説明

デッドレコニング装置

【課題】歩行者に装着されたセンサシステムによって人の歩行動作を計測、解析し、その移動方位と歩幅を装着型計算機システムが推定することにより、その歩行者に対して道案内などのアプリケーションを提供するために利用するデッドレコニング装置を提供する。
【解決手段】歩行動作に基づいて基準位置からの相対移動ベクトルを出力するデッドレコニング装置において、歩行動作を計測、解析して一歩ごとに歩行動作の移動方位と歩幅を推定して出力する手段と、前記出力された移動方位と前記出力された歩幅の信頼性を算定して出力する手段と、前記出力された移動方位と前記出力された歩幅に基づいて基準位置からの相対移動ベクトルを推定して出力する手段と、前記出力された移動方位と前記出力された歩幅、前記出力された移動方位の信頼性、前記出力された歩幅の信頼性に基づいて、前記出力された相対移動ベクトルの信頼性を算定して出力する手段を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歩行者に装着されたセンサシステムによって人の歩行動作を計測、解析して、その移動方位と歩幅を装着型計算機システムが推定することにより、その歩行者に対して道案内などのアプリケーションを提供するために利用するデッドレコニング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
位置情報を取得する手段としてもっともよく使われているのは、非特許文献1で詳しく述べられているGPS(Global Positioning System)による測位技術である。この技術では、4個以上のGPS衛星を捕捉することによって、緯度・経度・高さの3次元位置を計測できる。しかしながら、衛星からの信号が遮断される屋内環境では利用できないうえに、利用できる環境下においても歩幅(1メートル以下)の精度で位置を取得することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−114537号公報
【特許文献2】米国特許第5,583,776号明細書
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「GPS−理論と応用」B・ホフマン−ウェレンホフ、H・リヒテネガー、J・コリンズ、シュプリンガー・フェアラーク東京
【非特許文献2】“Personal positioning based on walking locomotion analysis with self-contained sensors and a wearable camera,” Masakatsu Kourogi, Takeshi Kurata, Proceedings of International Symposium on Mixed and Augmented Reality ISMAR2003), pp.103-112,2003.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2の技術では、歩行動作に基づいてその移動方位と歩幅を自蔵センサ群(加速度センサ、ジャイロセンサ、磁気方位センサ)を計測、推定して積算するデッドレコニング手法が提案されている。しかしながら、基準位置からの誤差が積算するため、長期間にわたって独立して動作することは困難である。特許文献2の技術も、歩行動作に基づくデッドレコニングを行うことで、基準位置からの相対移動ベクトルを推定する手法を提案しているが、非特許文献2の技術と同様に、累積誤差の問題が生じる。そのための、外部の位置計測手段(GPSや電界強度測位、無線タグ測位システムなど)と組み合わせる必要がある。
【0006】
歩行動作に基づくデッドレコニング手法を他の絶対位置計測技術と統合して組み合わせて利用することで、デッドレコニング手法とそれぞれの絶対位置計測技術の弱点を相互に補強することで、より頑健かつ精度の高い絶対位置計測を可能とすることが本発明の課題である。そのためには、歩行動作に基づくデッドレコニングが出力する位置には、信頼性に関する情報が付与されている必要がある。
【0007】
