説明

ディスクブレーキ用ロータの製造方法

【課題】 軽量化を図ると共に、安定した制動力を長期間に亙り確保し、更に、製品の歩留りの向上を図る。
【解決手段】 下型26に、セラミックス多孔質体の原料40を投入する。押型41でこの原料40を加圧して摺動用ディスク部6の多孔質プレフォーム42を成形した後、この下型26を、上型27、型枠28と組み合わせ、内側にこの多孔質プレフォーム42を入れたままの状態で浸透炉18に入れる。溶融したアルミニウム合金の溶湯21を上記下型26に注湯しこの多孔質プレフォーム42に浸透させる事により、アルミニウム合金基複合材料製の摺動用ディスク部6を得る。この摺動用ディスク部6は、下型26、上型27、型枠28と共に浸透炉18内から取り出した後、内径側にアルミニウム合金製の取付部を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係るディスクブレーキ用ロータの製造方法は、自動車の制動に使用するディスクブレーキに組み込んだ状態で使用するロータのうち、軽量化を目的として使用される、少なくとも一部を軽合金基複合材料{MMC(metal matrix composite)}製とするロータの製造方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の制動を行なう為の制動装置としてディスクブレーキが、従来から広く使用されている。図3は、一般的なディスクブレーキを示している。車輪と共に回転するロータ1を挟む様にして懸架装置に支持するシリンダボデー2に設けたシリンダ3にはピストン4を、油密に嵌装している。制動時にはこのシリンダ3内に圧油を送り込み、上記ロータ1の両側に設けた1対のパッド5、5を、このロータ1の両側面に押し付ける。
【0003】
この様なディスクブレーキを構成するロータ1として従来から、図4に示す様な構造が使用されている。このロータ1は、外径側に設けられた円輪状の摺動用ディスク部6と、この摺動用ディスク部6の片面の内周縁部にこの摺動用ディスク部6と同心に結合した取付部7とを備える。この取付部7は、断面L字形で全体を円環状に形成している。又、この取付部7の円周方向等間隔4個所位置に、通孔8、8を形成している。ロータ1を、車輪を懸架装置に回転自在に支持する為の図示しないハブユニットに取り付ける場合には、このハブユニットのフランジに固定したスタッドの先端部で、上記ロータ1の通孔8、8に挿通し、車輪を構成するホイールの通孔に挿通させた部分にナットを結合する事により、上記フランジに上記ロータ1を結合固定する。自動車の走行時には、このロータ1が車輪と共に回転する。
【0004】
上述の様なロータ1は従来は一般的に、鋳鉄製としていた。鋳鉄製のロータ1は、十分な制動力及び耐久性を得られる反面、重量が嵩む。一方、このロータ1は、懸架装置を構成するばねよりも車輪側に設けられる、所謂ばね下荷重になる為、少しの重量増大も、乗り心地や走行安定性を中心とする走行性能に悪影響を及ぼす。この為従来から、ロータ1をアルミニウム合金等の軽合金製とする事が考えられている。但し、一般的な軽合金は、鋳鉄に比べて軟らかく、又、溶融温度も低い為、そのままでは制動力及び耐久性確保の面から、実用的なロータ1を得る事はできない。
【0005】
これに対して従来から、アルミニウム合金等の軽合金を金属基とした軽合金基複合材料{MMC(metal matrix composite)}により、ロータ1を造る事が考えられている。例えば、特許文献1に記載された技術は、図5(a)に示す様に、TiO2 粒子、セラミックス短繊維及び(又は)ウィスカ、SiC粒子を含む硬質材料と、焼結助剤とを、水等の分散媒体に混合したスラリー10を、底部に濾過部12及び脱水吸引口13が設けられた容器11内に入れ、脱水吸引口13から分散媒体を吸引して、図5(b)に示す様な脱水体14を形成する。次いでこの脱水体14を加熱して乾燥・焼結し、多孔質プレフォーム25が形成される。そして、この多孔質プレフォーム25を、図5(c)に示す様に、金型15の下型16の凹部にセットし、アルミニウム等の溶湯21(後述する図1、2参照)を注入用ピストン17により加圧注入して上記多孔質プレフォーム25に含浸させ、この溶湯21を凝固させる事により、ロータ素材を得る。尚、このロータ素材は、金型15から取り出した後、余分なアルミニウム合金部分を除去する為の旋削加工、孔あけの為の切削加工等の機械加工を施して、前述の図4に示した様なロータ1とする。
