説明

チタン酸リチウムナノ粒子、チタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体、その製造方法、この複合体からなる電極材料、この電極材料を用いた電極、電気化学素子及び電気化学キャパシタ

【課題】カーボンの還元作用でチタン酸リチウムに酸素欠損を発生させ、その酸素欠損部に窒素をドープしたチタン酸リチウムナノ粒子、このチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】酢酸と酢酸リチウムをイソプロパノールと水の混合物に溶解して混合溶媒を作製する。この混合溶媒とチタンアルコキシド、カーボンナノファイバー(CNF)を旋回反応器内に投入し、66,000N(kgms-2)の遠心力で5分間、内筒を旋回して外筒の内壁に反応物の薄膜を形成すると共に、反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進させ、チタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を高分散担持したCNFを得た。得られた複合体粉末を、窒素雰囲気中で900℃で3分間加熱し、チタン酸リチウムの結晶化を進行させたチタン酸リチウムのナノ粒子がCNFーに高分散担持された複合体粉末を得た。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸リチウムナノ粒子、チタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体とその製造方法、この複合体からなる電極材料、この電極材料を用いた電極及び電気化学素子及び電気化学キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、リチウム電池の電極としてリチウムを貯蔵、放出するカーボン材料等が用いられているが、マイナス電位が水素の還元分解電位より小さいので電解液の分解という危険性がある。そこで、特許文献1や特許文献2に記載のように、マイナス電位が水素の還元分解電位より大きいチタン酸リチウムの使用が検討されているが、チタン酸リチウムは出力特性が低いという問題点がある。そこで、チタン酸リチウムをナノ粒子化し、炭素に担持させた電極によって、出力特性を向上する試みがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−160151号公報
【特許文献2】特開2008−270795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これらの特許文献に記載の発明は、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて、化学反応を促進させる方法(一般に、メカノケミカル反応と呼ばれる)によって、カーボンに分散担持されたチタン酸リチウムを得るものである。この場合、反応物としては、例えば、チタン酸リチウムの出発原料であるチタンアルコキシドと酢酸リチウム、及びカーボンナノチューブやケッチェンブラック等のカーボン、酢酸等を使用する。
【0005】
これらの特許文献に記載のチタン酸リチウムナノ粒子を担持したカーボンを使用した電極は、優れた出力特性を発揮するものの、最近では、この種の電極において、さらに出力特性を向上させ、電気伝導度を向上させる要求がある。
【0006】
本発明は、上述したような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、その目的は、酸素欠損(酸素欠陥とも言う)部分に窒素をドープすることで、電極を構成した場合に出力特性及び電気伝導度を向上することを可能としたチタン酸リチウムナノ粒子、チタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体、その製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、前記複合体を用いた電極材料、この電極材料を用いた電極、電気化学素子及び電気化学キャパシタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本発明のチタン酸リチウムナノ粒子は、旋回する反応器内において、チタンアルコキシドと酢酸リチウム及びカーボン粒子を含む溶液に、ずり応力と遠心力を加えて反応させてチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を分散担持したカーボンを製造し、このチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を分散担持したカーボンを窒素雰囲気中で加熱して、カーボンの還元作用でチタン酸リチウムに酸素欠損を発生させ、その酸素欠損部に窒素をドープしたことを特徴とする。
この酸素欠損を有し、窒素をドープしたチタン酸リチウムナノ粒子とこれを高分散担持させたカーボンとから成る複合材料、この複合材料を使用した電極、この電極を用いた電気化学素子及び電気化学キャパシタ、前記複合体を構成するカーボンがグラファイトフラグメントのビルディングブロックであることも、本発明の一態様である。
【0008】
