説明

チップキットハンドラ

【課題】プローブ担持粒子等の固体物質と標的物質等の液状物質との反応性、プローブ粒子からの未反応検体の除去性能やプローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能等の固液分離性能の少なくとも1つを向上させることができるチップキットハンドラを提供すること。
【解決手段】 チップキットハンドラ10は、複数のウエル21が形成され、そのウエル21の底部に均一な孔径を有する細孔22が一定間隔で形成されたフィルタ23が設けたチップ20を保持・収容するチップホルダ11内を、ホルダキャップ13及び開閉弁14によって密閉した状態で、ノズル30に接続された真空源によってチップホルダ11内を減圧して負圧にし、洗浄液をチップホルダ11内に導入して、フィルタ18を洗浄液中に浸積する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオチップキット内でプローブ担持粒子と検体とを反応させたり、反応後のプローブ担持粒子から標的物質を分離するためのチップキットハンドラに関する。さらに詳細には、チップキット内の溶液の攪拌性を向上させることができるチップキットハンドラに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、粒子へプローブを担持して、このプローブ担持粒子を含む溶液中で、プローブ担持粒子と検体中の標的物質とを反応させる方法が行われている。この方法では、プローブ担持粒子が溶液中に三次元的に分散していることと、プローブ担持粒子と検体とが相互に移動することができるから、反応性が高いというメリットがある。このような方法を利用したものとして、例えば、検体である標的核酸と、粒子に担持された核酸プローブとを溶液中でハイブリダイズさせた後、遠心分離して未反応の検体を除去する方法がある(非特許文献1)。
【0003】
そして、プローブ担持粒子等の固体物質と標的物質等の液状物質(本願明細書において「液状物質」とは、溶媒に溶解している溶質をいい、例えば、水系溶媒に溶解しているタンパク質その他の化合物が該当する。)とを分離する用途(以下、「固液分離」という。)に用いられる分離用フィルタキットとしては、溶液試料を収納する円筒状等の容器の底部にニトロセルロース、ナイロン、ポリエーテルスルホン等から形成されたメンブレンフィルタを備えた製品が知られている(非特許文献2)。これらの製品において試料を濾過するためには、フィルタキット全体を遠心分離することにより遠心力により濾過する方法や、メンブレンフィルタを介して試料収納容器とは反対側から吸引等することにより陰圧として試料を濾過する方法が一般的である。しかし、これらのメンブレンフィルタは、いずれも均一な孔径を有する細孔が一定間隔で形成されたフィルタではない。このため、プローブ担持粒子等の固体物質と標的物質等の液状物質とをそのサイズによって厳密に分離することは困難であった。
【0004】
【非特許文献1】Nucleic Acid Research 第14巻 p.5037−5048(1986年)
【非特許文献2】ナルジェ ヌンク インターナショナル株式会社 カタログ「NALGENE Labware 2003−2004」 p.86〜106
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記したプローブ担持粒子を使用する方法では、チップキット内に溶液を導入する際に気泡が侵入してしまうため、溶液中に気泡が存在することによって、プローブ担持粒子と検体との反応性が低下してしまうという問題があった。
【0006】
そして、固液分離に際して、フィルタを用いない遠心分離法の場合には、固体粒子のサイズが小さい場合は分離に強力なGをかける必要があるため、遠心分離後の固体粒子がケーキ状になり再分散が困難になるという課題がある。またフィルタ分離の場合、フィルタの微少孔を形成している空隙には空気が付着しているため、ろ過溶液は空気付着部を迂回して一部の空気の付着しない微少孔のみを通りろ過が行われる。そのため、ろ過圧力が上昇し又ろ過効率が低くなるという課題が存在する。
【0007】
そこで、本発明は上記した課題を解決するためになされたものであり、プローブ担持粒子等の固体物質と標的物質等の液状物質との反応性、プローブ粒子からの未反応検体の除去性能やプローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能等の固液分離性能の少なくとも1つを向上させることができるチップキットハンドラを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明に係るチップキット(以下、「バイオチップキット」ともいう。)は、バイオチップと、試料溶液の導入口及び排出口を有することを特徴とするものであり、各種の反応を生じさせるために用いられる。ここで、バイオチップ(以下、「チップ」ともいう。)は、均一な孔径を有する細孔が一定間隔で形成されたフィルタとウエルを備えている。
導入口及び排出口は、試料溶液を導入し排出することができれば、その形状は限定されないが、バイオチップを保持・収納するチップホルダ中に空隙を設けることにより導入口及び排出口を設けることができる。
なお、上記において、各種の反応とは、物理的あるいは化学的な何らかの状態の変化をもたらすことをいい、化学反応に限定されるものではない。典型的には、粒子等の固体成分が液体成分に分散された分散液から当該固体成分と液体成分を分離することも含まれる。
【0009】
本発明に係るチップキットハンドラ(以下、「チップハンドラ」又は「ハンドラ」ともいう。)は、前記チップキットと、前記導入口から前記チップキット内に溶液を供給する溶液供給手段と、前記排出口を開閉する開閉手段と、前記チップキット内を気密にする密閉手段と、前記チップキット内の圧力を加減圧する加減圧手段と、を有することを特徴とするものである。
【0010】
チップキット及びチップキットハンドラは、前記要件を満たしている限り、その形状に制限はない。
【0011】
そして、前記溶液供給手段は、前記密閉手段により前記チップキット内が密閉され、前記加減圧手段により前記チップキット内が減圧された後に、前記チップキット内に溶液を供給することが望ましい。
このように容器内を減圧することでフィルタの微少孔に付着した空気は排除され、空気排除の後に溶液を供給することでフィルタ内部全体に溶液が浸透し、フィルタ全面にてろ過を行うことができるために、ろ過効率が向上する。
【0012】
また、前記加減圧手段は、前記チップキット内に差圧を発生させて前記チップキット内の溶液を上下動させて攪拌することが望ましい。
溶液を上下動させることでフィルタを挟んで溶液は上下することが可能となり、その際にフィルタは攪拌板あるいは邪魔板として機能にし、フィルタを経由した溶液は乱流となり効率の良い攪拌が可能となる。
【0013】
このようなチップキットを用いたチップキットハンドラでは、気密手段により、バイオチップを収容したチップキット内を気密状態にすることができる。また、加減圧手段により、チップキット内を減圧して負圧状態にすることができる。さらに、溶液供給手段により、チップキット内に溶液を供給することができる。従って、このチップキットハンドラでは、チップキット内を気密状態にして、チップキット内を減圧して負圧状態とした上で、チップキット内に溶液を供給することができる。そして、バイオチップのフィルタを溶液中に浸漬することができる。すなわち、フィルタの微少孔から気泡を除去してバイオチップのフィルタ全体を溶液に接触させることができる。
【0014】
その後、チップキット内に存在する溶液中にフィルタを浸漬させた状態で、各ウエルに検体が投入される。このため、溶液中に気泡が混入していない状態でプローブ担持粒子と検体とを接触可能な状態とすると共に、固液分離を行うことができる。従って、フィルタの細孔の大多数を濾過目的に使用することができるため、分離効率が向上する。
【0015】
ここで、溶液としては、例えば、各種の緩衝液、洗浄液、分離液、ラベル剤、増感剤、蛋白分解酵素、イオン化剤などが含まれたものを挙げることができる。また、検体とは、各種の培養液、組織、菌、ウィルス、細胞、リンパ球、脂質、糖鎖、核酸、尿、血液、血清、血球、ヒト/マウスサイトカイン、セリン/スレオニン、キナーゼ、分子量50〜100万のタンパク質である合成ペプチド、膜タンパク質、酵素、シグナル伝達蛋白、輸送蛋白、リン酸化タンパク質等の各種タンパク質、サイトカイン、リンフォカイン、IgAおよびIgE等の抗体、各種抗原、転写因子、分子量50〜100万の低分子リード化合物、基質、補酵素、調整因子、レクチン、ホルモン、神経伝達物質、アンチセンスオリゴムクレオチド、リボザイム、アプタマー等のリガンド、各種の医薬候補物質、生理活性を有する可能性がある各種の化学物質などを挙げることができる。もちろん、溶液及び検体は、上記したものに限られることはない。
