説明

ディーゼルパティキュレートフィルタ及びその製造方法

【課題】 耐久性及び省スペース化に優れ、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子を捕集して酸化すると共に排気ガス中の窒素酸化物の分解を行なうことが可能なディーゼルパティキュレートフィルタ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子12と窒素酸化物を除去するディーゼルパティキュレートフィルタ10において、セラミックス繊維11を主体に構成され微粒子12を捕集する多孔質フィルタ本体13と、多孔質フィルタ本体13に担持され捕集された微粒子12の酸化及び窒素酸化物の分解をそれぞれ促進する触媒層14とを有し、触媒層14の比表面積はセラミックス繊維11の比表面積の5倍以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子及び窒素酸化物(NOx )を同時に又は前記微粒子を除去するディーゼルパティキュレートフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンでは、ストイキ燃焼においては多量のカーボンや煤等の微粒子(ディーゼルパティキュレート)や、窒素酸化物、炭化水素(HC)、及び一酸化炭素等を含んだ排気ガスが排出される。また、酸素不足下(リーン)燃焼のエンジンにおいては、窒素酸化物の排出は低減可能であるが、微粒子を多く含んだ排気ガスが排出される。
このため、微粒子を捕集し排気ガスを処理するため、例えば、コージェライト質ハニカムに貴金属触媒をコートした一段式のディーゼルパティキュレートフィルタや、酸化触媒と炭化硅素質ハニカムを組み合わせた2段式のディーゼルパティキュレートフィルタ、あるいは炭化硅素系の無機繊維の不織布を耐熱性の金属でサンドイッチしたディーゼルパティキュレートフィルタが用いられている。
コージェライト質ハニカムに貴金属触媒をコートした一段式のディーゼルパティキュレートフィルタや、酸化触媒と炭化硅素質ハニカムを組み合わせた2段式のディーゼルパティキュレートフィルタは、微粒子の捕集効果に加え触媒作用により炭化水素や一酸化炭素の低減効果が認められているが、ディーゼルパティキュレートフィルタ本体のハニカムがコージェライト又は炭化硅素からそれぞれ構成されており、セラミックス特有の脆く壊れやすいという欠点を有している。このため、ディーゼルパティキュレートフィルタに要求される長期間の安定使用に対しては問題がある。また、コージェライトは耐熱性に劣るため、コージェライト質ハニカムの耐久性は炭化硅素質ハニカムよりも更に問題となる。
【0003】
一方、酸化触媒と炭化硅素質ハニカムを組み合わせた2段式のディーゼルパティキュレートフィルタは、酸化触媒と炭化硅素質ハニカムが独立して設置されているため、コージェライト質ハニカムに貴金属触媒をコートした一段式のディーゼルパティキュレートフィルタに比べより広い設置スペースが必要になるという欠点がある。更に、炭化硅素系の無機繊維の不織布を耐熱性の金属でサンドイッチしたディーゼルパティキュレートフィルタは、耐熱性は炭化硅素質のため優れており、またディーゼルパティキュレートフィルタ本体が不織布で構成されているため、通常のセラミックスのように脆く壊れることもない。しかし、触媒が担持されていないため、排気ガスを処理する効果が一切ないという欠点がある。
そこで、アルコキシド法や硝酸塩単純浸漬法などでペロブスカイト触媒及びスピネル触媒のいずれか一方を表面に定着させた炭化硅素繊維を主体に構成したディーゼルパティキュレートフィルタが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2003−239722号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、触媒を担持しているディーゼルパティキュレートフィルタの比表面積が小さいため、排気ガスがディーゼルパティキュレートフィルタを通過する際に排気ガスと触媒の接触が十分に行なわれず、排気ガスの処理効率が低下するという欠点がある。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、耐久性及び省スペース化に優れ、ストイキ燃焼のエンジンではディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子を捕集して酸化すると共に排気ガス中の窒素酸化物の分解を行なうことが可能で、酸素不足下(リーン)燃焼のエンジンではディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子を捕集して酸化することが可能なディーゼルパティキュレートフィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタは、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子と窒素酸化物を除去するディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、
