説明

チロシンキナーゼ阻害剤の経口投与用薬学的剤形

【課題】チロシンキナーゼ阻害剤類の改善された経口固体剤形の開発が依然として必要とされている。
【解決手段】少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤、少なくとも1種の薬学的に許容できるポリマー、および少なくとも1種の薬学的に許容できる可溶化剤の固体分散生成物を含む薬学的剤形。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チロシンキナーゼ阻害剤の経口投与用薬学的剤形、その剤形を調製する方法および増殖性疾患の治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チロシンキナーゼ阻害化合物類は、たんぱく質チロシンキナーゼのアップレギュレーションまたは過剰発現によって発生あるいは悪化した疾患の治療に有用である。残念ながら、多くの公知のチロシンキナーゼ阻害剤類の結晶形は、その大体が、水性液体中における顕著に低い溶解性を特徴とし、それが、それらの溶解速度および生体利用性に影響を及ぼす。
【0003】
薬剤において経口剤形の潜在的有用性の指標は、その剤形の経口投与後に観察されるバイオアベイラビリティである。経口投与された場合、様々な因子が薬物のバイオアベイラビリティに影響し得る。これらの因子には、水溶解度、消化管内での薬物吸収、用量強度及び初回通過効果が含まれる。水溶解度は、これらの因子のうちで最も重要な一つである。
【0004】
患者のコンプライアンス及び味のマスキング等の様々な理由により、液体の剤形と比較して、固体の剤形が通常は好ましい。しかしながら、多くの場合、薬物の経口固体剤形は、薬物の経口溶液よりも低いバイオアベイラビリティをもたらす。
【0005】
薬物の固溶体を形成することによって固体剤形によってもたらされるバイオアベイラビリティを向上させる試みがなされている。消化液等の液状媒質と接触したときに、固溶体の中に含まれる成分類が容易に液体溶液を形成することから、固溶体は好ましい物理的系である。この易溶解性は、固溶体から成分類が溶解するのに必要とされるエネルギーが、結晶又は微結晶固相から成分類が溶解するのに必要とされるエネルギーよりも少ないという事実に少なくとも一部分起因し得る。しかしながら、固溶体から放出される薬物が消化管内の水性液体中で水溶性であり続けるということが重要である;さもなければ、薬物は消化管内で沈殿し、低バイオアベイラビリティをもたらし得る。
【0006】
特許文献1(国際公開第01/00175号パンフレット)は、助剤マトリックス中の活性成分類の固溶体である機械的に安定した薬学的剤形を開示する。このマトリックスは、N−ビニルピロリドンのホモポリマー又はコポリマーと液体又は半固体界面活性剤とを含む。
【0007】
特許文献2(国際公開第00/57854号パンフレット)は、少なくとも1つの活性化合物と、少なくとも1つの熱可塑的に成形可能なマトリックス形成性助剤と、2〜18のHLBを有する界面活性物質であって、20℃で液体であるか又は20〜50℃の範囲に滴点を有する界面活性物質を10重量%より多く最大で40重量%と、を含む経口投与のための機械的に安定した薬学的剤形を開示する。
【0008】
特許文献3(米国特許出願公開第2005/0208082号明細書)は、ビタミンE TPGSとリノール酸の混合物を含む可溶化組成物を開示する。この可溶化組成物は、水相中に脂溶性物質を分散させるために使用される。脂溶性物質は、脂溶性ビタミン類、コエンザイムQ10、カロテノイド類、アルファリポ酸、必須脂肪酸類等の治療的に有効な脂溶性物質であってもよい。
【0009】
特許文献4(米国特許出願公開第2005/0236236号明細書)は、疎水性薬物類、特にステロイド類の投与のための薬学的組成物を開示する。この薬学的組成物には、疎水性薬物、ビタミンE物質及び界面活性剤が含まれる。該文献は、疎水性薬物とビタミンE物質との間の相乗効果を主張している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第01/00175号パンフレット
【特許文献2】国際公開第00/57854号パンフレット
【特許文献3】米国特許出願公開第2005/0208082号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0236236号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
チロシンキナーゼ阻害剤類の改善された経口固体剤形の開発が依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤、少なくとも1種の薬学的に許容できるポリマー、および少なくとも1種の薬学的に許容できる可溶化剤の固体分散生成物を含む薬剤投与剤形に関する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の剤形中、活性成分は、固体分散体として、又は、好ましくは固溶体として、存在する。用語“固体分散体”は、少なくとも2種の成分を含み、そのうち1成分が他の成分あるいは他の成分類全体におおよそ均一に分散されている固体状態(液体または気体状態とは対照的である)における系と定義される。例えば、活性成分又は活性成分類の組み合わせは、薬学的に許容されるポリマー(類)及び薬学的に許容される可溶化剤類から構成されるマトリックス中に分散される。用語“固体分散体”は、典型的には直径が1μm未満の小粒子類を有し、一相が別の相に分散されている系を含む。前記成分類の分散体が全体として化学的および物理的に均一又は均質である場合、あるいは一相(熱力学で規定される)から構成されるようなものである場合には、かかる固体分散体は“固溶体”又は“ガラス質溶液”と呼ばれることとなる。ガラス質溶液は、溶質がガラス質溶媒中に溶解された均質なガラス質系である。ガラス質溶液及び固溶体は好ましい物理的系である。熱分析(DSC)又はX線回折分析(WAXS)によって証明されるように、これらの系には結晶又は微結晶状態の活性成分類がさほどの量では含まれていない。
【0014】
本発明の剤形は、極めて安定であることを特徴とし、特に、再結晶化に対してまたは活性成分(類)の分解に対して高い耐性を示す。
【0015】
