説明

ツタの葉抽出物の製造方法

本発明は、抽出剤を用いての、α−ヘデリン含有ツタの葉抽出物の製造方法に関する。この方法において、一定量の乾燥したツタの葉を、まず粉砕し、その後水を加え発酵させ、続いて抽出剤を加えて抽出し、最後に抽出物を乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出剤を用いて、ツタの葉の抽出物、α−ヘデリンを含有する乾燥抽出物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、ツタの葉抽出物は、特に該抽出物が鎮痙、去たん、抗閉塞性作用を示すので、気道疾患を治療するために成功裏に用いられている。これらの作用は、特にトリテルペンサポニン類に属するツタの葉抽出物が、治療上重要な成分であることに基づいている。これに関連して、主要なサポニンはバイデスモサイドである(bidesmosidic)ヘドラコサイドC、およびヘドラコサイドCからエステル加水分解により形成されるα−ヘデリンである。検出された別のサポニンは、ヘドラゲニンである。
【0003】
ツタの葉からは様々な方法で抽出物を得ることができるため、これら抽出物は様々な効能の度合いを示す。これは、その成分含量が、抽出物を製造するために用いる個々の方法に依存することに起因している。
【0004】
本出願人は、実施した研究に基づき、α−ヘデリンが特に鎮咳・気管支拡張に対して寄与することを見いだした。α−ヘデリンは、特有の方法でβ−アドレナリン作動性受容体の内在化過程を阻害することが見いだされた。リガンドがβ−アドレナリン作動性受容体と結合することによって、まずアデニル酸シクラーゼ系を活性化し、それにより、例えば気管支系の平滑筋組織が、その結果として弛緩作用を起こすことになる。とりわけ、膜に位置する受容体は、細胞へ内在化することにより弱められて、過剰などんな効果も中和される。
【0005】
これに関連して、α−ヘデリンはβ−アドレナリン作動性受容体を直接攻撃しないで、その代わりに、受容体/リガンドが細胞へ内在化するのを阻害する。受容体/リガンド複合体の内在化が阻害されると、アデニル酸シクラーゼ系が連続的に活性化され、それによって気管支の平滑筋組織の弛緩が強められる(鎮痙)。
【0006】
一方、ヘデラコサイドCおよびヘデラゲニンの物質は、内在化過程を阻害することができなかった。したがって、α−ヘデリンを高含量有する抽出物は、特に医薬として用いるのに適している。
【0007】
植物原料から乾燥抽出物を製造するために、非常に多くの方法が、特に薬学および医薬製剤の分野で記述されている。
【0008】
植物原料の乾燥抽出物を製造する方法は、例えばドイツ公開特許DE 101 12168 A1に開示されている。この公開特許公報で開示されている方法を用いて、親油性および親水性物質の含量を調整することができると言われている。これに関しては、植物原料を、異なる親油性を有する溶媒で少なくとも2回抽出して、この抽出で得られた抽出物を別々に単離する。その抽出物をそれぞれ別々に乾燥し、それから所望の割合で混合する。このようにして、親油性と親水性物質の含量を調整することができる。その方法は、ツタ(セイヨウキヅタ:Hedera helix)の乾燥抽出物を単離するのに適しているとも言われている。
【0009】
しかしながら、この方法の不利益な点は、2回の抽出を行わなければならず、それによりこの方法を総じて非常に複雑なものにしている。
【0010】
また、ドイツ公開特許DE 30 25 223 A1には、ツタの葉抽出物に基づく医薬製剤およびその製造方法が開示されており、その方法によれば、ヘデラサポニンCを60%および90%有するツタの葉抽出物が、アセトンおよびメタノールを用いてそれぞれ製造されている。ヘデラサポニンCまたはヘデラコサイドCをα−ヘデリンに変換するために、およびそれによってα−ヘデリンだけを含有する抽出物を得るために、上記公開特許出願では、90%抽出物が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムにより加水分解されている。
【0011】
しかしながら、この方法の不利な点は、ヘデラコサイドCを得た後にヘデラコサイドまたはヘデラサポニンをα−ヘデリンに変換するために、さらなる工程を必要とする複雑さにある。
【0012】