【0006】
又、特許文献2には、上述の方法とは別の方法により、アルミニウム合金を金属基とした軽合金基複合材料により、ロータ1を造る事が提案されている。上記特許文献2に記載された技術は、図6に示す様に、か焼アルミナ粉末と粉砕アルミナ粉末とを所定配分比で混合した混合粉末の原料9にバインダを混入したものを、金型22の下型23に投入し、次いで、これを加熱した後、上型24を下降させこの原料9を加圧する事により、図7に示す様な形状を有する、セラミックス多孔質体である、多孔質プレフォーム25を得る。次いで、この多孔質プレフォーム25を離型し、図8に示す様に別の金型19の凹部20に入れ、この別の金型19と共に、浸透炉に入れる。そして、この凹部20内にアルミニウム合金の溶湯21を注湯して上記多孔質プレフォーム25に浸透させ、この溶湯21を凝固させる事により、ロータ素材を得る。何れにしても、上述した各方法により造られたロータ1は軽合金基複合材料製となる為、軽量化を図れると共に、安定した制動力を長期間に亙り得られる可能性がある。
【0007】
但し、この様な各方法によりロータ1を造る場合、次の様な問題がある。
(1) 多孔質プレフォーム25を得た後、容器11又は金型22から取り出し、別の金型15、19に搬送するまでの間に、この多孔質プレフォーム25の形状が崩れる可能性がある。この様な形状の崩れは、製品の歩留りが悪化する原因となる。特に、ロータ1を構成する摺動用ディスク部6に於いて、外周縁部等、一部が欠落する等により、形状の崩れが生じ易くなる。
【0008】
(2) 軽合金基複合材料製の部材は切削性が低下する為、ロータ1全体を軽合金基複合材料製とする場合には、摺動用ディスク部6の旋削加工等の他に、取付部7に機械加工を施す作業が面倒になり、この機械加工に長時間を要する。即ち、この取付部7のうち、ハブユニットのフランジ面に突き当てる取付面は、旋削加工等の機械加工により、回転中心に対し直角な平坦面とする必要がある。又、上記取付部7の円周方向複数個所には、上記フランジ面に結合する為のスタッド挿通用の通孔8、8を切削加工により形成する必要がある。従って、上記ロータ1の加工コストが嵩む可能性がある。例えば、上記取付部7中のセラミックスの含有率に比例して、この取付部7の側面に機械加工を施す時間が長くなる。
【0009】
【特許文献1】特開2000−104147号公報
【特許文献2】特開平9−279270号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明のディスクブレーキ用ロータの製造方法は、軽量化を図れる、少なくとも一部を軽合金基複合材料製とした構造で、上述の様な問題を解消すべく発明したものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のディスクブレーキ用ロータの製造方法は何れも、摺動用ディスク部と、この摺動用ディスク部の内径側に設けられた取付部とを備えたディスクブレーキ用ロータを製造する方法に関する。
【0012】
特に、請求項1に記載したディスクブレーキ用ロータの製造方法に於いては、一方の型内に原料を投入し、他方の型でこの原料を加圧して上記摺動用ディスク部のプレフォームを成形した後、この一方の型を、内側にこのプレフォームを入れたままの状態で、溶融した軽合金をこの一方の型内に注湯しこのプレフォームに浸透させる工程を有する。