本発明の剤形は、高到達AUC(0〜48時間の血漿濃度−時間曲線下面積)、高到達Cmax(最大血漿濃度)および低Tmax(最大血漿濃度に到達するまでの時間)を特徴とする放出および吸収挙動を示す。
【0016】
用語“AUC”とは“曲線下面積”を意味し、その通常の意味ですなわち血漿濃度−時間曲線下面積として使用される。“AUC0−48”および“AUC0−∞”とは、それぞれ、0〜48時間の、または0〜無限大までの血漿濃度−時間曲線下面積を意味する。
【0017】
好適な態様において、本発明は、前記チロシンキナーゼ阻害剤がN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N´−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素 (ABT869)(または、水和物、溶媒和物、N−オキシド、またはその薬学的に許容できる酸または塩基付加塩)である剤形を付与する。ある態様においてヒト患者に投与すると、前記剤形は、単回投与後、ABT869に対するCmaxが約0.015μg/mL/mg〜約0.027μg/mL/mg、特に約0.023±0.004μg/mL/mg(平均±SD)という特徴を有する血漿挙動をもたらす。
【0018】
ある態様において前記ヒト患者に投与すると、前記剤形は、単回投与後、ABT869に対するTmaxが約1〜約3時間、特に約2.8±0.6時間という特徴を有する血漿挙動を示す。
【0019】
特定の態様において、前記ヒト患者に投与すると、前記剤形は、単回投与後、用量1mgにつき、ABT869 1mg当たり約0.23μghr/mL/mg〜約0.56μghr/mL/mg、特に約0.40±0.10μg・hr/mL/mgのAUC0−48、またはABT869 1mg当たり約0.27μghr/mL/mg〜約0.81μghr/mL/mg、特に約0.55±0.17μg・hr/mL/mgのAUC0−∞を示す。
【0020】
前記血漿濃度挙動は、適切には、絶食条件下の少なくとも健常ヒト10名の群で、0、1、3、4、6、8、24および48時間時点における血液採取に基づき、明らかにできる。”絶食条件下”とは、患者が投与前後2時間において、水および併用薬剤以外の食料または飲料を消費しないことを意味する。いったん濃度−時間点が決定されると、血漿濃度挙動は、例えば、コンピュータプログラムによってまたは台形法によって計算できる。10mgのABT869のヒトへの単回投与は、ここで使用したようにAUC値を決定するために適していると考えられる。
【0021】
前記剤形の好ましい特性は、該剤形が水性液体と接触した際に、例えば、平均粒子径約1000nm未満、好ましくは約800nm未満、特に約500nm未満、さらに好ましくは約200nm未満を有する微細粒子を放出する能力である。前記微細粒子は、可溶化されたチロシンキナーゼ阻害剤を含み、好ましくは本質的に非結晶状態で含む。前記剤形が経口投与される際、前記水性液体は消化液であろう。インビトロ試験目的のため、前記水性液体は、適切には、1N塩酸900mlの容量とすることができる(USP装置II)。
【0022】
水性液体に接触し形成される分散体はまた、それ自体は、例えば経口液体剤形または非経口注射液として有用である。
【0023】
一般的に、固体分散生成物は、
前記少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤を、約0.5〜40重量%、好ましくは約1〜25重量%、
前記少なくとも1種の薬学的に許容できるポリマーを、約40〜97.5重量%、好ましくは約50〜94重量%、
前記少なくとも1種の可溶化剤を、約2〜20重量%、好ましくは約5〜20重量%、および
添加物類を、約0〜15重量%、好ましくは約0〜10重量%含む。
【0024】
本発明の剤形は完全に固体分散生成物から構成できる一方、添加剤類およびアジュバント類は、通常、前記固体分散生成物を前記剤形類に製剤する際に使用される。一般的に、前記剤形は、前記固体剤形の総重量に対して少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも40重量%、および最も好ましくは少なくとも45重量%の固体分散生成物を含む。
【0025】
典型的には、本発明の単回投与剤形は、前記少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤を、約0.1mg〜約100mg、好ましくは約1.0mg〜約50mg、特に2.5mg〜25mg相当含む。
【0026】
本発明の剤形は、1種のチロシンキナーゼ阻害剤または2種以上のチロシンキナーゼ阻害剤類を含む。前記剤形は、1種以上のチロシンキナーゼ阻害剤類と少なくとも1種のさらなる活性成分を含むこともできる。様々な種類のチロシンキナーゼ阻害剤類を有効に利用できる。
【0027】
好適なチロシンキナーゼ阻害剤は、ABT869[N−[4−(3−アミノ‐1H‐インダゾール‐4−イル)フェニル]−N´−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素]であり、その調製は、WO04/113304に記載されている。ABT869の分子構造を、下記に図示した:
【0028】
【化1】

【0029】
さらに好適なチロシンキナーゼ阻害剤は、N−(4−(4−アミノチエノ[2,3−d]ピリミジン−5‐イル)フェニル)−N´−(2−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)フェニル)尿素であり、その調製は、US2007/0155758に記載されている。
【0030】
さらに、使用できるチロシンキナーゼ阻害剤類として、ソラフェニブ(商品名Nexavar)、ダサチニブ、ラパチニブ(商品名Tykerb)、イマチニブ(商品名Gleevec)、モテサニブ、バンデタニブ(Zactima)、MP−412、レスタウルチニブ、XL647、XL999、タンズチニブ、PKC412、ニロチニブ、AEE788、OSI−930、OSI−817、スニチニブマレアート(商品名Sutent)およびアキシチニブが含まれる。
【0031】
用語“チロシンキナーゼ阻害剤類”とは、チロシンキナーゼを阻害する化合物類の水和物類、溶媒和物類(アルコラート類)、N−オキシド類、薬学的に許容できる酸または塩基付加塩類を包含することを意味する。
【0032】
