説明

チタン酸バリウム系粉末およびその製造方法、誘電体セラミックならびに積層セラミックコンデンサ

【課題】積層セラミックコンデンサにおいて、絶縁不良が生じにくくするとともに、負荷試験における故障寿命特性を改善する。
【解決手段】積層セラミックコンデンサ1に備える誘電体セラミック層2を構成する誘電体セラミックを得るためのチタン酸バリウム系粉末として、平均粒径D1が10〜200nmの範囲内にあり、最大粒径をD2、最小粒径をD3としたとき、1.0<D2/D1≦2.0、および0.5≦D3/D1<1.0の関係を満足する、といった粒度分布がシャープであるものを用いる。これによって、セラミックスラリーでの分散性が極めて高くなり、積層セラミックコンデンサ1における誘電体セラミック層2の密度向上および表面の平滑化が可能になり、絶縁不良が生じにくくするとともに、負荷試験における故障寿命特性を改善することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、チタン酸バリウム系粉末およびその製造方法、上記チタン酸バリウム系粉末を焼結させてなる誘電体セラミック、ならびにこの誘電体セラミックを用いて構成される積層セラミックコンデンサに関するもので、特に、小型かつ大容量化が図られた積層セラミックコンデンサの信頼性を向上させるための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサにおいて、単位体積当りの静電容量を増加させるための手段として、誘電体セラミック層の薄層化が挙げられる。誘電体セラミック層の薄層化にはショート不良や信頼性劣化の懸念が伴うが、これに対しては、誘電体セラミック層の緻密性や平滑性を向上させることが有効である。
【0003】
誘電体セラミック層を緻密にするためには、まず、誘電体セラミック層に含まれる誘電体セラミック粉末を微粒にする必要がある。そして、ある平均粒径に対し、それより大きい粗粒をできるだけ低減させることが必要である。また、平均粒径より小さい粒子は、焼成する際に非常に活性な状態となり、異常粒成長の直接的な原因となる。したがって、平均粒径に対し、それより小さい微粒も低減させることが必要となる。
【0004】
上記のような課題を解決し得る技術として、たとえば特開2002‐265277号公報(特許文献1)には、複数の微粒子を凝集させて1つの粒子群とし、その粒子群で見た場合、粒子径ばらつきが低減されるようにした、セラミック粉末の製造方法が開示されている。また、この特許文献1には、セラミック粒子の粒度分布を、ばらつき度(σ/平均粒径)で30%以下とすることが開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1において開示されるセラミック粒子の粒径は、微粒子といっても100nm程度であり、その粒子群の径は500nmを超える大きさである。このように粒子径が大きいと、誘電体セラミック層の薄層化によって、ショート不良が多発したり、絶縁性低下による寿命低下が顕著となったりする。
【0006】
また、特許文献1に記載の方法(セラミック微粒子を所定の条件下で凝集させる、という方法)では、粒径100nm以下の領域においては、粒径ばらつきの小さい粉末を得るのは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002‐265277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明の目的は、上述したような問題を解決し得る、誘電体セラミック粉末およびその製造方法、特に、チタン酸バリウム系粉末およびその製造方法を提供しようとすることである。
【0009】
この発明の他の目的は、上記チタン酸バリウム系粉末を焼結させてなる誘電体セラミックを提供しようとすることである。
【0010】
この発明のさらに他の目的は、上記誘電体セラミックを用いて構成される積層セラミックコンデンサを提供しようとすることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明に係るチタン酸バリウム系粉末は、上述した技術的課題を解決するため、平均粒径D1が10〜200nmの範囲内にあり、最大粒径をD2、最小粒径をD3としたとき、1.0<D2/D1≦2.0、および0.5≦D3/D1<1.0の関係を満足することを特徴としている。