【0013】
又、請求項3に記載したディスクブレーキ用ロータの製造方法に於いては、下型の上記摺動用ディスク部を成形すべき部分にセラミックス多孔質体の原料を投入し、第一の押型でこの原料を加圧してこの摺動用ディスク部の多孔質プレフォームである外側プレフォームを成形した後、上記下型に上型を嵌合させた状態で、上記取付部を成形すべき部分にセラミックス多孔質体の原料を投入し、第二の押型でこの原料を加圧して、上記外側プレフォームの内径側に上記取付部の多孔質プレフォームである内側プレフォームを一体成形し、上記下型と上型とを、内側にこれら外側、内側両プレフォームを入れたままの状態で、浸透炉に入れ、溶融した軽合金をこれら下型及び上型の内側に注湯しこれら外側、内側両プレフォームに浸透させる工程を有する。
【0014】
又、請求項4に記載したディスクブレーキ用ロータの製造方法に於いては、下型の上記取付部を成形すべき部分にセラミックス多孔質体の原料を投入し、第一の押型でこの原料を加圧してこの取付部の多孔質プレフォームである内側プレフォームを成形した後、上記下型に上型を嵌合させた状態で、上記摺動用ディスク部を成形すべき部分にセラミックス多孔質体の原料を投入し、第二の押型でこの原料を加圧して、上記内側プレフォームの外径側に上記摺動用ディスク部の多孔質プレフォームである外側プレフォームを一体成形し、上記下型と上型とを、内側にこれら内側、外側両プレフォームを入れたままの状態で、浸透炉に入れ、溶融した軽合金をこれら下型及び上型の内側に注湯しこれら内側、外側両プレフォームに浸透させる工程を有する。
【発明の効果】
【0015】
上述の様に構成する本発明のディスクブレーキ用ロータの製造方法によれば、少なくとも摺動用ディスク部が、軽合金を金属基とする軽合金基複合材料製となる為、ロータを鋳鉄製とする場合よりも軽量にでき、しかもこのロータを組み込んだディスクブレーキの安定した制動力を長期間に亙り得られる。しかも、多孔質プレフォームに溶融した軽合金を浸透させる場合に、この多孔質プレフォームを容器又は金型から取り出した(離型等した)後、別の金型に搬送する必要がなくなる。この為、この多孔質プレフォーム、特に摺動用ディスク部等に形状の崩れが生じる事を防止でき、製品の歩留りの向上を図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
上述の請求項1に記載した構成を実施する場合に好ましくは、請求項2に記載した様に、摺動用ディスク部の内径側に、軽合金製の取付部を一体成形する。
この好ましい構成によれば、ロータを組み込んだディスクブレーキの制動力及び耐久性を確保しつつ、ロータ全体でのセラミックスの使用量を抑える事ができ、製造コストの低減を図れる。又、機械加工を施すべき取付部は、軽合金基複合材料ではない軽合金により構成しているので、この取付部に対する機械加工を容易に行なえて、製造コストをより低減できる。又、多孔質プレフォームを得る為の加圧作業は、1回のみと少なくできる。
【0017】
又、上述の請求項3又は請求項4に記載した構成を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、取付部のセラミックスの含有率が摺動用ディスク部のセラミックスの含有率よりも低くなる様に、これら取付部と摺動用ディスク部とを一体成形する。
この好ましい構成によれば、ロータを組み込んだディスクブレーキの制動力及び耐久性を確保しつつ、ロータ全体でのセラミックスの使用量を抑える事ができ、製造コストの低減を図れる。又、機械加工を施すべき取付部は、セラミックスの含有率が低くなるので、この取付部に対する機械加工を容易に行なえて、製造コストをより低減できる。尚、この様な好ましい構成の場合には、多孔質プレフォームを得る為の加圧作業は、摺動用ディスク部と取付部との多孔質プレフォームを得る為の2回となる。
【実施例1】
【0018】
