説明

チタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器組成物およびこれを用いた誘電体磁器コンデンサ

【課題】温度特性が平滑で、誘電率が高く、自己発熱が低い等の全ての特性を満足して、鉛を含有しないチタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器組成物を提供する。
【解決手段】本発明の誘電体磁器組成物は、チタン酸バリウムを主成分とする、ペロブスカイト型構造を形成する固溶体組成において、BiMnO3成分を1.0モル%〜2.0モル%、Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分を0.3モル%〜1.2モル%、およびBi2/3TiO3成分を9.0モル%〜15.0モル%を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体磁器組成物およびこれを用いた誘電体磁器コンデンサにかかり、特に中高圧用磁器コンデンサに用いるための、鉛を含有しない誘電体磁器組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題がクローズアップされ、その中で電子機器に使用される電子部品についても、環境有害物質を含まない材質が検討されている。電子部品に用いられる材料の中で、特に環境に対して有害とされるものの中に鉛(Pb)がある。鉛は放置すると環境に溶け出し生体に悪影響を及ぼすため、電子業界では鉛フリーの電子部品の開発が進められている。
【0003】
電子部品の一つとして中高圧用誘電体磁器コンデンサがあるが、この誘電体磁器組成物に鉛が含有されている場合がある。特に、コンデンサ容量の温度特性が平滑で、誘電率が高く、自己発熱が低い等の有用な特性を達成するためには、チタン酸バリウム系固溶体において、鉛がPbTiO3成分として10〜20モル%と非常に多く含有されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、誘電体磁器組成物からPbTiO3成分を完全に除去すると、当然ながら中高圧用コンデンサに要求される容量の温度特性の平滑性、高誘電率、自己発熱が低い等の全ての特性を満足する誘電体磁器組成物を得ることはできなかった。
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたもので、温度特性が平滑で、誘電率が高く、自己発熱が低い等の磁器コンデンサに必要とされる特性を満足して、しかも鉛を含有しない誘電体磁器組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明は、チタン酸バリウムを主成分とする、ペロブスカイト型構造を形成する固溶体組成において、BaTiO3を主成分とする固溶体組成において、BiMnO3成分を1.0モル%〜2.0モル%、Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分を0.3モル%〜1.2モル%およびBi2/3TiO3成分を9.0モル%〜15.0モル%の3〜4成分を含有する組成構成としたものである。
【0007】
この構成により、鉛を含有することなく、中高圧用磁器コンデンサに要求される、容量の温度特性が平滑で誘電率が高く、自己発熱が低い等の特性を得ることができる。
【0008】
これは以下のような、作用によるものと考えられる。まず、BiMnO3成分は容量の温度特性の平滑化に寄与する最も重要な成分であると同時にBaTiO3のキュリー点を高温側にシフトさせる効果をもつ。BiMnO3成分は、含有量1モル%当り5.5℃だけ、BaTiO3のキュリー点を高温側へシフトする。しかし含有量が2モル%を超えるとキュリー点は逆に低温側へシフトし始めると同時に誘電損失は大きくなる。ここでBiMnO3成分の下限は、得ようとする磁器コンデンサの規格によって決定されるが、おおむね1.0%である。
【0009】
次に、Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分は誘電損失(tand)を小さくすることに寄与し、その結果、自己発熱を低くする効果をもつ重要な唯一の成分である。Ba1/2NbO3とBa1/2TaO3とはほぼ同じ効果をもつので、それぞれ単独でまたは混合して使用してもよい。Ba1/2NbO3とBa1/2TaO3はいずれもBaTiO3のキュリー点を低温側にシフトさせる効果をもつ。ただし、Ba1/2NbO3成分は1モル%当り20℃だけ低温側へシフトさせるのに対して、Ba1/2TaO3成分は1モル%当り26℃だけ低温側へシフトさせる効果を有する。