本発明の目的は、歩行者に装着されたセンサシステムによって人の歩行動作を計測、解析して、その移動方位と歩幅を装着型計算機システムが推定することにより、その歩行者に対して道案内などのアプリケーションを提供するために利用するデッドレコニング装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記のような目的を達成するため、本発明においては、歩行動作に基づくデッドレコニング手法の推定結果に信頼性を付与することで、GPSや無線タグシステムなどによる他の絶対位置計測手段との組み合わせが可能となる。これの絶対位置計測手段は同様に計測結果の信頼性を同時に得ることができるため、組み合わせることができる。
【0009】
歩行動作に基づくデッドレコニング手法では、歩行動作の移動方位と歩幅を推定する過程があり、そこでそれぞれの推定結果について信頼性が得られるとき、それらの合成結果であるデッドレコニングの結果についても、同様に信頼性を算出することが可能である。移動方位の推定結果と歩幅の推定結果について得られる信頼性に基づいて、デッドレコニングによる相対移動ベクトルの推定結果の信頼性を算出し、これを出力することによって、同様に位置推定結果とその信頼性を出力する絶対位置計測手段を組み合わせて、それぞれの信頼性に基づいて、現在の尤もらしい位置の推定結果とその信頼性を取得する。
【0010】
ここで、信頼性の定量的評価方法は共通のものであって、相互に重ね合わせることができるものが望ましく、正規分布による表現方法はもっとも適しているものの一つである。もう一つの適した表現は、ノンパラメトリックな分布ベースの表現で、尤もらしさを分布によって表し、他のパラメトリックおよびノンパラメトリックな分布との重ね合わせによって、2つ以上の位置推定結果が得られたときに、それぞれの結果を重ね合わせて尤もらしい結果を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、歩行動作に基づくデッドレコニングを用いて位置を推定する装置において、1つ以上の位置推定手段が与えられたとき、デッドレコニングによる位置推定結果とそれらの位置推定手段の位置推定結果を組み合わせて尤もらしい位置推定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるデッドレコニング装置の実施例の全体の構成を示す図である。
【図2】自蔵センサ群101と共に移動方位推定手段102の詳細を説明する図である。
【図3】自蔵センサ群101と共に歩幅推定手段103の詳細を説明する図である。
【図4】歩行動作に基づくデッドレコニングの推定結果の信頼性を正規分布によって近似する方法を図示したものである。
【図5】図4の計算方法を数式で示す第1の図である。
【図6】図4の計算方法を数式で示す第2の図である。
【図7】デッドレコニング装置と他の二つの位置計測手段を組み合わせる装置を示す図である。
【図8】GPSによって得られる測位結果をデッドレコニングが確実とみなす領域に入る場合と入らない場合で受け入れるか除外するかを決定する仕組みを説明する図である。
【図9】本発明を実現するためのハードウェアの構成図を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明を実施する最良の形態を、図1〜4を用いて説明する。図1には本発明によるデッドレコニング装置の実施例の全体図が示されている。101の自蔵センサ群(self−contained sensors)は、単体で独立して動作することができる外界センシング手段であり、加速度センサやジャイロセンサ、磁気方位センサが具体例として挙げられる。自蔵センサ群101は歩行動作を計測、解析するためのセンシング手段として用いられる。移動方位推定手段102は101からの信号を入力として移動方位を推定(104)して、その信頼性(105)を出力する移動方位手段である。歩幅推定手段103は、自蔵センサ群101からの信号を入力として歩行動作を検出してその歩幅(106)を推定してその推定結果の信頼性(107)を出力する歩幅推定手段である。相対移動ベクトル信頼性の推定手段108は、移動方位(104)とその信頼性(105)、歩幅(106)とその信頼性(107)を入力として、基準位置から相対移動ベクトルを累積計算して、その信頼性を算定して出力する相対移動ベクトル・信頼性の推定手段である。
【0014】
