説明

テトラブロモビスフェノール−Aの製造方法

【課題】 高品質のテトラブロモビスフェノール−Aを高収率で得る。
【解決手段】 テトラブロモビスフェノール−A生成物を製造するに際して、中間体であるトリブロモビスフェノール−Aが有意な量で沈殿するに充分な機会をそれに与えないような速度でテトラブロモビスフェノール−A沈殿物がビスフェノール−Aの臭素化で直接生じる反応系を形成する。この過程で生じる全沈殿物はテトラブロモビスフェノール−Aを少なくとも96重量%含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はテトラブロモビスフェノール−Aを高い効率で製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テトラブロモビスフェノール−Aは世界中で最も幅広く用いられている臭化難燃剤の1つである。これはスチレン系熱可塑材およびある種の熱硬化性樹脂に難燃性を与える目的で広範に用いられている。
【0003】
テトラブロモビスフェノール−Aの製造で商業的に用いられている方法は一般に3つのカテゴリーに入る。1番目のカテゴリーは、テトラブロモビスフェノール−Aと一緒に臭化メチルを実質的に量で共生成させる方法を包含する。一般的には、生成させるテトラブロモビスフェノール−A 45.4kg(100ポンド)当たり18−23kg(40−50ポンド)に及んで臭化メチルが生じると予測され得る。この臭化物は薫蒸剤としてそして薬剤もしくは農業化学品の中間体として大きな市場を有することから、今のところ、臭化メチルが一緒に生成することは望ましいと考えられている。この1番目のカテゴリーの範囲内の方法は、ほとんどの場合、ビスフェノールAと臭素をメタノール中で反応させることを特徴とする。ビスフェノールAの芳香臭素化(ar−bromination)は、HBrが芳香臭素化部位当たり1モル生成する置換反応である。従って、このようなテトラブロモビスフェノール−Aの製造では、HBrが、生成するテトラブロモビスフェノール−A 1モル当たり4モル生じる。このHBrは、逆に、メタノール溶媒と反応して臭化メチル共生成物をもたらす。ビスフェノール−Aと臭素の供給が終了した後、反応槽の内容物を1から2時間加熱処理して反応を完結させる。この反応が終了した時点で、反応槽の内容物に水を加えることで所望のテトラブロモビスフェノール−A生成物を析出させる。
【0004】
2番目のカテゴリーの方法は、臭化メチルを実質的量で共生成させることなくかつHBrをBr2に変化させる酸化剤を用いることなくテトラブロモビスフェノール−Aの製造
を行うことを特徴とする。特許文献1、特許文献2、特許文献3および特許文献4を参照のこと。このような方法ではビスフェノールAの臭素化を一般にメタノール溶媒と特定量の水を存在させて低温、即ち0から20℃で行う。水を用いそして温度を低くすることからメタノールとHBrの間の反応が遅くなって臭化メチルの生成量が少なくなる。しかしながら、この水の使用量は、テトラブロモビスフェノール−Aを反応マス(reaction mass)から沈澱させるほど多い量ではない。この目的で加えられる追加的水は反応の終了時に添加される。この種類の方法の1つの欠点は、反応体を全部仕込んだ後に要する熟成期間、即ち加熱処理時間がかなり長いことと最後に水を添加してテトラブロモビスフェノール−Aを最終的に沈澱させることで追加的に工程時間を要する点である。
【0005】
3番目のカテゴリーに入る方法は、臭素によるビスフェノール−Aの臭素化を溶媒と任意に酸化剤、例えばH22、Cl2などを存在させて行うことを特徴とする。特許文献5
、特許文献6、特許文献7および特許文献8を参照のこと。その溶媒は一般に水に混和しないハロゲン化有機化合物である。その反応マスで水を用いて2相系を生じさせる。テトラブロモビスフェノール−Aは、ビスフェノールAが臭素化されるにつれて溶媒の中に入る。共生成するHBrは水中に存在する。酸化剤を用いると、HBrがBr2に酸化され
、このBr2は、その後、さらなるビスフェノール−Aの臭素化および臭素化が不完全な
種の臭素化で利用される。HBrがBr2に酸化されることで、反応槽に供給する必要が
あるBr2供給材料の量はビスフェノールA 1モル当たり2モルのみである。テトラブ
ロモビスフェノール−Aを溶媒から回収する時、その溶液を、テトラブロモビスフェノー
ル−Aの沈澱が起こるまで冷却する。しかしながら、この種類の方法は万能ではない、と言うのは、ハロゲン化有機溶媒の取り扱い、精製および再利用に費用がかかるからである。加うるに、テトラブロモビスフェノール−Aの回収で溶液を冷却する時に追加的費用と工程時間を要する。
【0006】
臭化メチルの市場が活発である限り1番目のカテゴリーの方法が商業的に魅力があることは認められている。しかしながら、臭化メチルを薫蒸剤として用いることを禁止しようとする提案が国際的なレベルで現在成されようとしている。薫蒸剤の市場が臭化メチルの主要な市場であることから、臭化メチルが実質的量で共生成しないテトラブロモビスフェノール−A方法が求められているのは明らかである。このような方法を商業的に成功させるには共生成する臭化メチルを販売することで得られる収入の利点なしにテトラブロモビスフェノール−Aを経済的に製造する必要があることから、これは困難な仕事である。
【0007】
【特許文献1】米国特許第4,990,321号明細書
【特許文献2】米国特許第5,008,469号明細書
【特許文献3】米国特許第5,059,726号明細書
【特許文献4】米国特許第5,138,103号明細書
【特許文献5】米国特許第3,929,907号明細書
【特許文献6】米国特許第4,180,684号明細書
【特許文献7】米国特許第5,068,463号明細書
【特許文献8】特開昭52−34620号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、高品質のテトラブロモビスフェノール−Aを高収率で効率良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の方法は、バッチ式または連続式に実施可能である。この方法をバッチ式に実施する場合、時間を消費する1時間に加えて反応後の加熱処理期間も反応後のテトラブロモビスフェノール−A沈澱段階も必要としないことで反応槽における時間が比較的短いことから、工程効率が向上する。このテトラブロモビスフェノール−Aの製造で連続方法を用いることはそれ自身ユニークであり、本発明の方法の特徴である反応時間が短いこととテトラブロモビスフェノール−A沈澱時間が短いことで連続方法の使用が可能になる。連続式の場合、生成物の生産量を損失させることなく反応槽のサイズを実質的に小さくすることができる。
【0010】
本発明の方法では、この上に示した反応効率に加えて、臭化メチルを付随して実質的に生じさせることなく、即ち臭化メチルの量をテトラブロモビスフェノール−A生成物45.4kg(100ポンド)当たり0.45kg(1.0から0.2ポンド)の如く少なくしながら、メタノールを基とする溶媒中でテトラブロモビスフェノール−Aを高い収率で製造することができる。更に、反応槽に供給すBr2の量をビスフェノール−A 1モル
当たり2モルのみにしたとしてもテトラブロモビスフェノール−Aを高い収率で得ることができる。
【0011】
上記利点は(1)水に混和する溶媒、例えばメタノールなどと比較的多い量の水を存在させて反応マスを比較的高い温度に維持しながらビスフェノール−Aを臭素化しそして任意にそれと同時に(2)該反応マス中で生じたHBrをBr2に酸化してそれを臭素化で
用いると得られることを見い出した。以下に考察するように、(1)の特徴は、伝統的には、低品質のテトラブロモビスフェノール−Aが低い収率で生じそして/または臭化メチ
ルが共生成することを助長するものであると考えられていた。
【0012】
本発明に従い、テトラブロモビスフェノール−Aの製造を、