G.Wulff“Neuere Entwicklungen auf dem Saponingebiet[サポニン分野における最近の展開]”,Deutsche Apotheker Zeitung[ドイツ薬剤師ジャーナル],108(No.23),1968,pp.797−808には、新鮮なツタの葉を粉砕し、水中で終夜放置した場合、その後α−ヘデリンのみが見いだされることが開示されている。新鮮な葉に存在する酵素は、この効果の原因となるように保持されている。
【0013】
しかしながら、医薬産業が乾燥した薬剤を用いるのは、乾燥物が安定であり、より取り扱いやすいからである。酵素活性は、こうした乾燥した薬剤では期待することができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、本発明の目的は、少ない工程で長い時間を消費することなく、α−ヘデリンが少なくとも大幅に富化されている抽出物、特に乾燥抽出物を得ることができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
冒頭で詳細に記載した方法によると、本発明の目的は、
a)一定量の乾燥したツタの葉を粉砕し、
b)水を加えて発酵させ、ヘデラコサイドCをα−ヘデリンに変換させ、
c)抽出剤を加えることにより抽出し、および
d)必要に応じて、抽出物を乾燥する、
工程を含む方法により達成される。
【0016】
本発明の目的は、このようにして完全に達成される。
【0017】
したがって、本発明による方法を用いると、富化された形態で、またはツタの葉に元々存在するヘデラコサイドCのうちの多くの部分、または必要に応じてその全てを、α−ヘデリンに変換することができる、有効成分としてのα−ヘデリンを含有する抽出物をα−ヘデリンを調製する過程で得ることができる。
【0018】
本発明者らは、彼ら自身の実験で、乾燥したツタの葉を用いた場合、発酵工程により確実にヘデラコサイドCがα−ヘデリンにほとんど完全に変換することを証明した。その結果、抽出後、得られた成分をさらに反応させる工程は全く必要としない。それどころか、正確には、中間発酵工程の効果として、要する時間および用いることができる物質の両方に関して、全体的なプロセスをより経済的に実施することができ、先行技術で記述されている方法と比較して、大きな利点を構成するものである。
【0019】
この場合、「発酵」とは、発酵媒体、例えば液体を、必要に応じて発酵工程に適合した特定のパラメーター、例えば時間および温度で、元の物質に加えるとき、元の物質に存在した成分を分解する、または他の物質へと変換することを意味する。
【0020】
本発明者らは、水が発酵工程で用いられるのに特に適していることを見いだした。水を加えることにより、ヘデラコサイドCがα−ヘデリンに変換するプロセスが促進される。
【0021】
したがって、特に高含量のα−ヘデリンを有する抽出物を製造するために、本発明による方法を用いることができる。高含量のα−ヘデリンを有する抽出物は、気道疾患を治療するのに特に好ましい。その理由は、本出願人による検討により、これに関する原因となる因子が確かにα−ヘデリンであることを確立したからである。
【0022】
上記のように、ツタの葉に存在するサポニンのうち、特にα−ヘデリンが気管支の鎮痙作用に関与する。したがって、α−ヘデリンの高含量の結果として、この抽出物の活性は、ヘデラコサイドCの比較的に高含量な抽出物の活性と比較して、著しく向上する。
【0023】
医薬を製造する際に、乾燥した薬剤は、乾燥させていない製造されたばかりの薬剤よりも、とりわけ安定性に関して取り扱いやすいという利点を有する。
【0024】
製薬技術の分野において、乾燥した薬用植物および薬用植物の一部分は、定義により、「薬剤」を指す。これに関して、「薬剤」として存在するような薬用植物はそのままの形態または粉砕した形態のどちらでも用いられる。
【0025】
製薬産業で用いられるような乾燥したツタの葉の場合、α−ヘデリンへの変換が単に水を加えることにより達成されるということは、当業者にとって驚くべきことであると考えられる。
【0026】
最初に言及したドイツ公開特許DE 30 25 223 A1の場合では、化学プロセスを活性化するために、加水分解のためのアルカリ金属水酸化物を加える必要があった。
【0027】
また、ツタの葉は、工程a)において、5×5mm以下に粉砕するのが好ましく、特に2×2mm以下に粉砕するのが好ましい。
【0028】
上記寸法にツタの葉を粉砕することは、本発明により製造される抽出物のα−ヘデリン含量に及ぼす効果を発揮するのに特に有利である。これに関して、成分の抽出および発酵は、粉砕された葉の大きさが増大するにつれて、より悪くなることが知見された。