セラミックス繊維を主体に構成され前記微粒子を捕集する多孔質フィルタ本体と、
前記多孔質フィルタ本体に担持され捕集された前記微粒子の酸化及び前記窒素酸化物の分解をそれぞれ促進する触媒層とを有し、
前記触媒層の比表面積は前記セラミックス繊維の比表面積の5倍以上である。
また、第2の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタは、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子を除去するディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、
セラミックス繊維を主体に構成され前記微粒子を捕集する多孔質フィルタ本体と、
前記多孔質フィルタ本体に担持され捕集された前記微粒子の酸化を促進する触媒層とを有し、
前記触媒層の比表面積は前記セラミックス繊維の比表面積の5倍以上である。
【0008】
そして、第3の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法は、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子と窒素酸化物を除去するディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、
前記微粒子の酸化及び前記窒素酸化物の分解をそれぞれ促進する触媒作用を有する微細粉末が分散している有機溶媒懸濁液中にセラミックス繊維を主体に構成され前記微粒子を捕集する多孔質フィルタ本体を浸漬する第1工程と、
前記多孔質フィルタ本体を陰極側にして電圧を加えて電気泳動により該多孔質フィルタ本体を構成している前記セラミックス繊維の表面に前記微細粉末を堆積させる第2工程と、前記セラミックス繊維の表面に前記微細粉末が堆積している前記多孔質フィルタ本体を加熱し、該微細粉末を焼結させて該セラミックス繊維の表面上に触媒層を形成する第3工程とを有する。
更に、第4の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法は、ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子を除去するディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、
前記微粒子の酸化を促進する触媒作用を有する微細粉末が分散している有機溶媒懸濁液中にセラミックス繊維を主体に構成され前記微粒子を捕集する多孔質フィルタ本体を浸漬する第1工程と、
前記多孔質フィルタ本体を陰極側にして電圧を加えて電気泳動により該多孔質フィルタ本体を構成している前記セラミックス繊維の表面に前記微細粉末を堆積させる第2工程と、前記セラミックス繊維の表面に前記微細粉末が堆積している前記多孔質フィルタ本体を加熱し、該微細粉末を焼結させて該セラミックス繊維の表面上に触媒層を形成する第3工程とを有する。
【発明の効果】
【0009】
第1及び第2の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタにおいては、多孔質フィルタ本体をセラミックス繊維を主体に構成するため破損を防止することができ、ディーゼルパティキュレートフィルタの耐久性を向上することが可能になる。また、触媒層の比表面積が大きいため、排気ガスが多孔質フィルタ本体を通過する際に排気ガスと触媒層との接触を十分に行なわせることができ、窒素酸化物の分解処理の効率を高くすることが可能になる。更に、触媒層は微粒子の酸化を促進する作用も有するので、微粒子の捕集と分解を同時に行なうことが可能になる。その結果、特に第1の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタにおいては、排気ガスを多孔質フィルタ本体に1回通過させるだけで(1パスで)、微粒子と窒素酸化物を同時に除去することができ、コンパクトで長寿命のディーゼルパティキュレートフィルタを提供できる。また、第2の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタにおいては、酸素不足下(リーン)燃焼のエンジンでは、窒素酸化物の排出は低減されているが、触媒層は微粒子の酸化を促進する作用を有するので、排気ガスを多孔質フィルタ本体に1回通過させるだけで(1パスで)、微粒子を除去することができる。
【0010】