【0016】
そして、プローブ担持粒子等の固体物質と標的物質等の液状物質との反応性、プローブ粒子からの未反応検体の除去性能若しくはプローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能等の固液分離性能を向上させるためには、チップキット内の溶液の攪拌性を向上させる必要がある。
【0017】
このチップキットハンドラには加減圧手段が備わっているので、この加減圧手段によってチップキット内で差圧を生じさせることができる。これにより、チップキット内の液面を上下させることができ、フィルタを経由して溶液を上下させることでフィルタを攪拌板あるいは邪魔板として機能させるので、チップキット内の溶液に乱流を起こさせて、チップキット内の溶液を攪拌することができる。このようにして、チップキット内の溶液の攪拌性を向上させることができるので、プローブ担持粒子と検体との反応性やプローブ粒子からの未反応検体の除去性能、プローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能を向上させることができる。
【0018】
その後、チップキット内の溶液の攪拌が終了すると、開閉手段により、チップキットの排出口が解放されてチップキット内の溶液がチップキットから排出される。このとき、検体の標的物質と反応したプローブ担持粒子等の固液溶液中の固体物質はサイズによりフィルタを通過しないので、未反応の検体を短時間で除去する等、固液分離を短時間で達成することができる。
【0019】
ここで、チップキット内の溶液は、排出口を開閉手段によって開閉することにより行われる。ところが、チップキット内の溶液を排出する際に、排出される容器と開閉手段とが接触するにより、排出口が汚染されるおそれがある。
【0020】
このため、前記チップキットの排出口には、中空凸形状であって低弾性材料により形成された低弾性部が備わっていること望ましい。
低弾性部の形状が中空であるとは、排出するチップキット内の溶液の通路が中空状に形成されていることをいう。凸形状とは例えば図17に示すように、排出口の少なくとも一部がチップホルダから突出した形状となっていることをいう。凸形状であるのは、下記のようにピンチバルブ等でピンチすることができる形状である必要があるからである。
これにより、低弾性部をピンチバルブなどによってピンチすることにより、排出口を閉じることができる。そして、低弾性部に対するピンチであれば、ピンチするもの(開閉手段に相当するピンチバルブなど)が、排出口から排出される溶液に接触することがない。従って、排出口が汚染されることを確実に防止することができる。
【0021】
そして、前記チップキットの排出口は、前記チップキットから排出される排出液を回収する回収容器に接続されていることが好ましい。また、回収容器には少なくとも1つの加減圧ノズル(ライン)が設けられているとより好ましい。
これにより、排出液を回収容器に排出、滞留させることができるとともに、チップキット内に付着残留する排出液を最小にし、排出液を最大限回収することができる。
【0022】
また、前記チップキットには複数の排出口が設けられており、前記各排出口がそれぞれ前記回収容器に接続されていても良い。
これにより、チップキット内に投入された異なる溶液を、任意の回収容器に回収することができる。
【0023】
ここで、溶液中に浸積させたバイオチップのフィルタが空気に触れてしまうと、チップキット内に溶液を再度供給する際に気泡が混入する。そうすると、チップキット内の溶液の攪拌効率が低下してしまう。
【0024】
このため、本発明に係るチップハンドラにおいては、前記チップキット内に存在する溶液の液面を検出する液面検出手段をさらに有していることが望ましい。
【0025】
これにより、液面検出手段により、チップキット内の溶液の液面を監視することができるので、バイオチップのフィルタの細孔内に空気が入り込まないようにすることができるからである。従って、チップキット内における溶液の攪拌効率の低下を防止することができる。
【0026】
そして、本発明に係るチップハンドラにおいては、前記液面検出手段は鉛直方向に移動可能に取り付けられていることが望ましい。
【0027】
液面検出手段は、チップキット内における微少な液面変化を検出する必要があるため、液面(液位)計測が可能な範囲が小さい。このため、液面検出手段が固定されていると焦点調整ができずに液面検出ができなくなるおそれがある。そこで、液面検出手段を鉛直方向に移動可能に取り付けることにより、焦点調整を可能にして常に液面検出を行えるようにしている。これにより、チップキット内の液面を正確に監視することができるので、バイオチップのフィルタが空気に触れないようにできるため、チップキット内における溶液の攪拌効率の低下を防止することができる。
【0028】
また、本発明に係るバイオチップハンドラにおいては、流体を前記チップキットの内壁に向けて噴射することにより前記チップキット内に存在する溶液を攪拌する攪拌手段をさらに有することが望ましい。
【0029】
そして、前記攪拌手段は、噴射流体が供給される流体供給口と、流体を前記チップキットの内壁に向けて噴射するために斜めに取り付けられた噴射ノズルと、前記流体供給口と前記噴射ノズルとを連通させる連通路と、を有すればよい。
【0030】
このような攪拌手段を設けることにより、噴射ノズルから噴射された流体によりチップキット内に旋回流が発生するので、チップキット内の溶液の攪拌性が向上する。このため、プローブ担持粒子と検体との反応性やプローブ粒子からの未反応検体の除去性能若しくはプローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能等の固液分離性能を向上させることができる。
【0031】
なお、噴射ノズルは1本でも良いが、複数設けることが好ましい。噴射ノズルを複数設けることにより、強くかつ異なる方向の旋回流を発生させることができるので攪拌効率がより向上するからである。この場合、前記複数の噴射ノズルは、圧力および時間をそれぞれ制御して流体を噴射するようにすることが望ましい。こうすることにより、攪拌効率をさらに向上させることができるからである。
【発明の効果】
【0032】
本発明に係るチップキット又はチップキットハンドラによれば、プローブ担持粒子と検体との反応性、未反応検体の除去性能若しくはプローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能等の固液分離性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明のチップキットハンドラを具体化した最も好適な実施の形態について図面に基づいて詳細に説明する。そこで、まず、実施の形態に係るチップハンドラについて、図1及び図2を参照しながら簡単に説明する。図1は、チップハンドラの概略構成図である。図2は、チップハンドラの主要部の概略構成図である。
【0034】
チップハンドラ10には、図1に示すように、チップ20(図3参照)を保持・収容するチップホルダ11と、チップホルダ11が載置される載置台12と、チップホルダ11の開口部を開閉するためのホルダキャップ13および開閉弁14とが備わっている。そして、チップホルダ11内で、プローブ担持粒子の洗浄、プローブ粒子と検体との反応、未反応の検体の除去、あるいはプローブ担持粒子からの検体の標的物質の分離などを行うようになっている。つまり、チップハンドラ10は、分析装置でDNA解析などを行うための前処理を行うものである。
【0035】
載置台12は、ベース50上に固定されている。このベース50上には、チップホルダ11の上部開口を開閉するためにホルダキャップ13を移動させるための駆動機構が取り付けられている。この駆動機構には、ベース50に固定された固定台52と、固定台52に回動可能に取り付けられた鉛直アーム53と、鉛直アーム53に固定された水平アーム54とが備わっている。そして、水平アーム54にホルダキャップ13が取り付けられている。鉛直アーム53は、スプリング55によって反時計回り方向へ常時力を受けており、通常時は図1に実線で示す状態になっている。つまり、通常時は、ホルダキャップ13がチップホルダ12に装着された状態になっている。
【0036】
また、鉛直アーム53には、液面センサ60の取付アーム56が取り付けられている。取付アーム56には長孔56aが形成されており、その長孔56aを介してネジ57で固定されている。これにより、液面センサ60を上下動させて焦点調整が行えるようになっている。
【0037】
そして、図2に示すように、チップ20がチップホルダ11に保持・収容されている。チップホルダ11は、上ホルダ11aと下ホルダ11bとで構成されており、上ホルダ11aと下ホルダ11bとでチップ20を狭持している。上ホルダ11aのほぼ中央に導入口15が形成されている。この導入口15は各種溶液をチップホルダ11内に導入するためのものである。一方、下ホルダ11bのほぼ中央には小径の排出口16が形成されている。この排出口16は、チップホルダ11内の溶液を外部に排出するためのものである。