【0010】
さらに、Bi2/3TiO3成分はBaTiO3のキュリー点を低温側へシフトさせる主役を果している。1モル%当り6.7℃低温側へシフトさせる効果をもつ。低温シフターとして働く成分は数多く存在するが、その中でもBi2/3TiO3成分は容量の温度特性の平滑化に寄与し、また誘電率を比較的高く保持するのにも寄与している。さらに磁器組成物の焼結温度を1200℃前後まで低下させる焼結促進効果があり、製造プロセスの省エネルギー化にも寄与している。
【0011】
本発明の誘電体磁器組成物は、BaTiO3を主成分とする固溶体組成において、BiMnO3成分を1.0モル%〜2.0モル%、Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分を0.3モル%〜1.2モル%、Bi2/3TiO3成分を9.0モル%〜15.0モル%、SrTiO3成分を1.0モル%〜4.0モル%、BaSnO3成分を0.5モル%〜3.0モル%、BaZrO3成分を0.1モル%〜3.0モル%、および88.0モル%〜75.0モル%のBaTiO3成分を含有する誘電体磁器組成物であることを特徴とする。
【0012】
この構成により、鉛を含有することなく、キュリー点の低下を達成し、中高圧用磁器コンデンサに要求される、容量の温度特性が平滑で誘電率が高く、自己発熱が低い等の特性を得ることができる。
この構成によれば、誘電体磁器組成物の材料設計において重要なファクターの一つであるキュリー点(誘電率の温度変化において誘電率の値が最大値を示す温度)を室温付近の15℃〜20℃にすることができる。すでに述べた9.0モル%〜15.0モル%Bi2/3TiO3成分と0.3モル%〜1.2モル% Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分とだけではキュリー点を15℃〜20℃まで低下させるのは困難であるが、さらなる低温シフターとして1.0モル%〜4.0モル%のSrTiO3成分、0.5モル%〜3.0モル%のBaSnO3成分および0.1モル%〜3.0モル%のBaZrO3成分の3成分を選択し、添加することにより、さらにキュリー点を低下することができた。それぞれの成分の低温側へのシフト効果は、SrTiO3成分では5℃/モル%、BaSnO3成分では7℃/モル%、BaZrO3成分では4℃/モル%である。ここでキュリー点の設計のみについては、これらのうちの1成分を使用するだけで充分であるが、しかし、容量の温度特性の平滑化の観点からはできるだけ多成分を同時に使用することが望ましい。
【0013】
本発明の誘電体磁器組成物は、BaTiO3を主成分とする固溶体組成の合計量100モル%に対して1.5モル%以下のBaCO3を添加することを特徴とする。
この構成により、鉛を含有することなく、特に誘電率を高めることができ、中高圧用磁器コンデンサに要求される、容量の温度特性が平滑で、誘電率が高く、自己発熱が低い等の特性を得ることができる。
この固溶体組成100モル%に対して、さらに過剰のBaCO3を1.5モル%以下の範囲内で添加することにより、磁器の粒成長を抑制しつつわずかではあるが焼結密度を高め、それらの結果、誘電率を5%〜10%高くすることができるように寄与する。一方、1.5モル%を超えるBaCO3の添加は逆に誘電率の値を小さくし、望ましくない。
【0014】
本発明の誘電体磁器組成物は、BaTiO3を主成分とする固溶体組成の合計量100モル%に対して1.0モル%以下のBi2O3成分を添加することを特徴とする。
この構成により、鉛を含有することなく、特に容量の温度特性の平滑な中高圧用磁器コンデンサが得られ、容量の温度特性が平滑で、誘電率が高く、自己発熱が低い等の特性を得ることができる。
この固溶体組成100モル%に対して、過剰のBi2O3を1.0モル%以下の範囲で添加することは容量の温度特性の平滑化(特に高温側の)にわずかではあるが効果がある。一方1.0モル%を超える添加は誘電率の低下などが起こるので望ましくない。
【0015】
