説明

ディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法

【課題】化学強化により所望の耐衝撃性能を有するディスプレイ装置用カバーガラスを提供する。
【解決手段】ディスプレイ装置用ガラスの素板から所定の形状のガラス板に加工する形状加工工程と、ガラス板を洗浄する洗浄工程と、洗浄したガラス板に化学強化を行なう化学強化工程と、を備えるディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法であって、洗浄工程は、洗浄工程後、化学強化工程前におけるガラス板のBOR強度が400N以上となるように、ガラス板の少なくとも一方の主表面にロールブラシの先端を当接させることでガラス板を洗浄する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像表示部分の全面を覆うディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来よりディスプレイ装置には、画像表示部分よりも広い領域となるように板状のカバーガラスをディスプレイ装置の前面に配置することが行なわれている(例えば、特許文献1)。
【0003】
このディスプレイ装置用カバーガラスは、素板を切折した後ガラス端部の面取りをして所定の形状のガラス板に加工する形状加工工程と、所定形状に加工したガラス板を洗浄する洗浄工程と、洗浄したガラス板を化学強化する化学強化工程と、を経て所望の耐衝撃性能を有するように構成されている。
【0004】
従来、ガラス板の洗浄工程は、加工されたガラス板に付着した有機物及び無機物等の汚れや細かなガラス片や塵等の異物を排除するため先端反力の大きなロールブラシやディスクブラシ等をガラス板の主表面に物理的に接触させて洗浄していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−169788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、近年、このディスプレイ装置用カバーガラスはより薄板化される傾向に、すなわちガラス強度が低下する方向にあり、従来の製造方法では求められる強度は化学強化処理してもなかなか得られず、ガラス板が割れることも想定しなければならなかった。そのためにエンクロージャーとしての保護フィルムが必須であったが、保護フィルムの使用は部品点数や工程の増加をもたらすので好ましくない。
【0007】
本発明は、薄板化しても割れにくいディスプレイ装置用カバーガラスの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の態様を提供するものである。
(1)ディスプレイ装置用ガラスの素板から所定の形状のガラス板に加工する形状加工工程と、前記ガラス板を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄したガラス板に化学強化を行なう化学強化工程と、を備えるディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法であって、
前記洗浄工程は、前記洗浄工程後、前記化学強化工程前における前記ガラス板のBOR(Ball on Ring)強度が400N以上となるように、前記ガラス板の少なくとも一方の主表面にロールブラシの先端を当接させることで前記ガラス板を洗浄することを特徴とするディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。
(2)前記ロールブラシを構成するブラシ線の長さをL(mm)、線径をd(mm)、ヤング率をE(Pa)、たわみを1mmとしたときの下記(A)式で表わされるブラシ先端反力P1がP1≦0.40Nであることを特徴とする(1)に記載のディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。

(3)ディスプレイ装置用ガラスの素板から所定の形状のガラス板に加工する形状加工工程と、前記ガラス板を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄したガラス板に化学強化を行なう化学強化工程と、を備えるディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法であって、
前記洗浄工程では、前記ガラス板の少なくとも一方の主表面にロールブラシの先端を当接させることで前記ガラス板が洗浄され、
前記ロールブラシを構成するブラシ線の長さをL(mm)、線径をd(mm)、ヤング率をE(Pa)、たわみを1mmとしたときの下記(A)式で表わされるブラシ先端反力P1がP1≦0.40Nであることを特徴とするディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。

