ディスクブレーキ
【課題】生産性の向上が可能なディスクブレーキを提供する。
【解決手段】一対のパッドスプリング23,24にそれぞれキャリパリトラクト部31を設け、該一対のキャリパリトラクト部31により、キャリパ16の爪部12の各係合部32に、ディスク回転方向で爪部12の中央方向およびディスク軸方向で爪部12がディスクロータ2から離間する方向の力を作用させたので、制動解除後、キャリパ16をキャリア3に対してディスク軸方向外方へ移動させてアウタ側の摩擦パッド8をディスクロータ2から離間させることができる。これにより、ディスクブレーキ1における引き摺りを効果的に抑止することができる。また、各パッドスプリング23,24にキャリパリトラクト部31を追加するだけで簡易に構成される。
【解決手段】一対のパッドスプリング23,24にそれぞれキャリパリトラクト部31を設け、該一対のキャリパリトラクト部31により、キャリパ16の爪部12の各係合部32に、ディスク回転方向で爪部12の中央方向およびディスク軸方向で爪部12がディスクロータ2から離間する方向の力を作用させたので、制動解除後、キャリパ16をキャリア3に対してディスク軸方向外方へ移動させてアウタ側の摩擦パッド8をディスクロータ2から離間させることができる。これにより、ディスクブレーキ1における引き摺りを効果的に抑止することができる。また、各パッドスプリング23,24にキャリパリトラクト部31を追加するだけで簡易に構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の制動を行なうためのディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキにおいては、キャリパのインナ側の重量が大きいことから、キャリパが自重によりインナ側を下向きにして傾く傾向がある。この場合、スライドピンとキャリアとの摺動性が低下してしまい、制動解除後、キャリパがディスクロータの軸方向へ戻り難くなることがある。その結果、アウタパッドがディスクロータに接触したままの状態となり引き摺りが発生する。例えば、特許文献1には、摩擦パッドの引き摺りを軽減するために、キャリパをディスクロータから離間させる方向へ付勢するディスクブレーキが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−259902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、ピストンあるいはリトラクトシールを用いて、制動解除後、アウタパッドをディスク軸方向へ戻すことによりキャリパをディスクから離間させることが考えられるが、構造が複雑化することから、製造が煩雑化して生産性が低下する。本発明は、生産性の向上が可能なディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のディスクブレーキのパッドスプリングは、ディスクロータの回転方向における爪部の中央に向かう方向で、かつ、ディスクロータの軸方向における爪部をディスクロータから離間させる方向へキャリパの爪部を付勢するキャリパリトラクト部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、生産性の向上が可能なディスクブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態のディスクブレーキの構成を示す図であり、ディスクロータの中心からディスクロータを見た場合の図である。
【図2】第1実施形態のディスクブレーキの正面図である。
【図3】第1実施形態のパッドスプリングの正面図である。
【図4】第1実施形態のパッドスプリングの側面図である。
【図5】第1実施形態のパッドスプリングの底面図である。
【図6】図1におけるA部の拡大図である。
【図7】図6において摩擦パッドが摩耗した状態を示す図である。
【図8】第2実施形態のディスクブレーキの正面図である。
【図9】第2実施形態のパッドスプリングの正面図である。
【図10】第2実施形態のパッドスプリングの側面図である。
【図11】第2実施形態のパッドスプリングの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を添付した図を参照して説明する。なお、ディスクブレーキ1は、ディスクロータ2に対して車両前後方向で車両に取付けられる場合のものを想定している。
図1に、第1実施形態のディスクブレーキ1の構成図を示す。ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型ディスクブレーキであり、キャリア3、一対の摩擦パッド4,8、キャリパ16、及びパッドスプリング23,24とから大略構成されている。キャリア3(取付部材)は、ディスクロータ2の回転方向(図1における左右方向、以下、ディスク回転方向という)に延びるとともに、ディスクロータ2の外周側をディスクロータ2の軸方向(図1における上下方向、以下、ディスク軸方向という)へ跨いで車両の非回転部分である図示せぬナックルに固定して設けられる。一対の摩擦パッド4,8は、キャリア3に摺動可能に取付けられディスクロータ2の各摩擦面2a,2bに対向して配置される。キャリパ16は、ディスクパス部を介してディスクロータ2を跨ぐように設けられ、車両のアウタ側(図1における下側)に形成される爪部12と、この爪部12に対向させて設けられシリンダボア14とピストン15とで構成されるシリンダ部13とが一体形成されてる。パッドスプリング23,24は、キャリア3と一対の摩擦パッド4,8との間に設けられ、一対の摩擦パッド4,8の摺動性を向上させるとともに、一対の摩擦パッド4,8をディスクロータ2の径方向(図2における上下方向、以下、ディスク径方向という)に付勢して、ガタツキを抑制している。