【0038】
なお、チップホルダ11の材質は特に限定なく、ガラスなどの無機材料、鉄、アルミニウム、ステンレススチール、各種合金等の金属材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、各種スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、各種アクリル共重合体、ポリアクリロニトル、ポリメチルペンテン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリシクロオレフィン、各種フッ素系樹脂などの有機材料が使用可能である。特に好ましいのは、成形性の容易な有機樹脂材料であり、これらの成型方法としては、プレス成型、射出成型、ブロー成型などの成型方法が使用可能である。本実施の形態では、上ホルダ11aと下ホルダ11bとを別体で成型し、それぞれを接着、振動溶着、インサート成型などの方法で接合しているが、上ホルダ11aと下ホルダ11bとを一体で成型することもできる。
【0039】
このチップホルダ11は、載置台12にシール部材17を介して載置されている。載置台12には、下ホルダ11bの排出口16を開閉するための開閉弁14が設けられている。これにより、開閉弁14をオン/オフして排出口16を閉塞/開口させて、チップホルダ11内の溶液の液位(液面)調整や標的物質の回収などが実施できるようになっている。
【0040】
また、チップホルダ11の上部開口は、ホルダキャップ13により開閉可能になっている。ホルダキャップ13にはシール部材18が設けられており、ホルダキャップ13はシール部材18を介してチップホルダ11(上ホルダ11a)に接触して導入口15を気密に覆うことができるようになっている。これにより、ホルダキャップ13および開閉弁14によって、上ホルダ11aの導入口および下ホルダ11bの排出口を気密に封止することができ、チップホルダ11内を密閉することができる。
【0041】
ホルダキャップ13には、複数のノズル30が設けられている。本実施の形態では、ノズル30が3本設けられており、1つが真空源に接続され、1つが加圧源に接続され、1つが溶液供給源にそれぞれ接続されている。これにより、ホルダキャップ13をチップホルダ11に装着すると、チップホルダ11内を加圧あるいは減圧したり、チップホルダ11内に各種の溶液を導入することができるようになっている。また、ホルダキャップ13は、上方からチップホルダ11内の溶液の液位を、液面センサ60によって監視できるように一部あるいは全部が透明な部材により形成されている。
【0042】
ここで、チップホルダ11に保持・収容されているチップ20について、図3を参照しながら説明する。図3は、バイオチップの概略構成を示す断面図である。チップ20には、図3(a)に示すように、複数のウエル21が形成されている。そして、ウエル21の底部には、均一な孔径を有する細孔22が一定間隔で形成されたフィルタ23が設けられたものである。このフィルタ22は、検体などを溶解もしくは分散させた溶液を通過させる一方、検体と相互作用するプローブ担持粒子を通過させないように構成されている。これにより、ウエル21にプローブ担持粒子を収容することができるようになっている。
【0043】
図3(b)〜(d)は、本発明の一実施形態によるバイオチップが備えるウエルの底部側を模式的に示した断面図である。同図に示したように、このウエル21は、ウエル側壁24と、細孔22が形成されたフィルタ23が底部に設けられている。このフィルタ23は、被検体あるいは被検体を溶解もしくは分散した媒体などの液体を通過させるとともに、ウエル21内に収納された、被検体と相互作用するプローブ担持粒子が外側へ排出しないように構成されている。
【0044】
本発明では、フィルタ23に、均一な孔径を有するストレートな細孔が、均一な孔間隔で形成されている。なお、本明細書において「均一な孔径」とは、孔径の誤差がCV(Coefficient of Variation)値で20%以下、好ましくは10%以下であることを意味する。孔径誤差がCV値で20%以下であるような細孔は、後述する方法によって作製可能であり、ウエル21内に収納されるプローブ担持粒子と孔径との寸法差を僅少とすることができる。
【0045】
従来から使用されているメンブレンフィルタ等の孔径には10倍程度のばらつきがあり、例えば0.2μm孔径のフィルタを使用する場合では、確実に濾過できる粒子径は5μm程度となる。これと比較して、上記のように均一な孔径を有するフィルタを使用した場合には、フィルタの細孔の孔径は非常に均一であるため、粒子径と孔との差を小さくすることができ、そのために孔径をより大きくすることができ、フィルタの濾過性を向上するとともに、濾過圧力が低減される。
【0046】
このように均一な孔径を有するフィルタにおいて、その細孔の孔径は、特に限定されないが、通常0.01μm〜100μm、好ましくは0.1μm〜50μm、より好ましくは0.5μm〜15μmである。
【0047】
また「均一な孔間隔」とは、孔間隔の誤差がCV(Coefficient of Variation)値で15%以下であることを意味する。孔間隔には特に限定はないが、孔間隔があまりに狭いとフィルタの強度が弱くなり、また孔間隔があまりに広いと開口率が下がることから、通常は孔径の2倍以下であり、且つ0.5μm〜10μmであることが好ましい。なお、「孔間隔」とは隣接する各孔の間における孔が空いていない部分の最短距離のことである。
【0048】
また、本明細書において、「ストレート」な細孔とは、細孔が途中で分岐することなく形成されていることを意味する。例えば、一方のフィルタ表面に形成された開口の中心から他方のフィルタ表面への垂線と、この他方のフィルタ表面に形成された開口の中心から前記一方のフィルタ表面への垂線とがずれていても、圧力損失という点ではそれほど遜色がないため、このような細孔であってもよい。また、当該垂線が実質的にずれていない細孔であり且つフィルタの一次側(上面側)の孔径が二次側(下面側)の孔径と異なっているものであってもよい。貫通方向と垂直な細孔断面の形状は特に限定されず、円柱、四角錐、多角錐などいずれであってもよいが、メニスカスを最小限にする点から鈍角形状あるいは円形であることが望ましい。但し、ウエルの容積が所定量以上、例えば0.1マイクロリッター以上の場合には、メニスカスはそれほど問題とならず、四角柱や四角錐などであっても問題ない。
【0049】
このようにストレートな細孔とすることにより、フィルタを形成する細孔長さが最小となるため、細孔壁との接触面積が減少し、濾過に伴う圧送抵抗を最小限とすることができる。
【0050】
本発明では、フィルタの厚さは好ましくは1〜10μm、より好ましくは2〜7μmである。フィルタの厚さが10μmよりも大きい場合、液体の濾過時に濾過抵抗が大きくなり、フィルタの厚さが1μm未満である場合、フィルタの機械的な強度が不足する。
【0051】
本発明では、フィルタの開口率は好ましくは15〜60%、より好ましくは20〜50%である。開口率が15%未満である場合、濾過効率が低下し、開口率が60%よりも大きい場合、フィルタの機械的な強度が不足する。
【0052】
フィルタは、細孔を有する各種の形態のもので形成することができる。具体的には、金型によるプレス、織布、フィルムにレーザーもしくは中性子線で穿孔して形成したフィルタ、樹脂もしくは金属薄膜に傷をつけて張力により孔を拡大したもの、基材をフォトエッチングにより穿孔したもの、樹脂成型によるものなどが挙げられる。
【0053】
前述したような、均一な孔径を有し、均一な孔間隔で形成された細孔を有するフィルタは、例えばフォトリソグラフィーによる方法で作製することができ、所定の有機あるいは無機のフィルムにレジストを塗布し、パターンエッチングすることにより所定の孔を空けてフィルタを形成する。所定の機械的強度を有する膜厚と所定の孔径を確保するためには、高アスペクトのエッチングが必要であるが、異方性エッチングによりこれを行うことができる。
【0054】
また、エキスパンドメタルによる方法で作製することも可能である。例えば、厚さ30μmのステンレス箔に、金型にて千鳥状に切れ目を入れ、これを押し広げてひし形状の貫通孔を形成する。この方法によれば、ひし形孔の最大距離が30μmであり、開口率が60%程度のフィルタが得られる。次いで、得られたエキスパンドメタルフィルタを、さらに凸金型でプレス処理して所定の凹面を形成することによって、一体に形成された複数のウエルを得る。あるいは、別途に樹脂もしくは金属にて、ハニカムあるいは丸型などの上下が貫通したウエル群を作製し、ウエル群の底面に熱可塑性樹脂溶液を塗布乾燥して、加熱したフィルタとウエルとを熱接着することによって上記のエキスパンドメタルフィルタとウエル群とを接着してウエルを形成する。
