デジタル狭帯域、波長特定式調理、硬化、食品処理、および加工のための方法およびシステム
幅広くさまざまな処理の目的で食品アイテムへと選択された熱赤外(IR)波長の放射またはエネルギーを直接注入するためのシステムが提供される。そのような目的として、加熱あるいは食品の温度の上昇または維持を挙げることができる。このシステムは、特定的に選択された波長での照射の能力や、放射のパルス化または注入の能力が必要とされ、あるいはそのような能力が有利である作業に特に適用可能である。このシステムは、より高い速度および対象との接触がない環境で機能するときに、特に好都合である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年3月5日付の米国特許仮出願第61/157,799号の優先権を主張し、この米国特許仮出願にもとづいており、この米国特許仮出願の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。さらに、本出願は、2006年2月9日付の米国特許出願第11/351,030号の部分継続出願でもあり、米国特許出願第11/351,030号は、2004年12月3日付の米国特許出願第11/003,679号(今や、2008年9月16日発行の米国特許第7,425,296号である)の継続出願であり、両出願の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
多数のさまざまな種類の調理が、数千年にわたって、種々の広帯域の熱源によって実行されてきている。加熱のために人間によって広く使用されている最先かつ最も基本的な熱源は、火である。火は、UVから遠赤外までの範囲にわたる放射熱エネルギーを生じさせる。各波長の放射の強度を定める出力曲線の実際の形状は、火の温度の関数として変化する。木材および石炭の火が油またはガスを燃料とするオーブンまたは調理面に移行したとき、根本は、火の燃焼によって広帯域の放射エネルギー源が生み出される点で、変わらないままであった。知識ベースが、一般的に入手可能な広帯域を有するオーブン調理という仮定を包含して蓄積された。20世紀の早い時期に電気がより一般的になったとき、電気エネルギーによる抵抗ベースの加熱コイルが、種々の燃焼ベースの熱源に代わって頻繁に使用されるようになった。これらの抵抗加熱コイルは、一般的に、業界においてCalrodと称されることが多い。消費者にとっては新規かつ最新であるように感じられるが、依然として基本的にはまさに広帯域の照射源である。このことは、周知であるとともに、Calrod加熱コイルが真っ赤に輝くことができるという事実(可視スペクトルの出力を示しており、遠赤外の波長へと続くエネルギーも生み出す)によっても証明される。きわめて広帯域の出力源であるけれども、そのピーク出力は、動作の温度に応じて、典型的には遠赤外の範疇にある。
【0003】
最近の数十年において、石英ハロゲンのランプ、管、および電球が、さまざまな種類のオーブンおよび硬化の用途において使用されている。石英が、はるかに高温の黒体プランク源を近似するため、典型的な抵抗熱源に比べて、可視スペクトルにおいて大幅に大きなエネルギーが出力される。種々の石英ランプが、さまざまな温度で動作するように設計され、そのような温度によって、出力曲線の中心が変化するとともに、生み出される可視光のエネルギーの量も左右される。中心またはピークの出力は、典型的には近赤外または中赤外の範囲に位置する。動作の温度にかかわらず、石英は、依然として近〜中赤外の範囲のピーク出力および数千ナノメートルの帯域幅を有する広帯域の熱源である。
【0004】
タングステンフィラメント白熱光電球も、特殊なオーブンの調理用の熱源として使用されている。Franklin S.Malickが、米国特許第4,481,405号において、プラスチック製の調理袋の中の食品を調理するために白熱光電球を使用する単純なシステムを教示している。石英は、単純な抵抗コイルまたはバーナよりも珍しくて特殊なオーブンであるが、明らかに、熱源として使用されている広帯域のアナログ照射装置である。
【0005】
これらの様式のさまざまな組み合わせが使用されているが、それらはすべて、広帯域のアナログ装置を種々のやり方で単に組み合わせているにすぎない。Robert A.Mittelsteadtが、米国特許第4,486,639号において、初期のマルチモード調理方法のうちの1つを教示している。電子レンジの石英ランプ加熱装置との組み合わせが教示されている。石英ランプを直接照射に使用し、あるいは空気を加熱して高温空気の対流によって調理を行うために使用するという制御の選択肢を備えることで、3つの異なる機能が1つの電子レンジに組み合わせられている。マイクロ波による調理は、おそらくは最新の根本的に異なる調理技術であるが、基本的な高周波のマイクロ波は本質的に、実際には上述の熱源よりもはるかに幅広い帯域のアナログ源である。実際に、本発明よりも前に市場で入手することができる調理装置は、アナログ広帯域の形式の調理装置だけである。
【0006】
Ronald Lentzらが、米国特許第5,382,441号において、いくつかの基本的な考え方を理解および再教示している。Lentzらは、食品において、長い波長の赤外線が、より短い波長と比べて、浸透の深さが浅いことを認識している。また、加熱装置の温度の関数として変化する広帯域の放射出力を説明するプランクの黒体の法則の古典的な物理学を、ある深さにおいて認識および再教示している。Lentzらは、出力の波長を制御できることが望ましいが、この課題に対する簡潔、直接的、または効率的な解決策がないことを認識している。Lentzらは、それを効率的に行うことが絶対的に不可能である。したがって、広帯域のアナログ源を使用し、放射源と調理対象の食品との間にフィルタを付加することを教示している。水フィルタまたは処理ガラスフィルタが提案されている。Lentzらは、たとえ石英ランプという最良の選択でも「800〜1300nmの間の放射の最大でも35%しか届けることができないことが明らかになった」と認識している。したがって、Lentzらは、フィルタの使用を教示することによってエネルギーの65%を無駄にしようとしている。この65%は、フィルタによって吸収され、フィルタを過熱させて黒体放射体へと変化させるか、あるいはフィルタ手段から熱を取り除くために何らかの外部の手段を使用する結果となる。これは、実施が面倒である。いずれの状況においても、広帯域のアナログ源から望まれない波長を取り除くきわめて非効率的なやり方である。Lentzらは、対象に到達する照射を約500nmの帯域幅に限定することを教示しているが、それは依然として広帯域の源を呈する。Lentzらは、高分解能の吸収曲線を教示していない。すなわち、Lentzらは、彼らの非効率的な技法では依然として対処することができない微視的なピークおよび微視的な谷が多くの製品の吸収曲線に存在することを、教示も認識もしていない。例えば、本発明は、高分解能の曲線が、ピザ生地が1200nmにおいて900nmにおけるよりもおおよそ約4倍も吸収性であることを示しているという事実を利用することができる。同じ生地は、1200nmにおいて1100nmにおけるよりも約3倍も吸収性である。Lentzらは、彼らの解決策がもたらすことができるよりもさらに調理のやり方を最適化するために、この重要なデータを利用するいかなる種類の解決策も教示していない。また、Lentzらは、デジタル半導体ベースの狭帯域の熱源を教示しておらず、そのような熱源をどのように製作または実現できるかを開示していない。さらには、狭帯域の熱源が何を利点としてもたらすかも教示していない。また、いかなる「瞬時オン」/「瞬時オフ」の技術も教示または発明していない。パルス状の照射の技術はもちろん、その利点も教示していない。Lentzらは、自身の発明を他のIR放射源においても実施できることに軽く触れているが、それらのIR放射源がデジタル、半導体ベース、狭帯域、または指向性のいずれであるとも述べていない。さらには、直接的な電子−光子の変換を達成するIR照射源を実現するための方法を教示していない。Lentzらの発明の要旨が、ある種の望ましくない広帯域の範囲を軽減または除去するためにフィルタを使用することにあることは、明らかである。
【0007】
照射の波長が調理に種々の影響を有するという基本的考え方の多くは、何年も前から一般的に理解されている。例えば、きわめて長い波長が、皮膚の吸収または表面にきわめて近い対象の食品の加熱に貢献することが、一般的に理解されている。これが、多くの現行のオーブンが、典型的には、表面の加熱が所望の最終結果でない限り、食品を遠赤外線源の照射に直接曝すことがないように設計されている理由である。ブロイラ加熱素子が、典型的には、調理対象の食品を直接的に照射して表面の付近を焼いて調理することができるよう、調理対象の食品の上方に取り付けられる。他方で、ベーキング加熱素子が、なべまたは調理容器が食品と加熱素子との間に位置し、食品が長い波長の赤外エネルギーによって直接照射されることがないように、食品の下方に取り付けられる。この考え方の別の例が、食品を温かくてすぐに食べられる状態に保つための赤外線装置である米国特許第6,294,769号においてDavid McCarterによって教示されている。具体的には、フレンチフライなどの食品を実質的な追加の内部の調理を生じさせることなく所望の温度に保つために有用なシステムが記載されている。教示されている考え方は、おおむね7.91〜4.7μの波長範囲の赤外線加熱を生じさせる抵抗広帯域セラミック加熱素子を使用するという考え方である。図1が、およそ5.4μに位置するピーク吸収まで波長が長くなるにつれて吸収が増加し、次いでグラフに示されている7μの最大波長へと吸収が緩やかに低下する旨をおおむね示しているMcCarterによるフレンチフライの吸収グラフを示している。フレンチフライの比吸収係数が、4.7μにおける約62%から5.4μにおける約95%へと変化し、次いで7μにおける約73%へと再び低下している。McCarterは、照射の波長を当該用途に所望される正確な吸収係数に正確に一致させることを容易にすると考えられる狭帯域のエネルギーおよびデジタル源の使用を教示していない。McCarterが記載する広帯域の構成において、フレンチフライは、ある波長において、700nmしか離れていない波長と比べて50%も多い吸収を呈する。McCarterが発見できた最も狭い源を使用しても、理想的と考えられる吸収に合わせることは不可能であった。それは、広帯域の源では不可能である。さらに、McCarterは、食品を正確に正しい温度に維持するために瞬時にオフおよびオンにすることが可能でありながら、加熱装置のオン時にしかエネルギーが消費されないがゆえにデューティサイクルを小さくすることによって大幅にエネルギーを節約できるデジタル加熱システムを教示していない。McCarterは、自身の目的に適するきわめて低い分解能のグラフしか示していない。しかしながら、詳細な吸収曲線の形状をもたらすと考えられる分解能を欠いているため、大域的なピークではなくて局所的な微視的ピークへと照射を行う狭帯域のシステムによる照射が可能であるならば、はるかに短い波長において同じ平均吸収を得ることができる可能性があることについて、教示することができず、教示していない。
【0008】
Yang Kyeong Kimらが、米国特許第6,348,676号において、調理に石英ランプを使用するための方法を教示している。Kimらは、すでに述べたように、出力曲線の形状を、ランプがどの温度において機能するように設計されているかの関数として変化させることができる旨を教示している。Kimらは、約1.1μにピーク出力を有する2400°Kの装置として機能するように設計された石英ランプを示している。比較によると、2300°Kの装置は、やや平坦な出力曲線にて約1.25μにピーク出力を有している。最大出力の波長にかかわらず、両方の装置の曲線は、可視範囲の全体から中赤外領域の3μ以上までにかなりの出力を有するものとして示されている。図2において、Kimが、さまざまな食品アイテムの吸収スペクトル曲線を示している。これらは低分解能の吸収曲線であるが、各々の曲線が独自であって、他のすべての曲線とは異なっている。これらの曲線がおおむね共通に有しているのは、1400nm付近よりも下方において、この波長よりも上と比べて、大幅に透過性である(吸収が少ない)点である。Kimは、より低い色温度を有する石英ランプを使用することによって、おおむね1400nm付近よりも上であると示されているおおむね高い吸収の領域に位置するより長い波長の赤外エネルギーの出力が大きいがゆえに、食品をより速く調理することができると主張しようと試みている。Kimらは、個々の食品アイテムの最適な調理の吸収をどのように利用するかを教示していない。やはり、食品アイテムは、互いに大きく異なるそれらの吸収曲線に局所的かつ微小なピークおよび微小な谷を有している。わずかに100nmの波長範囲内でも、大きな差があることが明らかになっている。示されているグラフがきわめて低い分解能または細かさしか有していないため、これらの小さな特徴がKimらにとって無意味であったことは明らかである。図2に示されている曲線の広帯域な形状を検討したのでは、個々の食品に特徴的であり得る微小なピークまたは微小な谷に一致する波長を照射すること、およびそのような波長を利用することが、不可能であったと考えられる。McCarterと同様に、調理の機会および効率を真に最適化するためにデジタルの狭帯域の照射で調理を行うための方法は、まったく教示されていない。
【0009】
Brian Farkasらが、米国特許第7,307,243号において、広帯域の源の混合を取り入れるさらに別のやり方を教示している。Farkasらも、より長い波長が一般的に食品アイテムの表面の近くで吸収される一方で、より短い波長がより大きな浸透を有する傾向にあることを、認識している。Farkasらは、種々のワット数および温度のプランク黒体源の使用を教示している。Farkasらは、いくつかのグラフによって、これらの従来からのアナログ広帯域源をどのように中心周波数および曲線の平坦さに関して変更できるのかを示している。さらにFarkasらは、より高温で働く黒体源ほど中心波長が短いという物理学において周知の内容を示している。したがって、波長が短くなるにつれ、曲線がやや急勾配かつより急峻になる。しかしながら、どんなに多数の異なるやり方で適用されても、それが依然として数千ナノメートルの幅のアナログ広帯域源であり、その急峻さおよび曲線が加えられる電圧または電流(ワット数)に比例して変化することが、やはり示されている。さらに、Farkasらは、オーブンそのものの本体および構造が時間を経て高温になり、自身の固有の黒体再放射体になることを認識している。Farkasらは、加熱素子がオフにされた場合でも、構造的な再放射の結果としてオーブンにおいて行われているかなりの放射の調理が依然として存在することを教示および説明している。これは、瞬時のオンおよびオフが可能であり、暖機の時間が調理の品質に実質的に影響しない本発明とは、まったく正反対の教示である。さらにFarkasは、長年にわたって知られているが、構成だけが異なるオーブン装置を教示している。Farkasは、上述の他の者と同様に、高分解能の吸収曲線の微小なピークおよび微小な谷を利用して所望の加熱または調理を最適化するためにデジタル狭帯域源を取り入れてなる本発明から得られると考えられる利点のいずれも教示していない。また、対象および調理の任務に適切に一致させた直接的な狭帯域の照射を使用することによって可能になる調理の速度の向上も教示していない。
【0010】
種々の他の特許が、伝統的なアナログ広帯域源を制御または上下に回転させ、あるいは調理対象からの距離を変化させる新規なやり方を教示している。米国特許第5,883,362号におけるDonald Pettiboneらが、そのような特許の例であるが、やはり本発明の利点、技法、および技術のいずれも教示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これまでは利用可能でなかった全く新しい種類の調理の用途および技術のために、波長選択性が高く、赤外放射の使用を促進することができる少量または大量の赤外線の放射装置の実現をもたらす。
【0012】
本発明の目的は、優れたIRエネルギー変換効率の性能を有する熱IR加熱システムを備えるオーブン、プロセス、または処理システムを提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、調理され、処理され、あるいは対象とされる特定の材料の特有の吸収スペクトルに合わせて調節されたIR浸透深さの性能を有するIR加熱システムを提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、いくつかの種類の調理の用途にとって最適となり得るように選択された狭い波長帯のIR放射を生成するREDの巧みな混合を取り入れることができる熱IR放射システムを提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、パルスモードで駆動することができ、そのようなパルスモードが、調理プロセスにおいて搬送されているときに食品アイテムにIR加熱をもたらすために特に適しており、あるいは食品アイテムの同期トラッキングの促進に特に適しているIR加熱システムを提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、金属化されたリフレクタ要素による案内がさらに可能であるIR加熱素子を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、食品ごとに特有のIR加熱能力を提供するために、食品温度の測定システムとともに働くことができるIR加熱システムを提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、半導体ベースの直接的な電流−光子のIR放射体または放射線放射ダイオード(RED)のアレイとして製造されるIR加熱素子を提供することにある。
【0019】
本発明のさらに別の利点は、熱伝導性の回路基板に取り付けられた素子、チップオンボードで取り熱伝導性の回路基板に取り付けられた素子、チップオンボードで折付けられた素子、ボールグリッドアレイで取り付けられた素子、拡大されたサイズの素子、および集積回路ベースの素子のうちの少なくとも1つを使用してアレイへと製造された半導体ベースのデジタル狭帯域素子を利用する熱注入システムを提供することにある。
【0020】
本発明のさらに別の利点は、きわめて特定的な単一または複数の狭い波長帯に大きな放射出力を有する赤外照射システムを提供することにある。
【0021】
本発明のさらに別の利点は、強力な熱赤外放射を生成し、位置、強度、波長、オン/オフの速度、指向性、パルス周波数、および製品のトラッキングのうちの少なくとも1つに関して高度にプログラム可能である機能性である。
【0022】
本発明のさらに別の利点は、熱エネルギーの注入について、現行の広帯域の熱源と比べて入力エネルギー効率が高いやり方を助成することにある。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、幅広い範囲の用途のための汎用的な放射加熱システムであって、プログラム可能性およびパルス化の可能性との組み合わせにおいて波長選択的な赤外放射の機能の向上を提供するように構成できる放射加熱システムを提供することにある。
【0024】
本発明のさらに別の利点は、定常状態の強度よりもはるかに高い瞬時強度を有するきわめて高速な高強度の突発パルスを容易にする能力にある。パルス化は、いくつかの用途において重要となり得るより高いレベルの浸透深さを達成することができるより高いエネルギーの瞬時の光インパルスも容易にすることができる。
【0025】
本発明のさらに別の利点は、必要な出力、サイズ、構成、形状、波長の組み合わせ、または特定の用途のための方策によって決定される他の態様を提供するために、狭帯域の半導体ベースの素子によって、必要とされる数の素子をアレイに組み合わせることで、必要に応じてモジュール式で拡大できる点にある。そのような素子のアレイは、特定の用途を満足させるための必要に応じて、数十、数百、または数千の素子を含むことができる。
【0026】
本発明のさらに別の利点は、廃熱をそれを必要とする別の場所へと容易に運び去ることができ、あるいは対象外の加熱を減らすために使用の環境から運び去ることができる点にある。
【0027】
本発明のさらに別の利点は、周囲の廃熱をデジタル狭帯域半導体素子の直近から容易に取り除き、屋外の場所であってもよい好ましい場所へと運ぶことが出来るオーブンまたは対象加熱システムを構築できる能力にある。
【0028】
本発明のさらに別の利点は、RED素子を高密度でパッケージングし、これまでは現実的に達成されていなかった固体熱IR出力レベルをもたらすことができる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
ここで説明される実施形態の一態様においては、システムが、食品アイテムを直接的または間接的な照射の少なくとも一方のために配置することができる照射ゾーンと、指向性の照射素子をはるかに高い瞬時強度を有するきわめて高速な大ゾーンの近傍に、照射素子からの照射を直接的または間接的に食品アイテムに衝突させることができるように保持する構造と、オンとなるしきい値においてきわめて狭い電圧変化の範囲を有するようなデジタル素子であり、少なくとも1つの狭帯域の放射を選択的に放射するように動作することができ、少なくとも1つの食品アイテムの吸収の特徴に一致する照射出力波長にもとづいて選択されている少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射素子と、前記狭帯域の照射素子を動作させるべく少なくとも電流を供給する制御システムと、を備える。
【0030】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射出力の波長を通すことなく照射ゾーンの観察を可能にするように配置された観察窓をさらに備える。
【0031】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、観察時に放射を選択的にオフにするためのシャッタシステムをさらに備える。
【0032】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射出力の波長をシステム内に封じ込めるように動作することができる少なくとも1つの扉をさらに備える。
【0033】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、食品アイテムの位置を検出するように動作することができるセンサをさらに備える。
【0034】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記センサが、食品アイテムの位置、食品の種類、および食品アイテムのサイズを検出するカメラを備える。
【0035】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記カメラが、赤外線カメラである。
【0036】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記センサの出力が、封じ込めの状態を判断するために使用される。
【0037】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、食品アイテムを照射ゾーンへと運ぶための搬送システムをさらに備える。
【0038】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射の前、最中、または後のうちの少なくとも1つにおいて食品アイテムについての少なくとも1つの様相を検出して、検出の結果として行動をとるように動作することができるセンサをさらに備える。
【0039】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記センサが、位置、食品の種類、および食品アイテムのサイズを検出するカメラを備える。
【0040】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記カメラが、赤外線カメラである。
【0041】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの様相が、温度、表面の乾燥度、色、またはサイズである。
【0042】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、700nm〜1200nmの間のどこかの近赤外範囲において狭帯域の照射を生成する。
【0043】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、1200nm〜3500nmの間の中赤外の範囲の少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0044】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、可視光の範囲の少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0045】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、3500nmを上回る少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0046】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射素子が、自身の狭帯域の照射を、照射することができる予想の対象の吸収特性に一致するように各々が選択される2つの異なる狭帯域の照射波長に生成する。
【0047】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、食品アイテムの吸収の特徴が、前記2つの波長の各々の中心において異なる。
【0048】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、狭帯域の加熱に加えて食品アイテムを調理すべく選択的に作動させられる広帯域の照射要素をさらに備える。
【0049】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記広帯域の照射要素が、石英層、高感度加熱要素、およびマイクロ波要素のうちの少なくとも1つを備える。
【0050】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが少なくとも2つの照射帯を使用し、その一方が1400nmよりも下であり、他方が1400nmよりも上である。
【0051】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射エネルギーを内部に安全に封じ込めるための構成を有しており、食品アイテムを直接的または間接的な照射の少なくとも一方のために配置することができる調理室と、前記調理室を少なくとも部分的に囲むとともに、指向性の照射素子を調理ゾーンの近傍に、該照射素子からの照射を直接的または間接的の少なくとも一方にて前記食品アイテムに衝突させることができるように保持する構造と、対象の食品アイテムのうちの少なくとも1つのある波長における少なくとも1つの吸収の特徴に一致するように照射出力の波長が選択された少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射素子と、ユーザインターフェイスによる設定、センサの出力、あるいは前記室が使用中かつ前記照射エネルギーを安全に封じ込めているとの判断の少なくとも1つにもとづいて、前記室に照射の出力をもたらすべく前記狭帯域の照射素子をデジタル的に制御するために少なくとも電流を供給する制御システムと、を備える。
【0052】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射出力の波長を通すことなく照射ゾーンの観察を可能にするように配置された観察窓をさらに備える。
【0053】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、観察時に放射を選択的にオフにするためのシャッタシステムをさらに備える。
【0054】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、食品アイテムを照射ゾーンへと運ぶための搬送システムをさらに備える。
【0055】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射の前、最中、または後のうちの少なくとも1つにおいて食品アイテムについての少なくとも1つの様相を検出して、検出の結果として行動をとるように動作することができるセンサをさらに備える。
【0056】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記センサが、位置、食品の種類、および食品アイテムのサイズを検出するカメラを備える。
【0057】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記カメラが赤外線カメラである。
【0058】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの様相が、温度、表面の乾燥度、色、またはサイズである。
【0059】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、700nm〜1200nmの間のどこかの近赤外範囲において狭帯域の照射を生成する。
【0060】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、1200nm〜3500nmの間の中赤外の範囲の少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0061】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、可視光の範囲の少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0062】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、3500nmを上回る少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0063】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射素子が、自身の狭帯域の放射を、照射することができる予想の対象の吸収特性に一致するように各々が選択される2つの異なる狭帯域の照射波長に生成する。
【0064】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、食品アイテムの吸収の特徴が、前記2つの波長の各々の中心において異なる。
【0065】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、狭帯域の加熱に加えて食品アイテムを調理すべく選択的に作動させられる広帯域の照射要素をさらに備える。
【0066】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記広帯域の照射要素が、石英層、高感度加熱要素、およびマイクロ波要素のうちの少なくとも1つを備える。
【0067】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが少なくとも2つの照射帯を使用し、その一方が1400nmよりも下であり、他方が1400nmよりも上である。
【0068】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記制御システムが、システムの電子機器を冷却すべく動作することができる冷却システムを備える。
【0069】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、ユーザに調理またはシステムの状態を警報するように動作することができる通知システムをさらに備える。
【0070】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、冷却室から湿気、煙、または蒸気のうちの少なくとも1つを取り除くように動作することができる通気システムをさらに備える。
【0071】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記通気システムが、ファンまたは触媒を含む。
【0072】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、少なくとも1つの対象食品アイテムを照射ゾーンに導入し、放射線放射素子によって直接的または間接的に照射できるように配置するステップと、前記照射ゾーンを安全に取り囲むステップと、前記照射ゾーンが安全に取り囲まれている期間の間に、少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域照射素子から指向性の放射を放射するステップと、前記放射の際に前記少なくとも1つの対象食品アイテムの吸収の特徴に一致する少なくとも1つの狭帯域の波長で前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップと、を含む。
【0073】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップが、該少なくとも1つの食品アイテムを方向性の放射の関数として塗装するステップを含む。
【0074】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、前記少なくとも1つの食品アイテムに選択された風味を加えるための要素を照射するステップをさらに含む。
【0075】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記放射のステップが、前記少なくとも1つの照射素子をパルス状に動作させるステップを含む。
【0076】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、実質的に異なる波長帯の各々の中心における吸収の特徴にもとづいて選択される2つの波長帯を含む。
【0077】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記選択される波長帯の中心が、少なくとも150nmは離れている。
【0078】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムへの深い浸透を達成する。
【0079】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムの表面の加熱を達成する。
【0080】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムの表面を加熱することなく、前記食品アイテムへの深い浸透を達成する。
【0081】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、広帯域の放射源を使用して前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップをさらに含む。
【0082】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記照射が、食品アイテムへと深く浸透することおよび食品アイテムの表面を焦がすことの両方を達成する。
【0083】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、調理され、硬化させられ、あるいは乾燥させられるべき食品アイテムを、少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射体の近傍の照射ゾーンに位置するように配置するステップと、前記食品アイテムの好ましい吸収特性の波長に対応する波長にて、前記少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域放射線放射素子からある時間期間にわたって前記食品アイテムを照射するステップと、照射の前、最中、または後のうちの少なくとも1つにおいて前記食品アイテムの少なくとも1つの様相を検出し、検出の結果として行動をとることによって照射を制御するステップと、を含む。
【0084】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、食品アイテムを調理室へと搬送するステップと、前記食品アイテムが前記調理室へと搬送されるときに該食品アイテムの位置を検出するステップと、前記食品アイテムが所望の位置にある旨を検出するステップと、前記検出にもとづいて前記搬送を停止させるステップと、前記調理室を閉鎖し、該室の中身を安全に封じ込めるステップと、前記食品アイテムの様相を検出または入力するステップと、前記検出または入力にもとづき、さらに調理パラメータにもとづいて、調理パターンを決定するステップと、前記食品アイテムの好ましい吸収特性の波長に対応する波長にて、少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域放射線放射素子から、ある時間期間にわたって、前記調理パターンにもとづいて前記食品アイテムを照射するステップと、前記照射の完了後に前記調理室を開くステップと、前記食品アイテムを前記調理室から運び出すステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】吸収曲線を示しているグラフである。
【0086】
【図2】吸収曲線を示しているグラフである。
【0087】
【図3】狭帯域の放射素子の図である。
【0088】
【図4】狭帯域の放射素子の図である。
【0089】
【図5】狭帯域の放射素子の図である。
【0090】
【図6】狭帯域の放射素子の図である。
【0091】
【図7】狭帯域の放射素子の図である。
【0092】
【図8】狭帯域の放射素子の図である。
【0093】
【図9】狭帯域の放射素子の図である。
【0094】
【図10】狭帯域の放射素子からなるアレイの図である。
【0095】
【図11】吸収曲線を示しているグラフである。
【0096】
【図12】ここで説明される実施形態のうちの一実施形態の図である。
【0097】
【図13】ここで説明される実施形態のうちの一実施形態の図である。
【0098】
【図14】ここで説明される実施形態のうちの一実施形態の図である。
【0099】
【図15】「瞬時オン」の素子の動作を、抵抗加熱素子と比べて示しているグラフである。
【0100】
【図16】吸収対透過を示している図表である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
本発明の開示は、パン、ペーストリ、パッケージ、個々のレシピ構成要素、ピザ、肉類、海産食品、鶏肉、野菜、加工済み食品または食事、あるいはこれらの一部または組み合わせに適したさまざまな調理支度、もしくは種々の他の加熱プロセスなど、さまざまな加熱、調理、処理、および硬化の用途のために、食品および他の対象アイテムへとデジタル狭帯域特定波長熱赤外(IR)エネルギーを直接注入するためのシステムを包含する。本発明を実施する目的は、調理し、焼き、揚げ、膨らませ、焦がし、温め、発酵させ、硬化させ、乾燥させ、さらには食品または他の製品の製造または支度に必要な他の反応を生じさせるために、食品または他のアイテムを加熱し、温度を上昇させ、あるいは温度を維持することを含むことができる。本発明は、放射の光子のエネルギーを案内し、パルス状にし、あるいは注入することによる特定的に選択された波長のデジタル半導体ベースの狭帯域の照射の実現を必要とし、あるいはそのような照射の実現が有利である作業に、特に適用可能である。この新規なシステムは、用途が高い速度、高い性能、高い選択性、または高いエネルギー効率のうちの少なくとも1つ(異なる用途に本発明が適用されるときにさまざまであり得る)を必要とする場合に、特に好都合である。
【0102】
狭帯域の放射に関して、特定波長の照射をもたらす利益を、仮定の放射加熱の例に目を向けることによって説明することができる。可視範囲から中赤外範囲に及ぶ電磁放射に対しておおむね透明である材料が、何らかの製造作業に対応するためにプロセス加熱を必要とすると仮定する。上述の例は、ただいま説明される実施形態を実際の用途へとどのように最も好都合に適用できるかの見本である。本明細書において説明されるとおりに特定の波長に限った放射エネルギーの出力を生成できる能力は、例えば食品アイテムの加熱、硬化、または乾燥のための種々のプロセス加熱の用途の効率の大きな改善を期待させる。
【0103】
本発明は、例えば食品処理用の上述のアナログ広帯域式の加熱装置を置き換えるという目的のために、かなりの量の放射を選択された波長において直接的に出力できるようにする新規かつ新たな手法に直接関係する。
【0104】
半導体加工技術の最近の進歩によって、おおむね近赤外および中赤外の範囲で動作する直接的な電子−光子の固体放射体が使用可能になっていることも注目される。これらの固体素子のいくつかは、一般的な発光ダイオード(LED)と同様に動作するが、可視光線を放射するのではなく、それよりも長い近赤外および中赤外の波長において真の熱IRエネルギーを放射する。利用可能になったそれらのうちの最初のいくつかは、有用かつ費用対効果に優れた固体素子の製造を妨げていた障壁を打ち破る量子ドット技術を利用するまったく新しい分類の素子を呈しており、出力が疑似単色であって中赤外線波長帯にある直接的な電子−光子の変換器として機能することができる。
【0105】
この新しい種類の素子を従来のより波長の短い素子(LED)と区別するために、これらの素子は、より適切には放射ダイオードまたは放射線放射ダイオード(RED)と記述される。これらの素子は、厳しく限定された波長範囲の放射電磁エネルギーを放射するという特性を有する。さらに、適切な半導体加工作業によって、REDを、対象の吸収スペクトルを相応に一致させることによって特定の放射処理用途に最も有利な特定の波長で放射を行うように調整することができる。
【0106】
さらに、目標とするIR範囲および場合によってはそれを超える範囲の光子を生成するための小面積の材料ドットまたは量子ドットのランダム分散アレイとして形成された逆極性ドープ領域と接触しているドープ平面領域の形成と関係したRED技術の革新が進んできた。この製造方法あるいは新規な半導体化合物の開発などの他の方法を十分に利用することにより、本発明に適した疑似単色の固体中赤外放射体がもたらされると考えられる。また、代替の半導体技術が、本発明を実施するために適切な構成要素になると考えられる中赤外および長波長の赤外の両方で利用可能になる可能性がある。
【0107】
これらの説明される実施形態において想定されるような電子(または電流)の光子への直接変換は、この作成されたダイオード放射体の固有のバンドギャップおよび量子ドット形状と一致する狭い波長範囲(疑似単色と称されることが多い)において生じる。RED放射源候補の半値帯域幅は、20〜500ナノメートルの範囲内のどこかになると予想される。このタイプの赤外線放射源の狭い帯域幅は、この完全な開示の内容内で示されるような種々の波長特定的な照射用途を支援するはずである。一群のRED素子およびそれらの素子を作成する技術は、別の特許出願の主題となっており、その出願は、Samar SinharoyおよびDave Wiltを発明者とする2004年11月16日付の「Quantum Dot Semiconductor Device」という名称の米国特許出願第60/628,330号(代理人整理番号:ERI.P.US0002;エクスプレスメールラベル番号EL726091609 US)(2005年11月16日に米国特許出願第11/280,509号としても出願)であり、この出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0108】
この「Quantum Dot Semiconductor Device」出願によれば、半導体素子は当技術分野で既知である。これらの素子は、電磁放射を電気に変換する光電池で使用される。またこれらの素子は、電気エネルギーを電磁放射(例えば、光)に変換する発光ダイオード(LED)として使用することもできる。ほとんどの半導体用途では、所望のバンドギャップ(電子ボルト)または所望の波長(ミクロン)が目標とされ、半導体は、その所望のバンドギャップ範囲または波長範囲に対応できるように作成される。
【0109】
特定の波長の放射または電子ボルトのエネルギーを達成する能力が重要でないわけではない。実際には、半導体は、特定の材料、そのエネルギーギャップ、その格子定数、およびその固有の放射性能の選択によって限定される。目的に応じて半導体素子を作成するために使用される1つの技術は、二元性化合物または三元性化合物を使用することである。素子の組成特徴を変化させることにより、技術的に有用な素子が巧みに設計されている。
【0110】
また、半導体素子の設計を操作して、素子の挙動を目的に合わせて調整することができる。一例において、半導体素子内に量子ドットを含めることができる。そのようなドットは、キャリアを量子的に閉じ込め、それにより同じ半導体のバルクサンプルと比べて光子放射エネルギーが変化すると考えられている。例えば、米国特許第6,507,042号は、量子ドット層を有する半導体素子を教示している。具体的には、この特許は、ヒ化インジウムガリウム(InxGa1−xAs)層上に付着させたヒ化インジウム(InAs)の量子ドットを教示している。この特許は、量子ドット(すなわち、InAs)とそのドットを付着させた層(すなわち、InxGa1−xAs)との間の格子不整合の量を制御することによって、量子ドットと関連した光子の発光波長を制御できることを開示している。この特許はまた、InxGa1−xAs基板内のインジウムのレベルを変化させることによって、InxGa1−xAs基板とInAs量子ドットとの間の格子不整合を制御できるという事実を開示している。InxGa1−xAs基板内のインジウムの量を増やすほど、不整合の度合いが小さくなり、光子放射に関連した波長が長くなる(すなわち、エネルギーギャップが小さくなる)。実際には、この特許は、基板内のインジウムの量を約10%から約20%に高めることにより、関連した光子の波長を約1.1μmから約1.3μmに長くできることを開示している。
【0111】
米国特許第6,507,042号に開示されている技術は、約1.3μmの波長を有する光子を放射または吸収することができる素子を提供する際に役立つことが分かっているが、InxGa1−xAs基板内のインジウムの量を高める能力は限られている。換言すると、インジウムのレベルが20%、30%、あるいは40%より多くなると、結晶構造内の不完全性または欠陥の程度は限定的になる。これは、特に、InxGa1−xAs基板がヒ化ガリウム(GaAs)基板またはウェハ上に付着させられた場合に当てはまる。したがって、米国特許第6,507,042号に開示された技術を利用しても、より長い波長の光子を放射または吸収する素子(より低いエネルギーギャップ)を実現することはできない。
【0112】
したがって、1.3μmよりも長い波長の光子を放射または吸収する半導体素子を有することが望ましいと考えられるので、この性質の半導体素子について、依然としてニーズが存在している。
【0113】