【0009】
キャリパ16のシリンダ部13には、ディスク回転方向の両側に延びる腕部13A、13Bが形成されている。この腕部13A,13Bの先端側には、それぞれディスク軸方向に延びる一対のスライドピン17,18が設けられている。各スライドピン17,18は、キャリア3に設けられたガイド孔3A,3Bに挿通されている。これにより、キャリア3に対してキャリパ16が摺動可能に支持されるようになっている。
【0010】
キャリア3のガイド孔3A,3Bの開口部には、内周溝3Aa,3Baが形成されている。この内周溝3Aa,3Baには、リトラクトシール33,33がそれぞれ嵌合されている。このリトラクトシール33,33は、その内周面で各スライドピン17,18に当接して各スライドピン17,18を弾性的に保持している。リトラクトシール33,33は、スライドピン17,18の所定量未満の移動では、弾性変形してその内周面のスライドピン17,18に対する当接部位は変位しないようになっており、スライドピン17,18が所定量以上移動したときにその内周面のスライドピン17,18に対する当接部位が変位するようになっている。なお、上記所定量は、非制動時のディスクロータ2と摩擦パッド4若しくは摩擦パッド8との間に設定されるパッドクリアランスと同様な量となっている。
【0011】
各摩擦パッド4,8は、それぞれパッドライニング5,9とパッドプレート6,10とから構成されている。図2に示されるように、各パッドプレート6,10のディスク回転方向両端部(図2における左右両側)には、凸部7,11が形成されている。この凸部7,11は、パッドスプリング23,24を介してキャリア3の案内溝21,22に係合されるようになっている。これにより、各摩擦パッド4,8は、凸部7,11が案内溝21および22に案内されてディスク軸方向へ移動可能に構成される。
【0012】
図3乃至図5に詳細に示されるように、パッドスプリング23は、所定の板厚を有する板状のばね鋼により構成され、案内部26,27、連結部25、一対のパッド付勢部28,29、及びキャリパリトラクト部31を有して一体形成されている。案内部26,27は、キャリア3の各案内溝21,22に嵌合されて各摩擦パッド4,8の各凸部7,11をディスク軸方向(図3における左右方向)へ案内するとともに、制動時における摩擦パッド4,8の制動トルクを受承するようになっている。連結部25は、案内部26,27間に両者を接続して設けられディスクロータ2を跨ぐようにディスク軸方向へ延びて形成されている。この連結部25は、図4に示されるように、キャリア3の形状に対応させて屈曲されており、ディスク軸方向中央に、キャリア3に押し当てることで当該パッドスプリング23の取付状態を安定させる押し当て部30が形成されている。
【0013】
各パッド付勢部28,29は、トング形状に形成され、各案内部26,27に溶接等により固定される固定片28a,29aと、各摩擦パッド4,8の図2における左側の各凸部7,11の下端面に当接される当接片28b,29bと、一端が固定片28a,29aに接続されるとともに他端が当接片28b,29bに接続される略C字形状に形成され周方向へ押し縮められることで付勢力を発生させるばね片28c,29cとにより構成される。この一対のパッド付勢部28,29によって、各摩擦パッド4,8の各パッドプレート6,10の図2における左側(図1における右側)部分をディスクロータ2の径方向外方(図2における上方)へ付勢して各摩擦パッド4,8のガタツキを防止するようになっている。
【0014】
キャリパリトラクト部31は、アウタ側(図2における左側で図1における下側)における案内部26のディスク径方向内側に形成されている。このキャリパリトラクト部31により、ディスク回転方向における爪部12の中央(図1,2における一点鎖線O)へ向かう方向で、かつ、ディスク軸方向おける爪部12をディスクロータ2から離間させる(図1における矢示A)方向へ、キャリパ16の爪部12を付勢するようになっている。言い換えると、図6に示すように、ディスク回転方向おける爪部12の中央へ向かう方向の力F1と、ディスク軸方向おける爪部12をディスクロータ2から離間させる方向の力F2との合力Fを、キャリパ16の爪部12に作用させるようになっている。また、キャリパリトラクト部31は、固定片31a、係合片31b、及び、ばね片31cから構成されている。固定片31aは、パッドスプリング23の案内部26のディスク径方向内側から延びて形成されている。係合片31bは、固定片31aに対して傾いてディスクロータ2へ近接するように延びて形成されており、爪部12のディスク回転方向一側(図1における右側で図2における左側)に断面弧状に形成された係合部32に摺動可能に係合されるようになっている。ばね片31cは、略C字形状に形成されて一端が固定片31aに接続されるとともに他端が係合片31bに接続されるようになっている。ばね片31cは、周方向へ押し縮められることで付勢力が発生するようになっている。そして、図6に示されるように、キャリア3に取付けられたパッドスプリング23のキャリパリトラクト部31の固定片31aと係合片31bとを近づけるようにばね片31cを押し縮めて、その弾性力によって当該パッドスプリング23の係合片31bをキャリパ16の爪部12の係合部32に面接触させる。なお、係合片31bの長さは、図7に示されるように、アウタ側の摩擦パッド8の摩耗が進行してキャリパ16、具体的には爪部12がキャリア3に対してディスク軸方向内方であるインナ側(図7における矢示B方向)へ移動した場合であっても、キャリパリトラクト部31の係合片31bと爪部12の対応する係合部32との当接が解除されないような長さになっている。
【0015】
