デュプレクサ
【課題】小型で且つ良好なアイソレーション特性を持つデュプレクサを提供すること。
【解決手段】送信側フィルタと受信側フィルタとを同じ圧電基板上に備え、周波数の異なる送信信号と受信信号とを分離して、共通のアンテナを介して送信側フィルタポート及び受信側フィルタポートで信号を送受信するデュプレクサにおいて、送信側フィルタと受信側フィルタとの間における中央領域にシールド電極を設けて、前記中央領域側に面するフィルタの形状に沿うようにこのシールド電極を形成し、この時のシールド電極とフィルタとの隙間寸法を9〜25μmに設定する。
【解決手段】送信側フィルタと受信側フィルタとを同じ圧電基板上に備え、周波数の異なる送信信号と受信信号とを分離して、共通のアンテナを介して送信側フィルタポート及び受信側フィルタポートで信号を送受信するデュプレクサにおいて、送信側フィルタと受信側フィルタとの間における中央領域にシールド電極を設けて、前記中央領域側に面するフィルタの形状に沿うようにこのシールド電極を形成し、この時のシールド電極とフィルタとの隙間寸法を9〜25μmに設定する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通のアンテナを介して周波数の異なる送信信号と受信信号とを送受信するデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機等の双方向無線通信機能を持つ装置やこの種の装置を通信端末とする無線通信システムでは、当該通信端末が持つ1本のアンテナにより信号を送受信するために、送信信号の周波数と受信信号の周波数とに差を持たせて、この周波数差を利用してデュプレクサ(弾性波共用器)において送信信号と受信信号とを分離している。
【0003】
図15は一般的に用いられるデュプレクサ100の構成例を概略的に示している。この例においてデュプレクサ100は、1本の共通のアンテナポート2と、このアンテナポート2にて受信される例えば中心周波数fR=856MHzの信号をフィルタ処理(周波数選択)して装置内の図示しない受信処理部に出力する低域側(受信側)フィルタ3と、装置内の図示しない送信処理部から送信される例えば中心周波数fT=911MHzの信号をフィルタ処理(周波数選択)してアンテナポート2に入力する高域側(送信側)フィルタ4と、を備えている。このアンテナポート2に対して、低域側フィルタ3と高域側フィルタ4とが並列に接続されており、受信信号及び送信信号は、夫々低域側フィルタポート6及び高域側フィルタポート7を介してアンテナポート2と装置との間で送受信されることとなる。尚、アンテナポート2と低域側フィルタ3との間には移相器5が介設されており、この移相器5により、送信信号が高域側フィルタ4側に回り込まないようになっている。
【0004】
このようなフィルタ3、4としては、例えばSAW(Surface Acoustic Wave)共振子のような小型で低損失の弾性波共振子をラダー型に接続したラダー型フィルタが用いられる。例えば低域側フィルタ3は、各々が弾性波共振子からなる4つの直列腕31a〜31dを直列に連結し、これらの直列腕31a〜31d間において同様に弾性波共振子からなる並列腕32a〜32cを夫々並列に接続してT型回路を構成したT型7段のラダー型フィルタを構成している。また、高域側フィルタ4は、各々弾性波共振子からなる直列腕41a〜41c及び並列腕42a、42bを同様に直列及び並列に接続したT型5段のフィルタを構成している。尚、並列腕32a〜32c、42a、42bは接地されている。
【0005】
このような直列腕31a〜31d、41a〜41c、並列腕32a〜32c、42a、42bは、例えば図16(a)に示すように、一対の平行なバスバー81、81とこれらのバスバー81、81から他方のバスバー81、81に向かって互い違いに櫛歯状に伸び出す多数本の電極指82とからなるIDT電極83と、このIDT電極83の両側に配置された反射器84と、からなる弾性波共振子85により夫々構成されている。この弾性波共振子85は、例えば圧電基板上に形成された金属膜などから構成されており、電極指82により構成される周期単位dは、例えばこの弾性波共振子85において取り出される弾性波の中心周波数に対応する波長となるように設定されている。尚、以下の説明においては、同図(b)に示すように、この弾性波共振子85を簡略化して示す。
【0006】
従来、上記のフィルタ3、4を基板に実装するにあたり、低域側フィルタ3及び高域側フィルタ4を夫々別のチップである圧電基板上に形成し、これらのチップを共通のモジュール基板上に配置するようにしていた。これに対し近年の携帯電話機等の小型化に伴ってデュプレクサ100についても更なる小型化が要求されており、低域側フィルタ3及び高域側フィルタ4を1つのチップ内に形成する手法が検討されている。図17はこのようなデュプレクサ100の構成例を示しており、この例ではLiTaO3やLiNbO3あるいは水晶等の比誘電率が50程度の圧電基板10上において、当該圧電基板10の長手方向の右側にフィルタ3、左側にフィルタ4を配置している。
【0007】
また、直列腕31a〜31d、41a〜41cが圧電基板10の中央において相対向するように、これらの直列腕31a〜31d、41a〜41cを圧電基板10の長手方向に対して直交方向に略平行に並べると共に、直列腕31a〜31d、41a〜41cの外側(圧電基板10の端部側)に既述の並列腕32a〜32c、42a、42bを配置するようにしている。そして、直列腕31a〜31d、41a〜41cの夫々を信号路33、43により接続している。従って、信号路33、43は、圧電基板10の長手方向に対して直交方向に伸びる中央領域15を介して相対向することとなる。また、並列腕32a〜32c、42a、42bは、並列信号路34、44により信号路33、43に接続されており、またモジュール基板11上に形成された図示しない接地ポートに夫々接続されている。
【0008】
このようにフィルタ3、4が形成された圧電基板10をチップの基体を構成するモジュール基板11上に配置すると共に、上記の信号路33、43の一端側及び他端側をこのモジュール基板11上に配置されたアンテナポート2及びフィルタポート6、7に夫々接続している。この圧電基板10は、横幅寸法Wが例えば2mm、奥行き寸法Lが例えば1.6mmとなるように形成されている。尚、信号路33、34、43、44には、判別しやすいようにハッチングを付してある。
ここで、この図17ではフィルタ3、4の構成を判別しやすいように、圧電基板10上におけるフィルタ3、4間の離間距離(中央領域15の幅寸法)Dを狭めて描画してあるが、既述のように圧電基板10の比誘電率が50程度であり、また送受信する信号の周波数がおよそ1GHzであることから、この離間距離Dは、実際には図18に示すように例えば1mmに設定されている。この離間距離Dがこのように圧電基板10の横幅寸法Wに対して大きく設定されている理由について、以下に説明する。
【0009】
デュプレクサ100において送受信を行っている時には、既述の信号路33、43の夫々に電流が流れることにより圧電基板10の上下方向に亘って多数の電気力線E1、E2、E3、、、、、Enが形成される。そして、信号路33、43同士が近接している場合には、信号路33、43において電位が狭い領域で変化するため、電気力線Eの分布が密となる。この時の電気力線Eについて、図17のA−A線における圧電基板10の縦断面図を表した図19に模式的に示すと、信号路33、43間における電気力線Eの分布が密となるため、多数の容量結合C1、C2、C3、、、、Cnが形成されることになる。尚、この図19では電気力線Eの数や容量結合Cの数を省略して示している。
【0010】
ここで、低域側フィルタ3の直列腕31a〜31dの夫々の間における信号路33を夫々信号路33a、33b、33cとし、また低域側フィルタポート6と接続される部位における信号路33を信号路33dとする。また、高域側フィルタ4の直列腕41a〜41cの夫々の間における信号路43を夫々信号路43a、43bとし、高域側フィルタポート7と接続される部位における信号路43を信号路43cとすると、この容量結合Cは、図20に概略的に示すように、これらの信号路33a〜33dと信号路43a〜43cとの間の夫々の領域において形成されることになる。従って、信号路33、43間における容量結合Cの総量は極めて大きくなってしまう。
