説明

チャンバー型塗工液供給装置

【課題】取付け、ドクターの調整、清掃が容易で、チャンバードクターから塗工液が漏れ出ないように確実にシール可能なチャンバー型塗工液供給装置を提供する。
【解決手段】グラビアコータやグラビア印刷機の版胴ロールの周面に配置される、チャンバー本体と、チャンバー本体両端部のシール部材と、チャンバー本体の上流側で先端縁が版胴ロールに摺接するシールプレートと、チャンバー本体の下流側で先端縁が版胴ロールに摺接するドクターブレードとで塗工液室が形成されているチャンバー型塗工液供給装置において、シール部材が、チャンバー本体と、シールプレートおよびシールプレートの押さえプレートと、ドクターブレードおよびドクターブレードの押さえプレートと接する面をシールするための内側シールと、版胴ロールの周面と接する面をシールするための外側シールとの、2枚のシール部材で構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラビアコータやグラビア印刷機の版胴ロールに、塗工液またはインキを供給するために用いられるチャンバー型塗工液供給装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、グラビアコータやグラビア印刷機では、側断面がアルファベットのC字型のチャンバーを版胴ロール側に開いた方向に配置し、このチャンバーの両端部にシール部材、版胴ロールに対峙したチャンバー開口部の上側部にドクターブレードと下側部にシールプレートとを版胴の長手方向に沿って設置し、版胴ロール表面にドクターブレードとシールプレートとが摺接する状態で対向させ、さらに、チャンバーと版胴ロールとで作られた空間に供給用ポンプにより塗工液またはインキを供給することで、塗工液またはインキを版胴ロールに転移させるチャンバードクターと呼ばれる密閉型の塗工液供給装置が知られている。
【0003】
図6から図9は、従来のチャンバードクターの例を示している。チャンバードクター1は、側断面がアルファベットのC字型のチャンバー本体2を備えていて、版胴ロールaの周面bにチャンバー本体2の溝部3を臨ませるように対峙状態にして配置され、前記溝部3の側方を覆うようにしてチャンバー本体2の両端部に合成樹脂製の発泡材料からなるシール部材4が取付けプレート5を用いて取付け固定されている。前記シール部材4は版胴ロールaに向けて先細りした形状とされ、その先端部6が版胴ロールaの周面bに摺接する。また、チャンバー本体2の版胴ロールaの回転方向上流側、即ち、チャンバー本体2の下側部に、合成樹脂製の板材などからなるシールプレート7が取り付けられていて、一方のシール部材から他方のシール部材に亘るシールプレート7の先端縁8が版胴ロールaの周面bに摺接する。さらに、前記チャンバー本体2における版胴ロールaの回転方向下流側、即ち、チャンバー本体2の上側部には鋼板材などからなるドクターブレード9が取り付けられていて、一方のシール部材から他方のシール部材に亘るドクターブレード9の先端縁10が版胴ロールaの周面bに摺接している。このようにして、前記チャンバー本体2の溝部3を前記シール部材4とシールプレート7とドクターブレード9とで囲み、それぞれの先端部分を上記版胴ロールaの周面bに摺接させることで外部に対して閉じた塗工液室11が形成され、図示しない塗工液供給部から塗工液またはインキがこの塗工液室11に送り込まれ、その塗工液またはインキが回転する版胴ロールaの周面bに付着するようになっている。前記シール部材4やシールプレート7は、塗工液またはインキが外部に漏れ出ないようにするものであり、ドクターブレード9は、周面bから不要な塗工液またはインキを掻き取る役割をするものである。なお、図において2aはシールプレート7をチャンバー本体2の下部斜面に取り付けるための押さえプレートであり、2bはドクターブレード9をチャンバー本体2の上部斜面に取り付けるための押さえプレートである。前記シール部材4はその下斜面部13において、シールプレート7の両端部12と、押さえプレート2aの両端部16に密に接しており、同様に上斜面部15において、ドクターブレード9の両端部14と、押さえプレート2bの両端部17に密に接している。
【0004】