a. ビスフェノール−Aと水と水混和性溶媒が入っている溶液を反応槽に供給することで水を液相中の水と水混和性溶媒の量を基準にして15重量%以上から65重量%含有する液相を有する反応マスを少なくともある程度生じさせ、
b. (a)中、該反応マスに未反応のBr2を存在させることにより、テトラブロモビ
スフェノール−Aの沈澱物を生じさせ、そして
c. 反応マスの温度を30から100℃の範囲内にする、
ことで行うことができる。
【0013】
また、本発明に従い、テトラブロモビスフェノール−Aの製造を、
a. ビスフェノール−Aと水と水混和性溶媒が入っている溶液とBr2を反応槽に一緒
に供給することで、水を液相中の水と水混和性溶媒の量を基準にして15重量%以上から65重量%含有する液相を有する反応マスを少なくともある程度生じさせ、
b. (a)中、該液相に未反応のBr2を少なくとも50ppm含有させ、そして
c. 反応マスの温度を30から100℃の範囲内にする、
ことで行うことができる。
【0014】
ビスフェノール−A/水/溶媒の溶液とBr2を一緒に供給することによって上記反応
マスの生成を最良に達成することができる。一緒に供給するは、Br2の供給期間と溶液
の供給期間を互いに少なくともある程度重ね合わせることを意味する(供給期間は、主題となる供給材料の全部を反応槽に供給する期間である)。例えば、Br2の供給を開始し
た後に上記溶液の供給を開始し、その後、両方の供給を終了まで同時に行ってもよい。別の例では、最初にBr2を供給した後に上記溶液を連続して供給し、それに伴ってBr2の供給を継続するが、この供給を間欠的に中断するか或は段階的に行うことも可能である。更に別の例では、Br2の供給を開始した後にその2者の供給を特定量のBr2が供給されるまで同時に行うように上記溶液を供給する。その時点で、上記溶液の供給が終了するまでこれの供給を単独で継続する。一緒に供給する他の方式は、上記溶液の供給を間欠的に中断するか或はBr2が入っている反応槽に上記溶液を最初に供給した後にBr2と上記溶液を一緒に供給することを特徴とし得る。最後に、Br2の供給と上記溶液の供給を時間
的に互いに全く同時に行うことも可能である。
【0015】
Br2の供給期間と上記溶液の供給期間をある程度重ね合わせない供給も可能であるが
、一般的には好適でない。例えば、Br2を全部供給した後に上記溶液を供給することも
可能である。しかしながら、このような供給方式では、反応条件に応じて、Br2の濃度
が高い(これはビスフェノール−Aを初めて供給した時に見られる)ことが原因で望ましくない副生成物の生成がもたらされる可能性がある。別の方式、即ちBr2を供給する前
にビスフェノール−Aを多量に供給する方式では、トリブロモビスフェノール−Aが多量に沈澱し得ることから好適でないであろう。
【0016】
しかしながら、供給を行う時、これを本方法の段階(b)の要求に調和させるべきである。
【0017】
Br2供給材料として用いるに市販のBr2が適切である。Br2が望ましくない不純物
を含有する場合には通常の精製技術、例えば蒸留、
2SO4を用いた処理などでそれを処理してもよく、このような技術は本分野の技術者によく知られている。
【0018】
Br2は液体または気体として反応槽に供給可能である。この供給材料を気体状にする
のが好適である。Br2が液状であるか或は気体状であるかに拘らず、この供給材料を入
れる地点を反応マスの表面下にするのが好適である。これを便利にはディップチューブ(dip tube)を用いて達成する。この供給材料が液状である場合、これを表面上に供給すると、はねかえり(splattering)が起こり得ることおよび混合が不充分になることと競う必要がある。
【0019】
この反応マスに入れる水の量は、この反応マスに含まれる液相中の水と水混和性溶媒の全量を基準にして15重量%以上から65重量%の範囲内でなければならない。この水の供給量を、好適には、水が25から65重量%の範囲になるような量にする。最も高度に好適な範囲は25から50重量%の範囲である。上記水混和性溶媒がメタノールである場合の好適な水量は30から45重量%である。
【0020】
この反応マスの水含有量は本発明の重要な面である。如何なる特別な理論によっても本発明の方法を制限するものでないが、水を含有させると臭化メチルの生成量が大きく低下すると同時にテトラブロモビスフェノール−A生成物の純度が高くなると考えている。
【0021】
ビスフェノール−AとBr2の間で臭素置換反応が起こることによって共生成するHB
rが反応マス中の多量の水で希釈されることから、臭化メチルの生成量が少なくなる。更に、HBrは水と反応してH3OBrを生じるが、これが水混和性溶媒、例えばメタノー
ルなどと反応する速度は非常に遅い。
【0022】
水の存在量を考えると、テトラブロモビスフェノール−A生成物の純度は予想外である。一般的には、このような量で水を存在させると臭素化が不完全な種、例えばトリブロモビスフェノール−Aなどがテトラブロモビスフェノール−A種と一緒に沈澱すると予測されていた。このような共沈は、四臭化生成物が高い純度で得られることとは対照的である。この多量の水は、本発明の方法に対して有害な作用を示さないばかりでなく、実際、その代わりに四臭化反応に利点を与える。如何なる特別な理論によっても制限するものでないが、この水は、反応マス内で、臭素化する種の存在を増進させると考えている。このような増進により、中間体であるトリブロモビスフェノール−Aが沈澱するに充分な機会を得る前にビスフェノール−Aの全部が臭素化を受けてテトラブロモビスフェノール−Aになることが有利に起こる。このような臭素化する種の増進はHBrが水と反応してH3OBr酸が生じることによるものであると考えている。このH3OBr酸はBr2と反応しない。このことは、もしH3OBrが生じないで多量のHBrがBr2との反応で利用されるとHBr3が生成することから重要である。HBr3は反応マス中で臭素化しない種であることから、これの生成は望ましくない。このように、HBr3が生成すると反応マスのBr2が消費され、これによって逆に臭素化反応が遅くなってしまう。このように臭素化反応が遅くなると、結果として、トリブロモビスフェノール−Aの沈澱量が多くなり得る。
【0023】
反応マス中のHBr量に影響を与える要因は水含有量のみでない。このHBrの量は、また、HBrが本発明に従う酸化剤と反応することでも少なくなり得る。以下に考察するように、任意に酸化剤を用いると、HBrの少なくともいくらかがBr2に変化する。従
って、水を多量に用いることと酸化剤を用いることの両方が、反応マス中の臭素化する種の存在を増進させる一因になり得る。
【0024】
反応槽に供給する水を、今までは、ビスフェノール−Aも水混和性溶媒も入っている溶液の一部として記述してきた。水をそのような溶液の一部として供給するのが便利で好適である。しかしながら、他の相当する方法で水を反応マスに導入することも可能である。例えば、水を個別の供給流れとして供給することも可能である。このような供給は、本質的に、ビスフェノール−Aと水混和性溶媒が入っている溶液の供給と同時に実施可能である。更に、全部でなくても水の一部を気体状Br2供給材料と一緒に蒸気または蒸気凝縮
物として供給することも可能である。蒸気を用いてBr2を気化させて気体状供給材料に
することも可能である。別の例は、供給を開始するに先立って水を1つの仕込みとしてか或は反応槽に入れる仕込み物の一部として供給しそして後で供給する水の量を調整して反応マス中で所望の水含有量を得ることを特徴とする。しかしながら、水を反応マスに供給する時にその供給する水に要求されるただ1つの条件は、水が反応期間の実質的全部に渡って反応マス中に適切な量で存在するようにすることである。
【0025】
水の使用量が上記範囲の下方末端、即ち15から25重量%である場合には、ビスフェノール−Aの臭素化が終了した時点で追加的に水をある程度加えるのが望ましい可能性がある。このような添加を行うことで得ることができる利点は、この追加的水によってテトラブロモビスフェノール−Aが反応マスから更に沈澱し得る点である。更に沈澱を起こさせると工程収率が向上する。この場合、この添加する水を溶液の水全体に算入する。