第3及び第4の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法においては、電気泳動によりセラミックス繊維の表面上に触媒作用を有する微細粉末を一様に堆積させることができるので、焼結により比表面積の大きな触媒層をセラミックス繊維の表面上に形成することが可能になる。その結果、特に、第3の発明に係るディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法においては、排気ガスが多孔質フィルタ本体を通過する際に排気ガスと触媒層との接触を十分に行なわせることができ、窒素酸化物の分解処理の効率を高くすることが可能になる。また、微細粉末の組成を確認してからセラミックス繊維の表面上に微細粉末の堆積層を形成することができるので、触媒特性の安定した触媒層を形成することが可能になる。その結果、安定した品質のディーゼルパティキュレートフィルタを容易に製造することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係るディーゼルパティキュレートフィルタの部分断面図、図2は同ディーゼルパティキュレートフィルタの触媒作用を説明する模式図である。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るディーゼルパティキュレートフィルタ10は、セラミックス繊維11を主体に構成されディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子12を捕集する多孔質フィルタ本体13と、多孔質フィルタ本体13を構成するセラミックス繊維11の表面上に担持され捕集された微粒子12の酸化及びディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる窒素酸化物の分解を促進する触媒層14を有している。以下これらについて、詳細に説明する。
【0012】
セラミックス繊維11は、耐熱性を有するものであれば特にその材質を問わないが、耐熱衝撃性の点から炭化珪素が特に好ましい。繊維径はディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子12を捕集し、触媒層14を担持する目的から、5〜50μmであることが好ましい。そして、多孔質フィルタ本体13は、このセラミックス繊維11の不織布、あるいは不織布と織布を組み合わせたものを成形して得られるもので、例えば、かさ密度を0.05〜0.2g/cm3 の範囲にすることが好ましい。これによって、排気ガスの流れを妨げずに、排気ガス中の微粒子12を捕集することができる。
【0013】
また、セラミックス繊維11の表面上に担持されて形成している触媒層14は、例えば、平均粒径が1μm以下で比表面積がセラミックス繊維11の比表面積の5倍以上、好ましくは10倍以上であることが好ましい。これによって、排気ガスが多孔質フィルタ本体13を通過する際に排気ガスと触媒層14との接触を十分に行なわせることができる。更に、捕集した微粒子12と触媒層14との間の接触面積も増加させることができる。
ここで、触媒層14の比表面積がセラミックス繊維11の比表面積の5倍未満では、排気ガスと触媒層14、捕集された微粒子12と触媒層14との間の接触が不十分となり、触媒層14との接触を十分に行なわせるには多孔質フィルタ本体13のサイズを大きくする必要があり、設置スペースが増加して好ましくない。なお、触媒層14の比表面積が大きくなる程排気ガスと触媒層14との接触頻度が高くなるので、排気ガス処理の観点から好ましくなる。
【0014】
ここで、触媒層14はK、Ni、Sr、Co、La、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Ba、Ce、Li、及びPdから選択される2以上の金属元素で構成されるペロブスカイト型構造の複合酸化物を主成分とすることが好ましい。特に、La、K、及びCoから構成されるLa1-xx CoO3 (xの下限値は0、好ましくは0.05、xの上限値は0.4、好ましくは0.2)、又はLa、K、及びMnから構成されるLa1-xx MnO3 (xの下限値は0、好ましくは0.1、xの上限値は0.6、好ましくは0.4)が好ましい。
また、触媒層14はK、Ni、Cr、Mg、Co、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Na、Li、Pd、Ba、Ce、及びLaから選択される2以上の金属元素で構成されるスピネル型構造の複合酸化物を主成分とすることもできる。特に、Cu、K、及びFeから構成されるCu1-xx FeO3 (xの下限値は0、好ましくは0.05、xの上限値は0.4、好ましくは0.2)が好ましい。更に、触媒層14はK2 Mn48 を主成分としてもよい。
また、触媒層14は酸化を促進する触媒作用を有し、Ce、Ag、In、Ga、Co、Zrの各酸化物から選択される1以上の酸化物を主成分とすることもできる。更に前記酸化物と、ペロブスカイト型構造の複合酸化物を混合したものを主成分としてもよい。
【0015】