本発明のチタン酸リチウムナノ粒子の製造方法は、チタンアルコキシドと酢酸リチウムを溶媒とともに旋回する反応器内で反応させることで、反応物にずり応力と遠心力を加えて、化学反応を促進させてチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を製造し、このチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を窒素雰囲気中で加熱することを特徴とする。
【0009】
本発明のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体の製造方法は、旋回する反応器内において、チタンアルコキシドと酢酸リチウム及びカーボン粒子を含む溶液に、ずり応力と遠心力を加えて反応させてチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を分散担持したカーボン製造し、このチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を分散担持したカーボンを窒素雰囲気中で加熱することを特徴とする。
【0010】
前記チタン酸リチウムナノ粒子の製造方法、またはチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体の製造方法において、反応物と共に反応抑制剤を含む溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させることも本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、旋回する反応器内において、チタンアルコキシドと酢酸リチウム及びカーボン粒子を含む溶液に、ずり応力と遠心力を加えて反応させてチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を分散担持したカーボン製造し、このチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を分散担持したカーボンを窒素雰囲気中で加熱して、カーボンの還元作用でチタン酸リチウムに酸素欠損を発生させ、その酸素欠損部に窒素をドープすることにより、チタン酸リチウムナノ粒子を構成する結晶格子間に対するリチウムイオンの出入りが容易になる。その結果、このチタン酸リチウムナノ粒子をカーボンに担持させた複合体を電極や電気化学素子として使用した場合、その出力特性や容量を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1〜3のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体のTEM像を示す図面代用写真。
【図2】実施例1〜3のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体の放電挙動特性を示すグラフ。
【図3】実施例1〜3のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体の出力特性を示すグラフ。
【図4】本発明のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体において、酸素欠陥スピネル構造が存在することを示すグラフ。
【図5】本発明のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体において、チタン−窒素結合が存在することを示すグラフ。
【図6】各ガス雰囲気下におけるチタン酸リチウムナノ粒子を担持したカーボンのチタン価数変化を示すグラフ。
【図7】本発明のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体の構造を示すモデル図。
【図8】本発明の製造方法に使用する反応器の一例を示す斜視図。
【図9】本発明の実施例4と比較例6の充放電試験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態について、以下、説明する。
【0014】
(メカノケミカル反応)
本発明で用いる反応方法は、本出願人等が先に特許出願した特許文献1及び特許文献2に示した方法と同様のメカノケミカル反応であって、化学反応の過程で、旋回する反応器内で反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進させるものである。
【0015】
この反応方法は、例えば、図8に示すような反応器を用いて行うことができる。図8に示すように、反応器は、開口部にせき板1−2を有する外筒1と、貫通孔2−1を有し旋回する内筒2からなる。この反応器の内筒内部に反応物を投入し、内筒を旋回することによってその遠心力で内筒内部の反応物が内筒の貫通孔を通って外筒の内壁1−3に移動する。この時反応物は内筒の遠心力によって外筒の内壁に衝突し、薄膜状となって内壁の上部へずり上がる。この状態では反応物には内壁との間のずり応力と内筒からの遠心力の双方が同時に加わり、薄膜状の反応物に大きな機械的エネルギーが加わることになる。この機械的なエネルギーが反応に必要な化学エネルギー、いわゆる活性化エネルギーに転化するものと思われるが、短時間で反応が進行する。
【0016】