【0011】
図21(a)、(b)、(c)は、夫々図17に示す配置構造における高域側(送信側)フィルタ4の周波数特性、低域側(受信側)フィルタ3の周波数特性及びアイソレーション特性について計算した結果を示しており、実線は上記の容量結合Cが存在しない場合の理想値を、また点線は容量結合Cが存在する場合の値を夫々示している。この理想値は、互いに対向する弾性波共振子85同士の離間距離Dを1mm以上とすることにより得られる。この図21から、容量結合Cによりアイソレーション特性が劣化し、このためフィルタ3、4の周波数特性が悪化してしまうことが分かる。
【0012】
ところで、容量結合Cが形成されないようにフィルタ3、4間に1mmものスペースを設けると、このスペースがデッドスペースとなり、圧電基板10が大型化してしまう。そこで、例えば図22に示すように、フィルタ3、4間に例えば金属膜からなるシールド電極101を形成し、例えばバンプ、ワイヤあるいは圧電基板10に穿たれたビアホールなどを介してこのシールド電極101を接地するようにした構成のデュプレクサ100が知られている。このようにシールド電極101を形成すると、図23に示すように、信号路33、34間の容量結合Cの一部がシールド電極101を介して形成されるので、当該フィルタ3、4間における容量結合Cを減らすことができる。図24(a)、(b)、(c)の点線は夫々図22に示す配置構造において前記離間距離Dを0.7mmに設定した場合の高域側フィルタ4の周波数特性、低域側フィルタ3の周波数特性及びアイソレーション特性について計算した結果であり、実線は既述の理想値である。この図24から、離間距離Dを例えば0.7mmまで狭めた場合であっても、アイソレーション特性の劣化を抑えることができ、フィルタ3、4の周波数特性が改善されることが分かる。しかし、アイソレーション特性を従来と同等かあるいは向上させながらデュプレクサ100の更なる小型化を図るためには、このようなシールド電極101では不十分であり、より一層の改善が必要である。
【0013】
特許文献1には、このようなシールド電極について記載されているが、フィルタとシールド電極との間の隙間の寸法や当該シールド電極の形状、配置方法あるいはシールド電極の電気的特性などについては検討されていない。
【0014】
【特許文献1】国際公開第2005/011114号(9頁15行目〜29行目、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、送信側フィルタと受信側フィルタとを同じ圧電基板上に備えたデュプレクサにおいて、良好なアイソレーション特性を得ながら小型化を図ることのできるデュプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のデュプレクサは、
圧電基板上に送信側フィルタ及び受信側フィルタを互いに左右に対向して配置し、これらフィルタは、弾性波の伝播方向が左右方向である複数の弾性波共振子を前後方向に信号路を介して接続して構成されたデュプレクサにおいて、
送信側フィルタ及び受信側フィルタの間にシールド電極を介在させ、このシールド電極の両側縁を、夫々送信側フィルタ及び受信側フィルタにおける信号路と弾性波共振子との配列により形成される屈曲した縁に沿って屈曲させたことを特徴とする。
前記シールド電極の左右の最大幅が150μm〜480μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧電基板上に送信側フィルタ及び受信側フィルタを互いに左右に対向して配置し、これらフィルタは、弾性波の伝播方向が左右方向である複数の弾性波共振子を前後方向に信号路を介して接続して構成されたデュプレクサにおいて、送信側フィルタ及び受信側フィルタの間にシールド電極を介在させ、このシールド電極の両側縁を、夫々送信側フィルタ及び受信側フィルタにおける信号路と弾性波共振子との配列により形成される屈曲した縁に沿って屈曲させている。そして、このシールド電極によりハイパスフィルタが構成されることに着目し、このバイパスフィルタの極が必要な周波数帯に位置するように、シールド電極と送信側フィルタ及び受信側フィルタとの間の隙間寸法を選定している。そのため、送信側フィルタと受信側フィルタとの間の離間距離を小さくしながら良好なアイソレーション特性を得ることができ、またデュプレクサの小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態であるデュプレクサ(弾性波共用器)1について、図1を参照して説明する。このデュプレクサ1は、平面形状が概略長方形に形成された共通のモジュール基板11を備えている。このモジュール基板11上の概略中央位置には、横幅寸法Wが例えば2.0mm、奥行き寸法Lが例えば1.6mmとなるように形成された例えばLiTaO3やLiNbO3あるいは水晶などの圧電体からなる圧電基板10が固定されており、この例では図1中の左右方向に圧電基板10の長手方向が向くように配置されている。また、このモジュール基板11上には、圧電基板10から見て奥側の中央位置にアンテナポート2が配置されており、また圧電基板10の手前側の右端には低域側(受信側)フィルタポート6、左端には高域側(送信側)フィルタポート7が形成されている。
【0019】
圧電基板10上には、右側に例えばT型7段に構成されたラダー型フィルタである低域側(受信側)フィルタ3、左側に同様に例えばT型5段に構成されたラダー型フィルタである高域側(送信側)フィルタ4が配置されている。これらのフィルタ3、4は、夫々fR=856MHzの受信信号をフィルタ処理(周波数選択)して装置内の図示しない受信処理部に出力するフィルタ及び装置内の図示しない送信処理部から送信される例えば中心周波数fT=911MHzの送信信号をフィルタ処理してアンテナポート2に入力するフィルタである。
【0020】
これらのフィルタ3、4の構成については、既述の図17に示したデュプレクサ100と同じであるため簡単に説明すると、直列腕31a〜31d、41a〜41cは圧電基板10の中央において当該圧電基板10の長手方向に対して直交方向に相対向するように夫々信号路33、43により直列に接続され、並列腕32a〜32c、42a、42bの一端側は直列腕31a〜31d、41a〜41cの外側位置(圧電基板10の端部側)において並列信号路34、44により信号路33、43に並列に接続されている。尚、並列腕32a〜32c、42a、42bの他端側は、当該他端側から伸び出す並列信号路34、44に接続された図示しないワイヤを介して、モジュール基板11上に形成された図示しない接地ポートに夫々接続されている。
【0021】
また、フィルタ3、4がアンテナポート2に対して並行に接続されるように、信号路33、43の一端側が当該アンテナポート2にワイヤ51、51により夫々接続され、また信号路33、43の他端側がワイヤ52、52により低域側フィルタポート6、高域側フィルタポート7に夫々接続されている。アンテナポート2と低域側フィルタ3との間には、図示しない移相器が介設されている。
また、直列腕31a〜31d、41a〜41c及び並列腕32a〜32c、42a、42bは、夫々既述の図16に示すIDT電極83と反射器84、84とからなる弾性波共振子85により構成されており、既述の信号路33、43、並列信号路34、44は、この弾性波共振子85のIDT電極83の幅方向に亘って接続されている。
【0022】
次に、本発明のデュプレクサ1の主要部であるシールド電極60について説明する。信号路33、43の間において圧電基板10の長手方向に対して直交方向に伸びる領域を中央領域15とすると、この中央領域15の幅寸法つまり圧電基板10上における信号路33、43間の離間距離Dは、既述の図17に示したデュプレクサ100よりも短い寸法例えば200〜500μmに設定されている。この中央領域15には、例えば金属膜からなるシールド電極60が形成されている。このシールド電極60は、この中央領域15側に面するフィルタ3、4の形状に沿って形成されており、つまり信号路33、43同士が相対向する部位においては当該信号路33、43に近接し、一方反射器84が形成されている部位においてはこの反射器84に接触しないように当該反射器84の形状に合わせて内側(中央領域15側)に矩形に窪むように形成されている。そのため、信号路33、34が相対向する部位におけるシールド電極60の幅寸法D1は、例えば150〜482μmに設定されており、またフィルタ3、4(信号路33、43あるいは反射器84)とこのシールド電極60との間における隙間寸法D2は、例えば9〜25μmに設定されている。このシールド電極60は、図2に示すように例えば当該シールド電極60上に形成された図示しないバンプなどを介して接地されている。尚、信号路33、34、43、44には、判別しやすいようにハッチングを付してある。