(4)ブラシ先端反力P1が、P1≦0.40Nとなるロールブラシを用いて、化学強化後のガラス板の前記少なくとも一方の主表面にロールブラシの先端を当接させることで、前記化学強化後のガラス板を洗浄することを特徴とする(2)又は(3)に記載のディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。
(5)前記ガラス板の厚みが、0.5mm〜2.0mmであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載のディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、化学強化前の強度が低いガラス板は、例え化学強化を行なったとしても、米国国内で使用される電化製品に適用される安全規格として知られるUS60065規格の基準値(2J)を保護フィルムなしでは満足することができず、化学強化後のガラス板の強度は化学強化前のガラス板の強度に影響を受けるという知見を得た。そして、その知見に基づいて例え保護フィルムなしでもUS60065規格の基準値を満足するように試行錯誤を繰り返し、本発明に至ったものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の(1)に記載のディスプレイ装置用カバーガラスによれば、化学強化工程前の洗浄工程において、ガラス素板のBOR強度が400N以上となるようにガラス板をロールブラシで洗浄することにより、化学強化後におけるガラス板を所望の耐衝撃性能を有する構成とすることができる。米国国内で使用される電化製品に適用される安全規格としてUL60065規格が知られているが、ガラス素板のBOR強度が400N以上となるようにガラス板をロールブラシで洗浄することにより、例え保護フィルムを用いなくても化学強化後のディスプレイ装置用カバーガラスのUL60065規格の基準値である2Jを満たすことができる。
【0011】
本発明の(2)に記載のディスプレイ装置用カバーガラスによれば、ロールブラシの長さ、線形、材質を適宜選択しブラシ先端反力P1が0.40N以下であるロールブラシを用いてガラス板を洗浄することで、化学強化後のディスプレイ装置用カバーガラスのUL60065規格の基準値である2Jを満たすことができる。
【0012】
本発明の(3)に記載のディスプレイ装置用カバーガラスによれば、ロールブラシの長さ、線形、材質を適宜選択しブラシ先端反力P1が0.40N以下であるロールブラシを用いてガラス板を洗浄することで、例え保護フィルムを用いなくても化学強化後のディスプレイ装置用カバーガラスのUL60065規格の基準値である2Jを満たすことができる。
【0013】
本発明の(4)に記載のディスプレイ装置用カバーガラスによれば、化学強化後のガラス板であっても化学強化前と同様にブラシ先端反力P1が所定値以下であるロールブラシを用いてガラス板を洗浄することで、化学強化後におけるガラス板を所望の耐衝撃性能を維持することができる。
【0014】
本発明の(5)に記載のディスプレイ装置用カバーガラスによれば、薄肉化と耐衝撃性能の両立を効果的に実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態のディスプレイ装置用カバーガラスが配置されたディスプレイ装置の断面図である。
【図2】ディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法のフロー図である。
【図3】洗浄装置の模式図である。
【図4】ブラシ先端反力を説明するためのガラス板洗浄時の模式図である。
【図5】ブラシ評価機の模式図である。
【図6】化学強化前のガラス板のBall on Ring試験法による破壊荷重(BOR最低強度)と化学強化後の落球衝撃強度(落球最低強度)との関係を示すグラフである。
【図7】ブラシ先端反力(P1)と化学強化前のガラス板のBall on Ring試験法による破壊荷重(BOR最低強度)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明のディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法について説明する。図1は本発明の一実施形態のディスプレイ装置用カバーガラスが配置されたディスプレイ装置の断面図である。
【0017】
先ず、図1を参照して本発明のディスプレイ装置用カバーガラス(以下、単にカバーガラスと呼ぶことがある。)を用いたディスプレイ装置の一実施形態について説明する。なお、以下の説明において、前後左右は図中の矢印の向きを基準とする。
【0018】
ディスプレイ装置40は、図1に示すように、概して筐体45内に設けられた表示パネル20と、表示パネル20の全面を覆い筐体45の前方に配置されるカバーガラス30とを備える。
【0019】
カバーガラス30は、主として、ディスプレイ装置40の美観や強度の向上、衝撃破損防止などを目的として設置されるものであり、例えば0.5〜2.0mmの板厚を有する一枚の板状ガラスである。ガラスの厚みは、ガラスが薄すぎると強度が低くなる恐れがあり、逆にガラスが厚すぎるとディスプレイが重くなるため、0.5〜2.0mmが好ましく、0.6〜1.9mmがより好ましく、0.7〜1.8mmがさらに好ましく、0.8〜1.5mmがもっともの好ましい。カバーガラス30は、図1に示すように、表示パネル20の表示側(前側)から離間するように(空気層を有するように)設置されていてもよく、透光性を有する接着膜(図示せず)を介して表示パネル20の表示側に貼り付けられてもよい。
【0020】
カバーガラス30には、表示パネル20からの光を出射する前面に機能膜41が設けられ、表示パネル20からの光が入射する背面に、表示パネル20と対応する位置に機能膜42が設けられている。なお、機能膜41、42は、図1では両面に設けたが、これに限らず前面又は背面に設けてもよく、省略してもよい。