【0026】
水混和性溶媒の供給に関しては上記溶液の供給に関連させてこの上に記述した。しかしながら、この溶媒の供給は、この溶媒の機能が邪魔されないことを条件として必ずしも排他的に上記溶液の1成分としての供給である必要はない。例えば、上記溶液中でビスフェノール−Aの溶媒和を起こさせる必要に応じて、この溶液の一部として溶媒の一部を供給する一方で、残りの部分(これは一般により少ない量である)を個別の流れとして供給することも可能である。しかしながら、実用の観点から、溶媒を溶液の1成分として供給するのが最良である。
【0027】
前記から理解されるであろうように、水、溶媒および/または溶液を供給することができる様式は、反応マスの構成が適切であることを条件として、本発明の方法にとって決定的でない。従って、考察に関する事項を簡潔にする目的で、ビスフェノール−Aと水と水混和性溶媒が入っている溶液の供給は、その水を上記溶液の1成分としてか或は個別の流れとしてか或は両方の組み合わせとして供給してもよいことと、上記溶媒を該溶液の1成分として全部供給してもよいか或は一部を上記溶液に入れて供給しそして一部を個別の流れとして供給してもよいことを意味する。また、上記溶液供給材料の一部として見なされるべきものは、供給前に反応槽に仕込む仕込み物としてか或は上記仕込み物の一部として反応マスに供給する全ての水または溶媒である。
【0028】
水混和性溶媒は、Br2、ビスフェノール−A、モノブロモビスフェノール−A、ジブ
ロモビスフェノール−Aおよびトリブロモビスフェノール−Aに反応条件下で溶媒和し得る材料であるとして機能的に定義可能である。特に重要な反応条件は、反応マスの温度、未反応のBr2を反応マス中に存在させること、および反応マスの水含有量である。更に
、上記溶媒は、H3OBrに関して実質的に不活性でありかつビスフェノール−Aからテ
トラブロモビスフェノール−Aへの芳香臭素化に関して実質的に不活性であるべきでありかつ着色体、イオン性臭化物および/または加水分解性臭化物が厄介な量で生成する一因になるべきでない。加水分解性臭化物には、1−ブロモ−2−メトキシ−2−(3’,5’−ジブロモ−4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ジブロモ−2−メトキシ−2−(3’,5’−ジブロモ−4’−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,3−ジブロモ−2−メトキシ−2−(3’,5’−ジブロモ−4’−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび1,1,3−トリブロモ−2−メトキシ−2−(3’,5’−ジブロモ−4’−ヒドロキシフェニル)プロパンが含まれる。上記溶媒を水および本発明の方法の反応条件と組み合わせて用いると、これはテトラブロモビスフェノール−Aに溶媒和する能力を若干持ち得るが、反応収率の理由で、溶媒和力は低くなければならない、即ち反応マスに含まれる液相中で溶媒和するテトラブロモビスフェノール−Aの量は20重量%以内、好適には5重量%以内でなければならない。
【0029】
好適な水混和性溶媒の例は、水に混和し得るアルコール類、カルボン酸、例えば酢酸な
ど、およびニトリル類、例えばアセトニトリルなどである。また、ある種のエーテルも使用に適切であり得るが、但しそれらが反応マスの酸性で開裂を起こさないことを条件とする。より好適な溶媒は炭素原子数が4以下のアルコール類である。最も好適なものはエタノールおよびメタノールであり、メタノールが最も好適な溶媒である。メタノールは比較的安価でありかつ簡単な蒸留技術で容易に回収されて再利用可能である。本発明の方法では水を多量に存在させることから、水含有量が低いメタノールを回収する必要はなく、それによってメタノールを回収するコストが低くなる。
【0030】
臭化メチルの共生成は、水混和性溶媒としてメタノールを用いない時には明らかに問題にならない。しかしながら、HBrと溶媒の間で生じる生成物が商業的に望ましくない生成物である場合にはそれを生じさせないのが望ましい。従って、本発明の方法の特徴は、溶媒がメタノールであるか否かに拘らず有利である。
【0031】
この水混和性溶媒の使用量は、ビスフェノール−Aの供給量に最も良く関係しており、この量を便利には溶媒とビスフェノール−Aの重量比として表してもよい。この比率を好適には2:1から10:1の範囲内にし、最も好適には3:1から5:1の範囲内にする。この上で述べた溶媒の機能が達成されることを条件として、溶媒をより多い量または少ない量で用いることも可能である。
【0032】
Br2および溶液供給材料の流れの温度を、好適には、望まれる反応マス温度を考慮し
て工程効率が助長される温度にする。Br2を液状で供給する場合に適切な温度は10℃
からBr2の沸点より直ぐ下の温度である。Br2を気体として供給すべき場合には、Br2流れの温度を上記供給を促す温度にすべきである。例えば、上記供給材料の温度は60
から100℃の範囲内であってもよい。上記溶液の供給温度は、反応マスを不利に冷却または加熱することのない温度か、或は加圧運転を要する場合には結果として供給を液状状態で行うことができるようにする温度でなければならない。上記溶液の供給を個々別々の水供給および/または溶媒供給と一緒に行う場合には、温度に関して上で行ったのと同じ説明を上記個々別々の供給に適用する。
【0033】
Br2の供給および溶液の供給そして/または個々別々の水などの供給は全部、反応槽
内に反応マスが生じることに貢献する。このような供給を行うと反応マスに液相(液状部分)が生じ、そして最終的には、テトラブロモビスフェノール−A沈澱物が生成することで反応マスに固相(固体部分)が生じる。気体または液体として供給したBr2供給材料
の少なくとも一部が臭素化反応で消費される。消費されなかったBr2供給材料がいくら
か存在する場合、それは液相中に存在し、そしてそれはその中で、反応マス中に存在するHBrが任意に酸化を受けてBr2が生じてそれが消費されなかった全てのBr2と一緒になる。液相中に存在する未反応Br2の源の識別が失われたとしても、供給材料に由来す
る未消費Br2とHBrが酸化を受けることで生じる未消費Br2が組み合わさることで、液相中に未反応のBr2が過剰量で与えられ、これが本発明の特徴である。
【0034】
上記溶液を供給する時、反応マスの液相中に未反応のBr2を残存させておく。テトラ
ブロモビスフェノール−A反応生成物に入っている臭素化が不完全な種のレベル(これは許容され得る)に応じてそして/または臭素化が不完全な種が沈澱する度合(現実に起こる)に応じて、短期間ならば反応マスに入っている未反応Br2が消失することも容認さ
れ得る。実際、このような期間が現実に短期間でありそして好ましい反応パラメーターを選択するならば、そのような臭素化が不完全な沈澱物の生成は、評価できる度合では全く起こらない可能性がある。作業者は、その過程を観察し、そして実験方法を用いて、その選択した反応条件が未反応のBr2が反応マス中に短期間存在しなくなるに敏感であるか
否かを決定するであろう。従って、本発明の目的で、「未反応のBr2を存在させること
」は、臭素化が不完全な種の生成量が、テトラブロモビスフェノール−A生成物が容認さ
れなくなる、即ちテトラブロモビスフェノール−Aの含有量が96重量%未満の生成物がもたらされるほどの度合でないならば、未反応Br2の含有量がゼロであってもよい短い
期間を包含する。
【0035】
反応マスの液相中に存在する未反応Br2の好適な量の量化は試行錯誤技術で最も良好
に取り扱われる。最初に、未反応Br2のレベルと他の工程パラメーターを選択すること
で試行方法を限定する。この方法で生じたテトラブロモビスフェノール−A生成物をそれのトリ−およびテトラブロモビスフェノール−A含有量に関して分析する。トリブロモビスフェノール−Aのレベルがあまりにも高い場合には、未反応Br2のレベルをより高く