【0023】
次いで、このシールド電極60において、幅寸法D1及び隙間寸法D2を上記のように設定した理由について、このデュプレクサ1の作用の説明と共に以下に詳述する。
このデュプレクサ1において、既述の原理に基づいてアンテナポート2と低域側フィルタ3との間及びアンテナポート2と高域側フィルタ4との間において送受信を行っている時には、信号路33、43には夫々圧電基板10の上下領域に亘って多数の電気力線E1、E2、E3、、、、、Enが形成される。そして、既述のように、信号路33、43同士の距離である離間距離Dが既述の図17のデュプレクサ100よりも短く設定されているので、図2に示すように、この信号路33、43間における電気力線Eの分布が密となるため、多数の容量結合C1、C2、C3、、、、Cnが形成される。この時、中央領域15にシールド電極60を配置しているので、信号路33、43間にて形成される容量結合Cの一部がこのシールド電極60を介して接続されることになる。
【0024】
ここで、多数の容量結合Cのうち、例えば圧電基板10の下側から上側に向かって6つの容量結合C1〜C6だけを便宜的にこの図2に示し、シールド電極60を介さずに信号路33、43間で直接形成される容量結合Cを外側における容量結合C1、C6とし、またシールド電極60を介して形成される容量結合Cを内側の容量結合C2〜C5とする。この時、既述のようにシールド電極60がバンプなどを介して接地されているので、このバンプやシールド電極60自体は、インダクタンス成分を持っていると言える。既述の図2に、このインダクタンス成分を「61」として便宜的に示しておく。
【0025】
これらの容量結合Cやインダクタンス成分61の等価回路62を概略的に図3に示すと、この等価回路62は、高周波領域に通過帯域を持つハイパスフィルタであると言える。このような等価回路62を持つハイパスフィルタについて、後述の実施例で説明するように減衰特性の計算を行ったところ、図4に模式的に示すように、このハイパスフィルタにおける通過帯域よりも低域側つまりデュプレクサ1において送受信される信号の周波数側において減衰量が極めて大きくなる極大値を持つことが分かった。そこで、この極大値がデュプレクサ1における例えば低域側フィルタ3の通過周波数帯域に近い位置に形成されるように等価回路62を設計することにより、中央領域15の離間距離Dが上記のように短くて信号路33、43間に容量結合Cが形成される場合であっても減衰量を大きく取ることができ、即ち大きな絶縁性を確保することができるので、アイソレーション特性の劣化を抑えることができると考えられる。尚、既述の図20に示したように、信号路33、43間には多数の容量結合Cが形成されているが、図示の簡略化のため、図3では直列腕31b、31c間の信号路33と直列腕41b、41c間の信号路43との間の容量結合Cについて示している。
【0026】
上記の等価回路62により構成されるハイパスフィルタについて検討したところ、後述の実施例に示すように、シールド電極60の幅寸法D1及び隙間寸法D2を変えることにより、この極大値の位置がシフトすることが分かった。具体的には、隙間寸法D2を狭めていくと、信号路33、43間にてシールド電極60を介して形成される容量結合C(C2〜C5)が大きくなっていく。その結果、ハイパスフィルタの極大値の位置が低域側にシフトしていくことが分かった。また、例えば隙間寸法D2を変えずに幅寸法D1だけを広げていくと、シールド電極60を介さずに信号路33、43間にて直接形成される容量結合Cが小さくなっていき、その結果ハイパスフィルタの極大値の位置が高域側にシフトしていくことが分かった。ただし、この例では、デュプレクサ1を小型化するために、この幅寸法D1を上記の値に設定している。更に、シールド電極60の接地方法を上記のバンプを用いた方法以外例えばワイヤあるいはこの圧電基板10、モジュール基板11内に穿たれたビアホールなどを介した方法に替えることにより、アースに至るまでの伝送線路の長さや線径、抵抗値が変わるので、インダクタンス成分61を変えることになり、従ってハイパスフィルタの特性が変わることが分かった。具体的には、例えばワイヤ接続とした場合には、インダクタンス成分61が大きくなり、ハイパスフィルタの極大値の位置が低域側にシフトすることが分かった。
【0027】
そのため、この例では離間距離Dを狭めてデュプレクサ1を小型化するにあたって、幅寸法D1、隙間寸法D2及びシールド電極60の接地方法を既述のように設定することにより、シールド電極60により構成されるハイパスフィルタの極大値の位置を低域側フィルタ3の通過周波数帯域に近接させ、信号路33、43間にて形成される容量結合Cの影響を抑えてアイソレーション特性の劣化を低減するようにしている。このように設計したデュプレクサ1について、既述の図21及び図24に対応する特性について計算を行ったところ、フィルタ3、4においては図5(a)、(b)に点線で示す特性が得られ、また低域側フィルタポート6及び高域側フィルタポート7間におけるアイソレーション特性については同図(c)に点線で示す特性が得られた。同図における実線で示す特性は、既述のデュプレクサ100で中央領域15の離間距離Dを大きく取った時の値つまり理想的な値であり、従ってこのデュプレクサ1では、中央領域15の離間距離Dを狭めても、理想値と同レベルのアイソレーション特性となっていることが分かる。
【0028】
尚、このハイパスフィルタの極大値の位置としては、後述の実施例でも説明するように、必ずしも低域側フィルタ3にて受信される信号の周波数帯域の中心周波数と合致させなくとも、この周波数帯域に近接させることでこのような効果が得られることが分かった。
【0029】
上述の実施の形態によれば、低域側フィルタ3と高域側フィルタ4とを同じ圧電基板10上に備えたデュプレクサ1において、低域側フィルタ3と高域側フィルタ4との間に配置されるシールド電極60によりハイパスフィルタが構成されることに着目し、シールド電極60の幅寸法D1を一律な寸法に設定するという発想を脱却して、フィルタ3、4の縁部の形状に沿うように、即ち信号路33、43の縁部及び弾性波共振子85の縁部の各形状に沿うようにシールド電極60を構成すると共に、シールド電極60とフィルタ3、4との隙間寸法D2の値を選定して前記ハイパスフィルタの極を必要な周波数帯に位置させるようにしている。このためフィルタ3、4の離間距離Dを例えば150〜480μm程度と小さくしながら良好なアイソレーション特性を得ることができ、また図6に示すようにデュプレクサ1の小型化を図ることができる。また、このハイパスフィルタの極大値の位置を低域側フィルタ3にて受信される周波数領域に近づけるようにしたが、例えば高域側フィルタ4にて送信される信号の周波数領域に近づけるようにしても良く、つまりデュプレクサ1にて送受信される周波数帯域にて所望のアイソレーション特性が得られるように減衰量を増やすことのできる位置に極大値の位置をシフトさせるようにしても良い。
【0030】
尚、この例では離間距離D(幅寸法D1)を狭めてデュプレクサ1を小型化するようにしたが、離間距離Dを狭めずに、既述の図17や図22に示すデュプレクサ100においてフィルタ3、4間に本発明のシールド電極60を配置して隙間寸法D2を狭めるようにしても良い。この場合には良好なアイソレーション特性が得られる。
【0031】