他方、パッドスプリング24は、パッドスプリング23に対してミラー対称に形成されているため、ここでは、パッドスプリング23に対する相当部分はパッドスプリング23と同一の名称および符号を付与して、パッドスプリング24の詳細な説明を省略する。また、パッドスプリング24のキャリパリトラクト部31の係合片31bは、爪部12のディスク回転方向他側(図1における左側で図2における右側)に断面弧状に形成された係合部32に摺動可能に係合される。
【0016】
次に、第1実施形態の作用を説明する。まず、制動時には、図示せぬマスタシリンダからシリンダボア14へ作動液が供給されると、ピストン15がキャリパ本体13に対してディスク軸方向外方(アウタ側)へ相対移動してインナパッド4がディスクロータ2の摩擦面2aに押し付けられる。その反力により、キャリパ本体13がキャリア3に対してディスク軸方向内方(インナ側)へ移動し、爪部12を介してアウタ側の摩擦パッド8がディスクロータ2の摩擦面2bに押し付けられて制動力が発生する。ここで、ディスクロータ2の回転力は、ディスクロータ2が正回転(図2に示されるB方向へ回転)している場合、各摩擦パッド4,8の図2における左側(図1における右側)の各凸部7,11が、パッドスプリング23を介してキャリア3のトルク受け部19により支持される。なお、ディスクロータ2が逆回転している場合、各摩擦パッド4,8の図2における右側(図1における左側)の各凸部7,11が、パッドスプリング24を介してキャリア3のトルク受け部20により支持される。このとき、キャリパ16の爪部12の各係合部32,32がインナ側に移動することで、各パッドスプリング23,24の各キャリパリトラクト部31が弾性変形して撓められる。具体的には、キャリパ16の移動により、爪部12の係合部32が当接しているキャリパリトラクト部31の係合片32bが、固定片32aに近づく方向に変位することで、ばね片31cが撓められてキャリパリトラクト部31の付勢力Fが大きくなる。
【0017】
一方、制動が解除されると、各パッドスプリング23,24の各キャリパリトラクト部31による、キャリパ16の爪部12の各係合部32に作用する付勢力(弾性力)、すなわち、ディスク回転方向で爪部12の中央方向の力F1とディスク軸方向で爪部12がディスクロータ2から離間する方向の力F2との合力F(図6参照)により、キャリパ16がキャリア3に対してディスク軸方向外方(アウタ側、図1における下方)へ移動し、アウタ側の摩擦パッド8をディスクロータ2から離間させることができる。なお、図7に示すように、摩擦パッド4,8の摩耗が進むと、爪部12の係合部32に対するキャリパリトラクト部31の係合片32bの当接部位が変位してキャリパリトラクト部31の付勢力Fが大きくなっていく。このような摩擦パッド4,8の摩耗が進んだ状態であっても、キャリパリトラクト部31のディスク軸方向おける爪部12をディスクロータ2から離間させる方向の力F2を略一定に保つために、爪部12の係合部32が断面弧状に形成されている。すなわち、係合部32の形状は、摩擦パッド4,8の摩耗に伴うキャリパ16の移動に対応して上記合力Fの付勢方向が変化する、すなわち、キャリパ16がインナ側に移動する毎に、爪部12がディスクロータ2から離間する方向の力F2が小さくなるように設定されている。具体的には、係合部32の断面弧は、爪部12のアウタ側へ向かうに従がって曲率半径が小さくなるような弧状に形成されている。
【0018】
ここで、キャリパ16の爪部12をキャリア3に対してディスクロータ2から離間させる際に、各スライドピン17,18の移動に追従して弾性変形するリトラクトシール33,33によってキャリパリトラクト部31によるキャリパ16の戻り量が所定量となるようになっている。これは、制動時におけるディスクロータ2と摩擦パッド8との間に設定されるパッドクリアランス(所定量)分のキャリパ16の移動では、リトラクトシール33,33の内周面におけるスライドピン17,18の当接部位が変位せずに弾性変形するようになっている。このため、制動解除時にリトラクトシール33,33の弾性変形(所定量)分しかキャリパ16が移動しない、すなわち、キャリパ16の爪部12がキャリア3に対して一定量だけしかディスクロータ2から離間しないようになっている。このようなリトラクトシール33,33を各スライドピン17,18のストッパとしてキャリア3に設けたことで、各パッドスプリング23,24の各キャリパリトラクト部31によるキャリア16の戻り量が大き過ぎてインナパッド4がディスクロータ2に接触してしまうのを防止することができる。
【0019】
第1実施形態では以下の効果を奏する。
第1実施形態によれば、キャリア3(取付部材)のディスク回転方向両側に設けられる一対のパッドスプリング23,24にそれぞれキャリパリトラクト部31を設けている。この一対のキャリパリトラクト部31により、キャリパ16の爪部12のディスク回転方向両側の各係合部32に、ディスク回転方向における爪部12の中央へ向かう方向で、かつ、ディスク軸方向における爪部12をディスクロータ2から離間させるる方向の力、言い換えると、ディスク回転方向における爪部12の中央へ向かう方向の力F1とディスク軸方向における爪部12をディスクロータ2から離間させる方向の力F2との合力Fをそれぞれ作用させる。これにより、制動解除後、キャリパ16をキャリア3に対してディスク軸方向外方(アウタ側)へ移動させてアウタ側の摩擦パッド8をディスクロータ2から離間させることができる。これにより、ディスクブレーキ1の引き摺りを抑制することができる。また、各パッドスプリング23,24にキャリパリトラクト部31を追加するだけでよいので、製造および組立が容易で生産性が向上する。さらに、一対のキャリパリトラクト部31により、キャリパ16、具体的には爪部12をディスク回転方向両端部から挟み込むようになっているため、キャリア3に対するキャリパ16の姿勢が安定し、スライドピンとキャリアとの摺動性が向上して、制動解除後でも、キャリパ16がディスクロータ2の軸方向へ戻り易くなる。その結果、アウタ側摩擦パッド8がディスクロータ2に接触したままの状態である引き摺りの発生を抑制することができる。