一般に、REDは、InxGa1−xAs層(xは、約0.64〜約0.72重量パーセントであるインジウムのモル分率である)と、前記InxGa1−xAs層上に配置された量子ドット(量子ドットは、InAsまたはAlzIn1−zAsを含み、zは、約5重量パーセント未満であるアルミニウムのモル分率である)を含む半導体素子を提供する。
【0114】
また、REDは、InAsまたはAlzIn1−zAsを含む量子ドット(zは、約5重量パーセント未満であるアルミニウムのモル分率)と、量子ドットの少なくとも一部分と接触するクラッド層とを含み、量子ドットおよび前記クラッド層の格子定数が少なくとも1.8%かつ2.4%未満の不整合である半導体素子も含む。
【0115】
半導体素子は、InxGa1−xAsマトリックスクラッディングと呼ばれることがあるヒ化インジウムガリウム(InxGa1−xAs)層上にヒ化インジウム(InAs)またはヒ化アルミニウムインジウム(AlzIn1−zAs(zは0.05以下))の量子ドットを含む量子ドット層を含む。ドットおよびInxGa1−xAsマトリクス層の格子定数は整合していない。格子不整合は、少なくとも1.8%、他の実施形態では少なくとも1.9%、他の実施形態では少なくとも2.0%、他の実施形態では少なくとも2.05%であってよい。有利には、不整合は、3.2%未満、他の実施形態では3.0%未満、他の実施形態では2.5%未満、他の実施形態では2.2%未満とすることができる。1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsマトリックスクラッディングの格子定数は、ドットの格子定数よりも小さい。
【0116】
ドットがInxGa1−xAsクラッディングマトリックス上に配置されたこれらの実施形態では、このクラッディングマトリクス層内のインジウムのモル濃度(すなわちx)は、約0.55〜約0.80、随意により約0.65〜約0.75、随意により約0.66〜約0.72、および随意により約0.67〜約0.70であってよい。
【0117】
1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsクラッディングマトリックスは、InxGa1−xAsクラッディングマトリックスと格子整合されたヒ化インジウムリン(InP1−yAsy)層上に配置される。1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsクラッディングが付着されたInP1−yAsy層は、InxGa1−xAsクラッディングと半導体を支持する基板との間に存在する複数の段階的(連続的または離散的)なInP1−yAsy層のうちの1層である。1つ以上の実施形態では、基板は、リン化インジウム(InP)ウェハを含む。さらに半導体は、InxGa1−xAsクラッディングと基板との間に配置されるInxGa1−xAs層などの1つ以上の他の層を含んでもよい。
【0118】
一実施形態が図3に示されている。図3ならびに他の図は、概略的表現であり、各層または構成要素の厚さあるいは各層間の相対的厚さまたは寸法が一定の縮尺で描かれているわけではない。
【0119】
素子1000は、基板1020、任意的に設けられる伝導層1025、緩衝構造1030、クラッド層1040、およびドット層1050を有する。当業者が理解するように、幾つかの半導体素子は、電流を電磁放射に変換し、あるいは電磁放射を電流に変換することによって動作する。そのような素子において電磁放射または電流を制御する能力は、当技術分野で既知である。この開示は、必ずしもそのような従来の設計を変更せず、その設計の多くは、半導体素子を製造または設計する当技術分野で既知である。
【0120】
一実施形態では、基板1020は、リン化インジウム(InP)を含む。InP基板1020の厚さは250ミクロン超、他の実施形態では300ミクロン超、他の実施形態では350ミクロン超とすることができる。有利には、この厚さは、700ミクロン未満、他の実施形態では600ミクロン未満、他の実施形態では500ミクロン未満とすることができる。
【0121】
1つ以上の実施形態では、考えられる半導体素子は、必要に応じて、エピタキシャル成長させたリン化インジウム層(InP)を含んでもよい。このエピタキシャル成長させたリン化インジウム層の厚さは、約10nm〜約1ミクロンとすることができる。
【0122】
一実施形態では、任意的に設けられる伝導層1025は、ヒ化インジウムガリウム(InxGa1−xAs)を含む。この層内のインジウムのモル濃度(すなわち、x)は、約0.51〜約0.55、随意により約0.52〜約0.54、随意により約0.53〜約0.535とすることができる。1つ以上の実施形態では、伝導層1025は、InP基板と格子整合されている。
【0123】
伝導層1025は、所与の素子に十分な導電率を提供するために、所定の値にドープされた適切な厚さのものとすることができる。1つ以上の実施形態においては、厚さを、約0.05ミクロン〜約2ミクロン、随意により約0.1ミクロン〜約1ミクロンとすることができる。
【0124】
1つ以上の実施形態では、緩衝層1030は、ヒ化リンインジウム(InP1−yAsy)を含む。ある実施形態では、緩衝層1030は、少なくとも2つ、随意により少なくとも3つ、随意により少なくとも4つ、および随意により少なくとも5つのInP1−yAsy層を含み、各層の格子定数は、層が基板1020から遠くになるほど高くなる。例えば、図4に示したように、緩衝構造1030は、第1の緩衝層1032、第2の緩衝層1034、および第3の緩衝層1036を含む。緩衝構造1030の最下層面1031は、基板1020と隣接しており、緩衝構造1030の最上平面1039は、障壁層1040に隣接している。第2の層1034の格子定数は、第1の層1032より大きく、第3の層1036の格子定数は、第2の層1034より大きい。
【0125】
当業者であれば理解できるとおり、緩衝構造1030の個々の層の格子定数を、連続した層の組成を変化させることによって高めることができる。1つ以上の実施形態では、InP1−yAsy緩衝層中のヒ素の濃度が、連続したそれぞれの層で高くされる。例えば、第1の緩衝層1032が、約0.10〜約0.18のモル分率のヒ素(すなわち、y)を含むことができ、第2の緩衝層1034が、約0.22〜約0.34のモル分率のヒ素を含むことができ、第3の緩衝層1036が、約0.34〜約0.40モル分率のヒ素を含むことができる。
【0126】
1つ以上の実施形態では、隣接した緩衝層の間(例えば、層1032と層1034との間)のヒ素の増加は、0.17モル分率未満である。連続した緩衝層間にできる欠陥は、ヒ素含有量を増やすことによる格子定数の変化によるものであり、半導体にとって有害ではないと考えられる。このように徐々に変化する臨界組成を使用する技術は、米国特許第6,482,672号に記載されているように既知であり、この特許は、参照によりここに組み込まれる。
【0127】
1つ以上の実施形態では、第1の緩衝層1032の厚さは、約0.3〜約1ミクロンであってよい。1つ以上の実施形態では、最上緩衝層は、一般に格子構造の完全な緩和を保証するためにこれより厚い。
【0128】
1つ以上の実施形態では、緩衝構造1030の最上面1039またはその近くの個別の緩衝層(例えば、緩衝層1036)は、約5.869Å〜約5.960Å、随意により約5.870Å〜約5.932Åの格子定数を有するように巧みに設計される。
【0129】
1つ以上の実施形態では、緩衝構造1030の最下面1031またはその近くの個別の緩衝層(例えば、緩衝層1032)は、臨界組成グレーディング技術の範囲内で巧みに設計されることが好ましい。換言すると、第1の緩衝層(例えば、緩衝層1032)がInPウェハ上に付着させられるので、第1の緩衝層(例えば、層1032)内に存在するヒ素の量は、17モル分率より少ない。
【0130】
クラッド層1040は、InxGa1−xAsを含む。1つ以上の実施形態では、この層は、緩衝構造1030の最上面1039またはその近くの最上緩衝層の平面内格子定数と格子整合されることが好ましい。格子整合という用語は、連続層相互間の格子定数の差が500ppm(すなわち、0.005%)の範囲内であることを指す。
【0131】
1つ以上の実施形態では、クラッド層1040は、約10オングストローム〜約5ミクロン、随意により約50nm〜約1ミクロン、随意により約100nm〜約0.5ミクロンの厚さを有することができる。
【0132】
1つ以上の実施形態では、量子ドット層1050は、ヒ化インジウム(InAs)を含む。層1050は、濡れ層(wetting layer)1051と量子ドット1052とを含むことが好ましい。濡れ層1051の厚さは、1または2単分子層とすることができる。一実施形態では、層1050の最下面1053およびドット1055の最上部から測ったドット1052の厚さは、約10nm〜約200nm、随意により約20nm〜約100nm、さらに随意により約30nm〜約150nmであってよい。また、一実施形態では、ドット1052の平均直径は、10nm超、随意により40nm超、さらに随意により70nm超とすることができる。
【0133】
1つ以上の実施形態では、量子層1050は、複数のドット層を有する。例えば、図5に示したように、量子ドット1050は、第1のドット層1052、第2のドット層1054、第3のドット層1056、および第4のドット層1058を含むことができる。各層は、ヒ化インジウムInAsを含み、それぞれ濡れ層1053、1055、1057、および1059を含む。同様に各ドット層は、ドット1055を含む。濡れ層とドットとを含む各ドット層の特性は、同一でなくてもよいが実質的に類似している。
【0134】
各ドット層1052、1054、1056、および1058の間には、中間クラッド層1062、1064、1066、および1068がそれぞれ配置されている。これらの中間クラッド層は、InxGa1−xAsを含む。1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsの中間クラッド層は、クラッド層1040と実質的に類似または同一である。換言すると、中間クラッド層は、障壁層1040と格子整合されていることが好ましく、障壁層1040は、最上緩衝層1036と格子整合されていることが好ましい。1つ以上の実施形態では、中間層1062、1064、1066、および1068の厚さは、約3nm〜約50nm、随意により約5nm〜約30nm、さらに随意により約10nm〜約20nmであってよい。
【0135】
前述のように、量子ドット層を取り囲む種々の層は、電流を操作するように正または負にドープされてもよい。半導体素子内の電流を操作する技術は、例えば米国特許第6,573,527号、第6,482,672号、および第6,507,042号に記載されているように当技術分野で既知であり、これらの特許は、参照によりここに組み込まれる。例えば、1つ以上の実施形態では、亜鉛、炭素、カドミウム、ベリリウム、またはマグネシウムを使用して、領域または層を「p型」にドープすることができる。一方で、シリコン、硫黄、テルル、セレン、ゲルマニウム、またはスズを使用して、領域または層を「n型」にドープすることができる。
【0136】
考えられる半導体素子は、当技術分野で既知の技術を使用することによって作成することができる。例えば、1つ以上の実施形態では、さまざまな半導体層を、有機金属気相エピタキシー(OMVPE)を使用することによって作成することができる。1つ以上の実施形態では、ドット層は、Stranski−Krastanovモード(S−Kモード)などの自己形成技術を使用することによって作成される。この技術は、米国特許第6,507,042号で述べられおり、この特許は、参照によりここに組み込まれる。
【0137】
量子ドット層を含む放射線放射ダイオード(RED)の一実施形態が、図6に示されている。RED1100は、ベースコンタクト1105、赤外線リフレクタ1110、半絶縁半導体基板1115、n型横伝導層(LCL)1120、n型緩衝層1125、クラッド層1130、量子ドット層1135、クラッド層1140、p型層1145、p型層1150、およびエミッタコンタクト1155を有する。ベースコンタクト1105、赤外線リフレクタ1110、半絶縁半導体基板1115、n型横伝導層(LCL)1120、n型緩衝層1125、クラッド層1130、量子ドット層1135、およびクラッド層1140は、前述の半導体層と類似している。
【0138】
ベースコンタクト1105は、多数のきわめて導電性の高い材料を含むことができる。典型的な材料として、金、金亜鉛合金(特にp領域と隣接するとき)、金ゲルマニウム合金、または金ニッケル合金、あるいはクロム金合金(特にn領域と隣接するとき)が挙げられる。ベースコンタクト1105の厚さは、約0.5〜約2.0ミクロンとすることができる。金と誘電体材料との間の接着を高めるために、チタンまたはクロムの薄層を使用することができる。
【0139】
赤外線リフレクタ1110は、反射材料を含み、随意により誘電体材料を含む。例えば、誘電体材料として酸化シリコンを使用することができ、その上に赤外線反射材料として金を付着させることができる。リフレクタ1110の厚さは、約0.5〜約2ミクロンとすることができる。
【0140】
基板1115は、InPを含む。基板1115の厚さは、約300〜約600ミクロンとすることができる。
【0141】
横伝導層1120は、InP基板1115と格子整合された(すなわち、500ppm以内の)InxGa1−xAsを含む。また、1つ以上の実施形態では、層1120は、nドープされる。好ましいドーパントはシリコンであり、好ましいドーピング濃度は、約1〜約3×1019/cm3とすることができる。横伝導層1120の厚さは、約0.5〜約2.0ミクロンとすることができる。
【0142】
緩衝層1125は、前述のやり方と一致するやり方でInP1−yAsyの3段階の層を含む。層1125は、nドープされることが好ましい。好ましいドーパントはシリコンであり、ドーピング密度は、約0.1×109〜約3×109/cm3とすることができる。
【0143】
クラッド層1130は、緩衝層1125の上部(すなわち、第3段またはそのサブレイヤ)の平面内格子定数と格子整合(すなわち、500ppm以内)されたInxGa1−xAsを含む。1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsクラッド層1130は、約0.60〜約0.70パーセントモル分率のインジウムを含む。クラッド層1130の厚さは、約0.1〜約2ミクロンである。
【0144】
量子ドット層1135は、本発明の教示に関して前に述べたようなInAsドットを含む。前の実施形態と同じように、各ドット層の間の中間層は、クラッド層1130と類似の(すなわち、格子整合された)InxGa1−xAsクラッドを含む。1つ以上の実施形態では、1つ以上の連続した中間クラッド層中のインジウムの量は、クラッド層1130あるいは前またはそれより低い中間層より少ないインジウムを含んでもよい。
【0145】
クラッド層1140は、緩衝層1125の上部(すなわち、第3段またはそのサブレイヤ)と格子整合(すなわち、500ppm以内)されたInxGa1−xAsを含む。
【0146】
閉じ込め層1145は、InxGa1−xAs層1140と格子整合されたInP1−yAsyを含む。また、1つ以上の実施形態では、層1145は、pドープされる。好ましいドーパントは亜鉛であり、ドーピング濃度は約0.1〜約4×1019/cm3とすることができる。閉じ込め層1145の厚さは、約20nm〜約200nmとすることができる。
【0147】
コンタクト層1150は、閉じ込め層1145と格子整合されたInxGa1−xAsを含む。コンタクト層1150は、pドープされる(例えば、亜鉛でドープされる)ことが好ましい。ドーピング濃度は、約1〜約4×1019/cm3とすることができる。コンタクト層1150の厚さは、約0.5〜約2ミクロンである。コンタクト層1150は、層1155の下を除き表面全体から除去されてもよい。
【0148】
エミッタコンタクト1155は、任意の高導電性材料を含むことができる。1つ以上の実施形態では、導電性材料には金/亜鉛合金がある。
【0149】
別の実施形態が、図7に示されている。半導体素子1200は、p領域内にトンネル接合を有する放射線放射ダイオードとして構成されている。この設計は、より低い抵抗接触とより低抵抗の電流分布を提供するので有利である。半導体1200の多くの様相は、図6に示した半導体1100と類似している。例えば、接点1205は接点1105に類似でき、リフレクタ1210はリフレクタ1110に類似でき、基板1215は基板1115に類似でき、横伝導層1220は伝導層1120に類似でき、緩衝層1225は緩衝層1125に類似でき、クラッド層1230はクラッド層1130に類似でき、ドット層1235はドット層1135に類似でき、クラッド層1240はクラッド層1140に類似でき、閉じ込め層1245は閉じ込め層1145に類似できる。
【0150】
トンネル接合層1247は、閉じ込め層1245と格子整合されたInxGa1−xAsを含む。トンネル接合層1247の厚さは、約20〜約50nmである。トンネル接合層1247は、pドープ(例えば、亜鉛で)されることが好ましく、ドーピング濃度は約1〜約4×1019/cm3とすることができる。トンネル接合層1250は、トンネル接合1247に格子整合されたInxGa1−xAsを含む。トンネル接合層1250の厚さは、約20〜約5,000nmである。トンネル接合層1250は、nドープ(例えば、シリコン)されることが好ましく、ドーピング濃度は約1〜約4×1019/cm3である。
【0151】
エミッタコンタクト1255は、種々の導電性材料を含むことができるが、クロム金合金、金ゲルマニウム合金、金ニッケル合金などのn領域に好都合な材料を含むことが好ましい。
【0152】
REDの別の実施形態が、図8に示されている。半導体素子1300は、少なくとも部分的にベースリフレクタがない(例えば、図5に示した1210などのリフレクタがない)ため半導体素子の基板を通して電磁放射を放射することができることを除き、図7に示したREDと同じように放射線放射ダイオードとして構成される。また、図6に示した半導体素子1300は、素子の全表面(または、実質的に表面全体)を覆う「完全コンタクト」であるエミッタコンタクト/赤外線リフレクタ1355を含む。
【0153】
他の全ての点では、素子1300は、素子1200と類似している。例えば、接点1305は接点1205に類似でき、基板1315は基板1215に類似でき、横伝導層1320は伝導層1220に類似でき、緩衝層1325は緩衝層1225に類似でき、クラッド層1330はクラッド層1230に類似でき、ドット層1335はドット層1235に類似でき、クラッド層1340はクラッド層1240に類似でき、また閉じ込め層1345は閉じ込め層1245に類似でき、トンネル接合層1347はトンネル接合層1247に類似しており、トンネル接合層1350はトンネル接合層1250に類似している。
【0154】
考えられる半導体技術は、レーザダイオードの製造に使用することもできる。図9に例示的なレーザを示す。レーザ1600は、金クロム合金などの任意の導電性材料を含むことができるコンタクト1605を有する。コンタクト層1605の厚さは、約0.5ミクロン〜約2.0ミクロンである。
【0155】
基板1610は、約5〜約10×1018/cm3の濃度でnドープされることが好ましいリン化インジウムを含む。基板1610の厚さは、約250〜約600ミクロンである。
【0156】
随意によるエピタキシャルリン化インジウム層1615は、約0.24×1019/cm3〜約1×1019/cm3の濃度でnドープされることが好ましい。エピタキシャル層615の厚さは、約10nm〜約500nmである。
【0157】
段階的InP1−yAsy層1620は、図2に示した段階的InP1−yAsy緩衝層と類似している。緩衝層1620は、約1〜約9×1018/cm3の濃度でnドープされることが好ましい。
【0158】
層1625と1630は、導波路1627を構成する。層1625は、ヒ化リン化インジウムガリウム(In1−xGAxAszP1−z)を含む。層1630は、同様にIn1−xGAxAszP1−zを含む。両方の層1625と1630は、層1620の上面と格子整合されている。換言すると、層1625と1630は、約0〜約0.3モル分率のガリウムと0〜約0.8モル分率のヒ素を含む。層1625は、厚さ約0.5〜約2ミクロンであり、約1〜9×1018/cm3の濃度でnドープされる。層1630は、約500〜約1,500nmであり、約0.5〜1×1018/cm3の濃度でnドープされている。
【0159】
閉じ込め層1635、ドット層1640、および閉じ込め層1645は、他の実施形態に関して前に述べたドットおよび閉じ込め層と類似している。例えば、閉じ込め層1635は、図3に示した閉じ込め層1040に類似しており、ドット層1640は、図3に示したドット層1050に類似している。1つ以上の実施形態では、レーザ素子のドット領域内で使用されるドット層の数は、5ドット層より多く、随意により7ドット層より多く、さらに随意により9ドット層より多い(例えば、サイクル)。閉じ込め層1635および1645は、約125〜約500nmの厚さを有することができ、導波路と格子整合される。層1635、1640、および1645は、ドープされないことが好ましい(すなわち、真性である)。
【0160】
層1650および1655は、導波路1653を構成する。層1625および1630と同じように、層1650および1655は、緩衝層1620の上面と格子整合されたIn1−xGAxAszP1−zを含む。層1650は、約500〜約1,500nmであり、約0.5〜約1×1018/cm3の濃度でpドープされている。層655は、約1〜約2ミクロンの厚さであり、約1〜約9×1018/cm3の濃度でpドープされている。
【0161】
一実施形態では、層1660は、緩衝層1620に類似した緩衝層である。すなわち、ヒ素のモル分率は、各段階が量子ドットから遠くなるほど減少する。層1660は、1〜9×1018/cm3の濃度でpドープされることが好ましい。
【0162】
層1665は、リン化インジウム(InP)を含む。層1665の厚さは、厚さ約200〜約500nmであり、約1〜約4×1019/cm3の濃度でpドープされることが好ましい。
【0163】
層1670は、前の実施形態で説明した他のコンタクト層と類似のコンタクト層である。
【0164】
他の実施形態において、層1660、1665、および1670は、他の実施形態に関して説明した他の構成と類似することができる。例えば、これらの層は、図4に示した層1145、1150、および1155に類似することができる。代替として、層1660、1665および1670の代わりに、図5に示した1245、1247、1250、および1255に類似の層を使用することができる。
【0165】
これらの素子の実施形態の範囲および精神から逸脱しないさまざまな修正および変更は、当業者にとって明らかになるであろう。
【0166】
当然ながら、一形態において、本明細書における発展が上述のようなRED要素を含むことを理解すべきである。しかしながら、本明細書においてすでに述べたように、種々の他のデジタル半導体ベース狭帯域素子技術を使用できることを、理解すべきである。例えば、1.6マイクロメートル〜5.0マイクロメートルの範囲で動作する中IR−LEDが知られており、より大きな出力のものがどんどん入手可能になってきているが、より短い波長の素子ほど幅広く入手可能ではない。さらに、種々の半導体レーザおよびレーザダイオードを、適切な修正により使用することができる。やはり上述のように、本明細書に記載の用途にとって好都合な波長に位置する限定された帯域幅の照射を効率的に生成できるようにする他の技術が開発中であり、開発されると考えられる。それら狭帯域の素子のいずれもが、本発明の実施において使用される候補となり得る。
【0167】
特定の用途のための実施において、適切な大きさの照射を得るために、場合によっては、多数の適切な素子を配置する必要がある。この場合も、一形態において、そのような素子は、RED素子であろう。本発明のほとんどの加熱用途では、そのような素子は、一般に、ある種の高密度x×yアレイまたは複数のx×yアレイにて配置され、そのいくつかは、個別RED素子のカスタマイズされた配置の形をとることができる。アレイは、本発明の特定の実施態様において使用される素子のタイプおよびサイズ、必要とされる出力、および必要とされる波長に応じ、単一の素子から、より典型的である数百、数千、または無限の数の素子アレイまでの範囲とすることができる。RED素子は、通常は、専用の熱除去装置を有さないまでも、少なくとも熱放散能力を有する回路基板に取り付けられる。RED素子は、多くの場合、そのような回路基板上にきわめて高密度/接近配置で取り付けられる。高出力用途に必要な場合には、ダイ取り付けおよび回路基板構造の最近の革新技術を利用して密度を最大にすることができる。例えば、そのような目的には、フリップチップに使用されるような技術が有利である。RED素子の効率は、この特有な種類のダイオード素子としては高いが、入力される電気エネルギーの大部分は、局所的な熱に直接変換される。より短い波長の素子は、より長い波長の素子と比べ、大幅に高い効率を有する傾向にある。9XXナノメートルの範囲の近赤外波長の素子のいくつかは、70%を超える電力変換効率(wall plug efficiency)を達成している。より長い波長の素子については、効率改善が進められているが、より短い波長の素子と同じ効率になることはないであろう。電力変換効率にかかわらず、個々の素子の過熱および焼損を防ぐために、この無駄な熱が半導体接合部から放出されなければならない。もっとも高密度なアレイの場合は、能動および/または受動冷却機能を有する集積回路またはフリップチップあるいはチップオンボードパッケージ技術が使用されることが多い。実用性と位置決めの融通性のために、複合回路基板がしばしば使用される。また、x×yアレイは、例えば可視スペクトルの最下部から5マイクロメートルまでの範囲の少なくとも2つの異なる選択された波長の赤外線放射を提供するRED素子の混合を含んでもよい。
【0168】
ほとんどの用途では、RED素子は、さまざまな異なるサイズのアレイの形態で配置するのが有利であり、アレイのいくつかは、特定タイプの目標物に放射線をより良く照射するために本質的に三次元または非平面とすることができる。これは、少なくとも以下のような理由のためである。
1.複数の素子の出力を組み合わせることにより十分な出力を提供する。
2.単一素子が適切に照射できる面積よりも大きい面積にわたる出力の十分な「広がり」を提供する。
3.用途に合わせてRED素子アレイをプログラムする可能性をもたらすことができる機能を提供する。
4.本明細書で述べた多くの機能的理由のためにさまざまな特定の波長に調整した素子をアレイの形態に組み合わせることができるようにする。
5.出力の「幾何学形状」を個々の用途の要件(所望の照射の好ましい角度など)に合わせ易くする。
6.素子の取り付け位置、放射角度、および経済性を用途の要件に合わせ易くする。
7.移動する目標物への出力の同期または他の「出力運動」を容易にする。
8.共通の制御回路での素子群の駆動に対応する。
9.多段加熱技術に対応する。
10.アレイ構成の素子の適切な冷却を促進する。
【0169】
設計の構成の一部として、確かに多数の決定を行わなければならないが、1つの重要な決定は、照射素子を加熱または調理の対象アイテムに対して動かすか、あるいは照射装置を固定し、対象アイテムを動かすかである。設計パラメータを最適化するために、これらの何らかの組み合わせを企画することも可能である。例えば、対象アイテムの上方、下方、または付近を移動することができる長くて直線的な素子アレイ(または、きわめて長い単一素子)を備え、放射源または対象の移動につれて「帯状に照射」を行うことが妥当である。塗装対象の上方を移動する直線的な塗料噴霧ヘッドと同様であると考えられる。当然ながら、良い塗装吹き付け師が多数のさまざまなやり方で移動を行うのとちょうど同じように、用途に適したこれらの相対移動を行うために、任意のいくつかの設計を取り入れることができる。
【0170】
したがって、照射の設定を構成することができる3つの一般的なやり方が現実に存在する。大型の二次元または三次元アレイを、用途に合わせて設計することができる。用途に合わせた適切なサイズおよび長さの直線的な一次元のアレイを設計することができる。あるいは、第3のやり方は、対象へと照準および案内された1つ以上の点状源を使用するために、これらの狭帯域素子のきわめて指向性であるという性質を利用することである。後者は、エネルギーを所望のとおりに向けるために、サーボ制御またはガルバノメータ駆動のミラーまたはデフレクタの使用を含むと考えられる。この種の照射をどのように適用できるのかについての例が、本明細書において後述される。ダイオードは、その典型的な最終用途ゆえ、接合のサイズを小さくすることによってコストを最小にするやり方で製造されている。したがって、コストに直結する半導体ウェハの面積が小さくて済む。RED素子の最終用途は、多くの場合に、より多くの光子の形態での大きな放射エネルギー出力を必要とする。大きな光子生成面積の接合領域を形成する創造的なやり方でREDを製造できることが、理論化されている。そのようにすることによって、劇的に高い中赤外の放射出力を維持することができるRED素子を生み出すことが可能であると考えられる。そのような素子が利用可能であれば、本発明の実施に必要なRED素子の絶対数を減らすことができる。しかしながら、多くの新規な素子に関する高い出力の上昇に鑑み、本発明の用途を少数の素子または単一の素子で達成できることは、必ずしも望ましくなく、あるいは現実的でないと考えられる。これは、より低出力の用途、単一波長の用途、または十分な出力能力を有するRED素子を製造できる場合に、ただ1つの素子で実施することができる。REDは、多くの場合にレーザダイオードの形態をとることができるため、単一の素子からの追加の出力は、かなり現実的である。ある製造者が、975nmにおいて相当な大きさの高効率な表面放射素子を製造できることを実証している。例えば、放射の面積が1mm×25mmであってよいある素子が、60光ワットを超える放射出力を連続的に生み出すことができる。そのような素子を10個、適切に冷却された回路基板に取り付けることで、本明細書に記載の調理またはオーブンの用途の多くにおいてきわめて有用と考えられるきわめてコンパクトなパッケージにて600光ワットを連続的に生み出すことができる。
【0171】
同様に、上述の素子アレイを集積回路として製造することもできる。そのような実施態様では、REDは、1枚のシリコン、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、または他の適切な基板の領域内に配列されるが、多数の接合を備えることで、チップ上の光子変換出力位置としてそれぞれが機能する。このREDは、電気接続および実装にボールグリッドアレイを使用する他の集積回路パッケージと同様であってよい。その場合、そのような素子パッケージは、制御システムへの接続および制御システムによる制御のために望まれる電気接続を容易にするアレイとして使用することができる。この場合も、設計パラメータは、電流化学的性質により破壊が起こり始める前に約100℃〜105℃に達してはならない接合部温度の制御である。将来の化合物は耐熱性が高くなることが予想されるが、熱は常に使用される素子の臨界破損範囲より低く維持されなければならない。さらに素子は、回路基板上に単独または複数で配置されてもよく、用途とコストの必要に応じてより高レベルの素子アレイとして配列されてもよい。
【0172】
これらの素子がいずれかの種類のアレイに構成される場合、放射エネルギーを所望のとおりに曲げるために、アレイの狭帯域の照射の付近にマイクロレンズアレイを取り付けることが望ましい場合がある。例えば、素子のアレイが、全体として35°の内角を有する出力の広がりを有することができる一方で、10°という広がりの角度を使用することが用途にとってより望ましい場合がある。マイクロレンズアレイの各々のレンズまたは小レンズが、出力エネルギーを10°という広がりの角度へと屈折させることに貢献することができる。レーザダイオードなどの多数の半導体ベースの狭帯域素子は、典型的には、いわゆる速軸および遅軸の両方を有する。すなわち、各々の素子において、光子の出力の垂直方向の発散が、おそらくは水平方向の発散と異なる可能性がある。例えば、いくつかの素子は、ある軸において平行な光線を有するが、他方の軸においておそらくは15°の発散を有する。レンズまたはマイクロレンズアレイによって発散の角度を変えることが可能であるが、それによるある程度のエネルギー損失が存在するので、可能であれば元々の発散を補正を加えることなく使用することが最良である。
【0173】
狭帯域の半導体ベースの素子を照射アレイに配置する最良の構成を設計する際に、素子のフォームファクタにかかわらず、設計者は変量の全体的な範囲を考慮しなければならず、それらがビジネスおよび技術の両方の観点からどのように用途に関係するのかを考慮しなければならない。目標とする用途に鑑みて検討されるべきいくつかの他の変量として、パッケージング、配置の容易さ、製造方法、コスト、電子接続性、制御のプログラム可能性/出力の考慮事項、素子形状、出力の発散の仕様、冷却の要件、配置の環境、素子の保護、反射エネルギー、電源供給経路、電力供給、ストリング電圧、ストリング形状、照射要件、安全性、および当業者であれば理解できるであろう多数の他の変量が挙げられる。
【0174】
すべての原材料、物質、および食品は、電磁スペクトルの範囲内のさまざまな波長における特定の吸収および透過特性に関連がある。これは、そのアイテムの吸収スペクトルと称されることが多い。各々の材料は、特有の赤外線の反射、拡散、および放射特性も有するが、ここではそのような特性の説明には時間を割かず、本発明の具体化の説明に時間を割く。それは、本発明の具体化がむしろ吸収/透過特性によって左右され、すべてを考慮しなければならないからである。任意の特定の材料に関して、任意の所与の波長における吸収率を測定し、表にすることができる。次に、その吸収率を、本明細書の後の方でより詳しく説明し例示するように、幅広い範囲の波長にわたってグラフで示すことができる。各タイプの材料が、さまざまな波長で特徴的な吸収または透過特性を有するので、熱プロセスを最適化するには、そのような材料特性を知ることがきわめて有用である。ある材料または対象が、ある波長範囲において高い透過率を有する場合、その材料をその波長範囲で加熱しようと試みることが、きわめて非効率的であることを認識されたい。しかしながら、ある種の対象に関して、エネルギーが尽きる前にそのアイテムへと深く進入できるよう、その材料の透過率が高い波長を選択することが望ましい場合もあり得ることが理解される。反対に、材料がある波長を過度に吸収する場合には、放射熱を加えると材料の表面が加熱されることになる。この現実は、いくつかの用途にとってきわめて望ましい場合がある。例えば、ステーキの外表面を見ることや、パン製品の外表面を焦がすことが望ましい場合である。非効率的な熱伝導体である材料または食品アイテムでは、この表面で吸収される波長は、深く進入して加熱することがなく、あるいは対象の材料の厚さの全体を一様に加熱することがないため、通常は加熱のための最適なやり方ではない。
【0175】
さまざまな材料、物質、および食品が、種々の波長において特有の放射エネルギーの吸収または透過特性を有することは、長年にわたって当技術分野において周知である。しかしながら、特定波長または波長の組み合わせを指定することができる高出力のデジタル狭帯域赤外線源が入手できなかったため、従来は、既存の加熱または加工作業の多くを完全に最適化することは不可能であった。特定波長の赤外線を製品に与えることが実際的でなかったので、多くの製造業者は、そのような特定の製品が最も望ましく加熱または加工される波長に気付いていない。
【0176】
従来、特定の波長または狭帯域範囲において比較的高密度の赤外線を生成する能力は、単純に産業界で利用できなかった。したがって、このタイプの加熱または加工の最適化が利用可能でなかったので、この最適化を、さまざまな種類のオーブンのほとんどの製造業者または設計者は意図していない。そのような波長特定的な赤外線出力が利用可能ならば、まったく新しい方法、プロセス、および最適化された調理が可能になると予想される。本発明は、そのような新しいプロセスを現実のものにし、種々の用途のための広い融通性を有する実施技術を提供する。本発明の第1の利用が、商業または工業の用途にあると予想されるが、商業、消費者食品の加工および調理、ならびに医学および民生の用途の全範囲にも多数の用途が存在することが認識される。
【0177】
これらの発展が、現在幅広く使用されている広帯域のガス、抵抗、および石英赤外線加熱電球や他の従来からの加熱装置の代替としてきわめて有効であることが予想される。そのような石英電球は、さまざまな硬化および調理の用途に使用される。本発明は、石英赤外線ランプや他の従来からの加熱装置の既存の機能の代替として利用できるだけでなく、現在の技術では単純に利用できないかなりの追加の機能を加えると考えることができる。
【0178】
それどころか、上述の発展は、放射エネルギーを連続通電モードまたはデジタルパルスモードのいずれかで生成することができる。本発明の基本的な半導体ベースの素子は、デジタルであり、ナノ秒であるきわめて高速な応答時間を有するため、必要とされるときにエネルギーをオンにし、必要でないときにオフにするために、実質的によりエネルギー効率に優れることができる。対象の要素が照射ゾーンにおいて調理され、硬化させられ、あるいは加熱される場合に、素子を必要とされる正確な量に案内し、正確に動作させることができる。予熱およびオーブンの暖機時間は、このデジタル狭帯域加熱技法が行われる場合には、当てはまらない。
【0179】
きわめて限られた波長の赤外線源にパルス通電することができるという付加機能によって、多くの従来からの広帯域の放射加熱または調理の用途に比べて、全体的なエネルギー効率を大幅に改善することができる。例えば、単独またはアレイの赤外線放射素子(RED)の通電時間を適切に変調することによって、大きな赤外線アレイ源を通り過ぎるときに個別の目標物を追跡することができる。換言すると、目標とする素子に最も近くかつ目標とする素子に向けられた赤外線放射素子が、通電される素子になる。目標とする部品または領域が前進するにつれて、「通電波(energizing wave)」をアレイを下って移動させることができる。
【0180】
熱成形とちょうど同じように、厚さまたは形状がさまざまである材料の調理または硬化の場合に、より厚い領域またはよりシビアな形状を有する領域に、より多くの熱の入力を加えることが望ましいことがある。特定の領域が、あまり強くは成型されない領域またはまったく成形されない領域と比べてより強く成形される熱成形と同様に。赤外線源アレイの構成を正確に設計することによって、全ての素子に同時に通電する必要がないだけでなく、加熱すべき領域の形状に対応するようにきわめて戦略的に素子に通電することができる。例えば、生産ラインを連続的に移動させるために、加熱すべき目標領域と同期した動きでプログラム可能に移動させることができる所望の熱プロファイルの特別形状の領域をプログラムすることが最も望ましいことがある。図10に示したような加熱を必要とする額縁形の領域を検討する。この場合、所望の放射強度の素子(402)の類似の額縁形アレイを有することが可能であると考えられ、このアレイを、目標とする熱成形シート(401)の動きに同期してアレイを横切って移動するようにプログラムすることができる。エンコーダを使用して熱成形シート(401)などの製品の動きを追跡することによって、周知の電子工学同期技術を使用して、プログラマブルコントローラまたはコンピュータの命令に従って適切な素子を所望の強度で作動させることができる。所望の出力強度を得るために、アレイ内の素子を制御システムによって「連続」モードまたは「パルス」モードで通電することができる。いずれのモードも、最も望ましい出力条件に対する時間の関数として強度を変調することができる。この制御は、素子グループの制御でもよく、個別のRED素子に対する制御でもよい。特定の用途では、制御の粒度を個別のRED素子まで下げる必要がない場合もある。そのような例では、RED素子を最も望ましい形状の列(string)を構成するように配線することができる。次に、それらの列または列群を、用途要件の要求に応じてプログラム可能に制御することができる。実用性から、最も都合のよい電圧の印加を容易にしかつ個別の素子制御のコストを削減するために、RED素子を群単位または列単位で駆動することが必要な場合がある。
【0181】
REDの列またはアレイは、電流をオープンループ構成で単純に供給することによって制御されてもよく、より高度な制御が使用されてもよい。特定用途の事実集約的評価によって、適切な狭帯域赤外線照射制御の量およびレベルが決定される。複雑または厳密な制御が要求される限りにおいて、制御回路は、入力電流、電圧、または固有出力を連続的に監視し変調する。最も望ましい放射出力または結果の監視は、赤外線アレイの出力あるいは赤外線の対象物に関する何らかのパラメータを直接測定することによって実施することができる。これは、単純な熱電対または高温計を取り入れることから、例えば赤外線カメラの形をとることができるはるかに高度な技術まで、一連のさまざまな技術によって実行することができる。当業者であれば、本発明の特定の用途にとって経済的に妥当かつ正当化される特定の閉ループ監視技術を推奨することができるであろう。
【0182】
直接および間接の両方の監視方法を取り入れることができる。例えば、形成可能温度範囲まで高めるために特定の材料を加熱する場合は、材料を形成するために必要な力を測定し、そのデータを、赤外線放射アレイを変調するためのフィードバックの少なくとも一部分として使用することが望ましい場合がある。本発明の出力の最適化および制御を容易にするために、多数の他の直接的または間接的なフィードバック手段が可能である。
【0183】
本発明の出願は、食品の準備処理(preparation processing)またはステージング(staging)にある。きわめて種々さまざまなオーブンおよび加熱システムが、人類の歴史において食品の調理に使用されてきたことが確かである。それらの大部分は周知であるため、そのようなオーブンおよび加熱システムの全範囲を説明することは、この特許出願の範囲を超える。非赤外/非熱源の調理技術を使用するマイクロ波調理という注目すべき例外を除き、他の実質的にすべての調理技術は、さまざまな種類の広帯域の熱源を使用する。そのようなオーブンで使用される赤外の熱源および要素は、広帯域の熱源である。それらは、特定の調理の状況または調理対象の製品にとって最も好都合となり得る特定波長の赤外エネルギーを生成する能力を有していない。
【0184】
オーブンにおいて一般的に使用されるもう1つの赤外熱源は、石英または石英ハロゲンランプである。これは、多数の形態をとることができるのは確かであるが、最も頻繁には、直線または円形の管の形態で使用される。この形式のランプの電気フィラメントは、石英ガラス製の管状部材の内側に収容される。石英ランプおよび石英赤外ランプは、工業製品および民生品において周知であり、基本的な考え方にもとづいて多数の変種が存在する。いくつかの形態は、出力曲線の中心周波数を変化させ、より可視光スペクトルに向け、あるいは近赤外スペクトルに向け、場合によっては中赤外に向けて移動させている。しかしながら、いずれの場合も、石英ランプ放射源は、広帯域源である。それらの半値全幅の出力は、常に2500nmよりも大きい。多くは、4000nmを大きく超えて実質的な出力を有する。本発明との対照の目的で、石英ランプは、さまざまな種類のオーブンで使用され、あるいはさまざまな種類のオーブンにおける使用が教示されている他のすべての熱ベースの源と同様に、明らかに広帯域の源である。
【0185】
オーブンおよび調理に使用される加熱について、3つの一般的なモードが存在することは、よく知られている。それらは、伝導、対流、および放射によるエネルギーの伝達である。これら3つは、多くの場合に何らかのやり方で互いに結び付いているが、まず伝導について具体的に説明する。伝導による加熱は、ある媒体と別の媒体との間の接触による直接的な熱の伝達を伴う。調理に当てはまる伝導の最も一般的な例は、煮込みであると考えられる。すなわち、加熱または調理されるアイテムが、高温または沸騰中の水または油などの液体に沈められる。加熱方法として伝導が選択される場合に液体が使用される主たる理由は、液体が空気またはガスよりもはるかに高い伝導帯の熱係数を有するからである。最終的に、調理対象のアイテムの温度を、対象へと熱を伝えるために使用されている伝導媒体の温度を超えて高めることはできない。結果として、加熱手段として純粋に伝導だけを使用したのでは、いくつかの好ましい調理結果を実現することが、より複雑かつ非現実的であることも多い。
【0186】
対流は、ガスまたは電気抵抗加熱素子によって加熱される多くの家庭用、商用、または産業用のオーブンにおいて使用されている。これは、オーブンの内部に空気またはガスを保つきわめて広帯域の熱源である。次いで、高温の空気が対象または食品に接触する。伝導による熱の移動が、この高温の空気またはガスとの境界において実際に生じる。加熱または調理される対象アイテムの外表面が、ガス状の流体に触れるとき、対象の熱を流体に等しくしようとする伝導による熱の移動が存在する。食品の調理の場合に、抵抗加熱素子から発せられる放射エネルギーは、通常は、食品に直接衝突することがないよう、食品から遮蔽される。抵抗加熱素子から発せられる長波の広帯域の赤外エネルギーが、食品の外表面においてあまりにもすぐに吸収されてしまうことが、何年も前から業界において認識されている。これにより、食品アイテムの内部深くの調理が生じるよりもはるかに前に、表面の焼けまたは焦げが生じる。
【0187】
照射の波長が長いほど、食品への浸透の深さが浅くなることが、食品業界において何年も前から一般的に認識されている。これは、残念な通則であるが、広帯域の源によるやり方がオーブンを製造する唯一のやり方である以上、当然であった。
【0188】
他の材料について前述したように、植物性および動物性食品は、固有の吸収スペクトル曲線を有する。そのような固有の吸収曲線は、特定の食品が特定の波長においてどのくらい吸収性または透過性であるかに関係している。対象食品を照射する特定の波長またはいくつかの慎重に選択した波長を選択することによって、所望の調理特徴の修正または最適化が可能である。放射エネルギーを最も効率的に使用することで、加熱または調理のコストを削減することができる。
【0189】
例えば、特定の食品の外表面を加熱し、あるいは焦がしたりすることが最も望まれる場合、本発明は、その特定の食品がきわめて高い吸収率を有する波長の選択を可能にする。その結果、選択された狭帯域の波長で照射されたとき、赤外線エネルギーが全て表面のきわめて近くで吸収され、したがって表面だけに所望の加熱が生じ、さらには/あるいは表面だけが所望のとおりに焦がされる。この逆に、表面を過熱するのではなく、食品内部のきわめて深くから食品を調理したい場合は、望みの調理結果が得られるように、特定の食品の透過率が高くなる一波長または選択された波長の組み合わせを選択することができる。結果として、放射エネルギーは、所望の深さに浸透するにつれて徐々に吸収される。
【0190】
電磁波が非金属材料中を移動する場合、この波の強度I(t)が、以下の式で示されるように移動距離tの関数として減少することに、注目することが重要である。
I(t)=I0(e−αt)
【0191】
この式において、I0はビームの初期強度であり、αはその材料の比吸光係数である。時間tが大きくなるとき、ビームの強度は、最初のビーム内の放射エネルギーがホスト材料に吸収されることによって生じる指数関数的減衰を受ける。この理由で、最適な調理結果を達成するために赤外線加熱を使用することは、食品アイテムの厚さ、加えられる赤外線の強度、照射波長、および材料吸収率の間の複雑な相互作用を伴う。
