説明

ディスクブレーキパッド用バックプレート、それを用いたディスクブレーキパッド及びこれらの製造方法

【課題】 強度・靭性・耐熱性等の特性を実用レベルに向上した樹脂を用いたディスクブレーキパッド用バックプレート、それを用いたディスクブレーキパッド、及びこれらの製造方法を提供する。
【解決手段】 織布あるいは不織布である無機繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたプリプレグを積層した無機繊維強化プラスチックで作製されるディスクブレーキパッド用バックプレートであって、無機繊維強化プラスチックの熱硬化性樹脂組成物含浸率が30〜70質量%であるディスクブレーキパッド用バックプレート、これを用いたディスクブレーキパッド。また、プリプレグ作成工程とプリプレグ積層工程を有し、プリプレグ作成工程で用いる熱硬化性樹脂組成物の粘度が、150℃で0.3〜5.0Pa・sであるディスクブレーキパッド用バックプレート及びディスクブレーキパッドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二輪車又は四輪自動車の制動に用いられるディスクブレーキパッド用バックプレート、それを用いたディスクブレーキパッド及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、二輪車又は四輪の自動車に取り付けられている制動用のディスクブレーキブレーキパッドは、バックプレートと摩擦材から構成されている。金属製のバックプレート面に、予めフェノール樹脂、有機・無機繊維、金属及びセラミックス成分等を配合して圧粉成形した摩擦材層を重ね合わせて熱圧焼結して一体に固着したのち表面加工を施すことにより製造されている。
【0003】
近年、自動車の環境対応化・低燃費化の進行に伴い、自動車の各部品の軽量化が検討・実施されている。通常、原材料の構成は金属材が半分以上を占めているが、車体の軽量化のため、その使用量は年々低下傾向にある。さらに軽量化するため、近年、増加傾向にある素材がアルミニウムと樹脂である。鋼板の比重は約7.8であり、これに比べてアルミニウムの比重は約2.7、樹脂の比重は約1であるため、50%以下への軽量化が見込める。
【0004】
上記樹脂を用いたバックプレートは、0.1〜10mm程度のガラス繊維を含有したフェノール樹脂をコンプレッション成形したものが報告されている(例えば、特許文献1、2参照)。しかし、鋼製バックプレートに比べ、強度・靭性・耐熱性といった多くの特性が下回っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−165210号公報
【特許文献2】特開2001−253998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたもので、強度・靭性・耐熱性といった多くの特性を実用レベルに向上した樹脂を用いたバックプレート、それを用いたディスクブレーキパッド、及びこれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、織布あるいは不織布である無機繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを積層した無機繊維強化プラスチックで作製されるバックプレートであって、前記無機繊維強化プラスチックの樹脂含浸率が30〜70質量%であるバックプレートに関する。
また本発明は、前記無機繊維がガラス繊維である上記記載のバックプレートに関する。
また本発明は、前記無機繊維強化プラスチックの積層面に対して垂直方向の曲げ強度が150〜500MPaである上記記載のバックプレートに関する。
また本発明は、上記記載のバックプレート及び摩擦材を含むディスクブレーキパッドに関する。
また本発明は、無機繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグを作成するプリプレグ作成工程、前記プリプレグを積層する積層工程、を含むバックプレートの製造方法であって、前記プリプレグ作成工程で用いる熱硬化性樹脂の粘度が150℃で0.3〜5.0Pa・sであるバックプレートの製造方法に関する。
また本発明は、さらに上記バックプレートに摩擦材を設ける工程を含む、上記記載のバックプレートの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明のバックプレートによれば、樹脂を用いたバックプレートの強度・靭性・耐熱性といった多くの特性を実用レベルに向上できる。また、無機繊維強化プリプレグは、比重が金属より圧倒的に小さいため、車体の軽量化をもたらすこともでき、低燃費化効果も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明における無機繊維強化プラスチックの、積層面に対して水平方向の曲げ強さの試験方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のバックプレートの一形態は、織布あるいは不織布である無機繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを積層してなるものである。また、本発明のディスクブレーキパッドの一形態は、少なくとも、摩擦材層、及び、無機繊維強化プリプレグを備えてなるものである。以下、それぞれの構成について順に説明する。また、図面を用いて本発明の一実施形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更することができる。