触媒層14を上記に示すペロブスカイト型構造の複合酸化物、スピネル型構造の複合酸化物、及びK2 Mn48 のいずれかを主体とした複合酸化物で形成した場合、複合酸化物中の酸素位置には酸素原子を容易に結合及び離脱させる格子欠陥が形成される。そこで、図2に示すように、排気ガス中の窒素酸化物が触媒層14と接触すると、窒素酸化物の酸素原子が触媒層14を構成している複合酸化物中の格子欠陥に取り込まれて窒素酸化物は窒素に変化し触媒層14から放出される。次に、例えば、炭素を主体とした微粒子12が多孔質フィルタ本体13に捕集されて触媒層14を構成している複合酸化物に接触すると、この微粒子12と複合酸化物中の格子欠陥に取り込まれている酸素が反応して二酸化炭素が生成され触媒層14から放出される。これにより、複合酸化物中の格子欠陥が再生されると共に、排気ガス中の微粒子12と窒素酸化物が同時に除去される。
【0016】
次に、本発明の一実施の形態に係るディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法について説明する。
先ず、セラミックス繊維11の不織布、あるいは不織布と織布を組み合わせて多孔質フィルタ本体13を成形する。次いで、微粒子12の酸化及び窒素酸化物の分解を促進する触媒作用を有する平均粒径が1μm以下の微細粉末が有機溶媒(例えば、アセトン)中に分散している有機溶媒懸濁液を調整する。そして、有機溶媒懸濁液中に多孔質フィルタ本体13を浸漬する(以上、第1工程)。
ここで、微細粉末には、K、Ni、Sr、Co、La、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Ba、Ce、Li、及びPdから選択される2以上の金属元素で構成されるペロブスカイト型構造の複合酸化物、K、Ni、Cr、Mg、Co、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Na、Li、Pd、Ba、Ce、及びLaから選択される2以上の金属元素で構成されるスピネル型構造の複合酸化物、K2 Mn48 、Ce、Ag、In、Ga、Co、Zrの各酸化物から選択される1以上の酸化物、更にCe、Ag、In、Ga、Co、Zrの各酸化物から選択される1以上の酸化物とペロブスカイト構造の複合酸化物の混合物のいずれか1つを主成分とすることができる。
【0017】
一般に酸化物は懸濁液中で正に帯電するので、多孔質フィルタ本体13と共に炭素電極を有機溶媒懸濁液中に浸漬し、炭素電極を陽極側に多孔質フィルタ本体13が陰極側になるように電圧を印加すると、正に帯電した微細粉末が負に分極されているセラミックス繊維11に向けて有機溶媒中を移動し(電気泳動の作用により)セラミックス繊維11の表面上に微細粉末が均一に堆積して行く(以上、第2工程)。
ここで、セラミックス繊維11の表面上における微細粉末の堆積速度は有機溶媒懸濁液の濃度、電圧、及び印加時間により決まるので、例えば、有機溶媒懸濁液の濃度と電圧を管理すると、印加時間により堆積厚さを調整できる。例えば、セラミックス繊維11の表面上に微細粉末を堆積させる厚さは、0.1〜5μmである。堆積厚さが0.1μm未満ではセラミックス繊維11の表面上に連続した微細粉末の堆積層が形成され難く、これから得られる触媒層14の比表面積も小さくなって好ましくない。一方、5μmを超えて微細粉末の堆積層を形成すると、比表面積は増大するが排気ガスの通過する有効断面積が低下し排気ガスの通過抵抗が増加するので好ましくない。
【0018】
所定厚さの微細粉末の堆積層が形成されたセラミックス繊維11を主体に構成された多孔質フィルタ本体13を乾燥させて有機溶媒を除去した後、多孔質フィルタ本体13を加熱し微細粉末を焼結させてセラミックス繊維11の表面上に定着した触媒層14が形成される(以上、第3工程)。
ここで、焼結は微細粉末の結晶構造が変化せず、微細粉末の粒成長と堆積層の収縮が顕著に起こらないような温度と時間を選定して行なう。これによって、堆積層を形成している微細粒子は相互に連結し、平均粒径が1μm以下で比表面積の大きな(例えば、比表面積がセラミックス繊維11の比表面積の5倍以上、好ましくは10倍以上)触媒層14に変化する。
【実施例】
【0019】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実施例について説明する。ここで、図3は本発明の実施例1で得られたディーゼルパティキュレートフィルタの炭化硅素繊維表面に形成された触媒層の組織を示す走査型電子顕微鏡写真、図4は比較例1で得られたディーゼルパティキュレートフィルタの炭化硅素繊維表面に形成された触媒層の組織を示す走査型電子顕微鏡写真である。
[実施例1]
直径が11μm、長さが50〜60mmの炭化硅素繊維を用いて、厚さ4mm、嵩密度0.07g/cm3 、比表面積80cm2 /gの不織布から構成される多孔質フィルタ本体を作製した。そして、予め合成しておいたLa0.90.1 CoO3 の組成を有するペロブスカイト型構造の複合酸化物を平均粒径が0.8μmになるように粉砕し、得られた微細粉末をアセトン中に2g/リットルの濃度で分散させて懸濁液(有機溶媒懸濁液)を調製した。次いで、多孔質フィルタ本体を懸濁液中に浸漬し、多孔質フィルタ本体を陰極側にして150Vの電圧を5分間印加した後取出し、乾燥してから800℃で2時間焼結して、炭化硅素繊維の表面上に触媒層が形成されたディーゼルパティキュレートフィルタを作製した。