して別の試行方法を実施する。所望生成物が得られるまで上記手順を繰り返す(トリブロモビスフェノール−Aの含有量を低くしようとする場合、また、より高い反応温度を用いることでも若干の利点を得ることができることを特記する)。選択する未反応Br2含有
量をより高くする場合には、この未反応Br2の含有量を、商業的観点から望ましくない
トリブロモフェノールおよび他の副生成物の生成がもたらされるほど高くしない注意を払うべきである。
【0036】
反応マスに含まれる未反応Br2含有量の測定は比色測定技術を用いて実施可能である
。有用な技術は、水とメタノールが入っている酸性(HBr)溶液を生じさせることを含む。この溶液から標準サンプルをいくつか調製し、これの各々にいろいろな量でBr2
測定して添加する。次に、このようなサンプル溶液の色を反応マスに含まれる液相の色と比色測定で比較する。色の一致が上記液相中に存在するBr2量の指示である。未反応の
Br2はそれの濃度に従ってサンプル溶液および反応マスに色を着けることから、未反応
Br2の比色測定は極めて適切である。濃度が低いと色が淡い黄色になり、濃度が中程度
であると色が強い黄色になり、濃度が高いと色がオレンジ色になり、そして最も高い濃度では色が暗赤色になる。未反応Br2の濃度を反応マスの液状部分を基準にして50pp
m以上、好適には100から10,000ppmの範囲内にするのが適切である。より好適な量は100から5000ppmの範囲内であり、最も好適な量は200から2000ppmの範囲内である。
【0037】
ビスフェノール−Aが存在しておりそして同様に臭素化が不完全な種が存在している限り、該反応マスに上記未反応Br2濃度を維持する。理解されるであろうように、Br2が反応するにつれて未反応のBr2含有量が低下し、従ってBr2供給材料に反応マス中のBr2を補給する働きをさせる。作業者は、上記過程中、上述した比色測定技術を用いて反
応マスに含まれる未反応Br2含有量を監視しそしてBr2の供給もしくは上記溶液の供給または両方を調整することで未反応Br2含有量を選択した目標範囲内に維持することが
できる。テトラブロモビスフェノール−Aは反応マス中で沈澱を起こすことから、比色測定で監視を行う場合には、反応槽から流れを少量取り出してそれに比色測定技術を受けさせる前に濾過を行って固体を除去する必要があり得る。また、反応マスが反射する光の強度を測定する反射技術を用いるならば、濾過を行わないで反応マスの色強度を読むことも可能である。比色測定を行う場合には、全てにおいて、反応マスに含まれる液相の色が決定的な要因である。
【0038】
反応マス中の未反応Br2レベルを監視して所望のBr2レベルを得ようとする時に比色測定技術以外の技術も利用可能であると理解されるべきである。利用する個々の技術は本発明の方法にとって決定的ではないが、比色測定技術を利用するのが高度に好適である。
【0039】
また、所望の未反応Br2レベルを得る目的で用いる方法も上述した供給調整方法以外
の方法であってもよいことも理解されるべきである。例えば、HBrからBr2への変換
で酸化剤を用いる場合には、反応マスに供給する酸化剤の量を調節することでBr2の生
成量を調節することができる。HBrの酸化で反応マスに加わる未反応Br2の量は、生
じるHBrの量が生成するテトラブロモビスフェノール−A 1モル当たり4モルであることを考えると多い量であり得る。従って、作業者は、Br2が追加的量で必要とされる
場合には、HBrの酸化を利用して、所望の未反応Br2レベルを得るに必要なBr2の少なくとも一部を生じさせることができる。
【0040】
本発明の方法で酸化剤の任意使用を選択しない場合にはBr2の全供給量を少なくとも
ほぼ化学量論的量にする。ビスフェノール−Aの芳香四臭素化(ar−tetrabromination)を行う場合の化学量論的Br2量は、ビスフェノール−A 1モル当
たり4モルのBr2である。一般的には、Br2全体を若干過剰量で用いる、即ち化学量論的量の0.1%から3%過剰量で用いる。
【0041】
本発明の方法でHBrの任意酸化を利用する場合には、ビスフェノール−A供給量1モル当たりに反応槽に供給するBr2の量を2モルのみにすることでも良好な結果を得るこ
とができる。共生成するHBrを完全に酸化させると、必要とされるBr2の別の2モル
が得られる。HBrの酸化が完全に起こらない場合には、酸化で生じるBr2と一緒に合計したBr2の量が少なくとも化学量論的量、好適にはこの上で述べた化学量論的量より若
干多い量になるような量でBr2を反応槽に供給する。
【0042】
Br2源に関係なく、少なくとも反応期間の大部分に渡ってBr2を過剰量で存在させた方が、工程の管理があまり困難にならないことから、化学量論的量より若干多い量でBr2を存在させるのが望ましい。バッチ方法で、その工程が完了した後にBr2が過剰量で存在している場合には、その反応マスを還元剤、例えば亜硫酸ナトリウムまたはヒドラジンなどで処理することにより、それを除去することができる。
【0043】
任意の酸化剤は、本発明の工程条件下において反応マス中でHBrをBr2に酸化する
能力を有する如何なる酸化剤であってもよい。好適な酸化剤は液状形態の酸化剤であり、この形態の方が反応槽に供給するのが容易であり得る。好適な酸化剤は塩素および過酸化水素である。
【0044】
Cl2を酸化剤として用いる場合、これは気体または液体として反応マスに供給可能で
ある。気体で供給するのが好適である。塩素化されたビスフェノール−Aの生成量を低くする目的でCl2の供給をBr2供給を開始した後に行うのが好適である。最初にBr2
供給した後にCl2の供給をBr2の供給と同時に行ってもよい。このような供給手順を用いたとしてもブロモクロロビスフェノール−A化合物がいくらか生じるであろう。幸いなことには、このようなブロモクロロ種が存在するとしてもその量は非常に少量である、即ち沈澱物の全重量を基準にして50から500ppmの量である。最も優位を占めるブロモクロロ種は大部分の場合クロロトリブロモビスフェノール−Aであろう。
【0045】
ブロモクロロ種の量が少ないことはビスフェノール−Aからテトラブロモビスフェノール−Aへの臭素化が迅速に起こることによるものであると理論付けする。従って、臭素化が不完全な種、例えばトリブロモビスフェノール−Aなど(これはHBrとの反応に優先してCl2と反応する)が反応マス中に充分に高い濃度で存在することは決してない。
【0046】
酸化剤としてH22を用いる場合、安全性から、好適には、H22が90重量%以上入っている水溶液の状態でこれを反応マスに供給しない。好適な溶液はH22が30から80重量%入っている水溶液である。最も好適な溶液はH22が50から70重量%入っている溶液である。
【0047】
このH22を反応マスに供給する時は如何なる時点であってもよい。バッチ運転の場合には、Br2の大部分、即ちそれの50%以上を供給した後にH22を供給するのが好適
である。連続運転の場合、最も好適には、少なくとも大部分のBr2供給と同時にH22
の供給を行う。最も好適には、Br2の供給を開始した後にH22の供給を開始する。
【0048】
上記酸化剤は個別にか或はある場合にはBr2供給と一緒に反応マスに供給可能である
。Cl2を供給する場合にはそれをBr2と同じ供給用導管に通して供給するのが好適であり、そしてBr2を供給しながらCl2を供給してもよい。これとは異なり、H22の場合には、これの供給を好適には個別の供給流れとして行う。
【0049】
この酸化剤の供給量を、好適には、酸化剤が反応マス中に大過剰量で残存しないで酸化を受けるHBrの量が最大限になるに必要な量にする。選択した酸化剤1モル当たりに2モルのHBrが酸化を受けると仮定すると、供給する酸化剤とビスフェノール−Aのモル比を1:1から2:1の範囲内にすべきである。より好適なモル比は1.5:1から1.9:1である。H22を酸化剤として用いる場合には酸化剤の比率をより高くするのが好適である一方、Cl2を酸化剤として用いる場合にはその比率を中間的な範囲、即ち1.