本発明の誘電体磁器組成物は、BiMnO3成分を1.4モル%〜1.8モル%、Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分を0.6モル%〜0.9モル%、Bi2/3TiO3成分を11.0モル%〜13.0モル%、SrTiO3成分を1.5モル%〜2.5モル%、BaSnO3成分を0.5モル%〜1.5モル%、BaZrO3成分を0.2モル%〜0.5モル%、およびBaTiO3成分を84.8モル%〜79.8モル%の7成分から成ることを特徴とする合計100モル%のBaTiO3を主成分とする固溶体組成に対して0.3モル%〜1.0モル%のBaCO3成分を添加することを特徴とする。
この構成により、鉛を含有することなく、中高圧用磁器コンデンサに要求される、容量の温度特性が平滑で、誘電率が高く、自己発熱が低い等の特性を得ることができる。
【0016】
本発明の誘電体磁器コンデンサは、上記誘電体磁器組成物を誘電体基板とし、この誘電体基板を第1および第2の電極ではさむことによって、得られ、温度特性が平滑で大容量のコンデンサを得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明してきたよう、に本発明によれば、誘電率の温度特性が平滑で、比誘電率が高く、自己発熱が低い、全ての特性を満足して、鉛を含有しない誘電体磁器組成物およびそれを用いた中高圧用磁器コンデンサを提供することができる。ここで温度特性が平滑であるとは容量の変化率が±15%以下、比誘電率が高くとは比誘電率1000以上、自己発熱が低いとは温度40℃以下程度であるものとする。
【0018】
このように本発明は、新たなペロブスカイト型構造の固溶体組成により、鉛(Pb)を含有した材料組成と同等の特性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1として本発明の誘電体磁器組成物を用いた磁器コンデンサについて説明する。
図1(a)は本発明の実施の形態1における磁器コンデンサを示す透視側面図であり、図1(b)は本発明の実施の形態1における磁器コンデンサを示す透視正面図である。そして、図1(a),(b)において、1は誘電体磁器基板、2は第1層電極、3は第2層電極、4,5はリード線、6は外装材である。また、100は磁器コンデンサを示している。
【0021】
図1(a),(b)に示すように、磁器コンデンサ100は、円板型の誘電体磁器基板1の両主表面に、それぞれ第1層電極2、第2層電極3が形成され、更に、第2層電極3に、それぞれ一対のリード線4,5が半田接合された構成である。
【0022】
そして、リード線4,5の一部と、誘電体磁器基板1及び第1層電極2、第2層電極3を埋設する外装材6が形成される。
【0023】
誘電体磁器基板1としては、上述した本発明の誘電体磁器組成物が用いられる。
【0024】
そして、同様に、第1層電極2、第2層電極3としてZn,Cu,Ni,Ag,Pd,Alから選ばれる少なくとも一つの金属が用いられる。第2層電極3は、リード線4,5を接合する際の鉛フリー半田や半田との接着強度が高い金属を選べばよく、更に第2層電極3を設けることなく第1層電極2のみを形成してもよい。
【0025】
更に、リード線4,5としては、例えば、JIS C3102で規定される電気用軟銅線を原料とし、これに電気メッキ、又は、溶融半田を施した線材を使用することができる。
【0026】
また、外装材6としては、絶縁性を有する材料が用いられ、ガラス、絶縁性樹脂等を用いることができる。この中でも、絶縁性樹脂が加工適正、低価格であり好ましく、熱硬化性樹脂が加工適正に優れより好ましく、更に、熱硬化型のエポキシ樹脂が、強度、耐湿性に優れているため特に好ましい。そして、オプトクレゾールノボラック系,ビフェニール系,ペンタジエン系等のエポキシ樹脂があげられる。
【0027】
また、図1(a)に示すように、誘電体磁器基板1の両主表面の第2層電極3に接合された一対のリード線4,5は、誘電体磁器基板1を間に挟んで離間し平行に延設されるが、折り曲げられて、最終的には、誘電体磁器基板1の厚み方向で重なるように引き出されている。そして、一対のリード線4,5は、離間距離の略半分の位置、即ち、誘電体磁器基板1の厚みを略半分にする位置で重なっている。
【0028】
更に、図1(b)に示すように、一対のリード線4,5は、誘電体磁器基板1の表裏面でクロスするように第2層電極3にそれぞれ接合され、折り曲げられて、略平行になるように互いに離間して延設され、更に折り曲げられて、双方の離間距離を狭めた状態で略平行に延設されている。
【0029】