上記の例においては、中央領域15の長さ方向に亘って信号路33、43が相対向するようにフィルタ3、4を配置したが、例えば図7に示すように、シールド電極60の構成を変えずに、直列腕31a〜31d(41a〜41c)の配置位置と並列腕32a〜32c(42a、42b)の配置位置とを部分的に反転させるようにしても良い。このような場合には、離間距離Dを上記のように狭めた場合でも、当該反転領域(この例では直列腕31d)において信号路33、43間が大きく離れるので、この領域では容量結合Cの影響が小さくなるが、中央領域15を挟んで相対向する信号路33、43間では、既述のようにシールド電極60により容量結合Cの影響が抑えられることになる。従って、本発明は、信号路33、43の少なくとも一部が中央領域15を両側から挟んでいるデュプレクサ1に適用できると言える。また、本発明は、1枚の基板10上に送信側フィルタ4及び受信側フィルタ3が互いに対向して配置している構成に適用できる。
【0032】
更に、受信信号用のフィルタを低域側フィルタ3とし、送信信号用のフィルタを高域側フィルタ4とする、既述のデュプレクサ1の構成だけでなく、低域側フィルタ3を送信信号用とし、高域側フィルタ4を受信信号用としてデュプレクサを構成してもよい。また、低域側フィルタ3を構成する弾性波共振子もSAW共振子に限定されるものではなく、例えば弾性境界波を利用した共振子を用いても良い。
【実施例】
【0033】
(実験1)
既述の隙間寸法D2を以下の計算条件に示すように様々な値に設定することによって、シールド電極60により構成されるハイパスフィルタの極大値の位置がどのようにシフトするかを確認する計算を行った。この時、いずれの条件においても幅寸法D1については150μm〜480μmで一定として、またシールド電極60の接地方法としては既述のようにバンプを介して行うものとした。尚、この計算には2次元回路シミュレータ(Hewlett Packard(Agilent)社製MDS(Microwave Design System))を用いた。
【0034】
(計算条件)
隙間寸法D2:25μm、20μm、15μm、12μm、9μm
(計算結果)
上記の条件において計算したハイパスフィルタの極大値の位置について、隙間寸法D2が25μm、20μm、15μm、12μm、9μmとした計算結果を夫々図8〜図12に実線で示す。尚、既述の図22のデュプレクサ100のシールド電極101について計算した結果も併せて点線で示しておく。
【0035】
図8の結果から、幅寸法D1及び隙間寸法D2を狭め、またシールド電極60をバンプにより接地することにより、低域側フィルタ3にて受信される信号の周波数帯域に近い1.6GHzにおいて、シールド電極60により構成されるハイパスフィルタの極大値が確認された。そのため、1GHz〜1.9GHzにおいて良好なアイソレーション特性が得られることが分かった。尚、同図中点線で示す従来例(図22)においては、シールド電極101が接地されており、当該シールド電極101とアースとの間にインダクタンス成分を持っていることになるので、このシールド電極101は本発明のシールド電極60と同様にハイパスフィルタを構成していると考えられるが、フィルタ3(4)とシールド電極101との間の距離が大きく離れているため、極大値が形成されないか、あるいはこのグラフに示した範囲よりも更に高域側に極大値が形成されているものと考えられる。従って、このデュプレクサ100では、シールド電極101により構成されるハイパスフィルタによってはアイソレーション特性の改善が望めないことが分かる。
【0036】
また、図9〜図12の結果から、隙間寸法D2を狭めていくことにより、ハイパスフィルタの極大値の位置が低域側にシフトしていくことが分かった。これらの図9〜図12においては、夫々0.8GHz〜1.75Gz、0.7GHz〜1.5GHz、0.6GHz〜1.4GHz、0.55GHz〜1.25GHzにおいて良好なアイソレーション特性を得ることができる。従って、既述のように、幅寸法D1、隙間寸法D2あるいはシールド電極60の接地方法を適宜変更することにより、デュプレクサ1にて送受信する信号の周波数帯域に合わせて、あるいは離間距離D(デュプレクサ1の横幅寸法)に合わせて、ハイパスフィルタの極大値の位置のシフト量(極大値の位置)を調整できることが分かった。
【0037】
(実験2)
次に、本発明のデュプレクサ1と従来のデュプレクサ100とを実際に作製して、両者のアイソレーション特性の比較を行った。これらのデュプレクサ1、100の構成を夫々図13(a)、(b)に示す。この図13から分かるように、夫々のデュプレクサ1、100では、フィルタ3、4の構成などを変えずに、シールド電極60、101だけを変えるようにしている。具体的には、幅寸法D1についてはいずれについても480μmとし、隙間寸法D2についてはデュプレクサ1では10μm、デュプレクサ100では50μmとしている。また、いずれのデュプレクサ1、100においてもバンプを介して接地するようにしている。尚、この図13において70は圧電基板、71は弾性波共振子、72は伝送路(信号路)である。
【0038】
デュプレクサ1、100について得られたアイソレーション特性を夫々図14(a)、(b)に示す。この結果、例えば900MHz〜940MHzにおいて、デュプレクサ1では従来のデュプレクサ100よりも減衰量を10dB程増やすことができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係るデュプレクサの構成例を示した平面図である。
【図2】上記のデュプレクサを概略的に示した横断面図である。
【図3】上記のデュプレクサのシールド電極についての等価回路を概略的に示した平面図である。
【図4】上記のシールド電極により構成されるハイパスフィルタの特性を概略的に示した平面図である。
【図5】上記のデュプレクサの減衰特性を計算した特性図である。
【図6】上記のデュプレクサを概略的に示した平面図である。
【図7】上記のデュプレクサの他の実施の形態を示した平面図である。
【図8】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図9】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図10】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図11】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図12】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図13】本発明の実施例において作製したデュプレクサを示した平面図である。
【図14】上記の実施例において作製したデュプレクサについて得られた減衰特性を示した特性図である。
【図15】従来のデュプレクサを示した概略図である。
【図16】上記の従来のデュプレクサを構成する弾性波共振子の一例を示した平面図である。
【図17】従来のデュプレクサの一例を示した平面図である。
【図18】従来のデュプレクサを模式的に示した平面図である。
【図19】従来のデュプレクサの一例を概略的に示した縦断面図である。
【図20】上記の従来のデュプレクサにおいて形成される容量結合を模式的に示した平面図である。
【図21】従来のデュプレクサにて得られる減衰特性を示した特性図である。
【図22】従来のデュプレクサの一例を示す平面図である。
【図23】従来のデュプレクサの一例を概略的に示した縦断面図である。
【図24】上記の従来のデュプレクサにて得られる減衰特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0040】
1 デュプレクサ
2 アンテナポート
3 低域側フィルタ
4 高域側フィルタ
6 低域側フィルタポート
7 高域側フィルタポート
10 圧電基板
11 モジュール基板
15 中央領域
D 離間距離
D1 幅寸法
D2 隙間寸法
E 電気力線
W 横幅寸法
31 直列腕
33 信号路
41 直列腕
43 信号路
【技術分野】
【0001】
本発明は、共通のアンテナを介して周波数の異なる送信信号と受信信号とを送受信するデュプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機等の双方向無線通信機能を持つ装置やこの種の装置を通信端末とする無線通信システムでは、当該通信端末が持つ1本のアンテナにより信号を送受信するために、送信信号の周波数と受信信号の周波数とに差を持たせて、この周波数差を利用してデュプレクサ(弾性波共用器)において送信信号と受信信号とを分離している。