薬学的に許容できる酸付加塩類には、活性成分の塩基形を適切な有機および無機酸類で処理することによって簡易に得ることができる酸付加塩形状を含む。
【0033】
酸性プロトンを含む活性成分類は、適切な有機および無機塩基類で処理することによって、それらの無毒性金属またはアミン付加塩形に変換できる。
【0034】
本発明は、特に、水不溶性または低水溶解性(または、“疎水性”または“親油性”)化合物類のために有用である。化合物類は、25℃における水溶解度が、1g/100ml未満、特に0.1g/100ml未満である時、水不溶性または低水溶解性とみなされる。
【0035】
用語”薬学的に許容できる可溶化剤”とは、ここでは、薬学的に許容できる非イオン性界面活性剤“を意味するものとして使用する。前記可溶化剤は、前記剤形から放出された活性成分の即時懸濁化を実現し、および/または消化管水性液体中における前記活性成分の沈殿を防止する。単一の可溶化剤ならびに可溶化剤の組み合わせを用いることもできる。本発明の態様によれば、前記固体分散生成物は、2種以上の薬学的に許容できる可溶化剤類の組み合わせを含む。
【0036】
好適な可溶化剤類は、ソルビタン脂肪酸エステル類、例えばポリアルコキシル化グリセリド類、ポリアルコキシル化ソルビタン脂肪酸エステル類またはポリアルキレングリコール類の脂肪酸エステル類のようなポリアルコキシ化脂肪酸エステル類、脂肪アルコール類のポリアルコキシル化エーテル類、トコフェリル化合物類、またはその2種以上の混合物類から選択される。これらの化合物類における脂肪酸鎖は、通常、炭素原子8個から22個までを含む。前記ポリアルキレンオキシドブロック類は、1分子当たり、平均して、アルキレンオキシド単位好適にはエチレンオキシド単位を4個〜50個含む。
【0037】
適切なソルビタン脂肪酸エステル類は、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート(Span(登録商標)60)、ソルビタンモノオレアート(Span(登録商標)80)、ソルビタントリステアレート、ソルビタントリオレアート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレートまたはソルビタンモノオレアートである。
【0038】
適切なポリアルコキシル化脂肪酸エステル類の例は、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノオレアート(Tween(登録商標)80)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリステアレート(Tween(登録商標)65)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタントリオレアート(Tween(登録商標)85)、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノラウレートまたはポリオキシエチレン(4)ソルビタンモノオレアートである。
【0039】
適切なポリアルコキシル化グリセリド類は、例えば、天然または水素添加グリセリド類のアルコキシル化によって、または天然または水素添加グリセリド類のポリアルキレングリコール類によるエステル交換によって得られる。市販品としては、例えば、ポリオキシエチレングリセロールリシノレート35、ポリオキシエチレングリセロールトリヒドロキシステアレート40(Cremophor(登録商標) RH40、BASF AG)や、商標名Gelucire(登録商標)およびLabrafil(登録商標)としてGattefosseから得られるポリアルコキシル化グリセリド類であって、例えば、Gelucire(登録商標)44/14(PEG1500による水素添加パーム核油のエステル交換反応により調製したラウロイルマクロゴール32グリセリド類)、Gelucire(登録商標)50/13(PEG1500による水素添加パーム油のエステル交換反応により調製したステアロイルマクロゴール32グリセリド類)、またはLabrafil M1944CS(PEG300による杏仁油のエステル交換反応により調製したオレオイルマクロゴール6グリセリド類)のようなポリアルコキシル化グリセリド類を使用できる。
【0040】
ポリアルキレングリコール類の適切な脂肪酸エステルは、例えば、PEG660ヒドロキシステアリン酸(30mol%エチレングリコールを有する12−ヒドロキシステアリン酸(70mol%)のポリグリコールエステル)である。
【0041】
脂肪アルコール類の適切なポリアルコキシル化エーテル類は、例えば、PEG(2)ステアリルエーテル(Brij(登録商標)72)、マクロゴール6セチルステアリルエーテルまたはマクロゴール25セチルステアリルエーテルである。
【0042】
一般的に、前記トコフェリル化合物は、下記の式に相当する。
【0043】
【化2】

【0044】
式中、Zは連結基であり、RおよびRは、それぞれ独立して水素またはC−Cアルキルであり、nは、5から100、好適には10から50の整数である。典型的には、Zは、グルタル酸、コハク酸、またはアジピン酸のような脂肪族二塩基酸の残基である。好適には、RおよびR両者ともに、水素である。
【0045】
規定のHLB(親水性親油性バランス)値を有する可溶化剤類または可溶化剤類の組み合わせが、他の可溶化剤類よりも好適である。
【0046】
HLB系(Fielder,H.B著、賦形剤類の百科事典(Encylopedia of Excipients)、第5版、Aulendorf:ECV−Editio−Cantor−Verlag(2002))は、界面活性剤類に数値を割り当てており、親油性物質類は低HLBが割り当てられ、親水性物質類には高HLBが割り当てられている。
【0047】
単一の可溶化剤を用いる時、それは、適切にはHLB値が3.5〜13であり、好ましくは4〜11である。
【0048】
2種以上の薬学的に許容できる可溶化剤類を組み合わせて用いる時、薬学的に許容できる可溶化剤類の組み合わせは、適切には、平均HLB値が4.5〜12、好ましくは5〜11の範囲を有する。平均HLB値は、存在する可溶化剤類の総量に対する各可溶化剤の比率をこの個々の可溶化剤のHLB値に掛け、次に、各可溶化剤類のその寄与分を加えることによって、計算できる。
【0049】