【0012】
上記チタン酸バリウム系粉末は、平均粒径D1が12〜107nmの範囲内にあることが好ましい。
【0013】
この発明は、また、上記この発明に係るチタン酸バリウム系粉末を製造する方法にも向けられる。この発明に係るチタン酸バリウム系粉末の製造方法は、得ようとするチタン酸バリウム系粉末の原料となる分級前の素原料粉末を用意する工程と、素原料粉末を分散媒中に分散させる工程と、素原料粉末を分散媒中で沈降させる工程と、分散媒における所定の沈降距離にある素原料粉末のみを取り出すことによって、目的とするチタン酸バリウム系粉末を得る工程とを備えることを特徴としている。
【0014】
この発明は、また、上記この発明に係るチタン酸バリウム系粉末を焼結させて得られた誘電体セラミックにも向けられる。
【0015】
この発明は、さらに、積層された複数の誘電体セラミック層、および誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された複数の内部電極を備える、積層セラミックコンデンサにも向けられる。この発明に係る積層セラミックコンデンサは、上記誘電体セラミック層が、上記この発明に係る誘電体セラミックからなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係るチタン酸バリウム系粉末によれば、粒度分布が非常にシャープであるため、これを含むセラミックスラリーを得たとき、分散性が極めて高くなる。このことは、セラミックスラリーから得られたセラミックグリーンシートを焼結させてなる、積層セラミックコンデンサにおける誘電体セラミック層の密度向上および表面の平滑化につながる。よって、積層セラミックコンデンサにおいて、ショートパスがほとんどなくなるため、絶縁不良が生じにくく、また、負荷試験における故障寿命特性を改善することができる。
【0017】
また、この発明によれば、チタン酸バリウム系粉末のX線回折で求めた積分幅が小さくなり、すなわち結晶性が良好になり、そのため、安定した焼結性が期待される。
【0018】
この発明に係るチタン酸バリウム系粉末の平均粒径D1が12〜107nmの範囲内にあると、誘電体セラミック層の厚みが0.5μm以下において、上記の効果が特に顕著になる。
【0019】
この発明に係るチタン酸バリウム系粉末の製造方法によれば、目的とする粉末を得るため、分級による方法を用いているが、これは分散媒中を沈降する距離が粒径に比例することを利用し、ある一定時間沈降させた後に、狙いの粒径から算出された沈降距離にある粉末のみを取り出すようにしているので、粒度分布がシャープなチタン酸バリウム系粉末を容易に得ることができる。
【0020】
一般に、平均粒径を小さくすると、粒度分布がブロードになりやすく、これをシャープにするのは難しい。これに対して、この発明によれば、上述のように、分級によって粒度分布をシャープにするようにしているので、シャープな粒度分布を有するチタン酸バリウム系粉末を得ることができる。言い換えると、この発明において用いた分級によれば、チタン酸バリウム系粉末の平均粒径、最大粒径および最小粒径の各々を任意にコントロールすることができる。したがって、平均粒径、最大粒径および最小粒径の各々を種々に変更したチタン酸バリウム系粉末を用いて、誘電体セラミック層が薄層化された積層セラミックコンデンサの信頼性を評価することが容易になる。その結果、この発明によれば、誘電体セラミック層が薄層化された積層セラミックコンデンサにおいて、信頼性を向上させ得る、平均粒径、最大粒径および最小粒径間の関係を見出すことが容易になる。このようにして、この発明は、誘電体セラミック層が薄層化された積層セラミックコンデンサにおいて、信頼性を向上させ得る、平均粒径、最大粒径および最小粒径間の関係についての臨界的範囲を見出したことに重要な意義がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の一実施形態による積層セラミックコンデンサ1を図解的に示す断面図である。