また、上記構造のチャンバードクター1は、図示しない塗工液供給口と塗工液排出口を備えており、塗工面の品質不良を防ぐために、チャンバードクター1への塗工液またはインキの供給量を排出量よりも多く調整され、塗工中の塗工液室11は正圧に保たれており、チャンバー本体2の両端に設置されているシール部材4によって、塗工液またはインキの外部への漏れ出しを防いでいる。
【0005】
ところで、前記チャンバードクターにおいては、版胴ロールとシール部材との摺接面、
およびドクターブレードまたはシールプレートやそれらの押さえプレートとシール部材との合わせ面、シール部材とチャンバー本体との合わせ面では、多くの部材が重なり合う構造となっており、形状が複雑なため、各合わせ面のシールが十分にできずに、塗工液またはインキがチャンバー外部に漏れ出しやすい。また、ドクターブレードやシールプレートは、その機能上、可撓性を持って取り付けられているため、シール部材との合わせ面に隙間が生じやすく、その結果、塗工液またはインキがチャンバー外部に漏れ出しやすい。さらに、チャンバードクターへの塗工液またはインキの供給圧力が高いほど、前記のような漏れは多くなってしまう。
【0006】
チャンバードクターは本来、開放型のインキング装置に比べ、塗工液またはインキ中の有機溶剤分の揮発による塗工状態への影響が少なく、また塗工液またはインキの飛散が少ないためにそれらが被塗工物に付着することも少なく、塗工不良も発生しにくい。また周囲への汚染が少ないため清掃が簡単になり、さらに溶剤臭の拡散が少ないために作業環境の改善が望める、などの利点を持っているが、上記のような塗工液またはインキのチャンバードクター外部への漏れがあるために、その利点を十分に生かすことができないという問題があった。
【0007】
このチャンバー本体の両端部のシール部材に関しては、これまでにいくつかの提案がなされてきた。例えば、特許文献1には、シール部材の密封性を向上させるために、シール部材を版胴ロールと反対方向から板バネやスプリングといった弾性体、またはエアシリンダを用いて、版胴ロールに対して押し付ける構造のものが開示されている。
【0008】
また別の例として、特許文献2には、チャンバードクター両端部に設置されたシール部材の版胴ロール中央側でチャンバー内部に、別の仕切り部材を版胴ロールに摺接するように設け、この仕切り部材とシール部材に囲まれたドレン室を形成させて、仕切り部材から漏れ出た塗工液またはインキをこのドレン室から排出することによって、シール部材からチャンバードクター外部に塗工液またはインキが漏れ出ることを防ぐ技術が開示されている。
【特許文献1】特開2002−137367号公報
【特許文献2】特開平10−71700号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前記特許文献に示された方法では、チャンバードクターの構造がより複雑になるために、版胴ロールに対するドクターブレードの当たり具合の調整がしにくくなったり、チャンバードクター内の清掃や洗浄がしにくくなったりするなどの弊害も発生していた。
【0010】
本発明は上記した問題点を解消するためになされたもので、取付け、ドクターの調整、清掃が容易で、チャンバードクターから塗工液が漏れ出ないように確実にシール可能なチャンバー型塗工液供給装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1に係る発明は、グラビアコータやグラビア印刷機の版胴ロールの周面に溝部を臨ませて該版胴ロールに対峙状態にして配置されるチャンバー本体と、前記チャンバー本体の両端部それぞれを覆い、先端部が前記版胴ロールに摺接するシール部材と、前記チャンバー本体の前記版胴ロールの回転方向上流側で、一方の前記シール部材から他方の前記シール部材にわたり先端縁が版胴ロールに摺接するシールプレートと、前記チャ
ンバー本体の前記版胴ロールの回転方向下流側で一方の前記シール部材から他方の前記シール部材にわたり先端縁が版胴ロールに摺接するドクターブレードとで塗工液室が形成されているチャンバー型塗工液供給装置において、前記シール部材が、チャンバー本体と、シールプレートおよびシールプレートの押さえプレートと、ドクターブレードおよびドクターブレードの押さえプレートと接する面をシールするための内側シールと、版胴ロールの周面と接する面をシールするための外側シールとの、2枚のシール部材で両端部それぞれ構成されていることを特徴とするチャンバー型塗工液供給装置である。