説明

ディフューザ

【課題】流路長を短縮し得て、設置スペースの制限を緩和することができるディフューザを提供する。
【解決手段】本発明のディフューザは、下流側に向かうにしたがって中心軸線Qに直交する断面積が大きくなる環状流路13を形成する内側環状壁部11及び外側環状壁部12を有し、内側環状壁部11と外側環状壁部12の少なくとも一方と、環状流路13に面し且つ流体の一部の通過を許容する多孔孔15aを少なくとも一部に有する多孔壁部15と、で二重壁部16を構成すると共に、二重壁部16の間から多孔壁部15を通過した流体を吸引する少なくとも一つの吸引部17を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、下流側に向かうにしたがって中心軸線に直交する断面積が大きくなる環状流路を形成する内側環状壁部及び外側環状壁部を有するディフューザに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、下流側に向かうにしたがって中心軸線に直交する断面積が大きくなる環状流路を形成する内側環状壁部及び外側環状壁部を有するディフューザが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図5は、このような環状流路を備えたディフューザの一例を示す要部の断面図である。ディフューザ1は、略円筒形状の内側環状壁部2と、内側環状壁部2の外側に位置する外側環状壁部3と、各壁部1,2によって形成された環状流路4と、を備えている。また、環状流路4の上流側に連通する流路には静翼(又は整流板)5が形成されている。
【0004】
外側環状壁部3は、そのディフューザ入口で上流側の流路と連通し、ディフューザ入口から下流側に向かって内側環状壁部2から徐々に離間するように傾斜している。この際の傾斜角度は、例えば、ディフューザ入口から流入した流体の減速割合に応じて、中心軸線Qに直交する環状流路4の断面積が下流側に向うほどに大きくなるように設定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4107765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、外側環状壁部3の上流側端部であるディフューザ入口から下流側に向って流体の流速を圧力上昇に変換する過程で、壁付近の境界層はディフューザ入口側の速度分布6で示す壁付近の境界層6aから出口側の速度分布7で示す壁付近の境界層7aへと徐々に厚みを増していく傾向がある。
【0007】
一般に、ディフューザ1の性能は、静圧上昇係数(=ディフューザ入口・出口の静圧上昇量/ディフューザ入口動圧)で評価されるが、高い静圧上昇係数を実現するには壁面から流体の流れを剥離させずにディフューザ入口から出口側にまで流体を流す必要がある。そのため、急な圧力勾配が発生しないよう、できるだけディフューザ入口から出口までの距離(流路長)を確保するのが望ましい。
【0008】
すなわち、ディフューザ1を短くすると、短い流路長でディフューザ入口から出口までの圧力が変化するため、常に出口側が高圧となる減速流れの場合では、境界層が厚い出口側は流れが剥離し易くなる。
【0009】
他方、このような剥離を抑制するために、性能を重視した長い流路長のディフューザ1とした場合には、ハードウェアの製作コストが大きくなるうえ、装置本体を設置するための設置スペースを長く必要とするという問題が生じていた。
【0010】
そこで、本発明は、流路長を短縮し得て、設置スペースの制限を緩和することができるディフューザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明のディフューザは、下流側に向かうにしたがって中心軸線に直交する断面積が大きくなる環状流路を形成する内側環状壁部及び外側環状壁部を有するディフューザにおいて、前記内側環状壁部と前記外側環状壁部との少なくとも一方が二重壁部に形成され、該二重壁部を構成する二つの壁部のうちの前記環状流路に面する一方の壁部の少なくとも一部が前記流体の一部の通過を許容する多孔孔を有する多孔壁部により構成されるとともに、前記二重壁部の間から前記多孔壁部を通過した前記流体を吸引する少なくとも一つの吸引部を備えることを特徴とする。
【0012】
このような構成によれば、多孔孔から壁面付近の流体の一部を吸引することにより、境界層を薄くすることができ、流路長を短縮し得て、設置スペースの制限を緩和することができる。
【0013】
さらに、前記内側環状壁部と前記外側環状壁部とに前記二重壁部が形成され、前記各二重壁部の前記多孔壁部間に跨るように支柱が配置され、前記支柱に前記内側環状壁部側の前記二重壁部間から前記多孔壁部を通過した前記流体を吸引する吸引部が設けられていることを特徴とする。
【0014】
このような構成によれば、内側環状壁部側の二重壁部と外側環状壁部の二重壁部の双方から独立して効率良く流体の一部を吸引することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のディフューザは、境界層を薄くすることができ、流路長を短縮し得て、設置スペースの制限を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るディフューザを示し、実施の形態1に係るディフューザの断面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るディフューザを示し、(A)は多孔壁部の一例を示す要部の断面図、(B)は多孔孔の一例を示す説明図、(C)は多孔孔の他例を示す説明図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るディフューザを示し、(A)は多孔壁部の他例を示す要部の断面図、(B)は多孔孔の断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係るディフューザを示し、(A)は実施の形態2に係るディフューザの断面図、(B)は支柱の説明図である。