そして、磁器コンデンサ100の一対のリード線4,5は、回路基板のスルーホールに挿入されて、回路基板の裏面で半田接合され実装されるが、図1(b)に示すように、一対のリード線4,5が離間する距離をスルーホールへの挿入部分で狭くすることによって、リード線4,5の離間距離が大きくなっている部分がストッパとして作用し、挿入部分が規定されることから、外装材6から突出したリード線4,5の全ての部分がスルーホールに入り込むこともない。
【0030】
また、実装される磁器コンデンサ100の外装材6の最下部と回路基板の間にはリード線4,5の一部が必ず介在するので、半田接合時の熱の影響を受けにくい上、半田フラックスも確実に排出できる。そして、半田接合時の熱の影響を受けにくいので、半田付け温度の高い鉛(Pb)フリー半田が使用可能となる。
【0031】
次に、本発明の実施の形態1における磁器コンデンサの製造方法について説明する。
【0032】
まず、誘電体磁器組成物を構成する材料を配合し、通常の窯業的手法によって、湿式混合或いは造粒を行い、円板型の形状に加圧成形した後、これを焼成するが、この方法については、後述する。
【0033】
そして、得られた誘電体磁器基板1の両主表面に、第1層電極2として例えばZn電極を印刷法によって形成する。具体的には、亜鉛ペーストをスクリーン印刷法によって誘電体磁器基板1の両主表面に形成した後、約600℃で焼き付けを行う。この焼き付けは、中性又は還元雰囲気中で行う必要はなく、大気雰囲気下で行うことができる。なお、Zn電極のその他の形成方法としては、導電ペーストに一部を浸積して塗布するいわゆるディップ塗装や、電着法、鍍金法、蒸着法等の成膜方法を用いることができる。
【0034】
更に、第1層電極2であるZn電極表面の活性化処理を行う。この表面活性化処理は、Zn電極表面の酸化物を除去するものである。これにより、この上層に積層される第2層電極3のCu,Ni,Ag,Pd,Alから選ばれる少なくとも一つの金属を主体とする電極との密着性を向上させ、Zn電極と例えばCu電極との間に不安定な金属化合物を発生させることもない。Zn電極表面活性化処理としては、化学的エッチングを用いることができ、酸を利用することによって行われる。具体的には、pH3程度の例えばりんご酸を用いて行う。他の方法としては、表面を物理的に粗す等の物理的エッチングによっても良い。
【0035】
次に、第1層電極2であるZn電極の上に、第2層電極3として、例えばCu電極を形成する。第2層電極3であるCu電極の形成は、メッキ法によって行う。このメッキは電解メッキ、或いは、無電解メッキのいずれの方法であってもよいが、無電解メッキがセラミック素子特性を劣化させないと言う理由で好ましい。
【0036】
そして、第2層電極3であるCu電極の上にリード線4,5を鉛フリー半田等で半田付けし、リード線4,5の一部を除いて、絶縁性樹脂等でコーティングし、外装材6を形成する。
【0037】
(実施の形態2)
前記実施の形態1では、リード端子を回路基板のスルーホールに挿通して実装するタイプの磁器コンデンサについて説明したが、本実施の形態では実装型磁器コンデンサについて説明する。
図2は本発明の実施の形態2における面実装型磁器コンデンサを示す断面図であり、図2において、7,8はリード端子であり、200は面実装型磁器コンデンサを示している。なお、実施の形態1で説明したものと同様の部分には、同じ符号を付している。
【0038】
図2に示すように、面実装型磁器コンデンサ200は、円板状の誘電体磁器基板1の両主表面に、それぞれ第1層電極2、第2層電極3が形成され、更に、第2層電極3に、それぞれ一対のリード端子7,8が半田接合された構成である。
【0039】
そして、外装材6によって、誘電体磁器基板1、第1層及び第2層の電極2,3、リード端子の一部が埋設される。
【0040】
また、リード端子7,8の外装材6から突出した部分は、外部端子形成部を構成するものであり、このリード端子7,8の外部端子形成部を介して回路基板に表面実装できるようになっている。
【0041】
誘電体磁器基板1としては、実施の形態1で説明したように、本発明の誘電体組成物を主成分とする誘電体磁器が用いられ、同様に、第1層電極2、第2層電極3としては、Zn,Cu,Ni,Ag,Pd,Alから選ばれる少なくとも一つの金属が用いられる。
【0042】
