交互に対向し、所定間隔を持って複数積層されている。
【0066】
内部電極14を構成する材料としては、積層型のセラミック電子部品の内部電極として通常用いられる導電性材料であれば用いることができ、例えば、Pd、Ag、Ni、これらの合金などを主成分とする導電性材料を含んだものなどが用いられる。
【0067】
外部電極12は、コンデンサ素子本体11の端面16a、16bと、上面17a、下面17bの一部を覆うように設けられている。外部電極12は、コンデンサ素子本体11の端面16a、16bで内部電極14と接続し、コンデンサ回路を構成している。外部電極12は、電子部品の外部電極として通常用いられる導電性材料であれば用いることができ、例えば、Ni、Pd、Ag、Au、Cu、Pt、Sn、Rh、Ru、Irなどの少なくとも1種またはそれらの合金を用いることができる。外部電極12は、外部電極12に含まれる導電性材料を含有する導電性ペーストをコンデンサ素子本体11の端面16a、16bに塗布して焼き付けることによって形成されている。また、外部電極12は、複数の金属電極層で構成されていてもよく、例えば、Cuめっき層を下地電極に、Niめっき層、Snめっき層を形成するようにしてもよい。
【0068】
(セラミックコンデンサの製造)
セラミックコンデンサ10を製造する際、たとえば、焼成後に誘電体層13を構成することとなる誘電体層用ペーストと、焼成後に内部電極14を構成することとなる内部電極層用ペーストとを準備する。本実施形態では、誘電体層用ペースト中の誘電体原料に含まれるチタン酸バリウムは、上述のように、本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法を用いて製造されるものであり、加熱空気中において加熱しながら製造される。
【0069】
得られたチタン酸バリウムを含む誘電体原料を有する誘電体層用ペーストと、内部電極層用ペーストとを用いて、誘電体層用ペーストからなるグリーンシートと、内部電極層用ペーストからなるグリーンシートとを積層してグリーンチップを作製する。このグリーンチップに対して、脱バインダ処理を施した後、焼成し、必要に応じて行われる熱処理(アニール)を行い、コンデンサ素子本体11を作製する。このコンデンサ素子本体11に対して、外部電極12を形成して、セラミックコンデンサ10が製造される。
【0070】
このように、セラミックコンデンサ10は、誘電体層13を構成する誘電体磁器組成物として本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法で製造されたチタン酸バリウムを誘電体材料として用い、誘電体層13に含んで構成されている。したがって、セラミックコンデンサ10は、容量を増大させ、高い性能を有し、信頼性に優れたセラミックコンデンサを提供することができる。
【0071】
本実施形態に係るチタン酸バリウムの製造方法で製造されたチタン酸バリウムは、Cr2、MnO、Fe2、NiO、MoOなどの不純物を少なくすることもできる。そのため、セラミックコンデンサ10は、更に容量を増大させ、性能を向上させることができ、更に信頼性の高い製品を得られることができる。
【0072】
本実施形態においては、本実施形態に係るチタン酸バリウム粉末を用いて製造されるチタン酸バリウムを誘電体磁器組成物の誘電体材料として含み、積層セラミックコンデンサの誘電体層を構成する誘電体材料として用いた場合について説明したが、本実施形態は、これに限定されるものではなく、圧電材料、半導体などの電子材料の原料としても用いることができる。
【0073】
以上、本実施形態においては、本実施形態に係るセラミック電子部品の一例として積層型のセラミックコンデンサの場合について説明したが、本実施形態に係るセラミック電子部品は、上記実施形態に限定されるものではない。本実施形態に係るセラミック電子部品は、セラミック素体を有するセラミック電子部品であればよく、例えば、フィルター、共振器、圧電振動子(圧電アクチュエータ)、インダクタ、バリスタ、サーミスタなどの電子部品についても同様に適用可能である。
【実施例】
【0074】
以下、本実施形態に係る発明を実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、本実施形態に係る発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
<1.酸化チタン粉末と炭酸バリウム粉末との混合粉末からチタン酸バリウム粉末を作製>
[チタン酸バリウム粉末の調整]
(実施例1−1)