【0003】
図15は一般的に用いられるデュプレクサ100の構成例を概略的に示している。この例においてデュプレクサ100は、1本の共通のアンテナポート2と、このアンテナポート2にて受信される例えば中心周波数fR=856MHzの信号をフィルタ処理(周波数選択)して装置内の図示しない受信処理部に出力する低域側(受信側)フィルタ3と、装置内の図示しない送信処理部から送信される例えば中心周波数fT=911MHzの信号をフィルタ処理(周波数選択)してアンテナポート2に入力する高域側(送信側)フィルタ4と、を備えている。このアンテナポート2に対して、低域側フィルタ3と高域側フィルタ4とが並列に接続されており、受信信号及び送信信号は、夫々低域側フィルタポート6及び高域側フィルタポート7を介してアンテナポート2と装置との間で送受信されることとなる。尚、アンテナポート2と低域側フィルタ3との間には移相器5が介設されており、この移相器5により、送信信号が高域側フィルタ4側に回り込まないようになっている。
【0004】
このようなフィルタ3、4としては、例えばSAW(Surface Acoustic Wave)共振子のような小型で低損失の弾性波共振子をラダー型に接続したラダー型フィルタが用いられる。例えば低域側フィルタ3は、各々が弾性波共振子からなる4つの直列腕31a〜31dを直列に連結し、これらの直列腕31a〜31d間において同様に弾性波共振子からなる並列腕32a〜32cを夫々並列に接続してT型回路を構成したT型7段のラダー型フィルタを構成している。また、高域側フィルタ4は、各々弾性波共振子からなる直列腕41a〜41c及び並列腕42a、42bを同様に直列及び並列に接続したT型5段のフィルタを構成している。尚、並列腕32a〜32c、42a、42bは接地されている。
【0005】
このような直列腕31a〜31d、41a〜41c、並列腕32a〜32c、42a、42bは、例えば図16(a)に示すように、一対の平行なバスバー81、81とこれらのバスバー81、81から他方のバスバー81、81に向かって互い違いに櫛歯状に伸び出す多数本の電極指82とからなるIDT電極83と、このIDT電極83の両側に配置された反射器84と、からなる弾性波共振子85により夫々構成されている。この弾性波共振子85は、例えば圧電基板上に形成された金属膜などから構成されており、電極指82により構成される周期単位dは、例えばこの弾性波共振子85において取り出される弾性波の中心周波数に対応する波長となるように設定されている。尚、以下の説明においては、同図(b)に示すように、この弾性波共振子85を簡略化して示す。
【0006】
従来、上記のフィルタ3、4を基板に実装するにあたり、低域側フィルタ3及び高域側フィルタ4を夫々別のチップである圧電基板上に形成し、これらのチップを共通のモジュール基板上に配置するようにしていた。これに対し近年の携帯電話機等の小型化に伴ってデュプレクサ100についても更なる小型化が要求されており、低域側フィルタ3及び高域側フィルタ4を1つのチップ内に形成する手法が検討されている。図17はこのようなデュプレクサ100の構成例を示しており、この例ではLiTaO3やLiNbO3あるいは水晶等の比誘電率が50程度の圧電基板10上において、当該圧電基板10の長手方向の右側にフィルタ3、左側にフィルタ4を配置している。
【0007】
また、直列腕31a〜31d、41a〜41cが圧電基板10の中央において相対向するように、これらの直列腕31a〜31d、41a〜41cを圧電基板10の長手方向に対して直交方向に略平行に並べると共に、直列腕31a〜31d、41a〜41cの外側(圧電基板10の端部側)に既述の並列腕32a〜32c、42a、42bを配置するようにしている。そして、直列腕31a〜31d、41a〜41cの夫々を信号路33、43により接続している。従って、信号路33、43は、圧電基板10の長手方向に対して直交方向に伸びる中央領域15を介して相対向することとなる。また、並列腕32a〜32c、42a、42bは、並列信号路34、44により信号路33、43に接続されており、またモジュール基板11上に形成された図示しない接地ポートに夫々接続されている。
【0008】
このようにフィルタ3、4が形成された圧電基板10をチップの基体を構成するモジュール基板11上に配置すると共に、上記の信号路33、43の一端側及び他端側をこのモジュール基板11上に配置されたアンテナポート2及びフィルタポート6、7に夫々接続している。この圧電基板10は、横幅寸法Wが例えば2mm、奥行き寸法Lが例えば1.6mmとなるように形成されている。尚、信号路33、34、43、44には、判別しやすいようにハッチングを付してある。
ここで、この図17ではフィルタ3、4の構成を判別しやすいように、圧電基板10上におけるフィルタ3、4間の離間距離(中央領域15の幅寸法)Dを狭めて描画してあるが、既述のように圧電基板10の比誘電率が50程度であり、また送受信する信号の周波数がおよそ1GHzであることから、この離間距離Dは、実際には図18に示すように例えば1mmに設定されている。この離間距離Dがこのように圧電基板10の横幅寸法Wに対して大きく設定されている理由について、以下に説明する。
【0009】
デュプレクサ100において送受信を行っている時には、既述の信号路33、43の夫々に電流が流れることにより圧電基板10の上下方向に亘って多数の電気力線E1、E2、E3、、、、、Enが形成される。そして、信号路33、43同士が近接している場合には、信号路33、43において電位が狭い領域で変化するため、電気力線Eの分布が密となる。この時の電気力線Eについて、図17のA−A線における圧電基板10の縦断面図を表した図19に模式的に示すと、信号路33、43間における電気力線Eの分布が密となるため、多数の容量結合C1、C2、C3、、、、Cnが形成されることになる。尚、この図19では電気力線Eの数や容量結合Cの数を省略して示している。
【0010】
ここで、低域側フィルタ3の直列腕31a〜31dの夫々の間における信号路33を夫々信号路33a、33b、33cとし、また低域側フィルタポート6と接続される部位における信号路33を信号路33dとする。また、高域側フィルタ4の直列腕41a〜41cの夫々の間における信号路43を夫々信号路43a、43bとし、高域側フィルタポート7と接続される部位における信号路43を信号路43cとすると、この容量結合Cは、図20に概略的に示すように、これらの信号路33a〜33dと信号路43a〜43cとの間の夫々の領域において形成されることになる。従って、信号路33、43間における容量結合Cの総量は極めて大きくなってしまう。
【0011】
図21(a)、(b)、(c)は、夫々図17に示す配置構造における高域側(送信側)フィルタ4の周波数特性、低域側(受信側)フィルタ3の周波数特性及びアイソレーション特性について計算した結果を示しており、実線は上記の容量結合Cが存在しない場合の理想値を、また点線は容量結合Cが存在する場合の値を夫々示している。この理想値は、互いに対向する弾性波共振子85同士の離間距離Dを1mm以上とすることにより得られる。この図21から、容量結合Cによりアイソレーション特性が劣化し、このためフィルタ3、4の周波数特性が悪化してしまうことが分かる。
【0012】
ところで、容量結合Cが形成されないようにフィルタ3、4間に1mmものスペースを設けると、このスペースがデッドスペースとなり、圧電基板10が大型化してしまう。そこで、例えば図22に示すように、フィルタ3、4間に例えば金属膜からなるシールド電極101を形成し、例えばバンプ、ワイヤあるいは圧電基板10に穿たれたビアホールなどを介してこのシールド電極101を接地するようにした構成のデュプレクサ100が知られている。このようにシールド電極101を形成すると、図23に示すように、信号路33、34間の容量結合Cの一部がシールド電極101を介して形成されるので、当該フィルタ3、4間における容量結合Cを減らすことができる。図24(a)、(b)、(c)の点線は夫々図22に示す配置構造において前記離間距離Dを0.7mmに設定した場合の高域側フィルタ4の周波数特性、低域側フィルタ3の周波数特性及びアイソレーション特性について計算した結果であり、実線は既述の理想値である。この図24から、離間距離Dを例えば0.7mmまで狭めた場合であっても、アイソレーション特性の劣化を抑えることができ、フィルタ3、4の周波数特性が改善されることが分かる。しかし、アイソレーション特性を従来と同等かあるいは向上させながらデュプレクサ100の更なる小型化を図るためには、このようなシールド電極101では不十分であり、より一層の改善が必要である。
