説明

ディスクブレーキの製造方法

【課題】摩擦攪拌部がピストンの組み付け状態に影響を及ぼす可能性を低減できるディスクブレーキの製造方法の提供。
【解決手段】ピストン17の環状底壁50側に形成される平面部17cの外径よりも大きい環状底壁50への当接外径を有する支持部材80をボア26に挿入してボア26の内側から環状底壁50に突き当て、環状底壁50側が環状底壁50と同じ肉厚をなし開口部45の内径と略同等の外径を有する蓋部材43を開口部45に挿入して支持部材80に当接させ、蓋部材43と環状底壁50とを摩擦攪拌接合によって接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディスクブレーキの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキにおいて、シリンダ本体の開口部を蓋部材で閉塞するべくシリンダ本体と蓋部材とを摩擦攪拌接合する技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2007−225057号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
摩擦攪拌接合する際に、軟化した状態の摩擦攪拌部がボア側に押し出されて固まってしまうと、ピストンの組み付け状態に影響を及ぼす可能性があった。
【0004】
したがって、本発明は、摩擦攪拌部がピストンの組み付け状態に影響を及ぼす可能性を低減できるディスクブレーキの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、ピストンの環状底壁側に形成される平面部の外径よりも大きい前記環状底壁への当接外径を有する支持部材をボアに挿入して前記ボアの内側から前記環状底壁に突き当てる工程と、前記環状底壁側が該環状底壁と同じ肉厚をなし前記開口部の内径と略同等の外径を有する蓋部材を前記開口部に挿入して前記支持部材に当接させる工程と、前記蓋部材と前記環状底壁とを摩擦攪拌接合によって接合する工程とを有する。
【0006】
また、本発明は、支持部材における環状底壁への当接外径寸法は、ピストンにおける前記環状底壁側に形成される平面部の外径寸法以上の寸法で形成されてなり、前記支持部材のボアの底部側に臨む面の縁部の外形は、前記ピストンの前記ボアの底部側に臨む面の縁部の外形よりも膨出して形成されてなる。
【0007】
また、本発明は、支持部材とピストンとは、ボアの底部側に臨む面の縁部に面取り部が形成されてなり、前記支持部材における環状底壁への当接外径が前記ピストンにおける前記環状底壁側に形成される平面部の外径よりも大きく形成され、前記支持部材における前記面取り部の外周径が前記ピストンにおける前記面取り部の外周径よりも大きく形成されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、摩擦攪拌部がピストンの組み付け状態に影響を及ぼす可能性を低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明に係る一実施形態を図面を参照して以下に説明する。
【0010】
図1〜図3は、本実施形態のディスクブレーキであって自動二輪車に適用される例を示す。図1に示すように、このディスクブレーキ1は、制動対象となる車輪(回転体)と一体回転するディスク12と、このディスク12に摩擦抵抗を付与するキャリパ11とを備えている。キャリパ11は、ディスク12を跨いだ状態で車両の非回転部13にブラケット14を介して取り付けられるキャリパボディ16と、図3に示すように、ディスク12を挟んで互いに対向するようにキャリパボディ16に摺動可能に設けられる複数対、具体的には二対(図3の断面図において一対のみ示す。)のピストン17とを有する対向ピストン型のものである。なお、以下においては、車両への取付状態をもって説明し、この取付状態におけるディスク12の半径方向をディスク半径方向と称し、ディスク12の軸線方向をディスク軸線方向と称し、ディスク12の円周方向をディスク円周方向と称す。なお、図1において矢印Fは車両前進時におけるディスク12の回転方向を示している。
【0011】
図3に示すように、ピストン17は、円筒部18と、円筒部18の軸方向の一端側を閉塞する円板状の底部19とを有する有底円筒状をなしている。ピストン17の径方向外側の外周面は、ストレートな円筒面17aと、円筒部18の底部19側にあってR面取りされてなる面取り部17bとからなっている。また、ピストン17の底部19の外面は、円筒面17aの中心軸線に直交する平坦な平面部17cとされている。このようなピストン17は、平面部17cにおいてボア26の底部に臨むことになり、この平面部17cの縁部に面取り部17bが形成されている。