図2は、図1の自蔵センサ群101と共に移動方位推定手段102の詳細を説明する図である。実施例の一つである。図2に示すように、自蔵センサ群101は、3つの自蔵センサから構成されており、3軸の加速度センサ、3軸のジャイロセンサ、3軸の磁気方位センサから構成されている。201は加速度ベクトル、202は角速度ベクトル、203は磁気方位ベクトルを示している。これらのベクトルは、センサ系で表される軸合わせされた計測結果である。209は、磁気方位ベクトルと姿勢角算出手段から出力されるセンサの姿勢角(210)を入力として計測された磁気方位ベクトルが利用可能であるかを判定する地磁気監視手段である。地磁気監視手段209は、磁気方位ベクトル(204)と利用可能かどうかのフラグ(205)を出力する。208は、加速度ベクトル(201)と角速度ベクトル(202)、磁気方位ベクトル(204)、磁気方位ベクトルの利用可否フラグ(205)を入力として、自蔵センサ群101が装着された人の姿勢角を算出する。姿勢角は、たとえば、ヨー・ロール・ピッチなどで表現される。姿勢角を算出するためには、重力方位ベクトルを算出する必要があり、これは角速度ベクトルと加速度ベクトルを入力として算出できる。重力方位ベクトルが得られているとき、角速度ベクトルまたは磁気方位ベクトルが与えられると姿勢角を算出することができる。姿勢角算出手段208は利用可否フラグ(205)がONであるとき、磁気方位ベクトル(204)を用いて姿勢角を算出し、それ以外のときは、角速度ベクトルを用いて姿勢角を算出する。姿勢角の信頼性は、この姿勢角算出手段208を精度の正確な基準姿勢角センサと比べてその誤差の分散を前もって計測しておくことで得ることができる。
【0015】
図3は、図1の自蔵センサ群101共に歩幅推定手段103の詳細を説明する図である。実施例の一つである。301および302は、それぞれ加速度センサおよびジャイロセンサから出力される加速度ベクトル(3軸)と角速度ベクトル(3軸)の計測結果を表している。これらの計測結果は、センサ系を中心とした座標系で出力される。重力方位ベクトル算出手段308において、これらを入力として重力加速度ベクトル(3軸)を算出して算出結果303として出力する。歩行動作による加速度ベクトル算出手段309では、加速度ベクトル(301)と重力加速度ベクトル(303)を入力として、歩行動作によって発生している加速度ベクトル(304)を算出して、出力する。歩行動作検出手段310においては、重力加速度ベクトル(303)と歩行動作による加速度ベクトル(304)を入力として、歩行動作を解析して、検出する。
【0016】
このための手法としては、例えば、非特許文献2などで提案されている手法が利用できる。歩行動作検出手段310は、歩行動作の検出結果(305)を出力し、歩幅推定手段311は検出された結果(305)に基づいて、歩行動作の大きさを、重力加速度ベクトル(303)と歩行動作によって引き起こされる加速度ベクトル(304)に基づいて計測して、歩幅として出力する。この計算方法の一つは、非特許文献2で提案されている。歩幅の信頼性として、多数の人についてこの計測手法を適用したときに得られている計測結果の真値に対する分散を用いることができる。
【0017】
相対移動ベクトルは、歩幅と移動方位を積算することで算出することができるが、その信頼性は正規分布としてパラメトリックに表現すると、合成されるデッドレコニングの推定結果も正規分布として近似することができる。図4には略式的にその近似の様子を示している。これは、図5と図6に示す数式によって更新される方法で正規分布を計算することができる。
【0018】
図7は、デッドレコニング装置と他の二つの位置計測手段を組み合わせる装置を示す図である。図7においては、本発明における、デッドレコニング装置と1つ以上の位置計測手段と組み合わせて用いる場合の実施例を示している。歩行動作に基づくデッドレコニング装置(401)はその位置推定結果(411)とその信頼性(412)を出力しており、GPSに基づく測位装置(402)は、その位置推定結果(413)とその信頼性(414)を出力している。デッドレコニングによる位置推定結果の信頼性は、たとえば、図5と図6によって表される正規分布を用いて表すことができる。GPSによる測位結果は、正規分布の誤差分布に従うことが分かっており、そのときの分散を用いることで信頼性を表すことができる。無線タグによる測位装置(403)は、位置推定結果(415)とその信頼性(416)を出力している。無線タグによる測位とは、信号の到達範囲が小さい無線タグを用いたもので、信号を検出するかもしくはその信号強度を計測することで位置を計測する技術である。測位結果の信頼性は実験的に分散を求めることで与えることができる。位置推定結果の信頼性が正規分布によって表されているとき、カルマンフィルタを用いてこれらの推定結果を統合することができる。また、位置推定結果の信頼性がノンパラメトリックな分布(たとえばヒストグラム)によって表現されているとき、それらの分布の重ね合わせによって、推定結果を統合することも可能である。
