説明

テトラヒドロピランを溶媒とするアセタール化合物の製造方法

【課題】より安全性が高く、高極性反応原料等にも適用できるアセタール化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】カルボニル化合物とアルコール化合物、チオール化合物またはアミン化合物をテトラヒドロピラン中で反応させるアセタール化合物の製造方法。毒性が低いテトラヒドロピランを反応溶媒として使用することにより、より安全性の高いアセタール化合物の製造が可能となり、高極性反応原料に対しても広く適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテトラヒドロピラン中でカルボニル化合物とアルコール化合物、チオール化合物またはアミン化合物を反応させ、アセタール化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
典型例として、カルボニル化合物とアルコール化合物の反応によるアセタール化合物の製造について述べる。基本的に、カルボニル化合物とチオール化合物、アミン化合物の反応によるアセタール製造反応も同様の方法で製造できる。従来、アセタール化合物はカルボニル化合物と少なくともカルボニル化合物の2倍モル量のアルコール化合物を反応させることによって製造される(Protective Group in Organic Synthesis second edition p.178;非特許文献1)。アセタール化合物の製造反応は平衡反応であるため、そのままでは収率が平衡定数によって制限される。反応効率を高めるにはいくつかの方法が知られている。
【0003】
よく用いられる方法として共沸脱水法がある(Organic Functional Group Preparation second edition Volume3 p.1;非特許文献2)。これは、アセタール化反応により生成した水を反応溶媒と共沸させて反応系外に取り除くことにより平衡を移動させて、目的のアセタール化合物を効率良く得る方法であり、反応溶媒としてベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素が用いられる。しかし、これらの反応溶媒は、環境への排出が規制されており、中でもベンゼンは特に毒性が高く安全性に問題がある。また、トルエン、キシレンなどは有機化合物の溶解力が低く、特に極性の高いアルコール化合物やカルボニル化合物には適用しにくいという問題がある。さらに、反応を完結させるためには反応温度を反応溶媒の沸点まで上げる必要があり、熱に不安定な化合物には用いることができない。
【0004】
【非特許文献1】Protective Group in Organic Synthesis second edition p.178
【非特許文献2】Organic Functional Group Preparation second edition Volume3 p.1
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、従来公知カルボニル化合物とアルコール化合物によるアセタール化合物の製造方法において、より安全性が高く、高極性反応原料等にも適用できるアセタール化合物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意努力した結果、カルボニル化合物とアルコール化合物を反応させる溶媒にテトラヒドロピランを用いることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は以下のアセタール化合物の製造方法に関するものである。
1.式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。)で示されるカルボニル化合物と式(2)
【化2】

(式中、R3はアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子、またはNR4(Nは窒素原子を表し、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。)を表す。)で示される化合物をテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とする式(3)
【化3】

(式中、R1、R2、及びR3は化合物(1)及び(2)と同じ意味を表す。)で示されるアセタール化合物の製造方法。
2.前記1に記載の式(1)で示されるカルボニル化合物と式(4)
【化4】

(式中、X1及びX2はそれぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、またはNR4(Nは窒素原子を表し、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。)を表し、n=1または2を表す。)で示される化合物をテトラヒドロピラン中で反応させる式(5)
【化5】