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記2枚のシール部材のうち、前記内側シールが、前記外側シールより硬度の低い弾性体または発泡体から成ることを特徴とする請求項1に記載するチャンバー型塗工液供給装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明のチャンバー型塗工液供給装置は以上の構成からなるので、ドクタープレートまたはシールプレートやそれらの押さえプレートとシール部材との合わせ面や、シール部材とチャンバー本体との合わせ面などの多くの部材が重なり合う面でも、硬度が低く弾性変形しやすい内側シールは、複雑な形状に追従でき塗工液またはインキの漏れをシールすることができる。
【0014】
また、内側シールとは別に設けた外側シールによって、版胴ロールの周面との摺接面をシールすることで、外側シールには比較的硬度が高く、耐摩耗性に優る材質を使用することができるようになり、より確実に版胴ロールの周面との摺接面からの塗工液またはインキの漏れを防止することができる。
【0015】
さらに、これらの内側シールと外側シールは、チャンバー本体の形状やシール部材を取り付けるための部材を複雑にすることなく取り付け可能であるため、ドクターの調整や清掃が容易である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のチャンバー型塗工液供給装置を、一実施形態に基づいて、図1から図5を参照して説明する。なお、図6から図9に示した従来例と、構成が重複する部分は同符号を付してその説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明のチャンバー型塗工液供給装置の一実施例を示す概略図であり、図2はその側部を分解した状態で示す説明図である。この実施例のチャンバードクター1では、チャンバー本体2の溝部3の側方を覆うようにしてその両端部において、チャンバー本体2に接する側に内側シール19と、取付けプレート5に接する側に外側シール18が取付けプレート5を用いて取付け固定されている。
【0018】
図5に示すように、内側シール19は、版胴ロールaに向けて先細りした台形形状をしており、その先端面22は版胴ロールaの周面bと接することなく、隙間が空けられている。内側シール19の内側面26はチャンバー本体2の両端部と密に接し、また上斜面20はドクターブレード9の両端部14および押さえプレート2bの両端部17と密に接し、下斜面21はシールプレート7の両端部12および押さえプレート2aの両端部16と密に接するように設置されている。
【0019】
外側シール18は、内側シール19と同様に、版胴ロールaに向かって先細りの形状をしているものの、その先端面25は版胴ロールaの周面bに摺接している。上斜面23と下斜面24は、それぞれドクターブレード9の両端部14または押さえプレート2bの両端部17や、シールプレート7の両端部12または押さえプレート2aの両端部16と必
ずしも密に接している必要はないが、密に接していた場合は前記各部とのシール性を増すことができる。
【0020】
内側シール19と、ドクターブレード9の両端部14または押さえプレート2bの両端部17との合わせ面や、シールプレート7の両端部12または押さえプレート2aの両端部16との合わせ面は、各部材が重なり合って凹凸面を形成していたり、押さえプレート2aや押さえプレート2bは、ドクターブレード9やシールプレート7の位置調整のために版胴ロールaの周面b方向への図示しないスライド機構を有したりすることもあり、複雑な形状をしている場合がある。したがって、内側シール19には合成樹脂製の発泡材やゴム材などの弾性体を使用することができるが、比較的硬度が低く、弾性変形しやすいものを用いることで、シール面からの塗工液やインキの漏れ出しをより効果的に防止することができる。
【0021】
一方、外側シール18は、常時回転している版胴ロールaの周面bと摺接しているため、合成樹脂製の発泡材やゴム材などの弾性体のほかに、ポリアセタール、ポリアミド、フッ素樹脂、超高分子量ポリエチレンなどのエンジニアリングプラスチックを用いることができ、これらの比較的硬度が高い材料を用いることで、磨耗による劣化を抑制し、版胴ロールaとドクターブレード9との間に引き込まれるのを防止することができる。
【0022】