この反応において、薄膜状であると反応物に加えられる機械的エネルギーは大きなものとなるため、薄膜の厚みは5mm以下、好ましくは2.5mm以下、さらに好ましくは1.0mm以下である。なお、薄膜の厚みはせき板の幅、反応液の量によって設定することができる。
【0017】
この反応方法は、反応物に加えられるずり応力と遠心力の機械的エネルギーによって実現できるものと考えられるが、このずり応力と遠心力は内筒内の反応物に加えられる遠心力によって生じる。したがって、本発明に必要な内筒内の反応物に加えられる遠心力は1500N(kgms-2)以上、好ましくは60000N(kgms-2)以上、さらに好ましくは270000N(kgms-2)以上である。
【0018】
この反応方法においては、反応物にずり応力と遠心力の双方の機械的エネルギーが同時に加えられることによって、このエネルギーが化学エネルギーに転化することによるものと思われるが、従来にない速度で化学反応を促進させることができる。
【0019】
(チタン酸リチウム)
本発明に係るチタン酸リチウムナノ粒子を生成するために、例えば、チタンアルコキシドなどのチタン源、酢酸リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化リチウムなどのリチウム源を出発原料として使用し、前記メカノケミカル反応により、チタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を生成する。このチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を窒素雰囲気中で加熱することにより、酸素欠陥のサイトに窒素がドープされた本発明のチタン酸リチウムナノ粒子が生成される。
【0020】
(カーボン)
反応過程で所定のカーボンを加えることによって、5〜20nmのチタン酸リチウムを高分散担持させたカーボンを得ることができる。すなわち、反応器の内筒の内部に金属塩と上記の反応抑制剤と所定のカーボンを投入して、内筒を旋回して金属塩と上記の反応抑制剤とカーボンを混合、分散する。さらに内筒を旋回させながら水酸化ナトリウムなどの触媒を投入して加水分解、縮合反応を進行させ、金属酸化物を生成すると共に、この金属酸化物とカーボンを分散状態で、混合する。反応終了と共に、金属酸化物ナノ粒子を高分散担持させたカーボンを形成することができる。
【0021】
ここで用いるカーボンとしては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、無定形炭素、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、活性炭、メソポーラス炭素等を挙げることができ、これらの複合材を用いることもできる。
【0022】
(溶媒)
溶媒としては、アルコール類、水、これらの混合溶媒を用いることができる。例えば、酢酸と酢酸リチウムをイソプロパノールと水の混合物に溶解した混合溶媒を使用することができる。
【0023】
(反応抑制剤)
特許文献2に記載のように、前記メカノケミカル反応を適用する所定の金属アルコキシドに、反応抑制剤として該金属アルコキシドと錯体を形成する所定の化合物を添加することができる。これにより、化学反応が促進しすぎるのを抑制することができる。
【0024】
すなわち、金属アルコキシドに、これと錯体を形成する酢酸等の所定の化合物を該金属アルコキシド1モルに対して、1〜3モル添加して錯体を形成することにより、反応を抑制、制御することができることが分かった。なお、この反応によって生成されるのは、金属と酸化物の複合体のナノ粒子、例えば、チタン酸リチウムナノ粒子の前駆体である、リチウムと酸化チタンの複合体のナノ粒子であり、これを焼成することにより、チタン酸リチウムの結晶が得られる。
【0025】
このように、反応抑制剤として酢酸等の所定の化合物を添加することにより、化学反応が促進しすぎるのを抑制することができるのは、酢酸等の所定の化合物が金属アルコキシドと安定な錯体を形成するためであると考えられる。
【0026】
金属アルコキシドと錯体を形成することができる物質としては、酢酸の他、クエン酸、蓚酸、ギ酸、乳酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、プロピオン酸、レプリン酸等のカルボン酸、EDTA等のアミノポリカルボン酸、トリエタノールアミン等のアミノアルコールに代表される錯化剤が挙げられる。
【0027】
(加熱)
本発明は、チタン酸リチウムを窒素雰囲気中で加熱することによって、酸素欠陥が生じて、このサイトにリチウムが吸蔵、脱離するので、容量、出力特性が向上し、さらにこの酸素欠陥のサイトに窒素がドープして、チタン酸リチウムの電気伝導性が向上し、出力特性が向上するというメカニズムによるものと考えられる。
【0028】
得られたチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体の焼成工程において、室温から700〜900℃まで急熱することによって、チタン酸リチウムの結晶化が良好に進行することが分かった。この温度未満では良好な結晶化の進行が得られず、この温度を越えると相転移によって、エネルギー貯蔵特性の良好なチタン酸リチウムが得られない。
【0029】
(電極)