【0029】
また、本発明による方法において、抽出剤はアルコールと水の混合物が好ましい。
【0030】
用いられるアルコールは特にC2〜C10アルコール、特にエタノールが好ましい。
【0031】
エタノールは、実績のある製薬溶媒であり、製薬技術の分野で抽出剤として、種々の方法で用いられる。しかしながら、他のアルコール、例えばプロパノールやイソプロパノールなどもまた用いることができるのは勿論である。すなわち、どんなアルコールでも製薬製造過程における抽出で、水/アルコール混合物として用いることができる。
【0032】
また、抽出剤における水/アルコールの割合は、10/90〜90/10(質量比)であることが好ましく、特に水/アルコールの割合が70/30であることが好ましい。
【0033】
本発明においては、種々の割合のアルコール/水が、本発明方法を成功裏に実施するのに適している。これに関して、30%アルコールを含む抽出剤を用いることが特に適していることが見いだされた。
【0034】
また、ツタの葉と抽出剤の割合は、1:1〜1:50であることが好ましく、特に1:12であるのが好ましい。
【0035】
本発明方法に関して、処理されるツタの葉と抽出剤との特定の量的な割合を選択することが、抽出物中のα−ヘデリン含量に影響を与える。一方では、上記量的な割合を決定する際、ヘデラコサイドCは適宜、完全に変換させる必要があることを考慮しなければならない。他方では、用いられる抽出剤の量が極力少ないにもかかわらず、確実に抽出が成功するような方法に、使用すべき抽出剤の量を適合させるべきである。この目的のために、本発明方法においては、様々な量的な割合を用いることができることは、当業者にとって明らかであろう。
【0036】
本発明方法の一つの実施態様では、工程b)において抽出剤の水画分を加えることが好ましく、特に最初に抽出剤の半分の量の水画分を加えることが好ましい。
【0037】
この実施態様では、抽出剤のアルコール、そして必要に応じて、さらなる抽出剤を、発酵させた後に加えるだけである。水を加えて発酵させた後に、抽出剤のアルコールを加えることは、プロセス工学的な観点から有利である。その理由は、様々なバッチで用いられるべき抽出剤の量を、それぞれの場合、前もって正確にそして容易に計算し用いることができるからである。工程b)およびc)において、個々の容量の水およびアルコールは、それぞれの場合、お互い別々に加えることができ、またはお互いを補完することができる。
【0038】
これに関連して、発酵のために、抽出剤の半量に含まれている水画分を加えることが特に適しており、これにより、本発明方法はさらに実施可能となる。しかしながら、発酵を促進するために、ひいては、ヘデラコサイドCからα−ヘデリンへの変換プロセスに効果を与えるために、他の量の水をさらに加えることも排除するものではない。
【0039】
また、工程b)は1分間〜120分間の間で実施するのが好ましく、好ましいのは60分間である。
【0040】
本発明方法に関しては、発酵の時間を変えることにより、抽出物のα−ヘデリン含量をさらに調整することができる。
【0041】
これに関連して、発酵は10℃〜40℃の間の温度で実施するのが好ましく、特に30℃が好ましい。
【0042】
本発明方法の別の実施態様では、工程c)での抽出は、予備膨潤および浸出(percolation)により実施するのが好ましい。
【0043】
両方の手段とも、当該分野での、特に植物由来の医薬製剤の分野においての常法である。ツタの葉の完全な抽出を達成するのに、予備膨潤および浸出の工程を用いることができる。したがって、水を加えた発酵の後、適当なアルコールを混合物に加え、その後、予備膨潤を行う。発酵および他の抽出工程で先に用いられた特定の抽出剤の残余部を、浸出のために加えるのが好ましい。
【0044】
これに関連して、予備膨潤は1時間〜30時間、実施するのが好ましく、特に6時間が好ましい。
【0045】
本発明方法の開発において、工程d)の乾燥が、薄膜蒸発そして続けて噴霧乾燥により実施するのが好ましい。
【0046】
上記両方の手段とも従来の乾燥方法であり、薄膜蒸発を用いる薄膜蒸発法は、医薬品の製造に関して穏やかな蒸発法であることが見いだされ、噴霧乾燥法と同様に、経験上、証明されているように、液体製剤を乾燥し、粉末状の最終製品を形成するに用いることができる。そのような粉末状の最終製品は、特に例えば水と容易に再度混合し、用時使用製剤とすることができることによって特徴づけられる。