【図2】実験例において作製された特定の試料に係るチタン酸バリウム系粉末のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1を参照して、まず、この発明に係るチタン酸バリウム系粉末を焼結させて得られた誘電体セラミックを用いて構成される積層セラミックコンデンサ1について説明する。
【0023】
積層セラミックコンデンサ1は、積層された複数の誘電体セラミック層2と誘電体セラミック層2間の特定の界面に沿って形成される複数の内部電極3および4とをもって構成される、コンデンサ本体5を備えている。内部電極3および4は、たとえばNiを主成分としている。
【0024】
コンデンサ本体5の外表面上の互いに異なる位置には、第1および第2の外部電極6および7が形成される。外部電極6および7は、たとえばAg、CuまたはAg−Pdを主成分としている。図1に示した積層セラミックコンデンサ1では、第1および第2の外部電極6および7は、コンデンサ本体5の互いに対向する各端面上に形成される。内部電極3および4は、第1の外部電極6に電気的に接続される複数の第1の内部電極3と第2の外部電極7に電気的に接続される複数の第2の内部電極4とがあり、これら第1および第2の内部電極3および4は、積層方向に関して交互に配置されている。
【0025】
このような積層セラミックコンデンサ1において、誘電体セラミック層2は、ABO(Aは、Baを必ず含み、さらにCaおよびSrの少なくとも一方を含むことがある。Bは、Tiを必ず含み、さらにZrおよびHfの少なくとも一方を含むことがある。)を主成分とするチタン酸バリウム系誘電体セラミックから構成される。
【0026】
上述の誘電体セラミックは、チタン酸バリウム系粉末を焼結させて得られるものであるが、この発明では、チタン酸バリウム系粉末として、平均粒径D1が10〜200nmの範囲内にあり、最大粒径をD2、最小粒径をD3としたとき、1.0<D2/D1≦2.0、および0.5≦D3/D1<1.0の関係を満足するというように、粒度分布が非常にシャープであるものが用いられることを特徴としている。このような数値限定の根拠は、後述する実験例から導き出すことができる。
【0027】
上述のように、粒度分布がシャープであるチタン酸バリウム系粉末によれば、これを含むセラミックスラリーにおいて、極めて高い分散性を実現することができる。したがって、このようなセラミックスラリーを用いると、誘電体セラミック層2の密度を向上させかつ表面の平滑性を向上させることができる。よって、積層セラミックコンデンサ1において、ショートパスがほとんどなくなるため、絶縁不良が生じにくく、また、負荷試験における故障寿命特性を改善することができる。
【0028】
また、上述したようなチタン酸バリウム系粉末によれば、X線回折で求めた積分幅が小さくなるため、すなわち結晶性が良好になるため、安定した焼結性を期待することができる。
【0029】
特に、チタン酸バリウム系粉末の平均粒径D1が12〜107nmの範囲内にあると、誘電体セラミック層2の厚みが0.5μm以下において、上記の効果が特に顕著になる。
【0030】
上述したような特定的な粒度分布を有するチタン酸バリウム系粉末は、たとえば、次のようにして製造されることができる。
【0031】
まず、得ようとするチタン酸バリウム系粉末の原料となる分級前の素原料粉末が用意される。この素原料粉末の平均粒径は10〜200nmの範囲内にある。
【0032】
次に、上記素原料粉末を分散媒中に分散させる工程が実施される。ここで、分散媒としては、典型的には純水が用いられるが、他の液体が用いられてもよい。後の沈降工程において、粒径により素原料粉末の沈降距離に差が出やすい液体であることが好ましい。
【0033】
次に、分散媒を放置して、素原料粉末を分散媒中で沈降させる工程が実施される。そして、一定時間放置した後、分散媒における所定の沈降距離にある素原料粉末のみを取り出すことによって、目的とする特定の粒度分布を有するチタン酸バリウム系粉末を得る工程が実施される。
【0034】