【0055】
また、後述するように、ウエル側部とフィルタとを樹脂にて一体成型する方法で作製することも可能である。
バイオチップの特に好ましい製造方法として、組成の異なる複数の材質からなるプレート、例えばアルミ/アルミナ、金属シリコン/シリカ、あるいは金属チタン/チタニアなどについて、それぞれ両側からパターンエッチングを行うことにより、フィルタとウエルを形成する方法が挙げられる。具体的には、例えばアルミナ、シリカ、チタニアなどの金属酸化物層について、この金属酸化物層と金属層との境界までをフォトエッチングしてフィルタを形成し、次いで、アルミ、金属シリコン、金属チタンなどの金属層について、この金属層と金属酸化物層との境界までフォトエッチングすることにより、ウエルとフィルタとが接合したバイオチップを作製できる。
【0056】
この方法によれば、予め金属と金属酸化物などが一体となった複層材料を使用することにより、フィルタとウエルが一体接合したものを作製することができ、フィルタとウエル間の界面からの液漏れなどの懸念がなくなる。
【0057】
また、フィルタ層としてアルミナ、シリカ、チタニアなどの透明材料を使用することができるため、光検出により検出を行う場合、フィルタ層を介して直接粒子の挙動を見ることができる。
【0058】
フィルタを形成する材料としては、濾過抵抗を減少する等の点から、ウエルに収容される溶液と親和性の高い材料、具体的には、溶液が水系の場合は親水性の材料、溶液が油性の場合は親油性の材料を選択することが望ましい。
【0059】
親水性の有機材料としては、例えばポリエチレンビニル樹脂、架橋ポリビニルアルコール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド、セルロースアセテート樹脂、トリアセチルセルロース、硝酸セルロース樹脂、エポキシ樹脂、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリレートとの共重合体などの各種アクリレートの共重合体などが挙げられる。
【0060】
親油性の有機材料としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタアクリレート樹脂、液晶ポリマー、ポリカーボネート、ポリアミド樹脂、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィン、ポリメチルペンテン、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホンなどが挙げられる。
【0061】
また、無機材料としては、例えば鉄、ニッケル、銅、亜鉛、アルミニウム、シリコン、チタン、タンタル、マグネシウム、モリブデン、タングステン、ロジウム、パラジウム、銀、金、白金、ステンレス、真鍮、黄銅、青銅、燐青銅、アルミ銅合金、アルミマグネシウム合金、アルミマグネシウムシリコン合金、アルミ亜鉛マグネシウム銅合金、鉄ニッケル合金等の金属;シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化タンタル等の金属酸化物;SiN、TiN、TaN等の金属窒化物;SiC、WC等の金属炭化物;ダイヤモンド、グラファイト、Diamond Like Carbon(DLC)等の炭素材料;ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、パイレックス(登録商標)、石英ガラス等のガラスなどが挙げられる。
【0062】
また、親油性材料の表面に、プラズマ処理、コロナ処理あるいはイオン処理などを施して、ヒドロキシル基やカルボキシル基などを形成してもよい。また、メッキなどにより表面に親水性の金属あるいは金属酸化物を形成してもよく、あるいは、例えば2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリレートとの共重合体、ポリエチレングリコール誘導体などの親水性材料をコーティングしてもよく、あるいはグリシジルメタクリレートを塗布した後にエポキシ基を開環してもよい。
【0063】
これらの中でも特に、表面材質がアルミナ、シリカ、チタニアであるものがフィルタの材料として好ましい。これらは親水性であるため、バイオ検体の非特異的な吸着が低く、またフィルタ内に水系の検体や洗浄液が容易に浸入する。さらに、表面だけではなく内部までこれらと同一材質とすることにより、フィルタが透明になるので、検出方法として光学的な検出方法を使用する場合、粒子プローブと検体マーカーとの反応、相互作用を透明なフィルタを通して容易に検出・同定することができる。
【0064】
表面材質がアルミナ、シリカ、チタニアである材料でフィルタを形成する場合、アルミ、金属シリコン、あるいは金属チタンを用いてフィルタとウエルからなるチップを形成し、その後に酸化してアルミナ、シリカ、チタニアにしてもよく、あるいは、アルミ/アルミナ、金属シリコン/シリカ、金属チタン/チタニアからなるプレートを用意して、このプレートを用いてウエルとフィルタとを形成してもよい。
【0065】
一つのバイオチップが有するウエルの数には特に限定は無く、収納するプローブ付き粒子の種類あるいは粒子の個数により任意に設定可能であり、単一ウエルからなるチップ、あるいは一体に形成された複数のウエルからなるチップのいずれであってもよい。また、プローブ付き粒子の種類が一種類でも分離精製用など多数の粒子を収納する場合には、複数のウエルを設けて各ウエルに同一のプローブ粒子を分散収納することも可能である。
【0066】
ウエルは図3(b)、(c)に示したように、フィルタと異なる材料により形成することができ、また図3(d)に示したように、フィルタと実質的に同一の材料で一体に形成することができる。また、図3(b)、(c)ではフィルタ材料とウエル材料がこれらが異なる材料で形成されているが、同一材料でフィルタとウエルとを別途に形成した後、これらを接合することも可能である。
【0067】
ウエルは、図3(c)、(d)のように、フィルタ層におけるフィルタが形成されていない部分でフィルタと連結されることが、機械的な強度の面では好ましい。ウエルの径と高さには特に限定はなく、必要な粒子の個数と反応容積にしたがって任意に設定可能である。ウエルの径が大きくなる場合、フィルタ面の面積も大きくなり、フィルタに掛かる総圧力によりフィルタが撓むか、あるいは破壊される可能性があるが、後述のリブを設けることにより、このような撓みあるいは破壊を防止することが可能である。
【0068】
また、複数のウエルを持つチップでは、これらのウエルの径は必ずしも同一である必要はなく、収納する粒子の数や反応容積を勘案して異なる径のウエルを設けることも可能である。
【0069】
ウエル側部からなるウエル孔の形状は、特に限定されないが、メニスカスを最小限にするために鈍角あるいは円型が望ましい。
【0070】
また、チップキットハンドラ10には、チップホルダ11内(「チップホルダ11内」は、導入口15を指す。以下、同じ。)の溶液を効率よく攪拌するための攪拌用キャップ40が備わっている。この攪拌用キャップ40について図4を参照しながら説明する。図4は、攪拌用キャップの各部断面を示す断面図である。攪拌用キャップ40には、図4に示すように、内部に4本の噴射ノズル41が設けられている。これらの噴射ノズル41は、斜めに配置されている。これにより、噴射ノズル41からチップホルダ11の内壁に向けて流体を噴射することができ、チップホルダ11内に旋回流を発生させることができるようになっている。また、噴射ノズル41は、溶液コンタミネーション汚染を防止するために、溶液界面と接触しないように溶液界面の高さに応じて調整可能に設置されている。そして、各噴射ノズル41は、連通路42を介して噴射流体が供給される供給口43にそれぞれ連通している。なお、噴射流体は、液体であっても良いし気体であっても良い。
【0071】
ここで、噴射ノズル41の材質、形状は特に限定はなく、鉄、アルミニウム、ステンレススチール、金などの金属材料、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、各種スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、各種アクリル共重合体、ポリアクリロニトル、ポリメチルペンテン、ナイロン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリシクロオレフィン、各種フッ素系樹脂などの各種の樹脂材料を使用することができる。
また、本実施の形態では、噴射ノズル41のすべてが界面に対して斜めに設けられているが、少なくとも1本以上の噴射ノズル41が界面に対して斜めに設けられていれば、チップホルダ11内の溶液を攪拌することができる。