極めて予想外のことであったが、相対的に高いHLB値を有する少なくとも1種の可溶化剤と相対的に低いHLB値を有する少なくとも1種の可溶化剤の組み合わせが、特に有用であることが判った。高HLB可溶化剤は、適切には、8〜15、好ましくは10〜14の範囲のHLB値を有する。低HLB可溶化剤は、適切には、3〜6、好ましくは3.5〜5の範囲のHLB値を有する。高HLB可溶化剤と低HLB可溶化剤の重量比は、9:1〜1:9、好ましくは5:1〜1:5の範囲とすることができる。
【0050】
8〜15の範囲のHLB値を有する可溶化剤類は、Cremophor(登録商標)RH40(HLB13)、Tween(登録商標)65(HLB10.5)、Tween(登録商標)85(HLB11)から選択できる。好適な高HLB可溶化剤類は、ポリアルキレングリコール部分を有するトコフェリル化合物類である。
【0051】
好適なトコフェリル化合物は、アルファトコフェリルポリエチレングリコールサクシネートであり、それは、一般的にビタミンE TPGSと略称される。ビタミンE TPGSは、d−アルファ−トコフェリル酸サクシネートをポリエチレングリコール1000でエステル化することによって調製される水溶性形態の天然源ビタミンEである。。ビタミンE TPGSは、Eastman Chemical Company、Kingsport、TN,USAから入手可能であり、US薬局方(NF)に列挙されている。
【0052】
HLB値3〜6の範囲を有する可溶化剤類は、Span(登録商標)(HLB4.7)、Span(登録商標)80(HLB4.3)、Labrafil M1944 CS(HLB4.0)およびBrij(登録商標)72(HLB4.9)から選択できる。
【0053】
好適な低HLB可溶化剤は、アルキレングリコール脂肪酸モノエステルまたはアルキレングリコール脂肪酸モノ−およびジエステルの混合物である。
【0054】
好適なアルキレングリコール脂肪酸モノエステルは、プロピレングリコール脂肪酸モノエステルであり、プロピレングリコールモノラウレート(Gattefosse、Franceから商品名LAUROGLYCOL(登録商標)という商品名で入手可能)である。市販のプロピレングリコールラウリン酸モノエステル製品は、モノ−及びジラウレートの混合物からなる。2つのプロピレングリコールモノラウレート製品が、ヨーロッパ薬局方中に規定されている(それぞれ、“I型”及び“II型”と言及されている)。両タイプともに本発明の実施に適切であり、プロピレングリコールモノラウレート“I型”が最も好適である。約4のHLB値を有する“I型”製品は、45〜最大70%のモノラウレートと30〜最大55%のジラウレートの混合物から構成される。“II型”製品は、ヨーロッパ薬局方に従えば、最小で90%のモノラウレートと最大で10%のジラウレートを有するものとして規定されている。
【0055】
アルキレングリコール脂肪酸モノおよびジエステルの混合物を用いる場合、これは、好適には、エステル混合物の重量に対して少なくとも40重量%のモノエステル、特に45〜95重量%のモノエステルを含む。
【0056】
従って、好適な態様において、可溶化剤類の組み合わせは、(i)ポリアルキレングリコール部分を有する少なくとも1種のトコフェリル化合物であって、好適にはアルファトコフェリルポリエチレングリコールサクシネート、および(ii)少なくとも1種のアルキレングリコール脂肪酸モノエステルまたはアルキレングリコール脂肪酸モノ−およびジエステルの混合物、を含む。
【0057】
薬学的に許容されるポリマーは、水溶性ポリマー類、水分散性ポリマー類または水膨潤性ポリマー類、若しくはそれらの任意の混合物から選択され得る。ポリマー類が水中で清澄な均一な溶液を形成する場合、ポリマーは水溶性であるとみなされる。20℃にて水溶液中、2%(w/v)で溶解させた場合、この水溶性ポリマーは、好ましくは1〜5000mPa・s、より好ましくは1〜700mPa・s、及び最も好ましくは5〜100mPa・sの見かけの粘度を有する。水分散性ポリマー類とは、水に接触させた場合に、清澄な溶液というよりもむしろコロイド状分散体を形成するものである。水又は水溶液と接触した際に、水膨潤性ポリマー類は通常、ゴム状ゲルを形成する。
【0058】
好ましくは、本発明において使用される薬学的に許容されるポリマーは、少なくとも40℃、好ましくは少なくとも+50℃、最も好ましくは80℃〜180℃のTgを有する。“Tg”とは、ガラス転移温度を意味する。有機ポリマー類のTg値の測定方法は、L.H.Sperling著、“物理高分子科学序論(Introduction to Physical Polymer Science)”、第2版、John Wiley&Sons社、1992年に記載されている。Tg値は、ポリマーを構成する個々のモノマーiの各々から誘導されるホモポリマーのTg値の加重和として計算され得る:Tg=ΣWであり、式中、Wは有機ポリマー中のモノマーiの重量パーセントであり、Xはモノマーiから誘導されるホモポリマーのTg値である。ホモポリマーのTg値は、J.Brandrup及びE.H.Immergut著, “ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)”,第2版、John Wiley&Sons社、1975年、に示されている。
【0059】
前記固体分散生成物に含まれる各種添加剤が、又は活性成分それ自体でさえもが、ポリマーに対して可塑化効果を与え得るので、従ってポリマーのTgを低下させ得る。その結果、最終固体分散生成物は、その調製に使用される出発ポリマーよりもいくらか低いTgを有する。一般的に、最終固体分散生成物は、10℃以上、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上及び最も好ましくは30℃以上のTgを有する。
【0060】
例えば、適切な薬学的に許容できるポリマー類は下記群から選択することができる。
【0061】
N−ビニルラクタム類のホモポリマー類およびコポリマー類で、特に、例えばポリビニルピロリドン(PVP)、N−ビニルピロリドンとビニルアセテートまたはビニルプロピオネートとのコポリマー類のようなN−ビニルピロリドンのホモポリマー類およびコポリマー類、
【0062】