なお、上記の素原料粉末を取り出す工程では、通常、素原料粉末は、分散媒とともに取り出されるため、必要に応じて、取り出された素原料粉末から、分散媒を除去する工程が実施される。
【0035】
上述したチタン酸バリウム系粉末の製造方法によれば、目的とする粉末を得るため、分級による方法を用いているが、これは分散媒中を沈降する距離が粒径に比例することを利用し、ある一定時間沈降させた後に、狙いの粒径から算出された沈降距離にある粉末のみを取り出すようにしているので、特定の粒度分布を有する、すなわち粒度分布がシャープなチタン酸バリウム系粉末を容易に得ることができる。
【0036】
以下に、この発明による効果を確認するために実施した実験例について説明する。なお、以下の実験例では、チタン酸バリウム系粉末として、チタン酸バリウム(BaTiO)粉末を試料としたが、これに限らす、ABO(Aは、Baを必ず含み、さらにCaおよびSrの少なくとも一方を含むことがある。Bは、Tiを必ず含み、さらにZrおよびHfの少なくとも一方を含むことがある。)を主成分とするチタン酸バリウム系粉末についても、同様の実験結果が得られる。
【0037】
[実験例1]
(A)チタン酸バリウム粉末の作製
まず、主成分であるチタン酸バリウム(BaTiO)粉末を準備した。すなわち、BaCOおよびTiOの各粉末を秤量した後、ボールミルにより24時間混合し、熱処理を行ない、固相反応により、BaTiO粉末を得た。BaTiO粉末の狙いの粒径は、10nm、30nm、70nm、100nm、150nmおよび200nmの6水準であった。
【0038】
(B)チタン酸バリウム粉末の分級処理
上記(A)の工程で得られた、狙いの粒径が10nm、30nm、70nm、100nm、150nmおよび200nmの各々であるBaTiO粉末そのものを、それぞれ、表1に示した試料101、105、107、111、114および116とした。
【0039】
また、上記(A)の工程で得られた、狙いの粒径が10nm、30nm、70nm、100nm、150nmおよび200nmの各々であるBaTiO粉末を、フラスコ中の分散媒としての純水中に入れ、分散させ、一定時間放置した後に、所定の位置のBaTiO粉末を純水とともに回収した。
【0040】
この際、フラスコ中の純水の上部を残して回収したものを、表1に示した試料102、108、112および118とした。また、フラスコ中の純水の下部を残して回収したものを、表1に示した試料103、109および117とした。また、フラスコ中の純水の上部および下部の両方を残して回収したものを、表1に示した試料104、106、110、113、115および119とした。
【0041】
(C)誘電体セラミック原料粉末の作製
上記(B)の分級処理工程を経て得られたBaTiO粉末に、MgO、MnO、Dy、およびSiOの各粉末を、100BaTiO−1.0Dy−1.0Mg−0.3Mn−1.0Siで表わされるモル比となるように配合し、配合物をボールミルにより、5時間混合した。その後、乾燥、および乾式粉砕を行ない、チタン酸バリウム系誘電体セラミック原料粉末を得た。
【0042】
(D)積層セラミックコンデンサの作製
上記(C)の工程で得られたチタン酸バリウム系誘電体セラミック原料粉末に、ポリビニルブチラール系バインダおよびエタノール等の有機溶媒を加えて、ボールミルにより所定の時間湿式混合し、セラミックスラリーを作製した。このセラミックスラリーをダイコーターによりシート成形し、セラミックグリーンシートを得た。この実験例1では、セラミックグリーンシートの厚みを、焼成後において1.0μmとなるようにした。
【0043】
次に、上記セラミックグリーンシート上にNiを主体とする導電性ペーストをスクリーン印刷し、内部電極となるべき導電性ペースト膜を形成した。
【0044】
また、面方向で内部電極がある領域とない領域との間で生じ得る段差対策として、セラミックグリーンシート上の導電性ペースト膜が形成されない領域に、前述したセラミックスラリーを用いて、導電性ペースト膜の厚みと同等の厚みを有するセラミックペースト膜を形成した。
【0045】
そして、導電性ペースト膜およびセラミックペースト膜が形成されたセラミックグリーンシートを、導電性ペースト膜の引き出されている側が互い逆になるように積層し、有効層が1層となる生のコンデンサ本体を得た。