5−1.8:1の範囲にするのが好適である。Cl2の場合には酸化剤の比率を低くする
方が好適である理由は、酸化を受けさせるHBr量と容認され得るクロロブロモ種量の間に均衡が存在すると言った理由である。クロロブロモ種の量をある最小量に保つ必要がない場合には、Cl2をより多い量で用いることも容認され得る。選択した酸化剤が1:2
を基にしてHBrを酸化しない場合には、この上に示した範囲を調整する必要がある。このような場合には1:2の関係の変化に比例させて範囲を調整する。
【0050】
本発明の方法を実施する時の別の重要な考慮は、臭素化期間中の反応マス温度である。ビスフェノール−Aからテトラブロモビスフェノール−Aへの臭素化がトリブロモビスフェノール−A沈澱物の生成量が少なくなるに充分なほど速く起こるように、比較的高い温度を利用するのが望ましい。しかしながら、どれくらい温度を高くすることができるかに関しては実用上の制限が存在する。例えば、作業者は、望まれない副生成物が容認されないレベルで生じるか或はテトラブロモビスフェノール−A生成物の劣化が促されるような温度を用いることを望まないであろう。
【0051】
テトラブロモビスフェノール−A方法を比較的高い温度で操作することは一般的でない。これは、特に、共生成物、例えば臭化メチルなどの生成量を最小限にしようとする時に当てはまる、と言うのは、通常は高温にすると臭化メチルが多量に生じると予想されるからである。また、テトラブロモビスフェノール−Aが生じた後直ぐにそれの沈澱を反応条件下で起こさせようとする時には(このような沈澱を起こさせるのが本発明の方法の特徴である)、高い温度を用いることは通常でない。温度を高くするとテトラブロモビスフェノール−Aがその溶媒溶液中で示す溶解度が高くなることで上記沈澱が邪魔されると予想され、所望の沈澱を起こさせるには反応マスを最終的に冷却するか或は反応マスに水を添加する必要があると予想されていた。本発明の方法は、そのような影響を受けず、テトラブロモビスフェノール−Aの沈澱を得るための冷却段階を必要としない。
【0052】
本発明で高い温度を用いることは、テトラブロモビスフェノール−Aで通常考えられていたことに反するばかりでなく、またそのような温度を用いると工程が経済的になりかつ生成物の純度が高くなることを見い出した。本発明の方法では、反応マスの温度をより高くすることに伴って、低温方法では反応槽を冷却する目的で必要とされる冷蔵を用いる代わりに、冷却タワー水を用いることができることから、工程の経済性がある程度実現化される。
【0053】
好適な温度は30から100℃の範囲内の温度である。より高度に好適な温度は50から80℃の範囲内の温度である。最も高度に好適な温度は50から70℃の範囲内の温度である。30℃未満の温度も使用可能であるが、その場合には溶媒とビスフェノール−A
の重量比を充分に高くする必要があり得る、即ち8:1から15:1にする必要があり得る。このような比率にする場合には30から50℃の温度が適切であり得る。
【0054】
ビスフェノール−Aの臭素化は、任意に行うH22によるHBrの酸化と同様に発熱反応である。反応マスの温度を制御するには、その反応マスから熱を取り除く必要があり得る。熱の除去を容易にするコンデンサを用いて反応を還流下で行うことで熱を取り除くことができる。反応混合物が大気圧下で示す沸点より低い温度で操作を行うことが望まれる場合、大気圧以下の圧力下で反応を行うことも可能である。
【0055】
本発明の方法の基本的概念は一般に工程圧力の影響をあまり受けない。従って、本方法は大気圧以下の圧力、大気圧または大気圧以上の圧力下で実施可能である。
【0056】
工程開始時、液状の仕込み物(これは供給を開始した時点で反応マスの一部になる)を反応前に反応槽に仕込んでおくのが望ましい。このような液状の仕込み物によって反応マスが撹拌可能になり、そしてこれは、反応マス中で起こる温度変化を適度にするヒートシンク(heat sink)として働く。この液状仕込み物に好適には水と水混和性溶媒(上記溶液に入れて供給する溶媒と同じ)を含める。この液状仕込み物を酸性にしておくのが好適であり、例えばこれに酸、例えばHBr、HClなどを1から20重量%入れておくのが好適である。このような酸を用いると、初期に生成するテトラブロモビスフェノール−Aの色が良好になるのが助長されると思われる。更に、この溶媒を溶媒和したテトラブロモビスフェノール−Aで飽和させておくのが好適である。また、テトラブロモビスフェノール−Aの種晶粒子を反応槽に仕込んでおくのも好適である。上記溶媒の飽和および種晶粒子の存在は、両方とも、臭素化期間中に生じるテトラブロモビスフェノール−Aの沈澱を増進させる働きをする。先に行った本発明の方法に由来する尾部(heel)を上記液状仕込み物として用いるのが最も実用的である。テトラブロモビスフェノール−Aの種晶粒子は、先に行った操作から持ち越した粒子であってもよいか、或は別個に添加可能である。また、尾部が利用できない場合には個別に水と水混和性溶媒(これらは上記溶液供給材料全体の一部になる)の供給を用いて上記液状仕込み物を生じさせることも可能である。このような方式では、上記溶液供給材料に入れた溶媒和したビスフェノール−A部分の供給を開始するに先立って初期量の水および水混和性溶媒を反応槽に供給しておく。この方式に対するただ1つの注意は、上記溶液供給材料を構成するいろいろな供給材料をそれらが本発明の方法を限定するいろいろなパラメーターに従うように割り当てる必要がある点である。
【0057】
本発明の方法をバッチ方法として行う場合には、Br2と溶液供給材料を、それらが使
い果たされるまで撹拌反応槽に供給する。ビスフェノール−Aからテトラブロモビスフェノール−Aへの臭素化は上記反応条件下で極めて迅速に起こることから、決して供給後の加熱処理を有意に長い時間に渡って行う必要はない。また、この反応マスに入っている水の量は非常に多量であることと、このような量で水を存在させるとテトラブロモビスフェノール−Aが非常に不溶になることから、最終反応マスを冷却することで得られる利点は僅かのみである。冷却することの利点は、主に、液体−固体分離を行うに先立って反応マス中に存在する溶媒和した気体状臭化物、例えば臭化メチルなどの蒸気圧を低くすることにある。また、この臭化物の生成速度がいくらか遅くなり得る。加うるに、冷却を行うと、反応マスに入っている水含有量に応じてテトラブロモビスフェノール−Aがその反応マスから追加的に沈澱して来る可能性がある。本明細書に示す好適な範囲内で操作を行うならば、追加的に沈澱を起こさせることは、それで利点が得られたとしてもそれを得るに関連して費用がかかることから、価値がない可能性がある。最後に、冷却を行うと、利用する分離技術に応じて、反応槽の下流で反応マスを取り扱うのがより容易になる可能性がある。従って、上記のいずれもが重要でないか或は関連した価値が得られない場合には、反応マスを分離装置に移送することができた時点で直ちにこれに液体−固体分離を受けさせ
てもよい。しかしながら、冷却することが望まれる場合の冷却時間は、反応マスをどのように冷却するか或はどの温度にまで冷却するかに依存する。実験室の設定における冷却時間は1から30分の範囲であり得る。
【0058】
より多くのテトラブロモビスフェノール−A沈澱物を反応マス中で生じさせることを確保する目的で、共供給が終了した時点で追加的水を反応マスに加えることが望まれる場合には、また、この共供給が終了した時点と沈澱物を回収する時点の間に追加的時間を要する可能性がある。水を添加する時間と沈澱を起こさせる時間は非常に短い、即ち30分未満であり得る。
【0059】
反応マスを冷却するか否か或は反応マスをより一層の水で処理するか否かに拘らず、時間を追加的に消費したとしても本方法で製造するテトラブロモビスフェノール−Aの全体量はあまり多くならない(全体量には沈澱物の量と反応マス中に溶媒和している物の量が含まれる)と理解されるべきである。従って、このような追加的時間は、従来技術の方法で教示されている加熱処理時間と同じ様式で加熱処理時間と見なされるべきでない。
【0060】
固体を液体から回収した後、その固体を、好適には、反応で用いた特別な水混和性溶媒と水が入っている溶液で洗浄する。この洗浄で上記固体から母液を実質的に全部除去する。この母液にはトリブロモフェノール、HBrおよび加水分解性不純物などの如き不純物が入っている。典型的な洗浄水は、水にメタノールが30重量%入っている溶液であり得る。次に、この洗浄した固体を脱イオン水で再び洗浄することで、1番目の洗浄で残存するいくらかの水混和性溶媒を除去することにより、それが生成物乾燥時に放出される問題を最小限にする。
【0061】