【0020】
なお、上記第1実施形態において、制動解除時にキャリパ16をキャリア3に対してディスク軸方向へ移動させる場合の摺動抵抗の最大値が約40Nであるとした場合に、各パッドスプリング23,24の材料の板厚を0.8mmとすることで、一対のパッドスプリング23,24によるセット荷重、すなわち、キャリパ16の軸方向への戻し力を約40Nに設定することができ、爪部12をディスクロータ2から離間させることができることをコンピュータ解析を用いて確認している。
【0021】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を添付した図に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同一あるいは相当する構成には同一の名称および符号を付与し、重複する説明を省略する。なお、ディスクブレーキ1’は、ディスクロータ2に対して重力方向上側で車両に取け付ける場合のものを想定している。
図8乃至図11に示されるように、第2実施形態では、図3−図5に示される第1実施形態のパッドスプリング23におけるキャリパリトラクト部31の係合片31bの先端をディスク径方向内方(図における)下方へ傾斜させてパッドスプリング23´を形成し、該パッドスプリング23´と、該パッドスプリング23´に対してミラー対称に形成されたパッドスプリング24´とをキャリア3(取付部材)のディスク回転方向両側(図11における左右両側)に設けてディスクブレーキ1´を構成している。また、図8に示すように係合片31´bに連続するばね片31´cも係合片31´bの傾斜に応じて傾斜させている。
【0022】
キャリア3の爪部12のディスク回転方向両側に、係合部32(図6参照)を臨むように形成した切欠き部34を設け、各パッドスプリング23´,24´の各キャリパリトラクト部31´の各係合片31´bの先端を持ち上げるようにばね片31´cを弾性変形させて、各係合片31´bを爪部12の各切欠き部34に係合させている。これにより、各パッドスプリング23´,24´の各キャリパリトラクト部31´の各係合片31´bを爪部12の相対する各係合部32に係合させる(図6参照)とともに各切欠き部34の傾斜面34aに当接させている。
【0023】
次に、第2実施形態の作用を説明する。
制動が解除されると、キャリパ16の爪部12の各係合部32に作用する各パッドスプリング23´,24´の各キャリパリトラクト部31´による付勢力、すなわち、ディスク回転方向で爪部12の中央方向の力F1とディスク軸方向で爪部12がディスクロータ2から離間する方向の力F2との合力F(図6参照)により、キャリパ16がキャリア3(取付部材)に対してディスク軸方向外方(アウタ側)へ移動、すなわち、アウタ側の摩擦パッド8をディスクロータ2から離間させることができる。
【0024】
そして、キャリパ浮動型ディスクブレーキ1´においては、キャリパ16の自重により、シリンダ部13がディスク軸方向内方に近づいた状態でディスクロータ2の軸線に対して傾く傾向がある。第2実施形態では、弾性変形させた各キャリパリトラクト部31´の各係合片31b´を爪部12の各切欠き部34の傾斜面34aに当接させて爪部12をディスク軸方向内方へ付勢している。これにより、上記キャリパ16の傾きを抑制して、スライドピンとキャリアとの摺動性が向上して、制動解除後でも、キャリパ16がディスクロータ2の軸方向へ戻り易くなる。その結果、アウタ側摩擦パッド8がディスクロータ2に接触したままの状態である引き摺りの発生を抑制することができる。また、摩擦パッド4,8を同方向に付勢するよりも、モーメントアーム(キャリパ16の重心から付勢位置までの距離)を長く設定して各スライドピン17,18とキャリア3との摺動性を向上させることができる。
【0025】
第2実施形態によれば、第1実施形態のディスクブレーキ1と同様の効果である生産性の向上を図ることができる。さらに、各キャリパリトラクト部31´の各係合片31b´を爪部12の各切欠き部34の傾斜面34aに当接させてキャリパ16の爪部12をディスク径方向内方へ付勢したことから、各スライドピン17,18とキャリア3との摺動性を向上させることができ、制動解除後、キャリパ16をキャリア3に対してディスクロータ軸方向へ円滑に移動させることが可能になり、アウタ側の摩擦パッド8の引き摺りをより確実に防ぐことができる。また、パッドスプリング23´,24´(キャリパリトラクト部31´)の板厚を変えてディスク回転方向両側でばね定数をそれぞれ調節することにより、前取付け、後取付けによるキャリパ16の傾きをより細かく調整することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ディスクブレーキ、2 ディスクロータ、3 キャリア(取付部材)、4,8 摩擦パッド、12 爪部、15 ピストン、16 キャリパ、23,24 パッドスプリング、31 キャリパリトラクト部