【0011】
本発明におけるバックプレートは無機繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを積層させた無機繊維強化プラスチックを有するものである。
【0012】
本発明におけるバックプレートの厚みは積層させるプリプレグの枚数により調整することが可能となる。この厚みは、ディスクブレーキの設計にもよるが、好ましくは5.0〜7.0mm、さらに好ましくは5.5〜6.5mmである。これよりも厚みが薄いとバックプレートとして強度が保てず、鳴きの発生も問題とされる。またこれよりも厚みが厚いと摩擦材を薄くせざるを得なくなり、耐久性に問題が生じる。
【0013】
本発明における無機繊維は、ガラス繊維や炭素繊維などの織布や不織布などが挙げられる。これにより、強度に優れた繊維強化プラスチックを与える。中でもガラス繊維織布は、カップリング剤による表面処理、樹脂の含浸性の観点から、好ましく、また、炭素繊維織布は、強度の観点から、好ましい。
【0014】
本発明における熱硬化性樹脂は特には制限されないが、強度の観点から、フェノール樹脂とその硬化剤又はエポキシ樹脂とその硬化剤であることが好ましい。制動時の発熱に対する耐熱性及び強度、靭性を付与するために、エポキシ樹脂及びその硬化剤、又はフェノール樹脂及びその硬化剤を主成分とすることが好ましい。
【0015】
本発明に使用されるエポキシ樹脂としては、強度及び耐熱性の観点から、芳香環を有するエポキシ樹脂であることが好ましい。具体的には、フェノールノボラック型エポキシ樹脂やクレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂などを好適に使用することができる。
【0016】
上記エポキシ樹脂は、入手容易な市販品の使用も可能であり、また、常法により合成することもでき、それらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明において使用可能なエポキシ樹脂は特に限定されるものではないが、例えば、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂をはじめとするフェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック樹脂をエポキシ化したもの、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールA/D等のジグリシジルエーテル、アルキル置換又は非置換のビフェノールのジグリシジルエーテルであるビフェニル型エポキシ樹脂、 フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルとから合成されるフェノール・アラルキル樹脂やナフトール・アラルキル樹脂、ビフェニル・アラルキル樹脂等のエポキシ化物、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、フタル酸、ダイマー酸等の多塩基酸とエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルエステル型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン、イソシアヌル酸等のポリアミンとエピクロルヒドリンとの反応により得られるグリシジルアミン型エポキシ樹脂、シクロペンタジエンとフェノール類との共縮合樹脂のエポキシ化物であるジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ナフタレン環を有するエポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂、テルペン変性エポキシ樹脂、硫黄原子を含むエポキシ樹脂、オレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、及びこれらのエポキシ樹脂をシリコーン、アクリロニトリル、ブタジエン、イソプレン系ゴム、ポリアミド系樹脂等により変性したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0017】