また、外装材6としても、実施の形態1で説明したものと同様であり、絶縁性を有する材料を用いられ、ガラス、絶縁性樹脂等を用いることができ、絶縁性樹脂が加工適正、低価格であり好ましく、熱硬化性樹脂が加工適正に優れより好ましく、更に、オプトクレゾールノボラック系,ビフェニール系,ペンタジエン系等のエポキシ樹脂等に代表される熱硬化型のエポキシ樹脂が強度、耐湿性に優れているので特に好ましい。
【0043】
リード端子7,8としては、導電材料を用いることができるが、Fe,Cu,Niの少なくとも一つから選択される金属材料が好適に用いられ、電気的特性や加工性の面で有利である。
【0044】
次に、本発明の実施の形態2における面実装型磁器コンデンサの製造方法は、実施の形態1で説明したものと同様であるが、リード線4,5ではなく、第2層電極3の上にリード端子7,8が半田付けされ、リード端子7,8の一部を除いて、誘電体磁器基板1、第1層電極2、第2層電極3を絶縁性樹脂等でコーティングし、外装材6を形成し、面実装型磁器コンデンサ200を得ることができる。
なお、前記実施の形態1および2の磁器コンデンサはともに、単体基板を用いて形成したが、電極をはさんで積層した積層型磁器コンデンサについても適用可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0045】
次に、本発明の実施例として、本発明の誘電体磁器組成物およびこれを用いた磁器コンデンサについて詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。
表1、表2および表3にサンプルNo.1からNo.48までの本発明の実施例および比較例についての固溶体組成(モル%表示、合計100モル%)およびBaCO3およびBi2O3の過剰添加量(モル%表示)、さらにそれぞれのサンプルについて測定した誘電特性および自己発熱特性を示す。
【0046】
まず市販特級試薬BaCO3、TiO2(ルチル)、Bi2O3、Mn2O3、Nb2O5、Ta2O5、SrCO3、SnO2およびZrO2を用い、固溶体組成の合計量が0.1モル量になるように、それぞれの試薬配合重量を求め、電子天秤で秤量した。例えば、サンプルNo.2では、BaCO3 16.686g、TiO2 7.766g、Bi2O3 2.174g、Mn2O3 0.1579g、Nb2O5 0.0665g、SrCO3 0.2953g、SnO2 0.1507g、およびZrO20.0370gである。
【0047】
次に、これらの各成分をらいかい機(メノウ製乳鉢と乳棒)を用いて120分間、乾式混合を行った。この混合粉体を30mmΦの金型(ピストンシリンダー型)を用いて200kg/cm2の圧力で加圧成形した。これらの円柱形の圧粉体をアルミナ板上で、200℃/hの昇温速度で1060℃まで昇温した後2時間保持し、その後約200℃/hで室温まで冷却した。
【0048】
この仮焼体をらいかい機(メノウ製乳鉢と乳棒)を用いて90分間乾式粉砕した。次に、ポリビニールアルコール7%水溶液を粉体重量に対し5%添加混合し、50メッシュのふるいを通して、造粒した。
【0049】
この造粒物を10mmΦの金型を用い700kg/ cm2の加圧力で円板形に加圧成形した。これらの同一サンプルの円板成形体を5〜6枚造粒粉を介して積み重ね、ジルコニア敷粉の上にセットした後、電気炉を用いて本焼成を行った。本焼成条件は、昇温及び降温速度は200℃/h、昇温の途中700℃の温度で3時間保持した後、さらに昇温し、保持温度1200℃(あるいは1220℃)で、2時間保持した。本焼成により得られた誘電体磁器の典型的な大きさは直径約8.3mm、厚さ約1.0mmである。
【0050】
次に、得られた誘電体磁器の表面に軽く付着している造粒粉を除去し、面取りを行った後、形状寸法をマイクロメーターで測定した後、磁器円板の表面にAg電極を塗布し、700℃で15分間の焼き付けを行った。そしてAg電極両表面に、それぞれリード線を半田付けした。更に、リード線の端部を除いて、エポキシ樹脂をコーティングすることにより、外装材を形成した磁器コンデンサを得た。
【0051】
次に、得られた磁器コンデンサの静電容量(C)、誘電損失(tanδ)、温度特性(εr−TC)、自己発熱特性(ΔT)を測定した。
静電容量(C)と誘電損失(tanδ)はYHP製Cメータ4278Aを使用して1V/1KHzの信号電圧下で測定した。これらの静電容量(C)とすでにマイクロメーターを用いて測定した電極面積、電極間距離(厚み)を用いて比誘電率(εr)を計算して求めた。温度特性(εr−TC)は、温度毎の静電容量(C)をYHP製Cメータ4278Aで測定し、20℃での値を基準として−25℃の値/+85℃の値を%表示で求めた。自己発熱特性(ΔT)は磁器コンデンサに、AC500Vp、周波数100KHzを印加し、Φ0.1mmのKタイプの熱電対を磁器コンデンサの外装材表面に密着させ、温度上昇が安定した時の外装材表面の温度を測定し、この表面温度と、その時の雰囲気温度との差を自己発熱特性(ΔT)とした。