反応槽の運転を連続様式で行う場合の反応槽は、好適には、連続撹拌タンク反応槽である。反応マスを連続的に生じさせそしてこの反応マスを生じさせている間にその一部を反応槽から取り出す。この反応槽のデザインは、反応槽内の平均滞留時間がビスフェノール−Aの実質的に全部が四臭素化されることが確保されるに充分な時間になるようなデザインでなければならない。用語「連続供給」および「連続取り出し」は供給または取り出しを中断することを排除することを意味しない。このような中断は一般に短期間であり、反応槽の規模およびデザインに応じて適切であり得る。例えば、テトラブロモビスフェノール−A沈澱物は反応槽の底近くに沈降する傾向があることから、取り出しを行いそして次の取り出しを行う前に取り出しを短期間停止しすることで沈澱物を蓄積させてもよい。このような取り出しは、取り出しの実施を反応槽への供給が終了するまで待つ(バッチ方法の特徴であるように)ことがない意味で、連続的であると見なされるべきである。
【0062】
連続取り出しを中断するか否かに拘らず、取り出しの結果として、反応マス中に存在する液体の一部と固体の一部が一緒に取り出される。その固体部分は主にテトラブロモビスフェノール−Aである。この上に記述したバッチ式の場合に行ったのと同様に、上記混合物の濾過、沈澱物の洗浄などを行ってもよい。
【0063】
連続式操作を用いる場合には反応マスの温度をバッチ式の場合に好適な温度よりかなり高い温度に保持する方が有利であると考えている。バッチ式の場合に好適な温度は50から65℃である。連続式の場合に好適な温度は55から95℃の範囲内、最も好適には65から95℃の範囲内である。65から75℃の温度を用いると非常に良好な結果が得られると予測される。使用する温度を高くすればするほど得られる生成物の純度が高くなり得ることを見い出した。
【0064】
温度を高くすると生成物の純度が高くなることに関する利点は、トリブロモビスフェノール−A中間体の沈澱生成と臭素化の相対速度と生成物純度の間に相関関係が存在してい
ることを支持する研究を考慮することで理解される。温度を上昇させると、トリブロモビスフェノール−Aが反応マスの液相中で示す溶解度と反応速度の両方が有利になり、従って高純度生成物の入手性が助長される。また、液相の水含有量を低くすることでも、液相中のBr2濃度が高くなるか或はトリブロモビスフェノール−Aの濃度が高くなることか
らトリブロモビスフェノール−Aの臭素化速度が速くなり得るが、それらは両方ともそれら自身に問題がある。Br2の濃度を高くすると望ましくない副生成物の生成が促される
可能性がある一方、液相の水含有量を低くすると反応マスに含まれるHBr含有量が高くなることでテトラブロモビスフェノール−Aの収率が低くなるであろう。
【0065】
連続式操作の好適な反応槽滞留時間は、撹拌タンク反応槽を用いそしてこのような操作様式に好適な工程条件を用いるならば、30から150分の範囲内になるであろうと予測される。本明細書で反応槽滞留時間を用いる場合、これは、反応槽の容積をその反応槽からスラリーを取り出す流量で割った値である。
【0066】
本発明の方法で製造するテトラブロモビスフェノール−A生成物は非常に高い純度を持ち得る、即ちこの生成物にはテトラブロモビスフェノール−Aが少なくとも98重量%入っている。トリブロモビスフェノール−Aの含有量は低い、即ち0.1から2重量%である。この生成物の品質は優れていて、それが示すAPHA色は50未満である(100mlのアセトンにテトラブロモビスフェノール−Aを80グラム入れて)。また、加水分解性臭化物の量も低く保たれ、一般に60ppm未満である。本方法の収率は感動的であり、95から99%の範囲の収率を得ることができる。
【0067】
前記から理解されるであろうように、溶媒の水含有量と反応温度とビスフェノール−A供給中における反応マス中のBr2含有量の全部が、所望のテトラブロモビスフェノール
−A生成物を効率良い様式で得ることに貢献する。所望結果を得るための上記工程パラメーター各々に関する個々の値の選択は、各作業者の必要性および利用可能な装置に依存する。ある作業者は、本発明の方法を利用することに関する1つの利点を他の可能な利点よりも強調する可能性がある。このように、その作業者は、他の利点(類)を強調することを望む別の作業者が選択する工程パラメーター値とは異なる工程パラメーター値を選択する可能性がある。
【0068】
共生成するHBrからBr2を生じさせる酸化を行って本発明の方法で必要とされるB
2の一部を得る方が反応槽への供給材料にBr2を相当する量で入れる費用よりも経済的である場合には、そのような酸化を利用するのが特に魅力的である。このような経済的利点は、通常、Br2を4モル供給する時の費用から回収HBrの値段を引いたコストがB
2を2モル供給する時の費用にHBrの酸化費用を足したコストより高い場合に得られ
る。
【0069】
好適には臭化メチルの生成量を最低限にすることを意図するが、本発明の方法は、臭化メチルが適度な量、即ちテトラブロモビスフェノール−A生成物45.5kg当たり9.0kg(100ポンド当たり20ポンド)の量で生じるようにする改造をそれに受けさせるに充分な順応性を示し得る。このように、市場の需要が将来大きく低下した時でも、それに適応させることができる。臭化メチルを生じさせる場合に本方法で必要とされる全Br2量は、テトラブロモビスフェノール−Aを高収率で製造しかつHBrを目標量で生じ
させるに必要な量になるであろう。このような場合のBr2の供給量と酸化で生じさせる
Br2量は、一緒にして、4Br2が必要であると言った条件に合致するに充分でなければならない。
【0070】
HBrの酸化に関して上で行った説明では、一般に、反応槽または反応マス中でHBrに酸化を受けさせることを述べて来たが、また、共生成したHBrを反応槽から取り出し
てそれに酸化を反応槽の外側で受けさせそして次にそのようにして生じさせたBr2を反
応槽に戻すことも本発明の方法の範囲内である。
【0071】
また、HBrを反応槽内で起こる反応から生じさせるのではなくHBrを別の源から反応槽に供給することも本発明の方法の範囲内である。このような外来(non−indigenous)のHBrにその共生成したHBrと一緒に酸化を受けさせてBr2を生じ
させることも可能である。この場合、この外来のHBrからBr2が生じるとしてそれを
本方法で必要な全Br2に対して計算してもよく、そしてBr2の供給を適切に調整してもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
以下に示す実施例で本発明の方法の原理を説明する。
【0073】
本実施例の各々で、本質的に水とメタノールとHBrとずっと少ない量で不純物が入っている反応前仕込み物または「母液」を用いる。この母液には一般に水が30重量%とメタノールが55重量%とHBrが8−20重量%入っていた。
【0074】
実施例I−IIで用いた母液は、MitchellおよびMcKinnieが米国特許第4,628,124号に記述した如く製造したTBBPAに由来する母液であった。
【0075】
実施例III−VIではいろいろな母液を用いた。実施例IIIおよびIVで用いた母液は、メタノールと水が入っている反応マス中でビスフェノール−Aと臭素を反応させてテトラブロモビスフェノール−Aを製造する実験(先に行った一連の実験)に由来する母液であった。このような先に行った実験は、本発明の実験ではなく(水の量、温度などが限定したパラメーター外である)、決定的でない相反する結果をもたらした。本発明でない最初の実験で得た母液を次の実験で用いた等々。この最後の実験で得た母液を実施例III用の母液として用いた。
【0076】
実施例全部において、特に明記しない限り、%はガスクロ(GC)の面積パーセントであるとして受け入れられるべきである。スプリットインジェクション(split injection)を利用したフィルム厚が2.65ミクロンの5 Meter X 0.53 mm HP−1メガボアキャピラリーカラム(megabore capillary column)を用いてGC分析を実施した。このカラムの操作ではこれを100℃から300℃に1分当たり10℃で加熱した。炎イオン化検出器を用いた。
【0077】
実施例I−IIIでは、共生成するHBrに酸化を受けさせてBr2を生じさせてその
Br2をビスフェノール−Aから所望四臭素化生成物を生成させる臭素化に対する貢献で
用いることを付随して伴わせて高品質のテトラブロモビスフェノール−A生成物を製造することを例示する。
【0078】
[実施例I]
1リットルの丸底フラスコに機械的撹拌機、コンデンサ、温度計、滴下漏斗および加熱用マントルを取り付け、そして臭素供給用のO.D.が0.3175cm(1/8インチ)のディップチューブとビスフェノール−A溶液供給用のO.D.が0.3175cm(1/8インチ)のフィードチューブ(これの末端は蒸気空間内に位置する)を取り付けた。このフラスコに、HBrが9.5重量%入っていてテトラブロモビスフェノール−Aが5.0グラム入っている母液を200ml仕込んだ。この添加したテトラブロモビスフェノール−Aは、母液を飽和させそして製造すべきテトラブロモビスフェノール−Aの沈澱を補助する種晶粒子を供給する働きをする。
【0079】