【0047】
また、本発明による方法は、ツタの葉抽出物中のα−ヘデリンおよびヘデラコサイドの含量を調整するために用いるのが好ましい。
【0048】
さらに、α−ヘデリンの含量を選択的に調整するために、本発明方法を用いることができる。これに関して、ツタの葉抽出物中のヘデラコサイドをα−ヘデリンに完全に変換するか、さもなければヘデラコサイドをα−ヘデリンに部分的に変換するためにだけ、本発明方法を用いることができる。
【0049】
したがって、例えば、まず薬剤の所定の一部を水で発酵させ、それから発酵が終わった後、薬剤の残りの部分を抽出液に加えることができる。このようにして、全てのヘデラコサイドCがα−ヘデリンに変換したとは限らない乾燥抽出物を、選択的に製造することができる。
【0050】
また、このことによって、抽出物中のα−ヘデリン含量を特定の方法で調整することができる。このことは、例えば抽出物中のα−ヘデリンの含量が高すぎるべきではなく、むしろある一定のヘデラコサイドCが依然として存在するのが好ましい。
【0051】
また、本発明は、本発明方法を用いて製造されたツタの葉抽出物に関する。
【0052】
α−ヘデリンを高含量有する抽出物は、例えば気道疾患の治療に関して有効である。その理由は、α−ヘデリンが高度に濃縮された形態で存在する場合、α−ヘデリンは高度に濃縮された形態で存在するツタの葉の中で最も活性のある成分であるからである。
【0053】
また、本発明は、医薬を製造するため、特に気道疾患を治療するための医薬を製造するために、本発明にしたがって調製された抽出物、特に乾燥した抽出物の使用に関する。
【0054】
本発明は、本発明方法を用いて調製された抽出物を含有する医薬にもまた関する。
【0055】
これに関して、該医薬は、カプセル、錠剤、糖衣錠、座薬、顆粒、粉剤、溶液、クリーム、乳剤、エアロゾル、軟膏、オイル剤の形態を取ることができ、経口投与の形態が特に好ましい。これに関して、該医薬は、従来医薬の製造で用いられる助剤を含有することができる。多くの適した物質が、例えばA.Kibbe,Handbook of Pharmaceutical Excipients(医薬賦形剤ハンドブック),3rd Ed.,2000,American Pharmaceutical Association and Pharmaceutical Press(アメリカ薬学会と医薬誌)に記載されている。
【0056】
さらなる効果は、本願明細書の記載および添付図面から明らかである。
【0057】
上記において言及した特徴、および以下で説明する特徴は、それぞれの場合で特定される組み合わせだけではなく、他の組み合わせで、あるいはそのまま、本発明の範囲から逸脱することなく用いることができる。
【実施例】
【0058】
当該分野で以前に実施された抽出方法は、次のような多段階工程の抽出方法を含む。すなわち、30%(質量比)エタノールを、乾燥した薬剤を切り刻んだ後、これに直ちに加える。乾燥抽出物中のヘデラコサイドC/α−ヘデリンの割合は、薬剤中のその割合にほぼ対応する。近年製造された抽出物の分析によれば、ヘデラコサイドC含量は抽出物全体の約5%〜20%を示し、一方、α−ヘデリンは抽出物全体の約1〜5%である。したがって、公知の先行技術に基づき、抽出方法においてヘデラコサイドCがα−ヘデリンに変換することを含むようなプロセスが提供されるべきである。この目的を考慮して、まず第一に、いくつかの予備実験を行った。
【0059】
<実施例1> 新鮮な未乾燥葉の、徹底的、強力な粉砕、そして引き続く該薬剤の乾燥
薬剤の収穫後の処理およびその後の抽出物に及ぼす影響を検討するために、ツタの葉を新鮮な状態のまま注意深く手で収穫した。全ての葉は同時に同じ場所に集められ、収穫後、いろいろな手順工程に付した。その後、試料を以下のように分析した:乾燥した薬剤約200mgに対応する1つの試料をミルで粉砕し、45%(v/v)エタノール30mlで1時間振とうした。その混合物をクロマトグラフィー管に移した後、新鮮な45%(v/v)エタノール(最大100ml)で浸出させた。異なる試料を得るために、粉砕時間および乾燥時間に関する変法が実施された。
【0060】
試料1:新鮮な葉を3×3mmの大きさの砕片にカットし、12時間保存後乾燥のみを行った。
試料2:新鮮な葉を3×3mmの大きさの砕片にカットし、直ちに乾燥した。