噴射ノズル41の孔径は1mmから0.05mm、より好ましくは0.8mmから0.1mmである。孔径が1mm以上の場合は、流体の吹き込み制御において時間遅延が大きく制御精度が劣り、0.05mm以下の場合は、最初の吹きつけ時に過大量の流体が吹き付けられやすいからである。
【0072】
続いて、上記のチップハンドラ10によるチップキットハンドラの動作について、図5〜図16を参照しながら説明する。図5〜図12は、チップキットハンドラの動作内容を示すフローチャートであり、図13〜図16は、チップキットハンドラの各状態を示す説明図である。
【0073】
以下の説明では、検体の標的物質をプローブ担持粒子に吸着させた後、プローブ担持粒子と標的物質とを分離して標的物質を回収する場合について説明する。具体的には、図5に示すように、チップハンドラ10の初期設定が行われて(S1)、チップホルダ11内に溶液が導入され(S2)、溶液が攪拌される(S3)。次に、検体がチップホルダ11内に投入され(S4)、再度攪拌される(S5)。その後、分離液がチップホルダ11内に滴下され(S6)、再度攪拌される(S7)。そして、検体の標的物質が回収される(S8)。なお、処理を継続する場合には(S9:YES)、チップ20を交換した後(S10)、S2の処理に戻る。以下、各工程におけるチップキットハンドラの処理(動作)内容について詳細に説明する。なお、図5は、チップハンドラの動作概要を示すフローチャートである。
【0074】
まず、初期設定工程(S1)について図6を参照しながら説明する。図6は、初期設定工程の内容を示すフローチャートである。初期設定工程では、まず、チップハンドラ10の電源が投入される(S21)。そして、チップハンドラ10における各種の初期設定が行われる(S22)。S22の処理では、後述するチップホルダ11内の加減圧を行うときの条件や攪拌を行うときの条件などが設定される。その後、チップ20がチップハンドラ10にセットされる(S23)。具体的には、図13に示すように、鉛直アーム53を時計回りに回動させて倒し込み、ホルダキャップ13を上方に移動させる。そして、その状態で、チップ20が収容されたチップホルダ11が載置台12にセットされる。なお、図13は、鉛直アーム53を倒して、チップ20を収容したチップホルダ11を載置台12にセットした状態を示す説明図である。
【0075】
次に、溶液導入工程(S2)について図7を参照しながら説明する。図7は、溶液導入工程の内容を示すフローチャートである。溶液導入工程では、まず、載置台12にセットされたチップホルダ11(上ホルダ11a)の上面にホルダキャップ13が装着される(S31)。つまり、鉛直アーム53が元に戻されて、図1に示す状態となる。これにより、図14に示すように、導入口15がホルダキャップ13によって気密に覆われる。また、開閉弁14がオンされて、下ホルダ11bの排出口16が閉塞される(S32)。かくして、図14に示すように、チップホルダ11内が密閉される。なお、図14は、チップホルダ11内が密閉されたときのチップハンドラ主要部の状態を示す説明図である。
ここで、チップ20、導入口15及び排出口16がチップキットを構成する。導入口15及び排出口16は、チップホルダ11中に空隙を設けることにより設けられている。
【0076】
この状態で、ノズル30に接続された真空源によりチップホルダ11内が減圧される(S33)。本実施の形態では、−0.2kPa程度に減圧される。そして、別のノズル30に接続された溶液供給源によりチップホルダ11内に洗浄液が供給されて、フィルタ18が洗浄液中に浸積される(S34)。このとき、チップホルダ11内は減圧されて負圧になっているので、洗浄液をチップホルダ11内に導入する際に気泡が発生しない。つまり、洗浄液中への気泡の混入を防止することができる。
【0077】
そして、洗浄液がチップホルダ11内に導入されると、開閉弁14がオフされ(S35)、液面センサ60により洗浄液の液位を監視しながら液位調整が行われる(S36)。そして、所定の液位になると、開閉弁14が再度オンされる(S37)。このような動作により、洗浄液の液位がフィルタ18を基準として+1.0mm以下に調整される。
【0078】
このような液位調整が終了すると、再び鉛直アーム53が倒されて、図15に示すように、ホルダキャップ11が上ホルダ11aから外される(S38)。なお、図15は、洗浄液を導入した後にホルダキャップ11が外されたときのチップハンドラ主要部の状態を示す説明図である。そして、ノズル30に接続された溶液供給源からプローブ担持粒子が分散された分散液がチップホルダ11内に滴下される(S39)。
【0079】
その後、再度鉛直アーム53が元に戻されてホルダキャップ11が上ホルダ11aに装着される(S40)。これで、再び図14に示す状態となり、ウエル21にプローブ担持粒子が収容される。なお、本実施の形態では、チップホルダ11に洗浄液を導入した後にプローブ担持粒子をウエル21に収容しているが、チップホルダ11に洗浄液を導入する前に予め、プローブ担持粒子をウエル21に収容しておいてもよい。
【0080】
ここで、分散液(プローブ担持粒子)がチップホルダ11内に滴下されたので、チップホルダ11内の溶液の液位が増加している。このため、開閉弁14がオフされ(S41)、液面センサ60の測定結果に基づき溶液の液位調整が行われた後(S42)、開閉弁14が再度オンされる(S43)。このような操作により、溶液(洗浄液と分散液との混合液)の液位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、溶液導入工程が終了する。
【0081】
このような液位に調整するのは、この後に実施される攪拌工程で洗浄液が再充填されて液位が増加したときに、液面センサ60による液位計測が不能にならないようにするためである。なぜなら、液面センサ60は、微少な液面の変位を検出することができる一方、液面(液位)計測が可能な範囲が小さいからである。また、完全に溶液を排出しないのは、フィルタ18を空気に接触させないためである。フィルタ18が空気に接触すると、洗浄液を再導入する際に気泡が混入するからである。
【0082】
続いて、攪拌工程(S3およびS5)について図8〜図10を参照しながら説明する。図8は、エアー攪拌の処理内容を示すフローチャートである。図9は、液流攪拌の処理内容を示すフローチャートである。図10は、差圧により液面を上下動させる攪拌の処理内容を示すフローチャートである。なお、どの攪拌方法が実施されるかは、初期設定(S1)において決められている。
【0083】
エアー攪拌が実施される場合には、チップホルダ11内に洗浄液が充填された後(S51)、鉛直アーム53が倒されてホルダキャップ13が上ホルダ11aから外される(S52)。そして、図16に示すように、攪拌用に旋回流を生じさせるための噴射ノズル41が装着された攪拌用キャップ40が上ホルダ11aに装着される(S53)。なお、図16は、攪拌用キャップを装着した状態を示す説明図である。攪拌用キャップ40が上ホルダ11aに装着されると、各噴射ノズル41からエアーが噴射される。各噴射ノズル41は斜めに配置されているので、噴射エアーがチップホルダ11の内周壁面に当たるように噴射される。これにより、チップホルダ11内に旋回気流が確実に生じ、その旋回気流の作用によりチップホルダ11内の溶液が効率的に攪拌される。このときのエアー噴射圧や噴射時間は初期設定において決められている。なお、噴射ノズル41ごとに異なる噴射圧や噴射時間を設定することもできる。これにより、多様な溶液攪拌が行われ、短時間に効率的な攪拌が可能となる。そして、このようなエアー攪拌により、プローブ担持粒子を溶液中に短時間で分散させるとともに、プローブ担持粒子を短時間で洗浄することができる。なお、本実施の形態では、噴射ノズル41から空気を噴射するようにしているが、噴射ノズル41から噴射する気体は、特に制限はなく、入手容易で安全性が高く溶液との反応し難いものであれば良い。従って、空気以外に、窒素、炭酸ガス、あるいはアルゴンガスなどを使用することができる。
【0084】
そして、エアー攪拌が終了すると、攪拌用キャップ40が上ホルダ11aから外されて(S55)、鉛直アーム53が元に戻されてホルダキャップ13が装着される(S56)。これで、図14に示す状態になる。その後、開閉弁14がオフされ(S57)、チップホルダ11内の溶液の液位調整が行われた後(S58)、開閉弁14が再度オンされる(S59)。このような操作により、チップホルダ11内の溶液の液位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、攪拌工程が終了する。
【0085】