【0012】
キャリパボディ16は、ディスク12を挟んでアウタ側(車輪に対し反対側)に配置されるアウタ側シリンダ部20と、インナ側(車輪側)に配置されるインナ側シリンダ部(シリンダ)21と、アウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21とをディスク12の半径方向外側で結ぶブリッジ部22とを有している。
【0013】
キャリパボディ16には、ディスク軸線方向に沿ってアウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21間に橋架される図1および図2に示すパッドピン24がディスク円周方向に離間して複数本具体的には二本設けられている。
【0014】
図3に示すように、アウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21には、互いにディスク軸線方向において対向して対をなすボア26が形成されており、このようなボア26の対が、図1に示すように、ディスク円周方向に離間して複数対具体的には二対設けられていて、これらボア26それぞれに上記したピストン17が摺動可能に嵌挿されている。これにより、ディスク軸線方向に対向する一対のボア26がディスク円周方向に複数対、具体的には二対並列に形成され、ディスク軸線方向に対向する一対のピストン17がディスク円周方向に複数対、具体的には二対並列に配置されている。
【0015】
ここで、各ボア26は、図3に示すように、ピストン17を摺動可能に嵌合させる嵌合内径部27と、嵌合内径部27よりも奥側にあってこの嵌合内径部27よりも大径の大径内径部28とを有しており、嵌合内径部27の軸線方向における略中間位置には、ピストンシール31を保持するための複数具体的に二カ所のシール周溝29,30が形成されている。ピストン17は、円筒面17aにおいて嵌合内径部27を摺動する。ここで、大径内径部28は鋳造により形成されている(つまり鋳肌の状態)。他方、嵌合内径部27およびシール周溝29,30は、鋳造後の切削加工により形成されている。
【0016】
キャリパボディ16の各パッドピン24には、それぞれ一対合計二対のブレーキパッド33がディスク軸線方向に移動可能に支持されている(図3の断面図において一対のみ示す)。これらパッド33は、ディスク12の軸線方向における両側にそれぞれ配置されることになり、これらパッド33に対してディスク12の反対側に位置するようにキャリパボディ16に設けられたピストン17でそれぞれ押圧されてディスク12に押し付けられ、これにより、車両に制動力を発生させるようになっている。なお、キャリパボディ16には、各ピストン17を作動させるためのブレーキ液をボア26に導入する通路が形成されているが、そのうち、対向するボア26同士を連通させる、図1,図2に示す連通路35,36が、互いにキャリパボディ16内で交差するように外側から穿設されており、一方の連通路35の外側に開口する口部37にエア抜き用のブリーダプラグ39が取り付けられ、他方の連通路36の外側に開口する口部38は閉塞プラグ40で閉塞されている。
【0017】
そして、本実施形態において、キャリパボディ16は、図3に示すように、上記したアウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21とブリッジ部22とが、アウタ側シリンダ部20およびインナ側シリンダ部21のうちの一方側具体的にはインナ側シリンダ部21の底部の一部を除いて、例えばアルミニウム合金の鋳造品からなる一体成形の素材から加工されて形成されており、インナ側シリンダ部21の底部の一部が別体の蓋部材43とされている。
【0018】
つまり、キャリパボディ16は、アウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21とブリッジ部22とから成り、インナ側シリンダ部21は、図4(a)に示すようにボア26の底部位置に開口部45を有する形状に一体成形の素材から加工されて形成されるキャリパボディ本体(シリンダ本体)46と、このキャリパボディ本体46の開口部45を塞ぐ図4(b),(c)に示す蓋部材43と、を備えている。
【0019】