試料3:収穫後、裁断していない葉を50℃で乾燥し、抽出工程の直前に約3×3mmの大きさの砕片になるように粉砕のみを行った。
【0061】
次の表は、α−ヘデリンおよびヘデラコサイドCの含量に関するクロマトグラフィーによる検討の記録である:
【0062】
【表1】

【0063】
結果はお互いに同程度であり、お互いに有意差はなかったが、それでも新鮮な状態で裁断した葉の場合、α−ヘデリンが多くなるようなヘデラコサイドC/α−ヘデリンの割合へとわずかながらも変位しているように見える。
【0064】
さらなる検討では、ツタの葉を粉砕する程度および含量の測定時に関する様々な変法が実施された。
【0065】
試料1:新鮮な葉を細かい粉末にし、直ちに45%(v/v)エタノールで抽出した。
試料2:新鮮な葉を細かい粉末にし、45分後に45% (v/v)エタノールで抽出した。
試料3:収穫後、裁断していない葉を50℃で乾燥し、抽出工程の直前に粉砕した。
【0066】
α−ヘデリンおよびヘデラコサイドCの含量に関するクロマトグラフィーによる検討結果を、次の表2に記録している:
【0067】
【表2】

【0068】
表に示すように、徹底的な粉砕によって、ほとんどすべてのヘデラコサイドCがα−ヘデリンに変換した。
【0069】
<実施例2> 抽出に先立って乾燥・粉砕した薬剤の発酵
細胞の完全な状態を破壊するために、ヘデラコサイドCをα−ヘデリンに変換するプロセスを、徹底的な粉砕および水の添加によって促進した。このことは、次の実験により証明された:
【0070】
前もって測定されたヘデラコサイドC7.94%含量、α−ヘデリン0.59%含量を有する全乾燥ツタの葉を次のように処理した:
【0071】
試料1:徹底的に粉砕した葉200mgに水20mlを加える。水を減圧留去した後、その混合物を45%(v/v)エタノールにより通常の方法で抽出する。
試料2:薬剤を試料1と同様に処理するが、水の代わりに30%(質量比)エタノールを用いる。
【0072】
α−ヘデリンおよびヘデラコサイドCの含量に関するクロマトグラフィー検討結果が、次の表3に記録される:
【0073】
【表3】

【0074】
データに示すように、粉砕した薬剤に水を加えることによって、ヘデラコサイドCが完全にα−ヘデリンに変換した。
【0075】
図1は、HPLCによって得られた、試料1(図1b)および試料2(図1a)のクロマトグラムを示す。図中、それぞれの場合、ヘデラコサイドCに対して得られたピークを「HC」と表示し、α−ヘデリンに対して得られたピークを「α−H」と表示した。図1aおよび図1b中のピークを比較して見ると、ヘデラコサイドCの含量は、α−ヘデリンへの変換により、ほぼ完全に減少しており、このことはヘデラコサイドCのすべてが変換されたことを示している。
【0076】
また、30%(質量比)エタノール中での発酵は、ヘデラコサイドCの化学分解をもたらすが、この化学分解の程度は明らかに低かった。
【0077】
他の検討において、薬剤の粉砕の程度および供給される水の量が、変換の程度にとって極めて重要であることが示された:既述の通り水中で発酵した約5×5mmの大きさのツタの葉の砕片を用いた抽出実験によって、ヘデラコサイドCの消費に応じてα−ヘデリンが富化されることが示された一方、細胞の多くが元のままであるために変換は不完全であった。ほんのわずかに水で噴霧し、細かく粉砕したツタの葉の実験においてもまた、ヘデラコサイドCの変換は不完全であった。
【0078】
上記した、ヘデラコサイドCのα−ヘデリンへの変換という先に得られた知見を、成功する抽出プロトコルへと変換するために、次に示す変法が実施された。
【0079】
抽出物1:粉砕したツタの葉(5×5mm)3.0gを、30%(質量比)エタノールで12回抽出した(通常の抽出)。
抽出物2:粉砕したツタの葉(5×5mm)3.0gを、クロマトグラフィーカラム中、水で覆った。1時間後、排出栓から水を排出した。その後、30%(質量比)エタノールで12回抽出した。
抽出物3:12部の抽出剤(30%(質量比)エタノール)の水画分を、粉砕したツタの葉(5×5mm)3.0gに加えた。1時間の発酵後、12部の抽出剤のエタノール画分を加えてツタの葉を抽出した。
【0080】
クロマトグラフィー分析により得られた結果を、次の表4に示す:
【0081】
【表4】

【0082】
これらの抽出において、薬剤は5×5mmにのみ粉砕をしたため、変換は不完全であった。表より、明らかなように、発酵水溶液(抽出物2)の排出により成分の損失が生じた。