(式中、R1、R2、X1、及びX2は化合物(1)及び(4)と同じ意味を表す。)で示される環状アセタール化合物の製造方法。
3.反応を酸の存在下で行わせる前記1または2に記載のアセタール化合物の製造方法。
4.反応により生成した水をテトラヒドロピランと水との共沸により反応系外に取り除く請求項1〜3のいずれかに記載のアセタール化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
毒性が低いテトラヒドロピランを反応溶媒として使用する本発明のアセタール化合物の製造方法により、緩和な反応条件下でより安全性の高いアセタール化合物の製造が可能となり、高極性反応原料の適用の拡大などが実現できるようになった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に本発明の具体的内容について詳細に説明する。
本発明のアセタール化合物の製造方法は、カルボニル化合物とアルコール化合物、チオール化合物またはアミン化合物をテトラヒドロピラン溶媒中で反応させることを特徴とする。
【0010】
本発明において反応溶媒として使用するテトラヒドロピランは、市販のものが使用でき、精製されているものが好ましいが、特に制限はない。
【0011】
本発明で使用される式(1)
【化6】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。)で示されるカルボニル化合物については特に制限はない。
【0012】
なお、本発明において、アルキル基、アルケニル基、アリール基及び複素環基は、反応条件下に安定であれば特に限定されず、一般に用い得るものをすべて含む。例えば、アルキル基は、通常、炭素数1以上20以下、好ましくは1〜10程度、例えば、1〜5程度の直鎖もしくは分岐鎖または環状の飽和炭化水素基を含む。アルケニル基は、通常、炭素数2以上20以下、好ましくは2〜10程度、例えば、2〜6程度の直鎖もしくは分岐鎖または環状の不飽和炭化水素基を含む。アリール基は、芳香環であればよく単環化合物でも縮合環でもよく、本発明の反応に影響を与えない範囲において、アルキル基、アルケニル基、ハロゲン、アルコキシ基、シアノ基等で置換されていてもよい。複素環を構成する複素原子も特に限定されず、酸素、窒素、硫黄等が含まれる。これらの複素原子は1分子中に同一または異なる原子が複数含まれていてもよい。また、複素環は前記のアリール基を構成する環や他の複素環と縮合していてもよく、複素環上の水素原子はアルキル基、アルケニル基、ハロゲン、アルコキシ基、シアノ基等で置換されていてもよい。
さらに、例えば、上記式(1)のようにR1、R2等の置換基が同一の炭素元素上の置換基である場合、これらの置換基は結合して環を形成してもよい。
もっとも、上記の説明に拘わらず、アルキル基、アルケニル基、アリール基、複素環基等はその最も広い意味において解釈されるべきである。また、以下に具体的な化合物の例を挙げるが、これらは例示であって本発明では他の化合物も使用することができる。
【0013】
カルボニル化合物の具体例としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、クロトンアルデヒド、3−フェニルプロピオンアルデヒド、プロピオンアルデヒド、バレロアルデヒド、シクロヘキサンカルボアルデヒド、フェニルアセトアルデヒドなどの脂肪族アルデヒド、グリオキザール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒドなどの多価脂肪族アルデヒド、ベンズアルデヒド、アニスアルデヒド、p−クロロベンズアルデヒド、p−メチルベンズアルデヒド、バニリン、2−ナフタレンアルデヒドなどの芳香族アルデヒド、フタルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、1,2−ナフタレンジカルボアルデヒドなどの芳香族多価アルデヒド、フルフリルアルデヒド、ピリジンアルデヒド、ニコチンアルデヒド、2−ホルミルチオフェン、5−ホルミルインドール、3−ホルミルチアゾリジン、5−ホルミルピリミジン、2−ホルミルピラジンなどの複素環式アルデヒド、アセトン、メチルエチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノンなどの脂肪族ケトン化合物、アセトフェノン、ベンゾフェノンなどの芳香族ケトン化合物などが挙げられる。
【0014】
本発明で使用される式(2)
【化7】

(式中、R3はアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子、またはNR4(Nは窒素原子を表し、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。))で示されるアルコール化合物、チオール化合物、及びアミン化合物については特に制限はない。
【0015】
本発明で使用されるアルコール化合物については特に制限はない。具体例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、n−ヘキサノール、アリルアルコール、ベンジルアルコールなどの1級アルコール、イソプロパノール、sec−ブチルアルコール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、メントールなどの2級アルコール、また、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなどのジオール類、トリメチロールプロパン、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールブタン2−ヒドロキシメチル−1,4−ブタンジオールなどのトリオール類、ペンタエリスリトールなどのテトラオール類などが挙げられる。
【0016】
本発明で使用されるチオール化合物の具体例としては、メタンチオール、エタンチオールなどの1級チオール、イソプルチオール、sec−ブチルチオールなどの2級チオール、t−ブチルチオールなどの3級チオールを用いることができる。また、エチレンジチオール、プロピレンジチオールなどのジチオール類、その他多価チオール化合物などが挙げられる。
【0017】
本発明で使用されるアミン化合物については1級及び2級アミンを用いることができる。具体例としては、メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、ベンジルアミンなどの1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ピペリジン、モルホリン、N−メチルベンジルアミンなどの2級アミンが挙げられる。
【0018】
本発明で使用される式(4)
【化8】

(式中、X1及びX2はそれぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、またはNR4(Nは窒素原子を表し、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。)を表し、n=1または2を表す。)で示される2官性のアルコール化合物、チオール化合物及びアミン化合物としては、同種のヘテロ原子を含む化合物ばかりではなく、エタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、メルカプトエタノール、3−メルカプト−1−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、N−メチル−3−アミノ−1−プロパノール、2−アミノエタンチオール、N−メチル−2−アミノエタンチオール、3−アミノプロパンチオール、N−メチル−3−アミノ−1−プロパンチオール、エチレンジアミン、N−メチルエチレンジアミン、N,N‘−ジメチルエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、N−メチル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミンなどを用いることができる。
【0019】
本発明では、反応を促進させるために酸を用いることができる。酸としてはブレンステッド酸やルイス酸であれば特に制限なく使用できる。例えば、硫酸、塩酸、p−トルエンスルホン酸などを好適に用いることができる。酸型のイオン交換樹脂、酸性白土、ヘテロポリ酸などの固体酸を用いることができる。酸の量は特に制限はないが、使用するカルボニル化合物、アルコール化合物、チオール化合物及びアミン化合物の化学量論量以下でよい。
【0020】
本発明では、反応時間、温度等の反応条件は、原料や目的アセタール化合物に適する条件を適宜選択することができるが、反応により生成する水をディーンシュタークやデカンターのような分離器を使用して有機溶媒と水を分離すると、より反応を速やかに完結させることができる。
【0021】
本発明において反応溶媒として使用するテトラヒドロピランは、上記酸触媒に対して安定であり、水と共沸し、反応系外では水と分離するという特徴をもつことから、アセタール化合物製造の溶媒として好適である。さらに、従来、アセタール化合物の製造に使用されているベンゼンやトルエンなど芳香族炭化水素溶媒に比べて、有機化合物を溶解させる能力が高いため、極性が高いアルコール化合物、チオール化合物及びアミン化合物を原料とするアセタール化合物のみならず、ポリアセタール化合物などの高分子の製造にも適する。
【実施例】
【0022】
以下に本発明について代表的な例を示し具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
なお、実施例及び比較例における各成分の分析はガスクロマトグラフ装置(アジレント製,6890N)を用い、分析カラムとしてJ&W製DB−1カラム(長さ30m,直径0.32mm,膜厚1μm)を用いた。
【0023】
実施例1:
100mlナスフラスコにディーンシュターク(水分離器)をつけ、3−フェニルプロピオンアルデヒド13.4g(100mmol)、n−ブタノール16.3g(220mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.4g、テトラヒドロピラン40mlを入れ混合した。加熱還流下、水が留出しなくなるまで反応させた。得られたアセタール化合物の反応結果を表1に示した。
【0024】
比較例1:
実施例1で共沸溶媒として、テトラヒドピランの代わりにベンゼンを用いた。反応結果を表1に示した。
【0025】
比較例2:
実施例1で共沸溶媒として、テトラヒドピランの代わりにトルエンを用いた。反応結果を表1に示した。
【0026】
【表1】