図1は、請求項1、2に対応する、本発明の実施例1を示している。本実施例の場合には、前述の図4に示したものと同様の形状を有するロータ1を製造する。この為に、本実施例の場合には、下型26と、上型27と、型枠28とから成る、金型29を使用する。このうちの下型26は、円形の凹部30の中央部にこの凹部30と同心の円形の凸部31を設ける事により、内側に環状凹溝32を形成している。又、上記上型27は、互いに同心の外側円筒部33と内側円筒部34とを円輪部35により連結して成る、段付の有底円筒状で、この外側円筒部33を上記下型26を構成する筒部36に外嵌自在としている。又、上記内側円筒部34の内径を、この下型26の凸部31の外径よりも大きくしている。従って、上記下型26に上型27を、上記外側円筒部33が上記筒部36に外嵌される様に組み合わせた状態で、上記内側円筒部34の内周面と凸部31の外周面との間に環状空間が形成される。又、上記上型25の深さ寸法L1 {図1(d)}を、上記凸部31の軸方向寸法L2 {図1(d)}よりも大きくしている。更に、上記円輪部35の円周方向複数個所に第一の湯口37、37を、上記内側円筒部34の一端を塞ぐ上板部38の中心部に第二の湯口39を、それぞれ形成している。又、上記型枠28は、円筒状で、上記上型27の円輪部35の上面の外周縁部に載置自在としている。
【0019】
上記ロータ1を製造する場合には、先ず、図1(a)に示す様に、上記金型29を構成する下型26を設置し、この下型26の環状凹溝32内に、セラミックス多孔質体の原料40を投入する。本実施例の場合、この原料40として、アルミナ(Al23 )粉末にバインダを混入したものを使用する。このバインダは、後述する多孔質プレフォーム42の強度向上を図る為のもので、ポリマーバインダの如き有機バインダ等である。尚、本実施例の場合と異なり、上記原料40は、アルミナの1種の粉末以外に、アルミナ、炭化珪素(SiC)等から選択される1種のセラミックス粉末又は2種以上のセラミックス粉末の混合でも良い。又、原料40を下型26に投入後、同図(b)に示す様に、押型41を上記下型26に向け下降させる事により、上記原料を600kPaの成形面圧で加圧して、上記ロータ1を構成する摺動用ディスク部6の多孔質プレフォーム(予備成形体)42を成形する。
【0020】
この様にして摺動用ディスク部6の多孔質プレフォーム42を成形したならば、上記押型41を上昇させ、同図(c)に示す様に、上記下型26に上記上型27を、この下型26の筒部36にこの上型27の外側円筒部33が嵌合する様に組み合わせる。次いで、この上型27の円輪部35の上面の外周縁部に、上記型枠28{図1(d)}を、上記上型27及び下型26と同心になる様に載置する。そしてこの状態で、同図(d)に示す様に、これら型枠28と上型27と下型26とを、内側に上記多孔質プレフォーム42を入れたままの状態で浸透炉18に入れる。そして、この浸透炉18内で、約800℃の温度の下、窒素ガス雰囲気中で、上記型枠28の内周面と上記上型27の内側円筒部34の外周面との間の環状空間に、溶融したアルミニウム合金の溶湯21を注湯する。この溶湯21は、上記上型27の円輪部35に形成した各第一の湯口37、37を通じて、上記多孔質プレフォーム42を設置した空間部分に入り込む。そして、この状態で4時間放置する。これにより、上記溶湯21が上記多孔質プレフォーム42に浸透され、この多孔質プレフォーム42の孔部内に含浸された状態となっている。この結果、アルミニウム合金基複合材料製の摺動用ディスク部6{図1(e)}が仮成形される。
【0021】