セルロースエステル類及びセルロースエーテル類、特にメチルセルロース及びエチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース類、特にヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース類、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースフタレート類又はスクシネート類、特にセルロースアセテートフタレート及びヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルローススクシネート、又はヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート;
【0063】
ポリエチレンオキシド及びポリプロピレンオキシド、並びに、エチレンオキシドとプロピレンオキシドとのコポリマー類等の高分子量ポリアルキレンオキシド類、
【0064】
ポリビニルアルコール−ポリエチレングリコールグラフトコポリマー類(BASF AG、Ludwigshafen、GermanyからKollicoat(登録商標) IRとして入手可能);
【0065】
メタクリル酸/エチルアクリレートコポリマー類、メタクリル酸/メチルメタクリレートコポリマー類、ブチルメタクリレート/2−ジメチルアミノエチルメタクリレートコポリマー類、ポリ(ヒドロキシアルキルアクリレート)、ポリ(ヒドロキシアルキルメタクリレート)等のポリアクリレート類及びポリメタクリレート類、
【0066】
ポリアクリルアミド類、
【0067】
ビニルアセテートとクロトン酸とのコポリマー類、部分的加水分解化ポリビニルアセテート(部分的鹸化“ポリビニルアルコール”とも呼ばれる)等のビニルアセテートポリマー類、
【0068】
ポリビニルアルコール、
【0069】
カラギーナン類、ガラクトマンナン類及びキサンタン類等のオリゴ糖類及び多糖類、又は、それらのうちの1つ若しくはそれ以上の混合物。
【0070】
これらのうち、N−ビニルピロリドンのホモポリマー類またはコポリマー類、特にN−ビニルピロリドンとビニルアセテートとのコポリマーが好ましい。特に好ましいポリマーは、60重量%のN−ビニルピロリドンと40重量%のビニルアセテートからなるコポリマーである。
【0071】
適切に使用できる他のポリマーは、PVPとポリビニルアセテートの混合物を含む、Kollidon(登録商標) SR(BASF AG、Ludwigshafen、Germanyからとして入手可能)である。
【0072】
前記固体分散生成物は、さまざまな方法で調製できる。前記固体分散生成物は、溶媒蒸発法で調製してもよい。溶媒蒸発法では、少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤、少なくとも1種の薬学的に許容できるポリマーおよび少なくとも1種の薬学的に許容できる可溶化剤類を、通常の溶媒中または溶媒類の組み合わせ中に溶解させ、そして得られた溶液から溶媒を蒸発によって除去する。
【0073】
前記固体分散生成物は、好ましくは、溶融押出により調製される。溶融押出法は、活性成分又は活性成分類の組み合わせと、薬学的に許容されるポリマーと、可溶化剤類との均一な溶融物を調製する工程と、該溶融物が固体化するまで、その溶融物を冷却する工程とを含む。“溶融”とは、1成分が他の成分に均一に組み込まれるようになり得る液状又はゴム状の状態への転移のことを意味する。通常、1成分が溶融し、他の成分が溶融物中に溶解することにより、溶液を形成する。溶融は、通常、薬学的に許容されるポリマーの軟化点よりも高い温度で加熱する工程を伴う。溶融物の調製は様々な方法で行うことができる。成分の混合は、溶融物の形成の前、途中又は後で行うことができる。例えば、成分を最初に混合して次に溶融させるか、又は、同時に混合と溶融をさせることができる。通常、溶融物は、活性成分を効率的に分散させるために均一化される。また、薬学的に許容されるポリマーを最初に溶融し、次に活性成分を混合して均一化することも簡便であり得る。
【0074】
通常、溶融温度は、70〜250℃、好ましくは80〜180℃、最も好ましくは100〜140℃間の範囲である。
【0075】
前記活性成分類は、それ自体として、または、アルコール類、脂肪族炭化水素類またはエステル類等の適切な溶媒中の溶液または分散物として使用され得る。使用され得る他の溶媒としては液体二酸化炭素である。溶媒は、溶融物の調製時に除去、例えば、蒸発させられる。
【0076】
各種添加剤類を溶融物中へ含有させてもよい。例えば、コロイダルシリカ等の流動調整剤類;滑剤類、充填剤類(増量剤類)、崩壊剤類、可塑化剤類、抗酸化剤類等の安定化剤類、光安定化剤類、ラジカル捕捉剤類、又は微生物の攻撃に対する安定化剤類である。
【0077】
溶融及び/又は混合は、この目的にために通常使用されている装置で行う。特に、押出機または混錬機が好適である。適切な押出機には、単軸押出機、噛み合いスクリュー押出機または他の多軸押出機が含まれ、特に二軸押出機が好適で、この二軸押出機は、共回転又は逆回転ができ、また、溶融物を混合または分散させるための混合ディスク類または他のスクリュー要素類を任意に取り付けることができる。作業温度は、押出機の種類、又は使用される押出機の内部構造の種類によっても決められると思われる。押出機内の諸成分を溶融及び混合するのに必要なエネルギーの一部は、加熱要素によって供給できる。しかしながら、押出機内の材料の摩擦及びせん断でもこの混合物に十分なエネルギーを供給でき、これによって諸成分の均質な溶融物の形成が助長される。
【0078】
押出機から排出される押出物は、ペースト状から粘性のあるものまで多岐にわたる。前記押出物を固化させる前に、前記押出物を事実上すべての所望の形状へと直接成形できる。押出物の成形は、相互に合致する窪みを表面に有する2個の逆回転ローラーを備えたカレンダーにより簡便に行うことができる。異なる形状の窪みを有するローラーを用いることにより、広範な錠剤の形態を実現することができる。ローラーが表面に窪みを有しない場合、フィルムを得ることができる。或いは、押出物は、射出成形することにより、所望の形に成形される。或いは、押出物は、異形押出に供され、固化させる前(ホットカット)又は固化後(コールドカット)に小片へと切断される。
【0079】
さらに、押出物が、例えば二酸化炭素などのガス、例えば低分子量炭化水素などの揮発性化合物、あるいは気体へと熱分解し得る化合物のような噴射剤を含む場合、泡状物が形成され得る。噴射剤は、押出機内の比較的高圧条件下において押出物中に溶解し、押出ダイから押出物が現れると、圧力は突如解放される。したがって、噴射剤の溶解性が低下し及び/又は噴射剤が蒸発することにより、泡状物が形成される。