【0020】
炭化硅素繊維の表面上に形成された触媒層のX線回折により、触媒層はLa0.90.1 CoO3 の組成を有するペロブスカイト型構造の複合酸化物であることが確認された。また、炭化硅素繊維の表面に形成された触媒層を走査型電子顕微鏡により観察すると、図3に示すように、炭化硅素繊維上に粒径が1μm程度の粒子が連結した凹凸の非常に激しく、比表面積が大きな組織が形成されていることが確認された。なお、ディーゼルパティキュレートフィルタの比表面積を測定すると480cm2 /gであり、炭化硅素繊維の比表面積の約6倍であった。
【0021】
実施例1で製造したディーゼルパティキュレートフィルタの有する微粒子の完全酸化能と窒素酸化物の分解能を昇温反応法により調べた。先ず、排気ガス中の微粒子が捕集された状態としてディーゼルパティキュレートフィルタにカーボンブラックを5重量%含有させたものを反応管内に充填し、窒素酸化物を含有した排気ガスとして5%O2 −0.5%NO−Heの組成のガスを20ミリリットル/分で流しながら1℃/分で連続昇温し、生成するCO2 ガス及びN2 ガスを15分間隔でガスクロマトグラフィにより分析した。カーボンブラックの燃焼により生成するCO2 ガスの検出開始温度から求まる燃焼開始温度Tigと、NOガスの還元により生成するN2 ガスの全生成量V[N2 ]を表1に示す。Tigが低く、V[N2 ]が大きいほど微粒子の完全酸化能と窒素酸化物の分解能が優れていることが判る。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から、Tigは222℃、V[N2 ]は9.4×10-5molと求まり、ディーゼルパティキュレートフィルタは微粒子を酸化する触媒作用と窒素酸化物を分解する触媒作用を有していることが確認できた。
【0024】
[実施例2]
実施例1と同じ多孔質フィルタ本体を作製し、予め合成しておいたLa0.750.25MnO3 の組成を有するペロブスカイト型構造の複合酸化物を平均粒径が0.8μmになるように粉砕し、得られた微細粉末をアセトン中に2g/リットルの濃度で分散させて懸濁液を調製した。次いで、多孔質フィルタ本体を懸濁液中に浸漬し、多孔質フィルタ本体を陰極側にして150Vの電圧を5分間印加した後取出し、乾燥してから800℃で2時間焼結して、炭化硅素繊維の表面上に触媒層が形成されたディーゼルパティキュレートフィルタを作製した。
【0025】
炭化硅素繊維の表面上に形成された触媒層のX線回折により、触媒層はLa0.750.25MnO3 の組成を有するペロブスカイト型構造の複合酸化物であることが確認された。また、炭化硅素繊維の表面に形成された触媒層を走査型電子顕微鏡により観察して、炭化硅素繊維上に粒径が1μm程度の粒子が連結した凹凸の非常に激しく、比表面積が大きな組織が形成されていることが確認された。なお、ディーゼルパティキュレートフィルタの比表面積を測定すると440cm2 /gであり、炭化硅素繊維の比表面積の約5.5倍であった。
更に、実施例1と同様に製造したディーゼルパティキュレートフィルタの有する微粒子の完全酸化能と窒素酸化物の分解能を昇温反応法により調べた。その結果を表1に示す。Tigは225℃、V[N2 ]は8.9×10-5molと求まり、ディーゼルパティキュレートフィルタは微粒子を酸化する触媒作用と窒素酸化物を分解する触媒作用を有していることが確認できた。
【0026】
[実施例3]
実施例1と同じ多孔質フィルタ本体を作製し、予め合成しておいたCu0.950.05FeO4 の組成を有するスピネル型構造の複合酸化物を平均粒径が0.8μmになるように粉砕し、得られた微細粉末をアセトン中に2g/リットルの濃度で分散させて懸濁液を調製した。次いで、多孔質フィルタ本体を懸濁液中に浸漬し、多孔質フィルタ本体を陰極側にして150Vの電圧を5分間印加した後取出し、乾燥してから800℃で2時間焼結して、炭化硅素繊維の表面上に触媒層が形成されたディーゼルパティキュレートフィルタを作製した。
【0027】
炭化硅素繊維の表面上に形成された触媒層のX線回折により、触媒層はCu0.950.05FeO4 の組成を有するスピネル型構造の複合酸化物であることが確認された。また、炭化硅素繊維の表面に形成された触媒層を走査型電子顕微鏡により観察して、炭化硅素繊維上に粒径が1μm程度の粒子が連結した凹凸の非常に激しく、比表面積が大きな組織が形成されていることが確認された。なお、ディーゼルパティキュレートフィルタの比表面積を測定すると420cm2 /gであり、炭化硅素繊維の比表面積の約5.3倍であった。
更に、実施例1と同様に製造したディーゼルパティキュレートフィルタの有する微粒子の完全酸化能と窒素酸化物の分解能を昇温反応法により調べた。その結果を表1に示す。Tigは227℃、V[N2 ]は8.5×10-5molと求まり、ディーゼルパティキュレートフィルタは微粒子を酸化する触媒作用と窒素酸化物を分解する触媒作用を有していることが確認できた。