上記浸透が完了したならば、上記上型27と下型26と型枠28とを、内側に上記摺動用ディスク部6を入れたままの状態で上記浸透炉18から取り出す。そして、同図(e)に示す様に、上記上型27の上板部38に形成した第二の湯口39を通じて、この上型27の内側でロータ1の取付部7(図4参照)を成形すべき部分に、溶融したアルミニウム合金の溶湯21を注湯し、この上型27の内側に充填し固化させる。これにより、上記摺動用ディスク部6の片面の内径寄り部分に、アルミニウム合金製の取付部7が一体成形され、ロータ素材となる。このロータ素材は、上記下型26及び上型27を切削加工して除去した後、上記取付部7に、余分なアルミニウム合金を除去する為の旋削加工、中心孔43、及び、スタッド挿通用の通孔8(図4参照)を形成する為の孔あけ等の機械加工を施して、ロータ1の完成品とする。尚、下型26及び上型27は、板厚2.6mm程度の鋼板をプレス成形したものである。
【0022】
上述の様に構成する本実施例のディスクブレーキ用ロータの製造方法によれば、ロータ1を軽量にでき、しかもこのロータ1を組み込んだディスクブレーキの安定した制動力を長期間に亙り得られる。
即ち、全体を、何れも鋳鉄に比べて遥かに軽量な材料である、軽合金基複合材料に相当するアルミニウム合金基複合材料と、軽合金に相当するアルミニウム合金とにより造っている。この為、全体としても、ロータ1を鋳鉄製とする場合よりも軽量なロータ1を得られる。従って、重量の低減、特にばね下荷重の低減による、自動車の走行性能並びに燃費性能の向上を図れる。
【0023】
又、制動時にパッド5(図3参照)のライニングにより、強く押される摺動用ディスク部6は、アルミナのセラミックス多孔質体中に溶融したアルミニウム合金を浸透し固化させた、軽合金基複合材料製としている。この軽合金基複合材料は、耐圧縮性を有する硬い材料である為、制動時にも上記摺動用ディスク部6の側面が凹みにくくなる。従って、制動の繰り返しによってこの摺動用ディスク部6が塑性変形する事を防止して、安定した制動力を長期間に亙って得られる。
【0024】
しかも、本実施例の場合には、前述した従来のロータ1の製造方法の場合と異なり、多孔質プレフォーム42に溶融したアルミニウム合金を浸透させる場合に、この多孔質プレフォーム42を金型29から取り出した(離型した)後、別の金型に搬送する必要がなくなる。この為、多孔質プレフォーム42を離型した後、別の金型に搬送するまでの間に、この多孔質プレフォーム42、特に摺動用ディスク部6等に、形状の崩れが生じる事を防止できる。即ち、本実施例の場合には、多孔質プレフォーム42を成形した後、下型26から離型する事なく、この下型26に上型27及び型枠28を組み合わせたままの状態で、浸透炉18に搬送し、上記多孔質プレフォーム42中に溶融したアルミニウム合金を浸透させる。この為、この多孔質プレフォーム42を成形後、この多孔質プレフォーム42を離型し、上記下型26とは別の金型に搬送する事がなく、この搬送の際に上記多孔質プレフォーム42の形状に崩れが生じる事を防止できる。この結果、本実施例の場合には、製品の歩留りの向上を図れる。
【0025】
更に、本実施例の場合には、上記摺動用ディスク部6の内径側に、アルミニウム合金基複合材料ではない、単なるアルミニウム合金製の取付部7を一体成形している。この為、ロータ1を組み込んだディスクブレーキの制動力及び耐久性を確保しつつ、ロータ1全体でのセラミックス(アルミナ)の使用量を抑える事ができ、製造コストの低減を図れる。しかも、上記取付部7に施す、表面切削、孔あけ等の機械加工を容易に行なえて、製造コストが嵩む事を防止できる。即ち、この取付部7の片側面(図4の奥側面)は、ハブユニットの取付フランジに精度良く結合固定する為に、他側面(図4の表側面)は車輪のホイールをがたつきなく取り付ける為に、何れも旋削加工等により、回転中心に対し直交する平坦面に仕上げる必要がある。又、上記取付部7には、中心部に中心孔43を、円周方向複数個所にスタッド挿通用の通孔8、8を、それぞれ打ち抜き、ボール盤を使用した切削加工等の機械加工により形成する必要がある。本実施例の場合、この様な旋削加工等の機械加工を施すべき取付部7は、単なるアルミニウム合金製である為、これら各加工を容易に行なえる。この為、ロータ1の製造コストを、より低減できる。又、多孔質プレフォーム42を得る為の加圧作業を、1回のみと少なくできる。