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両等の制動を行なうためのディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスクブレーキにおいては、キャリパのインナ側の重量が大きいことから、キャリパが自重によりインナ側を下向きにして傾く傾向がある。この場合、スライドピンとキャリアとの摺動性が低下してしまい、制動解除後、キャリパがディスクロータの軸方向へ戻り難くなることがある。その結果、アウタパッドがディスクロータに接触したままの状態となり引き摺りが発生する。例えば、特許文献1には、摩擦パッドの引き摺りを軽減するために、キャリパをディスクロータから離間させる方向へ付勢するディスクブレーキが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−259902号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように、ピストンあるいはリトラクトシールを用いて、制動解除後、アウタパッドをディスク軸方向へ戻すことによりキャリパをディスクから離間させることが考えられるが、構造が複雑化することから、製造が煩雑化して生産性が低下する。本発明は、生産性の向上が可能なディスクブレーキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のディスクブレーキのパッドスプリングは、ディスクロータの回転方向における爪部の中央に向かう方向で、かつ、ディスクロータの軸方向における爪部をディスクロータから離間させる方向へキャリパの爪部を付勢するキャリパリトラクト部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、生産性の向上が可能なディスクブレーキを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】第1実施形態のディスクブレーキの構成を示す図であり、ディスクロータの中心からディスクロータを見た場合の図である。
【図2】第1実施形態のディスクブレーキの正面図である。
【図3】第1実施形態のパッドスプリングの正面図である。
【図4】第1実施形態のパッドスプリングの側面図である。
【図5】第1実施形態のパッドスプリングの底面図である。
【図6】図1におけるA部の拡大図である。
【図7】図6において摩擦パッドが摩耗した状態を示す図である。
【図8】第2実施形態のディスクブレーキの正面図である。
【図9】第2実施形態のパッドスプリングの正面図である。
【図10】第2実施形態のパッドスプリングの側面図である。
【図11】第2実施形態のパッドスプリングの底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態を添付した図を参照して説明する。なお、ディスクブレーキ1は、ディスクロータ2に対して車両前後方向で車両に取付けられる場合のものを想定している。
図1に、第1実施形態のディスクブレーキ1の構成図を示す。ディスクブレーキ1は、キャリパ浮動型ディスクブレーキであり、キャリア3、一対の摩擦パッド4,8、キャリパ16、及びパッドスプリング23,24とから大略構成されている。キャリア3(取付部材)は、ディスクロータ2の回転方向(図1における左右方向、以下、ディスク回転方向という)に延びるとともに、ディスクロータ2の外周側をディスクロータ2の軸方向(図1における上下方向、以下、ディスク軸方向という)へ跨いで車両の非回転部分である図示せぬナックルに固定して設けられる。一対の摩擦パッド4,8は、キャリア3に摺動可能に取付けられディスクロータ2の各摩擦面2a,2bに対向して配置される。キャリパ16は、ディスクパス部を介してディスクロータ2を跨ぐように設けられ、車両のアウタ側(図1における下側)に形成される爪部12と、この爪部12に対向させて設けられシリンダボア14とピストン15とで構成されるシリンダ部13とが一体形成されてる。パッドスプリング23,24は、キャリア3と一対の摩擦パッド4,8との間に設けられ、一対の摩擦パッド4,8の摺動性を向上させるとともに、一対の摩擦パッド4,8をディスクロータ2の径方向(図2における上下方向、以下、ディスク径方向という)に付勢して、ガタツキを抑制している。
【0009】
キャリパ16のシリンダ部13には、ディスク回転方向の両側に延びる腕部13A、13Bが形成されている。この腕部13A,13Bの先端側には、それぞれディスク軸方向に延びる一対のスライドピン17,18が設けられている。各スライドピン17,18は、キャリア3に設けられたガイド孔3A,3Bに挿通されている。これにより、キャリア3に対してキャリパ16が摺動可能に支持されるようになっている。
【0010】
キャリア3のガイド孔3A,3Bの開口部には、内周溝3Aa,3Baが形成されている。この内周溝3Aa,3Baには、リトラクトシール33,33がそれぞれ嵌合されている。このリトラクトシール33,33は、その内周面で各スライドピン17,18に当接して各スライドピン17,18を弾性的に保持している。リトラクトシール33,33は、スライドピン17,18の所定量未満の移動では、弾性変形してその内周面のスライドピン17,18に対する当接部位は変位しないようになっており、スライドピン17,18が所定量以上移動したときにその内周面のスライドピン17,18に対する当接部位が変位するようになっている。なお、上記所定量は、非制動時のディスクロータ2と摩擦パッド4若しくは摩擦パッド8との間に設定されるパッドクリアランスと同様な量となっている。
【0011】
各摩擦パッド4,8は、それぞれパッドライニング5,9とパッドプレート6,10とから構成されている。図2に示されるように、各パッドプレート6,10のディスク回転方向両端部(図2における左右両側)には、凸部7,11が形成されている。この凸部7,11は、パッドスプリング23,24を介してキャリア3の案内溝21,22に係合されるようになっている。これにより、各摩擦パッド4,8は、凸部7,11が案内溝21および22に案内されてディスク軸方向へ移動可能に構成される。
【0012】