【0013】
特許文献1には、このようなシールド電極について記載されているが、フィルタとシールド電極との間の隙間の寸法や当該シールド電極の形状、配置方法あるいはシールド電極の電気的特性などについては検討されていない。
【0014】
【特許文献1】国際公開第2005/011114号(9頁15行目〜29行目、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、送信側フィルタと受信側フィルタとを同じ圧電基板上に備えたデュプレクサにおいて、良好なアイソレーション特性を得ながら小型化を図ることのできるデュプレクサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のデュプレクサは、
圧電基板上に送信側フィルタ及び受信側フィルタを互いに左右に対向して配置し、これらフィルタは、弾性波の伝播方向が左右方向である複数の弾性波共振子を前後方向に信号路を介して接続して構成されたデュプレクサにおいて、
送信側フィルタ及び受信側フィルタの間にシールド電極を介在させ、このシールド電極の両側縁を、夫々送信側フィルタ及び受信側フィルタにおける信号路と弾性波共振子との配列により形成される屈曲した縁に沿って屈曲させたことを特徴とする。
前記シールド電極の左右の最大幅が150μm〜480μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、圧電基板上に送信側フィルタ及び受信側フィルタを互いに左右に対向して配置し、これらフィルタは、弾性波の伝播方向が左右方向である複数の弾性波共振子を前後方向に信号路を介して接続して構成されたデュプレクサにおいて、送信側フィルタ及び受信側フィルタの間にシールド電極を介在させ、このシールド電極の両側縁を、夫々送信側フィルタ及び受信側フィルタにおける信号路と弾性波共振子との配列により形成される屈曲した縁に沿って屈曲させている。そして、このシールド電極によりハイパスフィルタが構成されることに着目し、このバイパスフィルタの極が必要な周波数帯に位置するように、シールド電極と送信側フィルタ及び受信側フィルタとの間の隙間寸法を選定している。そのため、送信側フィルタと受信側フィルタとの間の離間距離を小さくしながら良好なアイソレーション特性を得ることができ、またデュプレクサの小型化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の実施の形態であるデュプレクサ(弾性波共用器)1について、図1を参照して説明する。このデュプレクサ1は、平面形状が概略長方形に形成された共通のモジュール基板11を備えている。このモジュール基板11上の概略中央位置には、横幅寸法Wが例えば2.0mm、奥行き寸法Lが例えば1.6mmとなるように形成された例えばLiTaO3やLiNbO3あるいは水晶などの圧電体からなる圧電基板10が固定されており、この例では図1中の左右方向に圧電基板10の長手方向が向くように配置されている。また、このモジュール基板11上には、圧電基板10から見て奥側の中央位置にアンテナポート2が配置されており、また圧電基板10の手前側の右端には低域側(受信側)フィルタポート6、左端には高域側(送信側)フィルタポート7が形成されている。
【0019】
圧電基板10上には、右側に例えばT型7段に構成されたラダー型フィルタである低域側(受信側)フィルタ3、左側に同様に例えばT型5段に構成されたラダー型フィルタである高域側(送信側)フィルタ4が配置されている。これらのフィルタ3、4は、夫々fR=856MHzの受信信号をフィルタ処理(周波数選択)して装置内の図示しない受信処理部に出力するフィルタ及び装置内の図示しない送信処理部から送信される例えば中心周波数fT=911MHzの送信信号をフィルタ処理してアンテナポート2に入力するフィルタである。
【0020】
これらのフィルタ3、4の構成については、既述の図17に示したデュプレクサ100と同じであるため簡単に説明すると、直列腕31a〜31d、41a〜41cは圧電基板10の中央において当該圧電基板10の長手方向に対して直交方向に相対向するように夫々信号路33、43により直列に接続され、並列腕32a〜32c、42a、42bの一端側は直列腕31a〜31d、41a〜41cの外側位置(圧電基板10の端部側)において並列信号路34、44により信号路33、43に並列に接続されている。尚、並列腕32a〜32c、42a、42bの他端側は、当該他端側から伸び出す並列信号路34、44に接続された図示しないワイヤを介して、モジュール基板11上に形成された図示しない接地ポートに夫々接続されている。
【0021】
また、フィルタ3、4がアンテナポート2に対して並行に接続されるように、信号路33、43の一端側が当該アンテナポート2にワイヤ51、51により夫々接続され、また信号路33、43の他端側がワイヤ52、52により低域側フィルタポート6、高域側フィルタポート7に夫々接続されている。アンテナポート2と低域側フィルタ3との間には、図示しない移相器が介設されている。
また、直列腕31a〜31d、41a〜41c及び並列腕32a〜32c、42a、42bは、夫々既述の図16に示すIDT電極83と反射器84、84とからなる弾性波共振子85により構成されており、既述の信号路33、43、並列信号路34、44は、この弾性波共振子85のIDT電極83の幅方向に亘って接続されている。
【0022】
次に、本発明のデュプレクサ1の主要部であるシールド電極60について説明する。信号路33、43の間において圧電基板10の長手方向に対して直交方向に伸びる領域を中央領域15とすると、この中央領域15の幅寸法つまり圧電基板10上における信号路33、43間の離間距離Dは、既述の図17に示したデュプレクサ100よりも短い寸法例えば200〜500μmに設定されている。この中央領域15には、例えば金属膜からなるシールド電極60が形成されている。このシールド電極60は、この中央領域15側に面するフィルタ3、4の形状に沿って形成されており、つまり信号路33、43同士が相対向する部位においては当該信号路33、43に近接し、一方反射器84が形成されている部位においてはこの反射器84に接触しないように当該反射器84の形状に合わせて内側(中央領域15側)に矩形に窪むように形成されている。そのため、信号路33、34が相対向する部位におけるシールド電極60の幅寸法D1は、例えば150〜482μmに設定されており、またフィルタ3、4(信号路33、43あるいは反射器84)とこのシールド電極60との間における隙間寸法D2は、例えば9〜25μmに設定されている。このシールド電極60は、図2に示すように例えば当該シールド電極60上に形成された図示しないバンプなどを介して接地されている。尚、信号路33、34、43、44には、判別しやすいようにハッチングを付してある。
【0023】
次いで、このシールド電極60において、幅寸法D1及び隙間寸法D2を上記のように設定した理由について、このデュプレクサ1の作用の説明と共に以下に詳述する。
このデュプレクサ1において、既述の原理に基づいてアンテナポート2と低域側フィルタ3との間及びアンテナポート2と高域側フィルタ4との間において送受信を行っている時には、信号路33、43には夫々圧電基板10の上下領域に亘って多数の電気力線E1、E2、E3、、、、、Enが形成される。そして、既述のように、信号路33、43同士の距離である離間距離Dが既述の図17のデュプレクサ100よりも短く設定されているので、図2に示すように、この信号路33、43間における電気力線Eの分布が密となるため、多数の容量結合C1、C2、C3、、、、Cnが形成される。この時、中央領域15にシールド電極60を配置しているので、信号路33、43間にて形成される容量結合Cの一部がこのシールド電極60を介して接続されることになる。