【0046】
次に、上記生のコンデンサ本体を、N雰囲気中にて300℃の温度に加熱し、バインダを燃焼させた後、酸素分圧10−10MPaのH−N−HOガスからなる還元性雰囲気中にて1150℃で2時間焼成し、焼結したコンデンサ本体を得た。
【0047】
次に、上記コンデンサ本体の両端面に、B−LiO−SiO−BaOガラスフリットを含有するCuペーストを塗布し、N雰囲気中において800℃の温度で焼き付け、内部電極と電気的に接続された外部電極を形成した。
【0048】
上記のように得られた積層セラミックコンデンサの外形寸法は、長さが1.6mmであり、幅が0.8mmであり、内部電極の対向面積は0.9mmであった。
【0049】
(E)評価
(E−1)チタン酸バリウム粉末の評価
上記(B)の工程で得られたチタン酸バリウム粉末の粒径および積分幅を評価した。
【0050】
まず、チタン酸バリウム粉末の粒径については、走査型電子顕微鏡により写真撮影し、その写真に映し出された粉末の輪郭を画像処理し、各粒子を円と見立ててその直径を測定することによって求めた。各試料について、500粒子以上について、その直径を測定し、そのデータから、平均粒径D1、最大粒径D2および最小粒径D3を求めた。
【0051】
また、X線回折により、チタン酸バリウム粉末の積分幅をそれぞれ分析した。
【0052】
(E−2)セラミックグリーンシートの評価
上記(D)の工程で得られたセラミックグリーンシートの密度および表面粗さを評価した。
【0053】
まず、密度については、次のように評価した。得られたセラミックグリーンシートを、10cm×10cmの寸法に切断し、その重量を測定した。また、その切断したセラミックグリーンシートにおける縦5箇所×横5箇所の計25箇所での厚みを測定し、体積を算出した。そして、このようにして求めた重量と体積とから、密度を算出した。各試料につき、これらの作業を10回繰り返し、その平均値を求めた。
【0054】
また、原子間力顕微鏡により、セラミックグリーンシートの表面粗さRaを測定した。各試料につき、この作業を3回繰り返し、その平均値を求めた。
【0055】
(E−3)積層セラミックコンデンサの評価
上記(D)の工程で得られた積層セラミックコンデンサに備える誘電体セラミック層を構成する誘電体セラミックについて、平均グレイン径およびそのばらつきを評価するとともに、積層セラミックコンデンサについて高温負荷試験を実施した。
【0056】
まず、誘電体セラミックのグレイン径を次のように測定した。試料となる積層セラミックコンデンサを破断し、1000℃でサーマルエッチングし、破断面を、走査型顕微鏡を用いて観察した。観察像から、画像解析を行ない、各グレインの円相当径をグレイン径とした。測定グレイン個数は300個とし、平均グレイン径とそのCV値とを求めた。
【0057】
また、高温負荷寿命試験では、温度85℃にて、積層セラミックコンデンサの絶縁抵抗の経時変化を測定した。印加する電圧は、グレイン個数によって変化させ、グレイン間の1つの粒界あたりの電界が0.5Vになるようにした。具体的には、
(誘電体セラミック層の厚み/平均グレイン径)−1
の式により、1つの誘電体セラミック層において厚み方向に並ぶグレイン間の粒界の個数を求め、それに0.5Vを掛けることにより、印加すべき電圧を決定した。高温負荷寿命試験は、50個の試料について行ない、2000時間経過するまでに、絶縁抵抗値が100kΩ以下になった試料を不良と判定し、この不良個数を求めた。
【0058】
以上の評価結果が表1に示されている。また、上記の(E−1)チタン酸バリウム粉末の評価において、走査型電子顕微鏡で撮影した写真のうち、試料107のものが図2(a)に、試料110のものが図2(b)に示されている。
【0059】
【表1】

【0060】
まず、図2を参照すれば、分級を施した試料110によれば、分級を施していない試料107に比べて、粒度分布がシャープになっており、粗粒側および微粒側ともに分級されていることがわかる。
【0061】