【実施例2】
【0026】
次に、図2は、請求項3、5に対応する、本発明の実施例2を示している。本実施例の場合には、2回の加圧作業により、セラミックス多孔質体である外側プレフォーム44の内径側に、やはりセラミックス多孔質体である内側プレフォーム45を一体成形した後、浸透炉18内で、上記両プレフォーム44、45に、溶融したアルミニウム合金を浸透させる。又、本実施例の場合には、金型29として、型枠28(図1参照)を使用しない。その代わりに、この金型29を構成する上型27aとして、上板部38(図1参照)がない筒状のものを使用する。又、この上型27aを構成する円輪部35には、第一の湯口37(図1参照)を形成していない。
【0027】
この様な金型29を使用してロータ1(図4)を製造する本実施例の場合には、先ず、図2(a)に示す様に、金型29を構成する下型26の環状凹部32内に、上述の実施例1の場合と同様の、セラミックス多孔質体の原料40を投入する。次いで、同図(b)に示す様に、第一の押型41により、この原料40を、成形面圧600kPaで加圧して、摺動用ディスク部6の多孔質プレフォームである、外側プレフォーム44を成形する。この際、上記原料40の粒径を規制する等により、この外側プレフォーム44の空隙率を約70%とする。次いで、同図(c)(d)に示す様に、上記下型26に上型27aを嵌合させた状態で、この上型27aの内側に上方から、上記セラミックス多孔質体の原料40を再投入する。この際、この原料40の最上端が、下型26の凸部31の上面と上記上型27aの内側円筒部34の上端開口との間の中間位置に位置する様にする。そして、同図(e)に示す様に、第二の押型46により、この原料40を、成形面圧400kPaで加圧して、取付部7(図4)の多孔質プレフォームである、内側プレフォーム45を、上記外側プレフォーム44の内径側に一体成形する。この際、この内側プレフォーム45の原料40の粒径を規制する等により、この内側プレフォーム45の空隙率を約85%と、上記外側プレフォーム44の空隙率(約70%)よりも大きくする。
【0028】
次いで、上記第二の押型46を上昇させた後、同図(f)に示す様に、上記上型27a及び下型26を、内側に上記内側、外側両プレフォーム45、44を入れたままの状態で、浸透炉18に搬送し、この浸透炉18内で、約800℃の温度の下、窒素ガス雰囲気中で、上記上型27aの内側円筒部34の内側に、上方から溶融したアルミニウム合金の溶湯21を注湯する。そして、この状態で5時間放置して、上記各プレフォーム45、44にこの溶融したアルミニウム合金を浸透させて、ロータ素材を得る。この結果、外側プレフォーム44よりも空隙率が大きい内側プレフォーム45には、この外側プレフォーム44よりも多くのアルミニウム合金が含浸される。そして、この内側プレフォーム45により構成される取付部7に、セラミックス(アルミナ)が約15%の含有率で含有され、上記外側プレフォーム44により構成される摺動用ディスク部6に、セラミックス(アルミナ)が約30%の含有率で含有される。この為、上記取付部7のセラミックスの含有率は、上記摺動用ディスク部6のセラミックスの含有率よりも低くなる。この様にして各プレフォーム45、44へのアルミニウム合金の浸透が完了したならば、上記ロータ素材を上記上型27a及び下型26ごと浸透炉18内から取り出す。このロータ素材は、上記下型26及び上型27を切削加工して除去した後、取付部7に、余分なアルミニウム合金を除去する為の旋削加工、中心孔43(図4)、及び、スタッド挿通用の通孔8(図4)を形成する為の孔あけ等の機械加工を施して、ロータ1の完成品とする。尚、下型26及び上型27aは、実施例1の場合と同様に、板厚2.6mm程度の鋼板をプレス成形している。
【0029】