【0028】
[実施例4]
実施例1と同じ多孔質フィルタ本体を作製し、予め合成しておいたCeO2 の組成を有するスピネル型構造の複合酸化物を平均粒径が0.8μmになるように粉砕し、得られた微細粉末をアセトン中に2g/リットルの濃度で分散させて懸濁液を調製した。次いで、多孔質フィルタ本体を懸濁液中に浸漬し、多孔質フィルタ本体を陰極側にして150Vの電圧を5分間印加した後取出し、乾燥してから800℃で2時間焼結して、炭化硅素繊維の表面上に触媒層が形成されたディーゼルパティキュレートフィルタを作製した。
【0029】
炭化硅素繊維の表面上に形成された触媒層のX線回折により、触媒層はCeO2 の組成を有する酸化物であることが確認された。また、炭化硅素繊維の表面に形成された触媒層を走査型電子顕微鏡により観察して、炭化硅素繊維上に粒径が1μm程度の粒子が連結した凹凸の非常に激しく、比表面積が大きな組織が形成されていることが確認された。なお、ディーゼルパティキュレートフィルタの比表面積を測定すると420cm2 /gであり、炭化硅素繊維の比表面積の約5.3倍であった。
更に、実施例1と同様に製造したディーゼルパティキュレートフィルタの有する微粒子の完全酸化能を昇温反応法により調べた。その結果を表1に示す。Tigは205℃と求まり、ディーゼルパティキュレートフィルタは微粒子を酸化する触媒作用を有していることが確認できた。
【0030】
[実施例5]
実施例1と同じ多孔質フィルタ本体を作製し、予め合成しておいたCeO2とLa0.750.25MnO3の組成を有するペロブスカイト型構造の複合酸化物を1:1で混合し、平均粒径が0.8μmになるように粉砕し、得られた微細粉末をアセトン中に2g/リットルの濃度で分散させて懸濁液を調製した。次いで、多孔質フィルタ本体を懸濁液中に浸漬し、多孔質フィルタ本体を陰極側にして150Vの電圧を5分間印加した後取出し、乾燥してから800℃で2時間焼結して、炭化硅素繊維の表面上に触媒層が形成されたディーゼルパティキュレートフィルタを作製した。
【0031】
炭化硅素繊維の表面上に形成された触媒層のX線回折により、触媒層はCeO2 の組成を有する酸化物とLa0.750.25MnO3 の組成を有するペロブスカイト型構造の複合酸化物の2種類であることが確認された。また、炭化硅素繊維の表面に形成された触媒層を走査型電子顕微鏡により観察して、炭化硅素繊維上に粒径が1μm程度の粒子が連結した凹凸の非常に激しく、比表面積が大きな組織が形成されていることが確認された。なお、ディーゼルパティキュレートフィルタの比表面積を測定すると440cm2 /gであり、炭化硅素繊維の比表面積の約5.5倍であった。
更に、実施例1と同様に製造したディーゼルパティキュレートフィルタの有する微粒子の完全酸化能と窒素酸化物の分解能を昇温反応法により調べた。その結果を表1に示す。Tigは210℃、V[N2 ]は8.7×10-5molと求まり、ディーゼルパティキュレートフィルタは微粒子を酸化する触媒作用と窒素酸化物を分解する触媒作用を有していることが確認できた。
【0032】
[比較例1]
実施例1と同じ多孔質フィルタ本体を作製し、ランタン、カリウム、コバルトの各アルコキシドを用いてLa0.90.1 CoO3 の組成を有するペロブスカイト型構造の複合酸化物が合成されるように調整したアルコキシドトルエン溶液に浸漬して炭化硅素繊維の表面上にアルコキシドの膜を形成した後引き上げ、トルエンを乾燥除去した後に800℃で2時間焼結して、炭化硅素繊維の表面上に触媒層が形成されたディーゼルパティキュレートフィルタを作製した。
【0033】
炭化硅素繊維の表面上に形成された触媒層のX線回折により、触媒層はLa0.90.1 CoO3 の組成を有するペロブスカイト型構造の複合酸化物であることを確認した。また、炭化硅素繊維の表面に形成された触媒層を走査型電子顕微鏡により観察すると、図4に示すように、炭化硅素繊維上に不規則なサイズの粒子が連結し凹凸の少ない比表面積の小さな組織が形成されていることが確認された。なお、ディーゼルパティキュレートフィルタの比表面積を測定すると85cm2 /gであり、炭化硅素繊維の比表面積の約1.05倍であった。
更に、実施例1と同様に製造したディーゼルパティキュレートフィルタの有する微粒子の完全酸化能と窒素酸化物の分解能を昇温反応法により調べた。その結果を表1に示す。Tigは237℃、V[N2 ]は6.3×10-5molと求まった。比較例1のディーゼルパティキュレートフィルタにおいても微粒子を酸化する触媒作用と窒素酸化物を分解する触媒作用を確認できたが、実施例1〜3、5と比較するとTigは高く、V[N2 ]は小さくなっている。従って、実施例1〜3、5のディーゼルパティキュレートフィルタは、優れた微粒子の完全酸化能及び窒素酸化物の分解能を有していることが確認できた。