本発明により得られたチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体は、バインダーと混錬、成型し、電気化学素子の電極、すなわち電気エネルギー貯蔵用電極とすることができ、その電極は高出力特性、高容量特性を示す。
【0030】
(電気化学素子)
この電極を用いることができる電気化学素子は、リチウムイオンを含有する電解液を用いる電気化学キャパシタ、電池である。すなわち、本発明の電極は、リチウムイオンの吸蔵、脱着を行うことができ、負極として作動する。したがって、リチウムイオンを含有する電解液を用い、対極として活性炭、リチウムが吸蔵、脱着する金属酸化物等を用いることによって、電気化学キャパシタ、電池を構成することができる。
【実施例】
【0031】
(実施例1)
チタンアルコキシド1モルに対して、酢酸1.8モル、酢酸リチウム1モルとなる量の酢酸と酢酸リチウムをイソプロパノールと水の混合物に溶解して混合溶媒を作製した。この混合溶媒とチタンアルコキシド、カーボンナノファイバー(CNF)を旋回反応器内に投入し、66,000N(kgms-2)の遠心力で5分間、内筒を旋回して外筒の内壁に反応物の薄膜を形成すると共に、反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進させ、チタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を高分散担持したCNFを得た。この場合、混合溶媒に溶解するチタンアルコキシドとCNFの量は、得られる複合体の組成が、チタン酸リチウム/CNFが、70/30の質量比(w/w)となるように設定した。
【0032】
得られたチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を高分散担持させたCNFを、真空中において80℃で17時間乾燥することにより、チタン酸リチウムナノ粒子の前駆体がCNFに高分散担持された複合体粉末を得た。
【0033】
得られたチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体がCNFに高分散担持された複合体粉末を、窒素雰囲気中で900℃で加熱することによってリチウムを含有するチタン酸化物の結晶化を進行させ、チタン酸リチウムのナノ粒子がカーボンナノファイバーに高分散担持された複合体粉末を得た。
【0034】
(実施例2)
前記実施例1において窒素雰囲気中で900℃で加熱する代わりに、800℃で加熱した。
(実施例3)
前記実施例1において窒素雰囲気中で900℃で加熱する代わりに、700℃で加熱した。
【0035】
(比較例1)
前記実施例1において窒素雰囲気中で900℃で加熱する代わりに、真空中で900℃で加熱した。
(比較例2)
前記実施例1において窒素雰囲気中で900℃で加熱する代わりに、、真空中で800℃で加熱した。
(比較例3)
前記実施例1において窒素雰囲気中で900℃で加熱する代わりに、真空中で700℃で加熱した。
(比較例4)
前記実施例1において窒素雰囲気中で900℃で加熱する代わりに、空気(酸化雰囲気)中で900℃で加熱した。
(比較例5)
前記実施例1において窒素雰囲気中で900℃で加熱する代わりに、アルゴン/水素中(還元雰囲気)で900℃で加熱した。
【0036】
このようにして得られた実施例1〜3のチタン酸リチウムナノ粒子を担持したカーボンの各TEM像を図1に示した。図1においては5nm〜20nmのチタン酸リチウムのナノ粒子がカーボンナノファイバーに高分散担持していることが分かる。
【0037】
特に、図1の各TEM像にみられるように、本発明の「チタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体」は、CNFがつながった「グラファイトフラグメントのビルディングブロック」をとっており、この構造体にチタン酸リチウムナノ粒子が高分散担持されている。
【0038】
図7にこの構造のモデル図を示す。図7の左図の従来の電極では、チタン酸リチウムの粒子の表面にカーボンが担持し、このカーボンによってチタン酸リチウム粒子が接合された構造となっている。したがって、粒子内のリチウムイオンの遅い応答性のため低出力である。これに対して、図7の右図の本発明の構造では、チタン酸リチウムがナノ粒子となっているため、表面での速い応答性が支配的であるため、高出力であり、さらにカーボンがグラファイトフラグメントのビルディングブロックをとっているため、電気伝導度が向上して、さらに出力特性が向上する。
【0039】
前記のように構成した実施例1〜3及び比較例1〜3で得られた複合体粉末をバインダーとしてのポリフッ化ビニリデンPVDFと共に(Li4Ti512/CNF/PVDF 56:24:20)、SUS板上に溶接されたSUSメッシュ中に投入し、作用電極W.E.とした。前記電極上にセパレータと対極C.E.及び参照極としてLiフォイルを乗せ、電解液として、1.0M 四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4)/炭酸エチレンEC:炭酸ジメチルDEC(1:1 w/w)を浸透させて、セルとした。
【0040】