上述の様に構成される本実施例の場合も、前述の実施例1の場合と同様に、ロータ1を軽量にでき、しかもこのロータ1を組み込んだディスクブレーキの安定した制動力を長期間に亙り得られる。しかも、外側、内側両プレフォーム44、45に溶融したアルミニウム合金を浸透させる為に、これら両プレフォーム44、45を金型29から取り出した(離型した)後、別の金型に搬送する必要がなくなる。この為、製品の歩留りの向上を図れる。
【0030】
更に、本実施例の場合には、取付部7のセラミックス(アルミナ)の含有率が、摺動用ディスク部6のセラミックス(アルミナ)の含有率よりも低くなる。この為、ロータ1を組み込んだディスクブレーキの制動力及び耐久性を確保しつつ、ロータ1全体でのセラミックスの使用量を抑える事ができ、製造コストの低減を図れる。又、機械加工を施すべき取付部7は、セラミックスの含有率が低くなるので、この取付部7に対する機械加工を容易に行なえて、製造コストをより低減できる。
その他の構成及び作用に就いては、前述の実施例1の場合と同様である為、同等部分には同一符号を付して重複する説明は省略する。
【実施例3】
【0031】
尚、図示は省略するが、請求項4に対応する構成(実施例3)として、上述の図2に示した実施例2で、外側プレフォームと内側プレフォームとの成形する順番を逆にする事もできる。即ち、この場合には、先ず、金型を構成する下型の一部で取付部7(図4)を成形すべき部分に、アルミナ粉末等のセラミックス多孔質体の原料を投入し、第一の押型でこの原料を加圧してこの取付部7の多孔質プレフォームである内側プレフォームを成形する。次いで、上記下型に上型を嵌合させた状態で、摺動用ディスク部6(図4)を成形すべき部分に、アルミナ粉末等のセラミックス多孔質体の原料を投入し、第二の押型でこの原料を加圧して、上記内側プレフォームの外径側に上記摺動用ディスク部6の多孔質プレフォームである外側プレフォームを一体成形する。そして、上記下型と上型とを、内側にこれら内側、外側両プレフォームを入れたままの状態で、浸透炉に入れ、溶融したアルミニウム合金等の軽合金をこれら下型及び上型の内側に注湯しこれら内側、外側両プレフォームに浸透させる。この様な構成の場合も、上述の実施例2の場合と同様に、内側、外側両プレフォームに溶融した軽合金を浸透させる為に、これら両プレフォームを金型から取り出した(離型した)後、別の金型に搬送する必要がなくなる。そして、これにより、製品の歩留りの向上を図れる。
尚、従来の多孔質プレフォーム25の製造方法では、前述の離型時のプレフォーム25の強度を確保する為、通常、摺動用ディスクブレーキ部6の片面に2、3mm程度の余肉を付けていた。但し、上述した本発明の実施例1〜3では、下型26及び上型27、27aから多孔質プレフォームを離型する事はないので、特に摺動用ディスクブレーキ部6等に、形状の崩れが生じる事を防止できる。この為、上記摺動用ディスク部6の片面での余肉を1mm程度と少なくできる。従って、軽合金基複合材料製のロータ素材の切削加工代を減らす事もできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の実施例1のロータの製造方法を、工程順に示す断面図。
【図2】同実施例2のロータの製造方法を、工程順に示す断面図。
【図3】ディスクブレーキの部分断面図。
【図4】ロータの1例の斜視図。
【図5】ロータを製造する為の従来方法の第1例を、工程順に示す断面図。
【図6】同第2例で、多孔質プレフォームの原料を加圧する直前の状態を示す断面図。
【図7】同じく多孔質プレフォームを成形した状態を示す断面図。
【図8】同じく多孔質プレフォームにアルミニウム合金を浸透させる状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0033】
1 ロータ
2 シリンダボデー
3 シリンダ
4 ピストン
5 パッド
6 摺動用ディスク部
7 取付部
8 通孔
9 原料
10 スラリー
11 容器