【0034】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明のディーゼルパティキュレートフィルタ及びその製造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、多孔質フィルタ本体をセラミックス繊維の不織布、あるいは不織布と織布を組み合わせたものを成形して形成したが、セラミックス繊維を裁断したものを成形し焼結して一体化させてることにより多孔質フィルタ本体を形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施の形態に係るディーゼルパティキュレートフィルタの部分断面図である。
【図2】同ディーゼルパティキュレートフィルタの触媒作用を説明する模式図である。
【図3】本発明の実施例1で得られたディーゼルパティキュレートフィルタの炭化硅素繊維表面に形成された触媒層の組織を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】比較例1で得られたディーゼルパティキュレートフィルタの炭化硅素繊維表面に形成された触媒層の組織を示す走査型電子顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0036】
10:ディーゼルパティキュレートフィルタ、11:セラミックス繊維、12:微粒子、13:多孔質フィルタ本体、14:触媒層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子と窒素酸化物を除去するディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、
セラミックス繊維を主体に構成され前記微粒子を捕集する多孔質フィルタ本体と、
前記多孔質フィルタ本体に担持され捕集された前記微粒子の酸化及び前記窒素酸化物の分解をそれぞれ促進する触媒層とを有し、
前記触媒層の比表面積は前記セラミックス繊維の比表面積の5倍以上であることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項2】
請求項1記載のディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、前記触媒層はK、Ni、Sr、Co、La、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Ba、Ce、Li、及びPdから選択される2以上の金属元素で構成されるペロブスカイト型構造の複合酸化物を主成分とすることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項3】
請求項1記載のディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、前記触媒層はK、Ni、Cr、Mg、Co、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Na、Li、Pd、Ba、Ce、及びLaから選択される2以上の金属元素で構成されるスピネル型構造の複合酸化物を主成分とすることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項4】
請求項1記載のディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、前記触媒層はK2 Mn48 を主成分とすることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項5】
請求項1記載のディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、前記触媒層は酸化を促進する触媒作用を有する酸化物とペロブスカイト型構造の複合酸化物を主成分とする混合物であることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項6】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子を除去するディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、
セラミックス繊維を主体に構成され前記微粒子を捕集する多孔質フィルタ本体と、
前記多孔質フィルタ本体に担持され捕集された前記微粒子の酸化を促進する触媒層とを有し、
前記触媒層の比表面積は前記セラミックス繊維の比表面積の5倍以上であることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項7】
請求項6記載のディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、前記触媒層は、触媒作用を有する酸化物であることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項8】