【0024】
ここで、多数の容量結合Cのうち、例えば圧電基板10の下側から上側に向かって6つの容量結合C1〜C6だけを便宜的にこの図2に示し、シールド電極60を介さずに信号路33、43間で直接形成される容量結合Cを外側における容量結合C1、C6とし、またシールド電極60を介して形成される容量結合Cを内側の容量結合C2〜C5とする。この時、既述のようにシールド電極60がバンプなどを介して接地されているので、このバンプやシールド電極60自体は、インダクタンス成分を持っていると言える。既述の図2に、このインダクタンス成分を「61」として便宜的に示しておく。
【0025】
これらの容量結合Cやインダクタンス成分61の等価回路62を概略的に図3に示すと、この等価回路62は、高周波領域に通過帯域を持つハイパスフィルタであると言える。このような等価回路62を持つハイパスフィルタについて、後述の実施例で説明するように減衰特性の計算を行ったところ、図4に模式的に示すように、このハイパスフィルタにおける通過帯域よりも低域側つまりデュプレクサ1において送受信される信号の周波数側において減衰量が極めて大きくなる極大値を持つことが分かった。そこで、この極大値がデュプレクサ1における例えば低域側フィルタ3の通過周波数帯域に近い位置に形成されるように等価回路62を設計することにより、中央領域15の離間距離Dが上記のように短くて信号路33、43間に容量結合Cが形成される場合であっても減衰量を大きく取ることができ、即ち大きな絶縁性を確保することができるので、アイソレーション特性の劣化を抑えることができると考えられる。尚、既述の図20に示したように、信号路33、43間には多数の容量結合Cが形成されているが、図示の簡略化のため、図3では直列腕31b、31c間の信号路33と直列腕41b、41c間の信号路43との間の容量結合Cについて示している。
【0026】
上記の等価回路62により構成されるハイパスフィルタについて検討したところ、後述の実施例に示すように、シールド電極60の幅寸法D1及び隙間寸法D2を変えることにより、この極大値の位置がシフトすることが分かった。具体的には、隙間寸法D2を狭めていくと、信号路33、43間にてシールド電極60を介して形成される容量結合C(C2〜C5)が大きくなっていく。その結果、ハイパスフィルタの極大値の位置が低域側にシフトしていくことが分かった。また、例えば隙間寸法D2を変えずに幅寸法D1だけを広げていくと、シールド電極60を介さずに信号路33、43間にて直接形成される容量結合Cが小さくなっていき、その結果ハイパスフィルタの極大値の位置が高域側にシフトしていくことが分かった。ただし、この例では、デュプレクサ1を小型化するために、この幅寸法D1を上記の値に設定している。更に、シールド電極60の接地方法を上記のバンプを用いた方法以外例えばワイヤあるいはこの圧電基板10、モジュール基板11内に穿たれたビアホールなどを介した方法に替えることにより、アースに至るまでの伝送線路の長さや線径、抵抗値が変わるので、インダクタンス成分61を変えることになり、従ってハイパスフィルタの特性が変わることが分かった。具体的には、例えばワイヤ接続とした場合には、インダクタンス成分61が大きくなり、ハイパスフィルタの極大値の位置が低域側にシフトすることが分かった。
【0027】
そのため、この例では離間距離Dを狭めてデュプレクサ1を小型化するにあたって、幅寸法D1、隙間寸法D2及びシールド電極60の接地方法を既述のように設定することにより、シールド電極60により構成されるハイパスフィルタの極大値の位置を低域側フィルタ3の通過周波数帯域に近接させ、信号路33、43間にて形成される容量結合Cの影響を抑えてアイソレーション特性の劣化を低減するようにしている。このように設計したデュプレクサ1について、既述の図21及び図24に対応する特性について計算を行ったところ、フィルタ3、4においては図5(a)、(b)に点線で示す特性が得られ、また低域側フィルタポート6及び高域側フィルタポート7間におけるアイソレーション特性については同図(c)に点線で示す特性が得られた。同図における実線で示す特性は、既述のデュプレクサ100で中央領域15の離間距離Dを大きく取った時の値つまり理想的な値であり、従ってこのデュプレクサ1では、中央領域15の離間距離Dを狭めても、理想値と同レベルのアイソレーション特性となっていることが分かる。
【0028】
尚、このハイパスフィルタの極大値の位置としては、後述の実施例でも説明するように、必ずしも低域側フィルタ3にて受信される信号の周波数帯域の中心周波数と合致させなくとも、この周波数帯域に近接させることでこのような効果が得られることが分かった。
【0029】
上述の実施の形態によれば、低域側フィルタ3と高域側フィルタ4とを同じ圧電基板10上に備えたデュプレクサ1において、低域側フィルタ3と高域側フィルタ4との間に配置されるシールド電極60によりハイパスフィルタが構成されることに着目し、シールド電極60の幅寸法D1を一律な寸法に設定するという発想を脱却して、フィルタ3、4の縁部の形状に沿うように、即ち信号路33、43の縁部及び弾性波共振子85の縁部の各形状に沿うようにシールド電極60を構成すると共に、シールド電極60とフィルタ3、4との隙間寸法D2の値を選定して前記ハイパスフィルタの極を必要な周波数帯に位置させるようにしている。このためフィルタ3、4の離間距離Dを例えば150〜480μm程度と小さくしながら良好なアイソレーション特性を得ることができ、また図6に示すようにデュプレクサ1の小型化を図ることができる。また、このハイパスフィルタの極大値の位置を低域側フィルタ3にて受信される周波数領域に近づけるようにしたが、例えば高域側フィルタ4にて送信される信号の周波数領域に近づけるようにしても良く、つまりデュプレクサ1にて送受信される周波数帯域にて所望のアイソレーション特性が得られるように減衰量を増やすことのできる位置に極大値の位置をシフトさせるようにしても良い。
【0030】
尚、この例では離間距離D(幅寸法D1)を狭めてデュプレクサ1を小型化するようにしたが、離間距離Dを狭めずに、既述の図17や図22に示すデュプレクサ100においてフィルタ3、4間に本発明のシールド電極60を配置して隙間寸法D2を狭めるようにしても良い。この場合には良好なアイソレーション特性が得られる。
【0031】
上記の例においては、中央領域15の長さ方向に亘って信号路33、43が相対向するようにフィルタ3、4を配置したが、例えば図7に示すように、シールド電極60の構成を変えずに、直列腕31a〜31d(41a〜41c)の配置位置と並列腕32a〜32c(42a、42b)の配置位置とを部分的に反転させるようにしても良い。このような場合には、離間距離Dを上記のように狭めた場合でも、当該反転領域(この例では直列腕31d)において信号路33、43間が大きく離れるので、この領域では容量結合Cの影響が小さくなるが、中央領域15を挟んで相対向する信号路33、43間では、既述のようにシールド電極60により容量結合Cの影響が抑えられることになる。従って、本発明は、信号路33、43の少なくとも一部が中央領域15を両側から挟んでいるデュプレクサ1に適用できると言える。また、本発明は、1枚の基板10上に送信側フィルタ4及び受信側フィルタ3が互いに対向して配置している構成に適用できる。
【0032】
更に、受信信号用のフィルタを低域側フィルタ3とし、送信信号用のフィルタを高域側フィルタ4とする、既述のデュプレクサ1の構成だけでなく、低域側フィルタ3を送信信号用とし、高域側フィルタ4を受信信号用としてデュプレクサを構成してもよい。また、低域側フィルタ3を構成する弾性波共振子もSAW共振子に限定されるものではなく、例えば弾性境界波を利用した共振子を用いても良い。
【実施例】
【0033】
(実験1)
既述の隙間寸法D2を以下の計算条件に示すように様々な値に設定することによって、シールド電極60により構成されるハイパスフィルタの極大値の位置がどのようにシフトするかを確認する計算を行った。この時、いずれの条件においても幅寸法D1については150μm〜480μmで一定として、またシールド電極60の接地方法としては既述のようにバンプを介して行うものとした。尚、この計算には2次元回路シミュレータ(Hewlett Packard(Agilent)社製MDS(Microwave Design System))を用いた。