【0052】
これらの測定結果、およびそれらを用いて計算で求めた結果を表1、2および3に固溶体組成等と共に示した。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
【表3】

【0056】
表1、表2および表3の結果から明らかなように、本発明の実施例の組成の誘電体磁器を用いた磁器コンデンサは、鉛を含有せず、比誘電率の温度特性(εr−TC)は±15%以下(R特性)と優れた温度平滑性を示し、しかも比誘電率(εr)は1000以上と高く、かつ自己発熱(ΔT)は40℃以下の低いという全ての特性を満足することができた。
【0057】
(実施例1)
表1のNo.2からNo.10までの組成をもつ誘電体磁器コンデンサについての結果からわかるように、BiMnO3量が1.0モル%から2.0モル%までの組成は、すべて温度特性が±15%以下(R特)の平滑性を保ち、かつ比誘電率の値は1000以上と高く、しかも自己発熱(ΔT)は40℃以下と低い値を示している。これらに対し、比較例1に示す表1のNo.1の誘電体磁器コンデンサは、BiMnO3量が1.0モル%未満と少なく、したがって、比誘電率の温度特性が変化率±15%以上となりR特性を満たしていない。一方、比較例2のNo.11の誘電体磁器コンデンサは、BiMnO3量が2.0モル%を越えており、したがって誘電損失(tanδ)が1%以上あり、自己発熱(ΔT)が47℃と高く、40℃を越えており実用に供することができない。
【0058】
なお、実施例1では、BiMnO3量とBa1/2NbO3量のモル比が2:1に固定されているが、必ずしもこのモル比に限定されるものではない。ただ、このモル比の近傍組成は、温度特性の平滑化と誘電損失を小さくする効果を同時にバランスよく満たすものである。さらに実施例1の結果からわかるように、BiMnO3量が1.4モル%〜2.0モル%の磁器組成物は、温度特性が変化率±10%以下(B特性)の優れた平滑化を示す。
【0059】
(実施例2)
表1に示した実施例2のNo.13とNo.14はBa1/2NbO3の適切量の限界を示している。すなわち、Ba1/2NbO3量が0.3モル%〜1.2モル%の範囲ではerの値は1000以上、tandは1.0%未満であり、自己発熱(ΔT)は40℃以下であり、比誘電率の温度特性(er−TC)は変化率が±15%以下(R特性)を満たしている。なおBa1/2NbO3量が0.5モル%〜1.0モル%の誘電体磁器については、すでに実施例1に示した通りである。
【0060】
これに対してBa1/2NbO3量が0.3モル%未満の比較例3のNo.12ではtandが1%を越え、自己発熱(ΔT)が40℃を越えて実用的ではない。またBa1/2NbO3量が1.2モル%を越えた比較例4のNo.15では比誘電率εrが1000未満と小さく、本発明の請求範囲外となる。
【0061】
(実施例3)
表1に示した実施例3の結果からわかることは、Bi2/3TiO3量が9.0モル%から15.0モル%の範囲の誘電体磁器コンデンサは、比誘電率の温度特性が±15%以下(R特性)、tandが1%以下、自己発熱(ΔT)が40℃以下および比誘電率erが1000以上のすべての特性を同時に満足している。なおBi2/3TiO3量が12.0モル%から15.0モル%の範囲については、すでに実施例1において示した通りである。
【0062】
これに対し、Bi2/3TiO3量が9.0モル%未満の比較例5のNo.16では温度特性が−17%でありR特性を満たしていない。一方、Bi2/3TiO3量が15.0モル%を越えた比較例6のNo.21では比誘電率εrの値が1000未満となり、本発明の請求範囲外となる。
【0063】
(実施例4)
表2に示した実施例4では、誘電損失(tanδ)を小さくし、自己発熱(ΔT)を低くする効果をもつ成分としてBa1/2TaO3成分を用いた。これらの結果からわかることは、Ba1/2TaO3量が0.3モル%(No.23に対応)から1.2モル%(No.29に対応)までの範囲の誘電体磁器はBa1/2NbO3成分の場合と同様、比誘電率の温度特性が変化率±15%以下、tandが1%以下、自己発熱(ΔT)が40℃以下、比誘電率erの値が1000以上の特性をすべて同時に満たしている。また、固溶体組成としてBa1/2NbO3成分とBa1/2TaO3成分とを同時に用いても、その合量が単体量と同じであればコンデンサ特性はほぼ同じ値が得られる。