請求項5及び7のいずれか1項に記載のディーゼルパティキュレートフィルタにおいて、前記酸化を促進する触媒作用を有する酸化物は、Ce、Ag、In、Ga、Co、及びZrの各酸化物から選択される1以上の酸化物であることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタ。
【請求項9】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子と窒素酸化物を除去するディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、
前記微粒子の酸化及び前記窒素酸化物の分解をそれぞれ促進する触媒作用を有する微細粉末が分散している有機溶媒懸濁液中にセラミックス繊維を主体に構成され前記微粒子を捕集する多孔質フィルタ本体を浸漬する第1工程と、
前記多孔質フィルタ本体を陰極側にして電圧を加えて電気泳動により該多孔質フィルタ本体を構成している前記セラミックス繊維の表面に前記微細粉末を堆積させる第2工程と、前記セラミックス繊維の表面に前記微細粉末が堆積している前記多孔質フィルタ本体を加熱し、該微細粉末を焼結させて該セラミックス繊維の表面上に触媒層を形成する第3工程とを有することを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法。
【請求項10】
請求項9記載のディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、前記微細粉末はK、Ni、Sr、Co、La、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Ba、Ce、Li、及びPdから選択される2以上の金属元素で構成されるペロブスカイト型構造の複合酸化物を主成分とすることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法。
【請求項11】
請求項9記載のディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、前記微細粉末はK、Ni、Cr、Mg、Co、Cu、V、Mn、Fe、Cs、Na、Li、Pd、Ba、Ce、及びLaから選択される2以上の金属元素で構成されるスピネル型構造の複合酸化物を主成分とすることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法。
【請求項12】
請求項9記載のディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、前記微細粉末はK2 Mn48 を主成分とすることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法。
【請求項13】
請求項9記載のディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、前記微細粉末は酸化を促進する触媒作用を有する微細粉末とペロブスカイト型構造の複合酸化物の微細粉末の混合物を主成分とすることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法。
【請求項14】
ディーゼルエンジンの排気ガス中に含まれる微粒子を除去するディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、
前記微粒子の酸化を促進する触媒作用を有する微細粉末が分散している有機溶媒懸濁液中にセラミックス繊維を主体に構成され前記微粒子を捕集する多孔質フィルタ本体を浸漬する第1工程と、
前記多孔質フィルタ本体を陰極側にして電圧を加えて電気泳動により該多孔質フィルタ本体を構成している前記セラミックス繊維の表面に前記微細粉末を堆積させる第2工程と、前記セラミックス繊維の表面に前記微細粉末が堆積している前記多孔質フィルタ本体を加熱し、該微細粉末を焼結させて該セラミックス繊維の表面上に触媒層を形成する第3工程とを有することを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法。
【請求項15】
請求項13及び14のいずれか1項に記載のディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法において、前記微粒子の酸化を促進する触媒作用を有する微細粉末が、Ce、Ag、In、Ga、Co、及びZrの各酸化物から選択される1以上の酸化物であることを特徴とするディーゼルパティキュレートフィルタの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−68730(P2006−68730A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225760(P2005−225760)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(594081397)株式会社超高温材料研究所 (15)
【Fターム(参考)】