図3乃至図5に詳細に示されるように、パッドスプリング23は、所定の板厚を有する板状のばね鋼により構成され、案内部26,27、連結部25、一対のパッド付勢部28,29、及びキャリパリトラクト部31を有して一体形成されている。案内部26,27は、キャリア3の各案内溝21,22に嵌合されて各摩擦パッド4,8の各凸部7,11をディスク軸方向(図3における左右方向)へ案内するとともに、制動時における摩擦パッド4,8の制動トルクを受承するようになっている。連結部25は、案内部26,27間に両者を接続して設けられディスクロータ2を跨ぐようにディスク軸方向へ延びて形成されている。この連結部25は、図4に示されるように、キャリア3の形状に対応させて屈曲されており、ディスク軸方向中央に、キャリア3に押し当てることで当該パッドスプリング23の取付状態を安定させる押し当て部30が形成されている。
【0013】
各パッド付勢部28,29は、トング形状に形成され、各案内部26,27に溶接等により固定される固定片28a,29aと、各摩擦パッド4,8の図2における左側の各凸部7,11の下端面に当接される当接片28b,29bと、一端が固定片28a,29aに接続されるとともに他端が当接片28b,29bに接続される略C字形状に形成され周方向へ押し縮められることで付勢力を発生させるばね片28c,29cとにより構成される。この一対のパッド付勢部28,29によって、各摩擦パッド4,8の各パッドプレート6,10の図2における左側(図1における右側)部分をディスクロータ2の径方向外方(図2における上方)へ付勢して各摩擦パッド4,8のガタツキを防止するようになっている。
【0014】
キャリパリトラクト部31は、アウタ側(図2における左側で図1における下側)における案内部26のディスク径方向内側に形成されている。このキャリパリトラクト部31により、ディスク回転方向における爪部12の中央(図1,2における一点鎖線O)へ向かう方向で、かつ、ディスク軸方向おける爪部12をディスクロータ2から離間させる(図1における矢示A)方向へ、キャリパ16の爪部12を付勢するようになっている。言い換えると、図6に示すように、ディスク回転方向おける爪部12の中央へ向かう方向の力F1と、ディスク軸方向おける爪部12をディスクロータ2から離間させる方向の力F2との合力Fを、キャリパ16の爪部12に作用させるようになっている。また、キャリパリトラクト部31は、固定片31a、係合片31b、及び、ばね片31cから構成されている。固定片31aは、パッドスプリング23の案内部26のディスク径方向内側から延びて形成されている。係合片31bは、固定片31aに対して傾いてディスクロータ2へ近接するように延びて形成されており、爪部12のディスク回転方向一側(図1における右側で図2における左側)に断面弧状に形成された係合部32に摺動可能に係合されるようになっている。ばね片31cは、略C字形状に形成されて一端が固定片31aに接続されるとともに他端が係合片31bに接続されるようになっている。ばね片31cは、周方向へ押し縮められることで付勢力が発生するようになっている。そして、図6に示されるように、キャリア3に取付けられたパッドスプリング23のキャリパリトラクト部31の固定片31aと係合片31bとを近づけるようにばね片31cを押し縮めて、その弾性力によって当該パッドスプリング23の係合片31bをキャリパ16の爪部12の係合部32に面接触させる。なお、係合片31bの長さは、図7に示されるように、アウタ側の摩擦パッド8の摩耗が進行してキャリパ16、具体的には爪部12がキャリア3に対してディスク軸方向内方であるインナ側(図7における矢示B方向)へ移動した場合であっても、キャリパリトラクト部31の係合片31bと爪部12の対応する係合部32との当接が解除されないような長さになっている。
【0015】
他方、パッドスプリング24は、パッドスプリング23に対してミラー対称に形成されているため、ここでは、パッドスプリング23に対する相当部分はパッドスプリング23と同一の名称および符号を付与して、パッドスプリング24の詳細な説明を省略する。また、パッドスプリング24のキャリパリトラクト部31の係合片31bは、爪部12のディスク回転方向他側(図1における左側で図2における右側)に断面弧状に形成された係合部32に摺動可能に係合される。
【0016】
次に、第1実施形態の作用を説明する。まず、制動時には、図示せぬマスタシリンダからシリンダボア14へ作動液が供給されると、ピストン15がキャリパ本体13に対してディスク軸方向外方(アウタ側)へ相対移動してインナパッド4がディスクロータ2の摩擦面2aに押し付けられる。その反力により、キャリパ本体13がキャリア3に対してディスク軸方向内方(インナ側)へ移動し、爪部12を介してアウタ側の摩擦パッド8がディスクロータ2の摩擦面2bに押し付けられて制動力が発生する。ここで、ディスクロータ2の回転力は、ディスクロータ2が正回転(図2に示されるB方向へ回転)している場合、各摩擦パッド4,8の図2における左側(図1における右側)の各凸部7,11が、パッドスプリング23を介してキャリア3のトルク受け部19により支持される。なお、ディスクロータ2が逆回転している場合、各摩擦パッド4,8の図2における右側(図1における左側)の各凸部7,11が、パッドスプリング24を介してキャリア3のトルク受け部20により支持される。このとき、キャリパ16の爪部12の各係合部32,32がインナ側に移動することで、各パッドスプリング23,24の各キャリパリトラクト部31が弾性変形して撓められる。具体的には、キャリパ16の移動により、爪部12の係合部32が当接しているキャリパリトラクト部31の係合片32bが、固定片32aに近づく方向に変位することで、ばね片31cが撓められてキャリパリトラクト部31の付勢力Fが大きくなる。
【0017】