【0192】
異なる波長の放射線を照射するRED素子を組み合わせることによって、調理結果をさらに最適化することができる。そのような多波長アレイにおいては、1つの素子タイプが、放射エネルギーの吸収が低く、したがって熱を深く浸透させることができる波長にあるように選択されると考えられる。第2の素子タイプが、放射エネルギーの吸収が大きく、したがって表面の加熱を促進するように選択されると考えられる。最後に、第3のRED素子タイプが、これらの2つの両極端の吸収率の中間の波長にあるように選択され、アレイが完成すると考えられる。そのようなアレイに含まれる3種類のRED放射源の相対的な放射出力レベルを制御することによって、調理後の食品アイテムの重要な特性を最適化することができると考えられる。
【0193】
制御システムに色センサ、温度センサ、および場合によっては視覚センサを接続することによって、閉ループを形成し、望みの調理結果をさらに最適化することができる。そのような環境下では、対象となる可能性のある正確なパラメータを確認し、制御システムが、最も望ましいと考えられる適切な波長、強度、および方向で照射を行うことによって応答することができる。視覚センサを利用し組み込むことによって、調理されるべき食品の位置とサイズを実際に見て、それに従って前述のようにオーブンの出力を最適化することができる。水分センサとの組み合わせで使用されるときは、所望の水分含有量を維持すると考えられる組み合わせにて応答することが可能であろう。したがって、本発明が適切なセンサおよびコントローラの「知能」との組み合わせにおいて将来のスマートオーブンを真に促進できることを理解することができる。当然ながら、本発明を対流式オーブンおよび電子レンジの機能を含む従来の調理技術と組み合わせて、そのような技術の提供物の各々の最良の組み合わせを得ることができる。本発明の技術を従来の調理技術と共に最適化するように、スマート制御システムを設計することができる。
【0194】
また、ある食品に吸収され、第2の食品にはあまり吸収されない波長を選択することによって、食品の盛り合わせに行われる加熱の量を細かく選択することができる。したがって、選択可能なさまざまな波長の組み合わせおよび順列ならびに強度を変化させることによって、種々の具体的に設計された調理結果が得られることを、理解することができる。
【0195】
本発明のどの応用例の場合も、さまざまなレンズまたはビームガイド装置を使用して、照射エネルギーを望みの方向に導くことができる。これは、個別にレンズが設けられるRED素子から素子の近傍に取り付けられるマイクロレンズアレイまで、さまざまな実施態様の形態をとることができる。選択されるビームガイド装置は、案内または導かれる放射線の波長で機能するように適切に選択されなければならない。回折、屈折、および反射についてよく理解された技術を利用することによって、エネルギーをRED素子のアレイのさまざまな部分から望みの方向に導くことができる。通電した特定の素子をプログラム可能に制御し、それらの強度を変調することによって、広範囲の照射選択性を得ることができる。定常状態またはパルスモードを選択し、さらにどの素子をいつパルス化するかをプログラミングすることによって、機能をさらに高めることができる。
【0196】
この開示は、主に1.0〜3.5マイクロメートルの範囲の放射エネルギーの印加について述べているが、赤外のより長い波長またはより短い可視領域までの波長を含む他の動作波長において、類似の材料加熱効果を得ることができることは、当業者にとって自明なはずである。例えば、ある種の食品アイテムは、972nmまたは9xx範囲において上手く調理される。ある食品アイテムは、可視範囲の全体におけるすべての帯域または種々の帯域において良好に調理される場合がある。したがって、狭帯域の素子が、そのような用途のために、そのような波長に設けられ、ある場合には、食品アイテムへのエネルギーの深い浸透を提供する。また、本発明が、例えば700nm〜1200nmの範囲、1200nm〜3500nmの範囲、および3500nm超の範囲でエネルギーを放射する半導体狭帯域照射または放射素子の実現を含むことを、理解すべきである。また、2つの波長のエネルギーが対象の食品アイテムの吸収特性に一致するように供給される場合には、一形態において、一方の波長が1400nm超であり、他方が1400nm未満である。さらに、2つの波長が使用される場合に、一形態において、選択された波長帯の中心が、少なくとも150nmだけ離れている。開示される発明の精神は、放射源が可視光から遠赤外線まで動作可能と考えられる放射加熱の目的のために、電子から光子に直接変換する固体放射源の応用を含む。特定のタイプの用途には、中赤外範囲以外の他の波長の放射線を照射する他の波長選択可能な素子を、本発明に組み込むことが望ましい場合がある。
【0197】
少なくとも一形態において、本発明のシステムは、加熱または調理源として、デジタル半導体ベースの狭帯域照射素子を使用する。したがって、本発明は、幅広くさまざまな調理、加熱、乾燥、焦がし、脱水、加工、または処理の目的のために、対象の食品へと、選択された狭帯域の熱赤外(IR)波長の放射またはエネルギーを直接的に注入することに関する。後述されるように、これらの目的は、対象アイテムを加熱し、その温度を上昇させ、あるいは維持することを含むことができ、もしくは種々さまざまな産業、医療、消費者、または商用の環境において対象アイテムを特定的に刺激することを含むことができる。本明細書に記載の方法およびシステムは、特定的に選択された波長で照射を行う能力や、放射をパルス化または注入する能力を必要とし、あるいはそのような能力が有利である作業に、特に適用可能である。各々の波長における対象の吸収係数(対象の吸収曲線と称されることが多い)を知ることは、所望のとおりの加熱を実行すべく狭帯域の波長を選択できるよう、本発明の実施を十分に最適化するために重要である。また、本発明は、対象が望ましくはより高い速度で処理され、対象との非接触の関係が確立される場合に、特に好都合となり得る。本発明は、幅広くさまざまな最終用途に合わせて大いにプログラム可能であってよい選択された狭い波長の赤外加熱システムを提供する。本発明は、単独の素子で構成され、最も好ましくはデジタル半導体ベースの狭い波長の放射線放射素子の巧みなアレイで構成される新規かつ新種の赤外照射システムを教示する。そのような放射線放射素子の少なくとも1つの変種が、本明細書において具体的に後述されるが、後述されるように、多数の種類を用途に応じて本発明の実施のために適用または実現することが可能である。
【0198】
上述したように、従来からのパン焼き器、調理用オーブン、または汎用のオーブンのいずれにおいても、抵抗加熱素子またはガス加熱素子が、それぞれ電気エネルギーまたは石油化学製品を種々の形態の熱エネルギーへと変換するために典型的に使用されている。対照的に、本発明は、きわめて異なるやり方で機能して特定の狭帯域の波長においてエネルギーを生み出すデジタルダイオード半導体素子(または、同様の素子)を使用する。少なくとも一形態において、素子は、電磁放射エネルギーとも称される光子の出力を生成するために、量子ギャップまたは量子ドット半導体技術による電子−光子の変換プロセスを利用する。素子は、デジタル素子でもあり、本質的に指向性または照準可能な素子である。半導体ベースの照射素子は、本質的に、アナログ加熱素子と異なり暖機時間を有さない「瞬時オン」および「瞬時オフ」型の素子である。典型的には、数ナノ秒でのオンまたはオフが可能である。
【0199】
従来からの加熱素子は、本質的に広帯域または広い範囲の波長を生成する古典的なプランク黒体放射体として機能する。ピーク中心波長およびそれぞれの波長における出力を計算するための式は、よく理解されており、古典的な教科書の物理学であるため、ここでは取り扱わない。半導体ベースのダイオード(例えば、レーザダイオード)は、きわめて異なる様相で機能する。プランク黒体の物理学の規則には従わず、本質的に、狭帯域または狭い範囲の波長を生成するように製造することだけが可能である。大きな相違は、半導体ベースのダイオードが、電子を光子へと直接的に変換する素子であり、熱の関数として光子を放射するのではなく、特有の設計に応じて量子物理学の規則に従うがゆえである。
【0200】
さらなる説明の目的で、いくつかの材料科学の原理に注目すると、すべての材料は、特有かつ特徴的な「分子吸収スペクトル」を有する。このスペクトル吸収データは、通常は、たとえサンプルのサイズが他の特徴では材料の特定が不可能であるほどに小さい場合でも、そのような「スペクトル特徴」を使用して材料を積極的に特定できるほどに、その特定の種類の材料に特有である。完全な「スペクトル吸収の特徴」は、UVから長赤外までのすべての波長の各々における吸収の測定値の集まりであり、放射の各波長における材料特有の分子吸収の傾向の正確な大きさを示している。材料の吸収スペクトルは、材料がどの波長において放射エネルギーを吸収しやすいか、またはしにくいかを表わしており、あるいは反対に、放射エネルギーを透過させる傾向にあるか、または透過させない傾向にあるかを示している。換言すると、高いスペクトル吸収の反対が、高いスペクトル透過である。加えて、調理すべき特定の対象材料が、特定の波長において高いスペクトル吸収を有する場合、それに対応して、その同じ波長における透過は小さい。反対に、特定の波長において高い透過を有する限りにおいて、その同じ波長における吸収は少ないに違いない。物質が特定の波長において有する吸収の傾向の大きさは、その物質の吸収係数の指標である。吸収は、一般的には0〜100パーセントまでの吸収単位またはミリメートル当たりの吸収で表現されるため、吸収係数は、放射の各波長においてそのような尺度のどこかに位置する。他の単位での表現も可能であるが、ミリメートル当たりの吸収のパーセントとして表わし、あるいは吸収単位の対数の指標にて表わすことが、妥当に標準的である。3つの異なる材料の吸収スペクトルのグラフが、図11に示されている。
【0201】
対象の吸収特性に適切に一致する帯域幅および波長を注意深く選択した後で、プロセス、オーブン、または調理器具にこれらの狭帯域の照射源を取り入れることによって、達成される加熱の深さおよび程度を選択することが可能である。処理または調理の浸透のさらなる深さを提供することができるさらに別の技法が、本発明において利用可能である。上述の検討は、デジタル狭帯域の半導体ベースの素子について、連続デューティ定格出力までのいずれかのレベルで通電機能し、ある時間期間の後でオフにされる連続作動の形態での実行に関係している。素子をパルスモードで使用することも可能である。電源に関する考慮事項および冷却に関する考慮事項など、このモードで素子を動作させるいくつかの設計理由が存在し得る。ここでの検討のために注目すべき他の理由の1つは、大幅に強い強度の瞬時の放射パルスを得るために、電流パルスが定常状態の電流定格の多数倍であるように、素子をパルスモードで実現することである。より高強度の瞬間的なパルスを有することによって、それに比例して、より低い強度の定常状態の出力において可能であるよりもさらに対象アイテムへと浸透することが可能である。この技法を使用することで、たとえ単位時間当たりの全体としての積分エネルギーがそれほど大きくなくても、調理される食品の内部へとはるかに深く到達することが可能である。これは、より低出力の素子およびより小さな電源が、より大きなシステムまたはより高価なシステムと同様の浸透深さを、より低い製品コストの予算で可能にできる点で、コストの観点から好都合となり得る。多くの場合に、パンまたはポテトなどの製品は、理想的には、迅速でありながら適切である調理のために放射エネルギーの深い浸透を必要とするはずである。これは、本発明の技術を実行する製品の設計者にとって、本発明の技術の能力をより十分に活用するために利用することができる重要な追加のツールである。
【0202】
特徴的な吸収の特徴ゆえに、広いスペクトルまたは広帯域の放射源は、典型的には、所与の用途(パン焼きなど)に理想的には適していないエネルギーを多く生成し、このエネルギーの多くが、誤った波長にあるがゆえに容易には吸収されず、あるいは望ましく吸収されることがない。例えばダイオードまたはレーザダイオード源などによって特定の波長または狭い範囲の波長を生成することによって、既知の対象において使用されるはるかに効率的な調理器具またはシステムを設計することが可能である。
【0203】
本発明は、空間的に制御可能な熱の分布を可能にする。この点で、抵抗加熱素子は、典型的には、電流が供給されたときに素子の全表面が広帯域の電磁エネルギーを放射する点で、多方向の放射体である。これは、加熱、焦がし、硬化、または調理の対象である材料に向かって実際に案内される放射エネルギーが、比較的小さな割合だけであることを意味する。他方で、ダイオードまたはレーザダイオードは、対象材料のきわめて特定的な領域へとエネルギーをもたらすように照準され、あるいは案内されることを、より良好に促進する。典型的な種類のうちのいくつかについて説明されるとおり、ダイオードまたはレーザダイオードの照射パターンは、基本的に指向性である。ダイオードおよびレーザダイオードを、それらの放射出力が直接的あるいは反射または屈折によって加熱すべき目標に衝突するように照準し、あるいは案内しなければならない。さらに、いくつかの特定の狭帯域の波長を注意深く選択し、各々の放射の時点および継続時間を能動的に制御することによって、放射エネルギーの浸透の深さを予測および制御することができるが、広帯域の放射体はこの種の制御を有していない。それらは、基本的に無指向性の放射体であり、実施において指向性を可能にするためには、それらの設計にリフレクタまたは反射コーティングが追加されなければならない。
【0204】
これらの考え方の理解をさらに広げるために、半導体ベースの照射素子について、いくつかの基本的事実を理解する必要がある。それらは、いくつかの異なるフォームファクタにて利用可能であり、そのいずれもが、本発明のいくつかの実現に適することができる。狭帯域の照射ダイオード(典型的には、発光ダイオード(LED)と称され、あるいは可視範囲よりも実質的に上の放射エネルギーを生成する場合には、放射線放射ダイオード(RED)と称することができる)は、多くの場合、幅が15〜250nmの間である帯域幅の出力(半値全幅)を生成する。これらの素子の出力は、最近の10年間で劇的に大きくなってきており、予測できる将来において劇的な増大を続けると予想される。1ワットを大きく超える光出力を有するLEDまたはREDを在庫品として購入できることも、珍しくない。これらの素子からの出力ビームの形状は、それらの個々の設計の関数であるが、最も多くの場合は、10°〜150°の範囲の発散するガウス分布である。当然ながら、出力ビームの形状を、種々の光学系を使用してさらに変更することができる。正確な出力ビームの発散パターンは、それらのダイオードベースの素子が使用される特定の用途にとって根本的に最良であるように選択されなければならない。
【0205】
半導体ベースの照射素子が、本発明の実施により理想的であると考えられるが、他の種類のレーザ素子を使用できないと考える根本的理由は存在しない。しかしながら、レーザ素子は、あるレベルで狭帯域であるという資格に合格できるが、レーザ素子の実際の使用を制限する場合がある他の商業的および技術的な考慮事項が存在する。例えば、化学レーザおよびさまざまな種類のポンピングレーザは、典型的にははるかに高価である。多くの非半導体式のレーザは、限られた波長の選択肢でしか入手することができず、このことが、照射波長を特定の材料または材料群の吸収特性に一致させようと試みるときに、あまり望ましいとは言えない。また、効率が低いというポンピングレーザの固有の性質ゆえに、おそらくは半導体ベースのレーザとしての使用に理想的ではない。しかしながら、これらの限界を克服する新種が開発される場合や、特定の用途に合った波長が利用できる場合、本発明の実施に使用することが可能である。
【0206】
ちょうど研究室から現れたばかりであるが、本発明の実施に理想的である他の重要な狭帯域の照射素子のいくつかは、LETおよびトランジスタ光子増幅器である。発光トランジスタ(または、LET)は、研究室から現れたばかりの新種の半導体素子であるが、本発明を実施するための理想的な素子として大いに期待される。また、効率的、制御可能、強力、かつプログラム可能ですらあるやり方で狭帯域の照射を生成、または劇的に増幅すると期待される。波長をプログラム可能に制御することさえ可能な強力な狭帯域の照射源となることが可能である。初期の徴候では、LETは、10の9乗程度の光の増幅が可能である。これが、高い効率および波長制御性と組み合わさって、LETを本発明を実施するための理想的な狭帯域の素子にしている。
【0207】
レーザダイオードは、歴史的に、入手可能なもっとも高出力の狭帯域素子であったが、将来のある時点でLETの挑戦を受ける可能性がある。レーザダイオードは、典型的には、20nmから1nm未満までの半値全幅の帯域幅を生成する。UVから長赤外の範囲の波長にて製造することが可能である。臨界近赤外および中赤外の波長において、どんな特定の波長帯が所望されても製造可能である。素子の電力変換効率は、毎年のように向上している。電力変換効率を、電力の入力の光子の出力に対する比として定義することができる。ここ数年できわめて良好になってきており、改善が続くと期待される。例えば、ヒ化ガリウム材料系で製造された975nmのレーザダイオードは、72%を超える電力変換効率を有して製造されている。典型的には、より長い波長(例えば、1500nm)の素子は、基本的な物理学ゆえに、より短い波長の素子と同じ電力変換効率を達成することはできないが、近いうちにほぼ45%の効率を達成できるようになると考えられる。ダイオード素子が製造される基本的な基板の化学が、素子の最終的な寿命に大いに関係する。例えば、波長が約1150nmよりも短いダイオードは、典型的には、ヒ化ガリウムウェハ基板を使用する。これらの素子の製造者は、高出力の用途において12,000時間を超える長い寿命を得ることに苦労している。1200nmよりも長い波長を有する長波長の高出力ダイオード素子は、典型的には、リン化インジウムウェハ基板によって製造される。リン化インジウム基板にもとづく素子は、100,000時間を超えることができるきわめて長い寿命を有することができる。したがって、リン化インジウムベースのダイオードまたはレーザダイオード素子を使用することが、産業または長いデューティサイクルの種類の用途において、より現実的な選択肢であることが多い。より長寿命のリン化インジウムベースの素子とは対照的に、より短い波長が選択すべき十分に大きい照射の最適化を有するか否か、工学的選択を行わなければならないこともあり得る。これは、一般に、LEDおよびレーザダイオードの両方に当てはまる。これらの装置は、長寿命ゆえに本発明における使用にとって理想的なだけでなく、多くの材料が最も変化に富む(したがって、有用な)吸収特性を有している中赤外の波長範囲における最適な素子でもある。
【0208】
半導体ダイオードベースの素子により長いデューティサイクルをもたらすために行うことができるいくつかの事柄が存在する。本明細書のどこかで述べられているとおり、きわめて効果的な冷却が、おそらくは装置により長い寿命を保証する最も重要なやり方である。工学の観点から、これを左右する多数のさまざまなやり方が存在するわけではないが、余分な熱を拡散させ、消散させ、あるいは導き去ることを助けることができる回路基板またはヒートスプレッダに素子を取り付けることが、ほぼ常に必要である。
【0209】
素子の寿命に大きな差を生み出し得るレーザダイオードの工学に関するさらなる基本的態様が存在する。レーザダイオードの最も一般的な故障モードは、エネルギーが素子から出るやり方に関係がある。端面放射レーザダイオード素子においては、そのような素子が、通常は、何らかの形態のヒートスプレッダまたは熱伝導性の回路基板に、レーザダイオードの縁がヒートスプレッダの取り付け面の縁に整列するように取り付けられる。レーザダイオードの出射面の縁が、取り付け面の縁と完璧には同一面にない場合、問題が生じる可能性がある。ダイオードが取り付け面の縁よりも突き出しており、ダイオードが取り付け面の縁よりも後退しており、あるいはダイオードが取り付け面に対して斜めであるという3つの状況が存在し得る。これら3つの状況のいずれにおいても、レーザダイオードの端面から出る光子のエネルギーが取り付け面に衝突する。結果としての熱の上昇が、局所表面の過熱による緩やかな劣化または急激な劣化を生じさせる。種々の局所表面の過熱につれて、壊滅的なレーザダイオード端面の不具合など、種々の故障が生じる。これが生じ始めると、ダイオードは自己破壊を基本的に開始する。同様に、レーザダイオードが光ファイバ光子ガイドに組み合わせられる場合、正確な整列が重要であり、エネルギーを吸収して過熱したり、レーザダイオードへとエネルギーを反射させたりする可能性がある表面を導入しないことが重要である。同じ注意が、システムの過熱による不具合を防止するために、光ファイバの入り口端および出口端の両方において重要である。
【0210】
直接的に放射を行い、あるいは光ファイバ光子ガイドへと放射を行う端面放射型レーザダイオードが、技術の実施の最も望ましいやり方となり得る多数の用途が存在する。しかしながら、上述の不具合モードの可能性をなくす他の種類の素子も存在する。そのような種類の素子は、一般に、面放射型のダイオードまたはレーザダイオードと称される。これは、本質的に出力密度がより高いがゆえに、レーザダイオードにおいてより頻繁に問題になるが、ダイオードの出力が大きくなるにつれ、ダイオードにおいても同様に当てはまるようになる。面放射型レーザダイオードは、内部的に、光子エネルギーの放射を端面(光子のエネルギーを吸収して過熱の不具合を生じさせる可能性がある構造に本質的に近接する)から出すことがないようなやり方で構成されている。一般的に、レーザの光子放射の柱を素子の側面からではなくて素子の前面または後面から出るように反射させ、屈折させ、回折させ、あるいは他のやり方で向け直すことができる内部構造を有するあらゆる種類の素子が、この分類に当てはまる資格を有すると考えられる。2002年10月3日付の米国特許出願第10/264,534号が、そのような素子の一例である。この特許出願は、前面放射型レーザダイオードとして製造することができる単一の素子を示している。米国特許出願第11/042,759号が、多数のそのような素子からなるチップアレイとして製造されたそのような素子を示している。単一の素子が使用されるのか、そのような素子がチップオンボードの様相で配置されるのか、あるいは素子からなる集積回路アレイとして製造されるのかにかかわらず、レーザダイオードに一般的な主たる故障モードを撲滅するという同じ目標が達成される。放射素子におけるさまざまな種類の表面の任意の組み合わせまたは順列が、本発明の実施における大きな利点である。レーザダイオードの製造および取り付けの当業者であれば、これらの装置を本発明を実施すべく実現するうえで重要な他の分派を理解できるであろう。
【0211】
狭いスペクトルの素子は、考えられる多数の異なる狭帯域の波長範囲における調理に有用であり得るが、素子が最適な結果のために本明細書の教示に従って適用されることが重要である。狭帯域の出力の素子の中心波長が、最良の効率および所望の結果のために、対象の吸収スペクトルの特徴に注意深く一致させられるべきであり、いくつかの用途においては注意深く一致させられなければならない。例えば、表面を焦がすことが望まれる場合には、照射素子の中心波長を、対象または食品を構成する材料または材料混合物がきわめて高い吸収を有する波長に一致させるべきである。反対に、対象を深く調理することが望まれ、すなわち表面の十分に下方への深い浸透が望まれる場合には、調理対象の吸収がより少ない波長に一致する波長を、出力素子について選択すべきである。すなわち、対象をより深くまで調理することが望まれる場合には、吸収係数がより小さいことを特徴とする特定の波長を選択すべきである。好ましい調理の深さのための所望の吸収係数を選択することによって、1つ以上の望ましい波長が、対象のスペクトル吸収曲線から示される。
【0212】
多くの場合、これらの狭帯域の素子の2つ以上の波長が、互いに呼応して使用されることが予想される。各々の狭帯域の波長範囲が、処理すべき対象材料の各々において、自身の特有の吸収または透過を有するため、本発明を実施する者は、適用を最適にする波長の組み合わせを選択しなければならない。扉および窓の考え方を取り入れることが、本発明にさらなる機能をもたらすことが多い。これは、材料「A」がきわめて透過的である波長を、エネルギーを材料「B」へと進入させ、材料「B」の注意深く選択された吸収係数で吸収させることができるように、使用することを意味する。このようにして、材料「A」に加わる熱を最小限にしながら、材料「B」を選択的に加熱することができる。同様に、所望の熱を材料「A」へと実際に加えるために、別の波長を選択して取り入れることができる。当然ながら、これは、それぞれの材料の吸収スペクトル曲線が大きく異なる場合に最も上手く達成される。これは、当然ながら、上述のように計画することができる限りにおいて、多数の異なる材料についてそれぞれの波長によって行うことが可能である。必要に応じた吸収ピークを人工的に生じさせるために、一部の材料に添加材を取り入れることが望ましい場合がある。
【0213】
本発明の実施を望む設計者が考慮しなければならないもう1つの態様は、以下のとおりである。吸収およびその反対の透過は、すでに上述した。さらに理解すべきは、対象材料の散乱または光拡散の特性である。例えば、パン生地は、測定によれば、950nmにおいてきわめて透過性(吸収が少ない)である。これは薄い測定サンプルにおいては真実であるが、完全な吸収が生じるまでの透過距離を散乱を考慮せずに計算すると、誤りにつながる可能性があることを理解することも重要である。未調理の状態の生地の光学的特性は、950nmの光子のかなりの散乱を生じさせ、したがってすべてのエネルギーが吸収されるまでの浸透の深さを変化させる。これを、多数の個々の光子の方向を実質的に変化させる内部の「マイクロ反射」と考えることができる。これは、電磁スペクトルの不可視部分において生じるため、実際の実験の試行によって該当の波長の拡散を試験する必要がある。きわめて低い吸収係数は、その波長では「皮膚の加熱」が生じないことを保証するが、研究室による測定および試行は、実際に有効な浸透の深さを理解するために必要な追加のデータをもたらすであろう。
【0214】
別の現象が、いくつかの材料が加熱されるときに生じる。膨らむ生地または熱への種々の暴露期間の結果として物理的特性が変化する他の材料は、材料の特性の変化の関数として、浸透の変化を呈する。例えば、生地がパンへと膨らむにつれて、大抵にとってお馴染みのありふれた低密度の物質が気泡によって形成される。密度または材料特性の変化が散乱の拡散と組み合わさって、所与の波長における浸透の深さを理解するための最良のやり方が研究室での試行および実験であることを提案する。いくつかの材料は、このような種々の変化の後でより深い浸透が可能であることを実際に示すことがある。
【0215】
同様に、生の対象材料または生の食品における浸透の深さは、それぞれの材料または食品の熱処理後または調理後の浸透の深さとは異なる可能性がある。表面に堅いマトリクスが形成されると、結果としての種々の材料特性の変化が、吸収係数だけを見た場合に予想される浸透の深さも変化させると考えることができる。
【0216】
LEDまたはレーザダイオードが、選択された照射素子である場合、それらの出力波長は固定されている。この唯一の例外は、いくつかの固体素子の出力が、素子の動作温度につれて大きく変化することである。これは、他のあらゆる因子よりも固体素子の設計によって決まるが、いくつかの素子において大きく、他の素子においては大きくない。したがって、素子を、どのような種類の対象製品が本発明に従って装備されたオーブンにおいて調理され、加熱され、あるいは硬化させられるのかを見越して、指定および製造しなければならない。照射素子、用途、ならびに調理、処理、または硬化対象の特定の材料の特性、寸法、およびスペクトルについてのこの推測的な知識のすべてが、本発明を最も効果的に実行するために多くの実験および試験から学習されなければならない。この技術を使用するように調理装置またはオーブンを設計する場合、調理の対象の吸収特性および散乱、ならびにサイズ、重量、所望される調理時間、およびもっとも所望される調理結果を理解するために、具体的に調理される種類の対象によって実験を行う必要がある。実践者は、調理の仕事に単一の波長が適切であるのか、あるいは所望の調理結果を達成するために複数の異なる狭帯域の波長の混合が必要であるのかを、考慮しなければならない。複数の異なる製品を同時に調理すべき場合、最適な結果のために複数の狭帯域の波長を選択すべきであることが、多くの場合に真実である。調理すべき複数の製品が、たとえ吸収曲線上のただ1つの箇所だけでも類似の吸収の特徴を共有している場合、複数の製品の調理にとって満足できる狭帯域の波長範囲を選択することが妥当であり得る。しかしながら、同じ波長において一方がきわめて吸収性であり、他方がきわめて透過性である場合、照射素子を相応に選択しなければならない。
【0217】
波長の選択が重要であるのとちょうど同じように、どのようにエネルギーが対象へと届けられるのかを理解することも重要である。上記推奨の狭帯域の照射素子は、本質的に照準を容易にしているため、本発明の実践者は、エネルギーを製品へと「操縦」する種々のやり方を理解することが重要である。出力は、選択された波長において使用されるように指定されるレンズ、リフレクタ、屈折器、光ファイバ、プリズム、および他の同様な装置を使用することによって、可視光の取り扱いのやり方と同様のやり方で集中させることができる放射光子エネルギーである。上記素子を焦点固定の構成において使用することが、それが用途にとって良好な技術的解決策であるならば可能である。また、いくつかの用途においては、対象の食品アイテムに到達するにつれて発散するエネルギーの帯を生成するように機能する狭帯域の放射素子を利用することが好都合な場合がある。このようにして、照射されるアイテムまたは表面のカバレッジの改善をもたらすことができる。また、適切な状況においては、狭帯域のエネルギーの送達が、本発明の実施に適した狭帯域を達成するようにフィルタ処理される広帯域の素子からの狭帯域のエネルギーの送達を含んでもよい。
【0218】
本発明を実施する用途の多くが、狭帯域の素子で比較的高いエネルギー密度を生成するように構成されるため、安全が重要な考慮事項であり、従来からの調理システムまたはアナログ調理システムといくらか相違する。本発明を実施するための狭帯域の照射を、可視のスペクトルにおいて実現することが可能であると予想されるが、通常は、赤外スペクトルのどこかの不可視の放射または不可視の放射の使用である。照射が不可視である場合、目の通常のまばたきや、目を逸らすことや、虹彩を閉じる応答が、引き起こされることがない。調理領域に存在するであろう強力な放射に気付くことが不可能である。約1300nm未満の近赤外波長は、隔膜を通過して目の網膜まで進入することができる。上記波長よりも上では、放射が網膜まで進入することは不可能であるとおおむね考えられる。この約1300nmよりも長い波長の領域は、網膜を痛める可能性がないため、目に安全な領域と称されることもある。十分な強度、集光、またはエネルギー密度を有するより長い波長は、焼けを引き起こすに十分なエネルギーを目の表面付近に位置させる可能性がある。目は体のうちで赤外放射に対して最も脆弱な部位であり、十分な暴露でどこかに損傷が生じる可能性がある。したがって、人間および動物が直接の放射または反射した放射から保護されるように、調理室の領域を囲み、あるいは何らかのやり方で隔離することが、推奨される。扉またはアクセスパネルが開かれたならば照射が速やかに停止するようなやり方で、調理室を完全に囲むことが理想的である。調理中の食品を視認できることが消費者に広く好まれているため、多くの良好なオーブンには、何らかの形態の内部照明を組み込まれている。調理室の領域への視覚的なアクセスを可能にするために、窓または観察ポートが存在する場合、そのような窓または観察ポートに、妥当な強度の可視光だけが観察者へと到達できる唯一の放射であるように、何らかの形態のフィルタが取り入れられるべきである。当然ながら、これを実現する多数のやり方が存在するが、それが本発明の良好かつ安全な実施のための重要な考慮事項である。おそらくは、最も単純な実施形態は、可視通過フィルタが組み込まれたフィルタ窓であると考えられる。別の例として、反射の観察経路を、可視光だけが観察経路を通って観察者の目へと反射させられる適切な状況のために設計することが可能である。調理室の内部の観察の代案として、カメラおよび表示装置を使用することも可能である。観察者までの可視光の経路を生成するためにどの方法が使用されるかにかかわらず、観察が行われないときに経路を遮るために、放射によって容易に過熱することがない金属または他の種類の扉を使用することがよい考え方である。開かれたときに照射をオフにするだけでなく、内部の照明システムもオンにする観察ポートの扉を備えることが、きわめて妥当である。
【0219】
さらに、最初に対象の食品についてのデータを検出することによって、エネルギーを動的に操縦することが可能である。興味深いデータのリスト(これらですべてではない)は、サイズ、形状、量、食品の種類、厚さ、吸収スペクトル、ならびに対象の向きおよび/または位置である。食品または対象アイテムが、照射ステーションを横切り、あるいは通過する場合、継続的に搬送手段の速度または相対移動に関する情報を供給することが可能である。制御システムが、いつ対象のデータまたは情報を照射の制御のための指示および指令へと変換しなければならないかを決定する。理想的には、上述のような知覚データを受信し、照射プロセスを調整/制御することができる。正確に何がオーブン内に存在するのかについての情報をユーザの入力および/またはセンサの入力から受け取って、対象の正確な照準および照射のためのアルゴリズムを実行することができる。適切なユーザインターフェイスが、さまざまな形態をとることができ、制御システムへと入力できる任意の種々の設定または他のパラメータについてユーザによる入力を提供できることを、理解すべきである。指示者として機能することができる制御システムによって、種々さまざまな装置を、対象の照射に必要なとおりに照射素子を向けるために使用することができる。例えば、1つ以上のレーザダイオードのエネルギーを反射によって対象へと向け直すサーボ式またはガルバノメータ取り付けのミラーを取り付けることができる。
【0220】
上述のような対象の検出を、種々さまざまな在庫の部品で行うことができる。温度センサ、赤外センサまたはセンサアレイ、水分センサ、圧力センサ、色センサ、重量センサ、においセンサ、カラーまたはグレースケールカメラ、赤外線カメラ、スペクトル光度測定センサ、および本発明を実施する当業者であれば理解できるであろう他のセンサを、加熱、硬化、または調理の対象についての知覚データを集めるために使用することができる。確かに、混合に存在してよいセンサは、さまざまな種類の高性能可視光または赤外線カメラであると考えられる。可視光高性能カメラまたは他の賢いカメラベースのシステムは、より伝統的なセンサと比べて、さらなる融通性およびさらなるプログラム可能性を有すると考えられる。適切にプログラムされた場合に、食品または他の対象アイテムの調理後の外観が正しいか否かを、実際に確認することができる。調理プロセスを進行中に動的に調節、最適化、および修正するためのループを閉じるための装置として、カメラを使用することも可能である。同様に、赤外線カメラを、オーブンの対象または食品アイテムの正確な熱含量を実際に割り出すことができるように使用することが可能である。
【0221】
考えられる調理技術の一実施例が、図12および13に示されている。図示のとおり、システム100が、「開いた」準備完了状態(図12)および「閉じた」動作状態(図13)という2つの状態に示されている。システム100は、オーブンまたはパン焼き器の形態など、さまざまな形態をとることができる。少なくとも一形態において、システム100は、上側シャッタ104、下側シャッタ106、およびシャッタ位置センサ108を備える安全シャッタシステム102を備える。さらに、種々の形態をとることができる駆動機構110を、シャッタを両状態の間で動かすために使用することができる。さらには、少なくとも一形態においてシステムの動作の最中に閉じておくことができる扉101が示されている。当然ながら、扉(および、シャッタシステムなどの他の安全用の造作)は、システム内への照射の封じ込めを提供する。少なくとも一形態においては、ドアが開かれている場合に、例えばシステムが照射を生じる動作を行わない。他の構成または機構も、扉101(あるいは、図14(a)〜(c)の扉)の代案または増強として設けることが可能である。
【0222】
さらに、安全シャッタシステム102によって選択的に覆われる観察窓120が示されている。観察窓120は、料理人またはシステム100の操作者がオーブン内(例えば、オーブン内の調理または照射ゾーン(図示されていない))で生じている照射の進行を観察できるようにするために所望される。いくつかの形態においては、安全システム102を、観察窓120または動作のための方法として狭帯域の照射素子を使用する器具の領域に組み合わせて有することが推奨され、多くの場合にそのようにすることが必要である。システム102は、目を素子からの放射への暴露によって生じ得る損傷から保護する。所与の用途において使用される波長に応じて、有効な使用および器具のために必要な出力は、目または体の他の部分の照射への直接的な暴露または間接的な反射による暴露が、目の外部または網膜の損傷を生じさせかねないような出力である場合がある。安全システム102は、保護のために使用することができる動作手段だけでなく、器具の故障または誤用の場合のフェイルセーフシステムも提供する。
【0223】
観察窓120は、一形態においては、狭帯域の照射素子が積極的に照射を生成しているときに照射を封じ込めるべく常に閉じられているように設計される。安全インターロックを、扉の開放と狭帯域の素子の通電とが同時に生じることがないように、回路に備えることができる。センサ108などのセンサが、照射素子の作動が可能になる前にシャッタの位置を確認する。これらのシャッタ監視センサは、動作の最中に常に、観察窓のシャッタの位置または状態を監視し、すなわちシステム内への照射の封じ込めの状態を監視する。
【0224】
さらに、制御ボタン130が図示されている。制御ボタン130は、さまざまな形態をとることができる。しかしながら、そのような一形態においては、制御ボタン130が、観察カメラ150および本発明のシステムによる調理に使用される照射素子(図示されていない)を制御するための制御システム(図示されていない)へと作動可能に接続されている。
【0225】
従来からのパン焼き器は、ユーザによる設定(通常は、1〜5が記されたダイアル)にもとづいて焼けたパンを放出してパン焼きプロセスを停止させるために、きわめて基本的な周囲温度(対流)の測定に依存している。焼けたパンの正確な「出来具合」は、このダイアルの正確さ、基本制御などの設定の再現性、およびバイメタル温度片の状態(老化、摩耗、パン焼きの開始時の周囲温度、など)に依存する。他方で、ダイオード源を、(必要であれば)ナノ秒まで制御することが可能であり、外部の状態にかかわらずに一貫した量の放射エネルギーを放射するように構成することができる。制御ボタン130(および、関連の制御システム)などのさらにわずかに高度化された制御部により、焼けたパンまたは他の食品アイテムを、ときには誤って選択される消費者の設定にかかわらずに繰り返し生成することができる。
【0226】
図12および13には具体的には示されていない(図14に示されている)が、本発明のシステムの制御システムは、好都合な動作および調理を可能にする。制御システム(および、システムの他の適切な構成部品)が、さまざまな構成をとってよいことを理解すべきである。本明細書に記載のシステムおよび方法の目的に合致する種々のソフトウェアルーチンおよびハードウェア構成を利用することができる。種々のプロセッサおよびメモリ素子を、本明細書に記載の実施形態を実現するためのルーチンおよび機能を実行するために使用することができる。
【0227】
本発明の半導体の性質ゆえに、制御システムは、例えば観察カメラ150によって意図される対象の仕上がり具合を光学的に検出して、タイミング、強度、出力、および完璧さのうちの少なくとも1つについて固体照射素子を調節することができる。実際の調理結果に関して制御ループを閉じるそのような制御システムを取り入れることで、別の機能的な利点が認識され、この技術の実践者にとって利用可能になる。この制御の可能性を取り入れるいくつかの例を、本明細書において詳述する。
【0228】
また、賢い制御システムが、多数の他の可能性を促進する。関連のシステムまたは独立のシステムと有線または無線で通信することが可能である。そのようなシステムは、例えば住宅全体の自動化システムと通信することができる。これは、幅広くさまざまなプログラム可能性を促進できるだけでなく、新たな種類の監視も促進することができる。例えば、有線または無線の通信リンクを、調理を監視するために使用される1つ以上のカメラまたは他のセンサから促進し、その画像または情報を、オーブンの近傍または遠方の他の表示装置において利用可能にすることができる。台所に配置されたテレビまたはコンピュータモニタが、調理の進行を示す画像を表示することができる。これは、例えば閉じられたオーブン内で調理されているピザの下面および上面の画像を含むことができる。これは、多くのオーブンが調理の進行を眺めるために備える伝統的な観察窓を備えることよりも優れている。多くの場合、観察の角度および照明が、人間である観察者にとって窓を通した観察に理想的ではなく、多くの場合、照射による調理が進行しているときに観察窓では安全に観察を行うことが不可能である。本明細書に記載のとおりの複数の機能のための内部のカメラを使用することによって、調理の進行について安全であり、拡大され、より便利である観察が可能になる。容易に利用することができる技術により、画像および/または他の調理データをBluetoothによって携帯電話機、PDA、iPhone、または同様のデバイスへと送信することが妥当である。
【0229】
制御システムの他の重要なサブ機能は、照射素子を動作させる電流を供給することにある。電源は、電流が制御された電源であるDC電源でなければならない。素子そのものはデジタル素子であり、したがってひとたびオンになったならば、電源が生み出す量と同じ量の電流を流す。素子が耐え得るレベルに電流が制限されない場合、素子が破壊されてしまう。
【0230】
照射素子またはダイオードアレイの放射エネルギーの出力は、基本的には、例えばシステム100の調理または照射ゾーン内の食品アイテムに向かって「照準」され、すなわち指向性を持って放射される光子である。この点で、オーブンシステム100は、照射素子を支持または収容するために種々さまざまな構造システムを備える。そのような構造システムの具体的な構成は、用途によってさまざまであろう。また、支持または収容された照射素子の出力を、種々の光源におけるレンズと同様のやり方で取り扱うことができる。リフレクタ、レンズ、回折器、屈折器、分割器、および光ファイバが、いずれも放射エネルギーを所与の用途の必要に応じて操縦する実行可能なやり方である。光ファイバは、単一のレーザダイオードからの照射エネルギーを、レーザダイオードの場所から遠く離れており、あるいはレーザダイオードの場所とはまったく異なる環境または場所に位置している使用の場所へと、そのまま届けることができるため、実施の態様に多大な柔軟性を付与する。しかしながら、レーザダイオードの出力面からファイバへと入るときに、大きな結合損失が存在するという不利な面もある。選択される光学的技法または技術にかかわらず、光を取り扱うハードウェアが正しく配置されて生成の構成に結合させられたならば、放射エネルギーを正しい強度および角度で必要な場所に効率的に届けることができる。正しい構成は、固体素子および他の構成部品を、食品、プロセス、または対象の副生成物または汚染物質へと暴露されることがないように保つという利点も有する。
【0231】
他の形態においては、本発明のデジタル半導体ベースの狭帯域調理技術を、より一般的な調理技術と混合または統合することが可能である。例えば、マイクロ波調理の能力も取り入れている多波長狭帯域オーブンを製作することが可能である。抵抗式の調理素子または石英調理素子を統合することが望ましい場合がある。マイクロ波攪拌ファンを、複数の機能を実行するように狭帯域波長走査または散乱装置として使用することが好都合な場合がある。どのようにして狭帯域のオーブンまたは調理技術を多数のさまざまな組み合わせおよび順列にて他のより一般的な方法と組み合わせ、両方の世界の最良を得ることができるのかを、容易に理解できるであろう。場合によっては市場または消費者の好みを考慮する必要があり、場合によっては価格を考慮する必要があり、場合によってはコンパクトさ、すなわち設置面積の問題を考慮する必要があるが、本発明のまったく新しい考え方をより伝統的な実務のいくつかと組み合わせることで、多大な柔軟性および機能がもたらされる。
【0232】
システム100のための他の選択肢として、サーボモータおよびリモート制御の使用が挙げられる。サーボを、最適な加熱が生じるように1つ以上の素子のエネルギー出力に調理のタイミングを合わせ、あるいは調理を協調させるために使用することができる。この技法は、以下でピザの用途に取り入れられる。狭帯域素子を所望のとおりの照射のための正しい向きへと移動させるべくサーボモータまたは線形アクチュエータを使用する多数のさまざまなやり方が存在する。反対に、食品または対象そのものを正しい照射の向きへとサーボしてもよい。
【0233】
さらに、本明細書に記載の典型的なシステムの制御システム(または、同様の装置またはルーチン)が、少なくとも一形態において、照射のパルス幅を変更し、振幅を変更し、波長を変化させ、エネルギーにさまざまな種類の変調をもたらすように動作できることを、理解すべきである。この食品アイテムへと入力されるエネルギーの変調は、ユーザインターフェイスによる設定または入力、システムの設定またはパラメータ、あるいはシステム内のセンサの出力にもとづくことができる。
【0234】
システムが本質的により安全な低電圧のやり方で動作し、かつシステムをより広範囲に監視することができるため、エンドユーザがインターネットまたは電話接続を介してユニットのオンおよびオフならびにユニットのプログラムを行うことを可能にするリモート制御システムを、より容易に備えることができる。デジタル狭帯域素子に本質的に備わる制御の正確さおよびこの種の素子の接続性の可能性が、単独または住宅全体システムの一部としての無線の接続性に適する。
【0235】