100グラムのビスフェノール−Aと300mlのメタノール(水が2%)と200mlの水が入っている溶液を調製した。蒸発装置(これは250Mlのフラスコから成っていて、これに窒素導入口と気体出口を取り付けて、上記気体出口を反応槽内の0.3175cm(1/8インチ)ディップチューブに連結し、そしてこのフラスコを加熱する)にBr2を143グラム(46ml)入れた。反応前に仕込んだ母液とテトラブロモビスフェノール−Aを55℃の温度に持って行った。上記蒸発装置の中を窒素でパージ洗浄(200から500Ml/分)しそして液状の臭素を加熱することにより、Br2の供給を開始した。反応前に仕込んだ仕込み物の色が黄色になった時点で直ちにぜん動ポンプを用いて上記溶液の供給を開始した。ポンプ輸送速度を変えることにより、Br2の供給がビスフェノール−Aの供給よりも化学量論的に先行することを保持し、その結果として、反応マスの色は黄色であった。これらの供給を1時間15分継続した時点でBr2の供給を終了した。上記溶液の供給を反応マスび液相の色が無色になるまで継続した。滴下漏斗にH22水溶液(30重量%)を100グラム仕込んで、これの滴下を、上記ビスフェノール−A溶液の供給を継続しながら開始した。上記水溶液の供給と上記溶液の供給を定期的に調整して、反応マスに含まれる液状部分の色を黄色に維持した。上記H22水溶液を供給している間、反応マスの温度を60−63℃に維持した。このH22を全部加えた後の反応マスの色は黄色であった。上記ビスフェノール−A溶液の添加を継続すると反応マスの色は明黄色に変わるが、この溶液の供給を止めると、より深い黄色に変わるであろう。この期間中の反応温度を58−62℃にした。最後に、過酸化水素水溶液の供給を止めて20分後、上記ビスフェノール−A溶液を、反応マスが無色になるまで加えた。この反応マスの温度を60−65℃の温度に30分間保持した後、55℃に冷却した。この反応マスに含まれる沈澱物を濾過で母液から分離した後、水中20重量%のメタノール溶液を125ml用いて洗浄を行った。脱イオン水を用いて2番目の洗浄を実施した。この洗浄した沈澱物を乾燥させて分析を行った。GC分析により、トリブロモビスフェノール−Aが0.64%でテトラブロモビスフェノール−Aが99.3%であることが示された。上記母液にHBrが3.7重量%入っていることを確認した。
【0080】
[実施例II]
滴下漏斗を取り付けないで、臭素蒸発装置からディップチューブの連結具に至るラインに塩素ガス添加用のT字管を取り付ける以外は、この上と同様に1リットルの丸底フラスコを装備した。このフラスコに母液(150グラム)と固体状のテトラブロモビスフェノール−Aを3グラム加えて55℃の温度に加熱した。Br2蒸発とN2の供給を開始してそれらをディップチューブに通して上記フラスコに入れ、それに続いて、80.0グラムのビスフェノール−Aと400mlのメタノール(水が2重量%)と200Mlの水から調製した溶液の供給を開始した。送り込まれたBr2の全量は141グラムであった。数分後、若干量で送り込む気体状Cl2の供給を開始した。ビスフェノール−Aの供給量とCl2の供給量を調整することにより、反応マスの液状部分を黄色に保持した。このBr2全部を1.5時間で送り込んだ。Cl2の供給量を90ml/分以上にまで上昇させ、そしてビスフェノール−Aを6ml/分で供給しながら、反応マスの液状部分が黄色のままになるようにCl2の供給量を連続的に調整した。このCl2とビスフェノール−Aは2時間後に全部送り込まれた。これらの供給を停止してから2分後にヒドラジン(66重量%)を2滴加えて過剰量のBr2を分解させた。このヒドラジンを加えると、反応マスの液状部分が無色になった。この反応マスを20℃に冷却した。沈澱物を集め、そして水中30重量%のメタノールを125ml用いて洗浄を行った。脱イオン水を用いて2番目の洗浄を行って湿ったケーキを得た後、これを120−130℃のオーブンで乾燥させることで生成物を189.8g得た。GC分析により、トリブロモビスフェノール−Aが0.97%で、クロロトリブロモビスフェノール−Aが0.01%で、o,p−テトラブロモビスフェノール−Aが0.04%で、テトラブロモビスフェノール−Aが99.1%であることが示された。
【0081】
[実施例III]
窒素供給部に塩素ガス添加用のT字管を取り付ける以外は実施例IVと同様に1リットルのフラスコを装備して、臭素を実施例IVと同様に供給した。この反応槽に、実施例IIと同様な反応混合物から得た母液を150Ml仕込んだ。これを55℃に加熱した後、臭素蒸気の添加を開始した。反応マスの色が黄色になった時点で、90.0グラムのビスフェノール−Aと450Mlのメタノールと180Mlの水から調製した溶液の添加を開始した。5分後、塩素ガスの添加を1分当たり150−200Mlで開始した。この反応混合物を55℃に保持しそして上記溶液の流量を調整することで黄色に保持した。更に20分後、塩素の流量を1分当たり250Mlにまで上昇させ、そして更に30分後、塩素の流量を1分当たり300Mlにまで上昇させた。20分後に全ての臭素が添加された。臭素が47Ml添加された。塩素の流量を高くして反応マスを黄色として保持した。8分後に上記溶液が全部送り込まれ、その時点で塩素の添加を止めた。7分後、飽和亜硫酸ナトリウム溶液を2Ml加えて臭素を分解させた。次に、この反応混合物を30℃に冷却した。固体を濾過でその母液から分離した後、フィルター上でそれを125Mlの30%メタノールに続いて125Mlの脱イオン水で洗浄した。その固体をオーブンで乾燥させると209.2グラム残存し、これをGCで分析した結果、トリブロモビスフェノール−Aは1.25%で、クロロトリブロモビスフェノール−Aは0.013%で、テトラブロモビスフェノール−Aは98.7%であった、この固体がアセトン中で示す色(100Mlのアセトン中80グラム)は20APHAであり、イオン性臭化物の量は6ppmでありそして加水分解性臭化物の量は16ppmであった。上記母液を分析した結果、それにはトリブロモフェノールが0.09重量%、テトラブロモビスフェノール−Aが0.21重量%、トリブロモビスフェノール−Aが3ppmおよび他のフェノール系不純物が0.04重量%入っていることが示された。
【0082】
以下に示す実施例では、HBrに酸化を受けさせて反応体であるBr2を供給することを行わないことを特徴とする本発明の方法の原理を説明する。
【0083】
[実施例IV]
1リットルの丸底フラスコに機械的撹拌機、コンデンサ、温度計および加熱用マントルを取り付け、そして臭素供給用のO.D.が0.3175cm(1/8インチ)のディップチューブとビスフェノール−A溶液供給用の0.3175cm(1/8インチ)のフィードチューブ(これの末端は蒸気空間内に位置する)を取り付けた。このフラスコに母液を150mlおよびテトラブロモビスフェノール−Aを5.0グラム仕込んだ。この加えたテトラブロモビスフェノール−Aは上記母液を飽和させそして製造すべきテトラブロモビスフェノール−Aの沈澱を補助する種晶粒子を供給する働きをする。
【0084】
59.93グラムのビスフェノール−Aと360mlのメタノール(水が2%)と12
3mlの水が入っている溶液を調製した。蒸発装置(これは250Mlのフラスコから成っていて、これに窒素導入口と気体出口を取り付けて、上記気体出口を反応槽内の0.3175cm(1/8インチ)ディップチューブに連結し、そしてこのフラスコを加熱する)にBr2を168.2グラム入れた。反応前に仕込んだ母液と5グラムのテトラブロモビスフェノール−Aを67℃の温度に持って行った。上記蒸発装置の中を窒素でパージ洗浄(200から500Ml/分)しそして液状の臭素を加熱することにより、Br2の供給を開始した。反応前に仕込んだ仕込み物の色が黄色になった時点で直ちにぜん動ポンプを用いて上記溶液の供給を開始した。ポンプ輸送速度を変えることにより、Br2の供給がビスフェノール−Aの供給よりも化学量論的に先行することを保持し、その結果として、反応マスの色はオレンジ色であった。これらの供給を1時間38分継続した時点でBr2の供給を終了した。上記溶液供給材料の20mlを添加しないで残した。上記溶液の供給が終了した後、反応マスを更に20分間67−69℃に保持した。この反応マスの色は無色であった。固体を濾過で集め、水中30%のメタノールに続いて水で洗浄した後、1
25℃の温度で乾燥させた。ガスクロ(GC)により、上記固体にはトリブロモビスフェノール−Aが0.22%とテトラブロモビスフェノール−Aが99.8%入っていることが示された。
【0085】
[実施例V]
以下に示す以外は本質的に実施例IVと同じ手順に従った。フラスコに、開始時、実施例IVの濾液から得た母液(150Ml)とテトラブロモビスフェノール−Aを5グラム仕込んだ。80.0グラムのビスフェノール−Aと400mlのメタノールと210mlの水から供給溶液を調製した。Br2を225.4グラム用いた。上記溶液を6ml/分
で送り込み、そしてN2清掃を用いてBr2を200−500ml/分で送り込んだ。この反応マスを55−60℃の温度に保持しそして上記供給材料の供給速度を若干変えることで反応マスの色を暗黄色に保持した。上記溶液の供給とBr2の供給が本質的に同時に完