12 濾過部
13 脱水吸引口
14 脱水体
15 金型
16 下型
17 注入用ピストン
18 浸透炉
19 金型
20 凹部
21 溶湯
22 金型
23 下型
24 上型
25 多孔質プレフォーム
26 下型
27、27a 上型
28 型枠
29 金型
30 凹部
31 凸部
32 環状凹溝
33 外側円筒部
34 内側円筒部
35 円輪部
36 筒部
37 第一の湯口
38 上板部
39 第二の湯口
40 原料
41 押型
42 多孔質プレフォーム
43 中心孔
44 外側プレフォーム
45 内側プレフォーム
46 第二の押型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摺動用ディスク部と、この摺動用ディスク部の内径側に設けられた取付部とを備えたディスクブレーキ用ロータの製造方法に於いて、一方の型内に原料を投入し、他方の型でこの原料を加圧して上記摺動用ディスク部のプレフォームを成形した後、この一方の型を、内側にこのプレフォームを入れたままの状態で、溶融した軽合金をこの一方の型内に注湯しこのプレフォームに浸透させる工程を有する事を特徴とするディスクブレーキ用ロータの製造方法。
【請求項2】
摺動用ディスク部の内径側に、軽合金製の取付部を一体成形する、請求項1に記載したディスクブレーキ用ロータの製造方法。
【請求項3】
摺動用ディスク部と、この摺動用ディスク部の内径側に設けられた取付部とを備えたディスクブレーキ用ロータの製造方法に於いて、下型の上記摺動用ディスク部を成形すべき部分にセラミックス多孔質体の原料を投入し、第一の押型でこの原料を加圧してこの摺動用ディスク部の多孔質プレフォームである外側プレフォームを成形した後、上記下型に上型を嵌合させた状態で、上記取付部を成形すべき部分にセラミックス多孔質体の原料を投入し、第二の押型でこの原料を加圧して、上記外側プレフォームの内径側に上記取付部の多孔質プレフォームである内側プレフォームを一体成形し、上記下型と上型とを、内側にこれら外側、内側両プレフォームを入れたままの状態で、浸透炉に入れ、溶融した軽合金をこれら下型及び上型の内側に注湯しこれら外側、内側両プレフォームに浸透させる工程を有するディスクブレーキ用ロータの製造方法。
【請求項4】
外径側に設けられた摺動用ディスク部と、この摺動用ディスク部の内径側に設けられた取付部とを備えたディスクブレーキ用ロータの製造方法に於いて、下型の上記取付部を成形すべき部分にセラミックス多孔質体の原料を投入し、第一の押型でこの原料を加圧してこの取付部の多孔質プレフォームである内側プレフォームを成形した後、上記下型に上型を嵌合させた状態で、上記摺動用ディスク部を成形すべき部分にセラミックス多孔質体の原料を投入し、第二の押型でこの原料を加圧して、上記内側プレフォームの外径側に上記摺動用ディスク部の多孔質プレフォームである外側プレフォームを一体成形し、上記下型と上型とを、内側にこれら内側、外側両プレフォームを入れたままの状態で、浸透炉に入れ、溶融した軽合金をこれら下型及び上型の内側に注湯しこれら内側、外側両プレフォームに浸透させる工程を有するディスクブレーキ用ロータの製造方法。
【請求項5】
取付部のセラミックスの含有率が摺動用ディスク部のセラミックスの含有率よりも低くなる様に、これら取付部と摺動用ディスク部とを一体成形する、請求項3又は請求項4に記載したディスクブレーキ用ロータの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−122949(P2006−122949A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−314192(P2004−314192)
【出願日】平成16年10月28日(2004.10.28)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】