【0034】
(計算条件)
隙間寸法D2:25μm、20μm、15μm、12μm、9μm
(計算結果)
上記の条件において計算したハイパスフィルタの極大値の位置について、隙間寸法D2が25μm、20μm、15μm、12μm、9μmとした計算結果を夫々図8〜図12に実線で示す。尚、既述の図22のデュプレクサ100のシールド電極101について計算した結果も併せて点線で示しておく。
【0035】
図8の結果から、幅寸法D1及び隙間寸法D2を狭め、またシールド電極60をバンプにより接地することにより、低域側フィルタ3にて受信される信号の周波数帯域に近い1.6GHzにおいて、シールド電極60により構成されるハイパスフィルタの極大値が確認された。そのため、1GHz〜1.9GHzにおいて良好なアイソレーション特性が得られることが分かった。尚、同図中点線で示す従来例(図22)においては、シールド電極101が接地されており、当該シールド電極101とアースとの間にインダクタンス成分を持っていることになるので、このシールド電極101は本発明のシールド電極60と同様にハイパスフィルタを構成していると考えられるが、フィルタ3(4)とシールド電極101との間の距離が大きく離れているため、極大値が形成されないか、あるいはこのグラフに示した範囲よりも更に高域側に極大値が形成されているものと考えられる。従って、このデュプレクサ100では、シールド電極101により構成されるハイパスフィルタによってはアイソレーション特性の改善が望めないことが分かる。
【0036】
また、図9〜図12の結果から、隙間寸法D2を狭めていくことにより、ハイパスフィルタの極大値の位置が低域側にシフトしていくことが分かった。これらの図9〜図12においては、夫々0.8GHz〜1.75Gz、0.7GHz〜1.5GHz、0.6GHz〜1.4GHz、0.55GHz〜1.25GHzにおいて良好なアイソレーション特性を得ることができる。従って、既述のように、幅寸法D1、隙間寸法D2あるいはシールド電極60の接地方法を適宜変更することにより、デュプレクサ1にて送受信する信号の周波数帯域に合わせて、あるいは離間距離D(デュプレクサ1の横幅寸法)に合わせて、ハイパスフィルタの極大値の位置のシフト量(極大値の位置)を調整できることが分かった。
【0037】
(実験2)
次に、本発明のデュプレクサ1と従来のデュプレクサ100とを実際に作製して、両者のアイソレーション特性の比較を行った。これらのデュプレクサ1、100の構成を夫々図13(a)、(b)に示す。この図13から分かるように、夫々のデュプレクサ1、100では、フィルタ3、4の構成などを変えずに、シールド電極60、101だけを変えるようにしている。具体的には、幅寸法D1についてはいずれについても480μmとし、隙間寸法D2についてはデュプレクサ1では10μm、デュプレクサ100では50μmとしている。また、いずれのデュプレクサ1、100においてもバンプを介して接地するようにしている。尚、この図13において70は圧電基板、71は弾性波共振子、72は伝送路(信号路)である。
【0038】
デュプレクサ1、100について得られたアイソレーション特性を夫々図14(a)、(b)に示す。この結果、例えば900MHz〜940MHzにおいて、デュプレクサ1では従来のデュプレクサ100よりも減衰量を10dB程増やすことができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の実施の形態に係るデュプレクサの構成例を示した平面図である。
【図2】上記のデュプレクサを概略的に示した横断面図である。
【図3】上記のデュプレクサのシールド電極についての等価回路を概略的に示した平面図である。
【図4】上記のシールド電極により構成されるハイパスフィルタの特性を概略的に示した平面図である。
【図5】上記のデュプレクサの減衰特性を計算した特性図である。
【図6】上記のデュプレクサを概略的に示した平面図である。
【図7】上記のデュプレクサの他の実施の形態を示した平面図である。
【図8】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図9】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図10】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図11】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図12】上記のデュプレクサのシールド電極の減衰特性を計算した特性図である。
【図13】本発明の実施例において作製したデュプレクサを示した平面図である。
【図14】上記の実施例において作製したデュプレクサについて得られた減衰特性を示した特性図である。
【図15】従来のデュプレクサを示した概略図である。
【図16】上記の従来のデュプレクサを構成する弾性波共振子の一例を示した平面図である。
【図17】従来のデュプレクサの一例を示した平面図である。
【図18】従来のデュプレクサを模式的に示した平面図である。
【図19】従来のデュプレクサの一例を概略的に示した縦断面図である。
【図20】上記の従来のデュプレクサにおいて形成される容量結合を模式的に示した平面図である。
【図21】従来のデュプレクサにて得られる減衰特性を示した特性図である。
【図22】従来のデュプレクサの一例を示す平面図である。
【図23】従来のデュプレクサの一例を概略的に示した縦断面図である。
【図24】上記の従来のデュプレクサにて得られる減衰特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0040】
1 デュプレクサ
2 アンテナポート
3 低域側フィルタ
4 高域側フィルタ
6 低域側フィルタポート
7 高域側フィルタポート
10 圧電基板
11 モジュール基板
15 中央領域
D 離間距離
D1 幅寸法
D2 隙間寸法
E 電気力線
W 横幅寸法
31 直列腕
33 信号路
41 直列腕
43 信号路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板上に送信側フィルタ及び受信側フィルタを互いに左右に対向して配置し、これらフィルタは、弾性波の伝播方向が左右方向である複数の弾性波共振子を前後方向に信号路を介して接続して構成されたデュプレクサにおいて、
送信側フィルタ及び受信側フィルタの間にシールド電極を介在させ、このシールド電極の両側縁を、夫々送信側フィルタ及び受信側フィルタにおける信号路と弾性波共振子との配列により形成される屈曲した縁に沿って屈曲させたことを特徴とするデュプレクサ。
【請求項2】
前記シールド電極の左右の最大幅が150μm〜480μmであることを特徴とする請求項1記載のデュプレクサ。
【請求項1】
圧電基板上に送信側フィルタ及び受信側フィルタを互いに左右に対向して配置し、これらフィルタは、弾性波の伝播方向が左右方向である複数の弾性波共振子を前後方向に信号路を介して接続して構成されたデュプレクサにおいて、
送信側フィルタ及び受信側フィルタの間にシールド電極を介在させ、このシールド電極の両側縁を、夫々送信側フィルタ及び受信側フィルタにおける信号路と弾性波共振子との配列により形成される屈曲した縁に沿って屈曲させたことを特徴とするデュプレクサ。
【請求項2】
前記シールド電極の左右の最大幅が150μm〜480μmであることを特徴とする請求項1記載のデュプレクサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公開番号】特開2010−98551(P2010−98551A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268063(P2008−268063)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000232483)日本電波工業株式会社 (1,148)
【Fターム(参考)】
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