酸化チタン粉末と炭酸バリウム粉末をBa/Tiのモル比で5.00となるように、ボールミル(ビーズ径;2mmのジルコニアビーズ、溶媒:水)を用い、6時間湿式混合した。その後、130℃で2時間乾燥して、酸化チタン粉末と炭酸バリウム粉末の混合粉末を得た。得られた混合粉末は焼成炉において焼成した。焼成炉は、電気式の箱型の加熱炉である。図2は、焼成炉の構成の一例を簡略に示す図である。図2に示すように、加熱炉20は、炉本体21と、炉心管22と、ヒータ23と、断熱材24と、温度計25、26、湿度計27と、検出器28とを有する。炉心管22はガス導入口31及びガス排気口32を有する。加熱炉20はガス導入口31から加熱空気33を炉心管22内に供給する。加熱空気33は、温度が120℃であり、湿度が75%の空気とした。加熱炉20はガス排気口32から炉心管22内に加熱空気33を供給し、炉心管22内は水蒸気雰囲気の状態とした。炉心管22はその外周にヒータ23を設けている。このヒータ23はその外周が断熱材24で覆われている。温度計25は試料容器34の近傍に設け、温度計26、湿度計27は炉心管22のガス導入口31に設けた。温度計25、26、湿度計27は、各々、検出器28に接続されている。検出器28は、温度計25により炉心管22内の雰囲気温度を測定し、温度計26により加熱空気33の温度を測定し、湿度計27により加熱空気33の湿度を測定した。
【0076】
混合粉末Sを試料容器34に入れた後、試料容器34を加熱炉20に入れ、炉心管22内の床部35の上に設けた。得られた混合粉末Sを、加熱炉20において、200℃/時間の昇温速度で700℃まで昇温し、3時間保持して仮焼した。その際、加熱空気(温度:120℃、湿度:75%)33を加熱炉20内に2L/minの割合で導入し、水蒸気雰囲気とした。700℃で3時間、混合粉末Sを仮焼した後、冷却して、チタン酸バリウム粉末(仮焼粉)を得た。このとき、得られたチタン酸バリウム粉末には、炭酸バリウム粉末が余剰に含まれているため、得られたチタン酸バリウム粉末を酢酸水溶液に混合して撹拌した後、吸引濾過により固液分離した。これにより、余剰の炭酸バリウム粉末が除去されたチタン酸バリウム粉末を得た。
【0077】
(実施例1−2〜1−4)
混合粉の仮焼温度が実施例1−1と異なること以外は、実施例1−1と同様に行った。
【0078】
(比較例1−1、1−2)
混合粉の仮焼温度が実施例1−1と異なること以外は、実施例1−1と同様に行った。
【0079】
[チタン酸バリウム粉末の評価]
(チタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの割合)
仮焼きして得られたチタン酸バリウム粉末についてX線回折測定(X-Ray Diffraction:XRD)を行い、得られたXRDの回折パターンから、六方晶チタン酸バリウム由来のメインピークと正方晶チタン酸バリウム由来のメインピークとを確認し、得られたチタン酸バリウム粉末は正方晶チタン酸バリウムおよび六方晶チタン酸バリウムを含むことを確認した。得られたチタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの割合は、リートベルト解析によって評価した。測定結果をリートベルト解析することにより、各実施例および各比較例により得られたチタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの量を算出し、得られたチタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの割合を求めた。
【0080】
(比表面積)
得られたチタン酸バリウム粉末の比表面積をBET法により求めた。
【0081】
(平均粒子径)
仮焼きして得られたチタン酸バリウム粉末の観察をSEMで行い、1μm2以上100μm2以下の四方の領域内で観察された六方晶チタン酸バリウムを含むチタン酸バリウム粉末のうち500個について、粒子径を測定し、平均粒子径を求めた。
【0082】
各実施例および各比較例における仮焼温度と、焼成炉内の水蒸気量と、チタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの割合と、チタン酸バリウム粉末の比表面積と、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径とを表2に示す。
【0083】
【表2】

【0084】
表2に示すように、実施例1−1〜1−4では、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムを含み、チタン酸バリウム粉末の比表面積は8.0m2/g以上と大きく、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径が200nm以下であった。一方、比較例1−1では、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムは生成されなかった。また、比較例1−2では、チタン酸バリウム粉末の比表面積は5.0m2/g以下と小さく、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径も200nm以上で大きかった。よって、混合粉末の仮焼温度を、水蒸気雰囲気下で、700℃以上1000℃以下の温度で混合粉末を仮焼きすることで、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムを含みつつ、粒径が小さいチタン酸バリウム粉末を作製することができるといえる。