このように硬度の異なる内側シール19と外側シール18を取付けプレート5を用いて、ドクターチャンバー1のチャンバー本体2の両端面において、塗工液室を形成する各部材と密に接するように取付設置することによって、塗工液室11からの塗工液またはインキの漏れを効果的に防止することができる。
【0023】
なお、ドクターブレード9の角度は図4や図5の説明図において、版胴ロールの周面に対して鈍角に接するようになっているが、鋭角に接するようなチャンバードクターであってもよい。
【0024】
以上説明したように、本発明のチャンバー型塗工液供給装置は、チャンバードクターからの塗工液やインキの漏れを防止することができるので、グラビアコーティングやグラビア印刷機における品質の向上や、作業環境のクリーン化に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明のチャンバー型塗工液供給装置の一実施例の概略図。
【図2】本発明のチャンバー型塗工液供給装置の側部を分解した状態を示す説明図。
【図3】本発明のチャンバー型塗工液供給装置を上方から見た説明図。
【図4】本発明のチャンバー型塗工液供給装置の外側シールを示す断面図。
【図5】本発明のチャンバー型塗工液供給装置の内側シールを示す断面図。
【図6】従来のチャンバードクターを示す概略図。
【図7】従来のチャンバードクター側部を背面から見た概略図。
【図8】従来のチャンバードクターの側部を分解した状態を示す説明図。
【図9】従来のチャンバードクターの断面を示す説明図。
【符号の説明】
【0026】
a・・・版胴ロール b・・・(版胴ロールの)周面
1・・・チャンバードクター 2・・・チャンバー本体 3・・・溝部
4・・・シール部材 5・・・取付けプレート
6・・・(シール部材の)先端部 7・・・シールプレート
8・・・(シールプレートの)先端縁 9・・・ドクターブレード
10・・・(ドクターブレードの)先端縁 11・・・塗工液室
12・・・シールプレートの両端部 13・・・(シール部材の)下斜面部
14・・・ドクターブレードの両端部 15・・・(シール部材の)上斜面部
2a・・・(シールプレートの)押さえプレート
2b・・・(ドクターブレードの)押さえプレート
16・・・2aの両端部 17・・・2bの両端部
18・・・外側シール 19・・・内側シール
20・・・(内側シールの)上斜面 21・・・(内側シールの)下斜面
22・・・(内側シールの)先端面 25・・・(外側シールの)先端面
23・・・(外側シールの)上斜面 24・・・(外側シールの)下斜面
26・・・(外側シールの)内側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラビアコータやグラビア印刷機の版胴ロールの周面に溝部を臨ませて該版胴ロールに対峙状態にして配置されるチャンバー本体と、
前記チャンバー本体の両端部それぞれを覆い、先端部が前記版胴ロールに摺接するシール部材と、
前記チャンバー本体の前記版胴ロールの回転方向上流側で、一方の前記シール部材から他方の前記シール部材にわたり先端縁が版胴ロールに摺接するシールプレートと、
前記チャンバー本体の前記版胴ロールの回転方向下流側で一方の前記シール部材から他方の前記シール部材にわたり先端縁が版胴ロールに摺接するドクターブレードとで塗工液室が形成されているチャンバー型塗工液供給装置において、
前記シール部材が、チャンバー本体と、シールプレートおよびシールプレートの押さえプレートと、ドクターブレードおよびドクターブレードの押さえプレートと接する面をシールするための内側シールと、版胴ロールの周面と接する面をシールするための外側シールとの、2枚のシール部材で両端部それぞれ構成されていることを特徴とするチャンバー型塗工液供給装置。
【請求項2】
前記2枚のシール部材のうち、前記内側シールが、前記外側シールより硬度の低い弾性体または発泡体から成ることを特徴とする請求項1に記載するチャンバー型塗工液供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−69829(P2010−69829A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242519(P2008−242519)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】