考えられる調理技術のさらなる実施態様においては、システムおよび方法が、図14(a)〜(c)に概略的に示されるようにピザを効率的に調理するように設計され、そのように動作することができる。図示のとおり、システムは、ピザを調理室(30)へと出し入れするために、搬送手段(20)を備える。ピザは、おそらくは照射に対して約98%透明である開放メッシュ式のコンベアベルト(22)で調理室に出入りする。ピザを待ち行列位置23から調理室30へと取り入れるべき時間が来たとき、制御システム15が線形アクチュエータ12を作動させ、調理室30へのアクセスを可能にすべく扉41Aを上昇させる。さらに制御システム15(例えば少なくとも図12、13、および14(a)〜(c)に関して本明細書に記載したとおりに機能するように動作することができる)は、ユーザが冷却または動作のための設定またはパラメータを入力できるように、ユーザインターフェイスを備えることができる。設定またはパラメータとして、調理時間、温度、食品の種類など、任意のそのような設定またはパラメータを挙げることができる。インターロックセンサ14が、制御システム15に対して扉41Aが完全に上昇した旨を知らせたとき、制御システム15は、ピザを調理室30へと届けるべくモータ10を作動させてコンベアベルトの前方への駆動を開始させる。モータ10が動作しているとき、コンベアベルト22がピザを調理室30へと運び、カメラ60が継続的に写真を撮影し、それらの写真がピザの位置を割り出すために分析される。ひとたび賢いカメラ60において学習済みのアルゴリズムが、ピザ35が調理のための正しい位置にあると判断すると、ピザが正しい位置にある旨を知らせる信号が、カメラ60から制御システム15へと送信される。制御システム15は、モータ10をオフにしてピザを調理のための正しい位置に停止させる自身のプログラムの次の段階を実行する。この時点で、制御システム15は、扉を閉じる線形アクチュエータ12を作動させることによって、扉41Aの閉鎖の手順を開始させる。センサ16Aおよび16Bが制御システム15とハンドシェイクし、扉41Aが完全に閉じた旨をフェイルセーフなやり方で知らせたとき、線形アクチュエータ12への信号が止められ、扉が閉鎖位置に固定される。調理サイクルの最中のいずれかの時点で何かが扉41Aを持ち上げ始める場合、センサ16Aおよび16Bが扉の位置を継続的に監視し、そのような状態が取り除かれるまですべての照射を速やかに停止させるように求める信号を制御システム15へと送信する。このようにして、扉を備えるシステムが、システム内への照射の安全な封じ込めを提供する。
【0236】
扉が閉じられ、カメラのアルゴリズムがピザが正しい調理位置にあるという条件を満たした状態で、制御システム15は、食品アイテム(例えば、ピザ)の種々の態様(ピザの位置およびピザに乗せられた食品成分の位置など)を示すようにカメラ60に要求する。さらには、ピザに乗せられた食品成分の種類ならびにピザに乗せられた食品アイテムのマスの形状中心および向きを特定するようにカメラに要求する。さらに、各々の食品成分ならびにクラスト、チーズ、およびソースの色を特定するようにカメラに要求する。カメラ60は、上記特定された食品成分の各々の温度を割り出すことができるように、赤外線カメラであってもよい。上記アイテムについてのカメラ60からの情報が制御システム15によって受信された後で、制御システム15は、ピザの調理に推奨される照射パターンのプログラムを計算する。調理照射プログラムを計算するために、制御システム15は、ピザおよびピザのトッピングを調理すべく狭帯域照射の技術を使用する最良のやり方に関して、実験および研究によって決定された情報をメモリから入手する。あるいは、この入力の一部を、ユーザ/作業者が(制御システム15に組み合わせられたインターフェイスなどの適切なインターフェイスによって)入力してもよい。また、調理すべき特定のトッピングへのレーザの取り付け位置からの角度ゆえに必要となる可能性がある補正を示す基準情報にアクセスすることができる。これらの補正係数も、調理アルゴリズムの最適化を助けるために研究および実験から作成されている。ピザの下面は基本の生地の他には食品アイテムまたはトッピングを有していないため、下面については、作業者によって初期値に設定済みの参照情報および厚さ情報の両者から標準的な調理プログラムが決定される。カメラ60が、早い段階において制御システム15へとピザの直径を知らせているため、データがすでに存在しており、利用可能である。随意による特徴は、さまざまな種類の厚さ測定センサであってよい。例えば、三角測量センサ17または種々の厚さを割り出すために使用することができる他の種類のセンサであってよい。さらに、カメラ60を、構造化された光または特別なアルゴリズムが使用される場合に、種々の厚さおよび他の寸法データを割り出すために利用することができる。また、ピザがコンベアベルト22でオーブンの部屋30へと運ばれるときに、カメラ60によって一連の写真を撮り、ピザのクラストおよびトッピングの三次元の態様を三角測量して割り出すために、適切な視角検査アルゴリズムと組み合わせて使用することができる。センサ18および19からの水分およびにおいなどの他のデータを、制御システム15へと送信し、推奨される調理の全体アルゴリズムの決定に使用することができる。
【0237】
この用途のために制御システム15によって作成される調理アルゴリズム(また図12および13の実施の態様を含む他の調理アルゴリズム)は、理想的には、きわめて包括的であってよい。各々のトッピングへと注入すべきエネルギーのジュール数などの項目を含むことができる。角度、照射の強度、時間、時間並び、各々の目的のために使用すべき1つ以上の波長、平衡時間(熱の浸透)、およびすべての関連の詳細が、プログラムに含まれる。要約すると、制御システム15は、マトリクスの全体の順次的な照射パターンを、マトリクスの各位置の推奨される調理の要件を考慮に入れて設計している。最終的に、調理の手順が、ピザおよびトッピングの全体を包含し、したがって調理する。
【0238】
本発明のシステム(図12、13、および14のシステムなど)を制御するための任意のそのようなルーチン、方法、および技法を、さまざまなソフトウェアルーチンおよびハードウェア構成を使用して実現できることを、理解すべきである。例えば、適切なメモリ装置または場所に保存し、適切なプロセッサによって実行することが可能である。
【0239】
今や制御システム15が、上述のように作成されたマトリクス全体の調理アルゴリズムの実行を開始する。制御システム15が、ガルバノメータ71に対し、マトリクスの照射パターンの第1組の偏向角度へと移動するように指示する。ガルバノメータによって設定されるそのような偏向角度は、狭帯域の照射を対象上の特定の位置へと反射させるための正しい角度である。ひとたびガルバノメータ71が所定の位置に達した旨を制御システム15へと返信すると、制御システム15は、所定のプログラム時間にわたって選択されたプログラム強度で波長Aの何らかの狭帯域の照射をパルス状に発するように、レーザダイオード狭帯域照射ユニット72を作動させる。照射が続いているときに、制御システム15は、次の偏向角度およびそのような位置へと移動すべき時刻をガルバノメータ71に送信する。プログラムが効率的に設計されているならば、照射を次のプログラム位置を素早く照準して続けることが出来るよう、次の位置までの移動が最小である。制御システム15は、あらかじめ設計された調理プログラムの全体を続けるときに、適切な調理がプログラムが完了したときの複合の結果であるように、正しい時点で、正しい強度で、マトリクス内の各々の正確な地点に、正確な狭帯域の照射を向けることができる。それは、成分(ソース、チーズ、およびトッピング)を有するピザを、各々の部位における各々の成分のための所望の調理結果のために、正しい照射およびタイミングで「塗装」するかのようである。ピザのいくつかの領域を、期待される調理結果を得るために、繰り返し所望のとおりに「塗装」することができ、あるいはより長い継続時間またはより短い継続時間で所望のとおりに「塗装」することができる。
【0240】
制御部15がピザの上面についてプログラムを実行すべく正しい信号の送信および受信を続けているとき、ピザの下面は、照射システムモジュール70Bによって同様に照射されている。ピザの下面のためのプログラムは、トッピングまたは種々のさまざまな食品アイテムを有しておらず、主としてピザ生地だけの調理であるという事実にもとづいて、調理の要件に合わせて特別に作成される。先験的な調理の知識のデータベースから、ピザの下面および上面の両方において照射される各々の食品アイテムに正しい時点で適切な調理の深さを与える波長が選択される。ピザの下面の生地を調理するために、950nmまたは1275nmの波長を、技術者の設計の好みに応じて選択することができる。これらの波長のどちらも、ピザ生地への深い浸透をもたらすと考えられ、生地の表面を焦がしたり、焼いたりする傾向を持たないと考えられる。生地が深いところまで適切に調理されたとき、表面を焦がすためにおそらくは1450nmのより長い波長を追加することができ、あるいはそのような波長に切り換えることができる。この波長においては、浸透の深さが小さいと予想され、したがってより多くのエネルギーが表面付近において素早く吸収され、より良好な外観および風味のためにクラストを焦がすと考えられる。調理の対象ならびに食品成分の各々の特徴的な吸収スペクトルに応じて、必要に応じて調理の全体をより良好に最適化できる他の狭帯域の波長を選択することが可能である。予算の要件を最も最適な調理に対比して考慮し、いくつの異なる波長を特定のオーブンの設計に取り入れるかを決定するために、商売および工学の複合の決定を行わなければならない。当然ながら、多数の異なる狭帯域の半導体ベースのスキャナモジュール70Aを備えることが可能であるが、費用対性能の妥協を相応に行わなければならないと考えられる。また、この狭帯域のオーブンの考え方について、より精巧な変種およびより単純な変種の両方を有することが妥当であり、そのようなことは、商売上の判断によって必要になると考えられる。例えば、より単純な変種においては、ピザ35が単純に手作業によって調理室30に配置され、調理が完了したときに手作業で取り出されると考えられる。上述の考え方のさらに別の変種は、ピザ35の下方のアレイまたはバー75に含まれる狭帯域の半導体ベースの照射素子のバーを使用することができる。これは、狭帯域のスキャナモジュール70Bの代替として使用されると考えられる。バー状の構成が使用される場合、ピザ35またはバー75を回転させ、あるいはバー75の直線駆動を使用することが、望ましいと考えられる。このようにして生成される段階的な運動が、照射素子を適切なタイミングでオンにすることができるよう、制御システム15へと継続的に通信される。
【0241】
調理プログラムが制御システム15と狭帯域の照射モジュール70Aおよび70Bとの間の相互作用によって実行されているとき、カメラ60は、調理の進行の様子を確認すべく写真を撮影するように制御システム15によって定期的に要求される。したがって、カメラが、調理の前からの抽出画像データを調理の最中に取得される画像と比較し、多数の異なる細部を検証することができる。例えば、ピザのクラストおよび生地が正しく焦げているかを確認することができる。あるいは、ブロッコリがより濃い緑色に変化したことを確認することができる。カメラ60が赤外線カメラの機能も有する場合、各々のトッピングならびにクラスト、チーズ、およびソースの温度を確認することができる。次いで、それらの温度を制御システム15へと送信し、適切な調理において予想されるそれぞれの温度と比較することができる。制御システム15の論理プログラムが、いずれかの温度が適切な調理を示すには正しくないと判断した場合、正しい調理を得るために必要な場所に特定的に追加の照射を加えるプログラムのサブルーチンを開始することができる。この閉ループ(この場合には、カメラ60と制御システム15との間で実行される)の考え方は、本発明の多数の形態への進んだ応用の重要な態様である。
【0242】
ひとたび狭帯域の半導体源による調理が完了すると、制御システム15は、照射プログラムを停止させる。制御システム15は、出口扉41Bを上昇させるように線形アクチュエータ12に信号を送信する。センサ14Cが扉が完全に開いた位置にある旨を制御部15に知らせるとき、制御部15は、その位置に停止するようにアクチュエータ12に信号を送信する。この時点で、制御部15は、指定の時間期間にわたってプログラムされた速度で動作するように、モータモジュール10に信号を送信する。この行為により、コンベアベルト22の前進が始まり、ピザ35が調理室30から取り上げステーション24へと動かされる。コンベアベルト22が動いているとき、カメラ60が写真を撮影し、取り上げステーション24を最終的な目的地とする調理室30からのピザ35の適切な前進を確認する。調理済みのピザが調理室30から運び出されているときに、準備位置23に別のピザが存在する場合、同時にこのピザも調理室30へと運ばれる。次いで、上述のとおりの全体サイクルを、ピザ調理の製造の要件に合致するように所望のとおりに延々と繰り返すことができる。
【0243】
当然ながら、これらの狭帯域の案内可能な半導体ベースの考え方を、多数の創造的なやり方で、最も効率的かつ効果的な調理、あぶり、焼き、または加熱のシステムを最終的に有するように組み合わせることが可能である。これらの考え方の教示を承けて、当業者であれば、適切な実験データを集めた後で、これらの考え方をより単純な実施の態様またはより高度な実施の態様へと拡張できるであろう。
【0244】
図12、13、または14(a)〜(c)のシステムなど、本明細書において意図される1つ以上のシステムが、追加の特徴を備えてもよいことを理解すべきである。例えば、制御システム15などの制御システムが、制御システム内の電子機器を冷却するための冷却システムを備えることができる。さらに、やはり制御システムの一部であってよい通知システムを、システムまたは調理プロセスの状態に関する警報または通知をもたらすために設けることができる。さらには、調理室に、例えば湿気、煙、蒸気、などを室内から追い払うために、室内と他の場所(室の外部またはシステムの外部の場所など)との間の空気の交換を可能にする通気システムを備えることができる。通気システムは、ファン、触媒、または他の適切な手段を使用する形態など、さまざまな形態をとることができる。また、調理室に、適切な回転肉焼きシステムまたは器具を備えてもよい。
【0245】
図12、13、および14(a)〜(c)において説明したシステムなど、本出願によって意図されるシステムは、調理の分野において公知のシステムに対して、多数の利点を有する。そのような利点の1つは、エネルギー効率である。この点に関し、伝統的な広帯域の加熱素子または抵抗加熱素子は、実際のところきわめて効率的な熱源であるが、熱の効率的な使用において困難が生じる。ダイオードおよびレーザダイオードの効率が急速に向上しているが、抵抗加熱素子は、実際の熱の生成においてはるかに効率的である。非効率は、抵抗加熱素子によって生成される熱の多くが無駄にされ、熱の大部分が空気の加熱へと向かい、空気と対象との結合が非効率的であるため、エネルギーの大部分が非効率に取り扱われるがゆえに、式に入ってくる。上述したさまざまな種類の半導体ベースの放射線放射素子の各々が、上述のように特有の変換効率を有している。正味のシステム効率の大部分は、最も効率的であることができるように、エネルギーを必要とされているまさにその場所に配置することができ、対象に正確に一致した狭帯域の波長範囲を生成することができる能力からもたらされる。加熱/材料システムの全体を全体的にとらえた場合、デジタル狭帯域波長一致および空間制御の利点が、熱エネルギーをはるかに効率的なやり方で加熱されるべき材料へと供給するシステムをもたらす。また、伝統的な広帯域のヒータにおいては、最適でない波長および誤った方向に向かうエネルギーの割合が大きいだけでなく、直接的な放射エネルギーの多くが、多くの場合に遮蔽され、食品材料に直接触れることが出来ない。これは、通常は、より長い放射の赤外波長が、通常は食品または対象の皮膚または表面の加熱につながり、表面を焦がし、あるいは過度に調理することで生じる。これは、熱エネルギーの無駄のもう1つの原因であり、本明細書の教示のように狭帯域の技術が適切に適用されるのであれば生じない。
【0246】
狭帯域の半導体照射源、ダイオードの基本的な性質ゆえ、効率の向上は生得的である。放射熱エネルギーのうちのきわめて大きな量を、望まれる場所に位置させることが出来、従来からの広帯域の抵抗ヒータよりも短い時間枠で注入することができる。これは、当然ながら、高速なデジタル調理をもたらす。ダイオードまたはレーザダイオードは「瞬時オン」タイプの素子であるため、暖機時間が不要であり、予熱または待機のオーブンに伝統的に関係したエネルギーの無駄がない。ダイオードは、基本的に、2状態の素子であり、すなわちデジタル素子である。換言すると、順電圧が供給されたときにオンになり、あるいはオンにならない。順電圧のきわめてわずかな相違(通常は、200mV未満)で、突然かつ急激に電流の流れがオンになる。設計者は、LED、RED、またはレーザダイオード素子を、部分的なオンの状態で使用することを試みないであろう。これは、抵抗コイル、Calrod、または石英ランプなどの伝統的な広帯域の熱源ときわめて対照的である。広帯域の熱源が、電圧と電流との間にきわめて線形なアナログの関係を有する一方で、半導体ベースの発光ダイオードおよびレーザダイオードは、電圧と電流との間にきわめて非線形なデジタルの関係を有する。これが図15に示されている。電流駆動レベルが、ダイオードベースの素子においては、外部の回路によって注意深く制御されなければならない。なぜならば、デジタル的なターンオン電圧に達するや否や、回路において入手可能なあらゆる電流を通してしまい、すぐに素子の破壊につながるからである。これらのデジタル狭帯域照射素子の他の特徴は、きわめて高い速度にある。オンになり、完全な照射強度に達し、次いで再びオフになることが、数ナノ秒で可能である。石英ランプは、抵抗加熱源のうちで最速である。従来からのアナログ石英ランプは、比較すると、同じ芸当を実行するために少なくとも数秒を要する。したがって、狭帯域のデジタル半導体ベースの照射源は、最速のアナログ広帯域源と比べて10億倍よりもさらに速い。
【0247】
デジタル狭帯域照射素子の猛烈な速度、その固有の指向性、および正確な波長選択性の組み合わせが、これらの新規な考え方によってオーブンおよび調理設備を設計する者に、多くの大きな利点をもたらす。1つの重要な結果は、従来からの広帯域の抵抗加熱または石英オーブンよりも高速な調理、硬化、焼き、焦がし、などである。例えば、パン焼き器が、瞬時にパン焼きを開始できるだけでなく、実際のパン焼きの速度も、はるかに高速にすることができる。なぜならば、浸透を綿密に制御することができ、したがってエネルギーを調理結果に悪影響を及ぼすことなくより高い速度で注入できるからである。実際、従来からの広帯域のパン焼き器において生じることが多い乾燥という伝統的な問題を生じさせずに、パンの表面を焦がすとともに、パンの内部を温めることができる。素子の照準可能性ゆえに、ほぼすべてのエネルギーをパンへと直接的に注入し、最も望まれる場所(内部の深い所や表面)に位置させることが、容易になる。これは、エネルギーに関してより効率的であるだけでなく、伝統的なアナログ広帯域素子に比べてパン焼き器のハウジングをはるかに低温に保ち、結果として台所環境の加熱が少ない。
【0248】
デジタル調理のための本発明のシステムの他の利点は、周囲の加熱が少ないことである。従来からの広帯域の抵抗ヒータによって生成される熱のうち、加熱すべき材料によって吸収される分はわずかである。例えば、ピザオーブンが予熱され、ピザの調理を開始できるようになる場合、ピザが実際に調理のために通されるまでは、エネルギーがすべて無駄にされる。したがって、この待機のエネルギーは、単純に環境へと失われ、HVACシステムなどの外部環境の制御部が、対処のためにさらに多くのエネルギーを費やすことを強いられる。単一の最適な吸収波長または複数の最適波長がダイオードベースのオーブンの設計の一部として選択されるため、放射体によって生成される放射熱エネルギーが、ほぼすべて対象の材料に吸収され、したがって外部の環境に負の影響を及ぼすことがない。ダイオード素子の回路基板のために水ジャケット冷却機構を使用することによって、放射エネルギーへと変化することがない熱を、他の場所の最良の選択肢へと移動させることができる。
【0249】
本発明のシステムのまたさらなる利点として、より効率的な加熱は、器具によって使用される電気負荷の軽減を意味する。さらに、「パン焼き速度」の向上の代わりに、きわめて小さなダイオードアレイを備える低出力の代案を、従来からのパン焼き器と同じ時間軸で、しかしながらわずかな電気負荷しか必要としないという追加の利点を伴って、パンを焼くために使用することができる。
【0250】
同様に、従来からのオーブン技術に比べて(上述した項目ゆえに)エネルギーの消費が少ないということは、パン焼きまたは調理サイクル当たりの動作エネルギーコストが低いことを意味する。使用されるエネルギーが、光子へと効率的に変換され、対象へと直接注入される。これらの素子から発せられるエネルギーは、本質的に指向性または方向の案内が可能であるため、放射光子のうちのきわめて高い割合が実際に対象アイテムに衝突する。より高いエネルギー密度を表面を焦がす恐れなく調理を実行するために直接注入できるため、調理を大幅に短縮された時間枠で実行することができる。すなわち、例えば各々のピザを調理するためのエネルギーコストおよび二酸化炭素排出量を大幅に下げることができる。このデジタルベースの技術は「瞬時オン」および「瞬時オフ」であるため、実際の調理が実行されているときしか電力を使用しない。環境へのさまざまな種類の影響が小さくなり、全体としてピザ店の店主または家庭にさらなる利益をもたらす。
【0251】
現在のレーザダイオード、LED、および他の半導体素子の長寿命によって実証されるとおり、より新しい技術を使用して動作寿命を大幅に延ばすことができる。しかしながら、従来からのオーブンおよびパン焼き器は、動作に関係した加熱および冷却の反復サイクルに関係する機械的な摩耗を免れない。丈夫ではあるが、フィラメントベースの電球とちょうど同じように、加熱または加熱素子が最終的に焼損または破損する。
【0252】
効率およびコストの利点の他に、本発明のシステムは、安全の特徴を含む。第1に、感電の危険が少なくなる。抵抗ヒータは、露出した抵抗線に電流を通すことによって動作する。オーブンまたはパン焼き器のハウジング内に安全に収容されているが、水(例えば、流しの水)または導電性の物体(フォークなど)との接触が、危険な状態につながる可能性がある。抵抗または石英加熱素子は、通常は、固有の危険を伴うかなりのAC電圧によって駆動される。狭帯域のダイオードベースの器具は、熱を生成する素子がユーザにとって直接露出しておらず、アクセス可能でなく、あるいは導電性でないため、これらの危険を減らすことができる。また、ダイオードまたはレーザダイオード素子は、通常は、はるかに安全な低電圧のDC電源によって駆動される。本発明にしたがって構築される適切な設計の製品を、ユーザをあらゆる電気接触の露出から隔離するようにより容易に設計することができる。
【0253】
火災の危険も少なくなる。従来からのパン焼き器からもたらされる環境の加熱の機構は、パン焼きスロットから出る空気の対流であり得るが、これが多くの場合にパン焼き器の本体を通る対流と組み合わさる。高温のパン焼き器は、きわめて本質的な火災の危険である。ダイオード素子そのものは、典型的には、自身の損傷を伴わずに100℃を超える温度に達することがあり得ず、出力が純粋に放射であって、対流ではない。周囲の空気ではなくて対象を直接加熱する放射熱を発することによって機能し、したがって何かが燃焼温度に達する理由がない。したがって、火災の危険が大幅に減らされてなる製品がもたらされる。
【0254】
本発明のシステムを使用する調理技法も改善される。例えば、調理油は、他の多くの食品と比べて、類似した特徴の吸収曲線を有するが、明確な相違を有している。調理油は、独特のピーク吸収を有しており、これを「フォールイン(fall in)」浸漬揚げ物と同様の風味を付与するために利用することができる。ピーク吸収の波長で照射を行うことによって、下方の製品に適度な表面の焦げをもたらしながら、調理油をきわめて高温にすることができる。この独特な特徴を利用することによって、浸漬揚げ物プロセスを代替する調理システムを設計することができる。しかしながら、本発明は、大量の高温の調理油が存在しないため、はるかに高速、かつより少ないエネルギー、より低いコスト、およびより高い安全性で調理を行う能力を有すると考えられる。また、適切に設計されたシステムが、調理油の吸収がより少ないと予想され、より少量のより健康的な調理油を使用できるため、より健康的な食品を生み出すと考えられる。
【0255】
また、食品アイテムの直接照射は、改善された調理技術ももたらす。すでに述べたように、伝統的または従来からの調理の大部分は、照射素子から食品を直接照射していない。この理由は、すでに述べたとおりである。抵抗加熱素子が、多くのオーブンにおいて空気を加熱するために使用され、この空気が食品を加熱するために使用されるため、プロセスにおいてさらなる非効率および不正確な工程が生じる。石英ランプが直接的な照射のために使用されることがあるが、多くの場合、やはり石英ランプの出力によって生じる高温の空気を調理室に吹かせるためにファンとの組み合わせにおいて使用される。デジタル狭帯域照射の利点の1つは、対象または食品アイテムを直接照射できるように正確な1つ以上の波長を選択できる点にある。上述の「ピザ塗装」の例で詳しく述べたように、この本発明の機能の組み合わせから生じることができる多数の利点が存在する。直接照射を容易にするために、場合によっては、ガラス製の調理器具または使用される波長においてきわめて透過性である他の調理器具の使用が推奨される。波長透過性の調理器具が使用される場合、食品または対象アイテムを潜在的にあらゆる方向および側から直接照射できることを、容易に理解することができる。もちろん、本発明を、直接照射によって加熱される半透過性の調理器具または不透明な調理器具においても実施することができる。これは、調理器具からのはるかに高い割合の熱伝導で食品を調理するため、最適でない場合がある別のインターフェイスを生じさせる。このやり方で行われる場合、正しい波長による食品または対象への深い浸透の利点の一部が、あまり顕著でなくなる可能性がある。
【0256】
さらに、本発明のシステムは、ユーザが食品アイテムへと風味を調理することを可能にする。調理システムに食品に煙でいぶした風味を生成または付与する何らかのやり方を備えることが、消費者においてきわめて好評である。多くの電気ベースの調理システムは、そのような風味を食品に与える能力を有していない。これが、燃焼式の調理システムがきわめて好評である1つの理由である。本発明のもう1つの利点が、煙でいぶしたような風味または他の種類の風味を付与するように構成できる点にある。ブリケット、木片、あるいは特別な媒体または部材を調理室へと食品の近傍に挿入し、煙または他のにおいのもとを生じさせるべく必要に応じて選択的に照射することができる。挿入物の吸収特性に一致するために特に適した狭帯域の波長を、相応に加熱されたときに正しい種類の煙または風味を生じることが知られている挿入物を照射するように案内することができる。また、活性化波長で照射されたときに所望の風味を生じる波長作動の食品添加物を使用することも可能である。本発明は、デジタル狭帯域素子が正確に照準可能であり、選択的な狭い波長を有することができ、適切に設計された場合に風味発生源をオン/オフするために効果的に使用可能であるため、この技法によく適している。
【0257】
本発明のシステムのまたさらなる利点は、他の調理装置を有する環境へと好都合に統合できる点にある。レシピの各部分または成分あるいは食事の各部分を、各アイテムが適切な時間に完成するように器具が「それぞれに話しかける(talk to each)」ことが出来るようなやり方で、高い精度で準備することができる。装置を瞬時にオン/オフできることで、調理または処理の速度についてはるかに包括的な制御が可能になり、他の食品の準備または保存の器具との上述の同期に役立つ。
【0258】
以上の説明から明らかであるとおり、本発明は、対象の温度を何らかのやり方で操作する目的で、狭帯域の放射の最適な波長を対象へと注入する新規かつ効率的なやり方に関する。注入される放射は、潜在的には、所与の用途のための任意の狭帯域の波長であってよいが、多くの場合、種々の対象製品についてより興味深い吸収の特徴が存在する傾向にある近赤外の波長帯にある。例えば、赤外線の注入の「対象」は、商業または工業の業務における大量の対象から家庭またはレストランの調理プロセスにおける一般的な個々の食品アイテムまでの範囲にわたる、幅広くさまざまなアイテムからの対象であってよい。
【0259】
一般に、理想的な狭帯域赤外加熱システムは、加熱または調理結果の最小限のエネルギー消費との正しい組み合わせにおいて、対象の温度を最適に上昇させる。そのようなシステムは、照射を構成するエネルギーが対象によって部分的、所望のとおり、または完全に吸収されて熱へと変換されるよう、電力の入力を対象へと照準された選択された単一または狭帯域の波長を有する放射電磁エネルギーの出力へと直接変換することができる素子を備えることができる。より効率的に電気入力が放射電磁出力へと変換されるほど、システムがより効率的に動作することができる。より効率的に放射電磁波が対象の所望の領域だけを露光するように照準されるほど、システムがより効率的に自身の仕事を達成できる。使用のために選択される放射線放射素子は、対象が照射されていないときに入力も出力エネルギーも浪費されないよう、瞬時「オン」および瞬時「オフ」の特徴を有するべきである。露光された対象がより効率的に放射電磁エネルギーを吸収して熱へと直接変換するほど、システムはより効率的に機能することができる。最適なシステムのために、システムの設計において、個々の用途に使用されるシステムの出力波長の組を、その狭い波長帯における対象の吸収の特徴に一致するように適切に選択することに注意を払わなければならない。これらの波長の選択は、おそらくは、本発明の対象用途が異なれば、異なる対象アイテムの特有の吸収の特徴および異なる所望の結果に最も適するように、異なる選択となるであろう。
【0260】
対照的に、本発明の応用の利点をさらに説明するために、幅広くさまざまな加工および処理のために、さまざまな異なる種類の広帯域の放射加熱または調理システムを使用することが、当技術分野および業界において周知である。すでに述べたように、そのような目的のためにこれまで利用可能であった技術は、比較的広帯域のスペクトルの放射電磁エネルギーを生成する。ほぼすべての場合に、オーブンに使用されるさまざまな種類の加熱素子は、少なくとも数千ナノメートル以上の帯域幅の放射エネルギーを生成する。多くの場合、たとえ生成される照射がもっぱら赤外の放射エネルギーとして出発しても、それが空気を加熱し、結果として対象に達するときまでに対流加熱となる。多くの場合、直接の放射エネルギーが対象に衝突することは、意図的に許されていない。なぜならば、広帯域の放射源の波長帯の多くが加熱または調理対象のアイテムに悪影響を及ぼすからである。多数のさまざまな広帯域の技術が、しばしば赤外加熱、赤外処理、赤外調理、または赤外加工システムと称される一方で、実際には赤外スペクトルのかなり外の放射エネルギーおよび対流熱もほぼ常に生成する。例えば、一般的な家庭用オーブンは、きわめて長い波長の広帯域の赤外エネルギーを大量に生成する抵抗「Calrod」加熱素子を使用する。また、中赤外および近赤外ならびに可視スペクトルの上端においてもエネルギーを生成する。これは、高い出力レベルにあるときに濃い鮮紅色に発光するという事実から明らかである。長い波長のエネルギーは食品の表面を焦がしてしまう可能性が高いため、典型的には、放射エネルギーが食品に直接衝突することがないようにする遮蔽が設けられる。結果として、遮蔽が直接の赤外エネルギーの多くを遮り、そのエネルギーが封じ込めの領域に跳ね返されるため、加熱素子の周囲の空気が過熱されるとともに、オーブンの壁および他の部品が大いに加熱され、結果としてオーブンの空洞が加熱され、対流または高温空気による調理となる。いわゆる「対流オーブン」は、高温空気の速度を高めることによって食品または対象との熱交換の速度を高めるブロアを単に有している。実際のところ、本来は高温空気で加熱を行うすべてのオーブンが対流オーブンであるが、この市場向けの用語は、数年前に高温空気の速度を高めるためのファンが新規かつ追加の特徴であったときに付与された。
【0261】
スペクトルの赤外部分は、一般的に、3つの波長分類へと分割される。それらは、通常は、近赤外、中赤外、および長赤外の波長帯として分類される。これらの用語は、実務においてきわめて大まかに、種々の業界ごとにわずかに異なって使用されているように見受けられ、これらの大まかな領域の正確な切り分け点は、明確には確立されていない。しかしながら、近赤外領域が可視光と1.5マイクロメートルとの間の範囲にわたることは、一般的に受け入れられている。波長は、本明細書および他の場所においてナノメートルという言葉で指定されることが多いため、1000nm(ナノメートル)が1μm(マイクロメートル)に等しいことを認識すべきである。中赤外の領域は、1.5〜5マイクロメートルの範囲にわたる。長赤外の領域は、一般に5〜14マイクロメートルの間およびそれよりも上に位置すると考えられる。
【0262】
何度も上述したように、工業、商業、調理、熱処理、またはプロセス設備において使用されている放射赤外源は、これまでは、赤外スペクトルの1つの部分に限定されることがほとんどないきわめて広帯域の波長を生成している。それら広帯域の出力は、赤外スペクトルの特定の範囲にピークを有する場合があるが、典型的には隣接の領域へとかなり延びる出力のすそを有している。設備または器具の製造者は、赤外という用語が、それが指す実際の波長帯に関して無意味であるほどに大まかに使用されるようになっているにもかかわらず、依然として自身の製品を「赤外」での加熱と一般的に称することに遠慮がない。赤外は、彼らの加熱または調理製品について、多くを正確に定義していない。例えば、当技術分野において周知であり、さまざまな調理、硬化、乾燥、およびプロセス加熱の作業に使用されている石英赤外加熱ランプは、多くの場合に、900〜1100ナノメートルの範囲にピーク出力を生じる。これらのランプは、出力のピークを900〜100ナノメートルの間に有する場合があるが、紫外(UV)から可視を経て中赤外の約3.5マイクロメートルに至る連続する一連の幅広い波長帯にきわめて大きな出力を有する。この分野における典型的な従来技術の例として、図16が、Heraeusと呼ばれる米国の大手の製造者が製造したいくつかの異なる種類の石英赤外加熱素子の出力のグラフを示している。明らかに、種々の設計の石英ランプのピーク出力が近赤外または中赤外の範囲にあるが、可視範囲および中赤外範囲の両方にかなりの出力を有する広帯域の放射源であることが明らかである。例えば、摂氏2200度の黒体を模擬する石英管は、その放射エネルギー強度の40%超を可視光範囲に有しており、その範囲の長波長側の端部において3000ナノメートルを超えて延びている。したがって、既存の広スペクトルの赤外源では、所与の加熱、硬化、調理、または処理の用途にとって最も望ましいと考えられる好ましい1つ以上の波長に関して、選択的であることができない。それは、本質的に広スペクトルの処理またはプロセスであり、安価であり、現実的な代案がこれまでは存在しておらず、本発明の教示以前には波長特定的な調理の実際の様態があまり知られていなかったがゆえに、幅広く使用されてきた。
【0263】
これらのアナログ広帯域源の調理における歴史的な使用と対照的に、本明細書で意図されるとおりの改善された加熱のやり方は、特定的かつはるかに狭い波長帯に位置する。このやり方は、対象の材料または食品が何であるかに依存するが、多くの対象において、最も効率的な調理または温度上昇のやり方は、1つ以上の狭い波長帯における熱IRエネルギーの吸収に起因することが多い。例えば、典型的な広帯域の赤外線源において、赤外線源が3000nmを超える帯域幅にわたって赤外エネルギーを発しているにもかかわらず、実際の熱吸収の大部分が、対象の吸収スペクトルに依存して決まる狭い波長帯において生じていることが、多くの場合に事実である。重要かつ有用な吸収または透過は、100nmよりも狭い可能性がある。したがって、広帯域のIRエネルギー出力の大部分が、本当に望まれる加熱または調理結果の達成において有用でない。
【0264】
抵抗加熱素子は、最も古く、依然として多くのオーブンおよび乾燥システムにおいて最も一般的な種類の電気熱源である。それらは、業界における初期の商品名ゆえに「Calrod」と呼ばれることが多いが、まさに抵抗加熱素子である。これらの加熱素子に電流を通すことによって、これらの加熱素子は、その温度の関数として変化する出力を有する黒体熱源に匹敵する。これらの加熱素子は、典型的には石英ランプよりも低い温度で動作するため、きわめて長い赤外の波長を放射する。これらの加熱素子の出力曲線は、プランクの法則に従う。これらの加熱素子は、オーブンにおいて、素子の近くの対象を3つの異なるやり方で実際に加熱する。これらの素子は、自身の周囲の大気を伝導によって過熱し、程度は低いがオーブンの構造、取り付け、および内表面を伝導によって過熱する。次いで、高温の空気が、対象を対流によって加熱する。さらに、長波の赤外エネルギーが、対象およびそれを収容している構造へと放射熱を与える。この加熱方法は、いくつかの異なる加熱の様態を含むが、非常に効率的ではないが、効率的に働くことが長年にわたって証明されてきた。単純な例として、平均的な家庭において調理プロセスの最中にオーブンの扉が開かれた場合、加熱された大量の空気が逃げ出し、家庭の通常の周囲温度の空気と置き換えられ、これを抵抗加熱素子から再び加熱しなければならない。調理の効率が、オーブンの付近の環境のかなりの加熱が生じているにせよ、オーブンの扉が開かれるときに失われる。実際に、オーブンの扉が開いたままにされると、システムが究極的にはオーブンについて設定されたサーモスタット温度まで家屋を加熱しようとし、きわめて無駄である。しかしながら、これは、扉を有していないことが多いコンベアオーブンを備えるピザ店ならびに多くの商業または産業の調理の状況において生じる筋書きである。
【0265】
本発明は、従来からのオーブンと全く対照的に、少なくとも1つの形態において、照射素子が所望のときにだけ作動してエネルギーを生成するように設計されている。「瞬時オン」/「瞬時オフ」型の素子であるため、食品または対象が加熱のために存在するときにだけオンにすればよい。多くの市販のオーブンは、冷却および再加熱の時間がかなり長く、オーブンが乱されることが望ましくない安定温度に達しているため、一日中オンにされている。例えば、ピザ店における大きなコストは、オーブンを長時間にわたって運転し、あるいは連続的に運転する費用である。本発明は、これらの状況に対して大きな利点をもたらすことができると同時に、調理プロセスにより高い精度をもたらすことができる。
【0266】
本発明は、新規な狭帯域技術および分子吸収の科学を利用して効率的に加熱を行うはるかに直接的なやり方である。対象の狭帯域の吸収の特徴に一致する狭帯域の加熱素子を選択することによって、放射エネルギーを、効率的かつ直接的に対象へと注入することができる。浸透の深さは、狭帯域放射加熱素子の出力に選択された波長における対象の吸収係数の関数である。
【0267】
エネルギー消費コストが、仕上がった物品または加熱処理された物品のコストのますます大きな部分を構成するようになってきている。例えば、ピザ店にとっての大きな費用は、ピザオーブンを運転するためのエネルギーコストである。本発明は、電気エネルギーを調理、乾燥、または硬化の対象品へとプロセスに必要な熱を生じさせるべく直接的に注入できる放射エネルギーへと変換するきわめて効率的なやり方である。
【0268】
この点に関し、固体電子工学の分野において、半導体放射体またはLEDあるいはレーザダイオードは周知である。この形式の光子または光子束放射体は、市場で入手することができ、紫外(UV)から可視を経て十分に赤外の範囲までの種々の波長で動作することが知られている。基本的な光電変換および化学的性質は、光出力の実際の生成に関して、LEDおよびレーザダイオードについてきわめて類似しており、レーザダイオードは、光子が実際に放射される前にポンピング増幅工程を追加し、したがってより高い光出力レベルを達成することができる。上述のように、どちらも本発明の実施に適した狭帯域素子であるため、説明される電子−光子の変換プロセスは、LEDおよびレーザダイオードの両方に関する。
【0269】
LEDおよびレーザダイオードは、適切にNおよびPドープされた半導体材料で作られる。Pドープ領域を同じ材料のNドープ領域に直接接触させて含むように適切に処理された多数の半導体材料に、ダイオードという一般名が与えられる。ダイオードは、その技術分野において周知のとおり、多数の重要な電気的および光電的特性を有している。例えば、形成された半導体ダイオードのNドープ領域とPドープ領域との間の物理的な境界において、材料に特徴的なバンドギャップが存在することが当技術分野において周知である。このバンドギャップは、N領域の伝導帯に位置する電子のエネルギーレベルについて、より低い利用可能なP領域の軌道の電子のエネルギーレベルに対する差に関係する。電子がPN接合を横切って流れるように誘導されるとき、N領域の伝導軌道からより低いP領域の軌道への電子のエネルギーレベルの遷移が生じ始め、そのような電子の遷移の各々について光子の放射が生じる。正確なエネルギーレベル、あるいは放射される光子の波長は、導かれた電子のエネルギーの低下に対応する。
【0270】
要約すると、LEDは、直接的な電流−光子の放射体として機能する。フィラメントまたは他の黒体式の放射体と異なり、出力光子を抽出できるようになる前に入力エネルギーを熱という中間的な形態に変換する必要がない。この直接的な電流−光子の挙動ゆえ、LEDは、きわめて高速に働くという特性を有する。LEDは、きわめて高いパルス速度のUV、可視、および/または近IR光の生成を必要とする多数の用途において使用されている。LEDの高いパルス速度という特性がきわめて有用である1つの具体的な用途は、可視または近赤外の光がレンズで合焦された画像の形成に使用され、次いで画像がコンピュータで検査される個々の部品の自動的な視覚検知の用途である。
【0271】
フィラメントベースの放射源と異なり、LEDは、使用されている半導体材料の特有のバンドギャップに対応する比較的限られた波長範囲の放射を生じる。このLEDの特性は、部品の照明、状態表示、または光通信など、波長選択的な動作が必要とされる用途において特に有用である。より最近では、LEDの大集団が、より大規模な形態の可視の照明に使用されており、自動車の尾灯または交通信号灯などの信号光にも使用されている。
【0272】
以上の説明は、本発明の特定の実施形態の開示を提供しているにすぎず、本発明をそれらの実施形態に限定しようとするものではない。したがって、本発明は、上述した用途または実施形態だけに限定されるものではない。本開示は、本発明の多数の用途を幅広く取り上げており、1つの用途の実施形態を具体的に取り上げている。当業者であれば、本発明の技術的範囲に包含される別の用途および具体的な実施形態に想到できると認識される。
【技術分野】
【0001】
本出願は、2009年3月5日付の米国特許仮出願第61/157,799号の優先権を主張し、この米国特許仮出願にもとづいており、この米国特許仮出願の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。さらに、本出願は、2006年2月9日付の米国特許出願第11/351,030号の部分継続出願でもあり、米国特許出願第11/351,030号は、2004年12月3日付の米国特許出願第11/003,679号(今や、2008年9月16日発行の米国特許第7,425,296号である)の継続出願であり、両出願の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
多数のさまざまな種類の調理が、数千年にわたって、種々の広帯域の熱源によって実行されてきている。加熱のために人間によって広く使用されている最先かつ最も基本的な熱源は、火である。火は、UVから遠赤外までの範囲にわたる放射熱エネルギーを生じさせる。各波長の放射の強度を定める出力曲線の実際の形状は、火の温度の関数として変化する。木材および石炭の火が油またはガスを燃料とするオーブンまたは調理面に移行したとき、根本は、火の燃焼によって広帯域の放射エネルギー源が生み出される点で、変わらないままであった。知識ベースが、一般的に入手可能な広帯域を有するオーブン調理という仮定を包含して蓄積された。20世紀の早い時期に電気がより一般的になったとき、電気エネルギーによる抵抗ベースの加熱コイルが、種々の燃焼ベースの熱源に代わって頻繁に使用されるようになった。これらの抵抗加熱コイルは、一般的に、業界においてCalrodと称されることが多い。消費者にとっては新規かつ最新であるように感じられるが、依然として基本的にはまさに広帯域の照射源である。このことは、周知であるとともに、Calrod加熱コイルが真っ赤に輝くことができるという事実(可視スペクトルの出力を示しており、遠赤外の波長へと続くエネルギーも生み出す)によっても証明される。きわめて広帯域の出力源であるけれども、そのピーク出力は、動作の温度に応じて、典型的には遠赤外の範疇にある。
【0003】
最近の数十年において、石英ハロゲンのランプ、管、および電球が、さまざまな種類のオーブンおよび硬化の用途において使用されている。石英が、はるかに高温の黒体プランク源を近似するため、典型的な抵抗熱源に比べて、可視スペクトルにおいて大幅に大きなエネルギーが出力される。種々の石英ランプが、さまざまな温度で動作するように設計され、そのような温度によって、出力曲線の中心が変化するとともに、生み出される可視光のエネルギーの量も左右される。中心またはピークの出力は、典型的には近赤外または中赤外の範囲に位置する。動作の温度にかかわらず、石英は、依然として近〜中赤外の範囲のピーク出力および数千ナノメートルの帯域幅を有する広帯域の熱源である。
【0004】
タングステンフィラメント白熱光電球も、特殊なオーブンの調理用の熱源として使用されている。Franklin S.Malickが、米国特許第4,481,405号において、プラスチック製の調理袋の中の食品を調理するために白熱光電球を使用する単純なシステムを教示している。石英は、単純な抵抗コイルまたはバーナよりも珍しくて特殊なオーブンであるが、明らかに、熱源として使用されている広帯域のアナログ照射装置である。
【0005】
これらの様式のさまざまな組み合わせが使用されているが、それらはすべて、広帯域のアナログ装置を種々のやり方で単に組み合わせているにすぎない。Robert A.Mittelsteadtが、米国特許第4,486,639号において、初期のマルチモード調理方法のうちの1つを教示している。電子レンジの石英ランプ加熱装置との組み合わせが教示されている。石英ランプを直接照射に使用し、あるいは空気を加熱して高温空気の対流によって調理を行うために使用するという制御の選択肢を備えることで、3つの異なる機能が1つの電子レンジに組み合わせられている。マイクロ波による調理は、おそらくは最新の根本的に異なる調理技術であるが、基本的な高周波のマイクロ波は本質的に、実際には上述の熱源よりもはるかに幅広い帯域のアナログ源である。実際に、本発明よりも前に市場で入手することができる調理装置は、アナログ広帯域の形式の調理装置だけである。
【0006】