【0085】
<2.Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を含む混合物からチタン酸バリウム粉末を作製>
[チタン酸バリウム粉末の調整]
(実施例2−1)
蓚酸バリウムチタニル(Ba/Tiのモル比:1.00、「セラミックス用」、純正化学社製)を、上述と同様に、図2に示す加熱炉20において、200℃/時間の昇温速度で700℃まで昇温し、3時間保持して蓚酸バリウムチタニルを仮焼した。その際、加熱空気(温度:120℃、湿度:75%)33を加熱炉20内に2L/minの割合で導入することで、水蒸気雰囲気とした。700℃で3時間仮焼した後、冷却して、チタン酸バリウム粉末を得た。
【0086】
(実施例2−2〜2−4)
蓚酸バリウムチタニルの仮焼温度が実施例2−1と異なること以外は、実施例2−1と同様に行った。
【0087】
(比較例2−1、2−2)
蓚酸バリウムチタニルの仮焼温度が実施例2−1と異なること以外は、実施例2−1と同様に行った。
【0088】
[チタン酸バリウム粉末の評価]
得られたチタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの割合と、比表面積と、平均粒子径との測定は、上述と同様にして行った。
【0089】
各実施例および各比較例における仮焼温度と、焼成炉内の水蒸気量と、チタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの割合と、チタン酸バリウム粉末の比表面積と、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径とを表3に示す。
【0090】
【表3】

【0091】
表3に示すように、実施例2−1〜2−4では、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムを含み、チタン酸バリウム粉末の比表面積は6.0m2/g以上と大きく、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径が200nm以下であった。一方、比較例2−1では、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムは生成されなかった。また、比較例2−2では、チタン酸バリウム粉末の比表面積は5.0m2/g以下と小さく、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径も200nm以上で大きかった。よって、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を含む混合物をチタン酸バリウムの原料として用いた場合でも、混合粉末を用いてチタン酸バリウムと同様、Ba原子とTi原子を含む複合有機酸塩を含む混合物の仮焼温度を、水蒸気雰囲気下で、700℃以上1000℃以下の温度でBa原子とTi原子を含む複合有機酸塩を含む混合物を仮焼きすることで、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムを含みつつ、粒径が小さいチタン酸バリウム粉末を作製することができるといえる。
【0092】
<3.仮焼温度と水蒸気雰囲気との検討>
[チタン酸バリウム粉末の調整]
(実施例3−1〜3−4)
実施例3−1〜3−4は、加熱空気に含まれる水蒸気量が実施例1−1〜1−4と各々異なること以外は、実施例1−1〜1−4と同様に行った。実施例3−1〜3−4では、実施例1−1〜1−4と同様、仮焼温度を700、800、900、1000℃とし、水蒸気量を1100g/m3とした。
【0093】
(実施例3−5〜3−8)
実施例1−1〜1−4と同様の条件で行った。
【0094】
(実施例3−9〜3−12)
実施例3−9〜3−12は、加熱空気に含まれる水蒸気量が実施例1−1〜1−4と各々異なること以外は、実施例1−1〜1−4と同様に行った。実施例3−9〜3−12では、実施例1−1〜1−4と同様、仮焼温度を700、800、900、1000℃とし、水蒸気量を450g/m3とした。
【0095】
(比較例3−1〜3−4)
比較例3−1〜3−4は、加熱空気に含まれる水蒸気量が実施例1−1〜1−4と各々異なること以外は、実施例1−1〜1−4と同様に行った。比較例3−1〜3−4では、実施例1−1〜1−4と同様、仮焼温度を700、800、900、1000℃とし、水蒸気量を150g/m3とした。
【0096】
[チタン酸バリウム粉末の評価]
得られたチタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの割合と、比表面積と、平均粒子径との測定は、上述と同様にして行った。
【0097】
各実施例および各比較例における仮焼温度と、焼成炉内の水蒸気量と、チタン酸バリウム粉末に含まれる六方晶チタン酸バリウムと正方晶チタン酸バリウムとの割合と、チタン酸バリウム粉末の比表面積と、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径とを表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
表4に示すように、実施例3−1〜3−12では、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムを含み、チタン酸バリウム粉末の比表面積は7.5m2/g以上と大きく、チタン酸バリウム粉末の平均粒子径が140nm以下であった。一方、比較例3−1〜3−4では、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムは生成されなかった。よって、混合粉末を用いてチタン酸バリウムを生成する際、混合粉末を仮焼きする際の雰囲気中の水蒸気量を、450g/m3として混合粉末を仮焼きすることで、チタン酸バリウムに六方晶チタン酸バリウムを含みつつ、粒径が小さいチタン酸バリウム粉末を作製することができるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上のように、本発明に係るチタン酸バリウムの製造方法、誘電体磁器組成物およびセラミック電子部品は、六方晶チタン酸バリウムを含みつつ、微細なチタン酸バリウムを製造することができるので、製造されるチタン酸バリウムは、セラミックコンデンサなど電子部品の誘電体材料として用いるのに適している。
【符号の説明】
【0101】
10 セラミックコンデンサ
11 コンデンサ素子本体
12 端子電極(外部電極)
13 誘電体層
14 内部電極
16a、16b 端面
17a 上面
17b 下面
20 加熱炉
21 炉本体
22 炉心管
23 ヒータ
24 断熱材
25、26 温度計
27 湿度計
28 検出器
31 ガス導入口
32 ガス排気口
33 加熱空気
34 試料容器
35 床部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気と空気とを含有し、水蒸気を空気1m3あたり200g以上5000g以下含み、71℃以上180℃以下に加熱されている加熱空気を含む焼成雰囲気中において、BaとTiとを含む原料を、700℃以上1000℃以下で焼成して、チタン酸バリウムを製造し、
前記チタン酸バリウムは、六方晶構造を有するチタン酸バリウムを含むことを特徴とするチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項2】
前記BaとTiとを含む原料が、酸化チタンと炭酸バリウムとの混合粉末、またはBaとTiとを含む複合有機酸塩を含む混合物である請求項1に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項3】
前記加熱空気は、80℃以上180℃以下に加熱され、湿度が40%以上100%以下である請求項1または2に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項4】
水蒸気と空気とを含有し、水蒸気を空気1m3あたり200g以上5000g以下含み、71℃以上180℃以下に加熱されている加熱空気を含む焼成雰囲気中で、BaとTiとを含む原料を、700℃以上1000℃以下で焼成して得られるチタン酸バリウムを含み、前記チタン酸バリウムは、六方晶構造を有するチタン酸バリウムを含むことを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項5】
前記BaとTiとを含む原料が、酸化チタンと炭酸バリウムとの混合粉末、またはBaとTiとを含む複合有機酸塩を含む混合物である請求項4に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項6】
前記加熱空気は、80℃以上180℃以下に加熱され、湿度が40%以上100%以下である請求項4または5に記載の誘電体磁器組成物。
【請求項7】
請求項4から6の何れか1つに記載の誘電体磁器組成物を含む誘電体を有することを特徴とするセラミック電子部品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−116728(P2012−116728A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270034(P2010−270034)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】