蓋部材43は、例えばアルミニウム合金製で円板状に形成されており、キャリパボディ本体46の開口部45に嵌合されるため、この開口部45の内径と略同等の外径で、開口部45より僅かに小さい外径に形成されている。蓋部材43は、一定厚さの円板部43Aと、この円板部43Aの中央から軸線方向一側に一定径で一定高さ突出する凸部43Bとを有している。
【0020】
キャリパボディ本体46の開口部45は、内周面に段差部等のないストレートな円筒面形状とされ、蓋部材43も同様に外周面がストレートな円筒面形状とされている。
【0021】
ここで、キャリパボディ本体46の開口部45は、ボア26の底部側にボア26と同軸中心の円形に形成され、その内径はボア26の内径(嵌合内径部27および大径内径部28の内径)よりも小さく設定されている。これにより、ボア26の底部には、ボア26の軸心方向に張り出して開口部45の周縁を成す環状底壁50が形成されている。言い換えれば、開口部45の内周に沿って環状底壁50が形成されている。この環状底壁50の軸方向寸法である肉厚は蓋部材43の円板部43Aの肉厚と同厚みに設定されている。
【0022】
また、キャリパボディ本体46の開口部45は、キャリパボディ本体46の鋳造後にボア26の内周面の切削加工を行うための加工孔として利用される。例えば、この開口部45は、開口部45自体の加工を終えた時点、または、鋳造直後の開口部45の下孔の段階で、インナ側およびアウタ側のシリンダ部21,20のボア26の内周面に嵌合内径部27およびシール周溝29,30を切削する際に切削工具の挿入孔として用いられる。
【0023】
また、キャリパボディ本体46に、図5に示すように、対向するボア26同士を連通させる連通路35,36が穿設される。このとき、一方の連通路35は、インナ側シリンダ部21の大径内径部28に開口し、他方の連通路36が、連通路35に交差しつつアウタ側シリンダ部20の大径内径部28に開口する。
【0024】
キャリパボディ本体46は、鋳造後に上記したボア26の内周面の切削加工および開口部45の切削加工を行う工程と、連通路35,36を穿設加工する工程とが終了すると、底部側の開口部45に図4に示す蓋部材43が以下のようにして摩擦攪拌接合(FSW)によって取り付けられる。
【0025】
この摩擦攪拌接合で使用される接合工具71は、図6に示すように、円柱状の大径軸部72とこの大径軸部72よりも小径でこの大径軸部72と同軸の円柱状の先端軸部73とを有している。大径軸部72の先端側は円弧状の凹部74が形成され、凹部74の中心から先端軸部73が立設している。また、先端軸部73の先端75は球面状となっている。なお、上記接合工具71を用いた摩擦攪拌接合の具体的な方法に関しては、例えば、米国特許第5460317号のFig12A〜Cに示されている。
【0026】
蓋部材43のキャリパボディ本体46への取り付けにあたっては、図7に示す一対の鉄製の中子(支持部材)80を、中子セットプレート81に載置させた状態で、図9に示すように、開口部45が形成されているインナ側シリンダ部21の一対のボア26に嵌合させる。図7に示すように、中子セットプレート81には、中子80を保持するための一対の保持穴82が形成されている。これに対して中子80には、概略円柱状をなす主部83と、主部83の軸方向の一端部の中央から突出する、主部83よりも小径の嵌合凸部84とが形成されている。そして、中子80は、この嵌合凸部84において保持穴82に嵌合し、主部83が嵌合凸部84の周囲の平坦な載置面83aにおいて中子セットプレート81上に載置される。
【0027】
ここで、中子80は、図8に示すように、主部83の嵌合凸部84とは反対側の端部の中央に、軸方向に凹む凹部85が形成されており、凹部85の周囲が平坦な円環面83bとなっている。また、主部83の径方向の外周部には、円環面83b側の角部にR面取りされた面取り部83cが形成され、面取り部83cの円環面83bとは反対側にストレートな円筒面の大径円筒面83dが形成され、大径円筒面83dの面取り部83cとは反対側に大径円筒面83dよりも若干小径の環状段差面83eが形成され、環状段差面83eの大径円筒面83dとは反対側に大径円筒面83dと同径のストレートな大径円筒面83fが形成され、大径円筒面83fの環状段差面83eとは反対側に大径円筒面83fよりも若干小径のストレートな小径円筒面83gが形成され、小径円筒面83gの大径円筒面83fとは反対側の角部に、載置面83aに繋がるようにR面取りされた面取り部83hが形成されている。ここで、中子80は、後述するように載置面83aにおいてボア26の底部に臨むことになり、この載置面83aの縁部に面取り部83cが形成されている。