上記エポキシ樹脂に対する硬化剤としては特に限定されるものではないが、耐熱性・硬化後の強度の観点からフェノール系硬化剤が好ましく使用され、入手容易な市販品の使用も可能であり、また、常法により合成することもでき、それらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。特に限定されるものではないが、本発明において使用可能なフェノール系硬化剤として、例えば、フェノール、クレゾール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノール、アミノフェノール等のフェノール類及び/又はα−ナフトール、β−ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、サリチルアルデヒド等のアルデヒド基を有する化合物とを酸性触媒下で縮合又は共縮合させて得られるノボラック型フェノール樹脂、フェノール類及び/又はナフトール類とジメトキシパラキシレン又はビス(メトキシメチル)ビフェニルとから合成されるフェノール・アラルキル樹脂、ナフトール・アラルキル樹脂、ビフェニル・アラルキル樹脂等のアラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂が挙げられ、これら樹脂を単独で使用しても2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本発明に使用されるフェノール樹脂としては、固形ノボラック型フェノール樹脂、固形レゾール型フェノール樹脂などがあり、特に限定されない。
【0019】
上記フェノール樹脂は、ノボラック型又はレゾール型を、それらの1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明で使用するノボラック型フェノール樹脂については特に限定はないが、例えば、ランダムノボラック樹脂、ハイオルソノボラック樹脂が挙げられる。ノボラック型フェノール樹脂は、蓚酸などの酸触媒の存在下でフェノール類とホルムアルデヒドを第2族元素又は遷移元素と蟻酸、酢酸などの有機モノカルボン酸又はホウ酸、塩酸、硝酸などの無機酸との塩の存在下で反応させることによって合成できる。本発明で使用するレゾール型フェノール樹脂については特に限定されず、メチロール型、ジメチレンエーテル型が挙げられるが、これらの中でも硬化性と熱安定性のバランスが良好であるという理由でジメチレンエーテル型を用いるのが好ましい。ジメチレンエーテル型レゾール樹脂は、フェノールとホルムアルデヒドを周期律表第2族元素又は遷移元素と蟻酸、酢酸などの有機モノカルボン酸又はホウ酸、塩酸、硝酸などの無機酸との塩の存在下で反応させることによって合成できる。
【0020】
本発明における無機繊維強化プリプレグの樹脂含浸率は30〜70質量%である。これにより、プリプレグ積層成形の加工しやすさに優れる。さらに、曲げ強度の観点から、40〜65質量%であることが好ましく、50〜60質量%であることがより好ましい。
【0021】
本発明における含浸率は、下記の式(1)のように計算される。

樹脂組成物含浸率(質量%)=[樹脂組成物の質量/{(織布又は不織布、又はその両方の質量)+ 樹脂組成物の質量}]×100 (1)
【0022】
上記樹脂は常温において固形あるいは樹脂の粘度を低下させるため、溶媒、特に、有機溶媒を使用してもよい。溶剤を使用することにより、織布、不織布に対して含浸性を向上させることができる。もちろん、上記樹脂が常温で液状である場合も、粘度調整等の目的で溶媒を使用してもよい。
【0023】
かかる溶媒としては特に限定はないが、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン(CHN)等のケトン類、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、2−(2−メトキシエトキシ)エタノール、2−ブタノール等のアルコール類等が例示される。
【0024】
これら溶媒のなかでも、溶解性の観点から、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン(CHN)が好ましいものとして例示できるが、これらに限らず、上記樹脂を溶解又は分散できる溶媒であれば、広い範囲の有機溶媒が使用できる。
【0025】
さらに、本発明のバックプレートには、充填剤として通常の無機充填剤、有機充填剤を配合することができる。これらは単独であるいは2種以上混合して用いられる。
【0026】
無機充填剤としては、固体粒子状の無機化合物であれば特に限定されない。無機充填剤の材質の具体例としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、窒化アルミニウム、ほう酸アルミウイスカ、窒化ホウ素、結晶性シリカ、非晶性シリカ、アンチモン酸化物などが挙げられる。無機充填剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いられる。
【0027】
熱伝導性向上のためには、無機充填剤の材質が、金属粉や金属繊維、又はアルミナ、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、結晶性シリカ又は非晶性シリカなどのセラミックであると好ましい。溶融粘度の調整やチクソトロピック性の付与の目的には、無機充填剤が、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、アルミナ、結晶性シリカ又は非晶性シリカであると好ましい。
【0028】
充填剤の含有割合は、熱硬化性樹脂成分100質量部に対して、成形・硬化後の耐熱性の観点から3〜30質量部であると好ましく、150℃における熱硬化性樹脂の粘度の観点から5〜15質量部であるとより好ましい。この含有割合が3質量部を下回る場合、繊維強化プリプレグを熱圧積層する際に、硬化前の樹脂が流れ出して積層板中の樹脂含有量が低下し、強度が低下する傾向がある。一方、この含有割合が30質量部を上回る場合、織布・不織布への含浸性が低下し、積層時に界面の密着性が低下する。この含有割合が上記数値範囲内にあることで、熱圧積層時に樹脂の流動性が制御され、積層板内に樹脂が保持され、界面の密着性が向上する効果が得られる傾向がある。