【図5】従来のディフューザを示し、(A)はディフューザの断面図、(B)はディフューザ入口側の境界層の説明図、(C)は出口側の境界層の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の一実施形態に係るディフューザについて、図面を参照して説明する。尚、以下に示す実施例は本発明のディフューザにおける好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定を付している場合もあるが、本発明の技術範囲は、特に本発明を限定する記載がない限り、これらの態様に限定されるものではない。また、以下に示す実施形態における構成要素は適宜、既存の構成要素等との置き換えが可能であり、かつ、他の既存の構成要素との組合せを含む様々なバリエーションが可能である。したがって、以下に示す実施形態の記載をもって、特許請求の範囲に記載された発明の内容を限定するものではない。
【0018】
(実施の形態1)
図1は本発明の一実施形態に係るディフューザを示し、実施の形態1に係るディフューザの断面図、図2は本発明の一実施形態に係るディフューザを示し、図2(A)は多孔壁部の一例を示す要部の断面図、図2(B)は多孔孔の一例を示す説明図、図2(C)は多孔孔の他例を示す説明図、図3は本発明の一実施形態に係るディフューザを示し、図3(A)は多孔壁部の他例を示す要部の断面図、図3(B)は多孔孔の断面図である。
【0019】
図1において、本実施の形態1に係るディフューザ10は、略円筒形状の内側環状壁部11と、内側環状壁部11の外側に位置する外側環状壁部12と、各壁部11,12によって形成された環状流路13と、を備えている。また、環状流路13の上流側に連通する流路には静翼(又は整流板)14が形成されている。
【0020】
内側環状壁部11は断面略水平(直線状)とされ、外側環状壁部12は、段差部12aが形成されたディフューザ入口で上流側の流路と連通し、ディフューザ入口から下流側に向かって内側環状壁部11から徐々に離間するように傾斜している。この際の傾斜角度は、例えば、ディフューザ入口から流入した流体の減速割合に応じて、中心軸線Qに直交する環状流路4の断面積が下流側に向うほどに大きくなるように設定されている。
【0021】
外側環状壁部12の内側、即ち、環状流路13に面する側には、流体の一部の通過を許容する多孔孔15aを有する多孔壁部15が配置され、外側環状壁部12とで二重壁部16を構成している。また、外側環状壁部12には、ダクト状の吸引部17が形成されており、この吸引部17に図示を略するバキューム装置(ポンプやファン等)の吸引管を接続することで二重壁部16の間から多孔壁部15を通過した流体を外部に向けて強制的に吸引することができる。
【0022】
多孔孔15aは、多孔壁部15の全体または一部に形成することができ、例えば、図2(A)に示すように、外側環状壁部12のうち環状流路13の上流側(ディフューザ入口側)のみに形成してもよい。また、図2(B)に示すように、周方向と経路方向(中心軸線Qの軸線方向)とに均等な格子状に設けても良いし、図2(C)に示すように、千鳥状に設けても良い。
【0023】
また、多孔孔15aは、例えば、図3(A)に示すように、外側環状壁部12のうち環状流路13の上流側(ディフューザ入口側)付近と中央付近とに形成し、図3(B)に示すように、ディフューザ入口側の多孔孔15aの孔径よりも中央付近の多孔孔15aの孔径を小径としても良い。なお、孔径は下流側に向けて段階的に小さくしても良いし、連続的に小さくしても良い。また、孔径を変える代わりに、孔の数を下流側に向うほど少なくしても良い。
【0024】
吸引部17は、環状流路13の周回り方向の同一円周上に少なくとも一つ以上に設けられている。また、吸引部17は、環状流路13の上流側から下流側に複数設けてもよい。尚、吸引部17の設置数や場所(間隔)等は任意である。また、バキューム装置の吸引力は、環状流路13を流れる流体の速度等を考慮して多孔壁部15の近傍(境界層底部)を通過する低速度の流体の一部を外部に吸引することができる程度とされる。したがって、吸引部17を外側環状壁部12の複数個所に配置した場合、その環状流路13の周回り方向に関しては略同一径、流路方向に関しては下流側に向うほど細径とするのが好ましい。
【0025】
このような構成によれば、環状流路13を流れる流体は、多孔壁部15の近傍を通過する流体の一部がバキューム装置の吸引によって多孔孔15aから吸引される。
【0026】
したがって、環状流路13を流れる流体は、その流速を圧力上昇に変換する過程で、多孔壁部15の近傍の境界層を小さく(薄く)することができる。これより、環状流路13の径方向に速度一定の理想的な流れ場を形成することができ、静圧上昇係数を向上することができる。
【0027】
(実施の形態2)
図4は、本発明の一実施形態に係るディフューザを示し、(A)は実施の形態2に係るディフューザの断面図、(B)は支柱の断面図である。なお、上記実施の形態1と同一の構成には同一の符合を付してその説明を省略する。
【0028】
図4に示すように、実施の形態2に係るディフューザ20は、内側環状壁部11の外側(環状流路13側)に多孔孔15aを有する多孔壁部15が設けられ、内側環状壁部11とで二重壁部16を構成している。