【0028】
中子80の最も大径の大径円筒部83d,83fは、ピストン17の円筒面17aの外径よりも若干大径となっている。
【0029】
また、中子80の円環面83bの外径D1は、ピストン17の平面部17cの外径D2よりも大きくされている。つまり、後述するように、中子80はボア26への嵌合時に円環面83bにおいて環状底壁50に当接することになり、この環状底壁50への当接外径である円環面83bの外径D1が、ピストン17の環状底壁50側に形成された平面部17cの外径D2よりも大きくされている。
【0030】
言い換えれば、中子80における環状底壁50への当接外径寸法D1は、ピストン17における環状底壁50側に形成される平面部17cの外径寸法D2以上の寸法で形成されており、中子80のボア26の底部側に臨む円環面83bの縁部の外形は、ピストン17のボア26の底部側に臨む平面部17cの縁部の外形よりも膨出して形成されている。
【0031】
さらに言い換えれば、中子80とピストン17とは、ボア26の底部側に臨む面の縁部に面取り部83c,17bが形成されてなり、中子80における環状底壁50への当接外径D1がピストン17における環状底壁50側に形成される平面部17cの外径D2よりも大きく形成され、中子80における面取り部83cの外周径(大径円筒面83dの外径)がピストン17における面取り部17bの外周径(円筒面17aの外径)よりも大きく形成されている。
【0032】
なお、例えば、中子80の最大外径である大径円筒面83d,83fの外径を、ピストン17の円筒面17aの外径とほぼ等しくし、中子80の面取り部83cの半径を、ピストン17の面取り部17bの半径よりも小さくすることで、中子80の円環面83bの外径を、ピストン17の平面部17cの外径より大きくしても良い。
【0033】
図9に示すように、一対の中子80を、中子セットプレート81に載置させた状態で、インナ側シリンダ部21を上側にアウタ側シリンダ部20を下側にした姿勢のキャリパボディ本体46のアウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21との間に、ブリッジ部22とは反対側から挿入し、図10に示すように、キャリパボディ本体46の開口部45が形成されているインナ側シリンダ部21の一対のボア26に下側から嵌合させる。
【0034】
次に、この状態から、キャリパボディ本体46、一対の中子80および中子セットプレート81をそのまま天地が逆になるように上下に反転させる。これにより、一対の中子80がキャリパボディ本体46で支持されることになり、この状態で、図11に示すように、中子セットプレート81を取り外す。
【0035】
次に、図12に示すように、キャリパボディ本体46のアウタ側シリンダ部20とインナ側シリンダ部21との間に、ブリッジ部22とは反対側から中子セットプレート81よりも厚い位置決めプレート86を挿入する。ここで、位置決めプレート86にも、一対の中子80の嵌合凸部84を嵌合させる一対の保持穴87が形成されており、一対の中子80は、嵌合凸部84において保持穴87に嵌合して、主部83が載置面83aにおいて位置決めプレート86に当接する。
【0036】
次に、この状態から、図13に示すように、キャリパボディ本体46、一対の中子80および位置決めプレート86をそのまま天地が逆になるように上下に反転させて、摩擦攪拌接合装置90の受台91上に設置する。このとき、図13(a),(b)に示すように、位置決めプレート86に設けられた位置決めピン92を受台91の位置決め穴93に嵌合させることと、図13(b)に示すように、受台91の両側壁91a間に位置決めプレート86を両側面において嵌合させることとによって、キャリパボディ本体46が受台91に位置決めされる。この状態で、一対のボア26に挿入される一対の中子80は、頂上面である円環面83bをボア26の底部の環状底壁50にボア26の内側から突き当てることになる。
【0037】
次に、図14に示すように、キャリパボディ本体46の外面側(ボア26の底部外面側)から開口部45に蓋部材43を挿入し、蓋部材43をその円板部43Aにおいて中子80の円環面83bに当接させる。このとき、環状底壁50と蓋部材43の円板部43Aとが、中子80の平坦な円環面83bに当接し、この円環面83bを基準面として高さ方向に位置決めされることとなる。これにより、肉厚の同じ環状底壁50および蓋部材43の円板部43Aの外面は段差無く面一に揃えられる。