【0021】
機能膜41、42は、例えば、周囲光の反射防止、衝撃破損防止、電磁波遮蔽、近赤外線遮蔽、色調補正、及び/又は耐傷性向上などの機能を有し、厚さおよび形状などは用途に応じて適宜選択される。機能膜41、42は、例えば樹脂製の膜をカバーガラス30に貼り付けることにより形成され、あるいは、蒸着法、スパッタ法、CVD法などの薄膜形成法により形成されてもよい。
【0022】
また、カバーガラス30の背面のうち表示パネル20よりも外側の領域には、黒色層44が全周にほぼ枠状に設けられている。黒色層44は、例えば、顔料粒子を含むインクをカバーガラス30に塗布し、これを紫外線照射、または加熱焼成した後、冷却することによって形成された被膜であり、筐体45の外側からは表示パネル20等が見えなくなり、外観の審美性を向上させる。
【0023】
このディスプレイ装置用カバーガラス30としては、例えば以下の組成のガラスが使用される。
(i)モル%で表示した組成で、SiOを50〜80%、Alを2〜25%、LiOを0〜10%、NaOを0〜18%、KOを0〜10%、MgOを0〜15%、CaOを0〜5%およびZrOを0〜5%を含むガラス
(ii)モル%で表示した組成が、SiOを50〜74%、Alを1〜10%、NaOを6〜14%、KOを3〜11%、MgOを2〜15%、CaOを0〜6%およびZrOを0〜5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が75%以下、NaOおよびKOの含有量の合計が12〜25%、MgOおよびCaOの含有量の合計が7〜15%であるガラス
(iii)モル%で表示した組成が、SiOを68〜80%、Alを4〜10%、NaOを5〜15%、KOを0〜1%、MgOを4〜15%およびZrOを0〜1%含有するガラス
(iv)モル%で表示した組成が、SiOを67〜75%、Alを0〜4%、NaOを7〜15%、KOを1〜9%、MgOを6〜14%およびZrOを0〜1.5%含有し、SiOおよびAlの含有量の合計が71〜75%、NaOおよびKOの含有量の合計が12〜20%であり、CaOを含有する場合その含有量が1%未満であるガラス
【0024】
次に、ディスプレイ装置用カバーガラス30の製造方法について説明する。図2はパネルディスプレイ用カバーガラスの製造方法のフロー図である。
【0025】
カバーガラス30の製造方法は、図2に示すように、概して形状加工工程(S1)と、第1洗浄工程(S2)と、化学強化工程(S3)と、第2洗浄工程(S4)と、プリント工程(S5)と、からなる。
【0026】
形状加工工程(S1)はガラスの原料を調合しフロートバスで溶解して得られた素板を所定の形状、典型的には矩形状に切り出す処理であり、第1洗浄工程(S2)は所定の形状に切り出したガラス板を洗浄する処理であり詳細は後述する。化学強化工程(S3)は洗浄したガラス板を化学強化する処理である。第2洗浄工程(S4)は化学強化後のガラス板を洗浄する処理である。プリント工程(S5)は機能膜41、42や黒色層44を形成する処理である。なお、形状加工工程(S1)、化学強化工程(S3)、第2洗浄工程(S4)及びプリント工程(S5)は、公知の方法が採用され、以下、本発明の特徴である第1洗浄工程(S2)について詳細に説明する。
【0027】
第1洗浄工程(S2)は、図3に示すように、下方に複数の搬送ローラ11を備え、上方にロールブラシ12を備えた洗浄装置1にガラス板Gを水平に載置し、ガラス板Gの下面を搬送ローラ11に当接させてガラス板Gを搬送しながら、ガラス板Gの一方の主表面である上面に回転するロールブラシ12の先端を当接させることによりガラス板Gを洗浄する。なお、通常はガラス板Gの両面に回転するロールブラシ12の先端を当接させることによりガラス板Gを洗浄し、その両面を洗浄する。また、洗浄は、噴射口13から噴霧される水又は中性又はアルカリ性又は酸性の液体(以下、ガラス板に噴霧する流体を単に洗浄液と呼ぶ。)を吹きかけながら行う。これにより、ガラス板Gに付着した細かなガラス片や塵等の異物を排除することができる。
【0028】
ロールブラシ12は、金属製(例えばSUS)、樹脂製などの円柱状の芯材12aに複数のブラシ線12bが芯材12aの全周に亘って典型的には螺旋状に取り付けられている。
【0029】
ここで、本発明の第1洗浄工程(S2)は、ガラス板の少なくとも一方の主表面にロールブラシを当接させて、化学強化工程(S3)前におけるガラス板のBall on Ring法(詳細は後述する)による強度(BOR強度)が400N以上となるようにガラス板を洗浄することを特徴とするものである。BOR強度はBOR最低強度を表わす。これはBOR最大強度やBOR平均強度が基準値を満たしたとしても最低強度が基準値より低ければ製品の信頼性が劣ることとなるからである。
【0030】
また、ガラス板の化学強化前のBOR最低強度が400N以上となるようにガラス板を洗浄するためには、後述するブラシ先端反力P1が0.40N以下となるようなロールブラシを用いて、このロールブラシの先端を少なくとも一方の主表面に当接させることでガラス板を洗浄することが好ましい。
【0031】
以下にブラシ先端反力について説明する。
ロールブラシ12を構成するブラシ線12b一本に着目すると、図4に示すように、ブラシ線12bの先端にはガラス板Gの搬送方向に対して反対方向に反力P(ブラシ先端反力)が作用する。このときのブラシ線12bのたわみをδ(mm)、ブラシ線12bのヤング率をE(Pa)、ブラシ線12bの断面2次モーメントをI(mm)、ブラシ線12bの長さをL(mm)とすると、ブラシ先端のたわみδは曲げモーメントMを二重積分することで以下の式(1)で表わされる。
【0032】
【数1】