【0064】
さらにBa1/2TaO3成分を用いた場合でも、Ba1/2NbO3成分の場合と同様、BiMnO3量が1.0モル%未満(比較例7のNo.22)では比誘電率の温度特性が±15%以下(R特性)とすることはできない。またBiMnO3量が1.0モル%未満(比較例7のNo.22)では温度特性の変化率±15%以下(R特性)を得ることができない。またBiMnO3量が2.0モル%を越えると(比較例8のNo.30)、tanδが1%を越え、自己発熱が40℃を越えて、実用的ではなくなる。
【0065】
(実施例5)
表3に示した実施例5および実施例9では、チタン酸バリウムを主成分とする固溶体組成100モル%に対して過剰に添加したBaCO3成分のモル%量に依存して、誘電体磁器コンデンサの特性がどの様に変化するかを示している。これらの結果からわかることは、BaCO3成分の過剰添加量の増加にしたがって比誘電率εr値はわずかではあるが増加し、tanδの値は小さくなる。しかし過剰量が1.0モル%以上になるとδrは減少し始め、tanδは大きくなり始める。そして過剰量が1.5モル%を越えると(No.36)δrの値は1000未満となるため、BaCO3成分の過剰添加量は1.5モル%を越えないようにするのが望ましい。
【0066】
一方、比誘電率ん温度特性は、BaCO3成分の過剰量の増加と共に平滑化する。しかしBaCO3過剰量が1.5モル%以上になると温度特性の平滑化は逆に疎外される傾向がみられる。
【0067】
(実施例6)
表3に示した実施例6および実施例10は、固溶体組成100モル%に対して過剰添加したBi2O3成分のモル%量と磁器コンデンサ特性との関係を示している。Bi2O3成分の過剰添加は温度特性をわずかではあるが平滑にし、tanδを小さくし、自己発熱も小さくする実用上好ましい効果をもっているが、同時にεrをわずかではあるが減少させる好ましくない効果ももっている。特に、Bi2O3過剰量が1.0モル%を越えると(No.41)εrの値は1000未満となるため、Bi2O3過剰量は1.0モル%以内にするのが望ましい。
【0068】
(実施例7)
表3に示す実施例7および実施例11、比較例12は固溶体組成に占めるBaTiO3の主成分量の変化とコンデンサ特性の関係を示している。これらの結果からわかることは、BaTiO3量が88.0モル%を越えると(No.42)、比誘電率は高いが、温度特性についても−25℃での比誘電率の変化率は±15%以上となり、十分なR特性を満たさなくなる。従ってBaTiO3量は88.0モル%とするのが望ましい。一方、BaTiO3量が75.0モル%未満の組成(No.48)ではεrの値が1000未満となると同時に温度特性も上記変化率が±15%を越えるので、本発明の請求範囲外とする。
【0069】
ここで、本発明における最も好ましい誘電体磁器組成物について詳細に説明する。それは、下記の誘電体磁器組成物である。すなわち、BiMnO3成分を1.4モル%〜1.8モル%、Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分を0.6モル%〜0.9モル%、Bi2/3TiO3成分を11.0モル%〜13.0モル%、SrTiO3成分を1.5モル%〜2.5モル%、BaSnO3成分を0.5モル%〜1.5モル%、BaZrO3成分を0.2モル%〜0.5モル%、およびBaTiO3成分を84.8モル%〜79.8モル%の7成分から成ることを特徴とする合計100モル%のチタン酸バリウムを主成分とする固溶体組成に対して0.3モル%〜1.0モル%のBaCO3成分を過剰添加することを特徴とする誘電体磁器組成物である。
【0070】
この組成物に対応する実施例は、実施例1のNo.4、No.5、No.6、No.9、実施例4のNo.25、No.26、実施例5のNo.32、No.33、No.34、実施例6のNo.38である。これらの組成物を用いて作製された誘電体磁器コンデンサは、比誘電率(εr)が1900以上と高く、誘電損失(tanδ)が0.40%以下と小さく、自己発熱の温度は30℃以下と低く、比誘電率の温度特性が変化率±10%以下(Β特性)の平滑性がよい等の優れた特性を全て満たしている実用性の高い中高圧用磁器コンデンサを提供することができる。