Ronald Lentzらが、米国特許第5,382,441号において、いくつかの基本的な考え方を理解および再教示している。Lentzらは、食品において、長い波長の赤外線が、より短い波長と比べて、浸透の深さが浅いことを認識している。また、加熱装置の温度の関数として変化する広帯域の放射出力を説明するプランクの黒体の法則の古典的な物理学を、ある深さにおいて認識および再教示している。Lentzらは、出力の波長を制御できることが望ましいが、この課題に対する簡潔、直接的、または効率的な解決策がないことを認識している。Lentzらは、それを効率的に行うことが絶対的に不可能である。したがって、広帯域のアナログ源を使用し、放射源と調理対象の食品との間にフィルタを付加することを教示している。水フィルタまたは処理ガラスフィルタが提案されている。Lentzらは、たとえ石英ランプという最良の選択でも「800〜1300nmの間の放射の最大でも35%しか届けることができないことが明らかになった」と認識している。したがって、Lentzらは、フィルタの使用を教示することによってエネルギーの65%を無駄にしようとしている。この65%は、フィルタによって吸収され、フィルタを過熱させて黒体放射体へと変化させるか、あるいはフィルタ手段から熱を取り除くために何らかの外部の手段を使用する結果となる。これは、実施が面倒である。いずれの状況においても、広帯域のアナログ源から望まれない波長を取り除くきわめて非効率的なやり方である。Lentzらは、対象に到達する照射を約500nmの帯域幅に限定することを教示しているが、それは依然として広帯域の源を呈する。Lentzらは、高分解能の吸収曲線を教示していない。すなわち、Lentzらは、彼らの非効率的な技法では依然として対処することができない微視的なピークおよび微視的な谷が多くの製品の吸収曲線に存在することを、教示も認識もしていない。例えば、本発明は、高分解能の曲線が、ピザ生地が1200nmにおいて900nmにおけるよりもおおよそ約4倍も吸収性であることを示しているという事実を利用することができる。同じ生地は、1200nmにおいて1100nmにおけるよりも約3倍も吸収性である。Lentzらは、彼らの解決策がもたらすことができるよりもさらに調理のやり方を最適化するために、この重要なデータを利用するいかなる種類の解決策も教示していない。また、Lentzらは、デジタル半導体ベースの狭帯域の熱源を教示しておらず、そのような熱源をどのように製作または実現できるかを開示していない。さらには、狭帯域の熱源が何を利点としてもたらすかも教示していない。また、いかなる「瞬時オン」/「瞬時オフ」の技術も教示または発明していない。パルス状の照射の技術はもちろん、その利点も教示していない。Lentzらは、自身の発明を他のIR放射源においても実施できることに軽く触れているが、それらのIR放射源がデジタル、半導体ベース、狭帯域、または指向性のいずれであるとも述べていない。さらには、直接的な電子−光子の変換を達成するIR照射源を実現するための方法を教示していない。Lentzらの発明の要旨が、ある種の望ましくない広帯域の範囲を軽減または除去するためにフィルタを使用することにあることは、明らかである。
【0007】
照射の波長が調理に種々の影響を有するという基本的考え方の多くは、何年も前から一般的に理解されている。例えば、きわめて長い波長が、皮膚の吸収または表面にきわめて近い対象の食品の加熱に貢献することが、一般的に理解されている。これが、多くの現行のオーブンが、典型的には、表面の加熱が所望の最終結果でない限り、食品を遠赤外線源の照射に直接曝すことがないように設計されている理由である。ブロイラ加熱素子が、典型的には、調理対象の食品を直接的に照射して表面の付近を焼いて調理することができるよう、調理対象の食品の上方に取り付けられる。他方で、ベーキング加熱素子が、なべまたは調理容器が食品と加熱素子との間に位置し、食品が長い波長の赤外エネルギーによって直接照射されることがないように、食品の下方に取り付けられる。この考え方の別の例が、食品を温かくてすぐに食べられる状態に保つための赤外線装置である米国特許第6,294,769号においてDavid McCarterによって教示されている。具体的には、フレンチフライなどの食品を実質的な追加の内部の調理を生じさせることなく所望の温度に保つために有用なシステムが記載されている。教示されている考え方は、おおむね7.91〜4.7μの波長範囲の赤外線加熱を生じさせる抵抗広帯域セラミック加熱素子を使用するという考え方である。図1が、およそ5.4μに位置するピーク吸収まで波長が長くなるにつれて吸収が増加し、次いでグラフに示されている7μの最大波長へと吸収が緩やかに低下する旨をおおむね示しているMcCarterによるフレンチフライの吸収グラフを示している。フレンチフライの比吸収係数が、4.7μにおける約62%から5.4μにおける約95%へと変化し、次いで7μにおける約73%へと再び低下している。McCarterは、照射の波長を当該用途に所望される正確な吸収係数に正確に一致させることを容易にすると考えられる狭帯域のエネルギーおよびデジタル源の使用を教示していない。McCarterが記載する広帯域の構成において、フレンチフライは、ある波長において、700nmしか離れていない波長と比べて50%も多い吸収を呈する。McCarterが発見できた最も狭い源を使用しても、理想的と考えられる吸収に合わせることは不可能であった。それは、広帯域の源では不可能である。さらに、McCarterは、食品を正確に正しい温度に維持するために瞬時にオフおよびオンにすることが可能でありながら、加熱装置のオン時にしかエネルギーが消費されないがゆえにデューティサイクルを小さくすることによって大幅にエネルギーを節約できるデジタル加熱システムを教示していない。McCarterは、自身の目的に適するきわめて低い分解能のグラフしか示していない。しかしながら、詳細な吸収曲線の形状をもたらすと考えられる分解能を欠いているため、大域的なピークではなくて局所的な微視的ピークへと照射を行う狭帯域のシステムによる照射が可能であるならば、はるかに短い波長において同じ平均吸収を得ることができる可能性があることについて、教示することができず、教示していない。
【0008】
Yang Kyeong Kimらが、米国特許第6,348,676号において、調理に石英ランプを使用するための方法を教示している。Kimらは、すでに述べたように、出力曲線の形状を、ランプがどの温度において機能するように設計されているかの関数として変化させることができる旨を教示している。Kimらは、約1.1μにピーク出力を有する2400°Kの装置として機能するように設計された石英ランプを示している。比較によると、2300°Kの装置は、やや平坦な出力曲線にて約1.25μにピーク出力を有している。最大出力の波長にかかわらず、両方の装置の曲線は、可視範囲の全体から中赤外領域の3μ以上までにかなりの出力を有するものとして示されている。図2において、Kimが、さまざまな食品アイテムの吸収スペクトル曲線を示している。これらは低分解能の吸収曲線であるが、各々の曲線が独自であって、他のすべての曲線とは異なっている。これらの曲線がおおむね共通に有しているのは、1400nm付近よりも下方において、この波長よりも上と比べて、大幅に透過性である(吸収が少ない)点である。Kimは、より低い色温度を有する石英ランプを使用することによって、おおむね1400nm付近よりも上であると示されているおおむね高い吸収の領域に位置するより長い波長の赤外エネルギーの出力が大きいがゆえに、食品をより速く調理することができると主張しようと試みている。Kimらは、個々の食品アイテムの最適な調理の吸収をどのように利用するかを教示していない。やはり、食品アイテムは、互いに大きく異なるそれらの吸収曲線に局所的かつ微小なピークおよび微小な谷を有している。わずかに100nmの波長範囲内でも、大きな差があることが明らかになっている。示されているグラフがきわめて低い分解能または細かさしか有していないため、これらの小さな特徴がKimらにとって無意味であったことは明らかである。図2に示されている曲線の広帯域な形状を検討したのでは、個々の食品に特徴的であり得る微小なピークまたは微小な谷に一致する波長を照射すること、およびそのような波長を利用することが、不可能であったと考えられる。McCarterと同様に、調理の機会および効率を真に最適化するためにデジタルの狭帯域の照射で調理を行うための方法は、まったく教示されていない。
【0009】
Brian Farkasらが、米国特許第7,307,243号において、広帯域の源の混合を取り入れるさらに別のやり方を教示している。Farkasらも、より長い波長が一般的に食品アイテムの表面の近くで吸収される一方で、より短い波長がより大きな浸透を有する傾向にあることを、認識している。Farkasらは、種々のワット数および温度のプランク黒体源の使用を教示している。Farkasらは、いくつかのグラフによって、これらの従来からのアナログ広帯域源をどのように中心周波数および曲線の平坦さに関して変更できるのかを示している。さらにFarkasらは、より高温で働く黒体源ほど中心波長が短いという物理学において周知の内容を示している。したがって、波長が短くなるにつれ、曲線がやや急勾配かつより急峻になる。しかしながら、どんなに多数の異なるやり方で適用されても、それが依然として数千ナノメートルの幅のアナログ広帯域源であり、その急峻さおよび曲線が加えられる電圧または電流(ワット数)に比例して変化することが、やはり示されている。さらに、Farkasらは、オーブンそのものの本体および構造が時間を経て高温になり、自身の固有の黒体再放射体になることを認識している。Farkasらは、加熱素子がオフにされた場合でも、構造的な再放射の結果としてオーブンにおいて行われているかなりの放射の調理が依然として存在することを教示および説明している。これは、瞬時のオンおよびオフが可能であり、暖機の時間が調理の品質に実質的に影響しない本発明とは、まったく正反対の教示である。さらにFarkasは、長年にわたって知られているが、構成だけが異なるオーブン装置を教示している。Farkasは、上述の他の者と同様に、高分解能の吸収曲線の微小なピークおよび微小な谷を利用して所望の加熱または調理を最適化するためにデジタル狭帯域源を取り入れてなる本発明から得られると考えられる利点のいずれも教示していない。また、対象および調理の任務に適切に一致させた直接的な狭帯域の照射を使用することによって可能になる調理の速度の向上も教示していない。
【0010】
種々の他の特許が、伝統的なアナログ広帯域源を制御または上下に回転させ、あるいは調理対象からの距離を変化させる新規なやり方を教示している。米国特許第5,883,362号におけるDonald Pettiboneらが、そのような特許の例であるが、やはり本発明の利点、技法、および技術のいずれも教示していない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、これまでは利用可能でなかった全く新しい種類の調理の用途および技術のために、波長選択性が高く、赤外放射の使用を促進することができる少量または大量の赤外線の放射装置の実現をもたらす。
【0012】
本発明の目的は、優れたIRエネルギー変換効率の性能を有する熱IR加熱システムを備えるオーブン、プロセス、または処理システムを提供することにある。
【0013】
本発明の他の目的は、調理され、処理され、あるいは対象とされる特定の材料の特有の吸収スペクトルに合わせて調節されたIR浸透深さの性能を有するIR加熱システムを提供することにある。
【0014】
本発明の別の目的は、いくつかの種類の調理の用途にとって最適となり得るように選択された狭い波長帯のIR放射を生成するREDの巧みな混合を取り入れることができる熱IR放射システムを提供することにある。
【0015】
本発明の別の目的は、パルスモードで駆動することができ、そのようなパルスモードが、調理プロセスにおいて搬送されているときに食品アイテムにIR加熱をもたらすために特に適しており、あるいは食品アイテムの同期トラッキングの促進に特に適しているIR加熱システムを提供することにある。
【0016】
本発明の別の目的は、金属化されたリフレクタ要素による案内がさらに可能であるIR加熱素子を提供することにある。
【0017】
本発明の別の目的は、食品ごとに特有のIR加熱能力を提供するために、食品温度の測定システムとともに働くことができるIR加熱システムを提供することにある。
【0018】
本発明の別の目的は、半導体ベースの直接的な電流−光子のIR放射体または放射線放射ダイオード(RED)のアレイとして製造されるIR加熱素子を提供することにある。
【0019】
本発明のさらに別の利点は、熱伝導性の回路基板に取り付けられた素子、チップオンボードで取り熱伝導性の回路基板に取り付けられた素子、チップオンボードで折付けられた素子、ボールグリッドアレイで取り付けられた素子、拡大されたサイズの素子、および集積回路ベースの素子のうちの少なくとも1つを使用してアレイへと製造された半導体ベースのデジタル狭帯域素子を利用する熱注入システムを提供することにある。
【0020】
本発明のさらに別の利点は、きわめて特定的な単一または複数の狭い波長帯に大きな放射出力を有する赤外照射システムを提供することにある。
【0021】
本発明のさらに別の利点は、強力な熱赤外放射を生成し、位置、強度、波長、オン/オフの速度、指向性、パルス周波数、および製品のトラッキングのうちの少なくとも1つに関して高度にプログラム可能である機能性である。
【0022】
本発明のさらに別の利点は、熱エネルギーの注入について、現行の広帯域の熱源と比べて入力エネルギー効率が高いやり方を助成することにある。
【0023】
本発明のさらに別の目的は、幅広い範囲の用途のための汎用的な放射加熱システムであって、プログラム可能性およびパルス化の可能性との組み合わせにおいて波長選択的な赤外放射の機能の向上を提供するように構成できる放射加熱システムを提供することにある。
【0024】
本発明のさらに別の利点は、定常状態の強度よりもはるかに高い瞬時強度を有するきわめて高速な高強度の突発パルスを容易にする能力にある。パルス化は、いくつかの用途において重要となり得るより高いレベルの浸透深さを達成することができるより高いエネルギーの瞬時の光インパルスも容易にすることができる。
【0025】
本発明のさらに別の利点は、必要な出力、サイズ、構成、形状、波長の組み合わせ、または特定の用途のための方策によって決定される他の態様を提供するために、狭帯域の半導体ベースの素子によって、必要とされる数の素子をアレイに組み合わせることで、必要に応じてモジュール式で拡大できる点にある。そのような素子のアレイは、特定の用途を満足させるための必要に応じて、数十、数百、または数千の素子を含むことができる。
【0026】
本発明のさらに別の利点は、廃熱をそれを必要とする別の場所へと容易に運び去ることができ、あるいは対象外の加熱を減らすために使用の環境から運び去ることができる点にある。
【0027】
本発明のさらに別の利点は、周囲の廃熱をデジタル狭帯域半導体素子の直近から容易に取り除き、屋外の場所であってもよい好ましい場所へと運ぶことが出来るオーブンまたは対象加熱システムを構築できる能力にある。
【0028】
本発明のさらに別の利点は、RED素子を高密度でパッケージングし、これまでは現実的に達成されていなかった固体熱IR出力レベルをもたらすことができる点にある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
ここで説明される実施形態の一態様においては、システムが、食品アイテムを直接的または間接的な照射の少なくとも一方のために配置することができる照射ゾーンと、指向性の照射素子をはるかに高い瞬時強度を有するきわめて高速な大ゾーンの近傍に、照射素子からの照射を直接的または間接的に食品アイテムに衝突させることができるように保持する構造と、オンとなるしきい値においてきわめて狭い電圧変化の範囲を有するようなデジタル素子であり、少なくとも1つの狭帯域の放射を選択的に放射するように動作することができ、少なくとも1つの食品アイテムの吸収の特徴に一致する照射出力波長にもとづいて選択されている少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射素子と、前記狭帯域の照射素子を動作させるべく少なくとも電流を供給する制御システムと、を備える。
【0030】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射出力の波長を通すことなく照射ゾーンの観察を可能にするように配置された観察窓をさらに備える。
【0031】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、観察時に放射を選択的にオフにするためのシャッタシステムをさらに備える。
【0032】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射出力の波長をシステム内に封じ込めるように動作することができる少なくとも1つの扉をさらに備える。
【0033】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、食品アイテムの位置を検出するように動作することができるセンサをさらに備える。
【0034】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記センサが、食品アイテムの位置、食品の種類、および食品アイテムのサイズを検出するカメラを備える。
【0035】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記カメラが、赤外線カメラである。
【0036】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記センサの出力が、封じ込めの状態を判断するために使用される。
【0037】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、食品アイテムを照射ゾーンへと運ぶための搬送システムをさらに備える。
【0038】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射の前、最中、または後のうちの少なくとも1つにおいて食品アイテムについての少なくとも1つの様相を検出して、検出の結果として行動をとるように動作することができるセンサをさらに備える。
【0039】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記センサが、位置、食品の種類、および食品アイテムのサイズを検出するカメラを備える。
【0040】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記カメラが、赤外線カメラである。
【0041】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの様相が、温度、表面の乾燥度、色、またはサイズである。
【0042】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、700nm〜1200nmの間のどこかの近赤外範囲において狭帯域の照射を生成する。
【0043】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、1200nm〜3500nmの間の中赤外の範囲の少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0044】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、可視光の範囲の少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0045】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、3500nmを上回る少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0046】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射素子が、自身の狭帯域の照射を、照射することができる予想の対象の吸収特性に一致するように各々が選択される2つの異なる狭帯域の照射波長に生成する。
【0047】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、食品アイテムの吸収の特徴が、前記2つの波長の各々の中心において異なる。
【0048】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、狭帯域の加熱に加えて食品アイテムを調理すべく選択的に作動させられる広帯域の照射要素をさらに備える。
【0049】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記広帯域の照射要素が、石英層、高感度加熱要素、およびマイクロ波要素のうちの少なくとも1つを備える。
【0050】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが少なくとも2つの照射帯を使用し、その一方が1400nmよりも下であり、他方が1400nmよりも上である。
【0051】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射エネルギーを内部に安全に封じ込めるための構成を有しており、食品アイテムを直接的または間接的な照射の少なくとも一方のために配置することができる調理室と、前記調理室を少なくとも部分的に囲むとともに、指向性の照射素子を調理ゾーンの近傍に、該照射素子からの照射を直接的または間接的の少なくとも一方にて前記食品アイテムに衝突させることができるように保持する構造と、対象の食品アイテムのうちの少なくとも1つのある波長における少なくとも1つの吸収の特徴に一致するように照射出力の波長が選択された少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射素子と、ユーザインターフェイスによる設定、センサの出力、あるいは前記室が使用中かつ前記照射エネルギーを安全に封じ込めているとの判断の少なくとも1つにもとづいて、前記室に照射の出力をもたらすべく前記狭帯域の照射素子をデジタル的に制御するために少なくとも電流を供給する制御システムと、を備える。
【0052】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射出力の波長を通すことなく照射ゾーンの観察を可能にするように配置された観察窓をさらに備える。
【0053】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、観察時に放射を選択的にオフにするためのシャッタシステムをさらに備える。
【0054】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、食品アイテムを照射ゾーンへと運ぶための搬送システムをさらに備える。
【0055】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、照射の前、最中、または後のうちの少なくとも1つにおいて食品アイテムについての少なくとも1つの様相を検出して、検出の結果として行動をとるように動作することができるセンサをさらに備える。
【0056】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記センサが、位置、食品の種類、および食品アイテムのサイズを検出するカメラを備える。
【0057】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記カメラが赤外線カメラである。
【0058】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの様相が、温度、表面の乾燥度、色、またはサイズである。
【0059】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、700nm〜1200nmの間のどこかの近赤外範囲において狭帯域の照射を生成する。
【0060】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、1200nm〜3500nmの間の中赤外の範囲の少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0061】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、可視光の範囲の少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0062】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、狭帯域の照射素子が、3500nmを上回る少なくとも1つの狭帯域の照射帯を生成する。
【0063】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射素子が、自身の狭帯域の放射を、照射することができる予想の対象の吸収特性に一致するように各々が選択される2つの異なる狭帯域の照射波長に生成する。
【0064】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、食品アイテムの吸収の特徴が、前記2つの波長の各々の中心において異なる。
【0065】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、狭帯域の加熱に加えて食品アイテムを調理すべく選択的に作動させられる広帯域の照射要素をさらに備える。
【0066】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記広帯域の照射要素が、石英層、高感度加熱要素、およびマイクロ波要素のうちの少なくとも1つを備える。
【0067】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが少なくとも2つの照射帯を使用し、その一方が1400nmよりも下であり、他方が1400nmよりも上である。
【0068】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記制御システムが、システムの電子機器を冷却すべく動作することができる冷却システムを備える。
【0069】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、ユーザに調理またはシステムの状態を警報するように動作することができる通知システムをさらに備える。
【0070】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、システムが、冷却室から湿気、煙、または蒸気のうちの少なくとも1つを取り除くように動作することができる通気システムをさらに備える。
【0071】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記通気システムが、ファンまたは触媒を含む。
【0072】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、少なくとも1つの対象食品アイテムを照射ゾーンに導入し、放射線放射素子によって直接的または間接的に照射できるように配置するステップと、前記照射ゾーンを安全に取り囲むステップと、前記照射ゾーンが安全に取り囲まれている期間の間に、少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域照射素子から指向性の放射を放射するステップと、前記放射の際に前記少なくとも1つの対象食品アイテムの吸収の特徴に一致する少なくとも1つの狭帯域の波長で前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップと、を含む。
【0073】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップが、該少なくとも1つの食品アイテムを方向性の放射の関数として塗装するステップを含む。
【0074】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、前記少なくとも1つの食品アイテムに選択された風味を加えるための要素を照射するステップをさらに含む。
【0075】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記放射のステップが、前記少なくとも1つの照射素子をパルス状に動作させるステップを含む。
【0076】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、実質的に異なる波長帯の各々の中心における吸収の特徴にもとづいて選択される2つの波長帯を含む。
【0077】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記選択される波長帯の中心が、少なくとも150nmは離れている。
【0078】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムへの深い浸透を達成する。
【0079】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムの表面の加熱を達成する。
【0080】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムの表面を加熱することなく、前記食品アイテムへの深い浸透を達成する。
【0081】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、広帯域の放射源を使用して前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップをさらに含む。
【0082】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、前記照射が、食品アイテムへと深く浸透することおよび食品アイテムの表面を焦がすことの両方を達成する。
【0083】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、調理され、硬化させられ、あるいは乾燥させられるべき食品アイテムを、少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射体の近傍の照射ゾーンに位置するように配置するステップと、前記食品アイテムの好ましい吸収特性の波長に対応する波長にて、前記少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域放射線放射素子からある時間期間にわたって前記食品アイテムを照射するステップと、照射の前、最中、または後のうちの少なくとも1つにおいて前記食品アイテムの少なくとも1つの様相を検出し、検出の結果として行動をとることによって照射を制御するステップと、を含む。
【0084】
ここで説明される実施形態の別の態様においては、本方法が、食品アイテムを調理室へと搬送するステップと、前記食品アイテムが前記調理室へと搬送されるときに該食品アイテムの位置を検出するステップと、前記食品アイテムが所望の位置にある旨を検出するステップと、前記検出にもとづいて前記搬送を停止させるステップと、前記調理室を閉鎖し、該室の中身を安全に封じ込めるステップと、前記食品アイテムの様相を検出または入力するステップと、前記検出または入力にもとづき、さらに調理パラメータにもとづいて、調理パターンを決定するステップと、前記食品アイテムの好ましい吸収特性の波長に対応する波長にて、少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域放射線放射素子から、ある時間期間にわたって、前記調理パターンにもとづいて前記食品アイテムを照射するステップと、前記照射の完了後に前記調理室を開くステップと、前記食品アイテムを前記調理室から運び出すステップと、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】吸収曲線を示しているグラフである。
【0086】
【図2】吸収曲線を示しているグラフである。
【0087】
【図3】狭帯域の放射素子の図である。
【0088】
【図4】狭帯域の放射素子の図である。
【0089】
【図5】狭帯域の放射素子の図である。
【0090】
【図6】狭帯域の放射素子の図である。
【0091】
【図7】狭帯域の放射素子の図である。
【0092】
【図8】狭帯域の放射素子の図である。
【0093】
【図9】狭帯域の放射素子の図である。
【0094】
【図10】狭帯域の放射素子からなるアレイの図である。
【0095】
【図11】吸収曲線を示しているグラフである。
【0096】
【図12】ここで説明される実施形態のうちの一実施形態の図である。
【0097】
【図13】ここで説明される実施形態のうちの一実施形態の図である。
【0098】
【図14】ここで説明される実施形態のうちの一実施形態の図である。
【0099】
【図15】「瞬時オン」の素子の動作を、抵抗加熱素子と比べて示しているグラフである。
【0100】
【図16】吸収対透過を示している図表である。
【発明を実施するための形態】
【0101】
本発明の開示は、パン、ペーストリ、パッケージ、個々のレシピ構成要素、ピザ、肉類、海産食品、鶏肉、野菜、加工済み食品または食事、あるいはこれらの一部または組み合わせに適したさまざまな調理支度、もしくは種々の他の加熱プロセスなど、さまざまな加熱、調理、処理、および硬化の用途のために、食品および他の対象アイテムへとデジタル狭帯域特定波長熱赤外(IR)エネルギーを直接注入するためのシステムを包含する。本発明を実施する目的は、調理し、焼き、揚げ、膨らませ、焦がし、温め、発酵させ、硬化させ、乾燥させ、さらには食品または他の製品の製造または支度に必要な他の反応を生じさせるために、食品または他のアイテムを加熱し、温度を上昇させ、あるいは温度を維持することを含むことができる。本発明は、放射の光子のエネルギーを案内し、パルス状にし、あるいは注入することによる特定的に選択された波長のデジタル半導体ベースの狭帯域の照射の実現を必要とし、あるいはそのような照射の実現が有利である作業に、特に適用可能である。この新規なシステムは、用途が高い速度、高い性能、高い選択性、または高いエネルギー効率のうちの少なくとも1つ(異なる用途に本発明が適用されるときにさまざまであり得る)を必要とする場合に、特に好都合である。
【0102】
狭帯域の放射に関して、特定波長の照射をもたらす利益を、仮定の放射加熱の例に目を向けることによって説明することができる。可視範囲から中赤外範囲に及ぶ電磁放射に対しておおむね透明である材料が、何らかの製造作業に対応するためにプロセス加熱を必要とすると仮定する。上述の例は、ただいま説明される実施形態を実際の用途へとどのように最も好都合に適用できるかの見本である。本明細書において説明されるとおりに特定の波長に限った放射エネルギーの出力を生成できる能力は、例えば食品アイテムの加熱、硬化、または乾燥のための種々のプロセス加熱の用途の効率の大きな改善を期待させる。
【0103】
本発明は、例えば食品処理用の上述のアナログ広帯域式の加熱装置を置き換えるという目的のために、かなりの量の放射を選択された波長において直接的に出力できるようにする新規かつ新たな手法に直接関係する。
【0104】
半導体加工技術の最近の進歩によって、おおむね近赤外および中赤外の範囲で動作する直接的な電子−光子の固体放射体が使用可能になっていることも注目される。これらの固体素子のいくつかは、一般的な発光ダイオード(LED)と同様に動作するが、可視光線を放射するのではなく、それよりも長い近赤外および中赤外の波長において真の熱IRエネルギーを放射する。利用可能になったそれらのうちの最初のいくつかは、有用かつ費用対効果に優れた固体素子の製造を妨げていた障壁を打ち破る量子ドット技術を利用するまったく新しい分類の素子を呈しており、出力が疑似単色であって中赤外線波長帯にある直接的な電子−光子の変換器として機能することができる。
【0105】
この新しい種類の素子を従来のより波長の短い素子(LED)と区別するために、これらの素子は、より適切には放射ダイオードまたは放射線放射ダイオード(RED)と記述される。これらの素子は、厳しく限定された波長範囲の放射電磁エネルギーを放射するという特性を有する。さらに、適切な半導体加工作業によって、REDを、対象の吸収スペクトルを相応に一致させることによって特定の放射処理用途に最も有利な特定の波長で放射を行うように調整することができる。
【0106】
さらに、目標とするIR範囲および場合によってはそれを超える範囲の光子を生成するための小面積の材料ドットまたは量子ドットのランダム分散アレイとして形成された逆極性ドープ領域と接触しているドープ平面領域の形成と関係したRED技術の革新が進んできた。この製造方法あるいは新規な半導体化合物の開発などの他の方法を十分に利用することにより、本発明に適した疑似単色の固体中赤外放射体がもたらされると考えられる。また、代替の半導体技術が、本発明を実施するために適切な構成要素になると考えられる中赤外および長波長の赤外の両方で利用可能になる可能性がある。
【0107】
これらの説明される実施形態において想定されるような電子(または電流)の光子への直接変換は、この作成されたダイオード放射体の固有のバンドギャップおよび量子ドット形状と一致する狭い波長範囲(疑似単色と称されることが多い)において生じる。RED放射源候補の半値帯域幅は、20〜500ナノメートルの範囲内のどこかになると予想される。このタイプの赤外線放射源の狭い帯域幅は、この完全な開示の内容内で示されるような種々の波長特定的な照射用途を支援するはずである。一群のRED素子およびそれらの素子を作成する技術は、別の特許出願の主題となっており、その出願は、Samar SinharoyおよびDave Wiltを発明者とする2004年11月16日付の「Quantum Dot Semiconductor Device」という名称の米国特許出願第60/628,330号(代理人整理番号:ERI.P.US0002;エクスプレスメールラベル番号EL726091609 US)(2005年11月16日に米国特許出願第11/280,509号としても出願)であり、この出願は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0108】
この「Quantum Dot Semiconductor Device」出願によれば、半導体素子は当技術分野で既知である。これらの素子は、電磁放射を電気に変換する光電池で使用される。またこれらの素子は、電気エネルギーを電磁放射(例えば、光)に変換する発光ダイオード(LED)として使用することもできる。ほとんどの半導体用途では、所望のバンドギャップ(電子ボルト)または所望の波長(ミクロン)が目標とされ、半導体は、その所望のバンドギャップ範囲または波長範囲に対応できるように作成される。
【0109】
特定の波長の放射または電子ボルトのエネルギーを達成する能力が重要でないわけではない。実際には、半導体は、特定の材料、そのエネルギーギャップ、その格子定数、およびその固有の放射性能の選択によって限定される。目的に応じて半導体素子を作成するために使用される1つの技術は、二元性化合物または三元性化合物を使用することである。素子の組成特徴を変化させることにより、技術的に有用な素子が巧みに設計されている。
【0110】
また、半導体素子の設計を操作して、素子の挙動を目的に合わせて調整することができる。一例において、半導体素子内に量子ドットを含めることができる。そのようなドットは、キャリアを量子的に閉じ込め、それにより同じ半導体のバルクサンプルと比べて光子放射エネルギーが変化すると考えられている。例えば、米国特許第6,507,042号は、量子ドット層を有する半導体素子を教示している。具体的には、この特許は、ヒ化インジウムガリウム(InxGa1−xAs)層上に付着させたヒ化インジウム(InAs)の量子ドットを教示している。この特許は、量子ドット(すなわち、InAs)とそのドットを付着させた層(すなわち、InxGa1−xAs)との間の格子不整合の量を制御することによって、量子ドットと関連した光子の発光波長を制御できることを開示している。この特許はまた、InxGa1−xAs基板内のインジウムのレベルを変化させることによって、InxGa1−xAs基板とInAs量子ドットとの間の格子不整合を制御できるという事実を開示している。InxGa1−xAs基板内のインジウムの量を増やすほど、不整合の度合いが小さくなり、光子放射に関連した波長が長くなる(すなわち、エネルギーギャップが小さくなる)。実際には、この特許は、基板内のインジウムの量を約10%から約20%に高めることにより、関連した光子の波長を約1.1μmから約1.3μmに長くできることを開示している。
【0111】
米国特許第6,507,042号に開示されている技術は、約1.3μmの波長を有する光子を放射または吸収することができる素子を提供する際に役立つことが分かっているが、InxGa1−xAs基板内のインジウムの量を高める能力は限られている。換言すると、インジウムのレベルが20%、30%、あるいは40%より多くなると、結晶構造内の不完全性または欠陥の程度は限定的になる。これは、特に、InxGa1−xAs基板がヒ化ガリウム(GaAs)基板またはウェハ上に付着させられた場合に当てはまる。したがって、米国特許第6,507,042号に開示された技術を利用しても、より長い波長の光子を放射または吸収する素子(より低いエネルギーギャップ)を実現することはできない。
【0112】
したがって、1.3μmよりも長い波長の光子を放射または吸収する半導体素子を有することが望ましいと考えられるので、この性質の半導体素子について、依然としてニーズが存在している。
【0113】
一般に、REDは、InxGa1−xAs層(xは、約0.64〜約0.72重量パーセントであるインジウムのモル分率である)と、前記InxGa1−xAs層上に配置された量子ドット(量子ドットは、InAsまたはAlzIn1−zAsを含み、zは、約5重量パーセント未満であるアルミニウムのモル分率である)を含む半導体素子を提供する。
【0114】
また、REDは、InAsまたはAlzIn1−zAsを含む量子ドット(zは、約5重量パーセント未満であるアルミニウムのモル分率)と、量子ドットの少なくとも一部分と接触するクラッド層とを含み、量子ドットおよび前記クラッド層の格子定数が少なくとも1.8%かつ2.4%未満の不整合である半導体素子も含む。
【0115】
半導体素子は、InxGa1−xAsマトリックスクラッディングと呼ばれることがあるヒ化インジウムガリウム(InxGa1−xAs)層上にヒ化インジウム(InAs)またはヒ化アルミニウムインジウム(AlzIn1−zAs(zは0.05以下))の量子ドットを含む量子ドット層を含む。ドットおよびInxGa1−xAsマトリクス層の格子定数は整合していない。格子不整合は、少なくとも1.8%、他の実施形態では少なくとも1.9%、他の実施形態では少なくとも2.0%、他の実施形態では少なくとも2.05%であってよい。有利には、不整合は、3.2%未満、他の実施形態では3.0%未満、他の実施形態では2.5%未満、他の実施形態では2.2%未満とすることができる。1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsマトリックスクラッディングの格子定数は、ドットの格子定数よりも小さい。
【0116】
ドットがInxGa1−xAsクラッディングマトリックス上に配置されたこれらの実施形態では、このクラッディングマトリクス層内のインジウムのモル濃度(すなわちx)は、約0.55〜約0.80、随意により約0.65〜約0.75、随意により約0.66〜約0.72、および随意により約0.67〜約0.70であってよい。
【0117】
1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsクラッディングマトリックスは、InxGa1−xAsクラッディングマトリックスと格子整合されたヒ化インジウムリン(InP1−yAsy)層上に配置される。1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsクラッディングが付着されたInP1−yAsy層は、InxGa1−xAsクラッディングと半導体を支持する基板との間に存在する複数の段階的(連続的または離散的)なInP1−yAsy層のうちの1層である。1つ以上の実施形態では、基板は、リン化インジウム(InP)ウェハを含む。さらに半導体は、InxGa1−xAsクラッディングと基板との間に配置されるInxGa1−xAs層などの1つ以上の他の層を含んでもよい。
【0118】
一実施形態が図3に示されている。図3ならびに他の図は、概略的表現であり、各層または構成要素の厚さあるいは各層間の相対的厚さまたは寸法が一定の縮尺で描かれているわけではない。
【0119】
素子1000は、基板1020、任意的に設けられる伝導層1025、緩衝構造1030、クラッド層1040、およびドット層1050を有する。当業者が理解するように、幾つかの半導体素子は、電流を電磁放射に変換し、あるいは電磁放射を電流に変換することによって動作する。そのような素子において電磁放射または電流を制御する能力は、当技術分野で既知である。この開示は、必ずしもそのような従来の設計を変更せず、その設計の多くは、半導体素子を製造または設計する当技術分野で既知である。
【0120】
一実施形態では、基板1020は、リン化インジウム(InP)を含む。InP基板1020の厚さは250ミクロン超、他の実施形態では300ミクロン超、他の実施形態では350ミクロン超とすることができる。有利には、この厚さは、700ミクロン未満、他の実施形態では600ミクロン未満、他の実施形態では500ミクロン未満とすることができる。
【0121】
1つ以上の実施形態では、考えられる半導体素子は、必要に応じて、エピタキシャル成長させたリン化インジウム層(InP)を含んでもよい。このエピタキシャル成長させたリン化インジウム層の厚さは、約10nm〜約1ミクロンとすることができる。
【0122】
一実施形態では、任意的に設けられる伝導層1025は、ヒ化インジウムガリウム(InxGa1−xAs)を含む。この層内のインジウムのモル濃度(すなわち、x)は、約0.51〜約0.55、随意により約0.52〜約0.54、随意により約0.53〜約0.535とすることができる。1つ以上の実施形態では、伝導層1025は、InP基板と格子整合されている。
【0123】
伝導層1025は、所与の素子に十分な導電率を提供するために、所定の値にドープされた適切な厚さのものとすることができる。1つ以上の実施形態においては、厚さを、約0.05ミクロン〜約2ミクロン、随意により約0.1ミクロン〜約1ミクロンとすることができる。
【0124】
1つ以上の実施形態では、緩衝層1030は、ヒ化リンインジウム(InP1−yAsy)を含む。ある実施形態では、緩衝層1030は、少なくとも2つ、随意により少なくとも3つ、随意により少なくとも4つ、および随意により少なくとも5つのInP1−yAsy層を含み、各層の格子定数は、層が基板1020から遠くになるほど高くなる。例えば、図4に示したように、緩衝構造1030は、第1の緩衝層1032、第2の緩衝層1034、および第3の緩衝層1036を含む。緩衝構造1030の最下層面1031は、基板1020と隣接しており、緩衝構造1030の最上平面1039は、障壁層1040に隣接している。第2の層1034の格子定数は、第1の層1032より大きく、第3の層1036の格子定数は、第2の層1034より大きい。
【0125】
当業者であれば理解できるとおり、緩衝構造1030の個々の層の格子定数を、連続した層の組成を変化させることによって高めることができる。1つ以上の実施形態では、InP1−yAsy緩衝層中のヒ素の濃度が、連続したそれぞれの層で高くされる。例えば、第1の緩衝層1032が、約0.10〜約0.18のモル分率のヒ素(すなわち、y)を含むことができ、第2の緩衝層1034が、約0.22〜約0.34のモル分率のヒ素を含むことができ、第3の緩衝層1036が、約0.34〜約0.40モル分率のヒ素を含むことができる。
【0126】
1つ以上の実施形態では、隣接した緩衝層の間(例えば、層1032と層1034との間)のヒ素の増加は、0.17モル分率未満である。連続した緩衝層間にできる欠陥は、ヒ素含有量を増やすことによる格子定数の変化によるものであり、半導体にとって有害ではないと考えられる。このように徐々に変化する臨界組成を使用する技術は、米国特許第6,482,672号に記載されているように既知であり、この特許は、参照によりここに組み込まれる。
【0127】
1つ以上の実施形態では、第1の緩衝層1032の厚さは、約0.3〜約1ミクロンであってよい。1つ以上の実施形態では、最上緩衝層は、一般に格子構造の完全な緩和を保証するためにこれより厚い。