【0080】
選択的に、得られた固溶体生成物は顆粒へと粉砕又は磨砕される。次に、顆粒はカプセルに充填してもよいし、又は、圧縮してもよい。圧縮とは、低間隙率を有する圧縮物、例えば錠剤、を得るために、顆粒を含む粉末塊を高圧下で高密度化する工程を意味する。粉末塊の圧縮は、通常、打錠機で、より好ましくは、2つの可動性パンチの間のスチール製ダイで行われる。
【0081】
流動調整剤類、崩壊剤類、充填剤類(増量剤類)及び滑剤類から選択される少なくとも1つの添加剤が、好ましくは、顆粒を圧縮する場合に使用される。崩壊剤類は、胃の中での圧縮物の迅速な崩壊を促進し、遊離された顆粒を互いに離れた状態に保つ。適切な崩壊剤類は、架橋ポリビニルピロリドン及び架橋カルボキシメチルセルロースナトリウム等の架橋ポリマー類である。
適切な充填剤類(“増量剤類”とも呼ばれる)は、ラクトース、リン酸水素カルシウム、微結晶性セルロース(Avicel(登録商標))、酸化マグネシウム、ジャガイモ又はトウモロコシデンプン、イソマルト、ポリビニルアルコールから選択される。
【0082】
適切な流動調整剤類は、高分散性シリカ(Aerosil(登録商標))、及び動物性脂肪類又は植物性脂肪類又はワックス類から選択される。
【0083】
滑剤は、好ましくは、顆粒を圧縮する場合に使用される。適切な滑剤類は、ポリエチレングリコール(例えば、1000〜6000のMwを有する)、マグネシウム及びカルシウムステアレート、ステアリルフマレートナトリウム、タルク等から選択される。
【0084】
例えば、アゾ染料等の染料類、酸化アルミニウム又は二酸化チタン等の有機又は無機色素類、又は、天然源の染料類;抗酸化剤類、光安定化剤類、ラジカル捕捉剤類、又は微生物の攻撃に対する安定化剤類等の安定化剤類等、の様々なその他の添加剤を使用してもよい。
【0085】
本発明の剤形は、複数の層からなる剤形、例えばラミネート錠又は多層錠として提供され得る。それらは開放又は閉鎖形態を取り得る。“閉鎖剤形”は、1つの層が少なくとも1つの他の層に完全に囲まれているものである。多層形態は、互いに適合しない2つの活性成分を加工し得る、又は、活性成分(類)の放出特性を調節し得るという利点を有する。例えば、外層の1つに活性成分を含ませることにより初回量を提供し、内層に活性成分(類)を含ませることにより維持量を提供することが可能である。多層錠タイプは、2つ又はそれ以上の層の顆粒を圧縮することにより製造することができる。或いは、多層剤形は“共押出”として知られる工程によって製造することができる。本質的に、この工程は、上記に説明したような少なくとも2つの異なる溶融組成物の調製と、これらの溶融組成物をジョイント共押出ダイ(joint coextrusion die)中へ通過させることを含む。共押出ダイの形状は、必要とされる薬物の形態に依存する。例えば、単純なダイギャップを有するダイ(スロットダイと呼ばれる)及び環状スリットを有するダイが適当である。
【0086】
哺乳動物によるかかる剤形の摂取を容易にするためには、剤形に適切な形を与えることが有利である。快適に飲み込み得る大きな錠剤は、したがって好ましくは、丸い形よりも長い形である。
【0087】
錠剤のフィルムコーティングは、さらに、飲み込む際の容易さに寄与している。また、フィルムコートは味質を改善し、美しい外見を提供する。所望であれば、フィルムコートは腸溶性コートであってもよい。フィルムコートには、通常、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及び、アクリレート又はメタクリレートコポリマー類等のポリマーフィルム形成材料を含む。フィルム形成ポリマーの他に、フィルムコートは、例えばポリエチレングリコールのような可塑化剤、例えばTween(登録商標)型のような界面活性剤、及び、任意に、例えば二酸化チタン又は酸化鉄のような色素をさらに含んでもよい。フィルムコーティングは接着防止剤としてタルクを含んでもよい。フィルムコートは、通常、剤形の約5重量%未満を占める。
【0088】
本発明の剤形は、増殖性疾患類、特に腫瘍または癌を治療するために有用である。前記増殖性疾患は、神経線維腫、結節硬化症、血管腫およびリンファギオジェネシス(lymphangiogenesis)、頚部、肛門および口腔癌類、目または眼癌、胃癌、結腸癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、すい臓癌、肺癌、乳癌、子宮頸部癌、子宮体部癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、腎癌、脳腫瘍、中枢神経系の癌、頭頚部癌、咽喉癌、皮膚メラノーマ、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、基底細胞癌および扁平上皮癌、小細胞肺癌、絨毛癌、横紋筋肉腫、血管肉腫、血管内皮芽細胞腫、ウィルムズ腫瘍、神経芽細胞腫、口/咽頭癌、食道癌、喉頭癌、リンパ腫、多発性骨髄腫;心肥大、加齢性黄斑変性症および糖尿病性腎症から構成される群から選択できる。
【0089】
投与の正確な用量及び頻度は、当業者に公知であるように、治療する特定の状態、特定患者の年齢、体重および全身生理状態ならびに各個人が摂取している他の薬剤に依存する。
【0090】
下記の実施例は、本発明をさらに例示するために役立つが、それを限定することはない。
【実施例】
【0091】
実施例1:固体分散生成物の調製
さまざまな組成物類の製剤を、下記の表1に示したように製造した。活性成分(N−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N´−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素エタノラート)を、ターブラブレンダー中で、Kollidon VA64(60重量%のN−ビニルピロリドンと40重量%のビニルアセテートのコポリマー)と可溶化剤(類)との顆粒化前混合物(pre−glanulated mixture)に混合させた。さらに、1%のコロイド状二酸化ケイ素を添加し、流動性を改良した。表1に示した押出し温度および回転速度で、粉末混合物を、Leistritzミクロ18GMP押出機中で押出した。
【0092】