なお、ここで比誘電率の温度特性は-25℃のときの値を基準とした変化率であらわすものとする。
【0071】
以上説明した様に本発明によれば、誘電率の温度特性が平滑で、比誘電率が高く(1000以上)、自己発熱が低く、全ての特性を満足しつつも、鉛を含有しないことから、種々のデバイスに適用可能である。なお、本発明の誘電体磁器組成物は、板状に成形しその対向表面に電極を形成して磁器コンデンサとし、液晶バックライトインバーターのバラスト回路、スイッチング電源の1次、2次スナバー回路、テレビ・CRTディスプレイなどの水平共振回路、インバーター蛍光灯、電子機器の高圧・パルス回路、通信用モデムの対サージ回路等として広く使用される。また、一つの電子部品として用いることができるのは言うまでもないが、本発明の誘電体磁器を配線基板として、その表面に対向電極を形成し、その部分をコンデンサとし、更に、導体、抵抗体等の電子回路を形成するなど配線基板用の基板材料として用いることもでき、大面積を要することなく、温度特性に優れた付加容量を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施の形態1の誘電体磁器コンデンサを示す図
【図2】本発明の実施の形態2の誘電体磁器コンデンサを示す図
【符号の説明】
【0073】
100 磁器コンデンサ
1 誘電体磁器基板
2 第1層電極
3 第2層電極
4、5 リード線
6 外装材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸バリウムを主成分とする固溶体であって、
BiMnO3成分を1.0モル%〜2.0モル%、Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分を0.3モル%〜1.2モル%およびBi2/3TiO3成分を9.0モル%〜15.0モル%含有する誘電体磁器組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の誘電体磁器組成物であって、
チタン酸バリウムを主成分とする固溶体組成が、88.0モル%〜75.0モル%のBaTiO3成分、1.0モル%〜4.0モル%のSrTiO3成分、0.5モル%〜3.0モル%のBaSnO3成分、および0.1モル%〜3.0モル%のBaZrO3成分を含有する誘電体磁器組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物であって、
チタン酸バリウムを主成分とする固溶体組成の合計量100モル%に対して、1.5モル%以下のBaCO3成分を添加する誘電体磁器組成物。
【請求項4】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物であって、
チタン酸バリウムを主成分とする固溶体組成の合計量100モル%に対して、1.0モル%以下のBi2O3成分を添加する誘電体磁器組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載の誘電体磁器組成物であって、
BiMnO3成分を1.4モル%〜1.8モル%、Ba1/2NbO3またはBa1/2TaO3成分を0.6モル%〜0.9モル%、Bi2/3TiO3成分を11.0モル%〜13.0モル%、SrTiO3成分を1.5モル%〜2.5モル%、BaSnO3成分を0.5モル%〜1.5モル%、BaZrO3成分を0.2モル%〜0.5モル%、およびBaTiO3成分を84.8モル%〜79.8モル%の7成分から成る合計100モル%のチタン酸バリウムを主成分とする固溶体組成に対して0.3モル%〜1.0モル%のBaCO3成分を添加した誘電体磁器組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の誘電体磁器組成物を誘電体基板とし、
前記誘電体基板を第1および第2の電極ではさんだ誘電体磁器コンデンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2006−273698(P2006−273698A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−99406(P2005−99406)
【出願日】平成17年3月30日(2005.3.30)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】