【0128】
1つ以上の実施形態では、緩衝構造1030の最上面1039またはその近くの個別の緩衝層(例えば、緩衝層1036)は、約5.869Å〜約5.960Å、随意により約5.870Å〜約5.932Åの格子定数を有するように巧みに設計される。
【0129】
1つ以上の実施形態では、緩衝構造1030の最下面1031またはその近くの個別の緩衝層(例えば、緩衝層1032)は、臨界組成グレーディング技術の範囲内で巧みに設計されることが好ましい。換言すると、第1の緩衝層(例えば、緩衝層1032)がInPウェハ上に付着させられるので、第1の緩衝層(例えば、層1032)内に存在するヒ素の量は、17モル分率より少ない。
【0130】
クラッド層1040は、InxGa1−xAsを含む。1つ以上の実施形態では、この層は、緩衝構造1030の最上面1039またはその近くの最上緩衝層の平面内格子定数と格子整合されることが好ましい。格子整合という用語は、連続層相互間の格子定数の差が500ppm(すなわち、0.005%)の範囲内であることを指す。
【0131】
1つ以上の実施形態では、クラッド層1040は、約10オングストローム〜約5ミクロン、随意により約50nm〜約1ミクロン、随意により約100nm〜約0.5ミクロンの厚さを有することができる。
【0132】
1つ以上の実施形態では、量子ドット層1050は、ヒ化インジウム(InAs)を含む。層1050は、濡れ層(wetting layer)1051と量子ドット1052とを含むことが好ましい。濡れ層1051の厚さは、1または2単分子層とすることができる。一実施形態では、層1050の最下面1053およびドット1055の最上部から測ったドット1052の厚さは、約10nm〜約200nm、随意により約20nm〜約100nm、さらに随意により約30nm〜約150nmであってよい。また、一実施形態では、ドット1052の平均直径は、10nm超、随意により40nm超、さらに随意により70nm超とすることができる。
【0133】
1つ以上の実施形態では、量子層1050は、複数のドット層を有する。例えば、図5に示したように、量子ドット1050は、第1のドット層1052、第2のドット層1054、第3のドット層1056、および第4のドット層1058を含むことができる。各層は、ヒ化インジウムInAsを含み、それぞれ濡れ層1053、1055、1057、および1059を含む。同様に各ドット層は、ドット1055を含む。濡れ層とドットとを含む各ドット層の特性は、同一でなくてもよいが実質的に類似している。
【0134】
各ドット層1052、1054、1056、および1058の間には、中間クラッド層1062、1064、1066、および1068がそれぞれ配置されている。これらの中間クラッド層は、InxGa1−xAsを含む。1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsの中間クラッド層は、クラッド層1040と実質的に類似または同一である。換言すると、中間クラッド層は、障壁層1040と格子整合されていることが好ましく、障壁層1040は、最上緩衝層1036と格子整合されていることが好ましい。1つ以上の実施形態では、中間層1062、1064、1066、および1068の厚さは、約3nm〜約50nm、随意により約5nm〜約30nm、さらに随意により約10nm〜約20nmであってよい。
【0135】
前述のように、量子ドット層を取り囲む種々の層は、電流を操作するように正または負にドープされてもよい。半導体素子内の電流を操作する技術は、例えば米国特許第6,573,527号、第6,482,672号、および第6,507,042号に記載されているように当技術分野で既知であり、これらの特許は、参照によりここに組み込まれる。例えば、1つ以上の実施形態では、亜鉛、炭素、カドミウム、ベリリウム、またはマグネシウムを使用して、領域または層を「p型」にドープすることができる。一方で、シリコン、硫黄、テルル、セレン、ゲルマニウム、またはスズを使用して、領域または層を「n型」にドープすることができる。
【0136】
考えられる半導体素子は、当技術分野で既知の技術を使用することによって作成することができる。例えば、1つ以上の実施形態では、さまざまな半導体層を、有機金属気相エピタキシー(OMVPE)を使用することによって作成することができる。1つ以上の実施形態では、ドット層は、Stranski−Krastanovモード(S−Kモード)などの自己形成技術を使用することによって作成される。この技術は、米国特許第6,507,042号で述べられおり、この特許は、参照によりここに組み込まれる。
【0137】
量子ドット層を含む放射線放射ダイオード(RED)の一実施形態が、図6に示されている。RED1100は、ベースコンタクト1105、赤外線リフレクタ1110、半絶縁半導体基板1115、n型横伝導層(LCL)1120、n型緩衝層1125、クラッド層1130、量子ドット層1135、クラッド層1140、p型層1145、p型層1150、およびエミッタコンタクト1155を有する。ベースコンタクト1105、赤外線リフレクタ1110、半絶縁半導体基板1115、n型横伝導層(LCL)1120、n型緩衝層1125、クラッド層1130、量子ドット層1135、およびクラッド層1140は、前述の半導体層と類似している。
【0138】
ベースコンタクト1105は、多数のきわめて導電性の高い材料を含むことができる。典型的な材料として、金、金亜鉛合金(特にp領域と隣接するとき)、金ゲルマニウム合金、または金ニッケル合金、あるいはクロム金合金(特にn領域と隣接するとき)が挙げられる。ベースコンタクト1105の厚さは、約0.5〜約2.0ミクロンとすることができる。金と誘電体材料との間の接着を高めるために、チタンまたはクロムの薄層を使用することができる。
【0139】
赤外線リフレクタ1110は、反射材料を含み、随意により誘電体材料を含む。例えば、誘電体材料として酸化シリコンを使用することができ、その上に赤外線反射材料として金を付着させることができる。リフレクタ1110の厚さは、約0.5〜約2ミクロンとすることができる。
【0140】
基板1115は、InPを含む。基板1115の厚さは、約300〜約600ミクロンとすることができる。
【0141】
横伝導層1120は、InP基板1115と格子整合された(すなわち、500ppm以内の)InxGa1−xAsを含む。また、1つ以上の実施形態では、層1120は、nドープされる。好ましいドーパントはシリコンであり、好ましいドーピング濃度は、約1〜約3×1019/cm3とすることができる。横伝導層1120の厚さは、約0.5〜約2.0ミクロンとすることができる。
【0142】
緩衝層1125は、前述のやり方と一致するやり方でInP1−yAsyの3段階の層を含む。層1125は、nドープされることが好ましい。好ましいドーパントはシリコンであり、ドーピング密度は、約0.1×109〜約3×109/cm3とすることができる。
【0143】
クラッド層1130は、緩衝層1125の上部(すなわち、第3段またはそのサブレイヤ)の平面内格子定数と格子整合(すなわち、500ppm以内)されたInxGa1−xAsを含む。1つ以上の実施形態では、InxGa1−xAsクラッド層1130は、約0.60〜約0.70パーセントモル分率のインジウムを含む。クラッド層1130の厚さは、約0.1〜約2ミクロンである。
【0144】
量子ドット層1135は、本発明の教示に関して前に述べたようなInAsドットを含む。前の実施形態と同じように、各ドット層の間の中間層は、クラッド層1130と類似の(すなわち、格子整合された)InxGa1−xAsクラッドを含む。1つ以上の実施形態では、1つ以上の連続した中間クラッド層中のインジウムの量は、クラッド層1130あるいは前またはそれより低い中間層より少ないインジウムを含んでもよい。
【0145】
クラッド層1140は、緩衝層1125の上部(すなわち、第3段またはそのサブレイヤ)と格子整合(すなわち、500ppm以内)されたInxGa1−xAsを含む。
【0146】
閉じ込め層1145は、InxGa1−xAs層1140と格子整合されたInP1−yAsyを含む。また、1つ以上の実施形態では、層1145は、pドープされる。好ましいドーパントは亜鉛であり、ドーピング濃度は約0.1〜約4×1019/cm3とすることができる。閉じ込め層1145の厚さは、約20nm〜約200nmとすることができる。
【0147】
コンタクト層1150は、閉じ込め層1145と格子整合されたInxGa1−xAsを含む。コンタクト層1150は、pドープされる(例えば、亜鉛でドープされる)ことが好ましい。ドーピング濃度は、約1〜約4×1019/cm3とすることができる。コンタクト層1150の厚さは、約0.5〜約2ミクロンである。コンタクト層1150は、層1155の下を除き表面全体から除去されてもよい。
【0148】
エミッタコンタクト1155は、任意の高導電性材料を含むことができる。1つ以上の実施形態では、導電性材料には金/亜鉛合金がある。
【0149】
別の実施形態が、図7に示されている。半導体素子1200は、p領域内にトンネル接合を有する放射線放射ダイオードとして構成されている。この設計は、より低い抵抗接触とより低抵抗の電流分布を提供するので有利である。半導体1200の多くの様相は、図6に示した半導体1100と類似している。例えば、接点1205は接点1105に類似でき、リフレクタ1210はリフレクタ1110に類似でき、基板1215は基板1115に類似でき、横伝導層1220は伝導層1120に類似でき、緩衝層1225は緩衝層1125に類似でき、クラッド層1230はクラッド層1130に類似でき、ドット層1235はドット層1135に類似でき、クラッド層1240はクラッド層1140に類似でき、閉じ込め層1245は閉じ込め層1145に類似できる。
【0150】
トンネル接合層1247は、閉じ込め層1245と格子整合されたInxGa1−xAsを含む。トンネル接合層1247の厚さは、約20〜約50nmである。トンネル接合層1247は、pドープ(例えば、亜鉛で)されることが好ましく、ドーピング濃度は約1〜約4×1019/cm3とすることができる。トンネル接合層1250は、トンネル接合1247に格子整合されたInxGa1−xAsを含む。トンネル接合層1250の厚さは、約20〜約5,000nmである。トンネル接合層1250は、nドープ(例えば、シリコン)されることが好ましく、ドーピング濃度は約1〜約4×1019/cm3である。
【0151】
エミッタコンタクト1255は、種々の導電性材料を含むことができるが、クロム金合金、金ゲルマニウム合金、金ニッケル合金などのn領域に好都合な材料を含むことが好ましい。
【0152】
REDの別の実施形態が、図8に示されている。半導体素子1300は、少なくとも部分的にベースリフレクタがない(例えば、図5に示した1210などのリフレクタがない)ため半導体素子の基板を通して電磁放射を放射することができることを除き、図7に示したREDと同じように放射線放射ダイオードとして構成される。また、図6に示した半導体素子1300は、素子の全表面(または、実質的に表面全体)を覆う「完全コンタクト」であるエミッタコンタクト/赤外線リフレクタ1355を含む。
【0153】
他の全ての点では、素子1300は、素子1200と類似している。例えば、接点1305は接点1205に類似でき、基板1315は基板1215に類似でき、横伝導層1320は伝導層1220に類似でき、緩衝層1325は緩衝層1225に類似でき、クラッド層1330はクラッド層1230に類似でき、ドット層1335はドット層1235に類似でき、クラッド層1340はクラッド層1240に類似でき、また閉じ込め層1345は閉じ込め層1245に類似でき、トンネル接合層1347はトンネル接合層1247に類似しており、トンネル接合層1350はトンネル接合層1250に類似している。
【0154】
考えられる半導体技術は、レーザダイオードの製造に使用することもできる。図9に例示的なレーザを示す。レーザ1600は、金クロム合金などの任意の導電性材料を含むことができるコンタクト1605を有する。コンタクト層1605の厚さは、約0.5ミクロン〜約2.0ミクロンである。
【0155】
基板1610は、約5〜約10×1018/cm3の濃度でnドープされることが好ましいリン化インジウムを含む。基板1610の厚さは、約250〜約600ミクロンである。
【0156】
随意によるエピタキシャルリン化インジウム層1615は、約0.24×1019/cm3〜約1×1019/cm3の濃度でnドープされることが好ましい。エピタキシャル層615の厚さは、約10nm〜約500nmである。
【0157】
段階的InP1−yAsy層1620は、図2に示した段階的InP1−yAsy緩衝層と類似している。緩衝層1620は、約1〜約9×1018/cm3の濃度でnドープされることが好ましい。
【0158】
層1625と1630は、導波路1627を構成する。層1625は、ヒ化リン化インジウムガリウム(In1−xGAxAszP1−z)を含む。層1630は、同様にIn1−xGAxAszP1−zを含む。両方の層1625と1630は、層1620の上面と格子整合されている。換言すると、層1625と1630は、約0〜約0.3モル分率のガリウムと0〜約0.8モル分率のヒ素を含む。層1625は、厚さ約0.5〜約2ミクロンであり、約1〜9×1018/cm3の濃度でnドープされる。層1630は、約500〜約1,500nmであり、約0.5〜1×1018/cm3の濃度でnドープされている。
【0159】
閉じ込め層1635、ドット層1640、および閉じ込め層1645は、他の実施形態に関して前に述べたドットおよび閉じ込め層と類似している。例えば、閉じ込め層1635は、図3に示した閉じ込め層1040に類似しており、ドット層1640は、図3に示したドット層1050に類似している。1つ以上の実施形態では、レーザ素子のドット領域内で使用されるドット層の数は、5ドット層より多く、随意により7ドット層より多く、さらに随意により9ドット層より多い(例えば、サイクル)。閉じ込め層1635および1645は、約125〜約500nmの厚さを有することができ、導波路と格子整合される。層1635、1640、および1645は、ドープされないことが好ましい(すなわち、真性である)。
【0160】
層1650および1655は、導波路1653を構成する。層1625および1630と同じように、層1650および1655は、緩衝層1620の上面と格子整合されたIn1−xGAxAszP1−zを含む。層1650は、約500〜約1,500nmであり、約0.5〜約1×1018/cm3の濃度でpドープされている。層655は、約1〜約2ミクロンの厚さであり、約1〜約9×1018/cm3の濃度でpドープされている。
【0161】
一実施形態では、層1660は、緩衝層1620に類似した緩衝層である。すなわち、ヒ素のモル分率は、各段階が量子ドットから遠くなるほど減少する。層1660は、1〜9×1018/cm3の濃度でpドープされることが好ましい。
【0162】
層1665は、リン化インジウム(InP)を含む。層1665の厚さは、厚さ約200〜約500nmであり、約1〜約4×1019/cm3の濃度でpドープされることが好ましい。
【0163】
層1670は、前の実施形態で説明した他のコンタクト層と類似のコンタクト層である。
【0164】
他の実施形態において、層1660、1665、および1670は、他の実施形態に関して説明した他の構成と類似することができる。例えば、これらの層は、図4に示した層1145、1150、および1155に類似することができる。代替として、層1660、1665および1670の代わりに、図5に示した1245、1247、1250、および1255に類似の層を使用することができる。
【0165】
これらの素子の実施形態の範囲および精神から逸脱しないさまざまな修正および変更は、当業者にとって明らかになるであろう。
【0166】
当然ながら、一形態において、本明細書における発展が上述のようなRED要素を含むことを理解すべきである。しかしながら、本明細書においてすでに述べたように、種々の他のデジタル半導体ベース狭帯域素子技術を使用できることを、理解すべきである。例えば、1.6マイクロメートル〜5.0マイクロメートルの範囲で動作する中IR−LEDが知られており、より大きな出力のものがどんどん入手可能になってきているが、より短い波長の素子ほど幅広く入手可能ではない。さらに、種々の半導体レーザおよびレーザダイオードを、適切な修正により使用することができる。やはり上述のように、本明細書に記載の用途にとって好都合な波長に位置する限定された帯域幅の照射を効率的に生成できるようにする他の技術が開発中であり、開発されると考えられる。それら狭帯域の素子のいずれもが、本発明の実施において使用される候補となり得る。
【0167】
特定の用途のための実施において、適切な大きさの照射を得るために、場合によっては、多数の適切な素子を配置する必要がある。この場合も、一形態において、そのような素子は、RED素子であろう。本発明のほとんどの加熱用途では、そのような素子は、一般に、ある種の高密度x×yアレイまたは複数のx×yアレイにて配置され、そのいくつかは、個別RED素子のカスタマイズされた配置の形をとることができる。アレイは、本発明の特定の実施態様において使用される素子のタイプおよびサイズ、必要とされる出力、および必要とされる波長に応じ、単一の素子から、より典型的である数百、数千、または無限の数の素子アレイまでの範囲とすることができる。RED素子は、通常は、専用の熱除去装置を有さないまでも、少なくとも熱放散能力を有する回路基板に取り付けられる。RED素子は、多くの場合、そのような回路基板上にきわめて高密度/接近配置で取り付けられる。高出力用途に必要な場合には、ダイ取り付けおよび回路基板構造の最近の革新技術を利用して密度を最大にすることができる。例えば、そのような目的には、フリップチップに使用されるような技術が有利である。RED素子の効率は、この特有な種類のダイオード素子としては高いが、入力される電気エネルギーの大部分は、局所的な熱に直接変換される。より短い波長の素子は、より長い波長の素子と比べ、大幅に高い効率を有する傾向にある。9XXナノメートルの範囲の近赤外波長の素子のいくつかは、70%を超える電力変換効率(wall plug efficiency)を達成している。より長い波長の素子については、効率改善が進められているが、より短い波長の素子と同じ効率になることはないであろう。電力変換効率にかかわらず、個々の素子の過熱および焼損を防ぐために、この無駄な熱が半導体接合部から放出されなければならない。もっとも高密度なアレイの場合は、能動および/または受動冷却機能を有する集積回路またはフリップチップあるいはチップオンボードパッケージ技術が使用されることが多い。実用性と位置決めの融通性のために、複合回路基板がしばしば使用される。また、x×yアレイは、例えば可視スペクトルの最下部から5マイクロメートルまでの範囲の少なくとも2つの異なる選択された波長の赤外線放射を提供するRED素子の混合を含んでもよい。
【0168】
ほとんどの用途では、RED素子は、さまざまな異なるサイズのアレイの形態で配置するのが有利であり、アレイのいくつかは、特定タイプの目標物に放射線をより良く照射するために本質的に三次元または非平面とすることができる。これは、少なくとも以下のような理由のためである。
1.複数の素子の出力を組み合わせることにより十分な出力を提供する。
2.単一素子が適切に照射できる面積よりも大きい面積にわたる出力の十分な「広がり」を提供する。
3.用途に合わせてRED素子アレイをプログラムする可能性をもたらすことができる機能を提供する。
4.本明細書で述べた多くの機能的理由のためにさまざまな特定の波長に調整した素子をアレイの形態に組み合わせることができるようにする。
5.出力の「幾何学形状」を個々の用途の要件(所望の照射の好ましい角度など)に合わせ易くする。
6.素子の取り付け位置、放射角度、および経済性を用途の要件に合わせ易くする。
7.移動する目標物への出力の同期または他の「出力運動」を容易にする。
8.共通の制御回路での素子群の駆動に対応する。
9.多段加熱技術に対応する。
10.アレイ構成の素子の適切な冷却を促進する。
【0169】
設計の構成の一部として、確かに多数の決定を行わなければならないが、1つの重要な決定は、照射素子を加熱または調理の対象アイテムに対して動かすか、あるいは照射装置を固定し、対象アイテムを動かすかである。設計パラメータを最適化するために、これらの何らかの組み合わせを企画することも可能である。例えば、対象アイテムの上方、下方、または付近を移動することができる長くて直線的な素子アレイ(または、きわめて長い単一素子)を備え、放射源または対象の移動につれて「帯状に照射」を行うことが妥当である。塗装対象の上方を移動する直線的な塗料噴霧ヘッドと同様であると考えられる。当然ながら、良い塗装吹き付け師が多数のさまざまなやり方で移動を行うのとちょうど同じように、用途に適したこれらの相対移動を行うために、任意のいくつかの設計を取り入れることができる。
【0170】
したがって、照射の設定を構成することができる3つの一般的なやり方が現実に存在する。大型の二次元または三次元アレイを、用途に合わせて設計することができる。用途に合わせた適切なサイズおよび長さの直線的な一次元のアレイを設計することができる。あるいは、第3のやり方は、対象へと照準および案内された1つ以上の点状源を使用するために、これらの狭帯域素子のきわめて指向性であるという性質を利用することである。後者は、エネルギーを所望のとおりに向けるために、サーボ制御またはガルバノメータ駆動のミラーまたはデフレクタの使用を含むと考えられる。この種の照射をどのように適用できるのかについての例が、本明細書において後述される。ダイオードは、その典型的な最終用途ゆえ、接合のサイズを小さくすることによってコストを最小にするやり方で製造されている。したがって、コストに直結する半導体ウェハの面積が小さくて済む。RED素子の最終用途は、多くの場合に、より多くの光子の形態での大きな放射エネルギー出力を必要とする。大きな光子生成面積の接合領域を形成する創造的なやり方でREDを製造できることが、理論化されている。そのようにすることによって、劇的に高い中赤外の放射出力を維持することができるRED素子を生み出すことが可能であると考えられる。そのような素子が利用可能であれば、本発明の実施に必要なRED素子の絶対数を減らすことができる。しかしながら、多くの新規な素子に関する高い出力の上昇に鑑み、本発明の用途を少数の素子または単一の素子で達成できることは、必ずしも望ましくなく、あるいは現実的でないと考えられる。これは、より低出力の用途、単一波長の用途、または十分な出力能力を有するRED素子を製造できる場合に、ただ1つの素子で実施することができる。REDは、多くの場合にレーザダイオードの形態をとることができるため、単一の素子からの追加の出力は、かなり現実的である。ある製造者が、975nmにおいて相当な大きさの高効率な表面放射素子を製造できることを実証している。例えば、放射の面積が1mm×25mmであってよいある素子が、60光ワットを超える放射出力を連続的に生み出すことができる。そのような素子を10個、適切に冷却された回路基板に取り付けることで、本明細書に記載の調理またはオーブンの用途の多くにおいてきわめて有用と考えられるきわめてコンパクトなパッケージにて600光ワットを連続的に生み出すことができる。
【0171】
同様に、上述の素子アレイを集積回路として製造することもできる。そのような実施態様では、REDは、1枚のシリコン、ヒ化ガリウム、リン化インジウム、または他の適切な基板の領域内に配列されるが、多数の接合を備えることで、チップ上の光子変換出力位置としてそれぞれが機能する。このREDは、電気接続および実装にボールグリッドアレイを使用する他の集積回路パッケージと同様であってよい。その場合、そのような素子パッケージは、制御システムへの接続および制御システムによる制御のために望まれる電気接続を容易にするアレイとして使用することができる。この場合も、設計パラメータは、電流化学的性質により破壊が起こり始める前に約100℃〜105℃に達してはならない接合部温度の制御である。将来の化合物は耐熱性が高くなることが予想されるが、熱は常に使用される素子の臨界破損範囲より低く維持されなければならない。さらに素子は、回路基板上に単独または複数で配置されてもよく、用途とコストの必要に応じてより高レベルの素子アレイとして配列されてもよい。
【0172】
これらの素子がいずれかの種類のアレイに構成される場合、放射エネルギーを所望のとおりに曲げるために、アレイの狭帯域の照射の付近にマイクロレンズアレイを取り付けることが望ましい場合がある。例えば、素子のアレイが、全体として35°の内角を有する出力の広がりを有することができる一方で、10°という広がりの角度を使用することが用途にとってより望ましい場合がある。マイクロレンズアレイの各々のレンズまたは小レンズが、出力エネルギーを10°という広がりの角度へと屈折させることに貢献することができる。レーザダイオードなどの多数の半導体ベースの狭帯域素子は、典型的には、いわゆる速軸および遅軸の両方を有する。すなわち、各々の素子において、光子の出力の垂直方向の発散が、おそらくは水平方向の発散と異なる可能性がある。例えば、いくつかの素子は、ある軸において平行な光線を有するが、他方の軸においておそらくは15°の発散を有する。レンズまたはマイクロレンズアレイによって発散の角度を変えることが可能であるが、それによるある程度のエネルギー損失が存在するので、可能であれば元々の発散を補正を加えることなく使用することが最良である。
【0173】
狭帯域の半導体ベースの素子を照射アレイに配置する最良の構成を設計する際に、素子のフォームファクタにかかわらず、設計者は変量の全体的な範囲を考慮しなければならず、それらがビジネスおよび技術の両方の観点からどのように用途に関係するのかを考慮しなければならない。目標とする用途に鑑みて検討されるべきいくつかの他の変量として、パッケージング、配置の容易さ、製造方法、コスト、電子接続性、制御のプログラム可能性/出力の考慮事項、素子形状、出力の発散の仕様、冷却の要件、配置の環境、素子の保護、反射エネルギー、電源供給経路、電力供給、ストリング電圧、ストリング形状、照射要件、安全性、および当業者であれば理解できるであろう多数の他の変量が挙げられる。
【0174】
すべての原材料、物質、および食品は、電磁スペクトルの範囲内のさまざまな波長における特定の吸収および透過特性に関連がある。これは、そのアイテムの吸収スペクトルと称されることが多い。各々の材料は、特有の赤外線の反射、拡散、および放射特性も有するが、ここではそのような特性の説明には時間を割かず、本発明の具体化の説明に時間を割く。それは、本発明の具体化がむしろ吸収/透過特性によって左右され、すべてを考慮しなければならないからである。任意の特定の材料に関して、任意の所与の波長における吸収率を測定し、表にすることができる。次に、その吸収率を、本明細書の後の方でより詳しく説明し例示するように、幅広い範囲の波長にわたってグラフで示すことができる。各タイプの材料が、さまざまな波長で特徴的な吸収または透過特性を有するので、熱プロセスを最適化するには、そのような材料特性を知ることがきわめて有用である。ある材料または対象が、ある波長範囲において高い透過率を有する場合、その材料をその波長範囲で加熱しようと試みることが、きわめて非効率的であることを認識されたい。しかしながら、ある種の対象に関して、エネルギーが尽きる前にそのアイテムへと深く進入できるよう、その材料の透過率が高い波長を選択することが望ましい場合もあり得ることが理解される。反対に、材料がある波長を過度に吸収する場合には、放射熱を加えると材料の表面が加熱されることになる。この現実は、いくつかの用途にとってきわめて望ましい場合がある。例えば、ステーキの外表面を見ることや、パン製品の外表面を焦がすことが望ましい場合である。非効率的な熱伝導体である材料または食品アイテムでは、この表面で吸収される波長は、深く進入して加熱することがなく、あるいは対象の材料の厚さの全体を一様に加熱することがないため、通常は加熱のための最適なやり方ではない。
【0175】
さまざまな材料、物質、および食品が、種々の波長において特有の放射エネルギーの吸収または透過特性を有することは、長年にわたって当技術分野において周知である。しかしながら、特定波長または波長の組み合わせを指定することができる高出力のデジタル狭帯域赤外線源が入手できなかったため、従来は、既存の加熱または加工作業の多くを完全に最適化することは不可能であった。特定波長の赤外線を製品に与えることが実際的でなかったので、多くの製造業者は、そのような特定の製品が最も望ましく加熱または加工される波長に気付いていない。
【0176】
従来、特定の波長または狭帯域範囲において比較的高密度の赤外線を生成する能力は、単純に産業界で利用できなかった。したがって、このタイプの加熱または加工の最適化が利用可能でなかったので、この最適化を、さまざまな種類のオーブンのほとんどの製造業者または設計者は意図していない。そのような波長特定的な赤外線出力が利用可能ならば、まったく新しい方法、プロセス、および最適化された調理が可能になると予想される。本発明は、そのような新しいプロセスを現実のものにし、種々の用途のための広い融通性を有する実施技術を提供する。本発明の第1の利用が、商業または工業の用途にあると予想されるが、商業、消費者食品の加工および調理、ならびに医学および民生の用途の全範囲にも多数の用途が存在することが認識される。
【0177】
これらの発展が、現在幅広く使用されている広帯域のガス、抵抗、および石英赤外線加熱電球や他の従来からの加熱装置の代替としてきわめて有効であることが予想される。そのような石英電球は、さまざまな硬化および調理の用途に使用される。本発明は、石英赤外線ランプや他の従来からの加熱装置の既存の機能の代替として利用できるだけでなく、現在の技術では単純に利用できないかなりの追加の機能を加えると考えることができる。
【0178】
それどころか、上述の発展は、放射エネルギーを連続通電モードまたはデジタルパルスモードのいずれかで生成することができる。本発明の基本的な半導体ベースの素子は、デジタルであり、ナノ秒であるきわめて高速な応答時間を有するため、必要とされるときにエネルギーをオンにし、必要でないときにオフにするために、実質的によりエネルギー効率に優れることができる。対象の要素が照射ゾーンにおいて調理され、硬化させられ、あるいは加熱される場合に、素子を必要とされる正確な量に案内し、正確に動作させることができる。予熱およびオーブンの暖機時間は、このデジタル狭帯域加熱技法が行われる場合には、当てはまらない。
【0179】
きわめて限られた波長の赤外線源にパルス通電することができるという付加機能によって、多くの従来からの広帯域の放射加熱または調理の用途に比べて、全体的なエネルギー効率を大幅に改善することができる。例えば、単独またはアレイの赤外線放射素子(RED)の通電時間を適切に変調することによって、大きな赤外線アレイ源を通り過ぎるときに個別の目標物を追跡することができる。換言すると、目標とする素子に最も近くかつ目標とする素子に向けられた赤外線放射素子が、通電される素子になる。目標とする部品または領域が前進するにつれて、「通電波(energizing wave)」をアレイを下って移動させることができる。
【0180】
熱成形とちょうど同じように、厚さまたは形状がさまざまである材料の調理または硬化の場合に、より厚い領域またはよりシビアな形状を有する領域に、より多くの熱の入力を加えることが望ましいことがある。特定の領域が、あまり強くは成型されない領域またはまったく成形されない領域と比べてより強く成形される熱成形と同様に。赤外線源アレイの構成を正確に設計することによって、全ての素子に同時に通電する必要がないだけでなく、加熱すべき領域の形状に対応するようにきわめて戦略的に素子に通電することができる。例えば、生産ラインを連続的に移動させるために、加熱すべき目標領域と同期した動きでプログラム可能に移動させることができる所望の熱プロファイルの特別形状の領域をプログラムすることが最も望ましいことがある。図10に示したような加熱を必要とする額縁形の領域を検討する。この場合、所望の放射強度の素子(402)の類似の額縁形アレイを有することが可能であると考えられ、このアレイを、目標とする熱成形シート(401)の動きに同期してアレイを横切って移動するようにプログラムすることができる。エンコーダを使用して熱成形シート(401)などの製品の動きを追跡することによって、周知の電子工学同期技術を使用して、プログラマブルコントローラまたはコンピュータの命令に従って適切な素子を所望の強度で作動させることができる。所望の出力強度を得るために、アレイ内の素子を制御システムによって「連続」モードまたは「パルス」モードで通電することができる。いずれのモードも、最も望ましい出力条件に対する時間の関数として強度を変調することができる。この制御は、素子グループの制御でもよく、個別のRED素子に対する制御でもよい。特定の用途では、制御の粒度を個別のRED素子まで下げる必要がない場合もある。そのような例では、RED素子を最も望ましい形状の列(string)を構成するように配線することができる。次に、それらの列または列群を、用途要件の要求に応じてプログラム可能に制御することができる。実用性から、最も都合のよい電圧の印加を容易にしかつ個別の素子制御のコストを削減するために、RED素子を群単位または列単位で駆動することが必要な場合がある。
【0181】
REDの列またはアレイは、電流をオープンループ構成で単純に供給することによって制御されてもよく、より高度な制御が使用されてもよい。特定用途の事実集約的評価によって、適切な狭帯域赤外線照射制御の量およびレベルが決定される。複雑または厳密な制御が要求される限りにおいて、制御回路は、入力電流、電圧、または固有出力を連続的に監視し変調する。最も望ましい放射出力または結果の監視は、赤外線アレイの出力あるいは赤外線の対象物に関する何らかのパラメータを直接測定することによって実施することができる。これは、単純な熱電対または高温計を取り入れることから、例えば赤外線カメラの形をとることができるはるかに高度な技術まで、一連のさまざまな技術によって実行することができる。当業者であれば、本発明の特定の用途にとって経済的に妥当かつ正当化される特定の閉ループ監視技術を推奨することができるであろう。
【0182】
直接および間接の両方の監視方法を取り入れることができる。例えば、形成可能温度範囲まで高めるために特定の材料を加熱する場合は、材料を形成するために必要な力を測定し、そのデータを、赤外線放射アレイを変調するためのフィードバックの少なくとも一部分として使用することが望ましい場合がある。本発明の出力の最適化および制御を容易にするために、多数の他の直接的または間接的なフィードバック手段が可能である。
【0183】
本発明の出願は、食品の準備処理(preparation processing)またはステージング(staging)にある。きわめて種々さまざまなオーブンおよび加熱システムが、人類の歴史において食品の調理に使用されてきたことが確かである。それらの大部分は周知であるため、そのようなオーブンおよび加熱システムの全範囲を説明することは、この特許出願の範囲を超える。非赤外/非熱源の調理技術を使用するマイクロ波調理という注目すべき例外を除き、他の実質的にすべての調理技術は、さまざまな種類の広帯域の熱源を使用する。そのようなオーブンで使用される赤外の熱源および要素は、広帯域の熱源である。それらは、特定の調理の状況または調理対象の製品にとって最も好都合となり得る特定波長の赤外エネルギーを生成する能力を有していない。
【0184】
オーブンにおいて一般的に使用されるもう1つの赤外熱源は、石英または石英ハロゲンランプである。これは、多数の形態をとることができるのは確かであるが、最も頻繁には、直線または円形の管の形態で使用される。この形式のランプの電気フィラメントは、石英ガラス製の管状部材の内側に収容される。石英ランプおよび石英赤外ランプは、工業製品および民生品において周知であり、基本的な考え方にもとづいて多数の変種が存在する。いくつかの形態は、出力曲線の中心周波数を変化させ、より可視光スペクトルに向け、あるいは近赤外スペクトルに向け、場合によっては中赤外に向けて移動させている。しかしながら、いずれの場合も、石英ランプ放射源は、広帯域源である。それらの半値全幅の出力は、常に2500nmよりも大きい。多くは、4000nmを大きく超えて実質的な出力を有する。本発明との対照の目的で、石英ランプは、さまざまな種類のオーブンで使用され、あるいはさまざまな種類のオーブンにおける使用が教示されている他のすべての熱ベースの源と同様に、明らかに広帯域の源である。
【0185】
オーブンおよび調理に使用される加熱について、3つの一般的なモードが存在することは、よく知られている。それらは、伝導、対流、および放射によるエネルギーの伝達である。これら3つは、多くの場合に何らかのやり方で互いに結び付いているが、まず伝導について具体的に説明する。伝導による加熱は、ある媒体と別の媒体との間の接触による直接的な熱の伝達を伴う。調理に当てはまる伝導の最も一般的な例は、煮込みであると考えられる。すなわち、加熱または調理されるアイテムが、高温または沸騰中の水または油などの液体に沈められる。加熱方法として伝導が選択される場合に液体が使用される主たる理由は、液体が空気またはガスよりもはるかに高い伝導帯の熱係数を有するからである。最終的に、調理対象のアイテムの温度を、対象へと熱を伝えるために使用されている伝導媒体の温度を超えて高めることはできない。結果として、加熱手段として純粋に伝導だけを使用したのでは、いくつかの好ましい調理結果を実現することが、より複雑かつ非現実的であることも多い。
【0186】
対流は、ガスまたは電気抵抗加熱素子によって加熱される多くの家庭用、商用、または産業用のオーブンにおいて使用されている。これは、オーブンの内部に空気またはガスを保つきわめて広帯域の熱源である。次いで、高温の空気が対象または食品に接触する。伝導による熱の移動が、この高温の空気またはガスとの境界において実際に生じる。加熱または調理される対象アイテムの外表面が、ガス状の流体に触れるとき、対象の熱を流体に等しくしようとする伝導による熱の移動が存在する。食品の調理の場合に、抵抗加熱素子から発せられる放射エネルギーは、通常は、食品に直接衝突することがないよう、食品から遮蔽される。抵抗加熱素子から発せられる長波の広帯域の赤外エネルギーが、食品の外表面においてあまりにもすぐに吸収されてしまうことが、何年も前から業界において認識されている。これにより、食品アイテムの内部深くの調理が生じるよりもはるかに前に、表面の焼けまたは焦げが生じる。
【0187】
照射の波長が長いほど、食品への浸透の深さが浅くなることが、食品業界において何年も前から一般的に認識されている。これは、残念な通則であるが、広帯域の源によるやり方がオーブンを製造する唯一のやり方である以上、当然であった。
【0188】
他の材料について前述したように、植物性および動物性食品は、固有の吸収スペクトル曲線を有する。そのような固有の吸収曲線は、特定の食品が特定の波長においてどのくらい吸収性または透過性であるかに関係している。対象食品を照射する特定の波長またはいくつかの慎重に選択した波長を選択することによって、所望の調理特徴の修正または最適化が可能である。放射エネルギーを最も効率的に使用することで、加熱または調理のコストを削減することができる。
【0189】
例えば、特定の食品の外表面を加熱し、あるいは焦がしたりすることが最も望まれる場合、本発明は、その特定の食品がきわめて高い吸収率を有する波長の選択を可能にする。その結果、選択された狭帯域の波長で照射されたとき、赤外線エネルギーが全て表面のきわめて近くで吸収され、したがって表面だけに所望の加熱が生じ、さらには/あるいは表面だけが所望のとおりに焦がされる。この逆に、表面を過熱するのではなく、食品内部のきわめて深くから食品を調理したい場合は、望みの調理結果が得られるように、特定の食品の透過率が高くなる一波長または選択された波長の組み合わせを選択することができる。結果として、放射エネルギーは、所望の深さに浸透するにつれて徐々に吸収される。
【0190】
電磁波が非金属材料中を移動する場合、この波の強度I(t)が、以下の式で示されるように移動距離tの関数として減少することに、注目することが重要である。
I(t)=I0(e−αt)
【0191】
この式において、I0はビームの初期強度であり、αはその材料の比吸光係数である。時間tが大きくなるとき、ビームの強度は、最初のビーム内の放射エネルギーがホスト材料に吸収されることによって生じる指数関数的減衰を受ける。この理由で、最適な調理結果を達成するために赤外線加熱を使用することは、食品アイテムの厚さ、加えられる赤外線の強度、照射波長、および材料吸収率の間の複雑な相互作用を伴う。
【0192】
異なる波長の放射線を照射するRED素子を組み合わせることによって、調理結果をさらに最適化することができる。そのような多波長アレイにおいては、1つの素子タイプが、放射エネルギーの吸収が低く、したがって熱を深く浸透させることができる波長にあるように選択されると考えられる。第2の素子タイプが、放射エネルギーの吸収が大きく、したがって表面の加熱を促進するように選択されると考えられる。最後に、第3のRED素子タイプが、これらの2つの両極端の吸収率の中間の波長にあるように選択され、アレイが完成すると考えられる。そのようなアレイに含まれる3種類のRED放射源の相対的な放射出力レベルを制御することによって、調理後の食品アイテムの重要な特性を最適化することができると考えられる。
【0193】
制御システムに色センサ、温度センサ、および場合によっては視覚センサを接続することによって、閉ループを形成し、望みの調理結果をさらに最適化することができる。そのような環境下では、対象となる可能性のある正確なパラメータを確認し、制御システムが、最も望ましいと考えられる適切な波長、強度、および方向で照射を行うことによって応答することができる。視覚センサを利用し組み込むことによって、調理されるべき食品の位置とサイズを実際に見て、それに従って前述のようにオーブンの出力を最適化することができる。水分センサとの組み合わせで使用されるときは、所望の水分含有量を維持すると考えられる組み合わせにて応答することが可能であろう。したがって、本発明が適切なセンサおよびコントローラの「知能」との組み合わせにおいて将来のスマートオーブンを真に促進できることを理解することができる。当然ながら、本発明を対流式オーブンおよび電子レンジの機能を含む従来の調理技術と組み合わせて、そのような技術の提供物の各々の最良の組み合わせを得ることができる。本発明の技術を従来の調理技術と共に最適化するように、スマート制御システムを設計することができる。
【0194】
また、ある食品に吸収され、第2の食品にはあまり吸収されない波長を選択することによって、食品の盛り合わせに行われる加熱の量を細かく選択することができる。したがって、選択可能なさまざまな波長の組み合わせおよび順列ならびに強度を変化させることによって、種々の具体的に設計された調理結果が得られることを、理解することができる。
【0195】
本発明のどの応用例の場合も、さまざまなレンズまたはビームガイド装置を使用して、照射エネルギーを望みの方向に導くことができる。これは、個別にレンズが設けられるRED素子から素子の近傍に取り付けられるマイクロレンズアレイまで、さまざまな実施態様の形態をとることができる。選択されるビームガイド装置は、案内または導かれる放射線の波長で機能するように適切に選択されなければならない。回折、屈折、および反射についてよく理解された技術を利用することによって、エネルギーをRED素子のアレイのさまざまな部分から望みの方向に導くことができる。通電した特定の素子をプログラム可能に制御し、それらの強度を変調することによって、広範囲の照射選択性を得ることができる。定常状態またはパルスモードを選択し、さらにどの素子をいつパルス化するかをプログラミングすることによって、機能をさらに高めることができる。
【0196】
この開示は、主に1.0〜3.5マイクロメートルの範囲の放射エネルギーの印加について述べているが、赤外のより長い波長またはより短い可視領域までの波長を含む他の動作波長において、類似の材料加熱効果を得ることができることは、当業者にとって自明なはずである。例えば、ある種の食品アイテムは、972nmまたは9xx範囲において上手く調理される。ある食品アイテムは、可視範囲の全体におけるすべての帯域または種々の帯域において良好に調理される場合がある。したがって、狭帯域の素子が、そのような用途のために、そのような波長に設けられ、ある場合には、食品アイテムへのエネルギーの深い浸透を提供する。また、本発明が、例えば700nm〜1200nmの範囲、1200nm〜3500nmの範囲、および3500nm超の範囲でエネルギーを放射する半導体狭帯域照射または放射素子の実現を含むことを、理解すべきである。また、2つの波長のエネルギーが対象の食品アイテムの吸収特性に一致するように供給される場合には、一形態において、一方の波長が1400nm超であり、他方が1400nm未満である。さらに、2つの波長が使用される場合に、一形態において、選択された波長帯の中心が、少なくとも150nmだけ離れている。開示される発明の精神は、放射源が可視光から遠赤外線まで動作可能と考えられる放射加熱の目的のために、電子から光子に直接変換する固体放射源の応用を含む。特定のタイプの用途には、中赤外範囲以外の他の波長の放射線を照射する他の波長選択可能な素子を、本発明に組み込むことが望ましい場合がある。
【0197】
少なくとも一形態において、本発明のシステムは、加熱または調理源として、デジタル半導体ベースの狭帯域照射素子を使用する。したがって、本発明は、幅広くさまざまな調理、加熱、乾燥、焦がし、脱水、加工、または処理の目的のために、対象の食品へと、選択された狭帯域の熱赤外(IR)波長の放射またはエネルギーを直接的に注入することに関する。後述されるように、これらの目的は、対象アイテムを加熱し、その温度を上昇させ、あるいは維持することを含むことができ、もしくは種々さまざまな産業、医療、消費者、または商用の環境において対象アイテムを特定的に刺激することを含むことができる。本明細書に記載の方法およびシステムは、特定的に選択された波長で照射を行う能力や、放射をパルス化または注入する能力を必要とし、あるいはそのような能力が有利である作業に、特に適用可能である。各々の波長における対象の吸収係数(対象の吸収曲線と称されることが多い)を知ることは、所望のとおりの加熱を実行すべく狭帯域の波長を選択できるよう、本発明の実施を十分に最適化するために重要である。また、本発明は、対象が望ましくはより高い速度で処理され、対象との非接触の関係が確立される場合に、特に好都合となり得る。本発明は、幅広くさまざまな最終用途に合わせて大いにプログラム可能であってよい選択された狭い波長の赤外加熱システムを提供する。本発明は、単独の素子で構成され、最も好ましくはデジタル半導体ベースの狭い波長の放射線放射素子の巧みなアレイで構成される新規かつ新種の赤外照射システムを教示する。そのような放射線放射素子の少なくとも1つの変種が、本明細書において具体的に後述されるが、後述されるように、多数の種類を用途に応じて本発明の実施のために適用または実現することが可能である。
【0198】
上述したように、従来からのパン焼き器、調理用オーブン、または汎用のオーブンのいずれにおいても、抵抗加熱素子またはガス加熱素子が、それぞれ電気エネルギーまたは石油化学製品を種々の形態の熱エネルギーへと変換するために典型的に使用されている。対照的に、本発明は、きわめて異なるやり方で機能して特定の狭帯域の波長においてエネルギーを生み出すデジタルダイオード半導体素子(または、同様の素子)を使用する。少なくとも一形態において、素子は、電磁放射エネルギーとも称される光子の出力を生成するために、量子ギャップまたは量子ドット半導体技術による電子−光子の変換プロセスを利用する。素子は、デジタル素子でもあり、本質的に指向性または照準可能な素子である。半導体ベースの照射素子は、本質的に、アナログ加熱素子と異なり暖機時間を有さない「瞬時オン」および「瞬時オフ」型の素子である。典型的には、数ナノ秒でのオンまたはオフが可能である。