液流攪拌が実施される場合には、鉛直アーム53が倒されてホルダキャップ13が上ホルダ11aから外される(S61)。そして、攪拌用に旋回流を生じさせるための噴射ノズル41が装着された攪拌用キャップ40が上ホルダ11aに装着される(S62)。これで、図16に示す状態となる。攪拌用キャップ40が上ホルダ11aに装着されると、各噴射ノズル41から洗浄液が噴射される。各噴射ノズル41は斜めに配置されているので、洗浄液がチップホルダ11の内周壁面に当たるように噴射される。これにより、チップホルダ11内の溶液が旋回させられるので、チップホルダ11内の溶液が効率的に攪拌される。このときの洗浄液の噴射圧や噴射時間は初期設定において決められている。なお、噴射ノズル41ごとに異なる噴射圧や噴射時間を設定することもできる。これにより、多様な溶液攪拌が行われ、短時間に効率的な攪拌が可能となる。そして、このような液流攪拌により、プローブ担持粒子を溶液中に短時間で分散させるとともに、プローブ担持粒子を短時間で洗浄することができる。
【0086】
そして、液流攪拌が終了すると、攪拌用キャップ40が上ホルダ11aから外されて(S64)、鉛直アーム53が元に戻されてホルダキャップ13が装着される(S65)。これで、図14に示す状態になる。その後、開閉弁14がオフされ(S66)、チップホルダ11内の溶液の液位調整が行われた後(S67)、開閉弁14が再度オンされる(S68)。このような操作により、チップホルダ11内の溶液の液位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、攪拌工程が終了する。
【0087】
液面上下動攪拌が実施される場合には、上記した攪拌用キャップ40は使用しない。具体的には、図14に示すように、鉛直アーム53が倒されてホルダキャップ13が上ホルダ11aに装着された状態で、チップホルダ11内に洗浄液が充填される(S71)。洗浄液の充填が終了すると、開閉弁14がオフされ(S72)、溶液の液位調整が行われる(S73)。このような操作により、溶液(洗浄液と分散液との混合液)の液位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。
【0088】
そして、各ノズル30に接続された真空源及び加圧源により、チップホルダ11内において減圧・加圧(±0.2kPa程度)が繰り返される(差圧が生じさせられる)。これにより、チップホルダ11内の溶液の液位が上下動して溶液の攪拌が効率的に行われる(S74)。このときの液位の上下動は、液面センサ60によって監視されており、フィルタ18を基準として+0.01〜1.0mmの範囲内で行われる。具体的には、チップホルダ11内を減圧したときの液位を+1.0mm以下にし、チップホルダ11内を加圧したときの液位を、フィルタ18を空気に接触させないように+0.1mm以下にする。そして、攪拌が終了すると、差圧がなくなるので、チップホルダ11内の溶液の液位は、攪拌前と同様に、フィルタ18を基準として+0.1mm以下となる。
【0089】
次に、検体投入工程(S4)について図11を参照しながら説明する。図11は、検体投入工程の内容を示すフローチャートである。検体投入工程では、まず、鉛直アーム53が倒されてホルダキャップ13が上ホルダ11aから外される(S81)。これで、図15に示す状態になる。そして、この状態で、検体がチップホルダ11内に滴下されると(S82)、鉛直アーム53が元に戻されてホルダキャップ13が上ホルダ11aに装着される(S83)。これで、図14に示す状態になる。ここで、検体がチップホルダ11内に滴下されたので、チップホルダ11内の溶液の液位が増加している。このため、開閉弁14がオフされ(S84)、溶液の液位調整が行われた後(S85)、開閉弁14が再度オンされる(S86)。このような操作により、溶液(洗浄液とプローブ担持粒子と検体との混合液)の液位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、検体投入工程が終了する。
【0090】
そして、上記した攪拌工程(S5)が実施される。これにより、チップホルダ11内の溶液が効率良く攪拌される。また、攪拌される溶液中に気泡が混入していない。このため、プローブ担持粒子と検体の標的物質との近接・接触回数が大幅に増えるので、プローブ担持粒子と検体との反応性が向上する。
【0091】
また、攪拌工程で行われる液位調整によって、プローブ担持粒子と反応しなかった検体が排出口16から外部に排出される。なお、プローブ担持粒子と反応した検体は、フィルタ18によってウエル21内に留められている。このように、未反応検体を短時間で除去することができる。つまり、未反応検体の除去性能を向上させることができる。
【0092】
続いて、分離液滴下工程(S6)について図12を参照しながら説明する。図12は、分離液滴下工程の内容を示すフローチャートである。分離液滴下工程では、まず、鉛直アーム53が倒されてホルダキャップ13が上ホルダ11aから外される(S91)。これで、図15に示す状態になる。そして、分離液がチップホルダ11内に滴下されると(S92)、鉛直アーム53が元に戻されてホルダキャップ13が上ホルダ11aに装着される(S93)。これで、図14に示す状態になる。ここで、分離液がチップホルダ11内に滴下されたので、チップホルダ11内の溶液の液位が増加している。このため、開閉弁14がオフされ(S94)、溶液の液位調整が行われた後(S95)、開閉弁14が再度オンされる(S96)。このような操作により、溶液(洗浄液とプローブ担持粒子と反応済みの検体と分離液との混合液)の液位がフィルタ18を基準として+0.1mm以下に調整される。これで、分離液滴下工程が終了する。
【0093】
そして、攪拌工程(S7)が実施される。この攪拌工程では、上記した攪拌工程(S3あるいはS5)と同様の処理が行われる。これにより、分離液が溶液中に分散するので、検体の標的物質がプローブ担持粒子から短時間で分離される。つまり、分離性能が向上する。そして、攪拌が終了すると、液位調整をすることなく、開閉弁14をオフして標的物資を回収する(S8)。
【0094】
ここで、上記したチップキットハンドラ10では、チップホルダ11の排出口16の開閉を開閉弁14で行っているため、排出口16からの排出液と開閉弁14とが接触することにより排出口16が汚染される懸念がある。このため、チップホルダの排出口が汚染されないように、以下に述べるチップホルダの変形例を使用することができる。 そこで、チップホルダの変形例について、図17を参照しながら説明する。図17は、チップホルダの変形例の概略構成を示す断面図である。チップ20、導入口15及び排出口16がチップキットを構成する。導入口15及び排出口16は、チップホルダ11中に空隙を設けることにより設けられている。
【0095】
チップホルダ80の排出口16には、図17に示すように、少なくとも一部が低弾性材料で形成された中空凸形状の低弾性部81が備わっており、この低弾性部81にピンチバルブ90が装着されている。このピンチバルブ90は、シリンダ91内にピストン92が摺動可能に設けられている。ピストン92には一端がシリンダ91から突出したピストンロッド93が接続されている。ピストンロッド93の先端には、低弾性部81を押圧する押圧部94が接続されている。また、シリンダ91内にはスプリング96が設けられ、このスプリング96によって押圧部94が低弾性部81から離れる方向へピストン92が付勢されている。さらに、流体給排口95がシリンダ91に設けられている。
【0096】
そして、流体給排口95から圧縮流体を供給してシリンダ91内を加圧すると、スプリング96の付勢力に抗してピストン92が移動する。このため、押圧部94が低弾性部81を押し潰される(ピンチされる)。これにより、排出口16が閉鎖される。
その後、流体給排口95を開放すると、スプリング96の付勢力によりピストン92が移動して、押圧部94による低弾性部81の押圧が解除される。これにより、排出口16が開口される。
このように、チップホルダ80では、ピンチバルブ90で低弾性部81をピンチすることにより、ピンチバルブ90は内部の液体と接触することなく排出口16を閉鎖することができる。従って、排出口16を閉鎖する際に、排出口16が汚染されることを防止することができる。
【0097】
なお、低弾性体部81を構成する低弾性材料として、弾性率が100MPa、より好ましくは50MPaさらに好ましくは20MPa以下、破断伸びが100%〜800%となるものが良い。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、ナイロン、エチレン酢酸ビニルコポリマー、ポリエチレンビニルアルコール、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、クロロプレンゴム、アクリルゴム、ヒドリンゴム、ポリスルフィドゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴムなどの熱可塑性エラストマー、ウレタンゴム、アイオノマー樹脂などが使用可能である。熱可塑性エラストマーにはポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリエーテル系、ポリ塩化ビニール系などが存在するが、これらのいずれも使用可能である。