一方、制動が解除されると、各パッドスプリング23,24の各キャリパリトラクト部31による、キャリパ16の爪部12の各係合部32に作用する付勢力(弾性力)、すなわち、ディスク回転方向で爪部12の中央方向の力F1とディスク軸方向で爪部12がディスクロータ2から離間する方向の力F2との合力F(図6参照)により、キャリパ16がキャリア3に対してディスク軸方向外方(アウタ側、図1における下方)へ移動し、アウタ側の摩擦パッド8をディスクロータ2から離間させることができる。なお、図7に示すように、摩擦パッド4,8の摩耗が進むと、爪部12の係合部32に対するキャリパリトラクト部31の係合片32bの当接部位が変位してキャリパリトラクト部31の付勢力Fが大きくなっていく。このような摩擦パッド4,8の摩耗が進んだ状態であっても、キャリパリトラクト部31のディスク軸方向おける爪部12をディスクロータ2から離間させる方向の力F2を略一定に保つために、爪部12の係合部32が断面弧状に形成されている。すなわち、係合部32の形状は、摩擦パッド4,8の摩耗に伴うキャリパ16の移動に対応して上記合力Fの付勢方向が変化する、すなわち、キャリパ16がインナ側に移動する毎に、爪部12がディスクロータ2から離間する方向の力F2が小さくなるように設定されている。具体的には、係合部32の断面弧は、爪部12のアウタ側へ向かうに従がって曲率半径が小さくなるような弧状に形成されている。
【0018】
ここで、キャリパ16の爪部12をキャリア3に対してディスクロータ2から離間させる際に、各スライドピン17,18の移動に追従して弾性変形するリトラクトシール33,33によってキャリパリトラクト部31によるキャリパ16の戻り量が所定量となるようになっている。これは、制動時におけるディスクロータ2と摩擦パッド8との間に設定されるパッドクリアランス(所定量)分のキャリパ16の移動では、リトラクトシール33,33の内周面におけるスライドピン17,18の当接部位が変位せずに弾性変形するようになっている。このため、制動解除時にリトラクトシール33,33の弾性変形(所定量)分しかキャリパ16が移動しない、すなわち、キャリパ16の爪部12がキャリア3に対して一定量だけしかディスクロータ2から離間しないようになっている。このようなリトラクトシール33,33を各スライドピン17,18のストッパとしてキャリア3に設けたことで、各パッドスプリング23,24の各キャリパリトラクト部31によるキャリア16の戻り量が大き過ぎてインナパッド4がディスクロータ2に接触してしまうのを防止することができる。
【0019】
第1実施形態では以下の効果を奏する。
第1実施形態によれば、キャリア3(取付部材)のディスク回転方向両側に設けられる一対のパッドスプリング23,24にそれぞれキャリパリトラクト部31を設けている。この一対のキャリパリトラクト部31により、キャリパ16の爪部12のディスク回転方向両側の各係合部32に、ディスク回転方向における爪部12の中央へ向かう方向で、かつ、ディスク軸方向における爪部12をディスクロータ2から離間させるる方向の力、言い換えると、ディスク回転方向における爪部12の中央へ向かう方向の力F1とディスク軸方向における爪部12をディスクロータ2から離間させる方向の力F2との合力Fをそれぞれ作用させる。これにより、制動解除後、キャリパ16をキャリア3に対してディスク軸方向外方(アウタ側)へ移動させてアウタ側の摩擦パッド8をディスクロータ2から離間させることができる。これにより、ディスクブレーキ1の引き摺りを抑制することができる。また、各パッドスプリング23,24にキャリパリトラクト部31を追加するだけでよいので、製造および組立が容易で生産性が向上する。さらに、一対のキャリパリトラクト部31により、キャリパ16、具体的には爪部12をディスク回転方向両端部から挟み込むようになっているため、キャリア3に対するキャリパ16の姿勢が安定し、スライドピンとキャリアとの摺動性が向上して、制動解除後でも、キャリパ16がディスクロータ2の軸方向へ戻り易くなる。その結果、アウタ側摩擦パッド8がディスクロータ2に接触したままの状態である引き摺りの発生を抑制することができる。
【0020】
なお、上記第1実施形態において、制動解除時にキャリパ16をキャリア3に対してディスク軸方向へ移動させる場合の摺動抵抗の最大値が約40Nであるとした場合に、各パッドスプリング23,24の材料の板厚を0.8mmとすることで、一対のパッドスプリング23,24によるセット荷重、すなわち、キャリパ16の軸方向への戻し力を約40Nに設定することができ、爪部12をディスクロータ2から離間させることができることをコンピュータ解析を用いて確認している。
【0021】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態を添付した図に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同一あるいは相当する構成には同一の名称および符号を付与し、重複する説明を省略する。なお、ディスクブレーキ1’は、ディスクロータ2に対して重力方向上側で車両に取け付ける場合のものを想定している。
図8乃至図11に示されるように、第2実施形態では、図3−図5に示される第1実施形態のパッドスプリング23におけるキャリパリトラクト部31の係合片31bの先端をディスク径方向内方(図における)下方へ傾斜させてパッドスプリング23´を形成し、該パッドスプリング23´と、該パッドスプリング23´に対してミラー対称に形成されたパッドスプリング24´とをキャリア3(取付部材)のディスク回転方向両側(図11における左右両側)に設けてディスクブレーキ1´を構成している。また、図8に示すように係合片31´bに連続するばね片31´cも係合片31´bの傾斜に応じて傾斜させている。
【0022】