【0019】
図8は、GPSによって得られる測位結果をデッドレコニングが確実とみなす領域に入る場合と入らない場合で受け入れるか除外するかを決定する仕組みを説明する図である。図8に示されるように、GPSによる測位結果とデッドレコニング装置との統合において、デッドレコニングの推定結果から得られる95%安全領域(この中に95%確実に真値が存在する領域)に入るGPSの測位結果は受け入れて用いて、それ以外の測位結果は計測には用いないことで、信号のマルチパスによって発生する誤差を含む測位結果を除外する仕掛けが示される。
【0020】
図9は、本発明を実現するためのハードウェアの構成図を示す図であり、本発明を実際に動作するシステムとして実装した場合のダイアグラムを示している。自蔵センサ群(ここでは、MicroStrain社の3DM−Gが用いられている)、無線タグリーダ、GPSモジュールをセンシング手段として備え、組み込み型システム(装着可能なほど小さいものであり、例えば、日本SGIのViewRangerが用いられている)によってこれらの出力を処理する。処理結果は無線LAN経由で、位置推定結果の閲覧用のPCに送信される。そこでは、地図ソフトウェアが動作しており、現在位置などを確認できる仕組みである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行動作に基づいて基準位置からの相対移動ベクトルを出力するデッドレコニング装置において、
歩行動作を計測、解析して一歩ごとに歩行動作の移動方位と歩幅を推定して出力する手段と、
前記出力された移動方位と前記出力された歩幅の信頼性を算定して出力する手段と、
前記出力された移動方位と前記出力された歩幅に基づいて基準位置からの相対移動ベクトルを推定して出力する手段と、
前記出力された移動方位と前記出力された歩幅、前記出力された移動方位の信頼性、前記出力された歩幅の信頼性に基づいて、前記出力された相対移動ベクトルの信頼性を算定して出力する手段を備え、
前記歩行動作の移動方位の信頼性と歩幅の信頼性としてノンパラメトリックな分布状で出力し、
前記算定された相対移動ベクトルの信頼性としてノンパラメトリックな分布上で出力することを特徴とする、
歩行動作に基づく基準位置からの相対移動ベクトルとその信頼性を出力するデッドレコニング装置。
【請求項2】
請求項1記載のデッドレコニング装置において、
外部に絶対位置の推定結果とその信頼性を出力する手段を一つ以上備え、
基準位置が与えられている前記デッドレコニング装置が出力する絶対位置とその信頼性を、前記絶対位置・信頼性出力手段の出力と統合することで、現時点における絶対位置の推定結果とその信頼性を更新して出力することを特徴とする、
歩行動作に基づくデッドレコニング装置と外部絶対位置・信頼性出力手段を組み合わせた絶対位置・信頼性出力装置。
【請求項3】
請求項2記載の歩行動作に基づくデッドレコニング装置と外部絶対位置・信頼性出力手段を組み合わせた絶対位置・信頼性出力装置において、
前記外部絶対位置・信頼性出力手段が、正規分布の平均ベクトルと分散共分散行列によって絶対位置と信頼性をそれぞれ出力し、
基準位置が前もって与えられている前記デッドレコニング装置は、絶対位置とその信頼性を正規分布の平均ベクトルM(i)と誤差分散共分散行列C(i)によってそれぞれ出力し、
前記絶対位置・信頼性の出力手段が出力する絶対位置とその信頼性と統合することで、前記デッドレコニング装置と前記絶対位置・信頼性出力手段の出力結果を組み合わせて、現在の位置の推定結果とその信頼性を出力することを特徴とする、
歩行動作に基づくデッドレコニング装置と外部絶対位置・信頼性出力手段を組み合わせた絶対位置・信頼性出力装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−47950(P2011−47950A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237105(P2010−237105)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【分割の表示】特願2006−139609(P2006−139609)の分割
【原出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】