【0033】
また、ブラシ線12bは断面円形であり直径(以下、線径とも呼ぶ。)をd(mm)とすると、断面2次モーメントIは以下の式(2)で表わされる。
【0034】
【数2】

【0035】
上記(1)及び(2)式よりブラシ先端反力P(N)は以下の(3)式で表わされる。
【0036】
【数3】

【0037】
本発明では、(3)式においてブラシ線12bのたわみδが1mmのときの以下の(4)式で表わされるブラシ先端反力をP1とした。
【0038】
【数4】

【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について説明する。
先ず、本発明者らは、US60065規格の基準となる化学強化後の落球衝撃強度と化学強化前の破壊荷重との関係を調べた。
【0040】
始めに、モル%でSiOを64.5%、Alを6%、NaOを12%、KOを4%、MgOを11%およびZrOを2.5%含む組成のガラスを、300×400×1.1mmのサイズに加工し、5つの試験サンプルを作製した。5つの試験サンプルを化学強化前のBOR最低強度が異なるように洗浄後、50×50×1.1mmのガラス板に切断し、化学強化前に破壊荷重の測定を行なった。破壊荷重の測定方法はBall on Ring法とした。
【0041】
Ball on Ring法については、例えばASTM Standard F−394等に紹介されているが、本発明では以下の方法で測定した。Ringは直径30mmのSUS304製であり、Ballは直径10mmのSUS304(材料)製であり、いずれも鏡面研磨してある。また、荷重速度は1mm/minとした。Ringの上に、ガラスの一方の主表面が下側になるようにガラス板をのせ、エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機RTCを用いて、所定の荷重速度にて、Ballを下降させてガラス板に荷重をかけ、ガラス板が破壊したときの荷重(F)を測定した。ガラスの破壊点は、板ガラスの下側面で、Ballの接触点直下の位置であることを確認した。上記、Ball on Ring試験を一つの条件で30回行い、そのうちもっとも低い荷重で破壊したものを最低強度とした。
【0042】
また、この5つサンプルと同じ条件で洗浄したものに、KNO化学強化液に、ガラスを450℃で2時間浸漬し、表面圧縮応力800MPa、イオン交換深さ30μmの化学強化を行った。そして、落球衝撃強度を測定した。落球衝撃強度は、UL60065規格に従って行なった。なお、落球衝撃強度についても、信頼性を考慮して落球最低強度を選択した。上記、落球衝撃試験を一つの条件で20回行い、そのうちもっとも低い衝撃エネルギーで破壊したものを最低強度とした。
結果を表1及び図6に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
米国国内で使用される電化製品に適用される安全規格としてUL60065規格が知られているが、UL60065規格では落球最低強度が2J以上であることが要求される。表1及び図6の結果から、化学強化前のBOR最低強度が348N以上であれば化学強化後の落球最低強度が2J以上を満たす結果となったが、本発明では得られた結果の線形性を考慮して、落球最低強度が確実に2J以上となるように化学強化前のBOR最低強度400Nを臨界値とした。これにより、化学強化前のBOR最低強度が400N以上であれば、例え保護フィルムを用いなくても化学強化後のディスプレイ装置用カバーガラスのUL60065規格の基準値である2Jを満たすことが確認された。
【0045】
続いて、本発明者らは化学強化前の破壊荷重とブラシ先端反力P1との関係を調べた。
先ず、線径、線長、材質を変えた表1に示す5種類のロールブラシを用意し、これらのロールブラシのブラシ先端反力P1を算出した。算出結果を表2にあわせて示した。
【0046】
【表2】