【0029】
熱硬化性樹脂の硬化前(すなわち、有機繊維に熱硬化性樹脂を含浸させてプリプレグを作成するプリプレグ作成工程)の粘度は0.3〜5.0Pa・sであることが好ましく、0.5〜2.5Pa・sであることがさらに好ましい。熱硬化性樹脂の硬化前の粘度が0.3Pa・sを下回る場合、繊維強化プリプレグを熱圧積層する際に、硬化前の樹脂が流れ出して積層板中の樹脂含有量が低下し、強度が低下する傾向がある。一方、熱硬化性樹脂の硬化前の粘度が5.0Pa・sを上回る場合、織布・不織布への含浸性が低下し、積層時に界面の密着性が低下する傾向がある。この熱硬化性樹脂の硬化前の粘度が上記数値範囲内にあることで、熱圧積層時に樹脂の流動性が制御され、積層板内に樹脂が保持され、界面の密着性が向上する効果が得られる。
【0030】
本発明における粘度とは、厚さhの液体を間に挟んだ面積Aの2枚の平板が、相対速度Uで運動する時、液体と板の間に発生する力Fは、F=μAU/hと定義され、この比例定数μのことである。粘度を測定する方法としては、例えば、以下の方法が挙げられる。非常に鈍角な円すい面と平板を備える回転粘度計(Research Equipment (London)社製、商品名:I.C.I. CONE & PLATE VISCOMETER)の上部円すい面と下部平板の間に硬化前の熱硬化性樹脂を挟み、下部平板を150℃に加熱し、上部円すい面を回転させ、10秒後の粘度を測定する。
【0031】
本発明における無機繊維強化プラスチックの製造方法は特に制限されないが、無機繊維に熱硬化性樹脂を含浸させ、加熱、成形することにより得ることができる。無機繊維に熱硬化性樹脂を含浸させる方法は特には制限されないが、例えば、上記溶剤に熱硬化性樹脂を溶解させ、その溶液中に無機繊維織布あるいは不織布を浸す。これを80℃で30分乾燥させることによってプリプレグを作成することができる。
【0032】
ガラス繊維を用いた無機繊維強化プリプレグの製造方法の一例を以下に示す。ガラス繊維の1方向プリプレグ、又は、熱伝導率、強度等の向上のために必要に応じて製作した編み物(編み方は限定しない)あるいはガラス不織布に、マトリクス樹脂を適量塗布し、所望の配向、厚さに積層し、加熱、成形することにより得ることが好ましい。また、厚み、ガラス繊維含有率等に応じて、オートクレープ、加圧成形機等で、10MPa以下の圧力で(加圧)成形することも好ましい。
【0033】
無機繊維強化プリプレグに含有される無機繊維は、無機繊維強化プラスチックにおいて、積層面に対して実質的に水平方向に配向させることが好ましく、一部垂直方向へ配向させることがさらに好ましい。すなわち、無機繊維強化プリプレグの内部において、無機繊維は、無機繊維強化プリプレグの平面方向、すなわち、バックプレート又は摩擦材層との積層面に対して水平方向に配向されていることにより、無機繊維強化プリプレグに伝わった熱が、積層面に対して水平方向に伝わって外部に放熱され易くなるために好ましい。また、一部垂直方向配向の無機繊維を含むことで無機繊維プリプレグ間の界面の弱体性を補強することができるためさらに好ましい。
【0034】
また、無機繊維強化プラスチックの、積層面に対して水平方向の曲げ強さは特に限定はないが、150〜500MPaが好ましく、200〜500MPaがより好ましい。曲げ強さを上記範囲にするためには、例えば、無機繊維強化プラスチック内の樹脂の含有量を上記範囲にすること、あるいは熱硬化性樹脂に充填剤を含有させることなどが挙げられる。積層面に対して水平方向の曲げ強さを上記範囲にすることによって、制動時にブレーキパッドが撓むことなく、ブレーキローターと均一に摩擦係合することができる。
【0035】
本発明における「積層面に対して水平方向の曲げ強さ」は、図1に示すように、無機繊維強化プラスチック1の両端を支点2で支え、無機繊維強化プラスチックの中心部分に加圧くさび3で積層面に対して垂直方向に力を加えて測定した曲げ強さ、すなわち3点曲げ試験で測定した曲げ強さである(JIS K 6911に準ずる)。具体的には実施例に記載の方法で測定する。
【0036】
無機繊維強化プリプレグの厚さは特に限定はないが、垂直・水平方向の放熱効果、ブレーキキャリパーのサイズ、質量等を勘案して、0.2〜7mmが好ましく、0.5〜5mmが特に好ましい。
【0037】
上記無機繊維強化プリプレグには、必要に応じて、炭素繊維、ケブラー繊維、天然繊維等の「ガラス繊維以外の繊維」を含有させてもよい。これらの「ガラス繊維以外の繊維」は、補強材としての効果等を有する。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して具体的に説明する。しかし、本発明は構成要
件を満たす限り、これら実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1〜6及び比較例1〜4)