【0098】
このような低弾性部81は、図17に示すように、チップホルダ80と同一材料で形成されても良いし、図18(a)〜(d)に示すように、異種材料で形成されても良い。図18(a)〜(d)は、チップホルダの排出口と低弾性部との各種接合形態を示す図である。そして、異種材料で形成する場合には、チップホルダ80との接合は、図18(a)に示すように、チップホルダ80と低弾性部81との界面同士を接着剤、振動溶融あるいはインサート成型することによって行うことができる。また、低弾性部81の低弾性という性質を利用して、図18(b)(c)に示すように、チップホルダ80の排出口16に挿入して接続することもできる。さらに、図18(d)に示すように、チップホルダ80の側面に排出口16を設け、そこに低弾性部81を接合することも可能である。
【0099】
ここで、低弾性部81のうちピンチバルブ90によってピンチされる部分の壁面厚さは、ピンチバルブ90により破損されない程度に薄いことが好ましく、材料の種類にもよるが通常0.05mmから2mm、より好ましくは0.1mmから0.5mmにするのが良い。0.05mm未満の場合は、ピンチされる度に繰り返し押圧されるために破損するおそれがあり、2mm以上の場合は、ピンチバルブ90によって完全にピンチすることができないおそれがあるからである。
【0100】
また、低弾性部81の形状は、図17に示すストレート形状の他に、図19(a)(b)に示すような円錐形状にすることもできる。図19は、低弾性部の変形形状を示す図であって、(a)は低弾性部の横断面図であり、(b)は低弾性部の縦断面図である。
さらに、低弾性部81の横断面形状は図19(a)に示す真円状の他に、図20(a)に示すような半径Rを実質的に小さくすることができる楕円状にすることもできる。この場合における低弾性部の縦断面は図20(b)に示すようになる。なお、図20は、低弾性部の変形形状を示す図であって、(a)は低弾性部の横断面図であり、(b)は低弾性部の縦断面図である。このようにピンチバルブ90によるピンチを確実にするためには、低弾性部81の半径Rが小さいほど好ましく、通常、半径Rは5以下、より好ましくは3以下にするのが良い。
【0101】
そして、上記のように構成されたチップホルダ80を用いた場合には、開閉弁14の代わりにピンチバルブ90によって排出口16(低弾性部81)が開閉される。具体的には、上記した実施の形態において、開閉弁14をオンするタイミングでピンチバルブ90の流体給排口95から圧縮流体を供給してシリンダ91内を加圧する。一方、開閉弁をオフするタイミングで流体給排口95を開放する。これにより、ピンチバルブ90はチップホルダ80から排出される液体に接触することなく排出口16を閉鎖することができる。従って、排出口16を閉鎖する際に、排出口16が汚染されることを確実に防止することができる。
【0102】
ここで、図21に示すように、チップホルダ80(低弾性部81)に、チップホルダ80から排出される排出液を回収するための回収容器82を接続しても良い。回収容器82は、チップキットの一部であってもよいし、チップキットとは別に、チップキットハンドラの一部であってもよい。図21は、回収容器を接続したチップホルダの概略構成を示す断面図である。図21では、回収容器82は、チップキットの一部として連続的に示されている。この回収容器82には、加減圧ノズル83が設けられている。そして、加減圧ノズル83にコンプレッサ、真空圧ポンプおよび制御装置が接続されている。これにより、回収容器82側からもチップホルダ80内の圧力を変化させることができるようになっている。
なお、回収容器82の形状は、加減圧ノズル83よりも下方に液だまりが存在する形状であれば特に制限はない。また、回収容器82の材質としては、チップホルダ80と同一あるいはチップホルダ80に使用可能なものを使用すれば良い。
【0103】
そして、回収容器82が接続されたチップホルダ80を用いた場合には、チップホルダ80内から液体を排出する際に、回収容器82の加減圧ノズル83を利用して回収容器82内を減圧することができる。これにより、排出液を回収容器82に排出、滞留させることができるとともに、チップ20の孔の壁やメニスカスでチップホルダ80の内壁に付着する液体を最小にし、排出液を最大限回収することができる。
【0104】
また、図22に示すように、チップホルダ80に複数(図22では2個)の回収容器を接続することも可能である。図22は、複数の回収容器を接続したチップホルダの概略構成を示す断面図である。この場合、回収容器の数に対応して、チップホルダ80に設ける排出口、および排出口に接続する低弾性部を設ける必要がある。具体的に図22に示す場合であれば、チップホルダ80に2つの排出口16a,16bを設け、それぞれの排出口16a,16bに低弾性部81a,81bを接続し、それぞれの低弾性部81a,81bに回収容器82a,82bを接続することになる。そして、各低弾性部81a,81bには、それぞれピンチバルブ90a,90bが装着されている。
【0105】
このように、2つの回収容器90a,90bを設けることにより、チップホルダ80に投入された異なる溶液を、任意の回収容器に回収することができる。つまり、チップホルダ80から溶液を排出する際に、ピンチバルブ90a,90bのいずれか一方を作動させて低弾性部81a,81bのいずれか一方をピンチして、排出口16a,16bのいずれか一方を閉鎖するようにすればよい。具体的には、チップホルダ80から排出される溶液を回収容器82aに回収する場合であれば、ピンチバルブ90bによって低弾性部81bをピンチして排出口16bを閉鎖すればよい。また、チップホルダ80から排出される溶液を回収容器82bに溶液回収する場合であれば、ピンチバルブ90aによって低弾性部81aをピンチして排出口16aを閉鎖すればよい。
【0106】
このような操作によって、例えば、プローブ担持粒子に吸着させた標的物質の溶出液とそれ以外の溶液とを分けて回収容器82aと82bとにそれぞれ回収することができる。これにより、プローブ担持粒子に吸着させた標的物質の溶出液が他の溶液に汚染させることを確実に防止することができる。なお、各容器を回収する際には、加減圧ノズル83a,83bを利用して回収容器82a,82b内を減圧することにより、各溶液を最大限回収することができる。
【0107】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係るチップキットハンドラ10では、チップホルダ11内が密閉された状態でチップホルダ11内が減圧されて(S33)、チップホルダ11内に洗浄液が導入され、フィルタ18が洗浄液中に浸積される(S34)。このため、チップホルダ11内は減圧されて負圧になっているので、洗浄液をチップホルダ11内に導入する際に気泡が発生しない。
【0108】
そして、検体投入後、分離液滴下後のそれぞれにおいて、エアー攪拌、液流攪拌、あるいは液面上下動による攪拌のいずれかが実施されるので、チップホルダ11内の溶液が効率よく攪拌される。また、溶液中に気泡が混在していないので、プローブ担持粒子と検体あるいは各種の試薬との近接・接触の回数を増加させることができる。従って、プローブ担持粒子と検体との反応性、プローブ粒子からの未反応検体の除去性能、プローブ担持粒子からの検体中の標的物質の分離性能を向上させることができる。
【0109】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、取付アーム56に設けた長孔56aとネジ57とによって液面センサ60の焦点調整を行うようになっているが、図23に示すように、ロック59を解除して調整ダイヤル58を回転させる(公知のギヤ機構等を利用する)ことより、液面センサ60の焦点調整を行うようにしてもよい。これにより、液面センサ60の焦点調整を精度良く行うことができる。
【0110】
また、下ホルダ11bの排出口16を開閉する開閉弁14を、図24に示すように、揺動型の開閉機構にすることもできる。つまり、揺動体70の中央部を載置台12に回動可能に固定し、揺動体70の一端に弁体71を設けて他端をアクチュエータ72に接続する。そして、アクチュエータ72の可動部を上下動させることにより、揺動体70を揺動させて弁体71を排出口16に当接・離間させ、排出口16を開閉させることもできる。
【0111】
また、開閉弁16をオフして排出口16から溶液を排出した際に、載置台12内を減圧するようにしても良い。これにより、フィルタ23の細孔22の壁やメニスカスでチップホルダ11の内壁に付着し残留する液体を最小にし、排出される溶液量を最大にすることができる。