【0199】
従来からの加熱素子は、本質的に広帯域または広い範囲の波長を生成する古典的なプランク黒体放射体として機能する。ピーク中心波長およびそれぞれの波長における出力を計算するための式は、よく理解されており、古典的な教科書の物理学であるため、ここでは取り扱わない。半導体ベースのダイオード(例えば、レーザダイオード)は、きわめて異なる様相で機能する。プランク黒体の物理学の規則には従わず、本質的に、狭帯域または狭い範囲の波長を生成するように製造することだけが可能である。大きな相違は、半導体ベースのダイオードが、電子を光子へと直接的に変換する素子であり、熱の関数として光子を放射するのではなく、特有の設計に応じて量子物理学の規則に従うがゆえである。
【0200】
さらなる説明の目的で、いくつかの材料科学の原理に注目すると、すべての材料は、特有かつ特徴的な「分子吸収スペクトル」を有する。このスペクトル吸収データは、通常は、たとえサンプルのサイズが他の特徴では材料の特定が不可能であるほどに小さい場合でも、そのような「スペクトル特徴」を使用して材料を積極的に特定できるほどに、その特定の種類の材料に特有である。完全な「スペクトル吸収の特徴」は、UVから長赤外までのすべての波長の各々における吸収の測定値の集まりであり、放射の各波長における材料特有の分子吸収の傾向の正確な大きさを示している。材料の吸収スペクトルは、材料がどの波長において放射エネルギーを吸収しやすいか、またはしにくいかを表わしており、あるいは反対に、放射エネルギーを透過させる傾向にあるか、または透過させない傾向にあるかを示している。換言すると、高いスペクトル吸収の反対が、高いスペクトル透過である。加えて、調理すべき特定の対象材料が、特定の波長において高いスペクトル吸収を有する場合、それに対応して、その同じ波長における透過は小さい。反対に、特定の波長において高い透過を有する限りにおいて、その同じ波長における吸収は少ないに違いない。物質が特定の波長において有する吸収の傾向の大きさは、その物質の吸収係数の指標である。吸収は、一般的には0〜100パーセントまでの吸収単位またはミリメートル当たりの吸収で表現されるため、吸収係数は、放射の各波長においてそのような尺度のどこかに位置する。他の単位での表現も可能であるが、ミリメートル当たりの吸収のパーセントとして表わし、あるいは吸収単位の対数の指標にて表わすことが、妥当に標準的である。3つの異なる材料の吸収スペクトルのグラフが、図11に示されている。
【0201】
対象の吸収特性に適切に一致する帯域幅および波長を注意深く選択した後で、プロセス、オーブン、または調理器具にこれらの狭帯域の照射源を取り入れることによって、達成される加熱の深さおよび程度を選択することが可能である。処理または調理の浸透のさらなる深さを提供することができるさらに別の技法が、本発明において利用可能である。上述の検討は、デジタル狭帯域の半導体ベースの素子について、連続デューティ定格出力までのいずれかのレベルで通電機能し、ある時間期間の後でオフにされる連続作動の形態での実行に関係している。素子をパルスモードで使用することも可能である。電源に関する考慮事項および冷却に関する考慮事項など、このモードで素子を動作させるいくつかの設計理由が存在し得る。ここでの検討のために注目すべき他の理由の1つは、大幅に強い強度の瞬時の放射パルスを得るために、電流パルスが定常状態の電流定格の多数倍であるように、素子をパルスモードで実現することである。より高強度の瞬間的なパルスを有することによって、それに比例して、より低い強度の定常状態の出力において可能であるよりもさらに対象アイテムへと浸透することが可能である。この技法を使用することで、たとえ単位時間当たりの全体としての積分エネルギーがそれほど大きくなくても、調理される食品の内部へとはるかに深く到達することが可能である。これは、より低出力の素子およびより小さな電源が、より大きなシステムまたはより高価なシステムと同様の浸透深さを、より低い製品コストの予算で可能にできる点で、コストの観点から好都合となり得る。多くの場合に、パンまたはポテトなどの製品は、理想的には、迅速でありながら適切である調理のために放射エネルギーの深い浸透を必要とするはずである。これは、本発明の技術を実行する製品の設計者にとって、本発明の技術の能力をより十分に活用するために利用することができる重要な追加のツールである。
【0202】
特徴的な吸収の特徴ゆえに、広いスペクトルまたは広帯域の放射源は、典型的には、所与の用途(パン焼きなど)に理想的には適していないエネルギーを多く生成し、このエネルギーの多くが、誤った波長にあるがゆえに容易には吸収されず、あるいは望ましく吸収されることがない。例えばダイオードまたはレーザダイオード源などによって特定の波長または狭い範囲の波長を生成することによって、既知の対象において使用されるはるかに効率的な調理器具またはシステムを設計することが可能である。
【0203】
本発明は、空間的に制御可能な熱の分布を可能にする。この点で、抵抗加熱素子は、典型的には、電流が供給されたときに素子の全表面が広帯域の電磁エネルギーを放射する点で、多方向の放射体である。これは、加熱、焦がし、硬化、または調理の対象である材料に向かって実際に案内される放射エネルギーが、比較的小さな割合だけであることを意味する。他方で、ダイオードまたはレーザダイオードは、対象材料のきわめて特定的な領域へとエネルギーをもたらすように照準され、あるいは案内されることを、より良好に促進する。典型的な種類のうちのいくつかについて説明されるとおり、ダイオードまたはレーザダイオードの照射パターンは、基本的に指向性である。ダイオードおよびレーザダイオードを、それらの放射出力が直接的あるいは反射または屈折によって加熱すべき目標に衝突するように照準し、あるいは案内しなければならない。さらに、いくつかの特定の狭帯域の波長を注意深く選択し、各々の放射の時点および継続時間を能動的に制御することによって、放射エネルギーの浸透の深さを予測および制御することができるが、広帯域の放射体はこの種の制御を有していない。それらは、基本的に無指向性の放射体であり、実施において指向性を可能にするためには、それらの設計にリフレクタまたは反射コーティングが追加されなければならない。
【0204】
これらの考え方の理解をさらに広げるために、半導体ベースの照射素子について、いくつかの基本的事実を理解する必要がある。それらは、いくつかの異なるフォームファクタにて利用可能であり、そのいずれもが、本発明のいくつかの実現に適することができる。狭帯域の照射ダイオード(典型的には、発光ダイオード(LED)と称され、あるいは可視範囲よりも実質的に上の放射エネルギーを生成する場合には、放射線放射ダイオード(RED)と称することができる)は、多くの場合、幅が15〜250nmの間である帯域幅の出力(半値全幅)を生成する。これらの素子の出力は、最近の10年間で劇的に大きくなってきており、予測できる将来において劇的な増大を続けると予想される。1ワットを大きく超える光出力を有するLEDまたはREDを在庫品として購入できることも、珍しくない。これらの素子からの出力ビームの形状は、それらの個々の設計の関数であるが、最も多くの場合は、10°〜150°の範囲の発散するガウス分布である。当然ながら、出力ビームの形状を、種々の光学系を使用してさらに変更することができる。正確な出力ビームの発散パターンは、それらのダイオードベースの素子が使用される特定の用途にとって根本的に最良であるように選択されなければならない。
【0205】
半導体ベースの照射素子が、本発明の実施により理想的であると考えられるが、他の種類のレーザ素子を使用できないと考える根本的理由は存在しない。しかしながら、レーザ素子は、あるレベルで狭帯域であるという資格に合格できるが、レーザ素子の実際の使用を制限する場合がある他の商業的および技術的な考慮事項が存在する。例えば、化学レーザおよびさまざまな種類のポンピングレーザは、典型的にははるかに高価である。多くの非半導体式のレーザは、限られた波長の選択肢でしか入手することができず、このことが、照射波長を特定の材料または材料群の吸収特性に一致させようと試みるときに、あまり望ましいとは言えない。また、効率が低いというポンピングレーザの固有の性質ゆえに、おそらくは半導体ベースのレーザとしての使用に理想的ではない。しかしながら、これらの限界を克服する新種が開発される場合や、特定の用途に合った波長が利用できる場合、本発明の実施に使用することが可能である。
【0206】
ちょうど研究室から現れたばかりであるが、本発明の実施に理想的である他の重要な狭帯域の照射素子のいくつかは、LETおよびトランジスタ光子増幅器である。発光トランジスタ(または、LET)は、研究室から現れたばかりの新種の半導体素子であるが、本発明を実施するための理想的な素子として大いに期待される。また、効率的、制御可能、強力、かつプログラム可能ですらあるやり方で狭帯域の照射を生成、または劇的に増幅すると期待される。波長をプログラム可能に制御することさえ可能な強力な狭帯域の照射源となることが可能である。初期の徴候では、LETは、10の9乗程度の光の増幅が可能である。これが、高い効率および波長制御性と組み合わさって、LETを本発明を実施するための理想的な狭帯域の素子にしている。
【0207】
レーザダイオードは、歴史的に、入手可能なもっとも高出力の狭帯域素子であったが、将来のある時点でLETの挑戦を受ける可能性がある。レーザダイオードは、典型的には、20nmから1nm未満までの半値全幅の帯域幅を生成する。UVから長赤外の範囲の波長にて製造することが可能である。臨界近赤外および中赤外の波長において、どんな特定の波長帯が所望されても製造可能である。素子の電力変換効率は、毎年のように向上している。電力変換効率を、電力の入力の光子の出力に対する比として定義することができる。ここ数年できわめて良好になってきており、改善が続くと期待される。例えば、ヒ化ガリウム材料系で製造された975nmのレーザダイオードは、72%を超える電力変換効率を有して製造されている。典型的には、より長い波長(例えば、1500nm)の素子は、基本的な物理学ゆえに、より短い波長の素子と同じ電力変換効率を達成することはできないが、近いうちにほぼ45%の効率を達成できるようになると考えられる。ダイオード素子が製造される基本的な基板の化学が、素子の最終的な寿命に大いに関係する。例えば、波長が約1150nmよりも短いダイオードは、典型的には、ヒ化ガリウムウェハ基板を使用する。これらの素子の製造者は、高出力の用途において12,000時間を超える長い寿命を得ることに苦労している。1200nmよりも長い波長を有する長波長の高出力ダイオード素子は、典型的には、リン化インジウムウェハ基板によって製造される。リン化インジウム基板にもとづく素子は、100,000時間を超えることができるきわめて長い寿命を有することができる。したがって、リン化インジウムベースのダイオードまたはレーザダイオード素子を使用することが、産業または長いデューティサイクルの種類の用途において、より現実的な選択肢であることが多い。より長寿命のリン化インジウムベースの素子とは対照的に、より短い波長が選択すべき十分に大きい照射の最適化を有するか否か、工学的選択を行わなければならないこともあり得る。これは、一般に、LEDおよびレーザダイオードの両方に当てはまる。これらの装置は、長寿命ゆえに本発明における使用にとって理想的なだけでなく、多くの材料が最も変化に富む(したがって、有用な)吸収特性を有している中赤外の波長範囲における最適な素子でもある。
【0208】
半導体ダイオードベースの素子により長いデューティサイクルをもたらすために行うことができるいくつかの事柄が存在する。本明細書のどこかで述べられているとおり、きわめて効果的な冷却が、おそらくは装置により長い寿命を保証する最も重要なやり方である。工学の観点から、これを左右する多数のさまざまなやり方が存在するわけではないが、余分な熱を拡散させ、消散させ、あるいは導き去ることを助けることができる回路基板またはヒートスプレッダに素子を取り付けることが、ほぼ常に必要である。
【0209】
素子の寿命に大きな差を生み出し得るレーザダイオードの工学に関するさらなる基本的態様が存在する。レーザダイオードの最も一般的な故障モードは、エネルギーが素子から出るやり方に関係がある。端面放射レーザダイオード素子においては、そのような素子が、通常は、何らかの形態のヒートスプレッダまたは熱伝導性の回路基板に、レーザダイオードの縁がヒートスプレッダの取り付け面の縁に整列するように取り付けられる。レーザダイオードの出射面の縁が、取り付け面の縁と完璧には同一面にない場合、問題が生じる可能性がある。ダイオードが取り付け面の縁よりも突き出しており、ダイオードが取り付け面の縁よりも後退しており、あるいはダイオードが取り付け面に対して斜めであるという3つの状況が存在し得る。これら3つの状況のいずれにおいても、レーザダイオードの端面から出る光子のエネルギーが取り付け面に衝突する。結果としての熱の上昇が、局所表面の過熱による緩やかな劣化または急激な劣化を生じさせる。種々の局所表面の過熱につれて、壊滅的なレーザダイオード端面の不具合など、種々の故障が生じる。これが生じ始めると、ダイオードは自己破壊を基本的に開始する。同様に、レーザダイオードが光ファイバ光子ガイドに組み合わせられる場合、正確な整列が重要であり、エネルギーを吸収して過熱したり、レーザダイオードへとエネルギーを反射させたりする可能性がある表面を導入しないことが重要である。同じ注意が、システムの過熱による不具合を防止するために、光ファイバの入り口端および出口端の両方において重要である。
【0210】
直接的に放射を行い、あるいは光ファイバ光子ガイドへと放射を行う端面放射型レーザダイオードが、技術の実施の最も望ましいやり方となり得る多数の用途が存在する。しかしながら、上述の不具合モードの可能性をなくす他の種類の素子も存在する。そのような種類の素子は、一般に、面放射型のダイオードまたはレーザダイオードと称される。これは、本質的に出力密度がより高いがゆえに、レーザダイオードにおいてより頻繁に問題になるが、ダイオードの出力が大きくなるにつれ、ダイオードにおいても同様に当てはまるようになる。面放射型レーザダイオードは、内部的に、光子エネルギーの放射を端面(光子のエネルギーを吸収して過熱の不具合を生じさせる可能性がある構造に本質的に近接する)から出すことがないようなやり方で構成されている。一般的に、レーザの光子放射の柱を素子の側面からではなくて素子の前面または後面から出るように反射させ、屈折させ、回折させ、あるいは他のやり方で向け直すことができる内部構造を有するあらゆる種類の素子が、この分類に当てはまる資格を有すると考えられる。2002年10月3日付の米国特許出願第10/264,534号が、そのような素子の一例である。この特許出願は、前面放射型レーザダイオードとして製造することができる単一の素子を示している。米国特許出願第11/042,759号が、多数のそのような素子からなるチップアレイとして製造されたそのような素子を示している。単一の素子が使用されるのか、そのような素子がチップオンボードの様相で配置されるのか、あるいは素子からなる集積回路アレイとして製造されるのかにかかわらず、レーザダイオードに一般的な主たる故障モードを撲滅するという同じ目標が達成される。放射素子におけるさまざまな種類の表面の任意の組み合わせまたは順列が、本発明の実施における大きな利点である。レーザダイオードの製造および取り付けの当業者であれば、これらの装置を本発明を実施すべく実現するうえで重要な他の分派を理解できるであろう。
【0211】
狭いスペクトルの素子は、考えられる多数の異なる狭帯域の波長範囲における調理に有用であり得るが、素子が最適な結果のために本明細書の教示に従って適用されることが重要である。狭帯域の出力の素子の中心波長が、最良の効率および所望の結果のために、対象の吸収スペクトルの特徴に注意深く一致させられるべきであり、いくつかの用途においては注意深く一致させられなければならない。例えば、表面を焦がすことが望まれる場合には、照射素子の中心波長を、対象または食品を構成する材料または材料混合物がきわめて高い吸収を有する波長に一致させるべきである。反対に、対象を深く調理することが望まれ、すなわち表面の十分に下方への深い浸透が望まれる場合には、調理対象の吸収がより少ない波長に一致する波長を、出力素子について選択すべきである。すなわち、対象をより深くまで調理することが望まれる場合には、吸収係数がより小さいことを特徴とする特定の波長を選択すべきである。好ましい調理の深さのための所望の吸収係数を選択することによって、1つ以上の望ましい波長が、対象のスペクトル吸収曲線から示される。
【0212】
多くの場合、これらの狭帯域の素子の2つ以上の波長が、互いに呼応して使用されることが予想される。各々の狭帯域の波長範囲が、処理すべき対象材料の各々において、自身の特有の吸収または透過を有するため、本発明を実施する者は、適用を最適にする波長の組み合わせを選択しなければならない。扉および窓の考え方を取り入れることが、本発明にさらなる機能をもたらすことが多い。これは、材料「A」がきわめて透過的である波長を、エネルギーを材料「B」へと進入させ、材料「B」の注意深く選択された吸収係数で吸収させることができるように、使用することを意味する。このようにして、材料「A」に加わる熱を最小限にしながら、材料「B」を選択的に加熱することができる。同様に、所望の熱を材料「A」へと実際に加えるために、別の波長を選択して取り入れることができる。当然ながら、これは、それぞれの材料の吸収スペクトル曲線が大きく異なる場合に最も上手く達成される。これは、当然ながら、上述のように計画することができる限りにおいて、多数の異なる材料についてそれぞれの波長によって行うことが可能である。必要に応じた吸収ピークを人工的に生じさせるために、一部の材料に添加材を取り入れることが望ましい場合がある。
【0213】
本発明の実施を望む設計者が考慮しなければならないもう1つの態様は、以下のとおりである。吸収およびその反対の透過は、すでに上述した。さらに理解すべきは、対象材料の散乱または光拡散の特性である。例えば、パン生地は、測定によれば、950nmにおいてきわめて透過性(吸収が少ない)である。これは薄い測定サンプルにおいては真実であるが、完全な吸収が生じるまでの透過距離を散乱を考慮せずに計算すると、誤りにつながる可能性があることを理解することも重要である。未調理の状態の生地の光学的特性は、950nmの光子のかなりの散乱を生じさせ、したがってすべてのエネルギーが吸収されるまでの浸透の深さを変化させる。これを、多数の個々の光子の方向を実質的に変化させる内部の「マイクロ反射」と考えることができる。これは、電磁スペクトルの不可視部分において生じるため、実際の実験の試行によって該当の波長の拡散を試験する必要がある。きわめて低い吸収係数は、その波長では「皮膚の加熱」が生じないことを保証するが、研究室による測定および試行は、実際に有効な浸透の深さを理解するために必要な追加のデータをもたらすであろう。
【0214】
別の現象が、いくつかの材料が加熱されるときに生じる。膨らむ生地または熱への種々の暴露期間の結果として物理的特性が変化する他の材料は、材料の特性の変化の関数として、浸透の変化を呈する。例えば、生地がパンへと膨らむにつれて、大抵にとってお馴染みのありふれた低密度の物質が気泡によって形成される。密度または材料特性の変化が散乱の拡散と組み合わさって、所与の波長における浸透の深さを理解するための最良のやり方が研究室での試行および実験であることを提案する。いくつかの材料は、このような種々の変化の後でより深い浸透が可能であることを実際に示すことがある。
【0215】
同様に、生の対象材料または生の食品における浸透の深さは、それぞれの材料または食品の熱処理後または調理後の浸透の深さとは異なる可能性がある。表面に堅いマトリクスが形成されると、結果としての種々の材料特性の変化が、吸収係数だけを見た場合に予想される浸透の深さも変化させると考えることができる。
【0216】
LEDまたはレーザダイオードが、選択された照射素子である場合、それらの出力波長は固定されている。この唯一の例外は、いくつかの固体素子の出力が、素子の動作温度につれて大きく変化することである。これは、他のあらゆる因子よりも固体素子の設計によって決まるが、いくつかの素子において大きく、他の素子においては大きくない。したがって、素子を、どのような種類の対象製品が本発明に従って装備されたオーブンにおいて調理され、加熱され、あるいは硬化させられるのかを見越して、指定および製造しなければならない。照射素子、用途、ならびに調理、処理、または硬化対象の特定の材料の特性、寸法、およびスペクトルについてのこの推測的な知識のすべてが、本発明を最も効果的に実行するために多くの実験および試験から学習されなければならない。この技術を使用するように調理装置またはオーブンを設計する場合、調理の対象の吸収特性および散乱、ならびにサイズ、重量、所望される調理時間、およびもっとも所望される調理結果を理解するために、具体的に調理される種類の対象によって実験を行う必要がある。実践者は、調理の仕事に単一の波長が適切であるのか、あるいは所望の調理結果を達成するために複数の異なる狭帯域の波長の混合が必要であるのかを、考慮しなければならない。複数の異なる製品を同時に調理すべき場合、最適な結果のために複数の狭帯域の波長を選択すべきであることが、多くの場合に真実である。調理すべき複数の製品が、たとえ吸収曲線上のただ1つの箇所だけでも類似の吸収の特徴を共有している場合、複数の製品の調理にとって満足できる狭帯域の波長範囲を選択することが妥当であり得る。しかしながら、同じ波長において一方がきわめて吸収性であり、他方がきわめて透過性である場合、照射素子を相応に選択しなければならない。
【0217】
波長の選択が重要であるのとちょうど同じように、どのようにエネルギーが対象へと届けられるのかを理解することも重要である。上記推奨の狭帯域の照射素子は、本質的に照準を容易にしているため、本発明の実践者は、エネルギーを製品へと「操縦」する種々のやり方を理解することが重要である。出力は、選択された波長において使用されるように指定されるレンズ、リフレクタ、屈折器、光ファイバ、プリズム、および他の同様な装置を使用することによって、可視光の取り扱いのやり方と同様のやり方で集中させることができる放射光子エネルギーである。上記素子を焦点固定の構成において使用することが、それが用途にとって良好な技術的解決策であるならば可能である。また、いくつかの用途においては、対象の食品アイテムに到達するにつれて発散するエネルギーの帯を生成するように機能する狭帯域の放射素子を利用することが好都合な場合がある。このようにして、照射されるアイテムまたは表面のカバレッジの改善をもたらすことができる。また、適切な状況においては、狭帯域のエネルギーの送達が、本発明の実施に適した狭帯域を達成するようにフィルタ処理される広帯域の素子からの狭帯域のエネルギーの送達を含んでもよい。
【0218】
本発明を実施する用途の多くが、狭帯域の素子で比較的高いエネルギー密度を生成するように構成されるため、安全が重要な考慮事項であり、従来からの調理システムまたはアナログ調理システムといくらか相違する。本発明を実施するための狭帯域の照射を、可視のスペクトルにおいて実現することが可能であると予想されるが、通常は、赤外スペクトルのどこかの不可視の放射または不可視の放射の使用である。照射が不可視である場合、目の通常のまばたきや、目を逸らすことや、虹彩を閉じる応答が、引き起こされることがない。調理領域に存在するであろう強力な放射に気付くことが不可能である。約1300nm未満の近赤外波長は、隔膜を通過して目の網膜まで進入することができる。上記波長よりも上では、放射が網膜まで進入することは不可能であるとおおむね考えられる。この約1300nmよりも長い波長の領域は、網膜を痛める可能性がないため、目に安全な領域と称されることもある。十分な強度、集光、またはエネルギー密度を有するより長い波長は、焼けを引き起こすに十分なエネルギーを目の表面付近に位置させる可能性がある。目は体のうちで赤外放射に対して最も脆弱な部位であり、十分な暴露でどこかに損傷が生じる可能性がある。したがって、人間および動物が直接の放射または反射した放射から保護されるように、調理室の領域を囲み、あるいは何らかのやり方で隔離することが、推奨される。扉またはアクセスパネルが開かれたならば照射が速やかに停止するようなやり方で、調理室を完全に囲むことが理想的である。調理中の食品を視認できることが消費者に広く好まれているため、多くの良好なオーブンには、何らかの形態の内部照明を組み込まれている。調理室の領域への視覚的なアクセスを可能にするために、窓または観察ポートが存在する場合、そのような窓または観察ポートに、妥当な強度の可視光だけが観察者へと到達できる唯一の放射であるように、何らかの形態のフィルタが取り入れられるべきである。当然ながら、これを実現する多数のやり方が存在するが、それが本発明の良好かつ安全な実施のための重要な考慮事項である。おそらくは、最も単純な実施形態は、可視通過フィルタが組み込まれたフィルタ窓であると考えられる。別の例として、反射の観察経路を、可視光だけが観察経路を通って観察者の目へと反射させられる適切な状況のために設計することが可能である。調理室の内部の観察の代案として、カメラおよび表示装置を使用することも可能である。観察者までの可視光の経路を生成するためにどの方法が使用されるかにかかわらず、観察が行われないときに経路を遮るために、放射によって容易に過熱することがない金属または他の種類の扉を使用することがよい考え方である。開かれたときに照射をオフにするだけでなく、内部の照明システムもオンにする観察ポートの扉を備えることが、きわめて妥当である。
【0219】
さらに、最初に対象の食品についてのデータを検出することによって、エネルギーを動的に操縦することが可能である。興味深いデータのリスト(これらですべてではない)は、サイズ、形状、量、食品の種類、厚さ、吸収スペクトル、ならびに対象の向きおよび/または位置である。食品または対象アイテムが、照射ステーションを横切り、あるいは通過する場合、継続的に搬送手段の速度または相対移動に関する情報を供給することが可能である。制御システムが、いつ対象のデータまたは情報を照射の制御のための指示および指令へと変換しなければならないかを決定する。理想的には、上述のような知覚データを受信し、照射プロセスを調整/制御することができる。正確に何がオーブン内に存在するのかについての情報をユーザの入力および/またはセンサの入力から受け取って、対象の正確な照準および照射のためのアルゴリズムを実行することができる。適切なユーザインターフェイスが、さまざまな形態をとることができ、制御システムへと入力できる任意の種々の設定または他のパラメータについてユーザによる入力を提供できることを、理解すべきである。指示者として機能することができる制御システムによって、種々さまざまな装置を、対象の照射に必要なとおりに照射素子を向けるために使用することができる。例えば、1つ以上のレーザダイオードのエネルギーを反射によって対象へと向け直すサーボ式またはガルバノメータ取り付けのミラーを取り付けることができる。
【0220】
上述のような対象の検出を、種々さまざまな在庫の部品で行うことができる。温度センサ、赤外センサまたはセンサアレイ、水分センサ、圧力センサ、色センサ、重量センサ、においセンサ、カラーまたはグレースケールカメラ、赤外線カメラ、スペクトル光度測定センサ、および本発明を実施する当業者であれば理解できるであろう他のセンサを、加熱、硬化、または調理の対象についての知覚データを集めるために使用することができる。確かに、混合に存在してよいセンサは、さまざまな種類の高性能可視光または赤外線カメラであると考えられる。可視光高性能カメラまたは他の賢いカメラベースのシステムは、より伝統的なセンサと比べて、さらなる融通性およびさらなるプログラム可能性を有すると考えられる。適切にプログラムされた場合に、食品または他の対象アイテムの調理後の外観が正しいか否かを、実際に確認することができる。調理プロセスを進行中に動的に調節、最適化、および修正するためのループを閉じるための装置として、カメラを使用することも可能である。同様に、赤外線カメラを、オーブンの対象または食品アイテムの正確な熱含量を実際に割り出すことができるように使用することが可能である。
【0221】
考えられる調理技術の一実施例が、図12および13に示されている。図示のとおり、システム100が、「開いた」準備完了状態(図12)および「閉じた」動作状態(図13)という2つの状態に示されている。システム100は、オーブンまたはパン焼き器の形態など、さまざまな形態をとることができる。少なくとも一形態において、システム100は、上側シャッタ104、下側シャッタ106、およびシャッタ位置センサ108を備える安全シャッタシステム102を備える。さらに、種々の形態をとることができる駆動機構110を、シャッタを両状態の間で動かすために使用することができる。さらには、少なくとも一形態においてシステムの動作の最中に閉じておくことができる扉101が示されている。当然ながら、扉(および、シャッタシステムなどの他の安全用の造作)は、システム内への照射の封じ込めを提供する。少なくとも一形態においては、ドアが開かれている場合に、例えばシステムが照射を生じる動作を行わない。他の構成または機構も、扉101(あるいは、図14(a)〜(c)の扉)の代案または増強として設けることが可能である。
【0222】
さらに、安全シャッタシステム102によって選択的に覆われる観察窓120が示されている。観察窓120は、料理人またはシステム100の操作者がオーブン内(例えば、オーブン内の調理または照射ゾーン(図示されていない))で生じている照射の進行を観察できるようにするために所望される。いくつかの形態においては、安全システム102を、観察窓120または動作のための方法として狭帯域の照射素子を使用する器具の領域に組み合わせて有することが推奨され、多くの場合にそのようにすることが必要である。システム102は、目を素子からの放射への暴露によって生じ得る損傷から保護する。所与の用途において使用される波長に応じて、有効な使用および器具のために必要な出力は、目または体の他の部分の照射への直接的な暴露または間接的な反射による暴露が、目の外部または網膜の損傷を生じさせかねないような出力である場合がある。安全システム102は、保護のために使用することができる動作手段だけでなく、器具の故障または誤用の場合のフェイルセーフシステムも提供する。
【0223】
観察窓120は、一形態においては、狭帯域の照射素子が積極的に照射を生成しているときに照射を封じ込めるべく常に閉じられているように設計される。安全インターロックを、扉の開放と狭帯域の素子の通電とが同時に生じることがないように、回路に備えることができる。センサ108などのセンサが、照射素子の作動が可能になる前にシャッタの位置を確認する。これらのシャッタ監視センサは、動作の最中に常に、観察窓のシャッタの位置または状態を監視し、すなわちシステム内への照射の封じ込めの状態を監視する。
【0224】
さらに、制御ボタン130が図示されている。制御ボタン130は、さまざまな形態をとることができる。しかしながら、そのような一形態においては、制御ボタン130が、観察カメラ150および本発明のシステムによる調理に使用される照射素子(図示されていない)を制御するための制御システム(図示されていない)へと作動可能に接続されている。
【0225】
従来からのパン焼き器は、ユーザによる設定(通常は、1〜5が記されたダイアル)にもとづいて焼けたパンを放出してパン焼きプロセスを停止させるために、きわめて基本的な周囲温度(対流)の測定に依存している。焼けたパンの正確な「出来具合」は、このダイアルの正確さ、基本制御などの設定の再現性、およびバイメタル温度片の状態(老化、摩耗、パン焼きの開始時の周囲温度、など)に依存する。他方で、ダイオード源を、(必要であれば)ナノ秒まで制御することが可能であり、外部の状態にかかわらずに一貫した量の放射エネルギーを放射するように構成することができる。制御ボタン130(および、関連の制御システム)などのさらにわずかに高度化された制御部により、焼けたパンまたは他の食品アイテムを、ときには誤って選択される消費者の設定にかかわらずに繰り返し生成することができる。
【0226】
図12および13には具体的には示されていない(図14に示されている)が、本発明のシステムの制御システムは、好都合な動作および調理を可能にする。制御システム(および、システムの他の適切な構成部品)が、さまざまな構成をとってよいことを理解すべきである。本明細書に記載のシステムおよび方法の目的に合致する種々のソフトウェアルーチンおよびハードウェア構成を利用することができる。種々のプロセッサおよびメモリ素子を、本明細書に記載の実施形態を実現するためのルーチンおよび機能を実行するために使用することができる。
【0227】
本発明の半導体の性質ゆえに、制御システムは、例えば観察カメラ150によって意図される対象の仕上がり具合を光学的に検出して、タイミング、強度、出力、および完璧さのうちの少なくとも1つについて固体照射素子を調節することができる。実際の調理結果に関して制御ループを閉じるそのような制御システムを取り入れることで、別の機能的な利点が認識され、この技術の実践者にとって利用可能になる。この制御の可能性を取り入れるいくつかの例を、本明細書において詳述する。
【0228】
また、賢い制御システムが、多数の他の可能性を促進する。関連のシステムまたは独立のシステムと有線または無線で通信することが可能である。そのようなシステムは、例えば住宅全体の自動化システムと通信することができる。これは、幅広くさまざまなプログラム可能性を促進できるだけでなく、新たな種類の監視も促進することができる。例えば、有線または無線の通信リンクを、調理を監視するために使用される1つ以上のカメラまたは他のセンサから促進し、その画像または情報を、オーブンの近傍または遠方の他の表示装置において利用可能にすることができる。台所に配置されたテレビまたはコンピュータモニタが、調理の進行を示す画像を表示することができる。これは、例えば閉じられたオーブン内で調理されているピザの下面および上面の画像を含むことができる。これは、多くのオーブンが調理の進行を眺めるために備える伝統的な観察窓を備えることよりも優れている。多くの場合、観察の角度および照明が、人間である観察者にとって窓を通した観察に理想的ではなく、多くの場合、照射による調理が進行しているときに観察窓では安全に観察を行うことが不可能である。本明細書に記載のとおりの複数の機能のための内部のカメラを使用することによって、調理の進行について安全であり、拡大され、より便利である観察が可能になる。容易に利用することができる技術により、画像および/または他の調理データをBluetoothによって携帯電話機、PDA、iPhone、または同様のデバイスへと送信することが妥当である。
【0229】
制御システムの他の重要なサブ機能は、照射素子を動作させる電流を供給することにある。電源は、電流が制御された電源であるDC電源でなければならない。素子そのものはデジタル素子であり、したがってひとたびオンになったならば、電源が生み出す量と同じ量の電流を流す。素子が耐え得るレベルに電流が制限されない場合、素子が破壊されてしまう。
【0230】
照射素子またはダイオードアレイの放射エネルギーの出力は、基本的には、例えばシステム100の調理または照射ゾーン内の食品アイテムに向かって「照準」され、すなわち指向性を持って放射される光子である。この点で、オーブンシステム100は、照射素子を支持または収容するために種々さまざまな構造システムを備える。そのような構造システムの具体的な構成は、用途によってさまざまであろう。また、支持または収容された照射素子の出力を、種々の光源におけるレンズと同様のやり方で取り扱うことができる。リフレクタ、レンズ、回折器、屈折器、分割器、および光ファイバが、いずれも放射エネルギーを所与の用途の必要に応じて操縦する実行可能なやり方である。光ファイバは、単一のレーザダイオードからの照射エネルギーを、レーザダイオードの場所から遠く離れており、あるいはレーザダイオードの場所とはまったく異なる環境または場所に位置している使用の場所へと、そのまま届けることができるため、実施の態様に多大な柔軟性を付与する。しかしながら、レーザダイオードの出力面からファイバへと入るときに、大きな結合損失が存在するという不利な面もある。選択される光学的技法または技術にかかわらず、光を取り扱うハードウェアが正しく配置されて生成の構成に結合させられたならば、放射エネルギーを正しい強度および角度で必要な場所に効率的に届けることができる。正しい構成は、固体素子および他の構成部品を、食品、プロセス、または対象の副生成物または汚染物質へと暴露されることがないように保つという利点も有する。
【0231】
他の形態においては、本発明のデジタル半導体ベースの狭帯域調理技術を、より一般的な調理技術と混合または統合することが可能である。例えば、マイクロ波調理の能力も取り入れている多波長狭帯域オーブンを製作することが可能である。抵抗式の調理素子または石英調理素子を統合することが望ましい場合がある。マイクロ波攪拌ファンを、複数の機能を実行するように狭帯域波長走査または散乱装置として使用することが好都合な場合がある。どのようにして狭帯域のオーブンまたは調理技術を多数のさまざまな組み合わせおよび順列にて他のより一般的な方法と組み合わせ、両方の世界の最良を得ることができるのかを、容易に理解できるであろう。場合によっては市場または消費者の好みを考慮する必要があり、場合によっては価格を考慮する必要があり、場合によってはコンパクトさ、すなわち設置面積の問題を考慮する必要があるが、本発明のまったく新しい考え方をより伝統的な実務のいくつかと組み合わせることで、多大な柔軟性および機能がもたらされる。
【0232】
システム100のための他の選択肢として、サーボモータおよびリモート制御の使用が挙げられる。サーボを、最適な加熱が生じるように1つ以上の素子のエネルギー出力に調理のタイミングを合わせ、あるいは調理を協調させるために使用することができる。この技法は、以下でピザの用途に取り入れられる。狭帯域素子を所望のとおりの照射のための正しい向きへと移動させるべくサーボモータまたは線形アクチュエータを使用する多数のさまざまなやり方が存在する。反対に、食品または対象そのものを正しい照射の向きへとサーボしてもよい。
【0233】
さらに、本明細書に記載の典型的なシステムの制御システム(または、同様の装置またはルーチン)が、少なくとも一形態において、照射のパルス幅を変更し、振幅を変更し、波長を変化させ、エネルギーにさまざまな種類の変調をもたらすように動作できることを、理解すべきである。この食品アイテムへと入力されるエネルギーの変調は、ユーザインターフェイスによる設定または入力、システムの設定またはパラメータ、あるいはシステム内のセンサの出力にもとづくことができる。
【0234】
システムが本質的により安全な低電圧のやり方で動作し、かつシステムをより広範囲に監視することができるため、エンドユーザがインターネットまたは電話接続を介してユニットのオンおよびオフならびにユニットのプログラムを行うことを可能にするリモート制御システムを、より容易に備えることができる。デジタル狭帯域素子に本質的に備わる制御の正確さおよびこの種の素子の接続性の可能性が、単独または住宅全体システムの一部としての無線の接続性に適する。
【0235】
考えられる調理技術のさらなる実施態様においては、システムおよび方法が、図14(a)〜(c)に概略的に示されるようにピザを効率的に調理するように設計され、そのように動作することができる。図示のとおり、システムは、ピザを調理室(30)へと出し入れするために、搬送手段(20)を備える。ピザは、おそらくは照射に対して約98%透明である開放メッシュ式のコンベアベルト(22)で調理室に出入りする。ピザを待ち行列位置23から調理室30へと取り入れるべき時間が来たとき、制御システム15が線形アクチュエータ12を作動させ、調理室30へのアクセスを可能にすべく扉41Aを上昇させる。さらに制御システム15(例えば少なくとも図12、13、および14(a)〜(c)に関して本明細書に記載したとおりに機能するように動作することができる)は、ユーザが冷却または動作のための設定またはパラメータを入力できるように、ユーザインターフェイスを備えることができる。設定またはパラメータとして、調理時間、温度、食品の種類など、任意のそのような設定またはパラメータを挙げることができる。インターロックセンサ14が、制御システム15に対して扉41Aが完全に上昇した旨を知らせたとき、制御システム15は、ピザを調理室30へと届けるべくモータ10を作動させてコンベアベルトの前方への駆動を開始させる。モータ10が動作しているとき、コンベアベルト22がピザを調理室30へと運び、カメラ60が継続的に写真を撮影し、それらの写真がピザの位置を割り出すために分析される。ひとたび賢いカメラ60において学習済みのアルゴリズムが、ピザ35が調理のための正しい位置にあると判断すると、ピザが正しい位置にある旨を知らせる信号が、カメラ60から制御システム15へと送信される。制御システム15は、モータ10をオフにしてピザを調理のための正しい位置に停止させる自身のプログラムの次の段階を実行する。この時点で、制御システム15は、扉を閉じる線形アクチュエータ12を作動させることによって、扉41Aの閉鎖の手順を開始させる。センサ16Aおよび16Bが制御システム15とハンドシェイクし、扉41Aが完全に閉じた旨をフェイルセーフなやり方で知らせたとき、線形アクチュエータ12への信号が止められ、扉が閉鎖位置に固定される。調理サイクルの最中のいずれかの時点で何かが扉41Aを持ち上げ始める場合、センサ16Aおよび16Bが扉の位置を継続的に監視し、そのような状態が取り除かれるまですべての照射を速やかに停止させるように求める信号を制御システム15へと送信する。このようにして、扉を備えるシステムが、システム内への照射の安全な封じ込めを提供する。
【0236】
扉が閉じられ、カメラのアルゴリズムがピザが正しい調理位置にあるという条件を満たした状態で、制御システム15は、食品アイテム(例えば、ピザ)の種々の態様(ピザの位置およびピザに乗せられた食品成分の位置など)を示すようにカメラ60に要求する。さらには、ピザに乗せられた食品成分の種類ならびにピザに乗せられた食品アイテムのマスの形状中心および向きを特定するようにカメラに要求する。さらに、各々の食品成分ならびにクラスト、チーズ、およびソースの色を特定するようにカメラに要求する。カメラ60は、上記特定された食品成分の各々の温度を割り出すことができるように、赤外線カメラであってもよい。上記アイテムについてのカメラ60からの情報が制御システム15によって受信された後で、制御システム15は、ピザの調理に推奨される照射パターンのプログラムを計算する。調理照射プログラムを計算するために、制御システム15は、ピザおよびピザのトッピングを調理すべく狭帯域照射の技術を使用する最良のやり方に関して、実験および研究によって決定された情報をメモリから入手する。あるいは、この入力の一部を、ユーザ/作業者が(制御システム15に組み合わせられたインターフェイスなどの適切なインターフェイスによって)入力してもよい。また、調理すべき特定のトッピングへのレーザの取り付け位置からの角度ゆえに必要となる可能性がある補正を示す基準情報にアクセスすることができる。これらの補正係数も、調理アルゴリズムの最適化を助けるために研究および実験から作成されている。ピザの下面は基本の生地の他には食品アイテムまたはトッピングを有していないため、下面については、作業者によって初期値に設定済みの参照情報および厚さ情報の両者から標準的な調理プログラムが決定される。カメラ60が、早い段階において制御システム15へとピザの直径を知らせているため、データがすでに存在しており、利用可能である。随意による特徴は、さまざまな種類の厚さ測定センサであってよい。例えば、三角測量センサ17または種々の厚さを割り出すために使用することができる他の種類のセンサであってよい。さらに、カメラ60を、構造化された光または特別なアルゴリズムが使用される場合に、種々の厚さおよび他の寸法データを割り出すために利用することができる。また、ピザがコンベアベルト22でオーブンの部屋30へと運ばれるときに、カメラ60によって一連の写真を撮り、ピザのクラストおよびトッピングの三次元の態様を三角測量して割り出すために、適切な視角検査アルゴリズムと組み合わせて使用することができる。センサ18および19からの水分およびにおいなどの他のデータを、制御システム15へと送信し、推奨される調理の全体アルゴリズムの決定に使用することができる。
【0237】
この用途のために制御システム15によって作成される調理アルゴリズム(また図12および13の実施の態様を含む他の調理アルゴリズム)は、理想的には、きわめて包括的であってよい。各々のトッピングへと注入すべきエネルギーのジュール数などの項目を含むことができる。角度、照射の強度、時間、時間並び、各々の目的のために使用すべき1つ以上の波長、平衡時間(熱の浸透)、およびすべての関連の詳細が、プログラムに含まれる。要約すると、制御システム15は、マトリクスの全体の順次的な照射パターンを、マトリクスの各位置の推奨される調理の要件を考慮に入れて設計している。最終的に、調理の手順が、ピザおよびトッピングの全体を包含し、したがって調理する。
【0238】
本発明のシステム(図12、13、および14のシステムなど)を制御するための任意のそのようなルーチン、方法、および技法を、さまざまなソフトウェアルーチンおよびハードウェア構成を使用して実現できることを、理解すべきである。例えば、適切なメモリ装置または場所に保存し、適切なプロセッサによって実行することが可能である。
【0239】
今や制御システム15が、上述のように作成されたマトリクス全体の調理アルゴリズムの実行を開始する。制御システム15が、ガルバノメータ71に対し、マトリクスの照射パターンの第1組の偏向角度へと移動するように指示する。ガルバノメータによって設定されるそのような偏向角度は、狭帯域の照射を対象上の特定の位置へと反射させるための正しい角度である。ひとたびガルバノメータ71が所定の位置に達した旨を制御システム15へと返信すると、制御システム15は、所定のプログラム時間にわたって選択されたプログラム強度で波長Aの何らかの狭帯域の照射をパルス状に発するように、レーザダイオード狭帯域照射ユニット72を作動させる。照射が続いているときに、制御システム15は、次の偏向角度およびそのような位置へと移動すべき時刻をガルバノメータ71に送信する。プログラムが効率的に設計されているならば、照射を次のプログラム位置を素早く照準して続けることが出来るよう、次の位置までの移動が最小である。制御システム15は、あらかじめ設計された調理プログラムの全体を続けるときに、適切な調理がプログラムが完了したときの複合の結果であるように、正しい時点で、正しい強度で、マトリクス内の各々の正確な地点に、正確な狭帯域の照射を向けることができる。それは、成分(ソース、チーズ、およびトッピング)を有するピザを、各々の部位における各々の成分のための所望の調理結果のために、正しい照射およびタイミングで「塗装」するかのようである。ピザのいくつかの領域を、期待される調理結果を得るために、繰り返し所望のとおりに「塗装」することができ、あるいはより長い継続時間またはより短い継続時間で所望のとおりに「塗装」することができる。
【0240】