【0083】
上記予備実験の組み合わせにより、乾燥したツタの葉抽出物中のα−ヘデリン含量を調整するために用いることができる、別の抽出方法が開発された。
【0084】
<実施例3> 調整可能なα−ヘデリン含量を有する、乾燥したツタの葉抽出物を製造するための抽出方法
薬剤(DACツタの葉)の一部を、品質および放出性を試験するために品質評価をした後、ミルで広範囲に粉砕し、砕片の大きさが最大2×2mmであることを防護篩いによって保証した。また、篩い分けられた物質は、より大きい粒子や不純物がないか視覚的に検査した。
【0085】
6部の抽出剤(30%(質量比)エタノール)の水画分を、粉砕した試料に対して加えた。この混合物を30℃で60分間、時々混合・攪拌しながら発酵させた。
【0086】
その後、6部の抽出剤の96%エタノール画分を加え、混合物を攪拌して均一にした。
【0087】
6時間の予備膨潤段階の後、溶出液を分離除去し、その後残っている薬剤を、残りの6部の抽出剤により浸出した。
【0088】
薬剤の小さな粒子を取り除くために、合わせた溶出液を再度一度ろ過して均一化し、その後55℃および150mbarの条件で薄膜蒸発法により厚いペーストになるように乾燥した。このペーストを均一化し、45〜60℃で噴霧乾燥により乾燥し、乾燥ツタの葉抽出物を得た。
【0089】
この製造方法を検討するために、次の抽出物を調製した:すなわち、ヘデラコサイドC3.91%およびα−ヘデリン0.20%を含有するツタの葉から、従来法(乾燥した試料を粉砕し、続いて直接30%(質量比)エタノールを加え、抽出する)により抽出物を調製する一方、新規方法により抽出物を調製した。α−ヘデリンおよびヘデラコサイドCの含量に関するクロマトグラフィーの結果を、次の表5に記録する:
【0090】
【表5】

【0091】
表に示すように、新規な抽出方法により、ツタの葉中に存在するヘデラコサイドCをα−ヘデリンに完全に変換することができた。
【0092】
ヘデラコサイドC換算のサポニンの合計量もまた同じオーダーの大きさであるから、薬剤中の対応するサポニン濃度を知り、約2〜3の富化要因を考慮に入れて、抽出物中のα−ヘデリンの最終含量を推定することができる。
【0093】
したがって、薬剤中に存在するヘデラコサイドCの一部をα−ヘデリンに変換するだけのためには、他の全てのパラメーターを一定にしたまま、薬剤の所定の一部を水で発酵させる工程に付すことによってのみ可能である。60分間の発酵が終わった後、6時間の予備膨潤のために、残りの薬剤およびエタノールを加える。
【0094】
したがって、発酵工程を導入することで、時間と資源を大量に投入することなく、本発明方法を、乾燥したツタの葉抽出物の成分の範囲を著しく変えるために用いることができる。特にα−ヘデリンの活性に関する多くの刊行物により確認されているように、乾燥抽出物または医薬品中のα−ヘデリン含量に選択的に影響を及ぼして、抽出物の活性に陽性の効果を与えている。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1a】全く発酵させていない試料のクロマトグラムを示す。
【図1b】発酵させた試料のクロマトグラムを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の工程:
a)一定量の乾燥したツタの葉を粉砕し、
b)水を加えて発酵させ、ヘデラコサイドCをα−ヘデリンに変換させ、
c)抽出剤を加えることにより抽出し、そして
d)必要に応じて、抽出物を乾燥する、
ことを含むことを特徴とする、抽出剤を用いた、α−ヘデリンを含有するツタの葉抽出物の製造方法。
【請求項2】
工程a)において、ツタの葉が5×5mm以下に粉砕されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ツタの葉が、2×2mm以下に粉砕されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
抽出剤として、アルコール画分および水画分の混合物を用いることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
抽出剤に用いられるアルコールがC2〜C10アルコールであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