【0029】
また、環状流路13には、内側環状壁部11の多孔壁部15と外側環状壁部12の多孔壁部15とに跨るように断面視翼形状の支柱21が配置されている。この支柱21の内部には内側環状壁部11の二重壁部16の間から多孔壁部15を通過した流体を吸引するように一端が二重壁部16の間の空間に連通する吸引部22が設けられている。この吸引部22は、そのまま外側環状壁部12を貫通し、図示を略するバキューム装置に接続されている。なお、支柱21の断面形状は翼形状に限られることはなく、円形状、楕円形状、多角形状など、他の断面形状でも構わない。
【0030】
このような構成によれば、環状流路13を流れる流体は、内側の多孔壁部15及び外側の多孔壁部15のそれぞれを多孔壁部15の近傍を通過する流体の一部がバキューム装置の吸引によって多孔孔15aから吸引され、上記実施の形態1と同様の効果を達成することができる。
【0031】
(その他の応用例)
ところで、多孔壁部15の材質は内側環状壁部11または外側環状壁部12と同一であるものの他、パンチングメタルや発泡メタルでも良い。また、多孔孔15aは、図2(C)に示した千鳥状とするのがより好ましい。これは、多孔孔15aの開口率が同じであれば、周方向を列とした場合に、上流側と下流側とで隣接する列で多孔孔15aが経路方向で隣接しないので、更に次列までの距離を確保することができ(図2におけるL2>L1)、上流側の多孔孔15aで吸引作用に伴って発生した流体の乱れの影響を下流側の多孔孔15aが受け難く、同じ動力(バキューム装置)であってもより多くの流体を吸引することができる。尚、孔形状は真円若しくは楕円とするのが好ましい。
【0032】
また、二重壁部16の間の空間を、経路方向や周方向に仕切る一つ以上の仕切板を設けることによって、複数の吸引区間に区切っても良い。これにより、各吸引区間を個別に吸引することでより精密な境界層制御が可能となり、静圧上昇係数を更に向上することができる。この際、複数の吸引区間は、均等に分割しても良いし、例えば、各吸引区間の境界層が均等となるように、上流側と下流側とで吸引区間の容積を調整しても良い。
【0033】
また、図3に示したように、上流側と下流側とで孔径(又は数)を変えた場合には、環状流路13の下流側では上流側ほど一様流の重要度が高くないので、そこでの吸引は上流側よりも少なくても良い。そして、その吸引量が少なくても良い部位には多孔孔15aを形成せず、吸引量の大小をコントロールすれば、二重壁部16の間の空間に仕切を設けることにより、吸引区間を区切って吸引量を変えるよりも低コストで吸引量分布の制御を容易に行うことができる。
【0034】
また、粗密(開口率・開口径)の異なる多孔孔15aを規則的又は不規則に配置しても良い。この場合、開口率を上流側は密(を多く)に、下流側は粗(を多く)にすることで上述した効果を達成することができる。
【0035】
また、内側環状壁部11は、断面略水平(略円筒形状)である必要はなく、下流側に向けて流路断面積が大きくなれば、どのような形状であっても良い。また、外側環状壁部12や多孔壁部15も含めて、直線状には限られず、曲線状でも良い。さらに、多孔壁部15(二重壁部16)は、内側環状壁部11にのみ設けても良い。
【0036】
このように、本発明のディフューザ10,20にあっては、下流側に向かうにしたがって中心軸線Qに直交する断面積が大きくなる環状流路13を形成する内側環状壁部11及び外側環状壁部12を有し、内側環状壁部11と外側環状壁部12の少なくとも一方と、環状流路13に面し且つ流体の一部の通過を許容する多孔孔15aを少なくとも一部に有する多孔壁部15と、で二重壁部16を構成すると共に、二重壁部16の間から多孔壁部15を通過した流体を吸引する少なくとも一つの吸引部17を備えることにより、環状流路13の流路長を短縮し得て、設置スペースの制限を緩和することができる。
【符号の説明】
【0037】
10…ディフューザ
11…内側環状壁部
12…外側環状壁部
13…環状流路
15…多孔壁部
15a…多孔孔
16…二重壁部
17…吸引部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下流側に向かうにしたがって中心軸線に直交する断面積が大きくなる環状流路を形成する内側環状壁部及び外側環状壁部を有するディフューザにおいて、
前記内側環状壁部と前記外側環状壁部との少なくとも一方が二重壁部に形成され、
該二重壁部を構成する二つの壁部のうちの前記環状流路に面する一方の壁部の少なくとも一部が前記流体の一部の通過を許容する多孔孔を有する多孔壁部により構成されるとともに、
前記二重壁部の間から前記多孔壁部を通過した前記流体を吸引する少なくとも一つの吸引部を備えることを特徴とするディフューザ。
【請求項2】
前記内側環状壁部と前記外側環状壁部とに前記二重壁部が形成され、前記各二重壁部の前記多孔壁部間に跨るように支柱が配置され、前記支柱に前記内側環状壁部側の前記二重壁部間から前記多孔壁部を通過した前記流体を吸引する吸引部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載のディフューザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−207729(P2012−207729A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−74204(P2011−74204)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】