【0047】
また、この実施例1〜3及び比較例1、2のブラシを用いてブラシ評価機で洗浄したサンプルの破壊荷重の測定を、化学強化前に行なった。先ず、モル%でSiOを64.5%、Alを6%、NaOを12%、KOを4%、MgOを11%およびZrOを2.5%含む組成のガラスを、300×400×1.1mmのサイズに加工し、試験サンプルを作製した。図5は、ブラシ評価機の模式図である。なお、図5中、図3の洗浄装置の同一又は対応する構成については簡単のため同一又は同等符号を付して説明する。
【0048】
ブラシ評価機10は、図5に示すように、ガラス板Gの搬送路の下方に複数の搬送ローラ11が設けられ、上方に駆動装置14により回転可能に1つのロールブラシ12が設けられており、搬送路上に水平に載置されたガラス板Gの上面が回転するロールブラシ12の先端と当接することで洗浄されるように構成される。また、搬送路の上方には噴射口13が設けられており、搬送路からタンク15に貯留された洗浄液がポンプ16で汲み上げられ、フィルタ17を通して循環するようになっており、洗浄液を噴霧しながらガラス板Gが洗浄される。なお、測定は、ブラシ評価機10の搬送ローラ11を停止してガラス板Gを固定した状態で洗浄した。ブラシの外径は115mm、ブラシをガラスに1mm押し込んだ状態で、ブラシの回転数は66rpm、洗浄時間は60秒、洗浄水はイオン交換水で、評価を行った。
【0049】
実施例と比較例の試験サンプルを洗浄後、50×50×1.1mmのガラス板に切断し、化学強化前に破壊荷重の測定を行なった。破壊荷重の測定方法は、上記と同様にBall on Ring法とした。Ringは直径30mmのSUS304製であり、Ballは直径10mmのSUS304(材料)製であり、いずれも鏡面研磨してある。また、荷重速度は1mm/minとした。Ringの上に、ガラスの一方の主表面が下側になるようにガラス板をのせ、エー・アンド・デイ社製テンシロン万能試験機RTCを用いて、所定の荷重速度にて、Ballを下降させてガラス板に荷重をかけ、ガラス板が破壊したときの荷重(F)を測定した。ガラスの破壊点は、板ガラスの下側面で、Ballの接触点直下の位置であることを確認した。上記、Ball on Ring試験を一つの条件で30回行い、そのうちもっとも低い荷重で破壊したものを最低強度、平均値を平均強度、そのうちもっとも高い荷重で破壊したものを最大強度とした。
破壊荷重の測定結果を表3に示す。
【0050】
【表3】