また、表1を参照しても、分級を施した試料は、分級を施していない試料に比べて、粒度分布がシャープになっており、かつ積分幅が小さくなっていることがわかる。このことから、分級を施した試料によれば、セラミックグリーンシートの密度が高く、かつ表面粗さRaが小さく、また、焼成後の積層セラミックコンデンサにおいて、グレイン径のばらつきが小さくなり、寿命特性が向上している。
[実験例2]
実験例2では、実験例1において(A)チタン酸バリウム粉末の作製、(B)チタン酸バリウム粉末の分級処理、および(C)誘電体セラミック原料粉末の作製の各工程を経て得られた誘電体セラミック原料粉末をそのまま用いた。したがって、実験例2における試料番号は、実験例1における試料番号と共通とした。
【0062】
実験例2では、実験例1の(D)積層セラミックコンデンサの作製において、セラミックグリーンシートの厚みを、焼成後で0.3μmとなるようにしたことを除いて、実験例1の場合と同様にして、(D)積層セラミックコンデンサの作製の工程を実施した。
【0063】
実験例2での評価結果が表2に示されているが、表2には、実験例1で実施した(E−1)チタン酸バリウム粉末の評価の結果がそのまま示されている。
【0064】
(E−2)セラミックグリーンシートの評価については、実験例1の場合と同様に実施した。また、実験例2では、実験例1で実施した(E−3)積層セラミックコンデンサの評価における平均グレイン径およびそのばらつきならびに高温負荷試験での不良個数を評価せず、積層セラミックコンデンサのショート率を評価した。すなわち、各試料につき、100個ずつ、テスターを用いて、抵抗値が10Ω以下のものをショート品と判定し、ショート率を百分率で求めた。
【0065】
【表2】

【0066】
表2からわかるように、誘電体セラミック層の厚みが0.3μmの積層セラミックコンデンサでは、チタン酸バリウム粉末の平均粒径D1が150nm以上になると、ショート率がほぼ100%になる。これは、粒子が大きいと、粒子がセラミックグリーンシート中にきれいに配列しにくくなるためであると考えられる。誘電体セラミック層の厚みが0.3μmと薄くなると、ショートを十分に低減するためには、12〜107nmの平均粒径D1が必要である。
【符号の説明】
【0067】
1 積層セラミックコンデンサ
2 誘電体セラミック層
3,4 内部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径D1が10〜200nmの範囲内にあり、最大粒径をD2、最小粒径をD3としたとき、1.0<D2/D1≦2.0、および0.5≦D3/D1<1.0の関係を満足する、チタン酸バリウム系粉末。
【請求項2】
平均粒径D1が12〜107nmの範囲内にある、請求項1に記載のチタン酸バリウム系粉末。
【請求項3】
請求項1または2に記載のチタン酸バリウム系粉末の製造方法であって、
得ようとするチタン酸バリウム系粉末の原料となる分級前の素原料粉末を用意する工程と、
前記素原料粉末を分散媒中に分散させる工程と、
前記素原料粉末を前記分散媒中で沈降させる工程と、
前記分散媒における所定の沈降距離にある前記素原料粉末のみを取り出すことによって、目的とするチタン酸バリウム系粉末を得る工程と
を備える、チタン酸バリウム系粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載のチタン酸バリウム系粉末を焼結させて得られた、誘電体セラミック。
【請求項5】
積層された複数の誘電体セラミック層、および前記誘電体セラミック層間の特定の界面に沿って形成された複数の内部電極を備える、積層セラミックコンデンサであって、
前記誘電体セラミック層は、請求項4に記載の誘電体セラミックからなる、
積層セラミックコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−241613(P2010−241613A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−88759(P2009−88759)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【Fターム(参考)】