【表1】

【0093】
【表2】

【0094】
実施例2:生体利用性評価
バイオアベイラビリティの経口的研究のためのプロトコール
バイオアベイラビリティ評価のため、実施例1で得られた押出物を、粉砕しカプセルに充填した。各カプセルは、ABT869を25mg含んでいた。
【0095】
研究は、液体臨床製剤を参考として(エタノール−界面活性剤溶液中4.0重量%のABT869)により2回処理、2期間交差研究で行った。
【0096】
イヌ(ビーグル犬、性別混合、体重約10kg)に脂肪27%のバランスの取れた食事を与え、水は自由に摂取させた。各イヌは、投与約30分前100μg/kgヒスタミン皮下投与を受けた。ABT869 25mgに相当する単回投与を、各イヌに与えた。投与に続いて約10ミリリットルの水をイヌに与えた。血液サンプルは、薬剤投与前並びに薬剤投与0.25、0.5、1.0、1.5、2、3、4、6、8、10、12および24時間後において各イヌから得た。遠心分離により血漿を赤血球から分離し、分析するまで凍結(−30℃)した。ABT869阻害剤類の濃度は、血漿サンプルの液体−液体抽出後、低波長UV検出を利用する逆相HPLCにより決定した。曲線下面積(AUC)は、この研究の時間経過にわたり台形法で計算した。各剤形は、イヌ5−6匹を含む群で評価した;報告した値は、各イヌ群の平均である。
【0097】
【表3】

【0098】
実施例3:錠剤製造
実施例1の操作の後、押出物を、下記の表3に示した固体分散生成物成分類から得た。押出物を冷却させた。固化押出物を粉砕し、この粉末を表3に示した錠剤用賦形剤類と配合した。錠剤プレスを用いて、ABT−869をそれぞれ2.5mgまたは10mg含む錠剤類を調製した。
【0099】
【表4】

【0100】
実施例4:ヒトにおける薬物動態の評価
上記で調製したABT−869エタノラート用量10mgを含む錠剤類を、絶食(投与2時間前において水および併用薬剤以外の飲食なしと定義)させた患者11例に対して水240mLとともに午前中に投与した。投与後、血液サンプル4mLを薬物動態分析のため下記の時点で採取した:0(投与前)、1、3、4、6、8、24および48時間。これらのサンプルは、液体クロマトグラフィ/タンデムマススペクトロメトリ(LCMS/MS)を用いてABT−869血漿濃度について分析した。前記分析のための定量下限(LLOQ)は、1.1ng/mLであった。
【0101】
最大観察血漿濃度(Cmax)、Cmaxまでの時間(Tmax)、0時点から最終測定可能濃度までの血漿濃度−時間曲線下面積(AUC)(AUC0−48)および0時点から無限時間までのAUC(AUC0−∞)を含む薬物動態パラメータ類を、WinNonlinプロフェッショナルバージョン5.2ソフトウェアを用いて非コンパートメント方法で決定した。
【0102】
用量1mg当たりのAUC0−48は、0.40±0.10μg・h/mL/mg(平均±SD)であり、一方、用量1mg当たりのAUCは、0.55±0.17μg・h/mL/mgであった。用量1mg当たりのCmaxは、0.023±0.004μg/mL/mgと計算された。ABT−869錠剤は、Tmax2.8±0.6時間を有している。ABT−869錠剤中の被験者間変動性は、Cmaxで17%およびAUC0−48で25%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤、少なくとも1種の薬学的に許容できるポリマー、および少なくとも1種の薬学的に許容できる可溶化剤、の固体分散生成物を含む薬学的剤形。
【請求項2】
水性液体と接触した際に平均粒子径が約1000nm未満の粒子を放出し、前記粒子が可溶化チロシンキナーゼ阻害剤を含む請求項1記載の剤形。
【請求項3】
前記薬学的に許容できる可溶化剤が、ポリオール脂肪酸エステル類、ポリアルコキシ化ポリオール脂肪酸エステル類、ポリアルコキシル化脂肪アルコールエーテル類、トコフェリル化合物類、またはその2種以上の混合物類から構成される群から選択される請求項1記載の剤形。
【請求項4】
前記薬学的に許容できる可溶化剤が、3.5〜13の範囲のHLB値を有する請求項1記載の剤形。
【請求項5】
2種以上の薬学的に許容できる可溶化剤類の組み合わせを含む請求項1記載の剤形。
【請求項6】
前記薬学的に許容できる可溶化剤類の組み合わせが、4.5〜12の範囲の平均HLB値を有する請求項5記載の剤形。
【請求項7】
前記薬学的に許容できる可溶化剤類の組み合わせが、(i)8〜15の範囲のHLBを有する少なくとも1種の可溶化剤および(ii)3〜6の範囲のHLBを有する少なくとも1種の可溶化剤を含む請求項5記載の剤形。
【請求項8】
前記薬学的に許容できる可溶化剤類の組み合わせが、(i)ポリアルキレングリコール部分を有する少なくとも1種のトコフェリル化合物および(ii)少なくとも1種のアルキレングリコール脂肪酸モノエステルまたはアルキレングリコール脂肪酸モノ−およびジエステルの混合物を含む請求項7記載の剤形。
【請求項9】
前記トコフェリル化合物がアルファトコフェリルポリエチレングリコールサクシネートである請求項8記載の剤形。
【請求項10】
前記アルキレングリコール脂肪酸モノエステルがプロピレングリコールモノラウレートである請求項8記載の剤形。
【請求項11】
トコフェリル化合物およびアルキレングリコール脂肪酸エステルの重量比が9:1〜1:9の範囲にある請求項8記載の剤形。
【請求項12】
前記薬学的に許容できるポリマーがN−ビニルピロリドンのホモポリマーまたはコポリマーである請求項1記載の剤形。
【請求項13】
前記薬学的に許容できるポリマーがN−ビニルピロリドンとビニルアセテートとのコポリマーである請求項1記載の剤形。
【請求項14】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、ソラフェニブ、ダサチニブ、ラパチニブ、イマチニブ、モテサニブ、バンデタニブ、MP−412、レスタウルチニブ、XL647、XL999、タンズチニブ、PKC412、ニロチニブ、AEE788、OSI−930、OSI−817、スニチニブマレアート、アキシチニブ、N−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N´−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT869);N−(4−(4−アミノチエノ[2,3−d]ピリミジン−5−イル)フェニル)−N´−(2−フルオロ−5−(トリフルオロメチル)フェニル)尿素;またはその塩類または水和物類または溶媒和物類、またはその組み合わせ類から構成される群から選択される請求項1記載の剤形。