前記のようにして得られた実施例1〜3と比較例1〜3の複合体粉末を用いた電極を有するセルについて、その充放電挙動とそれに基づいて算出した容量を図2に、出力特性を図3に示す。図2及び図3において、左側のグラフが実施例1〜3、右側のグラフが比較例1〜3を示している。この場合、作用電圧は1.0−3.0Vであり、スキャンレートは10Cである。また、加熱時間は、各3分間である。
【0041】
図2から分かるように、窒素雰囲気中で加熱した実施例1〜3の複合体粉末を使用したセルは、真空中で加熱した比較例1〜3の複合体粉末を使用したセルに比較して、容量が増加していることが分かる。特に、比較例1の真空中で900℃まで加熱した複合体粉末を使用したセルが、従来技術では最も容量が大きかったが、実施例1〜3のセルはいずれも、比較例1の容量を大きく上回っている。特に、図2の右側のグラフから分かるように、700℃及び800℃で加熱した実施例2,3が、900℃まで加熱した実施例1に比較して、大きな容量が得られている。
【0042】
図3は、横軸にC-rateを、縦軸に放電容量維持率(%)を取った各セルの出力特性を示すグラフである。この図3から分かるように、C-rateが200Cの時点における放電容量維持率は、実施例1〜3のセルが比較例1〜3のセルを大きく上回っている。ここでも、注目すべき点は、真空中で加熱した比較例1〜3のセルでは、高温の900℃の場合が最も優れた出力特性を示すのに対して、実施例1〜3のセルの場合は、900℃よりも700℃及び800℃の方が優れた出力特性を示す点である。容量や充放電特性について差がなかった実施例2と3ではあるが、出力特性については700℃の方が優れている。
【0043】
本発明の複合体において、酸素欠陥を確認するために、図4に実施例1と比較例1,4のXPS_O 1sの分析結果を示す。
このXPS_O 1sの分析結果によれば、実施例1では酸素欠陥に由来するスペクトルを示すO 1s結合エネルギーのピーク533〜534eVが確認され、比較例1,4においては、通常の酸化物に由来するスペクトルを示す結合エネルギーのピーク530eVが確認される。
【0044】
本発明の複合体において、窒素ドープによりTi−N結合が存在していることを確認するために、図5に実施例1と比較例1,4のXPS_N 1sの分析結果を示す。
このXPS_N 1sの分析結果によれば、実施例1では、Ti−N結合を示すN 1s結合エネルギーのピーク396eVが検知されており、窒素がドープしていることが確認される。一方、比較例1,4では、369eVではN1s結合エネルギーのピークは確認されず、Ti−N結合が存在しない、すなわち窒素ドープが行われていないことが確認される。このように窒素ドープが確認された実施例1の複合体においては、チタン酸リチウムの電気伝導性が向上し、その結果、この複合体を用いた電極や電気化学素子において出力特性が向上する。
【0045】
本発明の複合体において、Tiの価数変化が生じていることを確認するために、図6に実施例1と比較例1,4のXPS_Ti 2Pの分析結果を示す。
このXPS_Ti 2P分析結果によれば、実施例1では、Ti3を示すTi 2P結合エネルギーのピーク458〜457eVが検知されており、3価のチタンが存在していることが確認される。一方、比較例1,4では、Ti4を示すTi 2P結合エネルギーのピーク460〜459eVが検知されており、4価のチタンが存在していることが確認される。なお、実施例1及び比較例1,4では、Ti2を示すTi 2P結合エネルギーのピーク455〜454eVは検知されず、2価のチタンが存在しないことが確認される。
【0046】
このように、図6の分析結果によれば、本発明の窒素雰囲気中加熱では真空中での加熱よりチタンの価数が4価から3価に減少していることが分かる。このことから、酸素欠陥によってチタンの価数が減少し、このサイトにリチウムが吸蔵、脱離するので、本発明の複合体を用いた電極や電気化学素子において容量、出力特性が向上する。
【0047】
前記図2及び図3に示した実施例1〜3と比較例1〜3との比較から明らかなように、窒素雰囲気中で加熱する本発明においては、実施例1,2の700〜800℃の方が実施例3の900℃よりも電気的特性が向上する。これに対して、真空中で加熱する比較例では、900℃の比較例1が最も特性が良い。このことは、真空中より窒素雰囲気中での加熱の方が低温の加熱でより優れた特性を引き出せることを示している。
【0048】
(実施例4)
チタンアルコキシド1モルに対して、酢酸1.8モル、酢酸リチウム1モルとなる量の酢酸と酢酸リチウムをイソプロパノールと水の混合物に溶解して混合溶媒を作製した。この混合溶媒とチタンアルコキシド、イソプロピルアルコール、カーボンナノファイバーを旋回反応器内に投入し、66,000N(kgms-2)の遠心力で5分間、内筒を旋回して外筒の内壁に反応物の薄膜を形成すると共に、反応物にずり応力と遠心力を加えて化学反応を促進させ、チタン酸リチウムの前駆体を高分散担持したケッチェンブラックを得た。
【0049】
得られたチタン酸リチウムの前駆体を高分散担持させたカーボンナノファイバーを、真空中において80℃で17時間乾燥することにより、チタン酸リチウムの前駆体がカーボンナノファイバーに高分散担持された複合体粉末を得た。
【0050】
得られたチタン酸リチウムの前駆体がカーボンナノファイバーに高分散担持された複合体粉末を、窒素雰囲気中で800℃まで急速加熱することによってリチウムを含有するチタン酸化物の結晶化を進行させ、チタン酸リチウムのナノ粒子がカーボンナノファイバーに高分散担持された複合体粉末を得た。