【0112】
また、上記したチップホルダ80は上部が開口したものであるが、図25に示すように、上部を閉鎖して液体供給ノズル84および加減圧ノズル85を設けることもできる。この場合には、液体供給ノズル84に液体貯留槽とその吐出制御装置を接続し、加減圧ノズル85にコンプレッサ、真空ポンプあるいはその制御装置を接続する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1】実施の形態に係るチップハンドラの概略構成図である。
【図2】チップハンドラの主要部の概略構成図である。
【図3】バイオチップの概略構成を示す断面図であって、(a)はバイオチップを模式的に示した断面図であり、(b)〜(d)はバイオチップが備えるウエルの底部側を模式的に示した断面図である。
【図4】攪拌用キャップの各部断面を示す断面図である。
【図5】チップハンドラにおけるチップキットの操作方法の概要を示すフローチャートである。
【図6】初期設定工程の内容を示すフローチャートである。
【図7】溶液導入工程の内容を示すフローチャートである。
【図8】エアー攪拌の処理内容を示すフローチャートである。
【図9】液流攪拌の処理内容を示すフローチャートである。
【図10】差圧により液面を上下動させる攪拌の処理内容を示すフローチャートである。
【図11】検体投入工程の内容を示すフローチャートである。
【図12】分離液滴下工程の内容を示すフローチャートである。
【図13】鉛直アームを倒して、チップを収容したチップホルダを載置台にセットした状態を示す説明図である。
【図14】チップホルダ内が密閉されたときのチップハンドラ主要部の状態を示す説明図である。
【図15】洗浄液を導入した後にホルダキャップ11が外されたときのチップハンドラ主要部の状態を示す説明図である。
【図16】攪拌用キャップを装着した状態を示す説明図である。
【図17】チップホルダの変形例概略構成を示す断面図である。
【図18】チップホルダの排出口と低弾性部との各種接合形態を示す図である。
【図19】低弾性部の変形形状を示す図であって、(a)は低弾性部の横断面図であり、(b)は低弾性部の縦断面図である。
【図20】低弾性部の変形形状を示す図であって、(a)は低弾性部の横断面図であり、(b)は低弾性部の縦断面図である。
【図21】回収容器を接続したチップホルダの概略構成を示す断面図である。
【図22】複数の回収容器を接続したチップホルダの概略構成を示す断面図である。
【図23】液面センサの焦点調整機構の変形例を示す概略構成図である。
【図24】排出口の開閉機構の変形例を示す概略構成図である。
【図25】液体供給ノズルおよび加減圧ノズルを設けたチップホルダの概略構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0114】
10 チップハンドラ
11 チップホルダ
11a 上ホルダ
11b 下ホルダ
12 載置台
13 ホルダキャップ
14 開閉弁
15 導入口
16 排出口
17 シール部材
18 シール部材
20 チップ
21 ウエル
22 細孔
23 フィルタ
24 ウェル側壁
30 ノズル
40 攪拌用キャップ
41 噴射ノズル
42 連通路
43 供給口
53 鉛直アーム
54 水平アーム
56 取付アーム
56a 長孔
57 ネジ
60 液面センサ
80 チップホルダ
81 低弾性部
82 回収容器
83 加減圧ノズル
90 ピンチバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオチップキット内で各種の反応を生じさせるためのチップキットハンドラにおいて、
均一な孔径を有する細孔が一定間隔で形成されたフィルタが底部に設けられるとともにプローブ担持粒子が収容されるウエルを備えるバイオチップと、
前記バイオチップを収容するとともに、溶液の導入口及び排出口を備えるチップキットと、
前記導入口から前記チップキット内に溶液を供給する溶液供給手段と、
前記排出口を開閉する開閉手段と、
前記チップキット内を気密にする密閉手段と、
前記チップキット内の圧力を加減圧する加減圧手段と、
を有することを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項2】
請求項1に記載するチップキットハンドラにおいて、
前記チップキットの排出口には、中空凸形状であって低弾性材料により形成された低弾性部が備わっていることを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項3】
請求項2に記載するチップキットハンドラにおいて、
前記チップキットの排出口は、前記チップキットから排出される排出液を回収する回収容器に接続されていることを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項4】
請求項3に記載するチップキットハンドラにおいて、
前記チップキットには複数の排出口が設けられており、前記各排出口がそれぞれ前記回収容器に接続されていることを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項5】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つのチップキットハンドラにおいて、
前記溶液供給手段は、前記密閉手段により前記チップキット内が密閉され、前記加減圧手段により前記チップキット内が減圧された後に、前記チップキット内に溶液を供給することを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項6】
請求項1から請求項4に記載するいずれか1つのチップキットハンドラにおいて、
前記加減圧手段は、前記チップキット内に差圧を発生させて前記チップキット内の溶液を上下動させて攪拌することを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項7】
請求項1から請求項6に記載するいずれか1つのチップキットハンドラにおいて、
前記チップキット内に存在する溶液の液面を検出する液面検出手段をさらに有することを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項8】
請求項7に記載するチップキットハンドラにおいて、
前記液面検出手段は鉛直方向に移動可能に取り付けられていることを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項9】
請求項1から請求項8に記載するいずれか1つのチップキットハンドラにおいて、
流体を前記チップキットの内壁に向けて噴射することにより前記チップキット内に存在する溶液を攪拌する攪拌手段をさらに有することを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項10】
請求項9に記載するチップキットハンドラにおいて、
前記攪拌手段は、
噴射流体が供給される流体供給口と、
流体を前記チップキットの内壁に向けて噴射するために斜めに取り付けられた噴射ノズルと、
前記流体供給口と前記噴射ノズルとを連通させる連通路と、
を有することを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項11】
請求項10に記載するチップキットハンドラにおいて、
前記攪拌手段には、複数の前記噴射ノズルが設けられていることを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項12】
請求項11に記載するチップキットハンドラにおいて、
前記複数の噴射ノズルは、圧力および時間をそれぞれ制御して流体を噴射することを特徴とするチップキットハンドラ。
【請求項13】
均一な孔径を有する細孔が一定間隔で形成されたフィルタが底部に設けられるとともにプローブ担持粒子が収容されるウエルを備えるバイオチップと、
前記バイオチップを収容するとともに、溶液の導入口及び排出口を備えることを特徴とするチップキット。
【請求項14】
請求項13に記載するチップキットにおいて、
前記排出口が、中空凸形状であって低弾性材料により形成された低弾性部を備えることを特徴とするチップキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2006−284566(P2006−284566A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58955(P2006−58955)
【出願日】平成18年3月6日(2006.3.6)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【出願人】(502128800)株式会社オクテック (83)
【Fターム(参考)】