制御部15がピザの上面についてプログラムを実行すべく正しい信号の送信および受信を続けているとき、ピザの下面は、照射システムモジュール70Bによって同様に照射されている。ピザの下面のためのプログラムは、トッピングまたは種々のさまざまな食品アイテムを有しておらず、主としてピザ生地だけの調理であるという事実にもとづいて、調理の要件に合わせて特別に作成される。先験的な調理の知識のデータベースから、ピザの下面および上面の両方において照射される各々の食品アイテムに正しい時点で適切な調理の深さを与える波長が選択される。ピザの下面の生地を調理するために、950nmまたは1275nmの波長を、技術者の設計の好みに応じて選択することができる。これらの波長のどちらも、ピザ生地への深い浸透をもたらすと考えられ、生地の表面を焦がしたり、焼いたりする傾向を持たないと考えられる。生地が深いところまで適切に調理されたとき、表面を焦がすためにおそらくは1450nmのより長い波長を追加することができ、あるいはそのような波長に切り換えることができる。この波長においては、浸透の深さが小さいと予想され、したがってより多くのエネルギーが表面付近において素早く吸収され、より良好な外観および風味のためにクラストを焦がすと考えられる。調理の対象ならびに食品成分の各々の特徴的な吸収スペクトルに応じて、必要に応じて調理の全体をより良好に最適化できる他の狭帯域の波長を選択することが可能である。予算の要件を最も最適な調理に対比して考慮し、いくつの異なる波長を特定のオーブンの設計に取り入れるかを決定するために、商売および工学の複合の決定を行わなければならない。当然ながら、多数の異なる狭帯域の半導体ベースのスキャナモジュール70Aを備えることが可能であるが、費用対性能の妥協を相応に行わなければならないと考えられる。また、この狭帯域のオーブンの考え方について、より精巧な変種およびより単純な変種の両方を有することが妥当であり、そのようなことは、商売上の判断によって必要になると考えられる。例えば、より単純な変種においては、ピザ35が単純に手作業によって調理室30に配置され、調理が完了したときに手作業で取り出されると考えられる。上述の考え方のさらに別の変種は、ピザ35の下方のアレイまたはバー75に含まれる狭帯域の半導体ベースの照射素子のバーを使用することができる。これは、狭帯域のスキャナモジュール70Bの代替として使用されると考えられる。バー状の構成が使用される場合、ピザ35またはバー75を回転させ、あるいはバー75の直線駆動を使用することが、望ましいと考えられる。このようにして生成される段階的な運動が、照射素子を適切なタイミングでオンにすることができるよう、制御システム15へと継続的に通信される。
【0241】
調理プログラムが制御システム15と狭帯域の照射モジュール70Aおよび70Bとの間の相互作用によって実行されているとき、カメラ60は、調理の進行の様子を確認すべく写真を撮影するように制御システム15によって定期的に要求される。したがって、カメラが、調理の前からの抽出画像データを調理の最中に取得される画像と比較し、多数の異なる細部を検証することができる。例えば、ピザのクラストおよび生地が正しく焦げているかを確認することができる。あるいは、ブロッコリがより濃い緑色に変化したことを確認することができる。カメラ60が赤外線カメラの機能も有する場合、各々のトッピングならびにクラスト、チーズ、およびソースの温度を確認することができる。次いで、それらの温度を制御システム15へと送信し、適切な調理において予想されるそれぞれの温度と比較することができる。制御システム15の論理プログラムが、いずれかの温度が適切な調理を示すには正しくないと判断した場合、正しい調理を得るために必要な場所に特定的に追加の照射を加えるプログラムのサブルーチンを開始することができる。この閉ループ(この場合には、カメラ60と制御システム15との間で実行される)の考え方は、本発明の多数の形態への進んだ応用の重要な態様である。
【0242】
ひとたび狭帯域の半導体源による調理が完了すると、制御システム15は、照射プログラムを停止させる。制御システム15は、出口扉41Bを上昇させるように線形アクチュエータ12に信号を送信する。センサ14Cが扉が完全に開いた位置にある旨を制御部15に知らせるとき、制御部15は、その位置に停止するようにアクチュエータ12に信号を送信する。この時点で、制御部15は、指定の時間期間にわたってプログラムされた速度で動作するように、モータモジュール10に信号を送信する。この行為により、コンベアベルト22の前進が始まり、ピザ35が調理室30から取り上げステーション24へと動かされる。コンベアベルト22が動いているとき、カメラ60が写真を撮影し、取り上げステーション24を最終的な目的地とする調理室30からのピザ35の適切な前進を確認する。調理済みのピザが調理室30から運び出されているときに、準備位置23に別のピザが存在する場合、同時にこのピザも調理室30へと運ばれる。次いで、上述のとおりの全体サイクルを、ピザ調理の製造の要件に合致するように所望のとおりに延々と繰り返すことができる。
【0243】
当然ながら、これらの狭帯域の案内可能な半導体ベースの考え方を、多数の創造的なやり方で、最も効率的かつ効果的な調理、あぶり、焼き、または加熱のシステムを最終的に有するように組み合わせることが可能である。これらの考え方の教示を承けて、当業者であれば、適切な実験データを集めた後で、これらの考え方をより単純な実施の態様またはより高度な実施の態様へと拡張できるであろう。
【0244】
図12、13、または14(a)〜(c)のシステムなど、本明細書において意図される1つ以上のシステムが、追加の特徴を備えてもよいことを理解すべきである。例えば、制御システム15などの制御システムが、制御システム内の電子機器を冷却するための冷却システムを備えることができる。さらに、やはり制御システムの一部であってよい通知システムを、システムまたは調理プロセスの状態に関する警報または通知をもたらすために設けることができる。さらには、調理室に、例えば湿気、煙、蒸気、などを室内から追い払うために、室内と他の場所(室の外部またはシステムの外部の場所など)との間の空気の交換を可能にする通気システムを備えることができる。通気システムは、ファン、触媒、または他の適切な手段を使用する形態など、さまざまな形態をとることができる。また、調理室に、適切な回転肉焼きシステムまたは器具を備えてもよい。
【0245】
図12、13、および14(a)〜(c)において説明したシステムなど、本出願によって意図されるシステムは、調理の分野において公知のシステムに対して、多数の利点を有する。そのような利点の1つは、エネルギー効率である。この点に関し、伝統的な広帯域の加熱素子または抵抗加熱素子は、実際のところきわめて効率的な熱源であるが、熱の効率的な使用において困難が生じる。ダイオードおよびレーザダイオードの効率が急速に向上しているが、抵抗加熱素子は、実際の熱の生成においてはるかに効率的である。非効率は、抵抗加熱素子によって生成される熱の多くが無駄にされ、熱の大部分が空気の加熱へと向かい、空気と対象との結合が非効率的であるため、エネルギーの大部分が非効率に取り扱われるがゆえに、式に入ってくる。上述したさまざまな種類の半導体ベースの放射線放射素子の各々が、上述のように特有の変換効率を有している。正味のシステム効率の大部分は、最も効率的であることができるように、エネルギーを必要とされているまさにその場所に配置することができ、対象に正確に一致した狭帯域の波長範囲を生成することができる能力からもたらされる。加熱/材料システムの全体を全体的にとらえた場合、デジタル狭帯域波長一致および空間制御の利点が、熱エネルギーをはるかに効率的なやり方で加熱されるべき材料へと供給するシステムをもたらす。また、伝統的な広帯域のヒータにおいては、最適でない波長および誤った方向に向かうエネルギーの割合が大きいだけでなく、直接的な放射エネルギーの多くが、多くの場合に遮蔽され、食品材料に直接触れることが出来ない。これは、通常は、より長い放射の赤外波長が、通常は食品または対象の皮膚または表面の加熱につながり、表面を焦がし、あるいは過度に調理することで生じる。これは、熱エネルギーの無駄のもう1つの原因であり、本明細書の教示のように狭帯域の技術が適切に適用されるのであれば生じない。
【0246】
狭帯域の半導体照射源、ダイオードの基本的な性質ゆえ、効率の向上は生得的である。放射熱エネルギーのうちのきわめて大きな量を、望まれる場所に位置させることが出来、従来からの広帯域の抵抗ヒータよりも短い時間枠で注入することができる。これは、当然ながら、高速なデジタル調理をもたらす。ダイオードまたはレーザダイオードは「瞬時オン」タイプの素子であるため、暖機時間が不要であり、予熱または待機のオーブンに伝統的に関係したエネルギーの無駄がない。ダイオードは、基本的に、2状態の素子であり、すなわちデジタル素子である。換言すると、順電圧が供給されたときにオンになり、あるいはオンにならない。順電圧のきわめてわずかな相違(通常は、200mV未満)で、突然かつ急激に電流の流れがオンになる。設計者は、LED、RED、またはレーザダイオード素子を、部分的なオンの状態で使用することを試みないであろう。これは、抵抗コイル、Calrod、または石英ランプなどの伝統的な広帯域の熱源ときわめて対照的である。広帯域の熱源が、電圧と電流との間にきわめて線形なアナログの関係を有する一方で、半導体ベースの発光ダイオードおよびレーザダイオードは、電圧と電流との間にきわめて非線形なデジタルの関係を有する。これが図15に示されている。電流駆動レベルが、ダイオードベースの素子においては、外部の回路によって注意深く制御されなければならない。なぜならば、デジタル的なターンオン電圧に達するや否や、回路において入手可能なあらゆる電流を通してしまい、すぐに素子の破壊につながるからである。これらのデジタル狭帯域照射素子の他の特徴は、きわめて高い速度にある。オンになり、完全な照射強度に達し、次いで再びオフになることが、数ナノ秒で可能である。石英ランプは、抵抗加熱源のうちで最速である。従来からのアナログ石英ランプは、比較すると、同じ芸当を実行するために少なくとも数秒を要する。したがって、狭帯域のデジタル半導体ベースの照射源は、最速のアナログ広帯域源と比べて10億倍よりもさらに速い。
【0247】
デジタル狭帯域照射素子の猛烈な速度、その固有の指向性、および正確な波長選択性の組み合わせが、これらの新規な考え方によってオーブンおよび調理設備を設計する者に、多くの大きな利点をもたらす。1つの重要な結果は、従来からの広帯域の抵抗加熱または石英オーブンよりも高速な調理、硬化、焼き、焦がし、などである。例えば、パン焼き器が、瞬時にパン焼きを開始できるだけでなく、実際のパン焼きの速度も、はるかに高速にすることができる。なぜならば、浸透を綿密に制御することができ、したがってエネルギーを調理結果に悪影響を及ぼすことなくより高い速度で注入できるからである。実際、従来からの広帯域のパン焼き器において生じることが多い乾燥という伝統的な問題を生じさせずに、パンの表面を焦がすとともに、パンの内部を温めることができる。素子の照準可能性ゆえに、ほぼすべてのエネルギーをパンへと直接的に注入し、最も望まれる場所(内部の深い所や表面)に位置させることが、容易になる。これは、エネルギーに関してより効率的であるだけでなく、伝統的なアナログ広帯域素子に比べてパン焼き器のハウジングをはるかに低温に保ち、結果として台所環境の加熱が少ない。
【0248】
デジタル調理のための本発明のシステムの他の利点は、周囲の加熱が少ないことである。従来からの広帯域の抵抗ヒータによって生成される熱のうち、加熱すべき材料によって吸収される分はわずかである。例えば、ピザオーブンが予熱され、ピザの調理を開始できるようになる場合、ピザが実際に調理のために通されるまでは、エネルギーがすべて無駄にされる。したがって、この待機のエネルギーは、単純に環境へと失われ、HVACシステムなどの外部環境の制御部が、対処のためにさらに多くのエネルギーを費やすことを強いられる。単一の最適な吸収波長または複数の最適波長がダイオードベースのオーブンの設計の一部として選択されるため、放射体によって生成される放射熱エネルギーが、ほぼすべて対象の材料に吸収され、したがって外部の環境に負の影響を及ぼすことがない。ダイオード素子の回路基板のために水ジャケット冷却機構を使用することによって、放射エネルギーへと変化することがない熱を、他の場所の最良の選択肢へと移動させることができる。
【0249】
本発明のシステムのまたさらなる利点として、より効率的な加熱は、器具によって使用される電気負荷の軽減を意味する。さらに、「パン焼き速度」の向上の代わりに、きわめて小さなダイオードアレイを備える低出力の代案を、従来からのパン焼き器と同じ時間軸で、しかしながらわずかな電気負荷しか必要としないという追加の利点を伴って、パンを焼くために使用することができる。
【0250】
同様に、従来からのオーブン技術に比べて(上述した項目ゆえに)エネルギーの消費が少ないということは、パン焼きまたは調理サイクル当たりの動作エネルギーコストが低いことを意味する。使用されるエネルギーが、光子へと効率的に変換され、対象へと直接注入される。これらの素子から発せられるエネルギーは、本質的に指向性または方向の案内が可能であるため、放射光子のうちのきわめて高い割合が実際に対象アイテムに衝突する。より高いエネルギー密度を表面を焦がす恐れなく調理を実行するために直接注入できるため、調理を大幅に短縮された時間枠で実行することができる。すなわち、例えば各々のピザを調理するためのエネルギーコストおよび二酸化炭素排出量を大幅に下げることができる。このデジタルベースの技術は「瞬時オン」および「瞬時オフ」であるため、実際の調理が実行されているときしか電力を使用しない。環境へのさまざまな種類の影響が小さくなり、全体としてピザ店の店主または家庭にさらなる利益をもたらす。
【0251】
現在のレーザダイオード、LED、および他の半導体素子の長寿命によって実証されるとおり、より新しい技術を使用して動作寿命を大幅に延ばすことができる。しかしながら、従来からのオーブンおよびパン焼き器は、動作に関係した加熱および冷却の反復サイクルに関係する機械的な摩耗を免れない。丈夫ではあるが、フィラメントベースの電球とちょうど同じように、加熱または加熱素子が最終的に焼損または破損する。
【0252】
効率およびコストの利点の他に、本発明のシステムは、安全の特徴を含む。第1に、感電の危険が少なくなる。抵抗ヒータは、露出した抵抗線に電流を通すことによって動作する。オーブンまたはパン焼き器のハウジング内に安全に収容されているが、水(例えば、流しの水)または導電性の物体(フォークなど)との接触が、危険な状態につながる可能性がある。抵抗または石英加熱素子は、通常は、固有の危険を伴うかなりのAC電圧によって駆動される。狭帯域のダイオードベースの器具は、熱を生成する素子がユーザにとって直接露出しておらず、アクセス可能でなく、あるいは導電性でないため、これらの危険を減らすことができる。また、ダイオードまたはレーザダイオード素子は、通常は、はるかに安全な低電圧のDC電源によって駆動される。本発明にしたがって構築される適切な設計の製品を、ユーザをあらゆる電気接触の露出から隔離するようにより容易に設計することができる。
【0253】
火災の危険も少なくなる。従来からのパン焼き器からもたらされる環境の加熱の機構は、パン焼きスロットから出る空気の対流であり得るが、これが多くの場合にパン焼き器の本体を通る対流と組み合わさる。高温のパン焼き器は、きわめて本質的な火災の危険である。ダイオード素子そのものは、典型的には、自身の損傷を伴わずに100℃を超える温度に達することがあり得ず、出力が純粋に放射であって、対流ではない。周囲の空気ではなくて対象を直接加熱する放射熱を発することによって機能し、したがって何かが燃焼温度に達する理由がない。したがって、火災の危険が大幅に減らされてなる製品がもたらされる。
【0254】
本発明のシステムを使用する調理技法も改善される。例えば、調理油は、他の多くの食品と比べて、類似した特徴の吸収曲線を有するが、明確な相違を有している。調理油は、独特のピーク吸収を有しており、これを「フォールイン(fall in)」浸漬揚げ物と同様の風味を付与するために利用することができる。ピーク吸収の波長で照射を行うことによって、下方の製品に適度な表面の焦げをもたらしながら、調理油をきわめて高温にすることができる。この独特な特徴を利用することによって、浸漬揚げ物プロセスを代替する調理システムを設計することができる。しかしながら、本発明は、大量の高温の調理油が存在しないため、はるかに高速、かつより少ないエネルギー、より低いコスト、およびより高い安全性で調理を行う能力を有すると考えられる。また、適切に設計されたシステムが、調理油の吸収がより少ないと予想され、より少量のより健康的な調理油を使用できるため、より健康的な食品を生み出すと考えられる。
【0255】
また、食品アイテムの直接照射は、改善された調理技術ももたらす。すでに述べたように、伝統的または従来からの調理の大部分は、照射素子から食品を直接照射していない。この理由は、すでに述べたとおりである。抵抗加熱素子が、多くのオーブンにおいて空気を加熱するために使用され、この空気が食品を加熱するために使用されるため、プロセスにおいてさらなる非効率および不正確な工程が生じる。石英ランプが直接的な照射のために使用されることがあるが、多くの場合、やはり石英ランプの出力によって生じる高温の空気を調理室に吹かせるためにファンとの組み合わせにおいて使用される。デジタル狭帯域照射の利点の1つは、対象または食品アイテムを直接照射できるように正確な1つ以上の波長を選択できる点にある。上述の「ピザ塗装」の例で詳しく述べたように、この本発明の機能の組み合わせから生じることができる多数の利点が存在する。直接照射を容易にするために、場合によっては、ガラス製の調理器具または使用される波長においてきわめて透過性である他の調理器具の使用が推奨される。波長透過性の調理器具が使用される場合、食品または対象アイテムを潜在的にあらゆる方向および側から直接照射できることを、容易に理解することができる。もちろん、本発明を、直接照射によって加熱される半透過性の調理器具または不透明な調理器具においても実施することができる。これは、調理器具からのはるかに高い割合の熱伝導で食品を調理するため、最適でない場合がある別のインターフェイスを生じさせる。このやり方で行われる場合、正しい波長による食品または対象への深い浸透の利点の一部が、あまり顕著でなくなる可能性がある。
【0256】
さらに、本発明のシステムは、ユーザが食品アイテムへと風味を調理することを可能にする。調理システムに食品に煙でいぶした風味を生成または付与する何らかのやり方を備えることが、消費者においてきわめて好評である。多くの電気ベースの調理システムは、そのような風味を食品に与える能力を有していない。これが、燃焼式の調理システムがきわめて好評である1つの理由である。本発明のもう1つの利点が、煙でいぶしたような風味または他の種類の風味を付与するように構成できる点にある。ブリケット、木片、あるいは特別な媒体または部材を調理室へと食品の近傍に挿入し、煙または他のにおいのもとを生じさせるべく必要に応じて選択的に照射することができる。挿入物の吸収特性に一致するために特に適した狭帯域の波長を、相応に加熱されたときに正しい種類の煙または風味を生じることが知られている挿入物を照射するように案内することができる。また、活性化波長で照射されたときに所望の風味を生じる波長作動の食品添加物を使用することも可能である。本発明は、デジタル狭帯域素子が正確に照準可能であり、選択的な狭い波長を有することができ、適切に設計された場合に風味発生源をオン/オフするために効果的に使用可能であるため、この技法によく適している。
【0257】
本発明のシステムのまたさらなる利点は、他の調理装置を有する環境へと好都合に統合できる点にある。レシピの各部分または成分あるいは食事の各部分を、各アイテムが適切な時間に完成するように器具が「それぞれに話しかける(talk to each)」ことが出来るようなやり方で、高い精度で準備することができる。装置を瞬時にオン/オフできることで、調理または処理の速度についてはるかに包括的な制御が可能になり、他の食品の準備または保存の器具との上述の同期に役立つ。
【0258】
以上の説明から明らかであるとおり、本発明は、対象の温度を何らかのやり方で操作する目的で、狭帯域の放射の最適な波長を対象へと注入する新規かつ効率的なやり方に関する。注入される放射は、潜在的には、所与の用途のための任意の狭帯域の波長であってよいが、多くの場合、種々の対象製品についてより興味深い吸収の特徴が存在する傾向にある近赤外の波長帯にある。例えば、赤外線の注入の「対象」は、商業または工業の業務における大量の対象から家庭またはレストランの調理プロセスにおける一般的な個々の食品アイテムまでの範囲にわたる、幅広くさまざまなアイテムからの対象であってよい。
【0259】
一般に、理想的な狭帯域赤外加熱システムは、加熱または調理結果の最小限のエネルギー消費との正しい組み合わせにおいて、対象の温度を最適に上昇させる。そのようなシステムは、照射を構成するエネルギーが対象によって部分的、所望のとおり、または完全に吸収されて熱へと変換されるよう、電力の入力を対象へと照準された選択された単一または狭帯域の波長を有する放射電磁エネルギーの出力へと直接変換することができる素子を備えることができる。より効率的に電気入力が放射電磁出力へと変換されるほど、システムがより効率的に動作することができる。より効率的に放射電磁波が対象の所望の領域だけを露光するように照準されるほど、システムがより効率的に自身の仕事を達成できる。使用のために選択される放射線放射素子は、対象が照射されていないときに入力も出力エネルギーも浪費されないよう、瞬時「オン」および瞬時「オフ」の特徴を有するべきである。露光された対象がより効率的に放射電磁エネルギーを吸収して熱へと直接変換するほど、システムはより効率的に機能することができる。最適なシステムのために、システムの設計において、個々の用途に使用されるシステムの出力波長の組を、その狭い波長帯における対象の吸収の特徴に一致するように適切に選択することに注意を払わなければならない。これらの波長の選択は、おそらくは、本発明の対象用途が異なれば、異なる対象アイテムの特有の吸収の特徴および異なる所望の結果に最も適するように、異なる選択となるであろう。
【0260】
対照的に、本発明の応用の利点をさらに説明するために、幅広くさまざまな加工および処理のために、さまざまな異なる種類の広帯域の放射加熱または調理システムを使用することが、当技術分野および業界において周知である。すでに述べたように、そのような目的のためにこれまで利用可能であった技術は、比較的広帯域のスペクトルの放射電磁エネルギーを生成する。ほぼすべての場合に、オーブンに使用されるさまざまな種類の加熱素子は、少なくとも数千ナノメートル以上の帯域幅の放射エネルギーを生成する。多くの場合、たとえ生成される照射がもっぱら赤外の放射エネルギーとして出発しても、それが空気を加熱し、結果として対象に達するときまでに対流加熱となる。多くの場合、直接の放射エネルギーが対象に衝突することは、意図的に許されていない。なぜならば、広帯域の放射源の波長帯の多くが加熱または調理対象のアイテムに悪影響を及ぼすからである。多数のさまざまな広帯域の技術が、しばしば赤外加熱、赤外処理、赤外調理、または赤外加工システムと称される一方で、実際には赤外スペクトルのかなり外の放射エネルギーおよび対流熱もほぼ常に生成する。例えば、一般的な家庭用オーブンは、きわめて長い波長の広帯域の赤外エネルギーを大量に生成する抵抗「Calrod」加熱素子を使用する。また、中赤外および近赤外ならびに可視スペクトルの上端においてもエネルギーを生成する。これは、高い出力レベルにあるときに濃い鮮紅色に発光するという事実から明らかである。長い波長のエネルギーは食品の表面を焦がしてしまう可能性が高いため、典型的には、放射エネルギーが食品に直接衝突することがないようにする遮蔽が設けられる。結果として、遮蔽が直接の赤外エネルギーの多くを遮り、そのエネルギーが封じ込めの領域に跳ね返されるため、加熱素子の周囲の空気が過熱されるとともに、オーブンの壁および他の部品が大いに加熱され、結果としてオーブンの空洞が加熱され、対流または高温空気による調理となる。いわゆる「対流オーブン」は、高温空気の速度を高めることによって食品または対象との熱交換の速度を高めるブロアを単に有している。実際のところ、本来は高温空気で加熱を行うすべてのオーブンが対流オーブンであるが、この市場向けの用語は、数年前に高温空気の速度を高めるためのファンが新規かつ追加の特徴であったときに付与された。
【0261】
スペクトルの赤外部分は、一般的に、3つの波長分類へと分割される。それらは、通常は、近赤外、中赤外、および長赤外の波長帯として分類される。これらの用語は、実務においてきわめて大まかに、種々の業界ごとにわずかに異なって使用されているように見受けられ、これらの大まかな領域の正確な切り分け点は、明確には確立されていない。しかしながら、近赤外領域が可視光と1.5マイクロメートルとの間の範囲にわたることは、一般的に受け入れられている。波長は、本明細書および他の場所においてナノメートルという言葉で指定されることが多いため、1000nm(ナノメートル)が1μm(マイクロメートル)に等しいことを認識すべきである。中赤外の領域は、1.5〜5マイクロメートルの範囲にわたる。長赤外の領域は、一般に5〜14マイクロメートルの間およびそれよりも上に位置すると考えられる。
【0262】
何度も上述したように、工業、商業、調理、熱処理、またはプロセス設備において使用されている放射赤外源は、これまでは、赤外スペクトルの1つの部分に限定されることがほとんどないきわめて広帯域の波長を生成している。それら広帯域の出力は、赤外スペクトルの特定の範囲にピークを有する場合があるが、典型的には隣接の領域へとかなり延びる出力のすそを有している。設備または器具の製造者は、赤外という用語が、それが指す実際の波長帯に関して無意味であるほどに大まかに使用されるようになっているにもかかわらず、依然として自身の製品を「赤外」での加熱と一般的に称することに遠慮がない。赤外は、彼らの加熱または調理製品について、多くを正確に定義していない。例えば、当技術分野において周知であり、さまざまな調理、硬化、乾燥、およびプロセス加熱の作業に使用されている石英赤外加熱ランプは、多くの場合に、900〜1100ナノメートルの範囲にピーク出力を生じる。これらのランプは、出力のピークを900〜100ナノメートルの間に有する場合があるが、紫外(UV)から可視を経て中赤外の約3.5マイクロメートルに至る連続する一連の幅広い波長帯にきわめて大きな出力を有する。この分野における典型的な従来技術の例として、図16が、Heraeusと呼ばれる米国の大手の製造者が製造したいくつかの異なる種類の石英赤外加熱素子の出力のグラフを示している。明らかに、種々の設計の石英ランプのピーク出力が近赤外または中赤外の範囲にあるが、可視範囲および中赤外範囲の両方にかなりの出力を有する広帯域の放射源であることが明らかである。例えば、摂氏2200度の黒体を模擬する石英管は、その放射エネルギー強度の40%超を可視光範囲に有しており、その範囲の長波長側の端部において3000ナノメートルを超えて延びている。したがって、既存の広スペクトルの赤外源では、所与の加熱、硬化、調理、または処理の用途にとって最も望ましいと考えられる好ましい1つ以上の波長に関して、選択的であることができない。それは、本質的に広スペクトルの処理またはプロセスであり、安価であり、現実的な代案がこれまでは存在しておらず、本発明の教示以前には波長特定的な調理の実際の様態があまり知られていなかったがゆえに、幅広く使用されてきた。
【0263】
これらのアナログ広帯域源の調理における歴史的な使用と対照的に、本明細書で意図されるとおりの改善された加熱のやり方は、特定的かつはるかに狭い波長帯に位置する。このやり方は、対象の材料または食品が何であるかに依存するが、多くの対象において、最も効率的な調理または温度上昇のやり方は、1つ以上の狭い波長帯における熱IRエネルギーの吸収に起因することが多い。例えば、典型的な広帯域の赤外線源において、赤外線源が3000nmを超える帯域幅にわたって赤外エネルギーを発しているにもかかわらず、実際の熱吸収の大部分が、対象の吸収スペクトルに依存して決まる狭い波長帯において生じていることが、多くの場合に事実である。重要かつ有用な吸収または透過は、100nmよりも狭い可能性がある。したがって、広帯域のIRエネルギー出力の大部分が、本当に望まれる加熱または調理結果の達成において有用でない。
【0264】
抵抗加熱素子は、最も古く、依然として多くのオーブンおよび乾燥システムにおいて最も一般的な種類の電気熱源である。それらは、業界における初期の商品名ゆえに「Calrod」と呼ばれることが多いが、まさに抵抗加熱素子である。これらの加熱素子に電流を通すことによって、これらの加熱素子は、その温度の関数として変化する出力を有する黒体熱源に匹敵する。これらの加熱素子は、典型的には石英ランプよりも低い温度で動作するため、きわめて長い赤外の波長を放射する。これらの加熱素子の出力曲線は、プランクの法則に従う。これらの加熱素子は、オーブンにおいて、素子の近くの対象を3つの異なるやり方で実際に加熱する。これらの素子は、自身の周囲の大気を伝導によって過熱し、程度は低いがオーブンの構造、取り付け、および内表面を伝導によって過熱する。次いで、高温の空気が、対象を対流によって加熱する。さらに、長波の赤外エネルギーが、対象およびそれを収容している構造へと放射熱を与える。この加熱方法は、いくつかの異なる加熱の様態を含むが、非常に効率的ではないが、効率的に働くことが長年にわたって証明されてきた。単純な例として、平均的な家庭において調理プロセスの最中にオーブンの扉が開かれた場合、加熱された大量の空気が逃げ出し、家庭の通常の周囲温度の空気と置き換えられ、これを抵抗加熱素子から再び加熱しなければならない。調理の効率が、オーブンの付近の環境のかなりの加熱が生じているにせよ、オーブンの扉が開かれるときに失われる。実際に、オーブンの扉が開いたままにされると、システムが究極的にはオーブンについて設定されたサーモスタット温度まで家屋を加熱しようとし、きわめて無駄である。しかしながら、これは、扉を有していないことが多いコンベアオーブンを備えるピザ店ならびに多くの商業または産業の調理の状況において生じる筋書きである。
【0265】
本発明は、従来からのオーブンと全く対照的に、少なくとも1つの形態において、照射素子が所望のときにだけ作動してエネルギーを生成するように設計されている。「瞬時オン」/「瞬時オフ」型の素子であるため、食品または対象が加熱のために存在するときにだけオンにすればよい。多くの市販のオーブンは、冷却および再加熱の時間がかなり長く、オーブンが乱されることが望ましくない安定温度に達しているため、一日中オンにされている。例えば、ピザ店における大きなコストは、オーブンを長時間にわたって運転し、あるいは連続的に運転する費用である。本発明は、これらの状況に対して大きな利点をもたらすことができると同時に、調理プロセスにより高い精度をもたらすことができる。
【0266】
本発明は、新規な狭帯域技術および分子吸収の科学を利用して効率的に加熱を行うはるかに直接的なやり方である。対象の狭帯域の吸収の特徴に一致する狭帯域の加熱素子を選択することによって、放射エネルギーを、効率的かつ直接的に対象へと注入することができる。浸透の深さは、狭帯域放射加熱素子の出力に選択された波長における対象の吸収係数の関数である。
【0267】
エネルギー消費コストが、仕上がった物品または加熱処理された物品のコストのますます大きな部分を構成するようになってきている。例えば、ピザ店にとっての大きな費用は、ピザオーブンを運転するためのエネルギーコストである。本発明は、電気エネルギーを調理、乾燥、または硬化の対象品へとプロセスに必要な熱を生じさせるべく直接的に注入できる放射エネルギーへと変換するきわめて効率的なやり方である。
【0268】
この点に関し、固体電子工学の分野において、半導体放射体またはLEDあるいはレーザダイオードは周知である。この形式の光子または光子束放射体は、市場で入手することができ、紫外(UV)から可視を経て十分に赤外の範囲までの種々の波長で動作することが知られている。基本的な光電変換および化学的性質は、光出力の実際の生成に関して、LEDおよびレーザダイオードについてきわめて類似しており、レーザダイオードは、光子が実際に放射される前にポンピング増幅工程を追加し、したがってより高い光出力レベルを達成することができる。上述のように、どちらも本発明の実施に適した狭帯域素子であるため、説明される電子−光子の変換プロセスは、LEDおよびレーザダイオードの両方に関する。
【0269】
LEDおよびレーザダイオードは、適切にNおよびPドープされた半導体材料で作られる。Pドープ領域を同じ材料のNドープ領域に直接接触させて含むように適切に処理された多数の半導体材料に、ダイオードという一般名が与えられる。ダイオードは、その技術分野において周知のとおり、多数の重要な電気的および光電的特性を有している。例えば、形成された半導体ダイオードのNドープ領域とPドープ領域との間の物理的な境界において、材料に特徴的なバンドギャップが存在することが当技術分野において周知である。このバンドギャップは、N領域の伝導帯に位置する電子のエネルギーレベルについて、より低い利用可能なP領域の軌道の電子のエネルギーレベルに対する差に関係する。電子がPN接合を横切って流れるように誘導されるとき、N領域の伝導軌道からより低いP領域の軌道への電子のエネルギーレベルの遷移が生じ始め、そのような電子の遷移の各々について光子の放射が生じる。正確なエネルギーレベル、あるいは放射される光子の波長は、導かれた電子のエネルギーの低下に対応する。
【0270】
要約すると、LEDは、直接的な電流−光子の放射体として機能する。フィラメントまたは他の黒体式の放射体と異なり、出力光子を抽出できるようになる前に入力エネルギーを熱という中間的な形態に変換する必要がない。この直接的な電流−光子の挙動ゆえ、LEDは、きわめて高速に働くという特性を有する。LEDは、きわめて高いパルス速度のUV、可視、および/または近IR光の生成を必要とする多数の用途において使用されている。LEDの高いパルス速度という特性がきわめて有用である1つの具体的な用途は、可視または近赤外の光がレンズで合焦された画像の形成に使用され、次いで画像がコンピュータで検査される個々の部品の自動的な視覚検知の用途である。
【0271】
フィラメントベースの放射源と異なり、LEDは、使用されている半導体材料の特有のバンドギャップに対応する比較的限られた波長範囲の放射を生じる。このLEDの特性は、部品の照明、状態表示、または光通信など、波長選択的な動作が必要とされる用途において特に有用である。より最近では、LEDの大集団が、より大規模な形態の可視の照明に使用されており、自動車の尾灯または交通信号灯などの信号光にも使用されている。
【0272】
以上の説明は、本発明の特定の実施形態の開示を提供しているにすぎず、本発明をそれらの実施形態に限定しようとするものではない。したがって、本発明は、上述した用途または実施形態だけに限定されるものではない。本開示は、本発明の多数の用途を幅広く取り上げており、1つの用途の実施形態を具体的に取り上げている。当業者であれば、本発明の技術的範囲に包含される別の用途および具体的な実施形態に想到できると認識される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品を加熱するための処理システムであって、
・照射エネルギーを内部に安全に封じ込めるための構成を有しており、食品アイテムを直接的または間接的な照射の少なくとも一方のために配置することができる調理室と、
・前記調理室を少なくとも部分的に囲むとともに、指向性の照射素子を調理ゾーンの近傍に、該照射素子からの照射を直接的または間接的の少なくとも一方にて前記食品アイテムに衝突させることができるように保持する構造と、
・対象の食品アイテムのうちの少なくとも1つのある波長における少なくとも1つの吸収の特徴に一致するように照射出力の波長が選択された少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射素子と、
・ユーザインターフェイスによる設定、センサの出力、あるいは前記室が使用中かつ前記照射エネルギーを安全に封じ込めているとの判断の少なくとも1つにもとづいて、前記室に照射の出力をもたらすべく前記狭帯域の照射素子をデジタル的に制御するために少なくとも電流を供給する制御システムと
を備える、システム。
【請求項2】
照射出力の波長を通すことなく照射ゾーンの観察を可能にするように配置された観察窓をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
観察時に放射を選択的にオフにするためのシャッタシステムをさらに備える、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
食品アイテムを照射ゾーンへと運ぶための搬送システムをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
照射の前、最中、または後のうちの少なくとも1つにおいて食品アイテムについての少なくとも1つの様相を検出して、検出の結果として行動をとるように動作することができるセンサをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記センサが、位置、食品の種類、および食品アイテムのサイズを検出するカメラを備える、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射素子が、その狭帯域の照射を照射することができる予想の対象の吸収特性に一致するように、各々が選択される2つの異なる狭帯域の照射波長を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
狭帯域加熱に加えて食品アイテムを調理するために選択的に作動させられる広帯域の照射要素をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
食品アイテムの調理、乾燥、または硬化のための方法であって、
・少なくとも1つの対象食品アイテムを照射ゾーンに導入し、放射線放射素子によって直接的または間接的に照射できるように配置するステップと、
・前記照射ゾーンを安全に取り囲むステップと、
・前記照射ゾーンが安全に取り囲まれている期間の間に、少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域照射素子から指向性の放射を放射するステップと、
・前記放射の際に前記少なくとも1つの対象食品アイテムの吸収の特徴に一致する少なくとも1つの狭帯域の波長で前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップと
を含む、方法。
【請求項10】
食品アイテムを処理するための方法であって、
・食品アイテムを調理室へと搬送するステップと、
・前記食品アイテムが前記調理室へと搬送されるときに該食品アイテムの位置を検出するステップと、
・前記食品アイテムが所望の位置にある旨を検出するステップと、
・前記検出にもとづいて前記搬送を停止させるステップと、
・前記調理室を閉鎖し、該室の中身を安全に封じ込めるステップと、
・前記食品アイテムの様相を検出または入力するステップと、
・前記検出または入力にもとづき、さらに調理パラメータにもとづいて、調理パターンを決定するステップと、
・前記食品アイテムの好ましい吸収特性の波長に対応する波長にて、少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域放射線放射素子から、ある時間期間にわたって、前記調理パターンにもとづいて前記食品アイテムを照射するステップと、
・前記照射の完了後に前記調理室を開くステップと、
・前記食品アイテムを前記調理室から運び出すステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップが、該少なくとも1つの食品アイテムを方向性の放射の関数として塗装するステップを含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記放射するステップが、前記少なくとも1つの照射素子をパルス状に動作させるステップを含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、各々の中心における吸収の特徴が実質的に異なるように選択される2つの波長帯を含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムへの深い浸透を達成する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムの表面の加熱を達成する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項1】
食品を加熱するための処理システムであって、
・照射エネルギーを内部に安全に封じ込めるための構成を有しており、食品アイテムを直接的または間接的な照射の少なくとも一方のために配置することができる調理室と、
・前記調理室を少なくとも部分的に囲むとともに、指向性の照射素子を調理ゾーンの近傍に、該照射素子からの照射を直接的または間接的の少なくとも一方にて前記食品アイテムに衝突させることができるように保持する構造と、
・対象の食品アイテムのうちの少なくとも1つのある波長における少なくとも1つの吸収の特徴に一致するように照射出力の波長が選択された少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射素子と、
・ユーザインターフェイスによる設定、センサの出力、あるいは前記室が使用中かつ前記照射エネルギーを安全に封じ込めているとの判断の少なくとも1つにもとづいて、前記室に照射の出力をもたらすべく前記狭帯域の照射素子をデジタル的に制御するために少なくとも電流を供給する制御システムと
を備える、システム。
【請求項2】
照射出力の波長を通すことなく照射ゾーンの観察を可能にするように配置された観察窓をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
観察時に放射を選択的にオフにするためのシャッタシステムをさらに備える、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
食品アイテムを照射ゾーンへと運ぶための搬送システムをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
照射の前、最中、または後のうちの少なくとも1つにおいて食品アイテムについての少なくとも1つの様相を検出して、検出の結果として行動をとるように動作することができるセンサをさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記センサが、位置、食品の種類、および食品アイテムのサイズを検出するカメラを備える、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記少なくとも1つの狭帯域の半導体ベースの放射線放射素子が、その狭帯域の照射を照射することができる予想の対象の吸収特性に一致するように、各々が選択される2つの異なる狭帯域の照射波長を生成する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
狭帯域加熱に加えて食品アイテムを調理するために選択的に作動させられる広帯域の照射要素をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
食品アイテムの調理、乾燥、または硬化のための方法であって、
・少なくとも1つの対象食品アイテムを照射ゾーンに導入し、放射線放射素子によって直接的または間接的に照射できるように配置するステップと、
・前記照射ゾーンを安全に取り囲むステップと、
・前記照射ゾーンが安全に取り囲まれている期間の間に、少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域照射素子から指向性の放射を放射するステップと、
・前記放射の際に前記少なくとも1つの対象食品アイテムの吸収の特徴に一致する少なくとも1つの狭帯域の波長で前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップと
を含む、方法。
【請求項10】
食品アイテムを処理するための方法であって、
・食品アイテムを調理室へと搬送するステップと、
・前記食品アイテムが前記調理室へと搬送されるときに該食品アイテムの位置を検出するステップと、
・前記食品アイテムが所望の位置にある旨を検出するステップと、
・前記検出にもとづいて前記搬送を停止させるステップと、
・前記調理室を閉鎖し、該室の中身を安全に封じ込めるステップと、
・前記食品アイテムの様相を検出または入力するステップと、
・前記検出または入力にもとづき、さらに調理パラメータにもとづいて、調理パターンを決定するステップと、
・前記食品アイテムの好ましい吸収特性の波長に対応する波長にて、少なくとも1つの半導体ベースのデジタル狭帯域放射線放射素子から、ある時間期間にわたって、前記調理パターンにもとづいて前記食品アイテムを照射するステップと、
・前記照射の完了後に前記調理室を開くステップと、
・前記食品アイテムを前記調理室から運び出すステップと
を含む、方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つの食品アイテムを照射するステップが、該少なくとも1つの食品アイテムを方向性の放射の関数として塗装するステップを含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記放射するステップが、前記少なくとも1つの照射素子をパルス状に動作させるステップを含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、各々の中心における吸収の特徴が実質的に異なるように選択される2つの波長帯を含む、請求項9または10に記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムへの深い浸透を達成する、請求項9または10に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの狭帯域の波長が、前記食品アイテムの表面の加熱を達成する、請求項9または10に記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公表番号】特表2012−519826(P2012−519826A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553157(P2011−553157)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/026438
【国際公開番号】WO2010/102261
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(501401283)プレスコ テクノロジー インコーポレーテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】PRESSCO TECHNOLOGY INC.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/026438
【国際公開番号】WO2010/102261
【国際公開日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(501401283)プレスコ テクノロジー インコーポレーテッド (13)
【氏名又は名称原語表記】PRESSCO TECHNOLOGY INC.
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]