【0027】
実施例2:
100mlナスフラスコにディーンシュターク(水分離器)をつけ、ベンズアルデヒド10.6g(100mmol)、エチレングリコール6.8g(110mmol)、硫酸0.1g、テトラヒドロピラン50mlを入れ混合した。加熱還流下、水が留出しなくなるまで反応させた。得られた環状アセタール化合物の反応結果を表2に示した。
【0028】
比較例3:
実施例2で共沸溶媒として、テトラヒドピランの代わりにベンゼンを用いた。反応結果を表2に示した。
【0029】
比較例4:
実施例2で共沸溶媒として、テトラヒドピランの代わりにトルエンを用いた。反応結果を表2に示した。
【0030】
【表2】

【0031】
実施例3:
100mlナスフラスコにディーンシュターク(水分離器)をつけ、シクロヘキサノン9.8g(100mmol)、エタノールアミン6.7g(110mmol)、p−トルエンスルホン酸一水和物0.4g、テトラヒドロピラン40mlを入れ混合した。加熱還流下、水が留出しなくなるまで反応させた。得られたN,O−アセタール化合物の反応結果を表3に示した。
【0032】
比較例5:
実施例3で共沸溶媒として、テトラヒドピランの代わりにベンゼンを用いた。反応結果を表3に示した。
【0033】
比較例6:
実施例3で共沸溶媒として、テトラヒドピランの代わりにトルエンを用いた。反応結果を表3に示した。
【0034】
【表3】

【0035】
実施例4:
100mlナスフラスコにディーンシュターク(水分離器)をつけ、ベンズアルデヒド10.6g(100mmol)、エタノールアミン6.7g(110mmol)、カチオン型イオン交換樹脂1g、テトラヒドロピラン40mlを入れ混合した。加熱還流下、水が留出しなくなるまで反応させた。得られたN,O−アセタール化合物の反応結果を表4に示した。
【0036】
比較例7:
実施例4で共沸溶媒として、テトラヒドピランの代わりにベンゼンを用いた。反応結果を表4に示した。
【0037】
比較例8:
実施例4で共沸溶媒として、テトラヒドピランの代わりにトルエンを用いた。反応結果を表4に示した。
【0038】
【表4】

【0039】
以上の例に示すように、本発明の方法によれば低毒性の条件で、従来の芳香族炭化水素溶媒と同程度以上の選択率を示す良好な結果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立して、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。)で示されるカルボニル化合物と式(2)
【化2】

(式中、R3はアルキル基、アルケニル基、またはアリール基を表し、Xは酸素原子、硫黄原子、またはNR4(Nは窒素原子を表し、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。)を表す。)で示される化合物をテトラヒドロピラン中で反応させることを特徴とする式(3)
【化3】

(式中、R1、R2、及びR3は化合物(1)及び(2)と同じ意味を表す。)で示されるアセタール化合物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の式(1)で示されるカルボニル化合物と式(4)
【化4】

(式中、X1及びX2はそれぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、またはNR4(Nは窒素原子を表し、R4は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、または複素環基を表す。)を表し、n=1または2を表す。)で示される化合物をテトラヒドロピラン中で反応させる式(5)
【化5】

(式中、R1、R2、X1、及びX2は化合物(1)及び(4)と同じ意味を表す。)で示される環状アセタール化合物の製造方法。
【請求項3】
反応を酸の存在下で行わせる請求項1または2に記載のアセタール化合物の製造方法。
【請求項4】
反応により生成した水をテトラヒドロピランと水との共沸により反応系外に取り除く請求項1〜3のいずれかに記載のアセタール化合物の製造方法。

【公開番号】特開2007−320881(P2007−320881A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−151290(P2006−151290)
【出願日】平成18年5月31日(2006.5.31)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】