表1、表2に商品名及び配合比(質量比)を示すエポキシ樹脂、フェノール樹脂、触媒(硬化剤)をそれぞれ、メチルエチルケトンに溶解、分散させた。これらに、表1、表2に示す配合比で充填剤も加えて各成分が均一になるまで攪拌してワニスを得た。
【0040】
次に、そのワニスを表1、表2に従って各織布あるいは不織布に含浸した。このワニス含有繊維布を25℃で1時間、80℃で1時間加熱乾燥した。こうして繊維強化プリプレグを得た。但し、実施例5に関しては、さらに80℃で1時間乾燥した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
以下に、各成分の詳細を示す。
1032H60(商品名):三菱化学株式会社製、トリフェニルグリシジルメタン型エポキシ樹脂、エポキシ当量:170g/eq
EXA4710(商品名):DIC株式会社製、ナフタレン型4官能エポキシ樹脂、エポキシ当量:167g/eq
HE910−10(商品名):エア・ウォーター株式会社製、フェノール樹脂、水酸基当量:103g/eq
R972:アエロジルR972(商品名)、日本アエロジル株式会社製、シリカフィラー、平均粒径:0.016μm
2PZ−CN:キュアゾール2PZ−CN(商品名)、四国化成工業株式会社製、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾール
【0044】
上記繊維強化プリプレグを90mm×90mmに切り取り、7枚積層後、真空下にて2MPaの圧力で、150℃で2分間加熱加圧した後、180℃で10分間加熱加圧し、得られた積層成形体を加熱炉にて240℃で1時間加熱硬化させて、無機繊維強化プラスチック積層板を得た。
【0045】
樹脂組成物含浸率は、上記の式(1)で算出した。
例えば、実施例1を計算すると、
樹脂組成物含浸率(質量%)=(100+165+3+13.3)/(100+165+3+13.3+546.1)×100=34.0(質量%)となる。
【0046】
(評価)
実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた積層板を用いて、以下に示す項目について評価を行った。
【0047】
[曲げ強さ]
実施例1〜6及び比較例1〜4の積層板を、INSTRON社製の材料試験装置、商品名:5548Micro Testerを用いて、JIS K 6911に記載の方法に準じた方法(サンプルサイズ:幅5mm×厚さ1mm、支点間距離:20mm、クロスヘッド速度:2mm/min)により、25℃下での積層面に対して水平方向の曲げ強さを測定した。結果を表1、表2にまとめて記載する。
【0048】
以上に説明したように本発明は、ディスクブレーキバックプレートに、ガラス繊維強化プリプレグ積層板を用いたことで、ブレーキを軽量にすることができ、自動車の燃費の向上に寄与できる。
【0049】
また、バックプレートが軽量になることで、振動の減衰率が大きくなり、ブレーキの鳴きを防止することができる。さらに、バックプレートが錆びることがなくなるため、塗装の必要も無くなる。混入する繊維が短繊維なので、バックプレート内に均等に分布させることができ、バックプレートの均質性を確保できる。
【符号の説明】
【0050】
1 繊維強化プラスチック
2 支点
3 加圧くさび
L 支点間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布あるいは不織布である無機繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させたプリプレグを積層した無機繊維強化プラスチックで作製されるディスクブレーキパッド用バックプレートであって、前記無機繊維強化プラスチックの熱硬化性樹脂組成物含浸率が30〜70質量%であるディスクブレーキパッド用バックプレート。
【請求項2】
無機繊維がガラス繊維である請求項1記載のディスクブレーキパッド用バックプレート。
【請求項3】
無機繊維強化プラスチックの積層面に対して垂直方向の曲げ強度が150〜500MPaである請求項1又は2記載のディスクブレーキパッド用バックプレート。
【請求項4】
請求項1〜3記載のディスクブレーキパッド用バックプレート及び摩擦材を含むディスクブレーキパッド。
【請求項5】
無機繊維に熱硬化性樹脂組成物を含浸させてプリプレグを作成するプリプレグ作成工程、前記プリプレグを積層する積層工程、を含むディスクブレーキパッド用バックプレートの製造方法であって、前記プリプレグ作成工程で用いる熱硬化性樹脂組成物の粘度が150℃で0.3〜5.0Pa・sであるディスクブレーキパッド用バックプレートの製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の製造方法にて製造されたディスクブレーキパッド用バックプレートに、さらに摩擦材を設ける工程を含む、ディスクブレーキパッドの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−24404(P2013−24404A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−163093(P2011−163093)
【出願日】平成23年7月26日(2011.7.26)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】