用いられるアルコールが96%エタノールであることを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
抽出剤における水画分/アルコール画分の割合が、10/90〜90/10(質量比)であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
水/アルコールの割合が、70/30であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
抽出剤に対するツタの葉の割合が1:1〜1:50であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
抽出剤に対するツタの葉の割合が1:12であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
工程b)において、抽出剤の水画分を用いることを特徴とする、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程b)において、抽出剤全量の半分からの水画分を加えることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
6部の抽出剤からの水画分を加えることを特徴とする、請求項10〜12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
工程b)を1分〜120分間実施することを特徴とする、請求項1〜13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
工程b)を60分間実施することを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程b)を10〜40℃の温度で実施することを特徴とする、請求項1〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
工程b)を30℃の温度で実施することを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
工程c)における抽出を、予備膨潤および浸出により実施することを特徴とする、請求項1〜17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
予備膨潤を1時間〜30時間実施することを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
予備膨潤を6時間実施することを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
工程d)の乾燥を、薄膜蒸発およびそれに続く噴霧乾燥により実施することを特徴とする、請求項1〜20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
ツタの葉抽出物中のα−ヘデリンおよびヘデラコサイドの含量を調整するための、請求項1〜21のいずれかに記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれかに記載の方法を用いて製造されることを特徴とする、ツタの葉抽出物。
【請求項24】
医薬を製造するための、請求項23に記載の抽出物の使用。
【請求項25】
医薬が気道疾患を治療するために用いられることを特徴とする、請求項24に記載の使用。
【請求項26】
請求項25に記載の抽出物を含有する医薬。

【図1a】
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【図1b】
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【公表番号】特表2006−522051(P2006−522051A)
【公表日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504936(P2006−504936)
【出願日】平成16年3月31日(2004.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003420
【国際公開番号】WO2004/087183
【国際公開日】平成16年10月14日(2004.10.14)
【出願人】(505364500)エンゲルハルト アルツナイミッテル ゲーエムベーハー アンド コー ケイジー (3)
【Fターム(参考)】