【0038】
次に、この状態から、図15に示すように、開口部45と蓋部材43との接合境界100、言い換えれば環状底壁50と蓋部材43との接合境界100に対して摩擦攪拌接合(FSW)を行う。この摩擦攪拌接合の際には、接合工具71の先端軸部73を開口部45と蓋部材43との接合境界100に沿わせて連続的に移動させ、蓋部材43の全周に亘ってループ状に摩擦攪拌接合を行う。接合工具71は、蓋部材43の外周の接合開始点位置に戻ったところで、蓋部材43の接合境界100の円周の接線方向に沿わせてキャリパボディ本体46上を所定量移動させ、その移動を完了した時点でキャリパボディ本体46から引き抜かれる。これにより、図2に示すように、円形状をなすループ部105aとループ部105aの接線方向に延出する延出部105bとを有する摩擦攪拌部105がキャリパボディ16に残存形成されることになる。
【0039】
以上により、環状底壁50と蓋部材43とが全周にわたって接合されることになる。ここで、摩擦攪拌部105の延出部105bの末端位置に残留形状部101が形成される。この残留形状部101は、接合工具71の引き抜き点にのみ形成されるものであり、接合工具71の先端軸部73に対応した中央穴102と大径軸部72に対応した周囲凹部103とから成る。残留形状部101は中央穴102を最深部として凹設されるが、この残留形状部101の延出部105bは接合境界100からキャリパボディ本体46側に外れた位置に形成されることになるため、接合部分の強度低下や液漏れの発生原因になるようなことはない。なお、図16に示すように、一方の摩擦攪拌部105の延出部105bの位相は、連通路35のボア26内の開口の位相とほぼ合っている。
【0040】
次に、キャリパボディ16を中子80および位置決めプレート86で支持した状態のまま、これらを摩擦攪拌接合装置90の受台91から外し、水冷する。
【0041】
次に、上記水冷により、中子80とボア26とのクリアランスを確保した状態で、位置決めプレート86および中子80を、この順番でキャリパボディ16から取り外す。なお、中子80を取り外す際には、中子セットプレート81を用いて嵌合凸部84を保持穴82に嵌合させてから、中子セットプレート81をその面方向に振動させることで、中子80をキャリパボディ16から取り外す。
【0042】
次に、キャリパボディ16の製品外観および耐食性向上等を目的として、摩擦攪拌部105のフライス加工および外装(アルマイト処理)を行う。
【0043】
そして、キャリパボディ16にピストン17等の他の部品を組み付ける。
【0044】
以上に述べた本実施形態によれば、ピストン17の環状底壁50側に形成される平面部17cの外径よりも大きい環状底壁50への当接外径を有する中子80を、ボア26に挿入しボア26の内側から環状底壁50に突き当てた状態で、環状底壁50側の円板部43Aが環状底壁50と同じ肉厚をなし開口部45の内径と略同等の外径を有する蓋部材43を開口部45に挿入して中子80に当接させてから、蓋部材43と環状底壁50とを摩擦攪拌接合によって接合するため、摩擦攪拌接合によって軟化した環状底壁50あるいは蓋部材43の一部が接合工具71からの圧力でボア26内に押し出されることがあっても、中子80の当接外径よりも外側に押し出されることになる。よって、摩擦攪拌接合による押出部分は、ボア26内に組み付けられるピストン17の底部19の平面部17cの可動範囲よりも外となり、摩擦攪拌部105の押出部分が干渉してピストン17をボア26の底部である凸部43Bへの当接位置まで挿入できなくなる等、摩擦攪拌部105がピストン17の組み付け状態に影響を及ぼす可能性を低減できる。
【0045】
また、ピストン17の環状底壁50側に形成される平面部17cの外径よりも大きい環状底壁50への当接外径を有する中子80を、ボア26に挿入しボア26の内側から環状底壁50に突き当て、中子80によって環状底壁50をより広い面積で支持した状態で、蓋部材43と環状底壁50とを摩擦攪拌接合によって接合するため、接合工具71から受ける押し出し力による環状底壁50の撓み量が小となり、図16に示すように、軟化した押出部分の押し出し量を抑えることができる。よって、摩擦攪拌部105の延出部105bの位相が、連通路35のボア26内の開口の位相とほぼ合っていても、押出部分がこの開口に達することを防止できる。したがって、連通路35による流路を良好に確保できる。
【0046】