キャリア3の爪部12のディスク回転方向両側に、係合部32(図6参照)を臨むように形成した切欠き部34を設け、各パッドスプリング23´,24´の各キャリパリトラクト部31´の各係合片31´bの先端を持ち上げるようにばね片31´cを弾性変形させて、各係合片31´bを爪部12の各切欠き部34に係合させている。これにより、各パッドスプリング23´,24´の各キャリパリトラクト部31´の各係合片31´bを爪部12の相対する各係合部32に係合させる(図6参照)とともに各切欠き部34の傾斜面34aに当接させている。
【0023】
次に、第2実施形態の作用を説明する。
制動が解除されると、キャリパ16の爪部12の各係合部32に作用する各パッドスプリング23´,24´の各キャリパリトラクト部31´による付勢力、すなわち、ディスク回転方向で爪部12の中央方向の力F1とディスク軸方向で爪部12がディスクロータ2から離間する方向の力F2との合力F(図6参照)により、キャリパ16がキャリア3(取付部材)に対してディスク軸方向外方(アウタ側)へ移動、すなわち、アウタ側の摩擦パッド8をディスクロータ2から離間させることができる。
【0024】
そして、キャリパ浮動型ディスクブレーキ1´においては、キャリパ16の自重により、シリンダ部13がディスク軸方向内方に近づいた状態でディスクロータ2の軸線に対して傾く傾向がある。第2実施形態では、弾性変形させた各キャリパリトラクト部31´の各係合片31b´を爪部12の各切欠き部34の傾斜面34aに当接させて爪部12をディスク軸方向内方へ付勢している。これにより、上記キャリパ16の傾きを抑制して、スライドピンとキャリアとの摺動性が向上して、制動解除後でも、キャリパ16がディスクロータ2の軸方向へ戻り易くなる。その結果、アウタ側摩擦パッド8がディスクロータ2に接触したままの状態である引き摺りの発生を抑制することができる。また、摩擦パッド4,8を同方向に付勢するよりも、モーメントアーム(キャリパ16の重心から付勢位置までの距離)を長く設定して各スライドピン17,18とキャリア3との摺動性を向上させることができる。
【0025】
第2実施形態によれば、第1実施形態のディスクブレーキ1と同様の効果である生産性の向上を図ることができる。さらに、各キャリパリトラクト部31´の各係合片31b´を爪部12の各切欠き部34の傾斜面34aに当接させてキャリパ16の爪部12をディスク径方向内方へ付勢したことから、各スライドピン17,18とキャリア3との摺動性を向上させることができ、制動解除後、キャリパ16をキャリア3に対してディスクロータ軸方向へ円滑に移動させることが可能になり、アウタ側の摩擦パッド8の引き摺りをより確実に防ぐことができる。また、パッドスプリング23´,24´(キャリパリトラクト部31´)の板厚を変えてディスク回転方向両側でばね定数をそれぞれ調節することにより、前取付け、後取付けによるキャリパ16の傾きをより細かく調整することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 ディスクブレーキ、2 ディスクロータ、3 キャリア(取付部材)、4,8 摩擦パッド、12 爪部、15 ピストン、16 キャリパ、23,24 パッドスプリング、31 キャリパリトラクト部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの回転方向に延びて該ディスクロータの外周側を軸方向に跨ぐ取付部材と、該取付部材に取付けられ前記ディスクロータの両面に摺動可能な一対の摩擦パッドと、前記取付部材に前記ディスクロータの軸方向へ摺動可能に設けられ前記一対の摩擦パッドのうち一の摩擦パッドを押圧するピストンと該ピストンに対向して形成され前記一対の摩擦パッドのうち他の摩擦パッドを押圧する爪部とを有するキャリパと、前記一対の摩擦パッドと前記取付部材との間に設けられ前記一対の摩擦パッドを前記ディスクロータの径方向外方へ付勢するパッドスプリングとを備えるディスクブレーキであって、
前記パッドスプリングは、前記ディスクロータの回転方向における前記爪部の中央に向かう方向で、かつ、前記ディスクロータの軸方向における前記爪部を前記ディスクロータから離間させる方向へ前記キャリパの爪部を付勢するキャリパリトラクト部を有することを特徴とするディスクブレーキ。
【請求項1】
ディスクロータの回転方向に延びて該ディスクロータの外周側を軸方向に跨ぐ取付部材と、該取付部材に取付けられ前記ディスクロータの両面に摺動可能な一対の摩擦パッドと、前記取付部材に前記ディスクロータの軸方向へ摺動可能に設けられ前記一対の摩擦パッドのうち一の摩擦パッドを押圧するピストンと該ピストンに対向して形成され前記一対の摩擦パッドのうち他の摩擦パッドを押圧する爪部とを有するキャリパと、前記一対の摩擦パッドと前記取付部材との間に設けられ前記一対の摩擦パッドを前記ディスクロータの径方向外方へ付勢するパッドスプリングとを備えるディスクブレーキであって、
前記パッドスプリングは、前記ディスクロータの回転方向における前記爪部の中央に向かう方向で、かつ、前記ディスクロータの軸方向における前記爪部を前記ディスクロータから離間させる方向へ前記キャリパの爪部を付勢するキャリパリトラクト部を有することを特徴とするディスクブレーキ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−12727(P2011−12727A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−156230(P2009−156230)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】
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