【0051】
上記のようにして得られた複合体粉末9重量部と、1重量部のPVDF(ポリフッ化ビニリデン)バインダーを混練し、圧延してシートを形成した。このシートを真空乾燥後、銅箔に接合し、負極とした。
【0052】
また、活性炭(クラレケミカル社製、YP−17)8重量部と、1重量部のPTFEバインダー(ポリテトラフルオロエチレン)、導電性材料としてカーボンナノファイバー1重量部とを混練し、圧延してシートを形成した。このシートを真空乾燥後、アルミニウム箔に接合し、正極とした。
【0053】
これらの電極を、LiBF4、プロピレンカーボネート溶液を注入したビーカーに、セルロース系のセパレータを介して、対向させてハイブリッドキャパシタセルを作製した。
【0054】
(比較例6)
加熱を真空中で行った以外は実施例4と同様にしてハイブリッドキャパシタセルを作製した。
これらのセルについて、定電流で充放電試験を行い、エネルギー密度とパワー密度を測定したところ、図9に示すような結果が得られた。図9からわかるように、実施例4のハイブリッドキャパシタのレート特性は比較例6のハイブリッドキャパシタより良好であり、400Cでの容量保持率は1.25倍になっている。
【符号の説明】
【0055】
1…外筒
1−2…せき板
1−3…内壁
2…内筒
2−1…貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタン酸リチウムに酸素欠損を発生させ、その酸素欠損部に窒素をドープしたチタン酸リチウムナノ粒子。
【請求項2】
旋回する反応器内において、チタン源とリチウム源を含む溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させてチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を製造し、この前駆体を窒素雰囲気中で加熱して生成した請求項1に記載のチタン酸リチウムナノ粒子。
【請求項3】
前記請求項1または請求項2に記載のチタン酸リチウムナノ粒子をカーボンに分散担持させたことを特徴とするチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体。
【請求項4】
前記カーボンがグラファイトフラグメントのビルディングブロックであることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体。
【請求項5】
前記請求項4に記載のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体を含有する電極。
【請求項6】
前記請求項5に記載の電極を備えた電気化学素子。
【請求項7】
前記請求項5に記載の電極を負極に用い、分極性電極を正極に用いたことを特徴とする電気化学キャパシタ。
【請求項8】
旋回する反応器内において、チタン源とリチウム源を含む溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させてチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を製造し、この前駆体を窒素雰囲気中で加熱して請求項1または請求項2に記載のチタン酸リチウムナノ粒子を製造することを特徴とするチタン酸リチウムナノ粒子の製造方法。
【請求項9】
前記反応器内において、反応物と共に反応抑制剤を含む溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させることを特徴とする請求項8に記載のチタン酸リチウムナノ粒子の製造方法。
【請求項10】
旋回する反応器内において、チタン源とリチウム源及びカーボン粒子を含む溶液に、ずり応力と遠心力を加えて反応させてチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を分散担持したカーボン製造し、このチタン酸リチウムナノ粒子の前駆体を分散担持したカーボンを窒素雰囲気中で加熱して、請求項3または請求項4に記載のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体を製造することを特徴とするチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体の製造方法。
【請求項11】
前記反応器内において、反応物と共に反応抑制剤を含む溶液にずり応力と遠心力を加えて反応させることを特徴とする請求項10に記載のチタン酸リチウムナノ粒子とカーボンの複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−213556(P2011−213556A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84632(P2010−84632)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000228578)日本ケミコン株式会社 (514)
【出願人】(504358517)有限会社ケー・アンド・ダブル (19)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】