言い換えれば、中子80における環状底壁50への当接外径寸法である円環面83bの外径寸法は、ピストン17における環状底壁50側に形成される平面部17cの外径寸法以上の寸法で形成されており、中子80のボア26の底部側に臨む円環面83bの縁部の外形は、ピストン17のボア26の底部側に臨む平面部17cの縁部の外形よりも膨出して形成されているため、摩擦攪拌接合によって軟化した環状底壁50あるいは蓋部材43の一部が接合工具71からの圧力でボア26内に押し出されることがあっても、中子80の当接外径よりも外側に押し出されることになる。よって、摩擦攪拌接合による押出部分は、ボア26内に組み付けられるピストン17の底部19の平面部17cの可動範囲よりも外となり、摩擦攪拌部105の押出部分が干渉してピストン17をボア26の底部である凸部43Bへの当接位置まで挿入できなくなる等、摩擦攪拌部105がピストン17の組み付け状態に影響を及ぼす可能性を低減できる。
【0047】
また、中子80における環状底壁50への当接外径寸法である円環面83bの外径寸法が、ピストン17における環状底壁50側に形成される平面部17cの外径寸法以上の寸法で形成されており、中子80のボア26の底部側に臨む円環面83bの縁部の外形は、ピストン17のボア26の底部側に臨む平面部17cの縁部の外形よりも膨出して形成されているため、中子80によって環状底壁50をより広い面積で支持することができ、接合工具71から受ける押し出し力による環状底壁50の撓み量が小となり、軟化した押出部分の押し出し量を抑えることができる。よって、摩擦攪拌部105の延出部105bの位相が、連通路35のボア26内の開口の位相とほぼ合っていても、押出部分がこの開口に達することを防止できる。したがって、連通路35による流路を良好に確保できる。
【0048】
言い換えれば、中子80とピストン17とは、ボア26の底部側に臨む円環面83bおよび平面部17cのそれぞれの縁部に面取り部83cおよび面取り部17bが形成されてなり、中子80における環状底壁50への当接外径である円環面83bの外径がピストン17における環状底壁50側に形成される平面部17cの外径よりも大きく形成され、中子80における面取り部83cの外周径がピストン17における面取り部17bの外周径よりも大きく形成されているため、摩擦攪拌接合によって軟化した環状底壁50あるいは蓋部材43の一部が接合工具71からの圧力でボア26内に押し出されることがあっても、中子80の当接外径よりも外側に押し出されることになる。よって、摩擦攪拌接合による押出部分は、ボア26内に組み付けられるピストン17の底部19の平面部17cおよび円筒面17aの可動範囲よりも外となり、摩擦攪拌部105の押出部分が干渉してピストン17をボア26の底部である凸部43Bへの当接位置まで挿入できなくなる等、摩擦攪拌部105がピストン17の組み付け状態に影響を及ぼす可能性を低減できる。
【0049】
また、中子80とピストン17とは、ボア26の底部側に臨む円環面83bおよび平面部17cのそれぞれの縁部に面取り部83cおよび面取り部17bが形成されてなり、中子80における環状底壁50への当接外径である円環面83bの外径がピストン17における環状底壁50側に形成される平面部17cの外径よりも大きく形成され、中子80における面取り部83cの外周径がピストン17における面取り部17bの外周径よりも大きく形成されているため、中子80によって環状底壁50をより広い面積で支持することができ、接合工具71から受ける押し出し力による環状底壁50の撓み量が小となり、軟化した押出部分の押し出し量を抑えることができる。よって、摩擦攪拌部105の延出部105bの位相が、連通路35のボア26内の開口の位相とほぼ合っていても、押出部分がこの開口に達することを防止できる。したがって、連通路35による流路を良好に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施形態で製造されたディスクブレーキの正面図である。
【図2】同実施形態で製造されたキャリパの背面図である。
【図3】同実施形態で製造されたキャリパを示す図2のA−A断面図である。
【図4】同実施形態で製造されるキャリパボディを示すものであり、(a)はキャリパボディ本体の断面図、(b)は蓋部材の背面図、(c)は蓋部材の側面図である。
【図5】同実施形態で製造されるキャリパボディ本体を示すものであり、(a)は断面図、(b)は(a)のB−B断面図である
【図6】同実施形態で使用される摩擦攪拌接合用の接合工具の側面図である。
【図7】同実施形態で使用される中子および中子セットプレートを示すものであり、(a)は平面図、(b)は(a)のC−C断面図である。