【0051】
図7は、ブラシ先端反力P1と化学強化前の板ガラスの破壊荷重(BOR最低強度)との関係を示すグラフである。BOR平均強度は30回測定した時の平均強度をとったものである。なお、ここでも信頼性を考慮してBOR最低強度を基準としている。
【0052】
表3及び図7から明らかなように、実施例1、2のブラシで洗浄したサンプルのBOR最低強度は洗浄をしていないガラスの素板にもっとも近いBOR最低強度を示した。なお、実施例2に比べてブラシ線の線長を長くした実施例1の方が剛性が小さくなり、BOR最低強度が高くなっている。また、実施例3のブラシで洗浄したサンプルのBOR最低強度も400N以上のBOR平均強度を示した。ただし、実施例1に比べてブラシ線の線径を2.5倍にした実施例3の方が剛性が高くなり、BOR最低強度が低くなっている。比較例1,2のブラシで洗浄したサンプルは、BOR最低強度が400N未満と低かった。
【0053】
上述した2つの測定から以下のことが実証された。
一般的に、化学強化によるガラス表面への圧縮応力の付与により、ガラス板の強度は高められる。ただし、ガラス板の強度はガラス板の表面状態にも影響を受けるため、所望の強度を得るためには、ガラス板の表面状態を制御することが重要である。ガラス板の表面状態として、化学強化前のBOR最低強度が400N以上となるように制御したガラス板を化学強化すれば、化学強化工程を経た後の強度としてUL60065規格の2Jを満たすことができる。
【0054】
そして、第1洗浄工程(S2)においてブラシ先端反力P1が0.40N以下となるロールブラシを用いることで、化学強化前のガラス板のBOR最低強度が400N以上となる。
【0055】
なお、第2洗浄工程(S4)は必ずしも第1洗浄工程(S2)のように、ブラシ先端反力P1が0.40N以下となるロールブラシを用いてガラス板を洗浄する必要はないが、ブラシ先端反力P1が0.40N以下のロールブラシを用いてガラス板を洗浄することにより、化学強化後におけるガラス板を所望の耐衝撃性能を維持することができる。
【0056】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施し得るものである。
【符号の説明】
【0057】
20 表示パネル
30 カバーガラス
40 ディスプレイ装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスプレイ装置用ガラスの素板から所定の形状のガラス板に加工する形状加工工程と、前記ガラス板を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄したガラス板に化学強化を行なう化学強化工程と、を備えるディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法であって、
前記洗浄工程は、前記洗浄工程後、前記化学強化工程前における前記ガラス板のBOR強度が400N以上となるように、前記ガラス板の少なくとも一方の主表面にロールブラシの先端を当接させることで前記ガラス板を洗浄することを特徴とするディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。
【請求項2】
前記ロールブラシを構成するブラシ線の長さをL(mm)、線径をd(mm)、ヤング率をE(Pa)、たわみを1mmとしたときの下記(A)式で表わされるブラシ先端反力P1がP1≦0.40Nであることを特徴とする請求項1に記載のディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。

【請求項3】
ディスプレイ装置用ガラスの素板から所定の形状のガラス板に加工する形状加工工程と、前記ガラス板を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄したガラス板に化学強化を行なう化学強化工程と、を備えるディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法であって、
前記洗浄工程では、前記ガラス板の少なくとも一方の主表面にロールブラシの先端を当接させることで前記ガラス板が洗浄され、
前記ロールブラシを構成するブラシ線の長さをL(mm)、線径をd(mm)、ヤング率をE(Pa)、たわみを1mmとしたときの下記(A)式で表わされるブラシ先端反力P1がP1≦0.40Nであることを特徴とするディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。

【請求項4】
ブラシ先端反力P1が、P1≦0.40Nとなるロールブラシを用いて、化学強化後のガラス板の前記少なくとも一方の主表面にロールブラシの先端を当接させることで、前記化学強化後のガラス板を洗浄することを特徴とする請求項2又は3に記載のディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。
【請求項5】
前記ガラス板の厚みが、0.5mm〜2.0mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のディスプレイ装置用カバーガラスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−153571(P2012−153571A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14501(P2011−14501)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】