【請求項15】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、低水溶解性である請求項1記載の剤形。
【請求項16】
前記チロシンキナーゼ阻害剤が、その分子構造中に少なくとも1種の尿素部分を含む請求項1記載の剤形。
【請求項17】
流動調整剤類、崩壊剤類、充填剤類および滑剤類から選択された少なくとも1種の添加剤を含む請求項1記載の剤形。
【請求項18】
前記固体分散生成物が、前記少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤を約0.5〜40重量%、前記少なくとも1種の薬学的に許容できるポリマーを40〜97.5重量%、前記少なくとも1種の可溶化剤を2〜20重量%、および添加剤類を0〜15重量%含む、請求項1記載の剤形。
【請求項19】
前記固体分散生成物が、溶融処理された固化混合物である請求項1記載の剤形。
【請求項20】
前記固体分散生成物が、前記少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤、少なくとも1種の薬学的に許容できるポリマー、前記少なくとも1種の薬学的に許容できる可溶化剤を、共通溶媒または溶媒類の組み合わせに溶解させること、および得られた溶液を蒸発させることによって得られる請求項1記載の剤形。
【請求項21】
前記チロシンキナーゼ阻害剤がN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N´−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT869)である請求項1記載の剤形であり、前記剤形は、ヒト患者に投与されると、単回投与後、ABT869に対するCmaxが約0.015μg/mL/mg〜約0.027μg/mL/mgという特徴を有する血漿挙動を示す請求項1記載の剤形。
【請求項22】
前記チロシンキナーゼ阻害剤がN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N´−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT869)である請求項1記載の剤形であり、前記剤形は、ヒト患者に投与されると、単回投与後、ABT869に対するTmaxが1〜約3時間という特徴を有する血漿挙動を示す請求項1記載の剤形。
【請求項23】
前記チロシンキナーゼ阻害剤がN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N´−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT869)である請求項1記載の剤形であり、前記剤形は、ヒト患者に投与されると、単回投与後、用量1mgにつき、ABT869 1mg当たりAUC0−48が約0.23μghr/mL/mg〜約0.56μghr/mL/mgという特徴を有する血漿挙動を示す請求項1記載の剤形。
【請求項24】
前記チロシンキナーゼ阻害剤がN−[4−(3−アミノ−1H−インダゾール−4−イル)フェニル]−N´−(2−フルオロ−5−メチルフェニル)尿素(ABT869)である請求項1記載の剤形であり、前記剤形は、ヒト患者に投与されると、単回投与後、用量1mgにつき、ABT869 1mg当たりAUC0−∞が約0.27μghr/mL/mg〜約0.81μghr/mL/mgという特徴を有する血漿挙動を示す請求項1記載の剤形。
【請求項25】
請求項1記載の剤形をその必要がある対象に投与することを含む増殖性疾患の治療方法。
【請求項26】
前記増殖性疾患が腫瘍または癌から選択される請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記増殖性疾患が、神経線維腫、結節硬化症、血管腫およびリンファギオジェネシス(lymphangiogenesis)、頚部、肛門および口腔癌類、目または眼癌、胃癌、結腸癌、膀胱癌、直腸癌、肝癌、すい臓癌、肺癌、乳癌、子宮頸部癌、子宮体部癌、卵巣癌、前立腺癌、精巣癌、腎癌、脳腫瘍、中枢神経系の癌、頭頚部癌、咽喉癌、皮膚メラノーマ、急性リンパ球性白血病、急性骨髄性白血病、ユーイング肉腫、カポジ肉腫、基底細胞癌および扁平上皮癌、小細胞肺癌、絨毛癌、横紋筋肉腫、血管肉腫、血管内皮芽細胞腫、ウィルムズ腫瘍、神経芽細胞腫、口/咽頭癌、食道癌、喉頭癌、リンパ腫、多発性骨髄腫;心肥大、加齢性黄斑変性症および糖尿病性腎症から構成される群から選択される請求項25記載の方法。
【請求項28】
請求項1記載の固体剤形を調製する方法で、
a)前記少なくとも1種のチロシンキナーゼ阻害剤、前記少なくとも1種の薬学的に許容できるポリマーおよび前記少なくとも1種の薬学的に許容できる可溶化剤類の均質溶融物を調製すること、および
b)前記溶融物を固化させ固体分散生成物を得ること、
を含む方法。
【請求項29】
前記固体分散生成物を粉砕することおよび前記固体分散生成物を錠剤に圧縮することをさらに含む請求項28記載の方法。
【請求項30】
前記固体分散生成物を粉砕することおよび前記固体分散生成物をカプセルシェルに充填することをさらに含む請求項28記載の方法。
【請求項31】
前記溶融物を、固化させる前にフィルムまたは発泡体に形成する請求項28記載の方法。

【公表番号】特表2010−509289(P2010−509289A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−535737(P2009−535737)
【出願日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2007/062101
【国際公開番号】WO2008/055966
【国際公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【出願人】(506382275)アボット ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (11)
【Fターム(参考)】