了した。上記溶液の供給で用いたフラスコを10mlのメタノールで洗浄した。次に、この洗浄液を反応フラスコに送り込んだ。この洗浄液を送り込みそして上記溶液の供給とBr2の供給を停止して5分後に生じる反応マスの色は明黄色であった。この反応フラスコ
に63%ヒドラジンを3滴加えて残存する全てのBr2を失活させた。次に、この反応マ
スを熱の添加なしに1.5時間撹拌し、固体を濾過で集めた後、40%のメタノール水溶液に続いて水で洗浄した。GCにより、上記固体にはトリブロモフェノールが0.02%とトリブロモビスフェノール−Aが0.84%とテトラブロモビスフェノール−Aが99%入っていることが示された。
【0086】
[実施例VI]
以下に示す以外は実施例Vと同じ手順に従った。実施例IVの濾液から母液(150Ml)を得た。この母液と一緒にテトラブロモビスフェノール−Aを3グラム用いた。溶液の内容物を80.16グラムのビスフェノール−Aと380mlのメタノールと300mlの水にした。Br2を225.1グラム供給した。上記母液を55℃に加熱した後、B
2の供給と溶液の供給を開始した。Br2の供給量を調整することで反応マスを黄色に保持した。この2つの供給は2時間で終了したが、この添加全体を通して反応槽の温度を55−60℃に保持した。この溶液が入っていた容器を10mlのメタノールで濯いだ後、このメタノールを反応フラスコに加えた。この時点で、反応マスは明黄色であった。供給が終了(およびメタノール濯ぎ液の添加が終了)して7分後、この反応マスにヒドラジンを2滴加えた。この反応マスは無色になった。この反応マスを放置して室温に冷却することで沈降を起こさせた。この反応マスに含まれる液状部分のサンプルを採取した。水で希釈して塩化メチレンで抽出した後、テトラデカンを内部標準として用いたGC分析で分析を行った結果、その液体にはトリブロモフェノールが0.036重量%、テトラブロモビスフェノール−Aが0.040重量%、トリブロモビスフェノール−Aが0.001重量%および他の不純物が0.027重量%入っていることが示され、このことは、収率の損失が理論値の0.5%であることに相当する。
【0087】
上記反応マスから回収して洗浄および乾燥を受けさせた固体は、GCにより、トリブロモビスフェノール−Aを1.8%とテトラブロモビスフェノール−Aを98.2%含有することが示された。
【0088】
[実施例VII]
長さが1.83m(6フィート)で0.635cm(1/4インチ)のテフロン製管材を沸騰水内に保持して、これに液状臭素と窒素の流れ(30−100ml/分)を送り込んで臭素を蒸発させる以外は、実施例IVと同様に2リットルの丸底フラスコを装備した。次に、この蒸発した臭素を0.3175cm(1/8インチ)のディップチューブに送り込んだ。20グラムのビスフェノール−Aと100mlのメタノールが既に入っている2Lの反応槽に18mlのBr2を20分かけて加えることにより、反応前の仕込み物を
生じさせた。Br2添加中、上記反応槽の内容物を還流に加熱し、そしてBr2の供給が完了した後5分間、それを維持した。次に、この反応槽に水を100ml加えた。その結果として生じた反応槽の内容物で反応前の仕込み物を構成させた。
【0089】
この反応前仕込み物を生じさせた後、これに、130グラムのビスフェノール−Aと650mlのメタノールと950mlの水から調製したビスフェノール−A溶液を1400mlと液状のBr2を94ml含めた共供給材料を1時間かけて加えた。この共供給材料を供給している間の反応マスの色は黄色からオレンジ色であり、この反応マスを57−60℃の温度に保持した。この共供給後、反応マスの色が明黄色に変わるまでビスフェノール−A溶液を追加的(3ml)に加えた。この反応マスを35℃に冷却して濾過することで沈澱物を得、これを30%のメタノール水溶液で洗浄した。次に、この沈澱物を250mlの脱イオン水で洗浄した。この沈澱物をオーブンで乾燥させた後、重量測定を行った結果、重量が295グラムであることを確認した。GC分析により、トリブロモフェノールが0.03%でトリブロモビスフェノール−Aが1.16%でo,p−テトラブロモビスフェノール−Aが0.064%でテトラブロモビスフェノール−Aが98.7%であることを確認した。
【0090】
実施例VIIIでは本発明の方法で連続様式を用いることを実証する。
【0091】
[実施例VIII]
実施例VIIの臭素添加方法を含めて実施例VIIと同様に500mlのフラスコを装備した。また、反応混合物を取り出すためのポンプに0.635cm(1/4インチ)のテフロン製ディップチューブを取り付けることも含めた。1分当たりに167Mlをポンプ輸送する能力を有する上記ポンプをタイマーに取り付けることで、上記フラスコから反応混合物がポンプ輸送される時間が45秒毎に3秒間のみになるようにした。
【0092】
この反応槽に先の実験で得た反応混合物を400ml仕込んで67℃に加熱した。次に、臭素蒸気の添加を開始した。この混合物の色が黄色に変わった時点で直ちに、ビスフェノール−Aの溶液(5200mlのMeOH[水が3.74%]と1670mlの水に1000gのビスフェノール−Aが入っている)の添加を12ml/分の速度で開始した。この反応混合物の画分を、63%のヒドラジンが1/2ml入っている三角フラスコ内に集めた。臭素の供給速度を調節して反応混合物を黄色に保持しそして反応温度を69−71℃に維持した。上記フラスコからポンプ輸送する反応混合物の輸送速度を若干調整することにより、上記反応槽のレベルを400Mlに維持した。画分を集めた後、それらを濾過で母液から分離し、そしてその固体をフィルター上で30%のMeOHに続いて脱イオン水で洗浄した。表Iにその結果を示す。ヒドラジンを添加しないでサンプル番号5を集めた。それの母液を分析した結果、臭素が360ppmであることが示された。テトラデカンを内部標準として用いた5メートルのHP−1メガボアキャピラリーカラムで上記母液の2つをGC分析した結果を表IIに示す。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
本発明のテトラブロモビスフェノール−A生成物は高品質である、即ちこれはテトラブ
ロモビスフェノール−Aを少なくとも97.5重量%、より好適にはテトラブロモビスフェノール−Aを少なくとも98重量%含有する。最も高度に好適な生成物はテトラブロモビスフェノール−Aを少なくとも98.5重量%含有し、最良生成物はテトラブロモビスフェノール−Aを少なくとも99重量%含有する。
【0096】
本発明の方法は本発明でない工程パラメーターを持たせた方法と組み合わせて実施可能であると理解されるべきである。例えば、作業者が臭化メチルを中間的量で生じさせることを望む場合には、本方法と同様な方法であるが、臭化メチルの生成を助長する工程パラメーターを用いて本方法を実施することも可能である、即ち本方法に例えば水含有量を低くすると言った特徴、例えば水含有量を10重量%にすると言った特徴を持たせることも可能である。このような方法をある期間実施した後、中断して、本発明のパラメーターを与えることで臭化メチルの生成量を低くすることも可能である。このようにして、作業者は、両方の方法を組み合わせることで臭化メチルの生成量を狭い生成量範囲内に調節することができるであろう。
【0097】
前記から理解されるであろうようにそしてそれの最も幅広い面で考慮した時、本発明の方法は、中間体であるトリブロモビスフェノール−Aが有意な量で沈澱するに充分な機会をそれに与えないような速度でテトラブロモビスフェノール−A沈澱物が直接生じる反応系を与えることで、高純度のテトラブロモビスフェノール−A生成物が高い収率で得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高純度のテトラブロモビスフェノール−A生成物を高収率で製造する方法であって、中間体であるトリブロモビスフェノール−Aが有意な量で沈澱するに充分な機会をそれに与えないような速度でテトラブロモビスフェノール−A沈澱物がビスフェノール−Aの臭素化によって連続的に直接生じる定常状態の反応系を与え、ここで、沈殿を含んだ反応混合物の一部が反応混合物から除去され、そして、この過程で生じる全沈澱物がテトラブロモビスフェノール−Aを少なくとも96重量%含有することを含む方法。
【請求項2】
該テトラブロモビスフェノール−Aの沈殿が、(i)水と水混和性溶媒との混合物中のビスフェノール−A溶液の供給および(ii)別途の臭素の供給から生じる、請求項1に記載の方法。

【公開番号】特開2008−169222(P2008−169222A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38399(P2008−38399)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【分割の表示】特願2006−169801(P2006−169801)の分割
【原出願日】平成8年2月21日(1996.2.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(594066006)アルベマール・コーポレーシヨン (155)
【Fターム(参考)】