【図8】同実施形態で使用される中子の正面図である。
【図9】同実施形態を示す正断面図である。
【図10】同実施形態を示す正断面図である。
【図11】同実施形態を示す正断面図である。
【図12】同実施形態を示す正断面図である。
【図13】同実施形態を示すもので、(a)はキャリパボディ本体を断面とした正面図、(b)は平面図である。
【図14】同実施形態を示すキャリパボディ本体および蓋部材を断面とした正面図である。
【図15】同実施形態を示すキャリパボディ本体および蓋部材を断面とした正面図である。
【図16】同実施形態で製造されたキャリパボディの部分断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 ディスクブレーキ
12 ディスク
17 ピストン
17b 面取り部
17c 平面部
21 インナ側シリンダ部(シリンダ)
26 ボア
33 ブレーキパッド
43 蓋部材
45 開口部
46 キャリパボディ本体(シリンダ本体)
50 環状底壁
80 中子(支持部材)
83c 面取り部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキパッドをディスクに押圧するピストンが摺動するボアと該ボアの底部側に前記ボアの内径よりも小さい内径で形成された開口部と該開口部の内周に沿って形成される環状底壁とを有するシリンダ本体の前記ボアの内周面を切削加工する工程と、
前記ピストンの前記環状底壁側に形成される平面部の外径よりも大きい前記環状底壁への当接外径を有する支持部材を前記ボアに挿入して前記ボアの内側から前記環状底壁に突き当てる工程と、
前記環状底壁側が該環状底壁と同じ肉厚をなし前記開口部の内径と略同等の外径を有する蓋部材を前記開口部に挿入して前記支持部材に当接させる工程と、
前記蓋部材と前記環状底壁とを摩擦攪拌接合によって接合する工程と、
を有するディスクブレーキの製造方法。
【請求項2】
ピストンをシリンダのボア内で摺動させて前記ピストンによりブレーキパッドをディスクに押圧するディスクブレーキであって、前記シリンダが、底部の蓋部材と、該蓋部材で閉塞され前記ボアの内径よりも小さい内径の開口部を有するシリンダ本体とで構成され、前記シリンダ本体の開口部に沿って形成される環状底壁を設けるとともに、前記ボアに挿入される支持部材を前記ボアの内側から前記環状底壁に突き当てた後に、前記蓋部材を前記シリンダ本体の開口部に挿入して前記支持部材に当接させ、この状態から前記蓋部材と前記環状底壁とを摩擦攪拌接合によって接合するディスクブレーキの製造方法において、
前記支持部材における前記環状底壁への当接外径寸法は、前記ピストンにおける前記環状底壁側に形成される平面部の外径寸法以上の寸法で形成されてなり、前記支持部材の前記ボアの底部側に臨む面の縁部の外形は、前記ピストンの前記ボアの底部側に臨む面の縁部の外形よりも膨出して形成されてなることを特徴とするディスクブレーキの製造方法。
【請求項3】
ピストンをシリンダのボア内で摺動させて前記ピストンによりブレーキパッドをディスクに押圧するディスクブレーキであって、前記シリンダが、底部の蓋部材と、該蓋部材で閉塞され前記ボアの内径よりも小さい内径の開口部を有するシリンダ本体とで構成され、前記シリンダ本体の開口部に沿って形成される環状底壁を設けるとともに、前記ボアに挿入される支持部材を前記ボアの内側から前記環状底壁に突き当てた後に、前記蓋部材を前記シリンダ本体の開口部に挿入して前記支持部材に当接させ、この状態から前記蓋部材と前記環状底壁とを摩擦攪拌接合によって接合するディスクブレーキの製造方法において、
前記支持部材と前記ピストンとは、前記ボアの底部側に臨む面の縁部に面取り部が形成されてなり、前記支持部材における前記環状底壁への当接外径が前記ピストンにおける前記環状底壁側に形成される平面部の外径よりも大きく形成され、前記支持部材における前記面取り部の外周径が前記ピストンにおける前記面取り部の外周径よりも大きく形成されていることを特徴とするディスクブレーキの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−127440(P2010−127440A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305425(P2008−305425)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】